特許第5864038号(P5864038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5864038かしめ部を有する繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法
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  • 特許5864038-かしめ部を有する繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5864038
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】かしめ部を有する繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/04 20060101AFI20160204BHJP
   B29C 65/56 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   F16B5/04 B
   B29C65/56
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-534699(P2015-534699)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2015058533
【審査請求日】2015年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-61711(P2014-61711)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】大木 武
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−127248(JP,A)
【文献】 特公平01−049615(JP,B2)
【文献】 特開平10−140733(JP,A)
【文献】 特開昭54−156763(JP,A)
【文献】 特開2003−290577(JP,A)
【文献】 米国特許第05086997(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
F16B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの円柱状、円錐状、角柱状、角錐状または台形状の突起部を有し、引張弾性率が15〜35GPaの範囲にある繊維強化樹脂成形体Aと、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bとを含んで構成された繊維強化樹脂接合体であって、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部は前記部材Bの貫通孔内を貫通しており、かつ前記貫通孔から突き出した部分にかしめ部を有することを特徴とする、繊維強化樹脂接合体。
【請求項2】
前記強化繊維のうち少なくとも1つの強化繊維が、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部と当該突起部以外の部分とに渡って存在する、請求項1に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項3】
前記かしめ部が、内部に未変形部を有し、
前記未変形部の長さL1と、前記かしめ部の高さL2とが、下記式を満たす、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂接合体。
0 < L1/L2 < 0.6
【請求項4】
前記部材Bが、金属、樹脂、および強化繊維を含有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の部材である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項5】
前記部材Bにおける前記強化繊維を含有する樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項4に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項6】
前記部材Bにおける前記熱可塑性樹脂が、前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂である、請求項5に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項7】
前記かしめ部は、前記部材Bの表面と接触している、請求項1〜6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項8】
前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている前記強化繊維は不連続の繊維である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
【請求項9】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aの前記突起部を、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bの前記貫通孔に挿入し、前記突起部の先端部を前記貫通孔から突き出す工程、および当該突き出した先端部をかしめる工程、を含む、繊維強化樹脂接合体の製造方法。
【請求項10】
前記かしめる工程は、前記先端部を加熱しつつ加圧する工程を含む、請求項9に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
【請求項11】
前記加熱は、赤外線または超音波による加熱である、請求項10に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
【請求項12】
前記突起部の先端部に由来する未変形部の長さ(L1)とかしめ部の高さ(L2)との関係が下記式を満たすようにかしめる、請求項9〜11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
0 < L1/L2 < 0.6
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法に関わるものである。さらに詳しくは、かしめ部を有し接合強度が良好な繊維強化樹脂接合体、及びその製造方法に関わるものであり、自動車に代表される構造部品に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、機械分野において、マトリクス樹脂と、炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂材が注目されている。部品や構造体の製造で必要となる、繊維強化樹脂材同士の接合において、閉断面を作ることで剛性を高める方法が提案されている。マトリクスとして熱可塑性樹脂を用いた繊維強化樹脂材同士を接合する際には、ボルト・ナット、リベット等を用いた機械的な締結や、接着剤を用いた化学的な接合、超音波溶着、振動溶着などを用いた熱的な接合が提案されている。中でも、かしめは突起物の先端を熱で変形させる事で接合する手法であり、ピール方向に高い接合強度を得られる。また、かしめの際の加熱方法として熱や超音波といった様々な手法を採用できるなどの理由で、各種の産業分野で広く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
かしめ形状をピール方向に破壊する際、母材が破壊される母材破壊、軸が破壊される軸部破壊、傘の根っこで破壊される首部破壊、傘内部で軸に平行に破壊される傘部破壊のいずれかの形態をとる。汎用樹脂をかしめる際は、かしめの条件により軸部破壊、首部破壊、傘部破壊が発生する。中でも、軸部破壊、首部破壊は軸の断面積、すなわち軸径による要素も大きいが、基本的に樹脂の引張弾性率に依存するため、必ずしも強い接合強度を有するとは限らなかった。逆に言うと、高い接合強度を得るために軸径を太くする必要があり、設計上の制限を生む要因にもなっていた。
【0004】
それに対し、繊維強化樹脂材をかしめる場合、汎用樹脂よりも優れる引張弾性率を有するため、かしめる条件にもよるが、母材破壊や傘部破壊になる事が多い。母材破壊は母材の強度や厚みに依存する。それに対し、傘部破壊は軸に平行な方向にかかる軸内部でのせん断力による破壊であり、如何に優れたせん断強度を保持させるかが設計上の要素となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第4265987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、接合強度に優れる新規な繊維強化樹脂接合体を提供することである。特に、接合した2つの部材を、当該接合した部分(接合面)に対して垂直方向(ピール方向)の接合強度に優れた繊維強化樹脂接合体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、接合によるエネルギーロスが少ないため短時間で効率的に製造する繊維強化樹脂接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、接合強度に優れる繊維強化樹脂接合体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、かしめに用いる突起部の座屈強度を制御することで、目的とする繊維強化樹脂接合体を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりのものである。
<1>
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの円柱状、円錐状、角柱状、角錐状または台形状の突起部を有し、引張弾性率が15〜35GPaの範囲にある繊維強化樹脂成形体Aと、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bとを含んで構成された繊維強化樹脂接合体であって、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部は前記部材Bの貫通孔内を貫通しており、かつ前記貫通孔から突き出した部分にかしめ部を有することを特徴とする、繊維強化樹脂接合体。
