特許第5864443号(P5864443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864443
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/68 20060101AFI20160204BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20160204BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20160204BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160204BHJP
   B01D 53/88 20060101ALI20160204BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160204BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20160204BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20160204BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   B01J23/68 AZAB
   B01J23/34 A
   B01J23/889 A
   B01D53/86 100
   B01D53/86 245
   B01D53/86 280
   B01D53/88
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
   F01N3/023 A
   F01N3/035 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-551832(P2012-551832)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2011079874
(87)【国際公開番号】WO2012093599
(87)【国際公開日】20120712
【審査請求日】2013年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-625(P2011-625)
(32)【優先日】2011年1月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】石崎 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大矢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】光田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓充
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 晶子
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−530837(JP,A)
【文献】 特開2007−216099(JP,A)
【文献】 特開2011−016684(JP,A)
【文献】 MOTOHASHI, T. et al,Remarkable Oxygen Intake/Release Capability of BaYMn2O5+δ: Applications to Oxygen Storage Technolog,Chem. Mater.,2010年 4月21日,Vol.22, No.10,p.3192-3196,DOI:10.1021/cm100290b
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/96
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物Y1−XMn(式中、AはCa、Lu又はBiであり、0.5≧X≧0である)と、該複酸化物Y1−XMnに担持されているAg、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子からなる金属とを有し、担持された金属の量が金属+担体の合計質量基準で5〜10質量%であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
複酸化物Y1−XMnがYMnである請求項1記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記複酸化物Y1−XMnに担持されている原子がAgである請求項記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
触媒支持体がハニカム形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
触媒支持体がDPFであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために使用される排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中には、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等の有害成分が含まれている。それで、従来から、これら有害成分を浄化して無害化する三元触媒が用いられている。
【0003】
このような三元触媒として、Pt、Pd、Rh等の貴金属とアルミナ、セリア、ジルコニア又はこれらの複酸化物とを任意に組み合わせて、セラミックス又は金属等のハニカム担体上に担持させたものがある。更に、酸素吸蔵性助触媒を併用したものも提案されている。
【0004】
