特許第5864246号(P5864246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864246
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】複合多チャンネル圧電振動子
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20160204BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20160204BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   A61B8/00
   H04R17/00 330H
   H04R17/00 332A
   H04R31/00 330
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-278781(P2011-278781)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-128581(P2013-128581A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】大矢 茂正
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 崇
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】宮下 俊彦
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−273086(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011089(WO,A1)
【文献】 特開平07−123497(JP,A)
【文献】 特開昭59−152800(JP,A)
【文献】 特開2006−166443(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0133198(US,A1)
【文献】 特開2010−219774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
H04R 17/00
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成した正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板;該多チャンネル圧電振動板の下側に付設した吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、吸音材層に埋設したリード線;多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した音響整合層、を含む多チャンネル圧電振動子が複数個、平面方向かつ二次元方向に整列してなり、かつ隣接する多チャンネル圧電振動子を、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続させることにより形成した複合多チャンネル圧電振動子。
【請求項2】
多チャンネル圧電振動子の各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層の接着剤が導電性接着剤である請求項1に記載の複合多チャンネル圧電振動子。
【請求項3】
圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成した正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板;該多チャンネル圧電振動板の下側に付設した吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、吸音材層に埋設したリード線;多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した音響整合層、を含む複合多チャンネル圧電振動子製造用の多チャンネル圧電振動子。
【請求項4】
上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層の接着剤が導電性接着剤である請求項3に記載の複合多チャンネル圧電振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化した複合多チャンネル圧電振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、電気エネルギーを圧電振動子によって超音波に変換して、その超音波を被検体に伝搬させ、被検体の内部で反射した超音波を圧電振動子によって電気エネルギーに戻して処理することによって被検体の内部情報を得て、これを画像化する装置である。最近では、圧電振動子に、複数個の圧電振動子単位を二次元方向に配列した二次元アレイ型の多チャンネル圧電振動子を用いて、被検体の内部情報を立体的(三次元的)に得て、これを立体画像とする超音波診断装置も開発され、実用化されている。
【0003】
多チャンネル圧電振動子は、一般に、上下表面に電極層を備える複数個の圧電振動子単位を二次元方向に配列した、圧電振動子単位の複合体である多チャンネル圧電振動板、被検体への超音波の伝搬効率を向上させるために、多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上方に付設されている音響整合層、下側電極層から放射される超音波を吸収してノイズを低減させるために、多チャンネル圧電振動板の下側に付設されている吸音材層、そして多チャンネル圧電振動板の電極層を外部に引き出すための電気配線を含む。多チャンネル圧電振動板は、通常、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板を用意し、この圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割して圧電振動子単位を形成することによって製造される。