<2>
前記強化繊維のうち少なくとも1つの強化繊維が、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部と当該突起部以外の部分とに渡って存在する、<1>に記載の繊維強化樹脂接合体。
<3>
前記かしめ部が、内部に未変形部を有し、
前記未変形部の長さL1と、前記かしめ部の高さL2とが、下記式を満たす、<1>または<2>に記載の繊維強化樹脂接合体。
0 < L1/L2 < 0.6
<4>
前記部材Bが、金属、樹脂、および強化繊維を含有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の部材である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
<5>
前記部材Bにおける前記強化繊維を含有する樹脂が熱可塑性樹脂である、<4>に記載の繊維強化樹脂接合体。
<6>
前記部材Bにおける前記熱可塑性樹脂が、前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂である、<5>に記載の繊維強化樹脂接合体。
<7>
前記かしめ部は、前記部材Bの表面と接触している、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
<8>
前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている前記強化繊維は不連続の繊維である、<1>〜<7>のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
<9>
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aの前記突起部を、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bの前記貫通孔に挿入し、前記突起部の先端部を前記貫通孔から突き出す工程、および当該突き出した先端部をかしめる工程、を含む、繊維強化樹脂接合体の製造方法。
<10>
前記かしめる工程は、前記先端部を加熱しつつ加圧する工程を含む、<9>に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
<11>
前記加熱は、赤外線または超音波による加熱である、<10>に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
<12>
前記突起部の先端部に由来する未変形部の長さ(L1)とかしめ部の高さ(L2)との関係が下記式を満たすようにかしめる、<9>〜<11>のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
0 < L1/L2 < 0.6
なお、本発明は上記<1>〜<12>に関するものであるが、参考のため下記[1]〜[13]に記載した事項などのその他の事項についても記載した。
【0009】
[1]
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aと、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bとを含んで構成された繊維強化樹脂接合体であって、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部は前記部材Bの貫通孔内を貫通しており、かつ前記貫通孔から突き出した部分にかしめ部を有することを特徴とする、繊維強化樹脂接合体。
[2]
前記繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率が15〜35GPaの範囲にある、[1]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[3]
前記強化繊維のうち少なくとも1つの強化繊維が、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部と当該突起部以外の部分とに渡って存在する、[1]または[2]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[4]
前記かしめ部が、内部に未変形部を有し、
前記未変形部の長さL1と、前記かしめ部の高さL2とが、下記式を満たす、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
0 < L1/L2 < 0.6
[5]
前記部材Bが、金属、樹脂、および強化繊維を含有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の部材である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
[6]
前記部材Bにおける前記強化繊維を含有する樹脂が熱可塑性樹脂である、[5]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[7]
前記部材Bにおける前記熱可塑性樹脂が、前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂である、[6]に記載の繊維強化樹脂接合体。
[8]
前記かしめ部は、前記部材Bの表面と接触している、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
[9]
前記繊維強化樹脂成形体Aに含有されている前記強化繊維は不連続の繊維である、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体。
[10]
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aの前記突起部を、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bの前記貫通孔に挿入し、前記突起部の先端部を前記貫通孔から突き出す工程、および当該突き出した先端部をかしめる工程、を含む、繊維強化樹脂接合体の製造方法。
[11]
前記かしめる工程は、前記先端部を加熱しつつ加圧する工程を含む、[10]に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
[12]
前記加熱は、赤外線または超音波による加熱である、[11]に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
[13]
前記突起部の先端部に由来する未変形部の長さ(L1)とかしめ部の高さ(L2)との関係が下記式を満たすようにかしめる、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂接合体の製造方法。
0 < L1/L2 < 0.6
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、接合時間が短くても、ピール方向に優れた接合強度を有しており、例えば、自動車に代表される車両の構造材料に好適な使用、及び効率的な製造を実施することができる。
また、本発明によれば、接合によるエネルギーロスが少ないため、繊維強化樹脂接合体を短時間で効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の繊維強化樹脂接合体の一例の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aと、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bとを含んで構成された繊維強化樹脂接合体であって、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部は前記部材Bの貫通孔内を貫通しており、かつ前記貫通孔から突き出した部分にかしめ部を有する。
上記繊維強化樹脂成形体Aは、熱可塑性樹脂からなるマトリクス中に強化繊維が含有されている成形体である。詳細については後述する。
【0013】
上記部材Bの種類としては、少なくとも1つの貫通孔を有するものであれば特に制限はないが、例えば、金属、樹脂、セラミックスなどを挙げることができる。金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅、チタン及びそれらの合金などを挙げることができる。樹脂としては、合成樹脂や非合成樹脂(天然素材高分子)があり、合成樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性(型)樹脂のいずれも用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、アクリル樹脂などの汎用プラスチック類、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル(PET、PBT等)、環状ポリオレフィン(COP)などのエンジニアリングプラスチック類、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチック類を挙げることができる。熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、硬化性ポリイミド樹脂などを挙げることが出来る。
【0014】
上記樹脂中には、強化繊維として、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維を含んでいてもよい。
【0015】
部材Bが、金属、樹脂、および強化繊維を含有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の部材であることが好ましく、機械的特性と軽量性のバランスの点から、部材Bが繊維強化樹脂成形体Aと同様、強化繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂と、を含んでなる繊維強化樹脂成形体であることが好ましく、部材Bにおける熱可塑性樹脂が、繊維強化樹脂成形体Aに含有されている熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂であることがより好ましく、下記に詳述する繊維強化樹脂成形体Aと同一の繊維強化樹脂成形体であることがさらに好ましい。以下、部材Bとして、強化繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂と、を含んでなる繊維強化樹脂成形体Bを例に説明する。
