特許第5864555号(P5864555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5864555低いソーラファクターを有する太陽光制御板ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864555
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】低いソーラファクターを有する太陽光制御板ガラス
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20160204BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20160204BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   G02B5/26
   G02B5/22
   C23C14/06 N
【請求項の数】25
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-511668(P2013-511668)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公表番号】特表2013-532306(P2013-532306A)
(43)【公表日】2013年8月15日
(86)【国際出願番号】EP2011058540
(87)【国際公開番号】WO2011147864
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年4月30日
(31)【優先権主張番号】BE2010/0310
(32)【優先日】2010年5月25日
(33)【優先権主張国】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ヘヴェシ, カドサ
(72)【発明者】
【氏名】シチャ, ジャン
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−524598(JP,A)
【文献】 特開平02−111644(JP,A)
【文献】 特表平04−504555(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/029466(WO,A1)
【文献】 特開平07−149545(JP,A)
【文献】 特開2007−106668(JP,A)
【文献】 特表2007−512218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02B 5/22
C23C 14/06
B32B 7/02
C03C 17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を反射する材料に基づく少なくともn個の機能層、及び(n+1)個の透明誘電体コーティングを、各機能層が透明誘電体コーティングによって包囲されるように含み、nが3に等しいか又はそれより大きい、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、スタックが、可視放射線スペクトルにおいて吸収性でありかつスタックの内側に位置される金属性の少なくとも一個の吸収層を含むこと、及び最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.25〜3.0であることを特徴とする透明基板。
【請求項2】
最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.3〜2.6であることを特徴とする請求項1に記載の透明基板。
【請求項3】
第一及び第二の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.3〜1.7であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明基板。
【請求項4】
透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第一及び第二の機能層の間に位置された透明誘導体コーティングの光学的厚さの比が、1.15〜3.4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明基板。
【請求項5】
最後の機能層を越えて位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.3〜3.3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明基板。
【請求項6】
第三の機能層の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、6.3〜13であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明基板。
【請求項7】
第二の機能層の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第三の機能層の幾何学的厚さの比が、0.45〜2.8であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明基板。
【請求項8】
吸収層が、機能層に直接近接して位置されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明基板。
【請求項9】
吸収層が、それと共通の界面を有する機能層上に直接位置されることを特徴とする請求項8に記載の透明基板。
【請求項10】
スタックが単一の吸収層のみを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明基板。
【請求項11】
スタックが複数の吸収層を含み、それらの各々が機能層に直接近接して位置されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明基板。
【請求項12】
機能層の全てが銀又は銀合金に基づくことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の透明基板。
【請求項13】
吸収層が最大7nmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の透明基板。
【請求項14】
多層太陽光制御スタックが、6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシートの上に付着されるとき、コーティングされたモノリシック板ガラスの全光吸収率Aが少なくとも25%であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の透明基板。
【請求項15】
0〜55°の観察の角度の変化時の、透明基板側上の反射におけるa及びbの変化が、絶対値として最大3.7であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の透明基板。
【請求項16】
スタックを担持する透明基板が、1.9より大きい選択性を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の透明基板。
【請求項17】
透明基板が、標準ソーダライムシリカガラスのシートであることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の透明基板。
【請求項18】
透明基板から出発して、第一、第二及び第三の機能層(それぞれIR1,IR2及びIR3)の幾何学的厚さが増加していること、透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第一及び第二の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が1.25〜3.1であること、及びIR3の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が6.3〜13であることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の透明基板。
【請求項19】
透明基板から出発して、第一、第二及び第三の機能層の幾何学的厚さが減少していること、第三の機能層IR3の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が7〜11であること、及び最後の機能層を越えて位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が1〜2.5であることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の透明基板。
【請求項20】
第二の機能層IR2の幾何学的厚さが第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも5%大きいこと、IR3の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が7.2〜13であること、及び最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が1.3〜3.3であることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の透明基板。
【請求項21】
透明基板から出発して三つの機能層の幾何学的厚さが10%の差の範囲内で等しいこと、最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板と第一の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が1.2〜2.1であること、及び、透明基板から出発して、第一及び第二の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が0.5〜0.8であることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の透明基板。
【請求項22】
透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが第一及び第三の機能層の少なくとも一つの幾何学的厚さより少なくとも10%小さく、これらの二つの機能層の他方の厚さに等しいか又はそれより小さいこと、及び透明基板から出発して最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、2.6未満であることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の透明基板。
【請求項23】
