特許第5863885号(P5863885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5863885ボイラシステムおよびそれを備えた発電プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863885
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】ボイラシステムおよびそれを備えた発電プラント
(51)【国際特許分類】
   F23J 15/00 20060101AFI20160204BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160204BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160204BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20160204BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20160204BHJP
   F23L 15/00 20060101ALI20160204BHJP
   F22B 31/08 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   F23J15/00 A
   B01D53/36 DZAB
   B01D53/36 101A
   B01D53/34 124Z
   F23J15/00 B
   F23J15/00 Z
   F23L15/00 A
   F22B31/08
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-117685(P2014-117685)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-230149(P2015-230149A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2015年2月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】増田 具承
(72)【発明者】
【氏名】清澤 正志
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−102566(JP,A)
【文献】 特開2012−223668(JP,A)
【文献】 特開2011−120981(JP,A)
【文献】 特開平03−012222(JP,A)
【文献】 特開平03−045812(JP,A)
【文献】 特開2002−113331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 31/08
F23J 15/00
F23L 15/00
B01D 53/34,36,50,75,76
B01D 53/81,86,88,90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄分を8.0%未満の重量パーセント濃度で含有し、塩素分を0.1%未満の重量パーセント濃度で含有し、水分を20.0%未満の重量パーセント濃度で含有する燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成するボイラと、
前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するとともに該燃焼ガスに含まれる煤塵を除去する除去部と、
前記除去部により前記硫黄酸化物が除去された前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去する脱硝部と、
前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための脱硫用吸収剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硫用吸収剤供給部と、
前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するための脱硝用還元剤を前記脱硝部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硝用還元剤供給部と、を備え、
前記除去部が乾式で脱硫を行うとともに前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下とし、
前記除去部により前記硫黄酸化物が除去された前記燃焼ガスが前記脱硝部の上流側で加熱されずに該脱硝部へ流入することを特徴とするボイラシステム。
【請求項2】
前記ボイラから排出された前記燃焼ガスと空気とを熱交換し、加熱された前記空気を前記ボイラへ2次空気として供給するとともに前記空気との熱交換により温度が低下した前記燃焼ガスを前記除去部へ供給する空気予熱器を備えることを特徴とする請求項1に記載のボイラシステム。
【請求項3】
前記ボイラは、外部へ排出する前記燃焼ガスの温度が360℃以上かつ400℃以下となるように前記燃焼ガスの温度を調整し、
前記空気予熱器は、前記ボイラから流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下に低下させるように前記空気の温度を調整することを特徴とする請求項2に記載のボイラシステム。
【請求項4】
前記脱硝用還元剤は、一酸化炭素、水素、および炭化水素の少なくとも1種以上を主成分とするガスであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボイラシステム。
【請求項5】
前記脱硫用吸収剤供給部により供給される前記脱硫用吸収剤を含む空気を加湿して前記除去部の上流側に供給する加湿部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボイラシステム。
【請求項6】
前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を210℃以上かつ270℃以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボイラシステム。
【請求項7】
硫黄分と塩素分と水分を少なくとも含有し、該硫黄分の重量パーセント濃度が8.0%未満であり、該塩素分の重量パーセント濃度が0.1%未満であり、該水分の重量パーセント濃度が20.0%未満である燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成するボイラと、
前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物および窒素酸化物を除去する除去部と、
前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための脱硫用吸収剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硫用吸収剤供給部と、
前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するための脱硝用還元剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硝用還元剤供給部と、を備え、
