(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造装置は、溶液成長法によるSiC単結晶の製造に用いられる。SiC単結晶の製造装置は、シードシャフトと、坩堝と、撹拌部材と、駆動源とを備える。シードシャフトは、SiC種結晶が取り付けられる下端面を有する。坩堝は、Si−C溶液を収容する。撹拌部材は、Si−C溶液に浸漬されるとともに、撹拌部材の下端がシードシャフトの下端面に取り付けられたSiC種結晶の下端より低くなるように配置される。駆動源は、坩堝及び撹拌部材の何れか一方を他方に対して相対的に回転させる。
【0014】
この場合、坩堝及び撹拌部材の何れか一方が他方に対して相対的に回転する。そのため、撹拌部材により、Si−C溶液が撹拌される。撹拌部材の下端がシードシャフトの下端面に取り付けられたSiC種結晶の下端より低くにあるので、SiC種結晶の下端より低い領域にあるSi−C溶液が撹拌される。このようにして撹拌部材によってSi−C溶液が撹拌されると、SiC単結晶の成長界面の近傍に存在するSi−C溶液が流動しやすくなる。そのため、SiC単結晶の成長界面の近傍において、Si−C溶液の温度分布及びSi−C溶液に含まれる溶質の濃度分布が均一になりやすい。その結果、成長界面内で成長速度がばらつくのを抑えることができる。
【0015】
好ましくは、駆動源は、坩堝を回転させる第1駆動源を備える。この場合、坩堝を回転させることにより、坩堝と撹拌部材との相対回転が可能になる。
【0016】
好ましくは、駆動源は、上記第1駆動源に加えて、第2駆動源を備える。第2駆動源は、撹拌部材をシードシャフトの中心軸線周りに回転させる。
【0017】
坩堝及び撹拌部材のそれぞれを、或いは、坩堝及び撹拌部材の何れかを回転させることにより、坩堝と撹拌部材との相対回転を実現してもよい。
【0018】
好ましくは、第2駆動源は、坩堝の回転方向とは逆方向に撹拌部材を回転させる。この場合、坩堝に対する撹拌部材の相対回転数が増加する。その結果、坩堝内のSi−C溶液がさらに撹拌され易くなる。
【0019】
好ましくは、撹拌部材はSiC種結晶の下方に配置される。この場合、撹拌部材は、シードシャフトの中心軸線上で、SiC種結晶に対向するように配置され、SiC種結晶の結晶成長面の近傍に存在するSi−C溶液が撹拌され易くなる。
【0020】
好ましくは、撹拌部材はシードシャフトの中心軸線周りに回転可能な撹拌翼である。ここで、「撹拌翼」とは、回転軸の周りに回転可能な板状部材を備えた部材をいう。この場合、Si−C溶液を効率よく撹拌できる。
攪拌翼は、シードシャフトの中心軸線に対して斜交した羽根を有するもの(たとえば、プロペラ)であってもよく、この場合、羽根は、シードシャフトの中心軸線周りに回転可能であってもよい。この場合、坩堝及び撹拌部材の何れか一方を他方に対して相対的に回転させると、撹拌翼により、Si−C溶液に、上昇流、または下降流を生じさせることができる。
【0021】
撹拌部材は、シードシャフトに取り付けられていてもよい。この場合、駆動源がシードシャフトを回転させてもよい。また、撹拌部材は、シードシャフトに取り付けられていなくてもよい。この場合、例えば、シードシャフトと撹拌部材とが、互いに異なる駆動源により、互いに独立に回転させられてもよい。
【0022】
いずれの場合も、シードシャフトを回転させることにより、坩堝と撹拌部材との相対回転が可能になる。
【0023】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法は、上記製造装置を用いる。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0025】
[製造装置]
図1は、本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造装置10の概略構成図である。製造装置10は、チャンバ12と、坩堝14と、断熱部材16と、加熱装置18と、第1駆動装置20と、第2駆動装置22と、第3駆動装置24とを備える。
【0026】
