【文献】
福代壮二郎,高耐熱低熱伝導断熱材の開発,ニチアス技術時報,2014年 1月 6日,No.364,P.1−5,URL,http://www.nichias.co.jp/research/technique/pdf/364/02.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の態様の耐火構造は、新規な吸熱材と、耐熱性の高い断熱材(繊維断熱材)を、組み合わせたものである。
さらに、本発明の耐火構造は、吸熱材と繊維断熱材の間に、熱伝導率が低い低熱伝導率断熱材を有することが好ましい。即ち、好ましくは、吸熱材と、低熱伝導率断熱材と、繊維断熱材を、この順に組み合わせる。
また、低熱伝導率断熱材と、吸熱材と、繊維断熱材を、この順に組み合わせてもよい。
【0013】
例えば、繊維断熱材が、第1の耐熱性と第1の熱伝導率を有するとき、低熱伝導率断熱材は、前記第1の耐熱性より低い第2の耐熱性と、前記第1の熱伝導率より低い第2の熱伝導率を有する。
【0014】
耐火構造が、吸熱材と、低熱伝導率断熱材と、繊維断熱材からなるとき、例えば、吸熱材の厚みは3〜50mm、低熱伝導率断熱材の厚みは10〜50mm、繊維断熱材の厚みは50〜150mmとすることができる。好ましくは合計で100〜150mmである。
【0015】
本発明の第2の態様の耐火構造は、耐熱性の高い断熱材(繊維断熱材)と、熱伝導率が低い低熱伝導率断熱材を、組み合わせたものである。
【0016】
耐火構造が、低熱伝導率断熱材と、繊維断熱材からなるとき、例えば、低熱伝導率断熱材の厚みは50〜500mm、繊維断熱材の厚みは10〜100mmとすることができる。好ましくは合計で100〜300mmである。
【0017】
本発明の耐火構造は、耐火すべき対象物を囲んで使用する。耐火構造は対象物の周囲全てを囲むことが好ましいが、耐火構造を構成する部材は、少なくとも一部囲めばよい。
【0018】
吸熱材、低熱伝導率断熱材、繊維断熱材は、それぞれ離して配置して用いてもよいし、2つ又は3つの部材を接触させて用いてもよい。
また、吸熱材と低熱伝導率断熱材、又は、繊維断熱材と低熱伝導率断熱材、又は、吸熱材と繊維断熱材は、重ねて積層物にすることができ、また、3つの部材を重ねて積層物にすることができる。積層物は、結合又は接着することなく、部材を重ねた状態で、パッケージで包んでよい。
さらに、この耐火構造を使用するとき、繊維断熱材を最も外側に配置することが好ましい。
【0019】
吸熱材、低熱伝導率断熱材、繊維断熱材は、それぞれ一層でもよいし、複数の層からなる積層物でもよい。積層物の場合、複数の層は同じでも異なってもよい。
【0020】
本発明の第1の態様の耐火構造を、原子力発電所に用いる場合を例にして、以下、図面を用いて説明する。
図6に示すように、原子力発電所では、ケーブル101は、天井から吊り下げられた多段のラック103に載っていることが多い。この図に示す耐火構造600は、吸熱材601、繊維断熱材と低熱伝導率断熱材の積層体603からなる。
図6に示すように、各段にあるケーブル全体を吸熱材601で包み、ラック全体を、積層体603で囲む。繊維断熱材と低熱伝導率断熱材は重ねて全体をクロス等のパッケージで包んでマット状にすると取り扱いやすい。例えば、マットに紐を取り付け、ラック103を囲んで紐で仮留めした後、SUS製のバンド等で固定する。このマットの厚みは100mm以下にすることが可能であり、狭い場所に配置されているラックにも使用できる。繊維断熱材の厚みは、例えば、3mm〜100mm、低熱伝導率断熱材の厚みは、例えば、3mm〜100mmである。
【0021】
尚、
図6では、ケーブル(対象物)の周り全体を吸熱材で囲っているが、ラックの形状等により、一部囲まれていない部分があってもよい。
【0022】
耐火構造を設けることによりラックに過大な荷重がかからないことが好ましい。上記の耐火構造の重量は、3段ラックの場合、ケーブル長さ1m当たり、150kg以下、さらには120kg以下、1段ラックの場合、ケーブル長さ1m当たり、100kg以下、さらには80kg以下にすることができる。
【0023】
また、壁の近くにあるラックについては、耐火構造を、壁に固定して使用できる。壁に、耐火構造を支持する部材を取り付けることにより、ラックに係る荷重を減らすことができる。
【0024】
このような場合、3つの部材、又は2つの部材を積層物にして、又は繊維断熱材及び低熱伝導率断熱材を、ユニット構造にして、組み立てるようにしてもよい。
