特許第5864077号(P5864077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5864077アルコール誘発性肝疾患の治療、予防および回復
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864077
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】アルコール誘発性肝疾患の治療、予防および回復
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20160204BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160204BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20160204BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160204BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20160204BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61K45/00
   A61P1/16
   A61P3/10
   A61P25/18
   A61P43/00 111
【請求項の数】13
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2009-527442(P2009-527442)
(86)(22)【出願日】2007年9月10日
(65)【公表番号】特表2010-502718(P2010-502718A)
(43)【公表日】2010年1月28日
(86)【国際出願番号】US2007019610
(87)【国際公開番号】WO2008030595
(87)【国際公開日】20080313
【審査請求日】2010年9月9日
【審判番号】不服2014-18872(P2014-18872/J1)
【審判請求日】2014年9月22日
(31)【優先権主張番号】60/842,983
(32)【優先日】2006年9月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507183930
【氏名又は名称】ロード アイランド ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ モンテ スザンヌ マリエ
(72)【発明者】
【氏名】ワンズ ジャック レイモンド
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 關 政立
【審判官】 大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/016265(WO,A1)
【文献】 DAVIDW. CRABB,Alcohol deranges hepatic lipid metabolism via altered transcriptional regulation ,TRANSACTIONS OF THE AMERICAN CLINICAL AND CLIMATOLOGICAL ASSOCIATION,2004年,Vol. 115,273−287
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/192
A61K45/00
CAPLUS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物におけるアルコール誘発性肝疾患を治療するため、予防するため、または回復させるための薬学的組成物であって、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-δ(PPAR-δ)選択的アゴニストL-165,041の治療的有効量を含む薬学的組成物。
【請求項2】
動物における慢性的アルコール摂取によって生じる肝損傷を治療するため、予防するため、または回復させるための薬学的組成物であって、PPAR-δ選択的アゴニストL-165,041の治療的有効量を含む薬学的組成物。
【請求項3】
肝損傷が酸化ストレスと関連している、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
肝損傷が脂質過酸化と関連している、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項5】
肝損傷がDNA損傷と関連している、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項6】
慢性的アルコール摂取を伴う動物における肝再生応答を刺激するため、または復元させるための薬学的組成物であって、PPAR-δ選択的アゴニストL-165,041の治療的有効量を含む薬学的組成物。
【請求項7】
PPAR-α選択的アゴニスト、またはPPAR-γ選択的アゴニストをさらに含む、請求項1、2、および6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
肝疾患が脂肪症、アルコール性肝炎、またはアルコール性肝硬変である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項9】
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約0.1gの純アルコール/kg体重/日である、請求項2、および6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約0.5gの純アルコール/kg体重/日である、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約1gの純アルコール/kg体重/日である、請求項10記載の薬学的組成物。
【請求項12】
肝再生応答が、PPARアゴニストの投与の非存在下における応答を10%上回るレベルへと刺激される、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項13】
肝再生応答が、PPARアゴニストの投与の非存在下における応答を50%上回るレベルへと刺激される、請求項12記載の薬学的組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬物療法の分野にある。詳細には、本発明は、慢性的アルコール摂取によって生じる肝疾患または肝損傷を、少なくとも1つのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストを投与することによって治療するため、予防するため、または回復させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
エタノールが成長因子およびサイトカインネットワークの栄養作用に対する肝細胞の感受性を低下させるという証拠が増しつつある。実際に、培養下でエタノールに対して曝露されたラット肝細胞では、インスリンおよび上皮成長因子(EGF)により刺激されるDNA合成に対する応答が著しく低下する。このため、短期的および長期的なエタノール曝露は、インビトロでの肝細胞DNA合成(Carter et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 128:767 (1985);Carter et al., Alcohol Clin. Exp. Res. 12:555 (1988))および肝部分切除術の後に肝臓が再生する能力(Diehl et al., Gastroenterology 99:1105 (1990);Diehi et al., Hepatology 16:1212 (1992);Wands et al., Gastroenterology 77:528 (1979))を障害させる。エタノールが肝細胞増殖を阻害する厳密な分子的機序はほとんど解明されていない。肝再生はいくつかの成長因子およびサイトカインによって調節され、中でも腫瘍壊死因子(TNF)-α、EGF、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α、インターロイキン(IL)-6、肝細胞成長因子(HGF)およびインスリンは最も重要と考えられている(Michalopoulos et al., Science 276:60 (1997);Pistoi et al., FASEB J. 10:819 (1996);Fausto, J. Hepatol. 32:19 (2000)。この点に関して、以前の研究は、エタノールが、肝細胞におけるHGF(Saso et al., Alcohol Clin. Exp. Res. 20:330A (1996))、EGF(Zhang et al., J. Clin. Invest. 98:1237 (1996);Higashi et al., J. Biol. Chem. 266:2178 (1991);Saso et al., Gastroenterology 112:2073 (1997))またはTNF-α(Akerman et al., Hepatology 17:1066 (1993))によるシグナル伝達カスケードの活性化およびCa2+媒介性シグナル(Sun et al., Mol. Endocrinol. 11:251 (1997))を妨げることを示唆している。さらに、慢性的エタノール消費は再生中のラット肝臓においてG-タンパク質発現を擾乱させ、サイクリックAMP依存的シグナル伝達を阻害する(Diehi et al., FASEB J. 10:215 (1996);Hoek et al., FASEB J. 6:2386 (1992))。複数の研究者によって示されているように、他のシグナル伝達経路もエタノールに対するインビボ曝露によって有害な影響を受ける。例えば、急性または慢性的エタノール曝露によって、EGF受容体とのGタンパク質の共役が障害され(Zhang et al., Biochem. Pharmacol. 61:1021 (2001));肝部分切除術後のNFκβおよびJNKのTNF-α誘発性発現が変化し(Diehi, Clin. Biochem. 32:571 (1999));p42/44、MAPK、p38MAPKおよびJNKの活性化が低下する(Chen et al., Biochem. J. 334:669 (1998))。
【0003】
EGF、TGF-α、HGFおよびインスリンなどの肝細胞成長因子は受容体チロシンキナーゼを活性化するため、細胞内基質のチロシンリン酸化を通じて媒介されるシグナル伝達に対するエタノールの影響が調べられている。以前の研究により、エタノールはDNA合成(Carter et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 128:767 (1985);Diehl et al., Gastroenterology 99:1105 (1990);Wands et al., Gastroenterology 77:528 (1979);Duguay et al., Gut 23:8 (1982))、ならびにインスリン(Sasaki et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 199:403 (1994))およびサイクリックAMPを介したシグナル伝達(Diehl et al., Hepatology 16:1212 (1992))の強力な阻害薬であることから、この経路の生物学的な重要性が確立されている。エタノールのこれらの影響は、有糸分裂誘発に関与するインスリンシグナル伝達経路の脱共役によって媒介される(Sasaki et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 199:403 (1994))。実際に、IRS-1を介したシグナル伝達は、成体肝臓における肝細胞成長の調節に決定的な役割を果たしている(Ito et al., Mol. Cell. Biol. 16:943 (1996);Nishiyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 183:280 (1992);Sasaki et al., J. Biol. Chem. 268:3805 (1993);Tanaka et al., J. Biol. Chem. 271:14610 (1996);Tanaka et al. Hepatology 26:598 (1997);Tanaka et al., Cancer Res. 56:3391 (1996);Tanaka et al., J. Clin. Invest. 98:2100 (1996))。IRS-1をアルブミンプロモーターの制御下で過剰発現させたトランスジェニック(Tg)マウスモデルでは、Tgマウスにおける肝臓質量が非Tg対照マウスよりも20〜30%大きく、この差は成体が生きている間維持された(Tanaka et al. Hepatology 26:598 (1997))。IRS-1過剰発現のこの影響は、肝細胞DNA合成の増加、ならびにPI3KおよびRas/Erk MAPKカスケードの恒常的活性化を伴っていた。他のモデルにおいて、アンチセンスIRS-1 RNAの発現またはIRS-1抗体のマイクロインジェクションは、インスリンにより刺激されるDNA合成および成長を阻害した(Rose et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:797 (1994);Waters et al., J. Biol. Chem. 268:22231 (1993))。同様に、ドミナント/ネガティブIRS-1突然変異体は、インスリンおよびIGF-Iにより刺激される細胞増殖を阻止することが見いだされた(Tanaka et al., J. Clin. Invest. 98:2100 (1996))。さらに、最近の検討により、IRS-1を通じてのシグナル伝達の活性化は、DNA合成および細胞周期進行にとって必須であること、ならびにIRS-1が細胞系質転換に直接的な役割を果たすことが実証されている(Ito et al., Mol. Cell. Biol. 16:943 (1996);Tanaka et al., J. Biol. Chem. 271:14610 (1996);Tanaka et al., Cancer Res. 56:3391 (1996);Tanaka et al., J. Clin. Invest. 98:2100 (1996))。細胞成長に対するIRS-1過剰発現の影響は、有糸分裂促進シグナル伝達カスケードの恒常的活性化に依存するように思われる(Ito et al., Mol. Cell. Biol. 16:943 (1996);Nishiyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 183:280 (1992);Sasaki et al., J. Biol. Chem. 268:3805 (1993);Tanaka et al., J. Biol. Chem. 271:14610 (1996);Tanaka et al. Hepatology 26:598 (1997);Tanaka et al., Cancer Res. 56:3391 (1996);Tanaka et al., J. Clin. Invest. 98:2100 (1996))。これらの研究を総合して考えると、肝成長におけるインスリン/IGF-Iシグナル伝達の重要性、および肝修復過程に対してインスリン抵抗性が有害作用を及ぼす可能性が強く示される。
【0004】
