特許第5863951号(P5863951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イビデン株式会社の特許一覧

特許5863951ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法
<>
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000002
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000003
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000004
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000005
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000006
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000007
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000008
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000009
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000010
  • 特許5863951-ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863951
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20160204BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20160204BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20160204BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20160204BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   F01N3/022 C
   C04B38/00 303Z
   C04B41/85 C
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-507295(P2014-507295)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2012058749
(87)【国際公開番号】WO2013145320
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】春日 貴史
(72)【発明者】
【氏名】牧野 美沙子
(72)【発明者】
【氏名】中村 一輝
(72)【発明者】
【氏名】永津 佑一
(72)【発明者】
【氏名】牛田 健
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147931(JP,A)
【文献】 特表2009−511242(JP,A)
【文献】 特開昭61−129016(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/024293(WO,A1)
【文献】 特開2010−227743(JP,A)
【文献】 特開2011−078899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 38/00
C04B 41/85
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通させるための多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、前記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止されてなるセラミックハニカム基材と、
前記セル壁の表面のうち、前記流体流入側の端部が開口され、前記流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面にパーティキュレートがセル壁の細孔に侵入するのを防ぐために形成された濾過層とを備えたハニカムフィルタであって、
前記流体流入側及び前記流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、前記濾過層の厚さは、前記流体流入側から前記薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、前記薄層領域から前記流体流出側に向けて漸次厚くなり、
前記セラミックハニカム基材の長手方向の全長に対して、前記気体流入側の端部から87.5〜92.5%の長さとなる任意の領域の1点で測定した濾過層の厚さが10〜50μmであり、濾過層を形成する粒子の平均粒子径は0.2μm〜1.2μmであることを特徴とするハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記封止材を構成する表面のうち、前記セル内部に露出する封止材の表面に濾過層が形成されてなる請求項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記セラミックハニカム基材の気孔率は55〜70%である請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記濾過層は、耐熱性酸化物から構成される請求項1〜のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記耐熱性酸化物は、アルミナ、シリカ、ムライト、セリア、ジルコニア、コージェライト、ゼオライト及びチタニアからなる群から選択される少なくとも1種である請求項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記セラミックハニカム基材は、炭化ケイ素又はケイ素含有炭化ケイ素を含む請求項1〜のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記セラミックハニカム基材を構成するセルは、大容量セルと小容量セルとからなり、
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積は、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積より大きい請求項1〜のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略八角形であり、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である請求項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項9】
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形であり、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である請求項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項10】
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略六角形であり、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略六角形である請求項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、スス等のパティキュレート(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりするために、排ガス浄化装置が用いられている。
このような排ガス浄化装置は、セラミック等の材料からなるハニカムフィルタを用いて作製される。ハニカムフィルタ内に排ガスを通過させることによって排ガスを浄化することができる。
【0004】
排ガス浄化装置において排ガス中のPMを捕集するために用いられるハニカムフィルタでは、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、セルのいずれか一方の端部が封止されている。そのため、一のセルに流入した排ガスは、必ずセル同士を隔てるセル壁を通過した後、他のセルから流出するようになっている。すなわち、このようなハニカムフィルタが排ガス浄化装置に備えられていると、排ガス中に含まれるPMは、ハニカムフィルタを通過する際に、セル壁により捕捉される。従って、ハニカムフィルタのセル壁は、排ガスが浄化されるフィルタとして機能する。
【0005】
ハニカムフィルタがPMを捕集する初期の段階では、セル壁の細孔にPMが侵入し、セル壁の内部でPMが捕集され、セル壁の細孔が閉塞される「深層濾過」の状態になる。深層濾過の状態では、セル壁の内部(細孔)にPMが堆積していく。そのため、PMの捕集開始直後に、セル壁の実質的な気孔率が低下し、急激に圧力損失が上昇するという問題がある。
【0006】
