特許第5863025号(P5863025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5863025波浪中抵抗増加低減方法および波浪中抵抗増加低減装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863025
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】波浪中抵抗増加低減方法および波浪中抵抗増加低減装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/32 20060101AFI20160202BHJP
   B63B 1/08 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   B63B1/32 Z
   B63B1/08 Z
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-270835(P2011-270835)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121765(P2013-121765A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人海上技術安全研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100071401
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 義彦
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 康雄
(72)【発明者】
【氏名】穴井 麻利子
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭64−051595(JP,U)
【文献】 特開2003−267293(JP,A)
【文献】 特開平08−142974(JP,A)
【文献】 特開昭50−031591(JP,A)
【文献】 実開昭57−197389(JP,U)
【文献】 米国特許第5224436(US,A)
【文献】 特開2011−178334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/32
B63B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランサム船尾形状の船体の船尾ブラントネス係数の大きさを小さく設定するとともに、重力方向の上方に行くにつれて船尾後方に張り出す形状に形成された船尾ブラントネス係数低減手段を用いることにより、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加を低減することを特徴とする波浪中抵抗増加低減方法。
【請求項2】
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくするとともに、重力方向の上方に行くにつれて船尾後方に張り出す形状に形成され、前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段を備えたことを特徴とする波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項3】
前記船尾ブラントネス係数低減手段は、平面視形状として前記船尾を底辺とした略三角形状に形成し、前記船体から船尾後方に突出させて設けた
ことを特徴とする請求項2に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項4】
前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体に格納する格納手段、
をさらに備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項5】
前記船尾ブラントネス係数低減手段を格納時に折り畳める折り畳み構造に形成した
ことを特徴とする請求項に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項6】
前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の上部に収納する収納手段
をさらに備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項7】
前記船尾ブラントネス係数低減手段を収納時に折り畳める折り畳み構造に形成した
ことを特徴とする請求項に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項8】
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくする前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段と、前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の上部に収納する収納手段とを備えるとともに、前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の喫水に応じて上下方向に位置調節を行う位置調節手段をさらに備えたことを特徴とする波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項9】
前記収納手段が前記位置調節手段を兼ねた
ことを特徴とする請求項に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項10】
前記位置調節手段は、前記船尾ブラントネス係数低減手段の下端を喫水の高さまで移動させる、
ことを特徴とする請求項8または9に記載の波浪中抵抗増加低減装置。
【請求項11】
