【文献】
J. Mol. Biol.,2007年,Vol.369,pp.239-248
【文献】
Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine,2008年,Vol.4,pp.8-18
【文献】
J. Mol. Biol.,2009年,Vol.387,pp.607-618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(専門用語)
用語の意味が当該用語の一般的に使用される意味から逸脱する場合、特に表示のない限り、出願人は、以下に提供された専門用語を使用することを意図する。
【0009】
本発明の目的のために、用語「バクテリオファージ成分」はバクテリオファージおよびバクテリオファージ派生体を言い、それらに付着された抗原、融合タンパク質および他のタイプの分子を有するバクテリオファージおよびバクテリオファージ派生体を含む。例えば、用語「T4バクテリオファージ成分」は、T4バクテリオファージおよびT4バクテリオファージ派生体を言う。
【0010】
本発明の目的のために、用語「バクテリオファージ派生体」は、バクテリオファージのタンパク質コートの少なくとも一部を含むいずれもの構造を言う。バクテリオファージ派生体の1つの例は、外来DNAが、カスタマイズされたバクテリオファージのゲノム内にパッケージングされる場合を言い、例えば、Jiangら、「Display of a PorA Peptide form Neisseria meningitidis on the Bacteriophage T4 Capsid surface」、Infection and Immunity 65:4770-77 (1997)、Clark JRおよびMarch JBの「Bacteriophage-mediated nucleic acid immunization」、FEMS Immunology and Medical Microbiology, 40, 21-26 (2004)およびMarchら、「Genetic immunisation against hepatitis B using whole bacteriophage lambda particles」、Vaccine, 22, 1666-71 (2004)(それらの全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている)に記載されている。バクテリオファージ派生体の例はバクテリオファージキャプシドである。バクテリオファージ派生体の別の例はバクテリオファージ尾部である。本発明の1つの実施形態では、Kondabagilら、「The DNA translocating ATPase Of bacteriophage T4 packaging motor」、J. Mol. Biol., 363: 786-99 (2006)(その全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている)に記載された方法を使用して外来DNAが空のT4キャプシド内に充填され得る。
【0011】
本発明の目的のために、用語「結合」、用語「結合する」および用語「結合された」は、化学的および物理的結合のいずれものタイプを言い、そしてこれらは、限定されないが、共有結合、水素結合、静電結合、生物学的テザー、膜貫通付着、細胞表面付着および発現が挙げられる。
【0012】
本発明の目的のために、用語「生物学的試料」および用語「生物学的標本」は、インビトロまたはインビボでのヒト、動物、微生物または植物の一部または全部のいずれかを言う。その用語には、限定されないが、ヒト、動物、微生物または植物の組織片、細胞または組織培養物、ヒト、動物、微生物または植物細胞の懸濁液またはその単離物、ヒトまたは動物の生検、血液試料、細胞含有流体および分泌物のような、ヒト、動物、微生物または植物由来の物質が挙げられる。
【0013】
本発明の目的のために、用語「キャプシドコートタンパク質」は、多コピーで会合しウイルスのキャプシド殻を形成するタンパク質を言う。例えば、T4バクテリオファージキャプシドは、単一の主要キャプシドタンパク質gp23(46kDa)の930コピーによって構成される。キャプシドは、微量キャプシドタンパク質gp24(42kDa)の12の頂点(各頂点あたり1つの5量体)のうち11に位置するもう1つの微量キャプシドタンパク質の55コピーからもまたなる。構造学的研究は、2つのさらなるタンパク質、すなわちHoc(高抗原性外部キャプシドタンパク質、40kDa)およびSoc(小外部キャプシドタンパク質、9kDa)が、キャプシドアセンブリの完成後にキャプシド上に加えられ、Hocがキャプシド粒子あたり155コピーまで存在するのに対し、Socはキャプシド粒子あたり810コピーまで存在することを確立してきた。これらのタンパク質は、非必須と考えられ得る。遺伝子のいずれか、または両方の遺伝子における変異は、通常の実験条件下、ファージ生産、ファージ生存率、ファージ感染性、またはファージ安定性に影響しない。しかしながら、HocおよびSocは、極度な環境条件下、さらなる安定性をキャプシドに提供する。T4バクテリオファージおよび他のファージのキャプシドコートタンパク質は、例えば、「バクテリオファージナノ粒子を含む方法および組成物」との名称で2005年10月13日に発行されたRaoの米国特許出願第2005/0226892号公報(その全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている)に記載されている。
【0014】
本発明の目的のために、用語「キャプシド」および用語「キャプシド殻」は、いくつかのタンパク質の構造サブユニットを含むウイルスのタンパク質殻を言う。キャプシドはウイルスの核酸コアを封入する。単数形または複数形の用語「プレヘッド」、「プロヘッド」または「プロキャプシド」、「不完全頭部」または「不完全に充填された頭部」、「完全頭部」および「ファージ頭部」は、ウイルスキャプシド殻の成熟の異なる段階を言う。「プレヘッド」は、会合当初の正確な大きさのキャプシド殻または等尺性キャプシドを言い、多くの場合、単一タイプのタンパク質サブユニットがタンパク質スカフォールドの周りで重合している。タンパク質スカフォールドが取り除かれるときに、キャプシド殻の内部に空間を作り、その構造は、プロヘッドまたはプロキャプシドと言われる。不完全頭部、完全頭部およびファージ頭部は全て成熟の段階に達したキャプシドを言い、この段階では、それらはDNAと会合したより大きく安定した粒子になる。用語「不完全頭部」は、一部のDNAのみがその中にパッケージされた成熟キャプシド殻を言うか、または一旦DNAが完全に充填された後、DNAが殻から放出され、少量のみのDNAを後に残す成熟キャプシド殻も言い得る。用語「完全頭部」は、DNAが完全に充填された成熟キャプシド殻を言う。完全頭部はバクテリオファージゲノムの105%までと充填し得る。これは、T4バクテリオファージに関して、約165〜170kbである。同様に、他のウイルスのキャプシドもまた、それらのゲノム量より多くを収容するようにパッケージされ得る。キャプシドは、封入されてもされないものでもあり得る。HK97のようなバクテリオファージ内のキャプシドの成熟プロセスは、参照により、例えば、Lataら、「Maturation Dynamics of a Viral Capsid: Visualization of Transitional Intermediate States」、Cell. 100(2), 253-263 (2000)ならびにGertsmanら、「An unexpected twist in viral capsid maturation」、Nature, 458, 646-50 (2009)、およびT4のようなバクテリオファージ関して、Raoら、「Structure and assembly of bacteriophage T4 head」、Virol. J. 7:356 (2010)に記載されている。
【0015】
本発明の目的のために、用語「キャリア」は、遺伝物質またはタンパク質の成分の転移をもたらす任意の支持構造をも言う。遺伝物質としては、限定されないが、DNA、RNAまたはそれらのフラグメントが挙げられ、そしてタンパク質またはポリペプチドはアミノ酸を含み、そして、限定されないが、抗原、抗体、リガンド、レセプターまたはそれらのフラグメントが挙げられる。キャリアとしては、限定されないが、ウイルス(レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、シュードタイプウイルス、複製コンピテントウイルス、単純ヘルペスウイルスが例として挙げられるがこれらに限定されない)、ウイルスキャプシド、リポソームまたはリポソーム小胞、リポプレックス、ポリプレックス、デンドリマー、マクロファージ、人工染色体、ナノ粒子、ポリマーおよびハイブリッド粒子(この例にはビロソームを含む)のようなベクターが挙げられる。キャリアは、成分の付着および貯蔵のための複数の表面およびコンパートメントを有し得る。これらは、限定されないが、外部表面および内部コンパートメントを含む。
【0016】
本発明の目的のために、用語「エピトープ」は、免疫グロブリンの結合部位によって認識し得る抗原部分の最小部分を言う。
【0017】
本発明の目的のために、用語「外来物質」は、関心のある生物外で生じる物質、または生物から単離され、外部にて任意の程度に操作され、そして次いでその自然環境またはそれが単離された環境内に再導入され得る物質を言う。外来物質としては、限定されないが、核酸、タンパク質、ポリマー化合物、微粒子状物質および人工的に合成された物質が挙げられる。例えば、「外来核酸」は、関心のある生物外で生じ、または生物から単離され、改変され、生物内に再導入された、任意の核酸、DNAまたはRNAまたはそれらのフラグメント(一本または二本鎖のいずれか)を言う。宿主細胞内に存在する外来DNAは、起源生物に由来し、ベクター内でクローン化され、そして次いで宿主細胞内に導入され得る。
【0018】
本発明の目的のために、用語「免疫応答」は、抗原または免疫原に対する動物の免疫系の特定の応答を言う。免疫応答は、抗体の生産および細胞性免疫を含み得る。
【0019】
本発明の目的のために、用語「免疫」は、感染生物または物質に対する、ヒトを含む被験動物の抵抗の状態を言う。感染生物または物質は広く定義され、そして寄生生物、毒性物質、癌細胞および他の細胞、ならびに細菌およびウイルスを含むと理解され得る。「治療上有効な免疫化過程」(定義に関しては以下を参照)は免疫応答を生じさせ得る。
【0020】
本発明の目的のために、用語「免疫化条件」は免疫応答に影響する因子を言い、ヒトを含む被験動物に送達される免疫原またはアジュバントの量および種類、送達の方法、接種の数、接種の間隔、被験動物の種類およびその体調を含む。「ワクチン」は、免疫を惹起し得る医薬製剤を言う。
【0021】
本発明の目的のために、用語「免疫化用量」は、免疫応答を促進するために必要な抗原または免疫原の量を言う。この量は、種々のアジュバントの存在および有効性で変動し得る。この量は、動物および抗原、免疫原および/またはアジュバントで変動され得るが、一般的に一接種あたり約0.1μg/ml以下と約100μgとの間であり得る。免疫化用量は、以下に記載の通り、統計的に有効な宿主動物免疫化およびチャレンジ研究を行うことによるような、当業者に周知な方法によって容易に決定される(例えば、Manual of Clinical Immunology、H. R. RoseおよびH. Friedman、American Society for Microbiology、ワシントンD.C.(1980年)(その全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている))。いくつかの場合では、免疫を提供するためにブースター投与量を含むいくつかの免疫化用量が投与され得、そして、本発明の目的のために、そのような治療の過程は、集約して「治療上有効な免疫化過程」と言われる。
【0022】
本発明の目的のために、用語「免疫原」および用語「免疫原性」は、単独でまたはアジュバントと一緒に免疫応答を惹起し得る物質また材料(抗原を含む)を言う。天然および合成物質の両方は免疫原であり得る。免疫原は一般的に、タンパク質、ペプチド、多糖類、核タンパク質、リポタンパク質、合成ポリペプチド、あるいはタンパク質、ペプチド、多糖類、核タンパク質、リポタンパク質、合成ポリペプチドに結合したハプテンあるいは他の細菌、ウイルスまたは原生動物画分である。「免疫原」または「免疫原性」である組成物は、アジュバントを付随しなければ免疫応答を生じない(または治療上効果のない免疫応答のみ引き起こす)物質(例えば、小ペプチド)を含むことが理解され得る。本発明の目的のために、そのような免疫原は「アジュバント必須」免疫原と言われる。
