【文献】
Hopital Calmette et al,"Characterization of respiratory mechanics in mechanically ventilated neonates by using inflation and interrupter methods",Engineering in Medicine and Biology Society, 1992 14th Annual International Conference of the IEEE(volume:6),1992年10月29日,pp.2413-2414
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸気弁(110)、呼気弁(130)及び制御ユニット(105)を有する呼吸装置(1)であって、前記制御ユニットは患者が前記呼吸装置に接続されたときに前記患者における経肺圧を決定するように構成され、前記制御ユニットは、
前記吸気弁(110)及び前記呼気弁(130)を制御することによって第1の呼気終末陽圧(PEEP)レベルで前記患者を換気するための第1モードの動作に前記呼吸装置を設定することと、
前記吸気弁(110)及び前記呼気弁(130)を制御することによって、前記第1のPEEPレベルから始まる第2のPEEPレベルであって前記第1のPEEPレベルとは異なる目標PEEPレベルに基づく第2のPEEPレベルで前記患者を換気するための第2モードの動作に前記呼吸装置を設定することとが可能であり、
前記制御ユニットは、吸気流量トランスデューサ(112)及び呼気流量トランスデューサ(132)からの測定値に基づいて前記第1のPEEPレベル及び前記第2のPEEPレベルでの呼気終末肺容量(EELV)の差から呼気終末肺容量の変化(ΔEELV)を決定し、
呼気終末肺容量の前記変化(ΔEELV)と呼気圧センサ(133)により測定された前記第1のPEEPレベル及び前記第2のPEEPレベルの差(ΔPEEP)とに基づき前記経肺圧を決定するように構成されていることを特徴とする呼吸装置。
前記制御ユニットは、平衡が確立されるような前記目標PEEPレベルの所定の圧力範囲内に前記第2のPEEPレベルが達したときに前記経肺圧を決定するように動作する請求項1に記載の装置。
前記第2モードの動作に前記呼吸装置を設定することは前記呼吸装置のユーザインタフェースから選択可能であり、前記制御ユニットは当該ユーザ開始に際して前記経肺圧を自動的に決定するように構成され、当該自動的決定は前記装置による前記患者の支援された且つ/又は制御された換気の間になされる請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
前記制御ユニットは前記経肺圧の決定の後に前記第1のPEEPレベルで支援され制御された換気のPEEPレベルで前記第1モードの動作に戻るように構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
前記制御ユニットは、段階的に得られたΔEELVの合計(ΣΔEELV)が前記第1のPEEPレベルでの1回換気量に実質的に等しくなるまでPEEPを段階的に前記第1のPEEPレベルから増大させるように構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
前記制御ユニットは、前記第1及び第2のPEEPレベルの初期の差よりも小さいPEEPレベル変化を繰り返すことにより及び/又は全コンプライアンス(CTOT)若しくは肺コンプライアンス(CL)の偏向点若しくは変曲点を検出するために1回換気量を減少させることにより、非線形肺コンプライアンス(CL)及び/又は胸壁コンプライアンス(CCW)を決定するように構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
前記制御ユニットは、肺を損傷から保護するための第1のスレッショルド値を下回る経肺圧が検出されたときに、前記装置により前記患者に提供される機械的換気におけるPEEPをより低いレベルに制限することによって、前記決定された経肺圧に基づくPEEPレベルを調節するように更に動作する請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
コンピュータにより処理するためのコンピュータプログラムが記録されたコンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータプログラムは呼吸装置に接続された患者における経肺圧を決定するための複数のコードセグメントを備え、前記複数のコードセグメントは、
第1の呼気終末陽圧(PEEP)レベルを確立するための第1のコードセグメント(33)と、
目標PEEPレベルを前記第1のPEEPレベルから前記第1のPEEPレベルとは異なる第2のPEEPレベルへ変化させるための第2のコードセグメント(34)と、前記第1のPEEPレベルから始まる前記第2のPEEPレベルを確立するための第3のコードセグメント(35)と、
前記第1のPEEPレベル及び前記第2のPEEPレベルでの呼気終末肺容量(EELV)の差から呼気終末肺容量の変化(ΔEELV)を決定するための第4のコードセグメント(36)と、
呼気終末肺容量の前記変化(ΔEELV)と前記第1のPEEPレベル及び前記第2のPEEPレベルの差(ΔPEEP)とに基づいて前記経肺圧を決定するための第5のコードセグメント(37)と、を備えるコンピュータ可読媒体。
【背景技術】
【0002】
集中治療室内での人工呼吸器処置を必要とする急性呼吸不全(acute respiratory failure)の患者は、呼吸器系の大きく変化する病態生理学的状態を呈する。急性肺損傷(acute lung injury)(ALI)及び更に深刻な急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome)(ARDS)の不均質性に関して、潜在的に回復可能な肺の割合、即ち虚脱したが高圧膨張により開通可能な肺組織の割合は約60%である。不均質性の1つの重要な根拠は、患者が肺由来又は肺外由来のどちらのARDSを有しているのか、つまり主として罹患しているのが肺それ自身であるのか又は胸壁及び横隔膜であるかというところにある。多くの呼吸不全の場合、肺の両機械的状態、換言すれば肺の剛性(エラスタンス=E)(El)と収容壁(containing wall)即ち胸壁及び横隔膜の剛性(Ec)との両者が重要な役割をなす。
【0003】
人工呼吸器処置の間、呼吸器系全体の機械的特性は、直列的に機能している肺の剛性及び胸壁/横隔膜の剛性の結合された効果によってこれまで決定されていた。肺は別の柔軟ユニット(compliant unit)内、即ち胸壁及び横隔膜内の柔軟ユニットである。処置の危険性と恩恵のバランスがとれた最適な人工呼吸器処置のために、肺の剛性に関連する胸壁の剛性に関する知見が最重要である。
【0004】
例えば人工呼吸器処置により繊細な肺組織への損傷を誘発する危険性は、肺が大きな剛性を有しており且つ肺壁/横隔膜が極めて柔軟である場合に増大し、この場合、吸気に際して人工呼吸器により生成される気道内圧の大部分は肺にのみ作用し、即ち高い
経肺圧が存在する。人工呼吸器により患者に与えられる圧力の殆どは、周囲の胸壁及び横隔膜には伝達されない。
【0005】
一方、例えば横隔膜下の高い圧力をもたらす腹部炎症により胸壁及び特に横隔膜の剛性が増大させられる場合、肺はその拡張を胸壁及び横隔膜の剛性により制限されることがあり、そして
経肺圧は小さくなる。人工呼吸器により誘発される肺損傷の危険性は低減されることになる。このことは、食道内圧により導かれるARDS患者における機械的換気の無作為研究(a randomised study on oesophageal pressure guided mechanical ventilation in ARDS patients)においてタルモール等により示された(Talmor et al NEJM 2008; 359(20): 2095-2104)。
【0006】
経肺圧の測定は困難であるから、胸腔内圧を直接的に測定する代わりに食道内圧の測定が胸腔内圧の代替として用いられる。食道内圧は、支援され制御された換気(assisted controlled ventilation)の間に肺を経由して胸壁及び横隔膜までどれくらいの気道内圧が移るかの間接的な測定として用いられる。これにより、食道内圧に基づく胸壁/横隔膜の剛性の推定が可能になる。
【0007】
肺及び胸壁/横隔膜の剛性の結合、即ち呼吸器系の全剛性(Etot)は、肺剛性と胸壁/横隔膜剛性の総和である。従って、肺の剛性は、EcをEtotから減算することによって間接的に決定することができる。胸壁及び肺のコンプライアンス(compliance)の計算は、呼気終末及び吸気終末の食道内圧及び気道内圧における換気差(tidal difference in end-expiratory and inspiratory oesophageal and airway pressures)(ΔPoes,ΔPaw)に基づく。
【0008】
しかし、食道内圧測定を行う上では実用上の困難さがある。食道内圧は、米国特許第4,214,593号等に開示されるようなカテーテル状長尺圧力監視デバイスにより測定される。このデバイスは、食道バルーンカフ(oesophageal balloon cuff)を備えた経鼻胃管(nasogastric tube)からなる。
