(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
[1.落鉱物処理装置の構成]
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る堆積物処理装置である落鉱物処理装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る落鉱物処理装置1を示す斜視図である。
【0017】
落鉱物処理装置1は、製鉄用原料を運搬する低床型ベルトコンベアから落下して堆積した製鉄用原料の堆積物を除去するための重機である。ここで、製鉄用原料は、鉄鉱石、石炭、コークス、その他の副原料等を含み、以下では、ベルトコンベアから落下した製鉄用原料の堆積物を「落鉱物」と称する。落鉱物処理装置1は、上記製鉄用原料を運搬する低床型ベルトコンベア下の狭隘空間に入り込み、当該ベルトコンベア下に堆堆積している落鉱物を押し出し又は持ち上げて除去する作業を行う。このため、落鉱物処理装置1は、低床型ベルトコンベアの下に入り込むことが可能な高さH(車高)を有する低床型の自走式重機(低床型ローダ)である。かかる低床型の落鉱物処理装置1の高さHは、処理対象となる低床型ベルトコンベアの底部の高さ(例えば500mm)未満であり、例えば400mm程度である。このため、落鉱物処理装置1の高さHは、その幅W(車幅)及び長さL(車長)よりも大幅に小さく、例えば、HはWの4分の1未満であり、Lの6分の1未満である。
【0018】
図1に示すように、落鉱物処理装置1は、装置本体2と、走行体としてのクローラ3と、作業具としてのバケット4と、作業具動作機構としてのバケット動作機構5と、バッテリ6と、制御装置7と、走行駆動装置8とを主に備える。
【0019】
装置本体2は、落鉱物処理装置1の中心に配置され、扁平な略直方体形状を有する箱型構造の車体である。この装置本体2の内部には、バッテリ6、制御装置7、走行駆動装置8などが設置される。
【0020】
クローラ3及び走行駆動装置8等は、落鉱物処理装置1が走行するための走行装置を構成する。左右一対のクローラ3、3は、落鉱物処理装置1を走行させるための走行体の一例であり、装置本体2の幅方向Yの両側(左右)に設けられる。各クローラ3は、装置本体2と略同程度の高さになるように、装置本体2の幅方向Yの両側面に沿って長さ方向Xに延設される。
【0021】
クローラ3は、装置本体2の後方側に回転可能に設けられた駆動輪31と、装置本体2の前方側に回転可能に設けられた従動輪(図示せず。)と、装置本体2の中程の上下に設けられた複数の転輪(図示せず。)と、これら駆動輪31、従動輪及び転輪の周りに掛け渡された無端ベルト状の履帯32とを備える。
【0022】
走行駆動装置8は、装置本体2内に設けられ、例えば、バッテリ6の電力で駆動する電動モータ若しくは油圧モータ、又は燃料で駆動するエンジン等で構成される。走行駆動装置8は、上記クローラ3の駆動輪31を回転させるための駆動力を発生させる。走行駆動装置8が駆動輪31を正方向又は逆方向に回転させることで、左右のクローラ3、3が周回して、落鉱物処理装置1を前進又は後進させることができる。また、一方のクローラ3のみを周回させることで、落鉱物処理装置1を旋回させて、進行方向を変えることができる。
【0023】
バケット4は、落鉱物を除去するための作業具の一例であり、落鉱物処理装置1による落鉱物の押出時又は持ち上げ時に、落鉱物に直接的に接触する。バケット4は、前方及び上方が開放された箱型形状の作業具であり、落鉱物の押出のみならず、持ち上げにも適している。このバケット4の高さも、装置本体2と略同程度の高さである。また、バケット4の幅は、落鉱物処理装置1の幅Wと同程度である。かかるバケット4は、装置本体2及び左右一対のクローラ3、3の前方に配置され、落鉱物処理装置1の幅方向全体に渡って延設される。
【0024】
バケット動作機構5は、作業具を動作させる作業具動作機構の一例である。図示の例のバケット動作機構5は、バケット4を昇降及びチルティングさせる機能を有する。左右一対のバケット動作機構5、5が、落鉱物処理装置1の幅方向Yの両側(走行体である一対のクローラ3、3の外側)に設けられる。
【0025】
バケット動作機構5は、アーム51と、アーム回動軸52と、昇降シリンダ53と、チルトシリンダ54と、リンク機構55とを備える。
【0026】
