特許第5864543号(P5864543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864543
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】小分子治療剤の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/18 20060101AFI20160204BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/4515 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/64 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20160204BHJP
   A61K 31/549 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   A61K47/18
   A61K31/337
   A61K31/4439
   A61K31/4515
   A61K31/635
   A61K31/64
   A61K31/165
   A61K31/7008
   A61K31/4164
   A61K31/341
   A61K31/549
【請求項の数】29
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-509048(P2013-509048)
(86)(22)【出願日】2011年5月4日
(65)【公表番号】特表2013-525482(P2013-525482A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011000793
(87)【国際公開番号】WO2011139373
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年4月25日
(31)【優先権主張番号】61/343,781
(32)【優先日】2010年5月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512264068
【氏名又は名称】ネクスメッド ホールディングス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】ダマジ,バッサム ビー.
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,リチャード
【審査官】 天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05082866(US,A)
【文献】 特表2000−504697(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047857(WO,A1)
【文献】 特表2002−544253(JP,A)
【文献】 特表2006−520800(JP,A)
【文献】 Manuf Chem,2011年11月,vol.82, no.11,p.33-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/18
A61K 31/165
A61K 31/337
A61K 31/341
A61K 31/4164
A61K 31/4439
A61K 31/4515
A61K 31/549
A61K 31/635
A61K 31/64
A61K 31/7008
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小分子治療剤アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩、および1種以上の薬学的に許容される担体から成る、経口または皮下投与用組成物。
【請求項2】
前記小分子治療剤がタキサンと、生物薬剤学分類システム(BCS)下でクラス2、クラス3またはクラス4の少なくとも1つに分類される化合物とからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記タキサンがパクリタキセル、ドセタキセル、テセタキセル、およびそれらの混合物からなる群のメンバーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物がBCSクラス2のメンバーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物がランソプラゾール、ハロペリドール、スルファサラジン、およびグリベンクラミドからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記化合物がBCSクラス3のメンバーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記化合物がアテノロール、グルコサミンまたはその