【0009】
特に食道を経由して胃管が通された5人の患者において、食道内での食道バルーンカテーテルの正確な配置が極めて困難であることが示された。この動作は、枝分かれした管構造内に柔らかいスパゲッティをこの動作の間に視覚無しで進めることに匹敵する。
【0010】
また、食道内圧の伝達装置としての食道バルーンの性能は、どれだけ予め膨張させられるのかということ、及びどれだけの縦隔重量、即ち心臓の重量がバルーン上に重畳されるかということである。更に、食道内圧は胸腔内圧の代替測定であり、胸腔内圧は重力及び横隔膜に近いことに起因して場所により異なり、腹圧及び横隔膜剛性が大きく影響するので、測定の信頼性も問われてきている。
【0011】
加えて、食道バルーン測定は、測定がなされる水平面に対してのみ圧力測定を提供する。例えば、重力が患者の身体、特に肺に直接的に又は患者の胸部内の他の臓器の重量を介して間接的に作用することにより、患者内における位置に応じて異なる測定値が得られてしまう。患者の身体に作用する重力等の因子の影響を回避して、位置にかかわらず全
経肺圧を表す測定を提供する必要がある。
【0012】
従って、カテーテル及びその使用のコストに加えて、実用上の位置決めの困難性及び得られた測定値の信頼性が疑わしいことにより、そのような食道バルーンカテーテルの臨床用途は極めて限定されていた。
【0013】
他の重要な問題は、胸腔空間が通常は極めて小さく、また肺を穿刺してしまう危険性が高くこれはなんとしても避けるべきであるから、肺を包囲している胸腔内の胸腔内圧を直接的に測定することが実際上不可能なことである。胸腔内圧を測定することは、肺を穿刺する可能性により極めて危険である。そのため、上述したように、食道内圧が代替的に用いられてきたのである。
【0014】
従って、呼吸装置に接続された患者における
経肺圧を測定し又は決定する新規な又は代替的な方法が求められている。
【0015】
欧州特許公開EP1295620は呼吸器系の肺機能の検査に用いられる呼吸装置を開示している。
【0016】
タルモールダニエル等による「急性肺損傷において食道内圧により導かれる機械的換気」、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン、第359巻、第20号、2008年11月(2008−11)、2095−2104頁(TALMOR DANIEL ET AL: "Mechanical Ventilation Guided by Esophageal Pressure in Acute Lung Injury", NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE vol. 359, no. 20, November 2008 (2008-11), pages 2095-2104)は、食道内圧の測定(食道内圧により導かれる群)に従い又は急性呼吸促迫症候群ネットワーク標準治療勧告に従い調節されたPEEPでの機械的換気を受けた、急性肺損傷又はARDSを伴う無作為に割り当てられた患者に関する研究を開示している。
【0017】
PCT国際公開2007/082384号は、機械的換気支援を受けている自発呼吸患者における呼吸器特徴を動的に決定するための方法を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
添付の図面を参照して本発明の特定の実施形態を以下に説明する。しかし、本発明は種々の形態で実施されてよく、また、ここに説明される実施形態に限定して解釈されるべきではなく、むしろ、本開示が詳細且つ完璧で且つ本発明の範囲を当業者に完全に伝えるようにこれらの実施形態が提供される。添付の図面に示される実施形態の詳細な説明において用いられる用語は、本発明の限定を意図していない。図面において同様の数字は同様の要素を参照する。
【0043】
以下の説明では、呼吸装置に適用可能な、特に圧縮ガス源に接続して使用する呼吸器用人工呼吸器に適用可能な実施形態が示される。しかし、本発明はこの適用に限定されず、例えばファン駆動呼吸装置を含む多くの他の呼吸装置に適用されてよいことが理解されるはずである。説明される実施形態は、集中治療呼吸器用人工呼吸器の形態にある。しかし、他の実施形態は、本発明から逸脱することなく、呼吸装置に接続される麻酔吸入器、呼吸サークル(breathing circles)等を備えていてよい。本発明は、成人/小児患者又は新生児患者を含む全ての患者群に適している。
【0044】
図1は呼吸装置1の実施形態の模式図である。本実施形態では、入力ガスを呼吸装置1に、通常はハウジング100に供給するために、空気等のための第1の圧縮ガス源101と、酸素及び/又は亜酸化窒素等のための随意的な更なる圧縮ガス源102と、が配置される。1つ以上の吸気ガス弁110により適切に混合されたガスは、吸気分岐116を介して患者125へと制御可能に送られる。
【0045】
吸気分岐116は、Yピース120と顔マスク、喉頭マスク、気管カニューレ又は気管内チューブ等の患者接続121とを介して吸気フェーズの間に混合ガスを患者125へと運ぶための適切な管類を備える。吸気圧は、圧力トランスデューサ113により例えば吸気サンプリング点111で測定される。患者への吸気流量は、吸気流量トランスデューサ112により測定される。
【0046】
呼気分岐126は、Yピース120からのガスを運ぶための適切な管類を備える。呼気分岐内のガスは、呼気フェーズの間の患者125からの呼気ガス及び/又は患者125には入らずに直接Yピース120を通過する吸気分岐116からのバイアス流からなるであろう。呼気弁130は、呼気分岐内のガス流量を制御する。吸気の間、呼気弁130は通常は閉じられる。呼気圧は、圧力トランスデューサ133により例えば呼気サンプリング点131で測定される。呼気弁130への呼気流量は、呼気流量トランスデューサ132により測定される。呼気弁130を通過するガスは、排気管140を介して周囲環境へ又は排気システム141へ更に運ばれる。
【0047】
制御ユニット105は、吸気フェーズの間の患者125への吸気呼吸パターン及び呼気フェーズの間の患者からの患者ガスの放出の呼気制御を提供する。制御ユニットには、吸気及び呼気のための圧力メータ及び流量メータからの信号がそれぞれ線114、115、134及び135を介して供給される。
【0048】
制御ユニット105は、呼吸装置1に接続された患者125における
経肺圧Ptpを決定するように構成される。制御ユニット105は、吸気弁110及び呼気弁130を制御することによって、呼吸装置を適切に制御するように構成される。吸気の流量及び圧力並びに呼気の流量及び圧力のフィードバック及び測定が、それぞれ圧力トランスデューサ113,133及び流量トランスデューサ112,132によって提供される。測定値は、制御ユニット105がアクセスするためのメモリ回路(図示せず)内に集められて記憶される。Ptpが次いで後で更に詳細に説明されるように計算される。得られたPtp値は、患者125の継続的な換気戦略を適応させるために用いられ得る。
【0049】
このように制御されて、呼吸装置1は、初期の第1の呼気終末陽圧(Positive End Expiratory Pressure)(PEEP)レベルを確立する。第1のPEEPレベルは、環境気圧であってよく、即ち環境気圧と相対的に「0」又は環境気圧より高い陽圧であってよい。この第1のPEEP圧は、Ptpを決定するための測定値を提供すべく今や開始された操作のための開始PEEP圧である。
【0050】
目標PEEPレベルは第1のPEEPレベルから第2のPEEPレベルへと変化させられ、第2のPEEPレベルは第1のPEEPレベルとは異なる。この目標PEEPレベルに基づき続く吸気フェーズ及び呼気フェーズが調節されて、第1のPEEPレベルから始まる第2のPEEPレベルが確立される。この遷移は
図4、
図5A〜5F及び
図6を参照して後で更に詳細に明らかにされる。
【0051】
第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルでの呼気終末肺容量(end-expiratory lung volume)(EELV)の差から、呼気終末肺容量の変化ΔEELVが決定される。
【0052】
経肺圧Ptpは、呼気終末肺容量の変化ΔEELVと第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルの差ΔPEEPとに基づいて決定される。いずれのPEEPレベルでも呼気終末圧平衡が存在し、呼気終末圧平衡はΔPEEPがΔPtpに等しいことを意味し、このことはCLがΔPEEPで除されたΔEELVであることを暗示している。この決定は後で更に詳細に明らかにされる。
【0053】
従って、Ptpは、食道内圧測定の必要性なしに、あるいはその間接的な測定のために別のセンサが患者の胸腔内に挿入される必要性なしに決定される。Ptpは呼吸装置内に一般に存在するトランスデューサのみから決定される。前述したPEEPレベル変化操作の決定段階でのその測定値が処理され、そしてPtpの値は更なる処理に提供される。
【0054】
呼吸装置1の換気モード及び
経肺圧決定の両方を制御するための統合型制御ユニット105に代えて、各々が専用の特定のタスクを有しそれぞれ動作可能に接続される幾つかの制御ユニットが設けられてもよい。
【0055】
本発明の適用のための更なる例が、方法2のフローチャートにおいて
図2に示される。方法2は、呼吸装置に接続された患者における
