(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置における前記熔融ガラスの液面レベルとの相関関係を求め、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを基準液面レベルとして決定し、前記処理工程では、当該基準液面レベルに基づいて前記液面レベルを制御する、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
前記気相空間における白金族金属の蒸気圧が1Pa〜10Paであり、前記熔融ガラス処理装置の前記内壁の最高温度が1630℃〜1720℃である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の部分の最高温度と最低温度との温度差が50℃以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記気相空間内の前記白金族金属の揮発を抑制するように、前記気相空間と接する前記壁の前記白金族金属の面積L[m2]と前記気相空間の体積S[m3]との比S/Lを、17[m]以上にするよう制御する制御部を備えた、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを、予め決定された基準液面レベルとなるよう制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記基準液面レベルを、予め求めた白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係に基づいて、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとして決定する、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のように、熔融ガラスの液面上部の気相空間の雰囲気と白金族金属の壁面の接触面積を無くせば、白金族金属の揮発が生じない。また、気相空間の雰囲気と接触する白金族金属の内壁の接触面積を小さくすることで、白金族金属の揮発を低減することができる、と考えられる。しかし、気相空間の雰囲気と接触する白金族金属の内壁の接触面積を小さくした場合であっても、白金族金属を壁面から十分に揮発を低減することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス基板の製造過程で用いる少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において熔融ガラスを処理する際、白金族金属で構成された内壁から白金族金属の揮発を抑制して、気相空間内で揮発した白金金属の凝集物の一部が異物となって熔融ガラスに混入することを抑制することができるガラス基板の製造方法、ガラス基板製造装置、及び熔融ガラスの処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の形態を有する。
【0008】
(形態1)
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、を有し、
前記処理工程において、前記熔融ガラス処理装置の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう制御する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0009】
(形態2)
前記熔融ガラスの液面レベルを制御することにより、前記比を制御する、形態1に記載のガラス基板の製造方法。
【0010】
(形態3)
予め白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置における前記熔融ガラスの液面レベルとの相関関係を求め、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを基準液面レベルとして決定し、前記処理工程では、当該基準液面レベルに基づいて前記液面レベルを制御する、形態2に記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
(形態4)
ガラス基板の製造方法であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相とを有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、
前記処理工程で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形工程と、を有し、
予め白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係を求め、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを基準液面レベルとして決定し、前記処理工程では、当該基準液面レベルに基づいて前記液面レベルを制御することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0012】
(形態5)
前記気相空間の体積をS[m3]とし、前記気相空間と接する前記白金族金属の面積をL[m2]としたとき、比S/Lは、17[m]以上である、形態4に記載のガラス基板の製造方法。このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0013】
(形態6)
前記処理工程では、前記基準液面レベルを含むように決定された目標液面レベル範囲に基づいて液面レベルを制御する、形態3から5のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0014】
(形態7)
前記熔融ガラス処理装置に供給される前記熔融ガラスの量および前記成形工程で成形される前記シートガラスの成形量の少なくとも一方を制御することにより、前記液面レベルを制御する、形態3〜6のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0015】
(形態8)
前記比は、
(1)前記気相空間中の酸素濃度、
(2)前記熔融ガラス処理装置の前記内壁の最高温度、
(3)前記熔融ガラスから前記気相空間に放出される酸素放出量、
(4)前記熔解工程における前記熔融ガラスの最高温度と、前記処理工程における前記熔融ガラスの最高温度との温度差、及び
(5)前記気相空間における前記白金族金属の蒸気圧、
の少なくとも1つに基づいて決定される値である、形態1〜7のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0016】
(形態9)
前記気相空間中の前記酸素濃度は、前記熔融ガラスに含有する酸化錫の含有量により制御される、形態8に記載のガラス基板の製造方法。
【0017】
(形態10)
前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の部分の最高温度と最低温度との温度差が50℃以上である、形態1〜9のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0018】
(形態11)
前記熔融ガラス処理装置は、前記熔融ガラスの清澄を行う清澄装置である、形態1〜10のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0019】
(形態12)
前記処理工程は、前記熔融ガラスの清澄工程であり、前記熔融ガラスから前記気相空間に酸素を放出させる、形態1〜11のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0020】
(形態13)
前記液相において前記熔融ガラスは流れ、前記内壁には、前記熔融ガラスの流れ方向に沿って温度分布が形成されている、形態1〜12のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0021】
(形態14)
前記ガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板である、形態1〜13のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0022】