【0016】
(繊維強化樹脂成形体AおよびB)
本発明で使用する繊維強化樹脂成形体AおよびBは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んでなるものである。具体的には、熱可塑性樹脂をマトリクスとし、そのマトリクス中に強化繊維が含有されている。繊維強化樹脂成形体Aに含まれる強化繊維は、目的に応じて、繊維強化樹脂成形体Bに含まれる強化繊維と同じであってもよいし、異なっていてもよいが、生産上の点から同じものであることが都合が良い場合が多い。繊維強化樹脂成形体Aに含まれる熱可塑性樹脂は、目的に応じて、繊維強化樹脂成形体Bに含まれる熱可塑性樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよいが、生産上の点から同一であることが都合が良い場合が多い。
【0017】
繊維強化樹脂成形体AおよびBにおけるマトリクスの存在量(含有量)は、下記で述べるマトリクスの種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものであり特に限定されるものではないが、通常、強化繊維100質量部に対して3質量部〜1000質量部の範囲内である。より好ましくは30〜200質量部、更に好ましくは30〜150質量部である。マトリクスが強化繊維100質量部に対し3質量部未満では、下記で述べる製造工程における含浸が不十分なドライの強化繊維が増加してしまうことがある。また1000質量部を超えると強化繊維が少なすぎて構造材料として不適切となることが多い。本発明における繊維強化樹脂成形体AおよびBは、マトリクスと強化繊維との割合は、同じであってもよく、用途に応じて異なっていてもよい。
【0018】
繊維強化樹脂成形体Aは、例えば、平面部を有し、その断面が四角形などの多角形である平板、角柱、多面体などであって、通常は、当該平面部上に、その平面部に対して垂直方向に、座屈応力が80〜450MPaの範囲の突起部を有するものがよい。当該平面部の厚みは同一でも異なっていてもよいが、機械強度の点で同一であるのがよい。かかる平面部の厚みとしては、1〜20mmの範囲内であることが好ましい。また、繊維強化樹脂成形体Aが平板である場合、かかる平板の厚みは1〜20mmの範囲内で一定であっても異なる部分があってもよい。
【0019】
繊維強化樹脂成形体Bは、例えば、平面部を有し、その断面が四角形などの多角形である平板、角柱、多面体などであって、通常は、当該平面部内に、その平面部に対して垂直方向に、少なくとも1つの貫通孔を有するものがよい。かかる貫通孔周辺における繊維強化樹脂成形体Bの厚みとしては、1〜20mmの範囲内であることが好ましい。また、繊維強化樹脂成形体Bが平板である場合、かかる平板の厚みは1〜20mmの範囲内で一定であっても異なる部分があってもよい。
【0020】
(強化繊維)
本発明に用いられる強化繊維の種類は、マトリクスの種類や本発明の繊維強化樹脂接合体の用途等に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。このため、本発明に用いられる強化繊維としては、無機繊維又は有機繊維のいずれであっても好適に用いることができる。
【0021】
上記無機繊維としては、例えば、炭素繊維、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
上記有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等の樹脂材料からなる繊維を挙げることができる。
【0022】
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
【0023】
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた本発明の繊維強化樹脂接合体を得ることができるからである。
上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
【0024】
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0025】
本発明に用いられる強化繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維及びマトリクスの種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明に用いられる強化繊維の形態としては特に制限はなく、例えば織物、編物、一方向材、連続繊維、特定長の不連続繊維、またはこれらの組み合わせであってもよい。本発明においては、突起部を有している繊維強化樹脂成形体Aの成形にあたり、一回の成形でこの突起部内に強化繊維が含まれやすい形態の強化繊維を用いるのがよい。本発明における繊維強化樹脂成形体AおよびBに含まれる強化繊維の形態は、同じであっても異なっていてもよい。
【0027】
本発明に用いられる強化繊維の繊維長は、強化繊維の種類やマトリクスの種類、繊維強化樹脂成形体AおよびB中における強化繊維の配向状態等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。したがって、本発明においては目的に応じて連続繊維を用いてもよく、不連続繊維を用いてもよい。または連続繊維と不連続繊維との組み合わせて用いてもよい。不連続繊維を用いる場合、平均繊維長は、通常、0.1mm〜500mmの範囲内であることが好ましく、1mm〜100mmの範囲内であることが特に好ましい。本発明における繊維強化樹脂成形体AおよびBに含まれる強化繊維の平均繊維長は、同じであっても異なっていてもよい。
繊維強化樹脂成形体Aの製造方法は後述するが、本発明においては、例えば射出成形、圧縮成形(プレス成形)が好ましい。射出成形の場合、成形材料(好ましくはペレットの形態)に含まれる強化繊維の長さとしては、0.1〜10mmの範囲が好ましい。圧縮成形の場合には、成形材料(好ましくはシート材料)に含まれる強化繊維としては、長さ1〜100mmの範囲の不連続繊維、織物、編み物、一方向材などの連続繊維を挙げることが出来る。当該シート材料は、1枚であってもよいし、複数枚積層して用いてもよい。
【0028】
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、繊維長分布に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化樹脂成形体AおよびBから無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂成形体AおよびBからの強化繊維の抽出は、例えば、繊維強化樹脂成形体AおよびBに対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長:Ln=ΣLi/j
(Li:強化繊維の単糸の繊維長、j:強化繊維の本数)
重量平均繊維長:Lw=(ΣLi)/(ΣLi)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。
本発明において個数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、繊維強化樹脂材の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長である事が多い。
【0029】
本発明に用いられる強化繊維の繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
例えば、強化繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
一方、強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記平均繊維径は、強化繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、強化繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する強化繊維(単糸)の直径を指す。
強化繊維の平均繊維径は、例えば、JIS R7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
【0030】
本発明に用いられる強化繊維は、その種類の関わらず単糸からなる単糸状であってもよく、複数の単糸からなる繊維束状であってもよい。
本発明に用いられる強化繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。ここで示す繊維束とは2本以上の単糸が集束剤や静電気力等により近接している事を示す。繊維束状のものを用いる場合、各繊維束を構成する単糸の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0031】
本発明に用いられる強化繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単糸の数は特に限定されるものではないが、通常、10本〜100000本の範囲内とされる。
一般的に、炭素繊維は、数千〜数万本のフィラメントが集合した繊維束状となっている。強化繊維として炭素繊維を用いる場合に、炭素繊維をこのまま使用すると、繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の繊維強化樹脂成形体AおよびBを得ることが困難になる場合がある。このため、本発明では、強化繊維として炭素繊維を用いる場合は、炭素繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのがよい。本発明における繊維強化樹脂成形体AおよびBに含まれる強化繊維の拡幅の程度や開繊の程度は、同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
