(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る油圧ウインチの制御装置が搭載されたクローラクレーン(以下、単にクレーンと記す。)ついて説明する。
図1は、本実施の形態に係る油圧ウインチの制御装置が搭載されたクレーン1の外観側面図である。
図1に示すように、クレーン1は、一対のクローラを有する走行体101と、走行体101上に搭載された旋回可能な旋回体102と、旋回体102に起伏可能に支持されたブーム103とを有する。旋回体102には、クレーン1の動力源であるエンジン110と、3つのウインチドラム(フロントドラム105aおよびリヤドラム105b、ブーム起伏ドラム107)とが搭載されている。
【0009】
フロントドラム105aの駆動によりフロントドラムワイヤロープ(吊りロープ)104が巻き上げまたは巻き下げられ、主フック106に吊り下げられた吊り荷106aが昇降する。なお、
図1では、リヤドラム105bの駆動により巻き上げまたは巻き下げられるリヤドラムワイヤロープと、このワイヤロープによって昇降される補フックの記載を省略している。ブーム起伏ドラム107の駆動によりブーム起伏ロープ108が巻き上げまたは巻き下げられ、ブーム103が起伏される。
【0010】
図1に示すように、旋回体102には、運転室109が設けられている。
図2は運転室109の全体を示す斜視図である。運転室109には、オペレータが着座する運転席201と、運転席201に着座したオペレータが右手で操作する右側レバー群210と、運転席201に着座したオペレータが左手で操作する左側レバー(旋回レバー)221とが設けられている。運転席201の左前方には、表示装置231が設けられ、運転室109の左上方には、省エネモードスイッチ241が設けられている。
【0011】
運転室109の床には、フロントドラム105aを制動するためのフロントドラムブレーキペダル251と、リヤドラム105bを制動するためのリヤドラムブレーキペダル252と、エンジン110の回転速度を増減させるためのアクセルペダル261と、旋回体102を制動するための旋回ブレーキペダル262とが設けられている。
【0012】
右側レバー群210は、一対の走行レバー、すなわち左側のクローラを駆動するための走行レバー、および、右側のクローラを駆動するための走行レバーと、
図3に示すように、フロントウインチ操作レバー213F、リヤウインチ操作レバー213R、および、ブーム起伏ウインチ操作レバー213Bとを含んでいる。走行レバーは、前後方向に揺動させることで右側および左側のクローラをそれぞれ駆動するための操作レバーである。フロントウインチ操作レバー213Fは、前後方向に揺動させることでフロントドラム105aを駆動するための操作レバーであり、リヤウインチ操作レバー213Rは、前後方向に揺動させることでリヤドラム105bを駆動するための操作レバーである。ブーム起伏ウインチ操作レバー213Bは、前後方向に揺動させることでブーム起伏ドラム107を駆動するための操作レバーである。
【0013】
図3を参照して、フロントウインチ操作レバー213Fおよびリヤウインチ操作レバー213Rの操作位置について説明する。フロントウインチ操作レバー213Fは、中立位置から車両前方に所定角度回動させたとき、周知のデテント機構によりデテントロックされ、ウインチ巻下1速デテント位置で保持される。フロントウインチ操作レバー213Fは、ウインチ巻下デテント位置から車両前方に所定角度回動させたとき、デテント機構によりデテントロックされ、ウインチ巻下2速デテント位置で保持される。フロントウインチ操作レバー213Fは、中立位置から車両後方に所定角度回動させたとき、デテント機構によりデテントロックされ、ウインチ巻上1速デテント位置で保持される。フロントウインチ操作レバー213Fは、ウインチ巻上デテント位置から車両後方に所定角度回動させたとき、デテント機構によりデテントロックされ、ウインチ巻上2速デテント位置で保持される。リヤウインチ操作レバー213Rは、フロントウインチ操作レバー213Fと同様、中立位置から車両前方に回動させることで、ウインチ巻下1速デテント位置、ウインチ巻下2速デテント位置に操作することができ、中立位置から車両後方に回動させることで、ウインチ巻上1速デテント位置、ウインチ巻上2速デテント位置に操作することができる。
【0014】
フロントウインチ操作レバー213Fが巻上/巻下1速デテント位置に操作されると、フック106の吊り下げられた吊りロープ104を低速で巻上げ/巻下げする低速巻上/巻下指令に相当するパイロット圧が出力される。フロントウインチ操作レバー213Fが巻上/巻下2速デテント位置に操作されると、フック106の吊り下げられた吊りロープ104を高速で巻上げ/巻下げする高速巻上/巻下指令に相当するパイロット圧が出力される。
【0015】
図2に示されている左側レバー、すなわち旋回レバー221は、前後方向に揺動させることで旋回体102を旋回駆動するための操作レバーである。
図4に示すように、旋回レバー221は、運転席201に着座するオペレータによって把持される把持部221dを有している。旋回レバー221には、アクセルグリップ221aと、旋回ブレーキスイッチ221bと、エコスイッチ221cとが設けられている。
【0016】
アクセルグリップ221aは、オペレータが左手で握った状態で、上から見たときに時計方向または反時計方向に回転させることでエンジン110の回転速度を増減するための操作装置である。旋回ブレーキスイッチ221bは、旋回体102が旋回しないように保持する旋回ブレーキを掛けるか否かを選択するためのスイッチである。エコスイッチ221cは、旋回レバー221を握った状態で操作ができるように、旋回レバー221の把持部221dの下端部に設けられている。エコスイッチ221cの機能の詳細については後述する。
【0017】
