特許第5863674号(P5863674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5863674ポータブル電子デバイス用カバーのガラスの改善された化学強化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863674
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】ポータブル電子デバイス用カバーのガラスの改善された化学強化
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20160204BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
   G09F9/00 313
【請求項の数】22
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-552061(P2012-552061)
(86)(22)【出願日】2011年2月2日
(65)【公表番号】特表2013-518800(P2013-518800A)
(43)【公表日】2013年5月23日
(86)【国際出願番号】US2011023499
(87)【国際公開番号】WO2011097314
(87)【国際公開日】20110811
【審査請求日】2012年9月27日
(31)【優先権主張番号】61/300,792
(32)【優先日】2010年2月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/300,793
(32)【優先日】2010年2月2日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503260918
【氏名又は名称】アップル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー, ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】プレスト, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ザデスキー, スティーブン, ポール
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/005578(WO,A1)
【文献】 特公昭48−006925(JP,B1)
【文献】 特開昭54−083923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00〜23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の露出する表面用のガラスカバーを製造する方法であって、
前記方法は、
ガラスシートを取得する工程と、
前記ガラスシートを複数のガラスカバーへとシンギュレートする工程と、を含み、
前記ガラスカバーのそれぞれは、前記電子機器の露出する表面に備えられるのに適した大きさとされ、
前記方法はさらに、
前記ガラスカバーの縁部の少なくとも一部を所定の丸められた縁部形状を有するように処理する工程と、前記処理する工程の後に、
前記ガラスカバーを化学的に強化する工程と、前記ガラスカバーを化学的に強靱化する工程と、
を含み、
前記所定の丸められた縁部形状においては、前記ガラスカバーの前記縁部が、前記ガラスカバーの厚さの10%以上及び50%以下の縁部半径を有する湾曲で構成される ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガラスカバーを化学的に強化する工程は、前記ガラスカバーの向上した強度を生じさせ、
前記ガラスカバーを化学的に強靱化する工程は、前記ガラスカバーの前記向上した強度の限定的な低下を生じさせ、
前記ガラスカバーを化学的に強靭化する工程は、
所定時間にわたる化学的に強靱化する処理と、
前記ガラスカバーの前記向上した強度の前記限定的な低下を生じさせるように、前記化学的に強靱化する処理についての前記所定時間を制限することと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガラスカバーを化学的に強化する工程は、前記ガラスカバーの初期圧縮表面応力を生じさせ、
前記ガラスカバーを化学的に強靱化する工程は、前記ガラスカバーのそれぞれの表面から内側に向かって伸びる、増加する応力プロファイルを有する減少した圧縮表面応力へと、前記ガラスカバーの前記初期圧縮表面応力を減少させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガラスカバーを化学的に強化する工程は、前記ガラスカバー内の初期中心引張りを生じさせ、
前記ガラスカバーを化学的に強靱化する工程は、減少した中心引張りへと、前記ガラスカバー内の前記初期中心引張りを減少させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記処理する工程の後、且つ前記ガラスカバーを化学的に強化する工程の前に、前記ガラスカバーをHF及びHSOを含む予備洗浄浴内で化学的に前処理する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラスカバーを化学的に強化する工程の前に、前記ガラスカバーを化学的に強化する工程における前記ガラスカバーに対する熱衝撃を制限するように、前記ガラスカバーを予熱する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ガラスカバーを化学的に強化した後、前記ガラスカバーを化学的に強靱化する前に、中間洗浄浴中で前記ガラスカバーを洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
電子機器であって、
前面、背面、及び側面を有する筐体と、
コントローラ、メモリ、及びディスプレイを少なくとも含み、少なくとも部分的に前記筐体の内部に設けられた電気構成要素と、を備え、
前記ディスプレイは、前記筐体の前記前面に設けられ又は前記前面に隣接して設けられ、
前記電子機器はさらに、前記ディスプレイを覆って設けられるように、前記筐体の前記前面に又は前記前面を覆って設けられたガラスカバーを備え、
化学的に強化されかつ化学的に強靭化された前記ガラスカバーは、前記ガラスカバーの縁部の少なくとも一部に、前記ガラスカバーの厚さの10%以上及び50%以下の縁部半径を有する所定の丸められた縁部形状を有することを特徴とする電子機器。
【請求項9】
前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーは、前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーの表面から内側に向かって伸びる、増加する圧縮応力プロファイルによって特徴付けられる、請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーは、前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーの表面下に沈んだピークを有する圧縮応力プロファイルによって特徴付けられる、請求項8に記載の電子機器。
【請求項11】
前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーは、前記化学的に強化されかつ化学的に強靱化されたガラスカバーの表面下の深さに沈んだピークを有する圧縮応力プロファイルによって特徴付けられ、
前記沈んだプロファイルのピークの前記深さは、10μmから30μmまでの範囲内にあることを特徴とする、請求項8に記載の電子機器。
【請求項12】
前記電子機器が、携帯電話、可搬メディアプレイヤー、携帯情報端末、又は遠隔制御デバイスであることを特徴とする、請求項8に記載の電子機器。
【請求項13】
前記ガラスカバーの厚さが1mm未満であることを特徴とする、請求項8に記載の電子機器。
【請求項14】
前面、背面、及び側面を有する筐体と、
少なくとも部分的に前記筐体の内部に設けられた電気構成要素と、
化学的に強化され及び化学的に強靭化されたガラス部材とを備え、前記ガラス部材は前記ガラス部材の厚さの10%以上及び50%以下の縁部半径の湾曲を有する所定の丸められた縁部形状を有し、
前記該ガラス部材のピーク圧縮応力該ガラス部材の露出する表面の表面下にあ
ことを特徴とする電子機器。
【請求項15】
前記ガラス部材が前記筐体に隣接して取り付けられていることを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項16】
前記ガラス部材が、前記筐体の前記前面又は前記背面の実質的な部分を形成していることを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項17】
前記ピーク圧縮応力(Smax)が、前記ガラス部材の外面より内側の5μmから50μmまでの深さにあることを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項18】
前記ガラス部材が0.5mmから2.0mmまでの厚さを有し、
前記ピーク圧縮応力(Smax)が、200MPaから2000MPaまでであることを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項19】
前記ガラス部材の圧縮応力が、20μmから200μmまでの深さで、外面からガラス内へと広がっていることを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項20】
前記ガラス部材の圧縮応力が、前記ガラス部材の外面から内側へと第1の深さまで伸びている増加する応力プロファイルを有する第1の領域と、前記第1の深さから内側へと第2の深さまで伸びている減少する応力プロファイルを有する第2の領域と、を含むプロファイルを有することを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項21】
前記ガラス部材が、1mm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項14に記載の電子機器。
【請求項22】
前記ガラスカバーのそれぞれが、1mm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、(i)本明細書に参照として組み込まれる、「TECHNIQUES FOR STRENGTHENING GLASS COVERS FOR PORTABLE ELECTRONIC DEVICES(ポータブル電子デバイス用ガラスカバーを強化する技術)」と題する2010年2月2日に提出された米国仮特許出願第61/300793号、及び(ii)本明細書に参照として組み込まれる、「TECHNIQUES FOR STRENGTHENING GLASS COVERS FOR PORTABLE ELECTRONIC DEVICES(ポータブル電子デバイス用ガラスカバーを強化する技術)」と題する2010年2月2日に提出された米国特許仮出願61/300792号への優先権を主張する。