塩、およびシメチジンからなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記化合物がBCSクラス4のメンバーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記化合物がフロセミド、クロロチアジド、およびヒドロクロロチアジドからなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記小分子治療剤がタキサンであり、かつ前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記小分子治療剤がタキサンであり、かつ前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記小分子治療剤がパクリタキセルであり、かつ前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記小分子治療剤がパクリタキセルであり、かつ前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
タキサンアルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩、および1種以上の薬学的に許容される担体から成る、経口または皮下投与用組成物。
【請求項17】
前記タキサンがパクリタキセル、ドセタキセル、テセタキセル、およびそれらの混合物からなる群のメンバーである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記アルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
前記タキサンがパクリタキセルであり、かつ前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記タキサンがパクリタキセルであり、かつ前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項4に記載の組成物。
【請求項23】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項5に記載の組成物。
【請求項24】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項6に記載の組成物。
【請求項25】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項7に記載の組成物。
【請求項26】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項8に記載の組成物。
【請求項27】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項7に記載の組成物。
【請求項28】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩である、請求項9に記載の組成物。
【請求項29】
前記アルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩がドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である、請求項9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2010年5月4日に出願された米国仮出願第61/343,781号の優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、薬物動態特性を増強した小分子治療剤の組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
小分子創薬は、組換えタンパク質およびモノクローナル抗体などのタンパク質をベースにした薬物でなされた治療の進歩を補足するために、バイオテクノロジー企業によって積極的に探究されている。さらに、小分子薬物療法は、費用便益を享受でき得ることも多い。また、患者は、タンパク質をベースにした典型的な注射剤よりも、経口投与可能な小分子治療を受け入れる可能性が高い。小分子治療の薬物動態特性が、特定の増強剤との同時投与によって改善されることが現在ではわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生物薬剤学分類システム(BCS)によってクラス2〜4の化合物として分類されるタキサンおよび小分子原薬などの小分子治療剤の薬物動態特性は、遊離塩基形態または塩形態でのアルキルN,N−二置換−アミノ酢酸塩の添加によって増強される。より大きな全身曝露、より高いピーク血漿濃度、およびより長い平均滞留時間は、達成することができる。
【0005】
特に、パクリタキセルおよびドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩(DDAIP)を遊離塩基形態または塩形態で含む組成物が好ましい。
