特許第5863591号(P5863591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863591
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20160202BHJP
   A61B 8/00 20060101ALI20160202BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   H04R17/00 330H
   A61B8/00
   G01N29/24
   H04R17/00 332A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-161364(P2012-161364)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-23022(P2014-23022A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】住川 健太
(72)【発明者】
【氏名】成塚 康則
(72)【発明者】
【氏名】大野 茂
【審査官】 松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−277988(JP,A)
【文献】 特開2010−062660(JP,A)
【文献】 特開昭55−151891(JP,A)
【文献】 特開平07−113793(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0055337(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
G01N 29/24
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電膜の一方の面に形成された第1電極と、前記第1圧電膜よりも厚い第2圧電膜の一方の面に形成された第2電極と、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の他方の面に形成された対向電極とを有し、前記第1電極と前記第2電極と交互に配列しているアレイ型超音波プローブと、
所定走査位置に対応する第1超音波振動子に信号を出力し、被検体に対して入射角度を斜角にして焦点を結ぶように超音波を送信させる信号生成部と、
前記被検体の焦点に対して前記信号生成部が信号を出力した前記第1超音波振動子の相対位置に対応する第2超音波振動子により前記被検体の焦点からの反射波を受信し、当該第2超音波振動子が出力する受信信号を信号処理する信号処理部と、
前記信号処理部の出力信号に基づいて超音波画像を生成する画像生成部と、
を備え、
前記アレイ型超音波プローブは、
前記第1電極と前記対向電極と前記第1圧電膜を備えた前記第1超音波振動子と、
前記第2電極と前記対向電極と前記第2圧電膜を備えた前記第2超音波振動子と、
をそれぞれ複数備える、
ことを特徴とする超音波検査装置
【請求項2】
前記第1超音波振動子の周波数帯域は、前記第2超音波振動子の周波数帯域より高い、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、
前記被検体の焦点に対して、前記信号生成部が信号を出力した各前記第1超音波振動子の相対位置にある連接した複数の第2超音波振動子を選択し、選択した当該複数の第2超音波振動子が出力する受信信号を信号処理する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、
前記複数の第2超音波振動子が出力する受信信号に対して焦点からの距離の差を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理する、
ことを特徴とする請求項3に記載の超音波検査装置。
【請求項5】
前記アレイ型超音波プローブは更に、
前記第1圧電膜よりも厚く、かつ、前記第2圧電膜よりも薄い第3圧電膜の一方の面に形成された第3電極と、
前記第3圧電膜の他方の面に形成された前記対向電極とを有し、
前記第1電極と前記第2電極と前記第3電極とは交互に配列している、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項6】
前記アレイ型超音波プローブの前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とは、フッ素系共重合体で構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項7】
前記アレイ型超音波プローブの前記第1圧電膜と前記第2圧電膜とは、ジルコンチタン酸鉛、チタン酸鉛、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、リチウムテトラボレート、ニオブ酸ナトリウムカリウム、ビスマスフェライト、ニオブ酸ナトリウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウム、窒化アルミニウム、リン酸ガリウム、ガリウム砒素のいずれかで構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波によって被検体を検査する超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査装置は、超音波プローブを用いて被検体との間で超音波を送受信して得られた反射信号に基づいて被検体内部の画像を生成するものである。これにより、超音波検査装置は、被検体を破壊すること無く、内部の傷や欠陥などの有無を検査することができる。
【0003】
従来、超音波によって半導体や集積回路などの欠陥(剥離やボイド)の有無を調べるには、単一焦点型の超音波プローブを機械的に二次元で走査する方法が用いられていた。この検査方法は、単一焦点型の超音波プローブによって被検体の検査対象部位を焦点として超音波の送受信を行い、検査対象部位から反射された超音波をゲート処理して強度情報や時間情報を求めるものである。求められた超音波の強度情報や時間情報などを、超音波プローブの走査位置に応じた二次元空間にマッピングすることにより、検査画像情報を生成することができ、この検査画像情報を基に、被検体内部の欠陥の有無を調べることができる。
【0004】
また近年では、アレイ型超音波プローブを用いた超音波検査手法も用いられている。アレイ型超音波プローブは、列状に配列された複数の超音波振動子を備え、その内の幾つか連接する複数の超音波振動子群で1つの超音波パルスビームを送受信するものである。これら複数の超音波振動子群を構成する各超音波振動子に与える送波信号(励振信号)、および、各超音波振動子で受信した受波信号(超音波の受信信号)に、所定の時間的ずれ(遅延パターン)を与え、いわゆるフェーズドアレイとして機能させることにより、超音波ビームを集束させて、焦点を持った超音波エコーを得ることができる。各超音波振動子の配列方向に直交する方向に曲率をつけることにより、配列方向に直交する方向についても超音波ビームを集束させて、焦点を持った超音波エコーを得ることができる。更に、超音波パルスビームを送信する複数の超音波振動子群を電子的に走査することにより、高速なスキャンが可能となる。
