(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タイヤのトレッドの厚さは均一でない。トレッドのショルダー領域の厚さは、センター領域の厚さより厚い。ショルダー領域に最適な加硫温度及び加硫時間で加硫されると、センター領域では過加硫を生じることがある。この過加硫は、タイヤの耐久性の低下や外観不具合を生じさせる恐れがある。加硫工程では、トレッドの加硫の不均一が生じ易い。
【0007】
このトレッドを均一に加硫する手段として、ブロックのショルダー領域の熱伝導率をセンター領域の熱伝導率より大きくすることが考えられる。熱伝導率の差により、ショルダー領域とセンター領域との加硫が均一化されうる。ショルダー領域とセンター領域とで、熱伝導率の異なる板状ピースを用いることが考えられる。
【0008】
熱伝導率が異なる板状ピースでは、熱膨張率が異なる。熱膨張率が異なる板状ピースでは、加硫時に生じる歪みが不均一なりやすい。板状ピースを重ね合わせたブロックでは、板状ピース間のスリットにも歪みが生じる。このスリットの隙間は微小である。このスリットの歪みは、エアーの排出を阻害する。スリットの歪みは、スリットへの未加硫ゴムの侵入を招く。
【0009】
本発明の目的とするところは、ブロックが確実に固定され、かつベアーの発生が抑制されるモールドの提供と、このモールドの製造方法の提供とにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤ用モールドは、内面にキャビティ面が形成されたタイヤ用モールドである。このモールドは、軸方向に重ねられた複数の板状ピースを有するブロックと、このブロックが嵌合されうる凹所を有するホルダと、この凹所に嵌合されたブロックを凹所に対して固定する固定部材とを備えている。
この固定部材は、係合溝と、この係合溝に係合する係合部材とを備えている。この係合溝は、ブロックの半径方向外面に軸方向に延びて形成されている。この係合部材は、凹所に取り付けられている。この係合部材が係合溝に通されて、軸方向一方端の板状ピースから他方端の板状ピースまで係合部材と係合溝とが係合して、ホルダにブロックが取り付けられている。複数の板状ピースは、2以上の異なる熱膨張率の板状ピースからなっている。
【0011】
好ましくは、上記複数の板状ピースのうちの、ショルダーに位置するピースの熱伝導率がセンターに位置する板状ピースの熱伝導率より大きくされている。
【0012】
好ましくは、上記係合部材は、周方向に面して係合溝に当接する一対の側面を備えている。この一対の側面間の周方向の距離は、半径方向内側から外側に向かって狭くされている。上記係合溝は、周方向に面して係合部材の側面に当接する一対の内面を備えている。この一対の内面間の周方向の距離は、半径方向内側から外側に向かって狭くされている。
【0013】
好ましくは、上記板状ピースの熱膨張率は、係合部材の熱膨張率より大きくされている。
【0014】
好ましくは、上記板状ピースはアルミ合金又は銅合金からなっている。上記係合部材は鋼材からなっている。
【0015】
好ましくは、上記板状ピースは銅合金及びアルミ合金からなっている。上記ショルダーに位置する板状ピースの銅合金の比率は、センターに位置する板状ピースの銅合金の比率より大きくされている。
【0016】
本発明に係るタイヤ用モールドの製造方法では、複数の板状のピース母材と、ホルダ母材と、軸方向に延びる係合部材とが準備されている。
この製造方法は、
複数の板状のピース母材を軸方向に重ねて合わせてブロック母材を形成する工程、
上記ホルダ母材にブロック母材を嵌合するための凹所を形成する工程、
上記ブロック母材に係合部材と係合する係合溝を形成する工程、
上記ブロック母材の係合溝に係合部材を係合させた状態で、ブロック母材がホルダ母材の凹所に勘合されて、この係合部材がホルダ部材に取り付けられてセグメント母材が得られる工程、
上記セグメント母材のブロック母材にキャビティー面が形成されてセグメントが得られる工程
及び
上記セグメントを周方向に複数連接してモールドが形成される工程を含んでいる。
