特許第5863773号(P5863773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5863773-樹脂組成物及び接着剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863773
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/04 20060101AFI20160204BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20160204BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20160204BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20160204BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20160204BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20160204BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20160204BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160204BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C08L33/04
   C08F2/48
   C08K5/54
   C08L21/00
   C08F220/18
   B29C65/48
   C09J4/02
   C09J11/06
   C09J109/00
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-509982(P2013-509982)
(86)(22)【出願日】2012年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2012060153
(87)【国際公開番号】WO2012141298
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-89628(P2011-89628)
(32)【優先日】2011年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】比舎 佑基
(72)【発明者】
【氏名】依田 公彦
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270316(JP,A)
【文献】 特公昭52−049033(JP,B1)
【文献】 特公昭52−008856(JP,B1)
【文献】 特開昭59−025855(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/046120(WO,A1)
【文献】 特開昭59−018773(JP,A)
【文献】 特開2007−077321(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/126123(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
C09J 1/00−101/14
C09J 9/00−201/00
B29C 65/48
C08F 2/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜()成分を含有してなる樹脂組成物。
(A)成分は、ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレート
(B)成分は、水酸基を有する(メタ)アクリレート
(C)成分は、ジエン系の骨格又は水素添加されたジエン系の骨格を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有しないオリゴマー
(D)成分は、シランカップリング剤
(E)成分は、光重合開始剤
(F)成分は、(メタ)アクリル酸
(G)成分は、ポリビニルアルコール
【請求項2】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部中、(A)成分:(B)成分:(C)成分=40〜90:1〜20:5〜45(質量比)であり、
(D)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部であり、
(E)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜30質量部である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分がジシクロペンテニル(メタ)アクリレートである請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分がイソプレンオリゴマー及び/又はブタジエンオリゴマーである請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(C)成分の数平均分子量が500〜50000である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
厚み0.03mmとして、波長365nm、積算光量2000mJ/cm2の条件にて15秒間照射することによって、硬化させたときに、硬化物の貯蔵弾性率が0.1〜100000MPa(23℃)の範囲内となる請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