【0006】
BCS2化合物および4化合物として分類される小分子原薬の溶解度および吸収は、遊離塩基形態または塩形態でのドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオン酸塩によって特に増強される。BCSクラス2化合物のランソプラゾール、ハロペリドール、およびスルファサラジン;BCSクラス3化合物のアテノロールおよびグルコサミン;ならびにBCSクラス4化合物のフロセミドおよびクロロチアジドが、特に好ましい。
【0007】
好ましい投与経路は、経口および皮下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ラットにパクリタキセルを経口(PO)投与(5mg/kg)した後の血漿試料中のパクリタキセル濃度を表すグラフである;データポイントは平均値を表し、エラーバーは平均値の標準誤差を表す。
図2】ラットにパクリタキセルを皮下(SC)投与(5mg/kg)した後の血漿試料中のパクリタキセル濃度を示すグラフである;データポイントは平均値を表し、エラーバーは平均値の標準誤差を表す。
図3】ラットにパクリタキセルを経口(PO)投与(5mg/kg)した後の血漿試料中のパクリタキセル濃度を表す別のグラフである;データポイントは平均値を表し、エラーバーは平均値の標準誤差を表す。
図4】ランソプラゾールおよびDDAIPのマウスにおける胃内容物排出への効果を表すグラフである。
図5】イヌにDDAIPを含んだ場合と、含まない場合のランソプラゾールを経口投与した後の血漿試料中の薬物動態プロフィルを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において使用される用語「小分子治療剤」とは、ポリマーではなく、タンパク質、核酸または多糖などのバイオポリマーに比較的高い親和で結合し、かつ該バイオポリマーの活性または機能を変える低分子量の有機化合物を意味する。小分子治療剤の分子重の上限は、約1000ダルトンであり、細胞内の作用部位に達することができるようにすべての膜を通って拡散できる分子量である。極めて小さいオリゴマー、例えばジヌクレオチド、二糖なども小分子と考えられる。パクリタキセル、DHA−パクリタキセル、メサラミン(Pentasa(登録商標))、モテクサフィンガドリニウム、テモゾロミド、エルロチニブ(Tarceva(登録商標))、シナカルセト(Sensiar(登録商標))、サフィナミド、シンバスタチン(Zocor(登録商標))、プラバスタチン(Pravachol(登録商標))、シルデナフィル、ペプチド模倣薬、siRNAなどが実例である。
【0010】
タキサンは、癌化学療法で利用されるジテルペンである。本発明の目的に特に適しているのは、パクリタキセル、ドセタキセル、テセタキセル、およびその混合物である。
【0011】
また、本発明の目的に適しているのは、小分子治療化合物であり、強力で薬剤的に関連性があるが、通常、難溶性または不溶性の化合物である。生物薬剤学分類システムBiopharmaceutics Classification System(BCS)は、薬物の腸管吸収を予測するための米国食品医薬品局が提供している手引書である。このシステムは、薬物溶解と胃腸管の透過性が薬物吸収の速度と範囲を制御する基本パラメータであるという認識に基づき、in vitroでの製剤の溶解およびin vivoでの生物学的利用率に相関している。Amidon G.L.らによる論文”A theoretical basis for a biopharmaceutic drug classification:the correlation of in vitro product dissolution and in vivo bioavailability”Pharm.Res.,12(3),413−20(1995)では、4つの薬物クラスが定義されている。
【0012】
生物薬剤学分類システムによれば、原薬は以下のように分類される:
【0013】
クラス1−高透過性、高溶解性の薬物薬。それら化合物は十分に吸収され、かつそれらの吸収速度は通常、排出よりも高い。化合物の例としては、メトプロロールがある。
【0014】
クラス2−高透過性、低溶解性の薬物。それら生成物の生物学的利用率は、それらの溶媒和速度によって限定される。in vivoでの生物学的利用能とin vitro溶媒和間の相関がみられる。化合物の例としては、ランソプラゾール、ハロペリドール、スルファサラジンおよびグリベンクラミドがある。
【0015】
クラス3−低透過性、高溶解性の薬物。それらの吸収は透過速度によって限定されるが、該薬物は極めて急速に溶媒和される。化合物の例としては、アテノロール、グルコサミン(またはその塩類)およびシメチジンがある。
【0016】
クラス4−低透過性、低溶解性の薬物。それらの化合物は、生物学的利用率が悪い。通常、該薬物は、腸管粘膜上で十分に吸収されず、かつ可変性が高いことが予想される。化合物の例としては、フロセミド、クロロサイアザイドおよびヒドロクロロチアジドがある。
