(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5862979
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】鉄空気再充電可能電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20160202BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20160202BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/08 S
H01M4/86 B
H01M4/90 Y
H01M4/86 M
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-520885(P2013-520885)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(65)【公表番号】特表2013-535775(P2013-535775A)
(43)【公表日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】US2011045030
(87)【国際公開番号】WO2012012731
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年7月18日
(31)【優先権主張番号】61/366,696
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508230226
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤン,スリ アール.
(72)【発明者】
【氏名】プラカシュ,ジー.ケイ.スーリヤ
(72)【発明者】
【氏名】キンドラー,アンドリュー
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−154746(JP,A)
【文献】
特開昭47−024533(JP,A)
【文献】
特開昭48−088439(JP,A)
【文献】
北村 広樹、外2名,鉄空気電池負極構成法の研究,化学関連支部合同九州大会・外国人研究者交流国際シンポジウム講演予稿集,日本,2010年 7月10日,47th,p.364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄電極とそれと統合された水素電極とを備える複合電極と、
前記複合電極から離隔された空気電極と、
前記複合電極および前記空気電極と接触している電解質とを含み、
前記鉄電極および前記水素電極が、前記鉄電極および前記水素電極間で挟持される絶縁層によって電気的に絶縁されており、
前記鉄電極および前記水素電極が別個の電気コンタクトを有し、それぞれの充電/放電制御装置と連通していることを特徴とする、鉄空気再充電可能電池。
【請求項2】
請求項1に記載の電池において、自己組織化有機硫黄系添加剤を前記電解質中にさらに含むことを特徴とする電池。
【請求項3】
請求項2に記載の電池において、前記有機硫黄系添加剤がアルカンチオール、二硫化アルキル、非置換および置換アリールチオール、およびヒドロキシアルカンチオールからなる群から選択されることを特徴とする電池。
【請求項4】
請求項1に記載の電池において、前記鉄電極がビスマス添加剤を含むことを特徴とする電池。
【請求項5】
請求項1に記載の電池において、前記鉄電極が、前記電解質の経路のための孔を有する多孔性導電構造物で被覆されることを特徴とする電池。
【請求項6】
請求項1に記載の電池において、前記空気電極のための触媒担体としてナノ構造ホイスカー基材をさらに含んでおり、前記ホイスカー基材がカルボキシジイミド(Carboxidimide)顔料およびフタロシアニンの少なくとも1つから調製されることを特徴とする電池。
【請求項7】
請求項6に記載の電池において、前記ナノ構造ホイスカー基材が薄い触媒活性酸化物層でコートされることを特徴とする電池。
【請求項8】
