(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の油圧緩衝器のようにシリンダおよび外筒体がバルブ構造体に同軸に取り付けられる構造では、外筒体を先にバルブ構造体に圧入させてしまうとその後のシリンダの圧入部の圧入具合を目視できなくなってしまう。したがって、シリンダおよび外筒体をバルブ構造体に取り付けるにあたっては、先ず内側のシリンダを圧入しその後に外筒体を圧入する2つの圧入工程を採ることが考えられる。しかし、シリンダおよび外筒体は長尺の部品であることから、シリンダが取り付けられた状態のバルブ構造体にさらに外筒体を外側から被せて圧入させる作業は、部品の取り回しに手間がかかり、作業効率が低下しやすいという問題がある。
【0006】
専用治具を用いてシリンダおよび外筒体を2つ同時に圧入することも考えられるが、この場合、前記したようにシリンダの圧入部は目視できなくなることから、圧入管理精度の高い専用組立機を用いる必要が生じる。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、ダンパケースの内部に、バルブ構造体に取り付けられたシリンダと外筒体とが同軸に配される油圧緩衝器において、組み立て工程の簡略化が図れる油圧緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、筒状のダンパケースの内部に、ピストンを挟んでピストン油室とロッド油室とを画成するシリンダと、シリンダの外側に配され、シリンダとの間においてはピストン油室とロッド油室とを連通する還流路を画成し、ダンパケースとの間においてはピストンロッドの伸退分の油を補償するリザーバ室を画成する外筒体と、ピストン油室側のシリンダおよび外筒体の各開口端に取り付けられ、ピストン油室と還流路およびリザーバ室との間の油の流れを制御するバルブを設けたバルブ構造体と、を備えた油圧緩衝器であって、前記バルブ構造体が、シリンダの開口端に取り付けられる第1バルブ構造体と、外筒体の開口端に取り付けられる第2バルブ構造体とに分割構成され、シリンダおよび第1バルブ構造体からなるシリンダ組立体と、外筒体および第2バルブ構造体からなる外筒組立体とが、互いに独立して
おり、前記シリンダの開口端と前記外筒体の開口端との間において、前記第1バルブ構造体の外周が外筒体の内周に当接することによりシリンダの開口端周りが外筒体に対して同軸に位置決めされることを特徴とする。
【0009】
本発明において、「シリンダ組立体と外筒組立体とが互いに独立している」とは、第1バルブ構造体と第2バルブ構造体との間に互いに直接の連結手段を有することなくシリンダ組立体と外筒組立板とが配されることをいう。
本発明によれば、1つのバルブ構造体にシリンダと外筒体とを取り付ける構造に比して、シリンダ組立体および外筒組立体を容易に組み立てることができる。その際、シリンダと第1バルブ構造体との取り付け部の状態を目視にて容易に把握できるとともに、外筒体と第2バルブ構造体との取り付け部の状態を目視にて容易に把握できる。そして、シリンダ組立体が外筒組立体の内部に挿入される構造とすることで、シリンダと外筒体とバルブ構造体からなる組立アセンブリを簡単に構成できる。また、シリンダ組立体と外筒組立体とが互いに独立して設けられるため、両者それぞれの設計の自由度が高まり、たとえば一方の組立体を共通仕様にすることで汎用性に優れた油圧緩衝器にすることができる。
前記特許文献1の技術が第1バルブ構造体にシール部材を要する構造であるのに対し、本発明においては、第1バルブ構造体の外周が、シリンダの開口端と外筒体の開口端との間において、つまり還流路の途中において外筒体の内周に当接する。したがって、第1バルブ構造体の外周にはその当接部を封止するためのシール部材を何ら必要としない。これにより簡単な構造で、シリンダの開口端周りを外筒体に対して同軸に位置決めできる。
【0010】
また、本発明は、前記ピストンは伸び行程用減衰バルブを備え、前記第1バルブ構造体は圧縮行程用減衰バルブと伸び行程用チェックバルブとを備え、前記第2バルブ構造体は圧縮行程用チェックバルブを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ピストンに伸び行程用減衰バルブが設けられるため、伸び行程において、伸び行程用チェックバルブを通過する油量はピストンロッドの退出容積分のみとなり、伸び行程用チェックバルブを小さく設定できる。