更に酸化防止剤を含有してなる請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項9】
シクロオレフィンポリマー用接着剤である請求項に記載の接着剤。
【請求項10】
ジシクロペンタジエン環構造を有するシクロオレフィンポリマー用接着剤である請求項乃至に記載の接着剤。
【請求項11】
請求項10のいずれか1項に記載の接着剤を用いて被着体同士が接着されている接着体。
【請求項12】
被着体が、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である請求項11に記載の接着体。
【請求項13】
被着体表面に、請求項10のいずれか1項に記載の接着剤を厚み0.0001〜5mmになるように塗布し、被着体同士を貼り合わせ、波長200〜500nm、積算光量200〜6000J/cm2、照射時間1〜60秒の条件下で接着剤を硬化することを含む、接着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィンポリマーは、電子材料、光学レンズ及び医療材料等の用途に使用されている。シクロオレフィンポリマーは極性が小さく、表面に多くの官能基を持たないことから、難被着体として知られている。このようなシクロオレフィン系樹脂を接着する接着剤としては溶剤型接着剤やホットメルト接着剤が挙げられる。
【0003】
オレフィン系樹脂を接着する方法として、特許文献1に開示されているように、プライマーによる処理を行ってから瞬間接着剤により接着するという方法がある。特許文献2に開示されるように、(メタ)アクリレートを含有することを特徴とするエネルギー線硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−18485号公報
【特許文献2】特開2007−77321号公報
【特許文献3】WO2010/027041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶剤型接着剤は、溶剤を使用する。溶剤型接着剤は、人体に有害である上、溶剤の揮発に時間がかかり、接着強度自体も十分なものが得られない。
【0006】
ホットメルト接着剤は、接着剤を溶融させる手間及び装置が必要である。又、この接着剤の場合も十分な接着強度を得ることができない。尚、ホットメルト接着剤を用いる場合、シクロオレフィンポリマーを予め加熱しておけば、接着強度は向上するが、樹脂が変形してしまうという新たな問題が発生する。
【0007】
特許文献1に開示されている接着方法によれば、プライマー処理に手間がかかるという問題がある上、接着強度も十分なものが得られない。
【0008】
特許文献2は、(メタ)アクリレートを含有することを特徴とするエネルギー線硬化性樹脂組成物が開示されている。しかし、ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレートについては記載がない。
【0009】
特許文献3は、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリウレタン骨格をもつ(メタ)アクリレートオリゴマー及び柔軟化成分を含む光硬化型接着組成物が開示されている。しかし、(メタ)アクリル酸については記載がない。
【0010】
シクロオレフィンポリマーは、低吸水性、高透明性、低比重を特徴としている。そのため、シクロオレフィンポリマーは、ガラス代替材料、透明プラスチック代替材料として、電子材料、光学レンズ及び医療材料等の用途に使用されている。
しかしながら、シクロオレフィンポリマーは、極性は小さく、表面に多くの官能基を持たないため、接着しにくいといった課題があった。
【0011】
本発明はそのような実情に鑑みてなされたものである。本発明は、例えば、シクロオレフィンポリマーに対して短時間で十分な接着強度を発現でき、且つ無溶剤型で環境に優しいシクロオレフィンポリマー用接着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意研究を重ね、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は一側面において、
下記(A)〜(F)成分を含有してなる樹脂組成物である。
(A)成分は、ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレート
(B)成分は、水酸基を有する(メタ)アクリレート
(C)成分は、ジエン系の骨格又は水素添加されたジエン系の骨格を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基を有しないオリゴマー
(D)成分は、シランカップリング剤
(E)成分は、光重合開始剤
(F)成分は、(メタ)アクリル酸
【0014】
本発明に係る樹脂組成物は一実施形態において、更に(G)成分として、ポリビニルアルコールを含有してなる。
【0015】
本発明に係る樹脂組成物は一実施形態において、(A)成分がジシクロペンテニル(メタ)アクリレートである。
【0016】
本発明に係る樹脂組成物は一実施形態において、更に(C)成分の数平均分子量が500〜50000である。
【0017】
本発明に係る樹脂組成物は一実施形態において、厚み0.03mmとして、波長365nm、積算光量2000mJ/cm2の条件にて15秒間照射することによって、硬化させたときに、硬化物の貯蔵弾性率が0.1〜100000MPa(23℃)の範囲内となる。
【0018】
本発明に係る樹脂組成物は一実施形態において、更に酸化防止剤を含有してなる。
【0019】
本発明は別の一側面において、本発明に係る該樹脂組成物からなる接着剤である。
【0020】
本発明に係る接着剤は一実施形態において、シクロオレフィンポリマー用接着剤である。
【0021】
本発明に係る接着剤は一実施形態において、ジシクロペンタジエン環構造を有するシクロオレフィンポリマー用接着剤である。
