(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864093
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】LED照明灯
(51)【国際特許分類】
F21V 29/74 20150101AFI20160204BHJP
F21V 29/503 20150101ALI20160204BHJP
F21K 9/00 20160101ALI20160204BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20160204BHJP
H01L 33/64 20100101ALI20160204BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20160204BHJP
【FI】
F21V29/74
F21V29/503
F21S2/00 100
H01L33/00 450
F21Y101:02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-280464(P2010-280464)
(22)【出願日】2010年12月16日
(65)【公開番号】特開2012-129097(P2012-129097A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇典
(72)【発明者】
【氏名】原田 亜輝男
【審査官】
三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−232053(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/095701(WO,A1)
【文献】
特開2010−123359(JP,A)
【文献】
特開2010−231913(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/107991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21V 29/74
F21S 2/00
F21V 29/503
H01L 33/64
F21Y 101/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物を成形加工した樹脂製LED照明筐体の上部に、LED照明基板を装着した熱伝導性のLED照明基板取付けベース板を備えたLED照明灯であって、前記樹脂製LED照明筐体は、底を有し、及び、上面に前記LED照明基板取付けベース板と接触する部分を有し、前記樹脂製LED照明筐体の上面の面積に対する、前記LED照明基板取付けベース板と前記樹脂製LED照明筐体の上面とが接触する部分の面積の比である接触面積率が25%以上であり、前記樹脂製LED照明筐体の放熱面の内面に、金属材料が貼り付けられた状態で、前記LED照明基板取付けベース板に接続されていることを特徴とするLED照明灯。
【請求項2】
前記樹脂製LED照明筐体の上部に、前記LED照明基板取付けベース板を嵌合してなることを特徴とする請求項1に記載のLED照明灯。
【請求項3】
前記接触面積率が25〜49%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のLED照明灯。
【請求項4】
前記樹脂製LED照明筐体の上面から底までの放熱面の垂直方向の長さaに対する、前記金属材料の前記樹脂製LED照明筐体の上面からの取り付け長さbの比率である金属材料の取り付け長さ率b/aが20%以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のLED照明灯。
【請求項5】
前記金属材料が、前記樹脂製LED照明筐体の放熱面の内面に、複数の平行な帯状で貼り付けられた状態であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のLED照明灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED照明灯、特に、熱放射率の大きいLED照明灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LED(発光ダイオード)素子は、小型であり、長寿命であり、省電力性に優れることから、表示灯等の光源として利用されている。
また、近年、より輝度の高いLED素子が比較的安価に製造されるようになったことから、蛍光ランプや白熱電球に替わる光源としての利用が検討されている。
このような光源に適用する場合、大きな照度を得るために、表面実装型LEDパッケージ、即ち、例えば、アルミニウムなどの金属製のベース基板(LED実装用基板)上に複数のLED素子を配置し、各LED素子の周りに光を所定方向に反射させるリフレクターを配設する方式が多用されている。