前記除去部が乾式の脱硫機能を備えるとともに前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下とすることを特徴とするボイラシステム。
【請求項8】
前記ボイラから排出された燃焼ガスと空気とを熱交換し、加熱された前記空気を前記ボイラへ2次空気として供給するとともに前記空気との熱交換により温度が低下した前記燃焼ガスを前記除去部へ供給する空気予熱器を備えることを特徴とする請求項7に記載のボイラシステム。
【請求項9】
前記ボイラは、外部へ排出する前記燃焼ガスの温度が360℃以上かつ400℃以下となるように前記燃焼ガスの温度を調整し、
前記空気予熱器は、前記ボイラから流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下に低下させるように前記空気の温度を調整することを特徴とする請求項8に記載のボイラシステム。
【請求項10】
前記脱硝用還元剤は、一酸化炭素、水素、および炭化水素の少なくとも1種以上を主成分とするガスであることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のボイラシステム。
【請求項11】
前記脱硫吸収剤供給部により供給される前記脱硫用吸収剤を含む空気を加湿して前記除去部の上流側に混入する加湿部を備えることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のボイラシステム。
【請求項12】
前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を210℃以上かつ270℃以下とすることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のボイラシステム。
【請求項13】
前記ボイラから排出されて前記空気予熱器に供給される前記燃焼ガスに含まれる二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化させる酸化処理部を備えることを特徴とする請求項2または請求項8に記載のボイラシステム。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のボイラシステムと、
該ボイラシステムが生成する蒸気によって駆動される蒸気タービンと、
該蒸気タービンの動力によって発電を行う発電機とを備えることを特徴とする発電プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラシステムおよびそれを備えた発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭、重油、バイオマス等の燃料を燃焼させるボイラを備えるボイラシステムにおいて、ボイラから排出される燃焼ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置と、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)を除去する脱硫装置とを備えるものが知られている。
【0003】
このようなボイラシステムの多くは、ボイラ側から脱硝装置、電気集塵器、脱硫装置の順に配置される。また、脱硝装置として、燃焼により発生する燃焼ガス中にアンモニア(NH)を噴霧して燃焼ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝装置が多く用いられる。
【0004】
しかしながら、脱硫装置の上流側にアンモニアを還元剤に用いる脱硝装置を配置する場合、脱硝装置に流入する燃焼ガスには多量の硫黄酸化物が混入した状態となる。この場合、脱硝装置において、燃焼ガス中の硫黄酸化物とアンモニアが反応して酸性硫安(硫酸水素アンモニウム:(NH)HSO)が発生する。この酸性硫安が起因となり脱硝装置の下流側の流路や装置に灰が堆積すると、燃焼ガスが流通しにくくなって圧力損失が上昇するという問題がある。また、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物が金属と反応して金属が腐食するという問題もある。さらに、酸性硫安が起因となり凝縮性微粒子(例えば、PM2.5と呼ばれる微小粒子物質)が生成されるという問題もある。
【0005】
また、脱硝装置の下流側に電気集塵器を配置する場合、脱硝装置に流入する燃焼ガスに煤塵等の不純物が混入した状態となる。脱硝装置に設けられる触媒に不純物が付着等することにより触媒が劣化し、脱硝装置の寿命が短くなってしまうという問題もある。
【0006】
一方、特許文献1には、ボイラ側から電気集塵器、脱硫装置、脱硝装置の順に配置したボイラシステムが提案されている。特許文献1に記載のボイラシステムによれば、脱硝装置に導入される燃焼ガスから硫黄酸化物や煤塵等の不純物が除去されているため、前述した問題を回避することができる。
【0007】
特許文献2には、ディーゼル燃料を部分酸化させて一酸化炭素および水素に変換し、炭化水素選択的触媒還元触媒に還元剤として供給する希薄燃焼エンジンが開示されている。
特許文献3には、炭化水素還元剤により窒素酸化物を触媒作用により還元するNOx還元方法が開示されている。
特許文献4には、Irと他の金属を合金状態で担体上に担持した排ガス処理触媒が開示されている。
特許文献5には、エンジン側から脱硫装置、煤塵捕集手段、脱硝触媒の順に配置した装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−206446号公報
【特許文献2】特表2012−522930号公報
【特許文献3】特表2010−507480号公報
【特許文献4】特開2004−33989号公報
【特許文献5】特許第5030343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のボイラシステムは、湿式の脱硫装置を採用しているため、脱硫装置を通過することによって燃焼ガスの温度が低下する。そのため、特許文献1では、脱硫装置を通過した燃焼ガスの温度を加熱装置により脱硝反応が得られる温度まで加熱した上で、脱硝装置に供給している。
しかしながら、特許文献1に記載のボイラシステムでは、加熱装置によって脱硝装置に供給される燃焼ガスを加熱する必要があるため、ボイラシステム全体での熱効率が低下してしまうという問題がある。
【0010】
特許文献2は、希薄燃焼エンジンの排気流中の窒素酸化物の除去を行うシステムに関するものであり、硫黄酸化物含有排ガスの除去に関するものではない。
また、特許文献3は、ディーゼルエンジンの排気ガス中の窒素酸化物の除去を行う触媒に関するものであり、硫黄酸化物の除去を含めたシステムに関するものではない。
また、特許文献4は、窒素酸化物を含有する排気ガスを浄化する排ガス処理触媒に関するものであり、硫黄酸化物の除去を含めたシステムに関するものではない。
また、特許文献5は、窒素酸化物、硫黄酸化物、および煤塵の除去についての開示があるものの、脱硫と除塵、あるいは脱硫と脱硝を同時に行う技術に関するものではない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ボイラシステム全体の熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能なボイラシステムおよびそれを備えた発電プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を採用する。