インスリンはよく知られた肝栄養因子であり、インスリン受容体(IR)を通じて作用して、肝成長および肝代謝に重要な役割を果たす(Khamzina et al., Mol. Biol. Cell 9:1093 (1998);White, Recent Prog. Horm. Res. 53:119 (1998))。IRα-サブユニットが結合すると、IRβ-サブユニットがチロシル残基で自己リン酸化され、受容体チロシルキナーゼ活性の増大が起こる(White, Recent Prog. Horm. Res. 53:119 (1998))。IRS-1はIRチロシンキナーゼの主要な細胞内基質である(Sun et al., Nature 352:73 (1991))。IRS-1タンパク質のC末端領域に位置するチロシルリン酸化モチーフ(Myers et al., Trends Biochem. Sci. 19:289 (1994))は、ホスファチジルイノシトール3'-キナーゼ(PI3K)のp85調節サブユニット(Backer et al., EMBO J. 11:3469 (1992);Myers et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10350 (1992))、成長因子受容体結合タンパク質2(Grb2)(Skolnik et al., Science 260:1953 (1993))、ホスホリパーゼCγ(PLCγ)(White, Recent Prog. Horm. Res. 53:119 (1998))およびチロシルホスファターゼSHP2/Syp(Sun et al., Mol. Cell. Biol. 13:7418 (1993))を含むSH2含有分子との相互作用を通じて、シグナルを下流に伝達する。これらの結合イベントは、Ras/Raf/MAPKK/MAPKカスケードのような特定のシグナル伝達経路の活性化のために決定的に重要である。関心対象のもう1つの主要な経路は、PI3Kのp85サブユニットと、Akt/プロテインキナーゼB(PKB)を活性化することによって細胞生存を促進するIRS-1の613YMPMモチーフおよび942YMKMモチーフ(Backer et al., EMBO J. 11:3469 (1992);Myers et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10350 (1992))との結合を伴う(Dudek et al., Science 275:661 (1997);Eves et al., Mol. Cell. Biol. 18:2143 (1998))。PLCγは膜リン脂質に作用して、細胞内Ca2+レベルおよびプロテインキナーゼC活性の制御に関与する二次メッセンジャーであるイノシトールリン酸およびジアシルグリセロールを生成する(Carpenter et al., Exp. Cell Res. 253:15 (1999);Sekiya et al., Chem. Phys. Lipids 98:3 (1999))。IRS-1のN末端配列は、シグナル伝達を媒介する3つの重要な機能ドメインを含む:1つはプレクストリン相同(PH)領域として(Musacchio et al., Trends Biochem. Sci. 18:343 (1993))、他の2つはホスホチロシン結合(PTB)ドメインとして同定されている(Sun et al., Nature 377:173 (1995);Gustafson et al., Mol. Cell. Biol. 15:2500 (1995))。PHドメインはTyk-2 JanusチロシンキナーゼとのIRS-1相互作用を媒介しており(Platanias et al., J. Biol. Chem. 271:278 (1996))、IRS-1とGタンパク質(Touhara et al., J. Biol Chem. 269:10217 (1994))またはリン脂質((Harlan et al., Nature 371:168 (1994))シグナル伝達との相互干渉を媒介している可能性もある。
【0005】
IRSタンパク質がかかわる最も重要な下流シグナル伝達分子の1つはPI3Kであり、これはホスホイノシチドをD-3位でリン酸化する(Carpenter et al., Mol. Cell. Biol. 13:1657 (1993);Dhand et al.,EMBO J. 13:511(1994))。これらのリン脂質はホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK-1)を活性化し、それはセリンキナーゼであるAkt(PKBとも呼ばれる)を活性化する(Kandel et al., Exp. Cell Res. 253:210 (1999);Franke et al., Cell 81:727 (1995);Burgering et al., Nature 376:599 (1995))とともに、Aktキナーゼも活性化する。インスリンを含む多くの栄養因子は、PI3K→PDK1経路を利用することでAkt活性を上昇させる。PI3Kの脂質産物も、ホスホイノシチド依存性キナーゼ、低分子量Gタンパク質およびプロテインキナーゼC(Avruch et al., Mol. Cell. Biochem. 182:31 (1998);Le Good et al., Science 281:2042 (1998);Zheng et al., J. Biol. Chem. 269:18727 (1994))シグナル伝達分子を活性化することができる。加えて、最近の証拠から、PI3KがRas/Raf/MAPK経路の個々の構成要素の活性を直接的に活性しうることも示唆されている(Chaudhary et al., Curr. Biol. 10:551 (2000))。
【0006】
PI3Kのいくつかの下流標的、例えばAktは、転写および細胞運命の調節において決定的な役割を果たす。これらの作用は、生存およびプログラム細胞死(アポトーシス)のために必要なシグナルのバランスを繊細かつ正確にとることを必要とする(Burgering et al., Nature 376:599 (1995);Franke et al., Cell 88:435 (1997))。インスリンはAktリン酸化を2つの部位(Thr308およびSer473)で誘導し、それによってAktキナーゼをPI3K依存的な様式で活性化する(Carpenter et al., Mol. Cell. Biol. 13:1657 (1993))。遍在性に発現されるセリン/トレオニンプロテインキナーゼであるGSK3βは、PI3K/Akt経路のもう1つの鍵となる要素である(Kandel et al., Exp. Cell Res. 253:210 (1999);Avruch et al., Mol. Cell. Biochem. 182:31 (1998))。高レベルのGSK3β活性はアポトーシスを促進する。Aktキナーゼは生存を促進してアポトーシスを阻害するが、これは一部にはGSK3をSer 9/21でリン酸化することによるものであり(Pap et al., J. Biol. Chem. 273:19929 (1998))、これはそのキナーゼを失活させ、GSK3β活性を阻害する(Srivastava et al., Mol. Cell. Biochem. 182:135 (1998);Cross et al., Nature 378:785 (1995))。GSK3βの生物活性については、このキナーゼが、IRS-1シグナル伝達の下流標的であるインスリン調節性エタノール感受性遺伝子であるとともに細胞遊走の重要なメディエーターでもある、アスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(AAH)のレベルおよび機能を調節している可能性があるため、特に関心が持たれる。
【0007】
Bcl-2ファミリーのメンバーであるアポトーシス促進性タンパク質BADのAkt依存的リン酸化は、細胞生存過程におけるもう1つの鍵となるイベントである。BADおよびホスホ-BADのレベルは、アポトーシスとインスリンにより誘導される細胞生存との間のバランスの調節にかかわる。BAD Ser112部位特異的キナーゼは、ミトコンドリア膜に局在するcAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)であり(Harada et al., Mol. Cell 3:413 (1999))、これはミトコンドリア外膜タンパク質であるAキナーゼアンカータンパク質がPKAホロ酵素をBADの活性があるオルガネラに係留させるという細胞下キナーゼ-基質相互作用を促進する。インスリンなどの生存因子に曝露されると、PKAの触媒サブユニットは、ミトコンドリアに配置されたBADをSer112でリン酸化する。BADのSer112およびSer136でのリン酸化は、BADを不活性化してBcl-2との結合から解離させ、BADをサイトゾルに移行させる。この過程はアポトーシスを阻害して細胞生存を促進する(Zha et al., Cell 87:619 (1996))。
【0008】
現在は、ある状況下では、Akt活性は細胞死遺伝子の発現を制御する転写因子を調節することによってアポトーシスを阻害しうるという有力な証拠がある。最近、AktがForkheadファミリーの転写因子のメンバーであるFKHRL1遺伝子を調節することが示された。Aktがインスリン/IGF-I刺激によって、おそらくはIRS-1シグナル伝達経路を介して活性化されると、それはFKHRL1をリン酸化して、14-3-3シャペロンタンパク質とのその会合を促進し、FKHRL1転写因子の細胞質中での保持をもたらす。これに対して、AktによるFKHRL1のリン酸化の低下は、その核移行およびその後の標的遺伝子の活性化を招きうる。この点に関して、FKHRL1の最も重要な標的の1つはFasリガンド(L)遺伝子であり、これはFKHRL1のDNA結合のための3つのコンセンサス配列を含む。FKHRL1とFas Lプロモーター領域との結合は、Fas L遺伝子発現を増大させ、細胞死を促進する(Brunet et al., Curr. Opin. Neurobiol. 11:297 (2001))。このため、Aktシグナル伝達の阻害はFas L発現を誘導する(Suhara et al., Mol. Cell. Biol. 22:680 (2002))。この点に関して、以前の実験における所見は、ラットおよびマウスにおける急性または慢性のエタノール消費はFas L発現のアップレギュレーションを招きうることを示唆するが(Deaciuc et al., Alcohol Clin. Exp. Res. 23:349 (1999);Zhou et al., Am. J. Pathol. 159:329 (2001);Deaciuc et al., Hepatol. Res. 19:306 (2001);Castaneda et al., J Cancer Res. Clin. Oncol. 127:418 (2001))、その機序はまだ明らかになっていない。慢性的エタノール乱用の状況下でのFas L遺伝子のアップレギュレーションは、Forkhead転写因子のAkt依存的リン酸化を介して起こる可能性が示唆されており、この過程は肝細胞においてプログラム細胞死機構を活性化する。したがって、IRS-1依存的シグナル伝達機構およびIRS-1非依存的シグナル伝達機構の両方におけるエタノール誘発性変化の生物学的帰結を認識することが、それらが細胞の増殖および生存に関係していることからみて重要である。
【0009】
エタノールが肝臓におけるPI3K活性をIRS-1依存的経路によって低下させることについては直接的な実験的証拠がある。しかし、PI3Kがエタノールによって阻害される可能性のある他の考えられる機序の考察の結果、肝臓におけるPTEN発現の検討が行われた。これらの実験の根拠は、PTENがPI3K活性の重要な負の調節因子として登場してきたことにある(Yamada et al., J. Cell Sci. 114:2375 (2001);Seminario et al., Semin. Immunol. 14:27 (2002);Leslie et al., Cell Signal. 14:285 (2002);Maehama et al., Annu. Rev. Biochem. 70:247 (2001);Comer et al., Cell 109:541 (2002))。PTEN分子は、C2リン脂質結合ドメイン、2つのPEST領域、1つのPDZ結合ドメインおよび1つのPIP2結合モチーフといった複数の保存的ドメインを有する。これは当初は腫瘍抑制因子として記述されたが、現在では主要な基質(インビボ)がPI(3,4,5)P3およびPI(4,5)P2であることが明らかになっている。PTENの脂質ホスファターゼドメイン(G-129-E)のみを消失させる点突然変異の存在だけで、腫瘍抑制の喪失を含む、PTEN-/-表現型を生じさせるには十分である。一方、PTENの過剰発現はIRS-1チロシルリン酸化およびIRS-1/Grb-2/SOS複合体形成を阻止するが、インスリン受容体のチロシルリン酸化は妨げない。細胞内でのその正味の作用は、MAPK活性化、細胞周期進行および増殖を阻害することである(Weng et al., Hum. Mol. Genet. 10:605 (2001))。これらの知見は、PTENが、肝細胞の増殖に関与するシグナル伝達経路を負の方向に調節することを示唆する。
【0010】
このため、PTENがPI3Kを脱リン酸化してその機能を阻害している肝臓に対するエタノールの影響に関しては非常に興味が持たれる(Dahia et al., Hum. Mol. Genet. 8:185(1999);Maehama et al., Trends Cell. Biol. 9:125(1999);Li et al., Cancer Res. 57:2124(1997))。その反対に、PTENの不活性化はPI3K機能を増強し、Aktの膜への動員を促進して、Aktリン酸化およびAktキナーゼ活性の増大を招く(Kandel et al., Exp. Cell Res. 253:210(1999);Maehama et al., Trends Cell. Biol. 9:125(1999))。このため、低レベルのPTENはAktキナーゼ活性を上昇させて成長および生存を促進し、一方、高レベルのPTENはPI3K/Aktを阻害し、アポトーシス性シグナルの伝達を増強するとともに細胞増殖を阻害する。慢性的エタノール曝露ラットから得た肝組織におけるPTEN発現およびホスファターゼ活性は、対照ラットと比較して有意に増大している。この現象は転写機構、翻訳後機構または両方の機構に起因する可能性がある。この点に関して、PTEN発現およびホスファターゼ活性はリン酸化によって負の方向に調節され(Torres et al., J. Biol. Chem. 276:993 (2001))、PTENレベルが初代肝細胞培養物においてインスリンにより誘導されるリン酸化によって制御されうること、ならびにエタノール曝露が、これらの分子のC末端領域のリン酸化を変化させることによってタンパク質の生物活性およびレベルを増大させることを示唆する。エタノールに曝露させた肝組織におけるPTEN発現の増大の程度がGSK-3β活性の増強と並行していたことは注目に値し、これはPI3Kを通じての下流シグナル伝達に対して予想されるPTENの阻害作用とも一致する。この観察所見は、エタノールが、肝臓において、PTEN発現の変化を通じてプログラム細胞死ならびに増殖のいずれの経路に対しても大きな影響を及ぼしうることを示唆する。
【0011】
それをヒト疾患に当てはめた場合の生物学的意味合いは、エタノールが、インスリンおよびインスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)ならびにIRS-1依存的およびIRS-1非依存的シグナル伝達カスケードによって調節される肝細胞増殖および生存の両方と関係する特定のシグナル伝達カスケードに有害な影響を及ぼしうるということである。Fas系に対するエタノールの影響はあり、それはPI3K/Aktシグナル伝達の障害と関連づけられるように思われる。IRS-1およびPI3Kを通じての増殖経路および生存経路はインビボでの慢性的エタノール曝露によって大きな変化を受け、Fasシグナル伝達経路はインビトロおよびインビボの両方で肝細胞アポトーシスに寄与する可能性がある。実際に、エタノールがFas L発現をアップレギュレートし、肝疾患を有するアルコール依存患者で観察される肝細胞損傷に重要な役割を果たすという証拠は蓄積されつつあるが、エタノールによるFas受容体(R)/Fas Lの変化の分子的機序はまだ立証されていない(Benedetti et al., J. Hepatol. 6:137 (1988);Natori et al., J. Hepatol. 34:248 (2001);Goldin et al., J. Pathol. 171:73 (1993);Nanji, Semin. Liver Dis. 18:187 (1998);Higuchi et al., Hepatology 34:320 (2001))。
【0012】
慢性的エタノール消費の肝臓に対するもう1つの有害作用は、脂質過酸化およびDNA損傷によって顕在化する酸化ストレスである。この点に関して、肝臓へのエタノール曝露は、H2O2を含む反応性酸素種(ROS)の細胞での生成を増加させる。これが起こると、抗酸化防御が不十分となり、肝細胞の生存度が低下して肝損傷が生じる(Sohn et al., J. Neurol. Sci. 162:133 (1999);Tanaka et al., J. Clin. Invest. 103:341 (1999);Diehl et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 288:1 (2005))。この状況では、肝臓の炎症が亢進しており、これは脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変などの慢性的疾患のほか、場合によっては肝細胞癌の発症を招く。このように、慢性的エタノール消費は、肝臓に対して2つの主要な有害作用、すなわち酸化ストレス、ミトコンドリア障害、プログラム細胞死経路のアップレギュレーション、DNA損傷、および主としてインスリン/IGF-Iシグナル伝達カスケードを介する肝修復過程(すなわち、肝再生)の阻害を通じての肝臓損傷の誘導および永続化を及ぼし、これは世界中でヒトの肝疾患の主な原因の1つとなっている。
【0013】
この問題の深刻さは、以下のことが物語っている:成人のおよそ67%がアルコールを消費し、米国人1400万人がアルコール乱用および/または依存症の基準を満たす。このような状況下で、アルコール性肝疾患(ALD)には、200万人を上回る米国人および世界中のさらに多くの者が罹患している。その臨床的帰結として、ALDを有する個人の40%が肝硬変で死亡する。このため、エタノール乱用のこれらの怖ろしい合併症を予防または治療するための方策を見つけ出すことが真に求められている。
【発明の概要】
【0014】
アルコール誘発性肝損傷とインスリン抵抗性との関係は、慢性的にアルコールを摂取した動物の肝臓内でのインスリン応答障害およびインスリン/IGF経路の変化という所見によって実証されている。これらの所見は、ALDと、治療目的に利用しうる可能性のあるインスリン/IGFシグナル伝達経路とのつながりを明確にするものである。
【0015】
本発明は、ALDの動物モデルを用いた、ある種のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストの投与が肝臓における酸化ストレスおよびDNA損傷を著しく抑制し、ならびにさらに重要なことに、肝再生を劇的に増強するという驚くべき発見に関する。その正味の効果は、エタノールによって生じる継続的な肝損傷を減弱させる、または予防すること、および肝再生過程を大きく加速させることである。本発明は、肝損傷およびALDの治療のために大きな意味を有する。