(形態15)
ガラス基板の製造方法であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、を有し、
前記処理工程において、前記熔融ガラス処理装置の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう調整する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0023】
(形態16)
ガラス基板の製造方法であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相とを有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する処理工程と、
前記処理工程で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形工程と、を有し、
予め白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係を求め、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを基準液面レベルとして決定し、前記処理工程では、当該基準液面レベルに基づいて前記液面レベルを調整することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0024】
(形態17)
前記気相空間における酸素濃度は、1%以下である、形態1〜16のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0025】
(形態18)
前記ガラス基板における酸化錫の含有量は、0.01〜0.3モル%である、形態1〜17のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0026】
(形態19)
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記気相空間内の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう制御する制御部を備えた、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0027】
(形態20)
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記気相空間内の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう調整する調整部を備えた、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0028】
(形態21)
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを、予め決定された基準液面レベルとなるよう制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記基準液面レベルを、予め求めた白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係に基づいて、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとして決定する、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
【0029】
(形態22)
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された熔融ガラス処理装置であって、
前記熔融ガラス処理装置の液面レベルを、予め決定された基準液面レベルとなるよう調整する調整部を有し、
前記調整部は、前記基準液面レベルを、予め求めた白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係に基づいて、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとして決定する、ことを特徴とする熔融ガラス処理装置。
【0030】
(形態23)
ガラス基板製造装置であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する熔融ガラス処理装置と、
前記熔融ガラス処理装置で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置と、
前記熔融ガラス処理装置の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう制御する制御部と、を備える、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0031】
(形態24)
ガラス基板製造装置であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する熔融ガラス処理装置と、
前記熔融ガラス処理装置で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置と、
前記熔融ガラス処理装置の前記白金族金属の揮発を
抑制するように、前記気相空間と接する前記内壁の前記白金族金属の面積
L[m2]と前記気相空間の体積
S[m3]との比
S/Lを
、17[m]以上にするよう調整する調整部と、を備える、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
このとき、前記気相空間中の空間全体の50%以上を熔融ガラスが占めているとよい。
【0032】
(形態25)
ガラス基板製造装置であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する熔融ガラス処理装置と、
前記熔融ガラス処理装置で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置と、
前記熔融ガラス処理装置の液面レベルは、予め決定された基準液面レベルとなるよう制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記基準液面レベルを、予め求めた白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係に基づいて、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとして決定する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【0033】
(形態26)
ガラス基板製造装置であって、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間と、前記熔融ガラスの液相と、を有し、前記気相空間を囲む内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する熔融ガラス処理装置と、
前記熔融ガラス処理装置で処理された熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置と、
前記熔融ガラス処理装置の液面レベルは、予め決定された基準液面レベルとなるよう調整する調整部と、を備え、
前記調整部は、前記基準液面レベルを、予め求めた白金欠陥数と前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとの相関関係に基づいて、白金欠陥数の許容値に対応する前記熔融ガラス処理装置の液面レベルとして決定する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の効果】
【0034】
上述の態様のガラス基板の製造方法、ガラス基板製造装置、及び熔融ガラス処理装置によれば、白金族金属の揮発を抑制することができ、気相空間内で揮発した白金金属の凝集物の一部が異物となって熔融ガラスに混入することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法、ガラス基板製造装置、及び熔融ガラス処理装置について説明する。
