特許第5864596号(P5864596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864596
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】酸化グラファイトを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160204BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20160204BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160204BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   B82Y40/00
   B82Y30/00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-536872(P2013-536872)
(86)(22)【出願日】2011年10月28日
(65)【公表番号】特表2014-501681(P2014-501681A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】US2011058309
(87)【国際公開番号】WO2012058553
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2013年10月22日
(31)【優先権主張番号】61/407,696
(32)【優先日】2010年10月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/514,981
(32)【優先日】2011年8月4日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510170730
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ セントラル フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100096699
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿嶋 英實
(72)【発明者】
【氏名】ブレア リチャード ジョージ
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−146978(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0099586(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0317790(US,A1)
【文献】 J. SHEN et al.,Fast and Facile Preparation of Graphene Oxide and Reduced Graphene Oxide Nanoplatelets,Chemistry of Materials,2009, 21, 3514-3520.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
D06M10/00−11/84,
16/00,19/00−23/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラファイトを製造する方法であって、グラファイト粉末を直接固体酸化剤とともに粉砕するステップを含み、前記固体酸化剤が過酸化水素尿素(UHP)である、方法。
【請求項2】
製造された前記酸化グラファイトが、4〜7の炭素原子対水素原子比を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
製造された前記酸化グラファイトが、親水性である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
製造された前記酸化グラファイトが、8000Ω/cm未満の抵抗率を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
製造された前記酸化グラファイトが、50Ω/cm〜8000Ω/cmの抵抗率を有する、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
【0002】
本出願は、2010年10月28日付で出願された米国特許出願第61/407,696号および2011年8月4日付で出願された米国特許出願第61/514,981号の優先権を主張する。
【0003】
背景技術
【背景技術】
【0004】