チャンバ12は、坩堝14を収容する。SiC単結晶を製造するとき、チャンバ12は冷却される。
【0027】
坩堝14は、Si−C溶液15を収容する。Si−C溶液15は、SiC単結晶の原料である。Si−C溶液15は、シリコン(Si)と炭素(C)とを含有する。
【0028】
Si−C溶液15の原料は、例えば、Si単体、又は、Siと他の金属元素との混合物である。原料を加熱して融液とし、この融液にカーボン(C)が溶解することにより、Si−C溶液15が生成される。他の金属元素は、例えば、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、鉄(Fe)等である。これらの金属元素のうち、好ましい金属元素は、Ti、Cr及びFeである。さらに好ましい金属元素は、Ti及びCrである。
【0029】
好ましくは、坩堝14は炭素を含有する。この場合、坩堝14は、Si−C溶液15への炭素供給源になる。坩堝14は、例えば、黒鉛からなる坩堝であってもよいし、SiCからなる坩堝であってもよい。坩堝14は、内表面をSiCで被覆してもよい。
【0030】
断熱部材16は、断熱材からなり、坩堝14を取り囲む。
【0031】
加熱装置18は、例えば、高周波コイルであり、断熱部材16の側壁を取り囲む。加熱装置18は、Si−C溶液15の原料が収容された坩堝14を誘導加熱し、Si−C溶液15を生成する。加熱装置18は、さらに、Si−C溶液15を結晶成長温度に維持する。結晶成長温度は、Si−C溶液15の組成に依存する。結晶成長温度は、例えば、1600〜2000℃である。
【0032】
第1駆動装置20は、回転軸20Aと、駆動源20Bとを備える。
【0033】
回転軸20Aは、チャンバ12の高さ方向(
図1の上下方向)に長い。回転軸20Aの上端は、断熱部材16内に位置する。回転軸20Aの上端には、坩堝14が配置される。回転軸20Aの下端は、チャンバ12の外側に位置する。
【0034】
駆動源20Bは、チャンバ12の下方に配置される。駆動源20Bは、回転軸20Aに連結される。駆動源20Bは、回転軸20Aの中心軸線周りに、回転軸20Aを回転させる。これにより、坩堝14(Si−C溶液15)が中心軸線周りに回転する。
【0035】
第2駆動装置22は、シードシャフト22Aと、架台22Bと、駆動源22Cと、駆動源22Dとを備える。
【0036】
シードシャフト22Aは、チャンバ12の高さ方向に長い。シードシャフト22Aは、例えば、黒鉛からなる。シードシャフト22Aの上端は、チャンバ12の外側に位置する。シードシャフト22Aの下端面22Sには、SiC種結晶32が取り付けられる。
【0037】
SiC種結晶32は板状であり、その上面が下端面22Sに取り付けられる。本実施形態では、SiC種結晶32の上面全体が下端面22Sに接する。SiC種結晶32の下面が、結晶成長面になる。
【0038】
SiC種結晶32は、SiC単結晶からなる。好ましくはSiC種結晶32の結晶構造は、製造しようとするSiC単結晶の結晶構造と同じである。例えば、4H多形のSiC単結晶を製造する場合、4H多形のSiC種結晶32を用いる。4H多形のSiC種結晶32を用いる場合、結晶成長面は、(0001)面であるか、又は、(0001)面から8°以下の角度で傾斜した面であることが好ましい。この場合、SiC単結晶が安定して成長する。
【0039】
架台22Bは、チャンバ12の上方に配置される。架台22Bは、シードシャフト22Aが挿入される孔を有する。架台22Bは、シードシャフト22Aと駆動源22Cとを支持する。このとき、シードシャフト22Aは、シードシャフト22Aの中心軸線周りで架台22Bに対して相対回転可能である。また、シードシャフト22Aは、架台22Bとともに、上下方向に移動可能である。
【0040】
駆動源22Cは、シードシャフト22Aの中心軸線周りに、シードシャフト22Aを回転させる。これにより、シードシャフト22Aの下端面22Sに取り付けられたSiC種結晶32が回転する。
【0041】
