特許第5863433号(P5863433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863433
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20160202BHJP
【FI】
   A23D9/00 506
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-273446(P2011-273446)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-90618(P2013-90618A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223122(P2011-223122)
(32)【優先日】2011年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】本間 里佳
(72)【発明者】
【氏名】松田 優美
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−118318(JP,A)
【文献】 特開2001−226693(JP,A)
【文献】 特開2003−160794(JP,A)
【文献】 特開2011−115112(JP,A)
【文献】 Phytochemistry,1987年,Vol.26,No.4,p.1045-1047
【文献】 International Journal of Food Science and Technology,1997年,Vol.32,p.289-297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
CAplus/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FROSTI(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)構成脂肪酸の10〜50質量%がα−リノレン酸である油脂 95〜99.95質量%、
(B)遊離型トリテルペンアルコール 0.05〜1.8質量%、
を含有し、成分(A)油脂の90〜99.5質量%がトリアシルグリセロールである油脂組成物。
【請求項2】
成分(B)遊離型トリテルペンアルコールの含有量が0.05〜1.5質量%である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸(C18:3)の油脂組成物中の含有量と、成分(B)遊離型トリテルペンアルコールの油脂組成物中の含有量の質量比[(C18:3)/(B)]が、8〜500である請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
成分(B)遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜のいずれか1項記載の油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理に有用な油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康指向の高まりを受けて、油脂中の脂肪酸の機能について多数の研究がなされている。例えば、ω3系高度不飽和脂肪酸であるα−リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含む魚油、アマニ油、シソ油等に内臓脂肪量を低下させる傾向がみられること(特許文献1)等が報告されている。
また、α−リノレン酸は、体内で生理活性の高いエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸に変換されることから、これを含む油脂の利用が望まれている。
【0003】
しかしながら、α−リノレン酸を豊富に含む油脂は、熱安定性、酸化安定性が低いため容易に劣化し、風味の点で実用化が著しく制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−231495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、α−リノレン酸を豊富に含む油脂を加熱調理に使用すると、劣化臭がひどく、また、加熱調理品が油っぽく重たい風味に感じられる場合があった。
したがって、本発明の課題は、α−リノレン酸を多く含みながらも、加熱調理時の劣化臭が抑制され、且つ加熱調理品の風味を向上させることができる油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、油脂に特定量の遊離型トリテルペンアルコールを含有させれば、加熱調理時の劣化臭が改善され、揚げ種本来の良好な風味が感じられ、油っぽさがなくなり、加熱調理用油脂として良好な性能を有する油脂組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)構成脂肪酸の10〜50質量%がα−リノレン酸である油脂、
(B)遊離型トリテルペンアルコール 0.05〜1.8質量%、
を含有する油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、α−リノレン酸を多く含みながらも、加熱調理時の劣化臭が抑制され、且つ風味に優れた美味しい加熱調理品とすることができる油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の成分(A)油脂の含有量は、油脂組成物中95〜99.95質量%(以下、単に「%」とする)であることが好ましく、更に97〜99%であることが使用上の点から好ましい。
【0010】
本発明で用いられる(A)油脂を構成する脂肪酸中、α−リノレン酸の含有量は10〜50%であるが、更に15%以上、更に20%以上、更に25%以上、更に30%以上であるのが生理効果の点から好ましい。また、40%以下、更に35%以下、更に30%以下、更に25%以下、更に10〜40%、更に10〜35%、更に10〜30%、更に15〜30%、更に18〜25%であるのが、コク味を付与する点から好ましい。なお、本明細書における脂肪酸量は遊離脂肪酸換算量である。
【0011】