強化繊維として炭素繊維束を開繊して用いる場合、開繊後の繊維束の開繊程度は特に限定されるものではないが、繊維束の開繊程度を制御し、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ未満の炭素繊維(単糸)及び/又は炭素繊維束を含むことが好ましい。この場合、具体的には、下記式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)と、それ以外の開繊された炭素繊維、すなわち単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束とからなることが好ましい。
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0033】
具体的には、繊維強化樹脂成形体AまたはBまたはその両方を構成する炭素繊維の平均繊維径が5〜7μmの場合、上記式(1)で定義される臨界単糸数は86〜120本となる。
臨界単糸数を上回る本数からなる炭素繊維束は、自立性に優れるためハンドリング性に優れ、かつ成形時の流動性にも優れた好適な強化材となり得る。逆に、臨界単糸数を下回る本数からなる炭素繊維束は、自立性が低いため綿状になる事が多い。そのため、ハンドリング性や成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0034】
さらに、本発明においては、繊維強化樹脂成形体AまたはBまたはその両方中の炭素繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が0Vol%超99Vol%未満であることが好ましく、20Vol%以上99Vol未満であることがより好ましく、30Vol%以上95Vol%未満であることがさらに好ましく、50Vol%以上90Vol%未満であることが最も好ましい。このように特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された炭素繊維又は炭素繊維束を特定の比率で共存させることで、繊維強化樹脂成形体AまたはBまたはその両方中の炭素繊維の存在量、すなわち繊維体積含有率(Vf)を高めることが可能となるからである。
【0035】
炭素繊維の開繊程度は、繊維束の開繊条件を調整することにより目的の範囲内とすることができる。例えば、繊維束に空気を吹き付けて繊維束を開繊する場合は、繊維束に吹き付ける空気の圧力等をコントロールすることにより開繊程度を調整することができる。この場合、空気の圧力を強くすることにより、開繊程度が高く(各繊維束を構成する単糸数が少なく)なり、空気の圧力を弱くすることより開繊程度が低く(各繊維束を構成する単糸数が多く)なる傾向がある。
【0036】
本発明において強化繊維として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。
炭素繊維の場合、上記Nは通常1<N<12000の範囲内とされることが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
0.6×10/D<N<1.0×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0037】
そして、炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は240〜4000本未満の範囲となるが、なかでも300〜2500本であることが好ましい。より好ましくは400〜1600本である。また、炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は122〜2040本の範囲となるが、中でも150〜1500本であることが好ましく、より好ましくは200〜800本である。
【0038】
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が0.6×10/D以下の場合、高い強化繊維体積含有率(Vf)のものを得ることが困難となり、優れた強度を有する繊維強化樹脂成形体を得るのが困難になる。また、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が1.0×10/D以上の場合、局部的に厚い部分が生じ、ボイドの原因となりやすい。さらに、上記要件を満足する繊維強化樹脂成形体は、表面に凸部を形成する繊維強化樹脂成形体Aとして容易に得ることができるという利点を有する。なお、本発明における繊維強化樹脂成形体AまたはBまたはその両方に含まれる強化繊維の上記臨界単糸数や炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
さらに、炭素繊維束(A)の形態としては、繊維強化樹脂成形体中における厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合が、全炭素繊維束(A)数の3%未満であることが好ましい。厚さが100μm以上である炭素繊維束が3%未満であれば、熱可塑性樹脂が繊維束内部に含浸しやすくなるので好ましい。より好ましくは厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合は1%未満である。厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合を3%未満とするには、使用する繊維を拡幅し、薄肉にした繊維を用いる等によりコントロールすることができる。
【0040】
(マトリクス)
一般的に、繊維強化樹脂成形体に用いられる代表的なマトリクスとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が知られているが、本発明においては、繊維強化樹脂成形体Aを構成するマトリクスとして熱可塑性樹脂を用いる。また、本発明においてはマトリクスとして、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。
上記熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、本発明の繊維強化樹脂接合体の用途等に応じた優れた機械特性や生産性などを考慮しつつ、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃〜350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0042】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
【0043】
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0044】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
また、本発明で用いる繊維強化樹脂成形体A,B中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
強化繊維とマトリクスである熱可塑性樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクスとの密着強度を高める方法などで改善することができる。
【0046】
(繊維強化樹脂成形体の製造方法)
本発明における繊維強化樹脂成形体A,Bを製造する方法は特に制限はなく、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形などが挙げられる。射出成形、プレス成形の場合には、強化繊維を含むマトリクスを成形直前に加熱して可塑化し、金型へ導入する。加熱する方法としては、射出成形の場合はエクストルーダーなどが用いられ、プレス成形の場合は熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられる。
【0047】
マトリクスとして用いる熱可塑性樹脂が高い吸水性を示す場合には、成形前にあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。成形時に加熱する熱可塑性樹脂の温度は溶融温度+15℃以上かつ分解温度−30℃以下であることが好ましい。加熱温度がその範囲以下であると、樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると樹脂の分解が進むことがある。
【0048】
射出成形の場合には、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、長繊維ペレット、すなわち溶融した熱可塑性樹脂を所定の粘度に調整し連続繊維状の強化繊維に含浸させた後切断する工程で得られたペレットを用いて射出成形機で所定の形状に製造する方法が挙げられる。
【0049】
また、上記以外の方法として、例えば金型内に、連続繊維のストランドを並行に引き揃えた一方向配列シート(UDシート)、織物、不連続の強化繊維などの基材を設置し、ついで熱可塑性樹脂を注入し溶融含浸させたり加熱溶融した熱可塑性樹脂を注入し含浸させたのち、冷却する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂として、そのフィルム等を強化繊維と一緒に金型内に配置して加熱し、プレスする方法も挙げられる。また、前記したような、熱可塑性樹脂を包含する基材を所定の温度に設定した金型内に入れ、プレスする方法も好ましい。加熱温度としては熱可塑性樹脂の溶融温度+15℃以上かつ分解温度−30℃以下の範囲がよい。
【0050】
プレス成形により製造するには、例えば、強化繊維からなる織物、編物、連続繊維のストランドを並行に引き揃えた一方向配列シート(UD材)、不連続繊維からなる抄造シート、連続または不連続繊維からなるシートやマット(以下、あわせて強化繊維マットということがある)、さらには必要に応じて熱可塑性樹脂からなる粉末状、繊維状、塊状、フィルム状、シート状、または不織布等が、上記織物、編物、UD材、抄造シート、強化繊維マットに含有された基材を、単層または複数層に積層して加熱加圧する。ついで、熱可塑性樹脂を溶融させ強化繊維間に含浸させることで熱可塑性樹脂をマトリクスとする繊維強化樹脂成形体を製造することができる。この場合の熱可塑性樹脂は、強化繊維のマットの製造時に供給したものでもよいが、この強化繊維マットの製造後に、かかる強化繊維マットの少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂からなる層(フィルム、不織布、シート等)を積層し、これらを加熱加圧し、この強化繊維マット中に熱可塑性樹脂を含浸させることによっても製造することができる。すなわち、上記繊維強化樹脂成形体は、同一または異なる2種以上の基材をプレス成形により一度形成させたのち、さらに同一または異なる他の基材や層を積層して再度プレス成形して製造してもよい。
