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特許5864146高圧ガスタンク、及び高圧ガスタンクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864146
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】高圧ガスタンク、及び高圧ガスタンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20160204BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20160204BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20160204BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20160204BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20160204BHJP
【FI】
   F17C1/06
   F16J12/00 A
   B29C67/14 A
   B29K105:08
   B29L22:00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-144366(P2011-144366)
(22)【出願日】2011年6月29日
(65)【公開番号】特開2013-11305(P2013-11305A)
(43)【公開日】2013年1月17日
【審査請求日】2013年11月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】三好 新二
(72)【発明者】
【氏名】日置 健太郎
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−174700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
B29C 70/16
F16J 12/00
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクライナと、その外周に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維が巻きつけられて構成された繊維強化樹脂層と、を有する高圧ガスタンクにおいて、
前記繊維強化樹脂層は、前記タンクライナ側に形成された内側層と、その外周に形成された外側層と、を有し、
前記外側層における前記繊維の巻き張力が、前記内側層における前記繊維の巻き張力よりも低く、前記内側層は緻密な層である一方で、前記外側層は空隙が内在して前記内側層よりも密度の低い層であることを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項2】
前記外側層の肉厚は、前記内側層の肉厚よりも薄くなるように形成されていることを特徴とする、請求項に記載の高圧ガスタンク。
【請求項3】
タンクライナの外周に、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻きつけることにより繊維強化樹脂層を形成してなる高圧ガスタンクの製造方法において、
前記タンクライナを準備する準備工程と、
前記タンクライナに対し、前記繊維を巻きつけて内側未硬化層を形成する第一形成工程と、
前記内側未硬化層に対し、前記繊維を巻きつけて外側未硬化層を形成する第二形成工程と、
加熱により、前記内側未硬化層及び前記外側未硬化層における前記熱硬化性樹脂を硬化させ、それぞれ内側層及び外側層と成して前記繊維強化樹脂層を形成する硬化工程と、を備え、
前記第一形成工程において前記内側未硬化層を緻密に形成する一方で、前記第二形成工程において前記外側未硬化層に多数の空隙を内在させることで、前記内側層を緻密なものとする一方で、前記外側層を前記内側層よりも密度の低い層とし、
前記第二形成工程において、前記繊維の巻き張力を前記第一形成工程におけるものより低くすることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることを特徴とする高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項4】
前記第二形成工程において、前記繊維の巻き数を、前記第一形成工程における前記繊維の巻き数よりも減じて前記外側未硬化層を形成することで、前記外側層の肉厚を前記内側層の肉厚よりも薄くなるように形成することを特徴とする、請求項3に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項5】
前記第二形成工程において、前記繊維の巻き方向を前記第一形成工程におけるものとは異ならせることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることを特徴とする請求項3に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項6】