特許文献1には、ハニカムフィルタを構成するセル壁の表層部分に粒子を堆積させてコンポジット領域を形成させたハニカムフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2010/110011号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1において、コンポジット領域を形成するために堆積される粒子は、固気二相流によって供給され、堆積される。特許文献1ではコンポジット領域の高さが隔壁の最外輪郭線から80μm以下と規定されており、セル壁の表層部分全体に均一な厚さのコンポジット領域が形成されていると考えられる。
【0009】
コンポジット領域(以下、本願明細書では「濾過層」と呼ぶ)は、濾過層上にPMを堆積させて捕集する役割を有しており、濾過層の厚さが厚いとより多くのPMを堆積させることができると考えられる。一方、濾過層の厚さが厚いと排ガスが濾過層を通り抜けにくくなるため、圧力損失が高くなる傾向がある。
【0010】
ここで、ハニカムフィルタに流入する排ガスの速度は、流体流出側の端部で速くなると推測され、排ガスに含まれるPMはガスの流れに乗って、流体流出側の端部まで到達しやすい。
そのため、PMが流体流出側の端部において多く堆積する傾向がある。反対に、流体流入側の端部においてはPMの堆積量が少ない傾向がある。
【0011】
上記した、ハニカムフィルタに流入する排ガスの速度の傾向、及び、濾過層の有する性質に起因して、流体流出側の端部においては、PMが大量に堆積される一方で濾過層の厚さが相対的に不足するため、PMの一部が捕集されずに捕集効率が低くなることがあった。
また、濾過層を通り抜けたPMの一部がセル壁の内部で捕集されて、「深層濾過」の状態になることがあった。
一方、流体流入側の端部においては、PMが堆積される量が少ないにもかかわらず濾過層の厚さが過剰となっているため、圧力損失が高くなる原因となっていた。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い捕集効率と低い圧力損失を両立させることのできるハニカムフィルタ、及び、ハニカムフィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のハニカムフィルタは、流体を流通させるための多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止されてなるセラミックハニカム基材と、
上記セル壁の表面のうち、上記流体流入側の端部が開口され、上記流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面に形成された濾過層とを備えたハニカムフィルタであって、
上記濾過層の厚さは、上記流体流入側から上記流体流出側に向かって漸次厚くなることを特徴とする。
【0014】
図1は、排ガスの速度とハニカムフィルタのセル内の場所の関係を示すグラフである。
横軸は、流体流入側の端部を0、流体流出側の端部を1.0とした相対位置を示しており、縦軸は、相対速度を示している。
グラフ中の濃い色の線は、濾過層が形成されていないハニカムフィルタにおける排ガスの速度とハニカムフィルタのセル内の場所の関係を示している。
このグラフからは、ハニカムフィルタに流入する排ガスの速度は、流体流出側で急激に大きくなることがわかる。
流体流出側の排ガスの速度が速いため、多くのPMが流体流出側に堆積し、圧力損失が上昇すると考えられる。
【0015】
グラフ中の薄い色の線は、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向かって漸次厚くなるように濾過層を形成したハニカムフィルタにおける排ガスの速度とハニカムフィルタのセル内の場所の関係を示している。
このグラフからは、流体流出側に厚い濾過層を設けることによって流体流出側における排ガスの速度が低下することがわかる。
本発明では、流体流出側の濾過層を厚く形成することにより、流体流出側の排ガスの速度を低下させることで、流体流出側に堆積するPMの量を減少させる。一方、流体流入側の排ガスの速度を上げることで、流体流入側に堆積するPMの量を増加させる。
しかし、流体流入側の濾過層は薄く形成されているので、圧力損失が上昇しない。
そのため、ハニカムフィルタ全体としての圧力損失を低くすることができる。
また、流体流出側に厚い濾過層が設けられていると、流出側濾過層において漏れを生じることなく多くのPMを堆積させることができる。そのため、捕集効率を高くすることができる。
【0016】
請求項2に記載のハニカムフィルタは、流体を流通させるための多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止されてなるセラミックハニカム基材と、
上記セル壁の表面のうち、上記流体流入側の端部が開口され、上記流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面に形成された濾過層とを備えたハニカムフィルタであって、
上記流体流入側及び上記流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、上記濾過層の厚さは、上記流体流入側から上記薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、上記薄層領域から上記流体流出側に向けて漸次厚くなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載のハニカムフィルタでは、流出側濾過層の厚さが厚いため、流出側濾過層において漏れを生じることなく多くのPMを堆積させることができる。そのため、捕集効率を高くすることができる。
また、流体流出側と流体流入側の間に、濾過層の厚さが薄い薄層領域が存在している。
薄層領域は、流体流出側とは異なり、PMが大量に堆積される領域ではないため、厚い濾過層を必要としない。そのため、薄層領域を設けることによって圧力損失を低くすることができる。
【0018】
請求項3に記載のハニカムフィルタでは、上記封止材を構成する表面のうち、上記セル内部に露出する封止材の表面に濾過層が形成されてなる。
濾過層が、セル内部に露出する封止材の表面にも形成されていると、濾過層が連結されるため、流出側濾過層の剥離が防止される。
【0019】
請求項4に記載のハニカムフィルタでは、上記セラミックハニカム基材の長手方向の全長に対して、上記気体流入側の端部から87.5〜92.5%の長さとなる任意の領域の1点で測定した濾過層の厚さが10〜50μmである。
上記領域で測定した濾過層の厚さは、流出側濾過層の厚さを反映している。
上記厚さが10μm未満であると、多くのPMが漏れる不具合が発生する可能性がある。また、上記厚さが50μmを超えると、流体流出側における圧力損失が高くなり過ぎることがある。
【0020】
請求項5に記載のハニカムフィルタでは、上記セラミックハニカム基材の気孔率は55〜70%である。
気孔率が55〜70%と高めのハニカムフィルタは、セル壁をPMが通過しやすく、捕集効率が低めであるため、濾過層の厚さを厚くして捕集効率を上げることが特に有効である。
流出側濾過層の厚さを厚くすることによって、気孔率が高めのハニカムフィルタであっても捕集効率を高く保つことができる。すなわち、流出側濾過層の厚さを高くする思想は、気孔率が高めのハニカムフィルタに適用することに特に適している。
【0021】
請求項6に記載のハニカムフィルタにおいて、上記濾過層は、耐熱性酸化物から構成され、請求項7に記載のハニカムフィルタにおいて、上記耐熱性酸化物は、アルミナ、シリカ、ムライト、セリア、ジルコニア、コージェライト、ゼオライト及びチタニアからなる群から選択される少なくとも一種である。
濾過層が耐熱性酸化物から構成されていると、PMを燃焼させる再生処理を行った際にも、濾過層が溶融する等の不都合が発生しない。そのため、耐熱性に優れたハニカムフィルタとすることができる。
【0022】
請求項8に記載のハニカムフィルタにおいて、上記セラミックハニカム基材は、炭化ケイ素又はケイ素含有炭化ケイ素を含む。
炭化ケイ素及びケイ素含有炭化ケイ素は、高い硬度を有し、熱分解温度が極めて高い。そのため、上記ハニカムフィルタは、機械的特性及び耐熱性に優れたハニカムフィルタとなる。
【0023】
請求項9に記載のハニカムフィルタでは、上記セラミックハニカム基材を構成するセルは、大容量セルと小容量セルとからなり、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積は、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積より大きい。その結果、全てのセルの断面積が同じハニカムフィルタと比較して、濾過面積が大きくなり、再生処理を行うまでにより多量のPMを堆積させることができる。
【0024】
請求項10に記載のハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略八角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である。そのため、大容量セルと小容量セルとを対称性よく配置し易く、歪等が発生しにくく、機械的強度に優れたハニカムフィルタとなる。
【0025】
請求項11に記載のハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である。
そのため、セラミックハニカム基材を構成する大容量セルと小容量セルとを対称性よく配置し易く、歪等が発生しにくく、機械的強度に優れたハニカムフィルタとなる。
【0026】
請求項12に記載のハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略六角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略六角形である。