本発明の第1態様のボイラシステムは、硫黄分を8.0%未満の重量パーセント濃度で含有し、塩素分を0.1%未満の重量パーセント濃度で含有し、水分を20.0%未満の重量パーセント濃度で含有する燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成するボイラと、前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するとともに該燃焼ガスに含まれる煤塵を除去する除去部と、前記除去部により前記硫黄酸化物が除去された前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去する脱硝部と、前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための脱硫用吸収剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硫用吸収剤供給部と、前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するための脱硝用還元剤を前記脱硝部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硝用還元剤供給部と、を備え、前記除去部が乾式で脱硫を行うとともに前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下とし、前記除去部により前記硫黄酸化物が除去された前記燃焼ガスが前記脱硝部の上流側で加熱されずに該脱硝部へ流入することを特徴とする。
【0013】
本発明の第1態様のボイラシステムによれば、ボイラから排出された燃焼ガスは、脱硝部よりも上流側において、乾式で脱硫を行う除去部により硫黄酸化物が除去される。脱硫部が乾式であるので、湿式に比べて燃焼ガスの温度低下がほとんど生じず、脱硫部の通過前と通過後とで燃焼ガスの温度は低下せずに維持される。したがって、燃焼ガスを脱硝反応が得られる温度まで加熱する加熱装置を脱硝部の上流側に設ける必要がない。よって、ボイラシステム全体の熱効率を低下させることなく、脱硝部による窒素酸化物の除去を行うことができる。
【0014】
また、本発明の第1態様のボイラシステムによれば、硫黄酸化物を除去する除去部と、窒素酸化物を除去する脱硝部に流入する燃焼ガスの温度が、それぞれ200℃より高くかつ350℃以下の範囲に維持される。このような範囲に燃焼ガスの温度を維持することにより、脱硫率および脱硝率のそれぞれを一定程度以上の値に維持することができる。
【0015】
また、本発明の第1態様のボイラシステムによれば、硫黄酸化物を除去する脱硫機能と燃焼ガスに含まれる煤塵を除去する煤塵除去機能との双方を除去部が備えている。そのため、脱硫機能を備える脱硫部と煤塵除去機能を備える集塵部とをそれぞれ別個に設ける場合に比べ、設備を小型化することができる。
また、脱硝部に流入する燃焼ガスに煤塵が混入しない状態となるため、脱硝部の寿命を長くすることができる。
【0016】
このように、本発明の第1態様によれば、ボイラシステム全体の熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能なボイラシステムを提供することができる。
【0017】
本発明の第1態様のボイラシステムは、前記ボイラから排出された前記燃焼ガスと空気とを熱交換し、加熱された前記空気を前記ボイラへ2次空気として供給するとともに前記空気との熱交換により温度が低下した前記燃焼ガスを前記除去部へ供給する空気予熱器を備えていてもよい。
このようにすることで、空気予熱器によって脱硫部に流入させる燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下とし、所望の脱硫率が得られる温度に低下させることができる。
【0018】
本発明の第1態様のボイラシステムは、前記ボイラが、外部へ排出する前記燃焼ガスの温度が360℃以上かつ400℃以下となるように前記燃焼ガスの温度を調整し、前記空気予熱器が、前記ボイラから流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下に低下させるように前記空気の温度を調整するものであってもよい。
このようにすることで、ボイラから排出される燃焼ガスの温度を360℃以上かつ400℃以下となるように調整した上で、その燃焼ガスを空気予熱器によって200℃より高くかつ350℃以下に低下させることができる。
【0019】
本発明の第1態様のボイラシステムは、前記脱硝用還元剤が、一酸化炭素、水素、および炭化水素の少なくとも1種以上を主成分とするガスであってもよい。
このようにすることで、脱硝用還元剤としてアンモニアを用いる場合に比べ、酸性硫安が起因となる灰堆積によって圧力損失が上昇する不具合が防止される。また、酸性硫安が起因となり凝縮性微粒子(例えば、PM2.5と呼ばれる微小粒子物質)が生成されるという不具合が防止される。
【0020】
本発明の第1態様のボイラシステムは、前記脱硫用吸収剤供給部により供給される前記脱硫用吸収剤を含む空気を加湿して前記除去部の上流側に供給する加湿部を備えるようにしてもよい。
このようにすることで、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物と脱硫用吸収剤との反応を促進して脱硫率を高めることができる。
【0021】
本発明の第1態様のボイラシステムは、前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を210℃以上かつ270℃以下とするようにしてもよい。前述したように、除去部は乾式で脱硫を行うため、除去部に流入した210℃以上かつ270℃以下の燃焼ガスは、温度が維持されたまま脱硝部へ流入する。
このようにすることで、脱硝部の脱硝率が特に高くなる温度の燃焼ガスを脱硝部に供給し、脱硝部における脱硝率を高めることができる。
【0022】
本発明の第2態様のボイラシステムは、硫黄分を8.0%未満の重量パーセント濃度で含有し、塩素分を0.1%未満の重量パーセント濃度で含有し、水分を20.0%未満の重量パーセント濃度で含有する燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成するボイラと、前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物および窒素酸化物を除去する除去部と、前記燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための脱硫用吸収剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硫用吸収剤供給部と、前記燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するための脱硝用還元剤を前記除去部の上流側で前記燃焼ガスに混入する脱硝用還元剤供給部と、を備え、前記除去部が乾式の脱硫機能を備えるとともに前記除去部を通過する前記燃焼ガスの温度を180℃以上かつ350℃以下とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の第2態様のボイラシステムによれば、除去部が備える脱硫機能が乾式であるので、湿式に比べて燃焼ガスの温度低下がほとんど生じない。また、除去部は硫黄酸化物および窒素酸化物を除去するので、除去部へ供給される燃焼ガスの温度にて脱硝反応が得られる。したがって、燃焼ガスを脱硝反応が得られる温度まで加熱する加熱装置を除去部の上流側に設ける必要がない。よって、熱効率を低下させることなく、除去部による窒素酸化物の除去を行うことができる。
