特許第5864547号(P5864547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58645473−ホルミル−セフェム誘導体の調製のための酸化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864547
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】3−ホルミル−セフェム誘導体の調製のための酸化方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 501/04 20060101AFI20160204BHJP
   C07D 501/34 20060101ALI20160204BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160204BHJP
【FI】
   C07D501/04
   C07D501/34 104
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-509528(P2013-509528)
(86)(22)【出願日】2011年5月9日
(65)【公表番号】特表2013-526502(P2013-526502A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011057404
(87)【国際公開番号】WO2011141415
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年1月17日
(31)【優先権主張番号】10162407.0
(32)【優先日】2010年5月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512290713
【氏名又は名称】バジリア・ファルマスーチカ・インターナショナル・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BASILEA PHARMACEUTICA INTERNATIONAL LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルヴェスト,イヴァン・ジョセフ・マリア
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−535059(JP,A)
【文献】 特開2006−182763(JP,A)
【文献】 European Journal of Organic Chemistry,2001年,2529-2534
【文献】 The Journal of Organic Chemistry,1997年,62(20),6974-6977
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,A61K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化7】

(式中、Rは、ヒドロキシ保護基であり、そしてRは、カルボン酸保護基である)で示される7−[2−(5−アミノ−[1,2,4]チアジアゾール−3−イル)−2−ヒドロキシ−イミノ−アセチルアミノ]−3−ホルミル−8−オキソ−5−チア−1−アザ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸誘導体の調製方法であって、
式(II):
【化8】

で示される化合物を、ジクロロメタン、ジクロロメタンとテトラヒドロフランの混合物及びジクロロメタンとアセトニトリルの混合物から選択される溶媒中で、10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤と、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ及び4−(アセチルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシから選択される触媒との組み合わせを用いて酸化することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
超原子価ヨウ素酸化剤が、ビス(アセトキシ)ヨードベンゼン(BAIB)又は[ビス(1,1,1−トリフルオロアセトキシ)−ヨード]ベンゼン(BTIB)から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
超原子価ヨウ素酸化剤が、ビス(アセトキシ)ヨードベンゼン(BAIB)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ヒドロキシ保護基Rが、ベンジル、フェニルエチル、ナフタレニルメチル、トリフェニルメチル又はトリ(C1−6アルキル)シリルから選択され、そしてカルボン酸保護基Rが、ジフェニルメチル、tert−ブチル、p−ニトロベンジル、p−メトキシベンジル、メトキシメチルから選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
が、トリフェニルメチルであり、そしてRが、ジフェニルメチルから選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
触媒が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
触媒量が、式(II)の化合物に対して0.05〜0.2molの範囲であり、そしてBAIBの量が、式(II)の化合物に対して1モル〜1.2molの範囲である、請求項5又は6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
式(II)の化合物に対して、触媒量が、0.1モルであり、BAIBの量が、1.1molである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、ジクロロメタンと、ジクロロメタンとテトラヒドロフランとの溶媒混合物から選択される、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(I)の化合物から、セフトビプロールの水溶性プロドラッグであるセフトビプロールメドカリルを製造する工程を更に含む、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