【0005】
特許文献1には、発明の詳細な説明(明細書第2ページ左下欄3〜14行目)に「本発明においては、無機圧電体の代わり高分子圧電体あるいは高分子圧電膜を用いるものであり、背面電極と高分子圧電膜と表面電極とからなる積層体が一つの軸線に対して湾曲しており、前記背面電極及び前記表面電極の少なくとも一方が、前記軸線方向に沿って軸線方向に実質的に直角な方向に微小間隔をもって分割されている高分子圧電膜を用いた走査型超音波トランスデューサを提供し、」と記載されている。ここで、超音波トランスデューサとは、アレイ型超音波プローブの超音波振動子のことをいう。
【0006】
特許文献1には更に、発明の詳細な説明(明細書第4ページ左下欄11〜20行目)に、「本発明の高分子圧電膜を用いたトランスデューサによれば、走査方向に多数の振動子を配列し、各々の振動子を結線するに際して、表面電極あるいは背面電極のどちらか一方を、好ましくは背面電極を、通常のプリント基板の配線パターンの加工技術であるエッチングやルーリングなどを用いて、容易に所望形状かつ微細に多数に分割して形成し、これに予め圧電性を付与された高分子圧電膜を単に接着剤を用いて接着すればよいので、」と記載されている。アレイ型超音波プローブを構成する超音波振動子は、例えばこのようにして形成される。
【0007】
図11は、比較例に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
アレイ型圧電センサ30Bは、表面から順に、このアレイ型圧電センサ30Bを物理的な衝撃などから保護する保護膜40と、この保護膜40を下層に接着する接着層41と、共通のグランド電極42と、フッ素系共重合体で構成されている高分子圧電膜43と、高分子圧電膜43に電圧を印加する複数のシグナル電極45と、各シグナル電極45を接着する接着層44と、ベースフィルム47と、このベースフィルム47を接着する接着層48と、架台49とを備えている。シグナル電極45は、図の横方向に配列しているシグナル電極45−1〜45−4である。
接着層44の表面側には、均一な厚さの高分子圧電膜43が形成され、更にその表面側にはグランド電極42が形成されて、超音波振動子34−1〜34−4を構成している。これら複数の超音波振動子34−1〜34−4は、図の横方向に配列している。以下、超音波振動子34−1〜34−4を特に区別しないときには、単に超音波振動子34と記載している場合がある。
【0008】
アレイ型圧電センサ30Bに於いて、高分子圧電膜43は分割されていない。しかし、配列して構成されているシグナル電極45−1〜45−4とグランド電極42に挟まれた高分子圧電膜43ごとに、ひとつの超音波振動子34として扱うことができる。連接する超音波振動子34が送信する複数の超音波により、所定の走査位置を焦点とする超音波ビームを送信することができる。アレイ型圧電センサ30Bは、超音波振動子34毎にパルス駆動の時間差を設け、前記した超音波ビームの焦点距離や入射角などを変えることができる。
例えば、最初に超音波振動子34−1〜34−3で超音波ビームを形成し、被検体を走査する。次には、電子的にシフトした超音波振動子34−2〜34−4で超音波ビームを形成し、被検体を走査する。このように、超音波振動子34のシフトを電子制御することにより、高速なスキャンが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭55−151891公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
超音波ビームの焦点でのビームの径は、超音波の周波数が高いほど小さくできる。よって、超音波の周波数を高くすることにより、解像度の高い画像を得ることが可能である。その反面、超音波は、水中や被検体の中で高い周波数ほど減衰するため、受信側の周波数が低いと良い映像が得られる傾向があった。言い換えると、送信側の超音波の周波数と、受信側の周波数が同一であると、良い映像が得られない傾向があった。
【0011】
特許文献1の超音波トランスデューサ(アレイ型超音波プローブ)や比較例のアレイ型圧電センサは、走査方向に多数の超音波振動子が配列されて構成されている。特許文献1の高分子圧電膜は、特許文献1の図3に示されているように、均一な厚さで形成されている。各超音波振動子は、高分子圧電膜の厚さによって送受信する超音波の周波数帯域が決定されるので、特許文献1の超音波トランスデューサ(アレイ型超音波プローブ)に於いて、送信可能な超音波の周波数帯域と、受信可能な超音波の周波数帯域とは共通している。よって、特許文献1の超音波トランスデューサ(アレイ型超音波プローブ)や比較例のアレイ型圧電センサが送信した超音波の反射波は周波数が減衰し、よって良好な信号対雑音比の超音波画像を得られない虞があった。
【0012】
高域の超音波を送信し、減衰した低域の超音波を受信したい場合には、高域の超音波を送信するアレイ型超音波プローブと、低域の超音波を受信するアレイ型超音波プローブとを横に配置する必要があった。これにより、超音波プローブ全体の設置寸法が大きくなる虞があった。更に、2つのアレイ型超音波プローブを横に配置した場合には、超音波の被検体への入射角度が大きくなり、被検体の表面で反射されて内部に超音波を入射できない虞があった。これは、音速が速い材料で構成されている被検体では、超音波の屈折率が高いために特に顕著となる。
【0013】
そこで、本発明は、所定の周波数帯域の超音波を送信し、前記所定の周波数帯域のうち低域の反射波を受信可能なアレイ型超音波プローブを用いた超音波検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明では、第1圧電膜の一方の面に形成された第1電極と、前記第1圧電膜よりも厚い第2圧電膜の一方の面に形成された第2電極と、前記第1圧電膜および前記第2圧電膜の他方の面に形成された対向電極とを有し、前記第1電極と前記第2電極と交互に配列しているアレイ型超音波プローブと、所定走査位置に対応する第1超音波振動子に信号を出力し、被検体に対して入射角度を斜角にして焦点を結ぶように超音波を送信させる信号生成部と、前記被検体の焦点に対して前記信号生成部が信号を出力した前記第1超音波振動子の相対位置に対応する第2超音波振動子により前記被検体の焦点からの反射波を受信し、当該第2超音波振動子が出力する受信信号を信号処理する信号処理部と、前記信号処理部の出力信号に基づいて超音波画像を生成する画像生成部とを備え、前記アレイ型超音波プローブは、前記第1電極と前記対向電極と前記第1圧電膜を備えた前記第1超音波振動子と、前記第2電極と前記対向電極と前記第2圧電膜を備えた前記第2超音波振動子とをそれぞれ複数備えることを特徴とする超音波検査装置とした。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の周波数帯域の超音波を送信し、前記所定の周波数帯域のうち低域の反射波を受信可能なアレイ型超音波プローブを用いた超音波検査装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
図2】第1の実施形態に於ける超音波検査装置を示す概略の構成図である。