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくする前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段とを備えるとともに、前記船尾ブラントネス係数低減手段の船尾ブラントネス係数の大きさおよび前記船尾ブラントネス係数低減手段の向きの少なくとも一方を調整する船尾ブラントネス係数調整手段をさらに備えたことを特徴とする波浪中抵抗増加低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に対する波浪中の抵抗の増加を低減する波浪中抵抗増加低減方法および波浪中抵抗増加低減装置に関し、特に、追波や斜追波中による抵抗の増加を低減する波浪中抵抗増加低減方法および波浪中抵抗増加低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶が航行中に波浪や船舶自身が造り出す波等により受ける影響を抑制するために、船体の船尾部の形状を変更したり各種構造物を設ける技術として、下記の特許文献1〜3記載の技術が知られている。
特許文献1(特開平8−11781号公報)には、船舶の縦揺れを軽減するために、船首部または船尾部の外板の吃水部に、リセス(10)が各舷に前後一対凹設され、リセス(10)に揚力板(4)を設けた構成が記載されている。特許文献1記載の技術では、船首または船尾が下方に移動すると揚力板(4)を外傾姿勢にして、水流(6)に対して抵抗させて、下降運動を低減すると共に、船首または船尾が上方に移動すると揚力板(4)を内傾姿勢にして、水流(6)に対して抵抗させて、上昇運動を低減している。
【0003】
特許文献2(特開2002−154475号公報)には、船尾における造波抵抗を低減させるために、トランサムスターンを有する船尾部において、船尾端(5)から一定距離前方の位置において変曲点(2)を設け、この変曲点(2)を境に、船首側に行くに連れて船底が下方に傾斜し且つ船尾側に行くに連れて船底が下方に傾斜する形状に形成され、船尾端(5)の下端(5a)を満載計画喫水線付近に位置させる構成が記載されている。
【0004】
特許文献3(特開2010−137638号公報)には、船尾で発生する船体の進行方向と垂直な横波を削減させるために、喫水下の水中において、船尾付近に、船体(1)の進行方向に垂直な水中翼(10)のような消波体を配置する技術が記載されている。
特許文献4(特開2010−095238号公報)には、船舶の進行方向に対して向かってくる向波に対応して、船首部に前方に突出する付加物(10−1)を設置して船首部のブラントネス係数の大きさを小さくする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−11781号公報
【特許文献2】特開2002−154475号公報
【特許文献3】特開2010−137638号公報
【特許文献4】特開2010−095238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
実海域における船速低下を正確に推定するためには、船速低下が生じる要因の1つである波浪中の抵抗増加を精度良く推定する必要がある。波浪中の抵抗増加の一般的な計算方法では、船体運動に基づく抵抗増加成分に、反射波に基づく抵抗増加成分を付加する方法がとられる。このとき、反射波に基づく抵抗増加は、水線面での船体形状と、入射波の向きから決まるブラントネス係数の大きさが小さいほど低減されるとされている。
【0007】
従来の船体では、特許文献4に記載されているように、波浪中の抵抗増加に対して、ブラントネス係数の大きさを小さくする構造は、船舶の進行方向に対して向かってくる向波に対応して、船首部に設けられることが一般的である。すなわち、従来の技術では、追波や斜追波のような後方からの波については、船舶の推進に寄与するものとの固定観念があり、追波等を受ける船尾部には、特許文献4のような構造を設けることは従来考えられていなかった。
本願発明者らの研究の結果、追波や斜追波を受ける場合では、一時的に船舶の推進に寄与する場合もあるが、全体としては、抵抗となることが確認された。特に、船尾の形状がトランサム形状の場合に、抵抗が増加しやすいことが確認された。
【0008】
そして、特許文献1〜3記載の技術では、船体の縦揺れや造波抵抗、横波の削減のために、船尾部分に揚力板や水中翼等の構造物を配置したり、形状を変更しているが、これらの技術は、追波や斜追波に対しては、波浪中の抵抗増加を低減することを目的としておらず、また、船尾ブラントネス係数の大きさが低減されておらず、抵抗増加を低減することはできない問題がある。
【0009】
本発明は、トランサム船尾形状の船体における追波や斜追波中の抵抗増加を低減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の波浪中抵抗増加低減方法は、
トランサム船尾形状の船体の船尾ブラントネス係数の大きさを小さく設定するとともに、重力方向の上方に行くにつれて船尾後方に張り出す形状に形成された船尾ブラントネス係数低減手段を用いることにより、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加を低減することを特徴とする。
請求項1に記載の発明では、トランサム形状の船体の船尾ブラントネス係数の大きさが小さく設定されており、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加が低減されると共に、追波や斜追波が船体の上部に到達することを低減できる。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項2に記載の発明の波浪中抵抗増加低減装置は、
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくするとともに、重力方向の上方に行くにつれて船尾後方に張り出す形状に形成され、前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明では、トランサム船尾形状を有する船体に設けられた船尾ブラントネス係数低減手段は、トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくするとともに、重力方向の上方に行くにつれて船尾後方に張り出す形状を成すしたがって、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加が低減されると共に、追波や斜追波が船体の上部に到達することを低減できる。