【0025】
積層物の密度は、好ましくは200kg/m
3〜300kg/m
3である。積層物の厚みは、好ましくは30mm〜350mm、より好ましくは50mm〜250mm、さらに好ましくは100mm〜150mmである。
【0026】
本発明の耐火構造は、ISO834標準加熱曲線による最高到達温度1100℃の3時間加熱時において
も、内部温度を好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下にすることが可能である。
【0027】
さらに、本発明の耐火構造は、ケーブルの点検の際等、一度取り外しても、再度取り付けることができる。特に、2以上の部材を重ねてマットにした場合や、ユニット構造にした場合は再利用が容易である。
【0029】
1.吸水した無機多孔質成形体からなる吸熱材(第1の吸熱材)
この吸熱材は、水を吸水(含浸)した無機多孔質成形体を含む。例えば、ボード等の自立成形体である。
【0030】
無機多孔質成形体の例としては、ケイ酸カルシウム、シリカ、アルミナ、バーミキュライト、マイカ、パーライト、セメント等の無機粉体等を1種もしくは2種以上混合し加工した成形体が挙げられる。
【0031】
無機多孔質成形体としては、特に、ケイ酸カルシウム成形体がい。ケイ酸カルシウムの種類の中では、ゾノトライト、トバモライト、ワラストナイトが好ましく、特に好ましいのは耐熱性が高いゾノトライトである。無機多孔質成形体は、上記の他に、無機バインダー、粒子等を含むことができる。ケイ酸カルシウム成形体は、特許文献1,2に記載の方法で製造できる。
【0032】
軽量であること、多量の水を含ませること、及び保形性を維持できる強度を有することを目的として、無機多孔質成形体の密度は40〜400kg/m
3程度のものが好ましい。さらに好ましくは80〜300kg/m
3、より好ましくは100〜200kg/m
3である。
【0033】
成形体は、成形体の重量の100〜400%の重量の水を含むことができる。成形体は、好ましくは130〜300%、より好ましくは150〜250%の水を含む。
【0034】
無機多孔質成形体に吸水させる水には、不凍液、防腐剤、pH調整剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0035】
含水した無機多孔質成形体は、パッキング材(パッケージ)によりパッキングされていることが好ましい。
パッキング材の密封性は、常態で、含水成形体からの水の蒸発を防ぐ程度でよい。加熱によりパッキング材は破損し、水が蒸発し、その際、気化熱により吸熱する。
加熱による破損温度は、水の沸点(以下)であることが好ましい。沸点以上だと、パッキング材が爆発してしまうおそれがあり、水の沸点よりもかなり低いと早い段階でパッキング材が破損し、水が蒸発してしまうことで効率的に吸熱効果を得ることができない。したがって、パッキング材の破損温度は、70℃〜130℃がより好ましい。より好ましくは、80℃〜120℃、さらに好ましくは、90℃〜110℃である。
【0036】
含水した無機多孔質成形体をパックするパッキング材としては、金属、樹脂を用いることができる。金属と樹脂を積層してラミネートしたものが、耐熱性および強度が高いため好ましい。
【0037】
用いられる金属としては、アルミニウム箔、銅箔、錫箔、ニッケル箔、ステンレス箔、鉛箔、錫鉛合金箔、青銅箔、銀箔、イリジウム箔、燐青銅箔等が挙げられる。
【0038】
樹脂として、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、アクリル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、フッ素、ポリカーボネート、アラミド等が挙げられる。これらのうち100℃前後の温度で破損される樹脂が好ましい。
【0039】
パッキング材の厚みは特に限定されないが、例えば5μm〜200μmである。上記の積層体の場合、金属箔を3μm〜12μm、樹脂層を2μm〜60μmとできる。
【0040】
また、パッキング材は加熱により発生するパッケージ内圧力を逃がす機構及び構造を部分的に設けてもよい。例えば、パッキング材の一部にフィルム種類や構造を変えてフィルム融着部の接着力を低くする部位を設ける。又はフィルムの一部に穴を開けて、そこにパッケージフィルムより厚さの薄いフィルムを貼ったり溶融形成したりする。これにより、パッケージ内圧力が上昇した際に、パッキング材が必要以上に膨らまず、原寸法をある程度維持することが可能である。