この製造方法では、上記複数の板状のピース母材が2以上の異なる熱膨張率の板状ピース母材からなっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るモールドでは、複数の板状ピースそれぞれがホルダに固定されている。ブロックがホルダに確実に固定される。係合部材が係合溝に通されて取り付けられるので、ブロックの板状ピースの熱膨張率が異なっても、局部的に歪みが大きくなることが抑制されている。このモールドでは、板状ピースの間に形成されたスリットを通じて、エアーが排出され易い。このスリットに、未加硫ゴムが侵入することが抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ用モールド(以下、単にモールドという)1の一部を示す断面図である。このモールド1は、多数のセグメント2と、上下一対のサイドプレート3と、上下一対のビードリング4とを備えている。セグメント2の平面形状は実質的に円弧状である。このモールド1では、多数のセグメント2がリング状に連結される。セグメント2の数は通常3以上20以下である。サイドプレート3及びビードリング4は実質的にリング状である。このモールド1はいわゆる「割モールド」である。
図1において、符号Rはローカバーを示している。
【0021】
図2は、このモールド1のセグメント2を示す斜視図である。
図2において、矢印Xはモールド1の半径方向を示し、矢印Yは軸方向を示し、矢印Zは周方向を示している。
図2に示されたモールド1の方向は、他の図面においても同様に用いる。このセグメント2はホルダ5とブロック6とからなる。ブロック6はホルダ5に装着されている。一つのホルダ5に、周方向に並べられた複数のブロック6が装着されてもよい。
【0022】
ブロック6はキャビティ面7を備えている。このキャビティ面7は凸部8と凹部9とを備えている。この凸部8はタイヤのトレッドの溝に対応する。凹部9はタイヤのトレッドブロックに対応する。この凸部8及び凹部9により、タイヤにトレッドパターンが形成される。凸部8及び凹部9の形状は、トレッドパターンに応じて適宜決定される。なお、
図1では、凸部8及び凹部9の図示が省略されている。
【0023】
図3(a)はブロック6を示す平面図(軸方向に見た図)であり、
図3(b)はその正面図(半径方向に見た図)である。
図4は、
図3(a)のIV−IV線に沿った断面の一部である。
図5は、
図3(a)のV−V線に沿った断面の一部である。ブロック6は、半径方向内向きに面するキャビティ面7と、半径方向外向きに面する背面10、周方向に面する一対の分割面11と、軸方向に面する一対の端面29とを有している。
【0024】
ブロック6は、軸方向端に位置する2枚の端部ピース13と、2枚の端部ピース13(以下、ピース13という)の間に配置された多数枚の中間ピース14(以下、ピース14という)とを有している。各ピース13、14は、いずれも板状ピースである。ピース13及びピース14が軸方向に重ね合わされている。ピース14は、トレッドのショルダー側に位置する複数のピース14aと、センター側に位置する複数のピース14bとからなっている。
【0025】
図5に示される様に、それぞれのピース13、14(14a及び14b)には、重ね合わせたときに互いに一致する位置にボルト孔15が形成されている。このボルト孔15にボルト16が挿通されている。ボルト16の両端にはナット17が螺着されている。ピース13のボルト孔15には、ナット17を収容するための座ぐり18が形成されている。このため、ピース13の端面29からはボルト16もナット17も突出しない。
図3(a)に示される様に、このブロック6では、全ピース13、14が4組のボルト16及び一対のナット17によって締結されている。
【0026】
このブロック6では、キャビティ面7のうち、ピース13とピース14aとが形成する部分が、トレッドのショルダー領域を形成する。ピース14bが形成する部分が、トレッドのセンター領域を形成する。ピース13及びピース14は、例えばアルミニウム合金や銅合金からなる。このブロック6では、例えば、ピース13及びピース14aは、銅合金からなっている。ピース14bは、アルミ合金からなっている。ここでいうセンター領域は赤道面を跨ぐ軸方向中央領域であって、トレッド巾の0.6倍の巾の領域であり、ショルダー領域はトレッドの端からセンター領域に向かってトレッド巾の0.2倍の巾の領域である。このトレッド巾は、キャビティ面7が形成するトレッド面に沿って測られる。
【0027】
図3(a)及び
図3(b)に示される様に、ブロック6(全ピース13及び14)の背面10に、キー溝19が形成されている。
図3(a)に示される様に、端面29の、ボルト孔15及び座ぐり18を避けた位置に、キー溝19が形成されている。
図3(b)に示される様に、キー溝19は、軸方向の延びている。キー溝19は、軸方向一方のピース13から他方のピース13まで延びている。キー溝19は、背面10に開口している。