図5は、ウインチの油圧回路の概略構成を示す図である。この油圧回路は、エンジン(不図示)により駆動される第1ポンプ131および第2ポンプ132と、エンジン(不図示)により駆動されるパイロットポンプ136と、作動油タンク133と、第1ポンプ131および第2ポンプ132から吐出される圧油により回転する可変容量型の油圧モータ135とを備えている。油圧モータ135は、一対の主管路L1,L2を介して第1ポンプ131および第2ポンプ132から供給される圧油によって駆動される。
【0018】
吊りロープに取り付けられたフックを巻上げ/巻下げるために用いられる油圧モータ135としては、フロントドラム105aを回転させるためのフロントウインチ用モータと、リヤドラム105bを回転させるためのリヤウインチ用モータとがある。
図5では、便宜上、ウインチドラム駆動用の油圧モータ135として、フロントウインチ用モータを代表して図示し、フロントウインチ用モータと同様の構成とされるリヤウインチ用モータおよびリヤウインチ用モータを駆動させるための油圧回路については省略している。
【0019】
第1ポンプ131および第2ポンプ132は可変容量型の油圧ポンプであり、不図示の傾転角度制御装置によって傾転角度が制御されることでポンプ容量が制御される。油圧モータ135は、第1方向制御弁(低速用弁)141および第2方向制御弁(高速用弁)142で流れが制御された第1ポンプ131および第2ポンプ132からの圧油によって駆動される。油圧モータ135には第1ポンプ131からの圧油のみが導かれる、あるいは第1ポンプ131および第2ポンプ132からの圧油が合流して導かれる。
【0020】
油圧回路は、第1方向制御弁141および第2方向制御弁142と、ウインチの駆動を指令するウインチ操作レバー213(213F)と、ウインチ操作レバー213の操作量に応じたパイロット圧を発生するパイロット弁213a,213bと、モータ容量制御装置120とを有する。油圧回路は、パイロット弁213aからの巻上側2次圧またはパイロット弁213bからの巻下側2次圧のいずれかを選択するシャトル弁218とを有する。
【0021】
第1方向制御弁141は、第1ポンプ131から油圧モータ135への圧油の流れを制御し、第2方向制御弁142は、第2ポンプ132から油圧モータ135への圧油の流れを制御する。第1方向制御弁141および第2方向制御弁142は、いずれも上述した運転室109内に設けられたウインチ操作レバー213(213F)の操作方向および操作量に応じて制御される油圧パイロット操作方式の制御弁である。
【0022】
第1方向制御弁141が位置Aに切り換わると、第1ポンプ131の吐出油が主管路L2を介して油圧モータ135に供給され、油圧モータ135が巻上げ方向に回転する。第1方向制御弁141が位置Bに切り換わると、第1ポンプ131の吐出油が主管路L1を介して油圧モータ135に供給され、油圧モータ135が巻下げ方向に回転する。第2方向制御弁142が位置Aに切り換わると、第2ポンプ132の吐出油が主管路L2を介して油圧モータ135に供給され、油圧モータ135が巻上げ方向に回転する。第2方向制御弁142が位置Bに切り換わると、第2ポンプ132の吐出油が主管路L1を介して油圧モータ135に供給され、油圧モータ135が巻下げ方向に回転する。
【0023】
ウインチ操作レバー213を巻上方向(
図3において手前方向)または巻下方向(
図3において奥方)に操作すると、操作量の増加に伴いパイロット弁213a,213bからの2次圧(以下、パイロット圧と記す。)が上昇する。パイロット圧は第1方向制御弁141および第2方向制御弁142のパイロット部にそれぞれ導かれ、第1方向制御弁141および第2方向制御弁142を切り換える。
【0024】
ウインチ操作レバー213の操作量と第1方向制御弁141および第2方向制御弁142の切換量との関係の一例を
図7に示す。
図7に示す特性C1は、ウインチ操作レバー213の操作量(操作角)αと、第1方向制御弁(低速用弁)141の切換量(バルブストローク)との関係を示す特性である。
図7に示す特性C2は、ウインチ操作レバー213の操作量αと、第2方向制御弁(高速用弁)142の切換量との関係を示す特性である。
【0025】
特性C1に示すように、第1方向制御弁141の切換量(バルブストローク)は、操作量αが0からα1の範囲では0であり、α1からα2の範囲では操作量αの増加に伴い比例的に増加し、α2以上では最大切換量(最大ストローク)に保持される。特性C2に示すように第2方向制御弁142の切換量(バルブストローク)は、操作量αが0からα2の範囲では0であり、α2からα3の範囲では操作量αの増加に伴い比例的に増加し、α3で最大切換量(最大ストローク)になる。
【0026】
ウインチ操作レバー213の操作量αが少ない1速(低速)領域(α1<α<α2)では第1方向制御弁141のみが切り換えられ、油圧モータ135には第1ポンプ131からの圧油が供給される。ウインチ操作レバー213の操作量αが多い2速(高速)領域(α2<α<α3)では第1方向制御弁141および第2方向制御弁142の双方が切り換えられ、油圧モータ135には第1ポンプ131および第2ポンプ132の双方からの圧油が供給される。このような2ポンプ合流方式を採用することで、ウインチ操作レバー213の操作量αの増加に伴い油圧モータ135に供給される圧油量を増加させ、1速領域で操作されているときの油圧モータ135の回転速度に比べて、2速領域で操作されているときの油圧モータ135の回転速度を大きくすることができる。
【0027】
なお、上述したように、ウインチ操作レバー213には周知のデテント機構(不図示)が設けられおり、ウインチ操作レバー213の操作量αがα2となるまで操作すると、デテント機構が作動して、ウインチ操作レバー213は1速巻上/巻下デテント位置(
図3参照)においてデテントロックされ、ウインチ操作レバー213から手を放した状態でレバー操作量αをα2に保持できる。ウインチ操作レバー213の操作量αがα3となるまで操作すると、デテント機構が作動して、ウインチ操作レバー213は2速巻上/巻下デテント位置(