【0027】
請求項13に記載のハニカムフィルタの製造方法は、流体を流通させるための多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止されてなるセラミックハニカム基材と、
上記セル壁の表面のうち、上記流体流入側の端部が開口され、上記流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面に形成された濾過層とを備えたハニカムフィルタの製造方法であって、
セラミック粉末を用いて多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止された多孔質のハニカム焼成体を製造するハニカム焼成体製造工程と、
上記球状セラミック粒子の原材料を含む液滴をキャリアガス中に分散させる液滴分散工程と、
上記キャリアガスを100〜800℃で乾燥し、上記球状セラミック粒子の原材料を含む液滴から球状セラミック粒子を形成する乾燥工程と、
上記キャリアガスを、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルに、下記式(1)で算出したキャリアガス流速4〜20mm/s又は1〜3mm/sで流入させ、上記球状セラミック粒子を上記セル壁の表面に堆積させる流入工程と、
上記セラミックハニカム基材を1100〜1500℃に加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
キャリアガス流速=セラミックハニカム基材に単位時間あたりに流入したガス量(mm/s)/セラミックハニカム基材のPM捕集面積(mm)・・・(1)
なお、セラミックハニカム基材のPM捕集面積(mm)とは、流体流入側の全セルの内壁の総合計面積のことである。但し、封止材の面積は除く。
【0028】
上記製造方法では、球状セラミック粒子の原材料を含む液滴をキャリアガス中に分散させ、キャリアガスを100〜800℃で乾燥する。キャリアガスを乾燥することによって、キャリアガスに分散させた液滴中の水分を除去し、球状セラミック粒子を形成することができる。また、キャリアガスに含まれる球状セラミック粒子の原材料が耐熱性酸化物の前駆体であった場合、乾燥工程により耐熱性酸化物の前駆体を球状セラミック粒子とすることができる。
そして、生成した球状セラミック粒子をセルに流入させる際に、キャリアガスの流速を調整する。
キャリアガスの流速を4〜20mm/sとすると、濾過層の厚さ、つまり、球状セラミック粒子の堆積量を、上記流体流入側から上記流体流出側に向かって漸次厚くなるように調整することができる。
また、キャリアガスの流速を1〜3mm/sとすると、上記流体流入側及び上記流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、上記濾過層の厚さが、上記流体流入側から上記薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、上記薄層領域から上記流体流出側に向けて漸次厚くなるように、濾過層の厚さを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、排ガスの速度とハニカムフィルタのセル内の場所の関係を示すグラフである。
図2図2は、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3(a)は、図2に示すハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。図3(b)は、図3(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
図4図4は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルの一例を拡大して模式的に示した拡大断面図である。
図5図5は、濾過層の厚さを測定する際の測定方法を模式的に示す断面図である。
図6図6(a)は、流入側濾過層を示す断面写真であり、図6(b)は、中央部濾過層を示す断面写真であり、図6(c)は、流出側濾過層を示す断面写真である。
図7図7は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルの別の一例を拡大して模式的に示した拡大断面図である。
図8図8(a)は、流入側濾過層を示す断面写真であり、図8(b)は、薄層領域を示す断面写真であり、図8(c)は、流出側濾過層を示す断面写真である。
図9図9(a)、図9(b)及び図9(c)は、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体のセル構造の一例を模式的に示す側面図である。
図10図10は、液滴分散工程及びキャリアガスの流入工程の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0031】
(第一実施形態)
以下、本発明のハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法の一実施形態である第一実施形態について説明する。
【0032】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、セラミックハニカム基材(セラミックブロック)が複数個のハニカム焼成体から構成されている。また、ハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体が有する多数のセルが、大容量セルと小容量セルとからなり、大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積は、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積よりも大きい。
【0033】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタは、ハニカム焼成体を含むセラミックハニカム基材のセル壁の表面に濾過層を形成したものである。
本明細書においては、セル壁の表面に濾過層が形成されていないものを「セラミックハニカム基材」、セル壁の表面に濾過層が形成されたものを「ハニカムフィルタ」として両者を区別する。
また、以下の説明において、単に、ハニカム焼成体の断面と表記した場合、ハニカム焼成体の長手方向に垂直な断面を指す。同様に、単に、ハニカム焼成体の断面積と表記した場合、ハニカム焼成体の長手方向に垂直な断面の面積を指す。
【0034】
本発明において、濾過層とは、セラミックハニカム基材の表面に形成された、PMを濾過することができる層のことをいう。濾過層は、セラミックハニカム基材を構成するセル壁の表面に形成されている必要があるが、濾過層の一部は、セラミックハニカム基材を構成するセル壁の内部に形成されていてもよい。
【0035】
図2は、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
図3(a)は、図2に示すハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。図3(b)は、図3(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
【0036】
図2に示すハニカムフィルタ100では、複数個のハニカム焼成体110が接着材層101を介して結束されてセラミックハニカム基材(セラミックブロック)103を構成し、さらに、このセラミックハニカム基材(セラミックブロック)103の外周には、排ガスの漏れを防止するための外周コート層102が形成されている。なお、外周コート層は、必要に応じて形成されていればよい。
このような、複数個のハニカム焼成体が結束されてなるハニカムフィルタは、集合型ハニカムフィルタともいう。
ハニカムフィルタ100を構成するハニカム焼成体110については後述するが、炭化ケイ素又はケイ素含有炭化ケイ素からなる多孔質体であることが好ましい。
【0037】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体の気孔率は、特に限定されないが、55〜70%であることが好ましい。
気孔率が55〜70%と高めのハニカムフィルタは、セル壁をPMが通過しやすく、捕集効率が低めであるため、濾過層の厚さを厚くして捕集効率を上げることが特に有効である。
【0038】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体の平均気孔径は、5〜30μmであることが好ましい。
ハニカム焼成体の平均気孔径が5μm未満であると、ハニカム焼成体が容易に目詰まりを起こしやすくなる。一方、ハニカム焼成体の平均気孔径が30μmを超えると、パティキュレートがセル壁の気孔を通り抜けてしまい、ハニカム焼成体がパティキュレートを捕集することができず、ハニカムフィルタがフィルタとして機能することができない。
【0039】
なお、上記気孔率及び気孔径は、従来公知の水銀圧入法により測定することができる。
【0040】
図3(a)及び図3(b)に示すハニカム焼成体110には、多数のセル111a及び111bがセル壁113を隔てて長手方向(図3(a)中、矢印aの方向)に並設されるとともに、その外周に外周壁114が形成されている。セル111a及び111bのいずれかの端部は、封止材112a又は112bで封止されている。
そして、図3(b)に示すように、ハニカム焼成体110のセル壁113の表面には、濾過層115が形成されている。なお、図3(a)に示すハニカム焼成体110では、濾過層115を図示していない。