前記第二形成工程において、前記繊維の間に隙間材を介在させることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることを特徴とする、請求項3に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクに関し、特に、タンクライナの外周が繊維強化樹脂層で覆われた構造の高圧ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高圧ガスタンクのタンクライナの外周を、繊維強化樹脂で覆うことが行われている。そして、特許文献1には、タンクライナを透過し、タンクライナと繊維強化樹脂との間に閉じ込められた滞留ガスが、放出音を伴って一気に外部に放出されてしまうことを防止するため、繊維強化樹脂にガス抜き孔を形成させる技術が開示されている。
【0003】
更に特許文献2には、繊維強化樹脂層の最外周部に形成された熱硬化樹脂層を溶剤によって溶かし、滞留ガスが熱硬化樹脂層を透過しやすくすることで、滞留ガスの放出音の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−216133号公報
【特許文献2】特開2009−191904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のガス抜き孔形成方法は、タンクライナと繊維強化樹脂層との間に常用圧以上のガスを注入することにより、微小クラックを発生させることで繊維強化樹脂層にガス抜き孔を形成するとしている。しかしながらかかる方法では、微小クラックの発生位置をコントロールすることが難しく、繊維強化樹脂層全体において均等にガス抜き孔を形成することが困難であった。繊維強化樹脂層の一部においてガス抜き孔が形成されない範囲が存在すると、かかる範囲においてガス放出音が発生する。従って、ガス放出音を抑制しようとすれば、ガス放出孔の分布を検査し、ガス放出孔が適切に分散したタンクのみを選別する工程が別途必要となってしまい、製造にかかる時間とコストが増大する。
【0006】
また、特許文献2に記載の製造方法は、繊維強化樹脂層の最外周部に形成された熱硬化樹脂層を溶剤で溶かすものである。この製造方法では、最終的な熱硬化樹脂層の厚さを均等に形成することが困難であった。このため、熱硬化樹脂層が厚く形成された部分において、局所的に滞留ガスを閉じ込めてしまう場合があり、放出音を伴って一気に外部に放出してしまう現象を、完全に防止することができないものであった。
【0007】
さらに、タンクライナから外部に透過するガスが局所的に多く発生した場合には、熱硬化樹脂層を透過できるガスの許容量を超えてしまうため、当該部分における放出音の発生を防止できるものではなかった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、タンクライナを透過したガスに起因するガス放出音を抑制することが可能な高圧ガスタンク、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る高圧ガスタンクは、タンクライナの外周に、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻きつけることにより繊維強化樹脂層を形成してなる高圧ガスタンクであり、前記繊維強化樹脂層は、前記タンクライナ側に形成された内側層と、その外周に形成された外側層と、を有し、前記内側層は、緻密な層として形成される一方で、前記外側層は、前記内側層よりも密度の低い層として形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、タンクライナの外側に形成される繊維強化樹脂層を、内側層と外側層に分けて形成するので、それぞれの特徴を異ならせることで、繊維強化樹脂層全体の機能を高めることができる。具体的には、内側層を緻密な層として形成することで、タンクライナ側から作用する大きな力に耐えうる強度を確保することができる。このように内側層を緻密に形成しても、タンクライナ内に収容するガスは高圧であるため、ガスが内側層から外側層に透過する。そこで本発明では、外側層を内側層よりも密度の低い層として形成することで、透過したガスが低密度である外側層全体に分散させるものとしている。外側層を内側層よりも密度の低い層とするためには、例えば、外側層に多数の空隙を内在させることが好ましい。このように外側層に多数の空隙を内在させることで、透過したガスがその多数の空隙間を移動し、外側層全体に分散する。このように外側層全体にガスを分散させることで、局所的なガス放出を低減することができ、ガス放出音を十分に抑制することが可能となる。
【0011】
更に、タンクライナから外部に透過するガスが局所的に多く発生した場合であっても、繊維強化樹脂層における外側層の密度が低いため、ガスは一か所に集中せず、分散してから表面樹脂層に到達する。その結果、ガスは表面樹脂層を透過して高圧ガスタンク外部に流出するため、ガス放出音の発生が確実に抑制される。
