(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略円板状のパネル部と、このパネル部の外周部に設けられた環状のカウンターシンクとを備え、前記パネル部において中央部を含みかつ前記カウンターシンクよりも内周側の一部を凹状に成形してなるパネルデボスと、このパネルデボスに設けられて開口片を形成するスコアと、前記パネル部の中央部に設けられたリベットにより前記パネルデボス内に固定されたタブとを備える缶蓋であって、
前記タブは、前記リベットを挟んで前記開口片と反対側に位置するタブテールを有し、
前記パネルデボスには、前記タブの前記タブテールと前記カウンターシンクとの間に、さらに凹状のフィンガーデボスが形成されており、
このフィンガーデボスは、前記タブテールの下方に入り込まないように設けられており、前記パネルデボスの一部が下方に向けて凸状となるように形成された第1デボス部と、この第1デボス部と前記パネルデボスとの間で下方に向けて凸状かつ前記第1デボス部よりも前記パネルデボスからの深さが小さくなるように前記第1デボス部の略周方向両側にそれぞれ形成された第2デボス部とを有し、前記タブの長手方向に沿う中心線上の前記第1デボス部の両側には前記第2デボス部が形成されておらず、前記第1デボス部は、前記タブテール側では前記パネルデボスに接続され、前記カウンターシンク側では前記パネル部に接続されており、
前記第1デボス部の略周方向幅は、前記タブテール側が広く、前記カウンターシンク側が狭いことを特徴とする缶蓋。
前記フィンガーデボスは、前記タブの長手方向に沿う幅が2.5mm以上3.5mm以下、この幅の中心位置における略周方向幅が8mm以上12mm以下、各前記第2デボス部の略周方向幅が2.8mm以上3.7mm以下であることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。
前記フィンガーデボスは、前記第1デボス部の前記パネルデボスからの深さが0.3mm以上0.6mm以下、各前記第2デボス部の前記パネルデボスからの深さが0.2mm以上0.4mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の缶蓋。
【背景技術】
【0002】
飲料缶の缶蓋として、タブを缶蓋本体のパネルに取り付けたままの状態で飲み口が開口可能なステイオンタブ方式のものが知られている。このタブを備えた缶蓋においては、リベットによって取り付けられているタブの指かけ部を引き上げることにより、リベット近傍が折れ曲がって支点となり、タブノーズ部(タブの先端)が作用点となって、パネル表面のスコアに囲まれた開口片を押圧し、没入させてスコアを破断させ、開口片を開口させることができる。この際、パネルはスコア形状に沿って破断されるが、開口片はパネルから離れることなく飲料缶内部に押し入れられる。
【0003】
このような缶蓋において、タブの指かけ部を指先で引き上げる際の指かけを容易にするため、タブの指かけ部の下方付近からパネルの外周部にかけて、指かけ時に指の一部が入る指かけ凹部(フィンガーデボス)が形成されている。
【0004】
タブの指掛かり性をより向上させるために、指かけ凹部を大きく深くすることが検討されている。しかしながら、指かけ凹部を缶蓋半径方向に拡大しようとすると、外周側のカウンターシンクの近傍で、缶蓋の耐圧強度が低下するおそれがある。また、指かけ凹部をタブの指かけ部の下方に入り込むように拡大しようとすると、缶蓋を重ねて保管するときに指かけ凹部とタブとが擦れて傷ついたり、スタッキング性が損なわれたりするおそれがある。
【0005】
一方、指かけ凹部を缶蓋円周方向に拡大する場合、十分な深さを確保しようとすると成形性が悪く、部分的な薄肉化等が生じるおそれがある。これに対して、特許文献1には、指掛け凹部の周囲に、複数段の傾斜面を連続させた形状を設けることにより折れ曲がり度合いを緩和して、成形時の破損などを防止することが提案されている。
【0006】