【0023】
本発明の目的のために、用語「免疫原性量」は、動物にて臨床的に検出可能な防御応答を惹起する、目的の抗原調製物の量または生物毒素の量である。
【0024】
本発明の目的のために、用語「リポソーム」および用語「リポソーム小胞」は、リン脂質およびコレステロール二重層からなる二重膜のような二重膜からなる小胞を言う。リポソームは、コレステロールのポリエチレングリコール誘導体(PEGコレステロール)、コプロスタノール、コレスタノール、またはコレスタン、ならびにPCおよびコレステロールの組合せのような他のステロイド成分もまた含み得る。リポソームは糖脂質もまた含み得る。リポソームの局面は、「物質に結合されたT4バクテリオファージ」との名称で2008年11月6日に発行されたAlvingらの米国特許出願第2008/0274533号公報(その全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている)にさらに記載されている。
【0025】
本発明の目的のために、用語「首部タンパク質」および用語「尾部タンパク質」は、ウイルス粒子、特にバクテリオファージの首部または尾部のいずれかの部分のアセンブリに関与するタンパク質を言う。尾状バクテリオファージはカウドウイルス目に属し、3つのファミリーを含む:サイフォウイルス科は、長い可撓性の尾部を有し、そして尾状ウイルスの大部分を構成する。ミオウイルス科は、長い剛性の尾部を有し、そして細菌宿主へのファージ付着の際に収縮する尾部シースによって完全に特徴付けられる。尾状ウイルスの最小ファミリーはポドウイルス(短い足のような尾部を持つファージ)である。例えば、T4バクテリオファージでは、gp10は、gp11と会合して基盤の尾部ピンを形成する。尾部ピンアセンブリは、尾部アセンブリの第1段階である。バクテリオファージT4の尾部は、剛性のチューブを囲み、そして多タンパク質基盤内で終結する収縮性シースからなり、そこへファージの長いおよび短い尾部繊維が付着される。一旦頭部がDNAでパッケージされると、タンパク質gp13、gp14およびgp15は、首部に会合して、パッケージされた頭部をシールし、gp13タンパク質はDNAパッケージング後、ポータルタンパク質gp20と直接相互作用し、そして次いでgp13プラットフォーム上でgp14およびgp15が会合する。T4バクテリオファージ内の首部および尾部タンパク質は、限定されないが、タンパク質gp6、gp25、gp53、gp8、gp10、gp11、gp7、gp29、gp27、gp5、gp28、gp12、gp9、gp48、gp54、gp3、gp18、gp19、gp13、gp14、gp15およびgp63が挙げられ得る。T4バクテリオファージおよび他のウイルス内の首部および尾部アセンブリタンパク質の局面は、例えば、以下にさらに記載されている(Rossmannら、「The bacteriophage T4 DNA injection machine」、Curr. Opin. Struct. Biol. 14(2):171-80 (2004)、Kostyuchenkoら、「Three-dimensional structure of bacteriophage T4 baseplate」、Nat. Struct. Biol. 10(9):688-93 (2003)、Taoら、「Assembly of a tailed bacterial virus and its genome release studied in three dimensions」、Cell 95(3): 431-37(1998)(それらの全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている))。
【0026】
本発明の目的のために、用語「天然に生じるものではない」または「単離された」は、目的の成分が自然界で天然に付随し、そして自然界で見られるような少なくとも1つの他の成分を少なくとも本質的に含まないことを言う。
【0027】
本発明の目的のために、用語「パッケージングマシン」は、コンパートメント、モーター、およびモーターをコンパートメントへ連結する成分または任意の他の付着機構を含む、完全なパッケージング単位を言う。例えば、T4パッケージングマシンは殻(主にgp23からなるプロキャプシド)、頂点ポータルタンパク質(12量体gp20)およびgp17パッケージングモーターを含む。T4DNAパッケージングマシンは、例えば、以下にさらに記載されている(Zhangら、「A promiscuous DNA packaging machine from bacteriophage t4」、PLoS Biol. 9(2):310000592 (2011)、および、Raoら、「DNA Packaging in Bacteriophage T4」、Madame Curie Bioscience Database, Landes Bioscience, (2000)、(それらの全体の内容および開示は、参照により本明細書中に援用されている))。
【0028】
本発明の目的のために、用語「パッケージングモーター」は、化学エネルギーを使用し、核酸の機械的な転移を進めそして核酸をコンパートメント内にパッケージし得る分子モーターまたは分子マシンを言う。例えば、T4バクテリオファージ内のパッケージングモーターは、ATP加水分解のエネルギーを使用し、DNAをキャプシド殻内に転移させそしてパッケージする。パッケージングモーターは、1つ以上のタンパク質サブユニットを含むタンパク質複合体であり得、そして核酸をパッケージすることを助ける酵素活性を有し、それは、限定されないが、ATPアーゼ、ヌクレアーゼ、およびトランスロカーゼが挙げられる。例えば、T4バクテリオファージパッケージングモーターは、巨大なターミナーゼタンパク質、5量体遺伝子産物(gp)17を言う。用語「パッケージングモーター」はまた、実際のモーターの活性を制御するかまたは高めるさらなるタンパク質を包含することもまた考えられ得る。例えば、T4パッケージングモーターは、小さいターミナーゼタンパク質gp16もまた含み得る。T4DNAパッケージングモーターは、Sunら、「The structure of the phage T4 DNA packaging motor suggests a mechanism dependent on electrostatic forces」、Cell 135(7):1251-62 (2008)に、参照によりさらに記載されている。
【0029】
本発明の目的のために、用語「ペプチド様」は、短鎖ペプチド、ならびにタンパク質、リポタンパク質および糖タンパク質を言うが、便宜上、非タンパク質性分子、例えばアミノ酸含有分子もまた含み得る。ある実施形態では、ペプチド様治療剤は、他の薬剤に加えて、ビタミン、ステロイド、アジドチミジン、および遊離プリマキンをさらに含み得る。1つの有用なペプチド類は、インターロイキン、コロニー刺激因子およびインターフェロンのような免疫調整剤である。別の有用なクラスのタンパク質は、ワクチンに使用されるような抗原および免疫原である。
【0030】
本発明の目的のために、用語「精製された」は、成分が比較的純粋な状態にあること、例えば、少なくとも約90%の純度、または少なくとも約95%の純度または少なくとも約98%の純度を言う。
【0031】
本発明の目的のために、用語「ウイルス粒子」は、ウイルスおよびウイルス様生物を言う。
【0032】
(説明)
本発明は、本明細書中に含まれる以下の具体的な実施形態の詳細な記載を参照することによって、より容易に理解され得る。本発明は、そのある実施形態の具体的な詳細に関して記載されているけれども、そのような詳細は本発明の範囲を限定するものとしてみなされるべきではないと意図される。「バクテリオファージT4からの乱雑なDNAパッケージングマシン」との名称で2010年4月9日に出願された米国仮特許出願第61/322,334号を含む、本明細書中にて述べられた参考文献およびそれらの中で引用された参考文献の全文は、参照により、それらの全体が本明細書中に援用されている。
【0033】
ファージT4は、尾状のバクテリオファージ(この惑星で最も豊富な生物である)ならびにヘルペスウイルスのような巨大な真核性ウイルスのプロトタイプである。これらのウイルスは、正二十面体形状キャプシド「頭部」の中にそれらのゲノムを密にパッケージする強力なマシンをコードする。キャプシド内へのパッケージングは、キャプシドの頂点の1つに局在化される12量体のポータルを経て生じる。パッケージングは、一連の工程:空のプロヘッドのアセンブリ、コンカテマー切断およびモーター−DNA複合体のポータル頂点への付着、頭部が完全充填までのATP消費型DNA転移、パッケージングを終了するためのDNA切断、モーターの脱離、および「首部」アセンブリによるパッケージされた頭部のシールの正確な統合を必要とする。連続的な立体構造変化(特にポータル内)は、アセンブリが一方向性かつ不可逆的に進むようにこれらの移行を進めると考えられる。
【0034】
1つの実施形態では、本発明は、種々のキャプシド上のT4ファージパッケージングマシンが非常に乱雑で、プロヘッド内にDNAを転移させるが、予想外に、以前に充填したウイルス頭部内へもまた転移させるという新規の発見された事実を利用する。他の研究は、充填したウイルスキャプシド内にてポータルの構造が根本的に変えられることを示したので、完全頭部上のパッケージング機構は不可逆的であり得ると考えられた。本発明の1つの局面は、完全頭部、またはそれらのパッケージされたDNAのほとんどが空にされた頭部が、パッケージングマシンを再会合し、それを使用してDNA分子をキャプシドに再び充填し得ることを示すことに関する。
【0035】
これらの結果は、従来の連続的ウイルスアセンブリモデルに疑念を抱かせ、キャプシド容量に適合するウイルスゲノムの進化に関する説明を示唆し、そしてウイルスパッケージングマシン(ポータルおよびモーター)が、DNAおよび他の治療上の分子を合成キャプシド内へ転移させるために使用され得る新規ナノキャプシド送達システムへの方向性を示す。
【0036】
1つの実施形態では、本発明は、目的の核酸および/またはタンパク質を送達するキャリアとして使用されるT4バクテリオファージ成分を提供する。
【0037】
1つの実施形態では、本発明は、T4バクテリオファージパッケージングモーターであるパッケージングモーターを提供する。
【0038】
1つの実施形態では、本発明は、リポソーム小胞と会合し、核酸をリポソーム小胞内にパッケージし得るT4パッケージングモーターを提供する。
【0039】
1つの実施形態では、本発明は、いずれものコンパートメントと会合し、核酸をコンパートメントへ付着させ、そしての全容積までパッケージすることが可能なパッケージングモーターを提供する。
【0040】
1つの実施形態では、本発明は、核酸がパッケージされ、そして目的のタンパク質に付着され得る多用途タイプの送達媒体である。
【0041】
尾状バクテリオファージは、天然に広範に分布し、そして、この惑星上で最も豊富な生物である(Hendrix、「Evolution: the long evolutionary reach of viruses」、Curr. Biol. 9: R914-R917 (1999)にて言及される)。これら、特に、バクテリオファージT4は、生存する生物内のDNA凝集および脱凝集の機構を解明するための優れたモデルである。ウイルス粒子は、ゲノムがパッケージされる頭部、およびゲノムを細菌細胞に送達する尾部からなる。結晶濃度(約500μg/ml)近くまで非常に負に荷電された比較的剛性の二本鎖DNA(dsDNA)のパッケージングのために、頭部は、約6MPa(シャンパンの瓶中の気圧の10倍より多く相当)まで加圧される(Smithら、「The bacteriophage straight phi29 portal motor can package DNA against a large internal force」、Nature 413: 748-52 (2001);およびLanderら、「The structure of an infectious P22 virion shows the signal for headful DNA packaging」、Science 312: 1791-95 (2006)にてさらに記載されている)。
【0042】