請求項7に記載の電池において、前記酸化物層がペロブスカイト酸化物、パイロクロア酸化物、またはスピネル酸化物の少なくとも1つを含有することを特徴とする電池。
【請求項9】
請求項1に記載の電池において、前記空気電極がガス拡散層上に担持された薄膜ナノ構造触媒層を含有することを特徴とする電池。
【請求項10】
請求項1に記載の電池において、前記空気電極に供給される空気から二酸化炭素を急速に吸着する二酸化炭素管理システムをさらに含むことを特徴とする電池。
【請求項11】
請求項10に記載の電池において、前記二酸化炭素管理システムが、前記電池上の充電および放電運転の間に再生される二酸化炭素吸収剤を備えることを特徴とする電池。
【請求項12】
請求項11に記載の電池において、前記吸収剤が、入って来る空気が通過させられて二酸化炭素を弱く結合するナノ構造シリカ担持有機アミン吸収剤を含有することを特徴とする電池。
【請求項13】
請求項12に記載の電池において、前記吸収剤が、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、およびポリ(イオン)液体からなる群から選択されることを特徴とする電池。
【請求項14】
請求項11に記載の電池において、充電の間に前記電池から発生された熱が、前記吸収剤からの二酸化炭素の脱着のための熱エネルギーを提供するために使用されることを特徴とする電池。
【請求項15】
鉄電極とそれと統合された水素電極とを備える複合電極と、前記鉄電極から離隔された空気電極と、前記鉄電極および前記空気電極と接触している電解質とを含む鉄空気電池を充電するための方法において、
前記水素電極を放電させる間に同時に前記鉄電極を充電する工程を含んでおり、
前記鉄電極および前記水素電極が、前記鉄電極および前記水素電極間で挟持される絶縁層によって電気的に絶縁されており、
前記鉄電極および前記水素電極が別個の電気コンタクトを有し、それぞれの充電/放電制御装置と連通している、ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記水素電極から発生された電力を充電システムに供給して前記鉄電極を充電するために必要とされた電力の少なくとも一部を補う工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法において、運転していない間に発生された水素を使用して前記鉄空気電池を細流充電する工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年7月22日に出願された米国仮出願第61/366,696号(その開示内容がその全体において参考として本明細書に組み込まれる)の便益を主張する。
【0002】
本願においての実施形態は鉄空気再充電可能電池に関する。
【背景技術】
【0003】
Westinghouse Corporation、Swedish National Development Corporationおよびその他は、電気自動車において用いるために1970年代半ばから1980年代初期の間、鉄空気電池の開発を強く推進した。しかしながら、これらの電池のエネルギー密度および出力密度は、電気自動車用途のために設定された所望の目標に達しなかった。
【0004】
グリッド規模エネルギー貯蔵用途において、鉄空気電池を使う可能性の利点は関心をひいてやまない。鉄空気電池は他の電池ほど費用がかからず、鉄では1ポンドあたりで$0.10のコストだけである。米国は1000億トン超の鉄鉱石資源を有し、それは10,000teraWh超のエネルギー貯蔵を意味する。鉄は無毒性であり、容易に再利用可能である。鉄空気電池は高いエネルギー密度を有し、764Whkgの理論比エネルギーを有する。この値の20%(154Wh/kg)でも、それはLiイオン電池の比エネルギーに等しい。鉄電極は強靭であり、ニッケル鉄電池の鉄電極によって3000サイクル超が実証されている。さらに、鉄電極は過充電、過放電、および開回路放置に対して非常に耐性がある。
【0005】
現在の鉄空気電池は中程度のエネルギー密度(50〜75Wh/kg)、中程度のサイクル寿命(2000サイクル)を有し、低コスト(<$100/kWh)であり、環境にやさしく、豊富な原料から作られ、容易に拡大縮小できる。しかしながら、鉄空気電池の往復エネルギー効率およびサイクル寿命は改良を必要とする。