また、タブの指掛かり性を向上させるには、指かけ凹部を深くしてパネルとタブとの隙間を大きくすることが考えられる。しかしながら、指かけ凹部があまり深いと、複数の缶蓋を積層保管する際に、パネル裏面に突出する指かけ凹部とタブの上面とが擦れて傷がついたり、スタッキング性が悪くなったりするおそれがある。これに対して、特許文献2には、タブの下に位置する指かけ凹部の傾斜面を比較的急傾斜とすることにより、指かけ凹部を過剰に深くすることなく指掛かり性を向上させた缶蓋が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような飲料缶において、近年、たとえば缶蓋径を小さくすることにより材料コストを低減することが求められている。しかしながら、指掛かり性を向上させて開封を容易にするためには、一定の面積と深さを有する指かけ凹部を形成することが好ましい。つまり、缶蓋径を小さくすると、指かけ凹部を形成可能な領域が小さくなってしまうため、特許文献1に記載されるような拡大された指かけ凹部を形成するのが困難となる。また、特許文献2に記載されるような缶蓋においては、指かけ凹部が小さいために開封が困難となるおそれがある。また、指かけ凹部の領域が小さい場合には、深さを小さくすることが成形時の破断を防ぐためには望ましいため、より指がタブにかかりにくくなり開封性が低下するという問題がある。
【0009】
これに対して、小径の缶蓋においては、タブ自体を小さくして指かけ凹部を形成可能な領域を広くすることが考えられるが、小さすぎるタブは開缶性を悪化させるおそれがある。また、タブの形状や寸法の変更は、多大な設備投資がかかるため、現実的ではない。また、缶蓋のパネルからタブを浮き上がらせたり指かけ凹部を深く形成したりすることにより指掛かり性を向上させることも考えられるが、上述したように缶蓋のスタッキング性が低下したり、缶蓋の耐圧強度や成形性が低下したりするおそれがある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、小径であっても開缶性およびスタッキング性を損なうことなく、耐圧強度や成形性に優れたステイオンタブ方式の缶蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、略円板状のパネル部と、このパネル部の外周部に設けられた環状のカウンターシンクとを備え、前記パネル部において中央部を含みかつ前記カウンターシンクよりも内周側の一部を凹状に成形してなるパネルデボスと、このパネルデボスに設けられて開口片を形成するスコアと、前記パネル部の中央部に設けられたリベットにより前記パネルデボス内に固定されたタブとを備える缶蓋である。この缶蓋において、前記タブは、前記リベットを挟んで前記開口片と反対側に位置するタブテールを有し、前記パネルデボスには、前記タブの前記タブテールと前記カウンターシンクとの間に、さらに凹状のフィンガーデボスが形成されている。このフィンガーデボスは、前記タブテールの下方に入り込まないように設けられており、前記パネルデボスの一部が下方に向けて凸状となるように形成された第1デボス部と、この第1デボス部と前記パネルデボスとの間で下方に向けて凸状かつ前記第1デボス部よりも前記パネルデボスからの深さが小さくなるように前記第1デボス部の略周方向(タブの幅方向)両側にそれぞれ形成された第2デボス部とを有する。
前記タブの長手方向に沿う中心線上の前記第1デボス部の両側には前記第2デボス部が形成されておらず、前記第1デボス部は、前記タブテール側では前記パネルデボスに接続され、前記カウンターシンク側では前記パネル部に接続されており、前記第1デボス部の略周方向(タブの幅方向)幅は、前記タブテール側が広く、前記カウンターシンク側が狭い。
【0012】
この缶蓋によれば、フィンガーデボスが、内側の第1デボス部が深く両側の第2デボス部が浅くなるように形成されているので、たとえばタブテールとパネル外周縁との距離が4〜6mm程度になる小径の缶蓋においても耐圧強度を低下させずに、開封性を向上させることができる。なお、本発明に係る缶蓋の第1デボス部は、略周方向幅がタブテール側で広くなるように形成されるが、隅部が鋭利にならないように丸めるために、タブテール側で若干幅が小さくなる形状も含まれる。
【0013】
すなわち、指掛かり性を向上させるためにはフィンガーデボスを大きく、深く形成することが考えられるが、小径の缶蓋においては大きなフィンガーデボスを形成する余地がない。また、小さなフィンガーデボスを深く形成すると形成時に蓋材が切れてしまうおそれがある一方で、ある程度大きな屈曲をさせないとスプリングバックが生じてフィンガーデボスにおいて所望の形状が保たれないおそれがある。
【0014】