しかし、LED素子は発光時に発熱を伴うため、このような方式のLED照明装置では、LED素子の発光時の温度上昇が、輝度の低下、LED素子の短寿命化等を招くこととなる。
【0003】
一方、現在のLED照明筐体用の放熱部材には金属材料が使用されているが、フィン形状へ加工することなどで、生産性の悪さと高コストであることが課題となっており、金属材料から、生産性に優れる熱可塑性樹脂を用いた射出成形体への代替要望が強くなっている。
しかし、金属材料に対して、熱可塑性樹脂は、熱伝導性が極めて小さいことから放熱性に劣るため、LED照明筐体用の放熱部材に用いるには熱伝導性を付与しなければ使用できない。
【0004】
熱可塑性樹脂に熱伝導性を付与する方法として、高熱伝導性フィラーを配合する方法が提案されている(特許文献1〜6参照)。
しかしながら、LED照明筐体には、放熱性以外にも、難燃性、絶縁性、良好な成形加工性が必要であり、それらを全て満たす熱可塑性樹脂がないことから、LED照明筐体の樹脂化はまだ充分には達成されていない。
また、樹脂化による軽量化や白色美麗な外観も最近では要求されている。
【0005】
これに対して、合成樹脂製の筺体を用いて、軽量化および低価格化をはかるとともに、充分な放熱効果が得られるようにした、LED照明灯や車両用前照灯ユニットが提供されている(特許文献7や特許文献8参照)。
しかしながら、LED照明灯は、合成樹脂製の筺体と、合成樹脂製のレンズ枠と、金属製リング状の放熱部材と、放熱部材の裏面に取付けられ、LEDが搭載された基板と、レンズとを備えるものであり、車両用前照灯ユニットは、LEDランプ、リフレクタ、ヒートシンク、及び外ケースを備えるもので、いずれも、LED照明基板を装着した熱伝導性のLED照明基板取付けベース板を備えたLED照明灯は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−069309号公報
【特許文献2】特開2004−059638号公報
【特許文献3】特開2008−033147号公報
【特許文献4】特開2008−195766号公報
【特許文献5】特開2008−270709号公報
【特許文献6】特開2006−117814号公報
【特許文献7】特開2010−232022号公報
【特許文献8】特開2008−277237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂製筐体のLED照明の発光部の温度を低下させ、LED照明の輝度を高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)熱可塑性樹脂組成物を成形加工した樹脂製LED照明筐体の上部に、LED照明基板を装着した熱伝導性のLED照明基板取付けベース板を備えたLED照明灯であって、前記樹脂製LED照明筐体は、底を有し、及び、上面に前記LED照明基板取付けベース板と接触する部分を有し、前記樹脂製LED照明筐体の上面の面積に対する、前記LED照明基板取付けベース板と前記樹脂製LED照明筐体の上面とが接触する部分の面積の比である接触面積率が25%以上であり、前記樹脂製LED照明筐体の放熱面の内面に、金属材料
が貼り付け
られた状態で、前記LED照明基板取付けベース板に接続
されていることを特徴とするLED照明灯である。
(2)前記樹脂製LED照明筐体の上部に、前記LED照明基板取付けベース板を嵌合してなる前記(1)のLED照明灯である。
(3)前記接触面積率が25〜49%である前記(1)又は(2)のLED照明灯である。
(4)前記樹脂製LED照明筐体の上面から底までの放熱面の垂直方向の長さaに対する、前記金属材料の前記樹脂製LED照明筐体の上面からの取り付け長さbの比率である金属材料の取り付け長さ率b/aが20%以上である前記(1)〜(3)のうちのいずれか1つのLED照明灯である。
(5)前記金属材料
が、前記樹脂製LED照明筐体の放熱面の内面に、複数の平行な帯状で貼り付け
られた状態である前記(1)〜(4)のうちのいずれか1つのLED照明灯である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のLED照明灯は、発光部の温度が低く、LED照明の輝度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】樹脂製LED照明筐体を示した図で、平面図と正面図である。
【
図2】熱伝導性のLED照明基板取付けベース板を示した図で、平面図、正面図、及び底面図である。
【
図3】
図1の樹脂製LED照明筐体と、
図2の熱伝導性のLED照明基板取付けベース板を用いた放熱性評価方法を示した図で、平面図、正面図である。
【
図4】熱伝導性のLED照明基板取付けベース板と樹脂製LED照明筐体の接触状況を示す正面図である。
【
図5】樹脂製LED照明筐体の放熱面への金属材料の取り付け状況を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
