(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5864615
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】リポソーム及びそれを含むパーソナルケア組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20160204BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20160204BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20160204BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20160204BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20160204BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20160204BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20160204BHJP
A61K 8/14 20060101ALI20160204BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20160204BHJP
A61Q 1/14 20060101ALI20160204BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/34
A61K8/14
A61Q19/10
A61Q1/14
A61Q19/00
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-550723(P2013-550723)
(86)(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公表番号】特表2014-504606(P2014-504606A)
(43)【公表日】2014年2月24日
(86)【国際出願番号】CN2011000111
(87)【国際公開番号】WO2012100366
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2013年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】513187933
【氏名又は名称】テクニカル インスティチュート オブ フィジクス アンド ケミストリー チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー チョンウー
(72)【発明者】
【氏名】吉見 直久
(72)【発明者】
【氏名】フー シンチョン
(72)【発明者】
【氏名】リー シュアン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ ユンホア
【審査官】
近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−137684(JP,A)
【文献】
特開昭62−042733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
A61K 8/14
A61K 47/12
A61K 47/14
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/34
A61Q 1/14
A61Q 19/00
A61Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)リン脂質と、
b)グリチルレチン酸と、
c)リシン、前記グリチルレチン酸と前記リシンとの複合体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される構成成分と、
を含むリポソーム。
【請求項2】
前記グリチルレチン酸が、リン脂質の1重量%〜20重量%の量で存在する、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記リシンが、リン脂質の1重量%〜20重量%の量で存在する、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項4】
前記グリチルレチン酸と前記リシンのモル比が1:10〜10:1である、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項5】
前記リン脂質が水素添加リン脂質である、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される弾性エンハンサを更に含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80又はモノオレイン酸ソルビタンである、請求項6に記載のリポソーム。
