特許第5862913号(P5862913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5862913インク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5862913
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】インク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20160202BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20160202BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160202BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20160202BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 E
   B41M5/00 A
   B41J2/01 501
   B41J2/01 123
   C09D11/54
【請求項の数】12
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-57983(P2015-57983)
(22)【出願日】2015年3月20日
【審査請求日】2015年5月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】小林 明子
(72)【発明者】
【氏名】白石 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴生
(72)【発明者】
【氏名】大友 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】杉田 行生
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−223753(JP,A)
【文献】 特開2014−094495(JP,A)
【文献】 特開2015−007204(JP,A)
【文献】 特開2014−101402(JP,A)
【文献】 特開2009−035579(JP,A)
【文献】 特開2009−149774(JP,A)
【文献】 特開2012−051124(JP,A)
【文献】 特開2011−236281(JP,A)
【文献】 特開2014−070205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 11/54
B41J 2/00− 2/525
B41M 5/00− 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、界面活性剤と、顔料と、溶剤と、必要に応じて水溶性樹脂である顔料分散樹脂と、を含むインクジェット記録用のインク組成物であって、
前記バインダー樹脂は、ガラス転移温度が40℃以上90℃以下のアクリル樹脂エマルジョンを含有し、
下記で定義されるA値が、0mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
A値=Σ(a×b)+Σ(c×d)
(ここで、aはインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部であり、bは該顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和であり、cはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)
前記界面活性剤は、下記一般式(1)で示されるノニオン性化合物であり、
前記一般式(1)で示される化合物の含有量は、インク組成物全量に対して0.005質量%以上、2.0質量%以下であり、
前記溶剤中に含まれる沸点250℃以上の溶剤の含有量が前記インク組成物100質量部に対して5質量部未満であるインク組成物。
O−(RO)−H (1)
(Rは炭素数12〜22の直鎖又は分岐のアルキル基である。Rはエチレン基又はプロピレン基を示す。nは10〜50の整数である。)
【請求項2】
前記アクリル樹脂エマルジョンの平均粒子径が120nm以下である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記顔料分散樹脂として(メタ)アクリル樹脂を含有し、
前記顔料分散樹脂は、前記バインダー樹脂100質量部に対して20質量部以下である請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
下記で定義されるB値が、150mgKOH/g以下である請求項1から3のいずれかに記載のインク組成物。
B値=Σ(a×b)
(ここで、aはインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部であり、bは該顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和である。)
【請求項5】
下記で定義されるC値が、150mgKOH/g以下である請求項1からのいずれかに記載のインク組成物。
C値=Σ(c×d)
(ここで、cはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)
【請求項6】
さらに、ワックスエマルジョンを含有し、
前記ワックスエマルジョンの含有量が顔料の含有量以下である請求項1からのいずれかに記載のインク組成物。
【請求項7】
前記溶剤中に沸点280℃以上の溶剤を含有しない請求項1からのいずれかに記載のインク組成物。
【請求項8】
必要に応じて処理液を被記録材に塗布する処理液塗布工程と、請求項1からのいずれかに記載のインク組成物を前記被記録材に塗布するインク組成物塗布工程と、を含み、少なくとも前記インク組成物塗布工程をインクジェット法によって行うインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記処理液塗布工程をインクジェット法によって行う請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記処理液は、多価金属塩を含有する請求項8又は9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記被記録材が非吸収性又は低吸収性である請求項8から10のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記被記録材の表面に30℃以上60℃以下に加熱された状態でインク組成物を吐出させる請求項8から11のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性に優れ、耐水性及び耐溶剤性に優れた印刷物の作成が可能で、吐出安定性に優れたインク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用のインク組成物の樹脂に関しては、従来、バインダー樹脂として、インク組成物中に溶解した状態の水溶性樹脂、半溶解状態のコロイダルディスパージョンを使用した場合、インクジェットヘッドのノズル開口部近傍にインク組成物が付着してノズル面の撥液性が低下してしまい、飛行曲がりや散り、不吐出等が起こりやすくなり、吐出安定性が低下する場合があった。また、水溶性樹脂やコロイダルディスパージョンを使用したインク組成物は耐水性や耐溶剤性が劣り、特に低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合に、印刷物の耐性が不十分となる場合があった。
【0003】
これに対して、バインダー樹脂として、樹脂エマルジョンを使用することも従来行われている(特許文献1、2参照)。しかしながら、特許文献1や2においては、50mgKOH/g以上という酸価が高い樹脂エマルジョンを使用されており、この場合には、インク組成物の耐水性や耐溶剤性が劣り、特に低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合に、印刷物の耐性が不十分となる場合があった。
【0004】
一方、インクジェット記録用のインク組成物の溶剤に関しては、従来、吐出安定性を維持するために、低揮発性の高沸点溶剤を使用することが行われているが、高沸点溶剤を多量に使用した場合には、特に低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合に、乾燥性が著しく低下してしまい、乾燥に多くのエネルギーが必要になり、また、乾燥に要する時間が長く必要になるため高速連続印刷に対応することが困難になることから、印刷物の耐性が不十分となる場合があった。
【0005】
また、水性のインク組成物には、一般的に湿潤剤としてグリセリンを含有しているが(特許文献3から5参照)、特に低吸収性基材や非吸収性基材に印刷する場合には、乾燥性が問題となる場合がある。この場合、乾燥性を改善するために、グリセリンを減量あるいは削除すると、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりしたり、インク組成物がプリンターの流路中で固化したりして、不具合が起こりやすくなる場合があった。
【0006】
グリセリンを実質的に含有しないインク組成物の従来技術も存在するが(特許文献6、7参照)、特許文献6においては、別途のメンテナンス機構というプリンター設計の変更が必要になり、また、特許文献7においては、特別な顔料についてのみグリセリンを含有しない組成としたものであって一般顔料に適用できる普遍性が無いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−019431号公報
【特許文献2】特開2007−099913号公報
【特許文献3】特開2013−199634号公報
【特許文献4】特開2010−248477号公報
【特許文献5】特開2007−023086号公報
【特許文献6】特開2013−256102号公報
【特許文献7】特開2011−153250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、吸水性の低い記録媒体に対し、速乾性を有し、印刷物の耐性が良好で、ヘッドのノズルの目詰まりや曲がり等の吐出不良が起こり難く、吐出性に優れた水性インクジェット用のインク組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、樹脂を構成するバインダー樹脂と顔料分散樹脂との合計において、酸価と質量部で定義される所定の値が低く、また、後述する一般式(1)で表される化合物を用いることにより良好な分散安定性を得ることができること、さらには、低吸水性又は非吸水性の記録媒体に印刷するために、高沸点溶剤の含有量を低減した場合においても、インクジェットヘッドのノズル詰まり等の吐出不良が起こりにくく、吐出安定性に優れたインクジェット記録用インク組成物とすることができることを見出した。具体的には、本発明では、以下のものを提供する。
【0010】
(1)バインダー樹脂と、界面活性剤と、顔料と、溶剤と、必要に応じて水溶性樹脂である顔料分散樹脂と、を含むインクジェット記録用のインク組成物であって、前記バインダー樹脂としてガラス転移温度が40℃以上90℃以下の樹脂エマルジョンを含有し、下記で定義されるA値が、0mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
A値=Σ(a×b)+Σ(c×d)
(ここで、aはインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部であり、bは該顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和であり、cはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)
前記界面活性剤は、下記一般式(1)で示されるノニオン性化合物であり、前記溶剤中に含まれる沸点250℃以上の溶剤の含有量が前記インク組成物100質量部に対して5質量部未満であるインク組成物。
O−(RO)−H (1)
(Rは炭素数12〜22の直鎖又は分岐のアルキル基である。Rはエチレン基又はプロピレン基を示す。nは10〜50の整数である。)
【0011】
(2)前記顔料分散樹脂として(メタ)アクリル樹脂を含有し、前記顔料分散樹脂は、前記バインダー樹脂100質量部に対して20質量部以下である(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3)下記で定義されるB値が、150mgKOH/g以下である(1)又は(2)に記載のインク組成物。
B値=Σ(a×b)
(ここで、aはインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部であり、bは該顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和である。)
【0013】
(4)下記で定義されるC値が、150mgKOH/g以下である(1)から(3)のいずれかに記載のインク組成物。
C値=Σ(c×d)
(ここで、cはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)
【0014】
(5)さらに、ワックスエマルジョンを含有し、
前記ワックスエマルジョンの含有量が顔料の含有量以下である(1)から(4)のいずれかに記載のインク組成物。
【0015】
(6)前記溶剤中に沸点280℃以上の溶剤を実質的に含有しない(1)から(5)のいずれかに記載のインク組成物。
【0016】
(7)必要に応じて処理液を被記録材に塗布する処理液塗布工程と、(1)から(6)のいずれかに記載のインク組成物を前記被記録材に塗布するインク組成物塗布工程と、を含み、少なくとも前記インク組成物塗布工程をインクジェット法によって行うインクジェット記録方法。
【0017】
(8)前記処理液塗布工程をインクジェット法によって行う(7)に記載のインクジェット記録方法。
【0018】
(9)前記処理液は、多価金属塩を含有する(7)又は(8)に記載のインクジェット記録方法。
【0019】
(10)前記被記録材が非吸収性又は低吸収性である(7)から(9)のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【0020】
(11)前記被記録材の表面に30℃以上60℃以下に加熱された状態でインク組成物を吐出させる(7)から(10)のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、吸水性の低い記録媒体に印刷することのできるインクジェット記録用インク組成物であって、良好な分散安定性を有し、インクジェットヘッドのノズル詰まり等の吐出不良が起こりにくく、吐出安定性に優れたインクジェット記録用のインク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