図3】第1の実施形態に於ける超音波検査装置の走査方法を示す図である。
図4】第1の実施形態に於けるアレイ型超音波プローブの三面図である。
図5】第1の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの動作を示す図である。
図6】第1の実施形態に於ける画像化処理を示すフローチャートである。
図7】第2の実施形態に於ける超音波検査装置を示す概略の構成図である。
図8】第2の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの動作を示す図である。
図9】第2の実施形態に於ける画像化処理を示すフローチャートである。
図10】第3の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
図11】比較例に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。
【0018】
(第1の実施形態のアレイ型超音波プローブおよび超音波検査装置の構成)
【0019】
図1は、第1の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
アレイ型圧電センサ30は、表面側(図の上側)から順に、このアレイ型圧電センサ30を物理的な衝撃から保護する保護膜40と、この保護膜40を下層に接着する接着層41と、共通のグランド電極42(対向電極)と、フッ素系共重合体で構成されている高分子圧電膜43(第1圧電膜、第2圧電膜)と、高分子圧電膜43に電圧を印加する複数のシグナル電極45(第1電極、第2電極)と、各シグナル電極45を絶縁する絶縁層46と、ベースフィルム47と、このベースフィルム47を接着する接着層48と、架台49とを備えている。シグナル電極45の下部には、絶縁層46が交互に配列して形成されている。
【0020】
絶縁層46の上に形成されたシグナル電極45は、シグナル電極45a−1〜45a−3(第1電極)と記載している場合と、単にシグナル電極45aと記載している場合がある。
ベースフィルム47上に絶縁層46を介さずに構成されたシグナル電極45は、シグナル電極45c−1〜45c−4(第2電極)と記載している場合と、単にシグナル電極45cと記載している場合がある。
【0021】
シグナル電極45a(第1電極)の上部には、薄い高分子圧電膜43(第1圧電膜)が形成され、更にその表面側にはグランド電極42(対向電極)が形成されて、高域用超音波振動子31−1〜31−3(第1超音波振動子)を構成している。以下、高域用超音波振動子31−1〜31−3を特に区別しないときには、単に高域用超音波振動子31と記載している場合がある。
すなわち、薄い高分子圧電膜43(第1圧電膜)の一方の面にシグナル電極45a(第1電極)が形成され、他方の面にグランド電極42(対向電極)が形成されている。言い換えると、高域用超音波振動子31は、シグナル電極45a(第1電極)と薄い高分子圧電膜43(第1圧電膜)とグランド電極42(対向電極)を備えている。
高域用超音波振動子31は、シグナル電極45aに励起信号が入力されたとき、薄い高分子圧電膜43の圧電効果により、高域の超音波を発生するものである。更に高域用超音波振動子31は、シグナル電極45aに、受信した高域の超音波に応じた電圧を発生させる。
【0022】
シグナル電極45c(第2電極)の上部には、シグナル電極45a(第1電極)の上部の高分子圧電膜43よりも厚い高分子圧電膜43が形成され、更にその表面側にはグランド電極42(対向電極)が形成されて、低域用超音波振動子33−1〜33−4(第2超音波振動子)を構成している。以下、低域用超音波振動子33−1〜33−4を特に区別しないときには、単に低域用超音波振動子33と記載している場合がある。
すなわち、厚い高分子圧電膜43の一方の面にシグナル電極45c(第2電極)が形成され、他方の面にグランド電極42(対向電極)が形成されている。言い換えると、低域用超音波振動子33は、シグナル電極45c(第2電極)と厚い高分子圧電膜43(第2圧電膜)とグランド電極42(対向電極)を備えている。
低域用超音波振動子33は、シグナル電極45cに励起信号が入力されたとき、厚い高分子圧電膜43の圧電効果により、低域の超音波を発生するものである。更に低域用超音波振動子33は、シグナル電極45cに、受信した低域の超音波に応じた電圧を発生させる。
【0023】
シグナル電極45a(第1電極)とシグナル電極45c(第2電極)とは、交互に配列している、すなわち、高域用超音波振動子31(第1超音波振動子)と低域用超音波振動子33(第2超音波振動子)とは、交互に配列している。
【0024】
図2は、第1の実施形態に於ける超音波検査装置を示す概略の構成図である。
第1の実施形態の超音波検査装置10は、アレイ型超音波プローブ20によって、適切に反射波を受信するものである。
超音波検査装置10は、超音波の送受信を行うアレイ型超音波プローブ20と、当該超音波検査装置10を統括制御して超音波映像を表示する映像表示装置50と、アレイ型超音波プローブ20との間で電気信号を入出力する送受信装置60と、アレイ型超音波プローブ20を機械的に走査するX軸スキャナ71およびY軸スキャナ72と、アレイ型超音波プローブ20の走査位置を検知するエンコーダ21と、X軸スキャナ71およびY軸スキャナ72を制御するメカ制御装置70とを備えている。アレイ型超音波プローブ20は、X軸スキャナ71およびY軸スキャナ72に支えられて、水槽100に満たされた水110に浸漬され、アレイ型圧電センサ30が被検体120に対向するように配置される。
【0025】
アレイ型超音波プローブ20は、電気信号と超音波とを相互に変換するアレイ型圧電センサ30を備えている。アレイ型圧電センサ30は、交互に配列している高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とを備えている。
映像表示装置50は、アレイ型超音波プローブ20の走査位置を制御する走査制御部51と、超音波の送受信タイミングを制御するタイミング制御部53と、超音波画像を生成する画像生成部54とを備えている。
送受信装置60は、低域用超音波振動子33の励起信号を生成する信号生成部61−1,61−2と、アレイ型超音波プローブ20が受信した反射波の受信信号を増幅するアンプ64−1,64−2と、当該受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器65−1,65−2と、当該受信信号を信号処理する信号処理部66とを備えている。
信号生成部61−1,61−2,…は、アレイ型超音波プローブ20が備えている各高域用超音波振動子31(第1超音波振動子)に、それぞれ並列に接続されている。以下、信号生成部61−1,61−2,…を特に区別しないときには、単に信号生成部61と記載している場合がある。
アンプ64−1,64−2,…は、アレイ型超音波プローブ20が備えている各低域用超音波振動子33(第2超音波振動子)に、それぞれ並列に接続されている。以下、アンプ64−1,64−2,…を特に区別しないときには、単にアンプ64と記載している場合がある。