なお、ここでいう支持手段とは、例えば、船尾ブラントネス係数低減手段を船体に取り付ける取付け構造、船尾ブラントネス係数低減手段を機能させるときに船体に荷重を伝える油圧シリンダー、レール、ローラー等、また船尾ブラントネス係数低減手段の荷重を船体に分散させる構造材等をいう。
【0012】
また、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記船尾ブラントネス係数低減手段は、平面視形状として前記船尾を底辺とした略三角形状に形成し、前記船体から船尾後方に突出させて設けることができる。この場合、略三角形状により船尾ブラントネス係数の大きさを低減でき、追波や斜追波中の抵抗増加を低減することができる。
【0014】
また、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体に格納する格納手段
をさらに備えることができる。この場合、例えば、港に入港するときに、船尾ブラントネス係数低減手段を船体に格納して、船尾後方への突出量を減らすことができる。
【0015】
さらに、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記船尾ブラントネス係数低減手段を格納時に折り畳める折り畳み構造に形成することができる。この場合、船尾ブラントネス係数低減手段を折り畳んだ状態で格納することができ、不使用時の船尾後方への突出量を低減できる。
【0016】
また、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の上部に収納する収納手段
をさらに備えることができる。この場合、例えば、港に入港するときに、船尾ブラントネス係数低減手段を船体の上部に収納して、船尾後方への突出量を減らすことができる。
【0017】
さらに、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記船尾ブラントネス係数低減手段を収納時に折り畳める折り畳み構造に形成できる。この場合、船尾ブラントネス係数低減手段を折り畳んだ状態で収納することができ、不使用時の船尾後方への突出量を低減できる。
【0018】
前記技術的課題を解決するために、請求項8に記載の発明の波浪中抵抗増加低減装置は、
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくする前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段と、前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の上部に収納する収納手段とを備えるとともに、前記船尾ブラントネス係数低減手段を前記船体の喫水に応じて上下方向に位置調節を行う位置調節手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項8に記載の発明では、トランサム形状の船体の船尾ブラントネス係数の大きさが小さく設定されており、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加が低減されると共に、船尾ブラントネス係数低減手段自身による抵抗増加を抑制し、船尾に受ける波浪による抵抗の増加を低減できる。
【0019】
さらに、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記収納手段が前記位置調節手段を兼ねることができる。この場合、位置調整手段と共通化することで、部品点数の削減、小型化等が可能になる。
【0020】
また、前記波浪中抵抗増加低減装置において、
前記位置調節手段が、前記船尾ブラントネス係数低減手段の下端を喫水の高さまで移動させることができる。この場合、見かけの船の長さを長くすることができ、船尾波を低減することができる。
【0021】
前記技術的課題を解決するために、請求項11に記載の発明の波浪中抵抗増加低減装置は、
船尾がトランサム船尾形状を有する船体に設けられた支持手段と、前記トランサム船尾形状の船尾ブラントネス係数の大きさを小さくする前記支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段とを備えるとともに、前記船尾ブラントネス係数低減手段の船尾ブラントネス係数の大きさおよび前記船尾ブラントネス係数低減手段の向きの少なくとも一方を調整する船尾ブラントネス係数調整手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の発明では、トランサム形状の船体の船尾ブラントネス係数の大きさが小さく設定されており、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加が低減されると共に、波浪の状況に応じて船尾ブラントネス係数の大きさや向きを最適化することができる。
【発明の効果】
【0022】
前述の発明によれば、トランサム船尾形状の船体における船尾ブラントネス係数の値を小さく設定し、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加を低減することにより、省エネルギー化を図った運航が可能となる。
また、船体に支持手段により支持される船尾ブラントネス係数低減手段を備えることにより、波浪中における追波や斜追波中の抵抗増加を低減し、省エネルギー化を図った運航が可能となるとともに、支持手段により例えば、船尾ブラントネス係数低減手段を船体に取り付けること、船体に荷重を伝えること、荷重を船体に分散させること等が容易に可能となる。
【0023】
また、船尾ブラントネス係数低減手段を略三角形状に形成した場合、簡単な構造により船尾ブラントネス係数の大きさを低減できる。
また、船尾ブラントネス係数低減手段を重力方向の上方に行くに連れて、船尾後方に張り出す形状に形成した場合、追波や斜追波の船体の上部への到達を低減でき、有効に波浪中の抵抗増加を低減することができる。