駆動源22Dは、チャンバ12の外側に配置される。駆動源22Dは、架台22Bを昇降する。これにより、シードシャフト22Aが昇降する。その結果、シードシャフト22Aの下端面22Sに取り付けられたSiC種結晶32の結晶成長面を、坩堝14が収容するSi−C溶液15の液面に接触させることができる。
【0042】
第3駆動装置24は、撹拌部材24Aと、支持部材24Bと、架台24Cと、駆動源24Dと、駆動源24Eとを備える。
【0043】
撹拌部材24Aは、Si−C溶液15に浸漬される。撹拌部材24Aは、シードシャフト22Aの中心軸線周りに回転可能な撹拌翼である。本実施形態では、撹拌部材24Aは、所謂パドル翼である。撹拌部材24Aは、シードシャフト22Aの中心軸線上で、SiC種結晶32の下方に配置され、SiC種結晶32に対向する。この実施形態では、撹拌部材24Aの全体が、SiC種結晶32の下端32aより低くにある。
【0044】
撹拌部材24Aは、
図2に示すように、軸28Aと、複数(本実施形態では、4つ)の羽根(板状部材)28Bとを備える。軸28Aは、シードシャフト22Aと共通の中心軸線を有するように配置されており、複数の羽根28Bを、この中心軸に平行に、この中心軸線から径方向に延びるように支持する。複数の羽根28Bは、軸28Aの中心軸線周りの周方向に等角度間隔に配置される。
【0045】
再び、
図1を参照しながら、説明する。支持部材24Bは、第1支持部26Aと、第2支持部26Bと、一対の連結部26C、26Cとを備える。
【0046】
第1支持部26Aは、SiC種結晶32の下方に配置され、撹拌部材24Aを支持する。撹拌部材24Aは、第1支持部26Aと、種結晶32との間に配置される。
【0047】
第2支持部26Bは、坩堝14の上方に配置される。第2支持部26Bは、シードシャフト22Aが挿入される孔を有する。第2支持部26Bは、シードシャフト22Aと同軸に配置された駆動軸26Dを含む。駆動軸26Dの少なくとも上端は、チャンバ12の上方に位置する。駆動軸26Dに対して、駆動源24Dの駆動力が伝達される。
【0048】
一対の連結部26C、26Cは、上下方向に延びて、第1支持部26Aと第2支持部26Bとを連結する。
【0049】
架台24Cは、チャンバ12の上方に配置される。架台24Cは、シードシャフト22A及び支持部材24B(駆動軸26D)が挿入される孔を有する。架台24Cは、支持部材24B及び駆動源24Dを支持する。支持部材24Bは、シードシャフト22Aの中心軸線周りで架台24Cに対して相対回転可能である。また、支持部材24Bは、架台24Cとともに、上下方向に移動可能である。
【0050】
駆動源24Dは、シードシャフト22Aの中心軸線周りに、支持部材24Bを回転(例えば、定常回転)させる。これにより、撹拌部材24Aがシードシャフト22Aの中心軸線周りに回転する。
【0051】
駆動源24Eは、チャンバ12の外側に配置される。駆動源24Eは、架台24Cを昇降する。これにより、撹拌部材24Aが昇降する。その結果、撹拌部材24Aを、坩堝14が収容するSi−C溶液15に浸漬させることができる。
【0052】
[SiC単結晶の製造方法]
製造装置10を用いたSiC単結晶の製造方法について説明する。初めに、製造装置10を準備する(準備工程)。次に、シードシャフト22AにSiC種結晶32を取り付ける(取付工程)。次に、チャンバ12内に坩堝14を配置し、Si−C溶液15を生成する(生成工程)。次に、撹拌部材24AをSi−C溶液15に浸漬させる(浸漬工程)。次に、SiC種結晶32を坩堝14内のSi−C溶液15に接触させる(接触工程)。次に、SiC単結晶を育成する(育成工程)。以下、各工程の詳細を説明する。
【0053】
[準備工程]
初めに、製造装置10を準備する。
【0054】
[取付工程]
続いて、シードシャフト22Aの下端面22SにSiC種結晶32を取り付ける。本実施形態では、SiC種結晶32の上面全体がシードシャフト22Aの下端面22Sに接する。
【0055】
[生成工程]
次に、チャンバ12内の回転軸20A上に、坩堝14を配置する。坩堝14は、Si−C溶液15の原料を収容する。
【0056】