経肺圧Ptpを決定する方法である。この方法は幾つかのステップを備える。先ず第1の呼気終末陽圧(PEEP)レベルが既存のPEEPレベルとして決定され、あるいはステップ23において所望の第1のPEEPレベルに確立される。次いでステップ24では、目標PEEPレベルが第1のPEEPレベルからこれとは異なる第2のPEEPレベルへと変化させられる。この目標PEEPレベルに基づき、第1のPEEPレベルから始まる第2のPEEPレベルがステップ25において確立される。
【0056】
第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルでの呼気終末肺容量EELVの差から、呼気終末肺容量の変化ΔEELVがステップ26で計算される。次いで
経肺圧ΔPtpが、呼気終末肺容量の変化ΔEELVと第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルの差ΔPEEPとに基づいてステップ27で計算される。
【0057】
図3に従う本発明の別の実施形態において、制御ユニット105等の処理デバイスによって実行するためのコンピュータ可読媒体30に記憶されるコンピュータプログラム3が示されている。このコンピュータプログラムは、呼吸装置に接続された患者における
経肺圧(Ptp)を決定するための複数のコードセグメントを備える。これらのコードセグメントは、第1の呼気終末陽圧(PEEP)レベルを確立するための第1のコードセグメント33と、目標PEEPレベルを第1のPEEPレベルからこれとは異なる第2のPEEPレベルへ変化させるための第2のコードセグメント34と、第1のPEEPレベルから始まる第2のPEEPレベルを確立するための第3のコードセグメント35と、第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルでの呼気終末肺容量(EELV)の差から呼気終末肺容量の変化(ΔEELV)を決定するための第4のコードセグメント36と、呼気終末肺容量の変化(ΔEELV)と第1のPEEPレベル及び第2のPEEPレベルの差(ΔPEEP)とに基づいて
経肺圧(ΔPtp)を決定するための第5のコードセグメント37と、を備える。
【0058】
前述したPEEP遷移操作を次に更に詳細に説明する。操作は方法として説明される。この方法は、前述の呼吸装置1及びその制御ユニット105並びに/又はコンピュータプログラムによって実施されてよいことが理解される。
【0059】
呼気終末圧(PEEP)変化に追随する呼気終末容量変化の大きさがPEEP変化の大きさ及び肺のコンプライアンス(compliance)によって決定される、即ちPEEP変化の間の
経肺圧Ptp変化がPEEP変化に等しいとの仮定に基づいて、
経肺圧の直接的測定の方法を次に説明する。
【0060】
呼気終末圧レベルの段階的変化(ΔPEEP)は、呼気終末肺容量の変化ΔEELVをもたらす。
【0061】
この関係において、優先的な方法は、第1及び第2のPEEPレベルの間での吸気1回換気量及び呼気1回換気量の累積差を測定することによるΔEELVのスパイロメトリ決定(spirometric determination)を用いることであり、即ち等しい吸気及び呼気容量の第1のPEEPレベルから第2のPEEPレベルまで、吸気1回換気量及び呼気1回換気量の平衡が達する。これは、呼吸装置1の吸気流量トランスデューサ112及び呼気流量トランスデューサからの測定信号を用いることによって実施される。
【0062】
図4はPEEPのそのような変化及び結果としての経時的な容量変化の例を示すグラフ4である。図示される例においては、第2のPEEPレベルは第1のPEEPレベルよりも低い。模式的なグラフ4は、時間tの経過に伴う吸気(実線)及び呼気(破線)1回換気量測定101を示している。曲線セグメントa〜fは、次の呼吸周期の呼気フェーズの呼気流セグメントのための参照符号である。PEEP変化に先立ち呼気フェーズaが示されている。PEEPの放出(図においてPEEP矢印で示される)の後の呼気フェーズは、呼吸装置1の支援された且つ/又は制御された機械的な換気、ここでは容量制御された換気の間の曲線セグメントb、c、d、e及びfで示されている。
【0063】
PEEP放出の後呼気容量が新たな平衡で安定化するまでの呼気容量の増加の和(b−a+c−a+d−a+f−a)は、(a)でのPEEP放出の前の呼気容量と実質的に同じである。この和は、2つのPEEPレベルの間での呼気終末肺容量EELVの差に等しい。
【0064】
PEEPを第1のレベルからこれよりも高い第2のレベルまで増加させた場合のEELVの増加は、対応して計算される。
【0065】
代替的に又はこれに加えて、ΔEELVは多くの他の方法によって決定することができ、例えばPEEP変化の前後でのCTスキャン、PEEP変化の前後での不活性ガス希釈技術による、呼吸器インダクタンスプレチスモグラフィー(respiratory inductive plethysmography)(RIP)による若しくは電気インピーダンストモグラフィ(electric impedance tomography)(EIT)によるFRC/EELV測定、又は任意の他の適切な方法がある。
【0066】
PEEP変化の後の第1の呼吸の後の呼気終末容量増加は
ΔPEEP×CTOT=ΔV1
であり、ここでCTOTは肺のコンプライアンスCL及び胸壁/横隔膜のコンプライアンスCCWの合計のコンプライアンスであり、対応する新たな呼気終末
経肺圧は
ΔPEEP×CTOT/CL=ΔP1
である。
【0067】
PEEP変化の後の第2の呼吸の後の呼気終末容量増加は
(ΔPEEP−ΔP1)×CTOT=ΔV2
であり、ΔP1からの対応する呼気終末平均
経肺圧増加は
ΔV2/CL=ΔP2
である。
【0068】
続く呼吸の間、肺容量の変化及び呼気終末圧の変化が同様に続き、また呼吸毎の容量及び圧力の変化は、呼気終末
経肺圧がΔPEEP増えるまで漸近的に減少する。
【0069】
次に、PEEPにおけるステップ増加に追随する肺充填の経過の種々の段階を示す圧力/容量グラフである
図5A〜5Fを参照して、PEEPの第2のレベルを増大させる例を論じる。
【0070】
例においては、患者のCTOTは40、CCWは95、CLは67ml/cmH
2Oである。
図5A〜5Fにおいて、呼吸器系全体の経過はCTOTにて線50により示されており、胸壁経過はCCWにて線51により示されており、肺経過はCLにて線52により示されている。
【0071】
図5Aを参照すると、1回換気量が400ml、気道内圧が10cmH
2O、呼気終末圧(PEEP)が0cmH
2Oでの換気が示されている。換気胸壁圧変化(ΔPCW)は4cmH
2Oより僅かに大きく、結果として換気
経肺圧の差(ΔPtp)は6cmH
2Oより僅かに小さい。
【0072】
図5Bを参照すると、人工呼吸器において第1のPEEPレベル0cmH
2Oから第2のPEEPレベル6cmH
2OまでPEEPレベルを変化させた後の第1の吸気は、肺を6×40=240ml(ΔPEEP×CTOT)だけ膨らませ、また肺圧の変化は肺コンプライアンスで除された肺容量の変化240/67=3.6であるから、肺圧を3.6cmH
2Oだけ増加させる。
経肺圧は肺圧と同じレベルに増加する。
【0073】
図5Cを参照すると、第2の吸気は肺を(6−3.6)×40=96mlだけ膨らませる(次のPEEPレベル平衡まで
経肺圧として残る)。
経肺圧は96/67=1.4cmH
2Oだけ増えることになる。
【0074】
図5Dを参照すると、新たな平衡に達するまで、即ち肺のコンプライアンス(67ml/cmH
2O)及びPEEP増加の大きさ(6cmH
2O)によって決定されるだけの容量、この例では400mlが加えられるまで、続く複数回の呼吸が肺を膨らませ続けることになる。
【0075】
図5Eを参照すると、新たなPEEPレベル6cmH
2Oで容量/圧力平衡に達した後の第1の呼吸が示されている。当該PEEPレベルでの全
経肺圧はΔPtP+PEEPであり大気圧よりも高い。
【0076】
図5Fを参照すると、新たな肺容量レベルでの換気が示されており、第2及び第1の肺容量の肺容量差と第2及び第1のPEEPレベルの呼気終末圧差との比は、ΔEELV/ΔPEEPであることが示されており、これは肺コンプライアンスCLに対応する。
【0077】
このように肺コンプライアンスCLはΔEELV/ΔPEEPとして決定される。
機械的換気の間の全呼吸器系駆動圧(ΔPaw)は、吸気終末休止の間の気道内圧Pawと呼気終末圧との差である。
Paw−PEEP=ΔPaw …(1)
吸気の終末及び呼気の終末の
経肺圧の差(ΔPtp)は、吸気の終末及び呼気の終末の間での全呼吸器系駆動圧(ΔPaw)と胸壁圧差(ΔPCW)との差である。
ΔPtp=ΔPaw−ΔPCW …(2)
全呼吸器系コンプライアンス(CTOT)は、全呼吸器系駆動圧、即ち上述の気道圧差ΔPawに対する1回換気量VTの比である。
CTOT=VT/ΔPaw …(3)
胸壁コンプライアンス(CCW)は、複数/胸壁圧差ΔPCWに対する1回換気量VTの比である。
CCW=VT/ΔPCW …(4)
肺コンプライアンス(CL)は、
経肺圧の差に対する1回換気量VTの比である。
CL=VT/ΔPtp …(5)
剛性、エラスタンス(E)はコンプライアンスの逆数である。
ETOT=1/CTOT …(6)
ECW=1/CCW …(7)
EL=1/CL …(8)
肺エラスタンスは全呼吸器系エラスタンスと胸壁エラスタンスの差である。