【0012】
また、本発明は、前記第1バルブ構造体は圧縮行程用減衰バルブと伸び行程用チェックバルブとを備え、前記第2バルブ構造体は伸び行程用減衰バルブと圧縮行程用チェックバルブとを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ピストンに減衰バルブを設けることなく、バルブ構造体に減衰バルブとチェックバルブを集約できるため、簡単な構造の油圧緩衝器にすることができる。
【0014】
また、本発明は、前記第1バルブ構造体と前記第2バルブ構造体との間にバルブ連通室が形成され、前記第2バルブ構造体は、外筒体の開口端に嵌合されるベース部と、ベース部からバルブ連通室に突出しその内部にバルブ連通室と前記リザーバ室とを連通する連通孔が形成された筒状突部と、筒状突部から径外方向に延設しその外縁が第1バルブ構造体の内周の段差面に軸方向に突き当たる環状のシリンダ支持板部と、を有し、前記圧縮行程用チェックバルブは、シリンダ支持板部に貫通形成されたバルブ孔と、前記筒状突部に支持され前記バルブ孔を開閉する環状のバルブシートと、から構成されることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、圧縮行程用チェックバルブを、シリンダ支持板部に貫通形成されたバルブ孔と、筒状突部に支持されバルブ孔を開閉する環状のバルブシートとから構成したことにより、圧縮行程用チェックバルブの構造を簡素化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダンパケースの内部にシリンダと外筒体とが同軸に配される油圧緩衝器において、組み立て工程の簡略化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「第1実施形態」
図1において、油圧緩衝器1は、筒状のダンパケース2と、ダンパケース2内にダンパケース2と同軸に配され、ピストン5を挟んでピストン油室7とロッド油室8とを画成するシリンダ3と、ダンパケース2内であってシリンダ3の外側にダンパケース2と同軸に配され、シリンダ3との間においてはピストン油室7とロッド油室8とを連通する還流路9を画成し、ダンパケース2との間においてはピストンロッド6の伸退分の油を補償するリザーバ室10を画成する外筒体4と、ピストン油室7側のシリンダ3および外筒体4の各開口端3A,4Aに取り付けられ、ピストン油室7と、還流路9およびリザーバ室10との間の油の流れを制御するバルブを設けたバルブ構造体11と、を備える。
【0021】
「ダンパケース2」
ダンパケース2は、たとえば軸方向一端側(上端側)のみが開口形成された無蓋有底の筒状筐体からなり、有底となる軸方向他端側(下端側)には車輪側に連結する連結部12が取り付けられている。軸方向一端側に形成された開口部13には、車体側に連結するピストンロッド6が挿通される。開口部13周りのダンパケース2の内部には、ピストンロッド6の周面を封止するオイルシール14が設けられ、開口部13周りのダンパケース2の外部にはエンドキャップ15、16がカシメ等によって嵌着される。ダンパケース2の軸方向他端側の内面には、ピストン5の軸心O周りに、軸方向他端外方に向かうにしたがい縮径する環状の傾斜面17が形成されており、後記するようにシリンダ組立体S1および外筒組立体S2をダンパケース2内に組み入れた際には、第2バルブ構造体25の傾斜面49が傾斜面17にガイドされることにより、外筒体4およびシリンダ3の軸方向他端周りがダンパケース2に対して同軸に位置決めされるようになっている。
【0022】
「シリンダ3」
シリンダ3は軸方向両端が開口形成された筒状部材からなり、その軸方向一端側の開口端は、ダンパケース2内に設けられたリング状のロッドガイド18の小径部に圧入等により固定される。シリンダ3の内部空間は、ピストン5によって、軸方向他端側に位置するピストン油室7と、軸方向一端側に位置しピストンロッド6が中心を通るロッド油室8とに画成される。シリンダ3の開口端が固定されるロッドガイド18の外周面の一部には、ロッド油室8と還流路9とを連通する切欠き流路19が形成される。シリンダ3の軸方向他端側の開口端、つまりピストン油室7側の開口端3Aは、バルブ構造体11を構成する第1バルブ構造体24に固定される。なお、ロッドガイド18の内周とピストンロッド6の外周との間にはブッシュ20が介設される。