アーム51は、クローラ3の幅方向Yの外側に、長さ方向Xに沿って配置される。アーム51の後端は、アーム回動軸52により装置本体2に対して回動可能に連結されている。また、アーム51の前端は、リンク機構55を介してバケット4の幅方向Yの端部に連結されている。アーム51の長さは、少なくとも装置本体2の長さの半分以上であり、アーム51の後端は、装置本体2の長さ方向中央よりも後方側において、アーム回動軸52により軸設される。かかるアーム51は、バケット4を支持するとともに、バケット4を装置本体2に対して上下方向に回動(俯仰)させる機能を有する。
【0027】
昇降シリンダ53は、アーム回動軸52を中心にアーム51を回動させて、バケット4を昇降させる機能を有する。昇降シリンダ53の基端は、回動軸53aにより装置本体2に対して回動可能に連結されており、昇降シリンダ53の可動端は、回動軸53bによりアーム51の中程に対して回動可能に連結されている。かかる昇降シリンダ53が伸長することで、アーム51が上方に回動してバケット4が上昇し、昇降シリンダ53が収縮することで、アーム51が下方に回動してバケット4が下降する。
【0028】
チルトシリンダ54は、リンク機構55を用いて、バケット4をチルティングさせる機能を有する。チルトシリンダ54の基端は、回動軸54aによりアーム51に対して回動可能に連結されており、チルトシリンダ54の可動端は、回動軸54bによりリンク機構55に対して回動可能に連結されている。リンク機構55は、3つのリンク部材55aと、当該3つのリンク部材55a及びアーム51の前端とを相互に回動可能に連結する4つの回動軸55b、54bとを備える。このようにリンク機構55は、いわゆる四角リンク機構を構成するが、バケット4をチルティング可能であれば、他の種類のリンク機構であってもよい。チルトシリンダ54が伸長することで、リンク機構55によりバケット4が下向きにチルティングし、チルトシリンダ54が収縮することで、リンク機構55によりバケット4が上向きにチルティングする。
【0029】
クローラ3の側面外側において、上記の昇降シリンダ53、チルトシリンダ54及びリンク機構55をコンパクトに設置するために、アーム51は略Z字状に屈曲した形状を有している。そして、当該アーム51の後部下側に昇降シリンダ53が配置され、当該アーム51の前部上側にチルトシリンダ54及びリンク機構55が配置されている。かかる配置により、クローラ3の幅方向両側のスペースを有効利用して、バケット動作機構5の各部を効率的に配置し、装置本体2の高さZの範囲内に収めることができる。従って、落鉱物処理装置1の高さZを低く抑えることが可能となり、低床型ベルトコンベア下の狭隘空間への進入が可能となる。
【0030】
また、バッテリ6は、落鉱物処理装置1の各部を駆動させるための電力を蓄積する。制御装置7は、落鉱物処理装置1の各部の動作を制御する。制御装置7が無線通信装置を備えることで、作業員は、制御装置7を用いて落鉱物処理装置1を無線で遠隔操作することが可能である。
【0031】
上述したように、本実施形態に係る落鉱物処理装置1において、装置本体2とクローラ3とバケット4の高さは、略同一であり、落鉱物処理装置1の高さH(車高)が、低床型ベルトコンベアの下の狭隘空間に進入可能な高さ(例えば500mm未満)となっている。このため、落鉱物処理装置1は、製鉄用原料運搬用の低床型ベルトコンベアや構造物の下の狭隘空間に入り込み、当該低床型ベルトコンベアから落下した落鉱物を取り除く所謂バケット作業を行なうことができる。これにより、作業員が低床型ベルトコンベアの下に入り込まなくて済むので、安全かつ効率的に落鉱物の除去作業を行うことができる。
【0032】
[2.落鉱物処理装置の基本動作]
次に、
図2A〜
図2Cを参照して、上記構成の落鉱物処理装置1の基本動作について説明する。
図2A〜
図2Cは、本実施形態に係る落鉱物処理装置1の通常姿勢、持ち上げ姿勢、チルト姿勢を示す側面図である。
【0033】
図2Aに示すように、バケット4を降下させた通常姿勢では、落鉱物処理装置1は落鉱物10を押し出すことができる。つまり、落鉱物処理装置1は上記走行駆動装置8を動作させてクローラ3の駆動輪31を回転させ、履帯32を周回させることで、前進又は後進することができる。落鉱物処理装置1を前進させて、バケット4を落鉱物10に押し当てることで、堆積している落鉱物10を進行方向に押し出すことができる。
【0034】
また、
