(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864587
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】高磁束密度の方向性ケイ素鋼製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20160204BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20160204BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20160204BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C22C38/00 303U
C22C38/12
H01F1/16 B
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-530534(P2013-530534)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(65)【公表番号】特表2013-545885(P2013-545885A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】CN2011072768
(87)【国際公開番号】WO2012041054
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2013年4月10日
(31)【優先権主張番号】201010298954.7
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲チー▼
(72)【発明者】
【氏名】沈 侃 毅
(72)【発明者】
【氏名】李 国 保
(72)【発明者】
【氏名】▲ジン▼ 偉 忠
(72)【発明者】
【氏名】金 氷 忠
(72)【発明者】
【氏名】宿 徳 軍
(72)【発明者】
【氏名】張 仁 彪
(72)【発明者】
【氏名】劉 海
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−518947(JP,A)
【文献】
特表2001−522942(JP,A)
【文献】
特開平06−025747(JP,A)
【文献】
特開平06−192732(JP,A)
【文献】
特開2006−241503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性ケイ素鋼板の製造方法であって、
1)製錬および鋳造ステップを備え、
ここで、ケイ素鋼を回転炉または電気炉で溶融し、溶融ケイ素鋼が二次精錬および連続鋳造を経てスラブに形成され、該スラブの成分は質量百分率で、C:0.035〜0.065%、Si:2.9〜4.0%、Mn:0.05〜0.20%、S:0.005〜0.012%、Als:0.015〜0.035%、N:0.004〜0.009%、Sn:0.005〜0.090%、Nb:0.200〜0.800%、および残部としてのFeおよび不可避不純物からなり、
2)熱間圧延ステップを備え、
ここで、前記スラブを加熱炉内で1090〜1200℃に加熱し、1180℃以下の開始温度〜860℃以上の終了温度の間において熱間圧延して鋼板を形成してから、層流冷却水で650℃以下に冷却してコイル状の鋼板に巻き、
3)焼きならしステップを備え、
ここで、前記コイル状の鋼板に対して、温度1050〜1180℃で1〜20秒間の焼きならしおよび温度850〜950℃で30〜200秒間の焼きならしを施してから、10〜60℃/秒の冷却速度で冷却し、
4)冷間圧延ステップを備え、
ここで、焼きならしの後、前記鋼板を、75%以上の冷間圧延率で冷間圧延して製品厚さを有する薄鋼板を形成し、
5)脱炭焼鈍ステップを備え、
ここで、前記薄鋼板を、15〜35℃/秒の昇温速度で昇温した800〜860℃の脱炭温度で脱炭し、この温度で90〜160秒間保温し、
6)MgO層塗布ステップを備え、
ここで、前記薄鋼板の表面に、主成分がMgOであって、重量百分率で0.1〜10%のNH4Cl、0.5〜30.0%のP3N5および残部としてのMgOを含む塗料を塗布し、