A/D変換器65−1,65−2,…は、アンプ64−1,64−2,…の出力側に、それぞれ接続されている。以下、A/D変換器65−1,65−2,…を特に区別しないときには、単にA/D変換器65と記載している場合がある。
【0026】
走査制御部51は、メカ制御装置70(スキャナ)と入出力可能に接続されている。走査制御部51は、メカ制御装置70とX軸スキャナ71とY軸スキャナ72(スキャナ)によってアレイ型超音波プローブ20の走査位置を制御すると共に、メカ制御装置70からアレイ型超音波プローブ20の走査位置情報を受信する。
メカ制御装置70の出力側は、X軸スキャナ71およびY軸スキャナ72に接続されている。メカ制御装置70には、アレイ型超音波プローブ20の走査位置を検知するエンコーダ21の出力側が接続されている。メカ制御装置70(スキャナ)は、エンコーダ21の出力信号に基づいて、アレイ型超音波プローブ20の走査位置を検知して、X軸スキャナ71およびY軸スキャナ72によって、指示された走査位置になるように制御する。メカ制御装置70は、走査制御部51からアレイ型超音波プローブ20の制御指示を受けると共に、アレイ型超音波プローブ20の走査位置情報を応答する。
タイミング制御部53は、走査制御部51から取得したアレイ型超音波プローブ20の走査位置情報に基づいて、送受信装置60に超音波の送受信タイミング信号(情報)を出力するものである。これにより、超音波ビームは、所定の走査位置を焦点として収束する。
【0027】
各信号生成部61−1,61−2,…は、各高域用超音波振動子31(第1超音波振動子)に、所定の励起信号(インパルス信号)を出力するものである。これにより、高域用超音波振動子31は、所定タイミングで高域の周波数の超音波を送信することができる。
【0028】
アレイ型圧電センサ30(図1)は、高域用超音波振動子31(第1超音波振動子)と低域用超音波振動子33(第2超音波振動子)とが配列されているものである。アレイ型圧電センサ30は、シグナル電極45(図1)に励起信号が入力されることにより、高分子圧電膜43(図1)の圧電効果により、超音波を送信する。更にアレイ型圧電センサ30は、当該高分子圧電膜43(図1)が受信した反射波を、前記両電極間に発生する電圧に変換して受信信号とする。アンプ64−1,64−2,…は、当該受信信号を増幅して出力するものである。A/D変換器65−1,65−2,…は、増幅された当該受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換するものである。
【0029】
信号処理部66は、各受信信号を信号処理するものである。信号処理部66は、走査位置からの距離に応じて、各反射波の受信信号を遅延させ、1画素を構成するために使われる全ての受信信号のタイミングを一致させる。更に、信号処理部66は、タイミング制御部53が出力するゲートパルスVgateによって、前記受信信号の所定期間のみを切り出す。信号処理部66は、所定期間の受信信号の振幅情報、または、所定期間の受信信号の時間情報を、画像生成部54に出力する。
画像生成部54は、信号処理部66の出力信号に基づいて、所定周波数に於ける超音波画像を生成するものである。
【0030】
(第1の実施形態のアレイ型超音波プローブおよび超音波検査装置の動作)
図2を参照しつつ、超音波検査装置10の一連の動作について説明する。
走査制御部51は、アレイ型超音波プローブ20を+X方向にスキャンし、被検体120の超音波画像を取得するよう制御する。走査制御部51は、アレイ型超音波プローブ20がX方向の端に位置していることを検知したならば、スキャンを終了する。
【0031】
映像表示装置50のタイミング制御部53は、所定のY方向の走査位置に対応した複数の信号生成部61に、それぞれ所定タイミングで励起信号を生成するように指示する。送受信装置60は、信号生成部61が生成した各励起信号を、アレイ型超音波プローブ20に送信する。アレイ型超音波プローブ20は、各励起信号によってアレイ型圧電センサ30から、超音波ビームを送信して、所定の焦点に集中させる。
アレイ型超音波プローブ20は、連接した複数の低域用超音波振動子33によって反射波を受信し、受信信号を出力する。送受信装置60は、アンプ64によって受信信号を増幅し、A/D変換器65によって受信信号をデジタル信号に変換し、信号処理部66によって当該受信信号の焦点からの距離を打ち消すよう遅延処理したのち、ゲートパルスVgateによって信号処理(ゲート処理)して、当該相殺位置に於ける画素情報として、映像表示装置50に出力する。
映像表示装置50は、メカ制御装置70から取得した走査位置の情報と、タイミング制御部53から取得したY方向の走査位置の情報と、送受信装置60の信号処理部66が出力した当該走査位置に於ける画素の情報とに基づいて、被検体120の内部構造を画像化して表示する。被検体120の内部を示す超音波画像は、受信信号の振幅情報によるものでも、受信信号が所定振幅以上になる時間の情報によるものでもよい。
【0032】
図3は、第1の実施形態に於ける超音波検査装置の走査方法を示す図である。
ここでは、超音波検査装置10の一部として、X軸スキャナ71と、Y軸スキャナ72と、アレイ型超音波プローブ20のみが示されている。
X軸スキャナ71は、Y軸スキャナ72を±X方向に移動させるものである。Y軸スキャナ72は、被検体120の被検体120のY方向の大きさが、アレイ型超音波プローブ20のスキャン幅よりも広い場合に、アレイ型超音波プローブ20を±Y方向に移動させるものである。なお、Y軸スキャナ72は、被検体120の被検体120のY方向の大きさが、アレイ型超音波プローブ20のスキャン幅よりも狭い場合には、Y方向のスキャンを行わない。
アレイ型超音波プローブ20は、ほぼ直方体であり、先端部にアレイ型圧電センサ30(図1)を備えている。アレイ型超音波プローブ20は、水槽100に満たされた水110に浸漬されて、被検体120の上部Z方向に所定の距離を於いてアレイ型圧電センサ30(図1図2)が対向するように配置されている。アレイ型圧電センサ30の高域用超音波振動子31(第1超音波振動子)と低域用超音波振動子33(第2超音波振動子)とは、図のY方向に配列している。
【0033】
図4は、第1の実施形態に於けるアレイ型超音波プローブの三面図である。
アレイ型超音波プローブ20は、上部筐体23と下部筐体24と、この下部筐体24の下側に配置されたアレイ型圧電センサ30とを備えている。上部筐体23と下部筐体24とは防水機能を備え、アレイ型圧電センサ30や、それに接続されている信号線などが水110(図1)に浸らないように保護している。上部筐体23には、支持部22が片側に形成されている。アレイ型超音波プローブ20は、この支持部22によってY軸スキャナ72(図1図3)に固定される。
【0034】
図5(a)〜(c)は、第1の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの動作を示す図である。
図5(a)は、最初の走査位置121−1に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。以下、走査位置121−1,…を特に区別しないときには、単に走査位置121と記載している場合がある。