[樹脂]
本発明においては、樹脂としては、顔料を分散するための水溶性樹脂である顔料分散樹脂を必要に応じて含み、顔料分散樹脂以外の樹脂としてバインダー樹脂からなる。顔料分散樹脂とは、水溶性樹脂であって顔料を分散するための樹脂であり、顔料粒子表面に付着することでインク中の顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂である。バインダー樹脂とは、主として顔料を被記録材に定着させる機能を有する樹脂である。バインダー樹脂は、インク組成物中では樹脂が溶解されるか、又は様々な形態を形成して含有されるが、少なくともバインダー樹脂の一部の樹脂は樹脂エマルジョンを形成し、樹脂エマルジョンとして含有される。樹脂エマルジョンとは、樹脂が静電反発力によって樹脂微粒子としてインク組成物中に分散している状態を示すものである。樹脂が溶解した状態の溶解樹脂や、一部溶解樹脂を含有するコロイダルディスパージョンとは異なる。バインダー樹脂として樹脂エマルジョンを含有することにより、分散安定性、吐出安定性、撥液性、印刷物の耐水性及び耐溶剤性を好ましいものとすることができる。
【0024】
また、エマルジョン状態の樹脂は、一般的に連続相である有機溶剤や水が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、顔料の記録媒体への浸透を抑制して記録媒体への定着を促進することができる。
【0025】
本発明においては、下記で定義されるA値が、0mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。A値の下限は5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましく、40mgKOH/g以上がさらにより好ましい。上限は好ましくは150mgKOH/g以下、さらに好ましくは120mgKOH/g以下である。
A値=Σ(a×b)+Σ(c×d)
(ここで、aはインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部であり、bは該顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和であり、cはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)
【0026】
インク組成物全体として見た場合に、酸価は、樹脂を構成するバインダー樹脂のみならず、顔料分散樹脂の酸価の影響も大きく受ける。このことを考慮して、酸価と質量部の積を考慮したA値をインク組成物中における樹脂酸価の合計値の指標値として導入したものである。このA値を200mgKOH/g以下とすることで、耐水性、耐溶剤性が向上する。
【0027】
なお、酸価とは、試料(樹脂の固形分)1g中に含まれる酸性成分を中和するために要する水酸化カリウムの質量(mg)を表し、JIS K 0070に記載の方法に準ずる方法により測定される値である。本発明におけるA値は、上記の測定で酸価を求めてもよく、樹脂のモノマー組成等から酸価を計算して参照してもよい。
【0028】
<バインダー樹脂>
本発明におけるバインダー樹脂とは、主としてインク組成物中の顔料を被記録材に定着させるための樹脂であり、少なくともバインダー樹脂の一部の樹脂は、樹脂エマルジョンを形成し、インク組成物中に樹脂エマルジョンとして含有される。バインダー樹脂としては、所望の耐水性及び耐溶剤性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。
【0029】
本発明に用いるバインダー樹脂は、アクリル樹脂を含むものであることが好ましい。アクリル樹脂を含むものであることにより、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができるからである。
【0030】
アクリル樹脂としては、酸基、水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。
【0031】
なお、酸基とは、酸基を有するモノマーの水溶液又は水懸濁液が酸性を示すものである。具体的には、カルボキシ基や、リン酸基及びスルホン酸基、ならびにこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、公知の化合物を使用することができ、単官能の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−iso−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−iso−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸−iso−ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味するものである。これらのモノマーは、三菱レイヨン(株)、日本油脂(株)、三菱化学(株)、日立化成工業(株)等から入手することができる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量としては、アクリル樹脂中に主成分として含まれるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂中に、50質量%以上であることが好ましく、なかでも、60質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に、70質量%以上99.99質量%以下の範囲内であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が上記範囲内であることにより、印刷物が耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができるからである。なお、モノマーの含有量とは、樹脂を構成するために用いられる全モノマーに占める割合である。
【0034】
アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、酸基を有する酸基含有モノマーや水酸基を有する水酸基含有モノマーを含むものであってもよい。上記酸基を有する酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーを挙げることができる。
【0035】
酸基含有モノマーの含有量としては、酸価を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではないが、上限としては、アクリル樹脂のモノマー全量中に対して5質量%以下であることが好ましく、なかでも、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。一方、下限としては、アクリル樹脂のモノマー全量中に対して0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましい。酸性基を有するモノマーの含有割合が上記下限値以上であれば、分散安定性に優れている。また酸性基を有するモノマーの含有割合が上記上限値以下であれば、耐水性や耐溶剤性に優れている。
【0036】
水酸基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及び水酸基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びメチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、エチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、n−ブチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0037】
水酸基含有モノマーの含有量としては、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を作成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂中に、5質量%以下であることが好ましく、なかでも、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有量の範囲内であることにより、耐水性及び耐溶剤性に優れた印刷物を作成可能なものとすることができるからである。
【0038】
アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー等以外に、必要に応じてその他のモノマーを有するものであってもよい。このようなその他のモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共重合が可能であり、所望の耐水性及び耐溶剤性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、エチレン性不飽和二重結合の数が1つである単官能モノマーであっても、2以上である多官能モノマーであってもよい。
【0039】
例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー;スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、ビニルトルエン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、クロロプレン等のジエンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物モノマー;アクリルアミド及びN,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミドモノマー、(メタ)アクリル酸アニリド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリンマレイミド、N−(4−ヒドキシフェニル)マレイミド等のモノマレイミド、N−(メタ)アクリロイルフタルイミド等のフタルイミド等を用いることができる。
【0040】
また、ポリエテレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3一ブチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;ジビニルベンゼン等を用いることができる。
【0041】
なお、アクリル樹脂は、これらのモノマーを用いて形成可能なものであるが、モノマーの共重合の形態については、特に限定されるものではなく、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマー等とすることができる。
【0042】
バインダー樹脂の酸価d(mgKOH/g)は、20mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以下がより好ましく、10mgKOH/g以下がさらに好ましく、5mgKOH/g以下がさらにより好ましい。酸価が上記範囲内であることにより、印刷物が耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができる。また、樹脂と分散剤や顔料との相互作用を小さくし、表面張力や粘度等の物性変化を抑えてインク組成物の保存安定性を向上することができる。下限値としては、分散安定性を良好なものとするため、0mgKOH/gを超えることが好ましく、0.01mgKOH/g以上がより好ましく、0.03mgKOH/g以上がさらに好ましい。酸価は、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。
【0043】
インク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部cは、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を形成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に0.05質量部以上20質量部以下の範囲内であることが好ましく、なかでも、0.1質量部以上20質量部以下の範囲内であることが好ましく、さらに0.5質量部以上20質量部以下の範囲内であることが好ましく、1質量部以上15質量部以下の範囲内であることがさらにより好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができる。
【0044】
さらに、バインダー樹脂の酸価dとインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部cの積の総和であるC値(C値=Σ(c×d))の上限は、150mgKOH/g以下が好ましく、120mgKOH/g以下がより好ましく、100mgKOH/g以下がさらにより好ましい。C値の下限は0mgKOH/gを超えることが好ましく、5mgKOH/g以上がより好ましく、10mgKOH/g以上がさら好ましく、20mgKOH/g以上がさらにより好ましい。ここでcはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、dは該バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)であり、Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和である。)C値が上記範囲内であることにより、印刷物が耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性を良好なものとすることができる。
【0045】
バインダー樹脂の水酸基価は、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を作成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、固形分換算で0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましく、なかでも0mgKOH/g以上15mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましく、特に、0mgKOH/g以上10mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましい。水酸基価が上述の範囲内であることにより、耐水性や耐溶剤性や耐摩擦性が良好な印刷物を作成することができる。なお、水酸基価とは、樹脂の固形分1g中に含まれる水酸基分をアセチル化するために要する水酸化カリウム(KOH)のmg数であり、JIS K 0070に記載の方法に準じて、無水酢酸を用いて試料中のOH基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定することにより測定される。