【0022】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る該接着剤を用いて被着体同士が接着された接着体である。
【0023】
本発明に係る接着体は一実施形態において、被着体が、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール及びガラスからなる群から選ばれる1種以上である。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、被着体表面に、本発明に係る該接着剤を厚み0.0001〜5mmになるように塗布し、被着体同士を貼り合わせ、波長200〜500nm、積算光量200〜6000J/cm2、照射時間1〜60秒の条件下で接着剤を硬化することを含む接着体の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の樹脂組成物は、例えば、シクロオレフィンポリマーに対して高い接着強度を示し、耐湿性にも優れているという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例における引張接着強さの測定手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明における(A)成分は、ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレートである。より具体的には、(A)成分は分子の末端又は側鎖に1個以上のジシクロペンテニル基を含有する(メタ)アクリレートである。(A)成分の(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0028】
(B)成分は、水酸基を含有する(メタ)アクリレートである。より具体的には、(B)成分は分子の末端又は側鎖に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレートである。水酸基を含有する(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、接着性の観点から、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0029】
(C)成分は、ジエン系の骨格又は水素添加されたジエン系の骨格を有するオリゴマーである。(C)成分は、(メタ)アクリレロイル基を有しないことが好ましい。(C)成分は、樹脂の柔軟性付与の観点から、以下のような成分が挙げられる。
【0030】
オリゴマーの主鎖骨格は、ジエン系の骨格又は水素添加されたジエン系の骨格である。ジエン系の骨格又は水素添加されたジエン系の骨格としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエンの水素添加物及びポリイソプレンの水素添加物からなる群から選ばれる1種以上の骨格が挙げられる。これらの中では、ポリイソプレン及びポリイソプレンの水素添加物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリイソプレンがより好ましい。
【0031】
(C)成分のオリゴマーの数平均分子量は500〜50000が好ましく、5000〜45000がより好ましく、8000〜40000が最も好ましい。数平均分子量が500以上であれば、本発明の接着剤にエネルギー線を照射して得られる硬化体の硬度が高いので接着剤層を形成しやすくなる。数平均分子量が50000以下であれば、得られる接着剤の粘度が小さいので、製造過程での混合等における作業性や実用用途において当該接着剤を用いる際の作業性が良好である。
【0032】
(C)成分のオリゴマーとしては、クラレ社製「LIR−50」(イソプレンオリゴマー)、クラレ社製「LIR−30」(イソプレンオリゴマー)、クラレ社製「LBR−307」(ブタジエンオリゴマー)、クラレ社製「LBR−305」(ブタジエンオリゴマー)、クラレ社製「LBR−300」(ブタジエンオリゴマー)が挙げられる。これらの中では、イソプレンオリゴマー及び/又はブタジエンオリゴマーの1種以上が柔軟性と接着性の観点より好ましい。
【0033】
(D)成分は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤としては、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルプロピルトリメトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ユレイドプロピルトリエトキシシラン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートリン酸エステル、(メタ)アクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェート、(メタ)アクリロキシオキシエチルアシッドフォスフェートモノエチルアミンハーフソルト等が挙げられる。これらの中では、ガラス等への密着性という観点から、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びビニルプロピルトリメトキシシランからなる群のうちの1種以上が好ましい。
【0034】
(E)成分は、光重合開始剤である。光重合開始剤としては紫外線重合開始剤や可視光重合開始剤等が挙げられるが、どちらも制限無く用いられる。紫外線重合開始剤としては、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系等が挙げられる。可視光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド系、チオキサントン系、メタロセン系、キノン系、α−アミノアルキルフェノン系等が挙げられる。