【0028】
このキー溝19は、一対の内面19aと底面19bとを備えている。底面19bは、キー溝19の底に位置して半径方向外向きに面している。一対の内面19aは、周方向に面しており、互いに対向している。内面19aは、背面10と底面19bの周方向端とに連続して形成されている。内面19aは、平面である。内面19aは、半径方向内側から外側に向かって、キー溝19の周方向外側から内側向きに傾斜している。一対の内面19aの間の距離は、半径方向内側から外側に向かって徐々に狭くなっている。このセグメント2では、ブロック6に、3つのキー溝19が形成されている。このキー溝19の数は、3つに限定されない。
【0029】
図6は、ホルダ5の正面図(半径方向に見た図)が示されている。ホルダ5は、例えば鋼又はアルミニウム合金からなる。
図7は、
図2のVII−VII線に沿った断面を示している。
図8は、
図2のVIII−VIII線に沿った断面を示している。
【0030】
図7及び
図8に示される様に、ホルダ5には、ブロック6が密に嵌合しうる凹所21が形成されている。この凹所21は、底面22と、対向する一対の側壁23の内面とによって画されて、概ね矩形横断面のチャンネル状を呈している。凹所21は、ブロック6の外形と相補的な形状を呈している。凹所21の底面22は、ブロック6の背面10を覆い、凹所21の側壁23はブロック6の軸方向の端面29(端部ピース13の端面)を覆っている。ブロック6の分割面11は露出している。
【0031】
凹所21の底面22は、凹所21に嵌合されたブロック6の背面10と、わずかなクリアランス30を形成しつつ当接している。凹所21の側壁23の内面は、嵌合されたブロック6の上下の各端面29と、わずかなクリアランス30を形成しつつ当接している。これらのクリアランス30は、例えば、凹所21の内面及び/又はブロック6の外面に凸条を形成することによって形成されうる。凹所21の底面22及び/又はブロック6の背面10に形成される凸条は、例えば、軸方向一方端から他方端まで軸方向に延びて形成される。軸方向の延びる凸条は、背面10と底面22と相対的移動を軸方向に案内する。
【0032】
図7に示されるように、ホルダ5の底面22に、孔24が形成されている。孔24は、ブロック6のキー溝19に対向する位置に形成されている。このホルダ5の背面5aには、孔24が貫通する位置に、座ぐり25が形成されている。孔24は、底面22と座ぐり25の底とを貫通している。
図6に示される様に、この孔24と座ぐり25とは、12箇所形成されている。孔24及び座ぐり25は、軸方向及び周方向に互いに間隔を開けて形成されている。
【0033】
図7及び
図8に示されるように、セグメント2は、ボルト26及びキー27を備えている。このボルト26及びキー27は、例えば炭素鋼のような鋼材からなる。キー27は、
図8に示される様に、周方向に面する側面27aを備えている。この側面27aは、半径方向に対して傾斜した平面である。側面27aは、半径方向内側から外側に向かって、キー27の周方向外側から内向きに傾斜している。一対の側面27a間の周方向の距離は、半径方向内側から外側に向かって狭くされている。
図8に示される様に、キー27の軸方向に垂直な断面形状は台形にされている。キー27は、
図7に示される様に、軸方向に一方の端部ピース13から他方の端部ピース13まで延びている。このキー27の半径方向外面には、雌ねじが形成されている。この雌ねじは孔24に対応する位置に形成されている。
【0034】
この孔24にボルト26が通されている。キー溝19には、キー27が挿入されている。ボルト26の頭部26aが座ぐり25に収容されている。頭部26aは、ホルダ5の背面5aから突出していない。ボルト26の雄ねじがキー27の雌ねじにねじ込まれている。これにより、ブロック6が凹所21に固定される。このボルト26は、キー27を取り付けるための取付具として機能している。このモールド1のセグメント2では、キー溝19、ボルト26及びキー27が固定部材を構成している。
【0035】
このボルト26が緩められ、又は、抜き取られることにより、ブロック6が凹所21から取り外されうる。このように、キー溝19、ボルト26及びキー27とは、ブロック6を凹所21に着脱可能に固定している。
【0036】
図4及び
