(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記送り速度変更部は、前記残り時間推定部による前記残り時間の推定値が予め定めた閾値以下になったら、前記送り運動の速度を予め定めた傾きで予め定めた変化量だけ減少させる、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
前記送り速度変更部は、前記送り運動の速度を前記変化量だけ減少させた後に、前記送り運動の速度を前記変化量よりも小さい他の変化量だけ増加させる、請求項2に記載の工作機械の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲や用語の意義等を限定するものではない。
【0011】
図1〜
図5を参照して、本発明の第1の実施形態の制御装置について説明する。
図1は、本実施形態の例示的な制御装置1の構成を示すブロック図である。本例の制御装置1は、切削工具が取り付けられる回転式の主軸と、ワークに対する主軸の送り運動を与える送り軸と、を備えた工作機械の動作を制御する。
図1には、工作機械の主軸及び送り軸をそれぞれ駆動する主軸モータM1及び送り軸モータM2が、制御装置1と一緒に示されている。
【0012】
図1のように、本例の制御装置1は、電流検出部11、速度検出部12、及び温度検出部13を有している。これらの機能について以下に順に説明する。本例の電流検出部11はモータを駆動するための主軸モータ制御部16に内蔵されている電流検出素子であり、主軸モータM1に流れる電流を検出する機能を有する。本例の速度検出部12は主軸モータM1に取り付けられたエンコーダであり、主軸モータM1の回転速度を検出する機能を有する。本例の温度検出部13は、主軸モータM1に取り付けられた温度検出素子であり、主軸モータM1の温度を検出する機能を有する。なお、本例の主軸モータM1がオーバーヒート状態に陥る境界温度は、予め実験的に又は理論的に決定されるものとする。このような温度を以下では最大許容温度と称する。
【0013】
引き続き
図1を参照すると、本例の制御装置1は、記憶部10、主軸負荷計算部14、残り時間推定部15、主軸モータ制御部16、及び送り軸モータ制御部17をさらに有している。これらの機能について以下に順に説明する。本例の記憶部10は、ROM、RAM、及び不揮発性記憶装置等を含む記憶領域であり、種々のデータを保持する機能を有する。特に、本例の記憶部10には、主軸モータM1の最大許容温度Tm、並びに後述する閾値Rt、速度変化の傾きc1,c2、及び速度変化量dv1等のデータが格納されている。ここで、最大許容温度Tmは、主軸モータM1がオーバーヒート状態に陥る境界温度である。最大許容温度Tmは予め使用者によって実験的に又は理論的に決定される。本例の主軸負荷計算部14は、電流検出部11による電流検出値及び速度検出部12による速度検出値を用いて、主軸モータM1に加わる負荷を計算する機能を有する。
【0014】
続いて、本例の残り時間推定部15は、電流検出部11による電流検出値が一定のまま主軸モータM1に流れ続ける場合に主軸モータM1の温度が上記の最大許容温度Tmに到達するまでの残り時間(すなわち、主軸モータM1がオーバーヒートするまでの残り時間)を推定する機能を有する。
図1のように、本例の残り時間推定部15は、予め記憶部10に格納された主軸モータM1の最大許容温度Tmのデータ、電流検出部11による電流検出値、及び速度検出部12による速度検出値を用いて上記の残り時間を推定する。本例の残り時間推定部15が上記の残り時間を推定する手順について以下に詳細に説明する。
【0015】
一般に、モータに一定の電流値を流し続けたときのモータの温度上昇量は、その電流値の二乗に比例することが知られている。そのため、モータの単位時間当たりの温度上昇量Tcは、モータに流れる電流Iから以下の数式(1)によって求められる。
【数1】
ここで、定数K1は予め実験的に算出される。つまり、定数K1は、モータに或る電流値を流し続けたときの温度上昇量から逆算される。
【0016】
そして、モータの温度上昇量Tを所定のサンプリング周期Tsで求める場合には、第n回目のサンプリング時の温度上昇量T(n)が以下の漸化式(2)で表される。
【数2】
ここで、上記の漸化式(2)中の定数λは、サンプリング周期Ts及びモータの熱時定数τから以下の数式(3)によって求められる。
【数3】
【0017】
上記の漸化式(2)を変形すると以下の数式(4)が得られる。
【数4】
ここで、上記の数式(4)中のT(0)は、モータの温度上昇量T(n)の初期値、すなわち、或る時点におけるモータの温度と周囲の温度との間の温度差である。
上記の数式(4)を用いれば、モータの温度上昇量の初期値T(0)から、任意の時点における温度上昇量T(n)を求めることができる。
【0018】
上記の数式(4)をさらに変形すると以下の数式(5)が得られる。
【数5】
そして、第n回目のサンプリング時にモータの温度が最大許容温度Tmに到達すると仮定して、上記の数式(5)にT(n)=Talmを代入すると、以下の数式(6)が得られる。ここで、Talmは最大許容温度Tmに対応する温度上昇量である。
【数6】
【0019】