【0051】
繰り返しになるが、強化繊維マットに熱可塑性樹脂が含まれる態様としては、例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様を挙げることができる。ここで、上記熱可塑性樹脂層は粉末状、繊維状、または塊状等の熱可塑性樹脂が堆積されてなるものであってもよく、シート状またはフィルム状の熱可塑性樹脂からなるものであってもよい。
なお、上記強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてシート状またはマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が面内方向においてランダムに分散した2次元等方性の強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がXYZの各方向においてランダムに分散している3次元等方性の強化繊維マットが例示される。
【0052】
上記基材は1枚の基材中に、異なる配列状態の強化繊維が含まれていてもよい。
1枚の基材中に異なる配列状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)基材の面内方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)基材の厚み方向に配列状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、基材が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配列状態が異なる態様を挙げることができる。さらに、上記(i)〜(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。
【0053】
本発明では、前記基材の少なくとも1枚を、圧縮成形(プレス成形)することにより、繊維強化樹脂成形体A,Bを製造することが好ましい。ここで、本発明における強化繊維の配向状態は、上記一方向配列又は2次元ランダムに分散のいずれであってもよい。また、上記一方向配列と2次元ランダム分散の中間の無規則配列(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配列しておらず、かつ完全にランダムでない分散状態)であってもよい。さらに、強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が基材全体の面内方向に対して角度を有するように分散していてもよく、繊維が綿状に絡み合うように配列していてもよく、さらには繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように分散していてもよい。
なかでも、強化繊維が、長軸方向が一方向に配列した一方向配列の基材や、上記長軸方向が面内方向において2次元ランダムに分散した配向状態にある等方性の基材が好適である。
【0054】
本発明に用いる繊維強化樹脂成形体Aの突起部を成形するにあたり、その成形性の点から、少なくとも一方の上記基材の表面、特に突起部を有する面は、強化繊維が2次元ランダムに配列していることが好ましい。
【0055】
基材内における強化繊維の配向態様は、例えば、基材の任意の方向、及びこれと直交する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が2次元等方的に分散していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.3を超えないときは等方性に優れていると評価される。本発明における基材としては、このような等方性に優れた基材(等方性基材)を用いると、成形性、金型への賦形追従性、機械的特性などに優れ、良好は接合強度を有する本発明の接合体を得ることできるので好適に用いられる。なお、等方性基材を用いた場合における強化繊維の配向態様は、本発明における繊維強化樹脂成形体でも維持される。
上記基材における強化繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、通常、25g/m〜10000g/mである。
【0056】
本発明に用いられる基材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内が好ましく、0.01mm〜10mmの範囲内が好ましく、0.1〜5mmの範囲内がより好ましい。
なお、本発明に用いられる基材が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した基材全体の厚みを指すものとする。
【0057】
本発明に用いられる基材は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
上記基材が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
また、上記基材が上記積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配列状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配列している層と、強化繊維が2次元ランダム配列している層を積層する態様を挙げることができる。
3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
【0058】
本発明における繊維強化樹脂成形体A,Bは、好ましくは上記等方性基材を用いてプレス成形する方法により製造することが生産性に優れ、等方性に優れる。等方性基材を加熱圧縮によるプレス成形をして、その後一度冷却等により、取扱いしやすい繊維強化樹脂成形体A,Bの平板状の前駆体(A’,B’)を先に製造しておき、この前駆体を1枚または2枚以上加熱積層または積層後加熱したのち再度プレス成形して、所望の厚み、形状、表面性の繊維強化樹脂成形体A,Bを製造してもよい。
【0059】
具体的には、上記等方性基材または前駆体を、それらを構成する熱可塑性樹脂の軟化点+30℃以上100℃以下の温度に加熱してやわらかくしたのち、金型内に配置して加圧する。その際、加圧条件としては0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに0.5〜10MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.1MPa未満の場合、等方性基材または前駆体を十分に押し切れず、スプリングバックなどが発生し繊維強化樹脂成形体の機械的強度が低下することがある。また圧力が20MPaを超える場合、例えば等方性基材または前駆体が大きい場合、きわめて大きなプレス機が必要となり、経済的に好ましくない場合がある。また加圧中の加熱条件としては、金型内の温度は、熱可塑性樹脂の種類によるが、溶融した熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、繊維強化樹脂成形体が形作られるために、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は結晶溶解温度、非晶性の場合はガラス転移温度、それぞれより20℃以下であることが好ましい。例えばナイロンの場合には、通常120〜180℃であり、好ましくは125〜170℃であり、さらにより好ましくは130〜160℃である。
【0060】
本発明における繊維強化樹脂成形体AおよびBの製造方法の具体的な一例を以下に示す。
1)強化繊維をカットする工程、
2)カットされた強化繊維を開繊させる工程、
3)開繊させた強化繊維とマトリクスとなる繊維状又は粒子状又は溶融状態の熱可塑性樹脂を混合し等方性基材とした後、加熱圧縮して強化繊維樹脂成形体前駆体を得る工程、
4)当該前駆体を成形する工程
【0061】
本発明においては、上記工程を順に経ることにより製造することができるが、この限りではない。
例えば、強化繊維として炭素繊維を用いる場合、複数の炭素繊維からなるストランドを、必要に応じ繊維長方向に沿って連続的にスリットして幅0.05〜5mmの複数の細幅ストランドにした後、平均繊維長3〜100mmに連続的にカットし、カットした炭素繊維束に気体を吹付けて開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることにより、炭素繊維が面内方向において無秩序でランダムに分散した強化繊維マットを得ることができる。
【0062】
この際、粒体状もしくは短繊維状の熱可塑性樹脂を上記炭素繊維とともにほぼ同時に通気性コンベヤーネット上に堆積させたり、前記マットの炭素繊維層上に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し浸透させることにより熱可塑性樹脂を含有する等方性基材を製造することができる。この方法において、開繊条件を調整することで、炭素繊維束を上記式(1)で定義される臨界単糸数以上が集束している炭素繊維束(A)と臨界単糸数未満の炭素繊維束(B)および/または炭素繊維単糸(B)とが混在するように開繊し、等方性基材における炭素繊維束(A)の炭素繊維全量に対する割合を20〜99Vol%、好ましくは30〜99Vol%、特に好ましくは50〜90Vol%となる。
【0063】
なお、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)を上記範囲とするには、上述した好適な等方性基材の製造法において、カット工程に供する繊維束の大きさ、例えば束の幅や幅当りの繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には開繊するなどして繊維束の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また繊維束をカットと同時に、スリットしてもよい。