【請求項8】
前記ポリオキシエチレンコレステリルエーテルが、C27H45O(CH2CH2O)nHであり、式中nが5〜15である、請求項6に記載のリポソーム。
【請求項9】
ビタミンE、ビタミンEエステル、ビタミンC、ビタミンCエステル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される酸化防止剤を更に含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項10】
前記リン脂質が、水性分散液の1重量%〜20重量%の量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のリポソームを含む、水性リポソーム分散液。
【請求項11】
前記弾性エンハンサが、水性分散液の0.01重量%〜10重量%の量で存在する、請求項6に記載のリポソームを含む、水性リポソーム分散液。
【請求項12】
前記酸化防止剤が、水性分散液の0.01重量%〜5重量%の量で存在する、請求項9に記載のリポソームを含む、水性リポソーム分散液。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のリポソームを含むパーソナルケア組成物であって、クリーム、エマルション、ジェル、ローション、拭き取り用ローション、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される形態である、パーソナルケア組成物。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の水性リポソーム分散液を用いて作製されるパーソナルケア組成物であって、クリーム、エマルション、ジェル、ローション、拭き取り用ローション、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される形態である、パーソナルケア組成物。
【請求項15】
a)リン脂質及びグリチルレチン酸を有機溶媒中に溶解し、プレミックスを形成する工程と、
b)前記有機溶媒を前記プレミックスから蒸発させ、リン脂質フィルムを形成する工程と、
c)リシンを含む水和媒体で前記フィルムを水和する工程と、
d)水和媒体をホモジナイズし、水性リポソーム分散液を形成する工程と、
を含むリポソームの作製プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性有効成分の皮膚への送達改善をもたらすリポソームに関し、水性リポソーム分散液に関し、リポソームを含むパーソナルケア組成物に関し、かつリポソームの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品用途では、皮膚有効成分を皮膚深層部に、すなわち、角質層を通過して真皮層まで局所送達することを望むことが多い。しかしながら、角質層を通る皮膚有効成分の送達において、無傷皮膚は大きな障害をもたらす。角質層は、整列した脂質二重層で構成される脂質マトリックス中に埋め込まれた角質細胞からなり、脂肪性物質は、角質層中の細胞間のすき間を塞ぐ追加の細胞間接着剤として作用する。
【0003】
無傷皮膚を通過して皮膚有効成分を送達するには、いくつかの方法が開発されている。これらの1つは、疎水性媒体、例えば、エマルション中の油相などの疎水性を用いて角質層中の脂質二重層を破壊、又は流動化し、それによって有効成分の透過を促進することである。
【0004】
別の方法は、リポソームなどの小胞系を使用することである。リポソームは、リン脂質二重層から構成される小胞である。リン脂質分子は、極性「頭部」及び2つの非極性「尾部」を有する。その構造から、リン脂質は、リン脂質の極性頭部が外部又は内部水相を向いて整列し、一方、非極性尾部が互いに向き合って整列している状態の、小胞性二重層、すなわち、リポソームを形成する傾向がある。このようなリポソームは、有効成分送達のキャリア構築に用いられている。
【0005】
しかしながら、リポソーム内へ有効成分を効率的に封入し、かかるリポソームの安定性を維持することは、いまだに課題である場合がある。封入される有効成分の化学的性質が、封入効率と、関連する有効成分のリポソームへの封入率に影響することは、当該業界では周知である。グリチルレチン酸などのカルボキシレート基を含む疎水性有効成分は、このような課題をもたらす。
【0006】
したがって、カルボキシレート基を含む疎水性有効成分を配合できるリポソームへのニーズが存在する。リポソームは、安定で、かつかかる疎水性有効成分に対する満足できる封入率を有していなくてはならず、それによって皮膚深層部への透過が改善され、ゆえに皮膚層内の有効成分の残留量が改善される。
【0007】
多くの者が、疎水性有効成分のリポソーム送達を改善しようとしてきたが、本発明の効果は達成されず、当該技術分野において開示されていなかった。例えば、水性分散液が、リポソームと、ヒドロキシル酸と、安定剤としてアミノ酸と、を含む、親水性又は疎水性薬物を封入するための水性分散液に関する米国特許第5,569,464号、及び、水和剤と、リポソーム形成物質と、を含む、リポソーム形成組成物に関する欧州特許第0211647 B1号を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,569,464号
