【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、タイヤ転動時に路面と接触する、ゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、底面及び対向する2つの壁面を有し且つ深さD及び幅Wを有する少なくとも一本の主溝が形成されたトレッド部と、複数のフレキシブルフェンスであって、厚さEを有し、主溝の断面積の少なくとも70%を遮るように主溝内で延び、且つ、タイヤ転動時、トレッド踏面内の主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置された、複数のフレキシブルフェンスと、を有し、複数のフレキシブルフェンスは、少なくともトレッド部のゴム組成物と異なるフェンス用ゴム組成物により形成され、フレキシブルフェンスのフェンス用ゴム組成物は、トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し2倍以上の摩耗性指数を有し、かつフェンス用ゴム組成物は、
(a)ジエンエラストマー;
(b) 100m
2/g未満のBET比表面積を有する、カーボンブラック、無機充填剤、有機充填剤およびこれら充填剤の混合物からなる群から選ばれる、20phrと120phrの間、好ましくは30phrと100phrの間の補強用充填剤;
(c)液体可塑剤、炭化水素樹脂およびそれらの混合物からなる群から選ばれる可塑化系;および、
(d)加硫系
をベースとする充填組成物を含むことを特徴としている。
【0010】
このように構成された本発明においては、主溝内に形成され、主溝の断面積の少なくとも70%を遮断し、タイヤ転動時、トレッド踏面内の主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置されるフレキシブルフェンスにより、路面との間で形成される主溝の気柱の長さを、フレキシブルフェンスを形成しない場合に対して変更して、気柱共鳴音のピークを人間の耳に届きやすい周波数帯から外すことが容易になり、その結果、気柱共鳴音による騒音が改善される。
【0011】
さらに本発明においては、フェンス用ゴム組成物に、トレッド部を形成するゴム組成物よりも高い摩耗性指数を示す、100m
2/g未満のBET比表面積を有する補強性充填剤を20phrと120phrの間含んでいるため、フレキシブルフェンスをトレッド部と同程度に摩耗させることができる。このような補強用充填剤としては、通常のタイヤトレッドを製造するために使われるゴム組成物に対する補強性を有している充填剤、例えばカーボンブラックのような有機充填剤、シリカのような補強用無機充填剤、もしくはそのような充填剤の混合物、特にカーボンブラックとシリカを混合した充填剤を使用することができる。本発明において、好ましくは、このようなゴム組成物の補強用充填剤の量は、30phrと100phrの間であり、より好ましくは30phrと80phrの間、更に好ましくは30phrと60phrの間である。
なお、トレッド部を形成するゴム組成物に使用される補強用充填剤は、フェンス用ゴム組成物に使用される補強用充填剤よりも大きなBET比表面積を有することが好ましく、具体的には120m
2/g以上、より好ましくは140m
2/gと220m
2/gの間のBET比表面積を有することが好ましい。
【0012】
カーボンブラックとしては、全てのカーボンブラック、特に、タイヤトレッドにおいて通常使用されるHAF、ISAFまたはSAFタイプのブラック類(“タイヤ級”ブラック類)が適している。そのようなブラック類のうちでは、さらに詳細には、次のものを挙げることができる:例えば、ブラック類 N550、N539、N660、N683、N772、N765およびN990のような、500、600、700または900シリーズの補強用カーボンブラック類(ASTM級)である。カーボンブラックは、例えば、マスターバッチの形で、イソプレンエラストマー中に既に混入させていてもよい(例えば、国際公開第WO 97/36724号または同WO 99/16600号を参照されたい)。カーボンブラック以外の有機充填剤の例としては、国際公開第WO 2006/069792号および同WO 2006/069793号に記載されているような官能化ポリビニル芳香族有機充填剤を挙げることができる。“補強用無機充填剤”は、本出願においては、定義により、カーボンブラックに対比して“白色充填剤”、“明色充填剤”または“非黒色充填剤”としてさえ称する、それ自体で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤ製造を意図するゴム組成物を補強し得、換言すれば、通常のタイヤ級カーボンブラックとその補強機能において置換わり得る、その色合およびその起源(天然または合成)の如何にかかわらない任意の無機または鉱質充填剤を意味するものと理解すべきである。そのような充填剤は、一般に、知られているとおり、その表面でのヒドロキシル(‐OH)基の存在に特徴を有する。補強用無機充填剤は、任意の物理的状態、即ち、粉末、ミクロスフィア、顆粒、ビーズまたは任意の他の適切な濃密化形であり得る。勿論、補強用無機充填剤は、種々の補強用無機充填剤、特に、下記で説明するような高分散性シリカ質および/またはアルミナ質充填剤の混合物を含むことも理解されたい。適切な補強用無機充填剤は、特に、シリカ質タイプの鉱質充填剤、特にシリカ(SiO2)、またはアルミナ質タイプの鉱質充填剤、特にアルミナ(Al2O3)である。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に100m