【0041】
図3(a)及び図3(b)に示すハニカム焼成体110においては、長手方向に垂直な断面の面積が小容量セル111bより相対的に大きい大容量セル111aと、長手方向に垂直な断面の面積が大容量セル111aより相対的に小さい小容量セル111bとが、交互に配設されている。
大容量セル111aの長手方向に垂直な断面の形状は略八角形であり、小容量セル111bの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形である。
【0042】
図3(a)及び図3(b)に示すハニカム焼成体110において、大容量セル111aは、ハニカム焼成体110の第1の端面117a側の端部が開口され、第2の端面117b側の端部が封止材112aにより封止されている。一方、小容量セル111bは、ハニカム焼成体110の第2の端面117b側の端部が開口され、第1の端面117a側の端部で封止材112bにより封止されている。
【0043】
従って、図3(b)に示すように、大容量セル111aに流入した排ガスG図3(b)中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、必ず、大容量セル111aと小容量セル111bとを隔てるセル壁113及び濾過層115を通過した後、小容量セル111bから流出するようになっている。排ガスGがセル壁113を通過する際に、排ガス中のPM等が捕集されるため、大容量セル111a及び小容量セル111bを隔てるセル壁113及び濾過層115は、フィルタとして機能する。
【0044】
このように、ハニカム焼成体110の大容量セル111a及び小容量セル111bには、排ガス等の気体を流通させることができる。図3(b)に示す方向に排ガス等の気体を流通させる場合、ハニカム焼成体110の第1の端面117a側の端部(小容量セル111bが封止されている側の端部)を流体流入側の端部といい、ハニカム焼成体110の第2の端面117b側の端部(大容量セル111aが封止されている側の端部)を流体流出側の端部という。
【0045】
すなわち、流体流入側の端部が開口している大容量セル111aは、流体流入側のセル111aであり、流体流出側の端部が開口している小容量セル111bは、流体流出側のセル111bといえる。
【0046】
以下、濾過層について説明する。
図4は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルの一例を拡大して模式的に示した拡大断面図である。
図4には、濾過層115の厚さが流体流入側から流体流出側に向けて漸次厚くなっていることを模式的に示している。また、濾過層115は、セル内部に露出する封止材の表面112Sにも形成されている。
また、図4には、流体流入側から流体流出側に向けて濾過層の厚さを測定する範囲も模式的に示している。
【0047】
ハニカム焼成体の長手方向における全長を100%とし、流体流入側の端部の位置を0%、流体流出側の端部の位置を100%と定める。
そして、流体流入側の端部から流体流出側の端部に向かって7.5%の位置、及び、12.5%の位置を定め、この2つの位置の間の範囲をWとする。
上記範囲Wの中に含まれる任意の1カ所で測定した濾過層の厚さが流入側濾過層の厚さTである。
同様に、流体流入側の端部から流体流出側の端部に向かって47.5%の位置、及び、52.5%の位置を定め、この2つの位置の間の範囲をWとする。
上記範囲Wの中に含まれる任意の1カ所で測定した濾過層の厚さが中央部濾過層の厚さTである。
同様に、流体流入側の端部から流体流出側の端部に向かって87.5%の位置、及び、92.5%の位置を定め、この2つの位置の間の範囲をWとする。
上記範囲Wの中に含まれる任意の1カ所で測定した濾過層の厚さが流出側濾過層の厚さTである。
【0048】
このように測定した流入側濾過層の厚さT、中央部濾過層の厚さT、及び、流出側濾過層の厚さTの大小関係が、T<T<Tであるとき、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向けて漸次厚くなっているといえる。
【0049】
なお、濾過層の厚さは、以下の方法により測定することができる。
図5は、濾過層の厚さを測定する際の測定方法を模式的に示す断面図である。
まず、図4で示す範囲W、W、Wの中にそれぞれ含まれるハニカム焼成体を加工して、10mm×10mm×10mmのサンプルを作製する。
作製した各サンプルの任意の1箇所について、セルの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。SEMの観察条件は、加速電圧:15.00kV、作動距離(WD):15.00mm、倍率:500〜1000倍とする。
図5では、分かりやすいように、実際のSEM写真の代わりに模式図で示している。
次に、図5に示すように、濾過層を構成する粒子の下面に沿って線を引き、これを下面Lとする。また、濾過層を構成する粒子の上面に沿って線を引き、これを上面Lとする。
続いて、SEM写真における左右方向(ハニカム焼成体の長手方向)に50分割する。分割した50箇所において、上面Lと下面Lとの間の距離を測定し、n番目(nは1〜50の整数)の箇所における濾過層の厚さL(n)とする。そして、L(1)〜L(50)の平均値を濾過層の厚さとする。
【0050】
図6(a)は、流入側濾過層を示す断面写真であり、図6(b)は、中央部濾過層を示す断面写真であり、図6(c)は、流出側濾過層を示す断面写真である。
各図面には、下面Lと上面Lとに対応する線を合わせて示している。
図6(a)に示す流入側濾過層の厚さ(T)は3.1μm、中央部濾過層の厚さ(T)は7.3μm、流出側濾過層の厚さ(T)は46.2μmである。濾過層の厚さの関係がT<T<Tとなっており、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向けて漸次厚くなっているといえる。
【0051】
図7は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルの別の一例を拡大して模式的に示した拡大断面図である。
図7には、流体流入側及び流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、濾過層の厚さが、流体流入側から薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、薄層領域から流体流出側に向けて漸次厚くなっている場合を模式的に示している。
【0052】
図7にも、図4に示したものと同様の、濾過層の厚さを測定する範囲Z、Z、Zと濾過層の厚さT、T、Tを示している。
濾過層の厚さを測定する範囲Z、Z、Zを定める方法は、図4に示した範囲W、W、Wを定める方法と同様である。
図7に示すセルでは、流体流入側及び流体流出側の間にある領域の厚さTが最も薄くなっている。この、濾過層の厚さが最も薄くなる領域Zを薄層領域とよぶ。
また、範囲Zから範囲Zにかけて濾過層の厚さが漸次薄くなっており、範囲Zから範囲Zにかけて濾過層の厚さが漸次厚くなっている。
【0053】
図8(a)は、流入側濾過層を示す断面写真であり、図8(b)は、薄層領域を示す断面写真であり、図8(c)は、流出側濾過層を示す断面写真である。
各図面には、下面Lと上面Lとに対応する線を合わせて示している。
図8(a)に示す流入側濾過層の厚さ(T)は26.3μm、薄層領域の厚さ(T)は18.4μm、流出側濾過層の厚さ(T)は33.6μmである。濾過層の厚さの関係がT>T、かつ、T<Tとなっており、流体流入側及び流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在しており、濾過層の厚さが、流体流入側から薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、薄層領域から流体流出側に向けて漸次厚くなっているといえる。
【0054】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいては、ハニカム基材の長手方向の全長に対して、気体流入部から87.5〜92.5%の長さとなる領域の任意の1点で測定した濾過層の厚さは10〜50μmであり、30〜50μmであるとより好ましい。上記濾過層の厚さは流出側濾過層の厚さTである。
流出側濾過層の厚さTが10μm以上であると、多くのPMを漏れることなく堆積させることに適している。また、流出側濾過層の厚さTが50μm以下であると、流体流出側の端部における圧力損失が高くなり過ぎないので好ましい。
【0055】
流入側濾過層の厚さTは10〜30μmであり、常にT<Tの関係が成り立つ。
【0056】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、濾過層を形成する粒子の平均粒子径は、0.2〜1.2μmであることが好ましく、0.2〜0.9μmであることがより好ましく、0.5〜0.8μmであることがさらに好ましい。
濾過層を構成する粒子の平均粒子径が0.2μm未満であると、濾過層を構成する粒子がセル壁の内部(細孔)に侵入して細孔を塞ぐことがあるため、圧力損失が大きくなることがある。一方、濾過層を構成する粒子の平均粒子径が1.2μmを超えると、濾過層を構成する粒子が大きすぎるために、濾過層を形成しても、濾過層の気孔径が大きくなる。そのため、PMが濾過層を通過してセル壁の細孔に侵入し、セル壁の内部でPMが捕集される「深層濾過」の状態になってしまい、圧力損失が大きくなる。
【0057】
なお、濾過層を構成する粒子の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
ハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体を加工して、10mm×10mm×10mmのサンプルを作製する。
作製したサンプルの任意の1箇所について、サンプルの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。この際、濾過層を構成する粒子が一視野内に入るようにする。ここで、SEMとしては、Hitachi製、FE−SEM S−4800を使用することができる。また、SEMの観察条件は、加速電圧:15.00kV、作動距離(WD):15.00mm、倍率:10000倍とする。
次に、一視野内における全ての粒子の粒子径を目視で測定する。一視野内にて測定した全ての粒子の粒子径の平均値を平均粒子径とする。
【0058】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、濾過層を構成する球状セラミック粒子は、耐熱性酸化物セラミック粒子から構成されることが好ましい。
耐熱性酸化物セラミック粒子としては、アルミナ、シリカ、ムライト、セリア、ジルコニア、コージェライト、ゼオライト及びチタニア等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記耐熱性酸化物セラミック粒子の中では、アルミナが好ましい。
【0059】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、濾過層は、セル壁の表面のうち、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面のみに形成されている。
排ガスはハニカムフィルタの流体流入側からセル内に流入するため、排ガス中のPMは、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルのセル壁に多く堆積される。従って、濾過層が、セル壁の表面のうち、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルのセル壁の表面に形成されていると、上記セル壁に堆積されたPMの深層濾過を効率良く防止することができる。
【0060】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、ハニカム焼成体が有する大容量セル及び小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状としては、以下のような形状を挙げることができる。
図9(a)、図9(b)及び図9(c)は、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体のセル構造の一例を模式的に示す側面図である。
なお、図9(a)、図9(b)及び図9(c)では、濾過層を図示していない。
【0061】
図9(a)に示すハニカム焼成体120においては、大容量セル121aの長手方向に垂直な断面の形状は略八角形であり、小容量セル121bの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、大容量セル121aと小容量セル121bとが交互に配列されている。同様に、図9(b)に示すハニカム焼成体130においても、大容量セル131aの長手方向に垂直な断面の形状は略八角形であり、小容量セル131bの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、大容量セル131aと小容量セル131bとが交互に配列されている。図9(a)に示すハニカム焼成体120と図9(b)に示すハニカム焼成体130とでは、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比(大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積/小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積)が異なっている。
また、図9(c)に示すハニカム焼成体140においては、大容量セル141aの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、小容量セル141bの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、大容量セル141aと小容量セル141bとが交互に配列されている。
【0062】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比(大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積/小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積)は、1.4〜2.8であることが好ましく、1.5〜2.4であることがより好ましい。
流体流入側のセルを大容量セルとし、流体流出側のセルを小容量セルとすることにより、流体流入側のセル(大容量セル)に多くのPMを堆積させることができるが、上記面積比が1.4未満であると、大容量セルの断面積と小容量セルの断面積との差が小さいため、大容量セル及び小容量セルを設けた効果が得られにくくなる。一方、上記面積比が2.8を超えると、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積が小さくなりすぎるため、排ガス等の気体が流体流出側のセル(小容量セル)を通過する際の摩擦に起因する圧力損失が大きくなる。
【0063】
次に、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法について説明する。
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法は、流体を流通させるための多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止されてなるセラミックハニカム基材と、
上記セル壁の表面のうち、上記流体流入側の端部が開口され、上記流体流出側の端部が封止材により封止されたセルのセル壁の表面に形成された濾過層とを備えたハニカムフィルタの製造方法であって、
セラミック粉末を用いて多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルの流体流入側又は流体流出側のいずれかの端部が封止された多孔質のハニカム焼成体を製造するハニカム焼成体製造工程と、
上記球状セラミック粒子の原材料を含む液滴をキャリアガス中に分散させる液滴分散工程と、
上記キャリアガスを100〜800℃で乾燥し、上記球状セラミック粒子の原材料を含む液滴から球状セラミック粒子を形成する乾燥工程と、
上記キャリアガスを、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルに、下記式(1)で算出したキャリアガス流速4〜20mm/s又は1〜3mm/sで流入させ、上記球状セラミック粒子を上記セル壁の表面に堆積させる流入工程と、
上記セラミックハニカム基材を1100〜1500℃に加熱する加熱工程とを含むことを特徴とする。
キャリアガス流速=セラミックハニカム基材に単位時間あたりに流入したガス量(mm/s)/セラミックハニカム基材のPM捕集面積(mm)・・・(1)
【0064】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法では、ハニカム焼成体を含むセラミックハニカム基材を作製し、セラミックハニカム基材のセル壁の表面に濾過層を形成する。
以下、他の工程の説明に先立ち、濾過層を形成する工程の手順について説明する。
本実施形態では、液滴分散工程、乾燥工程、キャリアガスの流入工程、及び、セラミックハニカム基材の加熱工程を行うことによって、セラミックハニカム基材のセル壁の表面に濾過層を形成する。
また、本実施形態の説明では、濾過層を構成する材料が耐熱性酸化物である場合を例にして説明する。
なお、ハニカム焼成体を含むセラミックハニカム基材を作製する工程については後述する。
【0065】
図10は、液滴分散工程及びキャリアガスの流入工程の実施形態を模式的に示す断面図である。
図10には、キャリアガスをセラミックハニカム基材のセルに流入させる装置である、キャリアガス流入装置1を示している。
キャリアガス流入装置1は、キャリアガス中に液滴を分散させる液滴分散部20、液滴が分散したキャリアガスが通過する配管部30、キャリアガスをセラミックハニカム基材のセルに流入させる流入部40を備える。
以下、キャリアガス流入装置1を用いて液滴分散工程及びキャリアガスの流入工程を行う場合の例を説明する。
【0066】
キャリアガス流入装置1には、キャリアガスFが図10中の下方から上方に向かって流れている。キャリアガス流入装置1では、キャリアガスFはキャリアガス流入装置1の下方から導入され、液滴分散部20、配管部30、流入部40を経て流入部40の上方から排出される。
【0067】
キャリアガスFは、キャリアガス流入装置の下方からの加圧、又は、キャリアガス流入装置の上方からの吸引によって生み出された圧力差によって、図10における下方から上方に加圧されてキャリアガス流入装置1内を上方に流れる。
キャリアガスとしては、800℃までの加熱で反応せず、また、キャリアガス中に分散する液滴中の成分と反応しないガスが用いられる。
キャリアガスの例としては、空気、窒素、アルゴン等のガスが挙げられる。
【0068】
キャリアガス流入装置1の液滴分散部20では、図示しない槽に満たされた酸化物含有溶液がスプレーにより液滴11となって、キャリアガスF中に分散する。
