特許第5863823号(P5863823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863823
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】加熱装置及び加熱方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/18 20060101AFI20160204BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20160204BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20160204BHJP
   C21D 9/30 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C21D1/18 K
   H05B6/44
   H05B6/10 331
   C21D9/30 B
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-543645(P2013-543645)
(86)(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公表番号】特表2014-501851(P2014-501851A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】EP2011072009
(87)【国際公開番号】WO2012080049
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】102010063142.6
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102011004530.9
(32)【優先日】2011年2月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ベーレンス
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ メノナ
(72)【発明者】
【氏名】アルミール ザヒロヴィッチ
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−081624(JP,A)
【文献】 特開平10−330833(JP,A)
【文献】 特開2008−293851(JP,A)
【文献】 特開2002−363648(JP,A)
【文献】 特開平11−210413(JP,A)
【文献】 特開2002−167620(JP,A)
【文献】 特開2008−063627(JP,A)
【文献】 特開平10−324910(JP,A)
【文献】 実開平06−062499(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02−1/84
C21D 9/00−9/44,9/50
H05B 6/00−6/10,6/14− 6/44
F16H 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱部材(2)を加熱するための加熱装置(1)であって、
上記被加熱部材(2)を貫通する少なくとも1つの内側誘導コイル(3)、及び、上記被加熱部材(2)を囲む1つの外側誘導コイル(4)と、
上記加熱装置(1)の作動中に、上記内側及び外側誘導コイル(3,4)の間に生じる磁場に影響を与える複数の要素(5,5’)とを備え、
上記複数の要素(5,5’)は、上記被加熱部材(2)における他の領域よりも速く加熱される領域の周辺であって上記内側及び外側誘導コイル(3,4)と該被加熱部材(2)との間に配置されることによって、該領域の磁場を弱めること、及び、上記被加熱部材(2)における他の領域よりも遅く加熱される領域の周辺であって上記内側誘導コイル(3)の内側及び上記外側誘導コイル(4)の外側に配置されることによって、該領域の磁場を強めること、の少なくとも一方を行うものであって、これにより上記被加熱部材の略均一な加熱を可能にするものであることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
請求項1記載の加熱装置において、
上記被加熱部材(2)は、カムシャフトに用いられるカム部材であることを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加熱装置において、
上記外側誘導コイル(4)及び内側誘導コイル(3)は、鋳造物(6)中に埋め込まれていることを特徴とする加熱装置。
【請求項4】
請求項3記載の加熱装置において、