2/g未満、好ましくは5〜80m
2/g範囲、より好ましくは10〜70m
2/g範囲であるBET表面積とCTAB比表面積を有する任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性沈降シリカ(“HDS”)としては、例えば、次のものを挙げることができる。
:Degussa社からのシリカ類 Ultrasil 7000およびUltrasil 7005;Rhodia 社からのシリカ類 Zeosil 1165MP、1135MPおよび1115MP;PPG社からのシリカ Hi‐Sil EZ150G;Huber社からのシリカ類 Zeopol 8715、8745または8755。高分散性沈降アルミナとしては、例えば次のものを挙げることができる。
:Baikowski社からのアルミナBaikalox CR125;Sumitomo Chemicals社からのAKP-G015。
【0013】
本明細書においては、BET比表面積は、知られている通り、"The Journal of the American Chemical Society", Vol. 60, page 309, February 1938に記載されているBrunauer-Emmett-Teller法を使用して、さらに具体的には、1996年12月のフランス規格 NF ISO 9277に従って、ガス吸着によって測定される(多点容量測定法(5点法);ガス:窒素、脱ガス:160℃で1時間、相対圧力範囲 p/po:0.05〜0.17)。
【0014】
本発明において、好ましくは、補強用充填剤は、特にシリカもしくはカーボンブラックである場合、500nm未満の平均粒度(重量平均)を有するナノ粒子である。より好ましくは、ナノ粒子の平均粒度(重量平均)は20nmと200nmの間であり、さらに好ましくは20nmと150nmの間である。
【0015】
d
Wで示すナノ粒子の平均粒度(重量平均)は、水または界面活性剤含有水溶液中の分析すべき充填剤の超音波解凝集による分散後に、通常通りに測定する。
【0016】
シリカのような無機充填剤においては、測定は、Brookhaven Instruments社から販売されているXDC (X線ディスク遠心分離機) X線遠心沈降速度計によって、下記の操作方法に従い実施する。即ち、40mlの水中の3.2gの分析すべき無機充填剤試験標本からなる懸濁液を、1500W超音波プローブ(Bioblock社から販売されている1.91cm (3/4インチ) Vibracellソニケーター)を60%出力にて(即ち、最高“出力制御”位置から60%離れて) 8分間操作することによって調製する。超音波処理後、15mlの懸濁液を回転ディスク中に導入する。120分間の沈降後、粒度の質量分布および粒子の質量平均粒度d
Wを、XDC沈降速度計ソフトウェアによって算出する(d
W = Σ(n
id
i5) / Σ(n
id
i4);式中、n
iは、粒度または直径群d
iの対象数である)。
【0017】
カーボンブラックにおいては、この手順を、15容量%のエタノールおよび0.05容量%のノニオン界面活性剤を含む水溶液によって実施する。測定は、DCPタイプの遠心光沈降速度計(Brookhaven Instruments社から販売されているディスク遠心光沈降速度計)によって行う。10mgのカーボンブラックを含む懸濁液を、15容量%のエタノールおよび0.05容量%のノニオン界面活性剤を含む40mlの水溶液中で、600W超音波プローブ(Bioblock社から販売されている1.27cm (1/2インチ) Vibracellソニケーター)を60%出力にて(即ち、“勾配(tip)振幅”の最高位置の60%において) 10分間操作することによって予め調製する。超音波処理中に、15mlの水 (0.05%のノニオン界面活性剤を含有する)および1mlのエタノールからなる密度勾配を8000rpmで回転する沈降速度計ディスク中に注入して、“階段勾配”を形成させる。次に、0.3mlのカーボンブラック懸濁液を、上記勾配の表面上に注入する。120分続く沈降処理後に、粒度の質量分布および質量平均粒度d
Wを、上述したようにして沈降速度計ソフトウェアによって算出する。
【0018】