【0012】
また本発明に係る高圧ガスタンクでは、前記外側層の肉厚は、前記内側層の肉厚よりも薄くなるように形成されていることも好ましい。
【0013】
上述したように本発明では、内側層は強度確保を主な役割とし、外側層は内側層側から透過したガスの分散を主な役割としている。そこでこの好ましい態様では、外側層の肉厚を内側層の肉厚よりも薄くすることで、内側層の厚みを確保し十分な強度確保を可能なものとしている。
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明に係る高圧ガスタンクの製造方法は、タンクライナの外周に、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻きつけることにより繊維強化樹脂層を形成してなる高圧ガスタンクの製造方法であって、前記タンクライナを準備する準備工程と、前記タンクライナに対し、前記繊維を巻きつけて内側未硬化層を形成する第一形成工程と、前記内側未硬化層に対し、前記繊維を巻きつけて外側未硬化層を形成する第二形成工程と、加熱により、前記内側未硬化層及び前記外側未硬化層における前記熱硬化性樹脂を硬化させ、それぞれ内側層及び外側層と成して前記繊維強化樹脂層を形成する硬化工程と、を備える。前記第一形成工程において前記内側未硬化層を緻密に形成する一方で、前記第二形成工程において前記外側未硬化層に多数の空隙を内在させることで、前記内側層を緻密なものとする一方で、前記外側層を前記内側層よりも密度の低い層とする。
【0015】
本発明によれば、第一形成工程における内側未硬化層の形成態様と、第二形成工程における外側未硬化層の形成態様とを異ならせることで、それぞれ特徴の異なる内側層と外側層とを有する繊維強化樹脂層を形成している。このように、タンクライナの外側に形成される繊維強化樹脂層を、内側層と外側層に分けて形成するので、それぞれの特徴を異ならせることが極めて容易なものとなり、容易に繊維強化樹脂層全体の機能を高めることができる。具体的には、内側層を緻密な層として形成することで、タンクライナ側から作用する大きな力に耐えうる強度を確保することができる。このように内側層を緻密に形成しても、タンクライナ内に収容するガスは高圧であるため、ガスが内側層から外側層に透過する。そこで本発明では、外側層を内側層よりも密度の低い層として形成することで、透過したガスが低密度である外側層全体に分散させるものとしている。外側層を内側層よりも密度の低い層とするためには、例えば、外側層に多数の空隙を内在させることが好ましい。このように外側層に多数の空隙を内在させることで、透過したガスがその多数の空隙間を移動し、外側層全体に分散する。このように外側層全体にガスを分散させることで、局所的なガス放出を低減することができ、ガス放出音を十分に抑制することが可能となる。
【0016】
また本発明に係る高圧ガスタンクの製造方法では、前記第二形成工程において、前記繊維の巻き数を、前記第一形成工程における前記繊維の巻き数よりも減じて前記外側未硬化層を形成することで、前記外側層の肉厚を前記内側層の肉厚よりも薄くなるように形成することも好ましい。
【0017】
上述したように本発明では、内側層は強度確保を主な役割とし、外側層は内側層側から透過したガスの分散を主な役割としている。そこでこの好ましい態様では、外側未硬化層の巻き数を内側未硬化層の巻き数よりも減ずることで、外側層の肉厚を内側層の肉厚よりも薄くしている。従って、巻き数を変化させるという簡単な手法で、内側層の厚みを確保し十分な強度確保を可能なものとしている。
【0018】
また本発明に係る高圧ガスタンクの製造方法では、前記第二形成工程において、前記繊維の巻き張力を前記第一形成工程におけるものより低くすることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることも好ましい。
【0019】
繊維の巻き張力を低くすると、その巻きつけ部分には緩みが生じ、この緩みに起因して、確実に空隙が発生する。そこでこの好ましい態様では、第二形成工程において繊維の巻き張力を第一形成工程よりも低くすることで、簡便且つ確実に外側層に空隙を多数形成している。
【0020】
また本発明に係る高圧ガスタンクの製造方法では、前記第二形成工程において、前記繊維の巻き方向を前記第一形成工程におけるものとは異ならせることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、第二形成工程において、前記繊維の巻き方向を前記第一形成工程におけるものとは異ならせることで、例えば、タンクライナの軸心に対し小さい角度で巻回するヘリカル巻きを採用することができる。このように外側未硬化層を形成する際にヘリカル巻きを採用することにより、繊維の側端部に空隙を発生させることができる。
【0022】
また本発明に係る高圧ガスタンクの製造方法では、前記第二形成工程において、前記繊維の間に隙間材を介在させることにより、前記外側層に多数の空隙を内在させることも好ましい。