【0017】
薬物は、BCSでは以下のパラメータに基づいて分類される:1.溶解性;2.透過性;および3.溶解。溶解性に関するクラスの境界は、即時放出製剤の最高用量強度に基づく。最高用量強度が、1〜7.5pHの範囲で250ミリリットル(mL)またはより少ない水性媒体に溶解するとき、その薬物は溶解性が高いとみなされる。透過性に関するクラスの境界は、間接的には、ヒトにおける原薬の吸収の範囲に基づき、直接的には、ヒト腸管膜を横切る質量移動速度の測定に基づく。ヒトにおいて薬物吸収を予測することができる代替の非ヒト系を用いることができる(例えば、in vitro培養養方法)。質量平衡の決定に基づいて、または静注投与量と比較して、ヒトにおける吸収の範囲が投与された用量の90%以上であると決定さたとき、その原薬は高度に透過性であるとみなされる。即時放出製剤が急速に溶解すると思われる溶解に関するクラスの境界は、HCl 0.1Nの培地中または刺激された胃液もしくはpH4.5の緩衝液およびpH6.8の緩衝液もしくは刺激された腸液中、900mL以下の量で、USP Dissolution Apparatus1を100RPMで、またはApparatus2を50RPMで用いて、原薬の標示量の85%以上が30分以内に溶解するときである。
【0018】
クラス2〜4の化合物は、本発明を具体化する組成物に、特に十分に適している。2010年3月改定のWHO List of Essential Drugs第16版に記載される小分子治療化合物が好ましい。特に好ましい小分子治療化合物は、クラス2のランソプラゾール、ハロペリドールとスルファサラジン;クラス3のアテノロールとグルコサミン;およびクラス4のフロセミドとクロロチアジンである。
【0019】
本発明の目的に好適なアルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩は、次式によって表される:
【化1】
(式中、nは約4〜約18の範囲の値を有する整数である;Rは、水素、C−Cアルキル、ベンジルおよびフェニルからなる群のメンバーである;RおよびRは、水素およびC−Cアルキルからなる群のメンバーである;RおよびR4は、水素、メチルおよびエチルからなる群のメンバーである。)
【0020】
好ましいアルキル(N,N−二置換アミン)−酢酸塩は、C−C18アルキル(N,N−二置換アミン)−酢酸塩およびC−C18アルキル(N,N−二置換アミノ)−プロピオン酸塩ならびに薬学的に許容される塩類とその誘導体である。典型的な特定のアルキル−2−(N,N−二置換アミノ)−酢酸塩としては、次式の:
【化2】
ドデシル2−(ジメチルアミノ)−プロピオン酸塩(DDAIP)、および次式の:
【化3】
ドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)−酢酸塩(DDAA)が挙げられる。
【0021】
アルキル−2−(N,N−二置換アミン)酢酸塩は、周知である。例えば、ドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)−プロピオン酸塩(DDAIP)は、Steroids,Ltd.(Chicago,Ill)から入手可能である。加えて、アルキル−2−(N,N−二置換アミノ)アルカン酸塩は、Wongらに対する米国特許第4,980,378号に記述されるような、より容易に入手可能な化合物から合成されることができる。この特許は、矛盾しない範囲まで参照によって本明細書に組み込まれる。その中で記述されるように、アルキ−2−(N,N−二置換アミノ)酢酸塩は、2段階合成で容易に調製される。第1段階では、長鎖クロロアセテートは、対応する長鎖アルカノールと、クロロ蟻酸クロロメチルなどとを、トリエチルアミンなどの適切な塩基の存在下で、典型的にはクロロホルムなどの好適な溶媒中で、反応させることによって調製される。この反応は、次式のように表すことができる:
【化4】
(式中、n、R、R、R、RおよびRは、上で定義される。)反応温度は、約10℃から約200℃、または還流から選択され得るが、好ましくは室温である。溶媒の使用は、任意である。溶媒を用いる場合、種々の有機溶媒を選択してもよい。塩基の選択は、同様に重大ではない。好ましい塩基としては、トリエチルアミン、ピリジンなどの三級アミン類が挙げられる。反応時間は、通常、約1時間から3日間までに及ぶ。
第2段階では、クロロ酢酸塩などの長鎖アルキルハロ酢酸塩が、図式に従って適切なアミンにより縮合される:
【化5】
(式中、n、R、R、R、RおよびRは前述のように定義される。)過剰なアミン反応物は、典型的に塩基として使用され、反応はエーテルなどの好適な溶媒中で便宜的に行われる。この第2段階は、室温で行われるのが望ましいが、温度を変えてもよい。反応時間は、通常、約1時間から数日の間で変わる。従来の精製法を適用して、結果として生じるエステルを医薬組成物での使用に備えることができる。
【0022】