EL=ETOT−ECW …(9)
【0078】
換気呼吸の間、安定したPEEPレベルでは、肺のエラスタンス又はコンプライアンスは、食道内圧を測定することなしには決定することはできないし、そして次いで全呼吸器系剛性と胸壁/横隔膜剛性の差として単に間接的に計算されるだけである。
【0079】
〔
経肺圧〕
第2のPEEPレベルのCTOTに等しい第1のPEEPレベルでのCTOTは、肺コンプライアンスが既存の圧力範囲において線形であることを示すので、
経肺圧は次のように計算することができる。
ΔPtp=ΔPaw×EL/ETOT …(10)
通常、特に肺の機械的特性、更には胸壁及び横隔膜の機械的特性は、第1及び第2のPEEPレベルの間でのCTOTの変化によって示されるように、2つのPEEPレベルの間で変化し得る。そのような変化が第1及び第2のPEEPレベルの間でCTOTに検出されると、変曲点及び偏向点(inflection and deflection points)を以下のようにして決定又は計算することができる。
具体例において、所定の1回換気量では、2つのPEEPレベルの間での
経肺圧の差は次のようにして計算され得る。
ΔPtp=(ΔPaw1+ΔPaw2)/2×EL/ETOT …(11)
ここで、ΔPaw1は吸気プラトー圧から第1のPEEPレベルでの呼気終末圧を減じたものであり、またΔPaw2は吸気プラトー圧から第2のPEEPレベルでの呼気終末圧を減じたものである。
従って、PEEPにおけるステップ変化に続く呼吸毎の容量増大の合計が、PEEP変化に等しい
経肺圧の増大に起因する全肺容積変化であり、肺コンプライアンスは次のようになる。
CL=ΔEELV/ΔPEEP …(12)
【0080】
ΔPEEPは第1及び第2のPEEPレベルでの呼気圧トランスデューサ133の測定から直接的に決定される。ΔEELVもまた、望ましくは呼吸装置の流量トランスデューサの測定に基づくスパイロメトリによる上述したスパイロメトリ測定から決定可能である。従って、(12)式から決定されるCLを用いて、ΔPtpが(10)式から決定される。実施形態において、ΔPawは、呼吸装置、即ち吸気圧トランスデューサ113の測定から有利に決定される。また(3)及び(6)式を参照すると、ETOTは、呼吸装置、即ち吸気流量トランスデューサ112及び呼気圧トランスデューサ113の測定から決定される。このように、ΔPtpは、食道内圧を測定する必要性なしに、これらの計算に基づいて決定される。(12)式による等のCLの決定及びこれに伴うΔPtpの決定は、従来は、このように有利で、便利で、患者に安全で且つコスト効率的な方法では不可能であった。
【0081】
〔非線形P/V曲線の下部及び上部変曲点の識別〕
上述したように、PEEPを変化させた後のPEEPレベルでのCTOTが、当該変化前の第1のPEEPレベルでのCTOTから変化した場合、このことは、肺及び/又は胸壁のコンプライアンスが非線形であることを示している。コンプライアンスの変化のレベルのより正確な識別、即ち第2のPEEPレベルCTOTが増加した下側変曲点のより正確な識別は、より小さいPEEPレベル変化をもたらすこと及び/又は1回換気量を低減することにより行われてよい。第2のCTOTが第1のPEEPレベルに対して減少した上側偏向点は、同様にしてより正確に識別され得る。小さいPEEPステップ及び/又は小さい1回換気量を(11)式と組み合わせることにより、全肺気量(total lung capacity)にわたり肺に対する圧力・容量曲線を識別することが可能である。
【0082】
実施形態において、PEEPレベル間でCTOTが変化する場合、即ち非線形条件が存在する場合、第1のPEEPレベルでの
経肺圧(Vt
PEEP1)は、段階的に得られるΔEELVの合計(ΣΔEELV)が第1のPEEPレベルでの1回換気量(Vt
PEEP1)に等しくなるか又は近くなるまで、即ちΣΔEELV=Vt
PEEP1になるまで、PEEPにおける段階的増加が行われる手順によって識別される。このΣΔEELVが得られるPEEPレベルを肺コンプライアンスPEEP(PEEP
CL)と称する。第1のPEEPでの1回換気量に対する肺コンプライアンスCL
VtPEEP1は、
CL
VtPEEP1=ΣΔEELV/(PEEP
CL−PEEP1)
として計算され、また第1のPEEPレベルでの1回換気量の
経肺圧は、
ΔPtp
VtPEEP1=ΔPaw×EL
VtPEEP11/ETOT
VtPEEP1 …(13)
として計算される。
【0083】
バロ・ボロトラウマ(baro- and volotrauma)を回避する制限等、患者の安全性の面から使用が可能とみなされる最高PEEPレベル(PEEP
PEAK)での1回換気量では、このPEEPレベルを超えるCL(CL
PEAK)それ自体は測定することができない。しかし、2番目に高いPEEPレベルでのCTOT(CTOT
SH)が、吸気終末容量差に関連する最高PEEPレベルでの1回換気量におけるCTOT(CTOT
PEAK)として2番目に高いPEEPレベルと最高PEEPレベルとの間で測定されるΔEELVに関係するとの前提に基づき、吸気終末肺容量の差(ΔEILV)を推定することができ、即ち
CTOT
SH/ΔEELV=CTOT
PEAK/ΔEILV
であり、この式は
ΔEILV=CTOT
PEAK×ΔEELV/CTOT
SH …(14)
と変形され、また、CL
PEAKは、PEEP
PEAK及びPEEP
SHでのΔPawの差(ΔPaw
PEAK−SH)を、PEEP変化により得られる
経肺圧における対応する変化とみなすことによって計算することができ、即ち
CL
PEAK=ΔEILV/ΔPaw
PEAK−SH …(15)
又は
CL
PEAK=ΔEILV/ΔPEEP
PEAK−SH
であり、ここではΔPaw
PEAK−SH又はΔPEEP
PEAK−SHの最大圧力差が計算のために選ばれる。次いで最高PEEPレベルでの
経肺圧Ptp
PEAKは、(10)式により次のように計算される。
Ptp
PEAK=ΔPaw
PEAK×EL
PEAK/ETOT
PEAK …(16)
【0084】
図6は非線形コンプライアンス条件を伴う患者の例の模式的な圧力/容量グラフであり、上述したシステム及び方法を実施する場合の例示として示されている。
【0085】
図6は線形の胸壁コンプライアンス(ここでは100ml/cmH
2O)及び非線形の肺コンプライアンスを伴う患者の模式的なグラフ7を示しており、非線形の肺コンプライアンスに関して、5cmH
2O未満ではCLは26ml/cmH
2O、下側変曲点70があり、5〜15cmH
2OではCLは66ml/cmH
2O、また15cmH
2Oを超えるとCLは26ml/cmH
2O、そして上側変曲点71がある。対応する全コンプライアンス値は3つの範囲でそれぞれ20、40及び20ml/cmH
2Oである。
【0086】
ゼロPEEPでの1回換気量の間の
経肺圧の正確な決定のために、PEEPは、ΔEELVが1回換気量(450ml)に等しくなるまで増大させられるべきであり、このことは、この例ではPEEPを9cmH
2Oよりも僅かに大きくすることによって達成されている。最高安全PEEPレベルでは、
経肺圧は、7及び12cmH
2Oでの1回換気量の間での吸気終末肺容量差(ΔEILV)の決定により計算することができ、これは(14)式に従って次のように計算される。
ΔEILV=26×340/40=221ml(=CTOT×ΔEELV/CTOT)
この容量変化の原因となる
経肺圧の変化は、PEEPにおける12及び7cmH
2Oでの1回換気量のΔPawにおける差=17.5−11.4=6.1cmH
2Oである。
最高PEEPレベルでの1回換気量のCLは、(15)式に従い次のように計算される。
221/6.1=36ml/cmH
2O (CL=ΔEILV/ΔPEEP)
当該1回換気量の
経肺圧は、(16)式に従い次のように計算される。
17.5cmH
2O×26/36=12.6cmH
2O (Ptp=ΔPaw
PEEP12×EL
PEEP12/ETOT
PEEP12)
【0087】
〔胸壁/横隔膜エラスタンス(ECW)の間接的決定〕
全呼吸器系剛性ETOT及び肺剛性ELは両方とも上述した方法により決定され、胸壁/横隔膜の剛性は、
ECW=ETOT−EL …(17)
として間接的に決定され得る。
この計算は、ETOTの過小評価がELの過大評価をもたらすので、ETOTが得られた条件に敏感である。これを避けるために、ETOTは真の静的条件下で測定されてよく、即ち吸気終末圧及び呼気終末圧は両方とも、粘弾性力を解放して本来のPEEPを識別するための相当時間(>4秒)の吸気終末/呼気終末休止の後に測定されるべきである。
【0088】
図7は異なるPEEPレベルでの呼吸器系(CTOT)及び胸壁(CCW)全体の圧力/容量グラフ6である。呼吸器系及び胸壁全体の換気P/V曲線の模式的なグラフ6が0、10、20及び30cmH
2OのPEEPで示されている。肺のP/V曲線は呼吸器系及び胸壁全体のP/V曲線の差からなるので、換気P/V曲線の始点は肺のP/V曲線に沿って位置する。肺コンプライアンスはΔEELV/ΔPEEPとして決定され、この例では750/10=75である。
【0089】
上述した方法に従い決定された
経肺圧(Ptp)に基づきPEEPレベルをオンライン調節する方法は、肺を損傷から保護するためのより低い
経肺圧の場合にPEEPをより低く制限することを備える。
【0090】