【0041】
図1に吸熱材の一例の断面図を示す。吸熱材1は、含水した無機多孔質成形体11をパックするパッキング材13を有する。
図1に示すような吸熱材をそのまま使用してもよいし、
図2に示すように、
図1に示す吸熱材を複数連結してもよい。
図2に示す複数連結した吸熱材は、狭い場所に持ち運ぶとき、畳んだり丸めたりして運べるため便利である。また、対象物の形状に合わせて、配置できる。
【0042】
この吸熱材は、吸熱材として機能した後、水が無くなった無機多孔質成形体は、優れた断熱材としても機能する。
【0043】
2.リン酸マグネシウム水和物とガラスを含む粒子を具備する吸熱材(第2の吸熱材)
この吸熱材は、リン酸マグネシウム水和物とバインダーを含む粒子からなる。
リン酸マグネシウム水和物として、リン酸3マグネシウム8水和物(Mg
3(PO
4)
2・8H
2O)、3、5、10、22水和物が例示されるが、リン酸3マグネシウム8水和物が好ましい。リン酸マグネシウム水和物は100℃付近から分解し吸熱反応が進む。
【0044】
バインダーとして無機バインダーや有機バインダーを用いることができる。
無機バインダーは、珪酸ナトリウム(水ガラス由来物、Na
2SiO
3、Na
2O・SiO
2又はNa
2O・nSiO
2・mH
2O)、コロイダルシリカ、ベントナイト等が例示されるが、珪酸ナトリウムが好ましい。
有機バインダーは、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)、澱粉等が例示される。
【0045】
この吸熱材は、不可避不純物を除いて、リン酸マグネシウム水和物とバインダーのみから構成してもよい。
粒子において、通常、リン酸マグネシウム水和物は1〜99重量%、バインダーは1〜99重量%含まれ、好ましくは、リン酸マグネシウム水和物は50〜99重量%、バインダーは1〜50重量%含まれ、より好ましくは、リン酸マグネシウム水和物は70〜99重量%、バインダーは1〜30重量%含まれる。
【0046】
この吸熱材は、粒子にして用いる。リン酸マグネシウム水和物を粉の状態で用いると袋詰めし難く(シールし難い等)、袋の中で下方に偏りやすい。上記粒子の平均粒径は、好ましくは0.01mm〜20mmであり、より好ましくは0.1mm〜15mmである。粒径が小さいほど表面積が大きくなり、吸熱材として優れるが、扱い難くなる。
【0047】
この吸熱材は、通常、粒子を、袋、ケース等の容器に入れて用いる。袋状の耐熱性クロス(布、シート、フィルム等)に入れて閉じたものが好ましい。耐熱性クロスとして、ガラスクロス、シリカクロス又はアルミナクロス等が挙げられる。表面にアルミが蒸着されたクロスが耐火性に優れ好ましい。容器は気密性は求められない。
【0048】
図3に吸熱材に用いる包袋の一例の斜視図を示す。この包袋3は、複数の袋4が、マチ6を介してその側辺で並んで繋がったものである。上方の開口部から粒子を入れて閉じる。このような構造の包袋であると、狭い場所に持ち運ぶとき、畳んだり丸めたりして運べるため便利である。また、対象物の形状に合わせて、配置できる。さらに、図に示す点線から、即ち袋4と袋4を繋ぐマチ6の部分を切断して使用することもできる。
【0049】
吸熱材に用いる粒子は、リン酸マグネシウム水和物と水ガラス(Na
2O・nSiO
2・mH
2O)を混合し、造粒して含水粒子を得、この含水粒子から水を除去して得ることができる。さらに、必要により、得られた粒子を、容器に収容する。
【0050】
3.繊維断熱材
繊維断熱材として、耐熱性の高い断熱材を使用する。1100℃24時間の収縮率が0〜5%であることが好ましい。好ましくは0〜3%である。収縮率は実施例記載の方法で測定する。
【0051】
繊維断熱材として、セラミック繊維を用いることができる。例えば、シリカとアルミナからなる繊維(シリカ:アルミナ=40:60〜0:100)、具体的には、シリカ・アルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維を用いることができる。
【0052】
また、作業者の健康上の安全性を考慮して、耐熱性の高い生体溶解性繊維を用いることができる。
生体溶解性繊維は、一般に、主成分として、シリカ及び/又はアルミナに、アルカリ金属酸化物(Na
2O,K
