【実施例】
【0215】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0216】
一般的な実験概念
下記に示される研究では、SP1変化体の結合特性(すなわち、様々な基体に対するSP1変化体の親和性およびアビディティー)を変化させ、また、様々な表面におけるSP1の固定化を制御するための2つの戦略が明らかにされる。親和性およびアビディティーは、非共有結合性相互作用の強さ、すなわち、特定の原子または分子が凝集または結合しやすい現象を記述するためにタンパク質生化学において使用される2つの用語である。
【0217】
用語「親和性」は、ただ1つだけの結合の強さを記述するために使用され、一方、用語「アビディティー」は、多重結合相互作用の親和性の総合強さを記述するために使用される。解離定数(Kd)または平衡定数は親和性定数の逆数であり、複合体がその成分分子にばらばらになるとき、または、塩がその成分イオンに解離するときのように、より大きい物体がより小さい成分に可逆的に分離(解離)する傾向を見積もる。解離定数は通常、Kdとして示され、親和性定数の逆数である。塩の特別な場合には、解離定数はまた、イオン化定数と呼ぶことができる。
【0218】
第1の戦略では、例えば、システイン残基に見出されるなどの固定用側鎖をドデカマータンパク質のリングの縁に配置し、得られる構築物の結合特性を、環形(リングの細孔または「穴」)の内側に配置される固定用側鎖を有するタンパク質構築物の結合特性と比較することを伴う。この戦略では、SP1の基本構造がその表面における特定の領域およびそれにおいて固定されるリガンドを表面暴露から保護できるかが明らかにされる。
【0219】
第2の戦略では、いくつかの結合性成分が遺伝子工学によってタンパク質の環形の内側細孔においてSP1ドデカマータンパク質に取り付けられる。これらの特異的親和性ペプチドをタンパク質の推定的な保護された部分に融合することによって、これらの結合性成分が、タンパク質の細孔から排除される大きい実体との結合のためにはあまり利用されないことが予想される。この実験戦略は、タンパク質の媒体の条件を変化させることの影響を調べるために、また、SP1モノマーの構造、したがって、ドデカマー全体の構造に影響を与え得る媒体に対する因子を入れることにより、媒体への結合性成分の露出度が制御され得ることを示すために設計される。したがって、構造変化因子(例えば、変性剤など)を加えることの結果は、結合性成分が媒体中で大きい実体と相互作用し、また、結合する能力を増大させ得る。化学的因子の添加および除去によって非結合性実体から結合性実体に切り替わる能力は化学的スイッチを構成する。
【0220】
化学的スイッチの概念が、いくつかの特異的親和性ペプチド(例えば、ケイ素結合性ペプチドなど)を内側の細孔位置においてSP1基本骨格のそれぞれに融合して、それにより、変性剤(例えば、グアニジニウム塩酸塩(GuHCl)など)の媒体中レベルに対して敏感であるケイ素結合性タンパク質スイッチを得ることによって明らかにされた。親和性ペプチドが、ペプチド−ファージ・ディスプレー・システムを使用して、Sanoおよび共同研究者らによって単離された[Sano,K.I.他、JACS、125、14234頁〜14235頁、2003;Sano,K.I.他、JACS、128、1717頁〜1722頁、2006;およびSano,K.I.他、Nano Lett.、7、3200頁〜3202頁、2007]。この6アミノ酸ペプチド(これは本明細書中およびこの技術分野ではmTBPとして示される)は、Ti、AgおよびSiの表面に結合するが、Au、Cr、Pt、Sn、Zn、CuまたはFeには結合しないことがSanoおよび共同研究者らによって報告された。
【0221】
したがって、SP1足場が、12コピーのmTBPヘキサペプチドを切換え可能な様式で呈示するように改変された。正の協同効果が、遊離ペプチドと比較した場合、ペプチドがSP1ドデカマー上に呈示されるときに明らかにされ、これには、遊離ペプチドの非特異的結合と比較して、融合ペプチドの非特異的結合における著しい低下が付随している。
【0222】
様々な材料に対する大きい親和性を有するSP1変化体の構築
国際公開WO2007/007325は、Sarikaya他[Ann.Rev.Mater.Res.、2004、34、373〜408]から改編された、無機のイオン性物質との複合体を形成するペプチドの限定されない列挙を提供する。これらの比較的短いペプチドは、SP1ポリペプチドの改変の一部としてのSP1タンパク質への融合のために好適である。種々の材料に対する大きい親和性を有するペプチドのさらに多くの例が文献には開示される。
【0223】
表3は、これに関連して使用されるSP1変化体、それらの結合能、それらの構築、変異またはN末端での挿入のために使用されるプライマー、SP1テンプレート、参考文献および成長条件/誘導を示す。すべての変異型タンパク質が、熱安定性、プロテアーゼ抵抗性および複合体形成に関して野生型SP1と類似する特徴を明らかにした。変異の標準的命名法が使用される:すなわち、最初のメチオニン残基を含む野生型配列を使用するアミノ酸位置。
【0224】
【0225】
L81C SP1(配列番号2)変化体が封入体IBとして発現される。IBを最初にIB洗浄緩衝液(20mM TrisHCl、2M尿素、pH8)により15分間洗浄し、次いで、14000gで15分間遠心分離した。ペレットを変性緩衝液(20mM TrisHCl(pH8)、6M尿素、10mMジチオスレイトール)に再懸濁し、5mg/mlのタンパク質濃度に希釈した。その後、変性させたタンパク質を、20mM TrisHCl(pH7)、1mM DTTに対する透析によって4日間リフォールディングした。
【0226】
金表面へのSP1変化体の結合
システインアミノ酸を介するタンパク質の金標識化は、広く知られている技術である。そのN末端が欠失されたSP1変化体を、N末端からの妨害を防止するために使用した(ΔNSP1、配列番号64)。システイン残基を中央空洞または縁のどちらかでタンパク質に導入した(表1を参照のこと)(それぞれ、M43CおよびL81C)。超平坦な金表面に対するこれら2つの変異体の結合親和性を動的モードの原子間力顕微鏡法(AFM)トポグラフィー画像化(Dulcinea顕微鏡、NanoTec、Madrid)によって求め、フラッディング画像分析技術を使用して、新しい変異体の表面被覆率を求めた。
【0227】
ケイ素酸化物表面へのSP1変化体の結合
M43CΔNSP1のN末端へのケイ素結合性ペプチド(RKLPDAA、配列番号5、Nano Lett.、2007、6、1579〜1579)の融合により、変化体mtbSP1(配列番号3)がもたらされる(表1および表2を参照のこと)。mtbSPシリカ結合のSDS−PAGE分析は、本明細書中下記で議論されるが、mtbSP1変化体がシリカビーズに結合し、一方、野生型SP1は結合しないことを示した。12コピーのこれらのペプチドの、SP1のN末端への融合は、融合された結合性ペプチドが露出し、基体に接近可能であるならば、より大きい結合アビディティーの結果として、遊離ペプチドと比較した場合、より大きい結合能をもたらすことが予想された。GuHCl、すなわち、カオトロピック剤(タンパク質変性剤)は、非常に安定なSP1複合体のN末端への一定の柔軟性を可能にし、結果的には、ケイ素結合性ペプチドを露出させ、それにより、シリカへのその結合を容易にすることが示唆された。mtbSPおよび遊離ペプチドの両方についての見かけの解離定数を本明細書中下記で示されるように求めた。mtbSP1変化体は、本明細書中下記で示されるように、遊離ペプチド(86μM)よりもはるかに低いKd値(0.3μM)を明らかにした。このことは、このペプチドがSP1足場に呈示されるとき、シリカに対するその親和性が2桁〜3桁増大することを意味する。
【0228】
SP1変化体によるカーボンナノチューブ(CNT)分散
下記に示される実施例は、CNTに結合することができ、それにより、これらのタンパク質被覆CNTの水性分散を可能にするCNT結合性ペプチドに融合されるSP1変化体を提供する。CNT結合性ペプチドとしてファージ・ディスプレー・ライブラリーから単離された短いペプチドのいくつかの例が文献には開示される。例えば、Nature materials、2003、2、196;Nano lett.、2006、6、40〜44;およびLangmuir、2004、20、8939〜8941を参照のこと。
【0229】
CNT分散実験のために使用された、N末端融合を有するSP1変化体のプラスミド構築物、発現および産生が、上記の表1に記載される。
【0230】
下記の表4は、これらの変化体の末端配列、同様にまた、それらの精製方法および精製段階、アルカラーゼによる消化に対するN末端感受性、ならびに、CNT分散のために要求されるSP1変化体濃度を示す。すべての変異型タンパク質が、熱安定性、プロテアーゼ抵抗性および複合体形成に関して野生型SP1と類似する特徴を明らかにした。アルカラーゼで処理されなかったサンプルと比較して分子量における変化が、SDSゲル適用緩衝液における非煮沸サンプルおよび煮沸サンプルの両方において認められた(それぞれ、複合体およびモノマー)。すべての場合において、アルカラーゼ処理されたSP1変化体の見かけ分子量が野生型の分子量よりも大きかった。このことは、付加アミノ酸のすべてではないが、その一部が除かれたこと、そして、それらは、発表された配列とは異なることを示している。