IR3の幾何学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が6.6〜10であること、及び層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比が1〜2.6であることを特徴とする請求項22に記載の透明基板。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれかに記載の透明基板を少なくとも一枚含む複層板ガラス。
【請求項25】
接着性プラスチックによってガラス状材料のシートに接合された請求項1〜23のいずれかに記載の透明基板の少なくとも一枚を含む積層板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板、及び太陽光制御多層スタックを担持するかかる透明基板を少なくとも一枚含む複層板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が関係する太陽光制御スタック(太陽光保護スタックとも称される)は、銀ベース層のような赤外線を反射する機能層を含み、それと反射防止誘電体コーティングが組み合わされる。反射防止誘電体コーティングは、光反射を低減し、色のようなスタックの他の特性を制御するのに役立つが、機能層のための結合及び保護コーティングとしても役立つ。太陽光制御スタックは一般に、誘電体層によって包囲された二つの機能層を含む。最近では、三つの機能層またはさらには三つより多くの機能層を含むスタックが、最も高い可能な光透過率を保持しながら太陽光保護をさらに改良するために提案されている。各機能層は、各機能層が誘電体コーティングによって包囲されるように少なくとも一つの誘電体コーティングによって間隔をあけられている。スタックの種々の層は、例えばマグネトロンタイプの周知の装置で磁界によって増強された減圧下でスパッタリングすることによって付着される。しかしながら、本発明はこの特定の層付着法に限定されない。
【0003】
これらの太陽光制御スタックは、例えば大きなガラスはめ込み表面積を有する封入空間の太陽光による過剰な過熱の危険を低減し、従って夏に求められる空調負荷を低減するために、太陽光保護板ガラスの製造に使用される。そのとき透明基板はガラスのシートからなることが多いが、それはPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのようなプラスチックフィルムから形成されてもよく、それは次いで積層板ガラスを形成するためにPVB(ポリビニルブチラール)又はEVA(エチレン/酢酸ビニル)フィルムのような接着性ポリマーフィルムによって二枚のガラスシートの間に封入されるか、又は複層板ガラスの内側上に封入される。
【0004】
この場合において、板ガラスはできるだけ小さい全エネルギー太陽光放射線を通過させなければならない。即ち、それは相対的に低いソーラファクター(solar factor)(FS又はg)を持たなければならない。しかしながら、それは建造物の内側の照明の十分なレべルを与えるように光透過率(T)の特定のレべルを保証することが極めて望ましい。これらの幾らか対立する条件は、ソーラファクターに対する光透過率の比によって規定される高い選択性(S)を有する板ガラスを得たいという希望を表わす。これらの太陽光制御スタックはまた、長波長赤外線放射によって熱の損失を低減することを可能にする低放射率を持つ。従って、それらは大きな板ガラス表面積の断熱性を改良し、寒い時期のエネルギー損失及び加熱コストを低減する。
【0005】
光透過率(T)は、可視範囲において板ガラスによって透過される光源D65の入射光束の百分率である。ソーラファクター(FS又はg)は、一方では板ガラスによって直接透過され、他方では板ガラスによって吸収され、次いで板ガラスに対してエネルギーの源とは反対の方向に放射される、入射エネルギー放射線の百分率である。
【0006】
これらの太陽光保護板ガラスは一般に、二層又は三層板ガラスのような複層板ガラスに組み立てられ、そこではスタックを担持するガラスのシートは一枚以上の他のガラスシート(それはコーティングを与えられても与えられなくてもよい)と組み合わされ、複層太陽光制御スタックはガラスシート間の内部空間と接触される。
【0007】
ある場合において、機械的応力に対する耐性を改良するためにガラスシートの熱強化のように板ガラスを機械的に強化するための操作を実施する動機がある。高温曲げ操作の助けで、特定の用途のためのガラスシートに対して多かれ少なかれ複雑な曲面を与えることも任意選択的に可能である。板ガラスを製造及び成形するための方法において、既に処理された基板をコーティングする代わりに、既にコーティングされた基板上にこれらの熱処理操作を実施することに特定の利点がある。これらの操作は相対的に高い温度で実施され、その温度では例えば銀に基づくような赤外反射材料に基づく機能層は、劣化し、赤外線に対してその光学的特性及びその特性を失う傾向を持つ。これらの熱処理は特に、シートの厚さ及び処理のタイプに依存して、空気中で560℃を越える温度で、例えば560℃〜700℃、特に約640℃〜670℃で、約6,8,10,12又はさらには15分間、ガラス状シートを加熱することにある。曲げ処理の場合において、ガラス状シートはそのとき所望の形状に曲げられてもよい。強化処理は、そのときシートの機械的強化を得るために空気又は冷却剤のジェットで平坦な又は湾曲したガラス状シートの表面を突然冷却することにある。
【0008】
それゆえ、コーティングされたガラスシートが熱処理を受ける場合には、本質的な目的を与える光学的及び/又はエネルギー特性を失わずに、強化及び/又は曲げ熱処理を受けることができる(以下「強化可能」という表現で言及される場合がある)スタック構造を製造するために極めて特別な注意を払うことが必要である。損傷する構造変性を示さずに高温の熱処理に耐える誘電体コーティングを形成するために誘電体材料を使用することが特に必要である。この使用のために特に好適な材料の例は、亜鉛−スズ混合酸化物であり、特にスズ酸亜鉛、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムである。また、例えば銀に基づいた機能層が、例えば処理のときに自由酸素を捕獲することによって銀の代わりに酸化することができる犠牲層があることを確実にすることによって、処理時に酸化されないことを確保することが必要である。
【0009】
また、板ガラスが光反射率(R)(即ち可視範囲における板ガラスによって反射される光源D65の入射光束の百分率)及び反射及び透過の色に関して特定の美的基準を満たすことが望ましい。特定の低い光条件下で正面を見るときに「ブラックホール」効果を避けるために適度であるが低すぎない光反射率の板ガラスを持つことが市場の要求である。適度な光反射率と高い選択性の組み合わせは、反射において紫色が得られることに導くことがあり、それはあまり美しくない。
【0010】
太陽光保護板ガラスはまた、自動車の窓ガラス、例えば自動車のフロントガラス及び他の窓ガラス(例えばサイドウィンドウ又はリアウィンドウ又はルーフウィンドウ)の分野で使用される。この分野では、窓は積層されることが多い。即ち、スタックを担持する基板は、PVBから一般に作られた接着性プラスチックフィルムによって別の透明基板(それはスタックを担持しても又は担持しなくてもよい)と組み合わされ、太陽光保護スタックはPVBと接触して積層体の内側上に位置される。自動車の窓は一般に、自動車の形状に対応するために湾曲されなければならない。基板が一枚のガラスシートであるとき、曲げ操作は高温で実施され、従ってそのスタックを備えた基板は、迅速な冷却ありで又はなしで強化処理と同様の熱処理を受け、上記のようにさらに基板が高温である間に成形操作を受ける。
【0011】
板ガラスを通って家屋又は車両に入る熱の量を低減するためには、目に見えない赤外線熱輻射が、板ガラスを反射することによって板ガラスを通って進むことが防止される。これは、赤外線を反射する材料に基づく機能層の役割である。それは、太陽光制御スタックにおける本質的要素である。しかしながら、熱放射線の大部分はまた、可視放射線によって透過される。熱放射線のこの部分の透過を減少し、赤外線によるエネルギーの入力の除去を乗り越えるためには、光透過率のレベルを低下することが必要である。
【0012】
最大の光透過率を保持しながら太陽光保護を改良するための幾つかの方策が提案されてきたが、本当に満足のいく板ガラスを与える方策は与えられていない。
【0013】
Germanらによる特許出願US2009/0047466A1は複層板ガラスを提案し、その一つのガラスシートは、三つの銀ベースの機能層を有するスタックを担持し、そこでは第一及び最後の誘電体コーティングは、TiN又はNbNからなる誘電体吸収材料を含む。中間の誘電体コーティングは透明であり、いかなる吸収材料も含まない。ガラス側上で反射において得られた色は満足すべきものではない。なぜならば、それは十分に中性ではなく、商業的な見地からふさわしくない色である紫の方の傾向を持つからである。さらに、その出願人は、色が相対的に安定であることを述べているが、図9及び10において、色が、基板側及びスタック側でともに反射において、又はスタックの層の厚さの変化時に、かなり多く変化することを点の分散が示すことが観察される。
【0014】
PPG Industriesの名前の特許出願WO2009/029466A1は、ガラスシートが三つの銀ベース機能層を有するスタックを担持する自動車のための積層板ガラスを記載する。銀層は、それらを担持するガラスシートから出発して減少する厚さを有する。この文献は、自動車のフロントガラスを形成するために使用されうる高い光透過率を有するスタックを記載する。しかしながら、例えば25%のオーダの低いソーラファクターに対して、得られた光学特性は、商業的見地から望ましい美的基準に合致しない。特に反射における色は明確に紫色であり、観察の角度の変化時に不安定である。さらに、得られた選択性は相対的に低い。
【0015】
Saint−Gobain Vitrageによって出願された特許出願EP645352A1は、太陽光保護板ガラスを記載し、そのスタックは、ガラスから出発して増加する厚さを有する銀の三つの層を含む。このスタックを含む太陽光保護二層板ガラスは、文献の実施例1及び2によれば、30又は34%のソーラファクターを有する。良好な太陽光保護を得るために、最大の光透過率を保持しながら、より低いソーラファクターを得ることに対して商業的要求がある。さらに、高い選択性は、工業的製造時に反射における色の安定性を犠牲にして得られるにすぎない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的の一つは、高い選択性を有する効果的な太陽光保護を確実にする太陽光制御多層スタックを担持する透明基板を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、コーティングされた基板が基板側で透過及び反射の両方において心地良い外観を有し、例えば特に相対的に中性色を有する商業的な要求に合致することである。