2O等)、アルカリ土類金属酸化物(CaO等)、マグネシア、ジルコニア、チタニアから選択される1以上を含む。他の酸化物も含むことができる。
【0053】
例えば、以下の組成が例示できる。
SiO
2とZrO
2とAl
2O
3とTiO
2との合計 50重量%〜82重量%
アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計 18重量%〜50重量%
【0054】
また、以下の組成が例示できる。
SiO
2 50重量%〜82重量%
CaOとMgOとの合計 10重量%〜43重量%
【0055】
より具体的には、以下の組成1又は組成2が例示できる。
[組成1]
SiO
2 70〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜29重量%
Al
2O
3 3重量%未満
[組成2]
SiO
2 70〜82重量%
CaO 10〜29重量%
MgO 1重量%以下
Al
2O
3 3重量%未満
加熱後においても溶解性が高い観点から、組成2が好ましい。
【0056】
繊維断熱材は、取り扱いの観点から、ブランケット、又はボードの形状が好ましい。このような成形品を製造する際には、適宜無機バインダー、有機バインダー等の通常の添加剤を用いることができる。
【0057】
繊維断熱材の厚みは、他の部材や設置する場所により、適宜決定できるが、一般に、低熱伝導率断熱材を設けないときは、100mm〜300mmである。低熱伝導率断熱材を設けるときは、25mm〜50mmであると、必要な耐火性を確保しながら、耐火構造全体のサイズを小さくしやすい。
【0058】
4.低熱伝導率断熱材
低熱伝導率断熱材として、熱伝導率が小さい断熱材を使用する。
例えば、アルミナ粒子及びシリカ粒子から選択される1種以上の無機粒子からなる、400℃における熱伝導率が、0.05W/(m・K)以下の成形体を用いることができる。
熱伝導率は、好ましくは、0.045W/(m・K)以下、より好ましくは0.035W/(m・K)以下である。下限値は、特に限られないが、例えば、0.02W/(m・K)以上である。熱伝導率は実施例記載の方法で測定する。
【0059】
具体的には、一次粒子の平均粒径100nm以下のシリカ粒子及び一次粒子の平均粒径100nm以下のアルミナ粒子から選択される1種以上の無機粒子からなる成形体を用いることができる
【0060】
平均粒径は、ランダムに約100個の粒子について、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)又は電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope;FE−SEM)で粒子径を観察して求める。
【0061】
無機粒子の平均粒径は、50nm以下でよく、30nm以下でもよい。下限値は、特に限られないが、例えば、2nm以上である。
アルミナ粒子は、α−アルミナ(コランダム)を含まない(例えば、XRD測定において、コランダムのピークが検出されない)ことが好ましい。
【0062】
無機粒子として、フュームドシリカ又はフュームドアルミナ粒子を用いることができる。無機粒子の量は、例えば、52〜93質量%である。
この成形体は、無機粒子の他、成形体の補強する補強繊維、輻射による伝熱を低減する輻射散乱材を含むことができる。
【0063】
補強繊維として、例えば、ガラス繊維、シリカ・アルミナ繊維、シリカ・アルミナ・マグネシア繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、生体溶解性無機繊維、ロックウール及びバサルト繊維からなる群より選択される1種以上である。補強繊維の量は、例えば、1〜20質量%である。
【0064】
輻射散乱材は、例えば、炭化珪素、ジルコニア、ジルコン、珪酸ジルコニウム、チタニア、窒化珪素、酸化鉄、酸化クロム、硫化亜鉛、チタン酸バリウムからなる群より選択される1種以上である。輻射散乱材の量は、例えば、1〜40質量%である。
【0065】
アルミナ粒子を用いて成形体を製造するときは、結晶化に伴う収縮を抑制するために結晶転移抑制材を含むことが好ましい。結晶転移抑制材の量は、例えば、1〜45質量%程度である。
結晶転移抑制材として、リン化合物、第2族元素の化合物、ランタン化合物及びイットリウム化合物、シリカ粒子、珪石、タルク、ムライト、窒化珪素、シリカフューム、ウォラストナイト、ベントナイト、カオリン、セピオライト、マイカ粒子が例示できる。