ここで、タイヤ転動中、フレキシブルフェンスがトレッド踏面を通過時に直接路面と接触する状態のとき、フレキシブルフェンス先端部が路面と接触した際に受ける反力により、路面とフレキシブルフェンスとの間で接地圧力及び滑りを生じる。本発明においては、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数がトレッド部のゴム組成物の摩耗性指数よりも大きいため、フレキシブルフェンスの変形に起因して接地圧力及び滑り量が小さくなっても、効果的に摩耗を生じさせることができ、その結果、トレッド部の摩耗量と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。言い換えると、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数をトレッド部のゴム組成物の摩耗性指数の2倍より小さくすると、フレキシブルフェンスが路面と接触した際に発生する接地圧力及び滑りが小さい場合に摩耗しにくく、トレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることができなくなってしまうのである。この2倍以上の摩耗性指数は、本発明者らが、上述した、気柱共鳴音を低減し、排水性能を維持しつつ、フレキシブルフェンスをトレッド部と同程度に摩耗させる空気入りタイヤ用トレッドの開発にあたり、そのような作用(特に、排水性能、フレキシブルフェンスの摩耗性能)を評価する過程で適切なものとして見出した数値であり、その数値を上記範囲(2倍以上)とすれば、上述した作用が効果的に得られることを解析及び実験により見出したものである。
【0019】
フレキシブルフェンスを備えたタイヤトレッドを製造する方法としては、例えば本出願人による2009年の特許出願(2010年10月23日公開の国際公開第WO2010/146180号)に記載の方法などがある。
【0020】
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない二つの対向する面(壁面)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことをいう。
【0021】
また、「主溝」とは、流体の排水を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことをいう。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波状にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
【0022】
また、「トレッド踏面」とは、タイヤを下記の産業規格で定められている適用リムに装着すると共に、定格内圧を充填し、定格荷重を負荷した際に路面と接触するトレッドの表面領域のことをいう。
【0023】
また、「規格」とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって定められるものである。例えば、産業規格は、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organization)の“STANDARDS MANUAL”であり、米国ではTRA(THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.)の“YEAR BOOK”であり、日本では日本自動車タイヤ協会(JATMA)の“JATMA YEAR BOOK”である。また、「適用リム」とは、タイヤのサイズに応じてこれら規格に規定されたリムをいい、「定格内圧」とは、これらの規格において、負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「定格荷重」とは、これらの規格において、タイヤに負荷することが許容される最大の質量をいう。
【0024】
また、「ゴム組成物の摩耗性」とは、JIS K6264−1およびJIS K6264−2に準拠して測定する、アクロン摩耗試験において得られるゴム組成物の摩耗体積のことをいう。ゴム組成物の摩耗体積は、前述した規格に基づき、アクロン摩耗試験機を用いて、加硫ゴム試験片の本試験運転の前後での質量の差から求められる。研磨輪の回転数は予備運転500回転、本試験3000回転とし、試験片と研磨輪との間には15度の傾角が与えられる。試験片は27.0Nの付加力で研磨輪に押し付けられ、試験片の回転速度は毎分100回転である。
また、「摩耗性指数」とは、前記「ゴム組成物の摩耗性」を指数化したものであり、数値が大きいほど、摩耗体積が大きいすなわち摩耗速度が速い(摩耗し易い)ことを示す指数のことをいう。この「摩耗性指数」は、複数のゴム組成物の摩耗性を互いに比較するために設けられたものであり、上述した摩耗試験で得られた結果から、基準として所定のゴム組成物の摩耗性の数値を例えば1.00と換算し、一方、比較対象のゴム組成物の摩耗性の数値を同じ換算比率で算出することにより得られる数値である。摩耗性指数の数値が2倍である場合、比較対象のゴム組成物は基準となるゴム組成物より2倍早く摩耗することを示している。
【0025】
ゴム組成物の各種構成成分の含有量はphr(エラストマーもしくはゴム100質量部当たりの質量部)で表される。更に、特に明示しない限りは割合(パーセント、%)は重量%を表し、「aとbの間」で表される間隔はaより大きくかつbより小さい(上限下限数値を含まない)ことを表し、また「aからbまで」で表される間隔はa以上b以下(上限下限数値を含む)であることを表す。
【0026】
また、「“ジエン”エラストマーまたはゴム」とは、知られている通りに、ジエンモノマー(共役型または共役型でない二個の炭素−炭素二重結合を有するモノマー)に少なくとも一部由来するエラストマー(または数種のエラストマー)、即ち、ホモポリマーまたはコポリマーのことをいう。