グラファイトは、原子が縮合6員環の大きなシートに並んでいる炭素の同素体である。グラファイトを構成する炭素の単一シートはグラフェンまたはグラフェンシートとして知られる。グラフェンは、二次元(2D)ハニカム格子に詰め込まれた炭素原子の平坦な単層であり、全ての他の次元のグラファイト材料の構成要素である。グラフェンまたはグラフェンシートは、グラファイト、すなわち層状形態のグラファイトを構成する炭素の単一シートである。
【0005】
グラファイトは、低い摩擦係数、良好な導電率、および高い耐熱性をはじめとする多くの有用な特性を有する[1]。しかしながら、グラファイトは、不溶性であり、懸濁が困難なため、水と十分に相互作用しない。一方、グラファイト酸化物はエポキシブリッジおよびヒドロキシル基として層と結合した酸素を含む[2〜4]。グラファイト酸化物の特性は、グラファイトと著しく異なり、例えば、グラファイト酸化物は電気絶縁体であり、熱分解する。グラファイト酸化物はまた、グラファイトよりも著しく親水性が高く、水中に懸濁されると完全に剥離する[2、4〜6]。
【0006】
グラファイト酸化物(CO)は、1860年という早い時期に、Benjamin C. Brodieにより、グラファイトを塩化カリウムおよび発煙硝酸の混合物で処理することによって合成された[14]。HummersおよびOffemanは、後に「Hummer法」と称される、Brodieによって用いられたものよりも迅速で安全なグラファイト酸化物の調製法を開発した。グラファイト酸化物は最も一般的にはHummer法を用いて製造され、この方法は、硫酸(HSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、および過マンガン酸カリウム(KMnO)の混合物を使用することを含む[15]。残念ながら、グラファイト酸化物合成のこれらの方法は、多量の濃酸、強力な酸化剤を必要とし、結果として有毒な副生成物を生じる可能性がある[9]。これらの方法を使用する際に、調製される生成物180グラムにつき酸性のマンガンを含有する廃棄物26リットルが生じる。マンガン副生成物が慎重に除去されない場合、製造された材料は自然発火性が高い。
【0007】
したがって、酸性または金属を含む廃棄物を生じない、計測可能な工業的に関連した量の酸化グラファイトが必要とされる。しかしながら、本発明がなされた時点では全体として考慮される先行技術の観点から、当該技術分野の限界を克服する方法は当業者に明かではなかった。
【0008】
発明の概要
【発明の概要】
【0009】
本発明は、少なくとも1つには、工業的に関連する量の酸化グラファイト、ならびに部分酸化グラファイトを製造する方法に関する。本発明はさらに、1つには、グラファイト酸化物を用いたグラフェンの製造に関する。さらに、本発明は、繊維および他の成分からのカーボンファイバーおよびカーボンナノチューブの製造における酸化グラファイトの使用に関する。
【0010】
酸性または金属を含む廃棄物を生成しない測定可能な工業的に関連する量の酸化グラファイトに対する長年に及ぶ今まで実現されなかった必要性が、新規の有用な非自明の発明によって満たされる。さらに、必要な機械的特性が失われることのないカーボンファイバーの低コスト製造法に対する必要性は、本発明のある実施形態によって満たされる。
【0011】
酸化グラファイトが水中で剥離可能なために、酸化グラファイトはグラフェンの単一シートの合成で有用な前駆体となり、これを次に様々な電子および物質適用のために使用可能なことがわかっている。剥離後、酸化グラファイトのシートを化学的に還元してグラフェンにすることができる[7]。グラフェンの特異的性質およびグラフェンへの関心の高まりやその大きな可能性のために、グラフェン合成は非常に重要なプロセスである[8]。
【0012】
グラフェンを製造するためには、現在、化学気相堆積によるもの、または酸化グラファイトの熱処理によるもの、2つのアプローチがある。タッチスクリーンディスプレイなどのディスプレイに関して、グラフェンは、銅フィルム上に層を成長させ、そして銅を化学的にエッチングして除去することによって製造される。この方法は面倒で、大量の廃棄物を生じる。別法として、グラフェンは、酸化グラファイトを水中に懸濁させ、薄いフィルムとして堆積させて製造することができる。これらの薄いフィルムを水素またはヒドラジンなどの還元剤と接触させて熱処理して、グラフェンのフィルムを製造することができる。
【0013】
一実施形態によると、本発明は、酸化グラファイトを製造する方法であって、グラファイト粉末を固体酸化剤の存在下で粉砕するステップを含む方法に関する。
【0014】