【0046】
水酸基価の測定方法としては、無水酢酸を用いて試料中の樹脂の水酸基をアセチル化し、残った酢酸を水酸化カリウム(KOH)で中和する方法を用いることができる。なお、水酸基価は、カルボキシ基に含まれる水酸基によるものは含まない。水酸基価は、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。
【0047】
さらに、バインダー樹脂の水酸基価eとインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部cの積であるE値(E値=Σ(c×e))は、150mgKOH/g以下が好ましく、120mgKOH/g以下がより好ましい。ここでcはインク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部であり、eは該バインダー樹脂の水酸基価(mgKOH/g)であり、Σ(c×e)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×eの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×eの値の総和である。)
【0048】
バインダー樹脂の分子量としては、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を作成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、10000以上であることが好ましく、なかでも、30000以上1000000以下の範囲内であることが好ましく、特に、10000以上500000以下であることが好ましい。バインダー樹脂の分子量が上述の範囲内であることにより、分散安定性に優れたエマルジョン状態とすることができる。
【0049】
なお、バインダー樹脂の分子量は、重量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)、測定条件の一例を挙げれば、溶出溶媒を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN−メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、206500、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories社製 Easi PS−2シリーズ)及びMw1090000(東ソー(株)製)とし、測定カラムをTSK−GEL ALPHA−M×2本(東ソー(株)製)として測定できる。
【0050】
バインダー樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとする場合がある。)としては、低吸収性基材や非吸収性基材に印刷した場合でも、耐水性、耐溶剤性及び耐擦過性を有する印刷物を形成可能であることから、40℃以上90℃以下の範囲内とし、なかでも、45℃以上80℃以下の範囲内であることが好ましく、特に、50℃以上75℃以下の範囲内であることが好ましい。バインダー樹脂のTgが上述の範囲内であることにより、印刷物の耐性に優れたものとすることができるからである。またベタツキが少ないことにより、例えば印刷物を重ねた場合に、印刷物の印刷面が他の部材に接着する不具合であるブロッキングの発生を抑制することができるからである。また、印刷物を形成するために高い温度をかけることを回避でき、多くのエネルギーを不要とすることや、印刷基材が熱による損傷を受けにくいものとすることができるからである。なお、バインダー樹脂のTgは、バインダー樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。なお、本発明においてガラス転移温度(Tg)は、島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」にて測定することができる。
【0051】
バインダー樹脂の導電率としては、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を形成可能であれば特に限定されるものではないが、300μS/cm以下であることが好ましく、なかでも200μS/cm以下であることが好ましく、特に、150μS/cm以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の導電率に影響を与えるものとしては、樹脂モノマーの種類、樹脂中のイオン性基の含有量、溶解状態、樹脂の酸価、水酸基価、アミン価、乳化剤、無機塩類、有機塩類、アミン化合物等が挙げられる。バインダー樹脂の導電率が上述の範囲内であることにより、バインダー樹脂中のイオン性基及びその対イオンあるいはイオン性不純物が少なく、バインダー樹脂の酸価が低く、極性の低いものとすることができる。また、イオン性基等が少ないことにより、顔料の分散安定性への影響の少ないものとすることができる。特に顔料として、顔料表面に親水性基等の官能基が導入された自己分散型顔料を使用する場合には、バインダー樹脂の導電率が低いことで、バインダー樹脂と自己分散型顔料との反応性を低くし、インク組成物の保存安定性を向上することができるからである。また、このようなことから、樹脂の導電率の下限については低いほど好ましいが、通常は、20μS/cm程度である。樹脂の分散安定性に優れ、安定した品質の樹脂の製造が容易だからである。なお、樹脂の導電率は、樹脂の固形分1質量%水溶液の導電率を示すものである。
【0052】
バインダー樹脂の導電率の測定方法としては、まずバインダー樹脂をイオン交換水で希釈して固形分1質量%に調整した後、導電率計を用いて樹脂固形分1質量%水溶液の導電率を測定する方法を採用することができる。また、導電率計としては、Eutech Instruments製、型式:EC Testr 11+を使用することができる。樹脂の固形分1質量%水溶液の導電率は、例えば、樹脂の種類、モノマー種、反応機構、乳化剤の種類や量、中和剤の種類や量によって調整することができる。
【0053】
バインダー樹脂のインク組成物中での平均粒子径としては、分散安定性に優れたものとすることができるものであれば特に限定されるものではないが、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、さらに150nm以下がより好ましく、120nm以下がさらにより好ましい。上記平均粒子径が上述の範囲内であることにより、エマルジョンの安定性、インク組成物の吐出性、印字物の光沢性に優れたものとすることができるからである。なお、平均粒子径の下限については特に限定されるものではないが、通常、30nm程度である。
【0054】
また、平均粒子径は、動的光散乱法によって求めることができる。動的光散乱法とは、粒子に対してレーザー光を当てたときに粒子サイズによって回折散乱光の光強度分布が異なることを利用して粒子サイズを測定する方法であり、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置UPAや、大塚電子製濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000を用いて測定を行うことができる。また、測定は、測定温度25℃、積算時間3分間、測定に用いたレーザーの波長660nmの条件で行い、得られたデータを、CONTIN法で解析することで散乱強度分布を得、最も頻度の高い粒径を平均粒径とすることができる。
【0055】
バインダー樹脂の合成方法としては、所望のモノマーの構成割合及び分子量の樹脂を合成できる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な合成方法を用いることができる。例えば、樹脂がアクリル樹脂である場合には、水、モノマー、乳化剤及び重合開始剤を混合して乳化重合反応させ、反応後に中和させて製造する方法を用いることができる。なお、乳化剤等については、乳化重合に一般的に用いられるものを使用することができ、具体的には、特開2012−51357号公報等に示されるものとすることができる。
【0056】
[溶剤]
本発明に用いることのできる溶剤は、樹脂等を分散又は溶解することができるものである。このような溶剤としては、水溶性を有する水性溶剤であることが好ましい。樹脂及び界面活性剤とともに用いることにより、樹脂の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0057】
ここで、水溶性を有するとは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上溶解することができるものをいう。具体的には、本発明に用いることのできる溶剤は、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤を含むものが好ましい。水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤を全溶剤中に50質量%以上含むものであることが好ましく、特に、70質量%以上含むものであることが好ましく、なかでも特に、80質量%以上含むものであることが好ましい。水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤をこのような範囲含むものであることにより、樹脂の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0058】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−n−ブタノール等の1価のアルコール類;1−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3−メトキシプロパンアミド、3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−ブトキシプロパンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル,イソブチル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ−ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物等が挙げられる。
【0059】
溶剤が水溶性有機溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤として水よりも沸点の高いものを含むもの、すなわち、沸点が100℃より高いものを含むことが好ましく、なかでも、沸点が150℃以上のものを含むことが好ましく、特に、沸点が180℃以上のものを含むことが好ましい。ノズルに付着したインク組成物や、インクジェットヘッド内部の微細なチューブ内で、インク組成物中の水溶性有機溶剤が揮発してインク組成物の粘度が高くなることを抑制でき、ノズルやチューブが詰まってインクジェットヘッドが破損することを防ぐことができるからである。またその結果、流動性が良好で、連続吐出性や放置後吐出性が良好なインク組成物とすることができるからである。水よりも沸点の高い水溶性有機溶剤は全ての水溶性有機溶剤中に50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに80質量%以上含むものであると好ましい。
【0060】
また、溶剤の沸点が高い場合、乾燥に多くのエネルギーが必要となり、また、乾燥に要する時間が長く必要になるため、高速連続印刷に対応することが困難になる。そのため、溶剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0061】
低吸収性基材及び非吸収性基材に印刷する場合には、溶媒が基材の内部へ浸透しにくいため、低揮発性溶剤の含有量を抑制することが好ましく、沸点250℃以上の溶剤のインク組成物中の含有量が、インク組成物100質量部に対して5質量部未満であることが好ましい。さらに、沸点280℃以上の溶剤を実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0062】
沸点が280℃以上の溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール(沸点:285℃)、テトラエチレングリコール(沸点:314℃)、グリセリン(沸点:290℃)、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0063】
沸点が250℃以上280℃未満の溶剤としては、トリプロピレングリコール(沸点:268℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:274℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271℃)、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(沸点:250℃)、等を挙げることができる。
【0064】
沸点が200℃以上250℃未満の溶剤としては、ジプロピレングリコール(沸点:232℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:242℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:229℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:212℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:229℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:209℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、1,3−プロパンジオール(沸点:214℃)、1,3−ブタンジオール(沸点:208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点:230℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点:210℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点:223℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点:242℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:232℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点:203℃)、2−メチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:214℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点:244℃)、等を挙げることができる。