dsDNAウイルスの構築の際に共通の経路および機構が関与する(Casjens、「Control mechanisms in dsDNA bacteriophage assembly」、The Bacteriophages, Volume 1, Calendar R, 編, New York: Plenum Press, 15-91 (1988)、Blackら、「Morphogenesis of the T4 head」、Molecular biology of bacteriophage T4, Karam, 編, Washington, D.C.: American Society for Microbiology, 218-58 (1994)、およびMettenleiterら、「Herpesvirus assembly: an update」、Virus Res. 143: 222-234 (2009)にて記載される)。正確な大きさのキャプシドがまず会合され、しばしば、単一タイプのタンパク質サブユニットがタンパク質スカフォールドの周囲で重合する(
図1)。円錐形状の12量体ポータルは、アセンブリを開始し、そして等尺性キャプシド(プレヘッド)の特有の5つの頂点にとどまり、全ての後のトランザクション:DNA侵入、尾部付着、およびDNA放出を促進する(Simpsonら、「Structure of the bacteriophage phi29 DNA packaging motor」、Nature 408: 745-50 (2000);およびLebedevら、「Structural framework for DNA translocation via the viral portal protein」、EMBO J. 26: 1984−94 (2007)にて言及される)。スカフォールドが取り除かれ、ウイルスゲノムをキャプシド形成するために、キャプシド(プロヘッドまたはプロキャプシド)内に空間を作る(
図1の工程A)。「ターミナーゼ」としてもまた知られているパッケージングATPアーゼモーターは、コンカテマーウイルスDNAを認識および切断し、そして、プロヘッドポータルの狭い突出末端でドッキングし、DNA末端を約3.5nmポータルチャンネル内に挿入する(Raoら、「The bacteriophage DNA packaging motor」、Annu. Rev. Genet. 42: 647-81 (2008)に記載される)。
【0043】
このように会合したパッケージングマシンは、ATP加水分解の遊離エネルギーを利用してDNA転移を進める(
図1の工程B)。頭部を充填(「ヘッドフル」パッケージング)した後、モーターはDNAを切断し、そしてDNA充填頭部から解離する(
図1の工程C)(Alamら、「The headful packaging nuclease of bacteriophage T4」、Mol. Microbiol. 69: 1180-90 (2008)に言及される)。首部および尾部タンパク質はポータル上に会合し、感染性ウイルスアセンブリを完成する(
図1の工程D)(Rao、「A virus DNA gate: zipping and unzipping the packed viral genome」、Proc. Natl. Acad. Sci., 106: 8403-04 (2009);Zhengら、「A conformational switch in bacteriophage p22 portal protein primes genome injection」、Mol. Cell. 29: 376-83 (2008);Bodeら、「The arrangement of DNA in lambda phage heads. I. Biological consequences of micrococcal nuclease attack on a portion of the chromosome exposed in tailless heads,」、J. Mol. Biol. 62: 493-502 (1971);Lhuillierら、「Structure of bacteriophage SPP1 head-to-tail connection reveals mechanism for viral DNA gating」、Proc. Natl. Acad. Sci. 106: 8507-12 (2009);およびEdgarら、「Morphogenesis of bacteriophage T4 in extracts of mutant-infected cells」、Proc. Natl. Acad. Sci. 55: 498-505 (1966)に言及される)。
【0044】
ファージT4パッケージングモーターは、現在までの報告で最も速くかつ最も強力である。それは、約60pNの力を生み出しそして約2,000bp/sまでの速度でパッケージする。モーターは、巨大なターミナーゼタンパク質、gp17(70kDa)および小さいターミナーゼタンパク質、gp16(18kDa)で構成される(Raoら、「Cloning, overexpression and purification of the terminase proteins gp16 and gp17 of bacteriophage T4. Construction of a defined in-vitro DNA packaging system using purified terminase proteins」、J. Mol. Biol. 200: 475-88 (1988)に記載される)。gp17は、DNAパッケージングに必要な全ての酵素活性:ATPアーゼ、ヌクレアーゼおよびトランスロカーゼを含む(Leffersら、「Biochemical characterization of an ATPase activity associated with the large packaging subunit gp17 from bacteriophage T4」、J. Biol. Chem. 275: 37127-136(2000);Rentasら、「Defining the bacteriophage T4 DNA packaging machine: evidence for a C-terminal DNA cleavage domain in the large terminase/packaging protein gp17」、J. Mol. Biol. 334: 37-52 (2003);およびBaumannら、「Isolation and characterization of T4 bacteriophage gp17 terminase, a large subunit multimer with enhanced ATPase activity」、J. Biol. Chem. 278: 4618-27 (2003)に記載される)。5分子のgp17が、ポータル上に会合し、ポータルチャンネルと連続的な中心転移チャンネルとともに5量体モーターを形成する(Sunら、「The structure of the phage T4 DNA packaging motor suggests a mechanism dependent on electrostatic forces」、Cell 135: 1251-1262 (2008)に記載される)。推定上11merのGp16は、gp17の活性を制御するが、パッケージングマシン上のその配置は知られていない(van Duijn、「Current limitations in native mass spectrometry based structural biology」、J .Am . Soc. Mass. Spectrom. 21: 971-78 (2010);および Al-Zahraniら、「The small terminase, gp16, of bacteriophage T4 is a regulator of the DNA packaging motor」、J. Biol Chem 284: 24490-500 (2009)に記載される)。構造的および生化学的研究は、パッケージングが、緩和および緊張の立体構造状態間で変わるモーターによって生み出される静電力によって進められることを示唆する。
【0045】
ウイルスアセンブリの基本的特性は「連続的アセンブリ」であり、「単純な」成分が厳格な順序で会合し、独特の生物特性を備えた複雑なナノマシンを生じる。各アセンブリ工程は、新しい部位または立体構造状態を生じさせ、そこへ、次の成分が精巧な特異性にて、本質的に不可逆的に結合する(Wood、「Bacteriophage T4 morphogenesis as a model for assembly of subcellular structure」、Q. Rev Biol. 55: 353-67 (1980)に記載される)。一連のそのような工程は、ファージT4(King、「Assembly of the tail of bacteriophage T4」、J. Mol. Biol. 32: 231-62 (1968)に言及される)および多数の他のウイルスの研究によって記述されるように複雑な感染性ウイルス粒子の迅速かつ高忠実性のアセンブリに導く(Casjensら、「Control mechanisms in dsDNA bacteriophage assembly」、The bacteriophages, Volume 1, Calendar, 編, New York: Plenum Press, 15-91 (1988)に記載される)。ファージT4では、このプロセスは、1の理論感染効率に近づくウイルス粒子を会合する。
【0046】
他のファージおよびdsDNAウイルス(例えば、ヘルペスウイルス)と同様に、ファージT4の頭部形態形成(インビボ)における工程の順序は以下の通りである:(i)初期の(非拡張の)空のプロヘッド上でのパッケージングモーターのアセンブリ(
図1の工程A)、(ii)約10%〜25%のゲノムがパッケージされた後のキャプシドの拡張(
図1の工程B)、(iii)頭部が完全充填されるまでのパッケージング、(iv)DNAの切断およびモーターの離脱(
図1の工程C)、および(v)パッケージされた頭部をシールする首部タンパク質のアセンブリ(
図1の工程D)。ポータルでの立体構造変化は、これらの連続的不可逆的移行を進めると報告されている(
図1;ポータルは、各段階にて異なる立体構造状態を経る)。
【0047】
本発明の有利な局面は、連続的かつ不可逆的工程のパラダイムに厳格に固執していない、ファージT4ゲノムパッケージングマシンのアセンブリに関する(「モーター」は5量体gp17を言う;一方で「マシン」は、殻[gp23]、ポータル、およびモーターを含む完全なパッケージング単位を言う)。結果は、ファージT4パッケージングマシンのアセンブリが、非常に乱雑であり、そして、それが会合する頭部のタイプに関して識別しないことを示す。本発明の1つの実施形態では、モーターは、DNAを完全充填した頭部(DNA完全頭部)(
図1の工程G)または一旦完全充填したがDNAを放出した頭部(
図1の工程F)のいずれのファージ頭部内にも転移することができる。実際に、後者は、プロヘッドよりも5から10倍大きなパッケージング効率を示す。これは、完成されたウイルス殻がパッケージングマシンを再会合し、そして任意のDNAを再パッケージし得ることを示す最初の報告である。単一分子の光ピンセット器具は、ファージ頭部会合パッケージングマシンのパッケージング速度が、未パッケージングのプロヘッド上に会合されたマシンのそれと同様であるという本発明の別の実施形態を示すために使用される。単一分子蛍光測定は、成熟ファージ頭部が、反復のパッケージング開始を触媒し、同じ頭部内に複数のDNA分子をキャプシド形成するという本発明のさらなる実施形態を示す。本発明の有利な実施形態は、ファージT4DNAパッケージングマシンが異常な立体構造可塑性を有し、その成熟段階に関わらず、受動キャプシド容器内へのゲノム転移を進めることである。これらの特徴は、dsDNAウイルスでヘッドフル測定ゲノムの進化を進めたものであり得、そして、DNA治療薬およびワクチンを細胞内に輸送可能な設計が新規のナノデバイスのような本発明のさらなる実施形態への手段を提供し得る。
【0048】