【0023】
「外筒体4」
外筒体4は軸方向両端が開口形成された筒状部材からなり、その軸方向一端側の開口端は前記ロッドガイド18の中径部に圧入等により固定され、軸方向他端側の開口端、つまりピストン油室7側の開口端4Aは、バルブ構造体11を構成する第2バルブ構造体25に固定される。開口端4Aはシリンダ3の開口端3Aよりもさらに下方に位置する。
【0024】
「ピストン5」
ピストン5はリング状を呈した部材であり、ピストンロッド6の先端の小径部に外嵌されたうえでナット26によりピストンロッド6に固定される。本実施形態および後記する第2、第3実施形態では、ピストン5に伸び行程用減衰バルブV1が設けられる。伸び行程用減衰バルブV1はロッド油室8からピストン油室7への油の流れを絞る絞り弁であって、ピストン油室7とロッド油室8とを連通するように軸心Oに沿ってピストン5に貫通形成されたバルブ孔21と、ピストン油室7内においてピストンロッド6の小径部に支持されバルブ孔21を開閉する複数の環状のバルブシート22と、から構成される。符号23は、ピストンロッド6の小径部に取り付けられバルブシート22の開度を規制するバルブストッパである。
【0025】
「バルブ構造体11」
バルブ構造体11は、
図2に拡大して示すように、シリンダ3の開口端3Aに取り付けられる第1バルブ構造体24と、外筒体4の開口端4Aに取り付けられる第2バルブ構造体25とに分割して構成される。
【0026】
「第1バルブ構造体24」
第1バルブ構造体24は、シリンダ3の開口端3Aの内周に圧入嵌合されることでバルブ部を除いて開口端3Aを閉塞する円盤状のベース部27と、ベース部27の外周縁から軸方向他端側に向けて延設され、その外径がベース部27よりも大径に形成された略円筒状のスカート部28とを有した形状からなる。スカート部28の内部空間は、第1バルブ構造体24と第2バルブ構造体25との間に形成されるバルブ連通室29を構成する。
【0027】
第1バルブ構造体24には圧縮行程用減衰バルブV2と伸び行程用チェックバルブV3とが設けられる。圧縮行程用減衰バルブV2はピストン油室7からバルブ連通室29への油の流れを絞る絞り弁であって、ピストン油室7とバルブ連通室29とを連通するように軸心Oに沿ってベース部27に貫通形成されたバルブ孔30と、バルブ連通室29内においてボルト32の軸部に支持されバルブ孔30を開閉する複数の環状のバルブシート31と、から構成される。ボルト32は、ベース部27の中心に形成されたボルト貫通孔を貫通したうえでナット33によりベース部に固定される。ボルト32の頭部は下方に位置し、このボルト32の頭部によりバルブシート31の開度が規制される。
【0028】
伸び行程用チェックバルブV3はバルブ連通室29からピストン油室7への油の流れのみ許容するバルブであって、ピストン油室7とバルブ連通室29とを連通するように軸心Oに沿ってベース部27に貫通形成されたバルブ孔34と、ピストン油室7内においてボルト32の軸部に支持されバルブ孔34を開閉する環状のバルブシート35と、から構成される。符号36は、ボルト32の軸部に取り付けられバルブシート35の開度を規制するバルブストッパである。
【0029】
スカート部28は、
図3からも判るように、その裾部が円周方向に交互に凹凸状に形成されており、その凹状に形成された各切欠き開口部37に通ずるように、スカート部28の外周には軸方向に延設する溝38が形成されている。スカート部28の裾部の外周は外筒体4の内周にほぼ当接する構造となっているため、溝38は切欠き開口部37を介してバルブ連通室29と還流路9とを連通する機能を担う。また、スカート部28の裾部はその内周側が環状に切り欠かれて薄肉となっており、この薄肉部と厚肉部との間に、軸心Oを中心とし径方向に沿う環状の段差面39が形成される。
【0030】
「第2バルブ構造体25」