【0065】
沸点が180℃以上200℃未満の溶剤としては、エチレングリコール(沸点:197℃)、プロピレングリコール(沸点:187℃)、1,2−ブタンジオール(沸点:193℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点:198℃)等を挙げることができる。
【0066】
溶剤に含まれる水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、溶剤中に、10質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、なかでも20質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に30質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
また、水溶性有機溶剤の含有量としては、溶剤中に5質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、なかでも5質量%以上80質量%以下の範囲内であることが好ましく、特に10質量%以上70質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0068】
水及び水溶性有機溶剤の含有量が上述の範囲内であることにより、保湿性が十分でありノズル詰まり等の少ないものとすることができるからである。また、インクジェットヘッドによる吐出が容易なものとすることができる。
【0069】
<界面活性剤>
本発明に用いることのできる界面活性剤は、下記一般式(1)で示されるノニオン性化合物であり、樹脂エマルジョンのインク組成物中での分散安定性を向上させ、インクジェットヘッドのノズル詰まりを抑制し、吐出安定性を良好なものとするものである。
【0070】
O−(RO)−H (1)
(Rは炭素数12〜22の直鎖又は分岐のアルキル基である。Rはエチレン又はプロピレンを示す。nは10〜50の整数である。)
【0071】
バインダー樹脂としての酸価が低い樹脂エマルジョンは、静電反発力による分散安定性を維持し難いため、沈降や凝集が起こりやすく、特に、ノズル開口部でインク組成物が乾燥すると、インク組成物の凝集を引き起こしやすい。しかしながら、式(1)で示されるノニオン性化合物の界面活性剤をインク組成物に含有することにより、樹脂エマルジョンや顔料の分散安定性が向上し、低揮発性の高沸点溶剤の含有量が少ない場合でも、吐出安定性を良好なものとすることができる。
【0072】
本発明に用いることのできる界面活性剤はノニオン性化合物であるため、インク組成物中に形成される樹脂エマルジョンの疎水性の部分との親和性が良好である。界面活性剤がノニオン性化合物ではなく、例えば陰イオン性の親水基を持つようなアニオン性化合物である場合には、樹脂エマルジョンの疎水性の部分との親和性が低下し、分散安定性が低下するため好ましくない。
【0073】
また、該界面活性剤のRは炭素数12〜22の直鎖又は分岐のアルキル基であるため、インク組成物中に形成される樹脂エマルジョンの疎水性の部分との親和性が良好である。界面活性剤のRの炭素数が12未満である場合には、インク組成物中に形成される樹脂エマルジョンの疎水性の部分との親和性が低下し、インク組成物中の樹脂エマルジョンの分散安定性が低下するため好ましくない。界面活性剤のRの炭素数が22超である場合には、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶剤への溶解性が低下するため好ましくない。
【0074】
また、該界面活性剤の−(RO)−におけるRはエチレン基又はプロピレン基である。Rがエチレン基又はプロピレン基であることで、アルキレンオキサイド鎖の親水性が良好となる。アルキレンオキサイド鎖の親水性がより良好であるという観点からRがエチレン基であることがより好ましい。−(RO)−にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの両方を含む場合は、エチレンオキサイドが多い方が親水性が良好であるため好ましい。
【0075】
また、該界面活性剤の−(RO)−のnが10以上50以下であり、所定の長さのアルキレンオキサイド鎖を有するため、親水性が良好である。そのため、該界面活性剤が樹脂エマルジョンの表面付近にとどまることができるため、樹脂エマルジョン同士の静電反発力がより向上し、インク組成物中の樹脂エマルジョンの分散安定性が向上することができると推察される。このため、ノズル近傍や流路内でインク組成物中の溶媒が揮発して固形分が濃縮された場合においても分散性が維持される。その結果、凝集や固化が起こりにくくなることで、インク詰まりや吐出不良が起こりにくくなると推察される。該界面活性剤の−(RO)−のnが10未満である場合には、アルキレンオキサイド鎖が短くなり、樹脂エマルジョンの分散安定効果が低下するため好ましくない。nが50超である場合には、アルキレンオキサイド鎖が長くなり、インク組成物中での溶解性が不十分になったり、樹脂エマルジョンとの親和性と溶媒との親和性のバランスが不十分となるため、インク組成物中の樹脂エマルジョンの分散安定性が低下するため好ましくない。
【0076】
式(1)で示される化合物の含有量としては、インク組成物中の樹脂エマルジョンや顔料の分散安定性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではない。式(1)で示される化合物の含有量は、インク組成物全量に対して0.005質量%以上であることが好ましく、なかでも0.01質量%以上、特に0.05質量%以上であることが好ましい。また、上限は5.0質量%以下が好ましく、なかでも3.0質量%以下、特に2.0質量%以下が好ましい。式(1)で示される化合物の含有量が上記範囲内であることにより、樹脂エマルジョンの分散安定性に優れたものとすることができる。
【0077】
上記式(1)で示される化合物の具体例としては、花王株式会社製エマルゲン320P(ポリオキシエチレン(n=12)ステアリルエーテル、HLB=13.9)、エマルゲン350(ポリオキシエチレン(n=50)ステアリルエーテル、HLB=17.8)、エマルゲン430(ポリオキシエチレン(n=30)オレイルエーテル、HLB=16.2)、エマルゲン130K(ポリオキシエチレン(n=41)ラウリルエーテル、HLB=18.1)、エマルゲン150(ポリオキシエチレン(n=47)ラウリルエーテル、HLB=18.4)、第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS−120(ポリオキシエチレン(n=12)トリデシルエーテル、HLB=14.8)ノイゲンTDS−200D(ポリオキシエチレン(n=20)トリデシルエーテル、HLB=16.3)ノイゲンTDS−500F(ポリオキシエチレン(n=50)トリデシルエーテル、HLB=18.3)、青木油脂工業株式会社製ブラウノンSR−715(ポリオキシエチレン(n=15)ステアリルエーテル、HLB=13.5)、ブラウノンSR−720(ポリオキシエチレン(n=20)ステアリルエーテル、HLB=15.2)、ブラウノンSR−730(ポリオキシエチレン(n=30)ステアリルエーテル、HLB=16.6)、ブラウノンSR−750(ポリオキシエチレン(n=50)ステアリルエーテル、HLB=17.8)、ブラウノンEN−1520A(ポリオキシエチレン(n=20)オレイルエーテル、HLB=15.4)、ブラウノンEN−1530(ポリオキシエチレン(n=30)オレイルエーテル、HLB=16.5)、ブラウノンEN−1540(ポリオキシエチレン(n=40)オレイルエーテル、HLB=17.4)、日本乳化剤株式会社製ニューコール2310、ニューコール2320、ニューコール2327、ニューコール1545、ニューコール1820、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL BPS 20、NIKKOL BPS 30等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
<顔料>
本発明に用いることのできる顔料としては、インク組成物に一般的に用いられるものを使用することができる。例えば、無機顔料や有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明に用いることのできる有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ジオキサジン顔料、ニッケルアゾ顔料、イソインドリノン顔料、ピランスロン顔料、チオインジゴ顔料、縮合アゾ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、キノフタロン顔料、イソインドリン顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。
【0080】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214;C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、177、180、184、192、202、206、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58;C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0081】
本発明に用いることのできる無機顔料としては、例えば、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸バリウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成マイカ、アルミナ、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる。
【0082】
本発明に用いることのできる顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではない。顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、10nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、30nm以上150nm以下の範囲内であることがより好ましい。平均分散粒径が200nm以下であれば、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができる。平均分散粒径が10nm以上であれば、得られる印刷物の耐光性を良好なものとすることができる。
【0083】
本発明に用いることのできる顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、インク組成物全体に対して0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下の範囲内であることがより好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0084】
本発明に用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散樹脂によって水性溶媒中に分散させた顔料分散体、又は顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。ここで顔料分散樹脂とは、水溶性樹脂であって、顔料表面の一部に付着することでインク組成物内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂をいう。水溶性樹脂とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で1質量部以上溶解するものをいう。顔料表面の一部に水溶性樹脂である顔料分散樹脂が付着した状態にする事で、インク組成物内での顔料の分散性が向上し、高光沢な画像を得る事ができる。本発明に用いることのできる顔料は、複数の有機顔料や無機顔料を併用してもよく、顔料分散樹脂によって水性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0085】
本発明に用いることのできる自己分散型顔料としては、例えば、親水性基として、特開2012−51357号公報等に記載のカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、及び、少なくとも1つのP−O又はP=O結合を有するリン含有基等で修飾されたものを挙げることができる。また、市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製のCAB−O−JET 200、CAB−O−JET 250C、CAB−O−JET 260M、CAB−O−JET 270Y、CAB−O−JET 740Y、CAB−O−JET 300、CAB−O−JET 400、CAB−O−JET 450C、CAB−O−JET 465M、CAB−O−JET 470Y、CAB−O−JET 480V、CAB−O−JET 352K、CAB−O−JET 554B、CAB−O−JET 1027R;オリエント化学工業株式会社製のMicrojet blalack 162、Aqua−Black 001、BONJET BLACK CW−1、BONJET BLACK CW−2、BONJET BLACK CW−3;東洋インキ製造株式会社製のLIOJET WD BLACK 002C等が挙げられる。
【0086】
顔料分散樹脂としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、αメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インク組成物の分散安定性と、印刷物の画像鮮明性の観点から好ましい。また、水溶性高分子分散剤の官能基としては酸性基を有することが、分散安定性や相溶性の観点から好ましい。
【0087】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、SARTOMER社製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL−JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE54000、ビックケミー社製BYKJET−9150、BYKJET−9151、BYKJET−9170、DISPERBYK−168、DISPERBYK−190、DISPERBYK−198、DISPERBYK−2010、DISPERBYK−2012、DISPERBYK−2015、等が挙げられる。
【0088】