【特許文献2】欧州特許第0211647 B1号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、a)リン脂質と、b)カルボキシレート基を含む疎水性有効成分と、c)正帯電基を含む親水性アジュバント、該疎水性有効成分と該親水性アジュバントの複合体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される構成成分と、を含む、リポソームに関する。また本発明は、水性リポソーム分散液にも関し、リポソームを含むパーソナルケア組成物にも関する。また本発明は、本発明のリポソームを作製するプロセスにも関し、このプロセスは、リン脂質及びカルボキシレート基を含む疎水性有効成分を有機溶媒中に溶解し、プレミックスを形成する工程と、該有機溶媒を該プレミックスから蒸発させ、リン脂質フィルムを形成する工程と、正帯電基を含む親水性アジュバントを含む水和媒体で該フィルムを水和する工程と、水和媒体をホモジナイズし、水性リポソーム分散液を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1〜4及び比較実施例1のリポソーム、並びに比較実施例2のクリームにおける、封入率の比較を示す。
【
図2】8時間までのラット皮膚へのGA透過に関する、実施例3のリポソーム及び比較実施例2のクリームの比較を示す。
【
図3】透過8時間後のラット皮膚中GA残留量に関する、実施例3のリポソーム及び比較実施例2のクリームの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、本発明を具体的に指摘し、明確に請求する特許請求の範囲をもって結論とするが、本発明は、以下の記載から更に十分に理解されるものと考えられる。
【0012】
百分率、部及び比はすべて、特に記述しない限り、水性リポソーム分散液の総重量に基づく。すべてのこのような重量は、提示された成分に関する場合、有効成分の量に基づき、したがって市販材料に包含され得るキャリア又は副生成物を包含しない。
【0013】
本明細書に有用な活性物質及び他の成分のような成分はすべて、美容及び/若しくは治療的な利益、又はそれらの自明であると見なされている作用様式によって分類又は記載されることがある。ただし、本明細書に有用な有効成分及び他の成分が、場合によっては美容的及び/若しくは治療的な複数の利益をもたらすこと、又は複数の作用様式で作用することもあることを理解すべきである。したがって、本明細書での分類は便宜上実施されるものであり、成分を特に規定した用途又は列挙した用途に制限しようとするものではない。
【0014】
本明細書で使用するとき、「リポソーム」は、内部水相を取り囲む1種以上の天然又は合成脂質二重層を含む、オリゴ層状脂質小胞の説明に用いられる。
【0015】
本明細書で使用するとき、「疎水性有効成分」は、そのオクタノール/水分配係数Log値が、ゼロ超、好ましくは0〜8、より好ましくは1〜7である有効成分を意味する。疎水性有効成分は、リポソーム内に処方されるときのpHにおいて解離性カルボキシレート基を含み、つまり、カルボキシレート基はカルボン酸基又はその塩類であり得る。
【0016】
本明細書で使用するとき、「親水性アジュバント」は、オクタノール/水分配係数であるLog値がゼロ未満であるアジュバントを意味する。
【0017】
本明細書で使用するとき、「正帯電基」は、親水性アジュバントが、本発明の水性リポソーム分散液のpH条件下、例えば、pH 7.0において正電荷を帯びている基を含むことを意味する。
【0018】
本明細書で使用するとき、「弾性リポソーム」は、皮膚バリアを通って透過するとき、リポソームが形態変化を受ける傾向があることを意味する。
【0019】
本発明は、リン脂質と、カルボキシレート基を含む疎水性有効成分と、正帯電基を含む親水性アジュバントと、を含む、リポソームに関する。本発明のリポソームを、水性リポソーム分散液の形態で作製してもよい。本発明のリポソームを、クリーム、エマルション、ジェル、ローション、拭き取り用ローション、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるパーソナルケア組成物に組み込んでもよい。
【0020】
リン脂質
本発明のリポソームはリン脂質を含む。リン脂質は、天然リン脂質、合成リン脂質、及びこれらの組み合わせからなる群から選択してもよい。レシチンは、天然リン脂質源の1つである。レシチンは、卵黄及び大豆などに含まれる混合物である。これは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、及びホスファチジルイノシトール(PI)などの多くのリン脂質を含む。天然リン脂質として、例えば、水素添加大豆PC(HSPC)、スフィンゴミエリン、及びホスファチジルグリセロール(PG)も挙げられる。