図3参照)においてデテントロックされ、ウインチ操作レバー213から手を放した状態でレバー操作量αをα3に保持できる。
【0028】
モータ容量制御装置120の構成について説明する。
図5に示すようにモータ容量制御装置120は、モータ傾転(モータ吸収量ともいう)を変化させるピストン121と、第1ポンプ131および第2ポンプ132の吐出圧の高圧側を選択する第1高圧選択弁118と、第1高圧選択弁118からの圧油または油圧モータ135に接続された一対の主管路L1,L2からの圧油の高圧側を選択し、ピストン121の油室R1,R2に導く第2高圧選択弁119と、油室R1への圧油の流れを制御する制御弁123と、シャトル弁218から制御弁123へのパイロット圧を後述のコントローラからの指令に基づいて減圧する電磁比例減圧弁160と、第2高圧選択弁119から制御弁123への圧油の流れをカットするカットオフ弁124と、後述する電磁切換弁125と、フィードバック機構126とを有する。
【0029】
油室R1内のピストン径は油室R2内のピストン径よりも大きく、制御弁123およびカットオフ弁124が図示a位置に切り換わると、ピストン121は図示X2方向に移動し、モータ傾転q(以下、モータ容量とも記す。)は減少する。一方、制御弁123がc位置に切り換わり、油室R1内の圧力がタンク圧になると、ピストン121はX1方向に移動し、モータ容量qは増加する。なお、モータ容量qの変化はフィードバック機構126により制御弁123にフィードバックされ、サーボ機構として作用する。
【0030】
制御弁123は、電磁比例減圧弁160を介して供給されるパイロット圧油に応じて切り換わる。
図5に示すように、パイロット弁213aまたはパイロット弁213bからのパイロット圧PLは、シャトル弁218を介して電磁比例減圧弁160に導かれ、電磁比例減圧弁160よって減圧された圧油が制御弁123に導かれる。
【0031】
図6(a)はウインチ操作レバー213の操作量とパイロット圧PLとの関係を示す図であり、
図6(b)はパイロット圧PLと制御弁123に作用する圧力PCとの関係を示す図である。
図6(a)に示すように、パイロット弁213a,213bからは、ウインチ操作レバー213の操作角α(操作量)に応じたパイロット圧PLが出力される。操作角αが所定値α1未満であるときには、パイロット圧PLは上昇せず、操作角αが所定値α1になったときに、パイロット圧PLがPLAまで上昇する。レバー操作角αがα1〜α2の範囲では、パイロット圧PLはレバー操作角αに比例して増加する。
【0032】
電磁比例減圧弁160の減圧度は、後述のコントローラ150(
図8参照)からの制御電流Iにより制御される。
図6(b)に示すように、電磁比例減圧弁160の弁特性は、ソレノイドに入力される制御電流Iの増加に伴い減圧度が小さくなるように、すなわち2次圧力が大きくなるように設定されている。制御弁123は、ウインチ操作レバー213の操作量αに応じて出力されるパイロット圧PLが電磁比例減圧弁160によって減圧された2次圧力PCに応じて切り換わる。
【0033】
2次圧力の増加に伴い制御弁123はa位置側へ切り換えられてモータ傾転が小さくなり、2次圧力の減少に伴い制御弁123はc位置側へ切り換えられてモータ傾転が大きくなる。
【0034】
このように、制御弁123は、コントローラ150によって動作する電磁比例減圧弁160と、ウインチ操作レバー213の操作量αに応じて出力されるパイロット圧PLに応じて切り換えられる。たとえば、ウインチ操作レバー213により1速(低速)または2速(高速)が指令されると、電磁比例減圧弁160には制御電流I=I1またはI=I2が入力され、
図6(b)に示すように、パイロット圧PLが所定の減圧度で減圧され、所定の2次圧力PCが制御弁123に作用し、制御弁123はa位置とb位置との間の第1の所定位置(不図示)または第2の所定位置(不図示)に切り換えられる。制御弁123が第1または第2の所定位置に切り換えられると、第2高圧選択弁119からの圧油が制御弁123により僅かに絞られてから油室R1に導かれてピストン121がX2方向に移動し、モータ傾転が減少する。モータ傾転の減少量はフィードバック機構126により制御弁123にフィードバックされ、制御弁123はb位置に切り換わり、モータ傾転qが最小容量qminよりも大きく最大容量qmaxよりも小さい所定容量で安定する。
【0035】
後述する省エネモード条件が成立している状態で、ウインチ操作レバー213を巻上1速デテント位置から巻上2速デテント位置に向かって、あるいは、巻下1速デテント位置から巻下2速デテント位置に向かって操作すると省燃費高速運転条件が成立し、コントローラ150からは制御電流I=Imax(最大電流)が出力される。ウインチ操作レバー213がフル操作されると、
図6(b)に示すように、パイロット弁213a,213bからは、パイロット圧PL=Pmax(最大パイロット圧)が出力され、電磁比例減圧弁160により減圧されずに、最大パイロット圧PLmaxが制御弁123に作用し、制御弁123はa位置に切り換えられる。制御弁123がa位置に切り換えられると、第2高圧選択弁119からの圧油が油室R1に導かれてピストン121がX2方向に移動し、モータ傾転が減少する。モータ傾転の減少量はフィードバック機構126により制御弁123にフィードバックされ、モータ容量qが最小容量qminの状態で制御弁123はb位置に切り換わり、モータ傾転が安定する。
【0036】
カットオフ弁124は、第2高圧選択弁119からの圧油の圧力に応じて切り換わる。第2高圧選択弁119からの圧力がカットオフ圧Pcよりも小さいと、カットオフ弁124はa位置に切り換わり、第2高圧選択弁119から油室R1への圧油の供給が許容される。第2高圧選択弁119からの圧力がカットオフ圧Pcと等しくなると、カットオフ弁124はb位置に切り換わり、油室R1への圧油の供給が禁止され、モータ傾転の減少が防止される。第2高圧選択弁119からの圧力がカットオフ圧Pcより大きくなると、カットオフ弁124はc位置に切り換わり、油室R1の圧油をタンク133に戻し、モータ傾転が大きくなる。