被検体120は、表面120sが形成され、その内部に測定境界面120fが形成されている。測定境界面120fは、例えば被検体120が集積回路の場合には、回路面やボンディング面などである。アレイ型圧電センサ30と被検体120との間には、水110が満たされている。
高域用超音波振動子31−1〜31−3は、走査位置121−1が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。高域用超音波振動子31−1が最も早く超音波を送信し、以降順番に、高域用超音波振動子31−2が超音波を送信し、その後に高域用超音波振動子31−3が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121−1に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、走査位置121−1かつ測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−5〜33−7に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60(図2)は、走査位置121−1に応じた位置である低域用超音波振動子33−5〜33−7の受信信号を、焦点からの距離の差を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理して、当該走査位置121−1に於ける画素を算出する。ここで、送受信装置60の信号処理部66(図2)は、例えば、低域用超音波振動子33−5の受信信号に大きな遅延を加え、低域用超音波振動子33−6の受信信号に中程度遅延を加え、低域用超音波振動子33−7の受信信号に小さな遅延を加え、各受信信号の焦点に於ける信号タイミングが一致するように遅延処理して、各受信信号を加算し、更にゲートパルスVgateによって所定期間の受信信号のみを取り出し、この所定期間の受信信号の振幅情報や時刻情報などを出力する。送受信装置60は、走査位置に応じて電子的に選択した低域用超音波振動子33で反射波を受信しているので、短時間でスキャンすることができる。
このように、アレイ型圧電センサ30が超音波を送信する超音波振動子と、超音波を受信する超音波振動子とは、必ずしも同じでなくてもよい。
【0035】
高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とは、規則的に配列されている。相互の位置関係が明確なので、超音波検査装置10は、超音波ビームの焦点である走査位置121−1を正確に決定することができる。
また、高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とは、同じアレイ型圧電センサ30の中に配列して構成されている。これにより、超音波検査装置10は、超音波ビームの入射角度を斜角にして、表面120sによって全てが反射されることなく、測定境界面120fに入射させることができる。超音波ビームの斜角入射は、測定境界面120fに垂直なキズを検出する場合に有効な手段である。
【0036】
図5(b)は、2番目の走査位置121−2に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。
高域用超音波振動子31−2〜31−4は、走査位置121−2が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。このように、当該走査位置121−2に対応して高域用超音波振動子31を電子的にシフトしている。高域用超音波振動子31−2が最も早く超音波を送信し、以降順番に、高域用超音波振動子31−3が超音波を送信し、その後に高域用超音波振動子31−4が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121−2に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、走査位置121−2かつ測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−6〜33−8に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60(図2)は、走査位置121−2に応じた位置である低域用超音波振動子33−6〜33−8の受信信号を、焦点からの距離の差を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理して、当該走査位置121−2に於ける画素を算出する。
【0037】
図5(c)は、3番目の走査位置121−3に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。
高域用超音波振動子31−3〜31−5は、走査位置121−3が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。このように、当該走査位置121−3に対応して高域用超音波振動子31を電子的にシフトしている。高域用超音波振動子31−3が最も早く超音波を送信し、以降順番に、高域用超音波振動子31−4が超音波を送信し、その後に高域用超音波振動子31−5が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121−3に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−7〜33−9に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60(図2)は、走査位置121−3に応じた位置である低域用超音波振動子33−7〜33−9の受信信号を、焦点からの距離の差を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理して、当該走査位置121−3に於ける画素を算出する。
【0038】
送受信装置60は、走査位置121−1〜121−3に応じて電子的に選択した高域用超音波振動子31で超音波を送信し、その反射波を、電子的に選択した低域用超音波振動子33で受信しているので、短時間でスキャンすることができる。
更に、高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とを配列させて形成しているので、2つのアレイ型圧電センサ30を横に配置するよりも設置寸法を小さくできると共に、送信用の高域用超音波振動子31に対して正確な相対位置にある受信用の低域用超音波振動子33を選択できるので、好適に反射波を受信することができる。
【0039】
《オペレータによる超音波検査装置10の操作手順》
図2を適宜参照して、オペレータによる超音波検査装置10の操作手順を説明する。
被検体120の超音波検査を行うにあたり、オペレータは、被検体120を水槽100の底部に設置する。オペレータは、被検体120の目的とする測定境界面120fを超音波検査装置10に設定し、図6に示す画像化処理を開始する。オペレータは、画像化処理によって得られた超音波画像に基づき、被検体120の内部の欠陥などを評価する。
【0040】
《画像化処理》
【0041】
図6は、第1の実施形態に於ける画像化処理を示すフローチャートである。図6の画像化処理は、被検体120のY方向の大きさが、アレイ型超音波プローブ20のスキャン幅よりも狭い場合である。