ウイルスアセンブリの中心テーマの1つは、連続的かつ不可逆的アセンブリである。1つの成分のアセンブリは、次の成分などのアセンブリに特異的な新規の部位または立体構造状態を生じる(Casjensら、「Control mechanisms in dsDNA bacteriophage assembly」、The bacteriophages, Volume 1, Calendar, 編, New York: Plenum Press, 15-91 (1988);そしてKing、「Assembly of the tail of bacteriophage T4」、J. Mol. Biol. 32: 231-62 (1968)にさらに記載される)。もし成分が欠損したら、アセンブリは、その点まで続行したら機能停止し、不完全に会合された構造および会合されなかった下流成分を蓄積する(Edgarら、「Morphogenesis of bacteriophage T4 in extracts of mutant-infected cells」、Proc. Natl. Acad. Sci. 55: 498-505 (1966)および、Kikuchiら、「Genetic control of bacteriophage T4 baseplate morphogenesis. I. Sequential assembly of the major precursor, in vivo and in vitro」、J. Mol. Biol. 99: 645-72 (1975)にさらに記載される)。正確な機構はまだ十分に理解されていないけれども、会合された構造は自発的に分解せず、それは非会合サブユニットと均衡でもなく、おそらくそれは異なるエネルギー安定な立体構造状態でロックされるためである。このプロセスは、所定の順序の方向のアセンブリを保証するだけではなく、また感染細胞においてサブユニットの明らかに無秩序な分散から複雑な感染性ウイルス粒子の迅速かつ高忠実性の構築に導く。
【0049】
ポータルおよび主要キャプシドタンパク質における連続的な立体構造変化は、初期のプロヘッドからDNA完全頭部への成熟移行を進め得る(Casjensら、「Control mechanisms in dsDNA bacteriophage assembly」、The bacteriophages, Volume 1, Calendar, 編. New York: Plenum Press. 15-91 (1988);Blackら、「Morphogenesis of the T4 head」、Molecular biology of bacteriophage T4, In: Karam, 編, Washington, D.C.: American Society for Microbiology, 218-58 (1994);およびRao、「A virus DNA gate: zipping and unzipping the packed viral genome」、Proc. Natl. Acad. Sci. 106: 8403-404 (2009)に示唆される)。これらは、パッケージングモーターのアセンブリ、パッケージング開始、プロヘッド拡張、ヘッドフルパッケージング、パッケージング終結、および首部タンパク質のアセンブリを含む(
図1、工程AからD)。
【0050】
主要キャプシドタンパク質gp23は、プロヘッド拡張の間、主要な立体構造変化を受け、外部大きさにて約15%の増加および内部容量にて約50%の増加に至る(gp23は、主要キャプシドタンパク質gp23の切断型である;切断は、プレヘッドのプロヘッドへの成熟の間に起こる;
図1、工程Aに示される)。T4ポータルgp20における立体構造変化が、非拡張プロヘッド上のパッケージングモーターのアセンブリ後にこの拡張を引き起こすことが報告された(Rayら、「Portal control of viral prohead expansion and DNA packaging」、Virology 391: 44-50 (1999)に言及される)。Soc(小外部キャプシドタンパク質)に関する約870の結合部位およびHoc(高抗原性の外部キャプシドタンパク質)に関する155の結合部位が、拡張移行後に曝露される(Carrascosa、「Head maturation pathway of bacteriophages T4 and T2. IV. In vitro transformation of T4 head-related particles produced by mutants in gene 17 to capsid-like structures」、J. Virol. 26: 420-28 (1978)に記載される)。
【0051】
ファージSPP1およびP22で、ポータル立体構造改変体が頭部をアンダーパッケージ(頭部あたり約95%のゲノム)またはオーバーパッケージ(頭部あたり約105%のゲノム)することが示された(Orlovaら、「Structure of the 13-fold symmetric portal protein of bacteriophage SPP1」、Nat. Struct. Biol. 6: 842-846 (1999);およびCasjensら、「Bacteriophage P22 portal protein is part of the gauge that regulates packing density of intravirion DNA」、J. Mol. Biol. 224: 1055-74 (1992)に言及される)。ファージP22では、1片のパッケージされたDNAがポータルの周りに巻きつき、立体構造変化を推し進め、ヘッドフル終結を切断させそしてDNA完全頭部から離れるようにモーターに合図をすることが明らかである。もう1つのポータル立体構造変化は、首部タンパク質の結合後にDNA送達を刺激する。このように、本発明時の技術分野にて理解されたように、頭部の充填後にパッケージングモーターをまさに放出したDNA充填頭部は、パッケージングを再開する能力を有し得ない;かわりに、これらは首部タンパク質に結合するよう刺激され得る。出願人は、初めて、パッケージングマシンアセンブリが連続的でも不可逆的でもないことを示す。バルクおよび単一分子の試験によって示されるように、それは完成された頭部上で、未パッケージングの空の(非拡張または拡張)プロヘッド上と同程度に効率的に起こり得る。全ての他の頭部アセンブリ移行(例えば、頭部拡張)は不可逆的であり、そして従来の連続的アセンブリパラダイムに従うため、そのような乱雑なアセンブリは、パッケージングマシンの特有の特性であるようである。成熟状態(非拡張、拡張、DNA完全充填、またはDNAが放出された)に関わらず、モーターが、DNAをキャプシド内に転移させることができるという事実は、殻がそのように受動的容器であるということを示唆する。パッケージングプロセスの主な目的は、完全充填されるまでゲノムをキャプシド容器内に推し進めることのようである。
【0052】
パッケージングマシンの立体構造可塑性に関する構造的な根拠は何であるか?X線および低温電子顕微鏡構造は、ポータルの三次元構造が、配列類似性を欠くにも関わらず、厳格に保存されていることを示す(Mettenleiterら、「Herpesvirus assembly: an update」、Virus. Res. 143: 222-34 (2009)およびSimpsonら、「Structure of the bacteriophage phi29 DNA packaging motor」、Nature 408: 745-750 (2000)に記載される)。円錐形状のポータルは3つの部分からなる:正十二面体の頂点内にある広範なドメイン、チャンネルを形成する長い中心基部、およびキャプシドの外へ突出する軸。チャンネルは、約45°の角度で中心から放射されるα−へリックスによって一列に並べられる一方で、突出する末端は、ループによって連結されたα/βドメインを有する。1つのモデルでは、ポータルは、異なったエネルギー的に等価の立体構造状態の間を振動し得るが、パートナー分子、gp17、gp13などに結合する際に一つの状態で「凍結」する。別のモデルでは、異なった結合部位が、成熟経路の異なった段階で接近可能であり得る。初期のプロキャプシドでは、突出する軸のみが接近し得、gp17のアセンブリを可能にするが、頭部充填後、パッケージされたDNAの内圧は、ポータルを押し下げ、首部タンパク質に関する結合部位を含む基部の部分を曝露する。首部タンパク質アセンブリは、パッケージングモーターを置換するが、首部タンパク質の不在では、パッケージングモーターはポータルに再会合し得る。
【0053】
乱雑なパッケージングマシンは、ヘッドフルゲノムの進化に導き得ており、これはdsDNAファージおよびウイルス(ヘルペスウイルスを含む)間で基本的に共通な特徴である(Raoら、「The bacteriophage DNA packaging motor」、Annu. Rev. Genet. 42: 647-81 (2008)に言及される)。古代キャプシドタンパク質から会合された閉殻は、おそらくゲノム進化に先立つ。DNA分子をキャプシド容器内へ無差別に転移し得る可撓性パッケージングマシンは、キャプシドが完全充填されるまでパッケージングし続け得る。充填された殻は、密にパックされたDNA内に存在するエネルギー(内圧)によって、より効率的に「ゲノム」を宿主細胞へ送達し得る。最終的に、この選択的な利点は、内部がDNAで密にパックされた感染性キャプシド(ウイルス粒子)の進化に導き、それらの長さは、閉殻の内部容量によって決定される。本発明の有利な実施形態は、インビトロまたはインビボ条件のいずれの下でも、効率的に外来物質を宿主細胞内に送達するために、密にDNAをパッケージすることである。
【0054】
パッケージングマシンの立体構造可撓性はまた、通常の感染にて感染性ウイルスのより効率的な生産に導き得る。低含量のパッケージング/ターミナーゼタンパク質は、転写、複製、組換え、および修復に関与する種々の他のDNA代謝酵素とDNA基質について競合しているに違いない。パッケージングモーターが成熟前に落ちるかまたは頭部から外れたとしても、それは再会合してパッケージングを再び始め得る。
【0055】
本発明の別の実施形態では、高い安定性のウイルス殻がパッケージングコンテナとして使用される。これは、技術的見地から重大な進歩であり、そして広い意味を有する。第一に、全てのインビトロDNAパッケージングシステムに現在使用されるプロヘッドは、非常に脆く、そしてT4では、プロヘッドは、非拡張粒子、拡張粒子、損傷粒子、および部分的にSoc/Hoc結合した粒子の異質混合物である。本発明の実施形態では、全ての成熟移行を受けている頭部は同質かつ構造的に非常に安定であり、そして870コピーのSocで補強されており、DNAをパッケージしそしてパッケージング中間体の高分解能再会合を生じるのに非常に効率的なシステムを提供する。本発明の別の実施態様は、不完全頭部が、プロヘッドよりも5から10倍大きいパッケージング効率を有することである。本発明の有利な実施形態では、パッケージされたDNAをウイルス粒子から放出すること(Newcombら、「Polarized DNA ejection from the herpesvirus capsid」、J. Mol. Biol. 392: 885-94 (2009)に記載される)、および空になった頭部内に異なるDNAを再パッケージングすることによって、ヘルペスウイルスおよびアデノウイルスのような真核性ウイルスに関するインビトロDNAパッケージングシステムの開発に対する技術的障害のいくつかを克服することが可能である。本発明の別の実施形態では、強力なパッケージングモーターが使用され得、多くの外来DNAをキャプシド形成し、そしてキャプシド表面に特定のリガンドを提示することによってこれらの粒子を特定の細胞または組織へターゲティングする(Liら、「Bacteriophage T4 capsid: a unique platform for efficient surface assembly of macromolecular complexes」、J. Mol. Biol. 363: 577-88 (2006)に言及される)。そのような粒子は、遺伝子治療用の多重遺伝子ならびに病原体に対する多価DNAワクチンを送達し得る。本発明のさらなる実施形態では、ファージT4頭部は、非常に高い容量(約170kb)を有し、そして同じ頭部内で複数のDNA分子をパッケージする能力を示し、特に魅力的なナノ粒子であり得る。本発明の別の実施形態では、ナノモーターは、種々の生物医学的な適用のために設計される。殻は受動容器であるようなので、パッケージングマシン(ポータルおよびモーター)は、キャプシドから剥がれて人工のよりずっと大きい殻(例えば、リポソームまたは哺乳類細胞)内に挿入され得、そして、マシンは、DNAおよび他の治療分子をこれらのコンパートメント内に転移させるようになされ得る。
【0056】