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、およびこれらの金属の合金を含む。
また、凝集した白金または白金合金の異物(白金欠陥)は、一方向に細長い線状物である。白金欠陥の最大長さとは、白金族金属の異物(凝集物)を撮影したときの異物の像に外接する外接長方形の最長となる長辺の長さをいう。白金欠陥の最小長さとは、白金族金属の異物(凝集物)を撮影したときの異物の像に外接する外接長方形の最短となる短辺の長さをいう。白金欠陥とは、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物を指す。例えば、白金族金属の異物(凝集物)の最大長さが50μm〜300μm、最小長さが0.5μm〜2μmである。
本明細書における制御は調整を含む。調整は、オペレータの入力操作によって装置を介して対象物の温度、流量、濃度、圧力等を変更する調整及びオペレータによるマニュアル調整を少なくとも含む。
【0037】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。
【0038】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤については、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0039】
清澄工程(ST2)は、清澄装置の、白金又は白金合金等で構成される清澄管の内部で行われる。清澄工程では、清澄装置の管内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO
2と合体して体積が大きくなり、熔融ガラスの液面に浮上して破泡し消滅する。泡に含まれたガスは、清澄装置に設けられた気相空間を通じて外気に放出される。
【0040】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に溶け込むことで、泡が消滅する。
【0041】
均質化工程(ST3)では、清澄装置から延びる配管を通って供給された攪拌装置内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、熔融ガラスの均質化を行う。均質化工程(ST3)は、清澄工程の前に行われてもよい。
【0042】
成形装置では、成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)が行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる例を挙げて説明する。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0043】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0044】
本実施形態のガラス基板の製造方法では、清澄工程〜均質化工程に用いる装置において以下の方法が実施される。
すなわち、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程後、熔融ガラスをシートガラスに成形する前に、熔融ガラスを処理するための熔融ガラス処理装置を通過させる。この処理装置は、白金または白金合金等からなる内壁を持つ金属製の管あるいは槽を含む。この管あるいは槽は、熔融ガラスの液相と、熔融ガラスの液面と内壁から形成される気相空間とを有し、気相空間を囲む内壁が白金族金属を含む材料で構成されている。この熔融ガラス処理装置では、熔融ガラス処理装置内の気相空間と接する白金族金属の揮発を低減するように、気相空間と接する熔融ガラス処理装置の内壁の白金族金属の面積と気相空間の体積との比、あるいは熔融ガラス処理装置内における熔融ガラスの液面レベルが制御(調整)されている。上記比あるいは上記液面レベルを適切に制御(調整)することにより、熔融ガラス処理装置の内壁から白金族金属の揮発を抑制することができる。この点は、後述する。このような熔融ガラスの処理装置は、熔解工程と成形工程との間の工程で用いる装置に適用される。清澄工程と均質化工程の間の工程で用いる装置に適用される。例えば、清澄工程を行う清澄装置及び均質化工程を行う攪拌装置に適用される。以降では、代表して清澄装置に適用した形態で説明する。
【0045】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST6)を行うガラス基板製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔融ガラス生成装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔融ガラス生成装置100は、熔解装置101と、清澄装置102と、攪拌装置103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0046】
図2に示す例の熔解装置101は、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる。清澄装置102は、白金または白金合金等からなる清澄管102a(
図3参照)を含む。清澄管102aの中において、熔融ガラスMGが液面を有するように気相空間が形成された状態で熔融ガラスMGを通過させる間、清澄装置102に設けられた電極板間に電流を流して清澄管102aを通電加熱して熔融ガラスMGを気相空間に泡を放出させる脱泡処理を少なくとも行う。本実施形態では、熔融ガラスの脱泡のために清澄管102aを通電加熱する方式を用いるが、清澄管102aの加熱は、通電加熱に限定されない。例えば、管の周囲にヒータ等の熱源を設けて、清澄管102aを熱伝導あるいは熱放射により間接的に加熱する方式を用いてもよい。
攪拌装置103は、スターラ103aによって熔融ガラスMGを攪拌して均質化する。
成形装置200は、成形体210を含み、清澄装置102、攪拌装置103で処理された熔融ガラスMGを、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、成形してシートガラスSGとする。さらに、成形装置200において、板厚偏差、歪、及び反りがシートガラスSGに生じないように、シートガラスSGが徐冷される。
切断装置300は、徐冷したシートガラスSGを切断してガラス基板とする。
【0047】
(清澄工程及び清澄装置)
図3(a),(b)は、本実施形態の清澄装置102の液面と清澄装置102内の気相空間内の気流の流れを説明する図である。
図3(a)は、気相空間内に生じる気流W1が速い場合を、
図3(b)は、気相空間内に生じる気流W2の速度が遅い場合を、示している。
清澄工程は、脱泡処理と吸収処理とを含む。以下の説明では、清澄剤として酸化錫を用いた例で説明する。酸化錫は、従来より一般的に用いられていた亜ヒ酸に比べて清澄機能は低いが、環境負荷が低い点で清澄剤として好適に用いることができる。しかし、酸化錫は、清澄機能が亜ヒ酸に比べて低いので、酸化錫を用いた場合、熔融ガラスMGの清澄工程時の熔融ガラスMGの温度を従来より高くしなければならない。この場合、例えば清澄工程における熔融ガラスの温度の最高温度は、例えば、1630℃〜1720℃であり、好ましくは、1670℃〜1710℃である。
【0048】
熔解装置101で熔解された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104(
図2参照)により、清澄装置102に導入される。
【0049】
清澄装置102は、
図3(a),(b)に示すように、白金または白金合金等からなる長尺状の清澄管102aを含み、清澄管102aの頂部に設けられた通気管102bを備える。
清澄管102aは、熔解槽101から延びるガラス供給管104が清澄管102aの一方の端の壁面に接続され、清澄管102aの他方の端の壁面でガラス供給管105に接続されている。したがって、清澄管102aの一方の壁面から略水平方向に流れ込んだ熔融ガラスMGは他方の壁面に向かって流れる際に清澄し、他方の壁面から略水平方向に流出する。したがって、清澄管102aは、溶解装置101の熔融ガラスの液面レベルに対して高い液面レベルに位置するために、清澄管に対して垂直方向に延びて清澄管に接続された垂直ガラス供給管及び垂直ガラス排出管を用いる減圧脱泡装置と異なる。