セフトビプロールの水溶性プロドラッグであるセフトビプロールメドカリルの製造方法であり、請求項1ないし9のいずれか一項に記載される方法で式(I)の化合物を製造することと、次いで、得られた式(I)の化合物を中間体として用いて、セフトビプロールメドカリルを製造することと、を含む製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ヒドロキシ−メチル−セフェム誘導体を、対応する3−ホルミル−セフェム誘導体に酸化するための、改良された方法に関する。詳細には、本酸化方法は、10−I−3型の超原子価ヨウ素酸化剤、例えば、ビス(アセトキシ)ヨード−ベンゼン(BAIB)と、触媒、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)との組み合わせを用いた、式(I)の7−[2−(5−アミノ−[1,2,4]チアジアゾール−3−イル)−2−ヒドロキシイミノ−アセチルアミノ]−3−ホルミル−8−オキソ−5−チア−1−アザ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸誘導体の調製方法である。式(I)で示されるこれらの化合物は、セフトビプロールの合成における中間体である。
【0002】
【化1】
【0003】
式(I)の化合物及びこれらの化合物の調製方法は、WO−01/90111に開示されている。また、WO−01/90111は、セフトブリプロールの調製方法も開示している。セフトビプロールのその他の調製方法は、WO−99/65920及び Drugs of the Future, 30(1), p.11-22 (2005) に開示されている。
【0004】
セフトブリプロールは、非経口で投与されるセファロスポリンであり、mec A産生ペニシリン結合タンパク質(PBP)2aをはじめとする、ほとんどのペニシリン結合タンパク質に対する高い親和性を有し、それをメチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)に対し活性化させる。セフトビプロールは、関連する耐性グラム陽性及びグラム陰性病原体に対し、インビトロで広範なスペクトル活性を示し、かつ耐性を引き起こす傾向が低い。これは、水溶性のプロドラッグ、セフトビプロールメドカリルとしてインビボで投与され、それが血漿中で速やかに切断され、セフトビプロール、ジアセチル及びCOを形成する。セフトビプロール及びセフトビプロールメドカリルの化学構造を以下に示す。
【0005】
【化2】
【0006】
【化3】
【0007】
WO−01/90111は、式(II)で示される3−ヒドロキシ−メチル−セフェム誘導体を、対応する、式(I)で示される3−ホルミル−セフェム誘導体に酸化するための2つの酸化方式(16頁の実施例2)を開示している。
【0008】
【化4】
【0009】
WO−01/90111に開示されている第1の酸化方式は、無機次亜ハロゲン酸(hypohalite)、例えば、次亜塩素酸ナトリウムと2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)との混合物を用いるが、これにより、反応混合物は、水とジクロロメタンとの二相混合物となり、これを激しく撹拌する。置換基Rは、ヒドロキシ保護基(トリフェニルメチル基)であり、そしてRは、カルボン酸保護基(ジフェニルメチル)である。報告されている収率は、74%である。
【0010】
WO−01/90111に開示されている第2の酸化方式は、テトラヒドロフランとジクロロメタンとの混合物に懸濁したMnOを酸化剤として用いる。報告されている収率は、52%である。
【0011】
本発明は一般に、酸化剤を用いた、第一級アルコールのアルデヒドへの酸化に関する。本分野で公知の酸化剤としては、例えば、ジョーンズ試薬(水中のクロム酸及び硫酸)、コリンズ試薬(ジピリジンCr(VI)オキシド)、デス−マーチンペルヨージナン(Dess-Martin Periodinane)、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、二クロム酸ピリジニウム(PDC)、MnO、o−ヨードキシ安息香酸(IBX)、メチル−2−ヨードキシベンゾアート、イソプロピル−2−ヨードキシベンゾアート、トリクロロイソシアヌル酸、並びにTEMPOと無機次亜塩素酸塩との組み合わせが知られている。最も適切な酸化剤の選択は、最良の結果を得るには、カルボン酸への過剰酸化、収率、不純物、コスト、反応時間、スケールアップの可能性等の問題を評価しなければならない、煩雑なプロセスである。
【0012】
WO−01/90111(16頁の実施例2)に開示されている、式(II)で示される3−ヒドロキシメチル−セフェム誘導体を、対応する、式(I)で示される3−ホルミル−セフェム誘導体に変換する酸化方式には、以下のような短所がある。
・ 低い収率:MnOを用いた場合、52%。
・ 低い収率:次亜塩素酸ナトリウムとTEMPOとの組み合わせを酸化剤として用いた場合、74%。
・ 過剰酸化(S−酸化物の形成)を最小限にするために、次亜塩素酸ナトリウムを、注意深く連続的に投与する必要がある。
・ 水とジクロロメタンとの不均質な二相系を、激しく撹拌する必要がある。
・ 大量の溶媒が必要である:約7.6リットル/mol。
【0013】
式(II)で示される3−ヒドロキシメチル−セフェム誘導体の、対応する、式(I)で示される3−ホルミル−セフェム誘導体への酸化に関する上述の短所は、10−I−3型の超原子価ヨウ素酸化剤、例えば、ビス(アセトキシ)ヨード−ベンゼン(BAIB)と、触媒、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)とを組み合わせることにより克服できることが、今や見出された。この酸化系は、0.05mol〜0.2molの範囲の触媒量のTEMPO及び1mol〜1.2molの量のやや過剰量のBAIBを用いる。BAIBは、触媒回路を閉じるために、酸化反応中に消費されるTEMPOを再生成する。この酸化方式には、以下の長所がある。
・ 収率の向上:最大84%。
・ 従来技術による上述の方式を社内で再現した際の純度83〜92%と比べた純度の向上(92.8〜97.9%の範囲)(LCを用いて測定した純度)。
・ 酸化剤の追加速度及び過剰酸化といった問題がないため、得られる生成物の品質が高まる。
・ 一つの有機相であるため、激しい撹拌の必要がなく、スケールアップがより容易かつ確実となる。
・ 用いる溶媒が低容量である:2〜5リットル/mol。
