(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863477
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】高温での水中不分離性に優れた自己充填性セメント系混練物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20160202BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20160202BHJP
E02D 15/06 20060101ALI20160202BHJP
C04B 111/74 20060101ALN20160202BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/26 D
E02D15/06
C04B111:74
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-11547(P2012-11547)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-147409(P2013-147409A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(74)【代理人】
【識別番号】100076130
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 有寿
(72)【発明者】
【氏名】柳井 修司
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
【審査官】
相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−197290(JP,A)
【文献】
特開昭60−260453(JP,A)
【文献】
特開昭60−042264(JP,A)
【文献】
特開平10−036825(JP,A)
【文献】
特表2004−505127(JP,A)
【文献】
特開2007−261921(JP,A)
【文献】
特開平06−247759(JP,A)
【文献】
米国特許第05116421(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0319500(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0319561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00〜28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、セメント、骨材および混和材料を練混ぜたセメント系混練物であって、混和材料として、AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)ホモポリマーを水100質量部に対し2.0〜10.0質量部含有し、減水剤をセメント100質量部に対し0.1質量部以上かつ下記(1)式を満たす範囲で含有する高温での水中不分離性に優れた自己充填性セメント系混練物。
Y≦1.5X−2 …(1)
ここで、XはAMPSホモポリマーの含有量(水100質量部に対する質量部)、Yは減水剤の含有量(セメント100質量部に対する質量部)である。
【請求項2】
45〜80℃の温度範囲内に、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を水中落下させた場合の濁度が100ppm未満となり、かつスランプフロー値が500mm以上700mm未満となる温度T(℃)を有する請求項1に記載の自己充填性セメント系混練物。
【請求項3】
水、セメント、骨材および混和材料を練混ぜて自己充填性セメント系混練物を得るに際し、混和材料としてAMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)ホモポリマーおよび減水剤を用意し、
45〜80℃の範囲内に設定したある温度T(℃)において、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を水中落下させた場合の濁度が100ppm未満となり、かつスランプフロー値が500mm以上700mm未満となるように、
AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)ホモポリマーの配合量を水100質量部に対し2.0〜10.0質量部の範囲、減水剤の配合量をセメント100質量部に対し0.1質量部以上かつ下記(1)式を満たす範囲で調整する、高温での水中不分離性に優れた自己充填性セメント系混練物の製造方法。