また、船尾ブラントネス係数低減手段を船体に格納する格納手段をさらに備えた場合、例えば、港に入港するときに船尾後方への突出量を減らし、船体全長を短くして入港や停泊を容易にすることができる。
船尾ブラントネス係数低減手段を格納時に折り畳める折り畳み構造に形成した場合、不使用時の突出量の低減や使用時の船尾後方への突出が容易にでき、格納スペースの削減が可能となる。
【0024】
また、船尾ブラントネス係数低減手段を船体の上部に収納する収納手段をさらに備えた場合、例えば、港に停泊するときに、船尾ブラントネス係数低減手段を船体の上部に収納して、船尾後方への突出量を減らし、船体全長を短くして入港や停泊を容易にすることができる。
また、船尾ブラントネス係数低減手段を収納時に折り畳める折り畳み構造に形成した場合、船尾ブラントネス係数低減手段を折り畳んだ状態で収納することができ、不使用時の船尾後方への突出量を低減でき、また格納スペースの削減が可能となる。
また、船尾ブラントネス係数低減手段を船体の喫水に応じて上下方向に位置調節を行う位置調節手段をさらに備えた場合、船尾ブラントネス係数低減手段自身による抵抗増加を抑制した上で船尾に受ける波浪による抵抗の増加を低減でき、一層の省エネルギー運航が可能となる。
【0025】
また、収納手段が位置調節手段を兼ねた場合、位置調整手段と共通化することで、部品点数の削減、小型化等が図れ、コストダウンが可能になる。
また、位置調節手段が、船尾ブラントネス係数低減手段の下端を喫水の高さまで移動させる場合、見かけの船の長さを長くすることができ、船尾波を低減することができ、一層、波浪による抵抗の増加を低減できる。
また、船尾ブラントネス係数の大きさおよび前記船尾ブラントネス係数低減手段の向きの少なくとも一方を調整する船尾ブラントネス係数調整手段をさらに備えた場合、波浪の状況に応じて船尾ブラントネス係数の大きさや向きを最適化し、波浪による抵抗の増加を有効に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は本発明の実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置を備えた船体の説明図である。
図2図2は実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置の平面図であり、図2Aは突出位置に移動した状態の説明図、図2Bは格納位置に移動した状態の説明図である。
図3図3は実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図3Aは実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置が収納位置に移動した状態の説明図、図3Bはピボット部分の要部説明図、図3Cは実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置が突出位置に移動した状態の説明図である。
図4図4は実施の形態2の船尾ブラントネス係数低減手段の位置の説明図であり、図4Aは喫水が船尾の船底よりも上方にある場合の説明図、図4Bは喫水が船尾の船底よりも下方にある場合の説明図である。
図5図5は本発明の実施の形態3の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図5Aは船尾ブラントネス係数低減手段が格納位置に移動した状態の説明図、図5Bは船尾ブラントネス係数低減手段が第1の突出位置に移動した状態の説明図、図5C図5Bに比べてブラントネス係数の大きさが更に小さい第2の突出位置に移動した状態の説明図、図5Dは船尾ブラントネス係数低減手段の向きが左側に傾斜した第3の突出位置に移動した状態の説明図、図5Eは船尾ブラントネス係数低減手段の向きが右側に傾斜した第4の突出位置に移動した状態の説明図、図5F図5Aにおける船尾ブラントネス係数低減手段の要部斜視図、図5Gはプレート片どうしの連結構造の説明図である。
図6図6は本発明の実施の形態4の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図6Aは船尾ブラントネス係数低減手段が突出位置に移動した状態の説明図、図6Bは船尾ブラントネス係数低減手段が左方に傾斜した状態の説明図、図6Cは船尾ブラントネス係数低減手段が格納位置に移動した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施の形態1】
【0028】
図1は本発明の実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置を備えた船体の説明図である。
図2は実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置の平面図であり、図2Aは突出位置に移動した状態の説明図、図2Bは格納位置に移動した状態の説明図である。
図1図2において、本発明の実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1は、船体2の船尾3に配置されている。実施の形態1の船体2は、コンテナ船や自動車運搬船等のような船尾端の幅が広いトランサム形状(略平板状)の船尾3を有する。
【0029】
実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1は、船尾ブラントネス係数低減手段の一例として、船尾3の左舷側に配置された左板部6と、右舷側に配置された右板部7と、を有する。各板部6,7は、左右対称な台形状の平板により構成されており、実施の形態1の各板部6,7は、基端部6a,7aが船尾3の左右両端部に回転可能に支持されている。また、各板部6,7の内面には、被支持部6b,7bが形成されている。前記船体2の船尾3には、被支持部6b、7bの高さに対応して、前方に凹んだ凹部4が形成されている。前記凹部4には、支持手段の一例としての油圧ジャッキ8,9が被支持部6b、7bに対応して配置されている。
【0030】
