(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、軸SとタービンインペラTとで構成された過給機のタービン軸の概略図である。特に、
図1(a)は、軸SとタービンインペラTの側面図を示し、
図1(b)は、軸SとタービンインペラTの接合部分近傍のI(b)−I(b)線断面図を示す。
【0017】
図1(a)に示すように、軸Sの一端にはタービンインペラTが設けられ、他端にはネジ溝が切られている。軸SとタービンインペラTは、電子ビーム溶接などによって接合されているが、このとき、
図1(b)に示すように、軸SとタービンインペラTの接合部Jには、クラックなどの欠陥Cが生じる場合がある。
【0018】
本実施形態の欠陥検査装置は、このような軸SとタービンインペラTの溶接に起因する欠陥(クラック)を検出する。なお、本実施形態においては、被検査物が過給機のタービン軸である場合について説明するが、被検査物は、荷重を加えるとAE(Acoustic Emission)が発生する部品であれば、種類は問わず、溶接されることによって形成される物でなくともよい。
【0019】
図2は、欠陥検査装置1の概略図であって、欠陥検査装置1に被検査物をクランプ(固定)した状態を示す。
図2に示すように、欠陥検査装置1は、保持部2a、2b、2cを備えている。保持部2a、2b、2cは、例えばクランプなどの締め具で構成される。
【0020】
保持部2aは、軸Sの他端のネジ溝に螺合して、当該被検査物を保持する。保持部2aは、軸Sに溶接されたタービンインペラTに臨む側と逆側が荷重付加部3に固定されている。荷重付加部3は、例えば油圧シリンダで構成され、伸縮するロッド3aの先端が保持部2aに固定され、シリンダ本体が支持部材4に固定されている。
【0021】
支持部材4は、土台4aと、この土台4aの両端からそれぞれ垂直に起立し、互いに離間して対向配置された突起部4b、4cを有している。これら両突起部4b、4cの対向間隔は、被検査物である軸Sの軸方向の長さよりも大きく、また、突起部4bのうち、両突起部4b、4cが対向する面に上記の荷重付加部3が固定されている。
【0022】
一方、突起部4cのうち、両突起部4b、4cが対向する面には、支持棒4d、4eが固定されている。両支持棒4d、4eは、その軸心を両突起部4b、4cの対向方向に沿わせており、これら両支持棒4d、4eに上記の保持部2b、2cが固定されている。そして、保持部2b、2cは、タービンインペラTの軸S側の面に当接して、軸S側に向かうタービンインペラTの移動を抑止する。
【0023】
上記の構成によって、保持部2a、2b、2cは、被検査物を保持する。また、荷重付加部3は、ロッド3aを収縮する方向に油圧を作用させ、保持部2a、2b、2cが保持した被検査物に、軸Sの軸方向の引張荷重を付加する。
【0024】
AEセンサ5は、例えば圧電素子で構成され、保持部2bに固定され、荷重を付加された被検査物から伝播した振動(弾性波)を電気信号として検出する。
【0025】
AEセンサ5を保持部2bに固定する構成により、欠陥検査装置1は、AEセンサ5の取り付けが難しい形状の被検査物の検査も容易に行うことが可能となる。また、欠陥検査装置1は、被検査物ごとにAEセンサ5を着脱する必要がないことから、量産ラインなどにおいて検査時間を短縮でき、生産効率を向上できる。
【0026】
AEセンサ5にはプリアンプ6が接続されている。プリアンプ6は、AEセンサ5から出力された電気信号を増幅する。プリアンプ6によって増幅された電気信号は、AE計測装置7に出力される。AE計測装置7は、センサ出力部として機能し、プリアンプ6から出力された電気信号に所定の処理を施し、AEの検出頻度や強度などのデータに変換し解析装置8に出力する。
【0027】
解析装置8は、例えばパーソナルコンピュータで構成され、AE計測装置7から波形データを取得する。また、解析装置8は、後述する荷重制御部9から荷重付加部3が被検査物に付加した荷重を示す荷重データを取得する。そして、解析装置8は、当該データを解析して、被検査物の欠陥の有無を判定する。
【0028】
図3から