Y≦1.5X−2 …(1)
ここで、XはAMPSホモポリマーの含有量(水100質量部に対する質量部)、Yは減水剤の含有量(セメント100質量部に対する質量部)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の水中環境下で優れた材料分離抵抗性(水中不分離性)と自己充填性を呈するセメント系混練物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中環境下において高い材料分離抵抗性を有する「水中不分離性コンクリート」は、水質汚濁が防止できる(水が濁らない)、水中でも安定した強度を発揮できる、流動性と充填性に優れる、といった特長を有し、既に実用化されている。従来の水中不分離性コンクリートの技術は、水に溶解して適度の粘性を発揮する増粘剤を添加することにより材料同士の粘結性を高めて材料分離を防止するものである。
【0003】
従来、水中不分離性コンクリートに使用されている増粘剤(水中不分離性混和剤)は水溶性高分子化合物を主成分とする粉体であり、セルロース系とアクリル系の2種類に大別される。市販されている水中不分離性混和剤の多くはセルロース系である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−183644号公報
【特許文献2】特開平6−127999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、水中不分離性コンクリートの適用箇所の大部分は、流れの少ない海水、河川、湖沼の中である。その水温は総じて5〜25℃程度、コンクリート打込み時の材料温度も5〜35℃程度がほとんどである。しかし、セルロース系増粘剤に代表される従来の水中不分離性混和剤は温度に対する粘性の変化が大きい。寒冷地において打込み時の温度が例えば15℃以下と低くなる場合は粘性が増大してコンクリート混練物の流動性低下が問題となりやすい。暑中期において打込み時の温度が例えば30℃以上と高くなる場合は粘性が低下し材料分離抵抗性の低下が問題となりやすい。
【0006】
打込み時の温度が低くなることに起因するコンクリート混練物の流動性低下に関しては、分散剤である高性能AE減水剤の添加量を増やしたり、単位水量を増やしたりする対策により改善することが可能である。しかしながら、打込み時の温度が高くなる場合の材料分離抵抗性低下を改善することは非常に難しい。増粘剤の添加量を増大しても例えば45℃以上といった高温域では、コンクリート混練物の材料分離抵抗は向上しない。
【0007】
このように、コンクリート打込み時の温度が例えば45℃以上となるような高温環境で優れた材料分離抵抗性を発揮させる技術はまだ確立されていない。しかし今後、地熱発電開発、温泉開発、大深度掘削工事などにおいて高温水中環境にコンクリートを打ち込むニーズの発生が予想される。また、水中不分離性コンクリートの従来一般的な適用箇所においても、暑中期における混練物の材料分離抵抗をより安定して改善する技術が求められている。
【0008】
本発明は、45℃以上となるような高温で優れた水中不分離性を呈する自己充填性セメント系混練物を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは種々研究の結果、AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)ポリマーをセメント系混練物に多量に添加したとき、45℃以上の高温水中環境で極めて良好な材料分離抵抗を示す混練物が得られることを発見した。AMPSポリマーは、土木分野では地熱温度が約200℃になる5000m級の大深度掘削や地熱発電開発の現場で、ボーリング用泥水の脱水調整剤として用いられることがある。しかし、AMPSポリマーがセメント系混練物の水中不分離性混和剤として有用であることは知られていなかった。本発明は、以下のような新たな知見に基づいて完成したものである。
(i)AMPSポリマーを多量に添加したセメント系混練物において高温での材料分離抵抗が顕著に改善される。
(ii)その場合、一般的な減水剤との併用により高温での自己充填性も確保できる。
(iii)硬化後において従来の水中不分離性コンクリートと同等の強度レベルが得られる。
【0010】
すなわち本発明では、水、セメント、骨材および混和材料を練混ぜたセメント系混練物であって、混和材料として、AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)
ホモポリマーを水100質量部に対し2.0〜10.0質量部含有し、減水剤をセメント100質量部に対し0.1質量部以上かつ下記(1)式を満たす範囲で含有する高温での水中不分離性に優れた自己充填性セメント系混練物が提供される。