また、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスはパティキュレート(粒子状物質)を含んでおり、これらの物質がそのまま大気中に放出されると大気汚染の原因になる。パティキュレートを取り除くための有効な手段として、ススを捕集するためのディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)を用いたディーゼル排ガストラップシステムがある。しかし、このDPFでは捕集したパティキュレートを連続的に酸化除去してDPFを再生する必要がある。
【0005】
これまでに提案された連続再生システムとしては、担体、例えば、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化セリウム等の無機酸化物からなる担体にPtなどの高価な貴金属を担持させた触媒(例えば、特許文献1、2及び3参照)を用いるシステムがある。更に、酸素吸蔵性能を有する材料を助触媒として添加することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−047035号公報
【特許文献2】特開2003−334443号公報
【特許文献3】特開2004−058013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために使用される酸素吸蔵性に優れた排気ガス浄化用触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために種々の物質を用いて種々の実験を行った結果、化学式Y1−XMn2−Zで表わされる複酸化物が酸素吸蔵性に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の排気ガス浄化用触媒は、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物Y1−XMn2−Z(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧X≧0であり、1≧Z≧0である)と、該複酸化物Y1−XMn2−Zに担持されているAg、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、(1)セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、(2)該触媒支持体上に担持されている複酸化物の合計質量を基準にして50質量%以上の複酸化物YMnと、該触媒支持体上に担持されている複酸化物の合計質量を基準にして50質量%未満の複酸化物YMnO及び複酸化物YMnの少なくとも1種とからなる混合複酸化物と、(3)該混合複酸化物に担持されているAg、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子とを有することを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の排気ガス浄化用触媒は、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物Y1−XMn2−Z(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧X≧0であり、1≧Z≧0である)とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、(1)セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、(2)該触媒支持体上に担持されている複酸化物の合計質量を基準にして50質量%以上の複酸化物YMnと、該触媒支持体上に担持されている複酸化物の合計質量を基準にして50質量%未満の複酸化物YMnO及び複酸化物YMnの少なくとも1種とからなる混合複酸化物とを有することを特徴とする。
【0013】
更にまた、本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記の本発明の酸素吸蔵性に優れた排気ガス浄化用触媒において、触媒支持体がハニカム形状であるか、又はDPFであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排気ガス浄化用触媒は酸素吸蔵性(酸素貯蔵・放出性)に優れているので、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1、実施例2及び比較例1で得られた各々のパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒のCO浄化性能を示すグラフである。
図2】実施例1、実施例2及び比較例1で得られた各々のパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒のHC浄化性能を示すグラフである。
図3】実施例3、実施例4及び実施例5で得られた各々のハニカム形状の排ガス浄化用触媒のCO浄化性能を示すグラフである。
図4】実施例3、実施例4及び実施例5で得られた各々のハニカム形状の排ガス浄化用触媒のHC浄化性能を示すグラフである。
図5】代表的なY1−XMn2−ZのXRDを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の排気ガス浄化用触媒について説明する。
【0017】
本発明の排気ガス浄化用触媒で用いる複酸化物Y1−XMn2−Z(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧X≧0であり、1≧Z≧0である)の基本型は化学式YMnで表わされる複酸化物であり、この複酸化物YMnは例えば下記の方法で製造することができる。
【0018】
製造方法の一例を以下に示す。
【0019】
原料としてY及びMnOをY/Mnの原子比が1/2となるように秤取し、例えば、ボールミルを用いて3時間以上粉砕・混合する。その後、大気雰囲気下、800〜1100℃、好ましくは850〜950℃で1〜24時間、好ましくは4〜10時間焼成することにより複酸化物YMnが得られる。