バクテリオファージT4ナノ粒子の表面は、特定の標的を認識する抗体または他のタンパク質のような機能的部分を提示するように、遺伝子工学または直接的化学結合のいずれかを通じて改変され得、そしてセンサーとして使用され得る(Archerら、Sensors, 9, 6298-311(2009)にさらに記載される)。調査されている植物および細菌ウイルスの広い範囲で、ナノ材料としての用途ファージおよび特にバクテリオファージT4における関心が、以下に記載されるようなその可撓性の非制限の提示系RaoV.B.バクテリオファージナノ粒子を含む方法および組成物のために、最近高まっている(「バクテリオファージナノ粒子を含む方法および組成物」との名称によるRaoの2005年10月13日に公開された米国特許出願第2005/0226892号公報;Liら、「Assembly of the small outer capsid protein, Soc, on Bacteriophage T4: A novel system for high density display of multiple large anthrax toxins and foreign proteins on phage capsid」、J. Mol. Biol. 370, 1006-1019 2007;Wuら、「Bacteriophage T4 nanoparticle capsid surface SOC and HOC bipartite display with enhanced classical swine fever virus immunogenicity: A powerful immunological approach」、J. Virol. Meth. 139, 50-60 (2007))。
【0057】
リポソームは多くの異なる大きさで調製され得、最小直径約20nmの小さな単ラメラ小胞(SW)から、直径数十pmまでの巨大な単ラメラ小胞(GUV)まで及ぶ。それらの間に、多ラメラ小胞(MLV);すなわち、直径数百nmのリポソームの第1世代(1)、および高い捕獲容量によって特徴づけられる、より最新の大きな単ラメラ小胞(LUV)であり、その直径は調整され得(例えば100または200nm)そしてサイズ分布は特定の膜を通じて押し出すことによって狭められる(2)がある。本質的に、リポソームは高可変性の構造であり、その特性は、大きさ、ラメラ構造、2重層の組成、表面電荷および表面特性のような多くのパラメーターの変化によって調整され得る;化学者にとって、リポソームの構成要素である(リン)脂質はまた、新しい特性が付与されたアナログおよび例えば、小胞の表面にリガンドをカップリングするために、有用である派生体を設計するための魅力のある分子である。DNAのポリアニオンの性質のために、カチオン(および中性の)脂質が、遺伝子送達に典型的に使用され、一方でアニオンリポソームの使用は、他の治療マクロ分子の送達にかなり制限されている(Mayhewら、「Therapeutic applications of liposomes」、Liposomes, Ostro, 編, Marcel Dekker: New York, 289-341 (1983)に言及される)。
【0058】
本発明の他の実施形態では、バクテリオファージT4ウイルスまたはT4ウイルスキャプシドを包含するキャリアは、遺伝子治療の方法にて有利な特性になり得る構成タンパク質サブユニットのいずれかにおいて変異を有し得る。変異は、構成キャリアタンパク質の核酸配列に導入され得る。キャリアはまた、これもまた改変されている標的遺伝子またはタンパク質を送達するために使用され得る。例えば、改変は、長命かつ安定な核酸を生成することによって、遺伝子治療の短命の性質のような問題に対処し得る。別の改変は、外来物質が導入された場合、生物からの免疫応答をなしにするかあるいは減少し得る。さらに、改変は、キャリア自体の毒性、免疫および炎症性応答、ならびに潜在的な疾患誘発能に対処するためになされ得る。改変はまた、多重遺伝子障害に対処し、かつ挿入変異による腫瘍形成の可能性を減らすためになされ得る。用語「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「アミノ酸配列」は、本明細書内で互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸残基のポリマーを言う。ポリマーは、直鎖状または分岐状であり得、それは、改変されたアミノ酸またはアミノ酸のアナログを含み得、そしてそれはアミノ酸以外の化学的な部分によって割り込まれ得る。これらの用語はまた、天然にまたは介入;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、あるいは、標識または生活性成分との結合のような任意の他の操作または改変によって改変されているアミノ酸ポリマーを包含する。
【0059】
本発明はまた、新規の機能を有するポリペプチドが導入されるキャリアを包含する。例えば、新規の機能は、機能的選択またはスクリーンを伴って定方向またはランダムな変異誘発を介して発生し得る。変異誘発の方法は当業者に周知である。本明細書中で使用されるように、用語「ヌクレオチド配列」および「核酸配列」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)配列を言い、限定されないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA/RNAハイブリッド、または合成核酸を含む。核酸は、一本鎖、あるいは部分的または完全な二本鎖(二重鎖)であり得る。二重鎖核酸はホモ二重鎖またはヘテロ二重鎖であり得る。
【0060】
本明細書中で使用されるように、用語「導入遺伝子」は、本発明と関連し得る「組換え」ヌクレオチド配列を言うために使用され得る。用語「組換え」は、「人為で」操作されたヌクレオチド配列および天然に生じない、あるいは別のヌクレオチド配列に連結したまたは天然では異なる配置でみられるヌクレオチド配列を意味する。「人為で」操作されるとは、何らかの人工的手段により操作されることを意味し、機器の使用による、コドン最適化、制限酵素などが挙げられる。
【0061】
例えば、1つの実施形態では、ヌクレオチド配列は、コードされたタンパク質の活性がインビボにて抑制されるように変異され得る。別の実施形態では、ヌクレオチド配列はコドン最適化され得る:例えば、コドンはヒトへの使用のために最適化され得る。好ましい実施形態では、本発明のヌクレオチド配列は、コードされたタンパク質の通常のインビボでの機能を抑制するように変異されかつヒトへの使用のためにコドン最適化される。
【0062】
コドン最適化に関しては、本発明と関連した核酸分子は、本発明の抗原をコードするヌクレオチド配列を有し、そして抗原が生産される被検体の遺伝子で使用されるコドンを適用するように設計され得る。好ましい実施形態では、使用されるコドンは、「ヒト化」コドン、すなわち高発現ヒト遺伝子に頻繁に現れるもの(Andreら、「Increased immune response elicited by DNA vaccination with a synthetic gp120 sequence with optimized codon usage」、J. Virol. 72:1497-1503 (1998)に記載される)である。コドン最適化の任意の好適な方法が使用され得る。そのような方法、およびそのような方法の選択は当業者に周知である。さらに、Geneartおよびその同名のウェブサイトのような、配列のコドンを最適化し得る数社の企業がある。このように、本発明に利用されるヌクレオチド配列は容易にコドン最適化され得る。
【0063】
本発明の別の実施形態はまた、本発明のキャリアを構成するタンパク質あるいはキャリアに付着されているまたはキャリアによって送達されているタンパク質の機能的および/または等価な改変体および誘導体ならびにそれらの機能的に等価なフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、コードされたアミノ酸配列を変化させないDNA配列内の変化、ならびにアミノ酸残基の保存的置換、1または数個のアミノ酸の欠失または付加、およびアミノ酸アナログによるアミノ酸残基の置換を生じるそれらは、コードされたポリペプチドの特性に大きく影響し得ないものである。保存的なアミノ酸置換は、グリシン/アラニン;バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン;アスパラギン酸/グルタミン酸;セリン/スレオニン/メチオニン;リジン/アルギニン;およびフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンである。1つの実施形態では、改変体は、目的の抗原、エピトープ、免疫原、ペプチドまたはポリペプチドに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の相同性または同一性を有する。
【0064】
本発明の目的のために、配列同一性または相同性は、配列のギャップを最小限にする一方で、重複および同一性を最大限にするように並べられた場合に、配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、多くの数学的アルゴリズムのいずれかを使用して決定され得る。2つの配列の比較のために使用された数学的アルゴリズムの限定しない例は、Karlinら、「Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes」、Proc. Natl. Acad. Sci. 87: 2264-68 (1990)のアルゴリズムであり、Karlinら、「Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences」、Proc. Natl. Acad. Sci. 90: 5873-77 (1993)にて修正される。
【0065】
配列の比較のために使用された数学的アルゴリズムの別の例は、Myersら、「Optimal alignments in linear space」、CABIOS 4: 11−17 (1988)のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの部分であるALIGNプログラム(バージョン2.0)内に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重量残基表、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティが使用され得る。局所的な配列類似性およびアライメントの範囲を特定するためのさらに別の有用なアルゴリズムは、FASTAアルゴリズムである(Pearsonら、「Improved tools for biological sequence comparison」、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444-48 (1988)に記載される)。
【0066】
本発明に従った使用のために、WU−BLAST(ワシントン大学BLAST)バージョン2.0ソフトウェアが有利である。いくつかのUNIX基盤に関するWU−BLASTバージョン2.0実行可能プログラムが、オンラインからダウンロードされ得る。このプログラムは、WU−BLASTバージョン1.4に基づき、それは順にパブリックドメインNCBI−BLASTバージョン1.4に基づく(Altschulら、「Local alignment statistics」、Methods in Enzymology, Doolittle, 編, 266: 460-80 (1996);Altschulら、J. Mol. Biol., 215: 403-410 (1990);Gishら、Nature Genetics 3: 266-272 (1993);およびKarlinら、Proc. Natl. Acad. Sci. 90: 5873-5877 (1993)に記載され、その全体について参照により本明細書中に援用されている)。
【0067】
本発明と関連した種々の組換えヌクレオチド配列およびポリヌクレオチドは、標準の組換えDNAおよびクローニング技術を使用して作られる。そのような技術は当業者に周知である。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition, volume 1、2および3(1989)を参照。
【0068】
ある実施形態では、本発明と関連したポリペプチドは、タンパク質性ワクチンの生産のような種々の適用のために次いで使用され得るポリペプチドを生産するために、インビトロ(無細胞発現系を用いるような)および/またはインビトロで生育された培養細胞内で使用され得る。ポリペプチドがインビボで発現されることが望まれる適用のために、例えば、本発明の導入遺伝子がDNAまたはDNA含有ワクチンに使用されるとき、本発明のポリペプチドの発現を可能としそしてインビボでの使用に安全である任意のベクターが使用され得る。