7)高温焼鈍ステップを備え、
ここで、前記薄鋼板の温度を、700〜900℃に一次昇温してから9〜17℃/時間の二次昇温速度V二次昇温で1200℃に二次昇温し、前記薄鋼板を1200℃で20時間保温して精製および焼鈍を施し、
ここで、前記二次昇温前の前記薄鋼板中の窒素含有量は200〜250ppmの範囲であり、
ここで、二次昇温速度の理論値と、二次昇温速度の実測値との差が正数であり、
ここで、二次昇温速度の理論値V上限は、下記式で表され、
V上限≦6.82a−0.019b−0.037c+46
(式中、a:Nb含有量(%)、b:二次昇温前の窒素含有量(ppm)、c:二次昇温の開始温度(℃)を表す)、
8)絶縁層塗布ステップを備え、
ここで、高温焼鈍ステップを施した前記薄鋼板に対し、表面に絶縁層の塗布、熱間伸長、平坦化および焼鈍を施すことにより、方向性ケイ素鋼板を製造する、磁束密度B8が1.90T以上である方向性ケイ素鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性ケイ素鋼の製造方法に関し、特に高磁束密度の方向性ケイ素鋼製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高磁束密度の方向性ケイ素鋼の製造方法は、以下のように行われる。ケイ素鋼を回転炉または電気炉で溶融し、二次精錬および合金化を施し、連続鋳造してスラブを形成する。スラブの基本的化学成分は、Si:2.5〜4.5%、C:0.06〜0.10%、Mn:0.03〜0.1%、S:0.012〜0.050%、Als:0.02〜0.05%、およびN:0.003〜0.012%を含み、場合によってはさらに、Cu、Mo、Sb、BおよびBiなどの元素のうち1つ以上を含み、残部が鉄および不可避不純物元素からなる。スラブは、専用の高温加熱炉で1350℃以上に加熱され、不純物としてのMnSまたはAlNを完全に固溶させるためにさらに45分間以上保温され、次いで950℃以上の終了温度で圧延され鋼板を形成する。得られた鋼板が、高速水を噴射することにより、500℃以下に素早く冷却され、コイル状に巻かれる。その後、焼きならし処理において、細かく分散された第2相粒子、すなわち抑制剤がケイ素鋼から析出する。焼きならしの後、酸洗を施すことにより鋼板表面の酸化鉄を除去し、製品厚さの鋼板に冷間圧延される。冷間圧延された鋼板に脱炭焼鈍およびMgOを主成分とする焼鈍分離剤の塗布を施し、鋼板中の[C]を製品の磁気性能に影響しない程度(一般的には30ppm以下)に脱炭する。高温焼鈍処理において、二次再結晶、ケイ酸マグネシウム底層の形成および精製(鋼板内のS、Nなどのような磁気性能を損なう元素を除去する)などの物理化学変化を鋼板において生じさせることにより、高方向性、低鉄損および高磁気誘導度のケイ素鋼を製造する。最後に、絶縁層の塗布、熱間伸長および焼鈍を施すことにより、工業応用に適する方向性ケイ素鋼製品が得られる。
【0003】
上記製造方法の欠点は、抑制剤を完全に固溶させるために加熱温度を最大1400℃まで昇温しなければならないことにある。この温度は従来の加熱炉の極限温度である。また、加熱温度が高いため、加熱による炉の損傷が大きくなり、加熱炉を頻繁にメンテナンスする必要があり、利用率が低くなり、エネルギ消費も多くなる。さらに、熱間圧延された鋼板のエッジには大きな亀裂が生じやすくなり、次の冷間圧延処理に問題を生じさせ、低歩留まり率、満足できない製品のB
8磁気性能をもたらし、製造コストが高くなる。
【0004】
上記問題に鑑みて、国内と国外の研究者たちは、方向性ケイ素鋼の加熱温度を低下させるために、多数の研究をしており、主な改良方法の傾向は、加熱温度の範囲によって2種類に分けられる。1つは、スラブの加熱温度を1250〜1320℃にし、AlNおよびCuを抑制剤として採用する。もう1つは、スラブの加熱温度を1100〜1250℃にし、脱炭後の窒化処理により抑制剤を形成する方法を採用して抑制能力を得る。
【0005】