【0023】
この好ましい態様では、第二形成工程において、例えば、繊維を巻きつける際にガラス繊維等の隙間材を入れることで、確実に外側層に多数の空隙を内在させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、タンクライナを透過したガスに起因するガス放出音を抑制することが可能な高圧ガスタンク、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る高圧ガスタンクの断面図である。
図2図1におけるA部の構造を拡大して示した断面図である。
図3図1におけるB部の構造を拡大して示した断面図である。
図4】本実施形態に係る高圧ガスタンクの製造工程を示すフローチャートである。
図5】本実施形態における巻き工程の詳細を示すフローチャートである。
図6】本実施形態における巻き工程の変形例を示すフローチャートである。
図7図6に示す変形例による巻き工程によって形成した場合の、外側層の構造を示した断面図である。
図8】本実施形態における巻き工程の変形例を示すフローチャートである。
図9図8に示す変形例による巻き工程によって形成した場合の、外側層の構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0027】
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る高圧ガスタンクについて説明する。図1は、本実施形態に係る高圧ガスタンク1の断面図である。図1では、高圧ガスタンク1の軸方向(長手方向)に直交し高圧ガスタンク1の中央近傍を通る平面における断面を示している。
【0028】
図1に示すように、高圧ガスタンク1は、タンクライナ2、繊維強化樹脂層3、表面樹脂層5、及び口金6を備えている。タンクライナ2は、最も内側に配置されるものであって、水素ガスといったガスをその内部に保持できるように両端が閉じられて筒状を成す部材である。
【0029】
口金6は、タンクライナ2の長手方向の一端部に取り付けられ、タンクライナ2内へのガスの導入口として機能するものである。より具体的には、口金6は、略円筒形状をなし、タンクライナ2の開口部に嵌入されている金属部品である。口金6は、高圧ガスタンク1内の水素をタンク外に供給する際において、外部のガス供給ラインとの接続を行うために使用されるものである。
【0030】
繊維強化樹脂層3は、タンクライナ2の外周に繊維を巻きつけることによって形成される層である。繊維強化樹脂層3は、内側層3aと、外側層3bとを有している。内側層3aは、タンクライナ2の外周に隣接し緻密な層として形成されている。一方、外側層3bは、内側層3aの外周側に隣接し多数の空隙を内在させた、密度の低い層として形成されている。
【0031】
表面樹脂層5は、繊維強化樹脂層3の最外周に、繊維を含まない樹脂のみの層として形成されている。
【0032】
続いて、繊維強化樹脂層3を構成する内側層3a及び外側層3bについて、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、図1におけるA部の構造を拡大して示した断面図であって、外側層3bの詳細を示すものである。図3は、図1におけるB部の構造を拡大して示した断面図であって、内側層3aの詳細を示すものである。
【0033】
図2に示すように、外側層3bは、カーボン繊維7が積層されてなり、図に明示しないエポキシ樹脂によって隣接するカーボン繊維7がバインドされ、全体としてCFRP(Carbon Fiber Reinforced Prastics)構造体として構成されている。
【0034】
外側層3bでは、カーボン繊維7(バインドするエポキシ樹脂を含む、以下同じ)の間に、空隙8aが形成されている。空隙8aは、外側層3bの全体に満遍なく多数形成されている。従って、外側層3bは、その内部に空隙8aを多数内在させたものとなっている。
【0035】
一方、図3に示すように、内側層3aも、カーボン繊維7が積層されてなり、図に明示しないエポキシ樹脂によって隣接するカーボン繊維7がバインドされ、全体としてCFRP構造体として構成されている。
【0036】
しかしながら、内側層3aでは、カーボン繊維7の間に空隙が形成されておらず、カーボン繊維7が互いに密接に接合した状態となっている。従って、内側層3aは、空隙がほとんど内在しておらず、緻密な層として形成されている。
【0037】
上述したように本実施形態では、タンクライナ2の外側に形成される繊維強化樹脂層3を、内側層3aと外側層3bに分けて形成しているので、それぞれの特徴を異ならせることで、繊維強化樹脂層3全体の機能を高めている。具体的には、内側層3aを緻密な層として形成することで、タンクライナ2側から作用する大きな力に耐えうる強度を確保することができる。このように内側層3aを緻密に形成しても、タンクライナ2内に収容するガスは高圧であるため、ガスが内側層3aから外側層3bに透過する。そこで、外側層3bに内側層3aよりも多数の空隙8aを内在させ、外側層3bを密度の低い層とすることで、透過したガスがその多数の空隙8a間を移動することで外側層3b全体に分散させるものとしている。このように外側層3b全体にガスを分散させることで、局所的なガス放出を低減することができ、ガス放出音を十分に抑制することが可能となる。