【0016】
したがって、本発明の1つの局面は、動物におけるアルコール誘発性肝疾患を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法を対象とする。
【0017】
本発明のもう1つの局面は、動物において慢性的アルコール摂取によって生じる肝損傷を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法を対象とする。
【0018】
1つの態様において、本発明は、慢性的アルコール摂取によって生じる、動物の肝臓におけるインスリン抵抗性を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0019】
1つのさらなる態様において、本発明は、慢性的アルコール摂取を伴う動物における肝再生応答を刺激するため、または復元させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0020】
驚いたことに、PPARアゴニストは、ALDのモデルである慢性的エタノール摂取動物における肝損傷の治療および予防のために特に有効であることが発見された。さらに、PPARアゴニストは、このモデルにおいて、エタノールにより障害された肝再生を復旧させる。このため、慢性的な飲酒者であるか、またはアルコール誘発性肝損傷もしくは肝疾患に罹患しているヒト対象にPPARアゴニストを投与することで、さらなる肝損傷が予防または緩徐化される、健常な肝組織の生成を促進する、および肝損傷または肝疾患の症状が治療または寛解される可能性があると予想される。
【0021】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製したアルコール誘発性肝損傷および肝疾患の動物モデルを提供する。驚いたことに、Long-Evansラットは他のラット系統と比較して、エタノールを与えることに対して強い応答を示すことが発見され、これにより、このラットは慢性的アルコール摂取の影響の試験のために理想的に適するものとされた。1つの態様において、エタノールはLong-Evansラットの毎日の食餌中に含められる。例えば、エタノールは、毎日の食餌の約0%、2%、4.5%、6.5%、9.25%(v/v)(カロリー含有量の0%、8%、18%、26%または37%に相当)またはそれ以上を構成する。
【0022】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製した動物モデルに作用物質(agent)を投与する段階、ならびに作用物質を投与されていない対照動物におけるレベルと比較して、肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性のある作用物質に関するスクリーニングのための方法であって、作用物質を投与されていない対照動物におけるレベルと比較した際の肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルにおける改善により、その作用物質がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性があることが示される方法に関する。
【0023】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製した動物モデルに可能性のある治療を施す段階、ならびに可能性のある治療を施されていない対照動物におけるレベルと比較して肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のための、可能性のある治療を試験するための方法であって、可能性のある治療を施されていない対照動物におけるレベルと比較した際の肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルにおける改善により、その治療がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有効である可能性があることが示される方法も提供する。
以下に、本発明の基本的な諸特徴および種々の態様を列挙する。
[1]
動物におけるアルコール誘発性肝疾患を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、該動物に少なくとも1つのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法。
[2]
動物における慢性的アルコール摂取によって生じる肝損傷を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、該動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法。
[3]
肝損傷が酸化ストレスと関連している、[2]記載の方法。
[4]
肝損傷が脂質過酸化と関連している、[2]記載の方法。
[5]
肝損傷がDNA損傷と関連している、[2]記載の方法。
[6]
慢性的アルコール摂取によって生じる、動物の肝臓におけるインスリン抵抗性を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、該動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法。
[7]
慢性的アルコール摂取を伴う動物における肝再生応答を刺激するため、または復元させるための方法であって、該動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法。
[8]
PPARアゴニストがPPAR-α選択的アゴニストである、[1]、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[9]
PPARアゴニストがPPAR-γ選択的アゴニストである、[1]、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[10]
PPARアゴニストがPPAR-δ選択的アゴニストである、[1]、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[11]
2種またはそれ以上のPPARアゴニストが投与される、[1]、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[12]
少なくとも1つのPPARアゴニストが、PPAR受容体の少なくとも2種の異なるサブタイプと結合する、[1]、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[13]
2種またはそれ以上のPPARアゴニストが、PPAR受容体の少なくとも2種の異なるサブタイプと結合する、[11]記載の方法。
[14]
肝疾患が脂肪症、アルコール性肝炎、またはアルコール性肝硬変である、[1]記載の方法。
[15]
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約0.1gの純アルコール/kg体重/日である、[2]、[6]、および[7]のいずれか一項記載の方法。
[16]
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約0.5gの純アルコール/kg体重/日である、[15]記載の方法。
[17]
慢性的アルコール摂取量が平均で少なくとも約1gの純アルコール/kg体重/日である、[16]記載の方法。
[18]
インスリン抵抗性が、インスリンとインスリン受容体との結合の低下の結果である、[6]記載の方法。
[19]
肝再生応答が、PPARアゴニストの投与の非存在下における応答を10%上回るレベルへと刺激される、[6]記載の方法。
[20]
肝再生応答が、PPARアゴニストの投与の非存在下における応答を50%上回るレベルへと刺激される、[19]記載の方法。
[21]
Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製した、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の動物モデル。
[22]
エタノールが毎日の食餌のカロリー含有量の約37%を構成する、[21]記載の動物モデル。
[23]
[21]記載の動物モデルに作用物質(agent)を投与する段階、ならびに作用物質を投与されていない対照動物におけるレベルと比較して肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性のある作用物質に関するスクリーニングのための方法であって、作用物質を投与されていない対照動物におけるレベルと比較した際の肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルの改善により、その作用物質がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性があることが示される方法。
[24]
[21]記載の動物モデルに可能性のある治療を施す段階、ならびに可能性のある治療を施していない対照動物におけるレベルと比較して肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患に対する、可能性のある治療を試験するための方法であって、可能性のある治療を施していない対照動物におけるレベルと比較した際の肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルの改善により、その治療がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性があることが示される方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】慢性的にエタノールを与えることによる肝損傷(上)、脂質過酸化の増強(中)およびDNA損傷(下)を、等カロリー同時飼育対照と比較して示している。
図2図2A〜2Fは、リアルタイムRT-PCRによる、エタノール摂取動物および対照動物におけるインスリン、IGF-IおよびIGF-II遺伝子発現(A、BおよびC)の測定値を、その各々の受容体発現(D、EおよびF)と比較して示している。
図3図3A〜3Cは、慢性的エタノール摂取ラットにおけるインスリンのその受容体に対する結合の低下を示している(A)。IGF-IまたはIGF-II受容体結合については対照と比較して変化がみられないことに注目されたい(B、C)。
図4図4A〜4Cは、エタノール摂取動物と対照との間で、IRS-1、IRS-2およびIRS-4遺伝子発現に差がみられないことを示している(A〜C)。慢性的エタノール摂取群における、インスリン応答性遺伝子であるAAHの発現の低下に注目されたい(D)。この結果は肝臓におけるインスリン抵抗性を示している。
図5】慢性的にエタノールを与えることが、肝部分切除術から24時間後にBrdU取り込みにより評価した肝再生を障害させることを示している。
図6】PPARアゴニストが、肝再生のエタノール誘発性阻害を復旧させることを示している。PPAR-δアゴニストによる処置は、BrdU取り込みによる評価で、肝再生応答を正常レベルに戻すことに注目されたい。PPAR-δアゴニストおよびPPAR-αアゴニストの肝修復に対する有益効果はよりわずかである。
図7】PPARアゴニストが、HNE免疫反応性による評価で、脂質過酸化に対する慢性的なエタノールの影響を復旧させるという証拠を示している。α、γおよびδ PPAR作用物質が、肝臓における細胞障害を予防する点において等しく良好に作用することに注目されたい。
図8】慢性的エタノール消費によって生じるDNA損傷がPPARアゴニストによって弱められることを示している。肝細胞障害を予防する点において、PPAR-δはαおよびγ作用物質よりも優れている。
図9図9A〜9Lは、対照動物における肝構築に対するPPARアゴニストの影響を示している。
図10図10A〜10Lは、エタノール摂取動物における肝構築に対するPPARアゴニストの影響を示している。
図11図11A〜11Fは、対照動物およびエタノール摂取動物における肝臓細胞プロファイルに対するPPARアゴニストの影響を示している。
図12図12A〜12Iは、インスリンおよびIGFポリペプチド、それらの受容体ならびにIRS分子の肝臓での発現に対するエタノールおよびPPARアゴニストの影響を示している。
図13図13A〜13Hは、インスリン受容体結合に対する、エタノールおよびPPARアゴニストによる処置の影響を示している。
図14図14A〜14Hは、IGF-I受容体結合に対する、エタノールおよびPPARアゴニストによる処置の影響を示している。
図15図15A〜15Hは、IGF-II受容体結合に対する、エタノールおよびPPARアゴニストによる処置の影響を示している。
図16図16A〜16Dは、ウエスタン分析による、AAHおよびGAPDHの発現に対する、エタノールおよびPPARアゴニストによる処置の影響を示している。
図17図17A〜17Cは、ELISA分析による、AAHおよびGAPDHの発現に対する、エタノールおよびPPARアゴニストによる処置の影響を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、アルコール誘発性肝損傷および肝疾患の発生においてインスリン抵抗性の増大が果たす重要な役割、ならびにPPARアゴニストが肝損傷を予防または治療するおよび肝再生応答を復元する能力に関する。アルコールを慢性的に経口摂取した動物に対するPPARアゴニストの投与は、酸化ストレス(例えば、脂質過酸化)およびDNA損傷に起因する損傷を含むアルコール摂取に応じて起こる肝損傷をブロックする。さらに、PPARアゴニストの投与は、慢性的なアルコール摂取中に起こる肝再生応答を阻害を回復させる。このため、本発明は、動物におけるアルコール誘発性肝疾患を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0026】
本発明のもう1つの局面は、動物における慢性的アルコール摂取によって生じる肝損傷を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0027】
1つの態様において、本発明は、慢性的アルコール摂取によって生じる、動物の肝臓におけるインスリン抵抗性を治療するため、予防するため、または回復させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0028】
1つのさらなる態様において、本発明は、慢性的アルコール摂取を伴う動物における肝再生応答を刺激するため、または復元させるための方法であって、前記動物に少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む方法に関する。
【0029】
本発明の1つの態様においては、少なくとも2種の異なるPPARアゴニストが投与される。もう1つの態様においては、少なくとも3種の異なるPPARアゴニストが投与される。1つの態様において、投与されたPPARアゴニストは、PPAR受容体の少なくとも2種の異なるサブタイプ、例えば、αおよびδ、αおよびγ、またはδおよびγと結合する。1つのさらなる態様において、投与されたPPARアゴニストは、PPAR受容体の3種のサブタイプすべてと結合する。投与されるPPARアゴニストには、1つのPPAR受容体サブタイプと選択的に結合する化合物、および/または複数のPPAR受容体サブタイプと結合する化合物が含まれうる。
【0030】
「アルコール性肝疾患(ALD)」という用語は、本明細書で用いる場合、エタノール摂取によって引き起こされる、肝臓における多様な臨床的病的変化のことを指す。ALDの病態には、脂肪肝(脂肪症)、アルコール性肝炎およびアルコール性肝硬変が含まれる。
【0031】
「慢性的アルコール摂取」という用語は、本明細書で用いる場合、動物による、体重1kg当たり1日当たりで平均で少なくとも約0.1gの、例えば、平均で少なくとも約0.2、0.3、0.4、0.5、1、2、3、4または5g/kg/日の、純アルコール(エタノール)の消費のことを指す。ヒトの場合、慢性的アルコール摂取量は、体重1kg当たり1日当たりで平均で少なくとも約10gの、例えば、平均で少なくとも約20、30、40、50、60、70、80、90または100g/日の、純アルコールとみなされる。
【0032】
「治療的有効量」という用語は、本明細書で用いる場合、障害の1つもしくは複数の症状の寛解をもたらす、または障害の進展を予防する、または障害の後退を引き起こす、治療薬(therapeutic agent)の量のことを指す。例えば、肝疾患の治療に関しては、1つの態様において、治療的有効量は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも100%、損傷を受ける肝細胞の数を減少させるか、損傷を受ける肝細胞の数の増加の速度を緩徐化するか、肝再生の速度を速めるか、または生存時間を増加させる治療薬の量を指すと考えられる。1つのさらなる態様において、治療的有効量は、肝臓の生物学的機能を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも100%増大させる治療薬の量を指すと考えられる。肝機能は、トランスアミナーゼ(例えば、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST))、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、平均赤血球容積(MCV)、プロトロンビン時間、血小板数、ビリルビン、アルブミンおよび/またはアルカリホスファターゼの測定を非限定的に含む、臨床医学において慣行的であるアッセイを用いて測定することができる。1つの追加的な態様において、治療的有効量は、肝臓におけるインスリン抵抗性を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも100%低下させる治療薬の量を指すと考えられる。インスリン抵抗性は、当技術分野で慣行的なアッセイおよび本明細書で考察したものを用いて測定することができ、これにはインスリン受容体に対するインスリンの結合、耐糖能検査およびインスリン応答性遺伝子の発現の測定が非限定的に含まれる。