【0035】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1―プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、カンファーキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル―2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モリフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中では、ベンジルジメチルケタールが好ましい。
(F)成分は、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸)である。これは特に耐湿性などの耐久性の観点より使用する。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)〜(F)成分を必須成分として含有する。前記(A)〜(F)成分を含有する樹脂組成物は、これに光を照射されることにより硬化する。硬化物はシクロオレフィンポリマーに対して接着性が良好であるとともに、前記硬化に際して表面硬化性が高い特徴を示す。本発明の樹脂組成物は、例えば、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール等の汎用プラスチック樹脂、ガラス被着体に対しても高い接着強さを示す。
【0037】
本発明における樹脂組成物には、(G)成分として、ポリビニルアルコールを含有することができる。これは、ポリビニルアルコール樹脂からなる被着体への密着性の観点から、以下のような成分が挙げられる。
【0038】
前記ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるポリビニルアルコール誘導体であれば、特に限定されるものではない。ポリビニルアルコールの平均重合度は100〜5000が好ましく、1000〜4000がより好ましい。ポリビニルアルコールの平均けん化度は85〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物の使用量は、接着剤のシクロオレフィンポリマーに対する接着性が特段に高くなり、且つ、他の被着体に対しても高い接着強さを有するようになる観点から、以下の通りである。
【0040】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部中、(A)成分:(B)成分:(C)成分=40〜90:1〜20:5〜45(質量比)が好ましく、(A)成分:(B)成分:(C)成分=55〜85:3〜10:10〜40(質量比)がより好ましい。
【0041】
(D)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、典型的には0.5〜1.0質量部である。
【0042】
(E)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましく、典型的には5〜10質量部である。
【0043】
(F)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(F)成分の合計量100質量部中、0.1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、典型的には10〜15質量部である。
【0044】
(G)成分の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましく、典型的には0.5〜1.0質量部である。
【0045】
尚、本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、グラフト共重合体、溶剤、増量材、補強材、可塑剤、増粘剤、染料、顔料、難燃剤、酸化防止剤、及び界面活性剤等の添加剤を使用することができる。
【0046】
本発明の樹脂組成物の硬化物は0.1〜100000MPa(23℃)の貯蔵弾性率を有することが好ましく、10〜10000MPaの貯蔵弾性率を有することがより好ましく、典型的には500〜5000MPaである。樹脂組成物の硬化物の貯蔵弾性率が0.1MPa以上である場合、硬化物が硬化し、未反応成分が残らない。貯蔵弾性率が100000MPa以下である場合、硬化物が剛直になりすぎず、接着力が低下しない。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、接着剤として使用できる。本発明の接着剤は、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)、ポリビニルアルコール及びガラスからなる群から選ばれる1種以上に対して高い接着強度を示す。すなわち、これらの樹脂を被着体として有用な接着剤として用いることができる。本発明の接着剤は、これらの被着体の中でも特に、シクロオレフィンポリマーに対して高い接着強度を示す。
【0048】
本発明の用途としての接着剤が適用可能な被着体のシクロオレフィンポリマーとは、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等の環状オレフィン(シクロオレフィン)モノマー由来の構成単位を有する熱可塑性樹脂である。シクロオレフィンポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンの開環重合体、2種以上のシクロオレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物、鎖状オレフィンやビニル基を有する芳香族化合物とシクロオレフィンとの付加共重合体等が挙げられ、本発明に係る接着剤はとりわけジシクロペンタジエン環構造を有するシクロオレフィンポリマーに有効である。又、シクロオレフィンポリマーに、極性基を導入してもよい。