【0064】
上述のような方法により、炭素繊維と、繊維状又は粒子状又は溶融状態の熱可塑性樹脂とを含有した等方性基材を得ることができる。ついで、この等方性基材を用いてプレス成形することにより製造することが生産性に優れ、面内等方性に優れた繊維強化樹脂成形体A,Bを製造することができる。また、前述したように、かかる等方性基材を一旦、熱可塑性樹脂の溶融する温度に加熱し、ついで加圧することによって面状の炭素繊維樹脂成形体前駆体(A’、B’)とし、のちに再度プレス成形して目的とする炭素繊維樹脂成形体を製造してもよい。この前駆体(A’、B’)はシートあるいはマットといった面形状として得られるが、ある程度の厚みを有するものも含まれる。
【0065】
こうして得られる繊維強化樹脂成形体A,Bは、その面内方向において、炭素繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている面内等方性の成形物である。このような繊維強化樹脂成形体AとBを接合した本発明の繊維強化樹脂接合体は、前記等方性基材が有する、炭素繊維の面内方向の等方性が維持される。繊維強化樹脂接合体のかかる等方性は、互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、定量的に評価できる。
【0066】
(繊維強化樹脂成形体Aの突起部)
本発明に用いる繊維強化樹脂成形体Aは少なくとも一つの突起部を有する。この突起部は後述の部材Bの貫通部に挿入され、この貫通部より上に突き出した部分がかしめられて、かしめ部となる。
【0067】
繊維強化樹脂成形体Aにおける突起部は、その座屈応力が80〜450MPaの範囲にある。座屈強度が80MPa未満である場合、突起部の、部材Bの貫通部から突き出した部分(以下、突出部ということがある)をかしめる際に座屈が発生することで、かしめが短時間で終了し、かしめ部内部に存在する突出部の溶け残り部(未変形部)が多くなり、接合強度が低くなる。逆に、座屈応力が450MPaを超える場合、かしめにより突出部の形状変化が小さくなり短時間でのかしめが困難になり、実用化させるのが困難になる。座屈応力の測定方法としては、本発明では、JIS K7181:2011に従って圧縮試験を求めることが出来る。突起部の座屈応力は好ましくは100〜400MPaの範囲であり、更に好ましくは110〜350MPaである。
【0068】
なお、かしめの手法として超音波を用いる時は、強化繊維の添加量が少ない事に由来する座屈強度の低い材料を繊維強化樹脂成形体に用いる場合、繊維強化樹脂成形体中における超音波振動のロスが大きくなるため、かしめが開始するまでの時間が長くなる上に、かしめ開始後は前述の座屈により短時間でかしめが終了する。そのため、接合時間を同一とした時、本出願の繊維強化樹脂成形体Aを用いるよりも、接合強度の低下具合が顕著となる。
【0069】
上記かしめ部は、繊維強化樹脂成形体Aの突起部が部材Bの貫通部に挿入されて、この貫通部より上に突き出した部分(繊維強化樹脂成形体Aの上方に飛び出した部分)が加熱、加圧されて傘型のように変形した形状の部位をいう。このかしめ部は通常、傘のような形状なので、上記のように傘部と表記することがある。
【0070】
突起部の座屈応力を80〜450MPaの範囲に制御する手法としては特に制限は無いが、例えば、突起部の径、高さ、形状を制御することにより達成できる。基本的には、突起部の径は太く、高さが短い方が座屈応力は高くなる傾向になる。突起部の高さを短くすると、かしめ部の体積を大きくするのが困難になるため、設計に応じて適切な範囲を選択する必要がある。また、突起部の先端よりも根本の方が太くなるほど、座屈応力が高くなる傾向になる。突起部の形状に特に限定は無いが、具体的には円柱状、円錐状、角柱状、角錐状、台形状などを挙げる事ができる。中でも、円柱状、円錐状、角錐状、台形状は成形時の金型の抜き角に依存する要素が少なくなり、好適に使用できる。一例を挙げると、突起部が円柱状の場合、直径は4〜12mmの範囲から選択し、部材Bから突き出た部分の高さは6〜15mmの範囲から選択するのがよい。なお、突起部は繊維強化樹脂成形体Bの貫通部から突き出てかしめられるため、この場合の繊維強化樹脂成形体Bの貫通孔から突き出した部分の高さとしては一例をあげると、突起部が円柱状の場合、円柱の直径の0.8〜1.2倍の範囲が好ましい。
【0071】
また、突起部の座屈応力を制御する他の手法として繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率を制御する方法がある。一般的には、繊維強化樹脂成形体の引張弾性率が高くなる方が、座屈応力は高くなる傾向にある。繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率に特に制限はないが、例えば、引張弾性率を15〜35GPaの範囲に制御することにより、目標とする座屈応力を達成することができる。繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率の範囲は、より好ましくは20〜35GPaである。
【0072】
上記引張弾性率を制御する手法として特に制限は無いが、例えば、強化繊維の引張弾性率、強化繊維の含有量、強化繊維の(平均)繊維長、強化繊維の繊維径を制御することにより達成できる。強化繊維の引張弾性率が高いほど、繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率を高めることができるが、具体的には強化繊維として炭素繊維を用いることが挙げられる。強化繊維の含有量が高いほど、繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率を高める事ができるが、添加量が多すぎると成形時およびかしめ時の繊維強化樹脂成形体Aの流動性が低下するため、適切な範囲を選択する必要がある。強化繊維の繊維長が長いほど、強化繊維の繊維径が小さいほど繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率を高めることができるが、繊維長が長すぎると成形時およびかしめ時の繊維強化樹脂成形体Aの流動性が低下するため、適切な範囲を選択する必要がある。
【0073】
本発明において、突起部の内部に含まれる複数の強化繊維の一部または全部が、当該突起部以外の繊維強化樹脂成形体A中に含まれていることが好ましい。突起部の内部に含まれる強化繊維の一部または全部が、当該突起部以外の繊維強化樹脂成形体A中に含まれているということは、突起部の内部に存在する炭素繊維が、かかる突起部以外の部位(つまり突起部を除いた繊維強化樹脂成形体A)中に入り込んだ状態である。言い換えると、突起部の底面(突起部の根本を水平に切断した部分)を強化繊維がまたいで(通過して)いる状態である。すなわち、強化繊維のうち少なくとも1つの強化繊維が、繊維強化樹脂成形体Aの突起部と当該突起部以外の部分とに渡って存在することが好ましい。より好ましくは、繊維強化樹脂成形体A中にある強化繊維が突起部に入り、そして再度繊維強化樹脂成形体A中に戻って入り込んだ状態である。この状態は、突起部の根元における強度向上につながるため、突起部の座屈強度を高めるのに好適である。このような状態は、例えば、突起部の断面を写真などで観察することにより確認することができる。
突起部の内部に含まれる複数の強化繊維の一部または全部が、当該突起部以外の繊維強化樹脂成形体Aに含まれるようにする手法としては特に限定はないが、該手法の一つとして強化繊維の繊維長を制御する手法がある。強化繊維の繊維長をある程度長くすることで、突起部以外の繊維強化樹脂成形体Aに強化繊維を含ませることができる。逆に、強化繊維の繊維長をある程度短くすることで、突起部の径にも依存するが、突起部に強化繊維が進入しやすくなる。具体的には強化繊維の繊維長が1mmを下限とし、突起部の径の20倍を上限とするのが好ましい。
その他の手法としては、突起部を成形する際に、強化繊維が突起部に流動しやすくなるように制御するのが好ましい。前述の流動性を制御する手法としては、特に限定は無いが、具体的には樹脂の選定、強化繊維の繊維長、繊維径の制御、繊維束の制御、強化繊維の添加量の制御、成形温度、成形圧力の制御などが挙げられる。流動性を高める手法としては、一般的には樹脂の粘度を低下させる、繊維長を短くする、繊維径を太くする、繊維束を太くする、添加量を減らす、成形温度を上げる、成形圧力を上げる事となる。しかしながら、これらの手法の中には、繊維強化樹脂成形体の機械強度を下げる事に繋がるものもあるので、設計に応じて適宜選択するのが好ましい。
なお、突起部を繊維強化樹脂成形体Aに設ける方法としては、特に制限はなく、例えば、当該繊維強化樹脂成形体Aを成形するための金型に、あらかじめ突起部を形成するような形状を設けておき、当該繊維強化樹脂成形体Aと突起部とを一体として成形する方法、繊維強化樹脂成形体Aと突起部とを別々に製造しておき、当該突起部を当該繊維強化樹脂成形体Aに熱溶着したり、接着剤を用いて接合する方法が挙げられる。前記したように、突起部の内部に含まれる複数の強化繊維の一部または全部が、当該突起部以外の繊維強化樹脂成形体A中に含まれていると、突起部の根元における強度が向上し、突起部の座屈強度を高めることができるので、繊維強化樹脂成形体Aと突起部とを一体成形するのが好ましい方法である。
【0074】
(部材Bの貫通孔)
本発明に用いる部材Bは、少なくとも1つの貫通孔を有する。貫通孔の大きさおよび形状は、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部が完全に挿入でき、そしてかしめられる程度に貫通孔から突き出すことができればよい。貫通孔の形状としては、上記突起部の形状に対応して選択すればよく、繊維強化樹脂成形体Aの形状よりも大きく設計するのが好ましい。
貫通孔を得る方法としては、特に制限はないが、例えば、ドリル、エンドミル、ウォータージェット、レーザーなどにより穴あけ加工する方法、金型にあらかじめ貫通孔にあたる部分を打ち抜き刃を用いて前記基材をプレス成形する方法などが挙げられる。
【0075】
(繊維強化樹脂接合体)