【0018】
本発明の別の目的は、反射における色の良好な角度安定性を有するコーティングされた基板をより容易に得ることを可能にすること、即ち、それが色相の大きな変化なしで極めて低い大きさ又は許容可能な大きさの色変動を持つことである。
【0019】
本発明の別の目的は、陰極の長さにわたる変動可能な付着速度に従って横方向の均一性の不足またはコーティングされた基板のバッチの製造時間時の層の厚さの変動があるときに基板側上で観察される反射における色の低い変動を持つコーティングされた基板を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、有利な費用コストで工業的規模で容易に大量生産されることができるコーティングされた基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、赤外線を反射する材料に基づく少なくともn個の機能層、及び(n+1)個の透明誘電体コーティングを、各機能層が透明誘電体コーティングによって包囲されるように含み、nが3に等しいか又はそれより大きい、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、スタックが、可視放射線スペクトルにおいて吸収性でありかつスタックの内側に位置される金属性の少なくとも一個の吸収層を含むこと、及び最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して、第二及び第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.25〜3.0、好ましくは1.27〜2.99であることを特徴とする透明基板に関する。
【0022】
この特徴の組み合わせは、高い太陽光保護性能(即ち、心地良く安定した美的外観を有する、高い選択性及び低いソーラファクター)を持つコーティングされた基板を容易に得ることを促進することが見い出された。また、4未満、好ましくは3未満の透過におけるbの値、及び3.5未満、好ましくは2.5未満の基板側上の反射におけるaの0〜55°の角度変動をより容易に達成できることが見い出された。
【0023】
この結果は、金属性の吸収層の存在が色、安定性、ソーラファクター、及び光透過率の間の特定の平衡を乱す傾向を持つので驚くべきことである。
【0024】
透明誘電体コーティングは、光線が有意な減衰なしに透過できることを可能にするコーティングである。即ち、減衰係数(k)は許容可能な光学的効果を持つためには十分ではない。例えば、550nmにおける減衰係数(k)は好ましくは0.3未満、有利には0.1に等しいか又はそれより小さい。
【0025】
波長によって様々な材料の屈折率の変動が実質的に異なりうる。本発明の文脈において、透明誘電体の光学的厚さは、以下の式を使用して計算されるだろう:
光学的厚さ=d×nν
式中、dは、問題の層の幾何学的(物理的)厚さであり、nνは、以下の式を使用して得られる実質的な屈折率である:
式中、n(550)は550nmの波長の材料の屈折率である。
【0026】
もし透明誘電体コーティングが幾つかの層から構成されるなら、考えられる透明誘電体コーティングの全光学的厚さは様々な層の光学的厚さの合計である。
【0027】
吸収層として単に以下に示される、可視スペクトルにおいて吸収性である金属性を持つ吸収層の金属性は、例えばスタックのXPS(X線光電子分光)分析によって決定されることができる。
【0028】
本発明の目的のため、スタックにおける吸収層の存在、及びこの層によるスタックを担持する基板の光吸収特性は、複層板ガラスにおいて又は積層板ガラスにおいて組み立てられる準備のなされた完成製品において検出され、測定されなければならない。それは、もしコーティングされた基板が高温熱処理を受けなければならないなら、吸収層は熱処理後に存在しなければならないということを意味する。特に、犠牲層のような層は、スパッタリング装置(例えばマグネトロン)において金属形態で付着され、次の層の付着時に酸化プラズマによって酸化され、及び/又はコーティングされた基板の続く熱処理によって酸化されてもよく、従って層は、完成製品ではもはや金属性でなく、可視放射線に対して透過性である。
【0029】
本発明の目的のため、機能層の材料以外の金属性の材料の完成製品のスタックにおける存在がスタックにおける吸収層の存在を示すだろうと考えられる。機能層を形成するために慣習的に使用される材料は、銀、金、プラチナ、銅、又はアルミニウムに基づく材料である。これらの材料は、単独で又は少量の別の元素との合金として使用される。例えば、銀は、特にその耐化学薬品性を改良するために少量のパラジウムとともに使用されることが多い。これらの要素は、赤外線を反射するために様々な度合いの性能を持つ。もし特定の性能を有する要素が機能層として使用されるなら、低い性能を持つ要素は、吸収層を形成するために使用されることができる。さらに、上で示したような、完成製品に存在する上で引用されたもの以外のいかなる金属も吸収層を形成することができるだろう。
【0030】
吸収層の材料は、任意選択的にわずかに酸化されてもよい。しかしながら、ここで理解されるような亜酸化は、酸化の程度が問題の材料の安定した化学量論レベルよりわずかに低い酸化物ではなく、例えばそれが安定した化学量論状態でない酸化物を包含するために完全に酸化されるときに絶縁している材料を導電性にするために理解される。金属性の吸収層の材料の金属に対する酸素の原子比は、問題の材料に依存して、マグネトロンで減圧下で反応性スパッタリング技術によって最も一般に形成される安定した化学量論的酸化物の原子比より少なくとも75%、好ましくは少なくとも70%、有利には少なくとも60%、好都合には少なくとも50%小さい。吸収層は、例えばこの高度に亜酸化された形態で付着されてもよい。しかしながら、好ましくは、吸収層は、中性雰囲気において金属ターゲットから金属形態で付着される。
【0031】
このタイプの層の金属性は、特にスタックにおいて問題の層のXPSプロファイリング(1〜3keVのエネルギー範囲のアルゴンイオンを使用してプロファイリングガンでのX線光電子分光プロファイリング)によって示されることができる。吸収層を形成する化学元素のスペシエーションのデコンボリューション解析は、層の金属性の根拠となる、これらの要素の一つ以上の金属状態の存在を示すことができる。しかしながら、この分析技術の感度を与えられると、金属性の吸収層のスペシエーション分析もまた、例えば製造時又はプロファイリング時の層の汚染のため、層の構成要素の酸化又は窒化形態の存在を示すことも全く可能である。しかしながら、層はなお金属性を持つと考えられるだろう。ある場合には、酸化又は窒化形態の信号強度は,金属形態のそれと比較して優勢であることができるが、層の一部の上の金属形態に結合された信号の存在のみで金属性の吸収層としてこの層を記載するのは十分であるだろう。実際、犠牲層の場合に上で述べたように、酸化物又は窒化物の別の誘電体層と接触して付着される金属性の層は、次に付着される前記誘電体層の付着プラズマによって、又は前記誘電体層から生じる酸素又は窒素の金属性の層への移行を可能にする続く熱処理によって、有意に酸化又は窒化されることができる。金属性の層のXPS分析は、次いで典型的に前記誘電体層との界面に近づくと金属形態の信号の有意な減少でスペシエーションプロファイルにおける勾配を示すだろう。これらのシナリオでは、Ti又はZrのような高反応性材料からなり、かつあまり大きくない、例えば7nm未満の厚さを有する金属性の吸収層について、XPSプロファイリング分析はまた、特にプロファイリング分析の経過時に層の内側の方への金属性の層の界面領域の自己汚染のため、純粋な金属形態(Ti)のいかなる根拠も示すことができないかもしれない。信号は、次いで吸収層の構成要素の異なる酸化段階に各々結合された酸化又は窒化形態から生じるXPSプロファイリング分析において見い出されるだろう。これらの信号は、界面酸化又は窒化の役割を持つ隣接層との界面から離れて移動すると確立される最も低い酸化段階から生じる信号の優勢を有する層のプロファイルにおける強度の勾配を持つだろう。本発明の文脈では、幾つかの安定した酸化段階を有する反応要素について、吸収層又は吸収層の少なくとも一部の構成要素の最も低い安定酸化段階に結合されたXPS信号の優勢は、前記吸収層の金属性の証拠であると考えられる。例えば、混合亜鉛−スズ酸化物層の下で付着された金属性のチタンの吸収層について、分析は三つの酸化段階を典型的に表わす:Ti2+,Ti3+及びTi4+。それゆえ、このタイプの金属性の層の最も低い酸化段階はTi2+であり、その相対強度は、典型的には隣接酸化物層から最も遠い層の部分で55%を越えるだろう。
【0032】
機能層を保護するためのバリヤー層が犠牲金属層であるとき、この層は実際には酸化され、最終製品において透明誘電体に変換される。この層は極めて薄いので、それは光学的特性に対してほとんど影響を持たない。しかしながら、もし多層スタックが強化及び/又は曲げのような高温熱処理に耐えなければならないなら、この犠牲金属層は、機能層を保護するために十分に酸化可能な金属性の予備を形成するためにより厚くされる。実質的にはこの層の全厚さは酸化物に変換される。誘電体コーティング厚さを含む本発明による種々の厚さ比の計算では、この酸化された犠牲金属層の厚さは、もし酸化された形態のその物理的厚さが2.5nm(それはTiから作られたバリヤーのために付着された金属の約1.4nmに対応する)を越えるなら、問題の誘電体コーティングの全厚さに含めなければならない。従って、比の計算は、高温熱処理を受けてはいけないスタックに慣習的に使用される薄いバリヤー層を考慮しない。特に吸収層として作用しうる、おそらく金属形態で残っている層の部分の厚さは、もちろん含められるべきではない。もし犠牲金属から作られた外部保護層が、熱処理を待つスタックを保護するために使用され、最終製品においてこの処理によって酸化されるなら、酸化された層の厚さは、比の計算で考慮されなければならない。同じことはまた、もし犠牲金属が窒化されかつ透明誘電体を形成するなら当てはまる。
【0033】
本明細書では、多層スタックの層の幾何学的厚さが与えられるとき、又は幾何学的厚さへの参照がなされるとき、それらは、波長分散型検出(WDS)を有するX線螢光(XRF)装置の助けでコーティングされた基板上で包括的に最初に測定される。この装置は、単一層として及び種々のスタック内に挿入される層として、2〜300nmで分布される既知の厚さの問題の材料の5〜10個のコーティングされた試料に基づいて各材料に対して測定される。もし材料がスタックにおける多数の層として存在するなら、この材料の全厚さは上記のようなXRF分析から導出され、次いでスタックの個々の層の各々にわたる全厚さの分布が、スタックのプロファイリング測定の助けで、例えば上で言及したXPSプロファイリングの助けで割り当てられる。ここで、文献では、犠牲層の厚さは、特に、本発明とは異なり、対応する酸化物の等価な厚さの形態で一般に与えられることが注目されるべきである。例えば、次の誘電体層を付着するために使用される酸化プラズマの作用下でTiOに変換される、銀上の金属チタンの付着によって生成される銀を保護するための犠牲層の厚さは、一般にTiOの等価な厚さとして与えられる。なぜならばそれは完了したコーティングで見い出される最終材料であるからであり、この形態では厚さがTiOでの校正を介して製造された完成製品で測定されるからである。この差は有意である。実際、チタンの場合には、TiOの等価な厚さとして表示される幾何学的な厚さは、付着された金属チタンの幾何学的厚さのほとんど二倍である。