Y≦1.5X−2 …(1)
ここで、XはAMPS
ホモポリマーの含有量(水100質量部に対する質量部)、Yは減水剤の含有量(セメント100質量部に対する質量部)である。
【0011】
上記セメント系混練物において、特に45〜80℃の温度範囲内に、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を水中落下させた場合の濁度が100ppm未満となり、かつスランプフロー値が500mm以上700mm未満となる温度T(℃)を有するものが実現される。
【0012】
また、上記セメント系混練物の製造方法として、水、セメント、骨材および混和材料を練混ぜて自己充填性セメント系混練物を得るに際し、混和材料としてAMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)
ホモポリマーおよび減水剤を用意し、
45〜80℃の範囲内に設定したある温度T(℃)において、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を水中落下させた場合の濁度が100ppm未満となり、かつスランプフロー値が500mm以上700mm未満となるように、
AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)
ホモポリマーの配合量を水100質量部に対し2.0〜10.0質量部の範囲、減水剤の配合量をセメント100質量部に対し0.1質量部以上かつ上記(1)式を満たす範囲で調整する手法が提供される。
【0013】
上記において、「T℃において、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を水中落下させた場合の濁度が100ppm未満となる」とは、当該JSCE−D 104−2007の規格は水温20℃で試験を実施するものであるが、この水温20℃に代えて水温T℃で試験を実施した場合、濁度が100ppm未満となることを意味する。ただし水温以外の試験条件は当該JSCE−D 104−2007の規格に従う。
また、「T℃において、スランプフロー値が500mm以上700mm未満となる」とは、T℃の温水中に湯煎した混練物試料を用いてスランプ試験を実施した場合のスランプフロー値が500mm以上700mm未満となることを意味する。湯煎時間は、湯煎浴の水温をT℃に維持した状態で60分以上とすればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従えば45℃以上の高温水中環境において優れた材料分離抵抗を発揮する自己充填性セメント系混練物が実現できる。すなわち、従来高温であるため混練物の粘性が低下して材料分離が生じてしまう水中環境において、締め固めの不要なセメント系混練物の打設が可能となる。この混練物の硬化体は従来の水中不分離性コンクリートと同レベルの強度を発現する。したがって本発明は、水中不分離性セメント系材料の用途を、地熱発電開発、温泉開発、大深度掘削工事など、従来適用が困難であった分野へと広げるものである。また、従来の用途においても暑中期における混練物の水中分離抵抗性をより安定して改善することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔AMPSポリマー〕
AMPS(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)ポリマーはアクリル系ポリマーの一種であり、融点が185〜200℃と高く、高温環境下においても優れた粘性と保水性を発揮する。ここでは、従来ボーリング用泥水の脱水調整剤として用いられているものを使用することができる。本発明ではこれをセメント系材料の水中不分離性混和剤(増粘剤)として使用する。ただし、従来一般的なセルロース系あるいはアクリル系水中不分離性混和剤の常識的な添加量では、材料分離抵抗の改善作用は十分に発現しない。発明者らは、AMPSポリマーはセメント系混練物(すなわちモルタルまたはコンクリート混練物)に多量に添加することによってはじめて水中不分離性混和剤として機能し、そのとき高温においても優れた材料分離抵抗が維持されることを発見した。
【0016】
種々検討の結果、セメント系混練物中におけるAMPSポリマーの含有量を水100質量部に対し2.0質量部以上とすることによって、少なくとも45℃において優れた材料分離抵抗が得られる。従来のセルロース系あるいはアクリル系水中不分離性混和剤では、多量添加を行ったとしても、水温が45℃にまで上昇すると安定して水中不分離性を維持することが困難であった。しかし、AMPSポリマーを水100質量部に対し2.0質量部以上添加することにより少なくとも45℃程度までは安定して優れた水中不分離性が実現できる。これにより、水中不分離性セメント系材料の従来の適用箇所において、暑中期の打設時における信頼性が大幅に向上する。AMPSポリマーの含有量を水100質量部に対し3.0質量部以上とすることによって、例えば同じ45℃の温水環境であっても、材料分離抵抗をより一層向上させることができる。