【0024】
また、本発明の第2態様のボイラシステムによれば、硫黄酸化物および窒素酸化物を除去する除去部に流入する燃焼ガスの温度が、200℃より高くかつ350℃以下の範囲に維持される。このような範囲に燃焼ガスの温度を維持することにより、脱硫率および脱硝率のそれぞれを一定程度以上の値に維持することができる。
【0025】
また、本発明の第2態様のボイラシステムは、硫黄酸化物を除去する脱硫機能と窒素酸化物を除去する脱硝機能との双方を除去部が備えている。そのため、脱硫機能を備える脱硫部と脱硝機能を備える脱硝部とをそれぞれ別個に設ける場合に比べ、設備を小型化することができる。
【0026】
このように、本発明の第2態様によれば、ボイラシステム全体の熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能なボイラシステムを提供することができる。
【0027】
本発明の第2態様のボイラシステムは、前記ボイラから排出された燃焼ガスと空気とを熱交換し、加熱された前記空気を前記ボイラへ2次空気として供給するとともに前記空気との熱交換により温度が低下した前記燃焼ガスを前記除去部へ供給する空気予熱器を備えていてもよい。
このようにすることで、空気予熱器によって除去部に流入させる燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下とし、所望の脱硫率が得られる適切な温度に低下させることができる。
【0028】
本発明の第2態様のボイラシステムは、前記ボイラが、外部へ排出する前記燃焼ガスの温度が360℃以上かつ400℃以下となるように前記燃焼ガスの温度を調整し、前記空気予熱器が、前記ボイラから流入する前記燃焼ガスの温度を200℃より高くかつ350℃以下に低下させるように前記空気の温度を調整するものであってもよい。
このようにすることで、ボイラから排出される燃焼ガスの温度を360℃以上かつ400℃以下となるように調整した上で、その燃焼ガスを空気予熱器によって200℃より高くかつ350℃以下に低下させることができる。
【0029】
本発明の第2態様のボイラシステムは、前記脱硝用還元剤が、一酸化炭素、水素、および炭化水素の少なくとも1種を主成分とするガスであってもよい。
このようにすることで、脱硝用還元剤としてアンモニアを用いる場合に比べ、酸性硫安が起因となる灰堆積によって圧力損失が上昇する不具合が防止される。また、酸性硫安が起因となり凝縮性微粒子(例えば、PM2.5と呼ばれる微小粒子物質)が生成されるという不具合が防止される。
【0030】
本発明の第2態様のボイラシステムは、前記脱硫用吸収剤供給部により供給される前記脱硫用吸収剤を含む空気を加湿して前記除去部の上流側に混入する加湿部を備えるようにしてもよい。
このようにすることで、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物と脱硫用吸収剤との反応を促進して脱硫率を高めることができる。
【0031】
本発明の第2態様のボイラシステムは、前記除去部に流入する前記燃焼ガスの温度を210℃以上かつ270℃以下とするようにしてもよい。
このようにすることで、除去部の脱硝率が特に高くなる温度の燃焼ガスを除去部に供給し、除去部における脱硝率を高めることができる。また、使用温度上限を270℃とすることにより、除去部として用いられるバグフィルタの素材として安価なガラス繊維織布を利用することができる。
【0032】
本発明の第1態様または第2態様のボイラシステムにおいては、前記ボイラから排出されて前記空気予熱器に供給される前記燃焼ガスに含まれる二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化させる酸化処理部を備えていてもよい。
このようにすることで、二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化させた後に脱硫用吸収剤と混合させ、脱硫によって消費される脱硫用吸収剤の消費量を削減することができる。
【0033】
本発明に係る発電プラントは、上記のいずれかに記載のボイラシステムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ボイラシステム全体の熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能なボイラシステムおよびそれを備えた発電プラントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1実施形態のボイラシステムを示す系統図である。
図2】各種の燃料中に含まれる成分を比較した図である。
図3】燃焼ガスの処理温度に対する脱硝率を示す図である。
図4】燃焼ガスの処理温度に対する脱硫率を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態のボイラシステムを示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態のボイラシステム100について、図面を参照して説明する。
本実施形態のボイラシステム100は、石炭燃料を微粉炭機(図示略)で所望の微粉度に粉砕した微粉炭を燃料とする石炭焚きボイラシステムである。ボイラシステム100は、発電プラント(図示略)が備えるものである。ボイラシステム100は、微粉炭を燃焼させることにより発生する熱で高温の蒸気を生成し、発電機(図示略)に接続される蒸気タービン(図示略)に供給する。蒸気によって回転する蒸気タービンの動力が発電機に伝達されることにより、発電が行われる。このように、本実施形態のボイラシステム100は、発電プラント(図示略)の一部を構成する装置である。
【0037】
図1に示すように、本実施形態のボイラシステム100は、ボイラ10と、バグフィルタ20(除去部)と、脱硝部30と、脱硫用吸収剤供給部40と、アルカリ吸収剤供給部41と、加湿ミキサ42と、改質器50と、空気予熱器60(第1空気予熱器)と、空気予熱器70(第2空気予熱器)と、押込通風機80と、煙突90とを備えている。
【0038】
本実施形態のボイラシステム100は、高濃度の硫黄分を含有する燃料に含まれる硫黄酸化物が脱硝部30に流入することによる不具合を防止するために、脱硝部30の上流側に硫黄酸化物を除去するバグフィルタ20を設けている。
また、バグフィルタ20の下流側の脱硝部30に流入する燃焼ガスの温度が、脱硝率が特に高い230℃近傍の温度に維持されるように、乾式の脱硫機能を備えるバグフィルタ20を採用している。
以下、ボイラシステム100が備える各部について説明する。
【0039】
ボイラ10は、微粉炭機(図示略)から搬送用の1次空気とともに供給される燃料(微粉燃料)である微粉炭と、後述する空気予熱器60から供給される2次空気とを燃焼する火炉を備えている。本実施形態のボイラシステム100に用いられる微粉燃料の原料となる石炭として、例えば、図2に例示される石炭A〜Dが用いられる。
【0040】
図2は、各種の燃料中に含まれる成分を比較した図である。図2に示す数値は、各燃料に含まれる成分の重量パーセント濃度を示している。図2に示す石炭A〜Eは、性状の異なる複数種類の石炭である。図2に示すように、石炭A〜Eに含まれる硫黄分の重量パーセント濃度は、下限値が0.3%(石炭D)で、上限値が0.9%(石炭C)となっている。また、石炭A〜Eに含まれる水分の重量パーセント濃度は、下限値が7.5%(石炭E)で、上限値が10.3%(石炭D)となっている。