上記の仮定の下では、サンプリングが開始されてからモータの温度が最大許容温度Tmに到達するまでの所要時間が、Tsとnを掛けることによって求められる。従って、或る時点で検出された電流値を主軸モータM1に流し続けた場合に主軸モータM1の温度が最大許容温度Tmに到達するまでの残り時間Rは、上記の時点で検出された主軸モータM1の温度と周辺の温度との間の温度差T(0)から以下の数式(7)によって求めることができる。
【数7】
本例の残り時間推定部15は、上記の数式(7)を用いて残り時間Rを推定する。特許文献4にも同様の推定方法が示されている。
【0020】
引き続き
図1を参照すると、本例の主軸モータ制御部16は主軸モータM1の動作を制御するモータドライバである。より具体的に、本例の主軸モータ制御部16は、主軸モータM1に供給される電流の量、向き、及びタイミング等を調整することで主軸モータM1の動作を制御する。また、本例の送り軸モータ制御部17は送り軸モータM2の動作を制御するモータドライバである。より具体的に、本例の送り軸モータ制御部17は、送り軸モータM2に供給される電流の量、向き、及びタイミング等を調整することで送り軸モータM2の動作を制御する。
図1のように、本例の送り軸モータ制御部17は送り速度変更部171を含んでいる。そして、本例の送り速度変更部171は、残り時間推定部15が求めた上記の残り時間Rの推定値に応じて送り軸モータM2のオーバーライド制御を実行する。特に、本例の送り速度変更部171は、残り時間推定部15が推定した残り時間Rが所定の閾値以下になった場合に、送り軸モータM2による送り運動の速度を減少させるオーバーライド制御を実行する。以下では、送り軸モータM2による送り運動の速度を単に「送り速度」と称する。
【0021】
図2は、
図1中の送り軸モータ制御部17で実行される例示的なオーバーライド制御による送り速度vの時間変化を示すグラフである。
図2のグラフには、送り速度vの時間変化と一緒に、主軸モータM1に加わる負荷L及びオーバーヒートまでの残り時間Rのそれぞれの時間変化が示されている。
図2から分かるように、本例のオーバーライド制御では、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値が閾値Rt以下になったら、送り速度変更部171が、送り速度vを速度変化の傾きc1で速度変化量dv1だけ減少させる。上記の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1は予め記憶部10に格納されている。このように本例のオーバーライド制御によれば、残り時間Rが閾値Rt以下になったら、送り速度vが速度変化量dv1だけ減少するので、主軸モータM1の負荷も対応する変化量だけ減少することになる。これにより残り時間Rが一時的に増加するので、主軸モータM1の温度が最大許容温度Tmまで上昇すること、すなわち、主軸モータM1がオーバーヒート状態に陥ることを確実に防止できる。
【0022】
図2から分かるように、送り速度vが所定の速度変化量dv1だけ減少した後も主軸モータM1の負荷Lが連続定格値Lcより大きい場合には、切削加工が継続されることによって残り時間Rが再び閾値Rtに向かって減少することになる。そのため、切削加工が継続される間は、送り軸モータ制御部17が残り時間Rを監視しながら、負荷Lが連続定格値Lc以下になるまで上記のオーバーライド制御を繰り返す。なお、上記のオーバーライド制御が繰り返される場合に使用される速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1のそれぞれは、全サイクルにわたって均一の値であってもよいし、サイクルごとに変動する値であってもよい。
【0023】
図3は、
図2に示されるオーバーライド制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
図3のように、先ず、ステップS301では、送り軸モータ制御部17が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であるかどうかを判定する。ステップS301で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中ではないと判定された場合(ステップS301のNO)、送り軸モータ制御部17は、残り時間推定部15が求めた残り時間Rの推定値が所定の閾値Rt以下であるかどうかをさらに判定する(ステップS302)。
【0024】
ステップS302で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下であると判定された場合には(ステップS302のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、所定の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1で送り速度vを減少させるオーバーライド制御を開始する(ステップS303)。送り速度vが減少するのに伴い主軸モータM1の負荷Lも減少するので、オーバーヒートまでの残り時間Rが一時的に増加する(