図6は、AEセンサ5による振動の検出結果の一例を示す説明図であり、縦軸は荷重付加部3が被検査物に付加する荷重の大きさを示し、横軸は経過時間を示す。ここでは、荷重付加部3が被検査物に付加する荷重の大きさの推移を実線で示し、AEセンサ5によってAEが検出された時間における荷重の大きさを、黒塗りの点でプロットしている。
【0029】
例えば、
図3に示すように、荷重付加部3が、時間経過と共に単純に荷重(本実施形態では引張荷重)を大きくし、このとき、AEセンサ5によって、図示の黒塗りの点で示すように予め定められた閾値以上の強度のAEが検出されたとする。この場合、AEセンサ5が検出したAEは、被検査物のクラックの拡大によって発生したAEである場合と、被検査物と保持部2a、2b、2cのなじみ、特には、タービンインペラTと保持部2b、2cとのなじみに起因する雑音である場合の、いずれの可能性もある。ここで、なじみは、物体(固体)間の接触部分における不均一な接触圧力分布が均一化されていく現象である。
【0030】
したがって、
図3に示すように、被検査物に付加する荷重を単純に大きくしていくだけでは、AEセンサ5による振動の検出結果から、被検査物の欠陥の有無を高精度に判定するのが難しい場合があった。
【0031】
本実施形態の荷重制御部9は、荷重付加部3に付加する荷重を次のように制御し、上述の雑音の影響を回避する。以下、当該荷重制御部9の制御に応じ、荷重付加部3が被検査物に付加する荷重の推移(荷重履歴)について、2つのパターンを例に挙げて説明する。
【0032】
(第1パターン)
図4(a)、(b)に示すように、荷重制御部9は、被検査物に付加する荷重を第1荷重P1まで上昇させた後、第1荷重P1より小さい第2荷重P2まで低下させ、さらに第2荷重P2より大きい第3荷重P3まで上昇させるように、荷重付加部3を制御する。このとき、第2荷重P2は、荷重付加部3が被検査物に付加する荷重を第1荷重P1まで上昇させる期間(
図4(a)、(b)に示す期間T1)の開始時の荷重(例えば、0kgw)よりも大きい。ここでは、第3荷重P3は、第1荷重P1と等しい。本実施形態では、このような荷重履歴を第1パターンと称する。
【0033】
AE計測装置7は、少なくとも、一旦、第1荷重P1から第2荷重P2まで荷重が減少した後、第2荷重P2から第3荷重P3まで荷重が上昇されるとき(
図4(a)、(b)に示す期間T2)に、AEセンサ5が検出したAEに基づく電気信号を、解析装置8に出力する。
【0034】
図4(a)に示す例では、期間T2において振動は検出されなかったため、解析装置8は、被検査物に欠陥はないと判定する。また、
図4(b)に示す例では、期間T2において振動が検出されたため、解析装置8は、被検査物に欠陥があると判定する。
【0035】
図3に示して説明したように、期間T1において、AEセンサ5が検出した振動は、AEか雑音かを判別することが難しい。本実施形態の欠陥検査装置1では、被検査物に付加する荷重を、一旦、第1荷重P1まで上昇させ、保持部2a、2b、2cと被検査物の接触部分をなじませる。
【0036】
このとき、保持部2a、2b、2cと被検査物の接触部分のなじみが完了しているとは限らず、第1荷重P1より大きな荷重を付加されると、なじみに起因する雑音が生じる可能性がある。しかし、第1荷重P1以下の荷重を再度付加されても、なじみは進展しない。
【0037】
そのため、第3荷重P3まで荷重を上昇させる間の期間T2においては、なじみに起因する雑音が生じず、欠陥検査装置1は、雑音の影響を避け、高精度に欠陥を検出することができる。
【0038】
また、第3荷重P3が、第1荷重P1と等しいため、期間T2においては、カイザー効果が常に生じ得る。ここで、カイザー効果は、一度応力を与えられた物が、一旦除荷した後、再度同じ向きの応力を与えられても、除荷される前の最大応力を超えるまで、AEが発生しないことをいう。ただし、欠陥の大きさや密度が大きすぎるとカイザー効果は成立しない。
【0039】
すなわち、期間T2においてAEが検出された場合、被検査物には、カイザー効果が成立しないほどの欠陥が含まれると判定できる。このように、第1パターンの荷重履歴を用いた場合、欠陥検査装置1は、カイザー効果が成立しないほどの欠陥を、高精度に検出できる。