第2バルブ構造体25は、外筒体4の開口端4Aの内周に圧入嵌合されることでバルブ部を除いて開口端4Aを閉塞する円盤状のベース部40と、ベース部40からバルブ連通室29に突出しその内部にバルブ連通室29とリザーバ室10とを連通する連通孔41が形成された筒状突部42と、筒状突部42から径外方向に延設しその外縁が第1バルブ構造体24の前記段差面39に軸方向に突き当たる環状のシリンダ支持板部43とを有した形状からなる。
【0031】
第2バルブ構造体25には圧縮行程用チェックバルブV4が設けられる。圧縮行程用チェックバルブV4はバルブ連通室29から還流路9への油の流れのみ許容するバルブであって、シリンダ支持板部43に軸心Oに沿って貫通形成されたバルブ孔44と、筒状突部42に支持されバルブ孔44を開閉する環状のバルブシート45と、から構成される。
図4に示すように、バルブ孔44はシリンダ支持板部43において円周方向に間隔を空けて複数設けられている。
【0032】
シリンダ支持板部43が第1バルブ構造体24のスカート部28の段差面39に突き当たることにより、バルブ連通室29はスカート部28とシリンダ支持板部43とに囲まれることにより画成されることとなる。シリンダ支持板部43はベース部40に対して間隔を空けて配されており、両者間には連通流路46が形成される。また、スカート部28の裾部の下端はベース部40に突き当たる。したがって、バルブ連通室29と還流路9とは、バルブ孔44、連通流路46、切欠き開口部37、溝38を介して互いに連通する。ベース部40の下端の外縁には円周方向に間隔を空けて突部47が形成され、突部47間に形成される流路48が連通孔41とリザーバ室10とを連通する。突部47の下端には前記したようにダンパケース2の傾斜面17に接面する傾斜面49が形成されている。
【0033】
本実施形態では、
図4に示すように、ベース部40と筒状突部42とシリンダ支持板部43の三者はそれぞれ個別に製作された部材としてあり、組み付けにより三者は一体化されるものである。
図2および
図4において、ベース部材40の中心には貫通孔50が形成されており、筒シャフト51の下部が貫通孔50に挿入されて筒シャフト51の下端がベース部材40の下面にリベッティング等により固定される。筒シャフト51の上部が筒状突部42を構成するものである。また、筒シャフト51の上端の外周面は小径部52として形成されており、この小径部52にバルブシート45とシリンダ支持板部43の各貫通孔が通されたうえで筒シャフト51の上端がシリンダ支持板部43の上面にリベッティング等により固定される。
【0034】
「作用」
以上の構成からなる油圧緩衝器1の作用を説明する。
図11は油圧緩衝器1の構造を簡略化し各バルブを記号化して示したものであり、(a)、(b)にそれぞれ伸び行程、圧縮行程における油の流れを示した。以下、
図1、
図2および
図11を適宜参照して説明する。
【0035】
「伸び行程」
図1、
図2、
図11(a)において、ピストン5が上方に移動してロッド油室8内の油が圧力を受けると、ロッド油室8内の油がバルブ孔21を通ってバルブシート22を押し開きピストン油室7に流れる。つまり油が伸び行程用減衰バルブV1を通過し、これにより油圧緩衝器1に伸び側減衰力が発生する。ピストンロッド6の退出容積分の油は、リザーバ室10から連通孔41、バルブ連通室29、伸び行程用チェックバルブV3を経由してピストン油室7に補給されることで補償される。圧縮行程用チェックバルブV4の存在により還流路9からバルブ連通室29への油の流れは生じない。伸び行程用チェックバルブV3を通過する油量はピストンロッド6の退出容積分のみのため、伸び行程用チェックバルブV3のバルブ孔34は小径の孔で済む。したがって第1バルブ構造体24の外径も小さなもので済み、小径仕様のシリンダ3に容易に適用できる。
【0036】
「圧縮行程」
図1、
図2、
図11(b)において、ピストン5が下方に移動してピストン油室7内の油が圧力を受けると、ピストン油室7内の油がバルブ孔30を通ってバルブシート31を押し開きバルブ連通路29に流れる。つまり油が圧縮行程用減衰バルブV2を通過し、これにより油圧緩衝器1に圧縮側減衰力が発生する。ピストンロッド6の進入容積分の油は、連通孔41を経由してリザーバ室10に流れることで補償される。ロッド油室8の増大容積分の油はバルブ連通室29から圧縮行程用チェックバルブV4、連通流路46、切欠き開口部37、溝38、還流路9、切欠き流路19を経由してロッド油室8に流れる。