別の実施形態によると、本発明は、酸化グラファイトの新規実施、すなわち新規カーボンファイバーの形成に関する。さらに具体的な実施形態において、官能化グラフェンのシートでコーティングされた繊維を形成するために、方法は、繊維成分を酸化グラファイトのコロイド状懸濁液中に導入することを含む。グラフェンの還元雰囲気下での熱分解の結果、増強された機械的特性および増大した伝導性を示すグラファイトの鞘を有するカーボンファイバーが得られる。一例では、還元雰囲気は、水素であってよい。カーボンファイバーは、高い耐熱性に加えて、優れた引張強度、安定な電気的特性、および高い耐薬品性を有することを特徴とし;その製造方法はコストがかからない。
【0015】
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0016】
より十分に理解するため、添付の図面に関して、以下の詳細な説明を参照するべきである。
【0017】
図1図1はグラフェンシートの厚さの分布である。
【0018】
図2図2Aは、水からドロップキャストすることによって堆積させた酸化グラファイトの厚いフィルムについてのNyquistプロットを示す。
【0019】
図2Bは、加熱後に水からドロップキャストすることによって堆積させた酸化グラファイトの厚いフィルムについてのNyquistプロットを示す。
【0020】
図3図3は、粒子のサイズを示す走査トンネル顕微鏡像である。
【0021】
図4図4は、粉末X線回折を示すグラフである。
【0022】
図5図5は、カーボンファイバーを繊維成分から調製する方法の図である。
【0023】
図6図6は、酸化グラファイトでコーティングされた織物の一例である。
【0024】
図7図7は酸化グラファイトでコーティングされた織物の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0025】
図8図8は、酸化グラファイトで均一にコーティングされた再生セルロースシートのSEM画像である。
【0026】
発明を実施するための形態
【発明を実施するための形態】
【0027】
グラファイト酸化物合成の既存の方法に関する重大な問題を考慮すると、より効率的な新規合成方法の開発は非常に望ましい。最近の研究はHummer法の比較的小さな変更によってなされ得る改善に集中している[10、11]。
【0028】
高エネルギーボールミリングを用いて部分酸化グラファイトを製造することができる。グラファイト粉末を固体酸化剤とともに直接粉砕することによって、グラファイトは、濃酸、またはどんな種類の溶媒も必要とせずに酸化される。いくつかの固体酸化剤を調査し、過酸化水素尿素付加物(UHP)が最も有効であると確定された。UHPは、Hのための無水固体送達系を提供するので、無溶媒および非水性反応のための使用歴がある[12、13]。UHPはまた、現行の合成方法で用いられる酸化剤と比較して穏やかなその性質が評価されている。グラファイトをUHPで、様々な酸化度で酸化するための最適パラメータを本明細書中で特定した。酸素含有量約5〜約15質量%の酸化グラファイトが生成した。これは約C25Oから約COにおよぶ組成に相当する。部分酸化された材料は、グラファイトの導電率の多くを保持し、親水性である。この分散性材料は、図1で示されるように、約3〜10層の厚さの大きなグラフェンシートから構成される。
【0029】
完全酸化グラファイトを生成可能なことに加えて、部分酸化グラファイトの生成にはそれ自体の価値がある。部分酸化により、グラファイト酸化物のある特性を呈しつつ、グラファイトがその特性のいくつかを保持することができるようになる可能性がある。この発見は、フィルムの堆積またはコロイド状グラファイトの使用を含むグラファイトの適用のために特に有用である。前述のように、グラファイトの溶媒中懸濁は難しい可能性があるので、これらの適用は、グラファイトで達成することが困難である。前述の酸化グラファイトの1つの特に重大な利点は、親水性であり、したがって水中に完全に分散可能なことである。
【0030】
カーボンファイバーは、非常に細い繊維からなる材料であり、典型的には大部分が炭素原子から構成される。炭素原子は結合して顕微鏡的結晶になり、これはほぼ繊維の長軸に平行に整列している。結晶配列のために、繊維はそのサイズにしては非常に強力になる。現行のカーボンファイバー調製法は、ポリアクリロニトリル(PAN)を前駆体として使用する。2010年の時点で、PANは、$5/lb、すなわちカーボンファイバーのコスト($9.88/lb)の約50%に関係する。コストのより低い原料の利用は、カーボンファイバーの利益性を増し、低コストの適用でのビヒクルの構成成分などの使用を促進する。
【0031】
したがって、増強された機械的特性を示すカーボンファイバーを製造する低コストの方法が必要である。
【0032】
実施例
【実施例】
【0033】
試薬:
【0034】