顔料分散樹脂の酸価b(mgKOH/g)は、3mgKOH/g以上300mgKOH/g以下が好ましく、5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下がより好ましい。酸価が3mgKOH/g以上であることで、顔料の分散性が向上するため好ましい。酸価が300mgKOH/g以下であることで、印刷物の耐水性を向上させることができるため好ましい。
【0089】
顔料分散樹脂は、前記バインダー樹脂100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。顔料分散樹脂をこのような範囲とすることで、印刷物の耐擦過性及び耐溶剤性をより好ましいものとすることができる。なお、後述する実施例におけるD値(D値=Σa/Σc)は、上記のバインダー樹脂に対する顔料分散樹脂の割合を意味する。なお、Σaとは、インク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部の総和であり、Σcとは、インク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部の総和である。D値の上限値としては、0.2以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。D値の上限値がこの範囲であると、耐水性や耐溶剤性が良好であるため好ましい。D値の下限値としては、顔料分散樹脂を含有する場合には、顔料の分散状態を良好に保つため、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。顔料として自己分散顔料を用いる場合には、顔料分散樹脂を含有しなくてもよい。
【0090】
さらに、各顔料分散樹脂の酸価bとインク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部aの積の総和であるB値(B値=Σ(a×b))の上限値としては、150mgKOH/g以下が好ましく、120mgKOH/g以下がより好ましく、100mgKOH/g以下がさらに好ましい。B値の下限値としては、分散安定性を良好なものとするため、0mgKOH/gを超えることが好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましい。B値を150mgKOH/g以下とすることで、印刷物の耐水性を向上させることができる。なお、Σ(a×b)とは、顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和である。
【0091】
顔料分散樹脂の分子量は、顔料をインク組成物中に溶解させることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、500以上50000以下であることが好ましく、なかでも、1000以上30000以下の範囲内であることがより好ましい。顔料分散樹脂の分子量が上述の範囲内であることにより、顔料の分散安定性を優れた状態とすることができる。
【0092】
<ワックスエマルジョン>
本発明のインクジェット記録用のインク組成物には、必要に応じて顔料の含有量以下のワックスエマルジョンを含有してもよい。顔料の含有量以下のワックスエマルジョンを含むことにより、保存安定性及び吐出安定性に優れたインク組成物とすることができ、また、耐擦性に優れ、光沢のある印刷物を製造可能なインク組成物とすることができる。なお、ポリオレフィンワックスとは、一般的には、分子量10000未満の比較的低分子量の軟質のポリオレフィンを示し、フィルム形成材料等に使用される分子量10万以上の硬質のポリオレフィン樹脂とは異なるものである。例えば、加熱して溶融した常温固体のワックスと熱水と乳化剤とを混合してワックスエマルジョンにすることができる。本発明に用いることができるワックスエマルジョンは、融点が85℃以上140℃以下のポリオレフィン系ワックスを含み、ワックスエマルジョンの平均粒径が140nm以下であることが好ましい。
【0093】
ワックスエマルジョンとしては、例えば、AQUACER−507、AQUACER−513、AQUACER−515、AQUACER−526、AQUACER−531、AQUACER−533、AQUACER−535、AQUACER−537、AQUACER−539、AQUACER−552、AQUACER−840、AQUACER−1547(ビックケミー社製)、ノプコートPEM−17(サンノプコ社製)、JONCRYLWAX4、JONCRYLWAX26、JONCRYLWAX28、JONCRYLWAX120(BASF社製)等が挙げられる。
【0094】
<その他>
本発明のインク組成物に用いる界面活性剤は、上記式(1)で示される化合物を含むものであるが、必要に応じて上記式(1)で示される化合物以外の他の界面活性剤を含むものであってもよい。
【0095】
他の界面活性剤としては、上記式(1)で示される化合物の作用を阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、ポリシロキサン化合物、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0096】
本発明においては、中でも、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリシロキサン化合物のいずれかを、表面張力調整剤として含むことが、インク組成物の被記録材に対する濡れ広がり性をより優れたものとすることができるため、好ましい。
【0097】
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3−ヘキシン−2,5−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール等が挙げられる。また、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等を用いることができる。
【0098】
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD−20、オルフィンE1004、E1010、PD−004、EXP4300、PD−501、PD−502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0099】
ポリシロキサン化合物は、市販品としては、例えば、FZ−2122、FZ−2110、FZ−7006、FZ−2166、FZ−2164、FZ−7001、FZ−2120、SH 8400、FZ−7002、FZ−2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、東レ・ダウコーニング社製)、KF−6012、KF−6015、KF−6004、KF−6013、KF−6011、KF−6043、KP−104、110、112、323、341、(いずれも、信越化学(株)製)、BYK−300/302、BYK−301、BYK−306、BYK−307、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−342、BYK−344、BYK−345/346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−375、BYK−377、BYK−378、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−310、BYK−315、BYK−370、BYK−UV3570、BYK−322、BYK−323、BYK−3455、BYK−Silclean3700(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM−002、シルフェイスSJM−003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、(いずれも、エボニックテグサ社製)等を挙げることができる。本発明においては、なかでもポリエーテル基を有するポリエーテル基変性ポリシロキサン化合物を好ましく用いることができ、水溶性を有するポリエーテル基変性ポリシロキサン化合物を特に好ましく用いることができる。
【0100】
また、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤についての具体例としては、エマール、ラテムル、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、日本サイテック・インダストリーズ(株)製 AEROSOL TR−70、TR−70HG、OT−75、OT−N、MA−80、IB−45、EF−800、A−102、花王(株)製 ペレックスOT−P、ペレックスCS、ペレックスTR、ペレックスTA、日本乳化剤(株)製 ニューコール290−A、ニューコール290−KS、ニューコール291−M、ニューコール291−PG、ニューコール291−GL、ニューコール292−PG、ニューコール293、ニューコール297(いずれも、アニオン系界面活性剤)等が挙げられる。これらの界面活性剤の含有量は、溶剤、樹脂、顔料や他の界面活性剤の含有量に応じて適宜調整される。
【0101】
本発明のインク組成物には、バインダー樹脂と、界面活性剤と、顔料と、溶剤と、必要に応じて顔料分散樹脂と、を含むものであるが、必要に応じて、さらに他の成分を含んでもよい。他の成分としては、浸透剤、湿潤剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、脱酸素剤等が挙げられる。
【0102】
例えば、pHを6.0以上10.0以下に調整するための塩基性化合物としては、従来公知の塩基性化合物の中から適宜選択して用いることができ、無機塩基性化合物であっても有機塩基性化合物であってもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。無機塩基性化合物の具体例としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。保存安定性、吐出安定性の点からは、無機塩基性化合物のなかでも、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。また、有機塩基性化合物の具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン;トリエタノールアミン、1−(ジメチルアミノ)−2−プロパノール、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、N−ベンジルエタノールアミン、N,N−ジメチルイソプロパノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジエチル−2−アミノエタノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール、3−(ジメチルアミノ)−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−(メチルアミノ)−1−プロパノール、N−エチルエタノールアミン、2−アミノエタノール、N−tブチルエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、N−nブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N,N−ジブチルエタノールアミン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、N−メチルジエタノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、N−エチルジエタノールアミン、2−フェニル−2−アミノエタノール、N−nブチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−tブチルジエタノールアミン、2−アミノ−1,3−プロパンジオール等のアミノアルコール等が挙げられる。有機塩基性化合物を用いる場合は、安全性、保存安定性、吐出安定性の点からは、沸点100℃以上280℃以下のアミノアルコールが好ましい。本発明において塩基性化合物は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
<インクジェット記録用のインク組成物の調製方法>
インクジェット記録用のインク組成物の調製方法は、特に限定されない。例えば、水性溶剤に自己分散型の顔料を加え、分散した後、バインダー樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水性溶剤に、顔料と分散剤を加えて分散した後、バインダー樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水性溶剤に顔料とバインダー樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、顔料を分散して調製する方法等が挙げられる。
【0104】
本発明におけるインクジェット記録用のインク組成物のpHは、6.0以上10.0以下であることが好ましく、7.0以上9.0以下であることがより好ましい。pHを6.0以上とすることにより、顔料や樹脂の分散安定性を維持し、凝集や沈降が起こりにくく、インク組成物の保存安定性を良好なものとすることができる。一方pHは10.0以下であれば、pHが高すぎないため作業者の安全性も確保される。また、インク組成物のpHが、6.0以上10.0以下であると、装置の部材の腐食等による損傷を抑制することができる。インクジェット記録用のインク組成物は、公知の酸性物質又は塩基性物質を添加することにより、pHを調製することができる。
【0105】
また、インクジェット記録用のインク組成物の表面張力は、32mN/m以下であることが好ましい。なかでも、色むらや白抜けが抑制できる点から、30mN/m以下であることがより好ましく、28mN/m以下であることがさらに好ましい。一方、吐出ヘッドからのインク組成物の吐出安定性を良好にする点から、インク組成物の表面張力を20mN/m以上とすることが好ましい。なお、表面張力は、例えば、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:CBVP−Z)により測定することができる。
【0106】
また、インクジェット記録用のインク組成物の粘度は、インクジェットヘッドから吐出可能な範囲であれば、特に限定されない。使用するインクジェットヘッドに適した粘度範囲に適宜調整される。なお、粘度の測定方法については、粘度を精度よく測定できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、レオメーター、B型粘度計、キャピラリー式粘度計等の粘度測定装置を用いる方法が挙げられる。上記キャピラリー式粘度測定法は、DIN 53015又はISO/DIS 12058に記載されている方法に準じて行うことができる。より具体的には、測定装置として、キャピラリー式粘度計Anton Paar製「AMVn」を用い、測定温度25℃にて測定を行うことができる。