次に、Si−C溶液15を生成する。先ず、チャンバ12内に不活性ガスを充填する。そして、加熱装置18により、坩堝14内のSi−C溶液15の原料を融点(液相線温度)以上に加熱する。坩堝14が黒鉛からなる場合、坩堝14を加熱すると、坩堝14から炭素が融液に溶け込み、Si−C溶液15が生成される。坩堝14の炭素がSi−C溶液15に溶け込むと、Si−C溶液15内の炭素濃度は飽和濃度に近づく。
【0057】
[浸漬工程]
次に、駆動源24Eにより、架台24Cを降下し、撹拌部材24AをSi−C溶液15に浸漬させる。
【0058】
[接触工程]
次に、駆動源22Dにより、架台22Bを降下し、SiC種結晶32の結晶成長面をSi−C溶液15に接触させる。
【0059】
[育成工程]
SiC種結晶32の結晶成長面をSi−C溶液15に接触させた後、加熱装置18により、Si−C溶液15を結晶成長温度に保持する。さらに、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍を過冷却して、SiCを過飽和状態にする。
【0060】
Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍を過冷却する方法は特に限定されない。例えば、加熱装置18を制御して、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍領域の温度を他の領域の温度より低くしてもよい。或いは、冷媒により、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍を冷却してもよい。具体的には、シードシャフト22Aの内部に冷媒を循環させる。冷媒は例えば、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスである。シードシャフト22A内に冷媒を循環させれば、SiC種結晶32が冷却される。SiC種結晶32が冷えれば、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍も冷える。
【0061】
Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍領域のSiCを過飽和状態にしたまま、撹拌部材24Aの下端がシードシャフト22Aの下端面に取り付けられたSiC種結晶32の下端より低くなるようにして、撹拌部材24A及び坩堝14の何れか一方を他方に対して相対的に回転させる。この実施形態では、撹拌部材24Aの全体が、SiC種結晶32の下端より低くにある。このときの回転は、定常回転であってもよいし、定常回転でなくてもよい。
【0062】
撹拌部材24A及び坩堝14の何れか一方を他方に対して相対的に回転させる方法としては、例えば、(1)撹拌部材24Aを停止したままで、坩堝14を回転させる方法と、(2)坩堝14を回転させながら、撹拌部材24Aを坩堝14とは逆方向に回転させる方法と、(3)坩堝14を停止したままで、撹拌部材24Aを回転させる方法と、(4)坩堝14及び撹拌部材24Aを同じ方向に異なる回転数で回転させる方法とがある。
【0063】
坩堝14を回転させながら、撹拌部材24Aを坩堝14とは逆方向に回転させる場合、坩堝14の回転数と撹拌部材24Aの回転数とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
シードシャフト22Aは、回転してもよいし、回転しなくてもよい。シードシャフト22Aが回転する場合、シードシャフト22Aは、坩堝14と同じ方向に回転してもよいし、逆方向に回転してもよい。シードシャフト22Aは、上昇してもよいし、上昇しなくてもよい。
【0065】
上述の製造方法によれば、坩堝14及び撹拌部材24Aの何れか一方が他方に対して相対的に回転する。そのため、撹拌部材24Aにより、Si−C溶液15が撹拌される。その結果、撹拌部材24Aが設けられずに坩堝14だけが回転する場合よりも、SiC単結晶の成長界面の近傍に存在するSi−C溶液15が流動しやすくなる。撹拌部材24Aの下端がシードシャフト22Aの下端面に取り付けられたSiC種結晶32の下端より低くにあるので、SiC種結晶32の下端より低い領域にあるSi−C溶液が効率よく撹拌される。そのため、SiC単結晶の成長界面の近傍において、Si−C溶液15の温度分布及びSi−C溶液15に含まれる溶質の濃度分布が均一になりやすい。その結果、成長界面内で成長速度がばらつくのを抑えることができる。この実施形態では、連結部26CにおいてSi−C溶液15に浸漬されSiC種結晶32の下端より低くにある部分、及び第1支持部26Aの全体も、本願発明における撹拌部材として機能する。