【0037】
「油圧緩衝器1の組み立て手順」
図13を参照して油圧緩衝器1の組み立て手順の一例を説明する。先ず、シリンダ3の軸方向他端側の開口端3A周りに第1バルブ構造体24のベース部27の外周面を圧入することにより、両者が一体化されたシリンダ組立体S1を作成する(
図13(a))。次いで、このシリンダ組立体S1を外筒体4の内部に挿入する(
図13(b))。第1バルブ構造体24のスカート部28の最大外径部は外筒体4の内周面に対してさほど面圧がかからずに接触する程度に設定されており、外筒体4へのシリンダ組立体S1の挿入作業はスムースに行える。次いで、外筒体4の軸方向他端側の開口端4A周りに第2バルブ構造体25のベース部40の外周面を圧入する(
図13(c))。これにより、外筒体4の内部にシリンダ組立体S1が挿入された状態で、外筒体4と第2バルブ構造体25とが一体化されてなる外筒組立体S2が作成される。
【0038】
次いで、
図1においてシリンダ3の軸方向一端側の開口端からピストン5、ピストンロッド6を挿入する。このときピストンロッド6にはロッドガイド18が既に取り付けられた状態であり、ピストン5がシリンダ3に挿入されることによりピストンロッド6はシリンダ3、外筒体4に対して同軸に位置決めされることから、ロッドガイド18をそのままピストンロッド6に沿って摺動させることにより、ロッドガイド18はシリンダ3、外筒体4の各軸方向一端側の開口端にスムースに圧入される。
【0039】
そして、以上の組立体がダンパケース2の内部に挿入され、オイルシール14等が装着されたうえで、エンドキャップ15、16を介しダンパケース2の開口部13周りがカシメ処理される。以上のように組み立てられた油圧緩衝器1は、シリンダ3と外筒体4とは下端側の開口端3A、4A周りにおいては、第1バルブ構造体24のスカート部28の裾部の外周が外筒体4の内周面に当接することにより同軸に位置決めされ、上端側の開口端周りにおいては共にロッドガイド18に圧入されることにより同軸に位置決めされる。また、シリンダ3および外筒体4は、ダンパケース2に対して、下端側においては、第2バルブ構造体25の突部47の傾斜面49がダンパケース2の傾斜面17に接面して軸心Oに向かってガイドされることで同軸に位置決めされ、上端側においては、ロッドガイド18を介して同軸に位置決めされる。
【0040】
以上のように、バルブ構造体11を、シリンダ3の開口端3Aに取り付けられる第1バルブ構造体24と、外筒体4の開口端4Aに取り付けられる第2バルブ構造体25とに分割構成し、シリンダ3および第1バルブ構造体24からなるシリンダ組立体S1と、外筒体4および第2バルブ構造体25からなる外筒組立体S2とが、互いに独立して設けられた構造とすれば、1つのバルブ構造体にシリンダ3と外筒体4とを取り付ける構造に比して、シリンダ組立体S1および外筒組立体S2を容易に組み立てることができる。その際、シリンダ3と第1バルブ構造体24との取り付け部(圧入部)の状態を目視にて容易に把握できるとともに、外筒体4と第2バルブ構造体25との取り付け部(圧入部)の状態を目視にて容易に把握できる。そして、シリンダ組立体S1を外筒組立体S2の内部に挿入するのみで、シリンダ3と外筒体4とバルブ構造体11(第1バルブ構造体24、第2バルブ構造体25)からなる組立アセンブリを簡単に構成できる。また、シリンダ組立体S1と外筒組立体S2とが互いに独立して設けられるため、両者それぞれの設計の自由度が高まり、たとえば一方の組立体を共通仕様にすることで汎用性に優れた油圧緩衝器にすることができる。「シリンダ組立体S1と外筒組立体S2とが互いに独立している」とは、第1バルブ構造体24と第2バルブ構造体25との間に互いに直接の連結手段を有することなく、シリンダ組立体S1と
外筒組立体S2が配されたことをいう。
【0041】
また、ピストン5に伸び行程用減衰バルブV1を設けたことで、伸び行程において、伸び行程用チェックバルブV3を通過する油量はピストンロッド6の退出容積分のみとなり、伸び行程用チェックバルブV3を小さく設定できる。