【0107】
さらに、処理液を用いて予め処理液を被記録材に塗布する処理液塗布工程を設ける場合には、インク組成物の表面張力は、処理液よりも高いことが好ましい。このようなインク組成物を用いることにより、フェザリングやカラーブリードを抑制し、鮮明な画像を得ることができる。また、ムラが抑制でき、鮮明な画像を得ることができる点から、インク組成物の表面張力と、前記処理液の表面張力の差が5mN/m以下であることが好ましく、3mN/m以下であることがより好ましい。インク組成物の表面張力は、水性溶剤や界面活性剤等を適宜選択することにより調整することができる。
【0108】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、必要に応じて処理液を被記録材に塗布する処理液塗布工程と、インク組成物を前記被記録材にインクジェット記録するインク組成物塗布工程と、を含む。
【0109】
[処理液塗布工程]
処理液塗布工程とは、処理液を被記録材に塗布する工程である。
【0110】
<被記録材>
本発明のインクジェット記録方法において、被記録材は特に制限されず、吸収性基材、低吸収性基材、又は非吸収性基材のいずれも好適に用いることができる。吸収性基材としては、例えば、更紙、中質紙、上質紙、コピー用紙(PCC)等の非塗工紙;綿、化繊織物、絹、麻、不織布等の布帛等が挙げられる。本発明のインクジェット記録方法は、なかでも、フェザリングや裏抜けを抑制しやすい点から、非塗工紙に対して好適に適用される。なお、基材の吸収性は、例えば、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験法No.51−87等で試験を行うことができる。非塗工紙は、インク組成物の浸透、吸収を低下させる塗工液が塗布されていないため、吸収性が高い。
【0111】
低吸収性基材としては、例えば、微塗工紙、軽量コート紙、コート紙、アート紙、キャスト紙等の塗工紙等が挙げられる。塗工紙とは、白色顔料やバインダー成分を加えて作った塗工液を塗って表面平滑性を改善したもので、インク組成物が吸収、浸透されにくい。また、非吸収性基材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の、プラスチックフィルム;金属、金属蒸着紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム、皮革等が挙げられる。本発明のインクジェット記録方法は、インク組成物の浸透性が低い低吸収性基材や非吸収性基材を用いた場合でも好適に用いることができ、色ムラがなく、カラーブリードが抑制された鮮明な画像を得ることができる。
【0112】
<処理液>
処理液は、2価以上の金属塩と、溶剤とを含有し、溶剤として少なくとも水を含み、前記処理液100質量部に対して沸点が280℃以上の溶剤が5質量部以下であって、pHが5.0以上10.0以下である処理液であることが好ましい。このような処理液を用いることにより、被記録材として吸収性基材を用いた場合に特に問題となるフェザリングや裏抜けを抑制することができ、また被記録材として低吸収性基材又は非吸収性基材を用いた場合に特に問題となる白抜けやカラーブリードを抑制することができる。そのため、被記録材によらず滲みや白抜けを抑制することができ、さらに得られた印刷物の長期保存性に優れる。また、乾燥性にも優れ、装置の劣化を抑制することができる。
【0113】
本発明のインクジェット記録方法において用いることのできる処理液は、少なくとも2価以上の金属塩と溶剤とを含有するものであることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の成分を含むものであってもよい。以下、本発明で用いることのできる処理液に含まれる各成分について説明する。
【0114】
(1)2価以上の金属塩
処理液に含有する2価以上の金属塩は、前記被記録材上におけるインク組成物の定着性を向上させるものである。2価以上の金属塩としては、多価金属イオンと陰イオンから構成される公知の金属塩の中から適宜選択して用いることができる。多価金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等が挙げられる。なかでも、後述するインクジェットインク組成物中の顔料との相互作用の大きさの点から、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンより選択される1種以上であることが好ましい。
【0115】
また、陰イオンとしては、無機アニオンであっても有機アニオンであってもよい。印刷物の長期保存性に優れ、装置の劣化が抑制される点から、なかでも、有機アニオンを用いることが好ましい。
【0116】
無機アニオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが好適に挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、有機アニオンの具体例としては、パントテン酸イオン、パントイン酸イオン、プロピオン酸イオン、アスコルビン酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、o−安息香酸スルフィミドイオン、乳酸イオン、安息香酸イオン、グルコン酸イオン、サリチル酸イオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン等、有機酸のイオンが好適に挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0117】
なかでも、水への溶解度が0.1モル/リットル以上のカルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、アルミニウム塩及び亜鉛塩から選択される1種又は2種以上であるものが好ましく、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩及び亜鉛塩から選択される1種又は2種以上であるものがより好ましい。水への溶解度が0.1モル/リットル以上の金属塩は、インク組成物中の顔料や樹脂との相互作用が大きいからである。
【0118】
本発明に用いることのできる2価以上の金属塩は、多価金属イオンと陰イオンを任意に組み合わせたものとすることができ、無機アニオンを有する無機塩であっても有機アニオンを有する有機酸塩であってもよい。
【0119】
無機塩の具体例としては、カルシウム塩、マグネシウム塩としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの無機塩のなかでも、一般に水への溶解度の高い塩化物、硝酸塩、硫酸塩がより好ましく、硝酸塩又は硫酸塩がより好ましい。
【0120】
有機酸塩の具体例としては、パントテン酸、パントイン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、リンゴ酸、o−安息香酸スルフィミド、乳酸、安息香酸、グルコン酸、サリチル酸、シュウ酸、クエン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩及び亜鉛塩が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの有機酸塩のなかでも、フェザリングとブリーディングの抑制の点からパントテン酸、プロピオン酸、又は酢酸の、カルシウム塩又はマグネシウム塩がより好ましい。本発明に用いることのできる2価以上の金属塩は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
処理液中の2価以上の金属塩の濃度は特に限定されない。なかでも、定着性の点から、2価以上の金属塩の濃度が0.005モル/リットル以上0.5モル/リットル以下であることが好ましい。2価以上の金属塩の濃度が0.005モル/リットル以上であれば、フェザリングやカラーブリードを充分に抑制することができる。一方、2価以上の金属塩の濃度が0.5モル/リットル以下であれば、印刷物の光沢性及び質感が向上し、また、処理液の保管中に金属塩の析出が抑制されるため処理液自体の保存安定性にも優れている。
【0122】
さらに、処理液中の2価以上の金属塩の濃度は、前記被記録材の種類に応じて、適宜調整することが好ましい。具体的には、被記録材が非吸収性基材の場合、処理液中の2価以上の金属塩の濃度が0.005モル/リットル以上0.2モル/リットル以下であることが好ましく、被記録材が低吸収基材の場合には、2価以上の金属塩の濃度が0.05モル/リットル以上0.5モル/リットル以下であることが好ましく、また、被記録材が吸収性基材の場合には、2価以上の金属塩の濃度が0.1モル/リットル以上0.5モル/リットル以下であることが好ましい。
【0123】
(2)溶剤
本発明に用いることのできる処理液の溶剤は、少なくとも水を含み、必要に応じて有機溶剤を含むものであることが好ましい。有機溶剤としては、金属塩を溶解可能な溶剤の中から適宜選択すればよい。本発明のインク組成物において用いる溶剤は、なかでも、水性溶剤を含むものであることが好ましい。なお、水性溶剤とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で3質量部以上溶解する溶剤のことをいう。
【0124】
本発明においては、金属塩の溶解性の点から、水及び水性溶剤の合計の含有割合が、全溶剤に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらにより好ましい。
【0125】
水性溶剤の具体例としては、上記のインク組成物における水溶性有機溶剤として例示記載したものと同じ溶剤を使用することができる。
【0126】
本発明における水性溶剤としてはなかでも沸点が280℃未満のものが好ましい。水性溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0127】
また、被記録材として吸収性基材を用いる場合には、基材のカールとコックリング(波打ち)を抑える点から、水と水性溶剤を併用することが好ましい。
【0128】
本発明において沸点が280℃以上の溶剤は、処理液全体100質量部に対して5質量部以下の範囲で用いることができる。沸点が280℃以上の溶剤の使用量を抑制することにより、乾燥性に優れた処理液とすることができる。沸点が280℃以上の溶剤の具体例としては、上記のインク組成物の溶剤の説明において列挙したものと同じ溶剤を使用することができる。
【0129】
処理液を被記録材に塗布する方法は特に限定されるものではないが、例えばインクジェット方式により塗布することができる。処理液をインクジェット方式により被記録材に付着させる場合にはインクジェットノズルにおける乾燥が抑制され、且つ、印刷物の乾燥性に優れる点から、沸点が180℃以上280℃未満の溶剤を用いることが好ましい。沸点が180℃以上280℃未満の溶剤の具体例としては、上記のインク組成物の溶剤の説明において列挙したものと同じ溶剤を使用することができる。
【0130】
また、水性溶剤として、水性溶剤を水で50質量%に希釈したときに希釈液の粘度が7mPa・s以下となる溶剤を用いることが好ましい。水で50質量%に希釈したときに希釈液の粘度が7mPa・s以下となる水性溶剤としては例えば、1価のアルコール類、ジオール類、トリオール類、モノアルキルエーテル類、ジアルキルエーテル類が好ましい。具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、グリセリン等が挙げられる。インク組成物中の水が揮発した後のインク組成物の粘度が急激に上昇することを抑制することが可能となり、流動性が良好で、連続吐出性や放置後吐出性が良好なインク組成物とすることができるからである。
【0131】
溶剤に含まれる水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。溶剤中の水の含有量としては、上記各成分を分散又は溶解可能であればよく、適宜調整すればよい。なかでも、溶剤全量に対して、10質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、20質量%以上95質量%以下の範囲内であることがより好ましく、30質量%以上90質量%以下の範囲内であることがさらにより好ましい。
【0132】
また、溶剤中の水性溶剤の含有量としては、溶剤全量に対して、5質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、5質量%以上80質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以上70質量%以下の範囲内であることがさらにより好ましい。
【0133】
水及び水性溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、保湿性が十分でありノズル詰まり等の少ないものとすることができるからである。また、インクジェット方式により塗布した場合、インクジェットヘッドによる吐出が容易なものとすることができるからである。
【0134】
(3)その他の成分
本発明において処理液は、必要に応じて、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、pHを調整するための塩基性化合物、表面張力を調整するための界面活性剤のほか、印刷物に耐擦過性、耐水性、耐溶剤性、耐ブロッキング性等の各種耐性や、光沢を付与し、又は光学濃度を向上するための樹脂等が挙げられる。
【0135】
塩基性化合物や界面活性剤の具体例は、上記のインク組成物のその他の成分の塩基性化合物や界面活性剤において列挙したものと同じものを使用することができる。界面活性剤の含有量は、処理液全量100質量部に対して、0.01質量部以上10.0質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下とすることがより好ましい。
【0136】
本発明に用いることのできる処理液に含まれる樹脂としては、例えば、親水性基を有する樹脂、カチオン系、ノニオン系、及びアニオン系樹脂エマルジョン等が挙げられる。このような樹脂を用いることにより、得られた印刷物に耐擦過性、耐水性、耐溶剤性、耐ブロッキング性等の各種耐性を付与したり、印刷物の光沢や印刷濃度を向上することができる。また、上記樹脂エマルジョンを用いることにより、特に非吸収性基材への付着性が低い金属塩の付着性を向上することができる。
【0137】
