特許第5864098号(P5864098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5864098-ビール様飲料の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864098
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】ビール様飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20160204BHJP
   A23L 2/42 20060101ALI20160204BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C12C5/02
   A23L2/00 N
   A23L2/38 J
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-290806(P2010-290806)
(22)【出願日】2010年12月27日
(65)【公開番号】特開2012-135277(P2012-135277A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2013年11月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】村 上 敦 司
(72)【発明者】
【氏名】川 崎 由美子
(72)【発明者】
【氏名】太 田 麗 子
(72)【発明者】
【氏名】高 橋 康 紘
【審査官】 山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−278875(JP,A)
【文献】 特開2008−212041(JP,A)
【文献】 特開2010−063431(JP,A)
【文献】 特開2005−008541(JP,A)
【文献】 特開2007−089439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00− 3/3598
C12C 1/00− 13/06
C12F 3/00− 5/00
C12G 1/00− 3/12
C12H 1/00− 1/22
C12J 1/00− 1/10
C12L 3/00− 11/00
B01D 3/00− 3/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール様飲料の製造方法であって、α酸の添加工程を含んでなり、かつ、製造飲料においてペクチネイタス属菌の増殖が抑制された製造方法であって、製造された飲料中のα酸の量が、飲料を下記分析条件:
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
カラム:C18オクタデシルカラム(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)
移動相組成:蒸留水27.0%(v/v)・メタノール72.0%(v/v)・リン酸1.0%(v/v)
移動相流速:毎分1ml(流速一定)
検出波長:270nm
HPLC分析用試料中に含まれるβフェニルカルコンの量:内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液の1ml中に含まれるβフェニルカルコンの量
により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、βフェニルカルコンのピーク面積に対するα酸のピーク面積の比(α酸内標比)が0.093以上1.00未満となるようにα酸を添加する、製造方法。
【請求項2】
ビール様飲料がビール様発酵アルコール飲料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペクチネイタス属菌がペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
α酸の添加工程が発酵前液のワールプールタンク(WPT)にホップを添加する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ビール様飲料にα酸を添加することを特徴とし、添加された飲料中のα酸の量が、飲料を請求項1に記載の分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.093以上1.00未満となるようにα酸を添加する、ペクチネイタス属菌の増殖抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α酸を添加するビール様飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の中には、ビール中で生育することができるものが存在し、それらはビール混濁菌と呼ばれる。例えば、ペクチネイタス・フリシンジェンシスおよびペクチネイタス・セレビシフィラスもビール混濁菌であり、ビールを濁らせ、硫黄臭を発し、ビール品質を著しく低下させる場合がある。
【0003】
ビールには爽快な苦味と香りを付与するためにホップが使用されるが、ホップ中の成分であるα酸は、微生物の増殖を抑制できることも知られている。
【0004】
しかしながらこれまでに、このα酸が、ビール混濁菌、例えばペクチネイタス属菌に対して抗菌活性を有することについてはまったく知られておらず、また飲料中のα酸の含有量と、ペクチネイタス属菌との増殖関係も、まったく知られていなかった(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO99/9842号公報