現在では、低温スラブ加熱技術は、急速に開発されつつである。たとえば、米国特許第5049205号および日本特開平5−112827号公報は、スラブを1200℃以下の温度に加熱して鋼板に圧延し、最終の冷間圧延処理において、80%の高冷間圧延率で鋼板を薄鋼板に冷間圧延し、薄鋼板に脱炭焼鈍を施した後、アンモニアを用いて連続窒化処理を施すことにより、より高い方向性の二次再結晶粒子を得る方法を記載している。しかし、この方法は、基板の薄鋼板に脱炭焼鈍を施した後に窒化処理を施すことにより抑制剤を形成して抑制能力を得るため、実際の制御において、帯鋼の表面上の酷い酸化、窒化の難度および不均一性などのような課題を克服することが困難になる。したがって、鋼板において形成型の抑制剤が形成しにくくなり、その分布も不均一になり、それによって、抑制能力および二次再結晶の均一性が影響される。結果的に、製品に不均一の磁気性能をもたらす。
【0006】
中国特許第200510110899号は、スラブを1200℃以下の温度に加熱して、製品厚さに冷間圧延された鋼板に対して、まず窒化処理を施し、次に脱炭焼鈍処理を施す新たな方法を公開した。しかし、この方法では、窒化処理において露点を厳しく制御する必要があり、それと同時に脱炭も難しくなるという新たな課題が生じる。
【0007】
最近、韓国特許第2002074312号は、スラブを1200℃以下の温度に加熱してから、脱炭処理と窒化処理とを同時に行う方法を公開した。この方法は、圧延後の脱炭処理または窒化処理における課題を解決することができるが、窒化の不均一性により生じた製品の不均一な磁気性能および高製造コストなどの課題を解決することができない。
【0008】
溶融鋼にNb元素を添加することも提案されている。たとえば、日本特許第6025747号および第6073454号は、0.02〜0.20%のNbを溶融鋼組成物に添加することを提案した。その目的は、炭化ニオブおよび窒化ニオブなどの析出物を生成させることにより、熱間圧延した鋼板の再結晶組織を微細化させ、脱炭焼鈍処理において鋼板の粒子分布および全体組織を改善し、高温焼鈍処理において炭化ニオブおよび窒化ニオブを補助抑制剤として働かせ、正常結晶粒子の成長を抑制することにより、ケイ素鋼の磁気性能を向上させることにある。しかし、この特許によると、熱間圧延処理を施す前に窒化ニオブなどの析出物を得るために、高温スラブ加熱技術を採用しなければならない。それによって、加熱により生じた大きな炉損傷、高エネルギ消費、低歩留まり率および高製造コストなどの問題が生じる。
【0009】
MgO分離剤に窒化物を添加することも提案されている。たとえば、日本特許第51106622号および米国特許第4171994号は、MgO分離剤にAl、Fe、MgおよびZnの硝酸塩を添加して、高温焼鈍処理においてこれらの硝酸塩を分解させ、窒素酸化物を放出して鋼板を窒化することを提案した。しかし、窒化物の分解生成物は窒素酸化物および酸素などであるため、実際の生産過程において爆発の危険性がある。
【0010】
日本特許第52039520号および米国特許第4010050号はそれぞれ、MgO分離剤にスルファニル酸を添加し、高温焼鈍処理において分解させて窒化原料とすることを提案した。しかし、有機物としてのスルファニル酸の分解温度は低い(約205℃)ため、実際の生産過程において分解した[N]がこの低温で鋼板を窒化することは非常に困難である。
【0011】
日本特許第61096080号および第62004881号は、MnおよびSiの窒化物を添加することにより高温焼鈍処理時に鋼板の窒化を実現することを提案した。しかし、この方法において、上記窒化物は高い熱安定性を有するため、分解効率が低くなり、要求された窒化を満たすために焼鈍時間を延長する必要または窒化物の量を増加する必要がある。
【0012】
高温焼鈍処理における昇温速度の制御に関して、日本特許第54040227号および第200119751号は、高温焼鈍処理において昇温速度を低下させることにより高磁束密度の方向性ケイ素鋼を得ることを提案した。しかし、単に昇温速度を低下させることは、生産効率の低下につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高磁束密度の方向性ケイ素鋼製品の製造方法を提供することにある。本発明によれば、低温スラブ加熱技術を用いて、高磁束密度の方向性ケイ素鋼を製造する際に窒化が困難であるという技術課題を解決することができ、かつ、製鋼炉など一連の設備の安全性および安定性を効率的に確保するとともに、使用寿命を延ばすことができる。鋼板が高温焼鈍処理中において窒化されるため、二次再結晶を完全に進行させることができ、優れた磁気性能を有する高磁束密度の方向性ケイ素鋼を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の技術的解決策を採用する。