【0033】
「予防する」、「予防すること」および「予防」という用語は、本明細書で用いる場合、動物における病的細胞(例えば、障害を受けた肝細胞)の出現を減少させることを指す。予防は、例えば対象における病的細胞の全消失というように完全であってもよい。また、対象における病的細胞の出現が、本発明を用いずに出現すると考えられるものよりも少ないというように、予防が部分的であってもよい。
【0034】
本発明の1つの局面においては、動物におけるアルコール誘発性肝疾患を治療するため、予防するため、または回復させるための方法が提供される。ある態様において、本方法は、動物に対する少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量の投与を含む。PPARアゴニストは、肝疾患の身体的または組織学的症状の発現の前に投与しても後に投与してもよい。1つの態様において、肝疾患は、脂肪症、アルコール性肝炎またはアルコール性肝硬変である。
【0035】
本発明のもう1つの局面は、動物における慢性的アルコール摂取によって生じる肝損傷を治療するため、予防するため、または回復させるための方法を対象とする。ある態様において、本方法は、動物に対する少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量の投与を含む。PPARアゴニストは、肝損傷の身体的または組織学的症状の発現の前に投与しても後に投与してもよい。肝損傷は、アルコール摂取と関連している任意の種類の細胞障害または組織障害であってよい。例えば、障害は、酸化ストレス(例えば、脂質過酸化)またはDNA損傷と関連していてよい。「〜と関連している」という用語は、本明細書で用いる場合、アルコール誘発性肝損傷が、ある病状(例えば、酸化ストレスまたはDNA損傷)の身体的(例えば、組織学的、血清学的)徴候によって立証されることを意味する。
【0036】
1つの態様において、本発明は、慢性的アルコール摂取によって生じる、動物の肝臓におけるインスリン抵抗性を治療するため、予防するため、または回復させるための方法に関する。ある態様において、本方法は、動物に対する、少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量の投与を含む。PPARアゴニストは、インスリン抵抗性の発現の前に投与しても後に投与してもよい。インスリン抵抗性は、インスリン/IGFシグナル伝達経路に沿った任意の箇所でのアルコール誘発性変化に起因してよく、これには例えば、インスリン受容体に対するインスリンの結合の低下、IGF-I発現の低下、IGF-II発現の増大、IGF-IおよびIGF-IIの受容体の発現の増大、またはAAHなどのインスリン-応答性遺伝子の発現の低下がある。
【0037】
インスリン抵抗性は、インスリン/IGFシグナル伝達経路内の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能の変化を検出することによって測定することができる。1つの態様において、変化の検出はインビボで行われる。例えば、対象におけるインスリン/IGFシグナル伝達経路内の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を決定するために、画像化手法(例えば、磁気共鳴画像法、コンピュータ体軸断層撮影、単光子放出コンピュータ断層撮影、ポジトロン放出断層撮影、X線、超音波)を、検出可能なように標識された抗体、リガンド、酵素基質などと組み合わせて用いてもよい。検出可能な標識の例には、放射性、蛍光性、常磁性および超常磁性標識が非限定的に含まれる。当技術分野で公知の任意の適したインビボ画像化手法を本発明に用いることができる。画像化手法の例は、米国特許第6,737,247号、第6,676,926号、第6,083,486号、第5,989,520号、第5,958,371号、第5,780,010号、第5,690,907号、第5,620,675号、第5,525,338号、第5,482,698号および第5,223,242号に開示されている。
【0038】
もう1つの態様において、変化の検出はインビトロで、例えば生物試料を用いて行われる。生物試料は、インスリン/IGFシグナル伝達経路内の少なくとも1つの因子のレベルまたは機能を検出するために適した、対象からの任意の組織または流体であってよい。有用な試料の例には、生検肝組織、血液、血漿、漿液、脳脊髄液、唾液、尿およびリンパ液が非限定的に含まれる。
【0039】
検出および測定を行いうるインスリン/IGFシグナル伝達経路内の因子には、インスリン、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、IGF-II、インスリン受容体、IGF-I受容体、IGF-II受容体、チロシンリン酸化インスリン受容体、チロシンリン酸化IGF-I受容体、チロシンリン酸化IGF-II受容体、インスリン受容体基質-1(IRS-1)、IRS-2、IRS-4、チロシンリン酸化IRS-1、チロシンリン酸化IRS-2、チロシンリン酸化IRS-4、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3キナーゼ)、PI3キナーゼのp85サブユニット、Akt、ホスホ-Akt、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)およびホスホ-GSK-3βが非限定的に含まれる。測定を行いうる機能には、インスリン受容体、IGF-I受容体またはIGF-II受容体のリガンド結合能、インスリン受容体、IGF-I受容体またはIGF-II受容体のキナーゼ活性、PI3キナーゼのp85サブユニットとリン酸化IRS-1、IRS-2またはIRS-4との相互作用、成長因子受容体に結合したタンパク質2(Grb2)、SHPTP-2タンパク質チロシンホスファターゼまたはPI3キナーゼのp85サブユニットに対するリン酸化IRS-1、IRS-2またはIRS-4の結合、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)、Erk MAPK、Akt/プロテインキナーゼB、GSK-3βの酵素活性が非限定的に含まれる。
【0040】
インスリン/IGFシグナル伝達経路内の因子のレベルは、タンパク質またはRNA(例えば、mRNA)のレベルで測定することができる。生物試料中の特定のタンパク質を定量するための当技術分野で公知の任意の方法を本方法に用いることができる。その例には、イムノアッセイ、ウエスタンブロット法、免疫沈降、免疫組織化学、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、カラムクロマトグラフィー、リガンド結合アッセイおよび酵素アッセイが非限定的に含まれる。例えば、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988);Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd Edition, (1995)を参照のこと。
【0041】
特定のRNAのレベルを測定するためには、核酸の検出のための当技術分野で公知の任意のアッセイを用いることができる。その例には、逆転写および増幅アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、ノーザンブロット法、ドットブロット法、インサイチューハイブリダイゼーション、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動およびカラムクロマトグラフィーが非限定的に含まれる。例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 3rd ed., (1995);Sambrook et al., Molecular Cloning-A Laboratory Manual, 2nd ed., Vol. 1-3 (1989)を参照のこと。アッセイは、RNAそれ自体を、またはRNAの逆転写によって生成されるcDNAを検出することができる。アッセイは生物試料に対して直接行うこともでき、または試料から単離された核酸に対して行うこともできる。
【0042】
1つのさらなる態様において、本発明は、動物における肝再生応答を刺激するため、または復元させるための方法に関する。ある態様において、本方法は、動物に対する少なくとも1つのPPARアゴニストの治療的有効量の投与を含む。PPARアゴニストは肝再生応答の低下の前に投与しても後に投与してもよい。PPARアゴニストによって誘導される再生応答は、PPARアゴニストの非存在下で認められる再生応答を少なくとも約10%上回り、例えば、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%上回る。肝再生応答の測定は、DNA合成速度の測定といった、当技術分野で公知の任意の手法によって行いうる。
【0043】
本発明の方法は、肝損傷または肝疾患に起因する病態を呈している動物、肝損傷または肝疾患に起因する病態を呈していると疑われる動物、および肝損傷または肝疾患に起因する病態を呈するリスクのある動物に対して行うことができる。例えば、アルコール依存症に対する遺伝的素因を有する者、または中程度の飲酒者であるが他の理由(例えばウイルス性肝炎)で既に肝損傷を有する者を、予防的に治療することができる。
【0044】
本発明に用いうるPPARアゴニストには、米国特許第6,713,514号、第6,677,298号、第6,462,046号、第5,925,657号および第5,326,770号、ならびにCombs et al., J. Neurosci. 20:558 (2000)に開示されているようなPPAR-α、PPAR-γおよびPPAR-δの選択的アゴニスト、ならびに複数のPPARサブタイプのアゴニストである化合物が含まれる。選択的という用語は、1つのPPAR受容体サブタイプに対して、別のPPAR受容体サブタイプに対するよりも10倍を上回る、好ましくは100倍を上回る、最も好ましくは1,000倍を上回る活性を有する作用物質を記述するために用いられる。PPAR受容体サブタイプに対する作用物質の受容体親和性および機能的活性の特性決定は、WO 2005049572号に記載されたような方法を用いて行うことができる。肝疾患患者におけるPPAR-δアゴニストの使用にはI型筋繊維の数を増加させるというさらなる利点も考えられ、それは運動をしない場合でさえも、肥満に対する抵抗性を付与し、代謝プロフィールを改善する可能性がある(Wang et al., PLoS Biol. 2:3294 (2004))。
【0045】
有用なPPAR-α選択的アゴニストには、クロフィブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラート、2-ブロモヘキサデカン酸、エトモキシル水酸化ナトリウム、N-オレオイルエタノールアミン、GW-9578、GW-7647、WY-14643、ならびに米国特許第7,091,225号、第7,091,230号、第7,049,342号、第6,987,118号、第6,750,236号、第6,699,904号、第6,548,538号、第6,506,797号、第6,306,854号、第6,060,515号および第6,028,109号に開示された化合物が非限定的に含まれる。
【0046】
有用なPPAR-γ選択的アゴニストには、シグリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、GW-1929、F-L-Leu、JTT-501、GI-262570、ならびに米国特許第7,090,874号、第7,060,530号、第6,908,908号、第6,897,235号、第6,852,738号、第6,787,651号、第6,787,556号、第6,713,514号、第6,673,823号、第6,646,008号、第6,605,627号、第6,599,899号、第6,579,893号、第6,555,536号、第6,541,492号、第6,525,083号、第6,462,046号、第6,413,994号、第6,376,512号、第6,294,580号、第6,294,559号、第6,242,196号、第6,214,850号、第6,207,690号、第6,200,995号、第6,022,897号、第5,994,554号、第5,939,442号および第5,902,726号に開示された化合物が非限定的に含まれる。
【0047】
有用なPPAR-δ選択的アゴニストには、GW-501516、GW-0742、L-165041およびカルバプロスタサイクリンが非限定的に含まれ、それらは構造的には以下のように定義される。
【0048】
他の有用なPPAR-δアゴニストには、RWJ-800025、L-165,041、ならびに米国特許第7,091,245号、第7,015,329号、第6,869,967号、第6,787,552号、第6,723,740号、第6,710,053号および第6,300,364号ならびにEP 1586573号、US 20050245589号およびWO 2005049572号に開示された化合物が非限定的に含まれる。
【0049】
有用な混合型PPAR-α/γアゴニストには、GW-1556、AVE-8042、AVE-8134、AVE-0847、DRF-2519、ならびに米国特許第7,091,230号、第6,949,259号、第6,713,508号、第6,645,997号、第6,569,879号、第6,468,996号、第6,465,497号および第6,380,191号に開示された化合物が非限定的に含まれる。
【0050】
すべてのPPAR受容体に対してアゴニストとして作用する有用な化合物には、LY-171883およびプソイドラリン酸B(pseudolaric acid B)が非限定的に含まれる。
【0051】
本発明のいくつかの態様は、PPARアゴニストの治療的有効量を、アルコール誘発性肝疾患または肝損傷の治療、予防または回復のために有用なことが当技術分野で公知である、追加的な作用物質と組み合わせて投与するための方法を提供する。追加的な作用物質の例には、グルココルチコイド(例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン)、ペントキシフィリン、ウルソデオキシコール酸、コルヒチンおよび利尿薬(例えば、アミロライド、フロセミド)が非限定的に含まれる。
【0052】
本発明のいくつかの態様において、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質は、動物に対して、例えば2つの別個の組成物として別々に投与される。他の態様において、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質は、単一の組成物の部分として投与される。
【0053】
本発明のいくつかの態様において、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質は、動物に対して、以下の条件のうち1つまたは複数の下で投与される:異なる周期で、異なる持続期間で、異なる濃度で、異なる投与経路により、など。いくつかの態様において、PPARアゴニストは、追加的な作用物質の前に、例えば、追加的な作用物質の投与の0.5、1、2、3、4、5、10、12もしくは18時間前、1、2、3、4、5もしくは6日前、または1、2、3もしくは4週前に投与される。いくつかの態様において、PPARアゴニストは、追加的な作用物質の後に、例えば、追加的な作用物質の投与の0.5、1、2、3、4、5、10、12もしくは18時間後、1、2、3、4、5もしくは6日後、または1、2、3または4週後に投与される。いくつかの態様において、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質は同時並行的にではあるが異なるスケジュールで投与され、例えば、PPARアゴニストは毎日投与され、一方、追加的な作用物質は週1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回または4週間毎に1回投与される。他の態様において、PPARアゴニストは週1回投与され、一方、追加的な作用物質は毎日、週1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回または4週間毎に1回投与される。
【0054】
PPARアゴニストの投与は、追加的な作用物質の投与とともに同時並行的に続けることができる。さらに、PPARアゴニストの投与を追加的な作用物質の投与を超過して続けること、またはその反対もできる。
【0055】
本発明のある態様において、追加的な作用物質と組み合わせてPPARアゴニストを投与する方法は、少なくとも1回繰り返すことができる。本方法を、治療反応を達成または維持するために必要なだけ多くの回数、例えば1回〜約10回またはそれ以上、繰り返すこともできる。本方法のそれぞれの繰り返しに際して、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質は、以前の繰り返しに用いたものと同じでも異なってもよい。さらに、PPARアゴニストおよび追加的な作用物質の投与の期間ならびにそれらを投与する様式は、繰り返し毎に異なりうる。