不健全な肺においては、多少の肺胞が虚脱していることがある。そのような虚脱した肺胞においては、ガスが肺胞に入り又はそこから出ることができないので、虚脱した肺胞を通してのガス交換が阻害される。人工呼吸器1は、血液への適切な酸素供給を提供するために、より高濃度の酸素を供給することができる。加えて又は代替的に、人工呼吸器1は、気道開口を維持するために、上述のように決定された
経肺圧に基づく調節された呼気終末陽圧(PEEP)を供給することができる。例えば
経肺圧を増大させることによって、虚脱した肺胞は回復を開始することになる。虚脱した肺胞が開通し始めると、それらは再び肺胞ガス交換に利用可能になり、そして回復が生じる圧力は臨界開口圧と称される。PEEPレベルは、上述したように下側変曲点を識別することによって、呼気の間の虚脱を抑えるように選択される。過膨張が回避されるような
経肺圧に増大することが防止される。過膨張は不所望な肺組織の損傷を生じさせる可能性があるので、過膨張は患者にとって危険であることがある。
【0091】
従って、上述したPEEPのステップ操作を繰り返すことによって、所望の
経肺圧に調節し、これを制御することができる。
【0092】
前記呼吸装置を第2モードの動作(PEEPステップ)に設定することは、前記呼吸装置のユーザインタフェースから選択可能であってよい。制御ユニットは、当該ユーザ開始に際して前記
経肺圧を自動的に決定するように構成されてよい。更に、当該自動的決定は、前記装置による前記患者の支援された且つ/又は制御された換気の間になされてよい。この自動的決定は、前記支援された且つ/又は制御された換気の間に間欠的になされてよい。前記操作は所定の時間間隔でなされてよい。
【0093】
経肺圧を決定することが可能になる前の第2モードの動作における呼吸サイクルの数は、少なくとも1である。PEEPがそれ自身を望ましいPEEPに調節して平衡に近づけば近づくほど、決定される値は正確になる。従って、第2モードの動作においては、特定の状況下では1回の呼吸で十分なことがある。通常、第2モードの動作は、
経肺圧が計算され若しくは決定され又はそれにより提供される前に複数の呼吸サイクルで行われることになる。
【0094】
〔換気のための動物研究〕
ここに説明される
経肺圧決定の実現可能性、効果及び効率を実証するために、動物研究が行われた。PEEPの段階的な増大の肺容量及び食道内圧に対する効果が呼吸毎に解析された。測定原理の実証に加えて、PEEPによる肺及び胸壁の機構の肺膨張への影響が解析された。
経肺圧決定の効果及び効率の根拠となる生理学的及び解剖学的関係の説明も以下になされる。測定のための生理学的背景は、内側及び外側胸膜の間での結束により肺がその萎縮に抗して胸腔の内側容量へ引き出され且つ胸壁が釣り合いのとれた圧力/容量レベルまで引き込まれるという現象であると見出されている。大気圧の呼気終末圧では、気道内圧がゼロにもかかわらず、陽
経肺圧がもたらされる。上述したように、肺コンプライアンスはDEELV/DPEEPとして決定され、また
経肺圧は気道内圧と全呼吸器コンプライアンスの積を肺コンプライアンスで除すことで計算される。以下、この方法を「肺バロメトリ(Lung Barometry)」と称する。
【0095】
研究は麻酔され犠牲になったブタに対して行われ、また生体外で(ex vivo)行われた。気管内圧及び食道内圧は、スパイロメトリにより累積吸気・呼気1回換気量差として決定された呼気終末肺容量において測定され、そして変化させられた。研究は、腹部負荷を変化させながら異なるPEEPステップ及び体位で行われた。
【0096】
研究は、スウェーデン、ヨーテボリにある動物実験倫理審査委員会(the Committee for Ethical Review of Animal Experiments in Gothenburg, Sweden)によって承認され、国立衛生研究所(National Institutes of Health)ガイドラインに従って行われた。14匹のブタ(28〜33kg)が研究された。麻酔のため、被験動物は、15mg/kgケタミン(カテラー、パークデイビス、スウェーデン(Ketalar, Park-Davis, Sweden))及び0.3mg/kgミダゾラム(ドルミカム、ロッシュ、スイス(Dormicum, Roche, Switzerland))を用いて筋肉注射で前投与された。全身麻酔が6mg/kgペントバルビタールナトリウム(アポテクスボラゲ、スウェーデン(Apoteksbolaget, Sweden))で誘発された後、4mg/kg及び25μg/kgフェンタニル(フェンタニルファーマリンク、ファーマリンク、スウェーデン(Fentanyl Pharmalink, Pharmalink, Sweden))の点滴が1時間毎になされた。筋肉弛緩は0.15mg/kgパンクロニウム(パビュロン、オルガノン、スウェーデン(Pavulon, Organon, Sweden))の急速静注により達成された。ブタは8mm気管内チューブ(endotracheal tube)(ETT)を挿管された。機械的換気は、サーボ300人工呼吸器(シーメンス・エレーマ、スウェーデン)(Servo 300 ventilator (Siemens-Elema, Sweden))を用いて容量制御モード(volume-controlled mode)(VCV)、TV10ml/kg及び吸気酸素割合0.21で行われた。
【0097】
気管気道及び食道内圧はETTを経由して導入される圧力線を介して測定され、圧力線は血管内測定用の標準圧力レセプタ(PVBメディジンテクニーク、ドイツ(PVB Medizintechnik, Germany))に接続された。食道内圧は、食道の下部に位置決めされたバルーンカテーテルで測定された。正確な位置決めは、「食道バルーン技術の有効性を評価するための方法」(Baydur A, Behrakis PK, Zin WA, Jaeger M, Milic-Emili J. A simple method for assessing the validity of the esophageal balloon technique, Am Rev Respir Dis. 1982 Nov;126(5):788-91)に従う胸郭圧縮試験により検証された。換気の流量及び容量は、AS/3マルチモジュールモニタ(GEヘルスケア、ヘルシンキ、フィンランド(GE Healthcare, Helsinki, Finland))に接続されたDライト・サイド・ストリーム・スパイロメータ(D-lite side stream spirometer)を伴うYピースで測定された。
【0098】
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)のために、16個の電極を伴う弾性ベルトが胸壁の周りに配置され、EITデバイス(ドレイガー、ドイツ(Drager, Germany))に接続された。5mA、50kHzの電流の適用によりEITデータが生成され、隣接電極対間の電位差が逐次巡回処理で測定され、全スキャンは25Hzでサンプリングされた。スキャンスライスは5〜10cmの推定厚みを有している。電極は第5肋間間隙に対応するレベルに位置決めされた。このレベルは、インピーダンス変化の換気振幅がPEEPの増大に最も影響を受けにくいレベルとして、以前の発見に従って選ばれた。グローバル電気インピーダンス呼気終末レベルは、N
2ウォッシュイン/ウォッシュアウト(washin/washout)技術で測定されたFRCに対して較正された。換気インピーダンス変化は、1回換気量を100〜200mlずつ変化させることにより較正された。
【0099】
呼気終末肺容量(EELV)は、「標準モニタリング装置を用いた臨床での機能残余容量の推定:呼気酸素割合の小変化を要する改良窒素ウォッシュアウト/ウォッシュイン技術」(Olegard C et al, "Estimation of functional residual capacity at the bedside using standard monitoring equipment: a modified nitrogen washout/washin technique requiring a small change of the inspired oxygen fraction.", Anesth Analg. 2005 Jul;101(1):206-12)に従う窒素ウォッシュアウト/ウォッシュインのための改良技術を用いて測定された。
【0100】
PEEPステップ(ΔPEEP)に追従する呼気終末肺容量増加(ΔEELV)は、新たなPEEPレベルを確立するために必要な呼吸の吸気・呼気1回換気量差の差の付加によりスパイロメトリ的に決定された。この決定はサーボ300スパイロメトリを用いて行われた。また、ΔEELVは、PEEPステップに追従する呼気終末インピーダンス(ΔZ)の変化を用いて決定された。インピーダンスの変化は、第1及び第2のPEEPレベルでのΔZ/mlの平均値を用いることによって、mlへ変換された。
【0101】
食道内圧における換気変化(tidal variation in esophageal pressure)(ΔPES)は、PESEIP−PESEEとして決定され、ここでPESEIPは吸気終末食道内プラトー圧、PESEEは呼気終末食道内圧である。換気
経肺圧変化(tidal transpulmonary pressure variation)(ΔPTP)はΔPAW−ΔPESとして計算された。
【0102】