【0037】
カットオフ弁124には、カットオフ圧Pcを設定するためのばね124aが設けられており、カットオフ圧Pcはばね124aの付勢力により第1のカットオフ圧Pc1に設定されている。
【0038】
本実施の形態では、後述する省燃費高速運転条件が成立したときに、カットオフ圧Pcを昇圧させるための電磁切換弁125が設けられている。電磁切換弁125は、後述する省燃費高速運転条件が成立したときにb位置に切り換えられる。電磁切換弁125がb位置に切り換えられると、パイロットポンプ136からの圧油が図示するカットオフ昇圧用の油室124rへ導かれる。油室124rにパイロットポンプ136からの圧油の圧力が作用すると、カットオフ弁124のばね124aが付勢する向きと同じ方向にピストン124bが付勢され、カットオフ圧Pcが昇圧され、カットオフ圧Pcが第2のカットオフ圧Pc2に設定される。なお、第1カットオフ圧Pc1および第2カットオフ圧Pc2は、それぞれ第1ポンプ131および第2ポンプ132の吐出圧のそれぞれを制限するリリーフ弁111,112のリリーフ圧(ポンプリリーフ圧)Prよりも低い(Pc1<Pc2<Pr)。
【0039】
このように、本実施の形態では、油圧回路にカットオフ弁124を設けているので、油圧モータ135の回路圧に応じてモータ容量が制限される。これにより、吊り荷106aを巻下げる際に回路圧が上昇し、カットオフ圧Pcを超えると、カットオフ弁124が動作することにより、モータ容量qが増加して最大容量qmaxに制御され、油圧モータ135の過回転が防止される。
【0040】
図8は、ウインチの制御装置の構成を示すブロック図である。コントローラ150は、クレーン1の各部を制御するための制御装置であり、各種の演算を行うCPUや記憶装置であるメモリ、その他周辺機器等を有する。コントローラ150にはエンジンコントローラ110aが接続されている。エンジンコントローラ110aは、エンジン110を始動させる、所定の回転速度で運転させる、停止させる等、エンジン110を制御するための制御装置であり、各種の演算を行うCPUや記憶装置であるメモリ、その他周辺機器等を有する。
【0041】
コントローラ150には、ウインチ操作レバー213の操作位置(操作量)を検出する操作位置検出器151と、エンジン110の実回転速度Naを検出するエンジン回転速度センサ152と、アクセルグリップ221aの操作量を検出する操作量センサ221Sと、省エネモードスイッチ241と、エコスイッチ221cと、ラインプル検出器154と、電磁比例減圧弁160と、電磁切換弁125と、表示装置231とが接続されている。
【0042】
操作位置検出器151は、パイロット弁213a,213bから出力されるパイロット圧を検出する圧力センサ(
図5において不図示)により構成できる。パイロット圧力センサに代えて、レバーストロークを検出するストロークセンサにより操作位置検出器151を構成してもよい。
【0043】
コントローラ150は、アクセルグリップ221aの操作量センサ221Sで検出されたアクセルグリップ221aの操作量に応じてエンジン110の目標回転速度Ntを設定し、エンジンコントローラ110aに目標回転速度指令を出力して、エンジン110の実回転速度Naを制御する。
【0044】
図9(a)は、アクセルグリップ221aの操作量Sgとエンジン110の目標回転速度Ntの関係を示す図である。
図9(b)は、目標回転速度Ntとエンジン110の実回転速度Naとの関係を示す図である。アクセルグリップ221aの操作量Sgが0からSg1までの範囲では目標回転速度Ntは最小回転速度Nminとなり、操作量SgがSg1からSg2までの範囲では目標回転速度Ntは操作量Sgの増加に伴い比例的に増加し、操作量SgがSg2以上では目標回転速度Ntは最大回転速度Nmaxとなる。コントローラ150はこの目標回転速度Ntに対応した制御信号をエンジンコントローラ110aに出力し、エンジンコントローラ110aはエンジン110の実回転速度Naが目標回転速度Ntとなるように制御する。
【0045】
エンジンコントローラ110aは、エンジン回転速度センサ152で検出されたエンジン110の実回転速度Naと、コントローラ150からのエンジン110の目標回転速度Ntとを比較して、エンジン110の実回転速度Naを目標回転速度Ntに近づけるために燃料噴射装置(不図示)を制御する。つまり、エンジンコントローラ110aは、アクセルグリップ221aの操作量センサ221Sで検出されたアクセルグリップ221aの操作量Sgに応じて、最小回転速度Nminから最大回転速度Nmaxの範囲でエンジン110の実回転速度Naを制御する。
【0046】
コントローラ150の記憶装置には、所定回転速度Nsが閾値として記憶されている。所定回転速度Nsは、モータ容量qを最小容量qminとし、エンジン110によって駆動される第1ポンプ131および第2ポンプ132のそれぞれから吐出され、合流された圧油が油圧モータ135に供給されたときに、モータ過回転とならないようにして決定される。本実施の形態では、所定回転速度Nsは、最大回転速度Nmaxの50〜60%程度とされている。なお、最小回転速度Nminは最大回転速度Nmaxの40%程度である。
【0047】
省エネモードスイッチ241は、後述する省燃費高速運転条件が成立したときに、油圧モータ135のモータ容量を最小容量に制御する制限モードと、省燃費高速運転条件が成立しても、油圧モータ135のモータ容量を最小容量に制御しない非制限モードとを選択的に切り換えるモード切換スイッチである。
【0048】
コントローラ150は、操作位置検出器151で検出されたウインチ操作レバー213の操作位置に応じで電磁比例減圧弁160に所定の制御電流を出力する。後述する省燃費高速条件が成立していない状態において、コントローラ150は、ウインチ操作レバー213が2速デテント位置に操作されているときには制御電流I=I2(I2<Imax)を出力し、ウインチ操作レバー213が1速デテント位置に操作されているときには、制御電流I=I1(I1<I2)を出力する。後述する省燃費高速運転条件が成立すると、コントローラ150は制御電流I=Imaxを出力する。