【0014】
本発明は、式(I):
【化5】

(式中、Rは、ヒドロキシ保護基であり、そしてRは、カルボン酸保護基である)
で示される7−[2−(5−アミノ−[1,2,4]チアジアゾール−3−イル)−2−ヒドロキシ−イミノ−アセチルアミノ]−3−ホルミル−8−オキソ−5−チア−1−アザ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸誘導体の調製方法であって、
式(II):
【化6】

で示される化合物を、適切な溶媒中の10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤、例えば、ビス(アセトキシ)ヨード−ベンゼン(BAIB)又は[ビス(1,1,1−トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTIB)と、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ及び4−(アセチルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシから選択される触媒との組み合わせを用いて酸化することを含むことを特徴とする方法に関する。
【0015】
本明細書で使用する用語「ヒドロキシ保護基」は、一般に水酸基の水素との置き換えに使用されている保護基を意味する。このような基の例は、例えば、ベンジル、フェニルエチル、ナフタレニルメチル、トリフェニルメチル、又は、例えば、トリメチルシリル若しくはtert−ブチル−ジメチルシリルのようなトリ(C1−6アルキル)シリルである。通常使用されているヒドロキシ保護基は、トリフェニルメチル基(トリチル基とも称される)である。
【0016】
本明細書で使用する用語「カルボン酸保護基」は、一般にカルボキシル基の水素との置き換えに使用されている保護基を意味する。これらの基の例は、例えば、ジフェニルメチル、tert−ブチル、p−ニトロベンジル、p−メトキシ−ベンジル、メトキシメチル等である。ジフェニルメチルが、通常使用されているカルボン酸保護基である。
【0017】
本明細書で使用する用語「C1−6アルキル」は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、1−メチルエチル、2−メチルプロピル、2−メチルブチル、ペンチル、ヘキシル等の、1〜6個の炭素原子を有する、直鎖及び分岐鎖の飽和炭化水素基を意味する。
【0018】
10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤については、De Mico A. らによりJ. Org. Chem., 62, 6974-6977(1997) に記載されており、例えば、ビス(アセトキシ)ヨード−ベンゼン(BAIB)又は[ビス(1,1,1−トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTIB)である。
【0019】
2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ及び4−(アセチルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシから選択される触媒の量は、式(II)の化合物に対して0.05〜0.2molの範囲であり、そして10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤の量は、式(II)の化合物に対して1mol〜1.2molの範囲である。実用においては、式(II)の化合物に対して、触媒量は通常0.1molであり、10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤の量は、1.1molである。
【0020】
本発明の酸化方法において使用する適切な溶媒は、ハロゲン化炭化水素、例えば、ジクロロメタン;エステル、例えば、酢酸エチル;エーテル、例えば、テトラヒドロフラン;炭化水素、例えば、トルエン;極性溶媒、例えば、アセトン及びアセトニトリル;並びにそれらの溶媒混合物、例えば、ジクロロメタンと、テトラヒドロフラン、アセトニトリル又は酢酸エチルとの溶媒混合物、酢酸エチルとテトラヒドロフランとの溶媒混合物及びトルエンとテトラヒドロフランとの溶媒混合物から選択される。
【0021】
実験の部
一般的酸化手順
・ 1molの7−[2−(5−アミノ−[1,2,4]チアジアゾール−3−イル)−2−トリチルオキシイミノ−アセチルアミノ]−3−ヒドロキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸ベンズヒドリルエステル(化合物2)を、反応容器に加えた。
・ 溶媒を加え、そして10℃まで冷却した。
・ 2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ及び4−(アセチルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシから選択される0.10molの触媒を加えた。
・ さらに5分間撹拌した。
・ ビス(アセトキシ)ヨード−ベンゼン(BAIB)から選択される1.1molの10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤を加えた。
・ 変換が完了(LCによる測定)するまで撹拌した。
・ 処理手順:
・ 反応生成物を、貧溶媒、例えば、シクロヘキサン(その他の適切な貧溶媒は、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、ジイソプロピルエーテル及びシクロペンチルメチルエーテルである)を加えることにより、沈殿させた。
・ 沈殿物を濾別した。
・ 沈殿物を洗浄した。
・ 単離した7−[2−(5−アミノ−[1,2,4]チアジアゾール−3−イル)−2−トリチルオキシイミノ−アセチルアミノ]−3−ホルミル−8−オキソ−5−チア−1−アザ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−2−エン−2−カルボン酸ベンズヒドリルエステル(化合物(1))を、減圧下、30℃で乾燥させた。
【0022】
結果:触媒は、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ)であり、そして10−I−3型超原子価ヨウ素酸化剤はBAIBである。
【表1】