図2Bに示すように、落鉱物処理装置1は、バケット動作機構5により、バケット4を用いて落鉱物10を掬い取って持ち上げることができる(リフトアップ)。つまり、落鉱物処理装置1は、バケット4を落鉱物10に押し込んだ状態で、上記昇降シリンダ53を動作させてアーム51を上方に回動させることで、バケット4を上昇させ、バケット4内に収容された落鉱物10の一部10aを持ち上げることができる。落鉱物処理装置1は、落鉱物10を持ち上げた持ち上げ姿勢のままで、前進又は後進することで、落鉱物を運搬することができる。
【0035】
さらに、
図2Cに示すように、落鉱物処理装置1は、バケット4をチルティングさせて、持ち上げた落鉱物10の一部10aを落下させることができる。つまり、落鉱物処理装置1は、上記チルトシリンダ54及びリンク機構55を動作させてバケットを下向きに回動(チルティング)させることで、バケット4内に収容されている落鉱物10を排出して、地上の所望位置に落下させることができる。
【0036】
[3.作業具動作機構の配置]
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る落鉱物処理装置1における作業具動作機構(バケット動作機構5)の特徴的な配置について説明する。
図3Aは、従来の落鉱物処理装置100を示す側面図及び平面図である。
図3Bは、本実施形態に係る落鉱物処理装置1を示す側面図及び平面図である。
【0037】
本実施形態に係る落鉱物処理装置1においては、バケット4(作業具)を動作させるための左右一対のバケット動作機構5(作業具動作機構)が、装置本体2の前方側ではなく、装置本体2の幅方向Yの両側(クローラ3の幅方向Yの外側)に配置されることを特徴としている。これにより、落鉱物10を押し出すときの装置本体2の浮き上がりを防止しつつ、落鉱物処理装置1を小型・軽量化でき、狭隘空間での作業性も向上できるという効果がある。以下に、この理由について説明する。
【0038】
図3Aは、特許文献1(特開平8−92992号公報)に記載の従来の落鉱物処理装置100(超低床ローダ)を示している。
図3Aは、従来の落鉱物処理装置100は、装置本体102の前方側に、バケット動作機構105が配置されている。バケット動作機構105は、ブーム151、ブームシリンダ152、ベルクランク153、プッシュロッド154、バケットシリンダ155等からなり、バケット104を昇降及びチルティングさせる機能を有する。
【0039】
このように、装置本体102とバケット104の間にバケット動作機構105を配置する構造であると、装置本体102とバケット104とが離隔し、両者間の距離がどうしても大きくなる。このため、落鉱物に対するバケット104の作用点Aと装置本体102の重心Gとの距離M’が大きくなる。このため、従来の落鉱物処理装置100を用いて落鉱物を押し出すときに、落鉱物からバケット104の作用点Aに対して作用する上向きの力(落鉱物をバケット104で切削するときの背分力に相当する力)により、装置本体102の前部側が設置面から浮き上がってしまうという問題が生じる。このため、従来の落鉱物処理装置100では、当該装置本体102の浮き上がりを防止するためには、装置本体102の重量を重くせざるを得ず、装置が大型化・重量化してしまうという問題があった。さらに、落鉱物処理装置100の全長L’が長くなるため、旋回半径が大きくなり、狭隘空間における落鉱物処理装置100の作業性が低下するという問題があった。
【0040】
これに対し、本実施形態に係る落鉱物処理装置1では、
図3Bに示すように、バケット4を支持及び動作させるためのバケット動作機構5を、装置本体2の幅方向Yの両側(クローラ3の幅方向Yの外側)に配置し、装置本体2の前方にはなんらの機構も配置しない構造としている。このバケット動作機構5は、上述したアーム51、アーム回動軸52、昇降シリンダ53、チルトシリンダ54、リンク機構55などを備えている。これらバケット動作機構5の各構成要素のいずれもが、装置本体2の両サイド、即ち、クローラ3(走行体)の幅方向Yの外側に配置されている。特に、左右一対のアーム51、51は、一対のクローラ3、3の幅方向Yの外側に、装置本体2の長さ方向Xに沿って延びるように配置されている。
【0041】
かかるバケット動作機構5の配置により、バケット4を装置本体2に極力接近させ、バケット4と装置本体2を近接配置することができる。この際、装置本体2の前面とバケット4の背面とは、近接して対向配置され、両者の間には何らの部材も配置されない。なお、本実施形態に係るバケット動作機構5によれば、従来の落鉱物処理装置100のバケット動作機構105と比べて遜色なく、バケット4を昇降及びチルティングさせることが可能である。