【0004】
超音波診断装置に用いる二次元アレイ型の多チャンネル圧電振動子では、広範囲の診断画像を、高解像度で得るために更なる多チャンネル化が望まれている。しかしながら、多チャンネル圧電振動子のチャンネル数を増やすと、すなわち多チャンネル圧電振動子のサイズが大きくなると、多チャンネル圧電振動子を構成する多チャンネル圧電振動板、音響整合層及び吸音材層の熱収縮性の違いから大きな反りや歪みが発生し易くなる。多チャンネル圧電振動子に大きな反りや歪みが発生すると、超音波の伝搬方向が不安定になり、多チャンネル圧電振動板の電極層に電気配線を接続するのが難しくなるなどの問題が生じる。
【0005】
特許文献1には、圧電振動子単位の電極層に接続されたリード線と接続基板の端子とを確実に接続する方法として、多チャンネル圧電振動子(圧電体ブロック)を複数個用意し、その複数個の多チャンネル圧電振動子を接続基板の一面に対し、間隙を挟んで配列して、当該基板上で圧電体ブロック群を構成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−273086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている複数個の多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化する方法は、多チャンネル圧電振動子の更なる多チャンネル化のための方法として有効であると考えられる。しかしながら、特許文献1には、多チャンネル圧電振動板の下側電極層(すなわち、圧電振動子単位の下側電極層)を外部に接続する方法については、下側電極層を吸音材層に埋設された電極リードを介して接続基板と接続する方法が記載されているが、上側電極層を外部に接続する方法については記載がない。
従って、本発明の目的は、複数個の多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化した複合多チャンネル圧電振動子において、簡単な構成で各圧電振動子単位の上側電極層を外部に引き出せるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成した正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板;該多チャンネル圧電振動板の下側に付設した吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、吸音材層に埋設したリード線;多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した音響整合層、を含む多チャンネル圧電振動子が複数個、平面方向かつ二次元方向に整列してなり、かつ隣接する多チャンネル圧電振動子を、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続させることにより形成した複合多チャンネル圧電振動子にある。
【0009】
本発明はまた、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成した正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板;該多チャンネル圧電振動板の下側に付設した吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、吸音材層に埋設したリード線;多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した音響整合層、を含む複合多チャンネル圧電振動子製造用の多チャンネル圧電振動子にもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合多チャンネル圧電振動子は、圧電振動子単位の上側電極層が吸音材層の側面まで引き出されているので外部電源との接続が容易である。また、本発明の複合多チャンネル圧電振動子は、予め作成した多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化することによって製造できるので製造が容易である。さらに本発明の複合多チャンネル圧電振動子は、反りや歪みが小さいので超音波の伝搬方向が安定する。従って、本発明の複合多チャンネル圧電振動子は、超音波診断装置用として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に従う複合多チャンネル圧電振動子の一例の斜視図である。
図2図1のI−I線断面である。
図3】(a)は図1の複合多チャンネル圧電振動子を構成する多チャンネル圧電振動子の断面図、(b)はその要部拡大図である。
図4】(a)は本発明の多チャンネル圧電振動子の製造に用いる圧電振動板の一例を示す平面図、(b)はその断面図である。
図5】(a)は図4の圧電振動板に上側電極引出箔を付設した状態を示す平面図、(b)はその断面図である。
図6】(a)は図5の圧電振動板の下側電極層と圧電材料板とを平面方向かつ二次元方向に分割した状態を示す底面図、(b)はその断面図である。
図7図6の圧電振動板の下側電極層にリード線を付設した状態を示す断面図である。
図8図7の圧電振動板の下側電極層の下側に吸音材層を付設した状態を示す断面図である。
図9】本発明に従う複合多チャンネル圧電振動子の別の一例の断面図である。
図10】本発明に従う複合多チャンネル圧電振動子の別の一例の断面図である。