【0231】
【0232】
驚くべきことに、アルカラーゼによる処理およびN末端の部分的消化はそのCNT分散能を低下させない。これは恐らくは、それぞれの複合体において、すべてのN末端が消化されるとは限らず、また、L1変化体(配列番号6)複合体が二重のバンドとして現れるためである。例えば、アルカラーゼ処理されたL1−SP1のN末端配列決定およびMALDY−TOF分析では、8アミノ酸がプロテアーゼによって消化されたこと、および、N末端がSNQSであったが、消化はそのCNT分散能を低下させていないことが明らかにされた。この結論と一致して、SP1のN末端へのSNQSペプチドの挿入により、より低いCNT分散活性を有する、すなわち、L1(配列番号6)よりも低いCNT分散活性を有する変化体L6(配列番号15)がもたらされる(それぞれ、50〜100μg/ml対4μg/ml)。
【0233】
SP1変化体、CNTおよびアラミド(KEVLAR(商標))またはエポキシ樹脂の三元複合体
CNTを他の媒体(例えば、エポキシ樹脂など)に分散し、先進材料(例えば、KEVLAR(商標)など)に結合する本発明の実施形態のSP1変化体の能力が、本明細書中下記で詳しく示されるように研究され、明らかにされた。
【0234】
SP1変化体を、N末端を介してCNTと結合して、SP1/CNT複合体を形成することができ、その結果として、このSP1/CNT複合体は、露出した第一級アミンを介してエポキシ樹脂に結合することができる多機能性試薬としてのその能力について調べた。そのような試薬は、エポキシ樹脂における分散を含めて、CNTとの水界面を伴う多くの実用的適用において非常に有用であり得る。水および他の媒介溶媒は限外ろ過および凍結乾燥の組合せによって除くことができる一方で、これらのプロセスはエネルギー消費型であり、制御することが困難である。本明細書中に示されるプロセスは、SP1が、−20℃での2時間のインキュベーションの後、70%〜80%のエタノールの存在下で沈殿すること、また、CNTタンパク質複合体もまた同様に沈殿するという事実を利用する。沈殿したSP1/CNT複合体は水に容易に分散させることができる。凍結乾燥された沈殿SP1/CNT複合体は、下記で明らかにされるように、エポキシ樹脂に分散させることができる(実施例4を参照のこと)。
【0235】
加えて、CNTおよびアラミド(例えば、KEVLAR(商標)、DuPontによって開発され、防弾チョッキ、タイヤおよび光ファイバーケーブルなどにおいて使用される強靱な耐熱性アラミド繊維の商品名)が同様な様式でSP1変化体に結合するならば、タンパク質が、結合性部位を環形の両側に示すSP1の両側のドーナッツ形状に基づいて、これら2つの成分の相互接着を促進させるための接着性メディエーターとして働くかもしれないことが仮定された。
【0236】
材料および方法
細菌株および培養条件:
大腸菌株DH5αをクローニングのために使用し、大腸菌株BL21(DE3)を発現のために使用した。細胞の成長を、Luria Bertani培地(ΔNSP1、M43CΔNSP1およびL81CΔNSP1)、Terrificブロス(L1−SP1、L2−SP1、L3−SP1、L6−SP1)、あるいは、交換可能であるが、LuriaブロスまたはTerrifcブロスのどちらか(天然SP1、mtbSP1)のいずれかにおいて37℃で行った(28℃で成長したL1−SP1を除く)。イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)による誘導(天然SP1、mtbSP1、ΔNSP1、M43CΔNSP1、L81CΔNSP1、L1−SP1およびL6−SP1については1mM、L3−SP1については0.5mM、L2−SP1については0.1mM)の後、細菌をさらに4時間成長させ、その後、14000Xgでの15分間の遠心分離によって集めた。
【0237】
ベクター構築:
M43CΔNSP1変異体およびL81CΔNSP1変異体の両方を、ΔNSP1コード配列(配列番号7)テンプレート(これはMedalsy他[Nano lett.、8、473〜477、2008]によって以前に記載された)に対する部位特異的変異誘発を使用して構築した。この部位特異的変異誘発は、PfuTurbo DNAポリメラーゼまたはDeep−vent DNAポリメラーゼを用いて、Stratagene Quickchange(Stratagene、La Jolla、CA)プロトコルに従って行われた。
【0238】
部位特異的変異誘発のために使用されるプライマーは、M43CについてはC43(5’CTGCTCGATCTCATTCCAAGCTGTAAGAGTTTCAATTGGGGCACG3’)(配列番号65)であり、L81CについてはC81(5’GCAAGTCTGGTTTGCAAGAGTACTGCGATTCTGCTGCTCTTGCTG3’)(配列番号66)であった。
【0239】
mtbSP1変異体(配列番号3)を、M43CΔNSP1のコード配列(配列番号69)をテンプレートとして、下記の2つのプライマーを使用して構築した:mTBフォワードプライマー(5’AAAACATATGCGCAAACTTCCGGATGCGGCAACCAGAACTCCAAAGCTTG−3’)(配列番号67)およびSP1リバースプライマー(5’−AAAAGAGCTCTTAGTAAAGAAAGTAATCAATAAC−3’)(配列番号68)。
【0240】
L1−SP1CNT変異体(配列番号6)を、天然SP1のコード配列(配列番号28)をテンプレートとして、下記のプライマーを使用して構築した:フォワードプライマー(5’AAGGAGATATACAAAAACATATGCACTGGTCAGCATGGTGGATACGATCAAATCAATCAGCAACCAGAACTCCAAAG3’)(配列番号70)およびリバースプライマー(5’CTTTGGAGTTCTGGTTGCTGATTGATTTGATCGTATCCACCATGCTGACCAGTGCATATGTTTTTGTATATCTCCTT3’)(配列番号71)。
【0241】
L2−SP1CNT変異体(配列番号14)を、天然SP1のコード配列(配列番号28)をテンプレートとして、下記のプライマーを使用して構築した:フォワードプライマー(5’AGAAGGAGATATACAAAAACATATGCACTCATCATACTGGTACGCATTCAACAACAAAACAGCAACCAGAACTCCAAAGC3’)(配列番号72)およびリバースプライマー(5’GCTTTGGAGTTCTGGTTGCTGTTTTGTTGTTGAATGCGTACCAGTATGATGAGTGCATATGTTTTTGTATATCTCCTTCT3’)(配列番号73)。
【0242】
L3−SP1CNT変異体(配列番号12)を、天然SP1のコード配列(配列番号28)をテンプレートとして、下記のプライマーを使用して構築した:フォワードプライマー(5’ATACAAAAACATATGGATTATTTTTCATCACCATATTATGAACAATTATTTGCAACCAGAACTCC3’)(配列番号74)およびリバースプライマー(5’GGAGTTCTGGTTGCAAATAATTGTTCATAATATGGTGATGAAAAATAATCCATATGTTTTTGTAT3’)(配列番号75)。
【0243】
L6−SP1CNT変異体(配列番号15)を、天然SP1のコード配列(配列番号28)をテンプレートとして、下記のプライマーを使用して構築した:フォワードプライマー(5’AGAAGGAGATATACAAAAACATATGTCAAATCAATCAGCAACCAGAACTCCAAAGC3’)(配列番号76)およびリバースプライマー(5’GCTTTGGAGTTCTGGTTGCTGATTGATTTGACATATGTTTTTGTATATCTCCTTCT3’)(配列番号77)。
【0244】
L7−SP1CNT変異体(配列番号16)は、コドン使用法を改善するために、5Ileにおいてataからattへの、また、6Argにおいてcgaからcgtへの、挿入ペプチドをコードするヌクレオチド配列の変異を除いて、L1−SP1CNT配列と同一である。この変異型ポリペプチドを、“Stratagene”(La Jolla、CA)の“QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit”を使用して、下記のプライマーを使用して構築した:A24T変異体について、フォワードプライマー(5’−ACTGGTCAGCATGGTGGATTCGATCAAATCAATCAG−3’)(配列番号78)およびリバースプライマー(5’−CTGATTGATTTGATCGAATCCACCATGCTGACCAGT−3’)(配列番号79)。A27T変異体について、フォワードプライマー(5’−GTCAGCATGGTGGATTCGTTCAAATCAATCAGCAACC−3’)(配列番号80)およびリバースプライマー(5’−GGTTGCTGATTGATTTGAACGAATCCACCATGCTGAC−3’)(配列番号81)。
【0245】