【0002】
従来、ハンドヘルド電子デバイスのような小さいフォームファクタのデバイスは、種々の層を含むディスプレイ構造を有する。種々の層は、通常、少なくとも1つのディスプレイ技術層を含み、ディスプレイ技術層を覆うように配設された感知構成及び/又はカバー窓を更に含む場合もある。一例として、ディスプレイ技術層は、液晶モジュール(LCM)を含む液晶ディスプレイ(LCD)を含むか又はそれに関連する。一般に、LCMは、上部ガラスシートと、下部ガラスシートとを含み、それらのガラスシートの間に液晶層が挟まれている。感知構成は、タッチスクリーンを製造するために使用されるような接触感知構成である。例えば、容量性感知タッチスクリーンは、ガラス(又はプラスチック)のシートに沿って分散されたほぼ透明な感知点又は感知ノードを含む。更に、カバー窓は、通常、層スタックの外側保護障壁として構成される。
【0003】
小さいフォームファクタのデバイスのカバー窓、すなわち、ガラスカバーは、プラスチック又はガラスから製造される。プラスチックは、耐久性には優れているが、傷がつきやすい。ガラスは傷つきにくいが、脆い。一般にガラスは、厚くなるほど強度が増す。しかし、残念ながら、多くのガラスカバーは相対的に薄いので、特に縁部では、ガラスカバーは、デバイス構造の中で相対的に弱い構成要素になる。例えば、ポータブル電子デバイスを乱暴に扱ったためにデバイスに応力が加わった場合、ガラスカバーは損傷しやすい。ガラスを強化するために、化学強化が使用されている。化学強化は一般によい成果を残しているが、ガラスカバーを強化する方法を提供することは依然として求められている。
【発明の概要】
【0004】
実施形態は、電子デバイスの薄いガラス部材の強度を向上する装置と、システムと、方法とに関する。一実施形態において、ガラス部材は、所定の応力プロファイルに従った向上した強度特性を有しうる。所定の応力プロファイルは、化学強化の複数の段階によって形成される。それらの段階は、例えば、ガラス部材の中へ大きなイオンが導入される第1のイオン交換段階と、大きなイオンの一部がガラス部材から放出される第2のイオン交換段階とを有する。一実施形態において、ガラス部材は、電子デバイスの筐体のガラスカバーに関連する。ガラスカバーは、ディスプレイを覆うように設けられるか又はディスプレイと一体に形成される。
【0005】
本発明は、方法、システム、デバイス又は装置として実現されるなど多くの方法で実現可能である。本発明のいくつかの実施形態を以下に説明する。
【0006】
消費者電子製品の露出面に使用されるガラスカバーを製造する方法として、一実施形態は、例えば、ガラスシートを入手する工程と、各々が消費者電子製品の露出面に配設されるのに適切な大きさに形成された複数のガラスカバーにガラスシートをシンギュレート(単一化)する工程と、ガラスカバーを化学強化する工程と、ガラスカバーを化学強靭化する工程とを少なくとも含む。
【0007】
消費者電子製品として、一実施形態は、例えば、前面、背面及び側面を有する筐体と、少なくとも一部が筐体の内部に設けられ且つコントローラ、メモリ及び筐体の前面に又は前面に隣接して設けられるディスプレイを少なくとも含む電気構成要素と、化学強化されると共に化学強靭化され且つディスプレイを覆うように筐体の前面に又は前面の上方に設けられたガラスカバーとを少なくとも含む。
【0008】
ハンドヘルド電子デバイスの筐体に装着するのに適するカバーガラス部材として、カバーガラス部材は、一実施形態において、例えば、ガラスシートを入手することと、各々がハンドヘルド電子デバイスの露出面に配設されるのに適する大きさに形成され且つ縁部及び少なくとも1つの縁部ではない部分を含む複数のガラスカバー部材にガラスシートをシンギュレートすることと、各ガラスカバー部材の少なくとも縁部を化学強化することと、ここで各ガラスカバー部材の少なくとも縁部を化学強化することは、少なくとも縁部の組成が少なくとも1つの縁部ではない部分の組成とは異なるように、少なくとも縁部の組成を変更することを含み、ガラスカバー部材の縁部における圧縮応力を減少させることによりガラスカバー部材を強靭化することとを少なくとも含む方法により、製造され、強化され、強靭化される。
【0009】
消費者電子製品として、一実施形態は、例えば、前面、背面及び側面を含む筐体と、少なくとも一部が筐体の内部に配設された電気構成要素と、ピーク圧縮応力が露出面の表面下にあるように化学強化されているガラス部材とを少なくとも含む。
【0010】
本発明の他の態様と利点は、本発明の原理を例によって示す添付の図面と関連させて以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付の図面と関連させて以下の詳細な説明を読むことにより、本発明は容易に理解されるだろう。図中、同一の図中符号は、同一の構造要素を示す。
図1A】一実施形態に係るガラス部材を示す斜視図である。
図1B】一実施形態に係る電子デバイスを示す簡略図である。
図2】一実施形態に係るガラスカバー処理を示すフローチャートである。
図3A】種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図3B】種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図3C】種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図3D】種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図3E】種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図4A】面取り縁部形状に関連する別の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。
図4B】直線状の角部(すなわち、鋭く尖った縁部)を含む参照縁部形状を有するガラスカバーを示す横断面図である。
図5A】一実施形態に係る電子デバイスを示す概略図である。
図5B】一実施形態に係る電子デバイスを示す概略図である。
図6A】本発明の別の実施形態に係る電子デバイスを示す概略図である。
図6B】本発明の別の実施形態に係る電子デバイスを示す概略図である。
図7A】一実施形態に係る初期引張り/圧縮応力プロファイルを示すガラスカバーの部分横断面図である。
図7B】一実施形態に係る減少した引張り/圧縮応力プロファイルを示すガラスカバーの部分横断面図である。
図7C】圧縮表面応力対圧縮表面層深さを表す図であり、ガラスカバーの減少した中心引張りと、減少した圧縮表面応力と、圧縮表面層深さとについて交差する範囲の三角形連続体を示す。
図8A】一実施形態に係るガラス片の表面を化学処理する方法を示す図である。
図8B】一実施形態に係るガラスカバーを強化し、強靭化する処理を示す別のフローチャートである。
図8C】一実施形態に係る例示的なプロファイルを示す図である。
図9A】一実施形態に従って化学強化層が形成されるように化学的に処理されたガラスカバーを示す横断面図である。
図9B】一実施形態に従って化学強化層が形成されるように化学的に処理されたガラスカバーを示す横断面図である。
図10A】一実施形態に係るガラスカバーをイオン浴に浸漬することを含む化学処理方法を示す概略図である。
図10B】一実施形態に係る先にガラスカバーがアルカリ金属浴に浸漬された後にガラスカバーをナトリウム浴に浸漬することを含む化学処理方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、一般に、ガラスの強度を向上することに関する。強度を向上させたガラスは薄いが、ポータブル電子デバイスなどの電子デバイスで使用するのに適する十分な強度を有する。
【0013】
以下の詳細な説明は単なる例示であり、本発明を限定することをまったく意図しない。本明細書の開示に基づいて、当業者は他の実施形態を容易に考案するだろう。以下に、添付の図面に示される実現例を詳細に参照する。
【0014】
明確にするために、本明細書で説明される実現例の通常の特徴のすべてが示され、説明されるとは限らない。そのような実際の実現例を開発する過程で、用途や事業に関連する制約を遵守するなどの開発者の特定の目標を実現するために、各実現例に特有の多くの決定が下されなければならないことと、それらの特定の目標が実現例によって異なり、また、開発者によっても異なることとは当然理解されるだろう。更に、そのような開発の努力は複雑で、長い時間を要するが、本明細書の開示を理解した当業者にとっては設計の日常的な業務であることも理解されるだろう。
【0015】
実施形態は、電子デバイスの薄いガラス部材の強度を向上する装置と、システムと、方法とに関する。一実施形態において、ガラス部材の強度特性は、所定の応力プロファイルに従って改善される。所定の応力プロファイルは、化学強化の複数の段階によって形成される。それらの段階は、例えば、大きなイオンがガラス部材の中へ置換される第1のイオン交換段階と、大きなイオンの一部がガラス部材から放出される第2のイオン交換段階とを有する。
【0016】
一例において、ガラス部材は、電子デバイスの外面である。ガラス部材は、例えば、電子デバイスの表示領域の一部を形成するのに有用なガラスカバーに相当する(例えば、ディスプレイの前方に別の部品として配置されるか又はディスプレイと一体に形成される)。その代わりに又はそれに加えて、ガラス部材は筐体の一部を形成する。例えばガラス部材は、表示領域以外で外面を形成してもよい。
【0017】
薄いガラスの強度を向上する装置、システム及び方法は、ハンドヘルド電子デバイス(例えば、移動電話、メディアプレイヤー、携帯情報端末(パーソナルデジタルアシスタント)、リモートコントロールなど)のような薄型電子デバイスに組み込まれたガラスカバー又はディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ(LCD))に特に適する。装置、システム及び方法は、他の相対的に大きいフォームファクタの電子デバイス(例えば、ポータブルコンピュータ、タブレットコンピュータ、ディスプレイ、モニタ、テレビなど)のガラスカバー又はディスプレイにも使用可能である。これらの種々の実施形態において、ガラスは、5mm未満、更に詳細には0.5〜3mmの範囲の薄さである。特に薄い実施形態において、ガラスの厚さは0.3〜1mmである。
【0018】
一実施形態において、ガラスカバーは、保護ベゼル又は他の障壁なしで電子デバイスの筐体の縁部まで延在しうる。一実施形態において、ガラスカバーは、カバーの縁部を取り囲むベゼルを含みうる。いずれの場合にも、特定の縁部形状を作成すること及び/又は化学強化により、縁部の強度は向上される。ガラスカバーは、LCDディスプレイなどのディスプレイを覆うように設けられるか又はディスプレイと一体に形成される。