【0021】
合成リン脂質として、ホスホコリン誘導体(例えば、DDPC、DLPC、DMPC、DPPC、DSPC、DOPC、POPC、DEPC)、ホスホグリセロール誘導体(例えば、DMPG、DPPG、DSPG、POPG)、ホスファチジン酸誘導体(例えば、DMPA、DPPA、DSPA)、ホスホエタノールアミン誘導体(例えば、DMPE、DPPE、DSPE、DOPE)、ホスホセリン(例えば、DOPS)、リン脂質のPEG誘導体(例えば、mPEG−リン脂質、ポリグリセリン−リン脂質、官能化リン脂質、及び末端活性化リン脂質)が挙げられるが、これらに限定されない。上記略語に対応するリン脂質誘導体の化学名は、ウェブページ、http://en.wikipedia.org/wiki/Phospholipidで見つけることができる。
【0022】
本発明の一実施形態では、リン脂質は、水素添加リン脂質、具体的には水素添加大豆PC(HSPC)である。
【0023】
リポソームは、水性リポソーム分散液の約1重量%、3重量%、又は6重量%から、約8重量%、10重量%、又は20重量%までのリン脂質を含む。
【0024】
本発明のリポソームは、任意にステロイド類を含んでもよい。ステロイド類は、脂質二重層の安定性を増すのに役立ち、リポソームの漏れの問題を低減する。
【0025】
疎水性有効成分
本発明のリポソームは、カルボキシレート基を含む疎水性有効成分を含む。
【0026】
一実施形態では、疎水性有効成分は、カルボキシレート基に加え、少なくとも1個のアリール基を含む疎水性ドメインを含む。一実施形態では、疎水性ドメインは、複数のアリール基を含む。好ましくは、アリール基及びカルボキシレート基は、疎水性有効成分の2箇所の対向する末端部に位置する。代表的な疎水性有効成分は、グリチルレチン酸(GA)、グリチルレチニルステアレート、グリチルリチン酸、ウンデシレノイルフェニルアラニン(商標名Sepiwhite(商標))、レチノイン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
グリチルレチン酸は、ホワイトニング効果をもたらす有効成分である。以下に示すように、その構造式は、一方の末端部に複数の疎水性アリール基を、もう一方の末端部に親水性カルボキシレート基を含む。
【0029】
修飾フェニルアラニンであるウンデシレノイルフェニルアラニンは、以下に示す構造式を有する。一方の末端部に疎水性アリール基を、もう一方の末端部に親水性カルボキシレート基を含む。
【0031】
好適な疎水性有効成分として、化粧品業界及び/又は製薬業界で用いられるものを挙げてもよい。
【0032】
疎水性有効成分は、水性リポソーム分散液の約0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.6重量%、又は0.9重量%から、約1.2重量%、1.5重量%、又は5重量%までの量で、本発明のリポソーム中に存在してもよい。あるいは、疎水性有効成分の量は、リポソーム作製に用いたリン脂質の量に基づいてもよく、通常はリン脂質の約1重量%〜約20重量%の量である。
【0033】
親水性アジュバント
リポソームは、正帯電基を含む親水性アジュバントを含む。正帯電基は、疎水性有効成分のカルボキシレート基と相互作用して、複合体を形成できる。正帯電基は、好ましくは正帯電アンモニウム基(−NH
3+)である。一実施形態では、本発明のリポソームの親水性アジュバントは、一方の末端部に正帯電基を含み、正帯電末端部と反対のもう一方の末端部にカルボキシレート基を含む。本発明の別の実施形態では、親水性アジュバントは、リシン(式I)、アルギニン(式II)、ヒスチジン(式III)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
親水性アジュバントの正帯電基は、疎水性有効成分のカルボキシレート基と複合体を形成すると考えられる。親水性アジュバントの非複合体化末端と疎水性有効成分のアリール末端は、形成された複合体の性質を両性にする。例えば、グリチルレチン酸及びリシンで形成された複合体の構造を、以下の式IVに示す。
【0036】
理論によって制限されるものではなく、親水性アジュバントと疎水性有効成分により形成された両性複合体は、リポソームの二重層壁中のリン脂質間への自身の安定な挿入を維持するのに役立ち、場合によってリポソームの弾性に更に影響すると考えられる。封入率の改善、その結果による疎水性有効成分の皮膚層への透過及び残留量の改善は、本発明のリポソームによって達成できる。
【0038】
親水性アジュバントは、水性リポソーム分散液の約0.05%、0.3%、0.8%、又は1%から、約1.5%、2%、8%、又は10重量%までの量で、本発明のリポソーム中に存在する。
【0039】
あるいは、親水性アジュバントの量は、リポソーム作製に用いたリン脂質の量に基づいてもよく、通常はリン脂質の約1重量%〜約20重量%である。親水性アジュバントの疎水性有効成分に対するモル比は、約1/10、1/4、1/2又は1から約2、4、又は10である。
【0040】
弾性エンハンサ