本発明の繊維強化樹脂接合体は、その形状に特に制限はなく、例えば、面状や棒状の繊維強化樹脂成形体Aと、同形状の繊維強化樹脂成形体Bとから構成されていてもよい。また、繊維強化樹脂成形体Aが2以上の突起部を有し、それらの突起部全てを繊維強化樹脂成形体Bの2以上の貫通部にすべて挿入されてかしめられてもよい。さらには、1以上の突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aの一つの突起部が、1つ以上の突起部と1つ以上の貫通部とを有する繊維強化樹脂成形体Bにおける、1つの貫通部に挿入してかしめられ、繊維強化樹脂成形体Bの1以上の突起部が、第三の成形体の貫通部に挿入されかしめられていてもよい。
【0076】
本発明の繊維強化樹脂接合体における十字引張強度としては、1.5kN以上である事が好ましい。十字引張強度が1.5kNを下回る場合、構造部材等に用いるのに十分な強度を有しているとは言い難い。より好ましくは2kN以上である。この十字引張強度は、上述の繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率と同様にして制御することができる。強化繊維としては前記した炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0077】
本発明の繊維強化樹脂接合体におけるかしめ部は、加熱、圧縮することによりかしめられてなる(加熱の方法は後述する)。加熱、圧縮によって、繊維強化樹脂成形体Aの突起部の、部材Bの貫通孔から突き出した部分(突出部)は溶融してかしめられ、傘型状のかしめ部が形成される。言い換えると、本発明におけるかしめ部は、繊維強化樹脂成形体Aの突起部に由来する突出部が溶融して傘型に変形した部位と溶融せずに溶け残った部位(未変形部、溶け残り部)とを含むものである。溶け残り部は、突起部が前記貫通孔から突き出した部分に由来した部分である。すなわち、突出部の溶融しなかった部分である。
【0078】
かしめ部はその内部の溶け残り部の割合、すなわち、かしめ部内部における突出部に由来する未変形部(溶け残り部)の長さ(L1)とかしめ部の高さ(L2)との関係が、下記式を満たすのが好ましい(図1参照)。
0 < L1/L2 < 0.6
L1とL2の関係が上記の範囲にあると、優れた接合強度が得られる傾向にあるため、好ましく使用できる。上記溶け残り部の長さを制御する手法として特に限定はないが、具体的には前記突起部の座屈応力を上述の範囲に制御したり、かしめ条件を制御する方法がある。かしめ条件として、突起部の加熱温度、突起部にかける圧力、かしめ時間などがあるが、突起部にかける圧力を高めるなどしてかしめ時間を短縮化する程、溶け残り部の長さが大きくなる傾向にある。かしめ部における上記関係は、より好ましくは、下記式を満たす。
0 < L1/L2 <0.5
なお、上記かしめ部のL1とL2は、かしめ部を破壊してノギスなどによって求めることができる。
【0079】
本発明の繊維強化樹脂接合体におけるかしめ部は、繊維強化樹脂成形体Aの突起部が上述したように座屈応力が良好なため、優れた機械的特性を有する。したがって、かしめ部に荷重がかかって破壊されるとき、傘部破壊になる事が多い。傘部破壊の場合、破壊状態は軸と平行な方向へのせん断破壊であり、その接合強度はかしめ部内での溶け残りの量に大きく依存する。
本発明の繊維強化樹脂接合体は、上記の如くかしめられているので、優れた接合強度を有するものであるが、用途によっては、他の接合方法、例えば、接着剤等によってかしめ部をさらに補強してもよい。
かしめ部は、部材Bの表面と接触していることが好ましいが、接合強度が保てるのであれば接触していなくてもよい。また、突起部は、部材Bの貫通孔内面とは接触していても接触していなくてもよい。
【0080】
(繊維強化樹脂接合体の製造方法)
本発明の繊維強化樹脂接合体は、繊維強化樹脂成形体Aと部材Bとから基本的に構成される。一方の繊維強化樹脂成形体Aは、強化繊維とマトリクスとして熱可塑性樹脂とを含んでなり、少なくとも1つの突起部を有するものである。部材Bは、少なくとも1つの貫通孔を有するものであり、好ましくは、強化繊維とマトリクスとして熱可塑性樹脂とを含んでなるものである。繊維強化樹脂成形体Aの突起部は、部材Bの貫通孔に挿入され、突き出した部分(突出部)はかしめられている。かしめる際には、突出部を加熱しつつ加圧することが好ましく、変形が完了した後に冷却、固化することによって製造することができる。
【0081】
突出部を加熱する方法として特に限定はないが、例えば、熱板等のヒーターを接触する事で加熱する方法、赤外線により加熱する方法、超音波で振動する事で加熱する方法などがある。中でも、赤外線により加熱する方法では、前記突出部の変形させたい部分を選択的に加熱することができ、突出部の溶け残り部の長さをコントロールするのに適している。また、超音波により加熱する方法は、短時間でかしめる事ができ好適に用いることができる。この時、繊維強化樹脂成形体Aと部材Bの位置を固定して溶着位置を固定する場合、アンビルという治具を用いる事が多い。
【0082】
かしめ後のかしめ部の傘形状としては、かしめに用いる治具の形状によって具体的には決める事ができる。治具の体積はかしめに用いる突出部の体積と調整して定める。具体的には突出部の溶着可能部分はかしめに用いる治具の1.1〜1.2倍になるのが好ましい。
本発明の繊維強化樹脂接合体は、かしめ部分が1つでもよいが、2つ以上あってもよい。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は、自動車技術会1987年 No.406−87に従って測定した。具体的に、十字引張強度は、試験片のサイズが25mm×75mm×2.5mm、引張速度5mm/sで行った。
(2)突起部の座屈応力は、JIS K7181:2011に従って圧縮試験にて測定した。
(3)繊維強化樹脂成形体Aの引張弾性率は、JIS K7161:1994に従って引張試験にて測定した。
(4)かしめ部内部での突出部の未変形部(溶け残り部)の長さ(L1)とかしめ部の高さ(L2)は、上記(1)記載の試験後の破壊されたサンプルをノギスによって測定し、かしめ部内部での突出部の溶け残り部の割合(L1/L2)を算出した。
【0084】
[製造例1] 等方性基材を用いた繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維として、平均繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均繊維径7μm)を使用し、マトリクスとして、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、WO2012/105080パンフレットに記載された方法に基づき、炭素繊維目付け1800g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mである等方的に炭素繊維が配向した、ナイロン6樹脂を含有する強化繊維マットを作成した。
具体的には、炭素繊維の分繊装置には、超硬合金を用いて円盤状の刃を作成し、0.5mm間隔に配置したスリッターを用いた。カット装置には、超硬合金を用いて螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このとき、刃のピッチを20mmとし、炭素繊維を繊維長20mmにカットするようにした。
カッターを通過したストランドをロータリーカッターの直下に配置したフレキシブルな輸送配管に導入し、引き続き、これを開繊装置に導入した。開繊装置としては、径の異なるSUS304製のニップルを溶接し、二重管を製作して使用した。二重管の内側の管に小孔を設け、外側の管との間にコンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。この時、小孔からの風速は、100m/secであった。この管の下部には下方に向けて径が拡大するテーパ管を溶接した。
【0085】
上記テーパ管の側面より、ナイロン6樹脂を供給した。そして、テ―パー管出口の下部に一定方向に移動する通気性の支持体(以後、定着ネットと呼ぶ)を設置し、その下方よりブロワにて吸引を行い、その定着ネット上に、該フレキシブルな輸送配管とテーパ管を幅方向に往復運動させながら、カットした炭素繊維とナイロン6樹脂の混合体を帯状に堆積させた。そして、炭素繊維の供給量を500g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/min、にセットして装置を稼動し、定着ネット上に炭素繊維と熱可塑性樹脂が混合されたマット状の等方性基材を得た。かかる等方性基材中の炭素繊維は、二次元ランダムに分散、配向していた。
この等方性基材を、上部に凹部を有する金型を用いて260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、厚さ2.3mmの平板の成形板(I)を得た。この成形板(I)中の炭素繊維は、単糸状のものと一部が開繊された繊維束状のものとが混在していた。炭素繊維は、成形板(I)中の平面方向に等方的に分散していた。臨界単糸数86であり、平均繊維数は420であった。
【0086】
[製造例2] 等方性基材を用いた繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維の供給量を340g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/minとし、炭素繊維目付け1200g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mとした以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0087】
[製造例3] 等方性基材を用いた繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維の供給量を170g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/minとし、炭素繊維目付け600g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mとした以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0088】
[製造例4] ポリカーボネート樹脂を用いた繊維強化樹脂成形板の製造例