【特許文献2】特開平11−221064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微生物汚染のリスクが低いビール様飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定量のα酸が製造飲料に存在するようにビール様飲料を製造すると、製造飲料においてペクチネイタス属菌の増殖が抑制されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)ビール様飲料の製造方法であって、α酸の添加工程を含んでなり、かつ、製造飲料においてペクチネイタス属菌の増殖が抑制された製造方法。
(2)ビール様飲料がビール様発酵アルコール飲料である、(1)に記載の方法。
(3)ペクチネイタス属菌がペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)製造された飲料中のα酸の量が、飲料を下記分析条件:
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
カラム:C18オクタデシルカラム(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)
移動相組成:蒸留水27.0%(v/v)・メタノール72.0%(v/v)・リン酸1.0%(v/v)
移動相流速:毎分1ml(流速一定)
検出波長:270nm
HPLC分析用試料中に含まれるβフェニルカルコンの量:内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液の1ml中に含まれるβフェニルカルコンの量
により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、βフェニルカルコンのピーク面積に対するα酸のピーク面積の比(α酸内標比)が0.081超1.00未満となるようにα酸を添加する、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の方法。
(5)α酸の添加工程が発酵前液のワールプールタンク(WPT)にホップを添加する工程を含む、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)ペクチネイタス属菌の増殖を抑制する量のα酸を含む、ビール様飲料。
(7)ビール様飲料がビール様発酵アルコール飲料であり、
ペクチネイタス属菌がペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、
製造された飲料中のα酸の量が、飲料を(4)に記載の分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.081超1.00未満となる量である、(6)に記載の飲料。
(8)ビール様飲料にα酸を添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌の増殖抑制方法。
【0009】
本発明の製造方法は、微生物汚染のリスクが低いビール様飲料を提供できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】α酸の高速液体クロマトグラフィ分析チャートを表す。
【発明の具体的説明】
【0011】
ビール様飲料の製造方法
本発明によれば、ビール様飲料の製造方法において、ペクチネイタス属菌の増殖を抑制する量のα酸を添加することによりビール様飲料中のペクチネイタス属菌の増殖を抑制することが可能となる。すなわち、本発明によれば、ビール様飲料の製造方法であって、α酸の添加工程を含んでなり、かつ、製造飲料においてペクチネイタス属菌の増殖が抑制された製造方法が提供される。
【0012】
本発明において「ビール様飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、完全無アルコール麦芽飲料等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。また、ビール様飲料である限り、麦芽飲料に限定されるものではない。
【0013】
本発明の製造方法では、製造飲料においてペクチネイタス属菌の増殖が抑制されるようにα酸を添加することができる。ここで、α酸とは、ホップに含まれる成分であり、具体的には図1の高速液体クロマトグラフィ分析チャート中に示されたα酸ピークに対応する成分を意味する。
【0014】
このα酸の取得源は特に限定されるものではなく、市販のもの、合成して得られたもの、あるいは天然物から単離・精製されたものいずれを用いてもよい。α酸は、例えばホップから調製することができる。また、α酸は後熟ホップから調製してもよい。ホップや後熟ホップからのα酸の調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ホップや後熟ホップをエタノールに浸漬させた後、遠心し、遠心後の上清をα酸抽出液としてもよい。ここで、後熟ホップとは、原料煮沸工程時に用いるホップを、収穫後、望ましくない酸化臭成分や樹脂様臭などの生成を有意に抑制、制限させた条件下において熟成させ、ホップに含まれる香気成分の生成のための酸化反応を有意に促進させて、ホップ中に含まれる香気成分を増加させたホップであり、具体的には、収穫後乾燥させたホップ毬花を、収穫後10〜20℃の中低温下で、3ヶ月以上熟成したホップである。
【0015】
本発明の製造方法におけるα酸の添加時期は、製造飲料にペクチネイタス属菌の増殖が抑制される程度の量のα酸が含まれる限り、ビール様飲料の製造工程のいずれの時点で添加してもよい。
【0016】