L4−SP1CNT変異体(配列番号9)は、挿入ペプチドのR23Kの変異を除いて、L1−SP1CNT配列と同一である。この変異型ポリペプチドを、“Stratagene”(La Jolla、CA)の“QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit”を使用して、下記のプライマーを使用して構築した:R23K変異体について、フォワードプライマー(5’−TGACTCGGTTCAAGGATGAGATCACAAAAGAACAGATCGACA−3’)(配列番号82)およびリバースプライマー(5’−TGTCGATCTGTTCTTTTGTGATCTCATCCTTGAACCGAGTCA−3’)(配列番号83)。
【0246】
L5−SP1CNT変異体(配列番号17)は、挿入ペプチドのT22Cの変異を除いて、L1−SP1CNT配列と同一である。この変異型ポリペプチドを、“Stratagene”(La Jolla、CA)の“QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit”を使用して、下記のプライマーを使用して構築した:T22C変異体について、フォワードプライマー(5’−ACTCGGTTCAAGGATGAGATCTGCCGAGAACAGATCGACAACTAC−3’)(配列番号84)およびリバースプライマー(5’−GTAGTTGTCGATCTGTTCTCGGCAGATCTCATCCTTGAACCGAGT−3’)(配列番号85)。
【0247】
L8−SP1CNT変異体(配列番号18)は、コドン使用法を改善するために、5Ileにおいてataからattへの、また、6Argにおいてcgaからcgtへの、挿入ペプチドをコードするヌクレオチド配列の変異を除いて、L4−SP1CNT配列と同一である。この変異型ポリペプチドを、“Stratagene”(La Jolla、CA)の“QuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit”を使用して、下記のプライマーを使用して構築した:A24T変異体について、フォワードプライマー(5’−ACTGGTCAGCATGGTGGATTCGATCAAATCAATCAG−3’)(配列番号78)およびリバースプライマー(5’−CTGATTGATTTGATCGAATCCACCATGCTGACCAGT−3’)(配列番号79)。A27T変異体について、フォワードプライマー(5’−GTCAGCATGGTGGATTCGTTCAAATCAATCAGCAACC−3’)(配列番号80)およびリバースプライマー(5’−GGTTGCTGATTGATTTGAACGAATCCACCATGCTGAC−3’)(配列番号81)。
【0248】
野生型SP1をPCR反応のためのテンプレートとして使用した(5’−ACTGGTCAGCATGGTGGATTCGATCAAATCAATCAG−3’)(配列番号78)およびリバースプライマー(5’−CTGATTGATTTGATCGAATCCACCATGCTGACCAGT−3’)(配列番号79)、また、天然SP1のコード配列(配列番号28)をテンプレートとした。
【0249】
すべての構築物がpET29a発現プラスミド(Novagen Inc.、Madison、WI、米国)に挿入された。
【0250】
タンパク質の精製およびリフォールディング:
遠心分離後、細胞ペレットを溶解緩衝液(50mM TrisHCL、1mM EDTA、10mM MgCl
2、pH8)に再懸濁し、パルス的バーストにより数分間、氷上で超音波処理した。変化体が可溶性タンパク質として発現され[mtbSP(配列番号3)、L1−SP1(配列番号6)、L6−SP1(配列番号15)]、または、封入体に凝集された[L2 SP1(配列番号14)およびL3−SP1(配列番号8)]。
【0251】
不溶性ペレットを14000Xgでの15分間の遠心分離によって分離した。その後、可溶性の変異タンパク質(M43CΔNSP1およびmtbSP1;L1−SP1;L2−SP1;L3−SP1;L6−SP1)を85℃で30分間熱処理し、プロテアーゼによって処理した(アルカラーゼ、Novozyme、10
6倍希釈:30分、40℃)。
【0252】
L81CΔNSP1(配列番号2)変異体の封入体を最初、IB洗浄緩衝液(20mM TrisHCL、2mM尿素、pH8)により15分間洗浄し、その後、14000Xgで15分間遠心分離した。ペレットを変性緩衝液(20mM TrisHCl、6M尿素、10mMジチオスレイトール、pH8)に再懸濁し、5mg/mlのタンパク質濃度に希釈した。その後、変性させたタンパク質をフォールディング緩衝液(20mM TrisHCl、1mM DTT、pH7)に対する透析によって4日間リフォールディングした。
【0253】
イオン交換FPLC:
Hitrap Q Sepharose XLカラム(1ml)(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ、米国)を使用して、タンパク質を精製した。サンプルを、20mMピペラジン(pH6.3)緩衝液を3ml/分の流速を使用してカラムに負荷した。溶出を、同じ緩衝液における1M NaClのグラジエントにより行い、27%〜33%の塩において特定した。
【0254】
mTBP付属体ペプチド:
mTBPペプチド(配列番号5)がBioSight ltd.(Karmiel、イスラエル)によって合成的に製造された。
【0255】
変異タンパク質の安定性特徴づけ:
3つの異なる安定性分析を野生型SP1(配列番号4)およびそれぞれの変異タンパク質に対して行った。
1.熱処理(H.T)、80℃で30分間;
2.煮沸処理(B.T.)、100℃で30分間;および
3.プロテイナーゼK(PK)によるタンパク質分解に対する抵抗性、酵素の50ug/mlの濃度において37℃で1時間。PKが5分間のB.T.によって除かれた。
【0256】
代替において、アルカラーゼが、安定性を求めるために使用された:アルカラーゼ(Novozyme、1:1000の希釈)を40℃で30分間加えた。反応を、アルカラーゼを80℃で30分間阻害することによって停止させた。
【0257】
すべての処理物は、処理後、14000Xgで15分間遠心分離され、SDS−PAGEによって分析された。
【0258】
シリカ結合:
mtbSP1(配列番号3)を、3MのGuHClとともに、または、伴うことなく、10mM MES(pH6.5)、150mM NaClにおいて10mgのシリカゲル(製造物番号:28860−8、Sigma−Aldrich、米国)と混合した。その後、溶液を室温において回転式振とう機で1時間インキュベーションした。その後、シリカを、GuHClを含まない同じ緩衝液により3回洗浄した。結合したタンパク質を、SDS−PAGEによるか、または、MicroBCA(商標)タンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、米国)を使用してタンパク質濃度を測定することによるかのどちらかによって分析した。
【0259】
表面の調製および結合:
ケイ素表面(0.5cm
2)を75℃の加熱イソプロパノールとともに20分間超音波処理し、3回蒸留水により洗浄し、乾燥窒素により乾燥した。処理された表面を3分間プラズマ清浄化し(Femto Inc.、Jettingen、ドイツ)、その後、サンプルを置いた。3MのGuHClを伴うか、または伴わない、6.5のpHのMES緩衝液における約2mg/mlのタンパク質の最終濃度における5μlのタンパク質サンプルを表面に20秒間置き、その後、3回蒸留水により静かに洗浄し、乾燥窒素により乾燥した。
【0260】
平坦の金表面の調製手順:金を蒸発させて、100nmの層を劈開雲母の上に0.5Å/秒の速度で形成させ、その後、5nmのチタンを、5e−7torrを超える真空度において2Å/秒の速度で堆積させる。蒸着サンプルをホットプレートの上で10分間〜15分間加熱し、15μlのエポキシ接着剤(301−2Epotech、Epoxy Technology Inc.、Bellerica、Mass、米国)を使用して、蒸着させた金をガラス表面に接着し、その後、85℃で3.5時間加熱し、続いて、一晩冷却する。使用前に、エポキシ層を、テトラヒドロフラン(THF)溶液(99%純度、Frutarom、Haifa、イスラエル)を使用して裂き、これにより、清浄な平坦な金表面を残す。6.5のpHでのMES緩衝液における約2mg/mlのタンパク質の最終濃度における5μlのサンプルを平坦な金表面に20秒間置き、3回蒸留水により静かに洗浄し、窒素乾燥する。
【0261】
SP1/CNT結合:
アラミドへのSP1/CNT結合を、3つの方法を使用して評価した:
1.布地へのその結合の前後における溶液(懸濁物)中のCNT含有量の差の測定。懸濁物のCNT含有量が、SP1/CNTを、(洗浄溶液と組み合わされる)布地とのそのインキュベーションの前後において、グアニジニウム塩酸塩(100mM)またはHCl(0.3%)を使用して懸濁物のサンプルから沈殿させ、ペレット化されたCNTを乾燥し、重量測定することによって求められる;
2.分光法:CNT含有量を、分光学的方法を使用して、すなわち、走査型電子顕微鏡下での高分解能(HR−SEM)における、CNTによって被覆される布地または表面の可視化による光透過率を使用して評価することができる;および