これに対して本発明の缶蓋では、第1デボス部の略周方向両側に浅い第2デボス部が形成されていることにより、小さく深い第1デボス部の底部と第2デボス部とが緩やかに屈曲する形状で接続され、パネルデボスと第2デボス部とはある程度大きく屈曲する形状で接続されている。また、第1デボス部のタブ長手方向に沿う中心線上の両側には第2デボス部がなく、第1デボス部とパネルデボスまたはパネル部とが接続されていることにより、フィンガーデボスのタブ長手方向の沿うサイズが小さく抑えられている。
【0015】
これにより、本発明によれば、十分な形状剛性を有する深いフィンガーデボスを備え、開口性が向上されているとともに、形成時の蓋材の破損が発生しにくい缶蓋が実現される。また、この構成によれば、第1デボス部の略周方向両側には比較的スペースに余裕があることから、小径の缶蓋においても、指掛かり性を向上させるフィンガーデボスを備えることが可能である。
【0016】
この缶蓋において、前記フィンガーデボスは、前記タブの長手方向に沿う幅が2.5mm以上3.5mm以下、この幅の中心位置における略周方向幅(前記タブの幅方向)が8mm以上12mm以下、各前記第2デボス部の略周方向幅が2.8mm以上3.7mm以下であることが好ましい。この場合、たとえばパネル部の直径が43.8mm程度の小径の缶蓋においても、好適なフィンガーデボスが設けられる。
【0017】
また、この缶蓋において、前記フィンガーデボスは、前記第1デボス部の前記パネルデボスからの深さが0.3mm以上0.6mm以下、各前記第2デボス部の前記パネルデボスからの深さが0.2mm以上0.4mm以下であることが好ましい。この場合、たとえばパネル部の直径が43.8mm程度の小径の缶蓋においても、好適なフィンガーデボスが設けられる。なお、この場合のパネルデボスのパネル部からの深さは、0.4mm〜0.5mmである。
【0018】
ま
た、略円板状のパネル部にタブが取り付けられる缶蓋において、前記タブに指を掛けるためのフィンガーデボスを形成する缶蓋
を製造する場合、前記パネル部の一部を面状に押し下げて第1デボス部を形成するとともに、この第1デボス部の形成途中から、さらに前記第1デボス部と前記パネル部との間における略中間位置を点状または線状に押し下げることにより下方に凸状に向けて屈曲させて、前記パネル部と前記第1デボス部との間に前記第1デボス部よりも浅い第2デボス部を形成する。
【0019】
この缶蓋の製造方法によれば、小さなフィンガーデボスであっても、第1デボス部とパネル部との間に第2デボス部を形成することにより、第1デボス部の縁を緩やかに屈曲させることができるので、深い第1デボス部を破断させることなく成形できる。また、第2デボスを形成することにより、パネル部の縁を大きく屈曲させることができるので、スプリングバックを防ぎ、高い形状剛性を有するフィンガーデボスを形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の缶蓋によれば、小径であっても開缶性およびスタッキング性を損なうことなく、耐圧強度や成形性に優れたステイオンタブ方式の缶蓋を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る缶蓋の実施形態について図を参照して説明する。
図1に示すように、本発明に係る缶蓋10は、略円板状のパネル部20と、このパネル部20の外周部に沿って下方に凸となるように設けられた環状のカウンターシンク40とを備え、パネル部20において中央部を含みかつカウンターシンク40よりも内周側の一部を凹状に成形してなるパネルデボス25と、このパネルデボス25に設けられて開口片を形成するスコア22と、このパネル部20の中央部に設けられたリベット23によりこのパネルデボス25内に固定されたタブ30とを備える。
【0023】
図1(a)に示すように、この缶蓋10において、タブ30は、パネル部20の上面に突出するリベット23を挟んで開口片21と反対側に位置するタブテール31と、リベット23を挟んでタブテール31と反対側の開口片21上に位置するタブノーズ32とを有している。このタブ30に対して、
図1(b)に示すように、開封者がタブテール31に指Fをかけてパネル部20(パネルデボス25)から離すようにタブ30を引き上げると、タブノーズ32とリベット23とが作用してスコア22を切断し、開口片21がパネル部20から押し下げられることにより、缶蓋10が開口される。なお、この缶蓋10は、タブテール31とカウンターシンク40との間隔が4〜6mm(本実施形態では5mm)程度しか確保できない小径のものである。