【0040】
また、第1パターンにおいて、第1荷重P1(第3荷重P3)は、例えば、予め統計的に決定されている。
【0041】
具体的に、第1荷重P1として複数の異なる荷重を設定し、それぞれの設定荷重において、欠陥検査装置1は、当該被検査物と同じ種類の対象物の欠陥の有無を、複数個分、検査して欠陥の有無を判定する。そして、欠陥が無いと判定された対象物に対し、さらに耐荷重性のテストなどを行い、第1荷重P1の設定荷重ごとに、対象物の破損率を導出する。そして、破損率が許容値内に収まるもののうち、最も荷重が小さいものを、第1パターンにおける第1荷重P1として採用する。
【0042】
(第2パターン)
続いて、第2パターンにおける荷重制御部9の制御処理について説明する。第2パターンは、保持部2a、2b、2cと被検査物の接触部分が十分になじむ荷重が特定され、カイザー効果が成立するような欠陥まで検出するときに好適に用いられる。第1パターンでは第3荷重P3を、第1荷重P1と等しい値に設定したが、第2パターンにおいては、
図5(a)〜(c)に示すように、第3荷重P3を、第1荷重P1よりも大きい値に設定する。
【0043】
第2パターンでは、第1荷重P1は、上記の被検査物と保持部2a、2b、2cが十分になじむ荷重として予め経験的に決定される。被検査物に第1荷重P1より大きな荷重が付加されても、被検査物と保持部2a、2b、2cのなじみは完了しているため進展しない。
【0044】
第3荷重P3は、第1パターンと同様、例えば、予め統計的に決定される。具体的に、
図6に示すように、欠陥検査装置1に対象物を設置した状態で、荷重制御部9は、荷重付加部3に、第1荷重P1まで荷重を上昇させた後、第1荷重P1より小さい第2荷重P2まで荷重を低下させる。そして、再び、荷重を上昇させた後、初めにAEセンサ5がAEを検出した時点の荷重P
AEを測定する。
【0045】
複数の対象物について、荷重P
AEを測定した後、測定後の対象物に対し耐荷重性のテストなどを行い、荷重P
AEごとに対象物の破損率を導出する。そして、破損率が許容値内に収まるもののうち、最も小さい荷重P
AEを、第2パターンにおける第3荷重P3として採用する。
【0046】
荷重制御部9は、このように決定された第1荷重P1および第3荷重P3を用い、
図5(a)〜(c)に示すように、被検査物に付加する荷重を、第1荷重P1まで上昇させた後、第1荷重P1より小さい第2荷重P2まで低下させ、さらに第2荷重P2および第1荷重P1より大きい第3荷重P3まで上昇させるように、荷重付加部3を制御する。
【0047】
図5(a)に示す例では、期間T2において振動は検出されなかったため、解析装置8は、被検査物に欠陥はないと判定する。また、
図5(b)に示す例では、期間T2において、第1荷重P1より大きい荷重を付加している最中に振動が検出されている。期間T2では、保持部2a、2b、2cと被検査物の接触部分は既になじんでいるため、検出された振動はAEであり、解析装置8は、被検査物に欠陥があると判定する。
【0048】
図5(c)に示す例では、期間T2において、第1荷重P1以下の荷重を付加している最中にAEが検出されている。第1荷重P1以下の荷重においてはカイザー効果が生じるはずであるが、
図4(b)に示す第1パターンの例と同様、カイザー効果が成立しないほどの欠陥があると考えられ、解析装置8は、被検査物に欠陥があると判定する。
【0049】
このように、第2パターンの荷重履歴を用いた場合、欠陥検査装置1は、カイザー効果が成立しないほどの欠陥を高精度に検出できると共に、カイザー効果が成立するような欠陥についても、第1荷重P1から第3荷重P3まで荷重を上昇させる最中にAEを検出して、欠陥の有無を判定できる。
【0050】
(検査方法)
続いて、欠陥検査装置1を用いた被検査物の欠陥の検査方法について説明する。
図7は、本実施形態の検査方法を説明するためのフローチャートである。
【0051】