清澄管102a内の気相空間の圧力は、脱泡によるガスの放出等により大気圧と同等か大気圧に比べてやや高い。後述するように、通気管107から排気ポンプに接続して、大気圧よりも気圧を低くすることもあるが、この場合でも、大気圧と気相空間内の気圧の差は、0Paより大きく10Pa未満である。
【0050】
具体的には、清澄装置102の清澄管102aは、熔融ガラスMGの液相とこの熔融ガラスMGの液面と清澄装置102aの内壁とから形成される気相空間とを有する。気相空間を囲む清澄装置102の内壁は白金または白金合金等の材料で構成されている。清澄管102aの気相空間では、熔融ガラスMGから放出されたガスや清澄管102aの内壁から揮発した白金あるいは白金合金等のガスが存在するため、通気管107を介して大気と連通しているとしても、気相空間内の圧力は大気圧よりも高くなっている。このため、気相空間から通気管107を介して大気へ流れる気流W1,W2が形成される。
【0051】
このような清澄管102aでは、気相空間内の白金または白金合金等の揮発を低減するように、気相空間と接する清澄管102aの内壁の白金族金属の面積L[m
2]と気相空間の体積S[m
3]との比が制御あるいは調整される。あるいは、気相空間内の白金または白金合金等の揮発を低減するように、熔融ガラスの液面レベルが制御あるいは調整される。
上述したように、気相空間内では通気管107に向かう気流W1,W2が流れている。
図3(a)に示すように、流速の速い気流W1の場合、気相空間内に含まれる白金または白金合金等の揮発物も早く排出される。このため、気相空間内の白金または白金合金等の揮発物の濃度は低いので、白金または白金合金等の分圧は、飽和蒸気圧を下回り、清澄管102aの気相空間と接する内壁の部分から白金または白金合金等の揮発が継続される。反対に、
図3(b)に示すように、流速の遅い気流W2の場合、気相空間内に含まれる白金または白金合金等の揮発物の排出は遅い。このため、気相空間内の白金または白金合金等の揮発物の蒸気圧は飽和蒸気圧に達しやすく、清澄管102aの気相空間と接する内壁の部分からの白金または白金合金等の揮発は抑制される。
したがって、気相空間への白金または白金合金等の揮発を抑制するには気流の流速を低くすればよい。気流の流速を低くするには、気相空間の体積を大きくし、気相空間と大気との間の気圧差を小さくするとよい。また、清澄管102a内の気相空間の体積を大きくすると、熔融ガラスMGの液面のレベルを下げ熔融ガラスMGの清澄管102aの単位時間に流れる量を少なくすることになるので、熔融ガラスMGから脱泡により放出されるガスの量は少なくなる。この結果、気相空間と大気との圧力差は小さくなり、気流の流速は低くなる。
一方、気相空間と接する内壁の白金または白金合金等の揮発の絶対量を下げるには、気相空間と接する白金または白金合金等で構成される内壁の面積を小さくすればよい。
したがって、白金または白金合金等の揮発を抑制するには、上述の気相空間の体積を大きくし、気相空間と接する白金または白金合金等で構成される内壁の面積を小さくすることが望ましい。
また、白金または白金合金等の揮発を抑制するには、白金または白金合金等の揮発を抑制するような液面レベルとなるように、熔融ガラスMGの液面レベルを制御あるいは調整することも望ましい。
以下、気相空間の体積及び内壁の面積の調整と、液面レベルの調整について説明する。
【0052】
(気相空間の体積及び内壁の面積の制御、調整)
以上の観点から、本実施形態では、気相空間内の白金または白金合金等の揮発を低減するように、気相空間と接する清澄管102aの内壁の白金族金属の面積L[m
2]と気相空間の体積S[m
3]との比S/Lが制御あるいは調整される。これにより、白金族金属で構成された内壁から白金族金属の揮発を抑制して、気相空間内で揮発した白金金属の凝集物の一部が異物(白金欠陥)となって熔融ガラスMGに混入することを抑制することができる。以下、制御を中心に説明するが、調整も制御と同様に適用される。
比S/Lの制御(調整)については、ガラス基板を連続生産している場合、清澄管102aの熔融ガラスMGの液面のレベルを制御(調整)することが好ましい。例えば、成形装置200では、熔融ガラスMGから成形されたシートガラスを図示されない搬送ローラで引っ張りながら徐冷するので、清澄管102a内の熔融ガラスMGの量を制御することにより清澄管102a内の熔融ガラスMGの液面のレベルを制御(調整)することができる。清澄管102a内の熔融ガラスMGの量を制御する方法としては、例えば、溶解装置101で熔融ガラスMGをつくるガラス原料の投入量を調整して清澄管102a内への熔融ガラスの導入量を調整すること、あるいは、溶解装置101から清澄管102aに熔融ガラスMGが移動する際に、熔融ガラスMGの温度を温度調整装置を用いて調整して粘度を変えることにより熔融ガラスMGの移動速度を変化させて清澄管102a内への熔融ガラスの導入量を調整すること、あるいは、溶解装置100と清澄管102aとの間に熔融ガラスMGの流量を絞る流量制御部を設けて清澄管102a内への熔融ガラスの導入量を調整すること、成形装置200による処理量を調整することにより清澄管102aから流出する熔融ガラスの量を調整すること、等が含まれる。このように、ガラス原料の投入量を変更するスクリューフィーダ101dや、温度調整装置や、流量制御部、さらには、成形装置200の処理量を調整する処理量調整指示装置等が比S/Lを制御(調整)する制御部(調整部)となり得る。
【0053】
熔融ガラスMGの清澄管102a内の液面のレベルを制御(調整)する場合、液面のレベルを高くすると、体積Sと面積Lは同時に小さくなる。このため、比S/Lに好ましい範囲が設定される。
比S/Lを17[m]以上にすることが気相空間内の白金または白金合金等の揮発を低減する点で好ましく、25[m]以上にすることがより好ましい。しかし、比S/Lを過度に大きくすると、清澄管102aを流れる熔融ガラスの量は少なくなるので、ガラス基板の生産効率の点で好ましくない。また、清澄管102a内の液面レベルがガラス供給管105の最上部よりも下がると、ガラス供給管105から清澄管102aに向かって気流が生じてしまい、清澄管102a内の気流の流速が高くなってしまう。そのため、液位レベルの下限は、ガラス供給管105の最上部よりも高いことが好ましい。以上のことから、比S/Lは17〜65 [m]であることが好ましい。すなわち、比S/Lは、清澄管102aの場合)17〜65[m]の範囲に設定されることが好ましく、25〜65[m]であることがより好ましい。このような比S/Lの数値の範囲は、断面が円形状あるいは楕円形状の清澄管において実現される。
また、気流の流速の好ましい範囲は、5m/分以下であることが好ましく、1m/分以下であることがより好ましく、0.5m/分以下であることがよりいっそう好ましい。
【0054】
なお、清澄管102a内の熔融ガラスMGの液面のレベルは、溶解装置100のガラス原料の投入時の衝撃が伝達し、あるいは、攪拌装置103のスターラ103aの回転振動が伝達することにより、変動する場合がある。
図4(a),(b)は、清澄管102a内の熔融ガラスの液面のレベルの変動を説明する図である。清澄管102a内には、熔融ガラスMGが清澄管102aの内部の空間全体の50%以上を占めることを前提とする。
図4(a)に示すように、断面が円管形状の清澄管102aの内部の空間全体に70%程度占有して熔融ガラスMGが流れている場合に上記振動による液面レベルの変動は、
図4(b)に示すように、清澄管102aの内部の空間全体に55%程度占有して熔融ガラスMGが流れている場合に比べて大きい。
図4(a)に示すような場合、液面レベルの大きな変動により、内壁に付着した白金または白金合金等の凝集物の一部が離脱して熔融ガラスMGに異物として混入しやすくなる。この点で、清澄管102a内における熔融ガラスMGの気相空間の清澄管102aの内部の空間全体に占める比率は小さいほど好ましい。この点も考慮して、比S/Lは適正な数値範囲に制御(調整)される。
【0055】