【0024】
タブ30が取り付けられたパネル部20のパネルデボス25には、
図2および
図3に示すように、タブ30のタブテール31とカウンターシンク40との間に、このパネルデボス25の一部がさらに凹状となったフィンガーデボス50が形成されている。タブテール31は略直線状に形成されており、フィンガーデボス50のタブテール31側はこのタブテール31の外形に沿うように略直線状に形成されている。開封者は、凹状に形成されたこのフィンガーデボス50からタブ30のタブテール31の下側に指Fを入れ、容易にタブ30を引き上げることができる。
【0025】
このフィンガーデボス50は、
図2および
図3に示すように、パネルデボス25から下方に向けて凸状に形成された第1デボス部51と、この第1デボス部51の略周方向(タブ30の幅方向)両側にそれぞれ形成された第2デボス部52とを有し、段差のない接続面53によって囲まれている。各第2デボス部52は、第1デボス部51よりもパネルデボス25からの深さが小さい(
図8参照)。また、第1デボス部51の略周方向幅は、
図2に示すように、タブテール31側が広く、カウンターシンク40側が狭くなっている。
【0026】
なお、本発明の缶蓋10におけるフィンガーデボス50は、
図2に示すように、タブ30のタブテール31の下方に入り込まないように設けられている。これにより、缶蓋10は、積み重ねられた場合に下面側に突出したフィンガーデボス50が下側に積層された缶蓋10のタブ30に接触しないので、スタッキング性に優れ、取り扱いが容易となっている。
【0027】
このフィンガーデボス50において、第1デボス部51の両側に各第2デボス部52が比較的浅く形成されていることにより、深い第1デボス部51の成形時の破断等を防ぎながら、第1デボス部51の深さおよび第2デボス部52によるフィンガーデボス50の幅広さにより指掛かり性を向上させ、良好な開封性を得ることができる。また、第1デボス部51において、タブテール31側が広く形成されていることにより、指のかかるスペースを広くでき、開封性を向上させることができる。また、略周方向に沿って各第2デボス部52とパネル部20との間に、第2デボス部52よりもパネル部20に対する傾斜角度が大きい接続面53が設けられていることにより、接続面53とパネル部20との屈曲部の形状剛性が高く、この部分におけるスプリングバックが防止されている。なお、第1デボス部51は、
図2に示すように、隅部が鋭利にならないように丸められているため、タブテール31側で周方向幅が少し狭くなっている部分があるが、全体としてタブテール31側の周方向幅が広くなるように形成されている。
【0028】
また、タブ長手方向に沿う中心線上の第1デボス部51の両側には、
図3に示すように、第1デボス部51よりも浅い第2デボス部52が形成されていない。したがって、中心線に沿う断面を示す
図3に示すように、第1デボス部51は、タブテール31近傍ではパネルデボス25に接続されているのに対し、カウンターシンク40の近傍においてタブ幅方向中央部で接続面53を介してパネル部20に接続されている。このように、タブ長手方向に沿う中心線上において第1デボス部51の両側には第2デボス部52が形成されていないことにより、このフィンガーデボス50のタブ長手方向のサイズが小さく抑えられている。さらに、接続面53には段差がないので、タブテール31近傍のフィンガーデボス50(第1デボス部51)に指Fが入り込みやすく、タブテール31を容易に持ち上げることができる。
【0029】
さらに、
図2に示すように第1デボス部51のカウンターシンク側が狭く形成されていることにより、容器内圧が上昇した際の缶蓋10の膨らみに伴う局所的な突出(いわゆる「角出し」)が抑えられ、容器耐圧を向上させることができる。なお、本実施形態の第1デボス部51は略半月状に形成されているが、タブテール31側が広くカウンターシンク40側が狭い形状であれば、台形、三角形などでもよい。第1デボス部51がこのような形状に形成されていることにより、フィンガーデボス50のカウンターシンク40の近傍におけるタブ幅方向両側部では、タブ長手方向に沿って、第1デボス部51は第2デボス部52および接続面53を介してパネル部に接続される。これにより、角出しを防ぎながら第1デボス部51の形状剛性を高くし、耐圧性を向上させることができる。
【0030】
より具体的には