3.表面抵抗率−被覆された布地または表面のCNT含有量を、電流の流れに対する表面抵抗率を測定することによって評価することができる(この方法は、非処理布地が絶縁体または非常に不良な導体である場合にだけ関連性がある)。
【0262】
実施例1
SP1変異体の金標識化
タンパク質の金標識化を、システイン側鎖を介して達成することができる。しかしながら、野生型SP1(天然SP1)(配列番号4)はシステインアミノ酸をそのペプチド配列に有しておらず、したがって、平坦な金表面へのシステイン置換SP1タンパク質の結合を試験することによって、折り畳まれたオリゴマータンパク質構造における特定の領域の重要性を調べることができ、また、それらの利用可能性を決定することができる。その目的のために、2つの異なるSP1変異体を、標準的な部位特異的変異誘発技術を使用して構築した。第1の変異体において、タンパク質の内側のリング(細孔)に位置するメチオニン43をシステインにより置換した(変異体名:M43CΔNSP1、配列番号1)。第2の変異体において、タンパク質の外縁に位置するロイシン81をシステインにより置換した(変異体名:L81CΔNSP1、配列番号2)。
【0263】
図1A〜
図1Bは、M43CΔNSP1変異体(配列番号1)およびL81CΔNSP1変異体(配列番号2)のコンピューター生成表示であり、
図1Aは、タンパク質の内側のリングまたは細孔におけるチオール基を示すM43CΔNSP1変異体を示し、
図1Bは、タンパク質の外縁におけるチオール基を示すL81CΔNSP1変異体を示す。
【0264】
図1A〜
図1Bにおいて認められ得るように、M43C変異体におけるシステイン残基(矢印)は内側の細孔に向き、一方、L81C変異体におけるシステイン残基(矢印)はリング構造の縁から外の方を指す。
【0265】
これら2つの変異体を大腸菌から発現および精製した。これら2つの変異体は、熱安定性、プロテアーゼ抵抗性および複合体形成に関して天然SP1と類似する特徴を明らかにした(表1)。
【0266】
図2A〜
図2Bは、M43C SP1変異体およびL81C SP1変異体の発現実験および安定性実験のために行われたSDS−PAGEゲル泳動の写真である。
図2Aは、M43C SP1画分のSDS−PAGEゲル分析で、IPTG誘導前およびIPTG誘導後の総細菌タンパク質からのもの(
図2A、それぞれ、レーン1〜2、SP1モノマーのバンドが実線により囲まれる)、煮沸を伴わない細菌可溶性画分からのもの(
図2A、レーン3、オリゴマードデカマーのバンドが点線により囲まれる)および煮沸後の細菌可溶性画分からのもの(
図2A、レーン4、モノマーのバンドが実線により囲まれる)を示す。
図2A、レーン5は、細菌の封入体から得られるタンパク質を示す。
図2A、レーン6およびレーン7は、85℃で30分間の熱処理の後での細菌可溶性画分から得られるタンパク質で、煮沸されたタンパク質(レーン7)および煮沸されないタンパク質(レーン6)を示す。
図2A、レーン8〜レーン12は、精製タンパク質で、煮沸されたタンパク質(レーン9)および煮沸されないタンパク質(レーン8)、ならびに、安定性アッセイ:85℃(レーン10)、100℃(レーン11)およびプロテイナーゼk(レーン12)にさらされたサンプルを示す。
図2BはL81C SPの分析を示す:レーン1〜レーン5におけるサンプルは、
図2Aに示されるレーン1〜レーン5におけるサンプルと同じ条件にさらされた;煮沸および非煮沸のリフォールディングされたタンパク質(それぞれ、レーン6およびレーン7);レーン8〜レーン12におけるサンプルは、
図2Aに示されるレーン8〜レーン12におけるサンプルと同じ条件にさらされた(kDa単位でのMW)。
【0267】
SDS−PAGE電気泳動(
図2Aおよび
図2B)における移動度から認められ得るように、変異型SP1タンパク質は、熱暴露およびプロテアーゼ消化に耐える能力が無傷のドデカマータンパク質と同じであることを示す。
【0268】
システイン単置換の位置効果を、本明細書中上記のように調製される超平坦な金表面に対するこれら2つの変異体の親和性を調べることによって分析した。動的モードの原子間力顕微鏡法(AFM)トポグラフィー画像化(Dulcinea顕微鏡、NanoTec、Madrid)を、これら2つのタンパク質による表面被覆率を求めるために使用して、同一条件(サンプル濃度、表面処理および堆積時間)のもとでの天然SP1と比較した。フラッディング画像分析技術[Horcas,I.R.他、Rev.Sci.Instrum.、2007、78、p013705]を使用して、新しい変異体の表面被覆率を求めた。結果が
図3に示される。
【0269】
図3A〜
図3Cは、3つの超平坦な金表面の原子間力顕微鏡法フラッディングトポグラフィー画像であり、ただし、画像において、青色着色領域は露出金表面を示し、赤褐色領域はタンパク質被覆表面を示すが、金表面のそれぞれがSP1の異なる変化体により処理された。天然SP1(配列番号4)(
図3A)は不良な結合を明らかにし、ほんの1.5%の表面被覆率を達成しただけであり、一方、M43CΔNSP1(配列番号1)(
図3B)は、ほんの60%の表面被覆率を達成しただけであった。L81CΔNSP1(配列番号2)(
図3C)は、超平坦な金表面の98%の完全かつ均質な被覆を達成した。このことは、L81CΔNSP1のチオールが実際、周囲に露出し、表面に結合できることを示している。これらの結果は、タンパク質構造における種々の位置が結合のための特定の残基または配列の利用可能性に影響し、これにより、リガンド(例えば、金表面)へのSP1タンパク質結合を予測可能かつ制御可能な様式で改変できることをもたらすことを示す。
【0270】
実施例2
シリカ表面へのSP1変異体の結合
SP1の残基または配列に対するリガンドの結合が、SP1オリゴマーの三次元立体配座に影響を及ぼすことによって制御され得るかどうかを評価するために、M43CΔNSP1(配列番号1)を、ケイ素結合性ペプチドをその内側細孔に呈示するようにさらに操作した。ケイ素結合性ヘキサペプチドmTBP(配列番号5)をコードするポリヌクレオチドを、M43CΔNSP1遺伝子のN末端コード部分に読み枠を合わせて遺伝子融合し、得られるポリペプチドを大腸菌において発現させた。得られたタンパク質(mtbSP1、配列番号3)はリング形状のホモドデカマーであり、これは、6個がリングのそれぞれの側に存在する12個のケイ素酸化物結合性ペプチドをその内側細孔に呈示する(
図4を参照のこと)。
【0271】
リガンドに対する変異型SP1の親和性が、タンパク質の化学的環境を変化させることによって改変され得る(切換えられ得る)か?
図4A〜
図4Bは、リング形状タンパク質の内側細孔から広がる金色リボンとしてシリカ結合性ペプチドを示すmtbSP変異体のコンピューター生成グラフィック表示である。
図4Aは、シリカに結合することができないタンパク質の閉じた立体配座を示し、
図4Bは、シリカ表面に結合することができる開いた立体配座を示す。開いた立体配座から、閉じた立体配座への「切換え」を、例えば、シリカ結合について、カオトロピック剤を使用して、または、いくつかの場合には、(Elma Transsonic Sonifierを使用する)超音波処理を使用して試みた。
【0272】
mtbSP変異体(配列番号3)を細菌の可溶性画分に発現させた。得られた変異型タンパク質を熱安定性およびプロテアーゼ抵抗性について天然SP1と比較した(表1)。
【0273】
図5A〜
図5Bは、mtbSP(配列番号3)の発現、特徴づけおよびSiO
2結合のSDS−PAGE分析の写真である。mtbSPの発現の誘導(高分子量のバンド)がIPTG誘導前およびIPTG誘導後の総細菌溶解物から明らかである(
図5A、それぞれ、レーン1およびレーン2)。細菌溶解物の可溶性画分を煮沸することにより(
図5A、レーン3)、煮沸されていない可溶性画分において優勢な高分子量のオリゴマー形態(
図5A、レーン4)と比較した場合、mtbSPモノマーの増大した提示がもたらされる。
【0274】
mtbSPを発現する細菌は非常に多くの封入体を有し、これは主にmtbSPモノマーを含有した(
図5A、レーン5)。
【0275】
mtbSPの細菌可溶性画分の熱処理(85℃、30分間)はオリゴマー形成を損なわない(
図5A、レーン6、熱処理+煮沸、レーン7、煮沸を伴わない熱処理)。mtbSPの細菌可溶性画分はまた、プロテイナーゼ抵抗性であった:
図5A、レーン8およびレーン9は、mtbSPの細菌可溶性画分で、プロテイナーゼk処理されたものおよびプロテイナーゼk処理されなかったものをそれぞれ示し、天然SP1のプロテアーゼ抵抗性と類似していることを示す[
図5A、レーン10=+プロテアーゼk、レーン11=プロテアーゼ非存在]。
【0276】
変異型mtbSP1におけるmTBPヘキサペプチド(配列番号5)の存在により、シリカ結合能がもたらされる。
図5B、すなわち、シリカビーズとのインキュベーションの後におけるmtbSPおよび天然SP1のSDS−PAGE分析において認められ得るように、mtbSPタンパク質はシリカビーズに結合し、一方、天然SP1は結合しない。
図5Bにおいて認められ得るように、mtbSPはシリカビーズと一緒に留まり(
図5B、レーン1)、mtbSPが非結合画分からほとんど回収されず(
図5B、レーン2)、一方、天然SP1はシリカビーズにおいて検出されず(
図5B、レーン3)、主に非結合画分に留まっていた(