【0066】
リン化合物の例として、無機リン化合物及び/又は有機リン化合物を使用することができ、アルミニウムのリン酸塩(例えば、リン酸二水素アルミニウム(Al(H
2PO
4)
3)、六方晶系のリン酸アルミニウム(AlPO
4)、斜方晶系のリン酸アルミニウム(AlPO
4))、マグネシウムのリン酸塩(例えば、リン酸二水素マグネシウム四水和物(Mg(H
2PO
4)
2・4H
2O)、リン酸三マグネシウム八水和物(Mg
3(PO
4)
2・8H
2O))、カルシウムのリン酸塩(例えば、リン酸二水素カルシウム一水和物(Ca(H
2PO
4)
2・H
2O))、アンモニアのリン酸塩(例えば、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4))、並びにホスフィン誘導体及び/又はリン酸エステル(トリフェニルホスフィン((C
6H
5)
3P))等が挙げられる。
【0067】
第2族元素の化合物は、好ましくは、Ba、Sr、Ca、Mg、より好ましくは、Ba、Srから選択される少なくとも1つを含む化合物である。
【0068】
Ba化合物の例として、酸化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。Sr化合物の例として、酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。Ca化合物の例として、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸三カルシウム等が挙げられる。Mg化合物の例として、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0069】
ランタン化合物の例として、炭酸ランタン、酸化ランタン、水酸化ランタン等が挙げられる。イットリウム化合物例として、炭酸イットリウム、酸化イットリウム、水酸化イットリウム等が挙げられる。
【0070】
好適な成形体として、アルミナ粒子、結晶転移抑制材(フュームドシリカ等)、ジルコニア、アルミナ繊維の組み合わせが挙げられる。
【0071】
前記無機粒子からなる成形体は、通常加圧成形体である。
例えば、原料である混合粉体を所定の成形型に充填し、乾式プレス成形することにより、乾式加圧成形体を製造する。
【0072】
また、低熱伝導率断熱材として、特許文献5に記載されるようなエアロゲルと無機繊維の複合材を用いることができる。
この複合材は、エアロゲルマトリックスが、無機繊維の不織バットにより補強されたものである。無機繊維として、ガラス繊維、セラミックス繊維等を用いることができる。繊維断熱材に用いる生体溶解性繊維も用いてもよい。
【0073】
エアロゲルは、連続気泡を有するゲル構造物の孔から、格子間の可動溶媒相を、この溶媒の臨界点より高い温度及び圧力下で除去することで得ることができる。溶媒抽出過程では、溶媒相の圧力及び温度を臨界圧力及び温度より高く保持することが好ましい。エアロゲルは典型的に低いかさ密度(約0.15g/cc以下、好適には約0.03から0.3g/cc)、高い表面積(一般に約400から1,000m
2/g以上、好適には約700から1000m
2/g)、高い間隙率(約95%以上、好適には約97%以上)、及び大きな細孔容積(約3.8mL/g以上、好適には約3.9mL/g以上)を有する。このような特性の組み合わせによって、低い熱伝導率が得られる。
【0074】
上記の複合材は、型の中にある補強用繊維バットにゲル前駆体を加え、超臨界乾燥することにより得ることができる。
【0075】
エアロゲルマトリックスを構成する無機エアロゲルの材料は、例えばケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、バナジウム等の金属酸化物である。特に好適なゲルは、加水分解を受けたケイ酸エステルのアルコール溶液から生じたゲルである(アルコゲル)。
【0076】
複合材料の断面において、繊維の断面積は、好ましくはその断面の全断面積の10%以下である。
【0077】
また、複合材は、エアロゲルマトリックスに分散させて微細繊維を含んでもよい。
繊維バットに用いる繊維と微細繊維は、例えば、ガラス繊維、石英等の無機繊維である。繊維バットと微細繊維は、同じ繊維を用いてもよいし異なる繊維を用いてもよい。
【0078】