【0042】
本実施形態に係る落鉱物処理装置1では、以上のようなバケット動作機構5の特徴的な配置により、バケット4と装置本体2を近接配置できる。このため、落鉱物10に対するバケット4の作用点Aと装置本体2の重心Gとの距離Mを、最大限に短くすることができ、従来の落鉱物処理装置100の距離M’よりも大幅に短縮できる(M<M’)。従って、装置本体2の重量によりバケット4の作用点Aに作用する下向きのモーメントを最大化できる。よって、落鉱物10の押出時に、落鉱物10からバケット4の作用点Aに対して上向きの力(上記背分力に相当する力)が作用したとしても、上記装置本体2の重量により、当該上向きの作用力に抗する大きな下向きのモーメントをバケット4に伝達できるので、装置本体2の浮き上がりを適切に防止できる。
【0043】
それ故、比較的、軽量・小型の落鉱物処理装置1であっても、落鉱物10の押出作業中の装置本体2の浮き上がり力に抗することができ、落鉱物10の除去作業に支障をきたすことがない。よって、落鉱物処理装置1を小型化及び軽量化でき、落鉱物処理装置1の作業能力を向上できる。さらに、従来の落鉱物処理装置100の全長L’よりも、落鉱物処理装置1の全長Lを短縮できるので(L<L’)、落鉱物処理装置1の旋回半径を小さくでき、低床型ベルトコンベア下の狭隘空間における作業性を向上できる。
【0044】
[4.アーム回動軸の配置]
次に、
図4〜
図7を参照して、本実施形態に係る落鉱物処理装置1におけるアーム51の支点位置(アーム回動軸52)の特徴的な配置について説明する。
【0045】
本実施形態に係る落鉱物処理装置1においては、アーム51の回動の支点となるアーム回動軸52(アーム支点O)が、装置本体2の重心Gの位置よりも長さ方向Xの後方側に配置されることを特徴としている。
図3Bに示したように、アーム回動軸52は、アーム51の後端を軸支してアーム51の回動中心となるが、このアーム回動軸52は、装置本体2の重心Gよりも後方側に配置されている。
【0046】
これにより、アーム回動軸52(アーム支点O)が装置本体2の重心Gよりも前方側に配置されている場合と比べて、装置本体2の重量によりバケット4の作用点Aに作用する下向きの力Waを増大させることができる。従って、落鉱物処理装置1による落鉱物10の押出時に、落鉱物10からバケット4に対して上記の上向きの力が作用したとしても、上記装置本体2の重量により、更に大きな下向きのモーメントをバケット4に伝達できるので、装置本体2の浮き上がりをより確実に防止できる。以下に、この理由について説明する。
【0047】
(A)アーム支点Oが重心Gよりも後方にある場合
まず、
図4及び
図5を参照して、本実施形態に係る落鉱物処理装置1のように、アーム51の支点Oが装置本体2の重心Gよりも後方に位置する場合について検討する。
図4Aは、本実施形態に係る落鉱物処理装置1を簡略化して示す側面図であり、
図4Bは、落鉱物処理装置1の各部位の位置関係を示す模式図である。
【0048】
図4Aに示すように、本実施形態に係る落鉱物処理装置1においては、アーム回動軸52(アーム支点O)が装置本体2の重心Gよりも後方に配置されている。この場合、落鉱物処理装置1の各部位の位置関係は、
図4Bに示す通りである。なお、
図4及び
図5の例の説明で使用する記号を次の通り定義する。
【0049】
G:装置本体2の重心
O:アーム支点(アーム回動軸52)
F:クローラ3の前端
R:クローラ3の後端
A:落鉱処理時の落鉱物10に対するバケット4の作用点
L1:アーム支点Oとクローラ後端Rとの距離
L2:重心Gとアーム支点Oとの距離
L3:クローラ前端Fと重心Gとの距離
La:バケット作用点Aとアーム支点Oとの距離
L=L1+L2+L3
W:落鉱物処理装置1の重量(重心Gに作用する力)
Wa:バケット作用点Aに作用する力
Wf:クローラ前端Fに作用する力
Wr:クローラ後端Rに作用する力
【0050】
上記
図4A及び
図4Bに示した条件下において、落鉱物処理装置1による落鉱物10の押出作業時に、落鉱物処理装置1の各部位に作用する力を考える。なお、極限的に、バケット4とクローラ3の後端Rで装置全体の重量を支えていると仮定する。この場合、
図5Aに示すように、バケット作用点Aに作用する力Waと、クローラ後端Rに作用する力Wrは、以下の式(1)、(2)で表される。
【0051】
Wa=W・(L1+L2)/(L1+La) ・・・(1)