【0034】
6mmの厚さを有する標準透明ガラスから作られたモノリシック基板上に三つの銀ベース機能層を含有するスタックにおける吸収層の存在は、少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%のコーティングされた基板の全光吸収率に導く。
【0035】
吸収層を形成するための好適な金属としては、特にNiCr,W,Nb,Ta,Ti,Zr,Cr,Ni,Mo,CoCr,Al,Y,Zn,Mg、それらの合金、好ましくはTi及びその合金が挙げられる。コーティングされた基板が熱処理を受けなければならないとき、Pd,Au,Pt,Ir,Rh,Ru,Os及びそれらの合金、またはパラグラフの初めに上で引用された他の金属の一つとの合金を使用することが好ましい。
【0036】
好ましくは、最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する基板から出発して第二と第三の機能層の間に位置された透明誘電体コーティング(以下、第三の誘電体コーティング又はD3として示される)の光学的厚さの比は、1.3〜2.6、有利には1.6〜2.6である。三つの機能層しかないとき(n=3)、最後の機能層は、基板から出発して第三のものである。もし四つの機能層があるなら、最後の層は第四のものであり、もし四つより多くの機能層が存在するならその数に応じて最後の層はその数の順番のものとなる。
【0037】
大規模な大量生産における色の安定性は、一定の品質の製品の製造を保証するための重要な要素である。比較目的のため、層の厚さの変動後の反射における色の変動は数学式の助けで定量化されている。製造における色変動の指数は「Deltacol」と称され、以下の式によって規定される。
式中、Δa及びΔbは、スタックの各銀層及び各透明誘電体コーティングの厚さが±2.5%で個々に変動するときに見い出されるa及びbのそれぞれの最高値と最低値の間の差である。値a及びbは、光源D65/10°の下で測定されたCIELAB 1976L値である。
【0038】
好ましくは、第一と第二の機能層の間に位置された透明誘電体コーティング(以下、第二の透明誘電体コーティング又はD2として言及される)の光学的厚さに対する第三の透明誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、0.3〜1.7、有利には1.1未満、好ましくは0.7未満である。この特徴は、8未満のスタック側上の反射におけるDeltacol値を容易に達成することができることが見い出された。好ましくは、この比は0.7未満である。従って、5.5未満のスタック側上の反射におけるDeltacol値、及び2.65未満の基板側上の反射におけるDeltacol値を達成することが容易である。
【0039】
好ましくは、基板と第一機能層の間に位置された透明誘電体コーティング(以下、第一の透明誘電体コーティング又はD1として言及される)の光学的厚さに対する第二の透明誘電体コーティングD2の光学的厚さの比は、1.15〜3.4、有利には1.2〜3である。
【0040】
好ましくは、最後の機能層を越えて位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する第一の透明誘電体コーティングD1の光学的厚さの比は、0.3〜3.3、有利には0.5〜2.7、好ましくは0.8〜2.5である。従って、1未満、又はさらにはマイナスの透過におけるb値を達成することが容易である。
【0041】
好ましくは、基板から出発して第三の機能層(以下、IR3としても言及される)の幾何学的厚さに対する第三の透明誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、6.3〜13、有利には6.4〜11、好ましくは6.6〜10である。
【0042】
好ましくは、基板から出発して第二の機能層(以下IR2としても言及される)の幾何学的な厚さに対する第三の犠牲層IR3の幾何学的な厚さの比は、0.45〜2.8、有利には0.5〜1.7、好ましくは0.5〜1.2である。IR3/IR2比のこれらの好ましい値は、5.5未満のスタック側上の反射におけるDeltacol値を容易に達成することができる。
【0043】
上述の機能層の幾何学的厚さ及び/又は透明誘電体コーティングの光学的厚さの間のこれらの種々の比を尊重することは、特にこれらの比が全て組み合わせて製造されるとき、心地よい安定した色及び高い選択性を有する高いエネルギー性能を有する太陽光制御スタックを得るために好ましい。このスタックは、尊重しやすい製造公差における良好な色安定性を持つので、工業的設備で容易に大量生産されることができる。スタック側で検査した反射のレベルが低い、特に20%未満のものが容易に得られることができることも見い出された。この方法では、スタックが位置2(位置1は通常、外側の面である)に置かれるときの家屋の内側の反射は、コーティングされた基板を通しての視界を制限しないようにあまり高くない。
【0044】
本発明によれば、可視放射線スペクトルにおいて吸収する金属性の吸収層は、スタックの内側上、即ち、基板と、少なくとも最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの最後の部分との間に位置され、従ってその上に、基板に対して透明誘電体材料の有意な厚さが少なくとも常に存在する。続く熱処理時にスタックを保護するために時々使用される、例えばTiの数nmの層であり、透明酸化物になるために前記熱処置時に酸化する、最後の金属保護外部層は、本発明による吸収層であるとは考えられない。それは、スタックの内側上に位置されない保護外部層である。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、透明誘電体コーティングの一部は、吸収層が透明誘電体コーティングの内側にあるように機能層の一つと吸収層の間に位置される。この実施形態では、これは本発明の実施のために必須ではないが、付着工程を容易にするように同じ中性雰囲気又は少なくともあまり酸化しない雰囲気で、任意選択的に別個の犠牲層を伴なって、機能層及び吸収層を付着できるために前記吸収層と隣接する機能層の一つの間に位置された透明誘電体コーティングの部分を付着するためのセラミック陰極を使用することが好ましいだろう。
【0046】
好ましくは、前記吸収層は機能層に直接近接して位置される。この配置は種々の理由のために有利であることを証明した。機能層のこの接近は、良好な光学的結果を得るために有利であるだけでなく、さらに吸収層が金属性を有するとき、それは、機能層として中性雰囲気下で同じ付着領域で付着されることができ、それはスタックを形成するための工程を容易にする。多数の層を有する複雑なスタックの製造では、これは、装置のサイズを制限する有意な利点である。さらに、吸収層の金属性は、相対的に高い付着速度を得ることを可能にする。この利点は、機能層の接近と組み合わせて、少なくとも三つの機能層の存在によって既に極めて洗練されたスタック形成工程を容易にする。
【0047】
表現「直接近接」は、機能層と吸収層の間に誘電体コーティングが全くないか、又は7nmより大きい、好ましくは5nmより大きい、有利には3nmより大きい、さらには1nmより大きい厚さを有する誘電体コーティングの部分がないことを意味するものとして理解されるべきである。他方、これは、例えば、中性雰囲気又は極めて低い割合の酸素を含有する雰囲気における酸化物のセラミックターゲットのスパッタリングから得られた酸化物の薄い層が存在しうることを意味する。それは、例えば、ジルコニウム又はニオブを任意選択的にドープされたTiOに基づくか又はZrもしくはNbの酸化物とのTiOの混合酸化物の形の薄い層、又はアルミニウムをドープされたZnOに基づく薄い層、又は対応する酸化物のセラミック陰極から得られた薄い層であることができる。それはまた、NiCrOの薄い層又は同様の層であってもよく、例えばNiCrの吸収層が続いてもよい。
【0048】
機能層と直接近接した吸収層は、機能層の上に又はその下に位置されることができる。有利には、それは上に位置される。これは、入射放射線が基板を通って入るときにスタックの加熱の危険を低下することを可能にする。なぜならば熱放射線の一部が機能層によって既に反射されるからである。スタックが一定レベルを越えて加熱する危険があるとき、及びスタックを担持する基板がガラスから作られるとき、陰の領域を有する太陽光への板ガラスの露出時の熱衝撃による基板の破壊の危険がある。それゆえ、基板は、高温熱強化の形の機械的強化処理を受けなければならず、それは製造コストの増加に導く。
【0049】
好ましくは、吸収層は、それと共通の界面を有する機能層上に直接位置される。従って、同じ材料の一つの同じ層において吸収層の役割と犠牲層によって機能層を保護する役割を組み合わせることが可能である。従って、吸収層の材料は、犠牲層のためにしばしば使用される金属、例えばチタン、NiCr,Nb、又はZrの一つであることができる。これは、スタック付着工程を大いに簡単にする。この場合において、機能層上に公知の方法で使用される犠牲層は、次に付着される誘電体コーティングの付着プラズマによって大きく酸化され、好ましくは完全に酸化され、従ってこの層が可視光に対して本質的に透明になることは明らかに理解されるはずである。吸収層がまた、本発明のこの好ましい実施形態に従って犠牲層の役割を果たす場合には、それは単純な犠牲層より厚くなるだろう。この方法では、それは、続く層の付着プラズマによる可能な酸化後、及び任意選択的に強化及び/又は曲げ熱処理のようなこの層の酸化をもたらすいかなる続く熱処理後に、上で与えられた規定に従った金属性をその厚さの少なくとも一部分にわたって有する可視放射線のための吸収層を残すだろう。この場合において、付着された層は、吸収層によって要求される吸収のレベルを得るために必要なものより厚くなり、この層の一部は、犠牲層の役割を果たし、使用の準備のできたコーティングされた基板の製造時に透明になる。付着工程時に酸化物に変換される金属の厚さは、幾つかの要因、特にプラズマの一定の酸化レベル、及びこのプラズマにおける残留時間をもたらす(スパッタリング装置のための)陰極に付与される電力と関連して層を付着するための装置内に基板を移送するコンベヤのスピードに依存することが明らかに注目されるべきである。これは、明細書において、特に例示的な実施形態において、「吸収層」の形の吸収部分と、「保護層」又は「バリヤー層」の形の酸化犠牲部分の間で、たとえこれらの二つの部分が単一の材料の一つの同じ層の付着から現実的に生じ、一方から他方への移行が漸進的な酸化によって徐々に起こるとしても、区別を付けた理由である。