【0069】
本発明と関連したポリペプチドが発現されるために、タンパク質コーディング配列は、タンパク質の転写および翻訳を指示する調節または核酸制御配列に「作動可能に連結」されるべきである。本明細書にて使用されるように、コーディング配列および核酸制御配列またはプロモーターは、コーディング配列の発現または転写および/または翻訳を核酸制御配列の影響または制御下に置くように、それらが共有結合されている場合、「作動可能に連結」されると言われる。「核酸制御配列」は、任意の核酸制御要素であり得、限定されないが、プロモーター、エンハンサー、IRES、イントロン、およびそれらに作動可能に連結されている核酸配列またはコーディング配列の発現を指示する本明細書に記載された他の要素などが挙げられる。
【0070】
本発明の多くの実施形態を詳細に記載したが、添付された特許請求の範囲にて定義される本発明の範囲から外れない改変および変形が可能であることは明らかである。さらに、本開示の全ての実施例は、本発明の多くの実施形態を例示する一方、制限されない実施例として供され、そしてそれゆえそのように説明される種々の局面を制限するものとして取り扱われるものでないと認識されるべきである。
【実施例】
【0071】
本発明の記載は、次の種々の実施例によって補強される。
【0072】
(実施例1)
ファージの頭部は、機能的DNAパッケージングマシンを再会合させ、DNAをパッケージする。Leimanら、「Structure and morphogenesis of bacteriophage T4」、Cell. Mol. Life Sci. 60: 2356-70 (2003)に記載のように、ファージT4のgp10はgp11と会合してプラットフォームの尾部ピンを形成する。尾部ピンアセンブリは尾部アセンブリの第1段階であるため、gp10が存在しないと尾構造は会合しない。タンパク質gp13、gp14およびgp15は首部に会合し、パッケージされた頭部を封鎖し、gp13タンパク質は、DNAパッケージング後にポータルタンパク質gp20と直接相互作用し、次いで、gp14とgp15とがgp13のプラットフォーム上で会合する。10am13am変異体(ならびにファージλおよび他のファージにおける類似変異体)は、コンカテマーDNAの切断およびパッケージングモーターの解離を含むパッケージング工程のすべてを完了させる。DNA完全ファージ頭部は、10am13am変異体が感染した細胞に蓄積し、首部および尾部のタンパク質とのインビトロ相補によって感染性ウイルス粒子に変換され得る。このため、よく受け入れられている逐次会合モデルによれば、DNAパッケージングの完了後の頭部は、パッケージングモーターに対して最も小さいが首部タンパク質に対して高い親和性を有すると期待される。本発明の新しい局面は、パッケージングマシンが「プロヘッド」(
図1、工程A)と完成または成熟した「ファージ頭部」(
図1の工程FおよびG)とを区別しないことを初めて示したことに関する。
【0073】
10am13am頭部は、CsCl密度勾配遠心によって2つの主要種に分離される(DNAシーケンシングは、10am13amファージが遺伝子10のTrp430および遺伝子13のGln39の残基にTAGアンバー変異を有することを示す)。2つの非常に近接した位置の低密度バンドが勾配のおよそ中央に存在し、そして高密度バンドが勾配の底近くに位置している(
図2)。2つの近接したバンドは、すべての頭部の約93%を占め、同一の頭部種を含むが、わずかに相違して移動する。おそらく、上のバンドの頭部が細胞の破片と緩く会合しているからである(いくつかの精製では、幅の広い単一のバンドのみが見られる)。ジエチルアミノエチルセルロース(DEAE)イオン交換クロマトグラフィーによるさらなる精製では、細胞の破片の混入物が除去され、頭部は単一の対称ピークとして溶出する(
図3)。両頭部種とも室温にてSDSに耐性である(
図4)。これは、それらが期待通り、十分拡張した状態にあることを意味する。アガロースゲル電気泳動は、低密度頭部が約8kbのDNAバンドを含む(
図6、レーン5および6)一方、高密度頭部はゲノムの長さに近いDNAを含む(
図6、レーン9および10)。前者は「不完全」頭部と称し、後者は「完全」頭部と称する。
【0074】
13am変異体はDNA完全頭部を蓄積するから、不完全頭部は、精製手順の間に、完全頭部からのパッケージされたDNAの自然放出によって起こったようである。完全頭部は、不安定であること、および首部タンパク質によって封鎖されない限りDNAを自然放出することが知られている。放出されたDNAは、バッファ中に存在するDNアーゼIによって消化され得、少量のDNAのみを殻の内側に残す。
図6に見られるように、不完全頭部と会合するDNAは、頭部の内側にあった。それが頭部のバンドと同時に移動し(レーン3)、DNアーゼI処理に耐性である(レーン4)が、プロテイナーゼKによる消化ではDNAが放出され、8kbの位置に移動する(レーン5)からである。この8kbのバンドがいくつかの独立の調製物に一貫して観察され、非常にコンパクトであることは興味深く、約95%のゲノムが放出された後の狭いウインドウ以内に放出が停止することを示唆する。このDNAは、キャプシドタンパク質に結合して放出されないから、T4ゲノムの特定の配列に属し得る。この仮説を試すために、DNAを不完全頭部からフェノールおよびクロロホルムによって抽出し、ヒドロキシメチル化されグリコシル化されたT4DNAを切断し得る制限酵素EcoRV(6塩基カッター)またはTaqI(4塩基カッター)で消化する。8kbのDNAがT4ゲノムの特異な配列に属する場合、一連の不連続のバンドが生じるはずである。あるいは、各8kbの断片がゲノムの異なる部分に属する場合、制限酵素断片は不連続のバンドを形成しないはずである。結果は、生産物がスメアとして移動することを示し、保持されたDNAが独特の配列を有さないことを証明する。これは、T4ゲノムの末端がほとんどランダムであるという事実とも一致し、このため、キャプシドタンパク質の近傍のゲノムの伸長部は、異なる粒子内の同じDNAのものではないと予想される。
【0075】
完全頭部は、すべての頭部の約7%までを占め、パッケージされたゲノムを頭部の内側に比較的安定に保持しており、これはおそらく、ポータルチャンネルが押圧される(Landerら、「The structure of an infectious P22 virion shows the signal for headful DNA packaging」、Science 312: 1791-95 (2006)に示唆される)か、またはDNAの末端がポータルチャンネルの入り口近傍にないかのいずれかであるからである。これらの頭部は4℃の保存では、ゆっくりDNAを放出する。
【0076】
不完全頭部および完全頭部のパッケージング活性は、17am18amrIIの空のプロヘッドを陽性コントロールとして用いて、インビトロDNAパッケージングアッセイによって決定される。ファージT4では、パッケージングがインビボで阻害された場合に拡張が自然発生することから、パッケージング欠損の17am変異体の感染によって生産される空のプロヘッドが拡張型の大部分である(
図4のレーン1および2を参照)。生じる未パッケージングの空の拡張プロヘッドは、非拡張プロヘッドと同様またはよりよくDNAをパッケージし、パッケージングアッセイで陽性コントロールとして用いられてきた(Raoら、「DNA packaging of bacteriophage T4 proheads in vitro. Evidence that prohead expansion is not coupled to DNA packaging」、J. Mol. Biol. 185: 565-578 (1985);Blackら、「Mechanistic coupling of bacteriophage T4 DNA packaging to components of the replication-dependent late transcription machinery」、J. Biol. Chem. 281: 25635-25643 (2006)、およびKondabagilら、「The DNA translocating ATPase of bacteriophage T4 packaging motor」、J. Mol. Biol. 363: 786-99 (2006)で言及される)。バルクパッケージングアッセイでは、不完全頭部および完全頭部の両方とも短いDNAフラグメント(50〜766bp)を効率よく入れる(
図7)。不完全頭部のパッケージング効率は、インビボのDNAパッケージングの真の前駆体であるプロヘッドよりも約6倍高い(パッケージング効率は頭部粒子の数あたりパッケージされたDNA分子の数として定義される)。これは、プロヘッドが、成熟した頭部と異なり、壊れやすく、インビトロの不規則な拡張および/または安定化キャプシド装飾タンパク質SocおよびHocの欠如により、精製の間に損傷を受け得たからであり得る(Fokineら、「Molecular architecture of the prolate head of bacteriophage T4」、Proc Natl. Acad. Sci. 101: 6003-08 (2004)に言及される)。不完全頭部パッケージングの効率は、完全頭部よりも約5〜10倍高く(
図7、レーン3および6)、これは、おそらく完全頭部の大部分が、追加DNAを収容するために残された空の空間を有し得ないからである。したがって、完全頭部でなく不完全頭部が48.5kbのファージλDNA(
図8、レーン7および15)またはT4ゲノムDNAをパッケージした。部分および完全頭部が外から追加されたパッケージングモーターを再会合させることを確認するために、頭部−gp17複合体を精製し、ポリクローナルgp17抗体を用いてウェスタンブロッティングによって分析する。両方の型の頭部ともが外から追加されたgp17を再会合することが見られる(
図5)。上記発見は、hocまたはsocのいずれかまたは両方の遺伝子もまた削除されている追加の10am13amファージ変異体を構築することによって再現される。
【0077】
図1は、主要なキャプシドタンパク質が足場コアのまわりでプレヘッドに会合することを示す。コアはタンパク質分解によって除去され、空の非拡張プロヘッドを生産する(A)。非拡張プロヘッドは通常丸い形状を有するが、ファージT4では角のある形状を有する(Stevenら、「Conformational changes of a viral capsid protein. Thermodynamic rationale for proteolytic regulation of bacteriophage T4 capsid expansion, co-operativity, and super-stabilization by soc binding」、J. Mol. Biol. 228: 870-84 (1992)に言及される)。パッケージングモーター−DNA複合体はポータルでドッキングし、パッケージングを開始させる。プロヘッドは約10%〜25%のDNAがパッケージングされると拡張する(B)。ヘッドフルパッケージングの後、モーターはコンカテマーDNAを切断し、DNA完全頭部から解離する(C)。首部タンパク質(gp13、gp14、およびgp15)はポータル上で会合し、DNA完全頭部を封鎖し、尾アセンブルのプラットフォームを提供する(D)。ポータルの種々の色は異なる立体構造の状態を表す。乱雑な会合では、パッケージングモーターはパッケージングされたDNAの放出によって生産された不完全頭部(E)または完全頭部(G)上で会合し、頭部にDNAの新しいフラグメントを再充填する([F]および[G];新しいDNAフラグメントは完全および不完全頭部の両方の段階でモーターに付着して示される)。
【0078】
図2は、実施例5に記載のように、分画遠心と続くCsCl勾配遠心によって単離された10am13amの頭部を示す。勾配の上部の2つの近接した位置のバンドは、約8kbの断片を除いてパッケージングされたDNAのほとんどを放出した不完全頭部を含んでいた。勾配の底のバンドは、パッケージされたT4ゲノムが安定化されている完全頭部を含んでいた。
図3は、DEAE−セファロースカラムクロマトグラフィーによる不完全頭部の精製を示す。CsCl勾配の上部の2つの近接した位置の頭部のバンドを集め、10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、および5mM MgCl2に対して透析し、イオン交換クロマトグラフィー(AKTA Prime, GE Healthcare)によって精製する。カラムは50mM Tris−HCl(pH7.5)および5mM MgCl