【0019】
以下に、図1A図10Bを参照して本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明はそれらの限定された実施形態を越える範囲を有するので、それらの図面に関して本明細書で提示される詳細な説明が単なる例示を目的としていることは、当業者には容易に理解されるだろう。
【0020】
図面と以下の詳細な説明の中で、同一又は同様の部分を示すために、同一の図中符号が一貫して使用される。図面は一般に縮尺通りではなく、図示を容易にするために、図面の少なくともいくつかの特徴が誇張して示されていることを理解すべきである。
【0021】
図1Aは、一実施形態に係るガラス部材10の斜視図である。ガラス部材10は、薄いガラスシートである。例えば、多くの用途において、ガラスの厚さは3mm以下である。ガラス部材10の長さ、幅又は面積は、用途によって異なる。ガラス部材10の用途の1つは、ポータブル電子デバイス又はハンドヘルド電子デバイスなどの電子デバイスの筐体のカバーガラスである。図1Aに示されるように、ガラス部材10は、前面12と、背面14と、上面16と、底面18と、側面20とを含む。強度を向上するために、縁部又は側部(上下左右の縁部又は側面を含む)は、所定の幾何学形状に従って形成されうる。化学強化処理を使用する場合、縁部の所定の形状は、ガラス部材10の縁部の強度を向上させる。ガラス部材10の表面も化学的に強化されうる。所定の幾何学形状を使用することにより、機械的応力緩和が低減されるため、縁部は化学強化を受け入れやすくなる。ガラス部材10の化学強化は、例えば、ガラス部材10と相互作用しうる1つ以上の薬剤溶液にガラス部材10を浸漬することにより、イオン交換などによって実行されうる。以下に説明されるように、縁部の所定の形状は、急激な遷移ではなく滑らかな遷移(例えば、曲線状の遷移、丸形の遷移)を与えうる。一実施形態において、ガラス部材は、消費者電子デバイスを備えたガラス構造又は消費者電子デバイス用のガラス構造である。ガラス部材は、消費者電子デバイスの外面又は内面に使用される。一般にガラス構造は、消費者電子デバイスの何らかのガラス製部品である。一実施形態において、ガラス構造は、消費者電子デバイスの筐体の少なくとも一部(例えば、外面)である。
【0022】
図1Bは、一実施形態に係る電子デバイス100の簡略図である。電子デバイス100は、例えば、薄いフォームファクタの(すなわち、ロープロファイルの)ポータブル電子デバイス又はハンドヘルド電子デバイスとして実現されてもよい。電子デバイス100は、例えば、ポータブルメディアプレイヤー、メディア記憶装置、ポータブルデジタルアシスタント(PDA)、タブレットPC、コンピュータ、移動通信装置(例えば、携帯電話、スマートフォン)、GPSユニット、遠隔制御(リモートコントロール)デバイスなど)に対応する。電子デバイス100は、消費者電子デバイスとも呼ばれうる。
【0023】
電子デバイス100は、電子デバイス100の外面として使用される筐体102を含みうる。筐体102の内部に、電気構成要素(図示せず)が配設される。電気構成要素は、コントローラ(又はプロセッサ)と、メモリと、バッテリと、ディスプレイ(例えば、LCDディスプレイ)とを含む。電子デバイス100の筐体102の中に表示領域104が配設される。電子デバイス100は、電子デバイス100の前面の全体とはいえないとしても、その大部分を利用するフルビュー表示領域又はほぼフルビューの表示領域104を含みうる。表示領域104は、種々の方法で実現可能である。一例において、表示領域104は、フラットパネルディスプレイ、更に詳細にはLCDディスプレイのような少なくとも1つのディスプレイから構成される。更に、電子デバイス100は、表示領域104を覆うように設けられたカバーガラス106を有する。カバーガラス106は、電子デバイス100の外面、すなわち上面として使用される。カバーガラス106を通して表示領域104を見ることができるように、カバーガラス106は透明である。更に、カバーガラス106は傷に抵抗するため、電子デバイス100の筐体102の上面に対して実質的に傷つきにくい面を形成する。
【0024】
その代わりに又はそれに加えて、表示領域104は、表示画面を覆うように配置された接触感知デバイスを含む。例えば表示領域104は、容量性感知点が分散された1つ以上のガラス層を含む。それらの構成要素の各々は、個別の層であるか、あるいは1つ以上のスタックとして組み合わされる。一実施形態において、カバーガラス106は、表示領域104の最も外側の層として働く。
【0025】
電子デバイス100を乱暴に扱った場合、電子デバイス100の構成要素は、いずれも破損する危険がある。例えば、湾曲に対する強度及び電子デバイス100を落とした場合の損傷に対する強度に関して、カバーガラス106は、電子デバイス100の弱点になるともいえる。従って、電子デバイス100を落とした場合のように電子デバイス100に応力が加わると、カバーガラス106は損傷しやすい。一例として、カバーガラス106に応力が加わった場合、亀裂又は破損などの損傷が起こりうる。
【0026】
更に、図1Bに示されるように、カバーガラス106は、筐体102の上面全体に広がりうる。そのような場合、カバーガラス106の縁部は、筐体102の側部と位置合わせされるか又はほぼ位置合わせされる。しかし、他の実施形態において、カバーガラス106は、筐体102の所定の面の一部のみを覆うように設けられるだけでよい。いずれにしても、カバーガラス106がかなり薄い(すなわち、数mm未満である)場合、カバーガラス106は、損傷を受けにくくするために強化される。
【0027】
第1に、利用可能な強度の高いガラスの中から、カバーガラス106の材料が選択されうる。例えば、アルミノケイ酸塩ガラスは、カバーガラス106のガラス材料として適切な選択肢の1つである。ガラス材料の他の例には、ソーダ石灰、ホウケイ酸塩などがあるが、それらに限定されない。
【0028】
第2に、例えば、シンギュレーション及び/又は機械加工などにより、ガラス材料は適切な大きさに整形される。一例として、ガラス材料のシートは、複数の個別のカバーガラス片に切断される。カバーガラス片は、例えば、電子デバイス100の筐体102の上面に適合するのに適切な大きさに形成される。
【0029】
一実施形態において、カバーガラス片の縁部は、特定の所定の幾何学形状に対応するように構成される。特定の所定の幾何学形状に対応するようにカバーガラス片の縁部を整形(例えば、機械加工)することによりカバーガラス片の強度は向上するので、カバーガラス片は損傷を受けにくくなる。カバーガラス片の縁部に適する所定の幾何学形状(縁部形状としても周知である)については、以下に説明する。一実施形態において、特定の所定の幾何学形状に対応するように縁部を整形(例えば、機械加工)することにより、縁部の圧縮応力は更に均一になりうる。言い換えれば、最小圧縮応力が平均圧縮応力から大きく逸脱しないように、圧縮応力プロファイルが管理される。また、最小圧縮応力が存在する限りにおいて、所定の幾何学形状は、縁部の表面下に(すなわち、わずかに内側に)最小圧縮の位置を規定するのに有用である。一例において、縁部形状は、例えば、第1の面と、それに対して垂直である第2の面との境界面のような一方の面から他方の面へ移行する場所で、滑らかな又は漸進的な遷移を含みうる。この場合、鋭く尖った角部又は縁部は、尖りが少なくなるように曲線状に加工されるか又は他の方法により滑らかに整形される。所定の幾何学形状に従って尖った角部又は縁部を丸形に又は滑らかに整形することにより、カバーガラス片は、更に均一な化学強化を受け入れやすくなる。
【0030】
第3に、どの特定の縁部形状が使用されるかに関係なく、カバーガラス片は更なる強化のために化学処理されうる。適切な化学処理の1つは、ある特定の時間(例えば、数時間)にわたり、アルカリ金属(例えば、KNO)イオンを含む高温の化学浴の中にカバーガラス片を浸漬する処理である。望ましくはこの化学処理の結果、カバーガラス片の表面の圧縮応力が増加しうる。形成される圧縮層の深さは、使用されるガラスの特性と、特定の化学処理とによって異なる。例えば、いくつかの実施形態において、形成される圧縮層の深さは、ソーダ石灰ガラスの場合の約10μmからアルミノケイ酸塩の場合の約100μmの範囲である。更に一般的に言えば、圧縮層の深さは、ソーダ石灰ガラス又はアルミノケイ酸塩ガラスの場合で10〜90μmである。しかし、ガラスに適用される特定の化学処理に応じて圧縮層の深さが異なることは理解されるべきである。
【0031】
カバーガラス片の表面は、カバーガラス片の縁部を含む。大きな圧縮応力は、カバーガラスの表面又はその付近におけるイオン交換の結果だろう。カバーガラス片の表面は、カバーガラス片の縁部を含む。カバーガラスの表面又はその付近でKイオンがいくつかのNaイオンと効果的に置換されることにより、圧縮応力は増加するだろう。
【0032】
ハンドヘルド電子デバイスのような小さいフォームファクタのデバイスは、通常、種々の層を含む表示領域(例えば、表示領域104)を含む。種々の層は、少なくとも1つのディスプレイを含み、ディスプレイ全体に配設された(又はディスプレイと一体に形成された)感知構成を更に含んでもよい。場合によっては、層は互いに隣接して積み重ねられてもよく、更には、積層されることによって1つのユニットを形成してもよい。他の場合には、層のうち少なくともいくつかの層は、空間的に離間して配置され、直接隣接していない。例えば、感知構成とディスプレイとの間に間隙が形成されるように、感知構成はディスプレイの上方に配設される。一例として、ディスプレイは、液晶モジュール(LCM)を含む液晶ディスプレイ(LCD)を含む。一般に、LCMは、上部ガラスシートと、下部ガラスシートとを少なくとも含み、それらのガラスシートの間に液晶層の少なくとも一部が挟まれている。感知構成は、タッチスクリーンを製造するために使用されるような接触感知構成であってもよい。例えば、容量性感知タッチスクリーンは、ガラス(又はプラスチック)のシートに分散されたほぼ透明な感知点又は感知ノードを含みうる。カバーガラスは、表示領域についての外側保護障壁として働く。通常、カバーガラスは表示領域に隣接するが、表示領域の別の層(外側保護層)として、表示領域と一体化される場合もある。
【0033】
図2は、一実施形態に係るガラスカバー処理200を示すフローチャートである。カバーガラス処理200は、例えば、1つ以上のカバーガラス片を形成するために使用可能である。ガラスカバー片は、例えば、図1Bに示されるカバーガラス106として使用される。
【0034】
ガラスカバー処理200は、まず、ガラスシートを入手しうる(202)。ガラスシートは、例えば、アルミノケイ酸塩ガラスである。次に、ガラスシートを個別のガラスカバーにシンギュレートするために、ガラスシートは処理される(204)。ガラスカバーは、例えば、図1Bに示される電子デバイス100のような消費者電子製品で使用される。一実施形態において、ガラスシートを個別のガラスカバーにシンギュレートするために(204)、ガラスシートは、切断される(例えば、ブレード、スクライブアンドブレーク、ウォータージェット又はレーザーを使用する)。別の実施形態において、ガラスカバーは、シンギュレーションを必要とせずに個別に形成されうる。