前述の化合物の遊離塩基は、外気温で液体である。一方、塩の形状は、固体である。患者への投与のために、両形状は、小分子治療剤の溶解性に応じて、水または水−溶媒の混合物などの生理的に許容される担体中で、小分子治療剤と組み合わせることができる。活性成分およびアルキルN,N−二置換アミノ酢酸塩のための薬理学的に許容される担体は、液体または固体であり得る。特定の担体の選択は、通常、活性成分によって決定される。用語「薬学的に許容される担体」とは、当技術分野で認識されており、ある器官もしくは体の一部から別の器官もしくは体の別の部分に活性成分を運ぶまたは輸送することに関与する薬学的に許容される物質、組成物または溶媒(例えば、液体もしくは固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒材もしくはカプセル化材)を指す。各担体は、活性成分と適合し、かつ患者に対して傷害性がないという意味で「許容する」はずである。薬学的に許容される担体として役立ち得る材料のいくつかの例としては以下が挙げられる:(1)ラクトース、グルコースおよび蔗糖などの糖類;(2)コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)カルボキシルメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよびアセチルセルロースなどのセルロースとその誘導体;(4)トラガント末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)カカオバターおよび坐薬ワックスなどの賦形剤;(9)ラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油類;(10)プロピレングリコールなどのグリコール類;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール類;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル類;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱性物質除去水;(17)等張食塩水;(18)リゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;および(21)医薬製剤で使用される他の無毒の適合物質類。
【0023】
生理的に許容されるタキサンのための実例となる水−溶媒の担体は、約10体積%〜約20体積%のポリエチレングリコール300(PEG300)またはポリエチレングリコール400(PEG400)を含む水−ポリエチレングリコール(PEG)混合物である。
【0024】
患者に投与されるタキサンの量は、変化し得るが、通常、約200〜250mg/mの範囲内である。一実施形態では、パクリタキセル(Taxol(登録商標))は、水中10%ポリエチレングリコール400(PEG400)、または、DDAIPの水溶液中、またはその塩酸塩、DDAIP−HCl(40%)のいずれかで調剤された。
【0025】
実施例I
送達する試験物の適正量を決定するために、動物モデルとしてSprague Dawleyラットを用い、投与の前に動物の体重を測定した。異なる製剤中に試験組成物を含む単一ボーラスとして強制経口投与(PO)または皮下(SC)投与によって動物に投与した(5mg/kg)。次いで、この投与から0.5、1、2、4、8および24時間後、血液試料を側面尾静脈から採血した。
【0026】
血液試料は、NaEDTAを含む採取管に採取して、氷上に置き、試料採取から30分以内に血液試料を遠心して、血漿を得た。血漿を細胞成分から分離して、それをマイクロ遠心管中で凍結させて、LC−MS/MS(ペプチドマスフィンガープリンティングによる液体クロマトグラフィー質量分析)による分析のために処理するまで−80℃で保管した。標準試料は、パクリタキセルの既知量をラットブランク血漿に加えることによって作製した。標準試料をLC−MS/MSで分析し、クロマトグラフピーク下の結果としての面積を該試料の既知の濃度と組み合わせて用いて標準曲線を作成した。
【0027】
実験用試料は、同じ方法を使用して分析し、クロマトグラフピーク下の面積を標準曲線と組み合わせて用いて、試料中のパクリタキセルの濃度を算出した。パクリタキセルのピーク血漿濃度(Cmax)は、PEG製剤と比較して、DDAIP−HCl製剤での経口投与後、10倍に、皮下投与後、2倍に増加した。DDAIP−HCl製剤の使用は、経口および皮下の両方で投与したとき、PEG製剤と比較して、吸収相がより長く、かつTmax時間の開始がより遅い結果となった。
【0028】
PEG400製剤を使用したときと比較すると、DDAIP−HCl製剤では、全体的な全身曝露(AUC)および生物学的同等性が増加した。同じ投与経路を介するPEG製剤と比較すると、DDAIP−HCl製剤を経口投与した後は、パクリタキセルの全体的な全身曝露が約75倍増加し、皮下投与した後では約20倍増加した。平均滞留時間(MRT)は、PEG400製剤(POでは3.8時間およびSCでは8.5時間)と比較すると、DDAIP−HCl製剤を用いたとき、経口投与後では9.8時間まで、皮下投与後では11.5時間まで増加した。さらに、DDAIP単独投与と比較すると、DDAIPの塩酸塩であるDDAIP−HClは、全身曝露がより大きい、ピーク血漿濃度がより高い、かつMRTがより長い結果となった。この実験結果を図1および2のグラフで示す。