図2を参照)。ステップS302で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下ではないと判定された場合、すなわち、残り時間Rの推定値が閾値Rtよりも大きい場合には(ステップS302のNO)、送り軸モータ制御部17が、現在の送り速度vの指令値に従って送り軸モータM2を制御する(ステップS304)。
【0025】
ステップS301で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であると判定された場合には(ステップS301のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、オーバーライド制御による送り速度vの減少量が所定の値(速度変化量dv1)に達したかどうかをさらに判定する(ステップS305)。ステップS305で、送り速度vの減少量が所定の値に達していないと判定された場合には(ステップS305のNO)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御を継続する(ステップS306)。ステップS305で、送り速度vの減少量が所定の値に達したと判定された場合には(ステップS305のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御を停止する(ステップS307)。
【0026】
続いて、
図1中の送り軸モータ制御部17で実行されるオーバーライド制御の変形例について説明する。
図4は、本例のオーバーライド制御による送り速度vの時間変化を示すグラフである。前述した
図2のグラフと同様に、
図4のグラフには、送り速度vの時間変化と一緒に、主軸モータM1に加わる負荷L及びオーバーヒートまでの残り時間Rのそれぞれの時間変化が示されている。
図4から分かるように、本例のオーバーライド制御では、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値が閾値Rt以下になったら、送り速度変更部171が、送り速度vを速度変化の傾きc1で速度変化量dv1だけ減少させる。上記の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1は予め記憶部10に格納されている。さらに、本例のオーバーライド制御では、送り速度vが速度変化量dv1だけ減少した後に、送り速度変更部171が、送り速度vを別の速度変化の傾きc2で速度変化量dv1よりも小さい速度変化量だけ増加させる。より具体的に、送り速度変更部171は、残り時間Rが再び閾値Rt以下になるまで送り速度vを増加させる。上記の速度変化の傾きc2は予め記憶部10に格納されている。
【0027】
図4から分かるように、本例のオーバーライド制御では、一旦残り時間Rが増加したら、送り速度vが今度は速度変化の傾きc2で増加するので、主軸モータM1の負荷Lも相応に増加することになる。つまり、本例のオーバーライド制御によれば、残り時間Rの増加後に送り速度vを減少前の速度に近づけ、主軸モータM1に加わる負荷Lを大きくするので、主軸モータM1の能力をより有効に活用できるようになる。その結果、本例のオーバーライド制御によれば、切削加工を比較的短時間で完了できるようになる。
図4から分かるように、送り速度vが速度変化の傾きc1,c2で変更された後も主軸モータM1の負荷Lが連続定格値Lcより大きい場合には、切削加工が継続されることによって、残り時間Rが再び閾値Rtに向かって減少することになる。そのため、切削加工が継続される間は、送り軸モータ制御部17が残り時間Rを監視しながら、負荷Lが連続定格値Lc以下になるまで上記のオーバーライド制御を繰り返す。なお、上記のオーバーライド制御が繰り返される場合に使用される速度変化の傾きc1,c2及び速度変化量dv1のそれぞれは、全サイクルにわたって均一の値であってもよいし、サイクルごとに変動する値であってもよい。
【0028】
図5は、
図4に示されるオーバーライド制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
図5のように、先ず、ステップS501では、送り軸モータ制御部17が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であるかどうかを判定する。ステップS501で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中ではないと判定された場合(ステップS501のNO)、送り軸モータ制御部17は、残り時間推定部15が求めた残り時間Rの推定値が所定の閾値Rt以下であるかどうかをさらに判定する(ステップS502)。ステップS502で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下であると判定された場合には(ステップS502のYES)、送り軸モータ制御部17が、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中であるかどうかをさらに判定する(ステップS503)。
【0029】