図11】本発明に従う複合多チャンネル圧電振動子のさらに別の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合多チャンネル圧電振動子は、複数個の多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化したものである。多チャンネル圧電振動子は、二次元アレイ型の圧電振動子であり、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層もしくは圧電振動板の全体を平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成した正方形もしくは長方形の多チャンネル圧電振動板を含む。多チャンネル圧電振動板の上側電極層(すなわち、圧電振動子単位の上側電極層)は、上側電極引出箔によって電気的に接続して一つの共通電極を形成している。上側電極引出箔は、多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びた延長部を有しており、その延長部を隣接する多チャンネル圧電振動子の上側電極引出箔の延長部と接着剤層を介して電気的に接続させることによって、複合多チャンネル圧電振動子を構成する全ての多チャンネル圧電振動子の上側電極が一つの共通電極として外部に引き出されている。一方の多チャンネル圧電振動板の下側電極層(すなわち、圧電振動子単位の下側電極層)は吸音材層に埋設したリード線によって、各圧電振動子単位毎に独立して外部に引き出されている。
【0013】
次に、本発明の複合多チャンネル圧電振動子の構成を添付図面の図1〜3を用いて説明する。図1は、本発明の複合多チャンネル圧電振動子の一例の斜視図である。図2は、図1のI−I線断面である。図3は、図1の複合多チャンネル圧電振動子を構成する多チャンネル圧電振動子の断面図である。
【0014】
図1において、複合多チャンネル圧電振動子は、X方向とY方向の二次元方向にそれぞれ三個ずつ整列させた九個の多チャンネル圧電振動子1から形成されている。多チャンネル圧電振動子1は、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを形成してなる圧電振動板5の圧電材料板2と下側電極層4を、樹脂6が充填された溝7で平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位8の複合体として形成した多チャンネル圧電振動板9を含む。多チャンネル圧電振動板9の下側には吸音材層10が付設されている。吸音材層10には、リード線11が、一方の端部が各圧電振動子単位8の下側電極層4に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように埋設されている。一方、多チャンネル圧電振動板9の上側電極層3の上側表面には、上側電極引出箔12が付設されている。上側電極引出箔12は、多チャンネル圧電振動板9の各辺から外に延びて吸音材層10の側面の少なくとも一部を覆う延長部12aが形成されており、その延長部12aの表面には接着剤層13が付設されている。上側電極引出箔12の上にはさらに音響整合層14が付設されている。隣接する多チャンネル圧電振動子1は、各々の上側電極引出箔12の延長部12aの表面に付設されている接着剤層13を介して電気的に接続されている。
【0015】
多チャンネル圧電振動子1の吸音材層10は、図3の(b)に示すように、多チャンネル圧電振動板9の各辺からわずかに突出した突出部10aが形成されていることが好ましい。吸音材層10の突出部10aの厚み(T1)、上側電極引出箔12の延長部12aの厚み(T2)そして接着剤層13の厚み(T3)は、その合計の厚み(T1+T2+T3)が、多チャンネル圧電振動板9の溝7の幅(T)の1/2の長さであることが好ましい。こうすることによって、隣接する多チャンネル圧電振動子1の圧電振動子単位8の間隔を、多チャンネル圧電振動板9の溝7の幅と同じにすることができるからである。
【0016】
圧電振動板5の材料には、圧電セラミック及び圧電単結晶を用いることができる。圧電セラミックの例としては、ジルコン・チタン酸鉛(PZT)を挙げることができる。圧電単結晶の例としては、マグネシウムニオブ酸塩とチタン酸鉛との固溶体、亜鉛ニオブ酸とチタン酸鉛との固溶体、スカンジウムニオブ酸鉛とチタン酸鉛との固溶体を挙げることができる。
【0017】
上側電極層3及び下側電極層4の材料の例としては、銀、金、銅などの金属を挙げることができる。溝7に充填されている樹脂6の例としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。リード線11の材料の例としては、銅線、金線及びアルミニウム線などの金属線を挙げることができる。上側電極引出箔12の材料の例としては、銅箔及び金箔のなどの金属箔を挙げることができる。吸音材層10の材料としては、フィラーを充填したエポキシ樹脂及びゴムを挙げることができる。
【0018】
接着剤層13の接着剤は導電性接着剤であることが好ましい。但し、通常は非導電性接着剤として利用されるエポキシ系接着剤であっても接着剤の厚さを薄くすることによって、導電性接着剤として作用することがあり、本発明でも接着剤層13の接着剤としてエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0019】
音響整合層14の表面には、多チャンネル圧電振動板9の溝7の対応する位置に溝を設けてよい。また、音響整合層14の表面に設けた溝にも樹脂を充填してもよい。音響整合層14の材料の例としてはエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0020】
次に、図3に示す多チャンネル圧電振動子の製造方法の一例を、添付図面の図4〜8を参照しながら説明する。
【0021】
図4は、本発明の多チャンネル圧電振動子の製造に用いる圧電振動板の一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。多チャンネル圧電振動子の製造に際しては、先ず、図4に示すように、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを形成してなる圧電振動板5を用意する。圧電振動板5は、例えば、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを成形して、上側電極層3と下側電極層4との間に電界を印加して、圧電材料板2を分極することによって製造することができる。圧電振動板5は、正方形もしくは長方形の四角形とする。
【0022】