(A)油脂を構成するα−リノレン酸以外の構成脂肪酸としては、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、60〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは70〜100%、更に75〜100%、更に80〜98%であるのが外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0012】
(A)油脂を構成する脂肪酸のうち、オレイン酸(C18:1)に対するα−リノレン酸(C18:3)の含有質量比[(C18:3)/(C18:1)]は、0.1〜2であることが好ましく、更に0.1〜1.5、更に0.2〜1.2、更に0.3〜1.1であることが食感を良好にする点から好ましい。
【0013】
また、(A)油脂を構成する脂肪酸のうち、リノール酸(C18:2)の含有量は80%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下、更に45%以下、更に30%以下であるのが酸化安定性の点から好ましい。
【0014】
また、(A)油脂を構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は40%以下であることが好ましく、より好ましくは0〜30%、更に0〜25%、更に2〜20%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、更に16〜22のものが好ましい。
【0015】
また、加熱調理時の発煙を抑制するという観点から、(A)油脂を構成する脂肪酸のうち、炭素数6〜12の飽和脂肪酸の合計含有量は40%未満であることが好ましく、更に30%未満、更に20%未満であるのが好ましい。
【0016】
本発明において(A)油脂は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものである。
(A)油脂中、トリアシルグリセロールの含有量は、78〜100%、更に88〜100%、更に90〜99.5%、更に92〜99%であるのが油脂の工業的生産性の点から好ましい。
また、ジアシルグリセロールの含有量は、19%以下が好ましく、更に9%以下、更に0.1〜7%、更に0.2〜5%であるのが油脂の工業的生産性の点から好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は、風味を良好とする点から、3%以下が好ましく、更に0〜2%が好ましい。
【0017】
また、(A)油脂に含まれる遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、5%以下が好ましく、更に0〜2%、更に0〜1%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0018】
本発明の(A)油脂の起源として使用できる食用油脂に特に制限はなく、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよい。なかでも、使用性の点から、植物性油脂を用いるのが好ましく、更に低温耐性に優れた液状油脂を用いるのが好ましく、更にα−リノレン酸を豊富に含むシソ油、アマニ油、エゴマ油を用いるのが好ましい。なお、液状油脂とは、基準油脂分析試験法2.3.8−27による冷却試験を実施した場合、20℃で液状である油脂をいう。また、食用油脂は、精製工程を経た精製油脂であるのが好ましい。
【0019】
本明細書においてトリテルペンアルコールとは、炭素数30又は31の四環性トリテルペンアルコールをいう。
トリテルペンアルコールは、米、米糠、米油等のトリテルペンアルコールを含有する油脂及び油脂加工品からの抽出、γ−オリザノールの加水分解等によって得ることができる。また、市販品を用いることもできる。
ここで、γ−オリザノールは、米油、トウモロコシ油、その他の穀類の糠油中に存在する物質で、ステロールのフェルラ酸(3−メトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)エステルの総称である。ここで、ステロールとしては、上記トリテルペンアルコールや、トリテルペンアルコール以外の植物ステロール、例えば、α−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、ブラシカステロール、フコステロール、イソフコステロール、スピナステロール、アベナステロール等が挙げられる。γ−オリザノールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)やLipids,30(3),269(1995)に記載の方法に従って測定することができる。
【0020】
トリテルペンアルコールには、本発明で用いられる(B)遊離型トリテルペンアルコールと、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールと、フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールがある。
【0021】
遊離型トリテルペンアルコールとはステロイド核のC−3位に水酸基をもつトリテルペンアルコールを指す。
(B)遊離型トリテルペンアルコールとしては、例えば、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール、パルケオール等が挙げられる。遊離型トリテルペンアルコールは、単一化合物として用いることもできるし、混合物として用いることもできる。なかでも、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であるのが好ましく、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせであるのがより好ましい。
遊離型トリテルペンアルコールは、J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に記載の方法に従って測定することができる。
【0022】