図7に示すように、初めに、保持部2a、2b、2cに被検査物を保持させる(S100)。そして、荷重制御部9は、荷重付加部3に、被検査物に対して初期荷重から第1荷重P1まで線形的に荷重を上昇させる(S102)。そして、荷重制御部9は、荷重付加部3に、第1荷重P1より小さい第2荷重P2まで線形的に被検査物に対する荷重を除荷(低下)させ(S104)、さらに第2荷重P2より大きい第3荷重P3まで線形的に荷重を上昇させる(S106)。ここで、第1パターンであれば、第3荷重P3は、第1荷重P1と等しく、第2パターンであれば、第3荷重P3は、第1荷重P1よりも大きい。
【0052】
そして、第2荷重P2から第3荷重P3まで荷重が上昇される期間T2において、AEセンサ5がAEを電気信号として検出している場合(S108におけるYES)、解析装置8は、カイザー効果が生じている場合も生じていない場合も含めて、当該被検査物に欠陥があると判定する(S110)。AEセンサ5がAEを電気信号として検出していない場合(S108におけるNO)、解析装置8は、当該被検査物に欠陥がないと判定する(S112)。
【0053】
かかる検査方法によれば、被検査物と接触する部分のなじみに起因する雑音の影響を低減し、高精度に被検査物の欠陥を検出することができる。
【0054】
図8は、他の欠陥検査装置1a、1bの概略図である。特に、
図8(a)は、欠陥検査装置1aを示し、
図8(b)は、欠陥検査装置1bを示す。
【0055】
欠陥検査装置1は、被検査物に対して、引張荷重を付加していた。しかし、欠陥検査装置1aは、
図8(a)に示すように、圧縮荷重を付加する。欠陥検査装置1aにおいては、被検査物を圧縮するため、欠陥検査装置1の保持部2a、2b、2cのような締め具は不要となり、支持部材4の突起部4cと荷重付加部3である油圧シリンダのロッド3aが、被検査物を挟持(保持)する保持部として機能する。AEセンサ5は、突起部4cに固定されている。
【0056】
また、欠陥検査装置1bは、
図8(b)に示すように、ねじり荷重を付加する。欠陥検査装置1bにおいては、ねじり荷重を付加するため、保持部12b、12cは、タービンインペラTの回転方向の移動を抑止する。そして、荷重付加部13は、ギヤを内臓したモータなどで構成され、荷重制御部9の制御に応じ、モータシャフト13aに固定された保持部12aを介して、軸Sに回転トルクを伝達する。
【0057】
このように、被検査物の形状や、欠陥の有無を確認する対象部分の位置、欠陥の向きなどに応じて、圧縮荷重やねじり荷重を付加して、欠陥の検査を行ってもよい。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
上述した実施形態では、欠陥検査装置1がAEセンサ5を一つ備える場合について説明したが、AEセンサ5は複数あってもよい。この場合、欠陥検査装置は、複数のAEセンサ5の出力の差を分析することで、欠陥のおおよその位置まで特定することができる。
【0060】
また、上述した実施形態ではAEセンサ5を保持部2bに固定する場合について説明したが、AEセンサを固定する位置は、保持部2bに限らず、保持部2a、2cであってもよいし、被検査物であってもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では第3荷重P3が第1荷重P1と等しい、または第1荷重P1より大きい場合について説明したが、第3荷重P3は第1荷重P1より小さくともよい。
【0062】
また、欠陥の判定基準として、検出されたAEの頻度(検出回数)を考慮してもよい。例えば、予め統計的に検出回数の閾値を決めておき、第2荷重P2から第3荷重P3まで荷重が上昇される期間T2において、この閾値以下の検出回数であった場合は、欠陥があるものの製品品質上問題がないと判断してもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では初期値から第1荷重Pまでと、第2荷重P2から第3荷重P3まで、2回しか荷重を付加していないが、同様の荷重履歴(荷重の付加と除荷)をさらに複数回繰り返してもよい。
【0064】
なお、本明細書の検査方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。