(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、エレベーターの昇降方向を「鉛直方向」と称し、鉛直方向に垂直な方向を「水平方向」と称する。また、水平方向のうち、エレベーター機器用点検台が設置されるエレベーター昇降路の壁面に平行な方向を「幅方向」と称し、幅方向の長さを「幅」と称する。
【0014】
本発明によるエレベーター機器用点検台は、作業者の乗り場となる踏み面が、点検時には水平方向を向く水平姿勢を取り、収納時には鉛直方向を向く鉛直姿勢を取ることで、昇降路内に配置される機器との干渉が生じない。さらに、幅方向の収納スペースが小さい場合や補強部材などの収納を妨げる物体が存在する場合でも、点検時と収納時とで点検台の幅を変更することで、容易に収納が可能である。点検台は、収納時の鉛直姿勢と点検時の水平姿勢との間で回動可能であり、収納時には、点検時と比較して、点検台の幅を最大で半減させることが可能な構造を有する。従って、収納スペースを最大で半減させることができる。また、既存のエレベーターに設置するのが容易であり、建屋に影響を及ぼすことなく設置可能である。
【0015】
まず、従来技術によるエレベーター機器用点検台の例を、
図1と
図2を用いて説明する。
【0016】
図1と
図2は、従来技術によるエレベーター機器用点検台の例を示す図であり、
図1は点検時の略式側面図であり、
図2は点検時の略式正面図である。なお、
図1には、点検台を、点検時の水平姿勢から回動させて収納時の鉛直姿勢にする様子が、図中の矢印で表されている。
【0017】
図1と
図2に示すように、エレベーター機器用点検台は、エレベーター昇降路1内に設置される。エレベーター昇降路1内の壁面は、
図1では左側に存在し、
図2では点検台の奥側(紙面の向こう側)に存在する。
図2では、壁面の図示を省略している。
【0018】
エレベーター昇降路1内の壁面には、点検対象であり、エレベーターを運行するために必要なエレベーター機器2が設置され、エレベーター機器2の鉛直方向の下方には、エレベーター機器用点検台を支持するベース部3が設置されている。また、エレベーター昇降路1内には、補強部材などの部材11が設置されているものとする。
【0019】
エレベーター機器用点検台は、支持梁5と、作業者の乗り場となる踏み面6と、手摺り7と、左右の支柱9と、保持軸10とを備える。支持梁5は、ベース部3に固定された支点軸4を中心にして、鉛直姿勢(鉛直方向を向く姿勢)から水平姿勢(水平方向を向く姿勢)の間で回動可能に設けられる。踏み面6は、支持梁5の上面に取り付けられて支持梁5に支持され、鉛直姿勢(鉛直方向を向く姿勢)と水平姿勢(水平方向を向く姿勢)を取ることができる。手摺り7は、作業者の落下防止のために設けられており、踏み面6に回動可能に取り付けられ、踏み面6に対して点検時には垂直となり収納時には水平となる。支柱9は、エレベーター機器2の上方に設けられた支柱回転軸8を中心に回動可能であり、点検時に支持梁5を水平姿勢に保持する。保持軸10は、点検時に支持梁5と支柱9を貫通し、支持梁5と支柱9を連結する。
【0020】
ここで、エレベーター機器用点検台を、点検時の状態、すなわち支持梁5および踏み面6が水平姿勢である状態から、収納時の状態、すなわち支持梁5および踏み面6が鉛直姿勢である状態に変えて収納する(
図1中の矢印のように回動させて点検台を収納する)ことを考える。支持梁5と支柱9から保持軸10を外して支持梁5と支柱9の連結を解除し、支持梁5および踏み面6を回動させて鉛直姿勢にする。この際、エレベーター昇降路1内の部材11が支持梁5の回動経路に存在する場合には、支持梁5と部材11は干渉部12において干渉する。このため、点検台は鉛直姿勢での収納ができない。
図2に示すように、点検台の収納可能スペースは、部材11の存在のために、スペース13の範囲に限定されている。
【0021】
本発明によるエレベーター機器用点検台は、このような状況において、支持梁5および踏み面6の幅を縮小させることで、収納可能スペース13の範囲に収納可能である。
【0022】
以下、本発明によるエレベーター機器用点検台の実施形態例を、
図3〜
図10を用いて説明する。なお、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台は、
図1と
図2に示した点検台と比較して、点検台の幅が縮小可能であることのみが異なり、その他の構成は同一である。従って、本実施形態例では、点検台の幅を縮小させることについてのみ説明し、
図1および
図2と同一の構成についての説明は省略する。また、
図3〜
図10において、
図1および
図2と同一の符号は
図1および