【0020】
上記のYMnの製造においては、複酸化物YMn、複酸化物YMnO及び複酸化物YMnからなる混合物が生じることもある。これらの混合物も、複酸化物YMn50質量%以上と、複酸化物YMnO及び複酸化物YMnの少なくとも1種50質量%未満とからなる混合物であれば複酸化物YMnの良好な排ガス浄化性能を十分に発揮することができる。YMnの混合比率は80質量%以上であることがより好ましい。無論、製造で生じた混合物であっても、それらの3種の複酸化物を混合して得た混合物であっても同様である。
【0021】
製造方法の他の例としては、YとMnとを含む溶液に沈殿剤を添加して、YとMnとがおよそ1/2の原子比で含有される前駆体の沈殿物を得て、これを乾燥、焼成することにより、前駆体を結晶化させて複酸化物YMnを得る方法を挙げることができる。
【0022】
上記それぞれの製造方法で用いたY化合物を、La化合物、Sr化合物、Ce化合物、Ba化合物、Ca化合物、Sc化合物、Ho化合物、Er化合物、Tm化合物、Yb化合物、Lu化合物及びBi化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Y化合物のY原子の半量以下の原子の量となるように置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物Y1−XMn(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、0.5≧X>0である)を製造することができる。
【0023】
上記それぞれの製造方法で用いたMn化合物を、Co化合物、Fe化合物、Ni化合物、Cr化合物、Mg化合物、Ti化合物、Nb化合物、Ta化合物、Ru化合物及びCu化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Mn化合物のMn原子の半量以下の原子の量となるように置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物YMn2−Z(式中、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Ru又はCuであり、1≧Z>0である)を製造することができる。
【0024】
更に、上記の製造方法で用いたY化合物を、La化合物、Sr化合物、Ce化合物、Ba化合物、Ca化合物、Sc化合物、Ho化合物、Er化合物、Tm化合物、Yb化合物、Lu化合物及びBi化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Y化合物のY原子の半量以下の原子の量となるように置き換え、Mn化合物を、Co化合物、Fe化合物、Ni化合物、Cr化合物、Mg化合物、Ti化合物、Nb化合物、Ta化合物、Ru化合物及びCu化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Mn化合物のMn原子の半量以下の原子の量となるように置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物Y1−XMn2−Z(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、0.5≧X>0であり、1≧Z>0である)を製造することができる。
【0025】
ここで、AサイトのYを置き換える原子として列挙したLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiは、Yを置き換え得るイオン半径を有したものであるが、この中でも特に、Yのイオン半径に対して±10%以内のイオン半径を有する、La、Ce、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiが安定的に置換できることから好ましい。
【0026】
また、BサイトのMnを置き換える原子として列挙したCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuは、Mnを置き換え得るイオン半径を有しているものであるが、この中でも特に、Mnのイオン半径に対して±10%以内のイオン半径を有する、Co、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti又はCuが安定的に置換できることから好ましい。
【0027】
一般式Y1−XMn2−Z(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Ru又はCuであり、0.5≧X≧0であり、1≧Z≧0である)で示される複酸化物は上記の全ての複酸化物を包含する。
【0028】
ここで、一般式Y1−XMn2−Zは、XRDパターンから、空間群Pbamに含まれる、マンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造、ICSD(Inorganic crystal structure database)参照)をとる結晶であると同定された。そして、一般式Y1−XMn2−Zは化学量論比で示されるものであるが、組成比が化学量論比から多少ずれて、一部の元素が過剰になったり欠損したりしたものであっても、マンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造)をとる結晶であれば、本発明の効果を奏するものであり、本発明の排気ガス浄化用触媒に包含されるものである。
【0029】
すなわち、マンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造)をとる複酸化物であって、AサイトにYを50%以上含み、BサイトにMnを50%以上含むものであれば、本発明の排気ガス浄化用触媒に包含され、同様な効果を奏するものである。
【0030】
図5に代表的なY1−XMn2−Z(下記実施例6に相当)のXRDを示す。波線を付与したピークがマンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造)、すなわち、この場合にはYMnに起因するピークである。