【0035】
次に、ガラスカバーを強化するように、個別のガラスカバーの縁部は、所定の幾何学形状を有するように処理されうる(206)。この縁部処理工程206により、縁部は所定の幾何学形状を呈するようになる。例えば、処理工程206は、ガラスカバーの縁部を所定の幾何学形状に形成するように、縁部を機械加工するか、研削するか、切削するか、エッチングするか、スクライビングするか、成形するか、スランピングするか又は他の方法により整形する。縁部は更に研磨される。
【0036】
(処理工程206に)加えて又はその代わりに、個別のガラスカバーは化学強化されうる(208)。一実施形態において、化学強化を実現するために、ガラスカバーは化学浴の中に浸漬される。この種の化学強化では、縁部を含めたガラスカバーの表面の圧縮応力を増加させる働きをするイオン交換過程がガラスカバーの表面で発生する。更に、化学強化は、所望の圧縮応力プロファイルを形成するために一連の化学浴(すなわち、段階)を使用する。言い換えれば、一連の化学浴を使用することによって、ガラスカバーの中に所望の圧縮応力プロファイルが形成(すなわち、導入)される。所望の応力プロファイルの詳細は、ガラスカバーの用途と、使用されるガラスの特性とによって異なりうる。
【0037】
その後、ガラスカバーは、対応する消費者電子製品に装着される(210)。ガラスカバーは、対応する消費者電子製品の外面(例えば、筐体の上面)を形成する。装着(210)の完了後、ガラスカバーの縁部は露出されうる。ガラスカバーの縁部は露出されうるが、縁部は更に保護されうる。一例として、消費者電子製品の筐体の外側と比べてガラスカバーの縁部を引っ込めうる(例えば、1つ以上の軸に沿って)。別の例として、カバーガラスの縁部に沿って又はそれに隣接して更に材料を接着することにより、ガラスカバーの縁部は保護されうる。ガラスカバーは、接着剤、接合又は機械的手段(例えば、スナップ、ねじなど)を含む種々の方法で装着可能である(210)。いくつかの実施形態において、ガラスカバーは、接着されたディスプレイモジュール(例えば、LCM)も有しうる。ガラスカバーが消費者電子製品に装着された(210)後、ガラスカバー処理200は終了しうる。
【0038】
尚、ガラスカバーの縁部の処理(206)は、ガラスカバーのすべての縁部を処理する(206)が、処理工程206ですべての縁部が処理される必要はない。言い換えれば、特定の実施形態又は特定の構成に応じて、ガラスカバーの縁部のうち1つ以上の縁部にのみ処理206が適用されてもよい。所定の縁部に関して、縁部全体が所定の形状に処理されるか、又は縁部の一部が所定の形状に処理される。また、異なる縁部が異なる形状に処理されることも可能である(206)(すなわち、異なる縁部が異なる形状を有しうる)。更に、いくつかの縁部が所定の形状に処理されうるのに対し、他の縁部は鋭く尖ったままであってもよい。処理される(206)所定の縁部に対して、所定の形状は、複雑な曲線(例えば、S字曲線)などに従って変化してもよい。
【0039】
ガラスシートを個別のガラスカバーにシンギュレートする処理工程204は、縁部におけるごく微細な亀裂及び/又は応力集中を少なくすることにより、全体的な強度を向上するように実行されうる。使用されるシンギュレーション技術は変えられることができ、ガラスシートの厚さに依存しうる。一実施形態において、ガラスシートは、レーザースクライブ処理を使用してシンギュレートされる。別の実施形態において、ガラスシートは、機械式切削ホイールが使用される場合のように機械的スクライブ技術を使用してシンギュレートされる。
【0040】
図3A図3Eは、種々の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーを示す横断面図である。横断面図は、電子デバイス筐体に装着されるべきガラスカバーに使用可能な特定の所定の縁部形状を示す。図示される縁部形状は単なる例であり、限定として解釈されてはならないことを理解すべきである。例示の便宜上、図3A図3Bに示される幅と厚さは縮尺通りではない。
【0041】
図3Aは、縁部形状302を有するガラスカバー300の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。縁部形状302は、例えば、約0.1mmの小さな縁部半径(r)を有しうる。この場合、縁部形状302の縁部は、カバーガラスの厚さの10%の縁部半径まで丸形に加工されている。
【0042】
図3Bは、縁部形状322を有するガラスカバー320の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。縁部形状322は、例えば、約0.2mmの縁部半径を有しうる。この場合、縁部形状322の縁部は、カバーガラスの厚さの20%の縁部半径まで丸形に加工されている。
【0043】
図3Cは、縁部形状342を有するガラスカバー340の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。縁部形状342は、例えば、約0.3mmの中程度の縁部半径を有しうる。この場合、縁部形状342の縁部は、カバーガラスの厚さの30%の縁部半径まで丸形に加工されている。
【0044】
図3Dは、縁部形状362を有するガラスカバー360の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。縁部形状362は、例えば、約0.4mmの大きな縁部半径(r)を有しうる。この場合、縁部形状362は、カバーガラスの厚さの50%の縁部半径まで丸形に加工されている。
【0045】
図3Eは、縁部形状382を有するガラスカバー380の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。縁部形状382は、例えば、約0.5mmの最大限の縁部半径(r)を有しうる。この場合、縁部形状382は、カバーガラスの厚さの50%の縁部半径まで丸形に加工されている。
【0046】
一般に、図3A図3Eに示される所定の縁部形状は、ガラスカバーの縁部を丸形に加工するために使用される。ガラスカバーの鋭く尖った縁部をなくすことにより、ガラスカバーの強度を向上できる。特に、尖った縁部を丸形に加工することにより、縁部の強度が向上するので、ガラスカバーの中で弱い領域であると考えられる縁部が強化される。これにより、縁部を含めても、ガラスカバーの圧縮応力が面全体にわたりほぼ均一になるように、縁部を強化することができる。一般に、縁部半径が大きいほど、ガラスカバーの面全体をより均一に強化できるため、強度が高くなりうる。しかし、意図的に不均一な応力プロファイルを形成するために、化学強化が実行されうる。
【0047】
図3A図3Eに示される縁部の丸形加工に加えて、丸形加工以外の方法でガラスカバーの縁部は加工されうる。一例として、縁部形状は、縁部を平坦にするように規定される。別の例として、縁部形状は複雑な形状である。複雑な縁部形状の一例は、スプライン曲線である。複雑な縁部形状の別の例は、S字曲線である。
【0048】
図4Aは、面取り縁部形状に関する別の実施形態に係る電子デバイス筐体のガラスカバーの横断面図である。詳細には、図4Aは、縁部形状402を有するガラスカバー400の横断面図を示す。ガラスカバーの厚さ(t)は、約1.0mmである。縁部形状402は、平坦な縁部を有する。縁部形状402は実質的に面取り縁部である。面取り縁部は、2つの側面又は面を実質的に結合する傾斜した縁部である。一実施形態において、面取り縁部は、約0.15mm〜約0.25mmの深さを有してもよい。一例として、縁部形状402は、約0.15mmの面取り部分又は約0.25mmの面取り部分を含む。面取り縁部を設けることにより、場所405にほぼ相当する部分で実質的に最小の圧縮応力が発生するだろう。最小ファンミゼス応力の場所に実質的に相当する場所の1つは、場所407として示される。一実施形態において、場所407は、縁部形状402と関連する角部から約10μmの位置に実質的に位置する。言い換えれば、縁部形状402を利用することなどによって最小圧縮応力を縁部(例えば、角部)から内側に移動させることにより、縁部の強度を向上できる。平坦に形成された縁部を図3A図3Eに示されるのに似せて丸形に加工すると、平坦な縁部(例えば、場所405)を更に均一に化学強化できる。
【0049】
図4Bは、まっすぐな角部(すなわち、鋭く尖った角部)を含む参照縁部形状422を有するガラスカバー420の横断面図を示す。この縁部形状では、図3A図3Eのような所定の縁部形状における強度向上は得られない。ガラスカバーの厚さ(t)は約1.0mmであるが、厚さ(t)がこれ以外であってもよいことを理解すべきである。参照縁部形状422は、ストレートコーナー、例えば、約90°の角部である。参照縁部形状422の場合、ほぼ最小の圧縮応力の領域は場所425にある。ほぼ最小のファンミゼス応力の場所に相当する場所の1つは、場所427として示される。一実施形態において、場所427は、参照縁部形状422と関連する角部から約10μmの位置に実質的に位置する。図4A及び図4Bのほぼ最小のファミゼス応力の場所を比較すると、場所407は、場所427より縁部から離れた位置にある。
【0050】
前述のように、ガラスカバーは、電子デバイス、例えば、ハンドヘルド電子デバイスの筐体の一部の外面として使用される。ハンドヘルド電子デバイスは、例えば、メディアプレイヤー、電話、インターネットブラウザ、Eメールユニット又はそれらのうち2つ以上の何らかの組み合わせとして機能する。ハンドヘルド電子デバイスは、一般に、筐体と、表示領域とを含む。図5A図5B図6A及び図6Bを参照して、本明細書において説明される実施形態に従って、カバーガラス(又はガラス窓)を有する種々のハンドヘルド電子デバイスが組み立てられてもよい。一例として、ハンドヘルド電子デバイスは、Cupertino,CAのApple Inc.により製造されているiPhone(登録商標)又はiPod(登録商標)に対応する。
【0051】
薄いガラスを使用する用途では、ガラス、例えば、ガラスカバー又はカバー窓の強化が特に有用である。例えば、強化されるガラスカバーの厚さは、約0.5〜2.5mmでありうる。他の実施形態において、厚さが約2mm未満、約1mm未満、又は約0.6mm未満の薄いガラス製品に強化は適している。
【0052】
