【実施例】
【0021】
以下、本発明の一実施例による消防ホースの結合金具を図面に基づいて説明する。
図1は本実施例による消防ホースの結合金具を離脱させた状態(ただし押し輪を図示せず)の半断面図、
図2は同実施例による消防ホースの結合金具を結合させた状態の半断面図、
図3は同実施例による消防ホースの結合金具の要部断面図、
図4は同実施例による消防ホースの結合金具に用いる押し輪の半断面図、
図5は同実施例による消防ホースの結合金具の動作状態を示す要部断面図である。なお、従来例と同一機能部材には、同一符号を付して説明を一部省略する。
【0022】
本実施例による消防ホースの結合金具は、差し金具20と受け金具10とからなる。
差し金具本体21は、一方に環状突部23を、他方に差し金具用ホース接続部24を、環状突部23と差し金具用ホース接続部24との間に摺動円筒部25をそれぞれ設けている。
図4に示す押し輪22は、
図1に示す摺動円筒部25でスライド可能に設けている。
受け金具本体11は、一方に受け金具爪17を、他方に受け金具用ホース接続部12をそれぞれ設けている。爪ばね15は、受け金具爪17を受け金具本体11の中心軸線X1の方向に付勢する。
【0023】
図2に示すように、差し金具20と受け金具10は、受け金具爪17を越える位置まで、環状突部23を、受け金具本体11の一方の開口から挿入する。すなわち、差し金具本体21の先端の環状突部23は、受け金具爪17の係止解除用斜面17aに当り、爪ばね15の力を抑え、受け金具爪17を後退させる。よって、環状突部23の先端は受け金具本体11の止め部19まで進み、Oリング18によってシールされる。その際、差し金具本体21の環状突部23は受け金具爪17を越えるため、受け金具爪17が爪ばね15の力により中心軸線X1の方向に進み、元の位置に戻る。よって、差し金具本体21の環状突部23が受け金具爪17に係止され、結合が完了する。
差し金具20と受け金具10との結合の解除は、押し輪22を、摺動円筒部25に沿ってスライドさせて受け金具10に挿入し、受け金具爪17の係止解除用斜面17aに当接させ、押し輪22によって係止解除用斜面17aを押圧することで受け金具爪17を外方に押しよけて、受け金具爪17と環状突部23との係止を解除することで行われる。
本実施例による消防ホースの結合金具は、環状突部23の差し金具用ホース接続部側端面23aには、斜面23bを形成する係止ロック用溝23cを設け、受け金具爪17には、斜面23bと当接する突起17bを設けている。
【0024】
差し金具20の中心軸線X2に対する係止ロック用溝23cの斜面23bの角度αは、0°<α<90°の範囲であり、45°としている。また、この斜面23bと当接する突起17bの斜面についても、係止ロック用溝23cの斜面23bの角度αと同じ角度としている。
差し金具本体21の中心軸線X2に対する係止解除用斜面17aの角度をβとした時に、β<αとしている。
受け金具爪17は受け金具10の円周方向に等間隔で3つ設けられ、受け金具10の入口に向けて係止解除用斜面17aを持ち、また、爪座14に沿って半径方向にスライドできる。爪ばね15は受け金具爪17に対して常に中心軸線X2の方向に動く力をかけている。
【0025】
ホースが加圧されると、差し金具20と受け金具10が離脱の方向に動き、係止ロック用溝23cによって形成された斜面23bと受け金具爪17に加工された突起17bによる斜面が相互にかみ合い、結合状態がロックされる。
ホースに圧力が掛からない状態において、結合された金具を解除する時、従来の通り、押し輪22の鍔状操作部22bを指で受け金具10の方向、つまり差し金具本体21の環状突部23の方向に押すと、押し輪22の係止解除用円筒部22aは受け金具爪17に加工された突起17bによる斜面に当り、受け金具爪17を押しよけながら、差し金具20の環状突部23まで進む。よって、受け金具爪17と環状突部23との引っ掛かりが解消され、結合が解除される。
また、ホースの非加圧時における結合金具の離脱対策として、押し輪22の係止解除用円筒部22aの内周面の両端には、微細な溝による押し輪側滑り止め溝22cを加工し、差し金具本体21の摺動円筒部25の外周面には、微細の溝による本体側滑り止め溝25aを加工した。