ステップS503で、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中であると判定された場合には(ステップS503のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを増加させるオーバーライド制御を停止し(ステップS504)、次いで、所定の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1で送り速度vを減少させるオーバーライド制御を開始する(ステップS505)。ステップS503で、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中ではないと判定された場合には(ステップS503のNO)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、所定の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1で送り速度vを減少させるオーバーライド制御を開始する(ステップS505)。送り速度vが減少するのに伴い主軸モータM1の負荷Lも減少するので、オーバーヒートまでの残り時間Rが一時的に増加する(
図4を参照)。
【0030】
ステップS502で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下ではないと判定された場合、すなわち、残り時間Rの推定値が閾値Rtよりも大きい場合には(ステップS502のNO)、送り軸モータ制御部17が、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中であるかどうかをさらに判定する(ステップS506)。ステップS506で、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中であると判定された場合には(ステップS506のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを増加させるオーバーライド制御を継続する(ステップS507)。ステップS506で、送り速度vを増加させるオーバーライド制御が進行中ではないと判定された場合には(ステップS506のNO)、送り軸モータ制御部17が、現在の送り速度vの指令値に従って送り軸モータM2を制御する(ステップS508)。
【0031】
ステップS501で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であると判定された場合には(ステップS501のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、オーバーライド制御による送り速度vの減少量が所定の値(速度変化量dv1)に達したかどうかをさらに判定する(ステップS509)。ステップS509で、送り速度vの減少量が所定の値に達していないと判定された場合には(ステップS509のNO)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御を継続する(ステップS510)。ステップS509で、送り速度vの減少量が所定の値に達したと判定された場合には(ステップS509のYES)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御を停止し(ステップS511)、次いで、別の速度変化の傾きc2で送り速度vを増加させるオーバーライド制御を開始する(ステップS512)。送り速度vが増加するのに伴い主軸モータM1の負荷Lも増加するので、主軸モータM1の能力がより有効に活用される(
図4を参照)。
【0032】
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、主軸モータM1の温度が最大許容温度Tmに到達するまでの残り時間Rが閾値Rt以下になったら、そのときの残り時間Rに応じて送り速度vが変更されるので、主軸モータM1がオーバーヒート状態に陥るのを確実に防止できるようになる。特に、
図2に示す実施例によれば、送り速度vを所定の速度変化の傾きc1及び速度変化量dv1で減少させるオーバーライド制御が実行されるので、送り速度変更部171の構成を簡素化できるとともに、オーバーライド制御によるシステム負荷を軽減できるようになる。また、
図4に示す実施例によれば、送り速度vを一旦減少させてから再び増加させるオーバーライド制御が実行されるので、主軸モータM1の負荷が低い状態のまま維持されるのを防止でき、結果的に、主軸モータM1の能力をより有効に活用できるようになる。
【0033】
次に、
図6〜
図9を参照して、本発明の第2の実施形態の制御装置について説明する。本実施形態の制御装置は、以下に具体的に説明する部分を除いて、上述した第1の実施形態の制御装置と同様の機能及び構成を有する。そのため、第1の実施形態と同様の部分には第1の実施形態と共通の参照符号が使用されており、それら同様の部分についての詳細な説明は省略されている。
【0034】
図6は、本実施形態の例示的な制御装置1の構成を示すブロック図である。