【0050】
好ましくは、吸収層は第一と第二の機能層の間に位置される。吸収層のこの配置は、上で引用された文献US2009/0047466A1の教示に反するが、驚くべきことに、エネルギー吸収率を最大48%、好ましくは最大45%に制限することによって、二層板ガラスにおいて例えば28%未満、さらには26%未満、さらには24%未満の極めて低いソーラファクターを容易に得ることができ、それは、支持体が通常のガラスから作られるか又は同様の脆い材料から作られるときに支持体破壊の危険なしに熱衝撃に耐えるために、強化熱処理、即ち機械的強化熱処理を実施しなければならない義務を避けることを見い出した。さらに、本発明によるこの配置は、板ガラスがある低周囲光条件下で観察されるときに「ブラックホール」効果を避けるために、例えば少なくとも9〜11%の低すぎない基板側上で観察される光反射率を容易に得ることができる。本発明によるこの配置はまた、陰極の長さにわたって変動可能な付着速度に従った横方向の均一性の不足又はコーティングされた基板のバッチを製造するための時間のときの層の厚さの変動があるときに反射における色の小さな変動及び極めて良好な角度安定性を得ることを可能にする。
【0051】
一つの実施形態によれば、スタックは単一の吸収層だけを含むことが好ましい。これは、製造工程を単純化し、スタックの特性の調整を容易にするために有利である。一方、スタック上の単一の場所へのいかなる吸収材料の配置も、スタックの構造の複雑性が光吸収の様々な部位の存在によって増加されないことによってその製造を容易にする。他方、光吸収の単一の配置は、スタックの光学的特性の開発のための大きなフレキシビリティを与え、特に反射における色の角度安定性を改良し、製造公差を増加することができる。
【0052】
別の実施形態によれば、スタックは複数の吸収層を含むことが好ましく、それらの各々は機能層に直接近接して位置される。この配置は、機能層によって反射される部分を考慮してスタックの全体にわたって光及びエネルギー吸収を分布することを可能にする。
【0053】
上で述べたように、機能層は貴金属から形成されることが有利である。それらは、銀、金、パラジウム、プラチナ、又はそれらの混合物もしくは合金に基づくことができるが、単独で、互いの合金として又は一種以上の貴金属との合金として、銅又はアルミニウムに基づくことができる。好ましくは、全ての機能層は銀に基づく。これは、赤外線の反射の極めて高い効率を有する貴金属である。それはマグネトロン装置に容易に使用され、その費用コストは特にその効率に対してあまり高くない。有利には、銀は、数パーセントのパラジウム、アルミニウム、又は銅を例えば1〜10%の割合でドープされるか、又は銀合金を使用することができる。
【0054】
本発明のある有利な実施形態によれば、四つの機能層があり、それらは、低いソーラファクターのために特に高い選択性を容易に得ることを可能にする。本発明の他の有利な実施形態によれば、三つだけの機能層があり、それは、高い選択性を得ることと、製造コストに影響するスタックの複雑性との間の好ましい妥協である。
【0055】
好ましくは、吸収層は、最大7nm、有利には、最大5.5nm、好ましくは最大4.5nm、さらには最大4nm、好ましくは少なくとも0.5nm、有利には少なくとも1nmの厚さを有する。
【0056】
好ましくは、多層太陽光制御スタックが6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシートの上に付着されるとき、コーティングされたモノリシック板ガラスの全光吸収率Aは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%である。この光吸収率値は、完成製品で測定される。即ち、もしコーティングされたガラスシートが完成製品を形成するために強化及び/又は曲げ操作のような高温熱処理を受けることを意図されるなら、光吸収率値はこの熱処理後に測定される。それは、使用される少量の吸収材料とソーラファクターに対する影響の効率の間の有利な比である。
【0057】
好ましくは、基板側上で見た反射における色変動Deltacol(上で規定した)は、3未満、有利には2.7未満、好ましくは2.4未満、さらに好ましくは2.2未満である。従って、コーティングされた基板が得られ、基板側上の反射におけるその外観は、製造時の層の厚さの変動に導きうる工業的規模の大量生産の予想のつかない変転にあまり敏感ではない。
【0058】
好ましくは、スタック側上で見た反射における色変動Deltacolは、10未満、有利には5未満である。同じようにして、コーティングされた基板が得られ、スタック側上の反射におけるその外観は、製造時の層の厚さの変動に導きうる工業的規模の大量生産の予想のつかない変転にあまり敏感ではない。
【0059】
好ましくは、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるa及びbの変動は、絶対値として最大3.7であり、有利には最大3.1である。好ましくは、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるaの変動は、−3.1〜2.5である。これは、特に有利な色安定性を与える。なぜならば正面の全体外観は、観察の角度に従って、例えば観察者の動きに従ってほとんど変動しないからである。
【0060】
好ましくは、多層太陽光制御スタックが6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシートの上に付着されるとき、及びこのコーティングされたシートが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの別のシートと二層板ガラスとして装着されるとき、二層板ガラスのソーラファクターFSは28%未満、有利には26%未満であり、光透過率Tは57%未満、有利には54%未満、好ましくは51%より小さいか又はそれに等しい。従って、効果的な太陽光保護スクリーンを形成する透明板ガラスを得ることができる。
【0061】
好ましくは、スタックを担持する基板は、スタックが6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシート上に付着されるとき、及びこのコーティングされたシートが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの別のシートとともに二層板ガラスとして装着されるとき、1.9より大きい、有利には1.94より大きい、好ましくは1.98より大きい選択性を有する。
【0062】
透明誘電体コーティングは、スパッタリングによって付着される層の分野では良く知られている。多くの好適な材料が存在し、ここではそのリストを作ることは無駄である。それらは一般的に酸化物、酸窒化物又は金属窒化物である。最も一般的なものでは、例えばSiO,TiO,SnO,ZnO,ZnAlO,Si,AlN,Al,ZrO,Nb,YO,TiZrYO,TiNbO,HfO,MgO,TaO,CrO及びBi並びにそれらの混合物が挙げられる。AZO,ZTO,GZO,NiCrO,TXO,ZSO,TZO,TNO,TZSO,TZAO及びTZAYOもまた、挙げられる。表現「AZO」は、アルミニウムをドープされた酸化亜鉛、又は亜鉛及びアルミニウムの混合酸化物に関し、好ましくは中性又はわずかに酸化している雰囲気において付着される酸化物によって形成されたセラミック陰極から得られるものである。同様に、表現「ZTO」又は「GZO」は、それぞれチタン及び亜鉛の混合酸化物、又は亜鉛及びガリウムの混合酸化物に関し、それらは中性又はわずかに酸化している雰囲気においてセラミック陰極によって得られるものである。表現「TXO」は、酸化チタンのセラミック陰極から得られる酸化チタンに関する。表現「ZSO」は、酸化雰囲気下で付着された合金の金属陰極から又は中性もしくはわずかに酸化している雰囲気で対応する酸化物のセラミック陰極から得られた亜鉛−スズ混合酸化物に関する。表現「TZO」、「TNO」、「TZSO」、「TZAO」又は「TZAYO」は、それぞれチタン−ジルコニウム、チタン−ニオブ、チタン−ジルコニウム−スズ、チタン−ジルコニウム−アルミニウム又はチタン−ジルコニウム−アルミニウム−イットリウム混合酸化物に関し、それらは中性又はわすかに酸化している雰囲気においてセラミック陰極から得られるものである。上で引用した全てのこれらの材料は、本発明に使用される透明誘電体コーティングを形成するために使用されることができる。
【0063】
好ましくは、少なくとも一つの透明誘電体コーティングは、ZnSnOを形成するために少なくとも20重量%、例えば約50重量%のスズを含有する亜鉛−スズ混合酸化物に基づいた少なくとも一つの層を含む。この酸化物は、熱処理を受けることができるスタックにおいて透明誘電体コーティングとして極めて有用である。
【0064】
好ましくは、ガラス状材料のシートと機能層の間に位置された下側の透明誘電体コーティングは、少なくとも20重量%のスズを含有する少なくとも一つの亜鉛−スズ混合酸化物を含み、外側の透明誘電体コーティングはまた、少なくとも20重量%のスズを含有する少なくとも一つの亜鉛−スズ混合酸化物を含む。この配置は、外側から生じる酸化及びガラス状材料から生じる酸素の両方に対して吸収層及び機能層を保護するために極めて好ましい。
【0065】
好ましくは、一つ以上の機能層の下に位置された透明誘電体コーティングは、機能層と直接接触して、例えばアルミニウム又はガリウムを任意選択的にドープされた酸化亜鉛に基づく層を含む。酸化亜鉛は、特に機能層が銀であるときに機能層の安定性及び耐腐食性に対して特に好ましい効果を持つことができる。また、銀ベースの層の電気伝導性の改良、従って特に熱処理時の低放射性を得るために好ましい。
【0066】
有利には、各機能層の下に位置された透明誘電体コーティングは、機能層と直接接触して、約20重量%以下のスズ及び少なくとも約80重量%の亜鉛、好ましくは約10重量%以下のスズ及び少なくとも約90重量%の亜鉛を有する亜鉛−スズ混合酸化物に基づいた層を含む。機能層の下側で機能層と直接接触して高含有量の酸化亜鉛を有するこの混合酸化物は、特に機能層が銀に基づくときに強化及び/又は曲げタイプの高温熱処理に対する機能層の抵抗のために有利である。機能層の下で高含有量の亜鉛を含有するこの混合酸化物と下側及び外側の誘電体において少なくとも20重量%のスズを含有する亜鉛−スズ混合酸化物との組み合わせは、高温熱処理時のスタックの良好な耐性のための最も有利な構造を構成する。
【0067】
好ましくは、基板は標準ソーダライムシリカガラスのシートである。これは、太陽光制御板ガラスのためのベースとして作用するために最も好適な基板である。好ましくは、基板は、90%より大きい、さらには91%に等しいか又はそれより大きい、さらには92%に等しいか又はそれより大きい光透過率を有する超透明ガラスのシートである。一つの特に好ましい基板は、AGC Glass Europeという会社によって商品名「CLEAR VISION(登録商標)」の下で販売されるガラスである。