【0026】
図5に示すように、押し輪22の鍔状操作部22bが障害物に引っ掛かり、押し輪22が一方側の受力状態になると、係止解除用円筒部22aの先端の一方が浮き上がり、他方が差し金具本体21の外周にくい込むようになる。また、係止解除用円筒部22aの後部も同様な現象が起きる。そこで押し輪側滑り止め溝22cや本体側滑り止め溝25aを施すと、係止解除用円筒部22aの内周と差し金具本体21が互いに係止できるようになり、一方に加えられた障害物の力は滑り止めの効果をもたらすようになる。よって、障害物による結合金具の不用意の離脱を防ぐことができる。
【0027】
図6に、本発明の他の実施例による消防ホースの結合金具を示す。
図6は本実施例による消防ホースの結合金具に用いる差し金具の半断面図であり、押し輪を外した状態を示している。押し輪22及び受け金具10については上記実施例と同一であるので説明を省略する。また、従来例と同一機能部材には、同一符号を付して説明を一部省略する。
本実施例では、複数条の本体側滑り止め溝25aを横断するキー溝25bを形成し、キー溝25bの両端が本体側滑り止め溝25aの幅を超えるように付設している。
キー溝25bに付着した砂や粉塵を除去する場合には、ブラシや布等を溝に押し当てたまま、外周に沿って移動させることで、砂や粉塵を本体側滑り止め溝25aからキー溝25bに追い出し、容易に砂や粉塵を除去することができる。
【0028】
図7にホース圧力(放水圧力)とホースの軸方向にかかった引張力との関係を示す。この引張力は結合金具を離脱させる方向に働く。放水圧力は一般的に0.3Mpa以上であり、それに対応する呼称65mmと50mmのホースの引張力はそれぞれ720Nと1100N以上である。係止ロック用溝23cによって形成された斜面23bと受け金具爪17に加工された突起17bによる斜面が相互にかみ合うことにより、このホース加圧時の引張力を利用して金具同士の結合状態をロックすることができる。
【0029】
図8に結合金具の係止のロックと解除に関わる力関係の模式図を示す。F
1はホースの加圧による発生した引張力である。F
2はF
1の分力で発生した力で、この力は爪を中心軸X2の方向に動く、つまり係止を解除しないように働く。F
4は押し輪22から受けた力である。また、F
3はF
4の分力で、係止を解除するように働く。F
3とF
2とが等しい時に釣り合いが保たれる。αを差し金具20の中心軸線X2に対する係止ロック用溝23cの斜面23bの角度とすると、斜面23bの角度αは、0°〜90°の任意角度に加工することができる。また、差し金具本体21の中心軸線X2に対する係止解除用斜面17aの角度をβとすると、係止解除用斜面17aの角度βは一定である。ここで、係止を解除する時の爪の動きを考えると、爪がF2の力でL2の距離を半径方向に移動し、それに伴い、F1の力を克服し、環状突部23が軸方向にL1の距離を移動する。その際、仕事量として、F1×L1=F2×L2となる。また、L1/L2=tan(90−α)であるため、各力と角度との関係は以下の通りである。
F
2/F
1=tan(90−α)・・・(1)
F
4/F
3=tanβ・・・(2)
同様に、F
3=F
2’tanβ=a(constant)、よって
F
4=aF
1tan(90−α)・・・(3)
【0030】
式(3)のように、斜面23bの角度αを変えることによって、一定圧力F
1における解除力の大きさが変わる。従来の結合金具はロック用の溝がないため、αが90°である。よって、tan(90−α)=0、F
4=0である。すなわち、従来の構造では、圧力がかかった状態においても、爪ばね15の力と係止面の摩擦抵抗力を克服するための力があれば結合を解除できる。
一方、αが0°になると、tan(90−α)が無限大になり、ホースの内圧に関係なく、係止の解除に必要な力F
4は無限大になる。このように、斜面23bの角度αを適切に設定すれば、それに対応する解除力が決まる。最小放射圧における結合金具の解除力(爪ばね力と摩擦力を含む)が人の指の力より大きく設定すれば、誤操作があっても、結合金具が不用意に解除されてしまうことが避けられる。また、ホースが加圧された状態で移動する際、たとえ障害物に引っ掛かっても、金具の結合が簡単に離脱することがない。
