【0008】
本発明の酸素濃縮装置の実施態様例を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である圧力変動吸着型の酸素濃縮装置を例示した概略装置構成図である。本発明の酸素濃縮装置は、加圧空気を供給するコンプレッサ102、酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒107A,107B、吸着工程、脱着工程や均圧工程等のシーケンスを切り換える流路切換手段である供給弁105A,105B、排気弁106A,106B、均圧弁110を備える。加圧空気から分離生成された酸素濃縮ガスは、コントロールバルブ113で所定流量に調整され、フィルタ115で除塵され後、鼻カニューラ116を用いて使用者に供給される。
先ず、外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くための外部空気取り込みフィルタ101を備えた空気取り込み口から装置内に取り込まれる。このとき、通常の空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、二酸化炭素ほかのガスが1.2%含まれている。かかる装置では、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスを濃縮して取り出す。
酸素濃縮ガスの取り出しは、酸素分子よりも窒素分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着剤が充填された吸着筒107に対して、供給弁105A,105B、排気弁106A,106Bを開閉することにより、対象とする吸着筒107A,107Bを順次切り換えながら、コンプレッサ102により加圧した原料空気を供給し、吸着筒内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去することにより行われる。かかる吸着剤としては、5A型、13X型、Li−X型等のモレキュラーシーブゼオライト等が用いることができる。
前記の吸着筒107は、吸着剤を充填した円筒状容器で形成され、通常、1筒式、2筒式の他に3筒以上の多筒式が用いられるが、連続的かつ効率的に原料空気から酸素濃縮ガスを製造するためには、2筒式や多筒式の吸着筒を使用することが好ましい。
また、前記のコンプレッサ102としては、圧縮機能のみ、或いは圧縮、真空機能を有するコンプレッサとして2ヘッドのタイプの揺動型空気圧縮機が用いられるほか、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式などの回転型空気圧縮機が用いられる場合もある。また、このコンプレッサを駆動する電動機の電源は、交流であっても直流であってもよい。
加圧状態の吸着筒内で空気中の窒素ガスを吸着剤に吸着させ、吸着されなかった酸素を主成分とする酸素濃縮ガスが吸着筒の製品端から取り出され、吸着筒へ逆流しないように設けられた逆止弁108A,108Bを介して、製品タンク111に流入する。
一方、吸着筒内に充填された吸着剤に吸着された窒素ガスは、新たに導入される原料空気から再度窒素ガスを吸着するために、吸着剤から脱着させパージする必要がある。このために、吸着筒107A,107Bを排気弁106A,106Bを介して排気ラインに接続し、加圧状態から大気開放状態に切り換え、加圧状態で吸着されていた窒素ガスを脱着させて大気中に排気し吸着剤を再生させる。さらにこの脱着工程において、窒素の脱着効率を高めるため、オリフィス109A,109Bおよび均圧弁110を介して吸着工程中の吸着筒の製品端側から生成された酸素濃縮ガスの一部をパージガスとして脱着工程中の吸着筒に逆流させるパージ工程を行う。
製品タンク111に蓄えられた酸素濃縮ガスは、例えば95%といった高濃度の酸素ガスを含んでおり、医師の処方によって必要とされる酸素流量を患者自身が設定する。調圧弁112、コントロールバルブ113等の流量調整手段によってその圧力と供給流量が制御され、処方量の酸素濃縮ガスが患者に供給される。一方、患者に供給される酸素濃縮ガスの流量及び酸素濃度は、酸素濃度センサ・流量センサ117で検知され、検知結果に基づいてコンプレッサ102の回転数や流路切換手段である供給弁105、排気弁106、均圧弁110の開閉時間をCPU120等の演算手段で制御し、酸素生成をコントロールしている。
吸着圧は吸着筒内圧或いはコンプレッサ吐出圧で計測され、
図1に示すようにコンプレッサ吐出側の配管に設けた圧力センサ、或いは吸着筒に設けた圧力センサで検知する。
