特許第5865110号(P5865110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865110
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】メタン酸化触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/13 20060101AFI20160204BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   B01J27/13 AZAB
   B01D53/86 280
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-33182(P2012-33182)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-169480(P2013-169480A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/040152(WO,A1)
【文献】 特開2007−090331(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0013591(US,A1)
【文献】 特開2001−070795(JP,A)
【文献】 特開2001−300320(JP,A)
【文献】 特開平06−154602(JP,A)
【文献】 米国特許第04156640(US,A)
【文献】 特開2008−246473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体に、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒(但し、前記酸化ジルコニウム担体に、イリジウム、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒を除く)
【請求項2】
前記酸化ジルコニウム担体に対する前記塩素の担持量が0.02〜0.2質量%である請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒の製造方法であって、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液(但し、イリジウム、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液を除く)に、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体を含浸する含浸工程を備えた触媒の製造方法。
【請求項4】
前記溶液が、遊離塩素イオンを生成する塩酸を含有する請求項3に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記溶液が、塩化白金酸を含有する請求項3または4に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記溶液が、塩化ルテニウムを含有する請求項3〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる前記遊離塩素イオンの割合を0.2〜1.1質量%とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる全塩素の割合を2.5〜6質量%とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の炭化水素の酸化除去用触媒として、白金、パラジウムなどの白金族金属を担持した触媒が高い性能を示すことが知られており、例えば、アルミナ担体に白金とパラジウムとを担持した排ガス浄化用触媒が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような触媒を用いても、メタン発酵ガスや天然ガスの燃焼排ガスのように、排ガス中の炭化水素の主成分がメタンである場合には、メタンが高い化学的安定性を有するために、十分なメタン除去率が達成されないという問題がある。
さらに、燃焼排ガスには、燃料中に含まれている硫黄化合物に由来する硫黄酸化物などの反応阻害物質が必然的に含まれているので、触媒表面に対する反応阻害物質の析出により、触媒活性が経時的に著しく低下することは避けがたい。
【0003】
例えば、ランパートら(Lampert et al.)は、パラジウム触媒を用いてメタン酸化を行った場合に、わずかに0.1ppmの二酸化硫黄が存在するだけで、数時間内にその触媒活性がほとんど失われることを示して、硫黄酸化物の存在が触媒活性に著しい悪影響を与えることを明らかにしている(非特許文献1参照)。
【0004】
さらに、酸素過剰な排ガスに含まれる低濃度炭化水素の酸化用触媒として、ハニカム基材上にアルミナ担体を介して7g/L(ここで、「L」はリットルを示す、以下同じ)以上のパラジウムおよび3〜20g/Lの白金を担持した触媒も開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、この触媒を用いても、長期にわたる耐久性は十分ではなく、活性の経時的な劣化が避けられない。
【0005】
このように従来技術の大きな問題点は、メタンに対して高い除去率が得られないこと、さらに硫黄酸化物が共存する条件では除去率が大きく低下することである。