【0027】
本発明において、好ましくは、ジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)類、ポリイソプレン(IR)類、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー類、イソプレンコポリマー類およびこれらエラストマー類の混合物からなる群から選択される。さらに好ましくは、ジエンエラストマーは、天然ゴム、ポリイソプレン類、cis−1,4単位の含量が90%を超えるポリブタジエン類、ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらエラストマー類の混合物からなる群から選択される。
【0028】
本発明において、好ましくは、補強用充填剤のBET比表面積は、5m
2/gと80m
2/gの間、より好ましくは10m
2/gから70m
2/gまでである。
【0029】
本発明において、好ましくは、補強用充填剤中の主充填剤はカーボンブラックであり、その量は、40phrと140phrの間である
【0030】
本発明において、好ましくは、補強用充填剤中の主充填剤は無機充填剤であり、その量は、50phrと120phrの間である
【0031】
本発明において、好ましくは、補強用充填剤中の主充填剤は、有機充填剤であり、その量は、50phrと120phrの間である。
【0032】
本発明において、好ましくは、液体可塑剤が、ナフテンオイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、鉱物油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホン酸エステル可塑剤およびそれらの混合物からなる群から選択される。本発明において、好ましくは、液体可塑剤の量は、2phrと60phrの間、好ましくは3phrと40phrの間、より好ましくは5phrから20phrまでである。
【0033】
また、本発明において好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、固形である可塑剤(23℃において)として、例えば国際公開第WO 2005/087859号、同WO 2006/061064号および同WO 2007/017060号に記載されているような、+20℃よりも高い、好ましくは+30℃よりも高いTgを示す炭化水素系樹脂も含み得る。炭化水素系樹脂は、当業者にとって周知のポリマーであり、“可塑化用”であるとして付加的に説明される場合、ジエンエラストマー組成物中で本来混和性である。炭化水素系樹脂は、脂肪族または芳香族或いは脂肪族/芳香族タイプでもあり得る、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素系樹脂は、天然または合成であり得る。さらに、本発明において、好ましくは、可塑化系の炭化水素系樹脂は、シクロペンタジエン(CPDと略記する)またはジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペン系のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C
5留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C
9留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる
【0034】
本発明において、好ましくは、可塑化系は炭化水素系樹脂であり、その量は、2phrと60phrの間であり、より好ましくは3phrと40phrの間、さらに好ましくは5phrから20phrまでである。
【0035】
本発明において、好ましくは、可塑化系の合計量、例えば炭化水素系樹脂と液体可塑剤とを混合した合計量が、40phrと100phrの間、より好ましくは50phrから80phrまでである。
【0036】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの厚さEは0.3mm以上1.0mm以下である。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、トレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。即ち、フレキシブルフェンスの厚さを0.3mmよりも小さくすると、フレキシブルフェンスの寸法的な剛性の低下により、空気圧によってもフレキシブルフェンスが倒れ込んでしまい、気柱共鳴音の低減効果が減少する恐れがある。また、そのような倒れ込みにより、踏面内でフレキシブルフェンスが地面と接触しにくくなるので、フレキシブルフェンスの摩耗の速さがトレッド部の摩耗の速さに対して著しく低下し、フレキシブルフェンスがトレッド部から突出する恐れがある。一方、フレキシブルフェンスの厚さを1.0mmよりも大きくすると、フレキシブルフェンスが主溝内に倒れこんだ際の主溝の断面の開口割合が小さくなり、排水性が低下する恐れがある。