ガラス、例えば、ガラスカバー又はカバー窓を強化する技術は、ガラスの縁部の角に適用される、厚さの少なくとも10%の所定の縁部半径(又は所定の曲率)を有する所定の縁部形状により丸形に加工されたガラスの縁部に対して特に有効である。他の実施形態において、所定の縁部半径は、ガラスの厚さの20%〜50%の範囲でありうる。50%の所定の縁部半径は、連続する湾曲(又は完全な丸形)と考えられてもよく、その一例が図3Eに示される。あるいは、強化ガラス、例えば、ガラスカバー又はカバー窓は、強化後、縁部を含めてガラスの面全体にわたりほぼ均一な強度をガラスが有することを特徴とする。例えば、一実施形態において、ガラスの縁部における強度低下は、縁部以外の部分におけるガラスの強度と比べて10%を超えない。別の例として、別の実施形態において、ガラスの縁部における強度低下は、縁部以外の部分におけるガラスの強度と比べて5%を超えない。
【0053】
一実施形態において、ガラスカバーの大きさは、関連する電子デバイスの大きさによって異なる。例えば、ハンドヘルド電子デバイスでは、多くの場合、ガラスカバーの大きさは、対角線で5インチ(約12.7cm)以下である。別の例として、小型のポータブルコンピュータ又はタブレットコンピュータのようなポータブル電子デバイスの場合、ガラスカバーの大きさは、対角線で4インチ(約10.2cm)〜12インチ(約30.5cm)であることが多い。更に別の例として、フルサイズポータブルコンピュータ、ディスプレイ又はモニタのようなポータブル電子デバイスの場合、ガラスカバーの大きさは、対角線で10インチ(約25.4cm)〜20インチ(約50.8cm)以上になることが多い。
【0054】
しかし、大型画面を備えた電子デバイスでは、ガラス層を更に厚くする必要がある場合もあることを理解すべきである。大きなガラス層の平面度を維持するために、ガラス層の厚さを増加させなければならないかもしれない。ディスプレイは相対的に薄型のままであるが、画面が大型になるにつれて、最小厚さは増加する。例えば、ガラスカバーの最小厚さは、小型ハンドヘルド電子デバイスの場合は約0.4mmに相当することができ、小型のポータブルコンピュータ又はタブレットコンピュータの場合では約0.6mmに相当することができ、フルサイズポータブルコンピュータ、ディスプレイ又はモニタの場合は約1.0mm以上に相当することができるが、前述のように、この厚さは画面の大きさによって異なる。しかし、ガラスカバーの厚さは、電子デバイスの用途、構造及び/又は大きさによっても異なる。
【0055】
図5A及び図5Bは、一実施形態に係る電子デバイス500の概略図を示す。図5Aは、電子デバイス500の平面図を示し、図5Bは、基準線A−A’に関する電子デバイス500の横断面側面図を示す。電子デバイス500は、上面としてガラスカバー窓504(ガラスカバー)を有する筐体502を含みうる。カバー窓504を通してディスプレイ構体506を見ることができるように、カバー窓504はほぼ透明である。一実施形態において、カバー窓504は、本明細書において説明される技術のうちいずれかを使用して強化されうる。ディスプレイ構体506は、例えば、カバー窓504に隣接して位置決めされる。筐体502は、ディスプレイ構体の他に、コントローラ(プロセッサ)、メモリ、通信回路網などの内部電気構成要素を更に含みうる。ディスプレイ構体506は、例えば、LCDモジュールを含みうる。一例として、ディスプレイ構体506は、液晶モジュール(LCM)を含む液晶ディスプレイ(LCD)を含んでもよい。一実施形態において、カバー窓504はLCMと一体に形成されうる。筐体502は、電子デバイス500に電子的能力を与えるための内部電気構成要素を収容する開口部508を更に含む。一実施形態において、筐体502はカバー窓504のためのベゼルを含む必要はなく、カバー窓504の縁部が筐体502の側部と位置合わせされる(又はほぼ位置合わせされる)ように、カバー窓504は筐体502の上面全体に設けられうる。カバー窓504の縁部は露出したままでありうる。図5A及び図5Bに示されるように、カバー窓504の縁部は露出しうるが、縁部を更に保護することも可能である。一例として、カバー窓504の縁部は筐体502の外側部と比べて(水平方向又は垂直方向に)引っ込められうる。別の例として、カバー窓504の縁部に沿って又はそれに隣接して追加の材料を接着することにより、カバー窓504の縁部は保護されうる。
【0056】
一般にカバー窓504は、種々の方法で配置又は実現される。一例として、カバー窓504は、フラットパネルディスプレイ(例えば、LCD)又はタッチスクリーンディスプレイ(例えば、LCDとタッチ層)のような下方に位置するディスプレイ(例えば、ディスプレイ構体506)を覆うように配置された保護ガラス片として構成されてもよい。あるいは、カバー窓504は、ディスプレイと実質的に一体に形成されてもよい。すなわち、ガラス窓は、ディスプレイの少なくとも一部として形成されてもよい。更にカバー窓504は、タッチスクリーンと関連するタッチ層のような接触感知デバイスと実質的に一体に形成されてもよい。場合によっては、カバー窓504は、ディスプレイの最も外側の層として使用されうる。
【0057】
図6A及び図6Bは、本発明の別の実施形態に係る電子デバイス600の概略図である。図6Aは、電子デバイス600の平面図を示し、図6Bは、基準線B−B’に関する電子デバイス600の横断面側面図を示す。電子デバイス600は、上面としてガラスカバー窓604(ガラスカバー)を有する筐体602を含みうる。本実施形態において、カバー窓604は、筐体602の側面603により保護されうる。この場合、カバー窓604は、筐体602の上面全体を完全には覆っておらず、側面603の上面はカバー窓604の外面に隣接することができ、外面と垂直方向に位置合わせされうる。強度向上のためにカバー窓604の縁部は丸形に加工されるため、側面603とカバー窓604の周囲縁部との間に間隙605が残る。カバー窓604が薄い(すなわち、3mm未満である)場合、通常、間隙605は非常に狭い。しかし、必要に応じて、何らかの材料により間隙605を充填することも可能である。この材料は、プラスチック、ゴム、金属などでありうる。カバー窓604の周囲縁部に近接する間隙605に沿った部分も含めて、電子デバイス600の前面全体を同じ高さにするために、材料は、間隙605に適応する形状に充填される。間隙605を充填する材料は弾性でありうる。間隙605に充填された材料は、ガスケットを形成しうる。間隙605に汚染物質(例えば、塵芥、水)が溜まることを防止するために、そうでなければおそらく望ましくないであろう筐体602の間隙である間隙605を充填することにより、間隙605は充填又は密封される。側面603は筐体602と一体でありうるが、側面603は、筐体602とは別であることも可能であり、例えば、カバー窓604に対してベゼルとして機能する。
【0058】
カバー窓604を通してディスプレイ構体606を見ることができるように、カバー窓604はほぼ透明である。ディスプレイ構体606は、例えば、カバー窓604に隣接して位置決めされる。筐体602は、ディスプレイ構体の他に、コントローラ(プロセッサ)、メモリ、通信回路網などの内部電気構成要素を更に含む。ディスプレイ構体606は、例えば、LCDモジュールを含む。一例として、ディスプレイ構体606は、液晶モジュール(LCM)を含む液晶ディスプレイ(LCD)を含む。一実施形態において、カバー窓604はLCMと一体に形成される。筐体602は、電子デバイス600に電子的能力を与えるための内部電気構成要素を収容する開口部607を更に含む。
【0059】
電子デバイス600の前面は、ユーザインタフェースコントロール608(例えば、クリックホイールコントロール)を更に含む。本実施形態において、カバー窓604は、電子デバイス600の前面全体を覆ってはいない。電子デバイス600は、実質的に、前面の一部を覆う部分表示領域を含む。
【0060】
一般に、カバー窓604は、種々の方法で配置又は実現されてもよい。一例として、カバー窓604は、フラットパネルディスプレイ(例えば、LCD)又はタッチスクリーンディスプレイ(例えば、LCDとタッチ層)のような下方に位置するディスプレイ(例えば、ディスプレイ構体606)を覆うように配置された保護ガラス片として構成される。あるいは、カバー窓604は、ディスプレイと実質的に一体に形成されてもよい。すなわち、ガラス窓は、ディスプレイの少なくとも一部として形成されてもよい。更にカバー窓604は、タッチスクリーンと関連するタッチ層などの接触感知デバイスとほぼ一体に形成されてもよい。場合によっては、カバー窓604は、ディスプレイの最も外側の層として使用されうる。
【0061】
前述のように、電子デバイスは、ハンドヘルド電子デバイス又はポータブル電子デバイスでありうる。本発明により、ガラスカバーは、薄いにもかかわらず、適切な強度を有することができる。ハンドヘルド電子デバイスやポータブル電子デバイスはモバイルデバイスであるので、静止状態で使用されるデバイスであれば受けることのない種々の異なる衝撃事象及び応力を受けがちである。従って、本発明は、薄型に構成されたハンドヘルド電子デバイス又はポータブル電子デバイスのガラス面を実現するのに非常に適している。
【0062】
先に説明したように、ガラスカバー、更に一般的にはガラス片は、ガラスの面が効果的に強化されるように化学処理されてもよい。そのような強化によってガラス片の強度と靭性が向上するので、より薄いガラス片を消費者電子デバイスに使用できる。薄いが十分な強度を備えたガラスの使用により、消費者電子デバイスを更に薄型に製造できる。
【0063】
ガラスカバー、更に一般的にはガラス片は、縁部を含めたガラスの面が効果的に強化されるように化学処理されてもよい。例えば、一重交換処理で、ガラス片の表面領域付近のいくつかのNaイオンは、アルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)と置換されてもよく、それにより表面領域が強化される。通常はNaイオンより大きいアルカリ金属イオンがNaイオンと置換されると、ガラスカバーの表面付近に従って縁部に圧縮層が形成されるという効果が得られる。これにより、ガラスカバーの強度は表面で実質的に向上する。
【0064】
ガラスを化学強化するのに加えて、ガラスは化学強靭化される。二重交換処理では、アルカリ金属イオンがNaイオンのうちいくつかと置換された後、ガラス片の外側面、例えば、上面領域の付近から多少の圧縮応力を除去するために、上面領域に最も近い位置にあるアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)がNaイオンと置換されてもよい。この間、先にガラス片に導入されていた下方のアルカリ金属イオンは、下面領域にとどまったままである。二重交換処理は、ガラスカバーの圧縮表面応力を減少させるのに加えて、ガラスカバーの中心引張りを更に減少させる。すなわち、2度目の交換処理は、ガラスを化学的に強靭化する働きをする。
【0065】
図7Aは、ガラスカバーの部分横断面図であり、一実施形態に係る初期引張り/圧縮応力プロファイルを示す。初期引張り/圧縮応力プロファイルは、ガラスカバーの表面領域を強化するための1度目の交換処理から得られたものでありうる。図の上部横線に沿って記載された説明の中で、小文字のギリシャ文字シグマ(σ)が使用される。説明にある−σは、引張りのプロファイル領域を示す。説明にある+σは、圧縮のプロファイル領域を示す。縦の破線と説明にあるσ=0は、圧縮と引張りとの交差点を示す。