図5に示されるように、隣接するピース13、14の間に第一シム28が挟まれている。上記ナット17が締められることにより、ピース13、14が第一シム28を挟圧する。この第一シム28により、隣接するピース13、14同士の間に第一スリット31が形成される。第一スリット31は、半径方向及び周方向に延在している。第一スリット31はキャビティ面7から背面10にまで至っている。従って、第一スリット31はクリアランス30に連通している。
【0037】
第一シム28は、例えばステンレス鋼のような金属からなる。第一シム28は薄い板状である。この第一シム28の厚さにより、第一スリット31の隙間の大きさが調整されうる。この第一スリット31の隙間の大きさは、軸方向の距離として測定される。第一スリット31の隙間は、0.001mm以上0.5mm以下にされている。この第一スリット31の隙間が大きいモールド1では、エアーが排出されやすい。この観点から、この隙間は、好ましくは0.01mm以上であり、更に好ましくは0.02mm以上である。一方で、この隙間が小さいモールド1では、第一スリット31への未加硫ゴムに侵入が抑制される。この観点から、この隙間は、好ましくは0.09mm以下であり、更に好ましくは0.07mm以下であり、特に好ましくは0.05mm以下である。
【0038】
図9は、
図4のIX−IX線に沿った拡大断面図である。
図9には、中間ピース14、ボルト16及び6枚の第一シム28が示されている。
図9に示されるように、第一シム28の平面形状は実質的に矩形である。矩形である第一シム28は容易に製作されうる。第一シム28は、ボルト孔15及びキー溝19を避けて配置されている。ボルト16及びキー27は第一シム28を貫通していない。第一シム28がボルト16及びキー27のための孔を備える必要がないので、この第一シム28は容易に製作されうる。
【0039】
図10に示される様に、このセグメント2では、キー27は、ボルト26によりホルダ5に引き寄せられている。ピース14のキー溝19の内面19aとキー27の側面27aとが圧接している。キー27がピース14を半径方向外向きに押し付ける。これにより、ピース14がホルダ5に固定されている。同様にして、ピース13及び他のピース14がホルダ5に固定されている。このセグメント2では、軸方向一方端のピース13から他方端のピース13まで全てのピース13及びピース14が、ホルダ5に確実に固定されている。
【0040】
キー溝19の内面19aとキー27の側面27aとが圧接されて、ピース13及びピース14の軸方向の移動に摩擦抵抗が生じる。全てのピース13及びピース14の軸方向の移動が同様に抑制されている。
【0041】
タイヤのトレッドでは、ショルダー領域の厚さがセンター領域の厚さに比べて厚い。トレッドのショルダー領域とセンター領域とでは最適な加硫時間が異なる。このブロック6では、ショルダー領域に位置するピース13及びピース14aが銅合金からなっている。センター領域に位置するピース14bがアルミ合金からなっている。ピース13及びピース14aの熱伝導率は、ピース14bの熱伝導率より大きくされている。これにより、ショルダー領域とセンター領域とがより均一に加硫されうる。
【0042】
ここでは、ピース13及びピース14aが銅合金からなり、ピース14bがアルミニウム合金からなる例で説明がされたが、このピース13、ピース14a及びピース14bが銅合金及びアルミ合金からなっており、ピース13及びピース14aの銅合金の比率が、ピース14bの銅合金の比率より大きくされていてもよい。ピース13及びピース14aの熱伝導率が、ピース14bの熱伝導率より大きくされていればよい。
【0043】
このピース13及びピース14aの熱膨張率と、ピース14bの熱膨張率とが異なっている。ピース13及びピース14の全体がキー27により固定されている。ピース13及びピース14の一部がホルダに固定される構成と異なり、このブロック6では加熱時に生じる歪みがピース13、14の一部に集中することが抑制されている。ピース13及ピース14の間の第一スリット31の変形が抑制されている。第一スリット31の隙間が微少であればあるほど、変形により隙間の大きさが変化し易い。このセグメント2では、第一スリット31に未加硫ゴムが侵入することが抑制されている。加硫時に十分にエアーが排出される。ベントホールを有しないモールド1により、スピューがないタイヤが得られる。
【0044】
このピース13、14の熱膨張率は、ボルト26及びキー27の熱膨張率より大きくされている。キー溝19の内面19aとキー27の側面27aとが当接しているので、加熱時にも、ブロック6がホルダ5に押しつけられる。加硫時に、ブロック6とホルダ5との固定が弛むことが抑制されている。
【0045】
図11には、本発明に係る他の実施形態のモールド41の部分断面図が示されている。