図5B、レーン4)。混合されたmtbSPタンパク質および天然SP1タンパク質の調製物の結合のSDS−PAGE分析は、シリカビーズから放出される結合画分における、移動度がより小さい(上側バンド)mtbSPを示しただけであった(
図5A、レーン5、レーン6(非結合画分)と比較して)。SDS−PAGE前の煮沸によって解離しないとき、結合mtbSP(
図5B、レーン7)、天然SP1(
図5B、レーン8)、および、mtbSPと、天然SP1との混合物(
図5B、レーン9)はともに、主に高分子量のオリゴマー複合体として現れる。したがって、mtbSPはシリカビーズと結合し、一方、天然SP1はシリカビーズと結合することができない。
【0277】
シリカとのmtbSP1相互作用を特徴づけるために、また、化学的環境(溶媒)の変化がSP1のリガンド結合に影響を与えるかどうかを試験するために、mtbSP1(配列番号3)の結合を遊離mTBPシリカ結合性ペプチド(配列番号5)の結合と比較した。
図6Aおよび
図6Bは、カオトロピック剤(3M GuHCl)の存在下(白四角)または非存在下(X)における、シリカビーズに対するmtbSPの結合(
図6B)および遊離mTBPヘキサペプチドの結合(
図6A)を示す。シリカに対する遊離mTBPペプチドの結合はGuHClによって本質的に影響されなかった(
図6A)が、GuHClはSP1結合mtbSP1のシリカ結合を大きく改善する(
図6B)。GuHClに対する類似する応答が、金ナノ粒子へのM43C−SPのシステイン媒介結合に関して認められている[Medalsy,I.他、Nano lett.、2008、8、473〜477、これは全体が本明細書中に組み込まれる]。
【0278】
ただ1つだけの仮説に固執するつもりはないが、1つの可能性が、GuHCl(これはほとんどの場合においてタンパク質を変性させる)は、非常に安定なSP1複合体のN末端に対する一定の立体的柔軟性を可能にし、その結果、結合しているケイ素結合性ヘキサペプチドを周囲の環境に露出させ、これにより、シリカへのその結合を容易にするということである(
図4Bを参照のこと)。そのような機構についてのさらなる証拠が、超音波処理がシリカ結合についてGuHClに取って代わり得ることを示すことによってもたらされた(データは示されず)。
【0279】
mtbSPおよび遊離mTBヘキサペプチドの解離定数をスキャッチャード分析で比較したとき、驚くべきことに、変異型mtbSP(配列番号3)(
図7C、黒塗り菱形)が遊離mTBヘキサペプチド(
図7C、白四角)の解離定数よりも数桁低い解離定数を有することが発見された。曲線のスキャッチャード分析(
図7Aおよび
図7B)は、タンパク質mtbSPについては0.3μMのK
dを示し、遊離mTBペプチドについては86μMのK
dを示し、また、mtbSPの正の協同的シリカ結合を示す。
【0280】
図7A〜
図7Cにおいて認められ得るように、mtbSPについての0.3μMのK
dは、ペプチドについての86μMのK
dと比較した場合、mTBヘキサペプチドがSP1足場に呈示されるとき、シリカに対するその親和性が2桁〜3桁大きくなることを示している。このことが、正の協同効果を、遊離ペプチドではなく、mtbSPについて明らかにするスキャッチャード分析によって裏付けられる。
【0281】
遊離型の合成mTBPの観測された解離定数(86μM)は、mTBPはTBP−1の最も必要なアミノ酸のみを露呈させることを考慮すると、元のTBP−1ペプチドのKd(Sano他、Langmuir.、2005、21、3090〜3095)と良好に一致している。アビディティーが、mTBPをSP1ドデカマー表面に露呈させることによってほぼ3桁増大した。
【0282】
シリカ表面へのmtbSPドデカマーの結合に対するカオトロピック剤GuHClの影響(「切換え」)をさらに評価するために、SiO
2表面の原子間力顕微鏡法(AFM)画像化を行った。
【0283】
図8A〜
図8Hは、シリカ表面に結合した種々のSP1変化体の一連のAFMフラッディングトポグラフィー画像であり、3MのGuHClの存在下または非存在下、あるいは、GuHClを伴わない、SiO
2表面に対する変わりやすい様々な結合を示す。AFM像において、青色領域はむき出しのシリカ表面を表し、褐色領域はタンパク質結合シリカ表面を表す。
図8A〜
図8Dはそれぞれ、天然SP1(配列番号4)、L81CΔNSP1変化体(配列番号2)、M43CΔNSP1変化体(配列番号1)およびmtbSP(配列番号3)である。GuHClの非存在下では、すべてがSiO
2表面の低い非特異的な結合(5%未満の表面被覆率)を示す。
図8E〜
図8Hもまた、それぞれ、3MのGuHClの存在下における天然SP1(配列番号4)、L81CΔNSP1変化体(配列番号2)、M43CΔNSP1変化体(配列番号1)およびmtbSP(配列番号3)である。GuHClの存在下では、AFM像は、mtbSPのみが、低下した非特異的結合を伴うSiO
2表面の完全な被覆を示すことを明瞭に示す。
【0284】
図8A〜
図8Fにおいて認められ得るように、すべての変異体が、著しい差を何ら伴うことなく、1%〜7%の範囲での表面被覆率を示し、一方、GuHClは、mtbSP単層によるシリカの完全な表面被覆を可能にする。SP1足場の大きい安定性は、SP1足場により、隠れているペプチドが、ほとんどのタンパク質を変性させるであろう溶媒条件においてだけ露出させられることを可能にする。そのうえ、カオトロピック剤(例えば、GuHClなど)の使用は、
図8A〜
図8Bにおいて認められ得るように、表面への非特異的な結合を著しく低下させる。
【0285】
実施例3
SP1変化体によるカーボンナノチューブ(CNT)分散
材料および方法:
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を、Arkema Inc.(フランス;GRAPHISTRENGTH(商標)C100)またはBayer MaterialScience AG(ドイツ;Baytubes C150P)のどちらかから得た。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)をTeijin,Ltd(ヤマグチ、日本)から得た。
【0286】
小規模製造のために、1.0mg〜1.3mgの間のMWNTを1mlのスクリューキャップ・ガラスチューブ(Fisherbrand、カタログ番号:03−338AA、サイズ:12x35mm、1/2DR)に計り取った。NaPi緩衝液(10mM;pH8.0)における1mlのタンパク質溶液を、事前に重量測定されたMWNTを含有するスクリューキャップ・ガラスチューブに加えた。得られた混合物を、Elma Transsonic Sonifierを使用して、80℃で2時間、超音波処理した。超音波処理サンプルを最初、20000Xgで20分間、Eppendorf遠心分離チューブで遠心分離した。上部上清の90パーセントを、底における沈降物を取ることを避けながら、ピペットを使用して分離し、別のEppendorf遠心分離チューブに移した。分離された上清サンプルを10倍希釈した。L2−SP1(配列番号14)によるCNT分散もまた、尿素を伴うか、または伴わないTris緩衝液(10mM;pH8.0)において試験した。
【0287】
大規模製造のために、400mgのMWCNTをガラスフラスコに計り取り、タンパク質溶液(NaPi緩衝液(10mM;pH8.0)において400ml)を加え、混合物を、ブースターホーム、1インチの平チップおよび温度制御ユニットを伴うMisonix4000Sonicator、または、Hielcher超音波処理機(UIP1000hd)を使用して、50℃未満の最大温度を維持しながら、260Wの出力設定で4時間超音波処理した。サンプルの完全な分散を得るために、超音波処理サンプルを、ほんの少量のペレットが形成されるまで20000Xgで20分間、Eppendorf遠心分離チューブで遠心分離した。未分散物をペレット化した後、上清は、同じ緩衝液で100倍希釈した後でさえ、CNTにより非常に暗かった。最後の工程が、Sorval SLA3000遠心分離器を使用する7000rpmでの60分間の上清の遠心分離であった。
【0288】
結果:
本明細書中上記の表2はCNT分散実験の結果を示す。表2に記載されるSP1変化体は熱に安定であり、また、一般にプロテアーゼ抵抗性である。しかしながら、アルカラーゼ(1000倍希釈)とのインキュベーションは、アルカラーゼにより処理されていないサンプルと比較して、分子量における変化を引き起こす。すべての場合において、アルカラーゼ処理されたSP1変化体の見かけ分子量は依然として、天然SP1の見かけ分子量よりも大きく、このことは、CNT結合性ペプチドに由来するアミノ酸のすべてではないが、その一部が除かれたことを示している。
【0289】