【0066】
図7Aに示されるガラスカバーの部分横断面図には、ガラスカバーの厚さ(t)が示される。図7Aに示されるカバーガラスの表面に、初期引張り/圧縮応力プロファイルの初期圧縮表面応力(cs)が示される。カバーガラスの圧縮応力は、図7Aに示されるような圧縮応力層深さ(d)を有する。図7Aのガラスカバーの横断面図に示されるように、圧縮応力層深さ(d)は、ガラスカバーの表面から中心領域に向かう深さである。初期引張り/圧縮応力プロファイルの初期中心引張り(ct)は、図7Aに示されるように、ガラスカバーの中心領域にある。
【0067】
図7Aに示されるように、初期圧縮応力は、ガラスカバーの表面にピークがあるプロファイルを有する。すなわち、初期圧縮表面応力(cs)のピークは、カバーガラスの表面にある。初期圧縮応力プロファイルは、圧縮応力層の深さがガラスカバーの表面からガラスカバーの中心に向かうにつれて圧縮応力が減少することを示す。圧縮と引張りとの交差点まで、初期圧縮応力は内側に向かって減少し続ける。図7Aの図において、初期圧縮応力が減少し続けるプロファイルの領域は、右から左に向かう斜線によって強調して示されている。
【0068】
圧縮と引張りとの交差点の後、初期中心引張り(ct)のプロファイルは、ガラスカバーの横断面図に示される中心領域に向かって延びる。図7Aの図において、中心領域に向かう初期中心引張り(ct)のプロファイルは、左から右に向かう斜線によって強調して示される。
【0069】
図7Bは、ガラスカバーの部分横断面図であり、一実施形態に係る減少した引張り/圧縮応力プロファイルを示す。減少した引張り/圧縮応力プロファイルは、二重交換処理、特にガラスの化学強靭化によって得られてもよい。減少した引張り/圧縮応力プロファイルの減少した圧縮表面応力(cs’)を図7Bに示す。図7Bにおいて、圧縮応力層深さ(d)は、減少した圧縮応力に対応する。更に、減少した中心引張り(ct’)は、ガラスカバーの減少した引張り/圧縮応力プロファイルの中心領域に示される。
【0070】
図7Bにおいて、減少した圧縮表面応力は、ピークがガラスカバーの表面下に沈んだプロファイルのピークを示す。沈んだプロファイルピークの深さ(dp)は、ガラスカバーの厚さと、ガラスの特性とによって異なる。例えば、一実施形態において、圧縮応力のピークの深さ(dp)は、ほぼ約5〜50μmの範囲内にあってもよい。別の実施形態において、圧縮応力のピークの深さ(dp)は、ほぼ約10〜30μmの範囲内にあってもよい。圧縮表面応力の減少(例えば、(cs)から(cs’)へ)のトレードオフとして、図7Bに示される圧縮応力の深さ(dp)における減少した圧縮応力の大きさは、図7Aに示される初期圧縮応力の深さ(dp)における初期圧縮応力の大きさより大きいことを理解すべきである。
【0071】
以上の説明に照らして、圧縮表面層深さが、ガラスカバーの表面から、沈んだプロファイルのピークへと伸びるにつれて、減少した圧縮表面応力(cs’)が増加するプロファイルを示すことが理解されるはずである。そのような圧縮応力の増加プロファイルは、亀裂を防止する上で好都合だろう。沈んだプロファイルピーク(dp)の深さ(dp)の中で、亀裂は、カバーガラスの表面からカバーガラスのより深い場所へと広がろうとすると、圧縮応力の増加にあい、そこで、増加する圧縮応力は、亀裂を止めるように作用する(すなわち、亀裂の広がりを阻止するだろう)。更に図7Bに示されるように、減少した圧縮応力は、表面から内部に移動したプロファイルピークから更に内側の中心領域に広がるので、圧縮と引張りとの間の交差点まで、減少するプロファイルを与えるようになる。図7Bにおいて、減少する圧縮応力のプロファイルの領域は、右から左に向かう斜線を使用して強調して示されている。
【0072】
圧縮と引張りとの交差点の後、減少した中心引張り(ct’)のプロファイルは、図7Bに示されるガラスカバーの横断面図に示される中心領域へと向かう。図7Bの図において、中心領域に向かう減少した中心引張り(ct’)のプロファイルは、左から右に向かう斜線を使用して強調して示されている。
【0073】
所定の引張り限界を相当に超えた初期中心応力は、ガラスカバーの破壊を促進するという不都合な結果をもたらす。所定の引張り限界に対して初期中心引張りを減少させることにより、ガラスカバーの破壊を抑止(例えば、制限)できるという利点が得られるだろう。図7A及び図7Bとを比較すると、二重交換処理が中心引張りの減少(ct’)を実現するように図7Aに示される初期中心引張り(ct)を減少させることがわかる。例えば二重交換処理は、初期中心引張り(ct)を所定の引張り限界より相当に低い値まで減少させるので、例えば40〜70メガパスカル(MPa)程度の中心引張りの減少(ct’)が実現される。
【0074】
ガラスカバーにおいて、初期中心引張り(ct)は、初期圧縮表面応力(cs)とほぼ直線的な関係を有し、減少した中心引張り(ct’)は、減少した圧縮表面応力(cs’)とほぼ直線的な関係を有する。このことは、ct=(cs−d)/(t−2d)と、ct’=(cs’−d)/(t−2d)という数学的関係として推定される。式中、tはガラスカバーの厚さであり、dは圧縮表面層の深さである。従って、図7Aに示される初期圧縮表面応力(cs)を図7Bに示される減少した圧縮表面応力(cs’)まで減少させることは、図7Aに示される初期中心引張り(ct)を図7Bに示される減少した中心引張り(ct’)まで減少させることに関連していると理解すべきである。
【0075】
ガラスカバーの破壊を都合よく制限するために初期中心引張り(ct)を減少させることが望ましいが、初期圧縮表面応力(cs)を減少した圧縮表面応力(cs’)まで減少させることにより、1度目の交換処理によって向上していた表面強度が低減されてしまう。従って、向上していた表面強度の低減を抑制するように、二重交換処理における初期圧縮表面応力の減少を制限すると好都合であるだろう。更に、ある特定の時間にわたりナトリウム浴の化学強靭化処理が採用されることを理解すべきである。ガラスカバーの向上していた表面強度の低減を抑制するように、化学強靭化処理の時間は、例えば、約30分以下の持続時間に制限される。
【0076】
図7A及び図7Bとを比較すると、二重交換処理において、所定の圧縮値に対して、図7Aに示される初期圧縮表面応力(cs)の減少が制限されていることがわかる。従って、図7Bに示される減少した圧縮表面応力(cs’)は、事前に化学強化された際の圧縮値より相当に大きいままである。例えば、二重交換処理における図7Aに示される初期圧縮表面応力(cs)の減少は、ほぼ約500〜900MPaの範囲に制限されるため、図7Bに示される減少した圧縮表面応力(cs’)は、300〜500MPa程度と、1度目の交換処理によって相当に強化された状態を保っている。
【0077】
図7Cは、圧縮表面応力対圧縮表面層深さを示す図であり、ガラスカバーの減少した中心引張りと、減少した圧縮表面応力と、圧縮表面層深さとについての交差する範囲の三角形連続体を示す。ガラスカバーの圧縮表面層深さが予め選択された圧縮表面層深さ値より相当に大きくなるように、ガラスカバーは、十分な長さの時間(例えば、KNOの加熱浴の中で約6時間以上)にわたり化学強化されてもよい。例えば、図7Cに示されるように、ガラスカバーの圧縮表面層深さ(d)が約50μmを超えるように、ガラスカバーは、十分な長さの時間にわたり化学強化される。このことは、図7Cの図に、三角形連続体の横方向の広がりに沿って配置された横向きの説明であるd>50μmにより示される。
【0078】
一実施形態において、所定の圧縮値設計限度が、例えば実質的に約300MPa〜550MPaの範囲内にあり、図7Cに示される減少した圧縮表面応力(cs’)が、所定の圧縮値設計限度より実質的に大きくてもよい。このことは、図7Cの図に、三角形連続体の縦方向の広がりに沿って配置された縦向きの説明であるcs’>300〜550MPaにより示される。
【0079】
また、一実施形態において、例えば、実質的に約40〜70MPaの範囲内に入る所定の引張り設計限度を利用する場合、図7Cに示される減少した中心引張り(ct’)は、所定の引張り限界より実質的に小さくてもよい。本明細書において先に述べたように、ガラスカバーでは、減少した中心引張り(ct’)は、減少した圧縮応力(cs’)と直線的な関係を有する。このことは、図7Cの図に、三角形連続体の斜辺の広がりに沿って配置された説明であるct’<40〜70MPaにより示される。図7Cにおいて、斜線部分は、ガラスカバーの減少した中心引張りと、減少した圧縮表面応力と、圧縮表面層深さとについても交差する範囲の三角形連続体を強調するために使用されている。
【0080】
図8Aは、一実施形態に係るガラス片の表面を化学処理する処理800を示す。一例として、ガラス片は、ポータブル電子デバイスの筐体の一部に使用されるカバーガラスに適する。処理800は、ガラス片を強化するために使用される。
【0081】
ガラス片の表面、例えば、縁部を化学処理する処理800は、ガラス片を入手する処理工程802から開始されうる。一実施形態において、ガラスシートが複数のガラス片、例えば、ガラスカバーにシンギュレートされ、それらのガラス片の縁部が所定の形状を有するように加工処理された後に、ガラス片は入手されてもよい。しかし、化学処理されるガラス片は、何らかの適切な供給源から入手可能であることを理解すべきである。
【0082】
処理工程804において、ガラス片はラック上に載置される。通常、ラックは、化学処理中にそのガラス片並びに他のガラス片を支持するように構成される。ガラス片がラック上に載置された後、処理工程806において、ラックは、加熱イオン浴の中に浸漬される。一般に加熱イオン浴は、ある濃度のイオン(例えば、リチウム、セシウム又はカリウムなどのアルカリ金属イオン)を含む浴である。イオンの濃度を変化させることによって、ガラスの表面に対する圧縮応力を調整できるので、浴中のイオン濃度は変化してもよいことを理解すべきである。加熱イオン浴は、イオン交換を容易にするための何らかの適切な温度まで加熱されてもよい。一例として、加熱イオン浴は、約370℃〜約430℃まで加熱されてもよい。
【0083】
加熱イオン浴の中にラックが浸漬された後、処理工程808において、ラック上に保持されたガラス片とイオン浴との間でイオン交換が起こる。一般にNaイオンを含むガラス片とイオン浴との間で、拡散交換が起こる。拡散交換中、Naイオンより大きいアルカリ金属イオンは、ガラス片の中のNaイオンを効果的に置換する。一般に、ガラス片の表面領域付近のNaイオンはアルカリイオンと置換されるだろうが、ガラスの表面領域ではない部分にあるNaイオンは、実質的にアルカリ金属と置換されない。ガラス片中のNaイオンがアルカリイオンと置換されることにより、ガラス片の表面付近に圧縮層が効果的に形成される。アルカリ金属イオンによりガラス片から放出されたNaイオンは、イオン溶液の一部になる。
【0084】