Wr=W・(La−L2)/(L1+La) ・・・(2)
【0052】
次に、落鉱物処理装置1のバケット4を上昇(リフトアップ)した時の各部位に作用する力を考える。なお、クローラ3全体の分布荷重を、クローラ前端F及び後端Rに対する集中荷重として仮定する。この場合、
図5Bに示すように、バケット作用点Aに作用する力Waは、バケット4内の落鉱物10の荷重とほぼ等しくなり、クローラ前端Fに作用する力Wfと、クローラ後端Rに作用する力Wrは、以下の式(3)、(4)で表される。
【0053】
Wf=(La・Wa+L1・Wa+L1・W+L2・W)/L ・・・(3)
Wr=(L2・Wa+L3・Wa+L3・W−La・Wa)/L ・・・(4)
【0054】
(B)アーム支点Oが重心Gよりも前方にある場合
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態の比較例として、アーム51の支点Oが装置本体2の重心Gよりも後方に位置する場合について検討する。この場合は、上記従来の落鉱物処理装置100に相当する。
図6Aは、アーム支点Oが重心Gよりも前方にある落鉱物処理装置100を簡略化して示す側面図であり、
図6Bは、当該落鉱物処理装置100の各部位の位置関係を示す模式図である。
【0055】
図6Aに示すように、落鉱物処理装置100においては、アーム支点Oが装置本体2の重心Gよりも前方に配置されている。この場合、落鉱物処理装置100の各部位の位置関係は、
図6Bに示す通りである。なお、
図6及び
図7の例の説明で使用する記号を次の通り定義する。
【0056】
G:装置本体102の重心
O:アーム支点
F:クローラ103の前端
R:クローラ103の後端
A:落鉱処理時の落鉱物10に対するバケット104の作用点
L1:重心Gとクローラ後端Rとの距離
L2:アーム支点Oと重心Gとの距離
L3:クローラ前端Fとアーム支点Oとの距離
La:バケット作用点Aとアーム支点Oとの距離
L=L1+L2+L3
W:落鉱物処理装置100の重量(重心Gに作用する力)
Wa:バケット作用点Aに作用する力
Wf:クローラ前端Fに作用する力
Wr:クローラ後端Rに作用する力
【0057】
上記
図6A及び
図6Bに示した条件下において、落鉱物処理装置100による落鉱物10の押出作業時に、落鉱物処理装置100の各部位に作用する力を考える。なお、上記と同様に、極限的に、バケット4とクローラ3の後端Rで装置全体の重量を支えていると仮定する。この場合、
図7Aに示すように、バケット作用点Aに作用する力Waと、クローラ後端Rに作用する力Wrは、以下の式(5)、(6)で表される。
【0058】
Wa=W・L1/(L1+L2+La) ・・・(5)
Wr=W・(L2+La)/(L1+L2+La) ・・・(6)
【0059】
次に、落鉱物処理装置100のバケット4を上昇(リフトアップ)した時の各部位に作用する力を考える。なお、クローラ103全体の分布荷重を、クローラ前端F及び後端Rに対する集中荷重として仮定する。この場合、
図7Bに示すように、バケット作用点Aに作用する力Waは、バケット104内の落鉱物10の荷重とほぼ等しくなり、クローラ前端Fに作用する力Wfと、クローラ後端Rに作用する力Wrは、以下の式(7)、(8)で表される。
【0060】
Wf=(La・Wa+L1・Wa+L2・Wa+L1・W)/L ・・・(7)
Wr=(L2・W+L3・W+L3・Wa−La・Wa)/L ・・・(8)
【0061】
(C)上記(A)と(B)の比較検討
上記の式(1)と式(5)を比較すれば、上記(A)アーム支点Oが重心Gよりも後方にある場合の方が、(B)アーム支点Oが重心Gよりも前方にある場合よりも、バケット4の作用点Aに対する下向きの力Waを大きくできることが分かる。この下向きの力Waは、装置本体2の重量によりバケット4に作用する力であり、落鉱物処理装置1による落鉱物10の押出作業時に落鉱物10からバケット4に作用する上向きの力に対抗するものである。かかる下向きの力Waが大きいほど、押出作業時における装置本体2の浮き上がりを防止できることになる。従って、同一の全長Lの落鉱物処理装置1において、落鉱物10の押出作業時における装置本体2の浮き上がりを防止する観点からは、上記(A)の場合のようにアーム支点O(アーム回動軸52)を重心Gよりも後方に配置することが好ましいといえる。
【0062】