【発明の概要】
【0006】
1つの実施形態において、鉄電極とそれと統合された水素電極とを備える複合電極と、複合電極から離隔された空気電極と、複合電極および空気電極と接触している電解質とを含む鉄空気再充電可能電池が提供される。別の実施形態において、鉄電極と、ガス拡散層上に担持された薄膜ナノ構造触媒層を含有する、鉄電極から離隔された空気電極と、鉄電極および空気電極と接触している電解質とを含む鉄空気再充電可能電池が提供される。別の実施形態において、鉄電極とそれと統合された水素電極とを備える複合電極と、鉄電極から離隔された空気電極と、鉄電極および空気電極と接触している電解質とを含む鉄空気電池を充電するための方法が提供される。方法は、水素電極を放電させる間に同時に鉄電極を充電する工程と、鉄電極だけが電力供給に関与しているように放電の間に鉄電極と水素電極とを単離する工程とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本願に開示された実施形態による鉄電極および空気電極のいくつかの特徴を示す鉄空気電池の略図である。
【
図2a】
図2aは、実施形態による鉄電極の正面図である。
【
図2b】
図2bは、実施形態による鉄電極の側面図である。
【
図3】
図3は、別の実施形態による鉄電極の側面図である。
【
図4】
図4は、実施形態による鉄空気電池のための充電システムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
必要に応じて、本発明の詳細な実施形態を本明細書において開示するが、しかしながら、開示された実施態様は、変形形態および代替形態において具体化されてもよい本発明の典型例であるにすぎないと理解されなければならない。図面は必ずしも縮尺通りではない。いくつかの特徴は、特定の構成要素の詳細を示すために強調されるかまたは最小にされている場合がある。したがって、本明細書において開示された特定の構造および機能の詳細は限定的であると解されるべきではなく、単に、本発明を様々に使用する当業者に教示するための代表的な基準として解されるべきである。
【0009】
ここに開示された実施形態は高性能鉄空気再充電可能電池に関する。このような電池技術は、鉄が非常に低コストであること、鉄および空気の環境への優しさ、および原料の豊富さのために変革的であり得る。鉄空気電池はグリッド規模エネルギー貯蔵のすぐれた候補であり、ここに開示された実施形態はその効率およびサイクル寿命問題に取り組み、往復エネルギー効率を50%から80%に上げ、サイクル寿命を2000から5000サイクルに上げることを目指す。
【0010】
電気エネルギーの発生をもたらす鉄空気電池中の全セルの反応は式1によって示される。
Fe+1/2 O
2+H
2O→Fe(OH)
2 (1)
式1の逆反応は、充電の間に起こる。放電の間に、陰極上の鉄が水酸化鉄(II)に酸化され、陽極において酸素が還元されて水を形成する。これらのプロセスは電池の充電の間に逆になる。放電の間の個々の電極反応は以下の式によって示される。
(+)電極:1/2 O
2+H
2O+2e
−→2OH
− (1a)
(−)電極:Fe+2OH
−→Fe(OH)
2+2e
− (1b)
【0011】
鉄空気電池は約1.28Vの開回路セル電圧および764Wh/kgの理論エネルギー密度を有する。電流密度はグリッド規模の電気貯蔵のために電池の放電のために使用されるよりも少なくとも一段階大きいが、充電と放電電圧との間に0.5Vの差がある。充電/放電電圧のこの差は、主に空気電極の不十分な性能に起因する。この電圧損失は、現在の鉄空気電池の50%の低い往復効率、14日で容量の20%損失、および感応電荷効率の10%損失に有意に寄与する。グリッド規模エネルギー貯蔵用途は電気自動車の電池において使用されるのと同じ電流密度を必要としないが、効率は依然として重要な問題である。
【0012】
また、鉄電極は電解質との反応によって自己放電を起こし、以下の化学反応によって水素を発生させる。
Fe+2H
2O→Fe(OH)
2+H
2 (式2)