処理工程810において、加熱イオン浴中におけるラックの浸漬時間が終了したか否かに関する判定が実行される。ラックを浸漬すべき時間の長さは実現例によって大幅に異なってもよいことを理解すべきである。例えば、時間の長さは、ラックの浸漬、従って、ガラス片の厚さと特性によって異なる。加熱イオン浴へのラックの浸漬が二重交換処理の一部である場合、カリウム浴へのラックの浸漬時間の長さは、約6時間未満である。通常、ラックの浸漬時間が長いほど、すなわち、アルカリ金属イオンとNaイオンとの交換時間が長いほど、化学強化層の深さは増す。例えば、ガラスシートの厚さが1mm程度である場合、イオン浴の中で実行される化学処理(すなわち、イオン交換)は、ガラス片の表面から10μm以上の深さまで浸透する。例えば、ガラス片がソーダ石灰ガラスから形成されている場合、イオン交換による圧縮層の深さは約10μmでありうる。別の例として、ガラス片がアルミノケイ酸塩ガラスから形成されている場合、イオン交換による圧縮層の深さは、約50μm〜100μmの範囲になりうる。
【0085】
処理工程810において、ラックを加熱イオン浴の中に浸漬する時間が終了していないと判定された場合、処理800は処理工程817に戻り、イオン浴とガラス片との間の化学反応が更に起こるように処理が継続される。あるいは、浸漬時間が終了したと判定された場合、処理工程812において、ラックはイオン浴から取り出される。
【0086】
前述のように、処理800により実行される化学強化は、二重交換処理を利用する。化学強化が二重交換処理である場合、ガラス片の化学強化層は、化学強化層の表面付近から一部又はすべてのアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)を効果的に除去してもよい一方で、化学強化層の表面の下方の場所には他のアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)をほぼとどまらせるように化学処理される。二重交換処理は、一般に、ガラス片の信頼性を向上させるだろう。
【0087】
その後、処理800は、処理工程812からオプションの処理工程814へ進む。処理工程814において、ガラス片の表面付近、更に詳細にはガラス片の化学強化層の表面付近の圧縮応力を減少させるために、ラックは、所定の時間にわたりナトリウム浴の中に浸漬される。ナトリウム浴は、硝酸ナトリウム(NaNO)浴であってもよい。ナトリウム浴中のNaイオンは、ガラス片の化学強化層の表面付近のアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)の少なくとも一部を拡散によって置換するだろう。一実施形態において、ナトリウム浴は、先に交換されていたアルカリ金属イオンの一部をナトリウムイオンと逆交換するように作用しうる第2の加熱浴である。すなわち、先に拡散によってガラス片の中に導入されていたアルカリ金属イオンの一部のみが拡散によってガラス片から放出される間に、Naイオンはガラス片の中へ拡散する。
【0088】
ラック従ってガラス片がナトリウム浴の中に浸漬されたままである時間の長さは、例えば、Naイオンがガラス片の化学強化層の中のアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)と置換されるべき深さによって異なる。ラックがガラス片の中に浸漬されたままである時間の長さは、先にラックが加熱イオン浴(例えば、カリウム浴)の中に浸漬されていた時間の長さによって決まる。例えば、ラックがイオン浴(例えば、カリウム浴)に浸漬される時間とナトリウム浴に浸漬される時間とを合わせた時間の長さは、約3〜25時間であってもよい。一例として、ラックは、加熱イオン浴に約5.75時間浸漬され、ナトリウム浴に約0.25時間浸漬されてもよい。一般にラックは、加熱イオン浴に約4〜20時間浸漬されてもよく、ラックがナトリウム浴に浸漬される時間は、最大約2時間であってもよい。
【0089】
ラックをナトリウム浴から取り出した後、処理工程816において、ガラス片はラックから取り外されてもよく、ガラス片の表面を化学処理する処理800は終了しうる。処理工程816においてガラス片がラックから取り外された後、ガラス片の表面を化学処理する処理800は完了する。しかし、必要に応じて、ガラス片は研磨されうる。研磨は、例えば、化学処理後にガラス片に残っている曇り又は残留物を除去しうる。
【0090】
図8Bは、一実施形態に係るガラスカバーを強化し、強靭化する処理840を示す別のフローチャートである。ガラスカバーを強化し、強靭化する処理840は、ガラスシートを入手する処理工程842から開始される。処理840の続く処理工程844は、ガラスシートを複数のガラスカバーにシンギュレートする工程であり、各ガラスカバーは、消費者電子製品の露出面に配置されるように適切な大きさに形成されてもよい。
【0091】
処理840の続く工程において、ガラスカバーは、予備洗浄浴846の中で化学的に前処理されてもよい。予備洗浄浴846は、4wt%のHFと、4wt%のHSOとを含みうる。予備洗浄浴846の持続時間は、約30秒〜約10分でありうる。
【0092】
処理840の続く処理工程848において、その後のガラスカバーを化学強化する処理工程850でガラスカバーが受ける熱衝撃を低減するように、ガラスカバーは予熱されうる。ガラスカバーは、アルカリ金属イオン浴(例えば、カリウム浴)を使用して化学強化されてもよい。ガラスカバーの温度をほぼ室温の状態から約350℃まで上昇させるために、予熱は、ある長さの時間、例えば約30分程度の時間にわたり実行されうる。
【0093】
処理840の続く工程において、ガラスカバーは、中間洗浄浴852の中で洗浄されてもよい。この場合、ガラスカバーは、任意的に中間洗浄浴852の中に短時間浸漬される。中間洗浄浴846は、適切に加熱された水を含む。処理840の続く処理工程854において、ガラスカバーは化学強靭化されてもよい。例えば、ガラスカバーをナトリウム浴の中に浸漬することにより、ガラスカバーは化学強靭化されうる(854)。ナトリウム浴は、ナトリウムイオンをアルカリ金属イオン(例えば、カリウム)と逆交換させることにより、ガラスカバーを化学強靭化する。
【0094】
処理840の続く処理工程856において、ガラスカバーは冷却されてもよい。冷却(工程856)は、冷却炉の中でゆっくり進行しうる。ガラスカバーを化学強靭化するためのナトリウム浴の温度に近い温度からから約150℃までガラスカバーの温度を低下させるために、冷却は、約1時間程度の持続時間にわたり実行されうる。
【0095】
ガラスカバーが十分に冷却された後、処理840の続く処理工程858において、各ガラスカバーは、対応する消費者電子製品に装着されてもよい。各ガラスカバーが対応する消費者電子製品に装着された(858)後、ガラスカバーを強化し、強靭化する処理840は終了しうる。
【0096】
図8Cは、一実施形態に係る例示的なプロファイル880を示す。例示的なプロファイル880は、ガラス片の外側領域における圧縮応力を外面からガラス片の中への深さの関数として示す。一般的に言えば、1回以上のイオン交換処理によって実現されるプロファイル880において、ピーク圧縮応力(Smax)は、ガラス片の表面にない。ピーク圧縮応力(Smax)は、ガラス片の表面ではなく、ガラスの外面の表面下にあるように調整される。一実施形態において、ピーク圧縮応力(Smax)は、200〜2000MPaであり、ガラスの外面からピーク圧縮応力(Smax)までの深さ(D1)は、5〜50μmであり、外面からのガラス中の圧縮応力領域の深さ(D2)は、20〜200μmでありうる。
【0097】
化学強化処理を受けたガラスカバーは、一般に、前述のような化学強化層を含む。図9A及び図9Bは、一実施形態に従って化学強化層が形成されるように化学処理されたガラスカバーを示す横断面図である。ガラスカバー900は、化学強化層928と、化学強化されていない部分926とを含む。一実施形態において、ガラスカバー900全体が化学強化処理されているが、強化の影響を受けるのは外面である。強化は、化学強化されていない部分926が引張り状態にあるのに対し、化学強化層928は圧縮状態にあるという効果を有する。ガラスカバー900は、丸形に加工された縁部形状902を有するように示されているが、一般にガラスカバー900は、ガラスカバー900の縁部の強度を向上するために選択された形状などの何らかの縁部形状を有してもよいことを理解すべきである。丸形の縁部形状902は単なる例として示されており、本発明を限定することを目的としない。
【0098】
化学強化層928は、ガラスカバー900が利用される特定のシステムに対して要求される条件に応じて異なっていてもよい厚さ(y)を有する。化学強化されていない部分926は、一般に、Naイオン934を含むが、アルカリ金属イオン936は含まない。化学強化処理は、化学強化層928がNaイオン934とアルカリ金属イオン936の双方を含むように化学強化層928を形成させうる。一実施形態において、図9Bに示されるように、化学強化層928は、Naイオン934とアルカリ金属イオン936の双方を含む化学強化層928の下方部分より相当に多くのNaイオン934を化学強化層928の外側部分が含むような層であってもよい。
【0099】
図10Aは、一実施形態に係るガラスカバーをイオン浴の中に浸漬することを含む化学処理方法を示す概略図である。一部が横断面で示されているガラスカバー1000が加熱イオン浴1032の中に浸漬されると、拡散が起こる。図示されるように、ガラスカバー1000の中に存在するアルカリ金属イオン1034は拡散して、イオン浴1032の中に侵入し、イオン浴1032中のアルカリ金属イオン1036(例えば、カリウム(K))は拡散して、ガラスカバー1000の中に侵入する。これにより、化学強化層1028が形成される。言い換えれば、イオン浴1032からのアルカリ金属イオン1036がNaイオン1034と交換されることができ、こうして化学強化層1028は形成される。通常、アルカリ金属イオン1036は、ガラスカバー1000の中心部分1026までは拡散しないだろう。化学強化処理の持続時間(すなわち、時間)、温度及び/又はイオン浴1032中のアルカリ金属イオン1036の濃度を調整することにより、化学強化層1028の厚さ(y)、すなわち層の深さは実質的に調整されるだろう。
【0100】