本発明の製造方法におけるα酸の添加態様は、製造飲料にペクチネイタス属菌の増殖が抑制される程度の量のα酸が含まれる限り特に限定されるものではなく、α酸を発酵前液や発酵液にそのまま添加しても、α酸を含有するホップを発酵前液に添加してもよい。すなわち、α酸やホップをビール様飲料の製造工程のいずれかの時点で添加し、ホップの場合にはホップに含まれるα酸が抽出され、結果的にビール様飲料中にα酸が存在する状態としてもよい。
【0017】
本発明において「ペクチネイタス属菌の増殖が抑制される」とはペクチネイタス属菌を植菌したときに一定期間経過後に初期植菌濃度が減少するような場合を意味する。例えば、実施例に記載したように、1.0×10CFU/ml(初期植菌濃度)レベルのペクチネイタス属菌を植菌し、14日間30℃で処置した後、生菌数を測定し、生菌数が初期植菌濃度を下回ったかどうかを指標に「ペクチネイタス属菌の増殖が抑制される」か否かを評価することができる。
【0018】
本発明の製造方法により製造される飲料が、例えば、発酵麦芽飲料である場合には、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明による発酵麦芽飲料を製造することができる。ここで、発酵前液の調製に当たっては、後述のようにペクチネイタス属菌の増殖がさらに抑制されるような量のα酸が発酵飲料に含まれるようにホップを添加してもよい。
【0019】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。ホップは、麦汁を煮沸する前、麦汁を煮沸した後、あるいは麦汁を煮沸中に添加することができる。
【0020】
本発明の製造方法が発酵麦芽飲料の製造方法である場合には、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。
【0021】
本発明の製造方法により製造される飲料が麦や麦芽を使用しないビール様発酵飲料である場合には、発酵麦芽飲料の製造手順に準じて、少なくとも水およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。発酵前液には、水、ホップの他に炭素源(例えば、液糖などの糖類)、窒素源(例えば、タンパク質分解物や酵母エキスなどのアミノ酸供給源)を添加することができ、必要に応じて、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。得られたビール様発酵飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール・ビール様発酵飲料とすることもできる。ここで、発酵前液の調製に当たっては、後述のようにペクチネイタス属菌の増殖がさらに抑制されるような量のα酸が発酵飲料に含まれるようにホップを添加してもよい。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、α酸の添加工程が発酵前液の煮沸終了後にワールプールタンク(WPT)にホップを添加する工程を含む方法である。発酵前液の煮沸終了後にワールプールタンク(WPT)にホップを添加する工程は、煮沸終了直後にWPTにホップを添加してもよいし、煮沸終了後、所定の時間経過後、例えば煮沸終了後、1〜60分経過後にWPTにホップを添加してもよい。α酸の添加工程がこのような工程を含むことにより、飲料中のα酸の量を増加させることができ、その結果として、ペクチネイタス属菌の増殖をさらに抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、添加するホップは後熟ホップであってもよいが、非後熟ホップであることが好ましい。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、ビール様飲料はビール様発酵アルコール飲料である。発酵アルコール飲料は、一般的にパス工程などの滅菌工程がないため、本発明の方法が特に有用である。ここで、発酵アルコール飲料とは酵母により発酵して得られた飲料を意味し、アルコールは発酵により得られても良いし、さらにアルコールを添加して作成しても良い。ビール様発酵アルコール飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、および低アルコール麦芽発酵飲料が挙げられる。
【0025】
本発明の方法により増殖が抑制されるペクチネイタス属菌は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくはペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、より好ましくはペクチネイタス・フリシンジェンシスである。本発明の製造方法により製造された飲料はこれらの菌の増殖を抑制することができる。
【0026】
本発明の方法により製造されるビール様飲料中のα酸の含有量は、公知のいずれの方法により測定してもよいが、好ましくは高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析により測定することができる。
【0027】
ビール様飲料中のα酸の含有量を測定するための高速液体クロマトグラフィの分析条件としては、例えば、以下の条件を用いて行うことができるが、高速液体クロマトグラフィに使用されるカラムは逆相カラムであれば特に限定されないが、C18オクタデシルカラム(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)が好ましい。C18オクタデシルカラムとしては、例えば、Nucleosil 100−5C18(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)(ジーエルサイエンス株式会社製)が挙げられる。