前記油圧ジャッキ8,9は、凹部4に固定支持された油圧シリンダー8a、9aと、油圧シリンダー8a、9aに対して油圧により伸縮可能なピストン8b、9bと、を有し、ピストン8b、9bの先端部が被支持部6b、7bに、予め設定された遊び(余裕)を持って支持されている。したがって、実施例1のピストン8b,9bの先端部は、被支持部6b、7bに対して、遊びの範囲内でスライド可能且つ回転可能に連結されている。
したがって、油圧ジャッキ8,9の作動に伴うピストン8b,9bの伸縮に応じて、各板部6,7は、図1図2Aに示す船尾後方に突出するように展開された突出位置と、図2Bに示す船体2に格納された格納位置との間で移動可能に構成されている。なお、実施の形態1の油圧ジャッキ8,9は、図示しない制御装置(コントローラ、コンピュータ装置)によりピストン8b、9bの伸縮が制御される。
【0031】
なお、実施の形態1では、図1図2Aに示す突出位置において、各板部6,7の後端縁どうしが接触するように構成されている。したがって、図1図2Aに示す突出位置では、下方から上方に行くに連れて、船尾後方への突出量が大きくなる状態となり、図2Aに示すように、平面視形状では、船尾3を底辺とし且つ船尾後方に突出する略三角形状(二等辺三角形状)に形成されている。なお、図2Aに示すように、突出位置では、各板部6,7の延長線11が、船体2の側面の外板12よりも外側となる、すなわち、外板12が延長線11よりも内側になるように三角形状の船尾側への突出量が設定されている。
【0032】
また、図2Aに示す突出位置から図2Bに示す格納位置に移動する場合、左側の油圧ジャッキ8が駆動して、左板部6が船尾3に沿って近接するまで移動し、その後、右側の油圧ジャッキ9が駆動して、右板部7が船尾3に沿って近接するまで移動する。すなわち、実施の形態1の板部6,7は、図2Bに示すように、船体2に対して折り畳んで、格納可能に構成されている。
さらに、図1において、実施の形態1の板部6,7は、下端が、突出位置において船尾3の船底3aに対応する高さに設定されており、船尾3の後方に連続的に延長するように板部6,7が配置される。
前記符号6〜9を付した部材等により実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1が構成されている。また、ピストン8b,9bを有する油圧ジャッキ8,9により、実施例1の支持手段、兼、格納手段が構成されている。
【0033】
(実施の形態1の作用)
前記構成を備えた実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1は、突出位置に移動した状態では、船体2の船尾部分が、全体として、後方に突出する尖った形状となっており、船尾ブラントネス係数の大きさが小さくなる。よって、船体2の船尾3側から追波や斜追波を受ける波浪中において、波浪による抵抗増加が低減されている。
また、実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1では、板部6,7が展開、格納可能に構成されており、外洋航行中は、板部6,7を突出位置に移動させて、抵抗の増加を低減しつつ、港湾に入港、停泊時のように船体2の長さの制限がある場合は、板部6,7を格納することが可能になっている。
【0034】
さらに、実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1では、板部6,7の下端が船尾3の船底3aに対応する高さに設定されており、突出位置に移動した状態では、船体の長さが、見かけ上、板部6,7の突出量だけ後方に延びることとなる。したがって、板部6,7により船体の長さが見かけ上長くならない場合に比べて、船尾波が抑制され、抵抗が低減されることが期待できる。
また、実施の形態1の波浪中抵抗増加低減装置1では、板部6,7が突出位置において、下方から上方に行くに連れて後方に突出する(張り出した)外表面を有しており、上方に行くに連れて後方に突出しない構成に比べて、追波等が板部6,7に沿って甲板上まで上がることが低減されている。
【実施の形態2】
【0035】
図3は実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図3Aは実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置が収納位置に移動した状態の説明図、図3Bはピボット部分の要部説明図、図3Cは実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置が突出位置に移動した状態の説明図である。
なお、この実施の形態2の説明において、前記実施の形態1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施の形態2は、下記の点で前記実施の形態1と相違しているが、他の点では前記実施の形態1と同様に構成されている。
【0036】
図3において、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′は、実施の形態1の板部6,7に替えて、実施の形態1の板部6,7が接合された形状の1枚のプレート21により構成された船尾ブラントネス係数低減手段を有する。
また、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′は、船体2の船尾上面3bに設置された収納手段の一例としての収納装置22を有する。収納装置22は、船尾上面3bに支持されたフレーム部23と、フレーム部23の上端に支持された左右一対のレール部24と、を有する。
実施の形態2のレール部24は、前端から後方に行くに連れて下方に傾斜する傾斜部24aと、傾斜部24aの後端から船尾3の船尾端面3cに沿って下方に伸びる昇降部24bと、を有する。左右一対のレール部24の内側の面には、傾斜部24aおよび昇降部24bに沿って延びる凹溝24cが形成されている。
【0037】
図3A図3Bにおいて、前記プレート21の内側(図3Aにおける下側)の面には、凹溝24cの左右方向の内側に対応して、下方に向けて突出する被支持部26が左右一対形成されている。各被支持部26には、左右方向に貫通する貫通口26aが形成されている。実施の形態2のプレート21は、貫通口26aを貫通し且つ凹溝24cに端部が収容される支持手段の一例としてのピボット27により、凹部24cに沿って移動可能に支持されている。