画像化処理を開始すると、ステップS10に於いて、映像表示装置50の走査制御部51は、+X方向にアレイ型超音波プローブ20の走査を開始する。
ステップS11に於いて、映像表示装置50の走査制御部51は、X方向の走査位置を判断する。走査制御部51は、X方向位置が所定位置に達する前ならば、ステップS11の判断を繰り返し、X方向位置が所定の画素位置ならば、ステップS12の処理を行い、X方向位置がX方向の終端ならば、ステップS18の処理を行う。
【0042】
ステップS12〜S17に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、全Y方向の走査範囲(ライン)について処理を繰り返す。ここでY方向とは、アレイ型圧電センサ30の高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とが配列している方向である。
ステップS13に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、当該Y方向の走査位置に該当する高域用超音波振動子31から超音波を送信する。すなわち、タイミング制御部53は、信号生成部61に対して、励起信号を高域用超音波振動子31に出力させるように制御する。これにより、高域用超音波振動子31は、超音波を送信する。
ステップS14に於いて、送受信装置60は、当該Y方向の走査位置に該当する低域用超音波振動子33で超音波を受信し、受信信号を出力する。受信信号は、送受信装置60の各アンプ64によって増幅され、各A/D変換器65によってデジタル信号に変換されて、信号処理部66に入力される。
ステップS15に於いて、送受信装置60の信号処理部66は、タイミング制御部53のゲートパルスに基づいて、受信信号を信号処理する。
ステップS16に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、当該走査位置の画素を算出する。
【0043】
ステップS17に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、全Y方向の走査範囲(ライン)について繰り返したか否かを判断する。タイミング制御部53は、当該判断条件が成立しなかったならば、ステップS12の処理に戻り、当該判断条件が成立したならば、ステップS10の処理に戻る。
ステップS18に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、全ての画素に基づき、画像を生成する。ステップS18の処理が終了すると、映像表示装置50は、図6の処理を終了する。
【0044】
(第1の実施形態の効果)
以上説明した第1の実施形態では、次の(A)〜(C)のような効果がある。
【0045】
(A) 高域用超音波振動子31で超音波を送信して、当該超音波の反射波を低域用超音波振動子33で受信して電気信号に変換している。これにより、水110や被検体120により周波数が減衰した反射波を、好適に受信することができると共に、良好な信号対雑音比の超音波画像を得ることができる。
【0046】
(B) アレイ型超音波プローブ20に、高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とを配列させて形成している。これにより、超音波の被検体120への入射角度を小さくすることができるので、超音波検査装置10は、超音波を被検体120の内部に入射させることができ、例えば測定境界面120fに垂直なキズを容易に検出することができる。
【0047】
(C) 単一のアレイ型圧電センサ30に、高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とを配列させて形成している。これにより、2つのアレイ型圧電センサ30を横に配置するよりも設置寸法を小さくできると共に、送信用の高域用超音波振動子31と受信用の低域用超音波振動子33の相対位置を正確に選択し、好適に反射波を受信することができる。
【0048】
(第2の実施形態のアレイ型超音波プローブおよび超音波検査装置の構成)
【0049】
図7は、第2の実施形態に於ける超音波検査装置を示す概略の構成図である。
第2の実施形態の超音波検査装置10Aは、第1の実施形態の超音波検査装置10(図2)とは異なる送受信装置60Aを備え、それ以外は第1の実施形態と同様に構成されている。
第2の実施形態の送受信装置60Aは、第1の実施形態の送受信装置60(図2)に加えて更に、各低域用超音波振動子33に励起信号を出力する信号生成部62−1,62−2を備え、それ以外は第1の実施形態と同様に構成されている。
信号生成部62−1,62−2,…は、タイミング制御部53の出力側が接続されている。更に信号生成部62−1,62−2,…の出力側は、アレイ型超音波プローブ20が備えている各低域用超音波振動子33に、それぞれ並列に接続されている。以下、信号生成部62−1,62−2,…を特に区別しないときには、単に信号生成部62と記載している場合がある。
【0050】
(第2の実施形態のアレイ型超音波プローブおよび超音波検査装置の動作)
【0051】
図8(a)〜(c)は、第2の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの動作を示す図である。
【0052】
図8(a)は、高域画像の走査位置121a−1に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。
第2の実施形態の被検体120は、第1の実施形態の被検体120(図5)と同様に構成されている。アレイ型圧電センサ30と被検体120との間には、水110が満たされている。
高域用超音波振動子31−1〜31−3は、走査位置121a−1が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。高域用超音波振動子31−1,31−3が最も早く超音波を送信し、その後に、高域用超音波振動子31−2が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121a−1に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、走査位置121a−1かつ測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−1〜33−4に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60A(図7)は、走査位置121a−1に応じた位置である低域用超音波振動子33−1〜33−4の受信信号を、焦点からの距離を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理して、当該走査位置121a−1に於ける高域画像の画素を算出する。
【0053】
図8(b)は、低域画像の走査位置121b−1に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。