【0028】
<高速液体クロマトグラフィ分析条件>
カラム:C18オクタデシルカラム(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)
移動相組成:蒸留水27.0%(v/v)・メタノール72.0%(v/v)・リン酸1.0%(v/v)
移動相流速:毎分1ml(流速一定)
検出波長:270nm
HPLC分析用試料中に含まれるβフェニルカルコンの量:内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液の1ml中に含まれるβフェニルカルコンの量
※HPLC分析用試料は、下記HPLC分析用試料調製条件に記載の方法により、調製された試料である。
【0029】
本発明では、上記高速液体クロマトグラフィ条件により分析を実施し、図1に表されたα酸のピーク面積の総和を、内部標準物質のピーク面積で除したピーク面積比(α酸内標比)に基づいて、α酸を添加することができる。α酸内標比は、以下の式により表される:
α酸内標比=(α酸のピーク面積)/(内部標準物質のピーク面積)・・・(I)
【0030】
高速液体クロマトグラフィ分析の際に用いられる内部標準物質は、特に限定されないが、βフェニルカルコンを用いることが好ましい。HPLC分析用試料は、例えば、以下のように調製することができる。
<HPLC分析用試料調製条件>
α酸を添加した試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置する。この溶液は水溶層と、有機溶媒層との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取する。採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化する。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものをHPLC分析用試料とする。
【0031】
製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合に、α酸内標比が0.081超、好ましくは0.093以上となるようにα酸を添加することができる。α酸内標比を0.081超とすることによりペクチネイタス属菌の増殖を抑制することができ、α酸内標比を0.093以上とすることによりペクチネイタス属菌の増殖を完全に抑制することができる。
【0032】
製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合に、α酸内標比が1.00未満、好ましくは0.56未満となるようにα酸を添加することができる。α酸内標比を1.00未満とすることにより、製造される飲料の鋭利な苦味を抑えることができ、好ましい飲料を提供することができる。
【0033】
製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合に、α酸内標比が0.081超1.00未満、好ましくは0.081超0.56未満、より好ましくは0.093以上0.56未満となるようにα酸を添加することができる。α酸内標比を0.081超1.00未満とすることにより、製造される飲料の鋭利な苦味を抑えることができ、またペクチネイタス属菌の増殖を抑制することができる。
【0034】
ビール様飲料
本発明の好ましい態様によれば、ペクチネイタス属菌の増殖を抑制する量のα酸を含むビール様飲料が提供される。
【0035】
本発明のより好ましい態様によれば、ビール様飲料はビール様発酵アルコール飲料である。また、本発明の別の好ましい態様によれば、ペクチネイタス属菌はペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、さらに好ましい態様によれば、ペクチネイタス・フリシンジェンシスである。本発明のビール様飲料によれば、これらの菌の増殖を顕著に抑制することができる。
【0036】
本発明の別の好ましい態様によれば、ビール様飲料がビール様発酵アルコール飲料であり、ペクチネイタス属菌がペクチネイタス・フリシンジェンシスまたはペクチネイタス・セレビシフィラスであり、製造された飲料中のα酸の量が、上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.081超1.00未満となる量である飲料が提供される。
【0037】
また、本発明のさらに好ましい態様によれば、製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.081超となる、好ましくは0.093以上となる量であるビール様飲料が提供される。α酸内標比を0.081超とすることによりペクチネイタス属菌の増殖を抑制することができ、α酸内標比を0.093以上とすることによりペクチネイタス属菌の増殖を完全に抑制することができる。
【0038】
また、本発明のさらに好ましい別の態様によれば、製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が1.00未満、好ましくは0.56未満となる量であるビール様飲料が提供される。α酸内標比を1.00未満とすることにより、製造される飲料の鋭利な苦味を抑えることができ、好ましい飲料を提供することができる。
【0039】