全呼吸器系コンプライアンス(CTOT)は、VTを1回換気量差とするときに、VT/ΔPAWとして計算された。全呼吸器系エラスタンス(ETOT)は1/CTOTとして計算された。胸壁コンプライアンス(CCW)はVT/ΔPES)として計算された。胸壁エラスタンス(ECW)は1/CCWとして計算された。肺エラスタンス(EL)はETOT−ECWとして計算され、肺コンプライアンスは1/ELとして計算された。
【0103】
呼吸器系のPEEPステップ誘起の膨張に関連する駆動圧(ΔPAWΔPEEP)は、ΔEELV×ETOTとして計算された。呼吸器系のPEEPステップ誘起の膨張に関連する食道内圧の呼気終末増大(ΔPESΔPEEP)は、ΔEELV×ECWとして計算された。呼吸器系のPEEPステップ誘起の膨張に関連する
経肺圧の呼気終末増大(ΔPTPΔPEEP)は、ΔEELV×ETOT−ΔEELV×ECWとして計算された。
【0104】
予測されるΔEELVは、ΔPEEP/EL、ΔPEEP/ECWとして、及びΔPEEP/ETOTとして計算された。
【0105】
《実験手順》
〔生体内(In vivo)〕
換気は容量制御モードに設定され、体重当たり1回換気量は10〜12ml/kg、呼吸速度は10、吸気時間は30%、吸気終末休止は10%であった。PEEPのステップ増加は0cmH
2Oから12cmH
2Oで行われた。呼気1回換気量がゼロPEEPレベルに戻った後、又は80秒より多く経過した後、PEEPは1ステップでゼロcmH
2Oまで減少させられた。
【0106】
この研究の主たる目的は呼吸機構を調べることでありガス交換ではないので、被験動物は次いでペントバルビタールの過剰投与により犠牲にされた。これにより、圧力信号における心臓関連の圧力変化が排除され、生体外呼吸機構肺モデルがもたらされた。
【0107】
〔生体外(Ex vivo)〕
生体外実験手順の継続時間は約120分であった。
1.段階的に1回換気量を基準線250mlから300、500及び700mlまで変化させることによるEIT較正。
2.水平仰臥位にブタを配置。
2:1.EITの1回換気量較正。
2:2.PEEPを0から4cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
2:3.PEEPを0から8cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
2:4.PEEPを0から12cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
3.水平仰臥位にブタを配置。
3:1.砂袋加重8kgでの腹部への負荷。
3:2.EITの1回換気量較正。
3:3.PEEPを0から4cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
3:4.PEEPを0から8cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
3:5.PEEPを0から12cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
3:6.加重除去。
4.水平仰臥位にブタを配置。
4:1.手術台を角度30°で逆トレンデレンブルグ体位に(positioned reverse Trendelenburg)。
4:2.EITの1回換気量較正。
4:3.PEEPを0から4cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
4:4.PEEPを0から8cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
4:5.PEEPを0から12cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
4:6.手術台を水平位置に戻す。
5.EITの1回換気量較正。
6.PEEPを0から12cmH
2Oに上げ、0cmH
2Oに戻す。
【0108】
《結果》
表1は水平位置における基準線での13生体外ブタ実験に対する肺及び胃壁機構を示す。
【0110】
図8を参照すると、水平位置にあるブタ生体外PEEP増加に追随する肺の連続的な膨張が示されている。
図8においては、ゼロPEEP、逆トレンデレンブルグで全呼吸器系エラスタンス41.7cmH
2O/L、胸壁コンプライアンス20.4cmH
2O/L、肺コンプライアンス20cmH
2O/L及び1回換気量250mlのブタについて、PEEPの変化に追随する呼気終末肺容量の呼吸毎増加(ΔEELV)が、0から約12cmH
2Oに増大させられる。尚、肺容量の第1の呼気ビルドアップは、1回換気量250mlに等しい。これに対して、肺容量における計算された第1の呼気増加は、ΔPEEP/ETOT、即ち11/0.042=264mlであるべきであった。
【0111】
図9を参照すると、PEEP増加に追随する第1の呼吸の後のEELVの増加は、PEEPステップに先立ち0cmH
2Oで測定された全呼吸器エラスタンスをETOT
zeroPEEPとするときに、ΔPEEP/ETOT
zeroPEEPとr
2=0.90で密接に相関した。
図9はPEEPを増加させた後の第1の呼気の後の呼気終末容量増加に関する相関を示している。
【0112】
図10を参照すると、PEEP変化に追随して生じたΔEELVに最も近い1回換気量でのPEEP変化の前に行われた較正呼吸から得られた気道内圧及び食道内圧において換気量変化から計算される肺エラスタンスをEL
calVTとするときに、スパイロメトリを用いて測定されたΔEELVとΔPEEP/EL
calVTから予測されるΔEELVとの間の相関は、r
2=0.70、y=1.13xであった。
図10は、スパイロメトリを用いて測定された呼気終末肺容量変化と肺エラスタンス及びPEEP変化から計算された呼気終末肺容量変化(ΔPEEP/EL)との相関プロットである。
【0113】
PEEPステップに追随するΔEELVの予測が全エラスタンス(ETOT)の値から行われたとすると、ΔPEEP/ETOTによる予測値は、スパイロメトリ的に測定されたΔEELVの約0.73倍である(r
2=0.84、y=0.73x)。胸壁エラスタンス(ECW)を用いるΔEELVの予測、即ちΔPEEP/ECWによると、予測肺容量変化は、測定されたΔEELVの約2.3倍である(r
2=0.61、y=2.31x)。
【0114】
〔PEEP誘起呼吸器系膨張の駆動圧〕
呼吸器系のPEEP誘起膨張の駆動圧は、ΔEELV×ETOTとして計算された。この累積的な駆動圧は、
図11に示されるように新たな呼気終末圧力・容量平衡を確立することに関与する各呼吸の先行する吸気の間に与えられると考えられてよい。
図11は仰臥のブタ8におけるPEEPステップ12cmH
2Oの間の容量及び駆動圧のグラフである。
図11における上側パネルは、呼吸毎の肺容量増大のスパイロメトリ出力波形(spirometric tracing)を示す。
図11の下側パネルにおいて、駆動圧は、吸気気道内圧増加の太線バーによって示されており、これは各呼吸のための肺容量の増大に相関している。
【0115】
〔PEEPステップの間の食道内圧の変化〕
PEEPステップの前後での食道内圧の変化(ΔPES)は実質的に変化せず、ゼロPEEPで5.8±2.2cmH
2O、そして4、8及び12cmH
2OのPEEPでそれぞれ5.5±2.2cmH
2O、5.1±1.7cmH
2O及び5.1±1.6cmH
2Oであった。呼気終末食道内圧(PESEE)増加は、第1の呼気終末肺容量増大及び胸壁エラスタンスΔEELV1×ECWに密接に相関した(r
2=0.80、y=0.87x)。
【0116】
第1の呼気の後、呼気終末肺容量の継続的な増大にもかかわらず、PESEEの更なる増加はなかった。水平位置、ΔPEEP12cmH
2O、ΔEELV580mlであった。呼気終末食道内圧は、肺容量の継続的な増大にもかかわらず、第1の呼気の後に増加しなかった。
【0117】
〔腹部負荷〕
上腹部への8kgの加重の印加の結果、呼気終末食道内圧(PESEE)は、−1.8±2.1cmH
2Oから−1.22±3.0cmH
2Oに増加した。腹部負荷の結果、肺エラスタンス及び胸壁エラスタンスの両方がそれぞれ50.1±36.5及び17.1±4.5cmH
2O/Lから65.3±33.8及び29.2±8.9cmH
2O/Lに増大した。全呼吸器系エラスタンスに対する肺エラスタンスの比(EL/ETOT)は、腹部負荷の前に0.78±0.14、後に0.70±0.14であった。
【0118】
負荷に続いて呼気終末気道内圧の変化はなかったが、PEEP増加に追随して即座に増加した呼気終末食道内圧は、実験シーケンスの間、負荷前レベルまで徐々に戻った。
【0119】
〔逆トレンデレンブルグ効果〕
ブタ頭部を上げる30°の傾斜の結果、呼気終末食道内圧(PESEE)は−5.1±2.2cmH
2Oに低下した。肺エラスタンスは50.1±36.5から44.5±23.1cmH
2O/Lに低下した。胸壁エラスタンスは17.1±4.5から19.9±4.0cmH
2O/Lに低下した。傾斜の後の全呼吸器系エラスタンスに対する肺エラスタンスの比(EL/ETOT)は0.71±0.1であった。
【0120】
逆トレンデレンブルグ配置に続いて呼気終末気道内圧の変化はなかったが、即座に増加した呼気終末食道内圧は、実験シーケンスの間、傾斜前レベルまで徐々に戻った。
【0121】
《考察》