さらに、複合材は、二酸化チタン等の輻射散乱材、水酸化アルミニウム等の吸熱材を含むことが好ましい。好適な複合材は、非晶質シリカ(エアロゲル、表面に有機シランを少量含有)に、ガラス繊維、二酸化チタン、水酸化アルミニウムを含むものである。
【0079】
低熱伝導率断熱材の厚みは、他の部材や設置する場所により、適宜決定できる。無機粒子の成形体を用いる場合は、一般に10mm〜300mm、又は50mm〜200mmである。100mm〜125mmであると、必要な耐火性を確保しながら、耐火構造全体のサイズを小さくしやすい。複合材を用いる場合は、一般に10mm〜120mm、又は15mm〜80mmである。
【実施例】
【0080】
製造例1[第1の吸熱材の製造]
ゾノトライドケイ酸カルシウム成形体(ケイカルエース・スーパーシリカ、日本ケイカル株式会社)(密度120kg/m
3、500℃の熱伝導率0.114W/(m・K)以下)(縦600mm×横300mm×厚み50mm)を用いた。
この成形体を後述する実施例に用いるのに適した大きさに切断して、成形体の2倍200重量%の水を含ませた。
得られた含水成形を、表面よりナイロン(15μm)、アルミ箔(7μm)、リニアローデンシティポリエチレン(LLDPE)(40μm)の積層体で構成されラミネートフィルムを脱気・ヒートシールで密封して吸熱材(第1の吸熱材)を得た。
【0081】
熱伝導率は以下の周期加熱法により測定した。
周期加熱法は、非定常法による熱拡散率測定の一手法である。ここでは、x軸方向への1次元熱流を仮定し、
図10に示すように試験体の厚さ方向にx軸をとり、試験体の厚さをdとする。原点に試験体の放熱面、x=dに試験体加熱面があるとし、原点では温度が常に一定に保持され、x=dで温度は周期変化sin(ωt+η)していると仮定する。ここで、ωは角振動数、fは周期、tは時間、ηは任意の位相である。この条件の下で一次元の熱伝導方程式を解くと、x=dと任意の点x=x
mにおける温度波の振幅比A(=θ
1/θ
0)と位相差φが次式のように求まる。
【0082】
【数1】
ここで、iは虚数単位であり、ωは次式で定義される(参考文献:(1)H.S.Carslaw and J.C.Jaeger:Conduction of Heat in Solids,Oxford University Press,105−109(1959)、(2)大村、異なる測定方法による断熱材の熱伝導率比較,熱物性,21[2]86−96(2007))。
【0083】
【数2】
以上から、加熱面の温度波と試験体内部の任意の位置x
mにおける温度波を比較し、その振幅比あるいは位相差を測定することで、熱拡散率を求めることができる。すなわち、測定した振幅比Aを式(1)に代入することでkを求め、その値を式(3)に代入して熱拡散率κを得る。同様に、位相差φを式(2)に代入して得たkと式(3)から熱拡散率κが求まる。さらに熱伝導率λは、別途測定した密度ρと比熱cを以下の式に代入することで求まる。
【0084】
【数3】
【0085】
製造例2[第2の吸熱材の製造]
リン酸3マグネシウム8水和物と、水ガラス3号(珪酸ナトリウム)(Na
2O・nSiO
2・mH
2O(n=3.0〜3.4))を重量比91:9で混合し、造粒して、平均粒径2mm〜7mmの含水粒子を得た、これを90℃での乾燥により水を除去して粒子を得た。得られた粒子を、ガラスクロス製の包袋に収容して吸熱材(第2の吸熱材)を製造した。包袋は、
図3に示すように、縦160mm、横160mmの長方形を、10mmのマチを介して、横方向に複数繋げた形状であった。厚さは25mmであった。
【0086】
[第1の吸熱材を用いた第1の態様の耐火構造]
実施例1
(1)耐火構造の組み立て
製造例1で製造した吸熱材(厚み25mm)、及び以下の断熱材A(低熱伝導率断熱材)、断熱材B(繊維断熱材)を用いて、
図4,5に示す耐火構造を組み立てて、耐火試験を実施した。
・断熱材A:微孔性ヒュームドシリカ成形体(ロスリムボードGH、ニチアス(株))(厚み100mm)(800℃の熱伝導率0.04W/(m・K))
・断熱材B:生体溶解性繊維ブランケット(生体溶解性繊維組成:SiO
2含有量約73質量%、CaO含有量約25質量%、MgO含有量約0.3質量%、Al
2O
3含有量約2質量%)(1100℃24時間の収縮率0.6%)(厚み25mm)
【0087】
収縮率は以下の方法で求めた。
繊維からブランケット(長さ150mm、幅100mm、厚み50mm、密度130±15kg/m