【0068】
一つの有利な実施形態によれば、基板から出発して第一、第二及び第三の機能層(それぞれIR1,IR2及びIR3)の幾何学的厚さが増加している。この構成は、特にそれが1.25〜3.1のD1の光学的厚さに対するD2の光学的厚さの比、及び6.3〜13のIR3の幾何学的厚さに対するD3の光学的厚さの比と組み合わされるとき、緑/黄領域に向かう傾向を顕著に持たずに強い青成分を持つ透過における色と、即ち1より小さいか又は1に等しい、好ましくは0より小さいか又は0に等しい透過におけるbの値と組み合わせて、上で述べた二層板ガラスにおいて28%未満のソーラファクターのような極めて低いソーラファクターに対する特に高い選択性、特に1.98より大きいか又はそれに等しい選択性を得ることを容易にする。実際、低いソーラファクターを有する高い選択性の一つの特にやっかいな問題は、商業的見地から望ましくない緑色に向かう自然な傾向である。この配置はまた、二層板ガラスにおいて高すぎない、特に19%未満のガラス側上で検査される光反射率を同時に得ることを可能にするが、とりわけ光反射率を8〜9%の低さで得ることを可能にする。この配置はまた、基板側上で反射におけるDeltacolの低い値を容易に得ることを可能にする。好ましくは、この配置はまた、0.5〜1.7、有利には0.5〜0.8又は1.25〜1.7のD2に対するD3の光学的厚さの比と、及び/又は1〜2.8、有利には1.8〜2.8の層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比及び/又は1.6〜3、有利には2.35〜2.75の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD3の光学的厚さの比及び/又は0.3〜2.1、有利には1.4〜2.4の最後の透明誘電体コーティングに対するコーティングD1の光学的厚さの比と組み合わされる。また、これらの比を全て同時に尊重することが有利である。
【0069】
別の有利な実施形態によれば、基板から出発して第一、第二及び第三の機能層の幾何学的厚さは減少している。機能層のこの厚さの減少する構成では、第三の機能層IR3の幾何学的厚さに対する第三の透明誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、好ましくは7〜11である。機能層のこの厚さの減少する構成では、最後の機能層を越えて位置された透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する第一の透明誘電体コーティングD1の光学的厚さの比は、好ましくは1〜2.5である。特に前記比と組み合わせたこの構成は、例えば42%より小さいか又はそれに等しい、さらには39%より低いか又はそれに等しい最小のエネルギー吸収率で低いソーラファクターを得ることを容易にし、それは、特に23%〜25%の極めて低いソーラファクターを有するコーティングされた基板を得ることを可能にすることによって有利であり、それは、上述のようにコーティングされた基板の熱処理による機械的強化を要求しない。さらに、この構成は、例えば1.5〜1.5の、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるaの極めて低い変動を容易に得ることを可能にする。好ましくは、この実施形態はまた、0.3〜0.7のD2に対するD3の光学的厚さの比と、及び/又は0.5〜1.1の層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比及び/又は1.3〜1.6の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD3の光学的厚さの比及び/又は1.6〜3のコーティングD1に対するD2の光学的厚さの比と組み合わされる。さらに、これらの比を全て同時に尊重することが有利である。
【0070】
別の有利な実施形態によれば、第二の機能層IR2の幾何学的厚さは、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%大きい。この構成は、それが7.2〜13、好ましくは7.2〜10のIR3の幾何学的厚さに対するD3の光学的厚さの比と、及び1.3〜3.3、好ましくは1.6〜2.7の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD1の光学的厚さの比と組み合わされるとき、特に3未満の、層側上の反射におけるDeltacolの低い値を得ることを容易にする。この配置はまた、二層板ガラスにおいて特に17%より大きい、例えば17〜20%の、十分に高いガラス側上で検査された光反射率を同時に得ることを可能にし、従って板ガラスは、もしこれが所望の効果であるなら、建造物の正面に対して一定の強い明るさを与える。好ましくは、この実施形態はまた、0.4〜1.1、有利には0.4〜0.75のD2に対するD3の光学的厚さの比と、及び/又は0.4〜0.9の層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比及び/又は1.75〜3の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD3の光学的厚さの比及び/又は1.6〜2.7のコーティングD1に対するD2の光学的厚さの比と組み合わされる。また、これらの比を全て同時に尊重することは有利である。
【0071】
別の有利な実施形態によれば、基板から出発して三つの機能層の幾何学的厚さは、10%の差以内、好ましくは8%の差以内、有利には4%の差以内である。この構成は、特にそれが1.2〜2.1の最後のコーティングの光学的厚さに対するD1の光学的厚さの比と、及び0.5〜0.8のD2の光学的厚さに対するD3の光学的厚さの比と組み合わされるとき、透過における青味かがった色、即ち1未満、好ましくは0未満のb、及び例えば−1.2〜0.8の、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるaの極めて低い変動を得ることを容易にする。好ましくは、この実施形態はまた、8〜10のIR3の幾何学的厚さに対するD3の光学的厚さの比と、及び/又は0.9〜1.1の層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比及び/又は2.15〜2.6の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD3の光学的厚さの比及び/又は1.5〜2.6のコーティングD1に対するD2の光学的厚さの比と組み合わされる。また、これらの比を全て同時に尊重することは有利である。
【0072】
別の有利な実施形態によれば、基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さは、第一及び第三の機能層の少なくとも一方の幾何学的厚さより少なくとも10%小さく、これらの二つの機能層の他方の厚さより小さいか又は等しい。好ましくは、これらの二つの機能層の他方のものは、前記第二の機能層の厚さより少なくとも4%、有利には少なくとも8%、好ましくは少なくとも10%大きい幾何学的厚さを有する。この構成は、特に基板から出発して最後の機能層を越えて位置された最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対する透明誘電体コーティングD3の光学的厚さの比が2.6未満、好ましくは2.2未満、有利には2未満であるとき、例えば少なくとも2又はそれに近い高い選択性と、40%未満のオーダの最小のエネルギー吸収率と組み合わせた、例えば25%のオーダの極めて低いソーラファクターを容易に得ることを可能にする。最後の透明誘電体コーティングの幾何学的厚さに対するD3の幾何学的厚さのこの比は、好ましくは1.3大きい。さらに、第三及び最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さの前記比と組み合わせたこの構成は、二層板ガラスにおいて「ブラックホール」効果を避けるためには十分高いが眩惑を避けるためにはあまり高くない、例えば16〜20%のオーダの基板側上の光反射率を持ちながら、紫色、即ち−5より大きい、好ましくは−1〜−3のaを得る危険なしに基板側上の反射における緑色を容易に避けることを可能にする。好ましくは、この実施形態はまた、6.6〜10、好ましくは7〜9.2のIR3の幾何学的厚さに対するD3の光学的厚さの比と、及び1〜2.6の層IR2に対するIR3の幾何学的厚さの比及び/又は0.4〜1.1のD2に対するD3の光学的厚さの比及び/又は0.5〜2.7の最後の透明誘電体コーティングの光学的厚さに対するD1の光学的厚さの比及び/又は1.15〜3.4のコーティングD1に対するD2の光学的厚さの比と組み合わされる。また、これらの比を全て同時に尊重することが有利である。これは、基板側上の反射における色の緑色を減少すること、例えば−4より大きいか又はそれに等しい、好ましくは−3よリ大きい、さらには−2より大きいaにすることを可能にすることが見い出された。さらに、これはまた、例えば40%未満、さらには38%未満の特に低いエネルギー吸収率を可能にする。
【0073】
本発明は、上記のような太陽光制御多層スタックを担持する少なくとも一つの基板を含む複層板ガラスに及ぶ。基板は、好ましくは標準ソーダライムガラスのシートである。好ましくは、基板は、90%より大きい、さらには91%より大きいか又はそれに等しい、さらには92%より大きいか又はそれに等しい光透過率を有する超透明ガラスのシートである。一つの特に好ましい基板は、AGC Glass Europeという会社によって商品名「CLEARVISION(登録商標)」の名称で販売されるガラスである。本発明は、極めて有用な太陽光制御複層板ガラスを提供する。
【0074】
多層スタックのコーティングされた基板は、例えば二層又は三層板ガラスのような複層板ガラスとして組み立てられることが好ましく、従ってそれが建造物に装着されるとき、太陽光線は、まずコーティングされたガラスシートのスタックのない側上に当たり、次いでスタックに当たり、次いで第二ガラスシートに当たり、次いで任意選択的に第三ガラスシート(もしそれが三層板ガラスであるなら)に当たる。それゆえ、スタックは、一般的に使用される慣習に従えば、位置2にある。この位置では、太陽光保護が最も効果的である。
【0075】
好ましくは、多層スタックを担持する基板が6mm標準透明ガラスのシートであるとき、及びそれが4mmの厚さを有するコーティングなしの標準透明ガラスのシートを有する二層板ガラスとして装着されるとき、かくして形成された二層板ガラスは、30%未満、例えば23〜26%のソーラファクター、44%より大きいか又はそれに等しい光透過率、7〜19%、好ましくは11〜19%の外部光反射率(即ち、コーティングされたガラスシートのガラス側上のもの)を有し、外部反射において青っぽい色を持ち、bの値がaより小さいことによって特徴づけられる。