【0017】
AMPSポリマーの配合量が多くなるほど、より高温まで優れた水中不分離性が維持されるようになる。例えば、60℃程度まで良好な水中不分離性を得るのであれば、AMPSポリマーの含有量を水100質量部に対し3.5質量部以上とすることが好ましい。さらに80℃程度まで良好な水中不分離性を得る場合は、AMPSポリマーの含有量を水100質量部に対し4.0質量部以上とすることが好ましく、6.0質量部以上とすることがさらに効果的である。ただし、AMPSポリマーの配合量が多くなりすぎると、後述の減水剤の添加によっても混練物の自己流動性が確保できなくなる。種々検討の結果、AMPSポリマーの含有量は水100質量部に対し10.0質量部以下とすることが望ましい。
【0018】
〔減水剤〕
上述のAMPSポリマーは増粘剤であるので、その含有はセメント系混練物の流動性を低減させる方向に作用する。しかし、AMPSポリマーの含有量に応じて適量の減水剤を添加することによって、自己充填性を確保できることがわかった。減水剤は混練物中のセメント粒子を分散させる作用のある混和剤であり、本発明では従来からセメント系混練物に使用されている各種減水剤(AE減水剤、高性能AE減水剤を含む)を使用することができる。
【0019】
セメント系混練物中の減水剤の含有量はセメント100質量部に対し0.1質量部以上とすることが有効である。減水剤の含有量が多いほど流動性改善効果は大きくなる傾向を示すが、一方で、減水剤は温水環境での水中不分離性を阻害する要因を有し、その阻害要因は高温になるほど顕著になる。また、減水剤を過剰に添加すると高温での流動性は逆に低下することが明らかとなった。詳細な検討の結果、減水剤の含有量はAMPSポリマー含有量とのバランスにおいて設定する必要がある。発明者ら検討によれば、減水剤の含有量はAMPSポリマー含有量との関係において下記(1)式を満たす範囲で調整する必要がある。
Y≦1.5X−2 …(1)
ここで、XはAMPSポリマーの含有量(水100質量部に対する質量部)、Yは減水剤の含有量(セメント100質量部に対する質量部)である。
なお、減水剤の含有量はセメント100質量部に対し4.0質量部以下の範囲で設定することがより好ましい。
【0020】
〔セメント系混練物〕
本発明で対象とするセメント系混練物は、自己充填性を有する従来の水中不分離性コンクリートまたはモルタルの配合をベースとすることができる。すなわち、水、セメント、骨材および混和材料を練混ぜて自己充填性のセメント系混練物とするに際し、混和材料としてAMPSポリマーおよび減水剤を上述のように所定量混和させることによって得られる。水セメント比は35〜100%の範囲で設定すればよい。
【0021】
上述のように、水100質量部に対するAMPSポリマーの含有量を2.0質量部確保すれば、45℃において優れた水中不分離性が得られる。それより高温での水中不分離性を改善するためにはAMPSポリマーの配合量を水100質量部に対し10.0質量部以下の範囲で増量する必要がある。また、自己充填性を確保するために添加する減水剤の量もAMPSポリマーの含有量に応じて上記(1)式による制限を受ける。したがって、打設箇所の想定温度T℃において、水中不分離性と流動性の両面を満足できるように配合を決定することが重要である。
【0022】
水中不分離性に関しては、所定の想定温度T℃において、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて混練物試料をT℃の水中に落下させた場合の濁度を評価指標とすることができる。発明者らは、この濁度と、目視による濁りの評価を総合的に種々検討したところ、濁度が100ppm未満となれば実用的な水中不分離性を有すると評価できることがわかった。濁度が50ppm未満となれば特に優れた水中不分離性を有すると評価できる。
【0023】
流動性に関しては、所定の想定温度T℃に湯煎した混練物についてスランプフロー試験を実施した場合に、スランプフロー値が500mm以上となる流動性を呈する混練物は、T℃の環境に打設したときにバイブレータを必要としないセルフレベリング性を十分に有すると評価できる。T℃でのスランプフロー値が600mm以上であることがより好ましい。ただし、スランプフロー値が700mm以上となる流動性を有するセメント系混練物は、配合によっては材料分離を助長するため、T℃でのスランプフロー値が700mm未満となるように流動性をコントロールすることが望ましい。
【実施例】
【0024】
《実施例1》