また、本発明における部や%は、特に断わらない限り質量基準で示す。
【0012】
本発明のLED照明灯は、熱伝導性のLED照明基板取付けベース板(以下、単にベー
ス板という)を取り付けた樹脂
製LED照明筐体(以下、樹脂筐体という)からなるものである。
【0013】
本発明の樹脂筐体は、例えば、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン−6、ナイロン−66)、ポリフタルアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂組成物を、成形加工して、例えば、
図1のように、成形したものである。
【0014】
本発明の樹脂筐体用の熱可塑性樹脂組成物(以下、単に熱可塑性樹脂組成物という)は、熱伝導率が1.0W/(m・K)以上が好ましいが、特に制限されるものではない。
【0015】
熱可塑性樹脂組成物は、放熱性の観点から熱放射率が0.70以上であることが好ましく、0.75以上がより好ましい。
【0016】
熱可塑性脂組成物は、UL94規格V−1以上の難燃性であることが好ましく、特に好ましくはV−0である。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物は、軽量化の観点から
密度が2.50g/cm
3以下であることが好ましく、2.20g/cm
3以下がより好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物は、一般的な溶融混練装置を用いて得ることができる。例えば、単軸押出機、噛合形同方向回転又は噛合形異方向回転二軸押出機、非又は不完全噛合形二軸押出機等のスクリュー押出機等がある。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物を成形加工して、樹脂筐体を得る方法は特に制限されるものではなく、公知の成形加工方法を用いることができる。例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、真空成形、及びブロー成形等があるが、生産性の観点から射出成形が好ましい。
図3〜図5から明らかなように、成形加工された樹脂筐体は、底を有し、及び、上面に前記LED照明基板取付けベース板と接触する部分と開口を有する箱である。
【0020】
本発明では、熱可塑性樹脂組成物を成形加工した樹脂筐体の上面に、LED照明基板を装着したベース板を取り付け、透明カバーを取り付け、LED照明灯とする。
なお、ベース板を取り付ける際に、樹脂筐体の上面には、放熱グリースを塗布することも可能である。
【0021】
本発明では、ベース板に、LED照明基板を装着する際、その間に熱伝導スペーサーを使用することは好ましい。
使用する熱伝導スペーサーは、例えば、シリコーン樹脂製で、厚さ1mm、熱伝導率1W/(m・K)のものが使用可能である。具体的には、電気化学工業株式会社製熱伝導性スペーサーが使用可能である。
【0022】
また、本発明で使用するベース板は、熱伝導率の高い金属板が使用され、入手の容易さから、アルミニウム板等が使用される。
ベース板の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、径51.95mm、厚さ2mm、熱伝導率230W/(m・K)のものが使用可能である。
【0023】
本発明では、樹脂筐体の上面の総面積と、ベース板が樹脂筐体の上面と接触する接触面積との比である接触面積率は、25%以上である。25%以上では、LED照明基板の放熱が充分となり、発光部の温度が低くなり、LED照明の輝度が高くなる。
【0024】
また、本発明では、上部を切り欠いた樹脂筐体に、ベース板を嵌合することは、放熱性向上の面から好ましい。
切り欠き深さや切り欠き後の縁の厚みは2mm程度が好ましい。熱抵抗を小さくするために、放熱グリースを樹脂筐体とベース板に塗布することも可能である。
樹脂筐体に、ベース板を嵌合する場合の接触面積率は、水平方向で25%以上である。
【0025】
さらに、本発明では、樹脂筐体の放熱面に、金属材料を貼り付けたり、埋め込んだりして、取り付け、さらに、ベース板に接続することも可能である。
ここで、放熱面とは、図3〜図5から明らかなように、樹脂筐体の側面であり、内面と外面を有する。
【0026】
ここで、金属材料としては、アルミニウム箔、金箔、銀箔、及び銅箔等が挙げられ、特に限定されるものではないが、例えば、熱伝導率が230W/(m・K)のアルミニウム箔の場合、厚さは50〜200μmが好ましい。
【0027】
金属材料の取り付け方法は、樹脂筐体の
放熱面の放熱が充分になれば特に制限されるものではなく、樹脂筐体上面からベース板に接合させ、
樹脂筐体
の放熱面の内面に貼り付ける方法が有効である。
また、金属材料をスパイラル構造で貼り付けたり、帯状に貼り付けたりすることが可能
である。
【0028】
ここで、樹脂筐体の放熱面の
ベース板から底までの長さaに対する、取り付けた金属材料の