【0029】
これらの結果から、ポリエチレングリコール(PEG400)と比較して、製剤DDAIP−HClが優れた薬物動態特性をパクリタキセルにもたらすと結論づけられることができる。さらに、単独のDDAIPと比較して、DDAIPHCl製剤は、優れた薬物動態特性をパクリタキセルにもたらした。
【0030】
10%PEG400、DDAIPおよび40%DDAI−HCl中で調剤したパクリタキセル(Taxol(登録商標))のPO送達のための標準試料は、パクリタキセルの既知量をラットブランク血漿に添加することによって作製した。標準試料をLC−MS/MSで分析し、次いでクロマトグラフピーク下の結果としての面積を用いて標準曲線を構築した。PO送達についてのこれらの結果を表I〜IIIに示す。
【0031】
【表1】
【0032】
最小二乗線形回帰による最良適合直線を以下の式で表す:
【0033】
面積比=4.66E−3(ng/mLでの濃度)−2.19E−03
−9.97E−01
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
10%PEG400および40%DDAI−HCl中で調剤したパクリタキセルのSC送達のための標準試料は、パクリタキセルの既知量をラットブランク血漿に添加することによって作製した。標準試料をLC−MS/MSで分析し、次いでクロマトグラフピーク下の結果としての面積を用いてSC送達についての標準曲線を構築し、表IVおよびVIに示す。
【0037】
【表4】
【0038】
最小二乗線形回帰による最良適合直線を以下の式で表す:
【0039】
面積比=2.32E−03(ng/mLでの濃度)+1.98E−04
=9.99E−01
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
別の実施形態では、パクリタキセル(Taxol(登録商標))は、水中10%ポリエチレングリコール300(PEG300)、またはDDAIP−HCl(40%)の水溶液中のいずれかで調剤した。上述のように、異なる製剤中に試験組成物を含む単一ボーラスとして強制経口投与(PO)によってラットに投与(5mg/kg)し、次いで血漿濃度を決定した。DDAIP−HClの水溶液は、最高10mMまでP糖タンパク質(P−gp)を阻害することなく、AUCにおいてPEG300製剤での達成の30倍の増加を達成した。この結果を図3のグラフで表す。
【0043】
実施例II
BCSクラス2、BCSクラス3およびBCSクラス4の各々から2種類の小分子治療化合物を選択し、頸静脈にカニューレを挿入した雄Sprague Dawleyラット(体重200〜250g)に経口投与(PO)した。BCSクラス2化合物は、ハロペリドールとスルファサラジンであった。ハロペリドールは、Haldol(登録商標)の商標名で販売されている抗精神病薬ブチロフェノンであり、スルファサラジンは、Azulfidine(登録商標)の商標名で販売されているメサラジンの抗炎症性サルファ剤誘導体である。クラス3化合物は、アテノロールとグルコサミン(塩形状でのグルコサミン硫酸塩)であった。アテノロールは、β遮断薬のクラスに属し、Senormin(登録商標)およびTenormin(登録商標)の商標名で販売されている。BCSクラス4化合物は、フロセミド(Lasix(登録商標))とクロロチアジド(Diuril(登録商標))であり、両方とも利尿薬である。
【0044】
BCSクラス2、3および4からの化合物をそれぞれ、ポリエチレングリコール400(20%PEG400)の水溶液、またはDDAIP−HCl(20%)水溶液のいずれかの液体担体中5mg/mLで調剤した。ハロペリドールとスルファサラジンのBCSクラス2化合物は、いずれかの液体溶媒中で懸濁液を形成した。アテノロールとグルコサミン硫酸塩のBCSクラス3化合物は、PEG400溶媒中で懸濁液を、水溶媒中で溶液を形成した。フロセミドとクロロチアジドのBCSクラス4化合物は、PEG400溶媒中で懸濁液を、水溶媒中で溶液を形成した。
【0045】
本研究では、1群あたり3匹の動物からなるコホートを設置した。1日目、各群からの動物に、30mg/kg(6mL/kg)を強制経口投与(PO)によって投与した。投与時に動物に給餌した。連続血液試料を投与前と、30分、1時間、2時間および4時間の間隔で投与後に採取した。血液試料は、リチウムヘパリンで被覆された管に採取した。各時点で、血液0.15mLを左側頸静脈のカニューレから採血し、血漿収集のために、約2,000rpmで約10分間遠心することで処理した。血液の細胞画分は廃棄した。血漿試料の収集時間および容量を記録し、表にした。血漿試料をクリーンな管に移し、ドライアイス上で瞬間凍結させた。LC−MS/MSによるバイオ分析の準備が整うまで試料を−80℃で保管した。結果を作表し、表VII.に示す。投与液を遠心分離した後、上清から薬物濃度を測定した。