【0056】
化合物の細胞取り込みを強化するために、本発明の作用物質を単体分子と連結することもできる。そのような担体分子の例には、Fulda et al., Nature Med. 8:808 (2002), Arnt et al., J. Biol. Chem. 277:44236 (2002)およびYang et al., Cancer Res. 63:831 (2003)に記載されたもの、融合誘導ペプチド (例えば、米国特許第5,965,404号を参照)ならびにウイルスおよびウイルスの部分、例えばエンプティキャプシドおよびウイルス血球凝集素(例えば、米国特許第5,547,932号を参照)が含まれる。他の担体分子には、アシアロ糖タンパク質のような細胞表面受容体に対するリガンド(アシアロ糖タンパク質受容体と結合する;米国特許第5,166,320号)およびT細胞に対して特異的な抗体のような細胞表面受容体に対する抗体、例えば抗CD4抗体(米国特許第5,693,509号)が含まれる。
【0057】
本発明の範囲内にある組成物には、本発明の作用物質がその意図する目的を達成するのに有効な量で含まれている、すべての組成物が含まれる。個々の必要性はさまざまであるが、各成分の有効量の至適範囲の決定は当技術分野の技能の範囲内にある。実際の投与量および治療レジメンは、通常の技能を有する医師により、投与の経路、対象の年齢、体重および健康状態、ならびに肝疾患の病期、さらには当然ながら作用物質の副作用、作用物質の有効性も考慮に入れて、従来通りの医学的な手順および慣行に従って容易に決定されうる。典型的には、作用物質は動物、例えばヒトに対して、1日当たりに、肝損傷または肝疾患に対する治療を受ける動物の体重1kg当たり0.0025〜50mg/kgの用量で、またはその薬学的に許容される塩の等価な量として経口的に投与することができる。好ましくは、約0.01〜約10mg/kgを、肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために経口投与する。筋肉内注射の場合、用量は一般に経口用量の約半分である。例えば、適した筋肉内用量は約0.0025〜約25mg/kgであり、最も好ましくは約0.01〜約5mg/kgである。
【0058】
単位経口用量は、各作用物質の約0.01〜約50mg、好ましくは約0.1〜約10mgを含みうる。単位用量は、作用物質の約0.1〜約10mg、好都合には約0.25〜50mgをそれぞれが含む1つまたは複数の錠剤またはカプセルとして、1日に1回または複数回投与することができる。
【0059】
作用物質を未加工の化学物質として投与することに加えて、本発明の作用物質を、薬学的に用いうる製剤への化合物の加工処理を容易にする添加剤および補助剤を含む、適した薬学的に許容される担体を含む医薬製剤の一部として投与することもできる。好ましくは、製剤、特に、経口的または局所的に投与することが可能で、好ましい型の投与のために用いうる、錠剤、糖衣錠、徐放性ロゼンジ剤およびカプセル剤、口内すすぎ液および口内洗浄剤、ゲル剤、液体懸濁剤、ヘアリンス、毛髪用ゲル、シャンプーなどの製剤、ならびに直腸内に投与しうる座薬などの製剤、さらには注射、局所的または経口的な投与のために適した液剤は、活性化合物を約0.01〜99パーセント、好ましくは約0.25〜75パーセントとして、添加剤とともに含む。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物の有益な効果を経験する可能性のある任意の対象に投与することができる。そのような対象の中で第一に挙げられるのは哺乳動物、例えばヒトであるが、本発明はそのように限定されることは意図していない。他の動物には、獣医学的動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコなど)が含まれる。
【0061】
化合物およびその薬学的組成物は、その意図した目的を達成する任意の手段によって投与することができる。例えば、投与は避腸的、皮下、静脈内、腹腔内、経皮的、口腔内、髄腔内、頭蓋内、鼻腔内または局所的経路によるものでよい。代替的または同時並行的に、投与は経口経路によるものであってもよい。投与される投与量はレシピエントの年齢、健康状態および体重、併用療法があればその種類、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存すると考えられる。
【0062】
本発明の医薬製剤は、それ自体が公知である様式で、例えば、従来の混合、顆粒化、糖衣錠、溶解または凍結乾燥の工程によって、製造される。したがって、経口用途のための医薬製剤は、活性化合物を固体添加剤と配合し、錠剤または糖衣錠のコアを得るために適した補助剤を要望または必要性に応じて添加した後に、任意で、その結果得られた混合物を粉砕して顆粒混合物を加工処理することによって得ることができる。
【0063】
適した添加剤には、特に、充填剤、例えばラクトースまたはスクロース、マンニトールまたはソルビトール、セルロース調製物などの糖類、および/またはリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウムなど、ならびに結合剤、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、イネデンプン、ジャガイモデンプンを用いたデンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドンなどがある。所望であれば、上述したデンプン類などの崩壊剤、さらにはカルボキシメチル‐デンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどを添加することもできる。補助剤には特に、流動調節剤および潤滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムなど、および/またはポリエチレングリコールがある。糖衣錠のコアには、所望であれば胃液に耐性があるような、適したコーティングが付与される。この目的には濃縮糖溶液を用いることができ、任意でアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液および適した有機溶媒または溶媒混合物を含めてもよい。胃液に耐性のあるコーティングを作製するためには、適したセルロース調製物、例えばフタル酸アセチルセルロースまたはフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの溶液が用いられる。これらの錠剤または糖衣錠コーティングには、例えば、識別用または活性化合物の用量の組み合せを特徴づけるために、色素材料または顔料が添加することができる。
【0064】
経口的に用いうる他の薬学的調製物には、ゼラチンから製造されるプッシュフィット(push-fit)カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤から製造される柔軟な密封カプセルが含まれる。プッシュフィットカプセルは、顆粒の形態にある活性化合物を含むことができ、それはラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウム潤滑剤などの潤滑剤、ならびに任意で安定化剤と混合されていてもよい。軟カプセルでは、これらの活性化合物は、好ましくは、適した液体、例えば脂肪油または流動パラフィンなどの中に溶解または懸濁されている。さらに、安定化剤を添加することもできる。
【0065】
直腸的に用いうる可能性のある薬学的調製物には、例えば座薬が含まれ、これは1つまたは複数の活性化合物と座薬基剤との組み合せからなる。適した座薬ベースには、例えば、天然および合成のトリグリセリド、またはパラフィン性炭化水素がある。さらに、活性化合物と基剤との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセルを用いることも可能である。可能性のある基剤材料には、例えば、液状トリグリセリド、ポリエチレングリコールまたはパラフィン性炭化水素が含まれる。
【0066】
避腸的投与のために適した製剤には、水溶性形態にある活性化合物の水溶液、例えば、水溶性塩およびアルカリ性溶液が含まれる。さらに、適した油性注射用懸濁液としての活性化合物の懸濁液を投与することもできる。適した親油性溶媒または媒体には、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドまたはポリエチレングリコール-400が含まれる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を高める物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストリンを含みうる。任意で、この懸濁液は安定化剤も含んでよい。
【0067】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製したアルコール誘発性肝損傷および肝疾患の動物モデルも提供する。驚いたことに、Long-Evansラットは他のラット系統と比較して、エタノールを与えることに対して強い応答を示すことが発見され、これにより、このラットは慢性的アルコール摂取の影響の試験のために理想的に適するものとされた。1つの態様において、エタノールはLong-Evansラットの毎日の食餌中に含められる。例えば、エタノールは、毎日の食餌の約0%、2%、4.5%、6.5%、9.25%(v/v)(カロリー含有量の0%、8%、18%、26%または37%に相当)またはそれ以上を構成する。1つの態様において、エタノールは、毎日の食餌のカロリー含有量の約37%を構成する。エタノールを与えることは所望の長さにわたって、例えば、2日間という短さから6カ月またはそれ以上という長さまでにわたって継続することができる。1つの態様において、エタノールを与えることは肝損傷および/または肝再生応答の低下が誘発されるまで、例えば1、2、3、4、5または6週またはそれ以上にわたって継続され、その後に作用物質または他の治療が肝損傷または肝再生応答に対する効果を判定するために投与または施される。もう1つの態様において、作用物質または治療は、肝損傷または肝再生応答の低下を予防または緩徐化しうるか否かを判定するためにエタノールを与える前または同時並行的に投与または施される。
【0068】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製した動物モデルに作用物質を投与する段階、ならびに作用物質を投与されていない対照動物と比較して肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性のある作用物質に関するスクリーニングのための方法であって、作用物質を投与されていない対照動物と比較した際の肝損傷、インスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルにおける改善により、その作用物質がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性があることが示される方法にも関する。
【0069】
スクリーニングすることのできる作用物質には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、抗体、核酸、有機分子、天然物、化学物質ライブラリーなどが含まれる。
【0070】
本発明はさらに、Long-Evansラットにエタノールを慢性的に与えることによって作製した動物モデルに可能性のある治療を施す段階、ならびに可能性のある治療を施されていない対照動物におけるレベルと比較して肝損傷および/またはインスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルを決定する段階を含む、アルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のための、可能性のある治療を試験するための方法であって、可能性のある治療を施されていない対照動物におけるレベルと比較した際の肝損傷および/またはインスリン抵抗性および/または肝再生応答のレベルにおける改善により、その治療がアルコール誘発性肝損傷または肝疾患の治療、予防または回復のために有用である可能性があることが示される方法も提供する。
【0071】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を例示したものであって限定的ではない。臨床的治療法において通常遭遇し、当業者に明らかである種々の条件およびパラメーターのその他の適切な修正および改変は、本発明の精神および範囲に含まれる。
【0072】
実施例1
一般的方法
実験デザイン
これらの試験においては、雄性Long-Evansラットに対して、37%エタノール液体飼料を6週間与えた。同時飼育対照動物には等カロリー(スクロースでエタノールを代用)食を与えた。3週後に、両群のラットに、PPAR-α、γもしくはδアゴニスト、または対照としての食塩水のいずれかを注射した。PPAR-α(GW7647)、PPAR-γ(F-L-Leu)およびPPAR-δ(L-165,041)活性化物質はCalBiochem(Carlsbad, CA)から入手し、それぞれ25μg/kg、20μg/kgおよび2μg/kgの濃度で腹腔内(IP)投与した。マウスにはIP注射を週2回行った。6週時点で動物個体に2/3肝部分切除術を実施した。摘出した肝臓を、以下に述べるように組織学的検査、脂質過酸化、DNA損傷およびインスリン/IGFシグナル伝達の測定のために用いた。2/3肝切除術に続いて、18、24、30および48時間後に、再生応答を評価するために残りの肝臓を採取した。これを行うためには、採取の2時間前にBrdUを動物個体にIP注射し、肝細胞核内へのその取り込みをDNA合成の指標として測定した。BrdUまたは3H-チミジン取り込みにより評価した肝再生は、この動物モデルでは肝部分切除術から24時間後に最大となる(Wands et al., Gastroenterology 77:528(1979))。
【0073】
これらの食餌を6週間与えた後に、慢性的エタノール摂取ラットおよび等カロリー同時飼育対照からの肝組織を殺処理後に入手した。肝臓領域のホルマリン固定してパラフィン包埋した切片をヘマトキシリンおよびエオシン色素で染色し、光学顕微鏡法により検査した。隣接組織切片は免疫組織学的染色に供した。同じ領域からの組織の未加工の急速凍結(snap-frozen)ブロックをmRNA発現および受容体結合の測定のために用いた。
【0074】
組織学的試験
パラフィン切片(8μm厚)を、DNA損傷および脂質過酸化を検出するためにそれぞれ8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)(Oxis Research)もしくは4-ヒドロキシノネナール(4-hydroxynonenol)(HNE)(Chemicon International, Temecula, CA)に対するモノクローナル抗体で免疫染色した。免疫染色の前に、脱パラフィン処理して再水和させた切片を、リン酸緩衝食塩水(10mMリン酸ナトリウム、0.9%NaCl、pH 7.4;PBS)中の0.1mg/mlサポニンにより室温で20分間処理し、その後に内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させるためにメタノール中の3%過酸化水素により10分間処理し、続いて非特異的な結合部位をブロックするためにSuperBlock-TBS(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)中にて30分間インキュベートした。組織切片を0.5〜1μg/mlの一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。免疫反応性は、ビオチン化二次抗体、アビジン-ビオチン-西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(ABC)試薬、および色素原としてのジアミノベンジジンを用いて検出した(Vector Laboratories, Burlingame, CA)(Lam et al., J. Biol. Chem. 269:20648 (1994))。組織切片をヘマトキシリンで対比染色し、カバーガラスの下に保護し、光学顕微鏡法によって検査した。
【0075】
リアルタイム定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ
全RNAを、TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元のプロトコールに従って用いて肝組織から単離した。RNAの濃度および純度を、260nmおよび280nmで測定した吸光度から決定した。RNA(2μg)を、AMV First Strand cDNA合成キット(Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)およびランダムオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを用いて逆転写させた。リアルタイム定量的RT-PCRを用いて、インスリン、IGF-IおよびIGF-II成長因子、それらの対応する受容体、1、2および4型のインスリン受容体基質(IRS)、細胞運動性および移動に関与する下流のインスリン/IGF-I応答性遺伝子であるAAHのmRNAレベルを測定した。並行した反応で測定したリボソーム18S RNAのレベルを用いて、mRNA転写物の相対的存在量を算出した(Myers et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10350 (19929;Baltensperger et al., Science 260:1950 (1993);Yeon et al., Hepatology 38:703 (2003);Pares et al., Hepatology 12:1295 (1990))。PCR増幅は、2.5ngの元のRNAテンプレートから生成されたcDNA、各300μMの遺伝子特異的な順方向および逆方向プライマー(表1)ならびに12.5μlの2×QuantiTect SYBR Green PCR Mix(Qiagen Inc, Valencia, CA)を含む25μlの反応物中で行った。増幅されたシグナルを、BlO-RAD iCycler iQ Multi-Color RealTime PCR検出システム(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて連続的に検出した。用いた増幅プロトコールは以下の通りである:最初に95℃で15分間の変性および酵素活性化、95℃×15秒間、55〜60℃×30秒間および72℃×30秒間を45サイクル。アニーリング温度は、iCyclerソフトウエアに備わっている温度勾配プログラムを用いて最適化した。
【0076】
(表1)リアルタイム定量的RT-PCRのためのプライマー対*
【0077】
予備的試験では、SYBR Greenで標識されたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で評価し、各アンプリコンの真正性を核酸シークエンシングによって確認した。相補的(c)DNAをPCRIIベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。特定の標的配列を含む既知量の組換えプラスミドDNAの系列希釈物をPCR反応における標準物質として用い、標準物質のCt値から作成された回帰直線をmRNA存在量の算出に用いた。相対的mRNA存在量は、同一の試料で測定した特定のmRNAと18Sとのng比から求めた(Myers et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10350 (1992);Baltensperger et al., Science 260:1950 (1993))。結果を18Sに対して標準化したのは、18Sは存在量が多く、そのレベルが試料間で本質的に不変であるが、ハウスキーピング遺伝子は疾病状態によって変わったためである。群間の統計学的比較は、算出したmRNA/18S比を用いて行った。対照試験には、以下のもののリアルタイム定量的PCR分析を含めた:1)無テンプレート反応物;2)逆転写されていないRNA;3)DNアーゼIで前処理したRNA試料;4)逆転写酵素反応の前にRNアーゼAで処理した試料;および5)ゲノムDNA。
【0078】
受容体結合アッセイ
未加工の凍結組織(約100mg)を、プロテアーゼ阻害薬(1mM PMSF、0.1mM TPCK、1μg/mlのアプロチニン、1μg/mlのペプスタチンA、0.5μg/mlのロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)を含む5倍容積のNP-40溶解緩衝液(50mM Tris-HCl、pH 7.5、1% NP-40、150mM NaCl、1mM EDTA、2mM EGTA)中でホモジナイズした。タンパク質濃度をビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce, Rockford, IL)を用いて決定した。診査的試験により、20%の特異的結合を達成するために必要なタンパク質の量および放射性標識リガンドの濃度を決定した。インスリン受容体結合アッセイは、100μgのタンパク質を用いて行った。IGF-I結合アッセイは試料当たり25μgのタンパク質を必要とし、IGF-II受容体結合アッセイは10μgタンパク質を用いて最適化した。エタノール曝露との関連で成長因子の結合を評価するためには競合的平衡結合アッセイを用いた。全結合量に関しては、2つずつの個々のタンパク質試料を、結合緩衝液(100mM HEPES、pH 8.0、118mM NaCl、1.2mM MgSO4、8.8mMデキストロース、5mM KCl、1%ウシ血清アルブミン)および100nCi/mlの[125I](2000Ci/mmol;50pM)インスリン、IGF-IまたはIGF-IIを含む100μlの反応物中でインキュベートした。非特異的結合の測定のためには、反復試験試料を0.1μMの非標識(非放射性)リガンドの添加の点を除いて全く同じく調製した。
【0079】
すべての反応は1.5ml Eppendorffチューブ内で行い、インキュベーションは穏やかな架台撹拌下にて4℃で16時間行った。続いて、各チューブに500μlの0.15%ウシガンマグロブリン(100mM Tris-HCl、pH 8.0中に調製)を添加し、その後に400μlの37.5%ポリエチレングリコール8000(PEG-8000;100mM Tris-HCl、pH 8.0中に調製)を添加することにより、結合した放射性標識トレーサーを沈殿させた。試料をボルテックス処理によって十分に混合し、続いて氷上で少なくとも2時間インキュベートした。試料を15,000×gで5分間、室温で遠心することにより、沈殿物を収集した。非結合(遊離)リガンドを含む上清画分の全体をガンマ計数管(Sarstedt, Newton, NC)に移した。ペレットを含むEppendorffチューブチップを切り、別のガンマ計数管の中にそのまま遊離させた。試料をLKB CompuGamma CS Gammaカウンターの中で1分間計数した。特異的結合は、非特異的な結合のfmol値、すなわち非放射性リガンドの存在下で結合した量を、(非標識競合リガンドの非存在下で)結合した全fmol値から差し引くことによって算出した。結果は、GraphPad Prism 4ソフトウエア(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を用いて分析してプロットした。
【0080】
試薬の供給元
ヒト組換え[125I]インスリン、IGF-IおよびIGF-IIはAmersham Biosciences(Piscataway, NJ)から購入した。非標識ヒトインスリンはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。組換えIGF-IおよびIGF-IIはBachem(King of Prussia, PA)から入手した。8-OHdGおよびHNEに対するモノクローナル抗体はOxis Scientificから購入した。他のすべての精製化学薬品および試薬は、CalBiochem(Carlsbad, CA)またはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。
【0081】
統計学的分析
実験は各群当たり9匹のラットを用いて実施した。データはグラフ中に平均±S.E.M.として表した。群間比較はスチューデントのT検定を用いて行った。統計学的分析はNumber Cruncher Statistical System(Kaysville, UT)を用いて行った。有意差および傾向に対応するP値はグラフの上に表示されている。
【0082】
肝臓構造および遺伝子発現に対する、慢性的アルコールを与えることの影響
慢性的にエタノールを与えることは、図1(上のパネル)に示されているように、肝臓の組織像に大きな変化を生じさせた。エタノール摂取群では、肝細胞内に顕著な脂質蓄積がみられる。より重要なこととして、肝細胞障害、細胞脱落および壊死の領域がみられる(挿入図)。小葉構築は歪曲し、炎症および炎症細胞浸潤の領域が明らかである。この病像はヒトおよびALDでみられる肝損傷に一致する。図1の中央パネルは、HNE染色により示される、慢性的エタノール曝露によって誘導される脂質過酸化を表している。加えて、8-OHdG免疫反応性により示される、肝細胞への広範なDNA損傷もみられる(下のパネル)。このように、慢性的エタノール曝露は、肝臓において細胞損傷の2つの主な機序としての酸化ストレスおよびDNA変化を生じさせる。
【0083】
肝臓におけるインスリンシグナル伝達に対するエタノールの影響を、図2に示されているようにリアルタイムPCRによって決定した。エタノール曝露させた肝臓と対照とを比較して、インスリン遺伝子発現に差はみられなかった(2A)。しかし、慢性的エタノール摂取ラットから得た肝臓では、IGF-I遺伝子発現の著しい低下(p=0.0004)がみられた(2B)。これに対して、IGF-II発現は、エタノール性肝臓における方が対照肝臓と比較して高度であった(2C)。同様に、インスリン受容体(INS-R)レベルは対照と同程度であり、IGF-IおよびIGF-II受容体遺伝子の発現はアルコール摂取群の方が高度であった(2D〜2F)。インスリンシグナル伝達の主な変化には、図3Aに示されているように、インスリンとその受容体との結合の低下が含まれた。これは、図4A〜4Cに示されているように、エタノールと対照とを比較してIRS-1、IRS-2およびIRS-4のレベルに差がなかったことから、肝臓におけるインスリン抵抗性をもたらすと考えられる。この考え方を裏づけるものとして、慢性的エタノール摂取ラットから得た肝臓では、下流インスリン応答性遺伝子であるAAHの発現が低下している(4D)。したがって、インスリン抵抗性の状態はインスリンと受容体との結合の大きな欠損を伴って生じ、それはシグナル伝達カスケードをその上位にある初期段階(すなわち、リガンド-受容体相互作用)で変化させるため、すべてのインスリンシグナル伝達イベントを障害させると考えられる。
【0084】
肝再生に対する、慢性的アルコールを与えることの影響
図5は、2/3肝切除術から24時間後にBrdU免疫染色により評価した肝再生応答に対する、慢性的にエタノールを与えることの顕著な影響を示している。対照動物の肝細胞核ではBrdUの強い取り込みが細胞の60%以上でみられ(左側のパネル)、これに比べてエタノール摂取群では10%未満であったことに注目されたい(右側のパネル)。これらの結果は、肝修復過程に対するエタノールの有害な役割を裏づけている。これに対して、図6に示されているように、エタノールで障害されるDNA合成の、PPARアゴニストによる復旧がみられる。PPAR-α(左下のパネル)およびPPAR-γ(右下のパネル)は、エタノール摂取動物と比較しておよそ20%というBrdU標識のわずかな増加を示していることに注目されたい。慢性的エタノール摂取ラットに対するPPAR-δ処置が、2/3肝切除術後の正常対照動物で認められるレベルへと肝再生を本質的に回復させたことは予想外かつ驚くべきことであった。
【0085】
以上を総合すると、これらの試験は、慢性的エタノール消費が肝細胞損傷および炎症、ならびに肝臓に対する酸化ストレスおよびDNA損傷を招くことを実証している。肝臓が再生する能力はかなり障害される。これらのPPARアゴニストを、図7に示されているように、それらが脂質過酸化による損傷を復旧させるか否かについて明らかにするための検討も行った。実際に、PPARアゴニストは、HNE免疫染色により評価した慢性的エタノール誘発性の肝脂質過酸化を大幅に改善し、3種のクラスのすべて(α、γおよびδ)が等しく有効であった。さらに、図8に示されているように、エタノールにより生じるDNA損傷に関してPPAR-δは最も顕著な防御効果を示し、PPAR-αおよびPPAR-γがそれに続いた。このように、これらの作用物質は、ALDの2つの主要な病理学的特徴、すなわち継続的な肝損傷、および修復過程の阻害を攻撃対象とする。そのような作用物質は、慢性的アルコール乱用によって生じる肝損傷を予防または緩徐化すると同時に肝再生応答を刺激または復元させることにより、ALDを有する個体の転帰を改善することが予期される。
【0086】
実施例2
一般的方法
慢性的エタノール曝露モデル:
雄性(約200〜250g)の成体Long Evansラット(Harlan Sprague Dawley, Inc., Indianapolis, Indiana)に対して、エタノールがカロリー含有量の0%(対照)または37%(9.2% v/v)を構成する等カロリー液体飼料(BioServ, Frenchtown, NJ)を8週間与えて同時飼育した。実験を開始する前の週には、8%、17%、24%、続いて37%のエタノールを含む食餌を2日ずつ逐次的に与えることにより、ラットをエタノール含有飼料に順応させた。固形飼料を与えた対照ラットも試験対象とした。同等な食物消費および体重の維持を確かなものとするためにラットを毎日モニターした。0%または37%エタノールを含む液体飼料のいずれかで維持されている実験の最後の3週間に、両群のラットに対して、媒体(食塩水)、PPAR-αアゴニスト(GW7647;25μg/kg)、PPAR-δアゴニスト(L-165,041;2μg/kg)またはPPAR-γアゴニスト(F-L-Leu;20μg/kg)(CalBiochem, Carlsbad, CA)の腹腔内(i.p.)注射を週2回(月曜および木曜)投与した。実験の終わりにラットに気化イソフルオラン(SurgiVet, Inc. Waukesha, WI)で麻酔を施し、肝臓および血液を分析のために採取した。肝組織試料をHistochoice(Amresco Corp., Solon, OH)中で浸漬固定してパラフィン中に包埋した。隣接組織切片はヘマトキシリンおよびエオシンで、またはゴモリ-トリクロームで染色し、符号を付した上で検査した。加えて、肝組織試料をドライアイス-メタノール浴中で急速凍結させ、続いて、後のmRNAおよびタンパク質の試験ために-80℃で保存した。実験期間を通じて、ラットは人道的な条件で飼育し、12時間毎の明/暗サイクル下におき、食餌を自由に摂取させた。実験はすべて、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって策定された指針に準拠したプロトコールに従って行い、Lifespan-Rhode Island Hospitalの施設内動物管理使用委員会による承認を得た。
【0087】
mRNAの分析:
全RNAを、TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元のプロトコールに従って用いて肝組織から単離した。RNAの濃度および純度を、260nmおよび280nmで測定した吸光度から決定した。RNA(2μg)を、AMV First Strand cDNA合成キット(Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)およびランダムオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを用いて逆転写させた。定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)アッセイを用いて、特定のmRNA転写物の定常レベルを測定した。PCR増幅は、2.5ngの元のRNAテンプレートから生成されたcDNA、各300nMの遺伝子特異的な順方向および逆方向プライマー(表2)ならびに10μlの2×QuantiTect SYBR Green PCR Mix(Qiagen Inc, Valencia, CA)を含む20μlの反応物中で行った。増幅されたシグナルを、Mastercycler ep realplex装置およびソフトウエア(Eppendorf AG, Hamburg, Germany)を用いて連続的に検出した。用いた増幅プロトコールは以下の通りである:最初に95℃で15分間の変性および酵素活性化、95℃×15秒間、55〜60℃×30秒間および72℃×30秒間を45サイクル。アニーリング温度は、Mastercycler ep realplexソフトウエアに備わっている温度勾配プログラムを用いて最適化した。
【0088】
(表2)定量的PCRのためのプライマー対*
【0089】
予備的試験では、SYBR Greenで標識したPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって評価し、真正性を核酸シークエンシングによって確認した。相補的(c)DNAをPCR-IIベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。さらに、融解曲線分析により、プライマー二量体ピークの形成を伴わない単一のPCR産物の存在が示された。標的配列を含む組換えプラスミドDNAの系列希釈物をPCR反応における標準物質として用い、標準物質のCt値から作成された回帰直線をmRNA存在量の算出に用いた。相対的mRNA発現は、同一の試料で測定した特定のmRNAとリボソーム(r)18Sとのng比として表したが、これは18Sは存在量が多く、そのレベルが疾病状態によって変化しないためである。統計学的比較は、算出したmRNA/18S比を用いて行った。対照試験には以下のものの分析を含めた:1)無テンプレート反応物;2)逆転写されていないRNA;3)DNアーゼIで前処理したRNA試料;4)逆転写酵素反応の前にRNアーゼAで処理した試料;および5)ゲノムDNA。
【0090】
受容体結合アッセイ:
PPARアゴニストによる処置が、肝臓における、エタノールで障害されるインスリン受容体およびIGF受容体の結合を改善させるか否かを明らかにするために、飽和結合試験を用いた。未加工の凍結肝組織を、50mM Tris-HCl、pH 7.5、1% NP-40、150mM NaCl、1mM EDTA、2mM EGTA+プロテアーゼ阻害薬(1mM PMSF、0.1mM TPCK、1μg/mlのアプロチニン、1μg/mlのペプスタチンA、0.5μg/mlのロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)およびホスファターゼ阻害薬(2mM Na3VO4)を含む5倍容積の溶解緩衝液中でホモジネート化した。タンパク質濃度はビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce, Rockford, IL)を用いて決定した。診査的試験により、20%の特異的結合を達成するために必要なタンパク質の量および放射性標識リガンドの濃度を決定した。インスリン受容体結合は、アッセイチューブ当たり100μgのタンパク質を用いて行った。IGF-I結合アッセイは試料当たり25μgのタンパク質を必要とし、IGF-II受容体結合アッセイは反応当たり10μgのタンパク質を必要とした。
【0091】
結合曲線(binding curse)を作成するためには、各群当たり8匹のラットからの試料を等しい比でプールし、タンパク質濃度を各群で同一になるように調整した。全結合量に関しては、2つずつの試料を、結合緩衝液(100mM HEPES、pH 8.0、118mM NaCl、1.2mM MgSO4、8.8mMデキストロース、5mM KCl、1%ウシ血清アルブミン)および0.0031〜1μCi/mlの[125I](2000Ci/mmol)インスリン、IGF-IまたはIGF-IIを含む100μlの反応物中でインキュベートした。非特異的結合に関しては、反復試験試料を、0.1μMの非標識(非放射性)リガンドの添加の点を除いて全く同じく調製した。インキュベーションは非結合性96ウェルプレート(Corning Incorporated Life Science, Lowell, MA)中にて4℃で16時間行った。反応物を、0.33%ポリエチレンイミン(PEI)溶液中に30分間あらかじめ浸漬した96ウェルGF/Cフィルタープレート上に減圧回収した(Corning, Lowell, MA)。フィルターを5回洗浄し、50mM緩衝液[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン-エタンスルホン酸(HEPES)、pH 7.4、500mM NaClおよび0.1%BSAを含む緩衝液で5回洗浄した。乾燥させた後に、50μlのMicroscint-20(Packard Instrument Company, Meriden, CT)を各ウェルに添加し、結合した[125I]インスリン、IGF-IまたはIGF-IIのレベルを、TopCount装置(Packard Instrument Company, Meriden, CT)にて測定した。特異的結合は、非特異的な結合のfmol/mg値、すなわち非放射性リガンドの存在下で結合した量を、結合した全fmol/mg値から差し引くことによって算出した。データは、GraphPad Prism 5ソフトウエア(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を用いて分析してプロットした。
【0092】
タンパク質試験:
タンパク質の発現はウエスタンブロット分析または固相酵素免疫アッセイアッセイ(ELISA)によって調べた。ウエスタンブロット分析はAAHおよびGAPDHの発現を測定するために用いた。加えて、PI3キナーゼのp85サブユニットに対応する免疫反応性も、陰性(ローディング)対照として測定した。ウエスタンブロット分析のためには、肝組織を、プロテアーゼ阻害薬(1mM PMSF、0.1mM TPCK、1mg/mlのアプロチニン、1mg/mlのペプスタチンA、0.5mg/mlのロイペプチン、1mM NaF、1mM Na4P2O7)およびホスファターゼ阻害薬(2mM Na3VO4)を含む、5倍容積の放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液中(50 mM Tris-HCl、pH 7.5、1% NP-40、0.25% デオキシコール酸ナトリウム、150 mM NaCl、1 mM EDTA、2 mM EGTA)でホモジネート化した。タンパク質濃度はBCAアッセイ(Pierce, Rockford, IL)を用いて決定した。20μgのタンパク質を含む試料をSDS-PAGEによって分画し、PVDF膜に移行させた。非特異的結合部位はSuperBlock-TBS(Pierce, Rockford, IL)でブロックし、膜を一次抗体(0.5〜1μg/ml)とともに、穏やかな架台撹拌下にて4℃で一晩行った。免疫反応性は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体、増強化学発光(ECL)試薬(Pierce, Rockford, IL)およびKodak Digital Science Imaging Station(NEN Life Sciences, Boston, MA)を用いて検出した。
【0093】
ELISAは、AAH、GAPDHおよびβ-アクチン(陰性対照)に対応する免疫反応性を測定するために用いた。ELISAは、96ウェルの不透明ポリスチレン製プレート(Nalge Nunc International, Rochester, NY)中で行った。TBS(40ng/100μl)中に希釈したRIPAタンパク質抽出物を、4℃での一晩のインキュベーションによってウェルの底に吸着させた。TBSですすぎ洗った後、ウェルを250μl/ウェルのTBS中の2% BSAにより4時間ブロックした。続いてタンパク質を一次抗体(0.01〜0.1μg/ml)とともに室温で1時間インキュベートした。免疫反応性は、HRP結合二次抗体(1:10000;Pierce)およびAmplex Red可溶性フルオロフォア(Molecular Probes)を用いて検出した。Amplex Redの蛍光(Ex 530/Em 595)をM-5装置にて測定した(蛍光単位;FLU)。結合特異性は、非関連抗体との、または一次抗体もしくは二次抗体を除外した上での同時並行的な陰性対照インキュベーションから決定した。特異的なAAH、GAPDHおよびβ-アクチン免疫反応性の平均レベルを用いて、群間の統計学的比較を行った。
【0094】
試薬の供給元:
PPARアゴニストであるGW7647(PPAR-α)、L165、041(PPAR-δ)およびFmoc-Leu(PPAR-γ)は、Calbiochem(Tecumsula, CA)から購入した。ヒト組換え[125I]インスリン、IGF-IおよびIGF-IIはAmersham Biosciences(Boston, MA)から購入した。非標識ヒトインスリン、組換えIGF-Iおよび組換えIGF-IIはBachem(Torrance, CA)から購入した。QuantiTect SYBR Green PCR MixはQiagen Inc(Valencia, CA)から入手した。GAPDHおよびβ-アクチンに対するモノクローナル抗体は、Chemicon(Tecumsula, CA)から購入した。AAHを検出するために用いたA85G6マウスモノクローナル抗体は、組換えヒトタンパク質を用いて作製した。他のすべてのファインケミカルは、CalBiochem(Carlsbad, CA)またはSigma-Aldrich(St. Louis, MO)から入手した。
【0095】
統計学的分析:
データは、各群に関する平均±S.E.M.または平均±95% C.I.L.を表すグラフの形で示した。群間比較は、有意性に関する分散分析(ANOVA)およびpost-hoc Tukey-Kramer検定の反復測定を用いて行った。統計学的分析は、GraphPad Prism 5ソフトウエア(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を用いて行った。
【0096】
PPARアゴニストによる、エタノール誘発性の肝臓病態の回復:
対照液体飼料または固形飼料のいずれかを与えたラットからの肝臓は、予想通りに非常に組織化された小葉構築を示し、脂肪症、核サイズのばらつき、および肝細胞の脱落という証拠はほとんどみられなかった(図9A、9E、9I)。これに対して、エタノール曝露肝臓は小滴性および大滴性脂肪症を呈し、小葉内リンパ単核細胞炎症の多数の病巣、ならびにアポトーシスおよび/または壊死の散在領域を伴っていた(図10A、10E、10I)。加えて、慢性的にエタノールを与えることは、規則正しい索の損失および肝細胞核のサイズのばらつきの増大を伴う、肝構築の乱れももたらした。エタノール曝露肝臓における線維化の増加、再生中の節形成および肝硬変の証拠はみられなかった。PPAR-αアゴニストで処置した対照ラットは、媒体処置対照と比較して、肝臓における検出可能な組織学的変化を有しなかった(図9B、9F、9J)。これに対して、PPAR-δアゴニスト(図9C、9G、9K)またはPPAR-γアゴニスト(図9D、9H、9L)で処置した対照ラットは、類洞拡張および外見上の肝細胞叢生の増加のために、より組織化されていない肝構築を有していた。加えて、PPAR-δまたはPPAR-γ処置は、肝細胞の核の顕著さの増大および細胞質の微小空胞形成ももたらした。微小空胞形成は過ヨウ素酸Schiff(PAS)染色の増加を伴い、これはグリコーゲン蓄積に一致する。エタノール摂取群において、PPARアゴニストによる処置は、肝臓の組織像に対して、慢性的エタノール曝露によって引き起こされる構築の乱れ、脂肪症および細胞死を減少させるという、さまざまではあるが明白な影響を及ぼした(図10)。PPAR-α、PPAR-δまたはPPAR-γアゴニストによる処置は、構築の混乱を減少させ、肝細胞の索様配列を増大させるとともに、小滴性および大滴性脂肪症のいずれの程度も明らかに低下させた。しかしながら、小さな壊死巣(図10J、挿入図)、炎症(図10G、挿入図および図10H、矢印)およびアポトーシス(図10L、挿入図)は容易に検出されたが、これらの病変は一般に、媒体処置したエタノール曝露肝臓におけるよりも目立たなかった。肝組織像の最も顕著な改善は、PPAR-δアゴニスト(図10Cおよび10K)またはPPAR-γアゴニスト(図10Dおよび10L)で処置されたエタノール摂取ラットで生じた。
【0097】
qRT-PCR試験に関する一般的な補足説明:
qRT-PCRにより、すべての試料を同時に、かつ結果の一貫性を示すために十分な反復を伴って分析することが可能になった。用いた手法によれば、組織から生成されたcDNAの質は、PPARアゴニスト処置の如何にかかわらず、対照エタノール摂取ラットから得られる18S Ct値が同程度であること、および一貫した28S:18S比であることに基づいて優れていると判断される。qRT-PCRの使用は、アンプリコンが小さく(主として<150bp)、その結果、部分的RNA分解と関係する潜在的な問題、例えば、慢性的エタノール曝露および酸化ストレスに伴ってしばしば起こるニッキングが回避されるため、遺伝子発現の厳密な分析のために理想的に適していた。増幅産物の特異性は直接的な核酸シークエンシングによって確かめた。cDNAテンプレートを含めない、RNAを逆転写させない、RNA試料をRT段階の前にRNアーゼAで前処置する、またはゲノムDNAを反応に用いるといった対照試験では、qPCR分析およびアガロースゲル電気泳動によって示されるような検出可能な産物は生じなかった。RT段階の前のDNAアーゼIによるRNA試料の処置は、増幅された遺伝子産物の検出レベルに対して影響を及ぼさなかった。
【0098】
PPARアゴニスト処置による、肝臓における細胞集団プロファイルの変化:
アルブミン、先端ナトリウム依存性胆汁輸送体タンパク質(ASBT)、グリア酸性線維素タンパク質(GFAP)、クッパー細胞受容体(KCR)、デスミンおよびコラーゲンの肝臓でのmRNAレベルをqRT-PCRによって測定した。アルブミンの発現を、肝細胞存在量/機能の指標として用いた。ASBTは胆管上皮を反映する。GFAPは星細胞活性化の初期マーカーであり、デスミンは肝星細胞の筋線維芽細胞への分化転換を特徴づける。KCRはクッパー細胞のマーカーであり、その発現増大は損傷に対する肝内応答を反映しうると考えられる。コラーゲン遺伝子の発現は線維形成能力または活発な線維形成に対応する。以上を総合して、本発明者らが「細胞プロファイリング」と命名した、肝臓における遺伝子発現に関するこれらの評価により、本発明者らは、肝細胞の種類および機能における、エタノールおよびPPARアゴニストに関連した相対的変移を定量することが可能となった。
【0099】
媒体処置対照ラットの肝臓では、媒体処置エタノール曝露ラットからの肝臓と比較して、アルブミンmRNAの平均レベルが有意に高かった(図11A)。PPAR-δまたはPPAR-γによる処置は、対照肝臓におけるアルブミンmRNAの平均レベルを有意に増大させたが、PPAR-αアゴニストはそうではなかった。エタノール摂取群において、PPAR-αまたはPPAR-δアゴニストによる処置は、媒体処置エタノール摂取ラットと比較してアルブミン発現を有意に増大させたが、対照群のいずれとの比較でもそうではなかった。PPAR-γ処置はエタノール曝露肝臓におけるアルブミン発現を有意に変化させなかった。
【0100】
ASBT発現は媒体処置対照肝臓で最も高く、PPAR-アゴニスト処置対照肝臓のそれぞれは、ASBTの平均レベルが媒体処置対照と比較して有意に低かった(図11B)。媒体処置したエタノール曝露ラットからの肝臓は、対応する対照群と比較してASBT発現の平均レベルが有意に低かった。エタノール摂取ラットにおいて、PPAR-αアゴニスト処置はASBT発現を媒体と比較して有意に増加させたが、対照飼料摂取ラットのいずれとの比較でもそうではなかった。PPAR-δまたはPPAR-γによる処置は、エタノール曝露肝臓におけるASBT mRNAレベルを有意に変化させなかった。
【0101】
KCR発現は媒体処置対照肝臓およびエタノール曝露肝臓において最も低かった。PPAR-α、PPAR-δまたはPPAR-γアゴニストによる処置は、対照肝臓およびエタノール曝露肝臓の両方でKCR mRNAの平均レベルを増大させた;しかし、対応する媒体処置からの差が統計学的に有意であったのはエタノール摂取ラットの場合のみであった(図11C)。PPAR-α、PPAR-δおよびPPAR-γによる処置は、エタノール曝露肝臓におけるKCR発現を同程度に増大させた。しかし、対照と比較してエタノール曝露の方がKCR発現が有意に高かったのは、PPAR-γ処置群のみであった。
【0102】
GFAPは星細胞活性化の初期マーカーである。GFAP mRNAレベルは、媒体処置対照からの肝臓の方が媒体処置エタノール曝露ラットと比較して有意に高かった。GFAP発現は対照ラットおよびエタノール曝露ラットの両方でPPAR-α処置によって有意に増大し(図11D)、エタノール摂取群において、PPAR-γ処置はGFAP発現を媒体処置と比較して有意に増大させた。
【0103】
デスミンは、筋線維芽細胞様細胞への分化転換の際に星細胞で発現される中間径フィラメントである。デスミン mRNAの平均レベルは媒体処置対照肝臓およびエタノール曝露肝臓において同程度であった(図11E)。しかし、対照群において、PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置はデスミン mRNAレベルを媒体と比較して有意に低下させた。エタノール曝露肝臓において、PPAR-γアゴニストによる処置はデスミン mRNA発現を媒体処置と比較して有意に増大させたが、PPAR-αアゴニストまたはPPAR-δアゴニストによる処置はデスミン mRNAレベルに有意な影響を及ぼさなかった。
【0104】
コラーゲン遺伝子発現は線維形成を反映する。コラーゲンmRNAの発現は媒体処置対照肝臓で最も低かった(図11F)。PPARアゴニスト処置は、対照におけるコラーゲン遺伝子発現の平均レベルを増大させたが、媒体と比較した際の差が統計学的に有意であったのはPPAR-δ処置群の場合のみであった。慢性的エタノール曝露は、コラーゲンmRNAの平均レベルを対照(媒体処置サブグループ)と比較して有意に増大させた。エタノール含有飼料を与えたラットにおいて、PPAR-αアゴニストによる処置はコラーゲン遺伝子発現をさらに増大させたが、一方、PPAR-δアゴニストおよびPPAR-γアゴニストはコラーゲンmRNAの平均レベルを媒体処置と比較して有意に低下させた。
【0105】
インスリンおよびIGFポリペプチド、それらの受容体ならびにIRS分子の肝臓での発現に対するエタノールおよびPPARアゴニストの影響:
QRT-PCR試験により、対照ラットおよびエタノール摂取ラットのいずれの肝臓においても、インスリン、IGF-I、IGF-IIポリペプチド遺伝子、それらの対応する受容体、ならびにIRS-1、IRS-2およびIRS-4の発現が示され(図12)、このことはインスリンおよびIGFシグナル伝達のために必要な上流遺伝子が成体ラット肝臓ですべて発現されることを示している。ポリペプチド遺伝子の中で、インスリンは最も存在量が少なく、続いてIGF-IIであり、IGF-Iは最も存在量が多かった(図12A〜12C)。媒体処置対照およびエタノール曝露肝臓は、インスリン、IGF-IおよびIGF-IIの平均mRNAレベルが同程度であった。対照群では、PPAR-δおよびPPAR-γはインスリン遺伝子の発現を有意に増大させたが、エタノール曝露群では、インスリン遺伝子の発現はPPAR-αまたはPPAR-δ処置によって低下した。インスリン遺伝子の発現は、エタノール曝露させたPPAR-δおよびPPAR-γ処置において、対応する対照肝臓よりも有意に低かった。IGF-I mRNAレベルは対照ラットではPPARアゴニスト処置によって有意には変化しなかったが、エタノール曝露群では、PPARアゴニスト処置は、媒体処置対照およびすべての対応するPPARアゴニスト処置対照と比較してIGF-I発現を有意に低下させた(図12B)。対照において、IGF-II発現はPPARアゴニスト処置によっては同じく有意に変化しなかったが、慢性的にエタノールを与える場合には、PPAR-αまたはPPAR-γ処置はIGF-II mRNAの平均レベルを、媒体処置対照およびすべての対応するPPARアゴニスト処置対照と比較して有意に低下させた(図12C)。