【0076】
本発明はまた、接着性プラスチックによってガラス状材料のシートに接合された上記のような少なくとも一つの透明基板を含む積層板ガラスに及ぶ。かかる板ガラスは、自動車のための板ガラスとして有利に使用される。
【0077】
本発明は、以下の好ましい例示的実施形態の助けで、非限定的な方法で、より詳細に記載されるだろう。
【実施例】
【0078】
実施例1
6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの2m×1mのシートが、マグネトロンタイプの減圧(約0.3〜0.8Pa)で磁界によって増強されたスパッタリング装置に置かれる。このガラスシート上に、以下に説明される方法で多層太陽光制御スタックが付着される。
【0079】
第一透明誘電体コーティングがガラスシート上に付着される。この第一コーティングは、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極から、アルゴン及び酸素の混合物からなる反応雰囲気において付着される亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。第一の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金の陰極から形成される。約9.2nmの幾何学的厚さを有する第二の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金のターゲットから付着される。亜鉛−スズ混合酸化物の第一層の厚さは、以下の表1に示された第一透明誘電体コーティングD1の光学的厚さに相当する幾何学的厚さを達成するために第二層の厚さに対するバランスである。表1では、厚さ値は、オングストローム(Å)で与えられる。
【0080】
アルゴンの中性雰囲気においてスパッタリングされた実質的に純粋な銀のターゲットからの銀から形成された赤外反射IR1機能層は、次いで第一透明誘電体コーティングD1上に付着される。この層IR1の幾何学的厚さは、表1にオングストローム(Å)で与えられる。
【0081】
チタンTiの層は、チタンターゲットから中性雰囲気において、それと共通の界面を有する銀層の上に直接付着される。第一に、この層は完成製品において吸収層Abs1の部分として作用する。さらに、それは、犠牲金属として、バリヤー層B1、又は銀層IR1のための保護層を形成することを意図される。以下に記載される、続く層の付着時のプラズマの酸化雰囲気は、チタンの犠牲層B1を酸化するだろう。付着されたTiの層の全幾何学的厚さは、実施例1について1.3nmである表1で特定された幾何学的厚さを有する吸収層Abs1を形成する金属性の幾らかのTiが完成製品に残るように十分である。高温で熱処理可能でない完成製品において吸収層のこの厚さを得るために、2.7nmのチタンは実際、銀層上に付着された。それゆえ、保護層B1は、表1にオングストロームで示される1.4nmの幾何学的厚さを有する。強化、曲げ及び/又は硬化処理(その硬化処理は、迅速冷却があまり顕著でない強化処理である)を受けるために意図されるスタックのために、3.9〜4.7nmのチタンは、同じ条件下で付着されるだろう。2.5nmを超える酸化物に変換された保護層の厚さ(強化不可能なスタックの場合において付着されるような保護層B1のTiの幾何学的厚さの1.4nmに対して酸化物として対応する値)は、本発明による比の計算のために続く誘電体コーティングの厚さに加えられなければならないだろう。それゆえ、可視スペクトルにおいて吸収する金属をもちろん除外する。
【0082】
変形例として、続く誘電体コーティングを付着する前に、任意選択的にドープされた酸化チタン又は酸化亜鉛のそれぞれのセラミック陰極から出発して中性雰囲気において、アルミニウムを任意選択的にドープされたTiO又はZnOの1〜2nmの薄い層を吸収層Abs1の上に直接さらに付着することもできる。この薄い層は、そのとき吸収層の銀及びTiを保護するためのバリヤー層B1を構成する。Tiの全層はそのとき1.3nmにすぎない。
【0083】
同様に、以下の層が次いで保護(バリヤー)層B1の上に付着される:第二透明誘電体コーティングD2、第二機能層IR2、この実施例1では完成製品において吸収層を構成しない1.4nmのTiの犠牲層B2、第三透明誘電体コーティングD3、第三機能層IR3、2.8nmの全幾何学的厚さを有するTiの層が層B1の上に付着される。Tiのこの最後の層は、完成製品において、吸収層Abs3(その1.4nmの幾何学的厚さは表1に示される)、及び保護犠牲層B3(その幾何学的厚さも1.4nmである)を形成することを意図される。それゆえ、二つの吸収層は、本発明によれば、スタックの内側上に位置される。次に、第四及び最後の透明誘電体コーティングD4はTiの層上に付着される。
【0084】
この第四透明誘電体コーティングD4は、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極からアルゴン及び酸素の混合物から構成される反応雰囲気において付着される亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。約9.2nmの幾何学的厚さを有する第一の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金(以下、ZSO9として言及される)のターゲットから付着される。第二の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金(以下、ZSO5として言及される)の陰極から形成される。亜鉛−スズ混合酸化物のこの第二層の厚さは、以下の表1に示される第四透明誘電体コーティングD4の光学的厚さに対応する幾何学的厚さを達成するために第一層の厚さに対するバランスである。
【0085】
第二及び第三の赤外反射機能層IR2及びIR3は、層IR1と同様の方法でアルゴンの中性雰囲気においてスパッタリングされた実質的に純粋な銀のターゲットからの銀から形成される。
【0086】
第二及び第三の透明誘電体コーティング(それぞれD2及びD3)はそれぞれ、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極からアルゴン及び酸素の混合物から構成された反応雰囲気において付着された亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。これらの二つの透明誘電体コーティングの各々の第一の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金の陰極から形成される。約18.4nmの幾何学的厚さを有する、これらの二つの透明誘電体コーティングの各々の第二の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金のターゲットから付着される。これらの二つのコーティングの各々の亜鉛−スズ混合酸化物の第一層の厚さは、以下の表1に示される第二及び第三の透明誘電体コーティングD2及びD3の光学的厚さにそれぞれ対応する幾何学的厚さを達成するためにこれらの二つのコーティングの各々の第二層の厚さに対するバランスである。
【0087】
表1では、上で述べた透明誘電体コーティング及び機能層の厚さの様々な比の値もまた、示されている。上で述べたように、これらの比は、保護犠牲金属層の厚さB1,B2及びB3(各々は1.4nmのTiを有する)を考慮せずに計算される。
【0088】
このコーティングされたガラスシートは、次いで別の透明ガラスの4mmシートを有する二層板ガラスとして組み立てられ、コーティングは、二層板ガラスの内側の空間の側上に位置される。二つのシートの間の間隔は15mmであり、その中の空気の90%はアルゴンで置き換えられる。コーティングされた基板のガラス側上で二層板ガラスを観察することによって(スタックは位置2に置かれ、即ち、まずスタックを与えられた板ガラスがガラス側上で観察され、次いで層のない透明ガラスのシートが観察される)、表2に示された光学的及び熱的特性が記される。本発明において、以下の慣習が、測定又は計算された値のために使用される。光透過率(T)、光反射率(R)、光吸収率(A)(可視範囲における板ガラスによって吸収される−光源D65の−光束の百分率)は光源D65/2°で測定される。反射における色及び透過における色に関して、CIELAB1976(Lb)値は光源D65/10°で測定される。ソーラファクター(FS又はg)は、EN410標準規格に従って計算される。
【0089】
表2には、選択性(S)及びDeltacolの値が示され、0°〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるa及びbの変動の値(それぞれ「シフトa」及び「シフトb」として言及される)もまた、示される。Deltacol(Rv)は、変動の指数が基板側上で反射において得られることを意味し、一方Deltacol(Rc)は、変動の指数がスタック側上で得られることを意味する。色の値について、「(T)」は、値が透過において測定されることを意味し、「(Rc)」は、値がスタック(層)側上で反射において測定されることを意味し、「(Rv)」は、値が基板(ガラス)側上で反射において測定されることを意味する。表2の欄Aは、EN410標準規格に従って計算された、単一シートとしてのコーティングされた基板のエネルギー吸収率値をとり上げる。
【0090】
得られた反射における色が同意可能であり、かつ商業的な要求に対応することが観察される。基板側上の反射のレベルは低すぎることなく、それは、鏡効果を避けながら「ブラックホール」を避ける。色の角度変動は低く、完全に許容可能であり、製造安定性は特に良好である。
【0091】
変形例として、様々な透明誘電体コーティングの亜鉛−スズ混合酸化物は、D1,D2及び/又はD3についてTiO/ZnO:Al又はTZO/TiO/ZnO又はSnO/ZnO/SnO/ZnO又はZnO:Al/ZSO5/ZnOのうちの一つによって置換され、D1についてSi/ZnO又はAlN/ZnOのうちの一つによって置換され、D4についてZn/SnO又はZnO/TZO又はZnO:Al/ZSO5又はZnO/SnO/Si又はZnO/SnO/AlNのうちの一つによって置換され、任意選択的に外部保護層を有する。毎回、様々な構成要素の幾何学的厚さは、表1に示されるような対応する透明誘電体コーティングの光学的厚さを得るために(上記のような)それらの実質上の屈折率の関数として適応された。使用された誘電体材料の550nmの波長における実際の屈折率n(550)は、次の通りである:TiOについて、n(550)=2.5;Siについて、n(550)=2.04;Alについて、n(550)=1.8;ZSO5及びZSO9について、n(550)=2.03;AlNについて、n(550)=1.9;TZOについて、n(550)=2.26。実質的に同じ特性が得られた。
【0092】