この呼吸器機構の生体外研究においては、呼気終末圧を段階的に上昇させることによる肺容量増大ΔEELVは、結果として得られるΔEELVが1回換気量より小さい場合であっても、幾つかの呼吸を伴うことが示された。新たな呼気終末圧力・容量平衡を確立することに関与する呼吸の吸気フェーズの間、肺を膨張させ且つ胸壁を押し出すのに必要な駆動圧が与えられ、そして駆動圧は、容量変化の大きさ及び全呼吸器系のエラスタンスからΔEELV/ETOTとして計算することができる。呼気終末圧食道内圧は、呼気終末肺容量が増大し続けたとしても、PEEPを増加させた後の第1の呼気の後に更に増加することはなく、そして呼気終末食道内圧は、12cmH
2OのPEEPでも陰圧又は最小の陽圧であった。PEEPが増加させられると、胸壁P/V曲線は連続的に左にシフトさせられた。PEEP増加に追随するΔEELVは、PEEP増加の程度ΔPEEP及び肺エラスタンスからΔPEEP/ELとして予測可能であると思われる。
【0122】
〔呼気終末圧及び容量の呼吸毎ビルドアップ〕
呼吸器系のPEEP誘起膨張は、肺を膨張させ且つ胸壁をその新たな呼気終末圧力・容量平衡まで押すのに必要な力で示される。この力、即ち駆動圧は、新たな呼気終末圧及び肺容量平衡のビルドアップに関与する呼吸の各々に先立つ吸気の間に与えられる。このことは特にPEEPを増加させた後の第1の呼気に関して明白であり、この場合、容量はΔPEEP/ETOTに密接に関係する。
【0123】
呼気終末肺容量増大は呼吸毎に継続し、そして各呼吸は、吸気及び呼気の1回換気量の差の駆動圧、即ち肺及び胸壁のエラスタンスの換気ΔEELV倍の駆動圧を有する。従って、新たな圧力・容量平衡を確立するのに必要な駆動圧は、全呼吸器エラスタンスの呼気終末肺容量倍における全変化に等しい。PEEPステップの駆動圧は、呼気終末肺容量の変化に等しい容量を伴う通常の換気吸気の気道内圧とみなすことができる。
【0124】
PEEP増加は、呼気終末肺容量のビルドアップを連続的に減少させる多呼吸(multi-breath)をもたらす。容量制御換気が用いられた本研究では、吸気1回換気量は、PEEP変化の前から新たな平衡に達するまで一定である。これに対し、呼気の1回換気量は、PEEP増加の経過の間に変化する。PEEP増加の後の第1の呼気1回換気量は、先行する吸気よりも小さく、そして全呼吸器系エラスタンス(ETOT)で除されたΔPEEPに等しい。続く呼気は、呼気1回換気量が吸気1回換気量に等しくなり且つ新たな呼気終末圧力・容量平衡に達するまで連続的に増加することになる。
【0125】
〔応力適合(stress adaptation)〕
研究前膨張は用いられず、そして生体外継続中換気の間にガス交換なしで応力適合が研究された。従って、15〜30分にわたり極めて時間のかかる適合を研究することができた。特に、呼気終末食道内圧が減少した逆トレンデレンブルグ配置の後及び呼気終末食道内圧が増加した腹部加重印加の後に、呼吸器系の明白な可塑性が示されている(
図8a,b参照)。1回換気量較正並びにPEEPの増加及び減少を伴う続く実験手順の経過の間(10〜20分)、呼気終末食道内圧は、被験動物が傾斜させられ又は腹部加重が印加される前の基準線までゆっくりと戻った。
【0126】
〔PEEP上昇の間の食道内圧の変化〕
仰臥配置での絶対食道内圧測定は、食道測定バルーン上への縦隔組織重量の影響によりミスリードする可能性がある。食道内圧は胸腔内圧の代替測定であるから、ゼロPEEPでの呼気終末食道内圧トレースは、平均胸腔内圧として通常報告されている−5cmH
2Oに移行した。12cmH
2OのPEEPでも、移行した呼気終末食道内圧は陰圧のままであった。
【0127】
PEEPの増加は呼気終末食道内圧レベルを僅かに変化させただけであり、また食道内圧の絶対増加は、PEEP増加の後の第1の呼気に限定されていた。肺容量の増大及びその結果として胸腔容量の増大は第1の呼気の後の何回かの呼吸の間に継続するので、これは驚くべき発見である。このように呼吸器系容量の増大進行中における呼気終末食道内圧の更なる増加がないことは、胸郭及びその筋肉、横隔膜並びに腹腔壁及びその内容物を含む広い意味での胸腔包囲物の特性が、単に降伏することによる容量膨張に適合すること、即ち応力適合に起因していそうである。
【0128】
腹部は、仰臥配置では約15cmの腹背両面高さ(ventro-dorsal height)を有する約10リットルの容量を伴う液体充填容器とみなすことができる。腹部容器の腹部「表面」面積(abdominal the “surface” area)は約7dm
2である。PEEPを増加させることにより呼気終末肺容量を0.5l増大させることで、表面レベルは0.7cm上昇し、また呼気終末食道内圧は約0.7cmH
2O増加する。
【0129】
腹部壁応力適合は腹部表面積の更なる増大をもたらすと思われるので、呼気終末食道内圧は更に小さくなるであろう。腹圧5mmHgでのPEEPのゼロ及び3cmH
2Oにおける呼気終末食道内圧の極めて小さい増加があり、そして腹圧を10mmHgまで増加しても呼気終末食道内圧の更なる増加はなかった。このパターンは本研究における8cmH
2OのPEEPで更に明白であり、腹圧5mmHgのときに適度な呼気終末食道内圧が結果としてもたらされた。腹圧が10mmHgに増大させられても呼気終末食道内圧は更には増加せず、このことは、腹部壁が降伏してしまい腹圧が胸腔までは伝達されなかったことを示している。
【0130】
〔横隔膜の役割〕
PEEP誘起呼気終末肺容量膨張の結果、横隔膜及び腹腔内容物が極めて小さい胸壁エラスタンスの変化で尾方向及び横方向に変位する。本研究では、食道の換気圧力・容量変化は、PEEPステップの増加に伴って胸壁P/V曲線が連続的に左に平行シフトさせられ、また各PEEPレベルのP/V曲線は腹部壁の応力適合に完全に従う概ね同じ傾斜を有していることを示した。このことは、横隔膜筋が自発呼吸の間には維持されていたその基本的呼気終末張力を失い、陽圧換気の間に受動的構造に変わるという事実によって更に支持される。呼気終末張力は、制御された換気の間における胸郭の直径、横隔膜の長さ及び静腹圧によって決定される。自発呼吸の間、横隔膜筋張力、場合によっては特に脚(背)部は、たとえ通常位置から仰臥に位置を変えるときに横隔膜全体が頭蓋方向に変位させられたとしても、従属している横隔膜を腹腔内容物が頭蓋方向へ押すのを防止する。この動きは、自発呼吸している被験体において非従属及び従属領域で概ね等しい。
【0131】
制御された換気が開始されると、横隔膜の呼気終末張力は失われ、腹部からの静水圧の力により横隔膜が受動的に伸ばされるのに従って、横隔膜は頭部に向かって動き、また胸郭の腹背両面直径は減少する。頭部に向けた横隔膜の動きは、腹部の静水圧に最もさらされている背部従属領域で最も顕著になるはずであり、そして呼気終末肺容量は主として従属肺領域において減少する。
【0132】
〔胸郭の役割〕
胸郭は、呼吸筋、肋間部及び横隔膜の活動のための胸腔及びレバーの弾性的な骨格である。FRCでは、胸郭はFRCより大きい約700mlの静止位置に向けて外に弾性的に戻ろうとする。一方、FRCでの肺は、その残留容量を下回る約500ml(FRCより小さい)まで萎縮しようとする(ナンの応用呼吸生理学、第4版、第3章、48頁、バターワース、ハイネマン、1995(Nunn
's Applied respiratory physiology. 4
th edition, chapter 3, page 48. Butterworth, Heinemann, 1995))。これら2つの反対方向の力は、胸腔内平均陰圧に等しい平均陽
経肺圧をもたらし、これは通常約5cmH
2Oである。肺胞と周囲室の間に圧力勾配がないとしても、肺全体はFRCにあっても広がる。従って、肺は胸腔内で吊るされた状態であり、呼気終末圧の増加により呼気終末肺容量が変化すると、「FRCコンプライアンス」はΔEELV/ΔPEEPとして決定することができる。これは、ゼロより大きい呼気終末圧のどのレベルにおいても、肺が萎縮するのを阻む唯一の力は、人工呼吸器により維持される呼気終末圧であるということに関連している。このことはまた、増加させられたPEEPレベルでも胸壁及び横隔膜が肺にもたれること又は肺を圧迫することを防止するフレームとして胸郭が作用していることを暗示している。PEEP起因の呼気終末肺容量の増大は、胸郭と頭部方向に押し込まれる横隔膜との間に分配されることになるから、胸郭が外に弾性的に戻ろうとする力は、4リットルを超える呼気終末肺容量のレベル以下に存在すると推定することができる。FRCが2.5lの場合、最大で4リットルの肺容量の増大は、胸郭を約0.7l拡大させ、残りの容量は横隔膜を変位させることになる。制御された換気の間、呼気終末肺容量は、仰臥している健康人において0.5l減少する一方で呼吸器不全の患者ではそれ以上減少し、このことは、胸郭の「外に弾性的に戻る力(spring out force)」を喪失することなしにPEEPが顕著に増加させられ得ることを意味している。我々は、移行した呼気終末食道内圧が僅かな例でのみ高PEEPでも大気圧レベルに達したことを見出した。このことは、呼気終末では肺は胸郭の外に弾性的に戻る力によって吊るされており、また肺が萎縮するのを阻む唯一の力は人工呼吸器の呼気終末圧であることを更に強調している。従って、呼気終末では、胸壁は肺に圧力を与えているとは思われず、人工呼吸器により維持される呼気終末気道内圧のみが肺の萎縮を防いでいる。
【0133】