表1に示す配合のセメント系混練物を作製した。セメントは油井セメントを使用した。混和材料は増粘剤と減水剤であり、それぞれ以下のものから選択した。
〔増粘剤〕
・セルロース系;三井化学産資(株)製、ハイドロクリートUWB
・AMPSポリマー;(株)テルナイト製、ドリスカルD
〔減水剤〕
・種類記号a:高性能AE減水剤;(株)フローリック製、フローリックSF500S
・種類記号b:高性能減水剤;BASFポゾリス(株)製、レオビルド8000E
・種類記号c:AE減水剤;(株)フローリック製、フローリックSV10
【0025】
〔流動性評価〕
各混練物のサンプルを20℃、45℃、60℃、80℃の各温度で60分間湯煎したのち、ただちにスランプフロー試験を行い、それぞれの温度でのスランプフローを測定した。スランプフローが500mm未満ではセルフレベリング性に劣り、締め固めにバイブレータが必要となることがある。高温水中に打設する場合には締め固め作業が困難な場合が多い。スランプフローが500mm以上であれば良好な自己充填性を有すると評価でき、特にスランプフローが600mm以上である混練物は優れた施工性を有する。ただし、スランプフローが700mm以上になると配合によっては材料分離を起こす懸念がある。したがって、流動性については以下の3段階に評価を分類し、○評価および◎評価を合格と判定した。
◎; スランプフロー:600mm以上700mm未満
○; スランプフロー:500mm以上600mm未満
△; スランプフロー:500mm未満または700mm以上
【0026】
〔水中不分離性評価〕
各混練物について、コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)JSCE−D 104−2007に準じて当該混練物の試料を20℃、45℃、60℃、80℃の各温度の水中に落下させた場合の濁度を求めた。前述のように、この濁度が100ppm未満であれば実用的な水中不分離性を有すると評価でき、50ppm未満であれば特に優れた水中不分離性を有すると言える。ここでは水中不分離性について以下の4段階に評価を分類し、○評価および◎評価を合格と判定した。
◎; 濁度:50ppm未満
○; 濁度:50ppm以上100ppm未満
△; 濁度:100ppm以上150ppm未満
×; 濁度:150ppm以上
これらの結果を表1に示す。表1中、増粘剤の数値は水100質量部に対する質量部を表示してあり、減水剤の数値はセメント100質量部に対する質量部を表示してある。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明例のものはAMPSポリマーを水100質量部に対し2.0〜10.0質量部含有し、減水剤をセメント100質量部に対し0.1〜4.0質量部かつ前記(1)式を満たす範囲で含有することにより、少なくとも45℃での温水環境で良好な水中不分離性および流動性を呈する。これらのうち、AMPSポリマーの含有量を水100質量部に対し3.5質量部以上としたものにおいて60℃で良好な水中不分離性を呈するものが得られ、さらに、水100質量部に対し4.0質量部以上としたものにおいて80℃で良好な水中不分離性を呈するものが得られた。
【0029】
これに対し、比較例No.1はセルロース系増粘剤を使用した従来の水中不分離性コンクリートであり、常温付近では優れた水中不分離性を示すものの、45℃において濁度が100ppm以上となった。No.2はAMPSポリマーの含有量が少なすぎたため温水環境での水中不分離性を十分に改善することができなかった。No.5、10、16は減水剤の含有量が前記(1)式を満たさないものであり、AMPSポリマーの含有量に対し減水剤の含有量が多すぎたことによりAMPSポリマーによる水中不分離性の改善効果が十分に発揮されなかった。その結果、45℃において水中不分離性の改善が不十分であった。No.20はAMPSポリマーの含有量が過剰であるため流動性に劣った。
【0030】
《実施例2》
表1に示した従来の水中不分離性コンクリートであるNo.1の混練物を用いた硬化体について20℃標準養生における強度発現性を調べた。また、本発明例のいくつかの混練物を用いた硬化体について20℃標準養生および80℃高温養生における強度発現性を調べた。その結果を表2に示す。表2中のNo.は表1のNo.に対応する。
【0031】
【表2】
【0032】
表2からわかるように、本発明例であるNo.9、13のものは80℃高温養生においても20℃標準養生と同等の強度が得られ、その80℃高温養生での強度レベルは従来の水中不分離性コンクリート(No.1)の20℃標準養生の場合と比べても遜色ないレベルであった。No.19はAMPSポリマーの含有量を本発明規定範囲の上限としたものであるが、80℃高温養生で圧縮応力17.3N/mm
2の強度が得られており、80℃程度の高温水中での水中不分離性を重視する用途において有用である。