【0031】
また、前記の対策だけでは、ホースが加圧されていない状態において、ホースの圧力を利用して結合金具をロックすることができないため、移動中に障害物による結合金具の離脱を防ぐことができない。そのため、押し輪22の係止解除用円筒部22aの内周面の両端には、微細な溝による押し輪側滑り止め溝22cを加工し、差し金具本体21の摺動円筒部25の外周面には、微細の溝による本体側滑り止め溝25aを形成している。
人が結合金具を解除する場合、両手の指で押し輪22の鍔状操作部22bを均等に押すことに対して、押し輪22の鍔状操作部22bが障害物に引っ掛かった場合では、鍔状操作部22bの一方側が力を受ける状態となる。押し輪22の係止解除用円筒部22aの内周と差し金具本体21の外周との間にわずかな隙間があるため、一方の受力状態になると、
図5のように、係止解除用円筒部22aの先端の一方が浮き上がり、他方が差し金具本体21の外周にくい込むようになる。また、係止解除用円筒部22aの後部も同様な現象が起きる。そこで本体側滑り止め溝25aを形成することで、係止解除用円筒部22aの端面が係止できるが、係止解除用円筒部22aの内周面の両端に押し輪側滑り止め溝22cを形成することで、互いの係止がより確実に行え、一方に加えられた障害物の力は滑り止めの効果をもたらすようになる。よって、障害物による結合金具の不用意の離脱を防ぐことができる。
【0032】
図9に、従来の結合金具と本実施例の結合金具に対する解除力の実測値を示す。
本発明の有用性を実証するため、45°の係止ロック用溝23cの斜面23bの角度αを有する結合金具を試作し、ホース圧を変化させて解除力を測定した。また、比較のため従来の結合金具の解除力も測定した。ここで解除力とは、差し金具20と受け金具10が結合した状態において、結合金具の係止を解除するために、押し輪22の鍔状操作部22bに加えた力の最大値を指す。ここに示された必要な解除力の測定値は爪ばね15の力と摩擦力および斜面のかみ合いによるロック力の合計値である。
図9に示すように、ホースに圧力がかかっていない状態において、従来品と本実施例の解除力が同等である。一方、ホースの加圧状態において、その圧力の増大につれ、金具の結合解除に必要な力が増える。通常の最低使用圧力の0.3MPaにおいて、本実施例の解除力は従来品の約6倍である。
【0033】
図10に、人による結合金具の係止を解除する際の最大指力の測定値を示す。
差し金具20と受け金具10の構造が異なるため、それを解除する時の操作者と結合金具の相対位置、つまり、差し金具20側に立つか、または受け金具10側に立つかによって、指の持ちやすさが変わり、それに伴って力の出し方も変わる。測定は同じ被験者に対して、二つの位置において測定を行った。また、測定対象として、一般人と消防士を分けて、それぞれのグループに対する測定を行った。その結果によると、結合金具を解除するための一般人の指力の最小値、最大値および平均値は、それぞれ140Nと550Nおよび308Nである。また、消防隊員の指力の最小値、最大値および平均値は、それぞれ149Nと680Nおよび398Nである。
その結果より、従来の結合金具を使用する場合、人によっては0.7MPaのホース圧力においても結合金具の結合を解除することが可能である。それに対し、本発明の結合金具を使用する場合、人の指力で結合金具を解除できる限界圧力は約0.11MPaである。消火活動時の通常の最低使用圧力は0.3MPaであるため、本実施例を利用すれば誤操作により結合金具の離脱を防止することができる。
【0034】
図11は従来品と本実施例の結合金具の押し輪が段差の引っ掛かりにより、金具の結合が解除されるかどうかを調べた結果である。また、ホースの加圧されない状態において、押し輪22が段差に引っ掛かった時の状態も調べた。実験は新品の結合金具を使用してそれぞれ10回を実施した。同様な引っ張る力において、従来品が100%の確率で結合が解除されたことに対して、本実施例の解除確率は0%であった。本実施例では段差などの障害物に引っ掛かった際、不用意の離脱を防げることがわかる。
従って、本発明の有用性が実証される。