比S/Lを、清澄管102aの熔融ガラスMGの液面レベルで制御(調整)する場合、後述するように、予め白金欠陥数と熔融ガラス処理装置における熔融ガラスの液面レベルとの相関関係を求め、白金欠陥数の許容値に対応する熔融ガラス処理装置の液面レベルを基準液面レベルとして決定し、清澄工程等の処理工程では、この基準液面レベルに基づいて液面レベルを制御(調整)することが好ましい。また、このとき、処理工程では、基準液面レベルを含むように決定された目標液面レベル範囲に基づいて液面レベルを制御(調整)する、ことが好ましい。液面レベルは、熔融ガラス処理装置に供給される熔融ガラスの量および成形工程で成形されるシートガラスの成形量の少なくとも一方を制御あるいは調整することにより、制御(調整)されることが好ましい。
【0056】
なお、ガラス基板の連続生産の場合に上記比S/Lを制御(調整)する場合、切断工程(ST6)後に行われるガラス基板の欠陥検査により、白金または白金金属等の凝集物としての異物(白金欠陥)を検出し、この異物の検出個数の結果に応じて比S/Lを制御(調整)することが好ましい。欠陥検査では、複数の種類の異物等の欠陥を識別するが、白金または白金金属等の凝集物は、他の異物や欠陥形状に対して特異な形状をしているため、容易に識別することができる。
【0057】
(液面レベルの制御、調整)
上述した観点から、本実施形態では、白金族金属の揮発を抑制するように、清澄管102a内の熔融ガラスの液面レベルを制御(調整)することもできる。以下、制御を中心に説明するが、調整も制御と同様に適用される。
清澄管102a内の熔融ガラスMGの液面レベルは、清澄管102aに供給される又は清澄管102aから排出される熔融ガラスMG量を調整することで制御(調整)できる。例えば、成形装置200では、通常、熔融ガラス生成装置100から供給された単位時間あたり一定量の熔融ガラスMGからシートガラスを成形するので、清澄管102aに導入される熔融ガラスMGの量を調整することにより清澄管102a内の熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)することができる。清澄管102aに導入(供給)される熔融ガラスMGの量を調整する方法としては、例えば、熔解装置101で熔融ガラスMGをつくるガラス原料の投入量を調整すること、あるいは、熔解装置101から清澄管102aに熔融ガラスMGが移動する際に、熔融ガラスMGの温度を温度調整装置を用いて調整して粘度を変えることにより熔融ガラスMGの移動速度を変化させること、あるいは、熔解装置100と清澄管102aとの間に熔融ガラスMGの流量を絞る流量制御部を設けること、等が含まれる。このように、ガラス原料の投入量を変更する原料投入装置101dや、温度調整装置や、流量制御部が、熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)する制御部(調整部)となり得る。また、清澄管102a内の熔融ガラスの液面レベルは、成形装置200によるシートガラスの成形量(処理量)を調整することでも制御(調整)することができる。あるいは、清澄管102a内から成形装置200に供給される熔融ガラスMGを調整することで、清澄管102a内の熔融ガラスの液面レベルを制御(調整)することができる。成形装置200によるシートガラスの成形量(処理量)を調整する方法としては、例えば、搬送ローラがシートガラスを搬送する速度制御、シートガラスの板厚制御等が含まれる。他方、清澄管102a内から成形装置200に供給される熔融ガラスMG量を制御する方法としては、清澄管102aから成形装置200に熔融ガラスMGが移動する際に、熔融ガラスMGの温度を温度調整装置を用いて調整して粘度を変えることにより熔融ガラスMGの移動速度を変化させること、あるいは、清澄管102aと成形装置200との間に熔融ガラスMGの流量を絞る流量制御部を設けること、等が含まれる。このように、搬送ローラの速度調整装置、温度調整装置や、流量制御部が、熔融ガラスMGの液面レベルを調整する制御部(調整部)となり得る。
上記した制御部(調整部)の中でも、ガラス原料の投入量を調整すること、および、成形装置200によるシートガラスの成形量を調整すること、の少なくとも一方を行うことが好ましい。
なお、本実施形態において熔融ガラスMGの液面レベルは、例えば、清澄装置102に設けられた液位測定装置を用いて測定することができる。なお、清澄管102a長手方向のいずれの部分においても略同じ値を示す。したがって、液面レベルは、清澄管102aのどの部分に注目して制御(調整)してもよい。
【0058】
液面レベルの制御(調整)は、清澄管102aでは、予め定めた基準液面レベル又は目標液面レベルとなるよう、行うことが好ましい。基準液面レベルは、清澄管102a内で熔融ガラスMGの液面レベルがとりうる大きさである。また、目標液面レベルは、清澄管102a内で熔融ガラスMGの液面レベルがとりうる大きさの範囲である。基準液面レベル及び目標液面レベルは、主に、気相空間内で揮発した白金または白金合金等の凝集物の一部が異物となって熔融ガラスに混入して、ガラス基板において欠陥(以降、白金欠陥ともいう)となるのを抑制する観点から定められる。また、目標液面レベルは、ガラス基板の生産性を低下させない観点からも定められる。
【0059】
基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定するために、ガラス基板の製造開始前に、熔融ガラスMGの液面レベルと白金欠陥数との相関関係を求める。基準液面レベルは、白金欠陥数の許容値に対応する清澄管102aの液面レベルであり、清澄管102a内における熔融ガラスMGの液面レベルと白金欠陥数との相関関係に基づいて決定される。目標液面レベルは、上記基準液面レベルを含むように決定される。
図5を参照して、線Sおよび目標液面レベルを説明する。線Sは、
図5に示されるように、熔融ガラスMGの液面レベルと、白金欠陥数との相関関係を示すものである。なお、液面レベルは、熔融ガラスMGの液面と、液面に直交する方向の気相空間の上端(内壁の天井部分)との距離(mm)で表される。
熔融ガラスMGの液面レベルと白金欠陥数との相関関係は、過去に用いられたガラス基板製造時の製造条件、測定項目等のうち、清澄工程での液面の高さ(液面レベル)と、当該製造条件等を用いて製造されたガラス基板について行った検査結果のうち白金欠陥数と、に基づいて行われる。上記相関関係の作成に際して、これら2つのパラメータ、すなわち、液面レベルおよび白金欠陥数、以外の他の条件は一定であるとされる。当該他の条件には、例えば、清澄装置102の大きさ、清澄管102a内の熔融ガラスMGの温度、清澄管102aの温度、清澄管102aの構成材料の種類、ガラスの種類、後述する不活性ガスの導入の有無、不活性ガスの導入量、熔融ガラスMGの清澄剤の含有量、等が含まれる。
液面レベルの値が大きい(液面高さが低い)ほど、白金欠陥数が少なくなっていることが分かる。これは、液面高さが低くなると、気相空間の体積が大きくなるため、上記説明したように清澄管102a内の気流の速さが遅くなり、清澄管102aの白金または白金合金等の揮発が抑制される結果、白金欠陥数が少なくなっているためである。
【0060】
目標液面レベルAは、図示されるように、液面レベルの範囲で表される(図中、斜線部分)。目標液面レベルAは、線Sに基づいて作成される。目標液面レベルAの下限値は、線Sと、
図5に示す品質基準線Qとの交点である基準液面レベルに定められる。品質基準線Qとは、白金欠陥数の許容値である。品質基準線Qは、例えば、ガラス基板の購入者である顧客の要求する品質上のスペックによって定められ、所定の白金欠陥数を示す。具体的な白金欠陥数は、特に制限されず、種々定めうるが、例えば0.001〜0.1個/kgの間で定めることができる。
図5では、品質基準線Q(白金欠陥数の許容値)より左側の領域では、製造されたガラス基板は良品であると判断され、右側の領域では不良品であると判断される。この下限値よりも、液面レベルが大きくなる(液面高さが現在の液面レベルよりも下方に位置する)よう、液面レベルが制御(調整)されることで、製造されるガラス基板に含まれる白金欠陥数を、常に所定値以下に抑えることができる。
一方、目標液面レベルAの上限値は、ガラス基板の生産性を低下させない観点から定められる。熔融ガラスMGの液面レベルが大きくなると、気相空間の体積が大きくなり、白金または白金合金等の揮発は抑制されるが、一方で、気相空間の体積が増加した分、清澄管102a内の液相(熔融ガラスMG)の量は減り、当該量が大きい場合は、ガラス基板の生産性が低下してしまう。このような観点から、目標液面レベルAの上限値は定められる。なお、目標液面レベルAの上限値の設定は、必須ではないが、設定されていることが好ましい。