このモールド41のセグメント42は、ブロック43及びキー44を備えている。このモールド41は、モールド1のブロック6及びキー27に代えて、ブロック43及びキー44を備える他は、モールド1と同様の構成を備えている。ここでは、モールド41の構成のうち、モールド1と異なる構成について説明がされ、モールド1と同様の構成についてはその説明が省略される。ここでは、モールド1と同様の構成については同じ符号を用いて説明がされる。
【0046】
このブロック43は、ブロック6のキー溝19に代えて、キー溝45を備えている。図示されないが、ブロック43のその他の構成は、ブロック6の構成と同様にされている。ブロック43のキー溝45は、ブロック43の背面43aに開口している。このキー溝45は、軸方向に全てピースを貫通して形成されている。キー溝45の軸方向に垂直な断面の形状は、T字形状である。
【0047】
キー44は、軸方向を長手方向に延びている。キー44の軸方向に垂直な断面形状は、矩形にされている。このキー44は、キー溝45に通されている。キー44は、軸方向に全てピースに係合している。
【0048】
キー44は、ボルト26によりホルダ5に引き寄せられている。キー溝45とキー44とが圧接している。キー44がブロック43を半径方向外向きに押し付ける。これにより、ブロック43がホルダ5に固定されている。軸方向一方端のピースから他方端のピースまで全てのピースが、それぞれホルダ5に固定されている。このセグメント42では、全てのピースがホルダ5に確実に固定されている。
【0049】
このブロック43には、キー溝45の開口を挟む縁部46が形成されている。この縁部46が、キー45とホルダ5とに挟まれて圧接されている。この圧接により、ブロック43の全てのピースの軸方向の移動が抑制されている。
【0050】
このセグメント42においても、ピース13の全体がキー45により固定されているので、一部のピースに加熱時に生じる歪みが集中することが抑制されている。第一スリット31の変形が抑制されている。
【0051】
特に、前述のモールド1では、キー27とホルダ5とは、ボルト26の軸方向に端部ピース13及び中間ピース14の一部を挟み込むことなく、固定されている。モールド41に比べて、モールド1ではピース13、14に局部的に歪みが生じうることが抑制されている。モールド1は、モールド41に比べて、第一スリット31の変形がより抑制されている。
【0052】
このモールド1では、キャビティ面7に凹凸模様が形成されなくてもよい。凹凸模様を有さないモールド1により、スリックタイヤ及びプレーンタイヤが得られうる。このスリックタイヤ及びプレーンタイヤでも、スピューが抑制される。このプレーンタイヤの表面がカットされて、凹凸模様が形成される。スピューが少ないので、このプレーンタイヤのカットは容易である。
【0053】
図12から
図14を参照しつつ、モールド1の製法が概説される。ホルダ5の母材(ホルダ母材という)32と、端部ピース13の母材(端部ピース母材という)33と、中間ピース14の母材(中間ピース母材という)34と、ボルト26と、キー27とが準備される。
【0054】
このモールド1の製造方法は、ブロック母材36を形成する工程と、ホルダ母材32に凹所21を形成する工程と、ブロック母材36にキー溝19を形成する工程と、セグメント母材37が得られる工程と、セグメント2が得られる工程と、モールド1が形成される工程とを含む。
【0055】
ブロック母材36を形成する工程では、複数の板状のピース母材33、34を軸方向に重ねて合わせて、ブロック母材36が形成される。ピース母材33、34は板状である。ピース母材33、34の平面形状は、矩形の一辺を円弧状にした形状である。この円弧の曲率半径は、凹所21の底面22の曲率半径と略等しくされている。2枚のピース母材33と、複数のピース母材34と、複数の第一シム28とが積層される。ボルト孔15にボルト16が挿通され、ナット17が締め込まれる。これにより、全ピース母材33及び34が締結され、ブロック母材36が形成される。端部ピース母材33には、さらに座ぐり18が形成されている。このブロック母材36では、多数のピース母材33、34と多数の第一シム28とが、交互に積層されている。これらピース母材33、34及び第一シム28は、ボルト16及びナット17によって一体化されている。
【0056】
ホルダ母材32に凹所21を形成する工程では、切削加工によって凹所21が形成される。