【0031】
上記の全ての複酸化物は酸素吸蔵性(酸素貯蔵・放出性)に優れている。さらに、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子を担持することにより、酸素吸蔵性がより向上する。また、担持された金属の量が金属+担体の合計質量基準で1〜10質量%とすることにより、排気ガス浄化性能が向上する。
【0032】
本発明の排気ガス浄化用触媒においては、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム形状、板、ペレット、DPF等の形状であり、好ましくはハニカム形状又はDPFである。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al−2SiO)、コージェライト(2MgO−2Al−5SiO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0033】
これらの触媒支持体の表面に上記の複酸化物Y1−XMn2−Zを含む層を設ける。Y1−XMn2−Zを含む層は貴金属が存在していない状態でも酸素吸蔵性に優れているので、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物Y1−XMn2−Zとを有する構成のものも酸素吸蔵性に優れた排気ガス浄化用触媒となる。
【0034】
また、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子を担持したY1−XMn2−Zを含む層を上記の触媒支持体の表面に設けることもできる。即ち、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物Y1−XMn2−Zと、該Y1−XMn2−Zに担持されているAg、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の原子とを有する構成の酸素吸蔵性に優れた排気ガス浄化用触媒とすることもできる。この貴金属等を担持した排気ガス浄化用触媒は酸素吸蔵性の点では貴金属等を担持していない上記の排気ガス浄化用触媒とあまり変わらないが、排気ガス浄化用触媒として用いた場合には燃焼開始温度及びピークトップ温度が改善される。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0036】
実施例1
硝酸銀0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とし、この水溶液にYMnからなる担体粉末1.5gを投入し、30分間攪拌した。得られたスラリーを直径25.4mm×長さ76.2mmのコージェライト製パティキュレートフィルター上にコートさせた。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中600℃で1時間焼成した。得られたパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5質量%であった。
【0037】
実施例2
水30gにYMnからなる粉末1.5gを投入し、30分間攪拌した。得られたスラリーを用いて直径25.4mm×長さ76.2mmのコージェライト製パティキュレートフィルター上にYMnをコートさせた。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中600℃で1時間焼成してパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒を得た。
【0038】
実施例3
硝酸マンガン(II)六水和物を5倍質量の水に溶解させた溶液にYMnを分散させ、撹拌しながら200℃で加熱、乾燥させた。その後、大気中、600℃で2時間焼成し、Mn担持YMn粉末を得た。この場合にMnの担持量が金属Mn+担体の合計質量基準で5.57質量%となるようにした。このMn担持YMn粉末6.08gに水30gを加え、30分間撹拌してスラリーとした。得られたスラリーを直径25.4mm×長さ60mmのコージェライト製ハニカムにコートした。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中、500℃で1時間焼成した。コージェライト製ハニカムに担持されたMn担持YMnの量は、ハニカム容積1Lあたり200gであった。
【0039】
実施例4
YMn粉末6.08gに水30gを加え、30分間撹拌してスラリーとした。得られたスラリーを直径25.4mm×長さ60mmのコージェライト製ハニカムにコートした。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中、500℃で1時間焼成した。コージェライト製ハニカムに担持されたYMnの量は、ハニカム容積1Lあたり200gであった。
【0040】
実施例5
硝酸銀を水30gに溶解させた溶液にYMnを分散させ、撹拌しながら200℃で加熱、乾燥させた。その後、大気中、600℃で2時間焼成し、Ag担持YMn粉末を得た。この場合にAgの担持量が金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%となるようにした。このAg担持YMn粉末6.08gに水30gを加え、30分間撹拌してスラリーとした。得られたスラリーを直径25.4mm×長さ60mmのコージェライト製ハニカムにコートした。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中、500℃で1時間焼成した。コージェライト製ハニカムに担持されたAg担持YMnの量は、ハニカム容積1Lあたり200gであった。
【0041】
比較例1
実施例2に記載の製造方法においてYMnの代わりにCeO(30質量%)−ZrO(70質量%)を用いた以外は実施例2と同様に処理してパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒を得た。