方向性ケイ素鋼製品の磁気性能が定められた基準を満たすか否かを判断する際、窒素の含有量が極めて重要であるので、製錬時に適量のNbを添加することにより、高温焼鈍処理において鋼板が窒素をより吸収し易くなる。窒素含有化合物をMgO分離剤に添加し、得られたMgO分離剤を鋼板の表面に塗布することにより、高温焼鈍処理において熱分解され窒素を放出し、鋼板を完全に窒化する。高温焼鈍処理において、鋼中のNb含有量、二次昇温前の窒素含有量および二次昇温開始温度によって昇温速度を調整することにより、二次再結晶を完全に進行させることができ、その結果、優れた磁気性能を有する高磁束密度の方向性ケイ素鋼が得られる。
【0015】
具体的に、本発明の高磁束密度の方向性ケイ素鋼製品の製造方法は、以下のステップを備える。
【0016】
1)製錬および鋳造ステップ
方向性ケイ素鋼の成分は、重量百分率で、C:0.035〜0.065%、Si:2.9〜4.0%、Mn:0.05〜0.20%、S:0.005〜0.012%、Als:0.015〜0.035%、N:0.004〜0.009%、Sn:0.005〜0.090%、Nb:0.200〜0.800%、および残部としてのFeおよび不可避不純物を含み、ケイ素鋼を回転炉または電気炉で溶融し、溶融ケイ素鋼が二次精錬および連続鋳造を経てスラブに形成される。
【0017】
2)熱間圧延ステップ
スラブを加熱炉内で1090〜1200℃に加熱し、1180℃の開始温度〜860℃の終了温度の間において熱間圧延して鋼板を形成してから、層流冷却水で650℃以下に冷却してコイル状の鋼板に巻く。
【0018】
3)焼きならしステップ
コイル状の鋼板に対して、温度1050〜1180℃で1〜20秒間の焼きならしおよび温度850〜950℃で30〜200秒間の焼きならしを施してから、10〜60℃/秒の冷却速度で冷却する。
【0019】
4)冷間圧延ステップ
焼きならしの後、鋼板を、75%以上の冷間圧延率で冷間圧延して製品厚さを有する薄鋼板を形成する。
【0020】
5)脱炭焼鈍ステップ
薄鋼板を、15〜35℃/秒の昇温速度で昇温した800〜860℃の脱炭温度で脱炭し、この温度で90〜160秒間保温する。高温焼鈍時に窒化処理を施すため、脱炭焼鈍時に脱炭されればよいので、脱炭工程を簡略化した。
【0021】
6)MgO層塗布ステップ
薄鋼板の表面に、主成分がMgOであって、重量百分率で0.1〜10%のNH
4Cl、0.5〜30%のP
3N
5および残部としてのMgOを含む塗料を塗布する。
【0022】
7)高温焼鈍ステップ、
薄鋼板の温度を、700〜900℃に一次昇温してから9〜17℃/時間の二次昇温速度V
二次昇温で1200℃に二次昇温し、前記薄鋼板を1200℃で20時間保温して精製および焼鈍を施す。
【0023】
8)絶縁層塗布ステップ
高温焼鈍ステップを施した薄鋼板に対し、表面に絶縁層の塗布、熱間伸長、平坦化および焼鈍を施すことにより、優れた磁気性能を有する高磁束密度の方向性ケイ素鋼を製造する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、適量のNbがケイ素鋼に添加される。その目的は2つある。一方では、FeおよびMnに比べて、Nb原子の外側から2番目の電子殻のd軌道の電子充填がより不飽和であるので、窒化物をより形成し易くなり、かつ、形成された窒化物がより安定であるため、方向性ケイ素鋼にNbを含有させると、高温焼鈍処理においてケイ素鋼を窒化し易くなる。他方では、高温焼鈍処理においてケイ素鋼に染み込んだ窒素原子が、Alsと結合して高磁束密度の方向性ケイ素鋼を形成するための主な抑制剤AlNを形成することができるとともに、Nb
2NおよびNbNのような析出物を生成することもできる。これらのNb窒化物は、補助抑制剤として働き、正常結晶粒子の成長を抑制する効果を増強して、その結果、方向性ケイ素鋼の磁気性能を向上させる。
【0025】
本発明によれば、適量のNH
4ClおよびP
3N