【0049】
コントローラ150は、省エネモードスイッチ241がオンされているときには、第1ポンプ131および第2ポンプ132のそれぞれに設けられる不図示の傾転角度制御装置にウインチ操作レバー213の操作量に応じた制御信号を出力する。省エネモードスイッチ241がオンされているとき、第1ポンプ131および第2ポンプ132のそれぞれから吐出される圧油量は、ウインチ操作レバー213の操作量の増加に応じて増加する。
【0050】
コントローラ150は、第1ポンプ131および第2ポンプ132のそれぞれに設けられる不図示の傾転角度制御装置にウインチ操作レバー213の操作量に応じた制御信号を出力する。ポンプ吐出量は、ウインチ操作レバー213の操作量の増加に応じて増加する。
【0051】
エコスイッチ221cは、省エネモードスイッチ241により選択された制限モードを有効または無効化する切換スイッチである。表示装置231は、省エネモードスイッチ241がオンされたときに「ECO」の表示画面を表示し、後述する省エネモード条件が成立すると、「ECO」の表示画面を反転表示する。
【0052】
ラインプル検出器154は、たとえばピン型ロードセルであり、ラインプル検出器154によってウインチドラムに作用するロープのラインプルTが検出される。コントローラ150の記憶装置には、所定値Tsが閾値として記憶されている。所定値Tsは、クレーン1の吊りロープ104に取り付けられる可能性のある複数種類のフックのうち、最大のものを考慮して設定される。
【0053】
本実施の形態のクレーン1では、次の(a)〜(d)の全ての条件が満たされると、コントローラ150は、省エネモード条件が成立したと判定する。
(a)省エネモードスイッチ241がオン位置にあることが検出されている。
(b)エコスイッチ221cがオン位置にあることが検出されている。
(c)ラインプルTが所定値Ts以下であることが検出されている。
(d)エンジン110の実回転速度Naが所定回転速度Ns以下であることが検出されている。
【0054】
省エネモード条件が成立すると、クレーン1は、高速でウインチの巻上げ/巻下げが行われる得る2速操作待機状態になる。この状態で、ウインチ操作レバー213が低速(1速)側の巻上/巻下操作位置から高速(2速)側の巻上/巻下操作位置に向かって操作されると、コントローラ150は、省燃費高速運転条件が成立したと判定する。省燃費高速運転条件が成立すると、コントローラ150はモータ容量制御装置120を制御して、油圧モータ135のモータ容量(モータ傾転)を減少させて、最小容量qminに制御する。これにより、油圧モータ135を2速状態のときよりも高速で駆動可能な3速状態とすることができる。3速状態では、エンジン回転速度が所定回転速度Nsのときに、ウインチドラムが2速状態のときよりも高速で巻上げ側あるいは巻下げ側に回転される。
【0055】
図10はコントローラ150で実行される処理の一例を示すフローチャートである。エンジンキースイッチがオンされると、
図10に示す処理を行うプログラムが起動されてコントローラ150で実行される。ステップS106において、コントローラ150は省エネモードスイッチ241がオンされるまで待機する。ステップS106で肯定判定されるとステップS111へ進み、コントローラ150は、表示装置231に制御信号を出力して、「ECO」の表示画面を表示させる。このときの状態を条件成立待機状態と呼ぶ。
【0056】
次ステップS113において、コントローラ150は、上述した省エネモード条件が成立したか否かを判定する。すなわち、上記した条件(a)〜(d)の全てが満たされているか否かを判定する。ステップS113で否定判定されると、ステップS116へ進み、省エネモードスイッチ241がオフされたか否かを判定する。ステップS116で肯定判定されるとステップS119へ進み、否定判定されるとステップS113へ戻る。ステップS119において、コントローラ150は、表示装置231に制御信号を出力し、「ECO」の表示画面を非表示にさせ、リターンする。
【0057】
ステップS113で肯定判定されると、ステップS121へ進み、コントローラ150は、表示装置231に制御信号を出力し、「ECO」の表示画面を反転表示させる。このときの状態を2速操作待機状態と呼ぶ。
【0058】
2速操作待機状態のときに、コントローラ150は、ウインチ操作レバー213が1速であるか否かを判定する。ステップS122において、位置検出器151で検出されたウインチ操作レバー213の操作位置が1速であると判定されると、ステップS123へ進み、否定判定されるとリターンする。
【0059】
ステップS123において、コントローラ150は、ウインチ操作レバー213が1速から2速へ、すなわち低速側から高速側へ操作されたか否かを判定する。ステップS123で否定判定されると、ステップS126へ進み、コントローラ150は省エネモードスイッチ241がオフされたか否かを判定する。ステップS126で肯定判定されると、ステップS119へ戻る。
【0060】
ステップS126で否定判定されると、ステップS129へ進み、コントローラ150は、ラインプル検出器154により検出されたラインプルTが所定値Tsより大きいか否か、エンジン回転速度センサ152により検出されたエンジン110の実回転速度Naが所定回転速度Nsより大きいか否か、または、エコスイッチ221cがオフされたか否かを判定する。
【0061】
ステップS129で肯定判定されると、ステップS111へ戻り、否定判定されると、ステップS123へ戻る。ステップS123で肯定判定されると、ステップS131へ進む。
【0062】
ステップS131において、コントローラ150は、電磁比例減圧弁160のソレノイドに制御電流I=Imaxを出力し、電磁切換弁125のソレノイドを励磁し、エンジン回転速度制限フラグをオンにする。このときの状態を3速運転状態と呼ぶ。