本発明の油脂組成物は、(B)遊離型トリテルペンアルコールを0.05〜1.8%含有する。当該成分(B)の含有量を斯かる一定範囲とすることで、加熱調理時に感じる劣化臭を抑えることができ、加熱調理品の風味を良好なものとすることができる。すなわち、(B)遊離型トリテルペンアルコールは、前記構成脂肪酸中にα−リノレン酸を一定範囲で含む油脂を加熱調理に使用した時の劣化臭を抑制するために使用できる。
(B)遊離型トリテルペンアルコールの含有量は、油脂組成物中に0.05〜1.5%、更に0.05〜1.2%、更に0.05〜1%、更に0.1〜1%、更に0.1〜0.75%であるのが加熱調理時の劣化臭を抑制する点、風味を良好なものとする点で好ましい。
【0023】
また、遊離型トリテルペンアルコール中、シクロアルテノールの含有量は、15〜100%、更に20〜90%、更に25〜80%であるのが、同様の点から好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物において、(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸(C18:3)の油脂組成物中の含有量と、(B)遊離型トリテルペンアルコールの油脂組成物中の含有量の質量比[(C18:3)/(B)]は、8〜500、更に10〜500、更に15〜400、更に20〜350、更に30〜300、更に30〜250であるのが、加熱調理時の劣化臭を抑制する点、食感を良好にする点から好ましい。
【0025】
脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールとは、トリテルペンアルコールのC−3位の水酸基に脂肪酸がエステル結合したトリテルペンアルコールを指す。
本発明の油脂組成物において、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量は、1.4%以下、更に0.01〜1.4%、更に0.01〜0.5%、更に0.1〜0.5%、更に0.2〜0.4%であるのが、食感及び加調理品の風味を良好にする点から好ましい。遊離型トリテルペンアルコールとエステルを形成する脂肪酸としては、特に限定されず、直鎖又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。
脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)に記載の方法に従って測定することができる。
また、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールは、総トリテルペンアルコール量、遊離型トリテルペンアルコール量、フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコール量から算出することができる。なお、総トリテルペンアルコール量はJ.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に記載の方法に従って測定することができる。
【0026】
フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールとは、トリテルペンアルコールのC−3位の水酸基にフェルラ酸がエステル結合したトリテルペンアルコールを指す。
本発明の油脂組成物において、フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールは、0.7%以下、更に0〜0.5%、更に0.0002〜0.15%、更に0.0002〜0.1%、更に0.001〜0.1%、尚更0.001〜0.05%であるのが、風味を良好とする点、油っぽさを抑制する点から好ましい。
フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)やLipids,30(3),269(1995)に記載の方法に従って測定することができる。
【0027】
更に、本発明の油脂組成物は、保存時及び調理時の酸化安定性の点より、油脂組成物中に抗酸化剤を0.01〜2%含有するのが好ましく、更に0.01〜1%、更に0.01〜0.5%含有するのが好ましい。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、より好ましい例としては、天然抗酸化剤、トコフェロール及びアスコルビルパルミテートから選ばれる1種又は2種以上の抗酸化剤がある。その中でも、アスコルビルパルミテートとトコフェロールの併用が好ましい。
【0028】
本発明の油脂組成物は、例えば、(A)油脂に前記成分(B)、更に必要に応じてその他の成分を添加し、適宜加熱、撹拌等することにより得ることができる。
このような油脂組成物は、一般の食用油脂と同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。なかでも、加熱調理用油脂、特に、フライや天ぷら等の揚げ物、炒め物、焼き物の調理用油脂として好適である。
【0029】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の油脂組成物、或いは使用を開示する。
<1>次の成分(A)及び(B):
(A)構成脂肪酸の10〜50%がα−リノレン酸である油脂、
(B)遊離型トリテルペンアルコール 0.05〜1.8%、
を含有する油脂組成物。
<2>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸の含有量が、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上である、前記<1>に記載の油脂組成物。
<3>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸の含有量が、好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である、前記<1>又は<2>に記載の油脂組成物。
<4>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸の含有量が、好ましくは10〜40%、更に好ましくは10〜35%、更に好ましくは10〜30%、更に好ましくは15〜30%、更に好ましくは18〜25%である、前記<1>に記載の油脂組成物。
【0030】
<5>成分(A)油脂を構成するα−リノレン酸以外の構成脂肪酸の60〜100%、好ましくは70〜100%、更に好ましくは75〜100%、更に好ましくは80〜98%が不飽和脂肪酸である、前記<1>〜<4>の1に記載の油脂組成物。