【0041】
このように、微粉燃料の原料となる石炭は、その種類によって成分の含有比率が異なるものの、硫黄分の重量パーセント濃度が0.3%以上かつ0.9%以下であり、水分の重量パーセント濃度が7.5%以上かつ10.3%以下である。また、石炭に含まれる塩素分の重量パーセント濃度が微少量(0.1%未満)である。
【0042】
ボイラ10は、火炉内で微粉燃料を燃焼させることにより、高温の燃焼ガスを生成する。高温の燃焼ガスは、蒸発管(図示略)、過熱器(図示略)を流通する水および蒸気を加熱するために用いられる。燃焼ガスとの熱交換により生成された高温高圧の蒸気は、蒸気タービン(図示略)に供給される。
【0043】
ボイラ10が外部へ排出する燃焼ガスの温度は、360℃以上かつ400℃以下となるように調整されている。ボイラ10から排出される360℃以上かつ400℃以下の燃焼ガスは、空気予熱器60(第1空気予熱器)によって熱交換されることにより、180℃以上かつ350℃以下に温度が調整される。180℃以上かつ350℃以下の燃焼ガスは、バグフィルタ20に供給される。
【0044】
ボイラ10は、外部へ排出される燃焼ガスの温度を調整するために、火炉出口に節炭器(図示略)および節炭器バイパス経路(図示略)を備えている。節炭器バイパス経路は、節炭器を経由せずに燃焼ガスを火炉出口から排出するための経路である。節炭器バイパス経路に設けられる流量調整弁(図示略)を調整することにより、節炭器を通過する燃焼ガスの流量と、節炭器を通過しない燃焼ガスの流量とがそれぞれ調整される。節炭器における熱交換によって燃焼ガスの温度が低下するため、流量調整弁による調整により、外部へ排出される燃焼ガスの温度が調整される。ボイラ10は、例えば、外部へ排出する燃焼ガスの温度が360℃以上かつ400℃以下となる条件を予め記憶しておき、その記憶した条件で流量調整弁を制御するようにすればよい。
【0045】
空気予熱器60がボイラ10から流入する燃焼ガスから奪う熱量は、空気予熱器60を通過する空気の温度によって変化する。ボイラシステム100を制御する制御部(図示略)は、押込通風機80によって送風される空気の温度を調整することにより、空気予熱器60が燃焼ガスから奪う熱量を調整する。これにより、空気予熱器60は、ボイラ10から流入する燃焼ガスの温度を180℃以上かつ350℃以下に低下させるように燃焼ガスの温度を調整する。押込通風機80によって送風される空気の温度をするために、空気予熱器60の空気入口部に蒸気式の空気予熱器(SAH:Steam Air Heater)を設置しても良い。
【0046】
バグフィルタ20に供給される燃焼ガスの温度は、180℃以上かつ350℃以下に調整されるものとしたが、より好ましくは210℃以上かつ270℃以下の範囲である。更に好ましくは、約230℃である。約230℃が好ましいのは、燃焼ガスの温度が約230℃となる場合に、後述する脱硝部30における脱硝率が特に高いためである。
【0047】
このように、ボイラ10および空気予熱器60は、バグフィルタ20に供給される燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下の範囲、より好ましくは210℃以上かつ270℃以下の範囲、更に好ましくは約230℃となるように燃焼ガスの温度を調整する。燃焼ガスの温度をこのように調整しているのは、脱硝率および脱硫率のそれぞれを一定程度以上の値に維持するためである。
【0048】
発明者等は、燃焼ガスの処理温度に対する脱硝率を示す図(図3)と、燃焼ガスの処理温度に対する脱硫率を示す図(図4)とをそれぞれ考慮し、脱硝率および脱硫率が一定以上の値に維持されるように、バグフィルタ20に供給される燃焼ガスの温度範囲を設定した。
【0049】
図3は、燃焼ガスの処理温度に対する脱硝率を示す図である。
図3には、触媒と還元剤の組み合わせが異なる複数の脱硝条件(脱硝条件1〜3)について、処理温度(触媒に供給される燃焼ガスの平均温度)に対する脱硝率が示されている。
【0050】
ここで、図3に示す脱硝条件1〜3とは、以下に示す条件である。なお、いずれの脱硝条件においても、触媒の担持量は1平方メートルあたり100gであるものとする。
<脱硝条件1>
触媒: シリカ(SiO)に対して1.0質量パーセントのイリジウム(Ir)および10.0質量パーセントのニオブ(Nb)を担持させた触媒
還元剤: 一酸化炭素(CO)および水素(H
<脱硝条件2>
触媒: 酸化チタン(TiO)に対して1.0質量パーセントの白金(Pt)を担持させた触媒
還元剤: プロピレン(C
<脱硝条件3>
触媒: シリカ(SiO)に対して1.0質量パーセントのイリジウム(Ir)を担持させた触媒
還元剤: 一酸化炭素(CO)および水素(H
【0051】
図3に示すように、処理温度が180℃以上かつ350℃以下の範囲において、脱硝率は、脱硝条件1〜3のいずれにおいても、10%以上の値となる。
また、処理温度が210℃以上かつ270℃以下の範囲において、脱硝率は、脱硝条件1〜3のいずれにおいても、30%以上の値となる。このように、処理温度が210℃以上かつ270℃以下の範囲においては、高い脱硝率が達成されており、高い脱硝性能が要求されるシステムに適用できる。特に、処理温度が約230℃の場合、脱硝性能が最も高く、特に高い脱硝率が達成される。
【0052】
ボイラ10が外部へ排出する燃焼ガスは、硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)とを含んでいる。このうち、二酸化硫黄(SO)および三酸化硫黄(SO)を含む硫黄酸化物はバグフィルタ20により脱硫されることにより除去される。また、一酸化窒素(NO)および二酸化窒素(NO)を含む窒素酸化物は、脱硝部30により脱硝されることにより除去される。
【0053】
バグフィルタ20(脱硫部)は、フィルタ(ろ布)を用いてろ過することにより、ボイラ10から排出される燃焼ガスに含まれる煤塵(ダスト)を除去する装置である。バグフィルタ20は、ろ布が取り付けられたろ過筒を複数備えており、ボイラ10から排出される燃焼ガスを複数のろ過筒が配置された集塵室に導入して煤塵(ダスト)を除去する。ろ布としては、例えば、ガラス繊維織布を用いることができる。
【0054】
バグフィルタ20に供給される燃焼ガスには、後述する消石灰(水酸化カルシウム)または炭酸カルシウムを含む脱硫用吸収剤によって吸収された硫黄酸化物由来の粒子(石膏,亜硫酸カルシウム等)が含まれている。この硫黄酸化物由来の粒子は、バグフィルタ20により除去される。したがって、バグフィルタ20は、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去する脱硫部として機能する。バグフィルタ20は、フィルタ(ろ布)を用いて硫黄酸化物由来の粒子を除去するため、乾式の脱硫部となっている。
【0055】
また、バグフィルタ20に供給される燃焼ガスには、後述する活性炭に吸着した水銀が含まれている。この水銀を吸着した活性炭は、バグフィルタ20により除去される。したがって、バグフィルタ20は、燃焼ガスに含まれる水銀を除去する水銀除去部としても機能する。
【0056】