【0063】
3速運転状態のときに、コントローラ150は、ステップS133において省エネモードスイッチ241がオフされたか否かを判定する。ステップS133で肯定判定されると、コントローラ150は、ステップS136において電磁比例減圧弁160のソレノイドにウインチ操作レバー213の操作量に応じた制御電流Iを出力し、電磁切換弁125のソレノイドを消磁し、ステップS119へ戻る。
【0064】
ステップS133で否定判定されると、コントローラ150は、ステップS141において、ラインプル検出器154により検出されたラインプルTが所定値Tsより大きいか否か、または、エコスイッチ221cがオフされたか否かを判定する。ステップS141で肯定判定されると、コントローラ150は、電磁比例減圧弁160のソレノイドにウインチ操作レバー213の操作量に応じた制御電流Iを出力し、電磁切換弁125のソレノイドを消磁し、ステップS111へ戻る。
【0065】
ステップS141で否定判定されると、コントローラ150は、ウインチ操作レバー213が2速から1速へ、すなわち高速側から低速側へ操作されたか否かを判定する。ステップS151で否定判定されると、ステップS131へ戻り、肯定判定されると、ステップS156へ進む。コントローラ150は、ステップS156において、電磁比例減圧弁160のソレノイドにウインチ操作レバー213の操作量に応じた制御電流Iを出力し、電磁切換弁125のソレノイドを消磁し、ステップS121へ戻る。
【0066】
図11(a)および
図11(b)は、エンジン回転速度制限処理およびエンジン回転速度制限フラグの解除処理の動作を示すフローチャートである。
図11(a)に示すように、コントローラ150は、ステップS161において、エンジン回転速度制限フラグがオンであるか否かを判定する。ステップS161で肯定判定されると、ステップS166へ進み、コントローラ150は、アクセルグリップ221aの操作量Sgが所定操作量Sg3以上であるか否かを判定する。
図12に示すように、所定操作量Sg3は、目標回転速度NtがNsとなる操作量に相当する。
【0067】
ステップS166で肯定判定されると、コントローラ150は、エンジン110の実回転速度Naを所定回転速度Nsに制限する制御信号をエンジンコントローラ110aに出力してリターンする。ステップS161またはステップS166で否定判定されると、ステップS176へ進み、コントローラ150は、エンジン110の実回転速度Naを目標回転速度Ntに制御する制御信号をエンジンコントローラ110aに出力してリターンする。
【0068】
このように、ステップS131において、エンジン回転速度制限フラグがオンになると、エンジンコントローラ110aは、エンジン110の実回転速度Naの上限値を最大回転速度Nmaxよりも小さい所定回転速度Nsに設定する。したがって、エンジン回転速度制限フラグがオンの状態では、
図12に示すように、アクセルグリップ221aの操作量Sgに基づく指令値として出力される目標回転速度Ntが所定回転速度Nsより大きな値であっても、エンジン110の実回転速度Naは所定回転速度Nsに制限される。
【0069】
図11(b)に示すように、ステップS181において、コントローラ150は、クレーン1の状態が3速運転状態にあるか否かを判定する。ステップS181で否定判定されると、ステップS186へ進み、コントローラ150は、アクセルグリップ221aの操作量Sgが所定操作量Sg3未満であるか否かを判定する。
【0070】
ステップS186で肯定判定されると、ステップS191へ進み、コントローラ150は、エンジン回転速度制限フラグをオフにして、リターンする。これにより、エンジンコントローラ110aは、エンジン110の実回転速度Naの上限値を最大回転速度Nmaxに設定し、エンジン110の実回転速度Naがコントローラ150に入力されるアクセルグリップ221aの操作量Sgに基づく指令値(目標回転速度Nt)となるように燃料噴射装置(不図示)を制御する。
【0071】
本実施の形態に係るクレーン1における主な動作を
図13の状態遷移図を参照してまとめると次のようになる。初期状態S1にあるときに、省エネモードスイッチ241をオンにすると、条件成立待機状態S2に遷移して表示装置231に「ECO」の表示画面が表示される(ステップS106,S111)。条件成立待機状態S2にあるときに、エコスイッチ221cがオンされ、ラインプルTが所定値Ts以下であり、エンジン110の実回転速度Naが所定回転速度Ns以下であると、2速操作待機状態S3に遷移して「ECO」の表示画面が反転表示される(ステップS113,S121)。
【0072】
2速操作待機状態S3にあるときに、ウインチ操作レバー213を巻上/巻下1速デテント位置から巻上/巻下2速デテント位置に向かって操作すると、3速運転状態S4に遷移する(ステップS123,S131)。3速運転状態S4では、油圧モータ135のモータ容量qが状態S3に比べて減少し、最小容量qminに制御される。このとき、油圧モータ135には第1ポンプ131および第2ポンプ132からの圧油が合流して導かれるため、1,2速よりも高速でウインチドラムを回転させることができる3速状態となっている。
【0073】
3速運転状態S4では、アクセルグリップ操作量Sgを所定操作量Sg3以上に操作しても、エンジン110の実回転速度NaはNsに制限される(ステップS131,161,S166,S171)。3速運転状態S4では、カットオフ圧が昇圧されている(ステップS131)ため、モータ容量qが最小容量qminであるときの作業範囲を広くできる。
【0074】
3速運転状態S4にあるときに、ウインチ操作レバー213を2速から1速に戻し操作すると、2速操作待機状態S3に戻る(ステップS151,S156)。なお、3速運転状態S4において、アクセルグリップ操作量SgをSg3以上に操作した状態で、ウインチ操作レバー213を2速から1速に戻し操作したとしても、エンジン110の実回転速度NaはNsに制限されるので、3速から1速に速度を変更しようとするオペレータの意思に反して、エンジン110の実回転速度Naが急上昇することが防止されている(ステップS161,S166,S171,S181,S186,S191)。