酸化物含有溶液とは、加熱により耐熱性酸化物が形成される耐熱性酸化物前駆体を含む溶液、又は、耐熱性酸化物粒子を含むスラリーを含む概念である。
【0069】
耐熱性酸化物前駆体とは、加熱により耐熱性酸化物に誘導される化合物を意味する。
例えば、耐熱性酸化物を構成する金属の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水和物などが挙げられる。
耐熱性酸化物がアルミナの場合の耐熱性酸化物前駆体、すなわちアルミナ前駆体としては硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、ダイアスポアなどが挙げられる。
【0070】
また、耐熱性酸化物粒子を含むスラリーとは、耐熱性酸化物粒子が水中に懸濁した溶液である。
【0071】
キャリアガスF中に分散した液滴11は、キャリアガスFの流れに乗ってキャリアガス流入装置1の上方に流れていき、配管部30を通過する。
【0072】
キャリアガス流入装置1の配管部30は、液滴11が分散したキャリアガスFが通過する配管である。
配管部30の、キャリアガスFが通過する通路32は、配管の管壁31で囲まれた空間である。
【0073】
本実施形態で使用するキャリアガス流入装置1では、配管部30に加熱機構33が設けられている。加熱機構33としては、電気ヒーター等が挙げられる。
【0074】
本実施形態では、加熱機構33を用いて配管の管壁31を加熱し、液滴11が分散したキャリアガスFを通過させる。そして、配管部30を通過するキャリアガスFを加熱し、キャリアガスFに分散した液滴11を加熱する。
液滴11が加熱されると、液滴に含まれる液体成分が蒸発し、球状セラミック粒子12が形成される。
図10では、球状セラミック粒子12を、白い丸で示している。
球状セラミック粒子は、耐熱性酸化物の粒子であり、その形状が球状である粒子である。
液滴に耐熱性酸化物前駆体が含まれている場合、キャリアガスの加熱により耐熱性酸化物前駆体は耐熱性酸化物(球状セラミック粒子)となる。
【0075】
本実施形態では、加熱機構33を用いて配管の管壁31を100〜800℃に加熱し、液滴11が分散したキャリアガスFを0.1〜3.0秒間通過させることが好ましい。
加熱された配管の温度が100℃未満であり、かつ、キャリアガスを配管に通過させる時間が0.1秒間未満であると、液滴中の水分を充分に蒸発させることができないことがある。
一方、加熱された配管の温度が800℃を超え、かつ、キャリアガスを配管に通過させる時間が3.0秒間を超えると、ハニカムフィルタを製造するために必要なエネルギーが大きくなりすぎてしまうため、ハニカムフィルタの製造効率が低下する。
【0076】
本実施形態において、配管の長さは、特に限定されないが、500〜3000mmであることが好ましい。
配管の長さが500mm未満であると、キャリアガスを配管に通過させる速度を遅くしても、液滴中の水分を充分に蒸発させることができないことがある。一方、配管の長さが3000mmを超えると、ハニカムフィルタを製造するための装置が大きくなりすぎてしまい、ハニカムフィルタの製造効率が低下する。
【0077】
球状セラミック粒子12は、キャリアガスF中に分散したまま、キャリアガスFの流れに乗ってキャリアガス流入装置1の上方に流れていき、流入部40においてセラミックハニカム基材103のセルに流入する。
【0078】
本実施形態では、セラミックハニカム基材として、ハニカム焼成体が接着材層を介して複数個結束されてなるセラミックブロックを用いる。
セラミックハニカム基材103は、キャリアガス流入装置1の上部において、キャリアガス流入装置1の出口を塞ぐように配置されている。
そのため、キャリアガスFは必ずセラミックハニカム基材103の内部に流入する。
【0079】
図10には、セラミックハニカム基材103の断面として、セラミックブロックを構成するハニカム焼成体の断面(図3(b)に示すものと同様の断面)を模式的に示している。
セラミックハニカム基材103においては、流体流入側のセル111aの端部が開口しており、流体流出側のセル111bが目封止されている。
そのため、キャリアガスFは流体流入側のセル111aの開口からセラミックハニカム基材103の内部に流入する。
そして、セラミックハニカム基材103の流体流入側のセル111aに、球状セラミック粒子12が分散したキャリアガスFが流入すると、球状セラミック粒子12はセラミックハニカム基材103のセル壁113の表面に堆積する。
【0080】
そして、本実施形態では、セラミックハニカム基材103を100〜800℃に加熱しておき、加熱されたセルにキャリアガスFを流入させることが好ましい。
セラミックハニカム基材103が100〜800℃に加熱されていると、球状セラミック粒子12に液体成分が残っていたとしても液体成分が蒸発し、球状セラミック粒子が乾燥した粉末の状態でセル壁の表面に堆積する。
【0081】
キャリアガスFは、流体流入側のセル111aの開口からセラミックハニカム基材103の内部に流入し、セラミックハニカム基材103のセル壁113を通過し、流体流出側のセル111bの開口から流出する。
このような手順によりキャリアガスの流入工程が行われる。
【0082】
続いて、セラミックハニカム基材の加熱工程を行う。
キャリアガスの流入工程を経て球状セラミック粒子がセル壁に付着したセラミックハニカム基材を、加熱炉を用いて炉内温度1100〜1500℃で加熱する。
加熱雰囲気としては大気雰囲気、窒素雰囲気、又は、アルゴン雰囲気とすることが望ましい。
【0083】
この加熱工程によって、球状セラミック粒子の一部が焼結を起こし、架橋体となって球状セラミック粒子同士を結合させる。
そして、セル壁の表面に付着した球状セラミック粒子は加熱により熱収縮を生じてセル壁の表面に強固に固着する。
上記工程を経て濾過層が形成される。
【0084】
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法では、キャリアガスFのセラミックハニカム基材103への流入速度を制御することにより、流入側濾過層の厚さT、中央部濾過層の厚さT、流出側濾過層の厚さTをそれぞれ調節する。
【0085】
キャリアガスFのセラミックハニカム基材103への流入速度を調整することにより、濾過層の厚さが上記流体流入側から上記流体流出側に向かって漸次厚くなるようにすることができる。
濾過層の厚さが上記流体流入側から上記流体流出側に向かって漸次厚くなるようにするための条件は、キャリアガスFの流速を4〜20mm/sとすることが望ましい。
【0086】
また、キャリアガスFのセラミックハニカム基材103への流入速度を調整することにより、流体流入側及び流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、濾過層の厚さが、流体流入側から薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、薄層領域から流体流出側に向けて漸次厚くなるようにすることができる。
濾過層の厚さを上記のような関係にするための条件は、キャリアガスFの流速を1〜3mm/sとすることが望ましい。
【0087】
以下、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法における、ハニカム焼成体を含むセラミックハニカム基材を作製する工程について説明する。
以下で作製するセラミックハニカム基材は、ハニカム焼成体が接着材層を介して複数個結束されてなるセラミックブロックである。
なお、セラミック粉末として、炭化ケイ素を用いる場合について説明する。
(1)セラミック粉末とバインダとを含む湿潤混合物を押出成形することによってハニカム成形体を作製する成形工程を行う。
具体的には、まず、セラミック粉末として平均粒子径の異なる炭化ケイ素粉末と、有機バインダと、液状の可塑剤と、潤滑剤と、水とを混合することにより、ハニカム成形体製造用の湿潤混合物を調製する。
続いて、上記湿潤混合物を押出成形機に投入し、押出成形することにより所定の形状のハニカム成形体を作製する。
この際、図3(a)及び図3(b)に示すセル構造(セルの形状及びセルの配置)を有する断面形状が作製されるような金型を用いてハニカム成形体を作製する。
【0088】
(2)ハニカム成形体を所定の長さに切断し、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて乾燥させた後、所定のセルに封止材となる封止材ペーストを充填して上記セルを目封じする封止工程を行う。
ここで、封止材ペーストとしては、上記湿潤混合物を用いることができる。
【0089】
(3)ハニカム成形体を脱脂炉中で加熱し、ハニカム成形体中の有機物を除去する脱脂工程を行った後、脱脂されたハニカム成形体を焼成炉に搬送し、焼成工程を行うことにより、図3(a)及び図3(b)に示したようなハニカム焼成体を作製する。
なお、セルの端部に充填された封止材ペーストは、加熱により焼成され、封止材となる。
また、切断工程、乾燥工程、封止工程、脱脂工程及び焼成工程の条件は、従来からハニカム焼成体を作製する際に用いられている条件を適用することができる。
【0090】
(4)支持台上で複数個のハニカム焼成体を接着材ペーストを介して順次積み上げて結束する結束工程を行い、ハニカム焼成体が複数個積み上げられてなるハニカム集合体を作製する。
接着材ペーストとしては、例えば、無機バインダと有機バインダと無機粒子とからなるものを使用する。また、上記接着材ペーストは、さらに無機繊維及び/又はウィスカを含んでいてもよい。
【0091】
(5)ハニカム集合体を加熱して接着材ペーストを加熱固化して接着材層とし、四角柱状のセラミックブロックを作製する。