また、上記式(1)によれば、L1+L2が大きく、Laが小さいほど、バケット4の作用点Aに作用する下向きの力Waは大きくなる。このL1+L2が大きく、Laが小さくなれば、バケット4と装置本体2の重心が近接することになる。従って、同一の重量の落鉱物処理装置1において、落鉱物10の押出作業時における装置本体2の浮き上がりを防止する観点からは、装置本体2の重心Gとバケット4が近接配置されている方が好ましく、また、アーム51の長さLaは短い方が好ましいといえる。これにより、下向きの力Waを増大させて、押出作業時における装置本体2の浮き上がりを防止できるといえる。
【0063】
なお、バケット4に作用する下向きの力Waを大きくすることだけを考えて、重心Gやアーム支点Oの位置関係やアーム長Laを設計してしまうと、
図5Bや
図7Bに示すようにバケット4をリフトアップしたときに、装置本体2の後部側が浮き上がってしまう恐れがある(上記式(4)及び式(8)を参照。)。従って、当該後部側の浮き上がりを防止できる範囲内で、重心Gやアーム支点Oの位置関係やアーム長Laを調整することが好ましい。
【0064】
[5.昇降シリンダの特徴的な配置]
次に、本実施形態に係る落鉱物処理装置1における昇降シリンダ53の特徴的な配置について説明する。
【0065】
本実施形態に係る落鉱物処理装置1においては、バケット4を昇降させるためにアーム51を回動させる昇降シリンダ53が、上記アーム回動軸52よりも前方であって、アーム51の長手方向中央よりも後方に配置されることを特徴としている。
図1及び
図3Bに示したように、例えば、昇降シリンダ53の可動端は、アーム51の長さ方向X中央よりも後ろ側の部位に回動軸53bにより連結され、昇降シリンダ53の基端は、当該回動軸53bよりも後方側の装置本体2の側面に対して回動軸53aにより連結されている。
【0066】
このように、昇降シリンダ53をアーム51の後方側に配置することで、昇降シリンダ53をアーム51の前方側に配置する場合よりも、同一ストロークの昇降シリンダ53を用いて、アーム51の回動量を増加させ、バケット4の昇降量を増大させることができる。従って、コンパクトな機体の落鉱物処理装置1に適したストロークの短い昇降シリンダ53を採用することが可能となる。
【0067】
なお、落鉱物処理装置1において、バケット動作機構5によるバケット4のリフトアップ高さは、バケット4をチルティングさせて落鉱物10を排出できる程度の低い高さであってよい。即ち、低床型の落鉱物処理装置1では、バケット4の大きさは、落鉱物処理装置1の高さ(車高)Hにより制限される。従って、バケット4のリフトアップ高さは、当該車高Hよりも若干高い程度の高さで十分である。よって、バケット4をリフトアップするための昇降シリンダ53のストロークも短くて済むので、上記のようにストローク長の短い昇降シリンダ53を採用しても、作業性に問題はない。
【0068】
[6.堆積物処理方法]
次に、
図8〜
図10を参照して、本実施形態に係る落鉱物処理装置1を用いて、低床型ベルトコンベア下において落鉱物10を除去する落鉱処理方法(堆積物処理方法)について説明する。
図8〜
図10は、本実施形態に係る落鉱処理方法を示す工程図である。
【0069】
図8〜
図10に示すように、低床型のベルトコンベア11は、鉄鉱石、石炭等の鉱物12を運搬するための装置である。ベルトコンベア11は、鉱物12が載置されるベルト13と、鉱物12が載置される上側のベルト13の底面に設けられた複数のキャリアローラ14と、鉱物12が載置されていないリターン側(下側)のベルト13の底面に設けられたリターンローラ15と、地面17から所定高さでこれら各部を支持する架台16とを備える。かかる低床型のベルトコンベア11の下方空間18には、ベルトコンベア11から落下した鉱物12(即ち、落鉱物10)が堆積する。この低床型ベルトコンベア11の下方空間18に堆積している落鉱物10を除去するために、上述した落鉱物処理装置1が用いられる。
【0070】
本実施形態に係る落鉱物処理装置1は、落鉱物10の持ち上げ作業(
図10参照)よりも、押出作業(
図8、
図9参照)を優先させて、落鉱物10の除去処理を行う。押出作業では、バケット4の容量以上の落鉱物10をまとめて処理できるので、除去作業が効率的である。
【0071】
(1)第1の押出作業(第1の工程)
図8は、落鉱物処理装置1により、バケット4の幅に渡って一度に全ての落鉱物10をベルトコンベア11の下方空間18から押し出す第1の押出作業(第1の工程)を示す。