【0075】
3速運転状態S4にあるときに、エコスイッチ221Cがオフされると、条件成立待機状態S2に遷移する(ステップS141,S146)。運転者は、エコスイッチ221Cをオフにすることにより簡単に巻上/巻下速度を低下させることができる。また、吊り荷が接地している状態(ラインプルTが所定値Ts以下の状態)から巻上げを行い、3速運転状態S4に遷移した後、吊り荷が地面から離れて宙に浮いてラインプルTが所定値Tsより大きくなると、条件成立待機状態S2に遷移する(ステップS141,S146)。このため、3速運転状態S4で吊り荷が巻き上げられることが防止される。
【0076】
2速操作待機状態S3にあるときに、エコスイッチ221cがオフされるか、あるいは、ラインプルTが所定値Tsより大きくなるか、あるいは、エンジン110の実回転速度Naが所定回転速度Nsより大きくなると、条件成立待機状態S2に遷移する(ステップS129)。条件成立待機状態S2、2速操作待機状態S3または3速運転状態S4にあるときに、省エネモードスイッチ241がオフされると、初期状態S1に遷移する(ステップS116,S119,S126,S133,S136)。
【0077】
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)エンジン110の実回転速度Naが所定回転速度Ns以下、かつ、ラインプルTが所定値Ts以下であるときに、ウインチ操作レバー213が低速側の巻上/巻下操作位置(1速巻上/巻下デテント位置)から高速側の巻上/巻下操作位置(2速巻上/巻下デテント位置)に向かって操作されると、油圧モータ135のモータ容量qを減少させて、最小容量qminに制御し、エンジン110の実回転速度Naの上限値を最大回転速度Nmaxよりも小さい所定回転速度Nsに設定するようにした。
【0078】
これにより、荷を吊っていない状態などの軽負荷時に限って、エンジン110の実回転速度Naを抑えた状態で、フック106を高速で巻上げ/巻下げすることができる。その結果、高速巻上げ/巻下げを低燃費で実行することができる。
【0079】
(2)本実施の形態では、ラインプルTが所定値Ts以下であることを省燃費高速運転条件の成立要件の1つとしたので、ラインプルが小さいとき、すなわち吊荷重が小さいときに限って、1,2速よりも高速の3速で巻上げ/巻下げを行うようにすることができる。そのため、フック106を停止させたときの作用する衝撃を抑えることができる。特許文献1に記載の油圧ウインチの制御装置では、ラインプルを検出していないので、たとえば、吊り荷がフック106に取り付けられ、ラインプルが所定値以上となったときであってもエンジン回転速度が所定回転速度以下であれば、高速で巻下げられることになるため、停止時に大きな衝撃が作用するおそれがある。これに対して、本実施の形態によれば、上記したように、ラインプルTが所定値Tsより大きいときには、高速(3速)で巻上げあるいは巻下げられることがないため、停止時に大きな衝撃が作用することが防止されている。
【0080】
(3)上記したように、本実施の形態では、ラインプルTが所定値Ts以下であることを省燃費高速運転条件の成立要件の1つとした。このため、たとえば、地切り作業において、エンジン110の実回転速度が制限された3速運転状態で、吊り荷が巻き上げられることが防止されている。特許文献1には、省エネモードスイッチのオン時にモータ最小傾転を超小傾転に制御するとともに、エンジン回転速度を所定速度以下に制限する技術が開示されている。この従来技術では、重い吊り荷を巻下げる際にモータ回路圧が上昇し、所定圧力以上になると、カットオフ弁が動作することにより、モータ傾転が大傾転に制御されるため、巻下げ速度が遅くなってしまう。このとき、エンジン回転速度は所定速度に制限されているので、運転者は、所望の作業速度を得るために、省エネモードスイッチをオフに操作してから、エンジン回転速度を上昇させる必要が生じる。これに対して、本実施の形態によれば、ラインプルTが所定値Ts以下であることを省燃費高速運転条件の成立要件の1つとしたので、上記従来技術のような煩わしい操作を行う必要性が生じる状態になることが防止されている。
【0081】
(4)本実施の形態では、エンジン回転速度の上限値が最大回転速度Nmaxよりも小さい所定回転速度Nsに設定されているときに、ラインプルTが所定値Tsより大きくなると、エンジン回転速度の上限値を最大回転速度Nmaxに設定するようにした。これにより、たとえば地面から吊り荷を地切るといった地切り作業において、吊り荷が接地している状態から巻上げを行い、3速運転状態S4に遷移した後、吊り荷が地面から離れて宙に浮いてラインプルTが所定値Tsより大きくなると、自動的に3速から2速に切り換えられるとともに、エンジン110の回転速度の制限が解除されるので、運転者は、エンジン回転速度を上昇させるために、エコスイッチ221cをオフにするなどの操作を要することなく所望の作業速度で作業を行うことができる。
【0082】
(5)ウインチ操作レバー213が低速側の巻上/巻下操作位置から高速側の巻上/巻下操作位置に向かって操作されることを省燃費高速運転条件の成立要件の1つとした。換言すれば、高速側の巻上/巻下操作位置に操作されている状態で、省エネモード条件が成立したとしても、省燃費高速運転条件は成立しないようにした。たとえば、高速側の巻上/巻下操作位置に操作されている状態で、省エネモード条件が成立したときに省燃費高速運転条件が成立する構成とした技術を比較例とする。比較例では、吊り荷106aがフック106に取り付けられた状態で、ウインチ操作レバー213を高速側の巻下操作位置に操作すると、吊り荷106aが2速(高速)で巻下げられる。比較例では、吊り荷106aが下降して着地すると、ラインプルTが所定値Ts以下となり、省燃費高速運転条件が成立して下降速度が意図せずに増速し、ロープが不所望に繰り出されてしまうおそれがある。本実施の形態では、低速側の巻上/巻下操作位置から高速側の巻上/巻下操作位置に向かって操作されたときに限って、1,2速よりも高速の3速でウインチドラムを回転させるようにしたので、意図せずに巻下速度が増速してしまうことを防止できる。