<6>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)に対するα−リノレン酸(C18:3)の含有質量比[(C18:3)/(C18:1)]が、0.1〜2、好ましくは0.1〜1.5、更に好ましくは0.2〜1.2、更に好ましくは0.3〜1.1である、前記<1>〜<5>の1に記載の油脂組成物。
<7>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量が、80%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは45%以下、更に好ましくは30%以下である、前記<1>〜<6>の1に記載の油脂組成物。
<8>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、40%以下、好ましくは0〜30%、更に好ましくは0〜25%、更に好ましくは2〜20%である、前記<1>〜<7>の1に記載の油脂組成物。
<9>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中の炭素数6〜12の飽和脂肪酸の合計含有量が、40%未満、好ましくは30%未満、更に好ましくは20%未満である、前記<1>〜<8>の1に記載の油脂組成物。
<10>成分(A)油脂中のトリアシルグリセロールの含有量が、78〜100%、好ましくは88〜100%、更に好ましくは90〜99.5%、更に好ましくは92〜99%である、前記<1>〜<9>の1に記載の油脂組成物。
【0031】
<11>成分(B)遊離型トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは0.05〜1.5%、更に好ましくは0.05〜1.2%、更に好ましくは0.05〜1%、更に好ましくは0.1〜1%、更に好ましくは0.1〜0.75%である、前記<1>〜<10>の1に記載の油脂組成物。
<12>成分(B)遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール及びパルケオールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせである、前記<11>に記載の油脂組成物。
<13>成分(B)遊離型トリテルペンアルコール中のシクロアルテノールの含有量が、15〜100%、好ましくは20〜90%、更に好ましくは25〜80%である、前記<12>に記載の油脂組成物。
【0032】
<14>成分(A)油脂を95〜99.95%、好ましくは97〜99%含有する、前記<1>〜<13>の1に記載の油脂組成物。
【0033】
<15>成分(A)油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸(C18:3)の油脂組成物中の含有量と、成分(B)遊離型トリテルペンアルコールの油脂組成物中の含有量の質量比[(C18:3)/(B)]が、8〜500、好ましくは10〜500、更に好ましくは15〜400、更に好ましくは20〜350、更に好ましくは30〜300、更に好ましくは30〜250である、前記<1>〜<14>の1に記載の油脂組成物。
<16>油脂組成物中の脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が、1.4%以下、好ましくは0.01〜1.4%、更に好ましくは0.01〜0.5%、更に好ましくは0.1〜0.5%、更に好ましくは0.2〜0.4%である、前記<1>〜<15>の1に記載の油脂組成物。
<17>油脂組成物中のフェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が、0.7%以下、好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0.0002〜0.15%、更に好ましくは0.0002〜0.1%、更に好ましくは0.001〜0.1%、更に好ましくは0.001〜0.05%である、前記<1>〜<16>の1に記載の油脂組成物。
<18>更に抗酸化剤を、0.01〜2%、好ましくは0.01〜1%、更に好ましくは0.01〜0.5%含有する、前記<1>〜<17>の1に記載の油脂組成物。
<19>抗酸化剤が、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくは天然抗酸化剤、トコフェロール及びアスコルビルパルミテートから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはトコフェロールとアスコルビルパルミテートの併用である、前記<18>に記載の油脂組成物。
【0034】
<20>前記<1>〜<19>の1に記載の油脂組成物の食用油脂としての使用。
<21>加熱調理用油脂としての前記<20>に記載の使用。
<22>揚げ物、炒め物又は焼き物の調理用油脂としての前記<20>に記載の使用。
【0035】
<23>遊離型トリテルペンアルコールの、構成脂肪酸の10〜50質量%がα−リノレン酸である油脂の加熱調理時の劣化臭の抑制のための使用。
<24>油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸の含有量が、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上である、前記<23>に記載の使用。
<25>油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸の含有量が、好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である、前記<23>又は<24>に記載の使用。
<26>遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール及びパルケオールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせである、前記<23>〜<25>の1に記載の使用。
<27>遊離型トリテルペンアルコール中のシクロアルテノールの含有量が、15〜100%、好ましくは20〜90%、更に好ましくは25〜80%である、前記<26>に記載の使用。