図2に示すように、フィンガーデボス50は、タブ30の長手方向に沿う幅Aが2.5mm以上3.5mm以下、この幅Aの中心点Pを通る略周方向幅Bが8mm以上12mm以下となるように形成されている。また、各第2デボス部52は、中心点Pを通る線上における略周方向幅Cがそれぞれ2.8mm以上3.7mm以下となるように形成されている。
【0031】
また、
図3に示すように、フィンガーデボス50は、第1デボス部51のパネルデボス25からの深さD1が0.3mm以上0.6mm以下、各第2デボス部52のパネルデボス25からの深さD2が0.2mm以上0.4mm以下、かつD1>D2となるように設定されている。また、パネルデボス25のパネル部20からの深さは、0.4mm以上0.5mm以下である。
【0032】
以上説明したように、この缶蓋10においては、第1デボス部51が深く、略周方向に沿って両側の各第2デボス部52が浅くなるように2段にフィンガーデボス50が形成されているので、たとえばタブテール31とカウンターシンク40との距離が4〜6mm程度になる小径の缶蓋においても耐圧強度を低下させずに、開封性を向上させることができる。また、フィンガーデボス50において、タブ30のタブテール31近傍に第1デボス部51と各第2デボス部52との段差が形成されていないので、タブテール31に指をかけやすくなっている。
【0033】
(実施例および比較例)
フィンガーデボス近傍の形状や寸法が異なる缶蓋について、本発明に係る実施例1〜3および比較例1〜3を比較した結果を表1に示す。表1に示す寸法A,BおよびCは、
図2に示す寸法A,BおよびCに対応している。また、表1に示す第1デボス部の深さD1および第2デボス部の深さD2は、パネルデボスからの深さであって、
図3に示す寸法D1,D2に対応している。
【0034】
実施例および比較例の評価は、表1に示すように、成形性、耐圧性能、スタッキング性、指掛官能について行った。成形性については、硫酸銅チェックにて実施した。すなわち、硫酸銅(II)5水和物:塩酸:水=200g:100ml:700mlで混合した硫酸銅水溶液を、成形性の評価部に接触させて1分間放置した。損傷部位には銅が析出するので、銅析出の有無を観察し、50枚中0枚であれば成形性○、1枚でもあれば成形性×と評価した。耐圧性能については、各缶蓋を缶胴に巻締め、缶蓋がバックリングするまで缶内を昇圧し、バックリングした圧力の平均値が目標とする耐圧よりも大きければ耐圧性能○と評価した。
【0035】
スタッキング性については、180枚の缶蓋を重ねて、自然長(積層高さ)と積層方向に荷重1.5kgを加えた場合の積層高さとの差が15mm以上の場合を×と評価した。指掛官能については、10人中7人以上が指掛性が悪くないと判断した場合を○と評価した。
【0037】
実施例1〜3の缶蓋については、フィンガーデボスの各部分の寸法を好ましい範囲で変化させたところ、成形性、耐圧性能、スタッキング性および指掛官能の全てについて良好な結果が得られた。
【0038】
比較例1の缶蓋においては、第1デボス部および第2デボス部を設けたが、フィンガーデボスのタブ長手方向の幅Aを大きくして、タブの下部に入り込むように形成したところ、スタッキング性が悪いという結果が得られた。これは、タブの下部に入り込んでいるフィンガーデボスの下面が、積層した下側の缶蓋のタブに当たってしまったためと考えられる。
【0039】
比較例2の缶蓋においては、第1デボス部および第2デボス部を設けたが、フィンガーデボスのタブ長手方向の幅Aを大きくして、カウンターシンクに連通するように形成したところ、耐圧性能が悪いという結果が得られた。これは、フィンガーデボスとカウンターシンクとが連通したことにより、パネル部の外周縁部の強度が低下したためと考えられる。
【0040】
比較例3の缶蓋においては、第2デボス部のないフィンガーデボスを設けたところ、成形性および耐圧性能が悪いという結果が得られた。これは、第2デボス部がないために成形時の変形量が大きく、部分的な薄肉が生じたためと考えられる。
【0041】
次に、本発明に係る缶蓋10の製造方法について、
図4〜
図8を参照しながら説明する。この缶蓋10のフィンガーデボス50は、パネル部20の一部を面状に押し下げて第1デボス部51を形成するとともに、この第1デボス部の形成途中から、さらに第1デボス部51とパネル部20との間における略中間位置を点状または線状に押し下げることにより下方に凸状に向けて屈曲させて、パネル部20と第1デボス部51との間に第1デボス部51よりも浅い第2デボス部52を形成することにより形成される。