【0042】
比較例2
実施例2に記載の方法においてYMnの代わりにAlを用いた以外は実施例2と同様に処理してパティキュレートフィルター形状の排ガス浄化用触媒を得た。
【0043】
<酸素吸蔵性の評価>
実施例1〜2及び比較例1〜2において得られた各々の試料粉末25mgを反応器に充填し、600℃にて酸素雰囲気下で10分間処理して清浄表面とした。その後、50%O/Heガス及びHガスを用いて200〜600℃の温度範囲で酸素吸蔵能(OSC)を測定した。OSCは、試料粉末1g当たりのO吸蔵量(μmol/g)として評価した。試料粉末1g当たりのO吸蔵量(μmol/g)と温度との相関関係は第1表に示す通りであった。
【0044】
【表1】
【0045】
第1表に示すデータから明らかなように、本発明の実施例1〜2に係る試料粉末は、比較例1〜2に係る試料粉末と比較して酸素吸蔵性に優れたものであった。
【0046】
<昇温反応法(TPR)による評価>
実施例1〜2及び比較例1〜2において得られた各々の試料粉末200mgとカーボン20mg(デグサ社製、Printex−V、トナーカーボン)とをメノウ乳鉢で10分間混合し、この混合物から20mgを分取し、石英反応管の中央部に石英ウールを使って固定した。下記組成の流通ガスを下記の流量で流しながら電気炉によってその石英反応管の温度を下記の昇温速度で昇温させながら出口側でのCO及びCOの濃度を赤外線分析計で測定した。このCOの濃度とCOの濃度との和が30ppmになった時の触媒入り口側の温度(電気炉制御温度)をTig(燃焼開始温度)とした。
ガス組成:O:10%、N:残余
流量:400cc/min
昇温速度:10℃/min
【0047】
実施例1〜2及び比較例1〜2に係る試料粉末のTPRの評価結果は第2表に示す通りであった。
【0048】
【表2】
【0049】
第2表に示すデータから明らかなように、Agを担持している本発明の実施例1に係る試料粉末は、Agを担持していない本発明の実施例2に係る試料粉末と比較してTPRの評価において優れたものであった。
【0050】
<排ガス浄化性能試験>
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5及び比較例1で得られた各々の排ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った。その後、それらの排ガス浄化用触媒を別々にモデルガス測定装置(堀場製作所製MEXA−7500D)に装填し、下記の第3表に示す組成の排気モデルガスを空間速度29000/hで流通させながら、600℃から17℃/分の降温速度で降温させ、CO、HC浄化率を連続的に測定した。COの浄化率は図1及び図3に示す通りであり、HCの浄化率は図2及び図4に示す通りであった。
【0051】
【表3】
【0052】
図1及び図2に示すグラフから明らかなように、CeO−ZrOを用いた場合よりもYMnを用いた場合に浄化性能が優れており、YMnを用いた場合よりもAg/YMnを用いた場合に浄化性能が優れている。また、図3及び図4に示すグラフから明らかなように、YMnを用いた場合よりもAgやMnをYMnに担持させることによって浄化性能を高めることができる。
【0053】
実施例6〜10
及びLuを下記第4表の割合で溶解した硝酸溶液と、下記第4表の硝酸マンガン溶液とを混合し、500mLとした溶液に、2.5%NH水溶液359.2mLと、30%過酸化水素水17mLとを加え、沈殿を生成した。続いて、沈殿物をろ過し、洗浄した後、120℃で一晩乾燥させた。その後、大気中、600℃で5時間焼成し、さらに、800℃で5時間焼成し、LuドープYMn粉末(実施例6についてはLu未ドープ)を得た。
【0054】
硝酸銀0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とし、この水溶液に、各LuドープYMn粉末を1.5gを投入し、加熱して水分を揮発させた。得られた粉末を、120℃で2時間乾燥した後、空気中600℃で1時間焼成し、実施例6〜10の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0055】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験1>
実施例6〜10の排ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った。その後、実施例6〜10で得られた各々の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。
【0056】
まず、固定床流通型反応装置を用い、反応管に触媒粉を0.1gセットし、上記第3表の組成から成る模擬排気ガスを1L/minで流通させ、500℃まで昇温後10分間保持し、前処理を行った。その後、一旦冷却後、100℃〜500℃まで10℃/minで昇温し、100〜500℃における出口ガス成分をCO/HC/NO分析計を用いて測定した。得られたライトオフ性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。その結果は第4表に示す通りであった。
【0057】
第4表には、耐久処理後の比表面積(BET法で測定)をあわせて示す。
【0058】
この結果、実施例7〜10に係るYの一部をLuで置換した排ガス浄化用触媒については、Luドープ量が多くなるほどT50が低下していき、ドープ量が0.2(Y:Lu=8:2)の実施例9で最も良好な結果を示すことがわかった。
【0059】
【表4】
【0060】
実施例11〜16
を下記第5表の割合で溶解した硝酸溶液と、第5表に示した濃度の水酸化カルシウム硝酸溶液と、下記第5表の硝酸マンガン溶液とを混合し、500mLとした溶液に、2.5%NH水溶液350.4mLと、30%過酸化水素水17mLとを加え、沈殿を生成した。続いて、沈殿物をろ過し、洗浄した後、120℃で一晩乾燥させた。その後、大気中、600℃で5時間焼成し、さらに、800℃で5時間焼成し、CaドープYMn粉末(実施例11はCa未ドープ)を得た。