接着材ペーストの加熱固化の条件は、従来からハニカムフィルタを作製する際に用いられている条件を適用することができる。
【0092】
(6)セラミックブロックに切削加工を施す切削加工工程を行う。
具体的には、ダイヤモンドカッターを用いてセラミックブロックの外周を切削することにより、外周が略円柱状に加工されたセラミックブロックを作製する。
【0093】
(7)略円柱状のセラミックブロックの外周面に、外周コート材ペーストを塗布し、乾燥固化して外周コート層を形成する外周コート層形成工程を行う。
ここで、外周コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストを使用することができる。なお、外周コート材ペーストとして、上記接着材ペーストと異なる組成のペーストを使用してもよい。
なお、外周コート層は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
外周コート層を設けることによって、セラミックブロックの外周の形状を整えて、円柱状のセラミックハニカム基材とすることができる。
以上の工程によって、ハニカム焼成体を含むセラミックハニカム基材を作製することができる。
そして、セラミックハニカム基材に対して、上述した液滴分散工程、キャリアガスの流入工程及びセラミックハニカム基材の加熱工程を行うことによって、セラミックハニカム基材のセル壁の表面に濾過層を形成してハニカムフィルタを作製することができる。
【0094】
以下、本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタ、及び、ハニカムフィルタの製造方法の作用効果について列挙する。
(1)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向かって漸次厚くなっているか、又は、流体流入側及び上記流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、上記濾過層の厚さは、上記流体流入側から上記薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、上記薄層領域から上記流体流出側に向けて漸次厚くなっている。
流体流出側の濾過層を厚く形成することにより、流体流出側の排ガスの速度を低下させることで、流体流出側に堆積するPMの量を減少させる。一方、流体流入側の排ガスの速度を上げることで、流体流入側に堆積するPMの量を増加させる。
しかし、流体流入側の濾過層は薄く形成されているので、圧力損失が上昇しない。
そのため、ハニカムフィルタ全体としての圧力損失を低くすることができる。
また、流体流出側に厚い濾過層が設けられていると、流出側濾過層において漏れを生じることなく多くのPMを堆積させることができる。そのため、捕集効率を高くすることができる。
【0095】
(2)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記セラミックハニカム基材の長手方向の全長に対して、上記気体流入側の端部から87.5〜92.5%の長さとなる任意の領域の1点で測定した濾過層の厚さが10〜50μmである。
上記厚さが10μm未満であると、多くのPMが漏れる不具合が発生する可能性がある。また、上記厚さが50μmを超えると、流体流出側における圧力損失が高くなり過ぎることがある。
【0096】
(3)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記ハニカム焼成体の気孔率は55〜70%である。
気孔率が55〜70%と高めのハニカムフィルタは、セル壁をPMが通過しやすく、捕集効率が低めであるため、濾過層の厚さを厚くして捕集効率を上げることが特に有効である。
流出側濾過層の厚さを厚くすることによって、気孔率が高めのハニカムフィルタであっても捕集効率を高く保つことができる。すなわち、流出側濾過層の厚さを高くする思想は、気孔率が高めのハニカムフィルタに適用することに特に適している。
【0097】
(4)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、濾過層は、耐熱性酸化物から構成され、耐熱性酸化物は、アルミナ、シリカ、ムライト、セリア、ジルコニア、コージェライト、ゼオライト及びチタニアからなる群から選択される少なくとも一種である。
濾過層が耐熱性酸化物から構成されていると、PMを燃焼させる再生処理を行った際にも、濾過層が溶融する等の不都合が発生しない。そのため、耐熱性に優れたハニカムフィルタとすることができる。
【0098】
(5)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記セラミックハニカム基材は、炭化ケイ素又はケイ素含有炭化ケイ素を含む。
炭化ケイ素及びケイ素含有炭化ケイ素は、高い硬度を有し、熱分解温度が極めて高い。そのため、上記ハニカムフィルタは、機械的特性及び耐熱性に優れたハニカムフィルタとなる。
【0099】
(6)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記ハニカム焼成体を構成するセルは、大容量セルと小容量セルとからなり、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積は、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の断面積より大きい。その結果、全てのセルの断面積が同じハニカムフィルタと比較して、濾過面積が大きくなり、再生処理を行うまでにより多量のPMを堆積させることができる。
【0100】
(7)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略八角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である。そのため、大容量セルと小容量セルとを対称性よく配置し易く、歪等が発生しにくく、機械的強度に優れたハニカムフィルタとなる。
【0101】
(8)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形である。
そのため、ハニカム焼成体を構成する大容量セルと小容量セルとを対称性よく配置し易く、歪等が発生しにくく、機械的強度に優れたハニカムフィルタとなる。
【0102】
(9)本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法では、球状セラミック粒子の原材料を含む液滴をキャリアガス中に分散させ、キャリアガスを100〜800℃で乾燥する。キャリアガスを乾燥することによって、キャリアガスに分散させた液滴中の水分を除去し、球状セラミック粒子を形成することができる。また、キャリアガスに含まれる球状セラミック粒子の原材料が耐熱性酸化物の前駆体であった場合、乾燥工程により耐熱性酸化物の前駆体を球状セラミック粒子とすることができる。
そして、生成したセラミック粒子をセルに流入させる際に、キャリアガスの流速を調整する。
キャリアガスの流速を4〜20mm/sとすると、濾過層の厚さを、上記流体流入側から上記流体流出側に向かって漸次厚くなるように調整することができる。
また、キャリアガスの流速を1〜3mm/sとすると、上記流体流入側及び上記流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、上記濾過層の厚さが、上記流体流入側から上記薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、上記薄層領域から上記流体流出側に向けて漸次厚くなるように、濾過層の厚さを調整することができる。
【0103】
(実施例)
以下、本発明の第一実施形態のハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
(セラミックハニカム基材の作製)
まず、平均粒子径22μmを有する炭化ケイ素の粗粉末54.6重量%と、平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素の微粉末23.4重量%とを混合し、得られた混合物に対して、有機バインダ(メチルセルロース)4.3重量%、潤滑剤(日油社製 ユニルーブ)2.6重量%、グリセリン1.2重量%、及び、水13.9重量%を加えて混練して湿潤混合物を得た後、押出成形する成形工程を行った。
本工程では、図3(a)に示したハニカム焼成体110と同様の形状であって、セルの目封じをしていない生のハニカム成形体を作製した。
【0105】
次いで、マイクロ波乾燥機を用いて上記生のハニカム成形体を乾燥させることにより、ハニカム成形体の乾燥体を作製した。その後、ハニカム成形体の乾燥体の所定のセルに封止材ペーストを充填してセルの封止を行った。なお、上記湿潤混合物を封止材ペーストとして使用した。セルの封止を行った後、封止材ペーストを充填したハニカム成形体の乾燥体を再び乾燥機を用いて乾燥させた。
【0106】
続いて、セルの封止を行ったハニカム成形体の乾燥体を400℃で脱脂する脱脂処理を行い、さらに、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間の条件で焼成処理を行った。
これにより、四角柱のハニカム焼成体を作製した。
水銀圧入法で測定したハニカム焼成体の気孔率は63%であった。
【0107】
上記工程により得られたハニカム焼成体間に接着材ペーストを塗布して接着材ペースト層を形成し、接着材ペースト層を加熱固化して接着材層とすることにより、16個のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなる略角柱状のセラミックブロックを作製した。