ナイロン6樹脂の代わりに、ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製、「パンライト」(登録商標))を用いた以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0089】
[参考例1] 等方性基材を用いた繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維の供給量を90g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/minとし、炭素繊維目付け300g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mとした以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0090】
[参考例2] 等方性基材を用いた繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維の供給量を45g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/minとし、炭素繊維目付け150g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mとした以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0091】
[参考例3] 炭素繊維を含まない繊維強化樹脂成形板の製造
炭素繊維の供給量を0g/min、ナイロン6樹脂の供給量を530g/minとし、炭素繊維目付け0g/m、ナイロン6樹脂目付け1500g/mとした以外は製造例1と同様にして繊維強化樹脂成形板を製造した。
【0092】
[実施例1]
製造例1で得られた成形板(I)を200mm×100mmの大きさに切り出し、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により成形板(I)の温度を280℃まで昇温した。外周が200mm×100mm、Φ(直径)6mm、深さ10mmの孔(凹部)が8個付いた金型を140℃に設定し、上記加熱した成形板(I)を同金型内に導入した。ついで、プレス圧力5MPaで1分間加圧し、Φ6mm、高さ10mmの8個の突起部を持つ成形板(I’)を得た。これを、突起部が中央に来るように25mm×75mmにカットした。この成形板(I’)の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は120MPaであった。
上述と同様に、外周が200mm×100mmの平板用金型を用いて200mm×100mmの成形板(I’’)を得た。これを、25mm×75mmにカットし、中央にΦ6mmの貫通孔を加工した。
【0093】
成形板(I’)の突起部を成形板(I’’)の貫通孔に挿入し、超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて、かしめ径10mm、かしめ高さ3mmになる様に振幅60μm、加圧力1500kNで1秒間かしめ、繊維強化樹脂接合体を作成した。この繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は2.5kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.45であった。また、突起部の内部に含まれる炭素繊維の一部が、突起部以外の成形板(I’)中に入り込んでいることを、突起部の断面を光学顕微鏡で観察する事により確認できた。
【0094】
[実施例2]
製造例2で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は22GPaであった。突起部の座屈応力は100MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は2.1kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.35であった。
【0095】
[実施例3]
製造例3で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は18GPaであった。突起部の座屈応力は85MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.8kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.30であった。
【0096】
[実施例4]
突起部の形状がΦ8mm、高さ8mmである事、貫通孔の形状がΦ8mmである以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は160MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は3.0kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.4であった。
【0097】
[実施例5]
突起部の形状がΦ10mm、高さ6mmである事、貫通孔の形状がΦ10mmである以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は200MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は3.5kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.50であった。
【0098】
[実施例6]
突起部の形状が上辺10mm、下辺22mm、厚み5mm、高さ10mmの台形状である事、貫通孔の形状が22mm×5mmである事以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は250MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は3.5kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合はで0.20であった。
【0099】
[実施例7]
加圧力を2500Nにしたこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は120MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.7kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.65であった。
【0100】
[比較例1]
参考例1で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は13GPaであった。突起部の座屈応力は70MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.4kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.45であった。
【0101】
[比較例2]
参考例2で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は11GPaであった。突起部の座屈応力は50MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.3kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.40であった。
【0102】
[比較例3]
参考例3で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は8GPaであった。突起部の座屈応力は30MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.0kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.40であった。
【0103】
[比較例4]
突起部の形状がΦ4mm、高さ12mmであること、貫通孔の形状がΦ4mmであること以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は26GPaであった。突起部の座屈応力は60MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は1.2kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.70であった。
【0104】
[実施例8]
製造例4で得られた成形板を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂接合体を得た。
突起部を有する成形板の引張弾性率は24GPaであった。突起部の座屈応力は110MPaであった。繊維強化樹脂接合体の十字引張強度は2.3kNであった。また、試験後のサンプルのかしめ部の高さに対する、かしめ部内部の突出部における溶け残り部の割合は0.45であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の繊維強化樹脂接合体は、優れた接合強度を有しており、例えば、自動車の構造部品等の優れた溶着強度が要求される用途に用いることが可能であり、車体の軽量化などを確実なものとする。
【0106】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2014年3月25日出願の日本特許出願(特願2014−061711)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【要約】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、かつ、座屈応力が80〜450MPaの範囲にある少なくとも1つの突起部を有する繊維強化樹脂成形体Aと、少なくとも1つの貫通孔を有する部材Bとを含んで構成された繊維強化樹脂接合体であって、前記繊維強化樹脂成形体Aの突起部は前記部材Bの貫通孔内を貫通しており、かつ前記貫通孔から突き出した部分にかしめ部を有することを特徴とする、繊維強化樹脂接合体。
図1