図12には、凹所21が形成されたホルダ母材32が示されている。凹所21は、ブロック母材36を嵌合するためのものである。この凹所21の底面22は部分円柱状を呈している。軸方向に垂直な断面において、この底面22は円弧状に延びている。ホルダ母材32では、この底面22を挟んで軸方向に対向する一対の側壁23が立設される。この底面22には、孔24が形成されている。図示されないが、ホルダ母材32の背面に、座ぐりが形成されている。この座ぐりの底面に、孔24が底面22から貫通するように形成されている。このホルダ母材32は、好ましくは鍛造アルミ合金から直方体状に形成される。
【0057】
ブロック母材36にキー溝19を形成する工程では、このブロック母材36の背面10に、キー溝19が形成される。この背面10は、部分円柱状にされた形状を有している。端部ピース母材33及び中間ピース母材34に、キー溝19が形成される。
【0058】
セグメント母材37が得られる工程では、ブロック母材36のキー溝19にキー27が挿入される。キー27を挿入して係合させた状態で、ブロック母材36がホルダ母材32の凹所21に勘合される。ホルダ母材32の孔24にボルト26が通されて、ボルト26がキー27に螺入される。キー27がホルダ母材32に引き寄せられる。このキー27を介して、ブロック母材36がホルダ母材32に引き寄せられる。ブロック母材36がホルダ母材32に取り付けられる。この様にして、ブロック母材36とホルダ母材32とが固定されて、セグメント母材37が構成される。
【0059】
セグメント2が得られる工程では、セグメント母材37の両端面が、
図13の二点鎖線で示されるように、傾斜する形状に切削加工される。
図14のハッチング部分が切削加工により削られる。この切削加工によりセグメント(図中の白地部分)2が形成される。この切削加工により、ホルダ母材32に形成された座ぐりから、ホルダ5の座ぐり25が形成される。この切削加工により、ブロック母材36に、凹凸模様を備えたキャビティ面7が形成される。この方法では、凹凸模様が直彫りされる。典型的な切削加工は、工具による切削である。切削加工が、高エネルギー密度加工によってなされてもよい。高エネルギー密度加工の具体例としては、電解加工、放電加工、ワイヤーカット放電加工、レーザ加工及び電子ビーム加工が挙げられる。凹凸模様が直彫りされるので、この凹凸模様の形状の自由度は高い。この凹凸模様の寸法精度が高い。この切削加工によってセグメント2が得られる。
【0060】
モールド1が形成される工程では、複数のセグメント2が周方向に連接される。これらのセグメント2と、上下一対のサイドプレート3と、上下一対のビードリング4とが組み合わされて、モールド1が形成される。
【0061】
このモールド1が用いられたタイヤ製造方法では、予備成形によってローカバーが準備される。このモールド1が開いておりブラダーが収縮している状態で、このローカバーがモールド1に投入される。この段階では、ローカバーのゴム組成物は未加硫状態である。モールド1が締められ、ブラダーが膨張する。ローカバーはブラダーによってモールド1のキャビティ面7に押しつけられ、加圧される。この状態のローカバーRが、
図2に示されている。同時にローカバーは、加熱される。加圧と加熱とによりゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤが得られる。ローカバーが加圧及び加熱される工程は、加硫工程と称される。
【0062】
前述の通り、第一スリット31はキャビティ面7に露出しているので、加硫工程において、ローカバーとキャビティ面7との間のエアーは第一スリット31を通じて移動する。エアーは分割面11に至り、排出される。ボルト孔15及びキー溝19を通じても、エアーが排出されうる。エアーの排出により、ベアーが防止される。このモールド1では、ベントホールが設けられなくても、十分にエアーが排出されうる。ベントホールを有さないモールド1により、スピューがないタイヤが得られる。このタイヤは、外観及び初期グリップ性能に優れる。第一スリット31と共に、少数のベントホールが設けられてもよい。
【0063】
モールド1が繰り返し用いられると、キャビティ面7に堆積物が付着する。この堆積物は、タイヤの品質を損なう。堆積物は、除去される必要がある。除去するためには、ボルト26が緩められるか抜き取られるかした後に、ブロック6がホルダ5の凹所21から取り出される。次いで、ブロック6からボルト16が抜き取られ、各ピース13、14に分解される。各部品が清掃された後、上記とは逆の手順でセグメント2が組み立てられる。