上記外側誘導コイル(4)、上記内側誘導コイル(3)、上記鋳造物(6)、及び/又は、上記複数の要素(5,5’)は、冷却されることを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の加熱装置において、
上記複数の要素(5,5’)は、電気的作用、空気圧、又は油圧により移動調整可能なものであることを特徴とする加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の加熱装置において、
上記複数の要素(5,5’)は、溝形状又はクランプ形状を有していることを特徴とする加熱装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の加熱装置において、
上記複数の要素(5,5’)は、銅若しくはアルミニウムで構成されるか、又は、軟鉄が埋め込まれたプラスチックで構成されることを特徴とする加熱装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の加熱装置(1)を使用して、後に続く接合工程の準備としてカム部材を加熱する加熱方法であって、
上記カム部材は、内側誘導コイル(3)を通されること、及び、外側誘導コイル(4)によって囲まれること、の両方がなされており、
上記内側及び外側誘導コイル(3,4)と上記カム部材との間であって該カム部材のベース円部(7)の周辺に配置され、上記加熱装置(1)の作動中に形成される磁場に影響を与える複数の要素(5)と、上記内側誘導コイル(3)の内側及び上記外側誘導コイル(4)の外側であって上記カム部材のカム高部(8)の周辺に配置され、上記加熱装置(1)の作動中に形成される上記磁場に影響を与える複数の要素(5’)と、の少なくとも一方を設け、
上記内側及び外側誘導コイル(3,4)を励磁することによって、上記カム部材を加熱する上記磁場を形成し、該磁場のうち、上記要素(5,5’)の周辺に形成される磁場を該要素(5,5’)によって弱めるか又は強めることによって、上記カム部材を略均一に加熱することを特徴とする加熱方法。
【請求項9】
請求項8に記載の加熱方法において、
上記加熱されたカム部材を、上記加熱装置(1)から取り外して、カムシャフト上に取り付けることを特徴とする加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に非円形状で中空状の被加熱部材を加熱するための加熱装置に関する。また、本発明は、後に続く接合工程の準備として、そうした加熱装置を用いてカム部材を加熱する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
カム部材のカムシャフトへの熱接合は、長きに亘って試されているため十分に公知であるといえる製造工程ではあるが、非円形状のカム部材に関しては、その形状のために幾度となく問題が生じている。特に、このカム部材への誘導加熱の間、カム部材の薄肉の領域、つまりベース円部が、カム部材の最大高さ(最大径)の領域よりも速く且つ高温に加熱され、これにより、互いの中心がずれるような接合や、加熱されたカム部材の部分的に大きな歪みが生じてしまう。これによって、ベース円部が高温に熱せられ、又は多大な膨張がもたらされ、比較的高硬度なカム部材を加熱する場合に、加熱されたカム部材の硬度が低下してしまうという問題をもたらす。公知のように、カム部材は非対称な部材であり、先行技術として従来より知られ、加熱装置として機能する対称的な形状を有するコイルを用いた場合、不均一に、即ち不規則に加熱されてしまう。これに代えて、それぞれのカム部材に適した非対称的な形状を有するコイルを採用することもできるが、こうしたコイルは高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、例えばカム部材として例示されるような、特に非円形状で中空状の被加熱部材を加熱するための加熱装置の、先行技術より知られている欠点を避けることができるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、この課題は独立請求項の主題を通じて解決される。有利な態様は従属項の主題となる。
【0005】