図6のように、本例の制御装置1は、上述した記憶部10、電流検出部11、速度検出部12、温度検出部13、主軸負荷計算部14、残り時間推定部15、主軸モータ制御部16、及び送り軸モータ制御部17に加えて、送り速度検出部18を有している。本例の送り速度検出部18は送り軸モータM2に取り付けられたエンコーダであり、送り軸モータM2の回転速度、すなわち送り速度vを検出する機能を有する。また、本例の送り軸モータ制御部17は、上述した送り速度変更部171に加えて、対応関係算出部172及び送り速度特定部173を有している。これらの機能について以下に詳細に説明する。
【0035】
本例の対応関係算出部172は、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値、送り速度検出部18による送り速度vの検出値、及び電流検出部11による電流検出値を用いて、送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係を算出する機能を有する。ただし、対応関係算出部172は、電流検出部11による電流検出値の代わりに、主軸負荷計算部14による負荷Lの計算値を用いて上記の対応関係を算出してもよい。
図7は、
図6中の対応関係算出部172が算出した送り軸速度vと残り時間Rとの間の対応関係を示すグラフである。このような対応関係が算出される原理について以下に説明する。
【0036】
一般に、主軸モータM1による切削量は送り速度vに比例するので、主軸モータM1に加わる負荷Lは送り速度vに比例する(すなわちL∝vである)。また、主軸モータM1に流れる電流Iは主軸モータM1に加わる負荷Lに比例するので(すなわちI∝Lであるので)、主軸モータM1に流れる電流Iは送り速度vにも比例する(すなわちI∝vである)。上記の数式(1)及び(7)から分かるように、残り時間Rは電流Iの関数R(I)で表される。上述した通り、電流Iは送り速度vに比例するので(すなわちI∝vであるので)、残り時間Rはさらに送り速度vの関数R(v)で表される。つまり、或る時点での残り時間R、電流I、及び送り速度vのそれぞれの値が分かれば、残り時間Rの関数R(v)を一意的に決定できるので、送り速度vと残り時間Rとの対応関係を算出できる。或る時点での残り時間R、電流I、及び送り速度vのそれぞれの値(R0,I0,v0)から決定された関数R(v)のグラフが
図7に示されている。
図7のグラフは、主軸の送り運動を或る送り速度v0で継続すると、それに対応する残り時間R0の経過後に主軸モータM1がオーバーヒートすることを意味している。なお、
図7中の送り速度vcは、主軸モータM1の負荷Lが連続定格値Lcと等しくなるときの送り速度vの値である。
【0037】
再び
図6を参照すると、本例の送り速度特定部173は、対応関係算出部172が算出した送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係(
図7を参照)を参照して、残り時間Rの閾値Rtに対応する送り速度vの値vtを特定する機能を有する。送り速度特定部173が特定した値vtは、送り速度変更部171が送り速度vを変更する際の目標値として扱われる。つまり、本例の送り速度変更部171は、残り時間推定部15が推定した残り時間Rが閾値Rt以下になったら、送り速度vを送り速度特定部173が特定した目標値vtに向かって減少させるオーバーライド制御を実行する。
図8は、
図6中の送り軸モータ制御部17で実行される例示的なオーバーライド制御による送り速度vの時間変化を示すグラフである。前述した
図2及び
図4のグラフと同様に、
図8のグラフには、送り速度vの時間変化と一緒に、主軸モータM1に加わる負荷L及びオーバーヒートまでの残り時間Rのそれぞれの時間変化が示されている。
【0038】
本例のオーバーライド制御では、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値が閾値Rt以下になったら、送り速度変更部171が、送り速度vを送り速度特定部173によって特定された目標値vtに向かって減少させる。この目標値vtは残り時間Rの閾値Rtに対応する値であるので(
図7を参照)、送り速度vが目標値vtまで減少しても、残り時間Rが閾値Rtを超えて過度に増加することはない。従って、本例のオーバーライド制御では、送り速度vの減少に伴う主軸モータM1の負荷Lの減少を最小限に抑えることができる。
【0039】
図2及び
図4の例と同様に、切削加工が継続される間は、送り軸モータ制御部17が残り時間Rを監視しながら、主軸モータM1の負荷Lが連続定格値Lc以下になるまで上記のオーバーライド制御を繰り返す。これにより残り時間Rが閾値Rtの近傍に維持されるので、
図8のように、主軸モータM1の負荷Lが連続定格値Lcに向かって減少することになる。従って、本例のオーバーライド制御によれば、主軸モータM1の能力を最大限に活用できるので、切削加工を最短時間で完了できるようになる。
【0040】
図9は、
図8に示されるオーバーライド制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
図9のように、先ず、ステップS901では、送り軸モータ制御部17が、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であるかどうかを判定する。ステップS901で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中ではないと判定された場合(ステップS901のNO)、送り軸モータ制御部17は、残り時間推定部15が求めた残り時間Rの推定値が所定の閾値Rt以下であるかどうかをさらに判定する(ステップS902)。