【0106】
IGF-II受容体mRNA転写物が最も存在量が多く(図12F)、次がIGF-I受容体(図12E)であり、続いてインスリン受容体(図12D)の順であった。対照において、PPAR-δアゴニストによる処置は媒体と比較してインスリン受容体発現の平均レベルを増大させた。慢性的にエタノールを与えることはインスリン受容体発現の平均レベルを有意に増大させたが、これは対照においてPPAR-δアゴニストがエタノール摂取ラット肝臓におけるインスリン受容体発現を有意に低下させたことと対照的であった(図12D)。対照において、IGF-I受容体発現は、PPARアゴニスト処置の如何にかかわらず同程度に高度であった。慢性的にエタノールを与えることはIGF-I受容体発現の平均レベルを有意に増大させたが、PPARアゴニスト処置は対応する対照で観察されたものと比較してIGF-I受容体mRNAレベルを低下させた(図12E)。IGFII受容体発現も対照およびエタノール曝露肝臓において同程度に高度であり、PPARアゴニスト処置は両群においてIGF-II受容体mRNAの平均レベルを同程度に低下させた(図12F)。
【0107】
対照肝臓およびエタノール曝露肝臓のいずれにおいても、IRS-1 mRNAレベルが最も高く(図12G)、次にIRS-2(図12H)、続いてIRS-4の順であった(図12I)。IRS-1の平均レベルは対照ラットおよびエタノール摂取ラットで同程度であった(図12G)。PPARアゴニスト処置は、対照ではIRS-1遺伝子発現を有意に変化させなかったが、エタノール摂取ラットでは、PPAR-δ処置は媒体処置対照および対応するPPAR-δ処置対照と比較してIRS-1 mRNAレベルを有意に低下させた。IRS-2発現の平均レベルは、エタノール曝露肝臓の方が対照肝臓と比較して有意に高かった(図12H)。対照群では、IRS-2発現はPPAR-δアゴニストによる処置によって有意に増大したが、エタノール曝露ラットでは、IRS-2発現はPPAR-γアゴニストによる処置によって有意に低下した。IRS-4 mRNAの平均レベルは対照肝臓およびエタノール曝露肝臓で同程度であり、対照群において、PPARアゴニストによる処置はIRS-4発現の平均レベルを有意に変化させなかった(図12I)。これに対して、エタノール曝露群では、PPAR-δアゴニストによる処置は、IRS-1に対するその影響と同様に、IRS-4発現の平均レベルを有意に低下させた(上記参照)。
【0108】
インスリン受容体およびIGF受容体の結合に対するエタノールおよびPPARアゴニスト処置の影響:
インスリン、IGF-IおよびIGF-II受容体結合に対するエタノールおよびPPARアゴニスト処置の影響を示すために、飽和結合アッセイを用いた。試験は、各サブグループ内の8匹のラット(タンパク質含有量に関して等しい割合)からプールした肝組織試料を用いて行った。結合曲線±95% C.I.L.、Kd(解離定数;親和性)およびBMAX(最大レベルの結合)の算出、ならびに群間の統計学的比較は、Prism Graphics 5ソフトウエアを用いて行った。すべての実験条件において、単一部位モデルで最も高いR2、すなわち最良適合(best fit)が得られた。慢性的にエタノールを与えることは、インスリン受容体結合に関してBMAXを有意に低下させたが、Kdに対する有意な影響は及ぼさなかった(図13A、13Eおよび表3)。対照群において、インスリン受容体結合に関するBMAXは、PPAR-α、PPAR-δまたはPPAR-γアゴニストによる処置によって有意に低下した(図13A〜13Dおよび表3)。PPAR-α処置は、インスリン受容体のBMAXを低下させる点に関して最も顕著な影響を及ぼした。これに対して、PPARアゴニスト処置はインスリン結合に関するKdを有意に変化させなかった。PPAR-α処置はエタノール曝露ラットにおいても媒体と比較してBMAXを弱め、Kdを増大させたが、PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置はインスリン受容体のBMAXを増大させてKdを低下させ、このことから媒体処置対照および対応するPPARアゴニスト処置対照肝臓の両方と比較して最大結合レベルがより高く、結合親和性が高いことが示された(図13E〜13Hおよび表3)。
【0109】
(表3A)インスリン受容体結合
*p<0.05;**P<0.001;***P<0.0001、対照+媒体との比較
【0110】
(表3B)IGF-I受容体結合
*p<0.05;**P<0.001;***P<0.0001、対照+媒体との比較
【0111】
(表3C)IGF-II受容体結合
*p<0.05;**P<0.001;***P<0.0001、対照+媒体との比較
【0112】
慢性的にエタノールを与えることは、IGF-IのBMAXおよびKdを有意に低下させた。対照摂取ラットにおいて、PPAR-α処置はIGF-I BMAXを低下させたが、PPAR-δおよびPPAR-γ処置はIGF-I BMAXを有意に増大させた(図14)。PPARアゴニスト処置は対照摂取ラットにおけるIGF-I Kdを有意に変化させなかった(図14A〜14D)。エタノール摂取ラットにおいて、PPAR-αまたはPPAR-δ処置は、IGF-I受容体結合に関するBMAXおよびKdをいずれも有意に増大させ、一方、PPAR-γ処置はKdを増大させたがBMAXは低下させた(図14E〜14H)。慢性的にエタノールを与えることはIGF-II受容体結合についてもBMAXを有意に低下させてKdを増大させ、PPARアゴニスト処置は対照群またはエタノール曝露群のいずれにおいてもBMAXおよびKdに対して有意な影響を及ぼさなかった(図15および表3)。
【0113】
エネルギー代謝および組織リモデリングと関連したインスリン/IGF応答性遺伝子発現に対するエタノールおよびPPARアゴニスト処置の影響:
AAHの発現はインスリン、IGF-IまたはIGF-II刺激によって増大し、肝細胞の成長および運動性に対して正の影響を及ぼす(Cantarini et al., Hepatology 44:446 (2006);de la Monte et al., J Hepatol. 44:971 (2006))。GAPDHはグルコース代謝において重要な役割を果たすインスリン応答性遺伝子である。ウエスタンブロット分析により、すべての肝臓試料でAAHおよびGAPDHの免疫反応性が検出された(図16A)。β-アクチンに対するモノクローナル抗体を用いたブロットの再プロービングにより、全レーンでタンパク質ロード量がほぼ等しいことが示された。ウエスタンブロットシグナルのデジタル画像定量により、エタノール曝露させた媒体処置肝臓ではAAHおよびGAPDHのレベルがより低いことが判明した。対照において、PPARアゴニスト処置はAAHの平均レベルに対して検出可能な影響を及ぼさなかったが(図16B)、平均レベルof GAPDH(図16C)およびβ-アクチンの平均レベルは幾分(有意ではないものの)変化させた(図16D)。PPARアゴニスト処置はまた、エタノール摂取群においても肝臓でのAAHおよびGAPDHを有意ではないものの幾分低下させた。AAHおよびGAPDHタンパク質の平均レベルの正味の変移により、AAHおよび/またはGAPDHタンパク質発現に関する有意な群間差は解消された。しかし、PPARアゴニスト処置の影響をさらに精細に検討するために、蛍光レポーター試薬を用いる高感度直接ELISAアッセイを用いた。
【0114】
ELISAによっても、エタノール曝露におけるAAH(図17A)およびGAPDH(図17B)発現の平均レベルが対照肝臓(媒体処置)と比較して有意に低いことが示された。PPAR-αアゴニストによる処置は、対照肝臓またはエタノール曝露肝臓のいずれにおいても、AAHまたはGAPDHのいずれの発現に対しても有意な影響を及ぼさなかった。これに対して、PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置はエタノール曝露肝臓におけるGAPDH発現を増大させ、対照と同等な平均レベルを生じさせた。PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置は対照肝臓におけるAAH発現を幾分低下させ、対応するエタノール摂取群におけるものと同程度のAAHレベルを生じさせた。β-アクチンの免疫反応性はエタノール曝露またはPPARアゴニスト処置のいずれによっても有意に変化せず、このため、β-アクチンの平均レベルに関して有意な群間差は観察されなかった(図17C)。
【0115】
この試験は、Long Evansラットモデルで生じた慢性的ALDが肝インスリン抵抗性と関連しているか否かを明らかにするため、およびそれと同時に、インスリン感受性を高める作用物質を、連続的エタノール消費という臨床状況において肝組織像を回復させるために用いうるという仮説を探るためにデザインされた。これらの試験を実施するために、ラットにPPAR-α、PPAR-δまたはPPAR-γアゴニストによる処置を行った。このアプローチを採用した理由は、診査的試験によって3種の受容体がすべて肝臓で発現されることが実証されたが、それでもなお、どのクラスのPPARアゴニストが、ALDにおける肝臓の構造および機能を回復させるために最も適すると考えられるかを示す確定的なデータがなかったためである。
【0116】
慢性的にエタノールを与えることは、核サイズのばらつきおよび肝細胞脱落を伴う顕著な構築の乱れを含む、ヒトにおけるALDに類似した組織病理学的変化を生じさせたが、小葉間または架橋性線維化、肝硬変、再生結節形成および新生物性形質転換の証拠はみられなかった。PPAR-α、PPAR-δまたはPPAR-γアゴニストによる処置は、対照においては肝組織像に対して検出可能な影響を生じさせなかったが、連続的エタノール曝露にもかかわらず、エタノールに関連した構築の乱れおよび脂肪症を著しく低下させた。PPAR-δアゴニストおよびPPAR-γアゴニストは、肝構築を回復させる点でPPAR-αアゴニストよりも有効であった。PPARアゴニストのこれらの影響は、それらのインスリン感受性増大特性に加えて、それらの公知の抗炎症作用にも一致する。
【0117】
肝組織像に対するPPARアゴニスト処置の影響をより客観的に定量するために、種々の細胞種に対応する特定の遺伝子の相対的発現を評価する方法、すなわち肝臓細胞プロファイリングを用いた。これらの分析により、慢性的エタノール曝露がアルブミンおよびASBTの発現を有意に低下させることが示され、このことは、慢性的にエタノールを与えることが肝細胞および胆管上皮細胞の存在量および/または機能を有意に低下させたことを示唆する。全体的には、PPARアゴニスト処置は、対照肝臓およびエタノール曝露肝臓の両方においてアルブミンおよびASBTの発現を増大させた;しかし、その影響は、PPARアゴニストのどのサブタイプが最も有効であるか、および応答の大きさに関しては差があった。この点に関して、PPAR-αおよびPPAR-δアゴニストはエタノール曝露肝臓におけるアルブミンおよびASBTの発現を正常化し、一方、PPAR-δおよびPPAR-γアゴニストは対照肝臓におけるアルブミン発現を有意に増大させ、ASBT発現は有意に低下させた。これらの所見は、PPARアゴニスト処置が、肝細胞および胆管上皮細胞の生存および機能に対して有益な効果を及ぼしうる可能性を示唆する。エタノール曝露させてPPARアゴニストで処置した肝臓で観察されたKCRの発現増大の有意性は不確定であった。1つの考えられる解釈は、肝組織像の改善と相関して、修復過程の管理のためにはクッパー細胞機能の増大が必要であるというものである。
【0118】
GFAPおよびデスミンは、星細胞活性化および線維形成応答に対する傾向性のマーカーである。コラーゲン遺伝子の発現は、活発な線維形成の指標として用いた。それらの結果により、対照ラットおよびエタノール摂取ラットにおいて、GFAPおよびコラーゲンのいずれの発現レベルもPPAR-α処置によって増大することが示され、このことはPPAR-αアゴニストが星細胞を活性化して最終的には線維形成を促進する可能性を示唆しており、この影響はALDの状況ではより悪化する可能性がある。これに対して、PPAR-δアゴニストによる処置は、エタノール摂取ラットにおけるコラーゲン遺伝子発現を低下させたが、対照ラットではそれを増大させ、PPAR-γアゴニスト処置はエタノール曝露肝臓のみにおいてデスミン発現を増加させた。これらの結果は複雑であるが、1つの考えられる解釈は、慢性的エタノール誘発性肝臓損傷の状況下での肝修復のためには、ある程度の星細胞および線維形成応答が必要であるというものである。
【0119】
QRT-PCR分析を、インスリンおよびIGFシグナル伝達のために必要な「機構」の完全性を評価するために用いた。これらの試験により、インスリン、IGF-IおよびIGF-IIポリペプチド、対応する受容体ならびにIRS分子の発現レベルは慢性的エタノール曝露肝臓において比較的保持されていることが示され、このことは慢性的エタノール曝露によって引き起こされるインスリンまたはIGFシグナル伝達の障害が、局所的な成長因子欠乏、受容体のダウンレギュレーションもしくは損失、または下流シグナルを伝達する主要なドッキング分子の発現障害のいずれにも起因しないと考えられることを示している。注目されるのは、PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置は対照肝臓におけるインスリンおよびIGF-Iの発現を有意に増大させたが、エタノール曝露肝臓における栄養因子遺伝子発現は阻害するか有意な影響を及ぼさなかった点である。同様に、インスリン、IGF-IおよびIGF-II受容体、ならびにIRS-1、IRS-2およびIRS-4の発現レベルはPPARアゴニスト処置によって変化しなかった。このため、エタノール摂取ラットにおいてPPARアゴニスト処置に伴ってみられた肝組織像の改善はいずれも、局所的な成長因子、成長因子受容体またはIRS遺伝子の発現増大に起因するものではなかった。
【0120】
有効なリガンド結合はシグナル伝達カスケードにとって決定的に重要であり、細胞生存性の低下を含む、インスリンシグナル伝達に対するエタノールの下流での有害な影響に関して以前に報告されているものの多くは、インスリンとその受容体との結合の阻害によって媒介されうると考えられる。IGF-IまたはIGF-IIを通じてのシグナル伝達がIRS経路を直接的に、または相互干渉を介して活性化するという事実から、これらのモデルにおいてIGF-I受容体およびIGF-II受容体の結合も測定することが関心の対象となった。競合飽和結合アッセイを用いた試験により、慢性的エタノール曝露が、BMAX(最大レベルの結合)の低下およびKdの増大(親和性の低下)によって顕在化するように、インスリン、IGF-IおよびIGF-II受容体に対するリガンド結合を有意に障害させることが示された。PPAR-δアゴニスト処置、場合によってはPPAR-γアゴニスト処置は、エタノール曝露肝臓におけるインスリン、IGF-Iおよび/またはIGF-II受容体の結合を有意に増大させ、より高い、すなわち正常化したBMAX値をもたらした。受容体結合の増大の機序はまだ明らかになっていないが、インスリン受容体およびIGF受容体に対するリガンド結合が膜コレステロール枯渇によって障害され、膜コレステロール補充によって回復することが以前の研究で示されているため、この影響は膜脂質組成の是正によって媒介されうる可能性がある。機序の如何にかかわらず、PPARアゴニストに伴うインスリン受容体およびIGF受容体の結合の増大は、連続的エタノール曝露にもかかわらず、インスリン/IGF応答性遺伝子の発現を含め、肝臓の構造および機能を回復させる上で決定的な役割を果たすと考えられる。
【0121】
エタノール曝露肝臓における、PPARアゴニストを介した、インスリン受容体およびIGF受容体の結合の増大の帰結を調べるために、インスリンおよびIGF応答性遺伝子の発現をウエスタンブロット分析およびELISAによって評価した。予想された通りに、媒体処置ラットのエタノール曝露肝臓では、組織の再生およびリモデリングのために必要なエネルギー代謝および細胞運動性をそれぞれ媒介するGAPDHおよびAAHのレベルが有意に低かった。PPAR-δアゴニストまたはPPAR-γアゴニストによる処置はGAPDH発現を有意に増大させ、媒体処置対照と比較してレベルの正常化をもたらした。このため、リガンド-受容体結合の増大による下流での帰結は、連続的エタノール曝露にもかかわらず、インスリン/IGF応答性遺伝子の発現の増大および/または肝組織像の改善であった。重要なこととして、GAPDHのレベルの増大は、エネルギー代謝およびATP産生の改善に起因する脂肪症の軽減における重要な要因である可能性があり、一方、AAH発現の増大は肝臓のリモデリングおよび修復を補助し、それによって比較的正常な肝組織像を維持する一助となる可能性がある。以上を総合すると、これらの結果は、PPARアゴニスト処置が、特に肝臓の構造および機能の回復という点で、慢性ALDの有害作用のいくつかを回復させる助けになる可能性を示唆する。
【0122】
本発明をここまで詳細に説明してきたが、本発明の範囲またはそのいずれの態様にも影響を及ぼさずに、幅広い等価な条件、配合および他のパラメーターの範囲内で本発明を修正または変更することによってそれを遂行しうることは、当業者には理解されるであろう。本明細書に引用されたすべての特許、特許出願および刊行物は、その全体が参照により本明細書にすべて組み入れられる。
図1
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図6
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図10
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図14
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]