本発明のリポソームは、好ましくは弾性エンハンサを含む弾性リポソームである。弾性エンハンサは、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ポリソルベート80(Tween 80)、モノオレイン酸ソルビタン(Span 80)、オレイン酸、グリチルリチン酸二カリウム(KG)、及びコレステリルエーテル、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択してもよい。一実施形態では、弾性エンハンサは、界面活性剤、例えば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、又は双極性界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤である。好ましくは、非イオン性界面活性剤は、Tween 80、Span−80及び/又は、式C
27H
45O(CH
2CH
2O)
nH(式中、nは5〜15、例えば5、10、又は15である)のポリオキシエチレンコレステリルエーテルである。
【0041】
本発明では、弾性エンハンサは、水性リポソーム分散液の約0.01重量%、0.1重量%、又は0.4重量%から約2.5重量%、5重量%、又は10重量%までの量で存在する。
【0042】
他の成分
本発明のリポソームは、水性リポソーム分散液の約0.01重量%又は0.1重量%から約2重量%又は5重量%の酸化防止剤を、任意に含んでよい。酸化防止剤は、ビタミンE、ビタミンEエステル、ビタミンC、ビタミンCエステル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択してもよい。好ましい実施形態では、リポソームはビタミンEアセテートを含む。
【0043】
作製方法
本発明のリポソームを、以下に記載する工程に沿って、水性リポソーム分散液として作製してもよい。第1に、容器中で70℃において、化粧品業界及び製薬業界でリポソーム作製に許容できる適切な有機溶媒、例えば、エタノール中に、リン脂質及び疎水性有効成分を含むすべての疎水性材料を完全に溶解することにより、プレミックスを形成する。室温において一晩真空下で、微量の溶媒を除去できる。続いて、例えば、回転真空蒸発により、有機溶媒をプレミックスから除去する。次に、溶媒除去後、容器の底部に付着したリン脂質フィルムが形成される。親水性アジュバントを含む水性媒体、例えば、リン酸緩衝液(PBS)を用いて、フィルムを水和する。水和後、水性媒体をホモジナイズして水性リポソーム分散液を形成する。ホモジナイズは、連続的に攪拌した後の超音波処理により、又は市販のホモジナイザー、例えば、Emulsiflex C5(Avestin,Canada)により、達成できる。水和媒体の選択、水和方法、及びリポソーム形成に用いられるホモジナイズは、当該技術分野において周知である。水性リポソーム分散液を形成し、室温で保存できる。
【0044】
測定方法
封入率
水性リポソーム分散液の作製において、最初に有機溶媒内に投入された疎水性有効成分の総量に対する、リポソーム内にきちんと封入された疎水性有効成分の割合の測定には、封入率を用いる。封入率は、封入効率(EE %)=C
S/C
U×100%として算出する。
【0045】
C
Sは、リポソーム内に封入された疎水性有効成分の量を示す。まず、水性リポソーム分散液から未封入の疎水性有効成分を除去し、次に、純エタノールを用いてリポソームの構造を破壊して、濃度測定用に疎水性有効成分を遊離させることにより、測定する。具体的には、水性リポソーム分散液の最終調製物のアリコート(0.2mL)1回分を、適切な水性媒体、例えば、500mLのPBSで透析し、未封入疎水性有効成分すべてを完全に除去する。透析後、透析袋中に残存する内容物を取り出して、別の容器に移し、最終量25mLに達するまでエタノールをその容器に添加する。次に、封入された疎水性有効成分のエタノール中濃度(C
S)をHPLCで測定し、その結果疎水性有効成分量を算出する。
【0046】
C
Uは、水性リポソーム分散液の作製において、最初に有機溶媒内に投入された疎水性有効成分の総量を表す。これには、リポソーム内に封入された疎水性有効成分量と、リポソーム分散液の水相中の未封入化学物質として存在する有効成分量の両方が含まれる。具体的には、水性リポソーム分散液の調製物のアリコート同量(0.2mL)を別の容器に移し、最終量25mLに達するまでエタノールをその容器に添加する。次に、疎水性有効成分の総濃度(C
U)をHPLCで測定し、その結果、疎水性有効成分量を算出する。
【0047】
HPLC測定では、クロマトグラフィーにおいて、Shimadza Corporation(Kyoto,Japan)のLC−2010AHTというHPLC装置を、Thermo Fisher ScientificのHypersil ODS(250mm×4.6mm)クロマトグラフィーカラムと、H3PO4でpHを3.5に調整したメタノール:水=95:5の移動相と共に用いてもよい。HPLCは、疎水性有効成分の濃度測定の好適な方法として用いられるが、別の濃度測定法を同様に用いてもよい。