図3Aにおいて、プレート21の内側の面には、レール部24の上面に接触する支持手段の一例としてのローラ28が回転可能に支持されており、プレート21が移動する際に、レール部24に接触して案内されるように構成されている。
【0038】
図3A図3Cにおいて、前記傾斜部24aの上端と下端に対応する位置には、左右方向に延びる支持バー31,32が支持されており、各支持バー31,32には、プーリー33,34が回転可能に支持されている。
前記フレーム部23の前方の船尾上面3bには、巻き取り装置36が配置されている。巻き取り装置36は、図示しない制御装置からの入力信号に応じて、一端がプレート21の端部に連結され、各プーリー33,34に案内されるワイヤー37の巻き取り、繰り出しが可能に構成されている。
【0039】
図4は実施の形態2の船尾ブラントネス係数低減手段の位置の説明図であり、図4Aは喫水が船尾の船底よりも上方にある場合の説明図、図4Bは喫水が船尾の船底よりも下方にある場合の説明図である。
したがって、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′では、巻き取り装置36からワイヤー37が繰り出されると、プレート21が、重力の作用で、レール部24に沿って図3Aに示す収納位置から下方に向けて移動を開始する。そして、ピボット27が凹部24cに案内されると共に、ローラ28がレール部24に案内されて、プレート21は、図3C図4A図4Bに示す突出位置に移動する。このとき、巻き取り装置36から繰り出されるワイヤー37の繰り出し量を調整することで、プレート21の位置、すなわち、高さを調整することができる。実施の形態2のプレート21は、図4A図4Bに示すように、プレート21の下端が喫水線38に対応する高さに調整されるように、巻き取り装置36により、ワイヤー37の繰り出し量が調整される。
【0040】
また、図3Cに示す突出位置において、巻き取り装置36によりワイヤー37が巻き取られると、プレート21が、図3Cに示す突出位置から船尾3の上方に引き上げられて、図3Aに示す収納位置に収納される。
前記ピボット27やローラ28、レール24等により、実施の形態2の支持手段が構成されており、前記支持手段やプーリー33,34、巻き取り装置36、ワイヤー37等により、実施の形態2の収納手段、兼、位置調節手段としての収納装置22が構成されている。
【0041】
(実施の形態2の作用)
前記構成を備えた実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′では、実施の形態1と同様に、突出位置において、プレート21により船体2の船尾部分が後方に尖った形状となり、船尾ブラントネス係数の大きさが低減されている。したがって、追波等の波浪中における抵抗増加が低減される。
また、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′では、実施の形態1と同様に、プレート21が船体2の上部に引き上げられて収納可能であると共に、船尾波の抑制や甲板上まで波が上がることの低減も可能である。
【0042】
さらに、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′では、船舶の積み荷の積載量の増減等に伴って、喫水線が船尾3の船底3aよりも下方に下がると、船尾3の船底3aに追波等を受けた場合に、航行中の抵抗となる恐れがある。実施の形態2では、喫水線に応じて、昇降用の巻き取り装置36を作動させることで、プレート21の位置を、図4A図4Bに示すように下方に調整することが可能となっている。よって、船尾後方からの追波等により、船底3aが叩かれることを抑制して抵抗の増大を低減することができる。
また、実施の形態2の波浪中抵抗増加低減装置1′では、例えば、プレート21を、複数のプレート片がヒンジ等で連結された折り畳み可能な構造としたり、分解可能な構造とすることで、船体2の上部に引き上げられた後に、作業員が、プレート21をレール部24から取り外して、折り畳んで、倉庫等に片づけることも可能である。
【実施の形態3】
【0043】
図5は本発明の実施の形態3の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図5Aは船尾ブラントネス係数低減手段が格納位置に移動した状態の説明図、図5Bは船尾ブラントネス係数低減手段が第1の突出位置に移動した状態の説明図、図5C図5Bに比べてブラントネス係数の大きさが更に小さい第2の突出位置に移動した状態の説明図、図5Dは船尾ブラントネス係数低減手段の向きが左側に傾斜した第3の突出位置に移動した状態の説明図、図5Eは船尾ブラントネス係数低減手段の向きが右側に傾斜した第4の突出位置に移動した状態の説明図、図5F図5Aにおける船尾ブラントネス係数低減手段の要部斜視図、図5Gはプレート片どうしの連結構造の説明図である。
なお、この実施の形態3の説明において、前記実施の形態1、2の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施の形態3は、下記の点で前記実施の形態1、2と相違しているが、他の点では前記実施の形態1、2と同様に構成されている。
【0044】
図5において、実施の形態3の波浪中抵抗増加低減装置41は、船尾ブラントネス係数低減手段の一例として、上下方向に延びる短冊状のプレート片42が複数枚左右方向に並べて配置されたプレート部43を有する。
図5A図5F図5Gにおいて、前記各プレート片42は、板状の本体部42aと、本体部42aの上下方向の中央部且つ左端部に形成された凹み状の連結部42bと、本体部42aの上下方向の中央部且つ右端部に形成されて右方に突出する板状の被連結部42cと、を有する。前記連結部42bの上下には、本体部42aを上下方向に貫通する貫通孔42dが形成されており、被連結部42cには、被連結部42cを上下方向に貫通し且つ左右方向に長い長孔状の貫通長孔42eが形成されている。
したがって、隣接するプレート片42どうしは、一方のプレート片42の被連結部42cが、他方の連結部42bに嵌った状態で、貫通孔42dおよび貫通長孔42eを貫通するピン42fにより、回転可能且つ貫通長孔42eに沿ってスライド可能に支持されている。