他の変形例によれば、吸収層Abs1及びAbs3を形成するためにNb,Cu,ZnAl合金、ZnTi合金、Cr,Zn又はNiCrが使用される。付着のときに、完成製品について同じ全光吸収値を得るために十分な厚さが付着された。IR2上の犠牲層はTiであった。
【0093】
さらに他の変形例によれば、透明誘電体コーティングD4では、亜鉛−スズ混合酸化物の順序は、ZnO:Al/TiO又はTZOの順序によって、ZnO:Al/SnO/TiO又はTZOの順序によって、又はZnO:Al/ZSO5/TiO又はTZOの順序によって置換された。
【0094】
別の変形例によれば、犠牲金属Tiから形成されたバリヤー層B2は、TXO層、即ち中性又はわずかに酸化している雰囲気においてスパッタリングによってTiOのセラミック陰極から得られたTiO層によって置換される。これは、スタックの放射性を低下することを可能にする。
【0095】
実施例2〜29
実施例2〜29は、実施例1と同じ材料で同じ構造に従って同じ方法で実施された。しかしながら、これらの実施例では、様々なコーティングの光学的厚さ及び様々な機能層の幾何学的厚さは、表1の表示に従って変更された。透明誘電体コーティングに関して、実施例1と同じ原理が使用された。即ち、それらは二つの層から形成され、それらの層の一方は、固定された厚さを有し、他方の層は、表に示された光学的厚さを得るために相補的な厚さを有する。様々な吸収層に関して、値Abs1,Abs2又はAbs3がゼロであるとき、これは、完成製品においてスタックのこの位置に吸収層が全くないこと、及び使用された犠牲層Tiが続く層を付着するための工程時に酸化物TiOに変換されたことを意味する。欄Abs1,Abs2,Abs3に示されたゼロでない値は、完成製品において吸収層の幾何学的厚さに対応する。表でわかるように、全ての吸収層はスタックの内側上に位置される。
【0096】
変形例として、バリヤー層B2及び/又はB3は、層TXO、即ち中性又はわずかに酸化している雰囲気においてスパッタリングによってTiOのセラミック陰極から得られた層TiOによって形成される。従って、スタックの放射性は、低下され、それゆえ選択性は、改良される。
【0097】
比較例1
表1及び2に記載される比較例1(C1)は、本発明の外側のスタックを示し、その構造は、Germanらによる特許出願US2009/0047466A1によって記載される。
【0098】
この比較例では、透明誘電体コーティングD1が全くなく、それは、光吸収誘電体コーティングを同時に形成するガラス上に付着されたTiNの9nmの吸収層である。保護層B1及びB2は、TiOのセラミック陰極から付着された5nmのTiOから形成され、透明誘電体コーティングD2及びD3は、ZnSnOから形成され、吸収層Abs3は、TiNから形成され、D4は、Siから形成される。三つの機能層は、銀から形成される。基板は、ガラスから作られる。
【0099】
表1に示された比では、ガラス上の吸収層TiNは、それが透明でないので誘電体として数えていない。光学的厚さは、仮想の屈折率を使用して上で示された式に従って計算される。窒化ケイ素の屈折率n(550)は2.04であり、亜鉛−スズ酸化物は2.03であり、TiOの屈折率n(550)は2.5である。計算のため、2.5nmを越えるTiOのバリヤーの厚さ、即ち2.5nm(5nm〜2.5nm)は、対応する透明誘電体コーティングの厚さに加えられる。
【0100】
この比較例C1のために表2に示された特性は、Germanらによる文献で開示されたスペクトルデータに基づいてEN410に従って計算された。得られた特性は満足のいくものではなく、特に反射における色が高度に着色され、光反射率が極めて低いことが観察され、それは特に基板側上で反射において「ブラックホール」効果を与える。
【0101】
実施例30
実施例30は、銀の四つの機能層を含む本発明による例示的実施形態である。従って、五つの透明誘電体コーティングが存在し、第五の透明誘電体コーティングはD5として言及される。
【0102】
様々な透明誘電体コーティングの組成は、実施例30においてコーティングD4が実施例1からの透明誘電体コーティングD3と同じ組成を有すること、及び透明誘電体コーティングD5が実施例1からの透明誘電体コーティングD4と同じ組成を有することを除いて、実施例1と同じである。
【0103】
コーティングD1の光学的厚さは38.3nmであり、コーティングD2のそれは81.8nmであり、コーティングD3のそれは123.8nmであり、コーティングD4のそれは171.5nmであり、コーティングD5のそれは72.5nmである。銀から作られた機能層の幾何学的厚さはそれぞれ次の通りである:IR1=4nm,IR2=9.8nm,IR3=14nm及びIR4=18nm。銀の第一層IR1上に付着されているのは、完成製品において透明になる1.4nmの犠牲金属から作られた標準保護層であった。完成製品において吸収層Abs2を同時に形成することを意図される犠牲金属Tiから作られた保護層は、中性雰囲気においてチタンターゲットからそれと共通の界面を有する銀層IR2の上に直接付着される。続く層の付着時にプラズマの酸化雰囲気は、チタンのこの層を部分的に酸化するだろう。付着されたTiの層の幾何学的厚さは、4Åの厚さを有する吸収層Abs2を形成する金属性の幾らかのTiが完成製品において残るように十分である。高温で熱処理可能でない完成製品において吸収層のこの厚さを得るためには、1.8nmのチタンが実際には銀の層上に付着された。同じようにして、完成製品において9Åの吸収層Abs3を得るためにTiの2.3nmの層が銀層IR3上に付着された。
【0104】
得られた特性は次の通りである:選択性は2.036である;エネルギー吸収率は42.7%である;ソーラファクターgは24.5%である;光透過率Tは49.9%である。透過における色は次の値によって表わされる:aTL=−6.5;bTL=−1。スタック側上の反射における色は次の値によって表わされる:LRC=43.3;aRC=−5.5;bRC=−2.5。基板側上の反射における色は次の値によって表わされる:LRV=39.3;aRV=−2.2;bRV=−3.4。観察の角度(0〜55°)に従った基板側上の反射における色の変動は次の通りである:シフトa=−2.4;シフトb=0.5。変動の指数Deltacol(R)は1.2である。
【0105】
実施例31〜36
実施例31〜36は、実施例1〜27と同様の構造に従って同じ方法で実施された。差は以下に特定される。
【0106】
実施例31では、透明誘電体コーティングD1は、57nmの光学的厚さのSiから及び19nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD2は、118.6nmの光学的厚さのSiから及び39.5nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD3は、39.1nmの光学的厚さのSiから及び26nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD4は、17.9nmの光学的厚さのZnOから及び26.9nmの光学的厚さのSiから形成される。
【0107】
実施例32では、透明誘電体コーティングD4は、17.9nmの光学的厚さのZnOから及び26.9nmの光学的厚さのAlから形成される。透明誘電体コーティングD1,D2及びD3は、実施例1〜27と同じ材料から同じ条件に従って形成される。
【0108】
実施例33では、透明誘電体コーティングD1は、57nmの光学的厚さのTiOから及び19nmの光学的厚さのZnOから形成される。透明誘電体コーティングD2,D3及びD4は、実施例1〜27と同じ材料から同じ条件に従って形成される。
【0109】
実施例34では、透明誘電体コーティングD1は、57nmの光学的厚さのZSO5から及び19nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD2は、20.5nmの光学的厚さのZnO:Al(2重量%のAlをドープされたZnO)から、118.6nmの光学的厚さのZSO5から、及び19nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD3は、13nmの光学的厚さのZnO:Al(2重量%のAlをドープされたZnO)から、39.1nmの光学的厚さのZSO5から、及び13nmの光学的厚さのZnOから形成され、透明誘電体コーティングD4は、17.9nmの光学的厚さのZnO:Al(2重量%のAlをドープされたZnO)から、23.5nmの光学的厚さのZSO5から、及びZSO5の層の上に付着される3.4nmの光学的厚さのTiOの外部層(それは透明誘電体コーティングD4の一部である)から形成される。
【0110】
実施例35及び36では、構造は再び実施例1〜27と同様であるが、吸収層Abs1は変更された。実施例35では、吸収層Abs1は2.3nmのCrから形成される。付着のときに、2.3nmの幾何学的厚さのCrが、中性雰囲気においてスパッタリングされたCrの金属陰極から付着され、次いで1.4nmのTiが付着され、それは保護犠牲層B1として作用し、保護犠牲層は、透明TiOを形成するために第二誘電体コーティングの付着時に酸化する。実施例36では、吸収層Abs1は1.8nmのZnから形成される。付着のときに、1.8nmの幾何学的厚さのZnが、中性雰囲気においてスパッタリングされたZnの金属陰極から付着され、次に1.4nmのTiが付着され、それは保護犠牲層として作用し、保護犠牲層は、透明TiOを形成するために第二誘電体コーティングの付着時に酸化する。特性は以下の表2に与えられる。
【0111】
実施例37及び38
実施例37及び38はまた、実施例1〜27と同様の構造に従って同じ方法で製造される。差は以下に特定される。
【0112】
実施例37では、金属性の吸収層Abs3′は機能銀層IR3の下に位置される。それは1.2nmの幾何学的厚さのTiの層である。
【0113】
実施例38では、可視スペクトルにおいて吸収する金属性の吸収層は、それぞれが23.6nmの光学的厚さを有するSiの二つの層の間に挿入された1.5nmの幾何学的厚さのPdからなり、集成体全体は保護層B1と透明誘電体コーティングD2の間に置かれる。表1では、吸収層に対する15Åの値は、この層が実際の構造の順序の正しい位置には事実上ないことを意味するために欄Abs1においてかっこの間に位置されている。なぜならば吸収層は、実際には層B1を越えて、二つのSi層の間に封入されているからである。順序は実際には、次の通りである:...IR1/B1/Si/Abs1/Si/ZSO5/ZSO9/IR2/...。ZSO5の光学的厚さは69.2nmであり、ZSO9の光学的厚さは29.6nmであり、それに対してSiの二つの層の光学的厚さを加えることが必要であり、それは、表1の欄D2に示されるように透明誘電体コーティングに対して146nmの合計値を作る。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】