発生した水素が利用されないまま残されている場合、効率および電解質のかなりの損失が生じる。水素発生の電極電位はほぼ鉄−電極反応の電極電位であり、したがって水素は同様に充電の間に鉄電極上に発生する。この水素は放電反応(式1b)に関与しないので、往復効率はさらに低減される。
【0013】
サイクル寿命。鉄電極は電池電気化学に公知の最も強靭な電極の一つである。鉄電極は3000サイクル超にも耐え、ニッケル鉄電池の著しい劣化がないことが示されている(S.FalkおよびA.F.Salkind,Alkaline Storage Batteries,1969年,Wiley Interscience,New York;K.Vijayamohananら、J.of Power Sources,1991年,(34),269−285)。亜鉛電極と異なり、鉄電極はサイクル経過時に形状変化がなく、かつ、過充電および過放電に対して非常に耐性がある。
【0014】
しかしながら、空気電極は、充電および放電の反復が電極の劣化をもたらすので、約1000〜2000サイクルに限られる。炭素は空気電極において使用される触媒の担体として典型的に使用される。充電の間、この炭素担体は電解酸化を受け、電極の疎水性および機械的結着性の低下をもたらし、それによってフラッディングおよび性能の低下を招く。さらに、空気中に存在する二酸化炭素と電解質との反応によって形成された炭酸カリウムは、細孔を塞いで酸素の移動のバリアを増し、その結果、性能の低下を招く。
【0015】
これらの欠陥に対処するために、ここに開示された実施形態は、グリッド規模エネルギー貯蔵用途のために鉄空気電池の往復エネルギー効率を80%に上げ、そのサイクル寿命を5000サイクルに増加させようと試みている。
図1は、以下に説明された鉄空気電池100の実施形態のいくつかを示す。
【0016】
1つの実施形態において、例えば1つの実装形態において約10ppm〜10,000ppm、別の実装形態において約1,000ppm〜5,000ppmの自己組織化有機硫黄系添加剤が電解質10中で使用され、鉄電極12上で優先的に吸着して水を排除し、放置の間に水素発生を防ぎ、したがって自己放電によるエネルギー損失に対処する。
【0017】
水素を発生させる鉄電極12の自己放電は、以下の化学反応によって鉄と電解質10中の水との反応のために起こる。
Fe+2H
2O→Fe(OH)
2+H
2 (2)
鉄電極12の表面から水を排除することによってこの反応を防ぐことができる。長鎖アルカンチオール、二硫化アルキル、非置換および置換アリールチオール、およびヒドロキシアルカンチオールは、電極上に撥水性単分子層を自己組織化することが知られている。適した置換基の例には、NO
2、C
1〜C
6アルキル、ハロゲン(例えば、Cl、Br、F、I)、SO
3H、OH、C
1〜C
6アルコキシド、フェニル等があるがそれらに限定されない。この実施形態はこの特性を利用して水を鉄電極12から排除し、それによって自己放電を抑える。
【0018】
アルカンチオールなどの有機硫黄化合物は自己組織化して単分子層になり、水を電極表面から排除することを研究は示している。1−ドデカンチオールから形成された自己組織化単分子層(SAM)は、銅および鉄を曝気溶液中での腐蝕から保護するのに有効であることがわかった(Y.Yamamotoら、J.Electrochem Soc,1993年,(140)436)。この自己組織化の別の重要な態様はその選択率である。SAMは鉄の無被覆表面上にだけ形成され、酸化物または水酸化物で覆われた表面上には形成されない(M.Volmerら、Surf.Interface Anal.1990年,(16)278)。したがって、自己放電に対して必要とされる保護を鉄粒子に優先的に与えることができ、酸化物または水酸化物材料には影響を及ぼさない。また、有機二硫化物はチオールと同様なSAMを形成する(M.Volmerら、Surf.Interface Anal.1990年,(16) 278)。アルカン鎖の長さおよびアルカンチオールおよび有機二硫化物の末端基を調節することによって、自己組織化層の水排除特性を改良することができる。例えば、異なったチオールで覆われた銅表面の様々な撥水性の結果を以下の表に示す(Y.Yamamotoら、J.Elec.Chem Soc,1993年,(140)436)。
【0019】