【0045】
なお、左右両端のプレート片42は、端部42gにより船体2に回転可能に支持されている。
実施の形態3の船体2の船尾3には、船尾端から内部に凹んだ凹部46が形成されている。凹部46には、船尾ブラントネス係数調整手段の一例であって、位置調節手段の一例としての複数の油圧ジャッキ47が左右方向に間隔をあけて配置されている。各油圧ジャッキ47のピストン47aの先端部は、プレート片42の内面に回転可能な状態で連結されている。
実施の形態3の油圧ジャッキ47は制御部48からの制御信号に基づいて、ピストン47aの伸縮および伸長量が制御される。
【0046】
(実施の形態3の作用)
前記構成を備えた実施の形態3の波浪中抵抗増加低減装置41では、制御部48からの制御信号により油圧ジャッキ47が制御されて、図5Aに示すようにピストン47aが縮んで凹部46内に全てピストン47aが収容されると、プレート部43は船尾3の端面に沿った格納位置に移動する。したがって、実施例1の油圧ジャッキ47は、格納手段としての機能も兼ね備えている。
図5Bにおいて、左右方向の中央のピストン47aが予め設定された量だけ伸び且つ両側のピストン47aの伸び量が中央よりも小さい状態では、プレート部43の中央部のプレート片42が押され、連結されたプレート片42どうしの間隔が広がる。したがって、プレート部43の全体としては、左右方向の中央部が後方に突出してトランサム形状の船尾3の船尾ブラントネス係数の大きさを低減する第1の突出位置に移動する。
図5Cにおいて、中央部のピストン47aおよび両側のピストン47aが、図5Bに示す場合よりも伸長量を大きくすると、プレート部43の後方への突出量がさらに大きい第2の突出位置に移動し、船尾ブラントネス係数の大きさが図5Bの場合に比べて更に低減される。したがって、ピストン47aの伸長量を制御することで、船尾ブラントネス係数の大きさを調整することが可能になっている。
【0047】
また、図5D図5Eにおいて、左舷側のピストン47aの伸び量が最大で、中央、右舷側に行くに連れて伸び量が小さい状態では、プレート部43は、図5Dに示す第3の突出位置に移動する。逆に、右舷側から左舷側に行くに連れてピストン47aの伸び量が小さくなる状態では、プレート部43は、図5Eに示す第4の突出位置に移動する。例えば、航行中の波浪の状況に応じて、斜追波を左舷後方から受ける場合には、第3の突出位置に移動させ、斜追波を右舷後方から受ける場合には、第4の突出位置に移動させることができる。すなわち、実施の形態3では、船尾ブラントネス係数低減手段であるプレート部43の突出の向きを調整することが可能になっており、波浪の状況に応じて、最適な向きに調整することが可能である。
したがって、実施の形態3の波浪中抵抗増加低減装置41では、伸長させるピストン47aと伸長量とを組み合わせることで、向きと船尾ブラントネス係数の大きさの両方を調整することが可能である。なお、実施例1では3つのピストン47aの全てを伸縮させる構成を例示したが、これに限定されず、作動させるピストン47aはいずれか1つのみとすることも可能であり、2つ以上を作動させて、台形や不等辺四角形、五角形等、プレート部43の形状を任意の形態に調整することも可能である。
【実施の形態4】
【0048】
図6は本発明の実施の形態4の波浪中抵抗増加低減装置の説明図であり、図6Aは船尾ブラントネス係数低減手段が突出位置に移動した状態の説明図、図6Bは船尾ブラントネス係数低減手段が左方に傾斜した状態の説明図、図6Cは船尾ブラントネス係数低減手段が格納位置に移動した状態の説明図である。
なお、この実施の形態4の説明において、前記実施の形態1〜3の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施の形態4は、下記の点で前記実施の形態1〜3と相違しているが、他の点では前記実施の形態1〜3と同様に構成されている。
【0049】
図6において、実施の形態4の波浪中抵抗増加低減装置51は、船体2の外板12の内側に、支持手段の一例としてのレール52が、左右一対設置されている。各レール52には、船尾ブラントネス係数低減手段の一例としての左右一対の移動プレート53,54がスライド移動可能に支持されている。
また、船体2の内部には、ステージ56が回転中心56aを中心として回転可能に支持されている。前記回転中心56aには、図示しないモータからの駆動が伝達されるように構成されており、モータからの駆動が伝達された場合に、ステージ56が、回転中心56aを中心として回転する。
ステージ56の左右両端部には、各移動プレート53,54に対応して、支持部材の一例であって、格納手段の一例としてのローラ57が回転可能に支持されている。実施の形態4のローラ57は、各移動プレート53,54の内面に接触して配置されており、移動プレート53,54の移動方向に沿って、2つずつ配置されている。
【0050】
前記ローラ57は、ステージ56に支持された図示しないモータにより正逆回転駆動される。
したがって、左右のローラ57が正回転した場合に、移動プレート53,54がレール52に沿って移動し、移動プレート53,54が船尾3の端面よりも後方に突出する図6Aに示す突出位置に移動する。また、左右のローラ57が逆回転した場合に、移動プレート53,54がレール52に沿って船体2の内側に移動して、船体2の内部に格納された図6Cに示す格納位置に移動する。
前記ステージ56やステージ56の回転用のモータ等により、実施の形態4の位置調節手段が構成されている。
【0051】
前記ステージ56には、左右方向の中央部に、支持手段の一例としての油圧ジャッキ58が支持されている。油圧ジャッキ58は、ピストン58aが伸びた状態では、突出位置に移動した移動プレート53,54の内面に接触して支持して内部から支え、波浪から移動プレート53,54が力を受けた場合の支持手段として機能する。また、ピストン58aは、移動プレート53,54が格納位置に移動した場合には、図6Cに示すように縮んだ状態にされ、外方への突出が抑制される。
【0052】
(実施の形態4の作用)