【0041】
ステップS902で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下であると判定された場合には(ステップS902のYES)、送り軸モータ制御部17の対応関係算出部172が、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値、送り速度検出部18による送り速度vの検出値、及び電流検出部11による電流検出値から、送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係を算出する(ステップS903)。次いで、ステップS904では、送り軸モータ制御部17の送り速度特定部173が、送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係(
図7を参照)から、残り時間Rの閾値Rtに対応する送り速度vの目標値vtを特定する。次いで、ステップS905では、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを上記の目標値vtに向かって減少させるオーバーライド制御を開始する。
【0042】
ステップS902で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下ではないと判定された場合、すなわち、残り時間Rの推定値が閾値Rtよりも大きい場合には(ステップS902のNO)、送り軸モータ制御部17が、現在の送り速度vの指令値に従って送り軸モータM2を制御する(ステップS906)。ステップS901で、送り速度vを減少させるオーバーライド制御が進行中であると判定された場合も(ステップS901のYES)、上記のステップS902と同様に、送り軸モータ制御部17が、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下であるかどうかをさらに判定する(ステップS907)。ステップS907で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下ではないと判定された場合、すなわち、残り時間Rの推定値が閾値Rtよりも大きい場合には(ステップS902のNO)、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを上記の目標値vtに向かって減少させるオーバーライド制御を継続する(ステップS908)。
【0043】
ステップS907で、残り時間Rの推定値が閾値Rt以下であると判定された場合には(ステップS907のYES)、送り軸モータ制御部17の対応関係算出部172が、残り時間推定部15による残り時間Rの推定値、送り速度検出部18による送り速度vの検出値、及び電流検出部11による電流検出値から、送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係を算出する(ステップS909)。次いで、ステップS910では、送り軸モータ制御部17の送り速度特定部173が、送り速度vと残り時間Rとの間の対応関係(
図7を参照)から、残り時間Rの閾値Rtに対応する送り速度vの目標値vtを特定する。次いで、ステップS911では、送り軸モータ制御部17の送り速度変更部171が、送り速度vを上記の目標値vtに向かって減少させるオーバーライド制御を開始する。
【0044】
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、主軸モータM1の温度が最大許容温度Tmに到達するまでの残り時間Rが閾値Rt以下になったら、そのときの残り時間Rに応じて送り速度vが変更されるので、主軸モータM1がオーバーヒート状態に陥るのを確実に防止できるようになる。さらに、本実施形態の制御装置1によれば、送り速度vを残り時間Rの閾値Rtに対応する目標値vtに向かって減少させるオーバーライド制御が実行されるので、残り時間Rが常に閾値Rtの近傍に維持されるようになる。その結果、主軸モータM1の能力を最大限に活用できるようになる。
【0045】
本発明は、上記の実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で種々改変されうる。また、上述した各部の寸法、形状、材質等は一例にすぎず、本発明の効果を達成するために多様な寸法、形状、材質等が採用されうる。
【解決手段】回転式の主軸と主軸のワークに対する送り運動を与える送り軸とを有する工作機械の制御装置1は、主軸を駆動する主軸モータM1に流れる電流を検出する電流検出部11と、主軸モータM1の温度を検出する温度検出部13と、予め定めた主軸モータM1の最大許容温度及び温度検出部13による温度検出値に基づいて、温度検出値が検出されたときの電流検出部11による電流検出値が主軸モータM1に流れ続けた場合に主軸モータM1の温度が最大許容温度に到達するまでの残り時間を推定する残り時間推定部15と、残り時間推定部15による残り時間の推定値に応じて送り運動の速度を変更する送り速度変更部171と、を有する。