このような実状に鑑みて、ジルコニア担体にパラジウムまたはパラジウムと白金とを担持させた触媒が、硫黄酸化物共存下でも高いメタン酸化活性を維持し続けることが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、この触媒は、特に約400℃以下の低温域でのメタン酸化活性が低いため、低温で十分な性能を確保するには多量の触媒を必要とする。
【0006】
メタンを含有し酸素を過剰に含む燃焼排ガス中の炭化水素の浄化用触媒であって、酸化ジルコニウムに、白金、パラジウム、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1種及びイリジウムを担持してなり、比表面積が2〜60m2/gである触媒が硫黄酸化物共存下で、400℃程度という低い温度であっても高いメタン酸化活性を維持し続けることも開示されている(特許文献4参照)。しかし、この触媒は、非常に希少な貴金属であるイリジウムを必須とする点が実用上の課題となる。
【0007】
この点に鑑み、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体に白金およびルテニウムを担持してなる触媒(特許文献5)が、イリジウムを用いることなく、低い温度であっても高いメタン酸化活性を維持し続ける触媒として開発されているが、さらに高活性な触媒が求められている。
【0008】
一方、クエン酸を使用する特定の方法により、活性アルミナなどの無機質担体に白金およびロジウムの少なくとも1種とイリジウムおよびルテニウムの少なくとも1種とを併せて担持させた排気ガス浄化用触媒を製造する方法は公知である(特許文献6参照)。この公報によれば、イリジウムおよび/またはルテニウムが、白金および/またはロジウムと融点の高い固溶体を形成するので、得られた触媒の耐熱性が向上するとされている。しかしながら、この公報には、得られた触媒のNOx転化率が改善されたことが開示されているのみで、排気ガスに含まれる炭化水素の中でも特に難分解性のメタンの酸化分解については、一切教示されていない。
【0009】
担持金属触媒の活性は、用いる金属化合物や担持の際に共存するイオンにより影響を受けることが知られている。一般には、Cl(塩素イオン)やS(硫酸イオン)は触媒毒として作用すると考えられているため、触媒の調製過程、具体的には焼成工程で容易に除去され、触媒活性への影響も小さいと考えられる硝酸塩が用いられることが多い。ハロゲンが少量共存する条件で調製した方が高活性な触媒が得られるとする文献も存在する(特許文献7)が、微量の塩素でも活性が大きく阻害されるという文献(特許文献8)もある。これらは、いずれも窒素酸化物浄化用触媒の例であるが、少なくともメタン酸化用触媒においては、塩素イオンの共存は活性を大きく阻害することが示されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭51−106691号公報
【特許文献2】特開平8−332392号公報
【特許文献3】特開平11−319559号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2002/040152
【特許文献5】特開2007−90331号公報
【特許文献6】特開平3−98644号公報
【特許文献7】特開2002−346339号公報
【特許文献8】特開2000−15099号公報
【非特許文献1】アプライドキャタリシスB:エンバイロンメンタル(Applied Catalysis B: Environmental)、第14巻、1997年、p.211−223
【非特許文献2】アプライドキャタリシスA:ジェネラル(Applied Catalysis A: General)、第203巻、2000年、p.37−45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記種々の問題を解決するためになされたものであり、硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンの酸化除去にあたり、低い温度でも高いメタン分解能を発揮する触媒およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明に係る触媒の特徴構成は、
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体に、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる(但し、前記酸化ジルコニウム担体に、イリジウム、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒を除く)点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、
酸化ジルコニウム担体に、白金およびルテニウムが担持されているので、硫黄酸化物および過剰な酸素を含む排ガス中において、低い温度でもメタンを分解することができる。また、酸化ジルコニウム担体に、塩素が担持されているので、高活性な触媒が得られ、高いメタン転化率を得ることができる。
【0014】
本発明による触媒は、担体としての酸化ジルコニウムに触媒活性成分としてのルテニウムおよび白金を担持しているから、硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンの酸化除去能を有する。
【0015】
そして、担体である酸化ジルコニウムの表面積は、低すぎる場合には、触媒活性成分を高分散に保つことができなくなる。一方、表面積が高すぎる場合には、酸化ジルコニウムの熱安定性が十分でなく、触媒の使用中に酸化ジルコニウム自体の焼結が進行するおそれがある。