バグフィルタ20により煤塵,硫黄酸化物由来の粒子,水銀が吸着した活性炭が除去された燃焼ガスは、脱硝部30に供給される。なお、前述したように本実施形態のバグフィルタ20は乾式の脱硫部である。バグフィルタ20は、湿式の脱硫部のように内部を流通する燃焼ガスを温度低下させることがほとんど無い。したがって、180℃以上かつ350℃以下の温度で流入した燃焼ガスは、その温度を維持したまま脱硝部30に供給される。
【0057】
なお、バグフィルタ20により除去される煤塵の中には、未反応の脱硫用の吸収剤が含まれている。そこで、脱硫用の吸収剤の利用効率を向上させるために、抽出装置(図示略)を用いて煤塵から未反応の脱硫用の吸収剤を抽出するようにしてもよい。この場合、抽出装置により抽出された脱硫用の吸収剤は、加湿ミキサ42において脱硫用吸収剤供給部40から供給される吸収剤に混合される。
【0058】
脱硫用吸収剤供給部40は、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための粉体状の吸収剤(脱硫用吸収剤)を、バグフィルタ20の上流側で搬送用の空気とともに燃焼ガスに混入する装置である。吸収剤としては、重曹(重炭酸ソーダ)、消石灰(水酸化カルシウム)または炭酸カルシウムが用いられる。粉体状の消石灰や炭酸カルシウムは、燃焼ガス中の硫黄酸化物と固気反応することにより、石膏や亜硫酸カルシウム等の混合粒子となる。消石灰として、例えば、JIS R9001:2006に規定される特号消石灰を用いることができる。
【0059】
脱硫用吸収剤供給部40から供給される吸収剤は、加湿ミキサ42によって加湿された後に、バグフィルタ20の上流側で燃焼ガスに混入する。加湿ミキサ42によって加湿しているのは、燃焼ガス中の硫黄酸化物と吸収剤との反応性を向上させるためである。
【0060】
一般的に、吸収剤による脱硫率は、燃焼ガスの処理温度によって変化し、130℃近傍の場合に脱硫率が高く、130℃よりも高温となるにつれて脱硫率が低下する傾向にある。本実施形態のボイラシステム100は、脱硫用の吸収剤が混入する燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下の比較的高温となっている。一方、脱硫用の吸収剤を加湿することにより、脱硫率が上昇する。
そこで、本実施形態では、加湿ミキサ42によって吸収剤を加湿することにより、燃焼ガス中の硫黄酸化物と吸収剤との反応性(脱硫率)を向上させている。
【0061】
図4は、燃焼ガスの処理温度に対する脱硫性能比率を示す図である。
図4には、複数種類の吸収剤について、処理温度(脱硫部に供給される燃焼ガスの平均温度)に対する脱硫率が示されている。
【0062】
ここで、図4に示す「特号消石灰」とは、JIS R9001:2006に規定される特号消石灰であって加湿されていないものを示す。一方、図4に示す「特号消石灰(加湿)」とは、JIS R9001:2006に規定される特号消石灰であって加湿されたものを示す。また、図4に示す「高比表面積吸収剤」とは、JIS R9001:2006に規定される特号消石灰の3倍の比表面積を有する吸収剤を示す。
【0063】
図4に示すように、処理温度が180℃以上かつ350℃以下の領域において、脱硫率は、3種の脱硫用吸収剤のいずれを用いた場合であっても、20%以上の値となる。したがって、加湿した特号消石灰及び高比表面積の吸収剤についても、要求される脱硫性能が比較的低いシステムに対して適用することができる。
また、処理温度が210℃以上かつ270℃以下の範囲において、脱硫率は、3種の脱硫用吸収剤のいずれを用いた場合であっても、30%以上の値となる。したがって、加湿した特号消石灰と高比表面積の吸収剤については、要求される脱硫性能が比較的高いシステムに適用することができる。
【0064】
アルカリ吸収剤供給部41は、燃焼ガスに含まれる水銀を吸着させるための粉体状の活性炭をバグフィルタ20の上流側で搬送用の空気とともに燃焼ガスに混入する装置である。アルカリ吸収剤供給部41により供給される粉体状の活性炭は、燃焼ガスに含まれる水銀を含むガスと固気反応し、水銀分が活性炭に吸着する。水銀分が吸着した活性炭は、前述したバグフィルタ20のろ布により燃焼ガスから除去される。
【0065】
改質器50(脱硝用還元剤供給部)は、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するための還元剤を脱硝部30の上流側で燃焼ガスに混入する装置である。還元剤として、一酸化炭素(CO)および水素(H)を主成分とするガスが用いられる。還元剤として、アンモニア(NH)を用いていないのは、バグフィルタ20においても除去しきれない硫黄酸化物とアンモニアが反応して酸性硫安((NH)HSO)が生じることによる不具合を抑制するためである。
【0066】
改質器50は、メタン(CH)を主成分とする液化天然ガス(LNG)と水(HO)を改質し、一酸化炭素(CO)および水素(H)を主成分とするガスを生成する。改質器50は、生成されるガス中の炭素分と水素分の比率を調整するために、二酸化炭素(CO)を適宜混入させる。
【0067】
脱硝部30は、バグフィルタ20により硫黄酸化物が除去された燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去する装置である。脱硝部30は、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物と還元剤である一酸化炭素を反応させるための触媒(例えば、イリジウム)を担持している。また、脱硝部30は、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物と還元剤である水素を反応させるための触媒(例えば、白金,パラジウム,もしくはイリジウム)を担持している。
【0068】
脱硝部30に流入した燃焼ガスに含まれる窒素酸化物は、触媒の作用によって還元剤と反応することにより、燃焼ガスから除去される。なお、本実施形態のボイラシステム100は、バグフィルタ20から排出される燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下の比較的高温となっている。
【0069】
脱硝部30における脱硝率は、燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下の領域において比較的高い。また、脱硝率は、210℃以上かつ270℃以下で特に高く、約230℃が特に高くなる。前述したように脱硝部30には、脱硝部30の上流側で加熱装置によって加熱をすることなく、180℃以上かつ350℃以下の比較的高温の燃焼ガスが流入する。180℃以上かつ350℃以下の燃焼ガス中の窒素酸化物は、脱硝部30において高い脱硝率で脱硝される。
【0070】
空気予熱器60(第1空気予熱器)は、ボイラ10から排出された燃焼ガスと空気とを熱交換する装置である。空気予熱器60は、押込通風機80によって送風される空気が供給されるとともに、供給される空気を燃焼ガスと熱交換し、加熱された空気をボイラ10へ2次空気として供給する。ボイラ10から排出される380℃以上かつ400℃以下の燃焼ガスは、空気予熱器60における熱交換により、その温度が180℃以上かつ350℃以下に低下するように調整される。
【0071】
空気予熱器70(第2空気予熱器)は、脱硝部30により窒素酸化物(NOx)が除去された燃焼ガスと空気(外気)とを熱交換する装置である。空気予熱器70は、空気を燃焼ガスと熱交換し、加熱された空気を空気予熱器60へ供給する。脱硝部30から排出される180℃以上かつ350℃以下の燃焼ガスは、空気予熱器70における熱交換により、その温度が約90℃となるように調整される。