樹脂エマルジョンに用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物等、上記のインク組成物の樹脂において列挙したものと同じものを使用することができる。処理液に用いられる樹脂の酸価は特に限定されないが、金属塩の凝集や沈降を抑制する点からは、樹脂の酸価が0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であることが好ましい。処理液において、上記樹脂の含有割合は、特に限定されないが、処理液での樹脂の安定性、印刷物の各種耐性の点から、処理液全量100質量部に対して、0.05質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上15質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上10質量部以下であることがさらにより好ましい。
【0138】
上記処理液の表面張力は、適宜調整すればよい。なかでも、被記録材の印刷面に対する処理液の濡れ性を充分なものとし、印刷物の色ムラや白抜けが抑制でき、鮮明な画像を得ることができる点から、32mN/m以下とすることが好ましく、30mN/m以下であることが好ましく、28mN/m以下であることがより好ましく、26mN/m以下であることがさらにより好ましい。一方、処理液をインクジェット法により基材表面に付着させる場合には、吐出ヘッドからのインク組成物の吐出安定性を良好にする点から、処理液の表面張力を20mN/m以上とすることが好ましい。
【0139】
また、被記録材の種類に応じて処理液の表面張力を調製することが好ましく、吸収性の低い被記録材ほど処理液の表面張力を低くすることが好ましい。具体的には、被記録材として、吸収性基材を用いる場合には、処理液の表面張力を32mN/m以下とすることが好ましい。また、被記録材として、低吸収性基材を用いる場合には、処理液の表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、28mN/m以下であることがより好ましい。さらに、被記録材として非吸収性基材を用いる場合には、処理液の表面張力が28mN/m以下であることが好ましく、26mN/m以下であることがより好ましい。なお処理液の表面張力は、溶剤や、上記界面活性剤を適宜選択することにより調整することができる。
【0140】
[インクジェット記録方法、及び印刷物の製造方法]
インク組成物は、被記録材の処理液が付着した部分に、インクジェット法により付着する。処理液の被記録材への付着方法は、印刷する部分のみ、又は印刷面全面に処理液を付着できる塗布方法であれば、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、スプレー方式、コーター方式、インクジェット方式、グラビア方式又はフレキソ方式により処理液を塗布する方法を用いることができ、なかでも、コーター方式又はインクジェット方式により付着することが好ましい。コーター方式によれば、処理液を短時間に均一に塗布することができる。また、インクジェット方式によれば、任意の場所へ付着させることも、印刷面全面に付着させることも容易である。処理液が塗布された被記録材にインク組成物を塗布することによって、色ムラや白抜けがなく、フェザリングやカラーブリードを抑制することができる。
【0141】
本発明のインク組成物は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができるが、なかでも、凝集物が発生し難く、吐出安定性に優れる点から、ピエゾ方式のインクジェット記録装置に用いられることが好ましい。ピエゾ方式の記録ヘッドは、圧力発生素子として圧電振動子を用い、圧電振動子の変形により圧力室内を加圧・減圧してインク滴を吐出させる。インクジェット印刷方法の形式は特に限定されず、シリアルヘッド型のインクジェット方式であっても、ラインヘッド型のインクジェット方式であってもよい。
【0142】
そして、本発明においては、インク組成物として、従来よりも低いA値の樹脂(バインダー樹脂及び顔料分散樹脂)、一般式(1)で表される化合物を用いた本発明のインク組成物を用いることで、鮮明な画像を得ることに加え、インクジェットヘッドのノズル詰まり等の吐出不良が起こりにくく、吐出安定性に優れる優れたインクジェット記録方法とすることができる。
【0143】
また、本発明のインク組成物に含まれる溶剤には、グリセリン等の沸点250℃以上の溶剤がインク組成物100質量部に対して5質量部未満しか含まれていない。そのため、被記録材が非吸収性又は低吸収性の被記録媒体である場合においても乾燥性を高めることができる。したがって、被記録媒体を非吸収性又は低吸収性の被記録媒体とした場合には、本発明のインクジェット記録方法は特に有効である。
【0144】
なお、被記録材の表面を30℃以上60℃以下に加熱した状態でインク組成物を吐出させることが好ましい。インク組成物付着時の被記録材のインク組成物付着部分の表面温度を30℃以上とすることにより、低吸収性及び非吸収性基材の場合でもインク組成物の濡れ広がりが良好になり、鮮明な印刷物を製造することが可能となる。また、インク組成物付着時の被記録材のインク組成物付着部分の表面温度を60℃以下とすることにより、熱による基材の歪みを抑制でき、良好な画像を印刷することが可能となり、さらに、熱によってインクジェットヘッドのノズル面でのインク組成物の固着が抑制され、吐出安定性を維持することが可能となる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0146】
1.顔料分散体の調整
下記方法により、顔料分散樹脂を調製した。
100℃に保たれたトルエン200g中にメタクリル酸メチル63g、アクリル酸ブチル27g、メタクリル酸ブチル30g、アクリル酸15g、メタクリル酸15g、とtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、樹脂溶液を得た。樹脂溶液から樹脂をヘキサンにて精製して、分子量20000、酸価143mgKOH/gの顔料分散樹脂を得た。
【0147】
(1)顔料分散体P−1(赤)の調製
イオン交換水80gに、上記で得られた顔料分散樹脂2.5gと、N,N−ジメチルアミノエタノール0.6gを溶解させ、C.I.ピグメントレッド122を15gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料(C.I.ピグメントレッド122)/顔料分散樹脂の質量比が15/2.5の顔料分散体P−1(赤)を得た。
【0148】
(2)顔料分散体P−2(青)、顔料分散体P−4(黄)の調製
C.I.ピグメントレッド122の代わりに、C.I.ピグメントブルー15:4(PB15:4)、C.I.ピグメントイエロー155(PY155)、をそれぞれ用いた以外は、顔料分散体P−1(赤)と同様にして、顔料(C.I.ピグメントブルー15:4(PB15:4))/顔料分散樹脂の質量比が15/2.5の顔料分散体P−2(青)、顔料(C.I.ピグメントイエロー155(PY155))/顔料分散樹脂の質量比が15/2.5の顔料分散体P−4(黄)を得た。
【0149】
(3)顔料分散体P−3(黒)の調製
イオン交換水80gに、上記P−1で得られた顔料分散樹脂2.5gと、N,N−ジメチルアミノエタノール0.6gを溶解させ、カーボンブラックを15gと顔料分散樹脂SOLSPERSE47000(分子量280000、酸価20mgKOH/g)を固形分として0.3g、消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料(カーボンブラック)/顔料分散樹脂の質量比が15/2.8の顔料分散体P−3(黒)を得た。
【0150】
(4)顔料分散体P−5(赤)の調整
イオン交換水80.1gに、上記P−1で得られた顔料分散樹脂5.0gと、N,N−ジメチルアミノエタノール1.2gを溶解させ、C.I.ピグメントレッド122を15gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料(C.I.ピグメントレッド122)/顔料分散樹脂の質量比が15/5.0の顔料分散体P−5(赤)を得た。
【0151】
(5)顔料分散体P−6(黒)の調整
イオン交換水80.1gに、顔料分散樹脂(スチレン−マレイン酸系高分子分散剤(SARTOMER社製「SMA1440」重量平均分子量7,000、酸価185mgKOH/g))3.0gと、トリエタノールアミン1.8gを溶解させ、カーボンブラックを15gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104E」)を0.1g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料(カーボンブラック)/顔料分散樹脂の質量比が15/3.0の顔料分散体P−6(黒)を得た。
【0152】
2.樹脂エマルジョンの調製
下記方法により、樹脂エマルジョンを調製した。尚、得られた樹脂エマルジョンの平均粒子径は25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR−1000)を用いて測定した。
【0153】
(1)樹脂エマルジョンR−1の調整
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、メタクリル酸1.5gと純水150gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸メチル115.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル18g、アクリル酸ブチル15gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。また、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)3g、過硫酸カリウム0.01gと純水200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃でさらに3時間加熱熟成した後冷却し、N,N−ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、500gの樹脂エマルジョンR−1(固形分30質量%、ガラス転移温度64℃、酸価7mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g、平均粒子径90nm、導電率90μS/cm)を得た。
【0154】
(2)樹脂エマルジョンR−2〜R−9の調整
また、樹脂エマルジョンR−2〜R−9についても、樹脂エマルジョンR−1と同様な合成方法で、下記のようにモノマー組成を調節して、合成を行った。
【0155】
R−2:メタクリル酸0.6g、メタクリル酸メチル135g、アクリル酸ブチル14.4g(ガラス転移温度82℃、酸価3mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g、平均粒子径105nm、導電率70μS/cm)
R−3:メタクリル酸3.5g、メタクリル酸メチル99.5g、メタクリル酸ブチル15.6g、アクリル酸ブチル31.5g(ガラス転移温度48℃、酸価15mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g、平均粒子径120nm、導電率140μS/cm)
R−4:メタクリル酸6g、メタクリル酸メチル90g、アクリル酸2−エチルヘキシル39g、4−ヒドロキシブチルアクリレート15g(ガラス転移温度7℃、酸価26mgKOH/g、水酸基価39mgKOH/g、平均粒子径160nm、導電率380μS/cm)
R−5:JONCRYL1535(ガラス転移温度50℃、酸価98mgKOH/g、平均粒子径160nm、導電率980μS/cm)
R−6:JONCRYL7640(ガラス転移温度85℃、酸価64mgKOH/g、平均粒子径120nm、導電率700μS/cm)
R−7:ビニブラン2706(ガラス転移温度21℃、酸価3mgKOH/g、平均粒子径150nm、導電率80μS/cm)
R−8:ウォーターゾルEFD−5501(コロイダルディスパージョン、酸価35mgKOH/g)
R−9:JONCRYL52J(水溶性樹脂、ガラス転移温度56℃、酸価238mgKOH/g)
【0156】
3.インク組成物の調製
顔料分散体、樹脂エマルジョン、溶剤、界面活性剤(ノニオン性化合物)、界面活性剤(その他界面活性剤)、ワックスエマルジョン、イオン交換水を用いて下記表1〜4のように実施例及び比較例のインク組成物を調整した。なお、樹脂エマルジョン及びワックスエマルジョンは、固形分としての値を表す。
【0157】
なお、表1〜4中の溶剤のPGは、プロピレングリコール(沸点:187℃)を表し、13PDは、1,3−プロパンジオール(沸点:214℃)を表し、12PDは、1,2−ペンタンジオール(沸点:210℃)を表し、GLYは、グリセリン(沸点:290℃)を表し、TPGは、トリプロピレングリコール(沸点:268℃)を表し、MFTGは、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:242℃)を表す。
【0158】
また、表1〜4中の界面活性剤(ノニオン性化合物)のA−1は、R=C18、n=13のノニオン性化合物(エマルゲン320P(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−2は、R=C18、n=30のノニオン性化合物(エマルゲン430(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−3は、R=C18、n=50のノニオン性化合物(エマルゲン350(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−4は、R=C13、n=50のノニオン性化合物(ノイゲンTDS−500F(ポリオキシエチレントリデシルエーテル)(第一工業製薬(株)製))を表し、A−5は、R=C12、n=9のノニオン性化合物(エマルゲン109P(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−6は、R=C14、n=85のノニオン性化合物(エマルゲン4085(ポリオキシエチレンミリステルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−7は、R=多環フェニル、n=20のノニオン性化合物(エマルゲンA−90(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)(花王(株)製))を表し、A−8は、R=C10、n=8のノニオン性化合物(ノイゲンSD−80(ポリオキシエチレンデシルエーテル)(第一工業製薬(株)製))を表し、A−9は、R=C10、n=11のノニオン性化合物(ノイゲンSD−110(ポリオキシエチレンデシルエーテル)(第一工業製薬(株)製))を表し、A−10は、R=C12、n=16のアニオン性化合物(ハイテノールLA−16(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)(第一工業製薬(株)製))を表し、A−11は、R=C12、n=10のアニオン性化合物(カオーアキボ RLM−100NV(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム(花王(株)製))を表し、A−12は、R=C16、n=28のノニオン性化合物(ユニセーフ20P−4(ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル)(日油(株)製))を表し、A−13は、R=Hのノニオン性化合物(エパン680(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)(第一工業製薬(株)製))を表す。