【0061】
硝酸銀0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とし、この水溶液に、各YMn粉末を1.5gを投入し、加熱して水分を揮発させた。得られた粉末を、120℃で3時間乾燥した後、空気中600℃で1時間焼成し、実施例11〜16の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0062】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験2>
実施例11〜16の排ガス浄化用触媒について、固定床模擬ガス浄化性能評価試験1と同様に試験し各々の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。得られたライトオフ性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。その結果は第5表に示す通りであった。
【0063】
第5表には、耐久処理後の比表面積(BET法で測定)をあわせて示す。
【0064】
この結果、実施例11〜16に係るYの一部をCaで置換した排ガス浄化用触媒についてもCaドープ量が多くなるほどT50が低下していき、ドープ量が0.1(Y:Ca=9:1)の実施例15で最も良好な結果を示すことがわかった。
【0065】
【表5】
【0066】
実施例17〜20
Y(1−x)BixMnのx=0、0.1、0.2及び0.3となるように、所定量の硝酸イットリウム、硝酸ビスマス及び硝酸マンガンをそれぞれ秤量後、16モル倍のイオン交換水に投入し、溶解した。各溶液に、6モル倍のクエン酸を入れ、攪拌し、温度を80℃まで昇温してクエン酸を完全に溶解させる。次に、各溶液を150℃の炉で蒸発乾固し、続いて、350℃で2時間一次焼成を行い、さらに、800℃で2時間二次焼成を行い、実施例17〜20の排ガス浄化用触媒を得た。なお、実施例18〜20の排ガス浄化用触媒は、BiドープYMnである。
【0067】
<昇温脱離法による評価>
実施例17〜20の排ガス浄化用触媒をそれぞれ100mg秤量し、前処理として、100mL/minで大気を導入した雰囲気下で、室温から10℃/minで700℃まで昇温し、その後、同じ雰囲気で50℃まで放冷した。
【0068】
各サンプルについて、昇温脱離法(TPD)により、酸素放出ピーク温度を測定した。測定条件は、2%H含有Heを50mL/min導入した雰囲気下で、50℃から700℃まで10℃/minで昇温し、放出されたガスの質量を測定し、酸素放出のピーク温度(℃)を求めた。結果は下記第6表に示す。
【0069】
この結果、Yの一部をBiで置換した実施例18〜20のBiドープYMnからなる排ガス浄化触媒は、Biがドープされない実施例17と比較してより低温で酸素を放出できることがわかった。
【0070】
【表6】
【0071】
実施例21
硝酸銅を所定量秤量し、適量のイオン交換水に入れて攪拌し、溶解させた。硝酸銅が完全に溶解した後、所定量のYMn粉末を投入し、攪拌して分散させる。次いで、60℃で真空脱気を行い、蒸発乾固させ、600℃で2時間焼成を行い、5質量%Cu担持YMn粉末を得た。
【0072】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験3>
実施例21の排ガス浄化用触媒について、固定床模擬ガス浄化性能評価試験1と同様に試験し各々の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。得られたライトオフ性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。その結果は第7表に示す通りであった。
【0073】
この結果、実施例21に係るCu担持YMnも浄化性能を発揮することがわかった。なお、実施例21は測定条件が異なるため、他の実施例と単純な比較はできない。
【0074】
【表7】
【0075】
実施例22〜24
実施例6の合成方法で得られたYMnと、これと同様な方法でY/Mnが1/1になる様にして合成して得られたYMnOとを、第8表に示す比率で混合し、マンガン酸イットリウム担体の混合物(実施例22はYMnO未混合)を得た。
【0076】
次に、硝酸Ag0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸Ag水溶液とし、この水溶液に上記のYMnとYMnOとの混合物1.5gを投入し、加熱攪拌して水分を揮発させた。得られた粉末を120℃で3時間乾燥した後、空気中600℃で2時間焼成し、排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0077】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験4>
実施例22から24の排ガス浄化用触媒について、固定床模擬ガス浄化性能評価試験1と同様に試験し各々の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。得られたライトオフ性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。その結果は第8表に示す通りであった。
【0078】
第8表には、耐久処理後の比表面積(BET法で測定)をあわせて示す。
【0079】
この結果、YMnO未混合のYMnである実施例22が最も良好な排ガス浄化性能を示したが、YMnOを混合した実施例23、24も、概ね同様の排ガス浄化性能を示すことがわかった。これは、YMn固有の優れた排ガス浄化性能による効果は勿論、YMnが比較的に高い比表面積を得られやすいことにも起因するものと思われる。なお、実施例22〜24の測定条件は他と異なるため、他の実施例と単純な比較はできない。
【0080】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5