3)を製造した。ブランケットを1100℃24時間焼成した前後で、長さを測定した。焼成前の長さに対する収縮した割合を、収縮率とした。
【0088】
図4に示す耐火構造400の組み立て手順を以下に示す。
ケーブルラックの段105を、ケーブルラック付属の架台に固定し、ケーブルラック103を組み立てた。ケーブルラックの段105に、ケーブルが入ったケース(図示せず)を載せた。
断熱材ケーシングのアングルを組み、内側用金属パネルを取り付け、下面のみが解放された直方体状の断熱材ケーシング(図示せず)を組み立てた。
縦型炉500中に、ケーブルラック103を設置し、ケーブルラック103を囲んで断熱材ケーシング(図示せず)を取り付けた。
【0089】
断熱材ケーシングの内側の金属パネルに、吸熱材401を貼り付けた。
吸熱材401に断熱材A405を1又は3層貼り付けた。
断熱材A405に断熱材B403を巻き付けた。
断熱材B403の外側に、断熱材ケーシングの外側用の金属パネル(図示せず)を取り付け、耐火構造400を組み立てた。
【0090】
(2)耐火構造の評価
図5は、耐火構造の概略縦断面図であり、熱電対の設置位置を示す図である。
熱電対は、断熱材Bの外面(
図5中、551、555及び559)、吸熱材と断熱材Aの間(
図5中、553、557及び561)、及び吸熱材の内面(
図5中、554、558及び562)に設置した。
縦型炉500において、バーナーにより、ISO標準耐火曲線で3時間加熱を行った後、2時間放冷した。それぞれの熱電対の設置位置における、1,2,3及び5時間後の測定温度(℃)を、表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例2
(1)耐火構造の組み立て
図6は、実施例2で組み立てた耐火構造600の概略縦断面図である。
実施例2では、天井から吊り下げられたケーブルラック103を用いた。ケーブルラック103は、複数の段を有し、ケーブル101が入ったケースを段に載せた。
製造例1で製造した吸熱材601(厚み25mm)で、ケーブルラックの段に有るケーブル101が入ったケースの周囲を囲んだ。さらに、その周囲を、積層断熱材603で囲った。積層断熱材603は、ケーブルのある内側から、以下の断熱材C(低熱伝導率断熱材)1層(厚み20mm)、及び以下の断熱材B(繊維断熱材)3層(厚み25mm×3)を積層し、外側全体をシリカクロスで包んだものである。
・断熱材C:エアロゲル・無機繊維複合材(パイロジェル、アスペン(株))(400℃の熱伝導率0.045〜0.048W/(m・K))
・断熱材B:生体溶解性繊維ブランケット(生体溶解性繊維組成:SiO
2含有量約73質量%、CaO含有量約25質量%、MgO含有量約0.3質量%、Al
2O
3含有量約2質量%)
【0093】
(2)耐火構造の評価
熱電対を、積層断熱材603の外側、積層断熱材603のブランケット層の間、積層断熱材603と吸熱材601の間、ケーブル101の付近に設置した。
実施例1と同様に、ISO標準耐火曲線で3時間加熱を行った後、2時間放冷した。それぞれの熱電対の設置位置における、1,2,3及び5時間後の測定温度(℃)を、表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例3
配管のバルブの周りにボックス状のケージを設け、ケージの上に、実施例2と同じように吸熱材(厚み25mm)、パイロジェル(実施例2の断熱材C)1層(厚み20mm)、及びシリカアルミナ繊維(アルミナ:シリカ=50:50)ブランケット3層(厚み25mm×3)を積層し、外側全体をシリカクロスで包んだ。
実施例1と同様に、加熱試験を行った結果、バルブ本体の到達最高温度は、104〜118℃であった。
【0096】
[第2の吸熱材を用いた第1の態様の耐火構造]
実施例4
(1)耐火構造の組み立て
製造例2で製造した吸熱材及び実施例1で用いた断熱材Bと実施例2で用いた断熱材Cを用いて、
図7,8に示す耐火構造を組み立てて、耐火試験を実施した。
図7は、実験に用いたケーブルを載せたケーブルラックの縦断面図であり、
図8は、耐火構造の概略縦断面図である。
【0097】
図7に示すように、ケーブルラック100’の脚102’を立て、段104’をケーブルラック付属の架台に固定し、ケーブルラック100’を組み立てた。ケーブルラックの段104’に、ケーブル200’が入ったケースを載せた。