【0159】
また、表1〜4中のその他界面活性剤(表面張力調整剤)のB−1は、シリコーン系界面活性剤(BYK−348)を表し、B−2は、シリコーン系界面活性剤(BYK−349)を表す。
【0160】
また、表1〜4中のワックスのW−1は、ポリエチレンワックスエマルジョン(PEM−17(平均粒子径60nm、融点103℃))を表し、W−2は、ポリエチレンワックスエマルジョン(AQUACER515(粒子径150nm、融点130℃))を表す。
【0161】
また、表1〜4中のA値からD値は、顔料分散剤量a(g)(インク組成物100質量部中に含まれる顔料分散剤の質量)、顔料分散剤酸価b(mgKOH/g)、バインダー樹脂量c(g)(インク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量)、バインダー樹脂酸価d(mgKOH/g)から、下記定義によって算出した値である。
a:インク組成物100質量部中に含まれる顔料分散樹脂の質量部
b:顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)
c:インク組成物100質量部中に含まれるバインダー樹脂の質量部
d:バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)
Σ(a×b):顔料分散樹脂が1種類であった場合にはa×bの値であり、顔料分散樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれの顔料分散樹脂のa×bの値の総和
Σ(c×d)とは、バインダー樹脂が1種類であった場合にはc×dの値であり、バインダー樹脂が2種類以上であった場合にはそれぞれのバインダー樹脂のc×dの値の総和
Σa:インク組成物100質量部中に含まれる各顔料分散樹脂の質量部の総和
Σc:インク組成物100質量部中に含まれる各バインダー樹脂の質量部の総和
A値=Σ(a×b)+Σ(c×d)
B値=Σ(a×b)
C値=Σ(c×d)
D値=Σa/Σc
【0162】
[保存安定性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物について、保存安定性試験を行った。具体的には、インク組成物をガラス瓶に密閉し、60℃下で2週間放置し、凝集物や沈降の発生の有無を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:凝集物又は沈降が発生しなかった。
C:凝集物又は沈降が発生した。
【0163】
[吐出安定性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物について、吐出安定性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにて3時間連続印字を行い、曲がりや不吐出のノズル数を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%未満である。
B:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中1%以上3%未満である。
C:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中3%以上である。
A、Bが実使用範囲である。
【0164】
[吐出回復性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物について、吐出回復性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにて印字を行ったノズルについてクリーニングを行い、吐出が行われているか確認した。結果を表1〜4に示す。
A:クリーニングで全てのノズルから吐出した。
C:クリーニングを繰り返しても曲がりや不吐出のノズルがあった。
【0165】
[撥液性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物について、撥液性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにて印字を行ったヘッドにインク組成物が付着しているか否か確認した。結果を表1〜4に示す。
A:印字後ヘッドにインク組成物の付着がない。
B:印字後ヘッドにインク組成物がわずかに付着した。
C:印字後ヘッドにインク組成物が付着し、撥液しなくなっていた。
A、Bが実使用範囲である。
【0166】
[耐擦過性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物により印刷された印刷物について、耐擦過性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにてベタ印字を行い、乾燥させた後、試験用布片にて荷重200g、50往復で実施し、目視で印刷物を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:印刷面が全く剥ぎ取られていなかった。
B:試験用布片が着色するが印刷面が剥がれることはなかった。
C:印刷面が一部剥がれ、基材が露出した。
A、Bが実使用範囲である。
【0167】
[乾燥性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物により印刷された印刷物について、乾燥性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにてベタ印字を行い、ベタ印字部分を80℃で乾燥するまでの時間を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:3分未満で乾燥した。
B:3分以上10分未満で乾燥した。
C:10分以上で乾燥した。
A、Bが実使用範囲である。
【0168】
[耐水性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物により印刷された印刷物について、耐水性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにてベタ印字を行い、ベタ印字部分を100℃3分間乾燥した試験片を、イオン交換水で拭き、目視で印刷物を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:印刷物に変化は見られなかった。
B:印刷物の色がわずかに薄くなっていた。
C:印刷物の色が明らかに薄くなっていた。
A、Bが実使用範囲である。
【0169】
[耐溶剤性試験]
実施例及び比較例に係るインク組成物により印刷された印刷物について、耐溶剤性試験を行った。具体的には、インク組成物をインクジェットにてベタ印字を行い、ベタ印字部分を100℃3分間乾燥した試験片を、30%エタノール溶液で拭き、目視で印刷物を確認した。結果を表1〜4に示す。
A:印刷物に変化は見られなかった。
B:印刷物の色がわずかに薄くなっていた。
C:印刷物の色が明らかに薄くなっていた。
A、Bが実使用範囲である。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
表1〜4より、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、良好な分散安定性を有し、インクジェエットヘッドのノズル詰まり等の吐出不良が起こりにくく、吐出安定性に優れたインクジェット記録用のインク組成物であることが分かる。
【0175】
一方、比較例1〜5、7、8は、A値が200mgKOH/gを超えるため、吐出安定性、耐溶剤性が劣っていた。さらにC値が150mgKOH/gを超える比較例3〜5は、吐出安定性も劣っていた。また、バインダー樹脂100質量部に対して20質量部以上の分散樹脂が含有される比較例1及び2は、耐水性も劣っていた。
【0176】
比較例7、8は、バインダー樹脂としてR−8(コロイダルディスパーション)、R−9(水溶性樹脂)を用いており、樹脂エマルジョンを含有しない。そのため、分散安定性が低下し、吐出安定性、吐出回復性、撥液性及び耐溶剤性等が劣っていた。
【0177】
比較例9、10、18は沸点250℃以上の溶剤の含有量が前記インク組成物100質量部に対して5質量部以上であるため、乾燥性が劣っていた。さらに乾燥が不十分であるため、耐溶剤性が劣っていた。比較例18はさらにワックスエマルジョンが顔料よりも多く含有されるため、吐出安定性が劣っていた。
【0178】
比較例6は、A値は200mgKOH/g以下であるものの、バインダー樹脂である樹脂エマルジョンのガラス転移温度が40℃未満であるため、吐出安定性や耐溶剤性が劣っていた。
【0179】
一般式(1)で示されるノニオン性化合物の、エチレン基又はプロピレン基を示すRの繰り返し数nが10を下回っている比較例11は、吐出安定性や吐出回復性の劣るインク組成物であることがわかる。これは、Rの繰り返し数nが小さいため、界面活性剤の親水性が不十分となり、インク組成物中の樹脂エマルジョンの分散安定性が低下したものと推察される。
【0180】
また、一般式(1)で示されるノニオン性化合物の、エチレン基又はプロピレン基を示すRの繰り返し数nが50を上回っている比較例12は、吐出安定性や吐出回復性の劣るインク組成物であることがわかる。これは、Rの繰り返し数nが大きいことで、アルキレンオキサイド鎖が長くなり、疎水性の部分との親和性が不十分となるため、インク組成物中の樹脂エマルジョンの分散安定性が低下したものと推察される。
【0181】
また、一般式(1)で示されるノニオン性化合物の、直鎖又は分岐のアルキル基Rの炭素数が12を下回る比較例14及び比較例15や、RがHである比較例19は、吐出安定性や吐出回復性の劣るインク組成物であることがわかる。これは、インク組成物中の樹脂エマルジョンの疎水性部分との親和性が不十分であるため、樹脂エマルジョンの分散安定性が低下したものと推察される。
【0182】
さらに、比較例16及び比較例17のような界面活性剤としてアニオン性化合物を用いたインク組成物は、吐出安定性や吐出回復性の劣るインク組成物であることがわかる。これは、アニオン性化合物に陰イオン性の親水基があることによって、インク組成物中の樹脂エマルジョンの疎水性部分との親和性が低下し、樹脂エマルジョンの分散安定性が低下したものと推察される。
【0183】
また、比較例20のようにノニオン性化合物又はアニオン性化合物の界面活性剤を用いていないインク組成物は、樹脂エマルジョンの分散安定性が不十分であるため、吐出安定性や吐出回復性の劣るインク組成物であることがわかる。
【0184】
[処理液の調整]
<処理液1>
酢酸カルシウム1.5質量部、パントテン酸カルシウム1.0質量部、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール、沸点:188.2℃)45質量部、BYK−349(ビックケミー社製、表面張力調整剤)0.5質量部、イオン交換水52質量部を配合し、処理液1を得た。
【0185】
<処理液2>
酢酸マグネシウム0.5質量部、701FE35(日信化学工業株式会社製 塩ビ−アクリル樹脂)5質量部(固形分)、プロピレングリコール35質量部、BYK−349(ビックケミー社製、表面張力調整剤)0.5質量部、イオン交換水59質量部を配合し、処理液2を得た。
【0186】
[処理液を塗布した印刷物の画像再現性評価]
インクジェット記録装置PX−101(セイコーエプソン社製)のインクジェットヘッドに処理液(処理液1、2)を充填し、受容層がないポリ塩化ビニルフィルムに、インク組成物で印字を行う画像と同じ画像を印字した後、もう1台のインクジェット記録装置PX−101(セイコーエプソン社製)のインクジェットヘッドに実施例1〜4のインク組成物(黄、赤、青、黒)の組み合わせ、及び実施例8、実施例9、実施例15、実施例23のインク組成物(黄、赤、青、黒)の組み合わせを充填して印字を行い、印刷物を得た。なお、インク組成物着弾時の被記録媒体の表面温度が40℃になるように設定して印刷を行った後、印刷物の表面温度が80℃になるように設定して乾燥を行った。そして該印刷物について耐擦過性、乾燥性、耐溶剤性、画像再現性について試験を行った。なお、上記処理液を塗布していない印刷物も作成して、同様に評価を行った。
【0187】
[画像再現性試験1]
実施例1〜4、実施例8、実施例9、実施例15、実施例23のインク組成物について単色の12ptにて印字を行い、文字の滲みを評価した。評価結果を表5に示す。
A:滲みが認められず、鮮明な画像であった。
B:わずかに滲みが認められるが、鮮明な画像であった。
C:滲みが認められ、鮮明性が劣っていた。
A、Bが実使用範囲である。
【0188】
[画像再現性試験2]
実施例1〜4、実施例8、実施例9、実施例15、実施例23のインク組成物について黄、赤、青、黒の100%ベタ部が隣接しあうように印字を行い、各色の境界部分滲みを評価した。評価結果を表5に示す。
A:滲みが認められず、鮮明な画像であった。
B:わずかに滲みが認められるが、鮮明な画像であった。
C:滲みが認められ、色の境界が不鮮明な部分があった。
A、Bが実使用範囲である。
【0189】
【表5】
【0190】
表5によると、処理液が塗布された印刷物は、処理液を塗布されていない印刷物と比べて、特に画像再現性に関して滲みがなく良好な結果が得られている。そのため、本発明の処理液塗布工程と、インク組成物塗布工程と、を含むインクジェット記録方法は優れたインクジェット記録方法であることが分かる。
【要約】
【課題】吸水性の低い記録媒体に対し、速乾性を有し、印刷物の耐性が良好で、ヘッドのノズルの目詰まりや曲がり等の吐出不良が起こり難く、吐出性に優れた水性インクジェット用のインク組成物を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂と界面活性剤と顔料と溶剤と必要に応じて顔料分散樹脂とを含み、バインダー樹脂はガラス転移温度40℃以上90℃以下でエマルジョン粒子として分散され、バインダー樹脂と顔料分散樹脂は、酸価と質量部との積の総和で定義されるA値が0mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、界面活性剤は、式(1)のノニオン性化合物であり、溶剤中に含まれる沸点250℃以上の溶剤の含有量がインク組成物100質量部に対して5質量部未満である。
O−(RO)−H(1)
(Rは炭素数12〜22の直鎖又は分岐のアルキル基である。Rはエチレン基又はプロピレン基を示す。nは10〜50の整数である。)
【選択図】なし