5がMgO液体塗料に添加される。その目的は、脱炭焼鈍処理におけるアンモニアを分解させることによりケイ素鋼板を窒化する代替策として、高温焼鈍処理において上記2つの窒化物を分解させることによりケイ素鋼板を窒化することにある。その主な利点としては、ケイ素鋼板をより均一に窒化することができる。2種類の無機窒化物NH
4ClおよびP
3N
5を高温時に分解する窒化原料として選択した理由は、NH
4Clの熱分解温度が330〜340℃であって、P
3N
5の熱分解温度が約760℃であるためである。異なる熱分解温度範囲で窒化物を分解させると、高温焼鈍処理において比較的に長い時間で活性窒素原子を均一に放出することができるので、ケイ素鋼板の内部に窒素原子を染み込ませ、窒素含有量[N]を標準範囲の200〜250ppmに保つことができる。
【0026】
本発明によれば、高温焼鈍処理において二次昇温速度が制御される。二次昇温速度を適宜に設定すると、製品に優れた磁気性能を与えることができる。その理由は、高温焼鈍処理における二次昇温が、方向性ケイ素鋼の二次再結晶の成長温度範囲を含むことにある。したがって、適宜の昇温速度は、二次再結晶において成長したガウス結晶粒子に、より良い方向性(偏角<3°)およびより良い磁気性能を与えることができる。
【0027】
本発明によれば、高温焼鈍処理において比較的遅い昇温速度は二次再結晶を完全に進行させ、製品に良い磁気性能を与えることができる。その理由は、高温焼鈍処理における二次昇温時に、二次再結晶するとともに、AlN抑制剤が徐々に粗大化して分解し、同時にその抑制能力が消失することにある。この温度範囲において温度の上昇が速すぎると、二次再結晶がまだ終わってないうちに、抑制剤の方が既に分解され抑制能力を失い、その結果、二次再結晶が完全に進行することができず、良い磁気性能を得ることができなくなる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施例と合わせて本発明をさらに説明する。
実施例1
表1に示される化学配合を有する方向性ケイ素鋼の製鋼原料を溶融して、スラブに鋳造した。異なる化学配合のスラブを加熱炉の中で1155℃で1.5時間保温して、厚さ2.3mmの鋼板に熱間圧延した。熱間圧延の開始温度および終了温度は各々、1062℃および937℃にした。熱間圧延した鋼板に対し、二段階の焼きならしを施し:(1120℃×15秒)+(870℃×150秒)、その後−15℃/秒の速度で鋼板を冷却した。酸洗してから、鋼板を製品厚さ0.30mmに冷間圧延した。その後、25℃/秒の昇温速度で昇温した820℃の脱炭温度で脱炭し、この温度で140秒間保温することにより、脱炭焼鈍を行った。次に、主成分がMgOであって、4.5%のNH
4Clおよび15%のP
3N
5を含む分離剤を塗布した。高温焼鈍時、まず温度を800℃に昇温し、二次昇温前の窒素含有量bを得てから、1200℃に二次昇温し、そこで20時間保温して精製および焼鈍を行った。コイル状の鋼板を伸ばして、表面に絶縁層を塗布してから、熱間伸長、平坦化および焼鈍を行った。二次昇温前の窒素含有量bおよび製品の磁気性能は表1に示される。
【0030】
表1から分かるように、本実施例における各化学成分の選択は、本発明の製造手順における[製錬と鋳造]の標準範囲を満たした。これに対し、比較例におけるNb成分の選択は、標準範囲0.200〜0.800%を満たしていないため、二次昇温前に測定された窒素含有量[N]は標準範囲の200〜250ppmに入らず、結果的に、得られた方向性ケイ素鋼製品の鉄損(P
17/50)が大きくなり、磁気誘導度(B
8)も悪くなる。
【0031】
実施例2
方向性珪素スラブの配合および重量百分率は、C:0.050%、Si:3.25%、Mn:0.15%、S:0.009%、Als:0.032%、N:0.005%、Sn:0.02%、Nb:0.5%であって、残部がFeおよび不可避不純物であった。スラブを1155℃の加熱炉内に1.5時間保温してから、厚さ2.3mmの鋼板に熱間圧延した。圧延開始温度および圧延終了温度は各々、1080℃および910℃にした。熱間圧延した鋼板に対し、二段階の焼きならしを施し:(1110℃×10秒)+(910℃×120秒)、次に−35℃/秒の速度で鋼板を冷却した。酸洗してから、鋼板を製品厚さ0.30mmに冷間圧延した。その後、25℃/秒の昇温速度で昇温した840℃の脱炭温度で脱炭し、この温度で130秒間保温することにより、脱炭焼鈍を行った。次に、主成分がMgOであって、異なる含有量のNH