2で前平衡化し、0−300mM NaClの直線勾配を適用し、結合した頭部を溶出する。ピーク画分を集め、濾過によって濃縮し、4℃にて保存する。
図4は、完全に拡張した不完全および完全頭部を示す。精製したプロヘッド、不完全頭部、および完全頭部をSDSゲル充填バッファと混合し、室温(「−」)または沸点(「+」)にて5分間維持する。次いで、試料を10%SDS−PAGEによって分離し、クーマシーブルーRで染色し、脱色する。なお、拡張頭部はgp23
*サブユニットに解離し得ないから、主要キャプシドタンパク質のgp23
*(矢印でマークした位置)は室温の試料では見られなかった。
図5は、外来gp17と再会合した不完全および完全頭部を示す。約5×1011のプロヘッド、不完全頭部、または完全頭部を、50mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM NaCl、および5mM MgCl
2を含むバッファ中で、精製したgp17−K577(0.3μM;50:1の比のgp17分子:gp20サブユニット)とともに室温にて30分間インキュベートする。頭部−gp17複合体を18,000rpm、45分間の遠心分離によって沈殿させ、沈殿を数回洗浄し、結合していないgp17を除去する。タンパク質をPVDF膜に移し、ポリクローナルgp17抗体を用いてウェスタンブロッティングを行う。結果は、完全長gp17およびGFP−gp17融合タンパク質で同じ実験を行うことによって確認する。gp17−K577(gp17のC末端の33アミノ酸が削除されている)はプロテアーゼに耐性であり、完全長gp17およびGFP−gp17では3つのバンドであるのと反対に単一のバンドとして移動し、同じ位置にバックグランドの重なるバンドもないから、gp17−K577のデータのみ示す。完全頭部のレーン(レーン4)のgp17のバンドはかすかであり、これは、これらの頭部のいくつかが、操作の間に、パッケージされたDNAを放出し、このため、遠心分離および洗浄工程の間に頭部の回収を不充分なものとしたからである。
【0079】
図6は、不完全頭部(レーン3〜6)、完全頭部(レーン7〜10)、またはプロヘッド(レーン12)を図の下に「+」または「−」の列によって示すようにDNアーゼI(37℃、30分)および/またはプロテイナーゼK(65℃、30分)で処理し、アガロースゲル(0.8%w/v)電気泳動に供し、サイバーグリーンで染色することを示す。分子サイズマーカーλHindIII(レーン1)、λDNA(レーン2)、およびT4DNA(レーン11)を、頭部に存在するDNAのサイズを決定するために用いる。不完全頭部レーン3〜6:レーン3、非処理;レーン4、DNアーゼIで処理;レーン5、プロテイナーゼKで処理;レーン6、まずDNアーゼIで処理し、次いでプロテイナーゼKで処理。矢印はサイバーグリーンで染色された頭部の位置を示し、それらは約8kbのDNAと会合する(レーン3)からである。8kbのDNAは、DNアーゼIの処理に耐性であるが(レーン4)、プロテイナーゼKの処理により放出する(レーン5および6)ため、頭部の内側にある。完全頭部のレーン7〜10:レーン7、非処理;レーン8、DNアーゼIで処理;レーン9、プロテイナーゼKで処理;レーン10、まずDNアーゼIで処理し、次いでプロテイナーゼKで処理。なお、非処理完全頭部は、頭部のバンド(矢印)に加えて、ウェル中で強く染色されたバンドとスメアを示し(レーン7)、そのどちらも、DNアーゼIでの消化により除去される(レーン8)。これは完全頭部のいくつかが、パッケージされたDNAを保存の間に押し出し、このDNAが、頭部と複合体を形成したままでウェル中に保持されたからである。これはプロテイナーゼKでの処理によって確認され、この処理はこのDNAおよび内側にパッケージングされたDNAを放出し、単一バンドを生成する(レーン9)。まずDNアーゼIで処理することにより外側のDNAを消化し、続いてプロテイナーゼKを添加することによりキャプシドを消化し、内側にパッケージングされたDNAを放出する(レーン10)。レーン9および10のDNAはファージから単離されたDNAよりわずかに短く(レーン11)、これはおそらくポータル付近のパッケージングされたDNAのセグメントがDNアーゼIの消化に接近接近可能であったからである[11]、[13]、[14]。矢印はサイバーグリーンで染色された頭部の位置を示し、それらが頭部の内側のDNAと会合する(レーン7)からである。コントロールの17am18amrIIのプロヘッドは空であり、サイバーグリーンでの染色を示さなかった(レーン12)(
図7および8)。図の下に示すような種々の反応条件下の短いDNAフラグメント(50〜766bp)(
図7)またはλDNA(48.5kb)(
図8)のパッケージング。
【0080】
(実施例2)
単一の成熟ファージ頭部会合パッケージングマシンはキャプシドを再充填する。実施例1は完全頭部がDNAをパッケージすることを示すけれども、CsCl勾配遠心の間に、完全頭部の一部がDNAを放出し、それらを不完全頭部に変換させたことが議論され得る。この問題に取り組むために、CsCl勾配遠心なしに10am13am頭部を調製する。感染された細胞をDNアーゼIの存在下で溶菌し、そして分画遠心によってファージ頭部を単離する。不完全頭部および完全頭部の混合物を含むこれらの頭部をDNA(50〜766bpラダーフラグメント)でパッケージし、次いでそれらをCsCl密度勾配遠心によって分離する。これは、完全頭部からのDNAの放出を最小限にするだけでなく、より重要には、CsCl勾配内の高密度位置(低バンド)へのDNA沈殿物をパッケージするのが完全頭部のみであることを確保する。
【0081】
不完全および完全頭部のバンド(
図9)をCsCl勾配から抽出し、プロテイナーゼKで処理してパッケージされたDNAを放出し、そして4%〜20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動する。試料はまた、プロテイナーゼK処理に先立ってSDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、頭部粒子の数を決定する(
図10)。
図11に示すように、この完全頭部は、
図6、7および8にて示す勾配精製された完全頭部のように、ラダーDNAフラグメントを同様の効率でパッケージする。パッケージング反応でgp17およびATPを省いた以外は同様に頭部を処理したコントロール試料は、検出可能なDNAを示さなかった(
図11、パッケージされたレーン1および2をコントロールレーン3および4と比較する)。予想通り、この不完全頭部もまた、勾配精製した不完全頭部(
図6、7および8)のように同様の効率でDNAをパッケージする。実際に、パッケージされた不完全頭部のバンドは、パッケージング後の高密度の方への下流のシフトを示す(
図9の左のパッケージされた勾配チューブが右のコントロール勾配チューブと比較したときに高密度の方へ不完全頭部のバンドが広がっていることを示していることを参照)。これらの実験は、DNAの短い断片を完全頭部内にパッケージするのに根本的障害がないことを示し、所見は単一分子光ピンセット実験によって更に確かめられる。
【0082】
図9は、DNアーゼIの存在下での溶菌と続く分画遠心によって、ファージ頭部を10am13am感染E.coli P301細胞(500ml培養)から単離することを示す。不完全頭部および完全頭部の混合物を含むファージ頭部ペレットを、200μlの50mM Tris−HCl(pH7.5)および5mM MgCl
2に再懸濁する。試料を二等分し、その直後により大きなスケールのパッケージングアッセイを実施する。500μlパッケージング反応は、ファージ頭部100μl、4.75μM GFP−gp17、ラダーDNA(50〜766bp;NEB)43μg、5% PEGバッファ、および1mM ATPを含む。コントロール反応では、gp17およびATPを省略する。室温にて30分のインキュベーション後、ベンゾナーゼヌクレアーゼ(EMD Biosciences)40μl(1,000ユニット)を添加して未パッケージのDNAを消化させ、そしてCsCl密度勾配遠心によって試料を分離する。
図10は、勾配からの不完全および完全頭部試料を10%SDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、タンパク質を解析およびパッケージング反応に使用した粒子の濃度を見積もることを示す。完全頭部の濃度は、不完全頭部のそれと比較して非常に低い(大体、不完全頭部の10分の1)ので、レーンあたりの粒子の数が完全頭部および不完全頭部の両方についてほぼ同じであるように、高速遠心によって完全頭部を濃縮する(
図11および12)。勾配からの完全頭部(
図11)および不完全頭部(
図12)のバンドをプロテイナーゼK(18.5μg;Fermentas)で処理し、Tris−ホウ酸塩バッファ(pH8)の4%〜20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、パッケージされたDNAを解析する。
【0083】
(実施例3)
単一の成熟ファージ頭部会合パッケージングマシンはキャプシドを再充填する。「フォースクランプ」様式にて、デュアルトラップ光ピンセットを使用して単一分子実験を実施する。非加水分解性アナログ、ATP−γ−Sの存在下にて頭部−gp17パッケージング複合体を形成させ、T4抗体被覆した微粒子上に固定化する。一端にビオチン標識した基質DNA分子(10kb)を、ストレプトアビジン被覆微粒子に付着させる。微粒子を別々のトラップに捕捉し、そして近い接触をもたらした後、素早く離す(
図13)。この「フィッシング」手順を、テザーを形成するまで繰り返す。モーターがDNAを捕捉するときは、力の上昇により明らかである。次いで、フィードバックループによって5pNの一定の力を付与し、時間に応じたテザー長の減少としてパッケージングを測定する。
【0084】
データは、不完全頭部会合パッケージングマシンのパッケージング速度(
図14)が空のプロヘッドのそれら(
図16)と同様であることを示す(約800〜1,100bp/s)。Zhengら、「A conformational switch in bacteriophage p22 portal protein primes genome injection」、Mol Cell 29: 376-83 (2008)にて以前に記載されたように、これらの速度は、phi29パッケージングマシンのそれらよりも約7倍速い。完全頭部もまたDNAをパッケージしたが独特の特徴を示す(
図16、17および18)。頭部のいくつかは、完全な10kbのDNAをパッケージし、パッケージング速度は、不完全頭部またはプロヘッド会合マシンのそれらと同様である(
図16)。これらの頭部はおそらく保存の間にパッケージされたDNAのかなりの部分を空にし、10kb断片を収容する空間を作る。頭部の第2のクラスは約1〜3kbのDNAの短い断片のみパッケージした後停止し、これらの頭部がほぼ完全充填であり得、小さな断片のみを収容し得ることを示す(
図17)。興味深いことに、これらのマシンのパッケージング速度はなお非常に高く、これらのマシンはおそらくほぼ完全に頭部内にパッケージングしたと考えられる。しかしながら、これらのマシンのいくつかは、完全に止まらなかったが、代わりにゆっくりとパッケージした(例えば、
図17の最上部と最下部の痕跡)。頭部の第3のクラスは単にテザーを形成し、明らかな転移はなく、これらの頭部が、さらなるDNAを収容するために残された空間を有し得たものではないことを示唆する(
図18)。これらのマシンがテザーを形成することは興味深く、それらがパッケージングをうまく開始した(力の上昇によって明らかなように)が、長期間停止した状態のままにある(そうでなければ、DNAは5pNの力の下で急速に滑り落ち得る)ことが示される。これらのデータは、パッケージングマシンが、成熟ファージ頭部上に効率的に会合し、キャプシドを再充填し得ること、および再充填されたDNAの長さは、キャプシド内の利用可能なスペース量に依存していると思われることを示す。
【0085】
図13は、単一分子DNAパッケージングに関するデュアル光学トラップ機構を示す。実施例7に記載するように、T4頭部−モーター複合体および10kbDNA基質を2つのビーズ間でテザー化し、各々を光学トラップ内に保持させ、そして5pN力下に保持する(
図14、15、16、17および18)。プロヘッド(
図14)、不完全頭部(
図15)、および完全頭部(
図16、17および18)によるDNAのパッケージングを示すパッケージング痕跡。「n」は、そのパネル内での同様のパッケージング行動を定性的に示すパッケージング痕跡の数を表す。