さらに、目標液面レベルAの上限値は、清澄管102aと接続されたガラス供給管105の高さ位置に基づいて決定されてもよい。例えば、清澄管102aの液面レベルがガラス供給管105の最上部よりも下方になると、ガラス供給管105から清澄管102aに向かって気流が生じてしまい、清澄管102a内の気流の流速が高くなってしまう。つまり、清澄管102aの白金または白金合金等の揮発を抑制し難くなる。そこで、目標液面レベルAの上限値は、ガラス供給管105の最上部の高さ位置に対応する液面レベルよりも小さく設定されることが好ましい。
以上の目標液面レベルとなるよう、清澄管102a内の熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)することにより、常に白金欠陥数を所定数以下にしつつ、ガラス基板の生産性の低下を抑えることができる。また、熔融ガラスMGの液面レベルを、上記のように定められた目標液面レベルとする制御(調整)を行うことで、たとえば、顧客の要求するスペックが厳しくなった場合にも、即座に対応することが可能になり、確実にそのスペックを満足するガラス基板を製造することができる。この場合、
図5の紙面において、品質基準線Qが
図5に示す基準線Qに対してより左側に設定される。すると、線Sとの交点が
図5に示されている現在の交点に対して上方にシフトし、液面レベルを大きく(液面高さを低く)する必要があることが分かる。
【0061】
なお、本実施形態の方法における制御(調整)対象は、熔融ガラスMGの液面レベルであるが、液面レベルを制御(調整)することは、気相空間の体積を制御(調整)することにもなる。上記説明したように、気相空間への白金または白金合金等の揮発を抑制するには気流の流速を低くすればよく、気流の流速を低くするには、気相空間の体積を大きくすればよい。
【0062】
上記線および目標液面レベルは、上記他の条件を種々変えた場合についてそれぞれ作成されることが好ましい。このように複数作成しておくことによって、ガラス基板の製造開始前に、これから行う製造条件に最も近いものを選択し、選択した線、目標液面レベルに従って液面の制御(調整)をすることで、いずれの条件でガラス基板を製造する場合にも、白金または白金合金等の揮発を抑制して、凝集物の一部が熔融ガラスに混入して、白金欠陥を発生させるのを抑えることができる。
また、液面レベルは、熔融ガラスMGの液面と、これに直交する気相空間の上端との距離に代えて、清澄管102aの底部からの液面の高さによって表されてもよい。
【0063】
気流の流速の好ましい範囲は、5m/分以下であることが好ましく、1m/分以下であることがより好ましく、0.5m/分以下であることがよりいっそう好ましい。
【0064】
なお、ガラス基板の連続生産の場合に上記熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)する場合、切断工程(ST6)後に行われるガラス基板の欠陥検査により、白金または白金金属等の凝集物としての異物を検出し、この異物の検出個数の結果に応じて熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)することが好ましい。欠陥検査では、複数の種類の異物等の欠陥を識別するが、白金または白金金属等の凝集物は、他の異物や欠陥形状に対して特異な形状をしているため、容易に識別することができる。
【0065】
上述した気相空間の体積及び内壁の面積の制御(調整)と、液面レベルの制御(調整)のいずれの実施形態においても、清澄管102aの温度に関しては、気相空間と接する白金または白金合金等の内壁の部分の最高温度と最低温度との温度差は50℃以上あってもよく、150℃以上あってもよく、250℃以上あってもよい。上記温度差が50℃以上ある場合、一般に、気相空間内で、白金または白金合金の揮発物は最低温度の内壁近傍で飽和蒸気圧の温度依存性により容易に凝集し易くなる。しかし、本実施形態のように、熔融ガラスMGの液面レベルを制御(調整)することにより、白金または白金合金の揮発物は少なくなり凝集量も少なくなる。この点で、上記温度差が50℃以上ある場合、本実施形態の清澄管102aを用いたときに白金または白金合金等の凝集物が熔融ガラスMGに混入することを抑制する効果は、温度差が50℃未満の清澄管に比べて顕著な効果を発揮・BR>キる。
また、清澄管102aの最高温度は、1400℃以上であってもよく、1600℃以上、1630℃以上、さらに、1650℃以上であってもよい。このように最高温度が高い場合、本実施形態における白金または白金合金等の凝集物が熔融ガラスMGに混入することを抑制する効果は、最高温度が1400℃未満の清澄管に比べて大きい。また、清澄管102aの内壁の最高温度が低すぎると、例えば酸化錫の清澄剤として反応が活発でなくなり、熔融ガラスの清澄が十分でなくなる。そのため、清澄管102aの内壁の最高温度は、1630℃〜1720℃であることが好ましく、1650℃〜1720℃であることがより好ましい。
このような清澄管102aの温度分布は、熱電対等の温度センサを用いて計測して取得してもよく、また、熱伝導シミュレーションを用いて取得してもよい。
【0066】
上述した比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAの好ましい範囲は、清澄工程における処理条件が異なると変化する。そのため、例えば、比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAは、
(1)気相空間中の酸素濃度、
(2)熔融ガラス処理装置の内壁の最高温度、
(3)熔融ガラスから気相空間に放出される酸素放出量、
(4)熔解工程における熔融ガラスの最高温度と、処理工程における熔融ガラスの最高温度との温度差、及び
(5)気相空間における白金族金属(白金または白金合金)の蒸気圧、
の少なくとも1つに基づいて決定される値であることが好ましい。
【0067】
例えば、上記(1)の気相空間中の酸素濃度の場合、気相空間中の酸素濃度が変化すると、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、基準液面レベル又は目標液面レベルAは変化する。気相空間中の酸素濃度が高くなると白金または白金合金等の揮発が活発になるため、面積Lは小さい方が好ましい。また、熔融ガラスの液面レベルは高い方が好ましい。しかし、面積Lを小さくすると、また、熔融ガラスの液面レベルは高くすると、体積Sも小さくなり、酸素濃度がますます上昇する。このため、気相空間中の酸素濃度は、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。
【0068】
気相空間中の酸素濃度は、熔融ガラスに含まれる清澄剤、例えば酸化錫の含有量、熔融ガラスの温度あるいは温度履歴、気相空間に導入される不活性ガスの量によって制御(調整)することができる。熔融ガラスの温度あるいは温度履歴は、熔融ガラス処理装置の内壁の最高温度によって変化する。したがって、熔融ガラス処理装置の内壁の最高温度も、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。
【0069】
熔融ガラスに含まれる清澄剤、例えば酸化錫の含有量が変化すれば、熔融ガラスから気相空間に放出される酸素の放出量も変化する。すなわち、酸化錫の含有量が多いほど放出される酸素量が上昇し、気相空間の酸素濃度が上昇する。したがって、熔融ガラスから気相空間に放出される酸素放出量も、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。この点から、白金または白金合金等の揮発を抑制する点から、気相空間における酸素濃度は、酸化錫の含有量によって制御(調整)されることが好ましい。したがって白金または白金合金等の揮発を抑制する点から、酸化錫の含有量は制限され、0.01〜0.3モル%、好ましくは0.03〜0.2モルであることが好ましい。酸化錫の含有量が多いと酸化錫の2次結晶が熔融ガラス中で発生する問題が生じるので好ましくない。酸化錫の含有量が少なすぎると熔融ガラスの清澄が十分でない。
【0070】
熔融ガラスの温度あるいは温度履歴については、熔融ガラスの温度が変化すれば、この温度変化によって、還元する酸化剤、例えば還元する酸化錫の量、及び熔融ガラスの粘度が変化する。このため、熔融ガラスから気相空間に放出される酸素量も変化する。