図8に示すように、吸熱材10で、ケーブルラックの脚102’、段104’の周囲を囲んだ。さらに、その周囲を、積層断熱材20で囲った。積層断熱材20は、ケーブルのある内側から、断熱材C22を1層(厚み20mm)、及び断熱材B24を3層(厚み25mm×3)を積層し、外側全体をシリカクロスで包んだものである。
縦型炉中に、ケーブルラック100’を設置した。
【0098】
(2)耐火構造の評価
図8に、熱電対の設置位置を示す。
熱電対は、断熱材B24の内側から2層目と3層目の間(
図8中、48)、断熱材B24の内側から1層目と2層目の間(
図8中、46)、断熱材B24と断熱材C22の間(
図8中、44)、断熱材C22と吸熱材10の間(
図8中、42)、及び上段に載ったケーブルケースの直上(
図8中、40)に設置した。
縦型炉において、バーナーにより、ISO標準耐火曲線で3時間加熱を行った後、2時間放冷した。それぞれの熱電対の設置位置における、1,2,3,5,8,10時間後の測定温度(℃)を、表3に示す。
【0099】
表3に示すように、外側が1000℃を超える温度であっても、ケーブルケースの直上40の温度は163℃程度で
あった。さらに、ケーブルケースの直上40の温度は、加熱後3時間経過付近で約20分100℃を維持したが、これは吸熱材に含まれる水が蒸発する作用によると考えられる。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例5
実施例4においては、吸熱材、断熱材C、断熱材Bの順に積層したが、実施例5では、断熱材Bの代わりにシリカアルミナ繊維製ブランケット(断熱材D)(厚み25mm×3)を用い、断熱材C、吸熱材、断熱材Dの順に積層した他は、実施例4と同様にして、耐火構造を組み立てた。
実施例4と同様に加熱試験を行い、1,2,3,5時間後の測定温度(℃)を、表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
[第2の態様の耐火構造]
参考例1
実施例1と同様に、ケーブルを収容したラックを組み立て、断熱材ケーシングを取り付けた。
断熱材ケーシングに、長手方向両側面と上面の内側から、ロスリムボードGH(実施例1の断熱材A)を3層(厚み計100mm)貼り付け、生体溶解性繊維ブランケット(実施例1の断熱材B)(厚み25mm)を巻き付けた。横方向両側面は、内側から、ロスリムボードGHを4層(厚み計200mm)貼り付けた。
実施例1と同様に、加熱試験を行った結果、ケーブル表面の到達最高温度は、約140℃であった。
【0104】
参考例2
図9は、
参考例2で組み立てた耐火構造700の概略縦断面図である。
図9は、壁711を貫通する配管713のための耐火構造700を示す。耐火構造700は、配管713の周囲をシリカアルミナ繊維701(厚み10〜25mm)で覆い、さらにその周囲を、ドーナツ状に断熱材AであるロスリムボードGH703を6層(厚み計300mm)重ねた。配管713を囲むシリカアルミナ繊維701とロスリムボードGH703を合わせた厚みは75mmであった。最後に外周をシリカアルミナ繊維ブランケット705(厚み25〜100mm)で覆った。
実施例1と同様に、加熱試験を行った結果、配管の到達最高温度は、約113℃であった。
尚、この実施例ではロスリムボードGHを6層重ねたが、さらに、例えば10層まで重ねることができる。
【0105】
参考例3
参考例2の耐火構造に、封止性を高めるため継手を取り付けた。
具体的には、壁を貫通する配管の周りを囲むように、壁に対して、ゴム製の継手(ベローQ、ニチアス(株))を取り付け、さらに、継手の周りを、シリカアルミナ繊維で覆い、その他は
参考例2と同様に、ロスリムボードGHを6層(厚み計300mm)重ね、外側にシリカアルミナ繊維ブランケット(厚み25〜100mm)を取り付けた。
実施例1と同様に、加熱試験を行った結果、電線管の周囲の到達最高温度は、約113℃であった。
継手を用いることにより、非常時の水等に対する封止性が高まり、安全性が高くなる。
【課題】最高到達温度1100℃の3時間加熱時においてもケーブルの導通が確保でき、耐火構造全体がコンパクトで軽量のものが求められている。我が国の原子力発電所にも使用可能な、新規な耐火構造を提供する。
【解決手段】吸水した無機多孔質成形体からなる第1の吸熱材、又はリン酸マグネシウム水和物とバインダーを含む粒子を具備する第2の吸熱材と、1100℃24時間の収縮率が5%以下の無機繊維からなる繊維断熱材とを、有する耐火構造。