【0042】
より具体的には、
図4および
図5に示すように、フィンガーデボス50の外周部の下面を支持するロワーパンチ100と、このロワーパンチ100に対して上方から下降して板材11を押圧するアッパーパンチ110との間で板材11をプレスすることにより、缶蓋10のフィンガーデボス50を成形する。なお、この成形工程に先立ってカウンターシンクなどは既に形成されている。また、このフィンガーデボス50を成形する工程でパネルデボス25も同時に成形するが、ここではパネルデボス25の成形については詳しい説明を省略する。
【0043】
ロワーパンチ100は、パネル部20の下面を支えるパネル支持部101と、このパネル支持部101の内側でパネルデボス25の下面を支えるパネルデボス支持部102とを備え、これらパネル支持部101およびパネルデボス支持部102の間に、フィンガーデボス50を成形するアッパーパンチ110が入り込む穴部103を形成している。
図4に、これらロワーパンチ100(パネル支持部101およびパネルデボス支持部102)の上面を示す。
【0044】
アッパーパンチ110は、
図4および
図5に示すように、略平面の第1デボス部51を形成する面状の第1プレス部111と、この第1プレス部111から1段退避した形状により第1デボス部51とパネル部20との間における略中間位置を点状または線状に押圧して各第2デボス部52を成形する第2プレス部112とを有し、これら第1プレス部111および第2プレス部112がロワーパンチ100に設けられた穴部103に入り込むように駆動される。なお、第1プレス部111と第2プレス部112との段差はたとえば0.2mmである。また、第1プレス部111の先端角部の丸みは、第2プレス部112の先端角部の丸みよりも小さく、これにより第1デボス部51を輪郭がよりはっきりするように形成する。
【0045】
ロワーパンチ100の穴部103内面とアッパーパンチ110の第2プレス部112との間には板材11の面方向に沿ってクリアランス104が形成されており、これにより材料の流れ込み量を確保した上で、スプリングバックを抑え、形状剛性の高い成形を行うことができる。
【0046】
板材11を載置されたロワーパンチ100に対してアッパーパンチ110を下降させると、
図6に示すように、下側のパネル支持部101に対して第1プレス部111によって板材11が面状に押し下げられ、第1デボス部51が形成される。このように第1デボス部51を形成しながらさらにアッパーパンチ110を下降させると、
図7に示すように、第1プレス部111とパネルデボス支持部102との間における略中間位置で、第2プレス部112の外縁部が板材11に当接され、この板材11が線状に押し下げられることにより下方に凸状に屈曲し、第2デボス部52が形成される(
図8)。
【0047】
ちなみに、第2プレス部112がなく、第1プレス部111で第1デボス部51のみを成形したとすると、ロワーパンチ100の上面から第1プレス部111に至る板材11の傾斜が小さく、その両端部の屈曲部がスプリングバックにより戻ってしまい、所望の形状のフィンガーデボスを得ることができない。
【0048】
一方、第1デボス部51および各第2デボス部52を含むフィンガーデボス50全体を深さD1まで形成したとすると、屈曲部が小さくなりすぎてクラック等が生じやすい。本発明のようにフィンガーデボス50を接続面53の内側で略周方向に二段となるように成形することにより、スプリングバックを抑制し、かつ、クラックなどを生じることなく屈曲部を適切な形状に形成することができ、深く指掛かり性のよい第1デボス部51を有する開封性の良好な缶蓋10を実現できる。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0050】
第1デボス部の全体にわたって周囲に第2デボス部のように浅い部分が形成されていると、スプリングバックの抑制効果が高く、形状剛性の高い缶蓋が得られる。しかしながら、カウンターシンク近傍に浅い部分が形成されていると、耐圧性能の悪化を招くおそれがあるので、フィンガーデボスを形成するためのスペースに余裕のない小径の缶蓋においては、本発明のように第1デボス部のタブ長手方向には第2デボス部を形成せず、フィンガーデボスのタブ長手方向寸法を大きくしないことにより、耐圧性能を低下させずに開缶性を向上させることができる。