1つの実施形態において、無毒性ビスマス添加剤を用いて、例えば1つの実装形態において約0.1%〜10%、別の実装形態において約1%〜5%を用いて、充電の間に水素発生を抑え、電荷効率を改良する。
【0020】
充電の間に鉄電極12において生じる反応は、
Fe+2OH
−→Fe(OH)
2+2e
− (1b)
によって示される。
しかし、充電の間に以下の反応(式3)も鉄の表面上で起こり、これは主反応(式1b)と競合し、充電効率の低下をもたらす。
2H
2O+2e
−→H
2+2OH
− (3)
【0021】
鉄電極12に対してビスマス添加剤を使用することによって、この寄生副反応(式3)が抑えられ、それによって充電効率が増加される。ビスマスは高い水素発生過電圧(非常に緩慢な速度論)を有し、したがって水素発生反応(式3)を抑制するために使用され得る。高い水素過電圧を示す他の元素には水銀および鉛などがある。しかし鉛および水銀と異なり、ビスマスは完全に無毒性であり、したがって鉄空気電池の環境への優しさを維持する。ビスマスは水銀の代替物として亜鉛電池において良好に使用されている(M.Yanoら、J.Power Sources,1998年,(74),129)。硫化ビスマス添加剤は鉄電極の充電特性に有利な影響を与えることが知られている(T.S.Balasubramanian;A.K.Shukla,J.Power Sources,1993年,(41),99)。
【0022】
水素発生を抑える方法の他に、ここに開示された実施形態はまた、充電の間に発生された水素を利用する。1つの実施形態において、特別設計された二層複合電極構造物を鉄電極12に組み込んで充電および自己放電の間に発生された水素から電気を発生させ、したがって自己放電および非効率的な充電による往復エネルギー効率の低下を最小にする。
【0023】
水素を電気化学的に酸化することによってエネルギーを発生させることができる。これは、水素発生から生じるエネルギー損失の少なくとも60%を回収する。これを目指して、両方のプロセス、すなわち、鉄電極12の充電と水素の酸化とが同時に起こることを可能にする複合鉄電極が
図2a、2b、および3に示される。
【0024】
この実施形態において、鉄電極12構造物は鉄粉末の焼結によって作製されてもよいが、
図2aおよび2bに示された表面の上に配分された孔14を有してもよい。また、
図3に示されるように鉄電極12を被覆または密閉する多孔性導電構造物18に孔または他の開口16を設けて液体電解質10の経路を可能にしてもよい。どちらの構造物も、水素の酸化が生じることを可能にする燃料電池型のガス拡散電極20と統合されてもよい。
高表面積ニッケル22が水素の酸化のための触媒表面として使用されてもよい。鉄電極12と水素電極20とは電極12、20の間の絶縁層24によって電気絶縁され、二層として一緒に挟持されてもよい。別個の電気コンタクト25が鉄および水素電極12、20に設けられる。水素/酸素結合のための全反応は、以下の電気化学反応に示されたアルカリ燃料電池の全反応に似ている。
全反応:H
2+1/2O
2→H
2O
アノード:H
2+2OH
−→2H
2O+2e
−
カソード:1/2O
2+H
2O+2e
−→2OH
−
【0025】
上に記載されたように複合電極12、20を有する実施の充電システム26の略図を
図4に示す。1つまたは複数の充電/放電制御装置28が鉄電極12を充電するように設計されてもよいが、同時に水素電極20を放電させてもよい。水素電極20から発生された電力を充電システム26に供給して鉄電極12を充電するために必要とされた電力の一部を補い、それによって充電プロセスの効率を高めてもよい。鉄空気電池100の放電の間、鉄電極12だけが電力供給に関与しているように鉄電極12と水素電極20とが単離されてもよい。運転していない間に発生された水素を用いて、鉄空気電池100を細流充電してもよい。
【0026】
1つの実施形態において、ナノ構造耐腐蝕性イミドホイスカー基材を二機能空気電極30のための触媒担体として使用して、空気電極30のために使用された炭素担持触媒の酸化分解を減少させ、空気電極のサイクル寿命を増加させる。
【0027】