【0046】
【表7】
【0047】
水溶媒またはPEG溶媒と比較して、DDAIP−HClが化合物の溶解性を改善することをこれらの結果は示している。ラット血漿でのこの改善は、薬物の血中濃度の増強にも反映している。特に、溶解性が決定因子であるBCSクラス2および4の化合物は、400倍を超える溶解性の改善と、20倍を超えるAUC改善を示した。DDAIP−HClを含む製剤は、それらの溶解性、したがってそれらの吸収を改善することによって、吸収しにくい小分子治療化合物の経口送達を有意に改善することをこのデータは示している。
【0048】
実施例III
本研究では、雄CD1マウス(Harlan,USA)を用いた。使用時の体重は20〜24gであった。1.5%メチルセルロース水溶液を、一晩連続して加熱、撹拌して作製した。これに、フェノールレッド50mgを添加して、1.5%メチルセルロース水溶液100mLにした。Tでマウスにフェノールレッド(150μL/マウス)を投与する15分前に、ランソプラゾール(10mg/kg)を含有するのと、含有しない生理食塩水または20%DDAIP遊離塩基(5mL/kg)でマウスに前処置した。フェノールレッドを投与してから10分後および30分後、マウスをイソフルランで安楽死させて、迅速に胃を切除した(幽門および噴門括約筋をクランプして胃内容物を喪失しないようにした)。次いで、胃をいくつかの片に切断し、A558nm測定のために処理する前に、水2mLを含有する15mL管に入れた。数匹のマウスに色素検索の最大指標として作用する色素を強制投与(色素75pgを各マウスに投与)した直後に犠牲した。
【0049】
色素投与から10分後および30分後の胃内容物排出のデータ(n=3)(すなわち、胃内に残存する色素量)を図4に示す。DDAIPで前処置すると、両時点での生理食塩水による前処置と比較して、胃内容物排出が遅くなった。ランソプラゾールをいずれかの溶媒中で投与したとき、同じパターンが観察された。色素を投与して、直ちに犠牲にしたマウスの胃には、投与した色素のすべての量(75μg)が実質的に含まれていた。溶解性の改善に加えて、吸収の増加は、胃内のAPIの保護のために胃内容物排出がより速くなることに起因するのではなく、および/または胃と腸での吸収の増加は、おそらく他の機序によることをこの実験が示している。
【0050】
実施例IV
Bio−Quantコロニー(産出系統:Marshall Farms,North Rose、New York,USA)からの合計9匹の雄Beagleイヌ(9.4〜10.6kgの範囲の体重、n=3の3群)を用いた。一晩絶食させ、ランソプラゾール(1動物あたり15mg)による処置の1時間前にペンタガストリン筋肉内注射(0.03mL/kgで6pg/kg)を投与した。ペンタガストリンによる筋肉内注射(60分前)と、ランソプラゾールによる処置(0時間)の前に血液試料を採血した。次いで、以下の表VIIIに詳述したランソプラゾールによってイヌを処置した。
【0051】
【表8】
【0052】
製剤:
1群:ランソプラゾール粉末15mgを含む単一ゼラチンカプセル(サイズ00)で投与した。
2群:単一ゼラチンカプセル(サイズ00)にDDAIP−塩基700μL(0.625g)と、ランソプラゾール粉末15mgとを混合した。
3群:5個のゼラチンカプセル(サイズ00)の各々にDDAIP−塩基700μL(0.625g)と、ランソプラゾール粉末3mgとを混合した。
【0053】
血液採取:
上記の表VIIIに示す各時点で、全血試料を伏在静脈から、ヘパリン処置した採血管に採取した。10,000rpm、4℃で10分間の遠心に続いて、血漿試料を収集し、LC−MSによる分析まで、−80℃で保管した。
【0054】
[結果および結論]
すべての群におけるランソプラゾールによる経口投与後の薬物動態プロフィルを図5に表す。表IXに、Tmax、CmaxおよびT1/2などの個々のパラメータを詳述する。単独のランソプラゾール粉末による処置と比較して、DDAIP(12カプセル中0.625gまたは全カプセル中3.125g)を添加することで、より高いCmax、より長いT1/2(表IX)およびAUC値の有意な上昇がもたらされた。Tmaxは、すべての群において1時間で発生した。さらに、AUC値も、両DDAIP処置群において有意に異なっていた。
【0055】
本研究は、この製剤にDDAIPを添加することによって経口投与したランソプラゾールの薬物動態プロフィルがイヌにおいて有意に改善されたことを明らかにしている。加えて、1ゼラチンカプセルの対照製剤またはDDAIP0.625gで処置した群と比較して、5ゼラチンカプセルのDDAIP3.125gで処置した群は、薬物動態特性が有意に改善したことを示した。この実験はヒト胃内の生理的pH値で行われたので、これらの改善がヒト対象者の投与を表すことになる。
【0056】
【表9】
【0057】
前述の考察および実施例は、例示であり、限定するものではない。本発明の精神および範囲内での他の変異形も可能であり、かつ当業者にとって容易に明らかとなろう。
図1
図2
図3
図4
図5