受動的呼気は、単一区分現象ではなく、急速初期流及び低速最終流を伴う2区分現象(two compartment phenomenon)である。呼気の初期フェーズは伸ばされた組織の萎縮により受動的であるが、後の部分では呼気はゆっくりになり、このことは、呼気の最後の部分の間に胸郭が外に向けて弾性的に戻り又はより大きな容量で停止することによって説明され得る。胸郭直径の増大は横隔膜の受動的な伸びをもたらし、この伸びは腹腔内容物の頭部に向かう動きに対抗することになる。結果として、呼気流量は呼気終末の間に減少してゆき、そして呼気終末での静止状態では、胸郭は外に向けて弾性的に戻る状態になり、また横隔膜は伸ばされ、増加させられたPEEPレベルにおいても陰である胸腔内圧が保たれることになる。
【0134】
〔PEEP上昇の間における呼気終末圧変化(ΔPEEP)と肺容量変化(ΔEELV)の関係〕
PEEP増加に追随する呼気終末肺容量の増大は、PEEPステップの大きさ及び全呼吸器系コンプライアンスからは予測し得ないということがよく知られている。本研究において全呼吸器系エラスタンスで除した呼気終末圧の変化(ΔPEEP/ETOT)として計算されるΔEELVの予測は、PEEPステップに追随するスパイロメトリ的に測定されたΔEELVのたった約半分である予測された容量をもたらした。胸壁エラスタンスで除した呼気終末圧の変化(ΔPEEP/ECW)として計算される呼気終末肺容量の変化の予測は、測定されたΔEELVの2倍の予測された容量をもたらした。肺壁エラスタンスで除した呼気終末圧の変化(ΔPEEP/EL)として計算される呼気終末肺容量の変化の予測は、測定されたΔEELVにかなり近い予測された容量をもたらし(r
2=0.70)、このことは、第1の呼気の後に新たな呼気終末圧力・容量平衡に達するまでにも呼気終末
経肺圧が呼吸毎に増加し続けているらしいことを示しており、この場合、呼気終末
経肺圧の増加は呼気終末気道内圧の変化(ΔPEEP)に等しい。
【0135】
要約すると、PEEPステップに続く10〜30分の持続時間を伴うプロセスである応力適合による肺容量の変化を胸壁及び腹部が受け入れるので、PEEPステップは呼気終末食道内圧の最低限のビルドアップを結果としてもたらす。約12cmH
2Oのかなり高いPEEPレベルでも、呼気終末食道内圧は陰圧のままである。肺の萎縮に対抗する胸郭の吸気終末の外に弾性的に戻る力の結果として、胸壁及び横隔膜は、広範囲のPEEPレベルにわたって、呼気終末圧力・容量平衡では肺に圧力を与えないし、与えても極めて限定されたものである。胸郭の外に弾性的に戻る力は、呼気の最後の部分を保つと共に横隔膜を伸ばし、これにより、従属的な肺への静腹圧の影響が制限される。
【0136】
〔肺モデルアナログ〕
本研究で述べたような呼吸器系の挙動を網羅する肺モデルは、収縮を伴う肺、外に弾性的に戻る力を伴う胸郭、並びに構造的弾力性を有する壁を伴う高速及び低速な腹部水圧区分を包含する必要がある。
図12にはそのような肺モデルが示されている。
図12は萎縮を伴う肺とFRCで開いた肺を保つ外に弾性的に戻る力を伴う胸郭とを有する模式的な肺モデルを示している。呼気終末肺容量が増大すると、胸郭の垂直直径は増大し横隔膜は伸ばされ、それにより張力が増大し、また腹腔内容物が肺、特に背側部に直接的に押し付けられることが防止される。低速腹部区分の表面は約7dm
2であり、0.5Lに対応する尾側の変位は表面を1cm未満上昇させ、そしてそのような横隔膜の変位に追随して呼気終末食道内圧(胸腔内圧)は最小限増加することになる。低速区分の体液及び臓器の慣性は、PEEP変化に追随することのみに関与するので、食道内圧の換気変化は高速区分を反映することになる。
【0137】
〔臨床上の意義〕
呼吸器系に関する本研究の成果は、30秒未満の肺活量動員処置(vital capacity recruitment maneuvers)で十分であるとみなされていた従来の想定よりも、動員がもっと時間のかかるプロセスであるということを示している。また、動員処置は胸壁に大きな程度で影響し、肺が動員されるだけでなく、限定された食道内圧増加で胸腔容量を増大させることを可能にする可塑性を有する胸壁もまた、かなりの程度で動員されると言うことができる。PEEP増加は、胸腔が開くことをもたらし、即ち非従属的な肺の拡大のための余地を作る優先的な非従属的部分である横隔膜の尾側の変位をもたらしていると思われる。この意味において、PEEP増加は、先に虚脱した従属的な肺の開口を主としてもたらすのではなく、むしろ既に開いている非従属の肺の拡張をもたらす。
【0138】
潜在的に重要な他の臨床上の意義は、PEEP増加に追随するEELVの増加がPEEPの変化の大きさ及び肺エラスタンスからΔPEEP/ELとして予測され得るという発見である。相関係数は(r
2=0.70)であり、直線の等式は1に近い(y=1.13x)。応力適合は、PEEPステップの大きさに関係していたし、また特に8及び12cmH
2OのPEEPステップで結果の大きなばらつきをもたらした。しかし、我々の結果では、
経肺圧におけるPEEP増加誘起の変化は、
図13及び
図14に示されるように、PEEP誘起のΔEELVと同じ大きさの1回換気量の換気
経肺圧変化に密接に関連するので、肺コンプライアンスは、呼気終末肺容量の変化を測定しそれを呼気終末圧の変化で除することによって、即ちΔEELV/ΔPEEPによって、食道内圧測定なしに決定可能であることが示された。
【0139】
図13はPEEP変化に追随するΔEELVと同じ大きさの1回換気量の
経肺圧の変化とPEEP変化とを比較する略図である。
【0140】
図14はPEEP変化に追随するΔEELVと同じ大きさの1回換気量の
経肺圧の変化と比較される幾つかのグラフである。腹腔の体液及び臓器の慣性は横隔膜の急速な変位を阻むので、腹部負荷の間、従来の
経肺圧はΔPEEPよりも小さい。これに対して、腹腔の体液及び臓器は重力によって尾部方向に変位するので、従来測定された
経肺圧は、逆トレンデレンブルグの間ΔPEEPよりも大きい。
【0141】
既に公にされた研究からのデータを用いて、我々は、肺が健康な患者並びに中程度の及び深刻な呼吸器不全を有する患者において従来決定された(食道内圧測定使用)肺コンプライアンスのΔEELV/ΔPEEPの決定との比較を行い、以下の表2に示されるように、極めて良好な相関(r
2=0.96)を見出した。
【0142】
表2(下記)はALIを伴う患者における肺コンプライアンス及びPEEPの影響を示しており、急性呼吸不全の間における動員及び脱動員の実験的研究(Pelosi et al. Recruitment and derecruitment during acute respiratory failure: an experimental study. Am J Respir Crit Care Med. 2001 Jul 1 ;164(1 ):122-30)からのデータに基づいている。
【0144】
下記の表3を参照すると、肺ARDS及び肺外ARDSを伴う患者からのデータとの
経肺圧の比較もまた、r
2=0.991での良好な相関を示した。
【0146】
表3(上掲)は、「肺疾患及び肺外疾患による急性呼吸促迫症候群。異なる症候群?("Acute respiratory distress syndrome caused by pulmonary and extrapulmonary disease. Different syndromes?" Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jul;158(1 ):3-11)」からのデータに基づく従来の及び肺バロメトリによる
経肺圧(PTP)を示している。
【0147】
本研究を要約すると、PEEPの増加に追随して新たなEELVの連続的なビルドアップがあった。これは数呼吸にわたって生じるプロセスであった。研究の結果、
経肺圧決定の実現可能性、効果及び効率が確認された。PEEP増加は呼気終末肺容量のビルドアップを連続的に減少させる多呼吸をもたらすことが分かった。この容量に達するのに必要な呼吸の回数は、胸壁機構及び肺機構の関係に依存する。より高い肺対胸壁エラスタンスで顕著に少ない呼吸が必要とされる。呼気終末圧が増加し続けたとしても、PEEP増加(ステップ)に追随する第1の呼気の後に呼気終末食道内圧が更に増加することはなかった。
【0148】
肺エラスタンスと胸壁エラスタンスの釣り合いが、呼吸器系の膨張に含まれるPEEPに明らかな影響を有していると結論付けられる。呼気終末肺容量の増大は、肺エラスタンスで除されたPEEPステップの大きさにかなり比例することが観察された。加えて、PEEP増加は予想されるよりも小さな食道内圧の増加をもたらし、このことは、胸壁及び腹部が、応力適合により及び広範囲のPEEPレベルにわたり肺の萎縮に対抗する前述した胸郭の呼気終末の外に弾性的に戻る力により、肺容量の変化を徐々に受け入れ可能であることを示している。
【0149】
これらの効果は、
経肺圧の決定を促し、また人工呼吸器において利用可能なデータのみを用いて臨床設定における肺機構及び胸壁機構を別けるものとして、驚くほどに有利であり注目に値する。
【0150】
以上、特定の実施形態を参照して本発明が説明されてきた。しかし、上述以外の実施形態も本発明の範囲内において同様に可能である。方法をハードウエア又はソフトウエアにより実行する上述とは異なる方法ステップが本発明の範囲内で提供されてよい。本発明の種々の特徴及びステップが、説明される以外の組み合わせで組み合わされてよい。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。