<28>油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸(C18:3)の油脂組成物中の含有量と、油脂組成物中の遊離型トリテルペンアルコールの含有量の質量比[(C18:3)/遊離型トリテルペンアルコール]が、8〜500、好ましくは10〜500、更に好ましくは15〜400、更に好ましくは20〜350、更に好ましくは30〜300、更に好ましくは30〜250となるように、前記油脂と遊離型トリテルペンアルコールを油脂組成物に含有させるものである、前記<23>〜<27>の1に記載の使用。
【実施例】
【0036】
〔分析方法〕
(i)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC分析条件>
(条件)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:DB−1ht(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=340℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
【0037】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
<GLC分析条件>
カラム:CP−SIL88 100m×0.25mm×0.2μm (VARIAN)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:200)、T=250℃
ディテクター:FID、T=250℃
オーブン温度:174℃で50分保持後、5℃/分で220℃まで昇温、25分間保持
【0038】
(iii)遊離型トリテルペンアルコール及び遊離型植物ステロール
J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に従ってサンプルを調製し、GLCにより測定した。具体的には下記の方法で測定した。
油脂サンプル約500mgをヘキサン約5mLに溶解し、SPEカートリッジ(Sep−Pak Silica、5g、GLサイエンス社)にチャージした。ヘキサン/エーテル(体積比95/5)約40mLで洗浄した後、エタノール/エーテル/ヘキサン(体積比50/25/25)約40mLで溶出し、エタノール/エーテル/ヘキサン溶出画分を分取した。得られた画分から溶媒を留去し、PTLC(Si60、20×20×0.1cm、Merck社)にチャージした。ヘキサン/エーテル/酢酸(体積比90/10/2)、クロロホルム/エーテル(体積比95/5)で順に展開した後、遊離型トリテルペンアルコール部分と遊離型植物ステロール部分を分取した。分取した遊離型トリテルペンアルコール画分、又は遊離型植物ステロール画分と、トリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で30分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析し、遊離型トリテルペンアルコール量及び遊離型植物ステロール量(質量%)を測定した。
<GLC分析条件>
カラム:DB−1ht 10.0m×0.25mm×0.10μm (Agilent)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:80)、T=340℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:200℃から10℃/分で340℃まで昇温、10分間保持
【0039】
(iv)総トリテルペンアルコール
J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6)439(2005)に従ってサンプルを調製し、GLCにより測定した。具体的には下記の方法で測定した。
三角フラスコに、油脂サンプル約5gと2N水酸化カリウム/エタノール溶液約20mLを加え、80℃で60分間加熱した。室温まで放冷した後、内部標準(コレステロール)と水15mLとヘキサン10mLを加え、振とうした。静置後、上層を分取し、濃縮した。濃縮物にトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で30分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析し、総トリテルペンアルコール量(質量%)を測定した。GLC分析条件は、(iii)と同じものを用いた。
【0040】
(v)γ−オリザノール
Lipids,30(3),269(1995)に従ってサンプルを調製し、HPLC−UVにより測定した。具体的には下記の方法で測定した。
油脂サンプル約100mgを酢酸エチルに溶解して10mLとし、HPLC法により分析した。
<HPLC分析条件>
カラム:Inertsil ODS−3 4.6mm×250mm、5μm(GLサイエンス)
カラム温度:40℃
流速:1.2mL/分
検出:UV325nm
溶離液:アセトニトリル/ブタノール/酢酸(体積比82/3/2)
【0041】
(vi)脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール
総トリテルペンアルコール量から、遊離型トリテルペンアルコール量と、遊離型に換算したγ―オリザノール量を減算し、遊離型に換算した脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール量を算出した。遊離型から脂肪酸エステル型へ換算を行い、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール量(質量%)とした。なお、遊離型から脂肪酸エステル型への換算を行う場合には、結合脂肪酸をオレイン酸と仮定して計算した。
【0042】
〔原料油脂〕
(1)油脂A〜C、E
油脂A〜C、Eとして、表1の組成を持つ油脂(油脂A:精製亜麻仁油(サミット製油)、油B:菜種サラダ油(日清オイリオグループ株式会社)、油脂C:ココナードMT(花王株式会社)、油脂E:大豆サラダ油(日清オイリオグループ株式会社))を用いた。