空気予熱器70を通過して約90℃となった燃焼ガスは、煙突90からボイラシステム100の外部へ排出される。
【0072】
以上の説明において、本実施形態のボイラシステム100は、石炭焚きボイラシステムであるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、重質油を燃料として用いる重油焚きボイラシステムであってもよい。重質油は、図2に一例を示すように、硫黄分の重量パーセント濃度が4.5%以上かつ7.6%以下であり、塩素分の重量パーセント濃度が微少量(0.1%未満)であり、水分の重量パーセント濃度が微少量(7.5%未満)である。
【0073】
また、ボイラシステム100は、バイオマスを燃料として用いるバイオマス専燃ボイラシステムまたはバイオマス混焼ボイラシステムであってもよい。バイオマスは、図2に一例を示すように、硫黄分の重量パーセント濃度が0.1%であり、塩素分の重量パーセント濃度が微少量(0.1%未満)であり、水分の重量パーセント濃度が微少量(7.5%未満)である。
【0074】
このように、本実施形態のボイラシステム100は、石炭や重質油やバイオマスを燃料として用いることができる。これらのいずれかを燃料として用いる場合、燃料は、硫黄分を0.3%以上かつ7.6%以下の重量パーセント濃度で含有し、塩素分を0.1%未満の重量パーセント濃度で含有し、水分を10.3%以下の重量パーセント濃度で含有する。
また、本実施形態のボイラシステム100が用いる燃料(石炭,重質油,バイオマス)として、図2に示す例とは異なる性状を示す他の燃料を用いることできる。この場合、燃料は、硫黄分を0.3%以上かつ8.0%未満の重量パーセント濃度で含有し、塩素分を0.1%未満の重量パーセント濃度で含有し、水分を20.0%以下の重量パーセント濃度で含有するものとする。
【0075】
図2に示すように、本実施形態のボイラシステム100が燃料として用いる石炭や重質油やバイオマスに比べ、比較例の都市ごみは、硫黄分の重量パーセント濃度が0.0%以上かつ0.2%以下と低く、塩素分の重量パーセント濃度が0.1%以上かつ0.2%以下と高い。また、比較例の都市ごみは、水分の重量パーセント濃度が、43.0%以上かつ58.0%以下であり、本実施形態のボイラシステム100の燃料が含有する水分の重量パーセント濃度に比べて遙かに高い。
【0076】
また、都市ごみを燃焼するごみ焼却炉においては、都市ごみに含まれる塩素分が多いため、塩素分を含む可燃物の不完全燃焼等に起因してダイオキシンが発生する。そして、ごみ焼却炉から排出される高温(例えば、800℃以上)の燃焼ガスは、ダイオキシンの再合成を抑制するために、急速に低温(例えば180℃以下)となるように冷却する必要がある。
【0077】
また、ごみ焼却炉においては、急速に低温に冷却された燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を脱硝部にて所望の脱硝率で脱硝するためには、脱硝部の上流側で燃焼ガスを再加熱する必要がある。そのため、ごみ焼却炉は、ダイオキシンの発生を抑制するための冷却と脱硝率向上のための再加熱によって、ごみ焼却炉全体の熱効率が低下する。
【0078】
このように、都市ごみの性状は、ボイラシステム100が用いる燃料(石炭,重質油,バイオマス)の性状と大きく異なっている。また、本実施形態のボイラシステム100は、熱効率を高めるために、燃焼ガスを冷却して再加熱する手段を持たない。そのため、本実施形態のボイラシステム100が用いる燃料として、都市ごみを採用することはできない。
【0079】
以上説明した本実施形態のボイラシステム100が奏する作用および効果について以下に説明する。
本実施形態のボイラシステム100によれば、硫黄分を0.3%以上かつ8.0%以下の重量パーセント濃度の高濃度で含有する燃料を燃焼するボイラ10から排出された燃焼ガスは、脱硝部30よりも上流側で乾式の脱硫を行うバグフィルタ20により硫黄酸化物が除去される。したがって、バグフィルタ20の下流側に配置される脱硝部30に流入する燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物の量が減少する。
【0080】
また、バグフィルタ20が備える脱硫機能が乾式であるので、湿式に比べて燃焼ガスの温度低下がほとんど生じず、バグフィルタ20の通過前と通過後とで燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下に維持される。したがって、燃焼ガスを脱硝反応が得られる温度まで加熱する加熱装置を、脱硝部30の上流側に設ける必要がない。よって、ボイラシステム全体の熱効率を低下させることなく、脱硝部30による窒素酸化物の除去を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態のボイラシステム100によれば、硫黄酸化物を除去するバグフィルタ20と、窒素酸化物を除去する脱硝部30に流入する燃焼ガスの温度が、それぞれ180℃以上かつ350℃以下の範囲に維持される。このような範囲に燃焼ガスの温度を維持することにより、脱硫率および脱硝率のそれぞれを一定程度以上の値に維持することができる。
なお、バグフィルタ20に流入する燃焼ガスの温度は、下流側に配置される脱硝部30における脱硝率を高く維持するために、210℃以上かつ270℃以下とするのがより好ましい。
【0082】
このように、本実施形態によれば、硫黄酸化物を含む燃焼ガスを流通させることによる不具合を防止するとともに、ボイラシステム全体の熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能なボイラシステム100を提供することができる。
【0083】
本実施形態のボイラシステム100は、脱硝用還元剤が、一酸化炭素(CO)および水素(H)を主成分とするLNGを改質したものである。もしくは、未燃炭化水素である。
このようにすることで、脱硝用還元剤としてアンモニアを用いる場合に比べ、酸性硫安等の堆積によって圧力損失が上昇する不具合が防止される。また、酸性硫安が起因となり凝縮性微粒子(例えば、PM2.5と呼ばれる微小粒子物質)が生成されるという不具合が防止される。
【0084】
本実施形態のボイラシステム100は、脱硫用吸収剤供給部により供給される脱硫用吸収剤を含む空気を加湿してバグフィルタ20の上流側に供給する加湿ミキサ42(加湿部)を備える。
このようにすることで、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物と脱硫用吸収剤との反応を促進して脱硫率を高めることができる。
【0085】
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態のボイラシステム200について、図面を参照して説明する。
第2実施形態は第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、説明を省略する。
【0086】
第1実施形態のボイラシステム100は、バグフィルタ20で燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物を除去し、脱硝部30で燃焼ガスに含まれる窒素酸化物を除去するものであった。それに対して本実施形態は、バグフィルタ20’に脱硝用触媒を担持させることにより、バグフィルタ20’で硫黄酸化物と窒素酸化物の双方を除去するものである。