【0042】
また、本発明は、シリンダ3の開口端3Aと外筒体4の開口端4Aとの間において、第1バルブ構造体24のスカート部28の外周が外筒体4の内周に当接することによりシリンダ3の開口端3A周りが外筒体4に対して同軸に位置決めされる構造とした。つまり、第1バルブ構造体24の外周が還流路9の途中において外筒体4の内周に当接する。したがって、第1バルブ構造体24の外周にはその当接部を封止するためのシール部材を何ら必要としない。これにより簡単な構造で、シリンダ3の開口端3A周りを外筒体4に対して同軸に位置決めできる。
【0043】
「第2実施形態」
図5および
図6を参照して第2実施形態を説明する。本実施形態において第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付してその説明は省略する。
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は第2バルブ構造体25の部品構成であり、第1実施形態がベース部40と筒状突部42とシリンダ支持板部43の三者をそれぞれ個別に製作した部材としたのに対し、第2実施形態では、ベース部40と筒状突部42とが一体に成形された部材からなる。
【0044】
筒状突部42は、中径部53と、中径部53の上方に形成される小径部54とを有し、小径部54の上方であって筒状突部42の上端には小径部54よりも大径の係合フランジ部55が形成されている。一方、シリンダ支持板部43の内周縁には上方に立ち上がる立上がり壁部56が形成され、立上がり壁部56の上端には径内方向に向けて突設された係合爪部57が円周方向に間隔を空けて複数設けられている。
【0045】
以上により、筒状突部42の中径部53にバルブシート45とシリンダ支持板部43の各貫通孔が通され、立上がり壁部56が中径部53に圧入されることでシリンダ支持板部43が筒状突部42に固定される。圧入途中の際、係合爪部57は弾性変形することにより係合フランジ部55を通過し、立上がり壁部56の圧入が完了した時点では、係合爪部57が復元して
図5に示すように係合フランジ部55の下端に係合することで、筒状突部42に対するシリンダ支持板部43の抜け止めがなされる。本実施形態によれば、ベース部40と筒状突部42とを一体成形の部材にし、さらにリベッティングを不要にしたことで、第2バルブ構造体25の組み立て作業の簡略化を図ることができる。
伸び行程および圧縮行程の油の流れの作用や油圧緩衝器1全体の組み立て手順については第1実施形態と同様である。
【0046】
「第3実施形態」
図7および
図8を参照して第3実施形態を説明する。本実施形態において第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付してその説明は省略する。
第3実施形態についても、第1実施形態と異なる点は第2バルブ構造体25の部品構成であり、第1実施形態がベース部40と筒状突部42とシリンダ支持板部43の三者をそれぞれ個別に製作した部材としたのに対し、第3実施形態では、筒状突部42とシリンダ支持板部43とが一体に成形されている。
【0047】
筒状突部42を構成する筒シャフト51はベース部40の貫通孔50に挿入されて筒シャフト51の下端がベース部材40の下面にリベッティング等により固定される。ベース部40の上面において貫通孔50周りには支持突部58が突設されており、バルブシート45の内周縁はこの支持筒部58とシリンダ支持板部43とに挟持される。本実施形態によれば、筒状突部42とシリンダ支持板部43とを一体成形の部材にしたことで、第2バルブ構造体25の組み立て作業の簡略化を図ることができる。
伸び行程および圧縮行程の油の流れの作用や油圧緩衝器1全体の組み立て手順については第1実施形態と同様である。
【0048】
「第4実施形態」
図9および
図10を参照して第4実施形態を説明する。本実施形態において第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付してその説明は省略する。