本発明は、非対称な部材を厚みに応じて均一に加熱しようという基本概念に基づくものであり、例えばカム部材として例示されるような、非円形状で中空状の被加熱部材を加熱するための加熱装置であって、上記被加熱部材を貫通する少なくとも1つの内側誘導コイル、及び、上記被加熱部材を囲む1つの外側誘導コイルを備え、被加熱部材における、例えば薄いために他の領域よりも速く加熱される領域の周辺に、加熱装置の作動中に生じる磁場に影響を及ぼす少なくても1つの要素が、内側及び外側誘導コイルと被加熱部材との間に位置するように配置されること、及び、被加熱部材における、例えば厚いために他の領域よりも遅く加熱される領域の周辺に、そうした要素が、内側誘導コイルの内側及び外側誘導コイルの外側に位置するように配置されること、の少なくとも一方がなされ、上記要素は、上記領域における磁場を弱めるか又は強めるように作用し、これにより非円形状の被加熱部材に対する均一(一様)な加熱を可能とするものである。上複数の要素(遮蔽/増幅要素)を備えることによって、より速く加熱される領域に対する遮蔽、又は、より遅く加熱される領域における磁場の増幅が可能となるため、特に、被加熱部材に対する均一な加熱を成し遂げることができる。上記被加熱部材(例えばカム部材)に対する均一な加熱に伴って、加熱後の、カムシャフトとの熱接合において、互いの中心がずれないような接合が可能になるため、熱接合の品質を向上させることができる。加えて、特に遮蔽される領域では被加熱部材が全体的に弱く加熱されることによって、例えばカム部材として構成される被加熱部材の硬度が低下する焼き戻しの効果をかなり弱めることになる。本発明に係る加熱装置を用いることによって、カム部材に対する均一な加熱(好ましくは完全に均一な加熱)が、カム部材の領域に関係なく可能になる。本発明に係る加熱装置の主な利点は、特に複雑で高価なコイルを必要とせず、巻回容易な誘導コイルを用いることが可能な点にある。
【0006】
本発明に係る解決策の、さらに有利な発展形態においては、上記複数の要素が、電気的作用、空気圧、又は油圧により移動調整可能なものとされている。こうした要素は、例えば、被加熱部材を加熱装置中に配置した後に、ただ一度のみ所定の位置に配設されるものであるから、この要素を上記のように移動調整可能とすることで、製造工程の助けとなる。同時に、この要素を加熱工程中に移動調整できるように構成することによって、加熱工程中に、上記要素の移動調整、及びそれに伴う被加熱部材内部の温度分布を通じて、加熱工程に個別に影響を与えることを可能とすることも考えられる。
【0007】
実用上、上記要素は、銅若しくはアルミニウムで構成されるか、又は、軟鉄が埋め込まれたプラスチックで構成される。銅及びアルミニウムは、熱的にも電気的にも優れた伝導性能を有する材質であるが、熱的にも電気的にも同様に優れた伝導性能を有する他の材料を、上記要素と併せて使用することも考えられる。プラスチックを用いた解決策においては、特に、軟鉄粒子が一様に充填された高性能プラスチック(特に熱可塑性プラスチック)を利用することが可能であり、これを用いることによって、磁場の局所的な遮蔽、又は局所的な増幅が可能となる。そうした強磁性のプラスチックとしては、この場合は、特に、周波数帯については3kHz以上3MHz以下であって、7mμ以上120mμ以下の透磁率を有するものを採用することができる。プラスチック母体中に軟鉄粒子が一様に分布されているため、好ましくは等方的な磁性がさらに得られる。
【0008】
本発明に係る解決策の、さらに有利な発展形態においては、外側誘導コイル及び内側誘導コイルが鋳造物中に埋め込まれており、さらに、外側誘導コイル、内側誘導コイル、これらに対応する上記鋳造物、及び/又は、上記複数の要素が冷却される。本発明に係る加熱装置の各構成要素を、要求通りに制御してそれぞれ個別に冷却することが可能であり、その結果、特に、被加熱部材の温度に対して個別に影響を及ぼすことが可能となる。同時に、そのようにして加熱装置の構成要素を個別に冷却することよって、被加熱部材の数に拘らず均一な加熱工程が可能となり、その結果、高品質で絶え間ない製造が実現される。
【0009】
本発明における他の重要な特徴及び利点は、従属項、図面、及び図面に基づいた関連する記載によって明らかにされることになる。
【0010】
上述の特徴、及び以下で説明される特徴は、それぞれの場合で用いられる組み合わせのみならず、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、他の組み合わせで、又は単独で利用可能であることが理解されよう。
【0011】
本発明の好ましい実施形態は図面に示され、以下の記載で詳細に説明される。ここで同一の符号は、同一の、類似の、又は機能的に対応する構成要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る加熱装置であって、特に非円形状で中空状の被加熱部材を加熱するための加熱装置を示す概略図である。