現在の鉄空気電池の主な制限条件の一つは、それらの耐久性が2000サイクルに限定されることである。低いサイクル寿命の主な理由は、空気電極において使用された従来の炭素系触媒担体の腐蝕による劣化である。この実施形態は、カルボキシジイミド(carboxidimide)顔料(例えばペリレンレッド149など)から調製されたナノ構造ホイスカー担体を使用することによってこの現象をなくす。これらの担体は元素炭素を有さず、空気電極として7500時間にわたって1.5Vもある電位において強靭であることが知られている。このタイプの基材をロールツーロール乾燥熱蒸発プロセスによって比較的安価に製造することができる。ペリレンレッド149はBASFから市販されており、比較的安価な出発原料である。例えば、Debeに対する米国特許第5,039,561号明細書を参照のこと。さらに、フタロシアニンなどがあるが、それらに限定されない他の大環状化合物を使用してホイスカー基材を調製することができるであろう。
【0028】
1つの実施形態において、ナノ構造触媒層を有する薄膜空気電極30を使用して効率的な水の管理および安定な運転のための簡単な二層電極設計を確保する。このような構造物はフラッディングを防ぎ、サイクル寿命を増加させたまま電極設計の複雑さを低減する。
【0029】
二機能空気カソードのための慣例的に使用された電極構造物は、疎水処理された
高表面積炭素担持触媒の複数層からなる。これらの電極において、三相領域(ガス−電極−電解質の境界)は安定しておらず、時間経過とともにそれらはフラッディングの傾向がある。さらに、フラッディングのない場合でも、不適切な三相のバランスによるかまたは単に、過度に長い拡散経路長によるかのどちらかで空気の経路は容易に拡散制限され得る。開示された実施形態は、これらの問題を克服するために、ガス拡散支持体34上に担持された薄膜ナノ構造触媒層32を有する空気電極30を備える。これは、5000サイクル超にわたって安定している空気電極30をもたらす場合がある。このタイプの構造物の利益は、従来の炭素電極に対して、有利な少なくとも3つの明確な利点から得られる。
【0030】
フラッディングの防止:ナノ構造耐酸化担体の使用によって、電気コンタクトの損失、および従来の炭素電極のサイクル経過によって生じる細孔径の増加をなくす。これは、防湿TORAY(商標)紙などの単一ガス拡散層の使用を可能にする。このような構造物の防湿加工は、燃料電池において本質的に非常に強靭であることが示されている。
【0031】
空気の短い拡散長:ナノ構造触媒層32の拡散経路長は、従来の電極においての空気の経路の細孔の入り組んだ状態に比べて非常に短い。実際において、電極30は、フラッディングの状態において安定性を有して作動するように設計されている。
【0032】
充電の間に生じたガスの除去:電解質によって湿潤された薄膜電極は、充電の間にガスを外側に移動させるのに本質的に有利である。従来の触媒層は、溝および細孔を通して酸素を移動させるために特に表面張力勾配を有するように設計されている。開示された実施形態による電極設計において、発生されたガスは防湿炭素紙に簡単に移動するが、これは疎水性の表面が気泡を集めるためにエネルギー的により好ましいからである。この移動プロセスは、ガス発生部位に隣接しているガス拡散層34によってアシストされる。
【0033】
1つの実施形態において、パイロクロア、ペロブスカイト、および/またはスピネルの構造を有する触媒酸化物層が二機能運転のための強靭な担体(例えば、上述のイミドホイスカー基材)上にスパッタ堆積され、充電および放電の間の電圧損失を低減し、空気電極30の低コスト製造プロセスを提供し、往復効率を増加させる。
【0034】
二機能空気電極30は、最小の電圧損失で酸素発生および酸素還元をサポートするのがよい。上述のナノ構造耐酸化基材を触媒活性ペロブスカイト、パイロクロア、および/またはスピネル酸化物の薄層でコートして二機能モードで効率的に運転することができる触媒表面を形成してもよい。この実施形態は、触媒酸化物の単一層の製造のためにスパッタ堆積プロセスを使用する。この電気化学反応が触媒と電解質との境界面で起こるとき、触媒酸化物の薄層だけが機能のために必要とされる。スパッタ堆積は薄膜の均一な堆積のために理想的に適しており、酸化物のあらゆる組成物を堆積することができる。スパッタ堆積は機能表面の製造のために広範囲に使用される製造技術であり、湿潤化学処理方法と比べて経済的に非常に魅力がある。反応性スパッタ堆積を利用して、ターゲットに加えられたスパッタリング電力の比率を変えることによっておよび堆積チャンバ内の酸素の圧力を異ならせることによって広範囲の組成物を簡単に調製することができる。ペロブスカイト酸化物のなかで、例えばニッケル酸鉄ランタン(LaFe