図8に示すように、ベルトコンベア11の下方空間18において落鉱物10が存在する箇所(以下、落鉱箇所)が、押出可能箇所である場合を考える。ここで、押出可能箇所とは、落鉱物処理装置1を用いてベルトコンベア11の一側から他側にかけて落鉱物10を押し出す可能な箇所である。例えば、落鉱物10を押し出す先の場所(ベルトコンベア11の他側)に構造物(
図10参照。)が存在せず、スペースがある箇所は、押出可能箇所である。
【0072】
落鉱箇所が押出可能箇所である場合、
図8に示すように、落鉱物処理装置1により第1の押出作業を実行する(第1の工程)。具体的には、まず、落鉱物処理装置1をベルトコンベア11の一側に配置し、バケット4を地面17の直上の最も低い高さ(第1の高さ)に位置付ける。次いで、
図8Aに示すように、クローラ3により落鉱物処理装置1を前進させて、バケット4を地面17に沿って水平方向に移動させながら、バケット4を落鉱物10の底部に当接させる。そして、
図8Bに示すように、バケット4を用いて落鉱物10の全てをベルトコンベア11の他側まで押し出すことで、ベルトコンベア11の下方空間18から落鉱物10を除去する。このように、第1の押出作業では、地面17と落鉱物10との境界付近で落鉱物10を分断し、下方空間18の地面17上にある落鉱物10のほぼ全てを一度に押し出す。
【0073】
ところが、落鉱物10の粘性や比重が大きいときや、落鉱物10が強固に固化しているときなどには、上記第1の押出作業の押出負荷が高くなるため、落鉱物処理装置1を用いて一度に全ての落鉱物10を押し出すことができない場合がある。このように、落鉱物10の押出負荷が高いため、
図8に示した第1の押出作業(第1の工程)で落鉱物10を押し出すことができない場合には、次に説明する
図9に示す押出作業を行う。
【0074】
(2)第2の押出作業(第2の工程)
図9は、落鉱物処理装置1により、高さ方向に段階的に落鉱物10をベルトコンベア11の下方空間18から押し出す第2の押出作業(第2の工程)を示す。上記第1の押出作業により落鉱物10を押し出せない場合には、
図9に示すように、落鉱物処理装置1により、バケット4を若干上昇させて、押出負荷を低下させた上で、第2の押出作業を実行する。
【0075】
具体的には、まず、
図9Aに示すように、落鉱物処理装置1をベルトコンベア11の一側に配置し、バケット動作機構5によりバケット4を地面17から所定距離だけ上方の高さh(第2の高さ)に上昇させる。この第2の高さhは、落鉱物10の粘性、比重、固化状態等に応じて適宜選択されるが、例えば数十cmである。次いで、クローラ3により落鉱物処理装置1を前進させて、バケット4を第2の高さhのまま水平方向に移動させながら、バケット4を落鉱物10の高さ方向中途部分に当接させる。そして、
図9Bに示すように、バケット4を用いて、落鉱物10の上側部分(バケット4の当接位置よりも上側にある落鉱物10)をベルトコンベア11の他側まで押し出すことで、ベルトコンベア11の下方空間18から落鉱物10を除去する。
【0076】
このとき、なおも押出負荷が高く、落鉱物10を押し出すことができない場合には、上記第2の高さよりも更に高い第3の高さまでバケット4を上昇させた上で、上記第2の押出作業を試みればよい。バケット4の位置を上昇させれば、バケット4により水平方向に分断する落鉱物10の断面積も小さくなるので、押出負荷を低減することができる。
【0077】
以上のように、第2の押出作業では、バケット4を上昇させることで、落鉱物10の押出負荷を低下させ、落鉱物10の高さ方向の中途位置で落鉱物10を分断し、落鉱物10の上側部分を押し出す。その後、残存している落鉱物の下側部分を除去するときには、バケット4を地面17付近まで降下させて、上記第1の押出作業と同様に押出作業を行う。このように落鉱物10の高さ方向に段階的に押出作業を行うことで、落鉱物10の押出負荷が高い場合であっても、落鉱物10を効率的に除去することが可能となる。
【0078】
なお、上記第2の押出作業では、落鉱物10を高さ方向に2段階に分割して、2回の押出作業を行う例について説明したが、落鉱物10を高さ方向に3段階以上に分割して、3回の押出作業を行ってもよい。
【0079】
(3)持ち上げ作業(第3の工程)
図10は、落鉱物処理装置1により、落鉱物10の一部をベルトコンベア11の下方空間18から持ち上げて除去する持ち上げ作業(第3の工程)を示す。
【0080】