図2と同一の構成要素を示し、図の左右方向が幅方向である。
【0023】
図3は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台の全体構成を示す正面図であり、点検時の状態を示している。
図3において、エレベーター昇降路1内の壁面は、点検台の奥側(紙面の向こう側)に存在する。点検台は、
図1と
図2では手摺り7を備えるが、本実施形態例では、手摺りの代わりにチェーン18を備える。チェーン18は、左側の手摺り71と右側の手摺り72に固定され、点検台の背面手摺りとなる。
【0024】
図4は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台の支持梁を示す平面図であり、点検時の状態を示している。
図4において、エレベーター昇降路1内の壁面は、上側に存在する。
【0025】
図3と
図4を用いて、支持梁について説明する。支持梁は、大きく分けて2つの部分、すなわち左側の支持梁51と右側の支持梁52とに分割される構造とする。
図4に示すように、左側の支持梁51は、左側の垂直梁511と2本の左側の平行梁512とを有し、右側の支持梁52は、右側の垂直梁521と2本の右側の平行梁522と中央垂直梁523とを有する。左側の支持梁51は、コの字型であり、右側の支持梁52に向かって開口する中空部を有する形状である。
【0026】
左側の垂直梁511と右側の垂直梁521は、ともに、支点軸4を中心に回動可能で、支点軸4に垂直に設けられる。なお、支点軸4はベース部3(
図1参照)に固定されているが、支点軸4とエレベーター昇降路1内の壁面の間隔は、
図1に示した間隔よりも広くしてもよい。
【0027】
2本の左側の平行梁512と2本の右側の平行梁522は、それぞれ、上面と側面(正面または奥側の面)とからなる断面がL型の形状である。2本の左側の平行梁512は、左側の垂直梁511に垂直に溶接固定され、2本の右側の平行梁522は、右側の垂直梁521に垂直に溶接固定される。それぞれの平行梁512、522は、ともに支点軸4と平行に設けられ、2本の左側の平行梁512の間隔は、2本の右側の平行梁522の間隔以上であるとする。すなわち、左側の支持梁51は、右側の支持梁52に向かって開口する中空部の支点軸4に垂直な方向の長さが、右側の支持梁52の支点軸4に垂直な方向の長さ以上である。
【0028】
また、
図4に示すように、2本の左側の平行梁512の内側に、2本の右側の平行梁522が入り込む形状となっている。すなわち、右側の支持梁52は、一部または全部が左側の支持梁51の中空部に入り込むことができる。左側の平行梁512と右側の平行梁522は、互いに接しており、互いの間に隙間が生じないように配置するのが好ましい。
【0029】
中央垂直梁523は、2本の右側の平行梁522の間に、2本の右側の平行梁522に垂直に溶接固定され、右側の垂直梁521と対向するように設けられる。中央垂直梁523も、2本の左側の平行梁512の内側に入り込むことができる。
【0030】
ここで、左側の垂直梁511は、支点軸4に溶接固定されている。一方、右側の垂直梁521と中央垂直梁523は、丸穴を有し、この丸穴に支点軸4が貫通しており、支点軸4に沿って幅方向(
図3、
図4の左右方向)にスライドが可能である。
【0031】
また、中央垂直梁523は、長さ方向(
図4の上下方向)の中心に対して支点軸4と対称となる位置に、保持軸10が貫通する構造とする。保持軸10は、支点軸4と同様に、左側の垂直梁511、中央垂直梁523、および右側の垂直梁521を貫通する。ただし、支点軸4と異なり、左側の垂直梁511には溶接固定されていない。
【0032】
保持軸10は、一端に六角頭を持ち、他端に短いねじ部分を有するボルト状とする。支柱9の先端に設けた穴に保持軸10を貫通させ、保持軸10のねじ部分の終端まで保持軸ナット16を締め込むことで、支持梁5と支柱9を連結することができる。
【0033】
2本の左側の平行梁512には、ボルト14が溶接固定されている。ボルト14は、右側の平行梁522に設けられた長穴15を介して、固定用ナット17で強固に固定されている。固定用ナット17を緩めることで、右側の支持梁52は、左側の支持梁51に対して、長穴15をガイドとして幅方向(
図3、
図4の左右方向)のスライドが可能となる。従って、右側の支持梁52を左側の支持梁51に向けてスライドさせていき、右側の支持梁52の一部または全部を左側の支持梁51の中空部に入り込ませることができる。
【0034】
次に、踏み面について説明する。踏み面は、2つの部分、すなわち左側の踏み面61と右側の踏み面62とに分割される構造とする(