また、本発明のさらに好ましい別の態様によれば、製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.081超1.00未満、好ましくは0.081超0.56未満、より好ましくは0.093以上0.56未満となる量であるビール様飲料が提供される。α酸内標比を0.081超1.00未満とすることにより、製造される飲料の鋭利な苦味を抑えることができ、またペクチネイタス属菌の増殖を抑制することができる。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、ビール様飲料にα酸を添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌の増殖抑制方法が提供される。
【0041】
本発明の別の好ましい態様によれば、ビール様発酵アルコール飲料にα酸を添加することを特徴とする、ペクチネイタス属菌の増殖抑制方法が提供される。
【0042】
本発明の別の好ましい態様によれば、製造された飲料中のα酸の量が、飲料を上記高速液体クロマトグラフィ分析条件により高速液体クロマトグラフィ分析に付した場合、α酸内標比が0.081超1.00未満、好ましくは0.081超0.56未満、より好ましくは0.093以上0.56未満となる量である、ペクチネイタス属菌の増殖抑制方法が提供される。
【実施例】
【0043】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0044】
植菌試験用α酸抽出液の調製
α酸は、ペレットホップ(HPE Type90)を、80%エタノールに24時間、4℃で浸漬させ、抽出した。浸漬後、6000rpm、15分間遠心分離し、その上清をα酸抽出液とした。
【0045】
α酸抽出液添加による植菌試験
市販品のビールにホップから抽出した上記α酸抽出液を添加し、ペクチネイタス・フリシンジェンシス(入手先:ドイツ微生物寄託機関(Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)) No.20760)の増殖抑制効果を得る成分値の範囲を探索した。各抽出液の添加水準は、下記に示した表1の通りであった。
【0046】
さらに、1.0×10CFU/mlでペクチネイタス・フリシンジェンシスを植菌し、14日間30℃で培養後、生菌数を確認した。初期植菌濃度(1.0×104CFU/ml)よりも、生菌数が減少していれば増殖抑制効果を有すると判断した。試験の結果を下記表1に示す。α酸内標比が0.093の場合には、生菌数は0となり、完全にペクチネイタス・フリシンジェンシスの増殖を抑制したことが示された。
【0047】
【表1】
【0048】
HPLC分析のための試料の調製
α酸抽出液を添加した各試料10mlに、1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とう、静置した。この溶液は水溶層と、有機溶媒層との二層に分離し、有機溶媒層から10mlを採取した。採取した溶液を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させ固体化させた。これに内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液を1ml加え、溶解したものをHPLC分析用試料とした。
【0049】
HPLC分析によるα酸内標比の算出
HPLCの分析条件は、以下の通りである。
<HPLC分析条件>
カラム:Nucleosil 100−5C18(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)(ジーエルサイエンス株式会社製)
サンプル注入量:50μl
移動相A組成:蒸留水27.0%(v/v)・メタノール72.0%(v/v)・リン酸1.0%(v/v)
移動相B組成:メタノール99.0%(v/v)・リン酸1.0%(v/v)
移動相流速:1ml/min.(流速一定)
検出波長:270nm
HPLC分析用試料中に含まれるβフェニルカルコンの量:内部標準物質βフェニルカルコン12mgと、リン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)440mlとの混合溶液の1ml中に含まれるβフェニルカルコンの量
※HPLC分析用試料は、上記HPLC分析用試料調製条件に記載の方法により、調製された試料である。
【0050】
グラジエントプログラム
【表2】
【0051】
HPLC用カラム(Nucleosil 100−5C18(粒径5μm×内径4.0mm×カラム長250mm)を用いて、蒸留水27%(v/v)、メタノール72%(v/v)、およびリン酸1%(v/v)からなる移動相Aを、毎分1mlの一定流速で270nmの検出波長の高速液体クロマトグラフィ分析を行った場合において、図1のα酸のピーク面積の総和を「α酸」とし、内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積の総和を「内部標準物質(βフェニルカルコン)」と表記した(図1参照)。図1において、α酸ピークのリテンションタイム(RT)は6.5〜10.0分であった。α酸ピークのRTは±0.5分の差は許容される。
【0052】
α酸内標比は、上記式(I)に基づき算出した。各添加量でのα酸内標比は、上記表1に示す。
【0053】
試験醸造品でのα酸増量の検証
ホップの添加時期を下記表3のようにし、試験醸造品を作成した。総煮沸時間は70分とした。その結果、WPTでホップを添加することにより、ペクチネイタス・フリシンジェンシスの増殖抑制可能な範囲までα酸を増量できることが明らかとなった(表3参照)。
【0054】
【表3】
【0055】
市販品の分析結果
市販品のα酸の内標比を上記のHPLC条件と同様の条件で測定し、α酸の内標比を算出した。その結果を下記表4に示した。測定した市販品の中には、α酸の内標比が0.081超のものは存在しなかった。
【表4】
図1