第1〜3実施形態が伸び行程用減衰バルブV1をピストン5に設けた形態であるのに対し、第4実施形態は伸び行程用減衰バルブV1を第2バルブ構造体25に設けた形態である。つまり、第4実施形態は、第1バルブ構造体24に圧縮行程用減衰バルブV2と伸び行程用チェックバルブV3とが設けられ、第2バルブ構造体25に伸び行程用減衰バルブV1と圧縮行程用チェックバルブV4とが設けられるものであり、ピストン5にはピストン油室7とロッド油室8とを連通するバルブは何ら形成されていない。
【0049】
本実施形態における第2バルブ構造体25も、外筒体4の開口端4Aの内周に圧入嵌合されることで開口端4Aを閉塞する円盤状のベース部40と、ベース部40からバルブ連通室29に突出しその内部にバルブ連通室29とリザーバ室10とを連通する連通孔41が形成された筒状突部42と、筒状突部42から径外方向に延設するシリンダ支持板部43とを有した形状からなる。ただし、本実施形態におけるシリンダ支持板部43は段差面39には突き当たらない。
【0050】
筒状突部42は本実施形態ではボルト59から構成され、ボルト59の中心に連通孔41が穿孔されている。ベース部40の上面において貫通孔50周りには支持突部63が突設されており、円盤状のシリンダ支持板部43がこの支持突部63に載置されたうえで、ボルト59がシリンダ支持板部43の貫通孔およびベース部40の貫通孔50を挿通し、ベース部40の下面においてナット60により締結固定される。
【0051】
伸び行程用減衰バルブV1は連通流路46(還流路9)からバルブ連通室29への油の流れを絞る絞り弁であって、連通流路46とバルブ連通室29とを連通するように軸心Oに沿ってシリンダ支持板部43に貫通形成されたバルブ孔61と、バルブ連通室29内においてボルト59の軸部に支持されバルブ孔61を開閉する複数の環状のバルブシート62と、から構成される。バルブシート62の開度はボルト59の頭部により規制される。バルブ孔61は圧縮行程用チェックバルブV4のバルブ孔44よりも径内方向に位置している。符号64はボルト59の頭部とバルブシート62との間に介設されるワッシャである。
【0052】
「作用」
第4実施形態の油圧緩衝器1の作用を説明する。
図12は第4実施形態の油圧緩衝器1の構造を簡略化し各バルブを記号化して示したものであり、(a)、(b)にそれぞれ伸び行程、圧縮行程における油の流れを示した。以下、
図9、
図10および
図12を適宜参照して説明する。
【0053】
「伸び行程」
図9、
図10、
図12(a)において、ピストン5が上方に移動してロッド油室8内の油が圧力を受けると、ロッド油室8内の油が切欠き流路19を通って還流路9に流れる。ピストン油室7の容積が増大する分、油は還流路9から伸び行程用減衰バルブV1を通過してバルブ連通室29に流れ、伸び行程用チェックバルブV3を経由してピストン油室7に流れる。油が伸び行程用減衰バルブV1を通過することにより油圧緩衝器1に伸び側減衰力が発生する。ピストンロッド6の退出容積分の油は、リザーバ室10から連通孔41、バルブ連通室29、伸び行程用チェックバルブV3を経由してピストン油室7に補給されることで補償される。
【0054】
「圧縮行程」
図9、
図10、
図12(b)において、ピストン5が下方に移動してピストン油室7内の油が圧力を受けると、ピストン油室7内の油がバルブ孔30を通ってバルブシート31を押し開きバルブ連通路29に流れる。つまり油が圧縮行程用減衰バルブV2を通過し、これにより油圧緩衝器1に圧縮側減衰力が発生する。ピストンロッド6の進入容積分の油は、連通孔41を経由してリザーバ室10に流れることで補償される。ロッド油室8の油はバルブ連通室29から圧縮行程用チェックバルブV4、連通流路46、切欠き開口部37、溝38、還流路9、切欠き流路19を経由してロッド油室8に流れる。
【0055】
以上のように第4実施形態の油圧緩衝器1によれば、ピストン5に減衰バルブを設けることなく、バルブ構造体11側に減衰バルブとチェックバルブを集約できるため、簡単な構造の油圧緩衝器1にすることができる。
なお、油圧緩衝器1全体の組み立て手順については第1実施形態と略同様である。
【0056】
以上、本発明の油圧緩衝器について好適な実施形態を説明したが、本発明は図面に記載したものに限られることなくその要旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。