なお、油脂A〜C、E中の遊離型及び脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール含量とγ−オリザノール含量は0%であった。
【0043】
(2)油脂D
油脂A(30質量部)、油脂B(50質量部)、油脂C(20質量部)を混合し、減圧下110℃で撹拌し、脱気及び脱水処理を行った。ここに触媒としてナトリウムメチラート0.2質量部を加え、110℃で2時間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を酸処理(10%クエン酸水溶液)及び水洗(蒸留水10回)を行った後、活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業)を接触させ、脱色油を得た。さらに、水蒸気を接触させて脱臭を行い、油脂Dを得た。
油脂A〜Eの分析値を表1に示す。
【0044】
〔遊離型トリテルペンアルコール〕
遊離型トリテルペンアルコールとして、市販のトリテルペンアルコール製剤(オリザ油化「オリザトリテルペノイドP」、トリテルペンアルコール59%)と、市販のオリザノール(和光純薬(株))を加水分解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した調製品を用いた。市販のトリテルペンアルコール製剤の組成は、カンペステロール21%、β−シトステロール15%、スチグマステロール3%、シクロアルテノール22%、24−メチレンシクロアルタノール37%であった。市販のオリザノールから調製した調製品の組成は、シクロアルテノール40%、24−メチレンシクロアルタノール60%であった。
【0045】
〔遊離型植物ステロール〕
遊離型植物ステロール(4−デスメチルステロール)として、市販の植物ステロール製剤(ADM(株))を用いた。本製剤の組成は、ブラシカステロール5%、カンペステロール25%、β−シトステロール46%、スチグマステロール21%であった。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1〜24及び比較例1〜9
〔油脂組成物の調製〕
表2に示した割合で油脂A、B、D、Eを混合し、更に遊離型トリテルペンアルコールとして市販のトリテルペンアルコール製剤を配合し、50℃の温度を保ちながら撹拌機を用いて全体が清澄になるまで混合・溶解を行い、油脂組成物をそれぞれ調製した。各油脂組成物における油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量、リノール酸(C18:2)の含有量、α−リノレン酸(C18:3)の含有量及び炭素数6〜12の飽和脂肪酸(C6:0+C8:0+C10:0+C12:0)の合計含有量と、油脂組成物中の遊離型トリテルペンアルコールの含有量は表2に示したとおりである。
【0048】
実施例25及び比較例10
〔油脂組成物の調製〕
表3に示した割合で油脂A、Bを混合し、更に遊離型トリテルペンアルコールとしてオリザノールから調製した調製品、又は市販の植物ステロール製剤を配合し、50℃の温度を保ちながら撹拌機を用いて全体が清澄になるまで混合・溶解を行い、油脂組成物をそれぞれ調製した。各油脂組成物における油脂を構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量、リノール酸(C18:2)の含有量、α−リノレン酸(C18:3)の含有量及び炭素数6〜12の飽和脂肪酸(C6:0+C8:0+C10:0+C12:0)の合計含有量と、油脂組成物中の遊離型トリテルペンアルコールの含有量及び遊離型植物ステロールの含有量は表3に示したとおりである。
【0049】
〔天ぷら調理〕
前記の各油脂組成物を用いて、下記の方法により、天ぷら調理を行った。
油量:600g(中華鍋)
油温:180℃、ガスコンロ(中火)加熱
揚げ種:エビ(ブラックタイガー)8尾
レンコン(スライス)8枚
カボチャ(スライス)8枚
ピーマン(1個を1/2切)8個
ししとう(丸ごと)8個
大葉(丸ごと)8枚
なす(1個を1/2切)8個
衣:小麦粉100g
卵50g
水150g
【0050】
〔風味評価〕
天ぷら調理時に感じる臭いと、天ぷらの風味をパネル9名が下記の評価基準で評価しその平均値をその天ぷらの評点とした。結果を表2及び表3に示す。
(コク味)
4:コク味がある
3:ややコク味がある
2:ややコク味が足りない
1:コク味が足りない
(油っぽさ)
4:油っぽくなく、軽い
3:わずかに油っぽいが軽い
2:やや油っぽく、やや重い
1:油っぽく、重い
(サク味)
4:衣が適度な固さでべたつきもなく、さくさくとする
3:衣が適度な固さで、べたつかない
2:衣がやや固く、衣がわずかにべとつく
1:衣が固く、衣がべたつく
(調理時の劣化臭)
4:劣化臭を感じない
3:ほとんど劣化臭を感じない
2:やや劣化臭を感じる
1:強い劣化臭を感じる
【0051】
〔発煙評価〕
天ぷら調理時の発煙の様子を下記の評価基準で評価しその油脂組成物の評点とした。結果を表2及び表3に示す。
(発煙)
4:発煙しない
3:ほとんど発煙しない
2:わずかに発煙する
1:激しく発煙する
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表2及び表3に示された結果から明らかなように、遊離型トリテルペンアルコールを特定量配合した油脂組成物は調理時の劣化臭が抑制されることが確認された。また、本発明の油脂組成物を使用して調理した揚げ物は、衣の食感が良好で、油っぽく重たい風味がなく、コク味があり、良好な風味であった。実施例1〜17及び19〜25の油脂組成物は、調理時の発煙もなかった。
油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸含量が10%未満である菜種サラダ油(比較例1)を用いた揚げ物は、コク味が少なかった。遊離型トリテルペンアルコールの含有量が少ない油脂(比較例2、4−6)を使用した揚げ物は、調理時の劣化臭が抑制されなかった。遊離型トリテルペンアルコールの含有量が多い油脂(比較例3,7)では、調理時の劣化臭は抑制されたが、コク味や油っぽさに課題を生じ好ましくなかった。また、油脂を構成する脂肪酸中のα−リノレン酸含有量が50%より多い油脂(比較例8、9)を使用した揚げ物は、遊離型トリテルペンアルコールを配合しても、調理時の劣化臭を十分に抑制できず、サク味も無かった。