酸化ジルコニウムの比表面積(本明細書中においては、BET法による比表面積を言う)は、通常2〜60m2/g程度であり、5〜30m2/g程度であることがより好ましい。
酸化ジルコニウムの結晶形は単斜晶であり、質量基準で10%以下の正方晶および立方晶の酸化ジルコニウムを含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。
【0016】
このような酸化ジルコニウムは、市販の触媒担体用酸化ジルコニウム或いは水酸化ジルコニウムを空気などの酸化雰囲気下において550℃〜1000℃、より好ましくは600℃〜800℃程度で焼成するなどの方法により調製することができる。
酸化ジルコニウム担体には、コージェライト等の支持体への付着性や焼結性の改善のため、アルミナ、シリカなど酸化ジルコニウム以外の微量の成分を含んでいても良いが、これらの成分は質量基準で2%を超えないことが望ましい。
酸化ジルコニウムに対する触媒活性成分の担持量は、少なすぎる場合には触媒活性が低くなるのに対し、多すぎる場合には粒径が大きくなって、担持された触媒活性成分が有効に利用されなくなる。
【0017】
また、酸化ジルコニウムに対して、触媒活性成分としてのルテニウムおよび白金を担持している。ルテニウムおよび白金は、例えば、ルテニウムイオンおよび白金イオンを含む溶液を担体としての酸化ジルコニウムに含浸させ、乾燥して焼成することにより得られ、ルテニウムおよび白金は、金属酸化物として前記担体に付着あるいは結合した形態として担持されるが、少なくとも一部が金属塩あるいは金属粒子として担持される形態を含むものとする。ここで、ルテニウムの担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で通常0.5〜20%程度であり、より好ましくは1〜5%程度である。白金の担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で通常0.1〜5%程度であり、より好ましくは1〜3%程度である。また、白金の担持量は、ルテニウムに対する質量比で、10〜200%程度とすることが好ましく、50〜150%程度とすることがより好ましい。
【0018】
また、本願においては、担体としての酸化ジルコニウムに対して塩素を担持する。塩素が担持されている形態は明らかではなく、前記担体あるいは前記触媒活性成分に対して塩素イオンあるいは塩化水素として、付着あるいは結合していると考えられる。理論に拘泥されるものではないが、この塩素が、前記触媒活性成分の粒子の凝集を抑制し、微粒子化した状態で高分散に担持させることを可能にしているものと予想される。したがって、触媒活性成分による高いメタン酸化活性が発現し、低温でも高い活性を発揮しうるメタン酸化触媒となっているものと考えられる。また、塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではない。また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないが、後述の実施例によれば、少なくとも塩素を含有してなる触媒では、塩素を含有しない触媒と比較して高いが得られることは明らかであった。また、本願のメタン酸化触媒は塩素の担持によって、従来から想定されていた塩素被毒の影響を凌駕して触媒活性成分の高い活性を引き出しているものと言える。なお、塩素の担持量は、蛍光X線分析によって測定される触媒中の残存塩素濃度として規定することができる。
【0019】
〔構成2〕
本発明に係る触媒は、上記構成において、
前記酸化ジルコニウム担体に対する前記塩素の担持量が0.02〜0.2質量%であることが好ましい。
【0020】
前述のように、塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではなく、また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないことが予想されるが、後述の実施の形態によると、酸化ジルコニウム担体に対する塩素の担持量が0.02〜0.2質量%である場合に、特に、塩素が担持されていないメタン酸化触媒に比べて高い活性を発揮するメタン酸化触媒が得られていることが分かる。
【0021】
なお、上記担持量については、少なすぎると十分な添加効果が得られないと考えられることから0.02質量%以上とし、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、0.2質量%以下としている。
【0022】
本発明の触媒は、ペレット状やハニカム状など任意の形状に成型して用いても良く、耐火性ハニカム上にウオッシュコートしたりして用いてもよいが、好ましくは、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いられる。
耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製した触媒をスラリー状にしてウオッシュコートしても良く、或いはあらかじめ酸化ジルコニウムを耐火性ハニカム上にウオッシュコートした後、上記の含浸手法にしたがって活性成分を担持してもよい。
いずれの場合にも、必要に応じて、バインダーを添加することができる。
【0023】
本発明の方法が処理対象とするのは、メタンおよび硫黄酸化物を含む排ガスであり、通常メタンを含有するとともに、酸素を過剰に含有する排ガスである。本明細書においては、「酸素を過剰に含む」とは、本発明による触媒に接触させる被処理ガス(排ガス)が、そこに含まれる炭化水素、一酸化炭素などの還元性成分を完全酸化するに必要な量以上に、酸素、窒素酸化物などの酸化性成分を含んでいることを意味する。排ガス中には、メタンの他に、エタン、プロパンなどの低級炭化水素や一酸化炭素、含酸素化合物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。本発明によると、これらは、メタンに比して易分解性なので、メタンと同時に容易に酸化除去できる。