低域用超音波振動子33−2〜33−4は、走査位置121b−1が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。低域用超音波振動子33−2,33−4が最も早く超音波を送信し、その後に、低域用超音波振動子33−3が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121b−1に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、走査位置121b−1かつ測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−2〜33−4に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60A(図7)は、走査位置121b−1に応じた位置である低域用超音波振動子33−2〜33−4の受信信号を、焦点からの距離を打ち消すよう遅延処理したのちに信号処理して、当該走査位置121b−1に於ける低域画像の画素を算出する。
【0054】
図8(c)は、高域画像の走査位置121a−2に於けるアレイ型圧電センサ30の動作を示す図である。
高域用超音波振動子31−2〜31−4は、走査位置121a−2が焦点になるよう、それぞれ予め決められたタイミングで超音波を送信する。高域用超音波振動子31−2,31−4が最も早く超音波を送信し、その後に、高域用超音波振動子31−3が超音波を送信する。これにより、被検体120の表面120sの内部に超音波ビームが到達し、走査位置121a−2に焦点を結ぶ。
超音波ビームは、走査位置121a−2かつ測定境界面120fで反射する。超音波の反射波は、それぞれ低域用超音波振動子33−2〜33−5に所定のタイミングで到達し、電気信号(受信信号)に変換される。送受信装置60A(図7)は、走査位置121a−2に応じた位置である低域用超音波振動子33−2〜33−5の受信信号を、焦点からの距離の差を打ち消すよう遅延処理したのち信号処理して、当該走査位置121a−2に於ける高域画像の画素を算出する。
このようにすることで、第2の実施形態の超音波検査装置10Aは、一度のスキャンで、周波数の異なる超音波画像を取得することができる。
【0055】
超音波が反射される反射源の寸法は、超音波の波長の1/10程度である。よって、高い周波数の超音波でスキャンすると、より微小な反射源を測定することができる。微小なキズ(反射源)を検出するには、波長が短い高域の周波数の超音波が必要である。しかし、高域の周波数の超音波は、被検体120の結晶粒によって散乱を生じ、内部まで超音波が伝わらない虞がある。そのため、超音波の周波数は、被検体120の材質および検出したいキズの寸法に応じて決められる。
被検体120に好適な周波数は、初めて検査するものに対しては未知である。そのため、オペレータは、異なる周波数のプローブを交換しながら最適なものを選択しなければならず、検査の手間と時間とが必要となっていた。
【0056】
《オペレータによる超音波検査装置10Aの操作手順》
図7を適宜参照して、オペレータによる超音波検査装置10Aの操作手順を説明する。
第1の実施形態と同様に、被検体120の超音波検査を行うにあたり、オペレータは、被検体120を水槽100の底部に設置する。オペレータは、被検体120の目的とする測定境界面120fを超音波検査装置10Aに設定し、図9に示す画像化処理を開始する。オペレータは、画像化処理によって得られた高域の第1の超音波画像と低域の第2の超音波画像のうち好適なものを選択し、被検体120の内部の欠陥などを評価する。
【0057】
図9は、第2の実施形態に於ける画像化処理を示すフローチャートである。図9の画像化処理は、被検体120のY方向の大きさが、アレイ型超音波プローブ20のスキャン幅よりも狭い場合である。
画像化処理を開始すると、ステップS20に於いて、映像表示装置50の走査制御部51は、+X方向に超音波プローブの走査を開始する。
ステップS21に於いて、映像表示装置50の走査制御部51は、X方向の走査位置を判断する。走査制御部51は、X方向位置が所定位置に達する前ならば、ステップS21の判断を繰り返し、X方向位置が所定の画素位置ならば、ステップS22の処理を行い、X方向位置がX方向の終端ならば、ステップS32の処理を行う。
【0058】
ステップS22〜S31に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、全Y方向の走査範囲(ライン)について処理を繰り返す。ここでY方向とは、アレイ型圧電センサ30の高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とが配列している方向である。
ステップS23に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、当該Y方向の走査位置に該当する高域用超音波振動子31から超音波を送信する。すなわち、タイミング制御部53は、当該Y方向の走査位置に該当する信号生成部61に対して、励起信号を高域用超音波振動子31に出力させるように制御する。これにより、当該Y方向の走査位置に該当する高域用超音波振動子31は、超音波を送信する。
ステップS24に於いて、送受信装置60Aは、当該Y方向の走査位置に該当する低域用超音波振動子33で超音波を受信し、受信信号に変換する。受信信号は、送受信装置60Aの各アンプ64によって増幅され、各A/D変換器65によってデジタル信号に変換されて、信号処理部66に入力される。
ステップS25に於いて、送受信装置60Aの信号処理部66は、各受信信号に遅延処理を行ったのち、タイミング制御部53のゲートパルスに基づいて信号処理する。
ステップS26に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、信号処理部66の出力信号によって、当該走査位置の高域用の画素を算出する。
【0059】
ステップS27に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、当該Y方向の走査位置に該当する低域用超音波振動子33から超音波を送信する。すなわち、タイミング制御部53は、当該Y方向の走査位置に該当する信号生成部62に対して、励起信号を低域用超音波振動子33に出力させるよう制御する。これにより、当該Y方向の走査位置に該当する低域用超音波振動子33は、超音波を送信する。
ステップS28に於いて、送受信装置60Aは、当該Y方向の走査位置に該当する低域用超音波振動子33で超音波を受信し、受信信号に変換する。受信信号は、送受信装置60Aの各アンプ64によって増幅され、各A/D変換器65によってデジタル信号に変換されて、信号処理部66に入力される。
ステップS29に於いて、送受信装置60Aの信号処理部66は、各受信信号に遅延処理を行ったのち、タイミング制御部53のゲートパルスに基づいて信号処理する。
ステップS30に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、信号処理部66の出力信号によって、当該走査位置の低域用の画素を算出する。
ステップS31に於いて、映像表示装置50のタイミング制御部53は、全Y方向の走査範囲(ライン)について繰り返したか否かを判断する。タイミング制御部53は、当該判断条件が成立しなかったならば、ステップS22の処理に戻り、当該判断条件が成立したならば、ステップS20の処理に戻る。