【0049】
市販のシクロオレフィンポリマーとしては、例えば、独Ticona社製の「Topas」、ジェイエスアール社製の「アートン」、日本ゼオン社製の「ゼオノア(ZEONOR)」や「ゼオネックス(ZEONEX)」、三井化学社製の「アペル」等が挙げられる。
【0050】
本発明の接着剤の接着方法は、例えば、以下の通りである。被着体2枚のうち少なくとも1枚の被着体表面に接着剤を厚み0.0001〜5mm、典型的には0.01〜0.50mmになるように塗布し、その後、被着体同士を貼り合わせ、波長200〜500nm、典型的には350〜420nm、積算光量200〜6000mJ/cm2、典型的には300〜2000mJ/cm2、照射時間1〜60秒、典型的には2〜30秒の条件下で接着剤を硬化し、被着体を接着する方法が好ましい。
【0051】
本発明は、その他の成分として酸化防止剤を使用してもよい。酸化防止剤としてはフェノール系、ハイドロキノン系を使用でき、好ましくはフェノール系が用いられる。酸化防止剤としては、β―ナフトキノン、2−メトキシー1,4−ノフトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、カテコール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジターシャリーブチル−p−ベンゾキノン、ピクリン酸、クエン酸、フェノチアジン、ターシャリーブチルカテコール、2−ブチル−4−ヒドロキシアニソール及び2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール等が例示できる。これらの中では、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)が好ましい。
【0052】
酸化防止剤の使用量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(F)成分の合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜8質量部がより好ましく、2.0〜8.0質量部がより好ましい。
【実施例】
【0053】
以下に、実験例をあげて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実験例に記載の接着剤中の各成分には以下の化合物を選択した。
【0054】
(A)成分、ジシクロペンテニル基を含有する(メタ)アクリレートとして、ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成社製「FA−511AS」)
(A)成分、ジシクロペンテニル基を含有する(メタ)アクリレートとして、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(日立化成社製社製「FA−512MT」)
(B)成分、水酸基を含有する(メタ)アクリレートとして、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(東亞合成社製「M−5700」)
(B)成分、水酸基を含有する(メタ)アクリレートとして、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学社製社製「ライトエステルHO」)
(C)成分、オリゴマー、イソプレンオリゴマー(クラレ社製「LIR−30」)(GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量28000)
(C)成分、オリゴマー、ブタジエンオリゴマー(クラレ社製「LBR−307」)(GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量8000)
(D)成分、シランカップリング剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−403」)
(D)成分、シランカップリング剤、ビニルプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−1003」)
(D)成分、シランカップリング剤、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製社製「KBM−503」)
(E)成分、光開始剤として、ベンジルジメチルケタール(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「IRGACURE651」)
(E)成分、光開始剤として、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製「IRGACURE819」)
(F)成分、メタクリル酸(三菱レイヨン社製「AM」)
(F)成分、アクリル酸(日本触媒社製社製「アクリル酸メチルAM」)
(G)成分、ポリビニルアルコール(電気化学工業社製「デンカポバールH−17」)(平均重合度1200、平均けん化度97モル%)
(G)成分、ポリビニルアルコール(電気化学工業社製「デンカポバールF−12」)(平均重合度1200、平均けん化度99モル%)
酸化防止剤、(D−1)2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)(住友化学社製「スミライザーMDP−S」)
【0055】
各種物性は、次のように測定した。
【0056】
〔光硬化性〕
温度23℃で測定した。光硬化性に関しては、ZEONEX480R(日本ゼオン社製)試験片(幅25mm×長さ25mm×厚み2.0mm)表面に接着剤を厚み0.03mmになるように塗布した。厚みは0.03mmガラスビーズによって制御した。その後、無電極放電ランプを使用したフュージョン社製硬化装置を用い、波長365nm、積算光量2000mJ/cm2の条件にて15秒間照射し、硬化させた。光硬化性として、硬化率を記載した。硬化率は、FT−IRを使用し、以下の式により算出した。