【0086】
(実施例4)
成熟ファージ頭部会合パッケージングマシンは、複数のパッケージングの開始を起こす。短い39bp Cy5末標識および83bp Cy3末標識DNAを、バルクアッセイを使用して、プロヘッド、不完全頭部、および完全頭部内にパッケージさせる。パッケージされた頭部を、抗ファージT4ポリクローナル抗体を使用してポリエチレングリコール(PEG)不動態化クオーツ表面上に固定化し、そして全反射顕微鏡および単一分子検出を使用して蛍光粒子を画像化する。試料あたり少なくとも30画像面積あたりの輝点の平均数を決定することによって、「光を放つ」頭部を数値化する(
図19および21;蛍光画像に関する
図23および24を参照)。バルクアッセイと一貫して、標識DNAをパッケージする不完全頭部に相当する輝点の平均数は、空のプロヘッドよりも約5倍大きく、そして完全頭部よりも約10倍大きい(
図20および22)。gp17を省略したコントロール実験は、0〜2の輝点を有した。これは、表面結合物質の非特異的蛍光が無視し得る程度であることを示す(パッケージされた試料を、室温にて約20時間、過剰なDNアーゼI[10μg/ml]で処理し、未パッケージのまたは非特異的に結合されたDNAを消化させた。さらに、蛍光DNAをパッケージする個々の頭部の蛍光強度ヒストグラムの解析は、個々の不完全頭部試料に関する加重平均強度がおよそ5,500ユニット(任意ユニット)であり、一方で、プロヘッドに関しては4,000ユニットであることを示し、不完全頭部はプロヘッドよりも多くのDNAをパッケージすることを示唆する(
図25)。これを、各スポットの蛍光シグナルを退色させるために必要な光退色工程の数によってさらに数量化する(
図26)。これらのデータは、不完全頭部が、頭部あたり平均して5つから6つのDNA分子を含むのに対して、プロヘッドおよび完全頭部は、頭部あたり4つのDNA分子を含むことを示す。このため、プロキャプシドのような成熟ファージ頭部は、複数のパッケージングの開始を起こし得る。単一分子データはまた、不完全頭部、完全頭部およびプロヘッド間のパッケージング効率の差異が大きいことは、完全頭部およびプロヘッドの大部分においてパッケージングを開始することができないことから生じることを示唆する。DNAパッケージングを開始することが出来る頭部については、パッケージされた分子の数は3種間で僅かに異なるのみである。
【0087】
図19、20、21および22は、単一分子蛍光アッセイによるパッケージングの数値化を示す。
図19および21は、Cy3(83bp)およびCy5(39bp)DNAそれぞれでパッケージした固定化T4頭部の蛍光画像を示す。70μm×35μmの画像面積の4分の1を場合ごとに示す(完全なサイズの蛍光画像に関しては
図23および24を参照)。
図20および22は、Cy3およびCy5のDNAでパッケージした頭部の数を示すヒストグラムを示す。30より多くの画像にて蛍光を示す頭部の数を場合ごとに平均化する。
【0088】
図23は、Cy5 39bpDNAでパッケージした頭部の単一分子蛍光を示す。Cy5 39bpDNAでパッケージした不完全頭部、プロヘッド、または完全頭部の典型的な画像。画像面積は70μm×35μmである。インキュベーション時間、レーザー強度、画像化、および解析パラメーターは全ての試料で同じである。
【0089】
図24は、Cy3 83bpDNAでパッケージした頭部の単一分子蛍光を示す。Cy3 83bpDNAでパッケージした不完全頭部、プロヘッド、または完全頭部の典型的な画像。画像面積は70μm×35μmである。インキュベーション時間、レーザー強度、画像化、および解析パラメーターは全ての試料で同じである。
【0090】
図25は、Cy3 83bpDNAでパッケージした不完全頭部およびプロヘッドに関する単一頭部強度を示す。不完全頭部およびプロヘッドに関する単一頭部強度を示す正規化ヒストグラム。2,000より多くの蛍光粒子からの強度を場合ごとに解析した。不完全頭部の強度はプロヘッドのそれより明るかった。約46%の画像化された不完全頭部および約29%のみのプロヘッドが5,000より高い強度を有し、不完全頭部がプロヘッドよりもより多くのオリゴヌクレオチド分子をパッケージすることを示す。
【0091】
図26は、単一パッケージ頭部の光退色を示す。複数のCy5標識DNAフラグメントでパッケージした単一の固定化したパッケージ頭部からの典型的な光退色工程。各工程は1つのパッケージされた標識DNAに相当する。
【0092】
(実施例5)
10am13am頭部の精製。ファージ頭部(不完全頭部および完全頭部の両方)を、10am13am変異体を感染させたEscherichia coli P301から単離する。プロヘッドを、17am18amrII変異体を感染させたE.coliから単離する。上記手順に従って、プロヘッドおよびファージ頭部を精製する。簡潔には、感染細胞(500ml培養物)を、10μg/ml DNアーゼIおよびクロロホルム(1ml)を含む40mlのPi−Mgバッファ(26mM Na
2HPO
4、68mM NaCl、22mM KH
2PO
4、1mM MgSO
4(pH7.5))にて溶菌させ、そして37℃にて30分間インキュベートし、DNAを消化させる。溶菌液を4,300gにて10分間遠心し、そして上清を34,500gにて45分間遠心する。上清を2.5mlの50mM Tris−HCl(pH7.5)および5mM MgCl
2に再懸濁し、そして低および高速遠心に再度供する。次に頭部ペレットを200μlのTris−Mgバッファにて再懸濁し、そしてCsCl密度勾配遠心によって精製する。頭部バンド(
図2)を抽出し、そして10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、および5mM MgCl
2に対して一晩透析する。上部の2つの近接した位置のバンドを集め、そしてDEAE−セファロースクロマトグラフィーによってさらに精製する(
図3)。ピーク画分を濃縮し、そして4℃で保存する。
【0093】
(実施例6)
バルクインビトロDNAパッケージング。上記手順によってインビトロDNAパッケージングアッセイを実施する。反応混合物は精製したプロヘッド、不完全頭部、または完全頭部(0.5〜1×1010粒子)、精製した全長gp17(1.5μM)、およびDNA(50〜766bpラダーDNA[New England Biolabs]300ng、Cy3 83bp DNA100ng、Cy5 39bp DNA50ng、または48.5kbファージλDNA600ng)を含む。30mM Tris−HCl(pH7.5)、100mM NaCl、3mM MgCl
2、および1mM ATPを含むバッファを使用して、λDNAをパッケージする。上記のように、5%PEGバッファを使用してCy3およびCy5 DNAをパッケージする。DNアーゼIの添加によってパッケージング反応を停止させ、そしてプロテイナーゼKでの処理によってキャプシド化したDNアーゼI耐性DNAを放出させ、そしてアガロースゲル電気泳動によって解析する。各実験は、必須のパッケージング成分:頭部、gp17、ATP、またはDNAの1つを欠く1から数個のネガティブコントロールを含んだ。パッケージング効率を、パッケージング反応に使用する頭部粒子の数当たりのパッケージしたDNA分子の数として定義する。
【0094】
(実施例7)
単一分子の光ピンセットパッケージング。精製した頭部(4×109粒子)を、パッケージングバッファ(50mM Tris−HCl(pH7.6)、100mM NaCl、および5mM MgCl
2)からなる10μl反応容量内の1mM ATP−γ−S存在下で精製した1μMの完全長gp17および0.44μMの125bp dsDNA「開始」DNA(Z.Z.およびV.B.R.、非公開データ)と混合することによって、パッケージング複合体を調製する。混合物を37℃にて30分間インキュベートする。T4ファージ抗体被覆ポリスチレンビーズ(1.5μl)(直径0.79μm、Spherotech)を上記反応混合物に添加し、37℃にて30分間インキュベートする。
【0095】
PCR増幅された10kbの一端をビオチン標識したλDNAを、ストレプトアビジン被覆ポリスチレンビーズ(直径0.86μm、Spherotech)に添加することによってDNAビーズを調製し、そして37℃にて30分間インキュベートする。デュアルトラップ光ピンセットをセットし、そしてキャリブレートする(Bustamanteら、「High resolution dual trap optical tweezers with differential detection」、Single-molecule technique:a laboratory manual, Selvinら編, Woodbury, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press. 297-324 (2007);およびChemlaら、「Mechanism of force generation of a viral DNA packaging motor」、Cell 122: 683-692 (2005)に記載される)。パッケージングが5pNの一定の力に対して起こることを可能にする「フォースフィードバック」様式で、100Hzにて単一分子測定を行う。1mM ATP含有パッケージングバッファをフローセル内に注入することによって、テザー形成およびパッケージングを開始させる。反応性一重項酸素種の形成を妨げるために、酸素スカベンジングシステムを使用する(100μg/mlグルコースオキシダーゼ、20μg/mlカタラーゼ、および4mg/mlグルコース)。53nmの持続長、1,200pNの伸張弾性係数および0.34nmの塩基対あたりの距離と仮定するミミズ状鎖モデルを用いて、測定力およびビーズ間の伸長からDNAの輪郭長を算出する。0.1s(10データ点)のスライディングウィンドウにわたるDNAの輪郭長のリニアフィットからDNAパッケージングの速度を決定する。
【0096】
(実施例8)
パッケージされた頭部の単一分子蛍光。Cy3励起用に532レーザー(Coherent)またはCy5励起用に630レーザー(Melles Griot)を用いた広角プリズム式全反射顕微鏡上で、異なる頭部のパッケージング効率を数量化するための単一分子蛍光実験を実施する。電荷結合素子カメラ(iXon DV 887−BI;Andor Technology)によって、100msの時間分解能にて固定化されたキャプシドを映す。画像を記録および解析するために、自家製のC++プログラムを使用する(Royら、「A practical guide to single-molecule FRET」、Nat. Methods 5: 507-16 (2008)に記載される)。
【0097】
非特異的表面結合を最小限にするために、清潔な石英スライドおよびガラスカバースリップを、PEGおよび3%ビオチン標識PEG(Laysan Bio)で表面不動態化させる[43]。チャンネルを会合した後、NeutroAvidin(Thermo Scientific)を添加し(0.2mg/ml)、次いでビオチン標識タンパク質G(Rockland Immunochemicals)(25nM)と室温にて30分間インキュベーションする。その後、T4ファージ抗体(15nM)を添加し、そして1時間インキュベートする。83bp Cy3および39bp Cy5 DNAでパッケージされた頭部を別々のチャンネルに付与し、そして20分間インキュベートする。パッケージング反応混合物をDNアーゼI(10μg/ml)で室温にて約20時間処理し、未パッケージのまたは非特異的に結合したCy3およびCy5 DNAを消化する。非結合パッケージ頭部を洗い流し、そして固定化されたキャプシドを、50mM Tris−Clバッファ(pH8)、5%PEG、5mM MgCl2、1mM スペルミジン、1mM プトレシン、60mM NaCl、および酸素スカベンジャーシステム(0.8% デキストロース、0.1mg/ml グルコースオキシダーゼ、0.02mg/ml カタラーゼ、および3mM Trolox)内で映し出す(Rasnikら、「Branch migration enzyme as a Brownian ratchet」、EMBO J. 27: 1727-35 (2008)にさらに記載される)。
【0098】
本発明を特定の実施形態を参照して開示する一方、記載の実施形態に対する多くの改変、変化および変更は、添付の請求の範囲に規定されるように、本発明の領域および範囲から逸脱することなく可能である。したがって、本発明は記載の実施形態に限定されず、以下の請求の範囲の文言およびその等価物により規定される全ての範囲を有することが意図される。