【0087】
図5に示すように、本実施形態のボイラシステム200は、第1実施形態のボイラシステム100が備えている脱硝部30を備えていない。また、本実施形態のボイラシステム200は、改質器50により還元剤である一酸化炭素(CO)および水素(H)を主成分とするガスを、バグフィルタ20の上流側で燃焼ガスに混入させている。
【0088】
本実施形態のバグフィルタ20’は、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物と還元剤である一酸化炭素を反応させるための触媒(例えば、イリジウム)を担持している。また、バグフィルタ20’は、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物と還元剤である水素を反応させるための触媒(例えば、白金,パラジウム,もしくはイリジウム)を担持している。
【0089】
バグフィルタ20’に流入した燃焼ガスに含まれる窒素酸化物は、バグフィルタ20’が担持する触媒の作用によって還元剤と反応することにより、燃焼ガスから除去される。なお、本実施形態のボイラシステム200は、バグフィルタ20’から排出される燃焼ガスの温度が210℃以上かつ350℃以下の比較的高温となっている。
【0090】
バグフィルタ20’における脱硝率は、燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下の領域において比較的高い。また、210℃以上かつ270℃以下で特に高く、約230℃が特に高くなる。180℃以上かつ350℃以下の燃焼ガス中の窒素酸化物は、バグフィルタ20’において高い脱硝率で脱硝される。
【0091】
また、バグフィルタ20’が備える脱硫機能が乾式であるので、湿式に比べて燃焼ガスの温度低下がほとんど生じない。また、除去部は硫黄酸化物および窒素酸化物を除去するので燃焼ガスの温度が180℃以上かつ350℃以下に維持される。したがって、燃焼ガスを脱硝反応が得られる温度まで加熱する加熱装置を設ける必要がない。よって、熱効率を低下させることなく、バグフィルタ20’による窒素酸化物の除去を行うことができる。
【0092】
また、本実施形態のボイラシステム200は、硫黄酸化物を除去する脱硫機能と窒素酸化物を除去する脱硝機能との双方をバグフィルタ20’が備えている。そのため、脱硫機能を備える脱硫部と脱硝機能を備える脱硝部とをそれぞれ別個に設ける場合に比べ、設備を小型化することができる。
【0093】
また、本実施形態のボイラシステム200は、バグフィルタ20’の上流側で燃焼ガスに混入させる還元剤として一酸化炭素(CO)および水素(H)を主成分とするガスを用いている。一酸化炭素(CO)および水素(H)は、バグフィルタ20’で除去される煤塵(ダスト)に吸着しにくい。そのため、還元剤がアンモニアのように未反応のまま煤塵に吸着して浪費されてしまうという不具合を抑制することができる。また、還元剤にアンモニアを用いることにより生成される酸性硫安が起因となり凝縮性微粒子(例えば、PM2.5と呼ばれる微小粒子物質)が生成されるという不具合が防止される。
【0094】
このように、本実施形態のボイラシステム200によれば、硫黄酸化物を含む燃焼ガスを流通させることによる不具合を防止するとともに、熱効率を低下させずに燃焼ガス中の硫黄酸化物および窒素酸化物を除去可能である。
【0095】
〔第3実施形態〕
次に本発明の第3実施形態のボイラシステムについて説明する。
第3実施形態は第1実施形態または第2実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、各実施形態と同様であるものとし、説明を省略する。
【0096】
本実施形態のボイラシステムは、第1実施形態のボイラシステム100または第2実施形態のボイラシステム200に、酸化処理部(図示略)を追加したものである。
この酸化処理部は、ボイラ10と空気予熱器60との間の燃焼ガスの流路中に、設けられる。
【0097】
酸化処理部は、ボイラ10から排出される燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物である二酸化硫黄(SO)を三酸化硫黄(SO)に酸化させるための装置である。酸化処理部は、五酸化バナジウム(V)を触媒として用い、空気中の酸素と二酸化硫黄を反応させることにより、三酸化硫黄を生成する。
【0098】
三酸化硫黄は、二酸化硫黄に比べ、脱硫用吸収剤供給部40により供給される吸収剤である消石灰(水酸化カルシウム)または炭酸カルシウムと反応しやすいという性質がある。
そこで、本実施形態は、燃焼ガスの脱硫率を向上させるために、脱硫用吸収剤供給部40により吸収剤が供給される位置よりも上流側に、酸化処理部を設けることとした。
【0099】
このように、本実施形態のボイラシステムは、ボイラ10から排出されて空気予熱器60に供給される燃焼ガスに含まれる二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化させる酸化処理部を備える。
このようにすることで、二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化させた後に脱硫用吸収剤と混合させ、脱硫によって消費される脱硫用吸収剤の消費量を削減することができる。
【0100】
〔他の実施形態〕
本実施形態においては、180℃以上かつ350℃以下の比較的高温の燃焼ガスに対する脱硫率を向上させるために、加湿ミキサ42によって吸収剤を加湿することとしたが、他の態様であっても良い。
例えば、加湿ミキサ42を用いず、比表面積(単位質量あたりの表面積)が大きい吸収剤を用いるようにしてもよい。これは、比表面積が大きくなるほど吸収剤の反応性(脱硫率)が良くなるからである。例えば、JIS R9001:2006に規定される特号消石灰の2倍以上の比表面積を有する吸収剤を用いるのが望ましい。好ましくは、3倍以上の比表面積を有する吸収剤を用いるのが望ましい。
また例えば、加湿ミキサ42によって吸収剤を加湿するのに加え、比表面積の大きい吸収剤を用いるようにしてもよい。
【0101】
本実施形形態において、改質器50に供給される二酸化炭素(CO)の供給源として、二酸化炭素回収装置(図示略)により回収される二酸化炭素を供給するようにしてもよい。二酸化炭素回収装置は、ボイラシステム100,200により排出される燃焼ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液により吸収し、その後に吸収した二酸化炭素を分離する装置である。このようにすることで、別途の二酸化炭素の供給源を用いることなく、改質器50に二酸化炭素を供給することができる。
【0102】
本実施形態においては、バグフィルタ20,20’に用いるフィルタとして、例えば、ガラス繊維織布を用いるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、フィルタとして、耐熱性を有するセラミックフィルタを用いてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10 ボイラ
20,20’ バグフィルタ(除去部)
30 脱硝部
40 脱硫用吸収剤供給部
41 アルカリ吸収剤供給部
42 加湿ミキサ(加湿部)
50 改質器(脱硝用還元剤供給部)
60 空気予熱器(第1空気予熱器)
70 空気予熱器(第2空気予熱器)
80 押込通風機
90 煙突
100,200 ボイラシステム
図1
図2
図3
図4
図5