グラファイト(Asbury炭素TC306グレード99.92%および146グレード96.86%)ならびに過酸化水素尿素付加物(Alfa Aesar、97%、Across Organics)は、グラファイト酸化物の調製のための主な試薬であった。固体酸化剤として、KMnO(J.T. Baker Chemical Co.)、ZnO(Alfa Aesar 50%)、およびCaO(Alfa Aesar 65%)も調査した。アセトン(Mallinckrodt 99.5%)、メタノール(Mallinckrodt 99.8%)、および無水エタノール(Pharmco−Aaper)は全て、ステップ間で反応混合物を処理する際に使用した。
【0035】
粉砕:
【0036】
小規模粉砕実験を8000Mおよび8000D SPEX Certiprepミキサー/ミルで実施した。概容積65mLの粉砕バイアルを440Cステンレス鋼から作製した。粉砕中にシールを維持するためにビトンおよびクアッドo−リングを使用した。高運動エネルギー粉砕を、それぞれ約8gの重さの3個の約0.5”ステンレス鋼ボールで実施した。粉砕を約30分の増分で実施し、続いてミルのモーターの摩耗を軽減するために約30分冷却した。
【0037】
大規模粉砕実験をFritsch Pulverisette6遊星ボールミルで実施した。概容積250mLの粉砕バイアルを、X10CrNiS18−9ステンレス鋼から作製した。粉砕中にシールを維持するためにビトンガスケットを使用した。それぞれ約8gの重さの約45個の0.5”ステンレス鋼ボールで粉砕を実施した。粉砕を約60分の増分で、各増分間に約30分冷却して実施した。
【0038】
手順:
【0039】
Oの理論的最大酸素含有量にしたがって化学量論量のUHPとともにグラファイトを粉砕することによって酸化グラファイトを調製した。尿素およびHOの蓄積が反応を阻害するのを防止するために、約1グラムのグラファイトをUHP全体の一部とともに段階的に粉砕した。ステップ間で、約40mLの溶媒をバイアルに添加し、約1分間粉砕して、反応混合物を溶媒中に懸濁させた。この懸濁液を次いで遠心管に移し、約10分間、約10,000RPMで遠心分離した。存在する尿素またはHOの大部分を含む溶媒をデカントし、残りの固体(部分酸化グラファイト)を乾燥させた。完全に乾燥したら、固体をバイアルに戻し、バイアル中でUHPの次の一部とともに粉砕した。所望の量のUHPを反応させたら、粉末を水中に懸濁させ、透析管中に入れ、脱イオン水中に浸漬したままにして、グラファイト酸化物生成物を単離した。透析管中で数日後、試料を除去し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。
【0040】
粉砕プロセスの任意の段階で、少量の反応混合物を取り出し、それを水と混合し、数滴の調合されたルミナール溶液を添加することによって、過酸化物の存在について試験することが可能である。蛍光が観察されないならば、UHPの全てが反応し、さらに粉砕してもただ生成物を分解するにすぎない。蛍光が観察されるならば、未反応UHPが反応混合物中に依然として存在し、さらなる粉砕がなお必要である。
【0041】
最適手順は、溶媒としてメタノール、TC306グラファイト、等しい約4回分のUHP(それぞれ約1グラム)を使用し、完全な反応についてルミナールでの試験により決定されるように、これらを約90、60、45、および30分間粉砕した。
【0042】
実施例1:
【0043】
段階的に粉砕し、続いてオーブン中で乾燥すると、酸化レベルが増大する。約1.0171gのグラファイト(TC306)を約5回分の0.7966gのUHP(Alfa Aesar)とともにそれぞれ約2時間、段階的に粉砕した。粉砕間で、バイアルのふたを開け、約70℃の乾燥オーブン中に入れて、過剰の水を蒸発させた。全ての粉砕が完了したら、固体を水中に懸濁させ、透析管中に入れた。再循環脱イオン水浴中で数日後、懸濁液を透析管から取り出し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。酸素含有量は約11.50%と測定された。
【0044】
実施例2:
【0045】
生じるグラファイト酸化物の分解をもたらし得る加熱を排除するために、アセトンを中間体溶媒として用いることができる。約1.0171gのグラファイト(TC306)を段階的に約1.3276gの約3回分のUHP(Alfa Aesar)とともに、それぞれ約2時間粉砕した。粉砕間で、バイアルを約40mLのアセトンで満たし、1分間粉砕して、反応混合物を懸濁させた。この懸濁液を次いで遠心管に移し、約10,000RPMで約10分間遠心分離した。溶媒を次いでデカントし(固体を乾燥させ)、その後次のステップのためにバイアルに戻した。全ての粉砕が完了したら、固体を水中に懸濁させ、透析管中に入れた。再循環脱イオン水浴中で数日後、懸濁液を透析管から取り出し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。酸素含有量は約11.60%と測定された。
【0046】
実施例3:
【0047】
低表面積グラファイト(グレード146)は、あまり酸化されていない生成物をもたらす。約1.0171gのグラファイト(グレード146)を段階的に約3回分の約1.3276gのUHP(Alfa Aesar)とともに、それぞれ約2時間粉砕した。粉砕間で、バイアルを約40mLのアセトンで満たし、約1分間粉砕して、反応混合物を懸濁させた。この懸濁液を次いで遠心管に移し、約10,000RPMで約10分間遠心分離した。溶媒を次いでデカントし(固体を乾燥させた)、その後次のステップのためにバイアルに戻した。全ての粉砕が完了したら、固体を水中に懸濁させ、透析管中に入れた。再循環脱イオン水浴中で数日後、懸濁液を透析管から取り出し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。酸素含有量は約6.02%と測定された。
【0048】
実施例4:
【0049】
過酸化物についてのルミノール試験は、UHPの完全な反応のために必要な最小粉砕時間を示す。メタノールを中間体溶媒として使用することによって、尿素除去の効率が上がる。約1.0171gのグラファイト(TC306)を、約4回分の約0.9957gのUHP(Alfa Aesar)とともにそれぞれ約90分間、60分間、60分間、次いで30分間段階的に粉砕した。粉砕間で、バイアルを約40mLのメタノールで満たし、そして約1分間粉砕して、反応混合物を懸濁させた。この懸濁液を次いで遠心管に移し、約10,000RPMで約10分間遠心分離した。溶媒を次いでデカントし(固体を乾燥させ)、その後次のステップのためにバイアルに戻した。ステップ間で、反応混合物のごく一部を取り出して、ルミノールで試験した。全ての場合で光も気泡も観察されなかった。全ての粉砕が完了したら、反応混合物をもう一度メタノールで処理して、乾燥させ、水中に懸濁させ、そして透析管中に入れた。再循環脱イオン水浴中で数日後、懸濁液を透析管から取り出し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。酸素含有量は約32.88%と測定された。
【0050】
実施例5:
【0051】
酸化の程度は、さらに多くのUHPとともに粉砕することによって増加させることができる。約9.93質量%の酸素を有する約0.7568gの生成物(酸化グラファイト)を約4回分の約0.7411gのUHP(Alfa Aesar)とともに、それぞれ約90分、60分、60分、次いで約30分間段階的に粉砕した。粉砕間で、バイアルを約40mLの約50:50のメタノール/アセトン混合物で満たし、約1分間粉砕して、反応混合物を懸濁させた。この懸濁液を次いで遠心管に移し、約10,000RPMで約10分間遠心分離した。溶媒を次いでデカントし(固体を乾燥させ)、その後次のステップのためにバイアルに戻した。全ての粉砕が完了したら、反応混合物を約50:50メタノール/アセトン混合物で約3回洗浄し、乾燥させた。酸素含有量は約15.25%と測定された。
【0052】
実施例6:
【0053】
遊星ミルを使用することによって、スケールアップの達成が可能になる。約7.5147gのグラファイト(TC306)を一度に約30.0284gのUHP(Alfa Aesar)とともに粉砕した。全ての粉砕が完了したら、反応混合物を水中に懸濁させ、透析管中に入れた。再循環脱イオン水浴中で数日後、懸濁液を透析管から取り出し、ロータリーエバポレーションによって乾燥した。酸素含有量は約14.47%と測定された。
【0054】
フィルム調製および特性化:
【0055】
酸化グラファイトの水中希薄懸濁液から出発し、スライドガラス上に堆積させた2層のパラジウム間の約3.1mm×約25mmのギャップ上に滴下することによって、フィルムを調製した。水をゆっくりと蒸発させた。Zentech LCZメーターで電気計測を実施した。図3は粒子のサイズを示す。これらのスライドは、66%の透明度を示した。
【0056】
X線回折:
【0057】
図4で示されるように、銅源(Cu Κα λ=1.5418)を有するRigaku Multiflexシータ−シータ粉末X線回折計を用いて粉末X線回折(XRD)を得た。0.010度の段階および0.3秒の滞留時間を用いて約5から80度2θのスペクトルを集めた。
【0058】
電気的特性:
【0059】
部分酸化により、グラファイトは、グラファイト酸化物のある特性を呈しつつ、その特性のいくつかを保持することができるようになる可能性がある。これは、グラファイトでは達成が困難な、フィルムの堆積またはコロイド状グラファイトの使用を必要とするグラファイトの適用に特に潜在力がある。酸化グラファイトの薄いフィルムを水からドロップキャスティングによって堆積させた。約8kΩ/cmの抵抗率を有する光学的に透明な(少なくとも66%透明な)フィルムを製造することができる。図2で示すように、約50Ω/cmに近い抵抗率を有するさらに厚いフィルムを製造することができる。再生セルロース上の透明度は、少なくとも50%の透明度で得られた。