【0048】
透過効率測定−拡散セル試験
透過効率を用いて、特定の皮膚表面積を透過して、真皮層に達する疎水性有効成分の量を測定する。Franz−Diffusionチャンバとも呼ばれるFranz拡散セルシステムは、当該業界において有効成分の皮膚透過効率の測定に一般に使用される。
【0049】
Franz−Diffusionチャンバは、上部のドナー区画と、下部のアクセプター区画を備え、2つの区画の内部スペースは、バリアによって分離されている。アクセプター区画は通常、バリアを通って排出され、アクセプター区画に達したサンプルのリアルタイムモニタリングと分析に便利なように、サンプリングポートを有する。バリアは、天然皮膚調製物、又は人工皮膚構築物(ASC)であってもよい。ASCは、異なる細胞種から培養されてもよく、真皮及び表皮等価物を含む。
【0050】
試験中、サンプルをドナー区画内に投入し、バリアを通ってアクセプター区画の方へ排出されるように設定する。アクセプター区画を、15% v/vエタノール−PBS溶液で満たす。サンプルは、測定用にアクセプター区画のサンプリングポートから採取できる。アクセプター区画に達した皮膚有効成分量をバリアの表面積で除して、透過効率を算出する。
【0051】
皮膚層内の疎水性有効成分残留量
この残留量を用いて、皮膚中の全透過深度にわたって、皮膚中に残存する有効成分の総量を測定する。上記透過試験後、ドナー区画中のすべてのサンプルがバリアを通って排出されたときに、バリアを取り外して表面を5回純水でリンスした後に、Franz−Diffusionチャンバに戻した。次に、レセプター区画を50% v/vエタノール−PBSで満たし、バリアの様々な層中に残存するGAをすべて溶解するために、Franz Diffusionチャンバを更に12時間放置する。続いて、サンプルをレセプター区画のサンプリングポートから採取してもよく、サンプル中有効成分濃度をHPLCで測定してもよい。
【0052】
使用方法
本発明のリポソームを、疎水性有効成分の経皮的送達を改善する目的で、化粧品組成物及び医薬組成物などのパーソナルケア組成物に組み込んでもよい。化粧品組成物は、クリーム、エマルション、ジェル、ローション、拭き取り用ローション、及びこれらの組み合わせの形態であってもよい。
【実施例】
【0053】
実施例1〜4は、本発明の水性リポソーム分散液に関する。実施例1は、標準的なリポソームに関し、実施例2は、コレステロールを更に含むリポソームに関し、実施例3及び4は、弾性エンハンサを更に含むリポソームに関する。比較実施例1〜2は、疎水性有効成分を含むが、本発明の範囲外である組成物を例示する。具体的には、比較実施例1は、親水性アジュバントを欠くリポソームに関し、比較実施例2は、リポソーム送達と比較して、疎水性有効成分送達用賦形剤としての水中油型クリームを示す。
【0054】
これらの実施例はあくまで例示を目的として与えられるものであって、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。実施例には、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく多くの変形例が可能である。成分は、適用できる場合は、化学名又はCTFA名称で識別され、そうでない場合には以下で定義される。
【0055】
【表1】
1.Shanghai Toshisun Enterprises Co.LtdからPhopholipon 80Hの名称で市販される、水素添加大豆ホスホコリン(HSPC)
2.Nihon Emulsion Co.Ltdのポリオキシエチレン(10)コレステリルエーテル
3.Xinjiang Tianshan Pharmaceutical Ltd.のグリチルレチン酸
4.Solarbio Science & Technology Co.,LtdのL−リシン、バイオテクグレード
【0056】
清潔な丸底フラスコ中、70℃において、20mLのエタノールに1.2グラムの水素添加大豆ホスホコリン(HSPC)、0.288gのビタミンEアセテート、及び120mgのグリチルレチン酸(GA)を溶解することで、まずプレミックスを形成することにより、実施例1のリポソームを作製する。次に、エタノールを回転真空蒸発により除去し、フラスコの底部に脂質フィルムを形成させる。続いて、溶解L−リシン82mgを含む、40gの0.005M、pH 7.0のPBS溶液で、30分間磁気攪拌を行って脂質フィルムを水和した。GA:リシンのモル比は1:2である。次に、水和溶液を、Avestin(Canada)からEmulsiflex C5の名称で入手可能なホモジナイザーを用いて、34.5MPa(5000psi)にて3度高圧ホモジナイズにかけ、均質の水性リポソーム分散液を得る。得られたサンプルを室温で保管する。
【0057】
実施例2〜4の3種のリポソームの作製は、219.9mgのコレステロール、219.9mgのTween−80、110gのTween−80と110gの式C
27H
45O(CH
2CH
2O)
10Hのポリオキシエチレンコレステリルエーテル(CS10とも称する)の混合物をそれぞれ、エタノールプレミックス中に更に添加する点で、実施例1のリポソームの作製とは異なる。