表2において認められ得るように、複数コピーのこれらのCNT結合性ペプチドをSP1のN末端に融合することにより、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を溶媒に分散するSP1の能力が改善され、一方、天然SP1タンパク質はMWCNTの分散を高SPタンパク質濃度(およそ1mg/ml)においてのみもたらすだけである。表2においてさらに認められ得るように、融合タンパク質は、はるかにより大きいCNT結合活性を有する。最大のCNT分散能が、L1(配列番号6)、すなわち、HWSAWWIRSNQSペプチド(配列番号10)がN末端に融合されるSP1ポリペプチドに関して認められ、これは比較的低い濃度(0.004mg/ml)でのMWCNT分散を可能にした。SP1と、それ以外のCNT特異的ペプチドとの融合であるL2(配列番号14)およびL3(配列番号8)[それぞれ、HSSYWYAFNNKTペプチド(配列番号11)およびDYFSSPYYEQLFペプチド(配列番号12)]もまた、天然SP1よりも大きいCNT分散活性をもたらした。L3−SP1、Hielcher超音波処理機を使用した場合、最大CNT濃度が、40mg CNT/gr布地、すなわち、4%であった。SP1の溶解性が150mg/mlもの高さであるならば、理論的には、最大CNT濃度は30%もの高さが可能である。
【0290】
変化体のL2−SP1(配列番号14)およびL3−SP1(配列番号8)は、封入体(IB)に見出される可溶性タンパク質および不溶性タンパク質の両方を形成するという点で、他のSP1変化体とは異なる。IBに見出されるタンパク質は尿素の存在下で溶解することができ、尿素希釈のときにリフォールディングする。適正に折り畳まれたL2−SP1は複合体を形成し、プロテアーゼ抵抗性であったが、IBからの溶解されたL2−SP1は複合体を形成せず、プロテアーゼ感受性であった。封入体から得られるL2−SP1およびL3−SP1はCNTを分散させることができるが、効率が可溶性タンパク質よりもはるかに低い(表2)。
【0291】
本明細書中上記の表2において認められ得るように、CNT分散のために要求される最小SP1濃度は、N末端に融合されるペプチドの配列に依存する。
【0292】
L1−SP1(配列番号6)の場合において、イオン交換精製されたタンパク質をアルカラーゼにより処理し、タンパク質は、MOLDY−TOFを使用するN末端配列決定および分子量決定を受けた。結果は、8個のアミノ酸がそのN末端からアルカラーゼによって消化され、これにより、タンパク質のN末端に融合されたSNQSペプチドが残っていることを示した。N末端におけるSNQSペプチドの挿入を有するSP1変化体(L6−SP1、配列番号15)が、アルカラーゼ処理されたL1−SP1と比較された場合、類似した特徴、すなわち、SDS−PAGEでの移動度およびCNT分散能を示したことは本明細書中では特筆される。
【0293】
これらのCNT特異的ペプチドに加えて、ケイ素/チタン酸化物結合性ペプチド(RKLPDAA)(配列番号5)の融合(これはSP1変化体のmtbSP1(配列番号3)をもたらす)は、天然SP1よりも低い濃度でCNT分散を促進させることが見出された。
【0294】
工業的適用のためには、タンパク質製造コストをできる限り低く保つこと、および、組換えタンパク質を発現する形質転換された細胞の粗抽出物に存在し得る他のペプチドが変化体SP1のCNT分散能を妨害しないことを確実にすることが好ましい。この面を検証するために、L1−SP1を発現させるために形質転換された細菌から得られる粗抽出物を熱処理およびプロテアーゼ処理の組合せにさらし、その後、表5に示されるように、CNT分散活性の保持または喪失について評価した。
【0295】
【0296】
表5において認められ得るように、80℃で120分までのL1−SP1の粗抽出物の熱処理、および、この変異体の調製期間中に使用されたタンパク質分解は、CNT分散能を消失させなかった。
【0297】
L1−SP1がCNTに結合し、複合体を形成することの直接的な実証が、CNTを伴うL1−SP1(配列番号6)のサンプル(L1−SP1/CNT)の懸濁物、CNTを伴わないタンパク質のサンプル(L1−SP1)、および、これらの2つのサンプルのろ液(0.22ミクロンのフィルター)を煮沸の前後で比較することによって得られた。煮沸サンプルおよび非煮沸サンプルの両方をSDS−PAGEによって分析した。
【0298】
煮沸されたL1−SP1はモノマー形態のバンドおよびトリマー形態のバンドとして検出された。一方、煮沸されないL1−SP1は高分子量の複合体としてのみ現れる。
【0299】
CNTの大きい画分がろ過によって除かれ、したがって、この画分は0.22ミクロンよりも長い。CNTの非存在下におけるSP1トリマーのバンドの割合は、ろ液および非ろ過サンプルの両方において、CNTの存在下で検出される割合よりも低かった。明らかにすべてのタンパク質が、SDS Tricineサンプル緩衝液との混合およびSDS−PAGE適用のときに解離したわけではなかった。
【0300】
L1−SP1(配列番号6)がCNTに結合するという別の目安が、mtbSP−SP1/CNT懸濁物および精密ろ過(0.2ミクロン)素通りの両方のタンパク質測定アッセイ(Bradfordタンパク質アッセイ)からもたらされ、これは、CNT複合体化後のタンパク質の約50%が0.2ミクロンの細孔サイズよりも大きく、フィルターによって保持されることを明らかにする(データは示されず)。
【0301】
SP1−CNT複合体の形成についてのさらにさらなる証拠がエタノール沈殿の結果において認められる(表3):複合体化されていないタンパク質は50%エタノールにより沈殿しないが、SP1−CNTは50%エタノールにより沈殿する。CNTがGuHCl(100mM)により同様に沈殿し、また、(HClまたは酢酸を加えることによる)酸性pHで沈殿する。しかしながら、一方で、GuHClは非複合体化タンパク質の沈殿化を誘導するのではなく、酸性pHが非複合体化タンパク質の沈殿化を誘導する(実施例6〜実施例8を参照のこと)。
【0302】
L1−SP1−CNT複合体の熱安定性、プロテアーゼ抵抗性およびアルカリ抵抗性:複合体の安定性を評価するために、L1−SP1/CNTを、pH8.0およびpH11の両方における熱処理(100℃;10分または80℃;30分)、または、pH8.0におけるタンパク質分解に供した。種々のpHにおけるL1SP1/CNTサンプルのインキュベーションの後、高速遠心分離(20分;20000Xg)および上清の10倍希釈を行った。熱アッセイおよびプロテイナーゼアッセイの結果は、SP1/CNT複合体が熱に安定であり、かつ、プロテアーゼ抵抗性であり、これにより、重要なポリマー化合物(例えば、エポキシなど)におけるその分散に先立つ複合体の経済的に望ましい加熱乾燥および加熱粉末化を可能にすることを明らかにする。
【0303】
SP1/CNT複合体の大きい耐久性は、水に容易に再分散させることができるSP1/CNT複合体の乾燥ペレットを得るための簡便な方法の開発を可能にした。このプロセスは、4%のCNTの最初の分散、その後、エタノールにおける3段階の洗浄および1:5希釈による沈殿化(最後は99%エタノール)、ならびに、真空ポンプを使用する脱水を含む。
【0304】
実施例4
エポキシ樹脂におけるSP1/MWCNT複合体の分散
タンパク質−エポキシ相互作用についての十分に研究されているモデルが、生物活性タンパク質(例えば、酵素など)の固定化のために使用されるエポキシ活性化ポリマー担体である。しかしながら、可溶性タンパク質は、中性pH値ではエポキシ基との反応性がほとんどない。エポキシにおけるSP1−CNT溶解性能力はpH依存性である:SP1−CNTは、pH8.0で乾燥されるときには沈殿し、また、10.5を超えるpHで乾燥されるときには、安定で、透明な、しかし、暗い溶液を形成する。
【0305】
SP1変化体、カーボンナノチューブおよびエポキシ樹脂の三元複合体を形成するための2つの例示的な一般的手順が本明細書中に記載される。
一般的プロトコル「A」:エポキシとのSP1/CNT相互作用を評価するために、
1.SP1/CNT(0.1%〜0.5%のCNT)を、本明細書中上記のような超音波処理を使用して水に分散させた;
2.高濃度のSP1/CNT懸濁物を、透析を使用して、限外ろ過(30kDaのカットオフ)およびpHを増大させるための緩衝液交換(NaPi(10mM;pH8.0)からNa
2CO
3(10mM;pH≒11)への)を使用して調製した。
3.脱水:乾燥した微細なSP1/CNTペレットを得るために、冷凍乾燥(凍結乾燥)をサンプルの脱水のために使用した。
4.SP1/CNTペレットを、1%(w/w)の濃度を得るために、10分間、エポキシ(Huntsman、LY5052)に激しく混合し、その後、260Wおよび70℃の最大温度での3時間の浴での超音波処理を行った。
5.遠心分離:その後、黒色混合物を遠心分離して(7000rpmで60分間、Sorvall SLA3000ローターを使用する)、分散されていないCNT/SP1を沈殿させる;および
6.CNT懸濁物の濃度を600nmでの透過の測定によって評価した。
【0306】
一般的プロトコル「B」は下記の工程を含む:
1.SP1/CNT(0.1%〜0.5%のCNT)を、本明細書中上記のような超音波処理を使用して水に分散させた;
2.NaOH(0.02Mの最終濃度)の添加によるpH調節;
3.エタノール沈殿:50%〜80%のエタノールに調節し、−20℃で2時間インキュベーションし、その後、7000rpmでの60分間の遠心分離を行う(Sorval遠心分離器でのSorvalローターSLA3000);
4.脱水:乾燥した微細なSP1/CNTペレットを得るために、冷凍乾燥(凍結乾燥)をサンプルの脱水のために使用した。