図2は、本発明の一実施形態である酸素濃縮装置のコンプレッサと各吸着筒間の流路に設けられた供給弁および排気弁と、吸着筒の下流側で吸着筒間を均圧する均圧弁とを順次切り換える流路切換手段の開閉タイミングの概略図である。
2筒式の圧力変動吸着型の酸素濃縮装置では、
図2に示すように、一方の吸着筒Aが吸着工程を行っている場合は、他方の吸着筒Bでは脱着工程を行い、供給弁A,B、排気弁A,B及び均圧弁の開閉を制御することにより、吸着工程、脱着工程を各々逆位相の形で順次切り換え、酸素を連続的に生成している。
吸着剤の再生効率を上げる為、吸着工程で生成した酸素の一部を均圧弁を介して脱着工程側吸着筒に流すパージ工程を組み込み、一方の吸着筒Aについて吸着工程、パージ生成工程、脱着工程、パージ排気工程を、他方の吸着筒Bについて脱着工程、パージ排気工程、吸着工程、パージ生成工程を交互に切り換える定常シーケンスを行うことにより、効率的に酸素を生成することが出来る。
パージ工程は、
図2の斜線部で示すように、例えば、吸着工程で酸素を生成している吸着筒Bから酸素を取り出すと共に、均圧弁を介して脱着工程で窒素を減圧排気している吸着筒Aに生成酸素の一部を流し、吸着剤の窒素脱着再生効率を上げる工程である。吸着筒Bではパージ用の酸素を生成するパージ生成工程、吸着筒Aではその酸素を製品端からパージガスとして流し系外に排気するパージ排気工程を行っている。
このパージ工程時間を長くすると吸着剤の再生効率も上がり、結果として生成酸素濃度の上昇が認められる。一方、パージ工程時間を長くし過ぎると吸着筒Bから製品タンク側への酸素取り出し量が減少する他、取り出し量によっては、窒素破過により生成酸素濃度の低下を招き、製品ガスとしての生成量が少なくなるデメリットもある。吸着工程や脱着工程の時間変更を含むシーケンス全体を制御した場合には、シーケンス全体のバランスが崩れ、生成酸素濃度が安定するのに時間を要するため、本発明ではパージ工程時間を制御する。
酸素濃縮装置を長期間使用ことにより、吸着剤は吸湿劣化し、生成する酸素濃縮ガスの酸素濃度の低下を招く。窒素吸着剤として使用するモレキュラーシーブゼオライトは水分吸着能が強く、脱着工程、パージ工程では完全に吸着剤に吸着した水分を取り除くことは出来す、窒素吸着性能の低下を引き起こす。通常、かかる酸素濃度の低下を補償するために、酸素濃縮装置のコンプレッサの回転数を上げ、原料空気の供給量を増し、吸着筒の吸着圧を上げることで酸素濃度を上げる制御を行っている。
吸湿劣化に伴う生成酸素濃縮ガスの酸素濃度に対して、パージ時間の最適化を検討した。
図3に示すように、パージ時間の最適値は吸着剤の吸湿劣化に従って短時間側にシフトし、吸湿劣化パージ時間を短くすることによって酸素濃度の上昇を図ることが出来る。初期設定時のパージ時間3.5秒に対して、劣化時A、劣化時Bと吸着剤の経時劣化が進むに従ってパージ時間の最適値が2.5秒、2.0秒と短時間側にシフトする。そこでパージ時間を短時間側に変更することで、酸素濃度は上昇する。かかるパージ時間の短時間側への変更に際しても、最適時間に一時に短縮するのではなく、0.1秒、0.2秒といった小間隔で漸次変更していくことが、生成酸素濃度への影響が少なく好ましい。
酸素濃度の低下原因を考慮せずに不用意に吸脱着工程のサイクルタイムを変更すると、酸素生成の不安定化を招く。吸湿劣化が起こっていることを複数のパラメータから判断し、酸素濃縮ガスの酸素濃度の低下が吸着剤の吸湿劣化が原因であることを事前に把握した上でパージ工程時間の所定の短時間側へのシフト制御をすることが重要である。
吸着剤の吸湿劣化は、生成酸素濃縮ガス濃度が所定濃度以下に低下すること、吸着圧が所定値以上に上昇する現象を伴う。酸素濃度が90%以下、当該酸素濃縮装置が保証する酸素濃縮ガスの最低値或いはそれ以上の値にするのが好ましい。たとえば高濃度酸素濃縮ガスを供給する医療用の酸素濃縮装置の場合80〜90%の間で閾値を設定するのが好ましい。
吸着圧は、吸着筒内圧やコンプレッサ吐出圧など圧力センサの設置位置によって値が若干異なるが何れの値を用いて制御を行っても良い。酸素濃縮装置の場合、吸脱着工程の間で圧力は大きく変動する。また消費電力の低減や酸素濃度の補償などを目的として、流量設定値によってコンプレッサ回転数を制御を行っている、この場合、酸素濃度を検知してコンプレッサ回転数をフィードバック制御しており、吸着圧は一定の閾値を示してはない。また、コンプレッサや電磁弁の異常故障、配管異常などにより吸着圧が低下するなど、吸着剤に吸湿劣化以外の要因によっても圧力値が変化する。