4ClおよびP
3N
5を添加した分離剤を塗布した。高温焼鈍時、まず温度を800℃に昇温し、二次昇温前の窒素含有量bを得てから、1200℃に二次昇温し、そこで20時間保温して精製および焼鈍を行った。コイル状の鋼板を伸ばして、表面に絶縁層を塗布してから、熱間伸長、平坦化および焼鈍を行った。二次昇温前の窒素含有量bおよび製品の磁気性能は表2に示される。
【0033】
表2から分かるように、本実施例におけるNH
4ClおよびP
3N
5の選択は、本発明の製造手順における[MgO塗料]の標準範囲0.1〜10%および0.5〜30%を満たした。これに対し、比較例におけるNH
4ClおよびP
3N
5の選択のうち、いずれか1つが標準範囲に入らなければ、二次昇温前に測定された窒素含有量[N]は標準範囲の200〜250ppmに入らず、結果的に、得られた方向性ケイ素鋼製品の鉄損(P
17/50)が大きくなり、磁気誘導度(B
8)も悪くなる。
【0034】
実施例3
方向性珪素スラブの配合および重量百分率は、C:0.050%、Si:3.25%、Mn:0.15%、S:0.009%、Als:0.032%、N:0.005%、Sn:0.02%、Nb含有量(a):0.2〜0.8%であり、残部がFeおよび不可避不純物であった。スラブを1115℃の加熱炉内に2.5時間保温してから、厚さ2.3mmの鋼板に熱間圧延した。圧延開始温度および圧延終了温度は各々、1050℃および865℃であった。熱間圧延した鋼板に対し、二段階の焼きならしを施し:(1120℃×15秒)+(900℃×120秒)、次に−25℃/秒の速度で鋼板を冷却した。酸洗してから、鋼板を製品厚さ0.30mmに冷間圧延した。その後、25℃/秒の昇温速度で昇温した850℃の脱炭温度で脱炭し、この温度で115秒間保温することにより、脱炭焼鈍を行った。次に、主成分がMgOであって、7.5%のNH
4Clおよび12.5%のP
3N
5を添加した分離剤を塗布した。高温焼鈍時、まず温度を700〜900℃に昇温して、この温度を二次昇温の開始温度(c)とし、二次昇温前の窒素含有量(b)を得る。その後、一定の二次昇温速度(V)で1200℃に昇温し、そこで20時間保温して精製および焼鈍を行った。コイル状の鋼板を伸ばして、表面に絶縁層を塗布してから、熱間伸長、平坦化および焼鈍を行った。
【0036】
表3から分かるように、実施例と比較例との両者において、Nb含有量(a)、二次昇温前の窒素含有量(b)および二次昇温の開始温度(c)はそれぞれ同じである場合、実施例において二次昇温速度の実際値が9℃/hr〜17℃/hrであって、かつ、理論値と実際値との差が正数であったため、製品の磁気性能が比較的良くなり、逆に、比較例においてその差が負数となったため、製品の磁気性能が比較的悪くなる。
【0037】
低温スラブ加熱技術に基づく高磁気誘導度の方向性ケイ素鋼を製造する方法は、加熱炉の寿命を長くすることができ、エネルギ消費および製造コストが低いなどの利点を有するが、その後の工程において均一の脱炭および窒化ができないおよび製造過程においてそれらを有効的に調整および制御することができないなどの問題が長期に亘って解決できないため、ケイ素鋼板の一部または全部の抑制能力が影響され、二次再結晶は完全に進行することができなくなり、製品の磁気性能は不安定になる。
【0038】
上述のように、本発明により提供された、低温スラブ加熱技術に基づく高磁気誘導度の方向性ケイ素鋼を製造する新たな方法は、上記の課題を効率的に解決した。本発明の方法は、製錬時に適量のNbを添加することにより、高温焼鈍処理において鋼板がより多くの窒素をより吸収し易くなる。窒素含有化合物をMgO分離剤に添加し、得られたMgO分離剤を鋼板の表面に塗布し、高温焼鈍処理において熱分解され窒素を放出し、鋼板を均一に窒化する。高温焼鈍処理において、鋼中のNb含有量、二次昇温前の窒素含有量および二次昇温開始温度によって昇温速度を調整することにより、二次再結晶を完全に進行させることができ、その結果、優れた磁気性能を有する高磁束密度の方向性ケイ素鋼が得られた。