【0060】
実施例7:カーボンファイバー製造
【0061】
一実施形態において、繊維成分および酸化グラファイトを組み合わせて、繊維の組み合わせを形成する。繊維の組み合わせを熱および還元雰囲気に付して、酸化グラファイトをグラファイトに還元し、グラファイトで覆われたカーボンファイバーを形成する。特定の実施形態において、繊維成分はレーヨンを含む。さらなる実施形態において、繊維成分はPVA、ナイロン、綿、またはポリカーボネートを含む。水素などの還元雰囲気下での熱分解の結果、繊維が収縮し、酸化グラファイトがグラファイトに還元され、グラファイトの鞘を有するカーボンファイバーが得られ(図5)、これは増強された機械的特性を示す。他の還元雰囲気は水素化合物および金属蒸気を含む。
【0062】
レーヨンは再生セルロース製品であり、その表面は、遊離OH基およびエーテル結合から構成される。本発明者らはレーヨンおよび透明なセルロースのシートをコーティング可能なことを証明した(図5)。図5はカーボンファイバーをレーヨンから調製する方法の図を示す。当該方法は、レーヨンを酸化グラファイトシートでコーティングし、それを還元することを含む。繊維は繊維損失のために収縮し、グラフェンシートは還元条件下で結合してグラファイトの均一なシートになる。好ましい実施形態において、レーヨン繊維を、前述の方法、Hummer法、または別の類似の方法によって調製された酸化グラファイトのコロイド状懸濁液中に漬け、そしてグラフェンのシートでコーティングされた繊維が製造される。水素などの還元雰囲気下で熱分解後、繊維は収縮し、酸化グラファイトはグラファイトに還元される。結果として、カーボンファイバーはグラファイトの鞘で覆われる。図6は、酸化グラファイトでコーティングされた数片のレーヨン織物の一例を示す。結果として得られる生成物は増強された機械的特性を示す。
【0063】
図7は、コーティングされたレーヨン織物を示す画像であり、材料のほとんどが酸化グラファイトの導電層で均一にコーティングされている。図8は、実施形態において、光学的に透明な再生セルロースシートをコーティングして、透明で柔軟な伝導性材料を製造することができることを示す。
【0064】
一実施形態において、酸化グラファイトの製造法が提供される。当該方法は、グラファイト粉末を直接固体酸化剤とともに粉砕することを含む。別の実施形態において、グラファイト粉末を固体酸化剤とともに粉砕することを含む、部分酸化グラファイトの製造法が提供される。特定の実施形態において、固体酸化剤は過酸化水素尿素(UHP)である。
【0065】
別の実施形態において、カーボンファイバーを調製するための方法が提供される。当該方法は、グラファイト粉末を直接固体酸化剤とともに粉砕して、酸化グラファイトを製造することを含む。方法は、繊維成分を酸化グラファイトに付すことをさらに含み、酸化グラファイトは繊維成分と結合する。方法は、酸化グラファイトと結合した繊維成分を還元雰囲気中での熱分解に導入することをさらに含み、酸化グラファイトはグラファイトに還元される。さらなる実施形態において、粉砕ステップ後、方法は、酸化グラファイトを水中に懸濁させて、コロイド状懸濁液を形成することを含む。さらなる実施形態において、還元雰囲気は水素雰囲気である。
【0066】
別の実施形態において、グラファイトで覆われたカーボンファイバーが提供される。さらなる実施形態において、カーボンファイバーは、コーティングされていない繊維と比べて増大した引張強度を有する。さらなる実施形態において、繊維成分コアを取り囲むグラフェンの層を含むカーボンファイバーが形成される。
【0067】
「カーボンファイバー」という用語は、本明細書中で用いられる場合、グラフェンで覆われた繊維成分を指す。
【0068】
「覆われた」または「〜で覆われた」という用語は、本明細書中で用いられる場合、少なくともある部分がグラフェンと接触している繊維成分を指す。
【0069】
「繊維成分」という用語は、本明細書中で用いられる場合、繊維形態(固体または管状)の基体であって、その上にグラファイトを本明細書中の教示にしたがって堆積可能な基体に関する。繊維成分が含み得る材料の非限定的リストには、限定されないが、レーヨン、PVA、ナイロン、綿、またはポリカーボネートが含まれる。
【0070】
別の実施形態において、グラフェンで覆われた表面を製造する方法が提供される。当該方法は、グラファイト酸化物をグラファイト酸化物水懸濁液から表面上に堆積させて、前記表面上にグラフェン層を形成することを含む。方法は、グラファイトが表面上に製造されるように、グラフェン層を還元剤および熱に付すことをさらに含む。特定の実施形態において、還元剤は水素または水素化合物である。別の特定の実施形態において、還元剤はヒドラジンである。別の実施形態において、グラフェンで覆われた繊維成分を含むカーボンファイバーが提供される。カーボンファイバーは、繊維成分および酸化グラファイトを組み合わせて、繊維の組み合わせを形成し、この繊維の組み合わせを熱および還元雰囲気に付して、酸化グラファイトをグラファイトに還元し、グラフェンで覆われたカーボンファイバーを形成することによって製造される。