【0071】
また、熔融ガラス処理装置に流入する前の熔解工程における熔融ガラスと熔融ガラス処理装置に流入した後の処理工程における熔融ガラスの温度差が大きいほど熔融ガラス処理装置で放出される酸素の量は増加する。つまり、熔融ガラス処理装置の流入前から熔融ガラス処理装置における熔融ガラスの温度履歴を制御(調整)することで、熔融ガラスから気相空間に放出される酸素の放出量も変化する。したがって、熔解工程における熔融ガラスの最高温度と、処理工程における熔融ガラスの最高温度との温度差も、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。この場合、白金または白金合金等の揮発の抑制と清澄効果とを両立する点から、上記温度差は、50℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0072】
また、気相空間における白金族金属(白金または白金合金)の蒸気圧も、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。気相空間における白金族金属(白金または白金合金)の蒸気圧は、熔融ガラス処理装置の内壁の温度に応じて揮発する白金族金属(白金または白金合金)の揮発量によって定まる。したがって、熔融ガラス処理装置の内壁の温度は、白金または白金合金等の揮発を抑制するための好ましい比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを決定する上で、大きな要因の1つとなっている。内壁の温度が高く、揮発量が多く、気相空間における白金族金属(白金または白金合金)の蒸気圧が高い場合、
図3(a)に示すような速い気流W1が気相空間中にある場合であっても、白金族金属(白金または白金合金)の蒸気圧が飽和蒸気圧に達している状態が維持される。この場合、揮発量の絶対量を下げるために、比S/L、あるいは基準液面レベル又は目標液面レベルAを制御(調整)することができる。白金または白金合金等の揮発及び凝集を抑制する点から、気相空間における白金族金属の蒸気圧は1Pa〜10Paであることが好ましく、3Pa〜10Paであることが好ましい。
【0073】
気相空間における白金族金属の蒸気圧が1Pa〜10Paであり、熔融ガラス処理装置の内壁の最高温度が1630℃〜1720℃であり、気相空間の体積をS[m
3]とし、気相空間と接する白金族金属の面積をL[m
2]としたとき、比S/Lは、17[m]以上とすることで、白金または白金合金等の揮発及び凝集を抑制することができる。このとき、気相空間の酸素濃度は、2%以下であることが好ましい。また、製造されるガラス基板の酸化錫の含有量は、0.01〜0.3モル%であることが好ましい。
【0074】
本実施形態では、熔融ガラスの脱泡のために清澄管102aを通電加熱する方式を用いる。通電加熱の方式では、清澄管102aを直接加熱するので、清澄管の周囲にヒータ等の熱源を設けて清澄管を間接的に加熱する場合に比べて、気相空間と接する白金または白金合金等の内壁の温度は高くなり、温度勾配も高くなり、最高温度と最低温度との温度差は大きくなり易い。このため、上述したように、従来の清澄管では、白金または白金合金等の凝集物が多くなり易い。しかし、本実施形態では、白金または白金合金の揮発を抑制するので、白金または白金合金の凝集物は少ない。この点で、清澄管102aを通電加熱する方式を用いる場合、白金または白金合金等の凝集物が熔融ガラスMGに混入することを抑制する本実施形態の効果は、間接加熱方式を用いる清澄管に比べて大きい。
また、清澄管102aの通電加熱の方式の場合、清澄管102aの管の周りに電流を均一に流すために、フランジが清澄管102aの周りに設けられる場合がある。フランジは熱による破損を防止するために冷却される。また、フランジが冷却フィンとして機能する。このため、清澄管102aのフランジが設けられた部分の内壁の温度は低下しやすい。つまり、澄管102aのフランジが設けられた部分の内壁では白金又は白金合金の凝集が生じやすい。このような場合においても、本実施形態では、白金または白金合金の揮発を抑制するので、白金または白金合金の凝集物は少ない。このため、フランジが清澄管102aに用いられる場合でも、白金または白金合金等の凝集物が熔融ガラスMGに混入することを抑制する本実施形態の効果は、従来の清澄管に比べて大きい。
【0075】
また、本実施形態の清澄管102aの気相空間には、熔融ガラス及び白金あるいは白金合金等と不活性なガスを導入するように、ガス導入装置が設けられてもよい。この場合、気相空間には、例えば不活性なガスを導入するノズルが設けられる。不活性なガスを気相空間内に導入することにより、気相空間内の酸素分圧あるいは酸素濃度を低下させることができる。酸素は、白金または白金合金等と結合して揮発を助長する。このため、酸素分圧を下げることにより、清澄管102aの内壁から白金又は白金合金の揮発を抑制することができる。このとき、不活性なガスを、気相空間と接する清澄管102aの内壁のうち内壁の温度が低い部分から気相空間に導入し、揮発した白金または白金合金が気相空間内の温度の低い領域から高い領域に向かって気流をつくることが、白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する点で好ましい。例えば、不活性なガスは、清澄管102aの内壁のうち、周りの温度に比べて温度が低い部分、例えば温度が極小となっている部分から気相空間に導入されることが好ましい。特に好ましくは、清澄管102aの内壁のうち、温度が最も低くなっている部分から気相空間に導入される。清澄管102aのうち揮発物が凝集し易い内壁の温度が低い部分から不活性ガスを導入するので酸素分圧を低くする。したがって、揮発物の飽和蒸気圧の分圧依存性に従って、揮発物の凝集は抑制される。
不活性なガスとして、例えば窒素ガス、あるいは、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の希ガスあるいはこれらのガスの混合ガスを用いることができる。
【0076】
本実施形態の清澄管102a内の気相空間が大気と接続される部分は、通気管107である。この通気管107の形態は、煙突状に清澄管102aの天井部から直線的に延びる形状であるが、通気管107は、この形状に制限されず、屈曲した形状であってもよい。通気管107は、白金または白金合金等の揮発物が、通気管107の温度の低い部分に触れて凝集することがないように、通気管107に温度調整装置が設けられることが好ましい。
【0077】
なお、熔融ガラス処理装置として清澄装置102を用いて説明したが、熔融ガラス処理装置は攪拌装置103にも適用することができる。しかし、清澄管102に適用することが以下の理由から好ましい。
すなわち、清澄装置102は、清澄から成形直前までの、白金または白金合金等を用いる複数の装置の中で、熔融ガラスの温度を最も高く加熱する装置である。このため、清澄管102aにおいて、白金または白金合金等の揮発は上記装置の中で最も激しい。しかも、清澄管102aで行われる脱泡によって気相空間に放出されるガスの成分には、白金または白金合金等の揮発を助長する酸素が多く含まれるため、気相空間内の酸素分圧は、大気に比べて高い。このため、気相空間では、内壁から白金または白金合金等がよりいっそう揮発する。さらに、清澄管102aは、攪拌装置103等の他の装置に比べて、内壁の最高温度と最低温度の差が大きく、揮発物の飽和蒸気圧の差も大きくなるので、揮発物が通気管107を通して大気に排出されるまで、揮発物の凝集が生じやすい。また、清澄管102aでは、他の装置に比べて気流の流れは大きい。したがって、揮発物の凝集を抑制するために、比S/L、あるいは液面レベルの制御(調整)を清澄装置102に適用することが好ましい。 また、作製するガラス基板の板厚が薄いガラス基板、例えば0.5mm以下、さらには0.3mm以下、さらには0.1mm以下のガラス基板においても、本実施形態の白金または白金合金等の揮発物の凝集を抑制する効果は、板厚の厚いガラス基板に比べて顕著となる。清澄管102a等の内壁に凝集した白金または白金合金等の凝集物の一部が微粒子となって熔融ガラス中に落下し、熔融ガラス中に混入しガラス基板に含まれる。この場合、ガラス基板の板厚が薄いほど、欠陥となる微粒子はガラス基板の表面に位置することが多い。ガラス基板の表面に位置する微粒子は、例えばガラス基板を用いたパネル製造工程において離脱すると、離脱した部分が凹部となり、ガラス基板上に形成される薄膜が均一に形成されず、画面の表示欠陥をつくる。したがって、本実施形態のように清澄管102aにおいて白金または白金合金等の揮発を抑制し、白金または白金合金等の凝集物の一部が異物となって熔融ガラスに混入する効果は、板厚が薄いガラス基板ほど大きくなる。