【0038】
更に、タンクライナ2から外部に透過するガスが局所的に多く発生した場合であっても、繊維強化樹脂層3の外側層3bには多数の空隙8aが分布しており、外側層3bの密度が低いため、ガスは一か所に集中せず、空隙8aの分布に沿って分散してから表面樹脂層5に到達する。その結果、ガスは表面樹脂層5を透過して高圧ガスタンク外部に流出するため、ガス放出音の発生が確実に抑制される。
【0039】
また本実施形態では、外側層3bの肉厚は、内側層3aの肉厚よりも薄くなるように形成されている。上述したように本実施形態では、内側層3aは強度確保を主な役割とし、外側層3bは内側層3a側から透過したガスの分散を主な役割としている。そこで、外側層3bの肉厚を内側層3aの肉厚よりも薄くすることで、内側層3aの厚みを確保し十分な強度確保を可能なものとしている。
【0040】
続いて、本実施形態に係る高圧ガスタンク1の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る高圧ガスタンク1の製造方法を示すフローチャートである。図4に示すように、高圧ガスタンク1の製造方法は、タンクライナ・口金組付工程S10と、巻き工程S20と、熱硬化工程S30と、加圧検査工程S40とを備える。
【0041】
タンクライナ・口金組付工程S10では、準備工程の一環として、口金6をタンクライナ2に組み付けたものを準備する。この場合、口金6は、特殊なものではなく一般的な形態ものが用いられる。
【0042】
タンクライナ・口金組付工程S10に続く巻き工程S20では、タンクライナ2の外表面に、CFRPプリプレグ(炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させ、エポキシ樹脂を半硬化させたものであって、リボン状の形態をなすもの)を巻き付け、熱硬化させることによって繊維強化樹脂層3となる未硬化繊維強化樹脂層を形成する。
【0043】
巻き工程S20の詳細を、図5を参照しながら説明する。図5は、巻き工程S20の詳細なステップを示したフローチャートである。まず、ステップS21(第一形成工程)で、熱硬化させることによって内側層3aとなる内側未硬化層を形成する。具体的には、タンクライナ2の外表面に、CFRPプリプレグをフィラメントワインディング法によって、巻き張力F1で巻きつける。
【0044】
このときの所定の巻き張力F1としては、例えば60N程度の大きさとすることが好ましい。この程度の張力で巻きつけると、CFRPプリプレグを緩み無く巻きつけることができ、緩みに起因した空隙の発生が抑制される。なお、内側未硬化層を形成する際の巻き張力F1は、常に一定とする場合に限られるものではなく、所定の巻き張力の大きさを中心又は下限とした範囲内で、巻き数に応じて適宜変更してもよい。
【0045】
CFRPプリプレグの巻き付け方向は、タンクライナ2の軸心に対しほぼ垂直な方向とし、所謂フープ巻きとすることが望ましい。フープ巻きとすることにより、CFRPプリプレグの側端部において空隙が発生してしまう現象を抑制することができる。
【0046】
ステップS21に続くステップS22では、内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達したか判断する。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達していなければ、巻き付けを継続し、ステップS22の判断を続ける。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達すれば、ステップS23に進む。所定の厚さとは、高圧ガスタンク1がその使用時において、内圧に耐えうる強度を有するために必要となる厚さであって、適宜設定されるものである。
【0047】
ステップS23(第二形成工程)では、ステップS21における巻き張力F1よりも低い巻き張力F2で、CFRPプリプレグの巻き付けを継続する。内側未硬化層の形成時と同様に、フィラメントワインディング法によってCFRPプリプレグを巻きつけることにより外側未硬化層が形成される。このときの巻き張力は、内側未硬化層を形成する際における巻き張力F1よりも低い巻き張力F2とし、F2を保ちながら外側未硬化層を形成していく。
【0048】
外側未硬化層を形成する際における所定の巻き張力F2としては、F1の1/2以下、例えば30N程度の大きさとすることが好ましい。このように、巻き張力F2を低く設定しながら外側未硬化層を形成することにより、巻きと同時に空隙(熱硬化後に空隙8aとなりうる空隙)が形成される。従って、外側未硬化層の形成が終了した時点において、確実に、外側未硬化層の全体に空隙が内在し、外側未硬化層は密度の低い状態となる。
【0049】