図10に示すように、落鉱箇所のベルトコンベア11に隣接して構造物19が存在する場合には、押し出し先のスペースがないため、上記第1及び第2の押出作業を行うことができない。また、バケット4による落鉱物10の押出時に大きなせん断力が必要となり、押出負荷が大きくなるため、上記第2の押出作業によっても落鉱物10を押し出すことができない場合もある。これらの場合には、
図10に示すように、バケット4を用いて落鉱物10の一部10aを持ち上げて除去する持ち上げ作業を行う。
【0081】
具体的には、落鉱物処理装置1をベルトコンベア11の一側に配置し、バケット4を地面17の直上の最も低い高さ(第1の高さ)に位置付ける。次いで、
図10Aに示すように、クローラ3により落鉱物処理装置1を前進させて、バケット4を地面17に沿って水平方向に移動させながら、バケット4を落鉱物10に当接させる。このとき、バケット4の高さは、地面17の直上の最も低い高さ(第1の高さ)であってもよいし、地面17からある程度上昇させた高さ(第2の高さ)であってもよい。バケット4を落鉱物10に当接させることにより、バケット4内に落鉱物10の一部10aが収容される。その後、
図10Bに示すように、クローラ3により落鉱物処理装置1を後進させることで、バケット4内に収容された落鉱物10の一部10aを掬い取って、ベルトコンベア11の下方空間18から排出する。
【0082】
かかる持ち上げ作業により、上記構造物19や過大な押出負荷等により落鉱物10を押し出すことができない場合であっても、バケット4の容量分の落鉱物10をベルトコンベア11の下方空間18から除去することが可能である。
【0083】
[7.まとめ]
以上、本実施形態に係る落鉱物処理装置1と、これを用いた落鉱物処理方法について詳細説明した。本実施形態によれば、落鉱物処理装置1は、低床型ベルトコンベア11の下方空間18に入り込むことが可能な低い車高Hの重機であるので、当該下方空間18において上記押出作業及び持ち上げ作業を適切に遂行できる。この際、落鉱物処理装置1は、上記特徴的な構造のバケット動作機構5により、バケット4の昇降動作やチルティング動作を、支障なく行うことが可能である。
【0084】
また、落鉱物処理装置1においては、上記のようにアーム51等のバケット動作機構5を装置本体2の左右両側に配置することで、バケット4と装置本体2とが近接配置されている。さらに、アーム回動軸52(アーム支点O)が装置本体2の重心Gよりも後方に配置されている。かかる配置により、落鉱物10の押出作業においてバケット4により落鉱物10を水平方向に分断するときに、当該バケット4に上向きの力(背分力)を受けたとしても、装置本体2の重量による下向きの抗力をバケット4に効果的に伝えることができる。従って、比較的小型かつ軽量の落鉱物処理装置1であっても、押出作業時の装置本体2の浮き上がりを的確に防止できる。よって、同一機体重量での落鉱物処理装置1の作業能力を向上できる。
【0085】
さらに、昇降シリンダ53がアーム51の中央よりも後方側に配置されている。これにより、同一の昇降シリンダストロークでは、バケット4の昇降量を確保することができ、コンパクトな機体の落鉱物処理装置1に適した短ストローク長の昇降シリンダ53を採用できる。
【0086】
また、本実施形態に係る落鉱物処理方法によれば、落鉱箇所の周囲の環境や落鉱物10の固化状態等に応じて、上記第1及び第2の押出作業と待ち挙げ作業を使い分けることで、効率的かつ確実に落鉱物10を除去することができる。また、落鉱物処理装置1により落鉱物10を除去するため、作業員が人力で除去作業を行う必要がないので、安全かつ効率的に除去作業を遂行できるとともに、作業員の省力化及び作業時間の短縮が図れる。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、上記実施形態では、落鉱物処理装置1の走行体としてクローラ3を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。走行体としては、堆積物処理装置を少なくとも前進及び後進させることが可能な機構であればよく、例えば、複数輪のタイヤ等を用いてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、落鉱物処理装置1の作業具としてバケット4を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。作業具としては、落鉱物を少なくとも押出可能な部材であればよく、例えば、
図11に示すドーザ9等のような、押出作業用のブレードを用いてもよい。