【0060】
ステップS32に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、高域用の全ての画素に基づき、第1の超音波画像を生成する。
ステップS33に於いて、映像表示装置50の画像生成部54は、低域用の全ての画素に基づき、第2の超音波画像を生成する。ステップS33の処理が終了すると、映像表示装置50は、図9の処理を終了する。
【0061】
(第2の実施形態の効果)
以上説明した第2の実施形態では、次の(D)のような効果がある。
【0062】
(D) オペレータは、アレイ型超音波プローブ20を交換せずに、異なる周波数の超音波画像を一度のスキャンで取得することができる。これにより、オペレータは、交換の手間を省いて検査時間を短縮することができる。
【0063】
(第3の実施形態のアレイ型超音波プローブの構成)
図10は、第3の実施形態に於けるアレイ型圧電センサの一部断面を示す図である。
第3の実施形態のアレイ型圧電センサ30Aは、第1の実施形態のアレイ型圧電センサ30(図1)に加えて更に、中間の厚みを持つ絶縁層46と、当該絶縁層46の表面側に構成されたシグナル電極45b−1,45b−2,…とを備えている。以下、シグナル電極45b−1,45b−2,…を特に区別しないときには、単にシグナル電極45bと記載している場合がある。
シグナル電極45は、直接にベースフィルム47上に形成されたシグナル電極45cと、薄い絶縁層46の上に形成されたシグナル電極45bと、厚い絶縁層46の上に形成されたシグナル電極45aとに分類される。
シグナル電極45a−1〜45a−3の上部には、高分子圧電膜43が薄く形成され、更にその表面側にはグランド電極42が形成されて、高域用超音波振動子31−1〜31−3を構成している。
シグナル電極45b−1,45b−2の上部には、高分子圧電膜43が中程度の厚みに形成され、更にその表面側にはグランド電極42が形成されて、中域用超音波振動子32−1,32−2を構成している。以下、中域用超音波振動子32−1,32−2,…を特に区別しないときには、単に中域用超音波振動子32と記載している場合がある。
シグナル電極45c−1,45c−2の上部には、高分子圧電膜43が最も厚く形成され、更にその表面側にはグランド電極42が形成されて、低域用超音波振動子33−1,33−2を構成している。
【0064】
(第3の実施形態の効果)
以上説明した第3の実施形態では、次の(E),(F)のような効果がある。
【0065】
(E) 中域用超音波振動子32は、励起信号がシグナル電極45bに入力されたとき、高分子圧電膜43の厚みに応じた中域の周波数の超音波を送信する。これにより、当該アレイ型圧電センサ30Aを備えた超音波検査装置10は、一度のスキャンによって、3通りの周波数の超音波画像を生成することができる。
【0066】
(F) 更に、当該アレイ型圧電センサ30Aを備えた超音波検査装置10は、高域用超音波振動子31で超音波を送信し、低域用超音波振動子33と中域用超音波振動子32とで受信して超音波画像を生成するなどの方法により、最も適切な組合せによる超音波画像を短時間で取得することができる。
【0067】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能であり、例えば、次の(a)〜(f)のようなものがある。
【0068】
(a) 超音波振動子が備える高分子圧電膜43は、2種類や3種類の厚みには限定されず、任意のn種類(nは自然数)の厚みであってもよい。
【0069】
(b) 第1の実施形態のアレイ型圧電センサ30は、高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とが交互に形成されている。しかし、これに限られず、例えば、連接した複数の高域用超音波振動子31と、連接した複数の低域用超音波振動子33とが交互に形成されていてもよく、更に、他のパターンで高域用超音波振動子31と低域用超音波振動子33とが形成されていてもよい。
【0070】
(c) 上記実施形態に於いて、超音波検査装置10,10Aが検査する被検体120は、半導体や集積回路などである。しかし、これに限られず、本発明は、非破壊試験を行う一般的な超音波検査装置や、医療用の超音波診断装置などに適用してもよい。
【0071】
(d) 第1の実施形態の超音波検査装置10は、メカ制御装置70と、X軸スキャナ71と、Y軸スキャナ72とを備え、自動でアレイ型超音波プローブ20を走査(スキャン)している。しかし、これに限られず、オペレータが、超音波プローブを手作業で走査(スキャン)して超音波画像を生成する超音波検査装置に適用してもよい。
【0072】
(e) 上記実施形態のアレイ型圧電センサ30は、フッ素系共重合体で構成された高分子圧電膜43を備えている。しかし、これに限られず、ウェットエッチング等の手法で圧電材料およびグランド電極42をシグナルごとに分離することにより、ジルコンチタン酸鉛、チタン酸鉛、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、リチウムテトラボレート、ニオブ酸ナトリウムカリウム、ビスマスフェライト、ニオブ酸ナトリウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウム、窒化アルミニウム、リン酸ガリウム、ガリウム砒素などの材料も使うことができるので、これらの圧電材料による圧電層を備えていてもよい。これにより、高分子材圧電材料では動作できない環境条件に対応することができる。
【0073】
(f) 上記実施形態のアレイ型圧電センサ30は、高域用超音波振動子31で超音波を送信して、低域用超音波振動子33または高域用超音波振動子31で超音波を受信している。しかし、これに限られず、アレイ型圧電センサ30は、低域用超音波振動子33で超音波を送信して、高域用超音波振動子31で超音波を受信してもよい。
【符号の説明】
【0074】
10,10A 超音波検査装置
20 アレイ型超音波プローブ
21 エンコーダ
30,30A,30B アレイ型圧電センサ
31 高域用超音波振動子 (第1超音波振動子)
32 中域用超音波振動子 (第3超音波振動子)
33 低域用超音波振動子 (第2超音波振動子)
34 超音波振動子
40 保護膜
41 接着層
42 グランド電極 (対向電極)
43 高分子圧電膜 (第1圧電膜、第2圧電膜、第3圧電膜)
44 接着層
45 シグナル電極
45a シグナル電極 (第1電極)
45b シグナル電極 (第3電極)
45c シグナル電極 (第2電極)
46 絶縁層
47 ベースフィルム
48 接着層
49 架台
50 映像表示装置
51 走査制御部
53 タイミング制御部
54 画像生成部
60,60A 送受信装置
61,62 信号生成部
64 アンプ
65 A/D変換器
66 信号処理部
70 メカ制御装置
71 X軸スキャナ
72 Y軸スキャナ
100 水槽
110 水
120 被検体
120s 表面
120f 測定境界面
121 走査位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11