外側未硬化層を形成する際の巻き張力F2は、内側未硬化層の形成時における巻き張力F1と同様に、常に一定とする場合に限られるものではなく、所定の巻き張力の大きさを中心又は上限とした範囲内で、巻き数に応じて適宜変更してもよい。
【0050】
なお、本実施形態では、第二形成工程(ステップS23)において、CFRPプリプレグの巻き数を、第一形成工程(ステップS21)における巻き数よりも減じている。このため、外側未硬化層の肉厚は内側未硬化層の肉厚よりも薄く形成され、硬化後においては、外側層3bの肉厚は、内側層3aの肉厚よりも薄く形成される。
【0051】
図4に戻って、説明を続ける。巻き工程S20に続く熱硬化工程S30では、加熱により未硬化層における熱硬化性樹脂を硬化させ、繊維強化樹脂層3を形成する。上述したように、巻き工程S20が完了した時点においては、タンクライナ2の外周が、相対的に強い巻き張力で巻きつけられることにより空隙が殆ど内在していない内側未硬化層と、相対的に弱い巻き張力で巻きつけられることにより全体に空隙が多数内在している外側未硬化層との二層により覆われた状態となっている。
【0052】
この状態で、全体を加熱することにより熱硬化樹脂を硬化させる熱硬化工程S30を経ると、外側未硬化層のみに多数の空隙が内在した状態のまま、内側未硬化層、及び外側未硬化層の熱硬化性樹脂が硬化し、それぞれ内側層3a、外側層3bとなる。これにより、繊維強化樹脂層3が形成される。
【0053】
熱硬化工程S30に続く加圧検査工程S40では、高圧ガスタンク1が所定の強度を有しているかを確認するための加圧検査が行われる。既に外側層3bには多数の空隙が形成されている状態なので、従来のようにこの加圧検査工程で空隙を改めて形成する必要はなく、通常の加圧検査が行われる。
【0054】
本実施形態に係る高圧ガスタンク1の製造方法では、第二形成工程(図5のステップS21)において、繊維(CFRPプリプレグ)の巻き張力を第一形成工程(図5のステップS23)におけるものより低くすることにより、外側層3bに多数の空隙を内在させている。
【0055】
具体的には、内側未硬化層においては、CFRPプリプレグが高い巻き張力F1で巻かれているため、CFRPプリプレグが相互に接触する界面にできた隙間が、CFRPプリプレグの変形によって埋められるため、空隙は残っていない。
【0056】
これに対し、外側未硬化層においては、CFRPプリプレグが、F1の1/2以下である弱い巻き張力F2で巻かれているため、CFRPプリプレグの変形が少ない。このため、CFRPプリプレグが相互に接触する界面にできた隙間が埋められることなく、空隙としてそのまま残留している。
【0057】
このように、CFRPプリプレグの巻き張力を低くすると、その巻きつけ部分には緩みが生じ、この緩みに起因して、確実に空隙が発生する。そこで、第二形成工程(図5のステップS21)において繊維の巻き張力を第一形成工程(図5のステップS23)よりも低くすることで、簡便且つ確実に外側層3bに空隙8aを多数形成している。
【0058】
本実施形態では、内側層3aを緻密な層として形成する一方、外側層3bに内側層3aよりも多数の空隙を内在させるための方法として、内側層3aと外側層3bとで巻き張力を異ならせる例を説明した。しかし、巻き張力ではなく、巻き方向を異ならせることによっても、外側層3bに多数の空隙を形成し内在させることができる。以下、巻き方向を異ならせる例を、変形例として説明する。
【0059】
図6は、変形例における巻き工程(図4に示す巻き工程S20に相当する)の詳細を示すフローチャートである。本例においては、巻き工程の内容のみが上述した実施形態と異なっており、他は上述した実施形態と同様である。
【0060】
まず、ステップS24(第一形成工程)で、熱硬化させることによって内側層3aとなる内側未硬化層を形成する。具体的には、タンクライナ2の外表面に、CFRPプリプレグをフィラメントワインディング法によって、巻き張力F1で巻きつける。この場合のCFRPプリプレグの巻き付け方向は、タンクライナ2の軸心に対しほぼ垂直な方向とし、所謂フープ巻きとする。フープ巻きとすることにより、CFRPプリプレグの側端部において空隙が発生してしまう現象を抑制することができる。
【0061】
このときの所定の巻き張力F1としては、例えば60N程度の大きさとすることが好ましい。この程度の張力で巻きつけると、CFRPプリプレグを緩み無く巻きつけることができ、緩みに起因した空隙の発生が抑制される。なお、内側未硬化層を形成する際の巻き張力F1は、常に一定とする場合に限られるものではなく、所定の巻き張力の大きさを中心又は下限とした範囲内で、巻き数に応じて適宜変更してもよい。
【0062】
ステップS24に続くステップS25では、内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達したか判断する。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達していなければ、巻き付けを継続し、ステップS25の判断を続ける。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達すれば、ステップS26に進む。所定の厚さとは、高圧ガスタンク1がその使用時において、内圧に耐えうる強度を有するために必要となる厚さであって、適宜設定されるものである。