【0058】
比較実施例1のリポソームの作製は、水和媒体がリシンを欠き、若干低濃度のグリチルレチン酸を添加する点で、実施例3のリポソームの作製とは異なる。
【0059】
比較実施例2の組成物の作製は、水中油型エマルションの作製に対する従来の方法により実施できる。実施例2のクリームは、グリチルレチン酸0.3%と、1.4%の脂肪族アルコール(セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びセテアリルアルコールの混合物)、2%のシリコーンオイル(ジメチコーン及びジメチコノール)、0.25%のシリコーン粉末(ポリメチルシルセスキオキサン)、及び2%のSepigel 305を含む水中油型クリーム基剤99.7%と、を含み、他の成分と共に水を添加して総量100%にする。
【0060】
有効性の測定
1.封入率測定
本発明の実施例1〜4のリポソーム及び比較実施例1のリポソームの封入率を、上記測定方法の項に記載の測定方法に従って測定する。比較実施例2のクリーム中のグリチルレチン酸はクリームの油相中に完全に取り込まれているため、その封入率を100%とする。
【0061】
上記表1より、リシンを含む実施例1〜4の本発明のリポソームが、リシンを含まない比較実施例1のリポソームよりも顕著に高い封入率を有することがわかる。封入率のデータは
図1中のグラフにも引用される。
【0062】
2.透過効率測定
Franz Diffusionチャンバを純水で1時間平衡化し、サンプルをドナー区画内に添加する。Franz Diffusionチャンバの有効拡散面積に相当する好適な表面積のラット皮膚調製物を、レセプターとドナー区画との間に配置されるバリアとして用いる。この測定には、有効拡散面積0.66cm
2を有するFranz拡散チャンバ、及び2.5mLのレシーバーセル容量を用いた。
【0063】
水性リポソーム分散調製液のアリコート200μLをドナー区画に移し、ドナー区画を密封せずに実験を実施する。レセプター区画を、15% v/vエタノール−PBS(pH=7.4)溶液で満たす。磁気ミキサーを、速度280rpm、37±0.2℃で用いて、レセプターセル中のエタノール−PBS溶液を連続してホモジナイズする。1、3、5、及び8時間の時点で、レセプター区画から2.5mLのサンプルを採取して、グリチルレチン酸濃度をHPLCで測定し、サンプル容量で乗じた結果、透過したGC量を算出する。
【0064】
【表2】
【0065】
表2より、本発明の実施例3のリポソームにより送達されるとき、比較実施例2の水中油型クリームによる送達と比較して、ラット皮膚を通って透過したグリチルレチン酸量が顕著に増加することがわかる。このGA透過効率データは
図2に示すグラフにも引用する。
【0066】
3.残留物測定
ドナー区画中のすべてのサンプルがラット皮膚を通って排出された、透過試験の終了時点で、先の測定方法の項に記載の方法に従って、残留物測定に向けて皮膚を取り出す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3より、比較実施例2の水中油型クリームによるグリチルレチン酸の送達と比較して、ラットの皮膚のすべての層にわたって蓄積したグリチルレチン酸量が、実施例3のリポソームにより顕著に改善された送達であることがわかる。この残留物測定データは
図3に示すグラフにも引用する。
【0069】
本明細書に開示される寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものとして理解されるべきではない。それよりむしろ、特に規定がない限り、こうした各寸法は、列挙された値とその値周辺の機能的に同等の範囲との両方を意味することを意図している。例えば、「40ミリメートル」として開示される寸法は、「約40ミリメートル」を意味するものである。
【0070】
相互参照されるか又は関連するすべての特許又は特許出願を含む、本願に引用されるすべての文書を、特に除外すること又は限定することを明言しない限りにおいて、その全容にわたって本願に援用するものである。いずれの文献の引用も、こうした文献が本願で開示又は特許請求されるすべての発明に対する先行技術であることを容認するものではなく、また、こうした文献が、単独で、あるいは他のすべての参照文献とのあらゆる組み合わせにおいて、こうした発明のいずれかを参照、教示、示唆又は開示していることを容認するものでもない。更に、本文書において、用語の任意の意味又は定義の範囲が、参考として組み込まれた文書中の同様の用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合には、本文書中で用語に割り当てられる意味又は定義に準拠するものとする。
【0071】
本発明の特定の実施形態が例示され記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変更及び修正を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。