【0071】
「カーボンナノチューブ」という用語は、本明細書中で用いられる場合、グラフェンの1以上のシートを含むナノチューブ構造を指す。典型的には、1以上のグラフェンシートを筒状に巻いて、シートの縁を継ぎ合わせて、管を形成する。ナノチューブは、一実施形態ではグラフェンの中空円筒から構成され得る。別の実施形態では、ナノチューブは、内部にアモルファス炭素を有するグラフェンから形成され得る。
【0072】
カーボンナノチューブは、様々な方法で形成することができる。特定の一実施形態において、繊維成分(例えば、レーヨン)を酸化グラファイトで覆うことができ、酸化雰囲気中で熱に付して、繊維成分を除去することができる。さらに高い温度でレーヨンをアモルファス炭素に変える。別の実施形態において、加熱した場合に、内部が気化して、カーボンナノチューブシェルが残るように、PVAなどのポリマーを使用することができる。中心を除去するために、ナノチューブを酸化環境中で加熱してもよい。別法として、カーボンナノチューブをピラニア浴またはプラズマエッチングに付すことができる。ピラニア浴、またはピラニア溶液はピラニアエッチとしても知られる。浴は硫酸と過酸化水素との混合物を含む。溶液の組み合わせは強力な酸化環境を提供するため、ピラニア浴を使用して、有機残留物を基体から除去する。ピラニア浴は、ほとんどの表面をヒドロキシル化(OH基を付加)し、表面を高度に親水性にする。
【0073】
別法として、プラズマエッチングは、適切なガス混合物の高速プラズマ流を試料に発射する技術である。「エッチング」される材料の元素と、プラズマによって生じる反応性種との化学反応の結果として、室温でプラズマから揮発性エッチング生成物が生じる。標的の物理的特性は、ショット元素の原子が最終的に標的の表面または表面のすぐ下に最終的に埋め込まれた後に、最終的に修飾することができる。別の実施形態において、グラファイトの中空円筒を含むカーボンナノチューブが提供される。さらなる実施形態において、繊維成分と酸化グラファイトとを組み合わせて繊維の組み合わせを形成することを含む、カーボンナノチューブを作製する方法が提供される。当該方法は、繊維の組み合わせを還元雰囲気中で熱に付して、酸化グラファイトを還元し、グラファイトで覆われたカーボンファイバー成分を形成することをさらに含む。当該方法は、グラファイトで覆われたカーボンファイバーを酸化環境中、繊維成分をアモルファス炭素に変えるために、または繊維成分を気化させるために十分な温度で加熱し、繊維成分を除去し、中空カーボンナノチューブを形成することをさらに含む。
【0074】
さらなる実施形態において、グラファイトで覆われたカーボンファイバーが提供され、このカーボンファイバーは、Hummer法によって形成されたものと比べて増大した導電率を示す。特定の実施形態において、カーボンファイバーは50Ω/cm〜1000Ω/cmの伝導率を有する。
【0075】
別の実施形態において、水素原子1個あたり4〜7個の炭素原子の割合を有する酸化グラファイトが提供される。さらなる実施形態において、酸化グラファイトは親水性である。さらに具体的な実施形態において、酸化グラファイトは50Ω/cm〜8000Ω/cmの抵抗率を有する。
【0076】
参考文献:
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15.Marcanoら。(2010)グラフェン酸化物の改善された合成法。ACS Nano、2010年7月21日にウェブで利用可能。
【0077】
したがって、前述の対象、および前記開示から明らかになるものが、効率的に得られることがわかるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく前記構成においてある変更をもたらすことができるので、前記開示に含まれる、または添付の図面で示される全ての事項は、例示的であって、限定的な意味で解釈されるべきでないことが意図される。
【0078】
さらに、以下の特許請求の範囲は、本明細書中で開示される本発明の一般的および具体的特徴の全て、ならびに言語の問題として含まれる本発明の範囲の全ての記載を網羅することが意図されると理解されるべきである。特許関連文書および科学論文をはじめとする本明細書中の全ての参考文献の教示は、全体が本明細書中の教示と矛盾しない程度に本明細書中で援用される。
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