(硬化率)=[100−((硬化後の、炭素と炭素の二重結合の吸収スペクトルの強度)/(硬化前の、炭素と炭素の二重結合の吸収スペクトルの強度))]×100(%)
【0057】
〔シクロオレフィンポリマー接着性評価(シクロオレフィンポリマー(ZEONEX)試験片間の引張接着強さ)〕
ZEONEX480R(日本ゼオン社製)試験片12a(幅25mm×長さ100mm×厚み2.0mm)の長さ方向の先端部分に、中央に0.5cm2の大きさの穴11が空いたテフロン(登録商標)テープ10(厚み80μm×幅25mm×長さ25mm)を接着剤厚さ制御のために貼った。当該穴11に接着剤13を厚み80μmとなるように供給した後、当該穴11を覆うようにしてテフロン(登録商標)テープ10の上に、もう一方のZEONEX480R(日本ゼオン社製)試験片12b(幅25mm×長さ100mm×厚み2.0mm)の先端部分を貼り合わせた。このときの様子を図1に示す。硬化後、接着剤で接着した該試験片を用いて図1の矢印の左右に引っ張って引張接着強さを測定した。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。
【0058】
〔耐湿性〕
前記シクロオレフィンポリマー接着性評価用試験片を85℃×85%RHに24時間暴露し、該試験片を用いて引張接着強さを測定した。
【0059】
〔汎用ポリマー接着性評価(ポリカーボネート(帝人社製)試験片間の引張接着強さ)〕
パンライト(帝人社製)試験片(幅25mm×長さ25mm×厚み2.0mm)同士を、厚み80μm×幅11.5mm×長さ25mmのテフロン(登録商標)テープをスペーサーとして用い、接着剤を接着させた(接着面積3.125cm2)。硬化後、接着剤で接着した該試験片を用いて引張接着強さを測定した。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。
【0060】
〔汎用ポリマー接着性評価(ポリビニルアルコール(クラレ社製)試験片間の引張接着強さ)〕
試験片(幅25mm×長さ25mm×厚み0.03mm)同士を、厚み80μm×幅11.5mm×長さ25mmのテフロン(登録商標)テープをスペーサーとして用い、接着剤を接着させた(接着面積3.125cm2)。硬化後、接着剤で接着した該試験片を用いて引張接着強さを測定した。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。
【0061】
〔汎用ポリマー接着性評価(トリアセチルセルロース(コニカミノルタ社製)試験片間の引張接着強さ)〕
試験片(幅25mm×長さ25mm×厚み0.03mm)同士を、厚み80μm×幅11.5mm×長さ25mmのテフロン(登録商標)テープをスペーサーとして用い、接着剤を接着させた(接着面積3.125cm2)。硬化後、接着剤で接着した該試験片を用いて引張接着強さを測定した。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。
【0062】
〔ガラス接着性評価(耐熱ガラス 試験片間の引張接着強さ)〕
耐熱ガラス試験片(25mm×25mm×2.0mm)同士を、厚み80μm×幅11.5mm×長さ25mmのテフロン(登録商標)テープをスペーサーとして用い、接着剤を接着させた(接着面積3.125cm2)。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。上記条件にて接着剤を硬化させた後、更に、試験片の裏側に電気化学工業社製接着剤「G−55」を使用し、亜鉛メッキ鋼板(100mm×25mm×2.0mm、エンジニアリングテストサービス社製)を接着させた。23℃×50%RH×24時間養生により硬化後、接着剤で接着した該試験片を用いて引張接着強さを測定した。引っ張り剪断接着強さ(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%の環境下で引張速度10mm/分で測定した。
【0063】
〔貯蔵弾性率評価〕
接着剤を硬化させて、長さ20mm、幅5mm、×厚み1mmの硬化物試料を調製した。硬化条件は〔光硬化性〕に記載の方法に従った。この硬化物試料を評価した。セイコー電子工業(株)社製テンションモジュールDMS210を使用し、周波数1Hz、歪み0.05%の条件で温度を変更して、引っ張りモードで動的粘弾性スペクトルを測定し、23℃における貯蔵弾性率E’の値を求めた。
【0064】
(実験例1〜14)
表1に示す種類の原材料を表1に示す組成で混合して接着剤を調製した。得られた接着剤について、各種物性の測定を実施した。それらの結果を表1に示す。
【0065】
【表1-1】
【0066】
【表1-2】
【0067】
本願発明は、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、セルローストリアセテート、及びガラスに対して、十分な接着強度を発現できる。本願発明は、耐湿性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
シクロオレフィンポリマーは、極性は小さく、表面に多くの官能基を持たないため、接着しにくいといった課題があった。シクロオレフィンポリマーを接着するためには、接着剤を使用した上で、更に、プライマー処理や表面コロナ処理を併用する必要があった。プライマー処理や表面コロナ処理を実施することは、工程増になるおそれがあった。
本願発明は、接着剤のみでシクロオレフィンポリマーに対して高い接着性を示す。本願発明は、プライマー処理や表面コロナ処理を併用しなくても、シクロオレフィンポリマーに対して高い接着性を示すため、省力化が可能である。本願発明は、有用な技術である。
【符号の説明】
【0069】
10 テープ
11 穴
12a、12b 試験片
13 接着剤
図1