図2図2aは、本発明に係る加熱装置によって加熱されるカム部材の温度分布図であり、図2bは、従来の加熱装置によって加熱されるカム部材の温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1によると、本発明に係る加熱装置1は、非対称の形状を有する被加熱部材2、例えばカム部材として例示されるような、特に非円形状で中空状の被加熱部材2を加熱するための加熱装置であって、被加熱部材2を貫通する少なくとも1つの内側誘導コイル3、及び、被加熱部材2を囲む1つの外側誘導コイル4が備えられている。また、本発明に係る加熱装置1は、被加熱部材2における、例えば薄いために他の領域よりも速く(素早く)加熱される領域の周辺であって個々の誘導コイル3,4と被加熱部材2との間に、複数の要素5が備えられている。本発明によると、上記複数の要素5は、内側及び外側誘導コイル3,4と被加熱部材2との間に位置付けられて、加熱工程において、加熱装置1の作動中に内側誘導コイル3及び外側誘導コイル4に囲まれた上記領域に生じる磁場を弱める。このため、例えばカム部材として例示されるような被加熱部材2に対する略均一な加熱が可能となり、それによって、被加熱部材2に殆ど歪みが生じることがなく、特に均一な接合を行うことが可能となる。
【0014】
これに加えて、又はこれに代えて、加熱装置1の作動中に生じる磁場の強さに影響を与える要素5’を、被加熱部材2における、例えば厚いために他の領域よりも遅く(緩やかに)加熱される領域の周辺であって、内側誘導コイル3の内側及び外側誘導コイル4の外側に配置することができる。これによって、この領域の磁場が強められるため、その結果、同様に、略均一な加熱が可能となる。このように、要素5’はこの領域における磁場を強めるコンセントレータ―(磁場集中器)として機能するため、加熱を強めることになる。
【0015】
既に述べたように、被加熱部材2としては、例えばカムシャフトに用いられるカム部材とすることが可能であり、図1に示される外側誘導コイル4は、鋳造物6に埋め込まれている。同様に、内側誘導コイル3をそうした鋳造物に埋め込むことも当然可能である。また、外側誘導コイル4、内側誘導コイル3、特に鋳造物6、及び/又は、上記複数の要素5,5’を冷却することができる。
【0016】
加熱工程に個別に影響を与えるために、上記複数の要素5,5’は、例えば電気的作用、空気圧、又は油圧によって、移動調整可能なものとすることができる。図1から明らかなように、本発明に係る要素5は、溝形状(チャンネル形状)を有しているため、特に、被加熱部材2のベース円部7(図2a及び図2bを参照)を遮蔽することになる。上記要素5,5’は、例えば銅又はアルミニウムで構成することができ、どのような場合でも、熱的及び電気的に良好な伝導性能を有する必要がある。一般に、上記要素5,5’は、軟鉄部材が埋め込まれたプラスチックで構成することも可能であり、この場合は、特に、軟鉄粒子が一様に充填された高性能プラスチック(特に熱可塑性プラスチック)が考えられ、これによって、磁場の局所的な遮蔽、又は局所的な増幅が可能となる。そうした強磁性プラスチックとして、幅広い周波数帯と透磁率とを備えたものを採用することが可能であり、プラスチック母体中に軟鉄粒子を一様に分布させることによって、等方的な磁性を得ることもできる。上述のプラスチックを使用することによって、製造コストを抑えることができるばかりでなく、特に、研削による再加工を行わずとも、切削により容易に製造可能となり、ほぼ任意の形状について、適切な鋳型を用いた鋳込/射出を行うことができる。
【0017】
図2bと比較しつつ図2aを参照すると、図2aの場合は、カム部材として構成される被加熱部材2の周部に亘って生じる温度差がかなり小さくなることが、明瞭に見て取れる。図2bの場合は、例えばカム部材のカム高部8(厚肉部)がベース円部7よりもかなり低温となってしまうため、これに伴って明確に大きな歪みが生じてしまうことになる。図2bに係るカム高部8の温度を、図2aに示すように上昇させることを可能とするためには、ベース円部7が著しく高温に熱せられなければならないが、これに伴って焼き戻しされることによって、望まれない硬度低下が生じてしまうことになる。
【0018】
本発明に係る加熱装置1を用いることによって、カムを略均一に、すなわち規則的に加熱することが可能となり、加熱後に行われるカムシャフト(図示されず)への接合工程が平易化され、品質も向上することになり、いずれにせよ、過剰な加熱によってベース円部7に生じる硬度の望まれぬ低下を避けることができる。上記要素5,5’は、例えば遮蔽板/増幅板として構成されるものであって、この場合、ベース円部7への加熱が弱められかつカム高部8への加熱が強められるように、ベース円部7への遮蔽、及び/又は、カム高部8周辺の磁場の増幅を行う。この場合におけるカム部材に対する均一な加熱の様子は、例えば、対応する硬度推移曲線や、対応するように色分けされた温度分布図を用いて可視化することができる。
【0019】
本発明に係る要素5,5’を用いることによって、加熱をもたらす磁場の遮蔽又は増幅が可能となるため、加熱工程を厳密に制御可能とし、特に、カム部材のカムシャフトへの接合を高品質のものとすることができる。特に有利であるのは、例えばカム部材として例示される被加熱部材2の部品形状の変化に合わせて誘導コイル3,4を変更せずとも、単に異なる要素5,5’を用いることによって、加熱装置1を容易に適応させることができる。
図1
図2