なお、接着材ペーストとしては、平均繊維長20μmのアルミナファイバ30重量%、平均粒径0.6μmの炭化ケイ素粒子21重量%、シリカゾル15重量%、カルボキシメチルセルロース5.6重量%、及び、水28.4重量%を含む接着材ペーストを使用した。
【0108】
その後、ダイヤモンドカッターを用いて、角柱状のセラミックブロックの外周を切削することにより、直径142mmの円柱状のセラミックブロックを作製した。
【0109】
次に、円柱状のセラミックブロックの外周面に外周コート材ペーストを塗布し、外周コート材ペーストを120℃で加熱固化することにより、セラミックブロックの外周部に外周コート層を形成した。
なお、上記外周コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストと同様のペーストを使用した。
以上の工程によって、直径143.8mm×長さ150mmの円柱状のセラミックハニカム基材を作製した。
【0110】
(液滴分散工程及び濾過層形成工程)
図10に示すキャリアガス流入装置を用いてセラミックハニカム基材に濾過層を形成した。
図10に示すようにキャリアガス流入装置の上方に、セラミックハニカム基材を配置した。
この際、流体流入側のセルとしての大容量セルの開口部をキャリアガス流入装置の下方に向けてセラミックハニカム基材を配置した。
【0111】
酸化物含有溶液として、耐熱性酸化物前駆体であるベーマイトを含有する溶液を準備した。ベーマイトの濃度は3.8mol/lとした。
そして、ベーマイトを含有する液滴をスプレーによりキャリアガス中に分散させた。
【0112】
キャリアガス流入装置の配管の管壁の温度を200℃に加熱しておき、キャリアガスを流速15.8mm/sでキャリアガス流入装置の上方(セラミックハニカム基材側)に向けて流し、キャリアガス中に分散した液滴中の水分を蒸発させた。キャリアガスが配管を通過する際に液滴中の水分が蒸発することにより、液滴は球状アルミナ粒子となった。
なお、配管の長さは1200mmであった。
キャリアガス流速は、セラミックハニカム基材に単位時間当たりに流入したガス量3173900mm/s、及び、セラミックハニカム基材のPM捕集面積200340mmから式(1)に基づき算出した。
【0113】
球状アルミナが分散したキャリアガスをセラミックハニカム基材のセルに流入させ、球状アルミナをセル壁の表面に付着させた。
その後、セラミックハニカム基材をキャリアガス流入装置から取出し、焼成炉中で1350℃、3時間、大気雰囲気下で加熱した。
上記工程により、アルミナ粒子からなる濾過層がセル壁の表面に形成されたハニカムフィルタを製造した。
【0114】
上記工程により得られたハニカムフィルタの濾過層の電子顕微鏡写真が、図6(a)、図6(b)、図6(c)に示す写真である。
SEM写真の撮影条件は、装置名:Hitachi製、FE−SEM S−4800、反射電子像、加速電圧15.0kV、倍率500倍である。図4に示す範囲W、範囲W、範囲Wにおいて撮影した写真について、上記した測定方法により濾過層の厚さを測定した。
図6(a)に示す流入側濾過層の厚さ(T)は3.1μm、中央部濾過層の厚さ(T)は7.3μm、流出側濾過層の厚さ(T)は46.2μmである。濾過層の厚さの関係がT<T<Tとなっており、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向けて漸次厚くなっているといえる。
キャリアガス流速は、セラミックハニカム基材に単位時間当たりに流入したガス量352600mm/s、及び、セラミックハニカム基材のPM捕集面積200340mmから式(1)に基づき算出した。
【0115】
(実施例2)
実施例1において、キャリアガスの流速を1.8mm/sに変更した他は実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
上記工程により得られたハニカムフィルタの濾過層の電子顕微鏡写真が、図8(a)、図8(b)、図8(c)に示す写真である。
実施例1と同様の撮影条件でSEM写真を撮影し、図7に示す範囲Z、範囲Z、範囲Zにおいて撮影した写真について、上記した測定方法により濾過層の厚さを測定した。
図8(a)に示す流入側濾過層の厚さ(T)は26.3μm、薄層領域の厚さ(T)は18.4μm、流出側濾過層の厚さ(T)は33.6μmである。濾過層の厚さの関係がT>T、かつ、T<Tとなっており、流体流入側及び流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在しており、濾過層の厚さが、流体流入側から薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、薄層領域から流体流出側に向けて漸次厚くなっているといえる。
キャリアガス流速は、セラミックハニカム基材に単位時間当たりに流入したガス量352600mm/s、及び、セラミックハニカム基材のPM捕集面積200340mmから式(1)に基づき算出した。
【0116】
実施例1及び実施例2で製造した、上記濾過層を有するハニカムフィルタは、流体流出側の濾過層の厚さが、流体流入側の濾過層の厚さよりも厚い(T<Tを満たす)ことから、流体流出側にPMが多く堆積しないため、圧力損失の上昇を防止することができる。また、流体流出側の濾過層の厚さが厚いため、PMを捕集しやすくなり、捕集効率が高くなる。
【0117】
(その他の実施形態)
本発明の第一実施形態に係るハニカムフィルタでは、濾過層は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルのセル壁の表面のみに形成されている。
しかしながら、本発明の他の実施形態に係るハニカムフィルタでは、濾過層は、流体流入側の端部が開口され、流体流出側の端部が封止されたセルのセル壁の表面に加えて、流体流入側の端部が封止され、流体流出側の端部が開口されたセルのセル壁の表面に形成されていてもよい。
このようなハニカムフィルタは、予め作製しておいた球状セラミック粒子を含むスラリーにセラミックハニカム基材を浸漬した後に加熱することによって製造することができる。
【0118】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタの製造方法では、液滴に、セラミック粒子の原材料として、耐熱性酸化物粒子が含まれていてもよい。
液滴に耐熱性酸化物粒子が含まれている場合、キャリアガスを加熱することによって液滴中の水分を除去して耐熱性酸化物の粒子を得ることができる。そして、耐熱性酸化物の粒子をセルに流入させることによって、耐熱性酸化物の粒子から構成される濾過層を形成することができる。
また、耐熱性酸化物粒子を含む液滴をセルに流入させた後、液滴中の水分を除去することによっても、耐熱性酸化物の粒子から構成される濾過層を形成することができる。
【0119】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、ハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体が有するセルの長手方向に垂直な断面の形状は、すべて等しい形状であってもよく、ハニカム焼成体の一の端面において封止されているセルと開口されているセルの長手方向に垂直な断面の面積が互いに等しくてもよい。
【0120】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、セラミックハニカム基材(セラミックブロック)が1つのハニカム焼成体から構成されていてもよい。
このような、1つのハニカム焼成体からなるハニカムフィルタは、一体型ハニカムフィルタともいう。一体型ハニカムフィルタの主な構成材料としては、コージェライトやチタン酸アルミニウムを用いることができる。
【0121】
本発明の実施形態に係るハニカムフィルタにおいて、ハニカム焼成体の各セルのハニカム焼成体の長手方向に垂直な断面の形状は、略四角形に限定されるものではなく、例えば、略円形、略楕円形、略五角形、略六角形、略台形、又は、略八角形等の任意の形状であればよい。また、種々の形状を混在させてもよい。
【0122】
本発明のハニカムフィルタにおいては、セラミックハニカム基材のセル壁の表面に濾過層が形成されており、濾過層の厚さが流体流入側から流体流出側に向かって漸次厚くなること、又は、流体流入側及び流体流出側の間に濾過層の厚さが最も薄くなる薄層領域が存在し、濾過層の厚さが、流体流入側から薄層領域にかけて漸次薄くなり、かつ、薄層領域から流体流出側に向けて漸次厚くなることを必須の構成要素としている。
係る必須の構成要素に、第一実施形態、及び、その他の実施形態で詳述した種々の構成(例えば、濾過層の構成、濾過層の形成方法、ハニカム焼成体のセル構造、ハニカムフィルタの製造工程等)を適宜組み合わせることにより所望の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0123】
1 キャリアガス流入装置
11 液滴
12 球状セラミック粒子
100 ハニカムフィルタ
103 セラミックハニカム基材(セラミックブロック)
110、120、130、140 ハニカム焼成体
111a、111b、121a、121b、131a、131b、141a、141b セル
112a、112b 封止材
112S セル内部に露出する封止材の表面
113 セル壁
115 濾過層
F キャリアガス
排ガス
薄層領域
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図9
図10
図6
図8