【0066】
好ましくは、撹拌部材24Aが坩堝14とは逆方向に回転する。この場合、坩堝14に対する撹拌部材24Aの相対回転数が増加する。その結果、坩堝14内のSi−C溶液15が撹拌され易くなる。
【0067】
上記実施形態では、撹拌部材24Aが、SiC種結晶32の下方に、SiC種結晶32の下端をなす結晶成長面に対向して、配置される。そのため、SiC単結晶の成長界面の近傍に存在するSi−C溶液15が撹拌され易くなる。
【0068】
上記実施形態では、撹拌部材24Aが撹拌翼(パドル翼)である。そのため、Si−C溶液15を効率よく撹拌できる。
【0069】
[撹拌部材の変形例1]
例えば、
図3に示すように、撹拌部材24A1はシードシャフト22Aに取り付けてもよい。撹拌部材24A1は、取付部29Aと、延出部29Bと、撹拌部29Cとを備える。
【0070】
取付部29Aは、シードシャフト22Aに取り付けられる。延出部29Bは、取付部29Aの下端から水平方向に延びだす。撹拌部29Cは、延出部29Bの一端(延出端)から下方に延びだす。撹拌部29Cは、Si−C溶液15に浸漬される。撹拌部29Cの下端29Caは、撹拌部材24A1の下端をなし、SiC種結晶32の下端32aよりも低くにある。このように、撹拌部材24A1の少なくとも一部がSiC種結晶32の下端32aよりも低くにあることにより、SiC種結晶32の下端32aより低い領域にあるSi−C溶液を効率よく撹拌することができる。この変形例のように、本願発明における撹拌部材は、必ずしも、
図1に示す撹拌部材24Aのように、全体がSiC種結晶32の下端32aよりも低くある必要はない。
【0071】
このような撹拌部材24A1では、シードシャフト22Aを回転させることにより、撹拌部材24A1がシードシャフト22Aの中心軸線周りに回転する。そのため、撹拌部材24A1だけを回転させる駆動源を設けなくてもよい。その結果、製造装置の構成が簡単になる。
【0072】
以下、撹拌部材(撹拌翼)の変形例として、
図1に示す製造装置10において、撹拌部材24Aの代わりに、第1支持部26Aの上に取り付けて使用することができるものについて、
図4A〜
図4Gを参照して説明する。このように撹拌部材24Aの代わりに使用すると、以下の変形例の撹拌部材は、シードシャフト22Aの中心軸線周りに回転する。
【0073】
[撹拌部材の変形例2]
図4Aに示す撹拌部材41は、所謂タービンであり、軸41Aと、軸41Aに同軸状に取り付けられるディスク41Cと、ディスク41Cに取り付けられる複数(本実施形態では、6つ)の羽根(板状部材)41Bとを備える。複数の羽根41Bは、軸41Aの中心軸線に対して周方向に等角度間隔に配置され、軸41Aに平行に軸41Aに対して径方向に延びるように、ディスク41Cに取り付けられている。羽根41Bは、軸41Aに対してほぼ平行であるとともに、ディスク41Cにほぼ直交している。
【0074】
この変形例の撹拌部材41では、
図1及び
図2に示す撹拌部材24Aに比して、羽根41B(28B)を軸41A(28A)から遠くに配置することが容易であるので、軸41A(28A)から遠い領域のSi−C溶液15を撹拌するのに適している。
【0075】
[撹拌部材の変形例3]
図4Bに示す撹拌部材45は、軸45Aと、複数(本実施形態では、4つ)の羽根45Bとを備える。各羽根45Bは、その径方向中間部が軸45A周りの一方の回転方向に突出するように湾曲している。各羽根45Bの主面は、軸45Aにほぼ平行な母線を有する。各羽根45Bが湾曲していることにより、坩堝14、及び/又は撹拌部材45の軸まわりの回転方向によって、その回転速度が同じであっても、Si−C溶液15に対して異なる撹拌力を与えることができる。具体的には、Si−C溶液15を、羽根45Bにおいて、凸湾曲面で受けるよりも、凹湾曲面で受ける方が、Si−C溶液15に対して強い撹拌力を与える。例えば、