【0078】
(ガラス組成)
本実施形態では、酸化錫を含む無アルカリガラス基板、又は、酸化錫を含む微アルカリガラス基板であると、本実施形態の効果は顕著となる。無アルカリガラス又は微アルカリガラスは、アルカリガラスと比較してガラス粘度が高い。そのため、熔解工程で熔融温度を高くする必要があり、多くの酸化錫が熔解工程で還元されてしまうので、清澄効果を得るためには清澄工程における熔融ガラス温度を高くして、酸化錫の還元をさらに促進し、かつ熔融ガラス粘度を低下させる必要がある。つまり、酸化錫を含む無アルカリガラス基板、又は、酸化錫を含む微アルカリガラス基板を製造する場合には、清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金または白金合金等の揮発が生じやすい。ここで、本明細書において、無アルカリガラス基板とは、アルカリ金属酸化物(Li
2O、K
2O、及びNa
2O)を実質的に含有しないガラスである。また、微アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物の含有量(Li
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)が0超0.8モル%以下のガラスである。
【0079】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は調合される。本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、SiO
2 55〜75モル%、Al
2O
3 5〜20モル%、B
2O
3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、 R’
2O 0〜0.4モル%(R’はLi
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)、SnO
2 0.01〜0.4モル%、含有する。
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよく、本実施形態の効果である、泡と未熔解物の発生を低減する効果を達成できる。すなわち、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性の高いガラスの一例である。高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金または白金合金等の揮発が生じやすい。つまり、このような組成を有するガラス基板を製造する場合には、熔融ガラス中に白金または白金合金等の凝集物が異物として混入することを抑制するといった本実施形態の効果は顕著になる。なお、高温粘性とは、熔融ガラスが高温になるときのガラスの粘性を示し、ここでいう高温とは、例えば、1300℃以上を示す。
【0080】
本実施形態によれば、ガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率が0〜0.8モル%であっても、熔融ガラス中に白金または白金合金等の凝集物が異物として混入することを抑制することができる。アルカリ金属酸化物の含有率が小さいほど、高温粘性が高くなるので、アルカリ金属酸化物の含有率が0〜0.8モル%のガラスは、アルカリ金属酸化物の含有率が0.8モル%を超えるガラスと比較して高温粘性が高い。高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金または白金合金等の揮発が生じやすい。つまり、この高温粘性の高いガラスを用いるときには、熔融ガラス中に白金または白金合金等の凝集物が異物として混入することを抑制する本実施形態の効果は顕著になる。
【0081】
本実施形態で用いる熔融ガラスは、粘度が10
2.5ポアズであるときの温度は1500〜1700℃であるガラス組成であってもよい。このように、高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金または白金合金等の揮発が生じやすい。すなわち、高温粘性のガラス組成であっても、本実施形態の上記効果は顕著になる。
【0082】
本実施形態で用いる熔融ガラスの歪点は650℃以上であってもよく、660℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上が特に好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が10
2.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にある。つまり、歪点が高いガラス基板を製造する場合ほど、本実施形態の上記効果は顕著になる。
【0083】
また、酸化錫を含み、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるガラスになるようにガラス原料を熔解した場合、より本実施形態の上記効果は顕著になり、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500℃〜1700℃であり、1550℃〜1650℃であってもよい。
【0084】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0085】
(実験例1)
本実施形態の比S/Lの制御(調整)の効果を確認するために、比S/Lを種々変化させて熔融ガラス中に混入した、白金または白金合金等の凝集物からなる異物の個数を検査することを行った。
詳細には、製造されるガラス基板が上記したガラス組成となるように、熔解装置においてガラス原料を熔解して熔融ガラスとした後、清澄装置102にて熔融ガラスの清澄を行った。次に、均質化、オーバーフローダウンドロー法による成形、徐冷、切断を行い、フラットディスプレイ用ガラス基板を得た。清澄装置102の最高温度は1710℃であり、清澄装置102の最高温度と最低温度との差は250℃であった。比S/Lを時間とともに種々変化させた場合の白金または白金合金等の凝集物からなる異物の関係を、
図6に示す(
図6中の横軸は時間である)。
図6は、比S/Lと欠点密度の関係を示す図である。図中の欠点密度とは、単位重量あたりの白金または白金合金等の凝集物数を示している。
図6では、最も欠点密度が大きかった場合を1として、その他の場合について欠点密度を比で示している。
図6中の点線は、欠陥密度比の近似曲線である。
図6に示すように、比S/Lを17[m]以上にすると、欠点密度比を0.5以下にすることができた。また、比S/Lを25[m]以上にすると欠点密度比を0.3以下にすることができた。
【0086】
(実験例2)
本実施形態の液面レベルの制御(調整)の効果を確認するために、熔融ガラスの液面レベルを種々変化させて熔融ガラス中に混入した、白金または白金合金等の凝集物からなる異物の個数を検査することを行った。
詳細には、製造されるガラス基板が上記した組成となるように、熔解装置においてガラス原料を熔解して熔融ガラスとした後、清澄装置にて熔融ガラスの清澄をおこなった。次に、攪拌、オーバーフローダウンドロー法による成形、徐冷、切断を行い、フラットディスプレイ用ガラス基板を得た。清澄装置の最高温度は1710℃であり、清澄装置の最高温度と最低温度との差は250℃であった。液面レベルが目標液面レベルAの範囲になるように制御(調整)して製造した100枚のガラス基板を検査したところ、液面レベルが目標液面レベルAの範囲内になるように制御(調整)せず、目標液面レベルAより小さくなってしまった場合に製造された100枚のガラス基板と比較して、白金欠陥数を1/3以下にすることができた。
【0087】
以上、本発明のガラス基板の製造方法、ガラス基板製造装置、及び熔融ガラス処理装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。