図3)。左側の踏み面61は、左側の支持梁51の上面に取り付けられ、右側の踏み面62は、右側の支持梁52の上面に取り付けられる。
【0035】
図5は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台の踏み面の構成を示す略式平面図である。
図6は、
図5に示した踏み面の断面図であり、
図5におけるA−A断面を示している。
図6に示すように、左側の踏み面61と右側の踏み面62には、鉛直方向(
図6の上下方向)に縁が設けられている。なお、理解の助けになるように、
図5と
図6では踏み面(縁も含む)の板厚を誇張して厚く描いており、
図6には左側の垂直梁511、左側の平行梁512、右側の垂直梁521、および右側の平行梁522も記載している。
【0036】
図5に示すように、左側の踏み面61は、右側の踏み面62より奥行き方向(
図5の上下方向)の長さが短くなっている。さらに、
図6に示すように、左側の踏み面61と右側の踏み面62とが重なることができるように、左側の踏み面61と右側の踏み面62は、鉛直方向の位置が互いに異なるように配置する。例えば、左側の踏み面61の下面の位置が、右側の踏み面62の上面の位置よりも、鉛直方向において上方になるように配置する。好ましくは、左側の踏み面61の下面の位置と右側の踏み面62の上面の位置とが、鉛直方向において等しくなるように配置する。このような形状と配置により、右側の支持梁52がスライドして左側の支持梁51の内側に入り込んだとき、右側の踏み面62の縁の内側に左側の踏み面61の縁が入り込んで(
図5を参照)、右側の踏み面62と左側の踏み面61とが重なり合うことができる。
【0037】
なお、実際には、左側の踏み面61と右側の踏み面62の板厚は数mmである。このため、
図6における左側の踏み面61と右側の踏み面62との段差(鉛直方向の位置の差)は、作業者がつまずかない程度のものであり、安全性に問題はない。
【0038】
以上の踏み面の構成を踏まえ、
図3と
図6に示すように、右側の支持梁52において、垂直梁521と平行梁522の上面は、同一の高さに位置する面である。一方、左側の支持梁51においては、垂直梁511と平行梁512の上面には高さ方向の位置に差を設け、左側の踏み面61と右側の踏み面62とに段差を設けている。
【0039】
図7と
図8を用いて、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台において、収納時に幅を縮小した状態を説明する。
図7は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台の全体構成を示す正面図であり、収納時に幅を縮小した状態を示している。
図8は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台の支持梁を示す平面図であり、収納時に幅を縮小した状態を示している。なお、保持軸10は、幅を縮小する前に、保持軸ナット16を外し、左側の垂直梁511、中央垂直梁523、右側の垂直梁521、および左右の支柱9から外しておく。
【0040】
図7と
図8に示すように、左側の垂直梁511と中央垂直梁523とが接する状態まで、または左側の平行梁512と右側の垂直梁521とが接する状態まで、右側の支持梁52を左側の支持梁51に向かって、支点軸4に沿って幅方向にスライドさせることが可能であり、点検台の幅をおよそ半減することができる。この状態で固定用ナット17をボルト14に強固に締め込むことで、収納時に自動的に点検台の幅が広がることを防止できる。
【0041】
右側の支持梁52を、左側の垂直梁511と中央垂直梁523とが接する状態、または左側の平行梁512と右側の垂直梁521とが接する状態までスライドさせずに、途中でスライドをやめて収納してもよい。このように、本実施形態例による点検台は、収納スペースの大きさに応じて点検台の幅を縮小することができる。点検台の幅は、最大で半減できるが、必ずしも常に半減しなくてもよい。
【0042】
また、点検台の背面手摺りがチェーン18で構成されているので、点検台の幅を縮小してもチェーン18のたわみが増すだけであり、収納の邪魔にはならない。なお、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台では、背面手摺りは、エレベーター機器2に作業者が対面したときに、点検台の背面端が分かるよう注意喚起のため設置しているものである。従って、チェーンによる構成で充分に背面手摺りとしての要件を満たす。
【0043】
本実施形態例によるエレベーター機器用点検台において、収納時の状態から点検時の状態へ変更する手順の一例を示す。前述したように、支持梁5および踏み面6は、収納時では鉛直姿勢であり、点検時では水平姿勢である。