排ガス中の可燃性成分の濃度は、特に制限されないが、高すぎる場合には触媒層で極端な温度上昇が生じ、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、メタン換算で約5000ppm以下とするのが好ましい。
本発明の触媒に所定の条件において排ガスを接触させることにより、排ガス中のメタンを酸化除去することができる。
触媒使用量が、少なすぎる場合には、有効な浄化率が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で200,000h-1以下となる量を使用することが好ましい。一方、ガス時間当たり空間速度(GHSV)を低くするほど触媒量が多くなるので、浄化率は向上するが、GHSVが低すぎる場合には、経済的に不利であり、また触媒層での圧力損失が大きくなる。従って、GHSVの下限は、約1000h-1程度とすることが好ましく、約5000h-1程度とすることがより好ましい。
被処理ガスである排ガス中の酸素濃度は、酸素を過剰に含む限り特に制限されないが、体積基準として約2%以上(より好ましくは約5%以上)であって且つ炭化水素などからなる還元性成分の酸化当量の約5倍以上(より好ましくは約10倍以上)の酸素が存在することが好ましい。
排ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するおそれがあるので、予め所要の量の空気、酸素過剰の排ガスなどを混ぜてもよい。
【0024】
本発明による排ガス中のメタンの酸化除去触媒は、高い活性を有するが、排ガス処理温度が低すぎる場合には、活性が下がり、所望のメタン転化率が得られない。一方、処理温度が高すぎる場合には、触媒の耐久性が悪化するおそれがある。触媒層温度は、通常300〜500℃程度であり、好ましくは375〜450℃程度である。
また、被処理ガス中の炭化水素の濃度が著しく高いときには、触媒層で急激な反応が起こって、触媒の耐久性に悪影響を及ぼすので、触媒層での温度上昇が、通常約150℃以下、好ましくは約100℃以下となる条件で用いるのが好ましい。
燃焼排ガス中には、通常5〜15%程度の水蒸気が含まれているが、本発明によれば、このように水蒸気を含む排ガスに対しても、有効なメタン転化率が達成される。
また、排ガス中には、水蒸気の他に触媒活性を著しく低下させることが知られている少量の硫黄酸化物が通常含まれるが、本発明の触媒は、硫黄成分による活性低下に対して特に高い抵抗性を示すので、体積基準で0.1〜30ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。
【0025】
〔構成3〕
上記目的を達成するための本発明に係る触媒の製造方法の特徴構成は、
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒の製造方法であって、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液(但し、イリジウム、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液を除く)に、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体を含浸する含浸工程を備えた点にある。
【0026】
上記含浸工程により、溶液中に溶解している白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンが、酸化ジルコニウム担体に含浸されるので、白金、ルテニウムおよび塩素を酸化ジルコニウム担体に高分散状態で含浸することができる。
【0027】
ここで、白金、ルテニウムは、塩として溶液中に溶解するものであってもよく、さらに、白金イオンやルテニウムイオンを生じるものであっても、電離せずに塩として溶解しているものであってもよく、コロイド溶液のように微粒子として分散しているものであってもよい。つまり、全体として均一性が保たれうる液体状態のものを、溶液とよび、その中に含まれる形態を問わず、白金、ルテニウム元素が溶液中に存在する状態を含有する。
【0028】
ここで、遊離塩素イオンは、溶液中にCl-として存在する塩素を指し、金属イオンに強く配位して溶液中に存在する塩素と区別して考えるものとする。
含浸工程を経て担体としての酸化ジルコニウムに担持された白金およびルテニウムは、溶媒の除去に伴い、金属酸化物として前記担体に付着あるいは結合した形態として担持される。なお、少なくとも一部が金属塩あるいは金属粒子として担持される形態を含むものとする。また、遊離塩素イオンは、どのような機構で担持されるのか不明であるが、遊離塩素イオンが、前記溶液中の溶媒が蒸発する過程で、通常塩化水素ガスなどの塩素化合物として揮発するところ、一部の塩化水素ガスなどの塩素化合物等が、担体あるいは触媒活性成分に付着あるいは結合した状態で残留した形態で担持されるものと考えることができる。塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではない。また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないが、後述の実施例によれば、少なくとも塩素を含有してなる触媒では、塩素を含有しない触媒と比較して高いが得られることは明らかであった。
【0029】