4.SP1/CNTペレットを、1%(w/w)の濃度を得るために、10分間、エポキシ(Huntsman、LY5052)と激しく混合し、その後、260Wおよび70℃の最大温度での3時間の浴での超音波処理を行った。
5.遠心分離:その後、黒色混合物を遠心分離して(7000rpmで60分間、Sorvall SLA3000ローターを使用する)、分散されていないCNT/SP1を沈殿させる;および
6.CNT懸濁物の濃度を600nmでの透過の測定によって評価した。
【0307】
その後、透明なエポキシを硬化剤添加のために重量測定し、7分間〜10分間混合し、真空デシケーターで脱気し、80℃での一晩(8時間超)の硬化のためにケイ素鋳型に注いだ。
図9Aは、分散させた複合体TiSP1−CNTを伴うエポキシLY5052(サンプル2)(約1%)(mtbSP1、配列番号3)、および、非処理CNTを伴うエポキシLY5052(サンプル3)(1%)と比較される硬化させたLY5052エポキシ(サンプル1)から製造されるモジュールの写真を示す。写真は、SP1タンパク質によるCNT分散が、暗いが、透明なサンプルをもたらすことを示し、このことは、エポキシにおける良好な分散を示している。
【0308】
図9Bはまた、分散された複合体TiSP1−CNTを伴うエポキシLY5052(約1%)(mtbSP1、配列番号3)の薄い切片のTEM像を示し、硬化させた重合エポキシにおける完全に分散されたCNTを明瞭に示す。
【0309】
実施例5
アラミド(例えば、KEVLAR(商標))に対するSP1変化体の結合
材料科学者および材料技術者は、カーボンナノチューブを使用して超強靱かつ高性能なポリマー複合材料を作出する可能性によって興奮する。現在、CNT−ポリマー複合材を二次加工するすべての既存の方法は、複雑で、費用がかかる、時間を要求する加工技術、例えば、溶液注型、融解、成形、押出しおよびインサイチュー重合などを伴い、これらは、ナノチューブが、最終製造物(例えば、ヤーン、リボンまたはフィルム)の形成の前に、ポリマー溶液、溶融ポリマーに取り込まれるか、または、最初のモノマーと混合されることを余儀なくする。このことは、不溶性または温度感受性のポリマーには適していない。このようなポリマーは、融解することなく分解するからである。
【0310】
アラミドポリマー(例えば、KEVLAR(商標))は、様々な重要な適用(例えば、空気タイヤのトレッドおよびサイドウォール、防弾チョッキおよび車用装甲板など)を有する広く知られている高強度ポリマーである。しかしながら、アラミド(例えば、KEVLAR(商標))はどのような一般的な溶媒においても可溶性でなく、また、融点を有しないので、400℃を超えると分解する。結果として、アラミド(例えば、KEVLAR(商標))繊維は硫酸溶液からの湿式紡糸によって製造されなければならない。アラミド(KEVLAR(商標))へのSP1/CNT複合体の結合を、既に形成されたポリマー製造物(例えば、アラミド(KEVLAR(商標)ヤーンなど)へのカーボンナノチューブの効果的な加工後取り込みについて評価した。
【0311】
タンパク質を介する布地へのCNT結合は、その表面積を増大させ、これにより、繊維とのより良好な相互作用を可能にし、また、繊維間の架橋を誘導する。加えて、自身による繊維へのタンパク質結合は、タンパク質表面の反応基を介するポリマーとの相互作用を改善するかもしれない。CNTと結合するいくつかのSP1変化体がまた、構造用繊維に結合することが明らかにされる。
【0312】
材料および方法
種々の濃度(10mM NaP
i(pH≒8)における22μg/ml、44μg/mlおよび88μg/mlのサンプル)でのL3SP1溶液(配列番号8)を、回転式振とう機において25℃で16時間、100mgのアラミド(KEVLAR(商標))布地とインキュベーションし、その後、溶液が無色になるまで(これはCNTの非存在を示す)、かつ、タンパク質が洗浄液において全く検出されなくなるまで、同じ緩衝液により大々的に洗浄して、微量の非結合のタンパク質およびCNTを除いた。アラミド(KEVLAR(商標))へのCNT結合をアラミド(KEVLAR(商標))繊維の暗色化によって評価した。洗浄されたアラミド(KEVLAR(商標))へのSP1結合を、アラミド(KEVLAR(商標))を2mlのBCAタンパク質アッセイ試薬(Pierce、カタログ番号23227)と37℃で30分間反応し、562nmでの光学濃度を測定することによって求めた。結合したタンパク質の量を計算し、プロットした。結果が
図10Aに示される。
【0313】
アラミドへのSP1/CNT結合を、上記で詳述されるように、沈殿化、光透過率(分光法、目視検査)および表面抵抗率によって評価した。
【0314】
結果
L3SP1/CNT複合体とのインキュベーションの後における結合繊維および非結合繊維の比較は、徹底した洗浄の後でさえ、CNTの多大な結合を示した(示されず)。BCAタンパク質アッセイもまた、SP1/布地(w/w)の比率がおよそ2mgタンパク質/g繊維(2/1000)であることを示した。並行した実験では、L−1−SP1(配列番号6)およびL−4 SP1(配列番号9)もまた、アラミド(KEVLAR(商標))に結合することが明らかにされた。L3−SP1/CNTとのインキュベーションの後、アラミド(KEVLAR(商標))繊維は色が濃くなった。このことは、大々的な洗浄の後でさえ、アラミド(KEVLAR(商標))繊維へのCNTの結合を示している。
図10Bは、アラミド(KEVLAR(商標))に結合するSP1/CNTのSDS−PAGE分析を示し、CNTおよびタンパク質が繊維に結合することを明らかにする。30mgのアラミドを180/1000(w/w)のL4−SP1−CNT分散物とインキュベーションし、その後、浴での超音波処理(90分、30℃〜70℃の間に及ぶ温度)、繊維除去、(緩衝液を使用する)大々的な洗浄、および、煮沸(60ulにおいて10分)を行って、結合したタンパク質およびCNTを抽出することにより、結合したCNTだけでなく、結合したタンパク質を有する暗色化した繊維がもたらされた(
図10B、レーン1〜レーン3)。
【0315】
アラミド(KEVLAR(商標))結合CNTの量の定量的測定を得るために、結合後の溶液に残留する非結合SP1/CNTの量を直接に評価することができる(下記の実施例6を参照のこと)。
【0316】
図11A〜
図11CはMWCNT結合アラミド繊維の高分解能走査型電子顕微鏡観察像である。スケールバーは、11A、11Bおよび11Cにおいてそれぞれ、1μm、1.0μmおよび0.1μmである。
【0317】
CNT分散物(0.1%CNT(Arkema、コードC100)、L3SP1(配列番号8)を使用する)を撹拌(1h;25℃;150rpm)によってアラミド布地(KEVLARスタイル120平織 195デニール、58g/m平方;1gの布地あたり22mlの懸濁物)とインキュベーションし、その後、同じ緩衝液における大々的な洗浄、および、開放空気での一晩の乾燥を行った。布地上のCNT含有量が約9mg/g布地であった。結合CNTは表面積を劇的に増大させること、および、CNTは互いに密に接触しており、これにより、改善された電気伝導特性をもたらしていることに留意すること。
図11Bおよび
図11Cは、凝集を何ら示すことなく、アラミド繊維への均質な結合を示す。
【0318】
SP1−CNT−ポリマー繊維表面の電気抵抗率:SP1ポリペプチド−CNT複合体化アラミド布地の表面の抵抗率の測定は、驚くべきことに、非処理アラミド繊維の表面抵抗率が、SP1ポリペプチド結合CNTと複合体化されたとき、10
6オーム/平方よりも大きいが、抵抗率が10
4オーム/平方未満に低下することを示した。結合CNT濃度を変えることにより、SP1ポリペプチド−CNT複合体化アラミド布地の表面の抵抗率における対応する変化がもたらされた。すなわち、表面抵抗率が、CNT濃度における増大および溶解されたL3SP1封入体(IB)の使用のときにはともに、一層大きく低下する(下記の実施例6を参照のこと)。
【0319】
実施例6
カーボン布地へのSP1変化体の結合
カーボン布地は、航空宇宙分野および自動車分野において、同様にまた、帆船およびスポーツ設備において様々な重要な適用を有する広く知られている高強度材料であり、これらにおいては、その大きい強度対重量比が重要である。連続する炭素繊維/エポキシ複合材が、それらの優れた機械的特性に起因して構造的適用のために広範囲に使用されている。ポリマーはほとんどの場合、エポキシであり、しかし、他のポリマー、例えば、ポリエステル、ビニルエステルまたはナイロンなどもまた使用される。しかしながら、それらのマトリックス支配的特性(例えば、面内および層間の剪断特性など)はそれらの繊維支配的特性よりもはるかに弱く、したがって、これらの従来的複合材の利益を制限している。加えて、複合材が、引張り強さよりも低い長さ方向の圧縮強さ(マトリックス支配的特性)を示すことが知られている。
【0320】
タンパク質を介する布地へのCNT結合はその表面積を増大させ、このことは、繊維とのより良好な相互作用を可能にし、また、繊維間の架橋を誘導する。加えて、自身による繊維へのタンパク質結合は、タンパク質表面の反応基を介するポリマーとの相互作用を改善するかもしれない。CNTと結合するいくつかのSP1変化体がまた、構造用繊維に結合することが明らかにされる。
【0321】
材料および方法