xNi
(1−x)O
3)およびLaCa
0.4CoO
3などの低コスト材料が考えられ、これらはアルカリ媒体の先行研究(L.Jorissen,J.Power Sources,2000年,(155),23)において非常に有望なサイクル性および二機能活性を示した。ペロブスカイト触媒の性能は、特に酸素発生反応については、その組成に非常に依存している。したがって、酸素発生活性の増加のためにランタンをストロンチウムで置き換えることも考えられる。また、最近の報告では、酸素発生および酸素還元のためにビスマスイリドゥム(bismuth iridum)酸化物パイロクロア酸化物が非常に活性であることが示された(K.Kogaら、ECS Trans.2008年,(11)Iss.32,101)。また、スパッタ堆積されたBi
2Ir
2O
7−xがペロブスカイト酸化物の適した代替物であってもよい。また、NiCo
2O
4を有する酸化コバルトニッケルなどのスピネル酸化物をパイロクロアまたはペロブスカイト酸化物の代わりに使用してもよい。
【0035】
1つの実施形態において、再生として充電時に発生された酸素を使用し、したがって電解質10の急速な炭酸化をなくし、エネルギー効率的再生を使用する二酸化炭素管理システム36が利用される。二酸化炭素管理システム36は、電池100上の充電および放電運転の間に再生される二酸化炭素吸収剤を利用して、空気電極30に供給される空気から二酸化炭素を急速に吸着する。
【0036】
鉄空気電池は、電解質として水酸化カリウムの濃厚溶液を使用する。このタイプの電解質は、空気流中のCO
2にどちらかといえば影響されやすく、電解質中に炭酸塩の塩が徐々に形成されることは避けられない。このプロセスは、望ましくない沈殿物をさらに形成する間に時間とともに電解質を分解する。長いサイクル寿命をもつために、CO
2除去システムが必要であり、最小エネルギーを使用する簡単な再生可能デバイスが現在のところ存在していない。
【0037】
電解質の炭酸化を避けるために、この実施形態は、入って来る空気をCO
2に弱く結合する吸収剤を通過させる。この方法において、二酸化炭素を含有しない空気が、放電の間に鉄/空気電池に供給される。次に、充電の間に電池から発生された熱を用いて、吸収剤からのCO
2の脱着のために必要とされた少量の熱エネルギーを提供する。さらに、太陽エネルギーのような別の再生可能なエネルギー源からの熱を用いて、吸収床を再生してもよい。また、充電の間に再生された酸素を用いて、吸収剤からのCO
2をパージしてもよい。
【0038】
水は二酸化炭素のための容易に入手可能な吸収剤であるが、この実施形態は、水の100倍の吸収力を有する二酸化炭素のための可逆的な吸収剤として、ポリエチレンイミンおよびポリエチレングリコールなどのナノ構造シリカ担持有機アミンを利用する。ナノ構造シリカ担持高分子量ポリエチレンイミン上の二酸化炭素の吸収が最近研究されており(A.Goeppertら、Energy Environ.Sci.,2010,3,1949−1960)、吸収力は吸収剤1gあたりCO
2140mgほどである。二酸化炭素と高分子量ポリエチレンイミンとの弱い相互作用のために、このタイプの吸収剤から二酸化炭素を吸収および再生することは、かなりの量のエネルギーを必要とする熱再生システムよりもはるかに効率的である。また、この実施形態において二酸化炭素を吸収するためにポリ(イオン)液体が使用されてもよい。
【0039】
典型的な実施形態が上に説明されているが、これらの実施形態は本発明の全ての可能な形態を記載することを意図しない。もっと正確にいえば、本明細書において使用された用語は限定ではなく説明のための用語であり、本発明の精神および範囲から逸脱せずに様々な変更を加え得るということは理解されたい。さらに、様々な実装的な実施形態の特徴を組み合わせて本発明のさらなる実施形態を形成してもよい。