前述のように、一実施形態において、化学強化層1028の外面付近に位置するアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036を相当の量除去するために、ガラスカバー1000は更に処理されてもよい。そのようなアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036の除去を容易にするために、ナトリウム浴が使用される。図10Bは、一実施形態に従って先にガラスカバーがアルカリ金属浴に浸漬された後にガラスカバーをナトリウム浴に浸漬することを含む化学処理方法を示す概略図である。先に図10Aに関して説明したように加熱イオン浴(例えば、カリウム浴)に浸漬されていたガラスカバー1000は、化学強化層1028’がアルカリ金属イオン1036をほとんど又はまったく含まず実質的にNaイオン1034のみを含む外側層1028aと、Naイオン1034及びアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036の双方を含む内側層1028bとを含むように、ナトリウム浴1038の中に浸漬される。ガラスカバー1000をナトリウム浴1038の中に浸漬すると、Naイオン1034は外側層1028aからアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)を放出させうるが、内側層1028bにはアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036がとどまる。すなわち、外側層1028aと化学強化されていない部分1026との間に、アルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036と、Naイオン1034とを含む内側層1028bが効果的に配置される。化学強化されていない部分1026は、通常、アルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036をまったく含まず、外側層1028aのアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036の濃度は、内側層1028bと比較して少ない。外側層1028aは、アルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036をほとんど又はまったく含まないかもしれない。放出されたアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)1036は、外側層1028bからナトリウム浴1038の中へ効果的に拡散するだろう。
【0101】
化学強化層1028’は厚さ(y)を有してもよく、外側層1028aは厚さ(y1)を有してもよい。厚さ(y1)は、ナトリウム浴1038中のNaイオン1034の濃度と、ガラスカバー1000がナトリウム浴1038に浸漬される時間の長さとにより実質的に調整される。
【0102】
ガラスカバーが加熱イオン浴(例えば、カリウム浴)の中に浸漬されている間、加熱イオン浴中のアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)の濃度は変更されてもよい。言い換えれば、ガラスカバーが加熱イオン浴の中に浸漬されている間、カリウム浴中のアルカリ金属イオン(例えば、Kイオン)の濃度は、ほぼ一定に維持され、増加され、且つ/又は減少されてもよい。例えば、アルカリ金属イオンはガラス中のNaイオンを追い出すため、Naイオンは加熱イオン浴の一部になる。従って、加熱イオン浴にアルカリ金属イオンが更に追加されない限り、加熱イオン浴中のアルカリ金属イオンの濃度は変化するだろう。
【0103】
カリウム浴中のKイオンの濃度を変化させ且つ/又はガラスカバーがカリウム浴に浸漬される時間を変更することにより、ほぼガラスカバーの中心にある引張りを調整できるだろう。一実施形態において、ガラスカバーは、加熱イオン浴の中に約10〜15時間浸漬されることができ、加熱イオン浴は、例えば、約40%〜約98%の範囲のKイオン濃度を有するカリウム浴である。一実施形態において、約90%〜約95%より実質的に高いKイオン濃度が使用されてもよい。
【0104】
アルカリ金属浴及び/又はナトリウム浴と関連するパラメータは、一般に広い範囲で変更されてもよい。アルカリ金属浴中のアルカリ金属(例えば、カリウム)の濃度は、前述のように変更されてもよい。同様に、二重交換処理で使用されるナトリウム浴中のナトリウムの濃度も変更されてよい。ナトリウム浴の適切なNaイオン濃度は、約50%〜約90%の分子比のKNOと、残部(50%〜10%)のNaNOとにより規定されてもよい。例えば、一実施形態において、ナトリウム浴の適切なNaイオン濃度は、KNO70%、NaNO30%という適切な分子比により規定される。更に、浴が加熱される温度と、ガラスカバーが浴の中に浸漬される時間の長さも、広い範囲で変更されてよい。温度は、約370℃〜約430℃の範囲に限定されない。一例として、ガラスカバーがアルカリ金属浴の中に浸漬される総時間は、約10時間であってもよい。更に、二重交換処理中にガラスカバーがアルカリ金属浴の中に浸漬される時間と、ナトリウム浴の中に浸漬される時間の合計は、約10時間であってもよい。例えばガラスカバーは、アルカリ金属浴の中に約6.7時間浸漬され、ナトリウム浴の中に約3.3時間浸漬されてもよい。いずれの浴に関しても、浸漬(ソーキング)時間の長さは濃度によって異なりうる。ナトリウム浴における浸漬時間の長さは、Naイオン濃度によって決まり、Naイオン濃度が高い場合、ナトリウム浴中の浸漬時間は短いのが好ましい。例えば、ほぼKNO70%、NaNO30%の分子比により規定される相対的に高いNaイオン濃度を有するナトリウム浴の場合、ナトリウム浴への浸漬時間を約30分とするのが適切であるだろう。他の例において、これより長い又は短いナトリウム浴への浸漬時間、例えば約1時間、約10分又は約1分などの時間が使用されてもよい。
【0105】
ガラスカバーがイオン浴の中に浸漬されている間に、イオン浴中のアルカリ金属イオンの濃度は変更されてもよい。言い換えれば、ガラスカバーがイオン浴の中に浸漬されている間、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、イオン浴中のアルカリ金属イオンの濃度は、ほぼ一定に維持され、増加され、且つ/又は減少されてもよい。例えば、アルカリ金属イオンがガラス中のNaイオンを放出させるにつれて、Naイオンはイオン浴の一部になる。従って、イオン浴にアルカリ金属イオンが更に追加されない限り、イオン浴中のアルカリ金属イオンの濃度は変化するだろう。
【0106】
本明細書において説明される技術は、ハンドヘルド電子デバイスと、ポータブル電子デバイスと、実質的に静止状態で使用される電子デバイスとを含むが、それらに限定されない種々の電子デバイスに適用される。それらのデバイスの例には、ディスプレイを含む何らかの既知の消費者電子デバイスが含まれる。一例として、電子デバイスは、メディアプレイヤー、移動電話(例えば、携帯電話)、PDA、リモートコントロール、ノートブック、タブレットPC、モニタ、オールインワンコンピュータなどに対応するが、それらに限定されない。
【0107】
本発明のごく少数の実施形態を説明したが、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他の多くの特定の形態で本発明が実現されてもよいことを理解すべきである。一例として、本発明の方法と関連する工程は、広い範囲で変更される。本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、工程は、追加され、省略され、変更され、組み合わされ、異なる順序で実行される。
【0108】
本出願は、(i)本明細書に参考として取り入れられている2008年8月16日に出願された米国特許出願第12/193,001号「METHODS AND SYSTEMS FOR STRENGTHENING LCD MODULES(LCDモジュールを強化する方法及びシステム)」と、(ii)本明細書に参考として取り入れられている2008年7月11日に出願された米国特許出願第12/172,073号「METHODS AND SYSTEMS FOR INTEGRALLY TRAPPING A GLASS INSERT IN A METAL BEZEL(金属ベゼルにガラスインサートを統合的にトラップする方法及びシステム)」と、(iii)本明細書に参考として取り入れられている2009年3月2日に出願された米国仮特許出願第61/156,803号「Techniques for Strengthening Glass Covers for Portable Electronic Devices(ポータブル電子デバイスのガラスカバーを強化する技術)」と、(iv)本明細書に参考として取り入れられている2009年9月30日に出願された米国仮特許出願第61/247,493号「Techniques for Strengthening Glass Covers for Portable Electronic Devices(ポータブル電子デバイスのガラスカバーを強化する技術)」と、(v)本明細書に参考として取り入れられている2010年9月30日に出願された米国特許出願第12/895,372号「Techniques for Strengthening Glass Covers for Portable Electronic Devices(ポータブル電子デバイスのガラスカバーを強化する技術)」と、(vi)本明細書に参考として取り入れられている2010年9月30日に出願された米国特許出願第12/895,393号「Techniques for Strengthening Glass Covers for Portable Electronic Devices(ポータブル電子デバイスのガラスカバーを強化する技術)」とを更に参照する。
【0109】
前述した本発明の種々の態様、特徴、実施形態又は実現例は、単独で又は種々の組み合わせで使用可能である。
【0110】
本明細書は多くの特定の詳細を含むが、それらの特定の詳細は、開示内容又は特許請求されるものの範囲に対する限定としてみなされるべきではなく、開示される特定の実施形態に特有の特徴の説明であると解釈されるべきである。別個の実施形態に関連して説明されるある特定の特徴を組み合わせて実現することは可能である。逆に、1つの実施形態に関連して説明される種々の特徴を複数の実施形態において個別に又は何らかの適切な部分的な組み合わせで実現することも可能である。更に特徴は、ある特定の組み合わせで作用すると説明されるが、場合によっては、特許請求される組み合わせに含まれる1つ以上の特徴をその組み合わせから排除することが可能であり、特許請求される組み合わせを部分的な組み合わせ又は部分的な組み合わせの変形に変更することも可能である。
【0111】
同様に、図中、動作は特定の順序で示されるが、所望の結果を実現するために、そのような動作を図示される特定の順序で又は順次実行する必要がある又は図示されるすべての動作を実行しなければならないと理解すべきではない。
【0112】
いくつかの実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明の範囲内に含まれる変更、置換、均等物は存在する。尚、本発明の方法と装置を実現する代替方法も数多く存在する。従って、添付の特許請求の範囲は、本発明の趣旨と範囲の中に含まれるそのようなすべての変更、置換、均等物を包含すると解釈されるべきである。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B