【0063】
ステップS26(第二形成工程)では、ステップS21における巻き張力F1と同等の張力で、CFRPプリプレグの巻き付けを継続する。ステップS26では、巻き方向を、タンクライナ2の軸心に対しほぼ垂直な方向に巻いて行くフープ巻きから、タンクライナ2の軸心に対し小さな角度で巻いて行くヘリカル巻きに変更する。
【0064】
このように、外側未硬化層を形成する際に巻き方向をヘリカル巻きとしたことにより、CFRPプリプレグ同士が重なり合う際において、CFRPプリプレグの側端部には隙間が形成されやすい。従って、巻き張力を強く保ちながら巻きつけたとしても、当該隙間は消滅せず、空隙として残留することとなる。
【0065】
図7は、図6を参照しながら説明した巻き工程によって形成した高圧ガスタンクの、外側層3bの構造を示した断面図である。外側層3bにおいては巻き方向をヘリカル巻きとしたことにより、カーボン繊維7同士が重なり合う際において、カーボン繊維7の側端部には隙間が形成されやすく且つそのまま残留し、空隙8bが形成されている。
【0066】
続いて、巻き張力ではなく、隙間材を用いることによって外側層3bに多数の空隙を形成し内在させる例を、変形例として説明する。
【0067】
図8は、変形例における巻き工程(図4に示す巻き工程S20に相当する)の詳細を示すフローチャートである。本例においては、巻き工程の内容のみが上述した実施形態と異なっており、他は上述した実施形態と同様である。
【0068】
まず、ステップS27(第一形成工程)で、熱硬化させることによって内側層3aとなる内側未硬化層を形成する。具体的には、タンクライナ2の外表面に、CFRPプリプレグをフィラメントワインディング法によって、巻き張力F1で巻きつける。この場合のCFRPプリプレグの巻き付け方向は、タンクライナ2の軸心に対しほぼ垂直な方向とし、所謂フープ巻きとする。フープ巻きとすることにより、CFRPプリプレグの側端部において空隙が発生してしまう現象を抑制することができる。
【0069】
このときの所定の巻き張力F1としては、例えば60N程度の大きさとすることが好ましい。この程度の張力で巻きつけると、CFRPプリプレグを緩み無く巻きつけることができ、緩みに起因した空隙の発生が抑制される。なお、内側未硬化層を形成する際の巻き張力F1は、常に一定とする場合に限られるものではなく、所定の巻き張力の大きさを中心又は下限とした範囲内で、巻き数に応じて適宜変更してもよい。
【0070】
ステップS27に続くステップS28では、内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達したか判断する。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達していなければ、巻き付けを継続し、ステップS28の判断を続ける。内側未硬化層の厚さが所定の厚さに到達すれば、ステップS29に進む。所定の厚さとは、高圧ガスタンク1がその使用時において、内圧に耐えうる強度を有するために必要となる厚さであって、適宜設定されるものである。
【0071】
ステップS29(第二形成工程)では、ステップS21における巻き張力F1と同等の張力で、CFRPプリプレグの巻き付けを継続する。ステップS29では、CRFPプリプレグを巻きつける際に、隙間材としてガラス繊維9を入れながら外側未硬化層を形成していく。
【0072】
このように、外側未硬化層を形成する際に隙間材としてガラス繊維9を入れることにより、CFRPプリプレグ同士が重なり合う際において、ガラス繊維9の近傍に隙間が形成されやすい。従って、巻き張力を強く保ちながら巻きつけたとしても、当該隙間は消滅せず、空隙として残留することとなる。
【0073】
図9は、図8を参照しながら説明した巻き工程によって形成した高圧ガスタンクの、外側層3bの構造を示した断面図である。外側層3bにおいては隙間材としてガラス繊維を入れたことにより、カーボン繊維7同士が重なり合う際において、ガラス繊維9の近傍には隙間が形成されやすく且つそのまま残留し、空隙8bが形成されている。
【0074】
以上に示した実施形態及び各変形例では、第二形成工程における巻き張力、巻き方向、隙間材の有無、のいずれか一つを、第一形成工程におけるものとは異ならせることにより、外側未硬化層に多数の空隙を内在させるものであった。しかし、本発明はこれに限らず、第二形成工程における巻き張力、巻き方向、隙間材の有無を、第一形成工程におけるものと複数同時に異ならせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1:高圧ガスタンク
2:タンクライナ
3:繊維強化樹脂層
3a:内側層
3b:外側層
5:表面樹脂層
6:口金
7:カーボン繊維
8a、8b、8c:空隙
9:ガラス繊維
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9