ベース板からの長さbの割合b/aを金属材料取り付け長さ率とすると、金属材料取り付け長さ率が大きければ大きいほどLED温度を下げることが可能であり、金属材料取り付け長さ率が20%以上が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、詳細な内容について実験例を用いて説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0030】
実験例1
ポリアミド樹脂、金属水酸化物系難燃剤、及び添加剤からなる熱可塑性樹脂組成物を使用し、射出成形機により、
図1に示す評価用樹脂筐体を作製した。
熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率は1W/m・K、熱放射率は0.8であった。
ベース板の上部には、
図3に示すように、電気化学工業社製熱伝導スペーサー(FSL−100B)、パナソニック電工社製LED照明基板(LDA8D−A1/D、LED数:6個)の順に密着させ、上部にポリカーボネート樹脂製の透明カバーを装着した。
7.6Wの電力を負荷し、LED照明基板上の中心部(以下、LED照明基板の発熱部という)と樹脂筐体部に熱電対を取り付けた。LED照明基板の発熱部と樹脂筐体部の温度が23℃(室温23℃)から、LED照明を2時間連続照射させ、LED照明基板の発熱部の温度を測定し、放熱性を評価した。結果を表1に示す。
同様の電力条件で
図4に示すように、LED照明基板の発熱部と密着したベース板と、樹脂筐体との接触面積を大きくした構造にした場合も同様に実験を行った。結果を表1に併記する。
【0031】
<使用材料>
ポリアミド樹脂:ナイロン6、宇部興産社製、商品名「1013B」、密度1.14g/cm
3
金属水酸化物系難燃剤:水酸化マグネシウム、神島化学工業社製、商品名「S−4」、体積平均粒子径0.9μm、密度2.40g/cm
3
添加剤 :ポリテトラフルオロエチレン樹脂、三井・デュポンケミカル社製、商品名「31−JR」、密度2.10g/cm
3
熱伝導スペーサー:シリコーン樹脂、径35mm、厚さ1mm、熱伝導率1W/(m・K)
ベース板 :純度99%アルミニウム板、径58mm、厚さ2mm、熱伝導率230W/(m・K)
【0032】
<測定・評価方法>
熱伝導率 :NETZSCH社製熱伝導率測定装置(LFA447 Nanoflash)を用いて、ASTM E 1461に準拠して測定を行った。
熱放射率 :京都電子工業社製放射率計(D and S AERD)を用いて測定を行った。評価用試験片は、東芝機械社製射出成形機(IS50EPN)により作製した縦90×横90×厚み2mmの角板を用いた。
放熱性 :LED照明基板の発熱部と樹脂筐体部に熱電対を取り付けた。LED照明基板の発熱部と樹脂筐体部の温度が23℃から、LED照明を2時間連続照射させ、LED照明基板の発熱部の温度を測定し、放熱性を評価した。実験室内温度は23℃。
【0033】
【表1】
【0034】
図3に示す構造では照射2時間後のLED温度は約97℃になる。
同様の電力条件で
図4に示すように、LED照明基板の発熱部をベース板と樹脂筐体との接触面積を大きくした構造にした場合、LED温度を80℃まで下げることができる。LED照明基板の発熱による熱を樹脂筐体へ効率よく流すための熱流路拡大効果によるもので、表1にベース板と樹脂筐体との接触面積率とLED温度との関係を示すが、接触面積率が大きいほどLED温度を下げることができ、ベース板と樹脂筐体との接触面積率が25%以上が好ましい。
【0035】
実験例2
図5に示すように、ベース板と樹脂筐体との接触面積率を49%とし、金属材料である熱伝導率が230W/(m・K)の、厚さ100μmのアルミニウム箔を取り付け、その端部をベース板に接続して、実験例1と同様に実験を行った。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2から明らかなように、樹脂筐体の放熱面にアルミニウム箔を取り付けた場合、LED温度を70℃まで下げることができる。これは放熱面に対し、温度をより広く分散させる効果によるものであり、放熱面全体の長さaに対する、アルミニウム箔取り付け長さbとの比率b/aである金属材料の取り付け長さ率が大きいほどLED温度を下げることができ、取り付け長さ率は20%以上が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の樹脂筐体を用いたLED照明は、例えば、懐中電灯、乗用車用ランプ、電球型照明、スポットライト、常夜灯、サイド照明、街路灯、及び道路照明灯等に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 樹脂製LED照明筐体
2 LED照明基板取付けベース板
3 熱伝導スペーサー
4 LED照明基板
5 LED
6 透明カバー
7 熱電対装着位置(LED照明基板の発熱部)
8 放熱面