次に、図5に示すように、圧電振動板5の上側電極層3の上に上側電極引出箔12を付設する。図5の(a)は、圧電振動板5に上側電極引出箔12を付設した状態を示す平面図、(b)はその断面図である。上側電極引出箔12は、圧電振動板5の各辺から外に延びる延長部12aが形成されている。上側電極引出箔12と圧電振動板5の上側電極層3とは、導電性接着剤などの接着剤で接着してもよいし、溶接してもよい。
【0023】
次に、上側電極引出箔12の上側表面に音響整合層14を付設する。そして、図6に示すように、圧電振動板5の下側電極層4と圧電材料板2とに平面方向かつ二次元方向に延びる溝7を形成し、その溝7に樹脂6を充填することによって、圧電振動板5の下側電極層4と圧電材料板2とを分割する。図6の(a)は圧電振動板5の下側電極層4と圧電材料板2とを平面方向かつ二次元方向に分割した状態を示す底面図、(b)はその断面図である。この溝7によって分割されることによって、圧電振動板5は複数個の圧電振動子単位8の複合体である多チャンネル圧電振動板9に成形される。溝7の深さは、圧電振動板5全体の厚さの80%以上とすることが好ましく、80〜95%の範囲とすることが特に好ましい。
【0024】
次に、図7に示すように、多チャンネル圧電振動板9の各圧電振動子単位8の下側電極層4にリード線11を付設する。図7は、下側電極層4にリード線11を付設した状態を示す断面図である。下側電極層4にリード線11を付設する方法としては、半田付けやワイヤーボンディングなどの方法を用いることができる。
【0025】
次に、図8に示すように、多チャンネル圧電振動板9の下側電極層4の下側に吸音材層10を付設する。図8は、下側電極層4の下側に吸音材層10を付設した状態を示す断面図である。吸音材層10を付設する方法としては、未硬化の吸音性樹脂材料を下側電極層4の下に流し込んだ後、硬化させる方法を用いることができる。また、圧電振動子単位の間隔でリード線を埋設した吸音材料板を用意して、これを下側電極層4に貼り付けて、吸音材層10とリード線11とを同時に付設してもよい。
【0026】
そして、最後に多チャンネル圧電振動板9の各辺から外に延びている、上側電極引出箔12の延長部12aが吸音材層10の側面の少なくとも一部を覆うように、延長部12aを吸音材層10側に折り曲げた後、その延長部12aの表面に接着剤層13を付設する。
【0027】
次に、本発明の複合多チャンネル圧電振動子の別の構成例を、添付図面の図9〜11を参照しながら説明する。
【0028】
図9は、各多チャンネル圧電振動子1の多チャンネル圧電振動板9が、樹脂6を充填した切り込み15によって分割された圧電振動子単位8の複合体として形成されている複合多チャンネル圧電振動子の一例の断面図である。このような多チャンネル圧電振動板9は、例えば、圧電振動板5の上側電極層3に平面方向かつ二次元方向に溝を形成しておいて、上側電極層3の表面に上側電極引出箔12を付設した後、圧電振動板5の下側電極層4側から上側電極層3に形成した溝に向かって切り込み15を形成し、その切り込みに樹脂6を充填することによって製造することができる。
【0029】
図10は、多チャンネル圧電振動板9の厚さが異なる多チャンネル圧電振動子、すなわち、送受信可能な超音波の周波数が異なる多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化した複合多チャンネル圧電振動子の一例の断面図である。図10において、三個の多チャンネル圧電振動子のうちの中央に配置されている多チャンネル圧電振動子1aは両端に配置されている多チャンネル圧電振動子1bと比較して、多チャンネル圧電振動板9の厚さを薄くしてある。すなわち、中央の多チャンネル圧電振動子1aは両端の多チャンネル圧電振動子1bと比較して、送受信可能な超音波の周波数が高い。この複合多チャンネル圧電振動子は、中央の多チャンネル圧電振動子1aにて高周波の超音波を送受信して患者の内部観察を行ない、両端の多チャンネル圧電振動子1bにて低周波で高エネルギーの超音波を患者の患部に送信して、患部の治療を行なう超音波治療用圧電振動子として利用することができる。送受信可能な超音波の周波数が異なる多チャンネル圧電振動子を組み合わせる場合は、配列方向の中心に対して、送受信可能な超音波の周波数が対称となるように多チャンネル圧電振動子を配列することが好ましい。例えば、四個の多チャンネル圧電振動子を配列する場合には、中央の二個の多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の二個の多チャンネル圧電振動子を低周波用とする。また。五個の多チャンネル圧電振動子を配列する場合には、中央の三個の多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の二個の多チャンネル圧電振動子を低周波用としてもよいし、中央の一個の多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の四個の多チャンネル圧電振動子を低周波用としてもよい。
【0030】
図11は、多チャンネル圧電振動子を湾曲状に配列した複合多チャンネル圧電振動子の一例の断面図である。図11において、三個の多チャンネル圧電振動子は、中央の多チャンネル圧電振動子1cの接着剤層13と両端の多チャンネル圧電振動子1dの接着剤層13との間に断面が三角形の導電体16を介在させることによって、多チャンネル圧電振動子を湾曲状に配列している。導電体16の材料の例としては、銅及びアルミニウムなどの金属を挙げることができる。本発明の複合多チャンネル圧電振動子では多チャンネル圧電振動子が二次元方向に配列されているが、湾曲状に配列する方向は、一次元の方向のみに湾曲状に配列してもよいし、二次元の方向に湾曲状に配列してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1、1a、1b、1c、1d 多チャンネル圧電振動子
2 圧電材料板
3 上側電極層
4 下側電極層
5 圧電振動板
6 樹脂
7 溝
8 圧電振動子単位
9 多チャンネル圧電振動板
10 吸音材層
10a 吸音材層の突出部
11 リード線
12 上側電極引出箔
12a 上側電極引出箔の延長部
13 接着剤層
14 音響整合層
15 切り込み
16 導電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11