【0044】
鉛直姿勢となっている支持梁5を、支点軸4を中心に回動させて持上げ、左側の垂直梁511、中央垂直梁523、右側の垂直梁521、および左右の支柱9に保持軸10を通す。保持軸10の六角頭と反対側に設けたねじ部分に保持軸ナット16を取り付けて、支持梁5を水平姿勢に保持する。固定用ナット17を緩め、ボルト14が長穴15の左端に位置するまで右側の支持梁52を右側にスライドさせて、点検台の幅を広げる。この後、ボルト14に固定用ナット17を強固に締め付けることによって、
図3に示した点検時の状態となる。
【0045】
なお、支点軸4および保持軸10は、踏み面6に作業者が乗り込んだ際に充分な強度を有する部材を用いる。これにより、連結される左側の垂直梁511、中央垂直梁523、および右側の垂直梁521から成る枠体が強固なものとなり、支持梁5の上面に固定される踏み面6の強度が保障される。
【0046】
このように構成されたエレベーター機器用点検台によれば、点検時と収納時とで幅方向の長さを変更することで収納スペースを減少させることが可能であり、従来の点検台が必要とする収納スペースに補強部材などの収納を妨げる物体が存在する場合においても、建屋に影響を及ぼすことなく、容易に点検台の収納が可能である。
【0047】
さらに、点検台の幅を変更する作業は、保持軸10と保持軸ナット16の脱着と、固定用ナット17の締緩と、右側の支持梁52のスライドだけでよく、容易に幅の変更が可能である。
【0048】
以上の実施例では、左側の垂直梁511が支点軸4に溶接固定されており、右側の支持梁52をスライドさせて点検台の幅を変更していた。点検台の幅を変更する方法は、これだけに限らない。例えば、右側の垂直梁521を支点軸4に溶接固定し、左側の垂直梁511を支点軸4に固定せずに、左側の支持梁51をスライドさせて点検台の幅を変更してもよい。また、左側の垂直梁511と右側の垂直梁521の両方を支点軸4に固定せず、左側の支持梁51と右側の支持梁52の2つをスライドさせて点検台の幅を変更してもよい。すなわち、左側の支持梁51を右側に向かってスライドさせ、右側の支持梁52の左側に向かってスライドさせて、点検台の幅を変更してもよい。
【0049】
図9と
図10は、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台で、左側の支持梁51と右側の支持梁52をスライドさせて幅を縮小した状態を示している。
図9は、エレベーター機器用点検台の全体構成を示す正面図であり、
図10は、エレベーター機器用点検台の支持梁を示す平面図である。
図9と
図10において、図の左右方向が幅方向である。
図7と
図8に示した例では、点検台の幅方向の一方(紙面に向かって左側)の位置において、左側の踏み面61と右側の踏み面62とを重ねて、点検台を収納していた。
図9と
図10に示す例では、点検台の幅方向の中央付近の位置において、左側の踏み面61と右側の踏み面62とを重ねて、点検台を収納している。
【0050】
図7〜
図10に示したように、本実施形態例によるエレベーター機器用点検台では、左側の踏み面61と右側の踏み面62とを重ねて点検台を収納する位置(幅方向の位置)を、支点軸4の存在する範囲において任意に選択することができる。従って、点検台の収納スペースの形状・大きさや補強部材などの収納を妨げる物体の存在位置に応じて、点検台を収納する位置を任意に変えることができるという利点がある。
【0051】
また、
図4では、2本の左側の平行梁512の間隔が、2本の右側の平行梁522の間隔より大きく、2本の左側の平行梁512の内側に、2本の右側の平行梁522が入り込む形状を示したが、支持梁5の形状は、この形状だけに限られない。例えば、2本の右側の平行梁522の間隔が、2本の左側の平行梁512の間隔より大きく、2本の右側の平行梁522の内側に、2本の左側の平行梁512が入り込む形状であってもよい。
【0052】
また、
図6では、左側の踏み面61が右側の踏み面62の上面に重なり、右側の踏み面62の内側に左側の踏み面61が入り込む形状を示したが、踏み面6の形状は、この形状だけに限られない。例えば、右側の踏み面62が左側の踏み面61の上面に重なり、左側の踏み面61の内側に右側の踏み面62が入り込む形状であってもよい。
【0053】
このように、左側の支持梁51と右側の支持梁52のうちスライドする支持梁、左側の支持梁51と右側の支持梁52の大小関係、および左側の踏み面61と右側の踏み面62の大小関係(上下関係)は、任意に選択することができ、これらの組み合わせも任意に選ぶことができる。