図4Bにおいて、撹拌部材45は、時計回りに回転しているときよりも、反時計回りに回転しているときの方が、Si−C溶液に対して強い撹拌力を与える。
【0076】
[撹拌部材の変形例4]
図4Cに示す撹拌部材46は、軸46Aと、軸46Aから軸46Aの径方向両側に延びる複数(本実施形態では、2つ)の支持棒46Bと、複数の支持棒46Bの一方端、及び他方端に取り付けられる羽根46Cとを備える。複数の支持棒46Bは、互いにほぼ平行に、軸46Aにほぼ直交する方向に延びている。羽根46Cは、細長い板状の形状を有しており、軸46Aにほぼ平行に延びている。
【0077】
この撹拌部材46を用いると、Si−C溶液15は、羽根46C、および支持棒46Bにより撹拌される一方、軸46A、支持棒46B、および羽根46Cに囲まれた空間に存在するSi−C溶液15は、直接的には撹拌されない。これにより、Si−C溶液15に複雑な流れを形成することができる。
【0078】
[撹拌部材の変形例5]
図4Dに示す撹拌部材42は、所謂プロペラであり、軸42Aと、複数(本実施形態では、3つ)の羽根42Bとを備える。羽根42Bは、丸みを帯びた輪郭を有する。羽根42Bは、軸42Aに対して斜交している。撹拌部材42が、
図1の製造装置10において、撹拌部材24Aの代わりに使用されると、羽根42Bは、シードシャフト22Aの中心軸線に対して斜交するとともに、シードシャフト22Aの中心軸線の周りに回転可能である。
【0079】
これにより、坩堝14及び撹拌部材42の何れか一方を他方に対して相対的に回転させると、坩堝14、及び/又は撹拌部材42の軸まわりの回転方向によって、撹拌部材42の近傍でSi−C溶液15に、上昇流、又は下降流を生じさせることができる。
【0080】
撹拌部材42を設けない場合に、SiC種結晶32上に成長するSiC結晶が凸形状に(周縁部に比して中央部で厚く)成長する傾向があるときは、SiC結晶の中央部を通る鉛直軸上でSi−C溶液15の下降流が生じるように、坩堝14、及び/又は撹拌部材42を回転させることが好ましい。一方、撹拌部材42を設けない場合に、SiC種結晶32上に成長するSiC結晶が凹形状に(周縁部に比して中央部で薄く)成長する傾向があるときは、SiC結晶の中央部を通る鉛直軸上でSi−C溶液15の上昇流が生じるように、坩堝14、及び/又は撹拌部材42を回転させることが好ましい。これらの場合、SiC結晶において、中央部と周縁部との厚みの差を、撹拌部材42を設けない場合に比して小さくすることができる。
【0081】
[撹拌部材の変形例6]
図4Eに示す撹拌部材43は、
図4Dに示す撹拌部材42と同様、所謂プロペラであり、軸43Aと、主面の輪郭が丸みを帯びた複数(本実施形態では、3つ)の羽根43Bとを備える。この撹拌部材43を用いることにより、撹拌部材42を用いた場合と同様の効果を奏することができる。この変形例の撹拌部材43では、羽根43Bの幅は、撹拌部材42に備えられた羽根42Bの幅より大きい。これにより、撹拌効率を高くすることができる。
【0082】
[撹拌部材の変形例7]
図4Fに示す撹拌部材44は、
図4D、および
図4Eにそれぞれ示す撹拌部材42、43と同様、所謂プロペラであり、軸44Aと、複数(本実施形態では、4つ)の羽根44Bとを備える。羽根44Bは、羽根42B、43Bとは異なり、ほぼ矩形の主面を有する。このように、羽根44Bは、丸みを帯びたものでなくともよい。
【0083】
[撹拌部材の変形例8]
図4Gに示す撹拌部材47は、軸47Aと、軸47Aの周りに螺旋状に取り付けられた螺旋羽根47Bとを備えている。撹拌部材47が、
図1の製造装置10において、撹拌部材24Aの代わりに使用されると、撹拌部材47は、シードシャフト22Aの中心軸線の周りに回転可能であるとともに、螺旋羽根47Bは、シードシャフト22Aの中心軸線に対して斜交する。
【0084】