吸着圧力の変動が、設定流量や酸素濃度等によるコンプレッサ回転数の正常制御に基づくものや、機器異常に基づくものなど、吸着剤の吸湿劣化以外要因に基づくものを排除するため、その判断基準として、1)コンプレッサの回転数が制御上限値であり、且つ該圧力センサの検出値が当該条件でのコンプレッサ回転時における装置使用初期時の圧力値以上であること、あるいは2)コンプレッサの回転数が流量設定手段の最大流量設定値におけるコンプレッサの回転数であり、且つ該圧力センサの検出値が当該条件でのコンプレッサ回転時における装置使用初期時の圧力値以上であること等の条件を設定するのが好ましい。その装置の吸着圧が正常範囲以上の圧力値を示すことを検知する。その他、流量設定値毎に予め定めたコンプレッサ運転条件での初期吸着圧を基準に、吸着圧上昇を検知することも可能である。
また、かかる吸着剤の吸湿劣化は一定以上の期間、酸素濃縮装置を運転した結果、生じるものであり、運転開始間もない時間で本発明の制御が働くことは他の機器異常が生じていることが示唆される。従って、吸着筒の使用開始後、所定時間以上経過していることが本発明のパージ時間の短時間側シフト制御を行う前提となる。酸素濃縮装置は、通常は5℃から35℃といった生活環境下で使用されるのが好ましいが、氷点下の厳冬期や40℃以上の猛暑下の条件でも使用される。吸着剤の吸湿劣化は、特に5℃以下や氷点下といった低温環境で顕著に表れる。装置の使用環境によって吸着剤の劣化速度は大きく変動する。従って、吸着筒の使用時間は、少なくとも500時間以上、好ましくは2000時間以上経過しているのが好ましい。
図4、
図5に本発明の酸素濃縮装置において、生成酸素濃縮ガスの酸素濃度低下に伴うコンプレッサ回転数アップによる酸素濃度補償制御を行い、コンプレッサ回転数制御の限界後に、パージ時間の短時間シフトを行った場合の酸素濃縮ガスの酸素濃度、コンプレッサ回転数、パージ時間の関係を示す。
図4に示すように、酸素濃縮装置の運転初期に酸素濃度95%の値を示すも、経時的に吸着剤が吸湿劣化することで生成酸素濃縮ガスの酸素濃度が低下し、90%を切った時点でコンプレッサ回転数をアップし吸着圧を上げることで酸素濃度を90%に維持する。吸湿劣化が進行するに従ってコンプレッサ回転数を更に上げる制御を行うも限界があり、コンプレッサ回転数の上限に達した後、酸素濃度が88%を切った時点でパージ時間の短時間側シフトを行う(劣化時A)。これにより、一時的に生成酸素濃縮ガスの酸素濃度は上昇する。更に経時劣化が進み、酸素濃度が再度88%を切ると、更にパージ時間を短時間側にシフトさせる制御を行う(劣化時B)。これにより、再度、生成酸素濃縮ガスの酸素濃度は上昇する。
図5は劣化時A,Bにおける酸素濃度補償制御を併用した例を示す。酸素濃縮装置の運転初期に酸素濃度95%の値を示すも、経時的に吸着剤が吸湿劣化することで生成酸素濃縮ガスの酸素濃度が低下し、90%を切った時点aでコンプレッサ回転数をアップし吸着圧を上げることで酸素濃度を90%に維持する。吸湿劣化が更に進行し、コンプレッサ回転数の上限に達した時点bで酸素濃度補償制御は停止する。その後、酸素濃度が88%を切った時点cでパージ時間の短時間側シフトを行う(劣化時A)。これにより、一時的に生成酸素濃縮ガスの酸素濃度は上昇する。酸素濃度の上昇と共に酸素濃度補償制御が再開し、コンプレッサ回転数が下がる。更に経時劣化が進み、再度コンプレッサ回転数の上限に達した時点dで酸素濃度補償制御は停止し、酸素濃度が再度88%を切った時点eで、更にパージ時間を短時間側にシフトさせる制御を行う(劣化時B)。これにより、再度、生成酸素濃縮ガスの酸素濃度は上昇する。その後は、劣化時Aと同様に酸素濃度補償制御の再開、コンプレッサ回転数の低下が起こり、コンプレッサ回転数の上限値への到達f、酸素濃度の低下が起こる。
かかるパージ時間のシフト制御は、
図4,
図5では2回の例を示しているが、2回乃至5回程度繰り返すことで、生成酸素濃度を維持し、長期間の酸素濃縮装置の使用が可能となる。パージ時間を幾らに設定するかは、酸素濃縮装置の生成能力、供給酸素濃度などによって異なる。
酸素濃縮装置の起動時には通常デフォルトで設定されたパージ工程時間で運転を開始する。生成酸素濃縮ガスの酸素濃度、吸着圧、吸着筒の運転時間の上記3条件を基に吸着剤の吸湿劣化を判断し、例えば、酸素濃度が88%未満、コンプレッサの最大回転数で運転時の吸着圧が初期圧以上、吸着筒使用時間が2000時間以上の場合、パージ時間を3.5秒から2.5秒に変更する(劣化時A)。パージ時間の変更回数を記憶しておき、装置のON/OFFを繰り返す中、例えば3回以上吸湿劣化3条件を満たしてパージ時間の短時間シフトを行った場合には、次回起動時には、劣化時Aのパージ時間2.5秒の条件で起動する。
また、その後、再度上記3条件を満たした場合は、劣化時Bとしてパージ時間を2.5秒から2秒に短時間シフトする。これにより酸素濃度が上昇し、酸素濃縮装置の使用期間を延長することができる。