前記構成を備えた実施の形態4の波浪中抵抗増加低減装置51では、ローラ57の正逆回転駆動に伴って、移動プレート53,54が突出位置と格納位置との間で移動可能であり、実施の形態1〜3と同様に、突出位置において船尾ブラントネス係数の大きさを低減しつつ、格納可能に構成されている。
また、図6Aに示す突出位置の状態から、ステージ56が回転すると、ステージ56に支持されたローラ57に接触する移動プレート53,54も連動して移動し、図6Bに示すように、移動プレート53,54の連結部分である先端部が、傾斜した状態となる。したがって、実施の形態3の場合と同様に、斜追波の方向に応じて、ステージ56を回転させることで、移動プレート53,54を、最適な向きに移動させることができる。
【0053】
(変更例)
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、板部6,7やプレート21等の形状は、平面図で二等辺三角形状の構成を例示したが、これに限定されず、板部6,7やプレート21が平板状でなく、実施の形態4に示すような湾曲した板状とすることも可能である。また、船尾ブラントネス係数の大きさが低減される形状であれば、三角形状に限定されず、後方に突出する四角形状(台形状)や五角形状等の多角形状とすることも可能である。
また、板部6,7やプレート21として、軽量の板状の部材を使用し、船尾3の後端面との間に隙間をあけた構成を例示したが、これに限定されず、塊状(ブロック状)やハニカムコア状等にしたり、板部6,7等を支持する支柱を設けたり等、任意の形態に変更可能である。また、実施の形態3のプレート片42が連結されたプレート部43を例示したが、これに限定されず、例えば、連結された帯状の部材が波状に連結された構成、いわゆるカーテン状の構成としたり、バンド調整が可能な腕時計のバンドの構造を採用してプレート片どうしを連結したり、弾性変形可能なプレートを使用する等、任意の構成に変更可能である。
【0054】
さらに、板部6,7やプレート21を左右両端部の上部で支持する構成を例示したが、これに限定されず、任意の位置で支持する構成とすることが可能である。
また、実施の形態1〜4を互いに組み合わせることも可能である。例えば、実施の形態1の折り畳み構造を、実施の形態2のプレート21に対して適用可能である。すなわち、実施の形態2の収納構造に折り畳み構造を付加することも可能である。他にも、実施の形態2の収納構造を実施の形態1,3,4に適用して、収納可能且つ格納可能な構成、例えば、実施の形態1の板部6,7等の全体を、上下方向に昇降可能とすることも可能である。
【0055】
さらに、実施の形態1の板部6,7は船尾3の外板に沿った形で格納される構成を例示したが、これに限定されず、船尾3に板部6,7を格納するための凹部や格納空間を形成して、船体内部に格納する構成とすることも可能である。同様に、実施の形態2のプレート21は、甲板上に収納する構成を例示したが、これに限定されず、船体内部に収納空間や凹部を形成して収納する構成とすることも可能である。
また、前記板部6,7やプレート21は、上方に行くほど突出量が大きくなる構成を採用することが望ましいが、これに限定されず、突出量が同一の構成を採用したり、上方に行くほど突出量が小さくなる構成とすることも可能である。
さらに、前記実施の形態において、板部6,7、プレート53,54を格納可能にしたり、プレート21を収納可能にすることが望ましいが、これに限定されず、格納不能、収納不能な構成とすることも可能である。
【0056】
さらに、実施の形態2において、プレート21の位置を調整する構成として、リール31とワイヤ32を使用したが、これに限定されず、スライダを使用する等、位置を調節可能な任意の構成を採用可能である。
また、板部6,7やプレート21の下端は、船底3aに対応する高さに設定することが望ましいが、船体の形状や満載喫水線等の船体の仕様に応じて、船底3aとは異なる高さとすることも可能である。
【0057】
さらに、板部6,7やプレート21、プレート部43、移動プレート53,54の移動等の駆動源として、モータや油圧ジャッキを例示したが、これに限定されず、実施の形態1においてモータを使用したり、ソレノイド(電磁石)や空気圧等の任意の駆動源あるいはこれらの組み合わせを採用可能である。
また、船尾ブラントネス係数調整手段として、実施の形態3、4の形態に限定されず、例えば、実施の形態1、2において、波浪中抵抗増加低減装置1,1′の全体を船体に対して回転可能に支持することで、実施の形態3,4と同様に、船尾ブラントネス係数低減手段の向きを調整可能とする等、任意の変更が可能である。
【0058】
また、支持手段として、油圧ジャッキ8,9等を例示したが、これに限定されず、例えば、荷重を船体全体に分散させるアングル材(山型鋼)等の構造材を使用することも可能である。
さらに、船尾ブラントネス係数低減手段6,7,21,43,53,54を、船体に固定、設置した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、船尾ブラントネス係数低減手段6,7,21,43,53,54をユニット化する等して、既存の船体に対して、後から設置可能な構成とすることも可能である。逆に、既存の船体の船尾を改装、改修して船尾ブラントネス係数の大きさを小さく設定することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1,1′,41,51…波浪中抵抗増加低減装置、
2…船体、
3…船尾、
6…左板部(船尾ブラントネス係数低減手段)、
7…右板部(船尾ブラントネス係数低減手段)、
8,9…油圧ジャッキ(支持手段、格納手段)、
21…プレート(船尾ブラントネス係数低減手段)、
22…収納装置(収納手段、位置調節手段)
24…レール部(支持手段)、
27…ピボット(支持手段)、
43…プレート部(船尾ブラントネス係数低減手段)、
47…油圧ジャッキ(格納手段、位置調節手段、船尾ブラントネス係数調整手段)、
52…レール(支持手段)、
53,54…移動プレート(船尾ブラントネス係数低減手段)、
56…回転ステージ(位置調節手段)、
57…ローラ(支持手段、格納手段)、
58…油圧ジャッキ(支持手段)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6