SP1−CBDの溶解された封入体の製造:
SP1−CBDが、米国特許第7253341号(Wang他)に記載されるように、不溶性の封入体(IB)として細菌宿主において発現させられる。簡単に記載すると、108アミノ酸のSP1アミノ酸配列(配列番号88)をコードするSP1のcDNAを、クロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)のセルロース結合性タンパク質Aの163アミノ酸のCBDドメインをコードするヌクレオチド配列(配列番号87)を有する発現ベクターにクローン化した。得られた核酸構築物は、ペプチドリンカー(配列番号89)を含むSP1−CBD融合タンパク質をコードした。クローニング後、得られたプラスミドを使用して、大腸菌株BL21(DE3)を形質転換した。組換えCBD−SP1融合タンパク質の合成を、IPTG(イソプロピル−D−チオガラクトシド)を細菌培養物の中期対数期に1mMの最終濃度に加え、その後、37℃でのさらに5時間のインキュベーションを行うことによってBL21(DE3)において誘導した。組換えSP1−CBD融合タンパク質(配列番号86)が封入体(IB)において検出され、封入体を単離および精製した。簡単に記載すると、SP1−CBDを含有するIBを、Trisma塩基(20mM)、NaOH(8mM)に溶解し(氷上で30分、1:200の比率(w/v))、その後、高速遠心分離(13000rpm、30分間)を行った。上清を水に1:10で希釈し、pHを(NaPi緩衝液(100mM、pH=6.8)を使用して)pH=8.2に調節した。
【0322】
炭素繊維へのSP1ポリペプチド−CNT複合体の結合
分析目的のために、50mgの炭素繊維(Sigmatex)を1mlのスクリューキャップ・ガラスチューブ(Fisherbrand、カタログ番号:03−338AA、サイズ:12x35mm、1/2DR)に計り取った。L3SP1溶液(配列番号8)(10mM NaP
i(pH≒8)における0、1、2、4および8(mg SP1/gCF)に対応する0、50、100、200および400(ug/ml))を、(Elma Transsonic Sonifierを使用して1.5時間)浴型超音波処理装置においてインキュベーションし(浴型超音波処理装置を運転している間、温度が20℃から60℃に上がった)、その後、同じ緩衝液による大々的な洗浄を行って、微量の非結合L3−SP1タンパク質を除いた。洗浄された布地へのSP1結合を、布地を2mlのBCAタンパク質アッセイ試薬(Pierce、カタログ番号23227)と37℃で30分間反応し、562nmでの光学濃度を測定することによって求めた。結合したタンパク質の量を計算し、プロットした。結果が
図12Aに示される。
図12AはBCAタンパク質アッセイを示し、また、SP1/布地(w/w)の比率が7mgタンパク質/g繊維(0.07%)にまで達することを示す。
【0323】
布地へのSP1/CNT複合体の結合のために、カーボン布地(Sigmatex、200g/平方メートル、19g)を、1時間、(Elma Transsonic Sonifierを使用して)浴型超音波処理装置においてL3SP1溶液(配列番号8){0.025(ug/ml);1(mg SP1/gCF)、10mM NaP
i(pH≒8)の0.8lに希釈されて}により前処理し、その後、前処理された布地を、5時間、浴型超音波処理装置においてL3−SP1/CNT溶液{10mM NaP
i(pH≒8)の0.8lにおける0.1%CNT L3−SP1/CNT(w/w)比率=0.05}により処理した。
【0324】
布地へのCNTの結合を、2つの方法を使用して評価した:
1.超音波処理の継続期間にわたる600nmでのL3−SP1/CNT懸濁物の透過率を測定する。この場合、透過率は溶液中のCNT濃度における低下を示し、したがって、布地へのその結合を示す。透過率の値はL3−SP1/CNT標準曲線に従ってCNT濃度と相関した(
図14B)。
図12Cは、超音波処理時間(0〜5時間)にわたる(600nmでの増大する透過率によって測定されるように、溶液からのCNTの)低下を示す。このことは、L3SP1−CNT複合体が布地に結合することを示している。この「減算」法によって測定されるときの最大CNT結合が4mg CNT/gr布地(0.4%)であった。
2.布地へのCNT結合を評価するためのより直接的な方法が、溶液を(冷凍乾燥を使用して)脱水した後における乾燥物重量測定である。結合前および結合後の乾燥物重量の差が計算された。これは、この方法によって測定されるときの最大CNT結合が、類似する3.6mg/gr布地(0.36%)であり、上記の「減算」法により測定して得られる結果と類似していたことを示している。
【0325】
上記で記載されるように、SP1およびSP1/CNT複合体は、超音波処理されない場合、限られた効率で炭素繊維と結合する。より大きい結合効率を、材料結合部位ドメインが露出する溶解されたSP1−CBD封入体を使用して達成することができる。炭素繊維をSP1ポリペプチド−カーボンナノチューブ複合体への結合のために調製するために、炭素繊維(Hexcel、平織スタイルK−70−P3000フィラメントヤーン;193g/m平方;1gの布地あたり22mlの懸濁物)を、溶液(最終的なタンパク質濃度が0.2mg/mlであった)撹拌(1h;25℃;150rpm)において、溶解されたSP1−CBD融合タンパク質にさらし、その後、大々的に洗浄して、非結合の融合タンパク質を除いた。その後、SP1−CBD結合炭素繊維を撹拌(1h;25℃;150rpm)によってSP1ポリペプチド−CNT複合体の懸濁物(0.1%CNT(Arkema、コードC100)、L3SP1(配列番号8)の存在下)とインキュベーションし、その後、大々的な緩衝液洗浄および一晩の開放空気での乾燥を行った。布地に結合したCNT含有量が約6mg/g布地であった。
【0326】
実施例7
電気伝導性の編織物
従来の編織物(天然物および合成物の両方)はほとんど常に絶縁体(電気の不良な導体)である。絶縁体を導体に変換することにおける関心が、静電気遮蔽衣類または電磁遮蔽衣類を得るための必要性から、あるいは、画期的な電子的「スマート」編織物の製造のために生じている。
【0327】
「電子的/スマート編織物」はますます注目を集め続けている;それらは、センサー、アクチュエーターおよび制御ユニットを含有するが、依然として、快適な衣料品のために必要な特徴を保持する。それらは、受動的(すなわち、周囲の状態を感知することができる)または能動的(すなわち、特定の入力に応答/適合するためのセンサーおよびアクチュエーターの両方を含有する)のどちらであってもよい。本発明の方法に従った導電性編織物の製造のために好適な編織物のいくつかの限定されない例が、綿、ウールおよびアマのような天然材料、ならびに、エラステイン(ポリウレタン/ポリウレアコポリマー、例えば、SPANDEX、LYCRA)およびアラミド(KEVLAR)のような合成繊維であり、これらは、PPY(ポリピロール)またはPANi(ポリアニリン)のようなICP(固有的導電性ポリマー)およびCNT(カーボンナノチューブ)の添加を伴う。
【0328】
方法
カーボンナノチューブを2工程の手順で布地/編織物に結合させた。簡単に記載すると、L3SP1(配列番号8)およびSP1−CBD(配列番号86)を可溶性複合体および不溶性封入体(IB)の両方として発現させる。L3SP1のIBをTrisma塩基(20mM)、NaOH(8mM)に溶解し(氷上で30分、1:200の比率(w/v))、その後、高速遠心分離(13000rpm、30分間)を行った。上清を水に1:10で希釈し、pHを(NaPi緩衝液(100mM、pH=6.8)を使用して)pH=8.2に調節した。
【0329】
表6に示されるように、2工程の結合が、CNTを布地(例えば、アラミド(サイジングが行われない)、綿、ポリエステル、ポリアミドおよびエラステインなど)に結合させることにおいて効果的である。他の繊維、例えば、アラミド(KEVLARスタイル120平織、195デニール、58g/m平方)(これは航空機適用のために使用される)は、0.1%のL3−SP1/CNT溶液に浸けることによってCNTと結合する。そのようなCNT結合布地は非処理の布地よりも低い電気抵抗率を示し(表6)、これは、CNTの存在または非存在に明瞭に相関している(例えば、ポリアミドおよび綿を参照のこと)。布地を、SP1L3−IB(0.1mg/ml)を伴って、または伴うことなく、記載されるように調製した。
【0330】
【0331】
【0332】
まとめると、本明細書中に示される結果は、具体的に設計されたSP1変化体は広範囲の様々な無機分子との分子複合体を形成することができ、これにより、これらの分子の物理化学的特徴(例えば、溶媒における分散など)を高めることを示し、この場合、そのような分子複合体は、例えば、非常に特異的な複合材料(例えば、SP1ポリペプチド−CNT−アラミドの複合体布地、複合体ヤーンおよび複合体ポリマー布地など)およびCNT−ナノ構造物の製造において有用であり得る。
【0333】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0334】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
【0335】