【0083】
(6)省燃費高速運転条件が成立したときに、油圧モータ135のモータ容量qを最小容量qminに制御する制限モードと、省燃費高速運転条件が成立しても、油圧モータ135のモータ容量qを最小容量qminに制御しない非制限モードとを選択的に切り換える省エネモードスイッチ241を備えたので、作業目的に合わせて、省燃費3速運転を実行するか否かを選択することができる。省エネモードスイッチ241は、レバー操作中に、瞬時に操作できない位置に取り付けられているので、誤操作を防止することができる。
【0084】
(7)省エネモードスイッチ241により選択された制限モードを有効または無効化するエコスイッチ221cを旋回レバー221の把持部221dに設けたので、適宜、オペレータは省燃費3速運転から通常の高速運転(2速)に移行することができる。
【0085】
(8)油圧モータ135のモータ容量qが最小容量qminに制御されているときに、ウインチ操作レバー213が高速側の巻上/巻下操作位置から低速側の巻上/巻下操作位置に操作されると、油圧モータ135のモータ容量qを最小容量qminよりも大きい所定容量、すなわちウインチ操作レバー213の操作量に応じたモータ容量qに制御するようにした。したがって、オペレータは省燃費3速運転から通常の低速運転(1速)に容易に移行することができる。
【0086】
(9)省燃費高速運転条件が成立したと判定されると、カットオフ圧Pcを昇圧するようにした。これにより、3速で運転しているときに、回路圧の上昇に起因してモータ傾転qが大きくなることを防止している。つまり、省燃費3速運転中は、作業範囲が通常運転時(1速または2速)よりも拡大されている。
【0087】
(10)エンジン110の実回転速度Naの上限値が所定回転速度Nsに制御されているときに、ウインチ操作レバー213が高速側の巻上/巻下操作位置から低速側の巻上/巻下操作位置に操作されること、および、目標回転速度Ntが所定回転速度Nsよりも小さいことが判定されると、エンジン110の実回転速度Naの上限値を最大回転速度Nmaxに設定するようにした。つまり、省燃費高速運転条件が成立した後、オペレータがアクセルグリップ221aをフル操作して、所定回転速度Nsよりも大きい目標回転速度Ntが検出されているときに、ウインチ操作レバー213を高速側の巻上/巻下操作位置から低速側の巻上/巻下操作位置に操作した場合、省燃費3速運転から通常運転に復帰するが、エンジン110の実回転速度Naは所定回転速度Nsに制限されたままとなるので、エンジン110の実回転速度Naが急に上昇してしまうことを防止することができる。
【0088】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
[変形例]
(1)上記した実施の形態では、上記した(a)〜(d)の全ての条件が成立したときに、省エネモード条件が成立したと判定することとしたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、エコスイッチ221cを設けないで、(b)の条件を除外してもよい。この場合、エコスイッチ221cに代えて、3速運転から通常運転にするためのキャンセルスイッチ(不図示)を旋回レバー221に設けてもよい。さらに、省エネモードスイッチ241を設けないで、(a)および(b)の条件を除外してもよい。
【0089】
(2)上記した実施の形態では、油圧回路に2つの油圧ポンプ(第1ポンプ131および第2ポンプ132)を設け、1速操作時には第1ポンプ131の圧油を油圧モータ135に供給し、2速および3速操作時には第1ポンプ131および第2ポンプ132の圧油を合流させて油圧モータ135に供給する構成としたが、本発明はこれに限定されない。
図5において、油圧モータ135に圧油を供給する油圧源として単一の油圧ポンプを設けることとしてもよい。この場合、1速と2速とをモータ傾転を可変させることにより、ウインチドラムの回転速度を上昇させることができる。
【0090】
(3)上記した実施の形態では、省燃費高速運転条件が成立したときに、カットオフ圧Pcを昇圧するようにしたが、本発明はこれに限定されない。カットオフ圧Pcは、昇圧しなくてもよい。
【0091】
(4)上記した実施の形態では、エンジン回転速度センサ152で検出したエンジン110の実回転速度Naが所定の閾値Ns以下であることを省燃費高速運転条件および省エネモード条件を構成する条件の1つとしたが、本発明はこれに限定されない。エンジン110の実回転速度Naに代えて、アクセルグリップ221aの操作量センサ221Sで検出した操作量に応じて演算される目標回転速度Ntが所定の閾値Ns以下であることを省燃費高速運転条件および省エネモード条件の1つとすることができる。
【0092】
(5)上記した実施の形態では、アクセル操作部材としてアクセルグリップ221aを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。アクセル操作部材としてはアクセルペダル261や図示しないアクセルダイアルなど種々の操作部材に本発明を適用することができる。
【0093】
(6)上記した実施の形態では、クローラクレーンに搭載された油圧ウインチの制御装置を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。タワークレーンなど油圧ウインチを備える種々の建設機械に搭載される油圧ウインチの制御装置に本発明を適用することができる。
【0094】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で自由に変更、改良が可能である。