撹拌部材47が、このような螺旋羽根47Bを備えていることにより、坩堝14、及び/又は撹拌部材47の軸まわりの回転方向によって、撹拌部材47の近傍でSi−C溶液15に、上昇流、又は下降流を生じさせることができる。したがって、撹拌部材47により、撹拌部材42〜44と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0085】
図1に示す製造装置を用いて、SiC単結晶を製造し、製造したSiC単結晶の中央と端との厚み比(端の厚み/中央の厚み)を調査した(実施例1,2)。
【0086】
[実施例1,2の製造条件]
実施例1では、結晶成長中において、撹拌部材を停止したままで、シードシャフト及び坩堝を定常回転させた。シードシャフトの回転数は、20rpmであった。坩堝の回転数は、20rpmであった。シードシャフトは、坩堝とは逆方向に回転させた。成長温度は、約1950℃であった。結晶成長時間は、45時間であった。
【0087】
実施例2では、結晶成長中において、撹拌部材を定常回転しながら、シードシャフトと坩堝を定常回転させた。シードシャフトの回転数は、20rpmであった。坩堝の回転数は、20rpmであった。撹拌部材の回転数は、20rpmであった。シードシャフトは、坩堝とは逆方向に回転させた。撹拌部材は、坩堝とは逆方向に回転させた。成長温度は、約1950℃であった。結晶成長時間は、52時間であった。
【0088】
また、比較のために、
図1に示す製造装置において撹拌部材を備えていない製造装置を用いて、SiC単結晶を製造し、製造したSiC単結晶の中央と端との厚み比を調査した(比較例)。
【0089】
[比較例の製造条件]
比較例では、結晶成長中において、シードシャフトを停止したままで、坩堝の回転数を周期的に変化させた。設定回転数は、20rpmであった。回転し始めてから設定回転数に到達するまでの時間は、5秒であった。設定回転数を維持した時間は、30秒であった。設定回転数から回転を停止するまでの時間は、5秒であった。このような回転を1つのサイクルとし、このサイクルを繰り返した。結晶成長温度は、約1950℃であった。結晶成長時間は、12時間であった。
【0090】
[調査方法]
実施例1,2及び比較例に係るSiC単結晶のそれぞれについて、SiC単結晶の断面写真を撮影し、中央の厚みと、端の厚みとを測定した。実施例1では、中央の厚みが1.27mmで、端の厚みが1.21mmであった。実施例2では、中央の厚みが2.26mmで、端の厚みが2.22mmであった。比較例では、中央の厚みが1.19mmで、端の厚みが0.99mmであった。測定して得られた端の厚みを中央の厚みで除することにより、厚み比を求めた。各SiC単結晶の厚み比を
図5に示す。
【0091】
[調査結果]
撹拌部材を備える製造装置を用いた場合には、撹拌部材を備えていない製造装置を用いた場合よりも、成長界面内で成長速度のばらつきが抑えられるのを確認できた。そのため、実施例1,2に係るSiC単結晶では、比較例に係るSiC単結晶よりも、厚み比が1に近くなった。つまり、製造されたSiC単結晶の表面の平坦性が向上した。撹拌部材を備える製造装置を用いた場合には、撹拌部材を備えていない製造装置を用いた場合よりも、SiC単結晶の成長界面の近傍において、Si−C溶液の温度分布及びSi−C溶液に含まれる溶質の濃度分布が均一になったためと考えられる。
【0092】
撹拌部材を停止させたままで、坩堝を定常回転させた場合よりも、撹拌部材を定常回転させながら、坩堝を撹拌部材とは逆方向に定常回転させた場合のほうが、成長界面内で成長速度のばらつきが抑えられるのを確認できた。そのため、実施例2に係るSiC単結晶では、実施例1に係るSiC単結晶よりも、厚み比が1に近くなった。つまり、製造されたSiC単結晶の表面の平坦性が向上した。SiC単結晶の成長界面の近傍において、Si−C溶液の温度分布及びSi−C溶液に含まれる溶質の濃度分布がさらに均一になったためと考えられる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態によって、何等、限定されない。