本発明の触媒は、例えば、ルテニウムイオン、白金イオンと遊離塩素イオンを含む溶液に担体としての酸化ジルコニウムを含浸する含浸工程を行い、その後、乾燥、焼成することにより得られ、含浸されたルテニウム、白金と塩素を担体に担持させるために溶液中の溶媒を除去する乾燥、焼成等の工程は、種々公知の手法にしたがって行うことができる。
【0030】
含浸工程は、塩化物などの水溶性化合物を純水に溶解することにより調製した水溶液を用いて行えば良く、必要に応じてエタノールなどの有機溶媒を添加しても良い。
ルテニウム化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、トリニトラトニトロシルルテニウムが使用できる。白金化合物としては、塩化白金酸、テトラアンミン白金硝酸塩、ジニトロジアンミン白金などが例示される。なお、溶解度が低く、純水に溶解して所望の濃度が得られない場合は、溶解性を高めるために、希塩酸を添加しても良い。
ルテニウムおよび白金共に塩素を含まない化合物を用いて希塩酸を添加してもよいが、ルテニウムまたは白金の少なくとも一方は遊離塩素イオンを生成し得る化合物を用いるのが好ましく、塩化ルテニウムおよび塩化白金酸を用いるのがより好ましく、さらに少量の希塩酸を添加しても良い。
なお、遊離塩素イオンの添加には塩酸(塩化水素)を用いるのがより好ましく、他に塩化アンモニウム等が考えられる。塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなど、焼成過程で除去できない陽イオンが残存する化合物は塩酸に比べあまり好ましくない。
含浸工程において、金属化合物の種類によっては、混合により沈殿を生じることがある。この様な場合には、酸化ジルコニウム担体に対し、順次異なる金属を担持させても良い。例えば、担体に第一の活性成分を担持し、必要ならば、乾燥した後或いは乾燥および仮焼した後、第二の活性成分の担持操作を行うことができる。この場合は、いずれの金属を担持する場合にも遊離塩素イオンが共存していることが好ましい。
含浸時間は、所定の担持量が確保される限り、特に制限されないが、通常1〜50時間程度、好ましくは3〜20時間程度である。
【0031】
次いで、所定の金属成分を担持させた酸化ジルコニウムを、必要に応じて蒸発乾固または乾燥させた後、焼成することにより、触媒活性成分が担体に担持された状態となる。
焼成は、空気の流通下に行えばよい。或いは、空気あるいは酸素と窒素などの不活性ガスとを適宜混合したガスなどの酸化性ガス流通下において行っても良い。
焼成温度は、高すぎる場合には、担持された金属の粒成長が進んで高い活性が得られない。逆に低すぎる場合には、焼成が十分に行われないので、触媒の使用中に担持された金属粒子が粗大化して、安定した活性が得られないおそれがある。従って、安定して高い触媒活性を得るためには、焼成温度は、450〜650℃程度とすることが好ましく、約500〜600℃程度とすることがより好ましい。
焼成時間は、特に制限されないが、通常1〜50時間程度であり、好ましくは3〜20時間程度である。
【0032】
〔構成4〕
上記構成において、
前記溶液が、遊離塩素イオンを生成する塩酸を含有してもよい。
【0033】
上記構成によれば、溶液中に塩酸を含有させることで、塩酸が溶液中で電離して遊離塩素イオンを生成し、前記溶液中の遊離塩素イオンを十分量供給することができる。そのため、この溶液によって、酸化ジルコニウム担体に、遊離塩素イオンを分散した状態で供給できるとともに、塩酸に由来する塩素をより確実に担体あるいは触媒活性成分の表面に保持させておくことができる。
【0034】
〔構成5〕
また、前記溶液が、塩化白金酸を含有してもよい。
【0035】
上記特徴構成によれば、塩化白金酸由来の塩素が担体に担持されることも考えられ、より確実に担体に塩素を担持させるのに寄与すると考えられる。
【0036】
〔構成6〕
また、前記溶液が、塩化ルテニウムを含有してもよい。
【0037】
上記特徴構成によれば、溶液中に塩化白金酸を含有させる場合と同様に、塩化ルテニウム由来の塩素が担体に担持されることも考えられ、より確実に担体に塩素を担持させるのに寄与すると考えられる。
【0038】
〔構成7〕
また、前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる前記遊離塩素イオンの割合を0.2〜1.1質量%とすることが好ましい。
【0039】
上記溶液中の遊離塩素イオンは、上記溶液の全量が担体に含浸されるに伴って遊離塩素イオンの全部が担体に一旦含浸されるが、含浸工程後に、担体に含浸された溶液中の溶媒を除去するために乾燥または焼成を行なうに伴って、溶液中の遊離塩素イオンの一部が塩化水素などとなって担体から離脱する。一方、担体に残留した塩素が、担体に担持された塩素となる。そのため、上記溶液中の遊離塩素イオン濃度は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して0.2質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、1.1質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
〔構成8〕
また、前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる全塩素の割合を2.5〜6質量%とすることが好ましい。
【0041】
前述のように遊離塩素イオンに変化しうる全塩素が、酸化ジルコニウム担体に担持される塩素源となり得る。そのため、前記溶液中に金属塩等として含まれる塩素も含めた全塩素濃度によって前記酸化ジルコニウム担体に担持される塩素量が影響を受けるものと考えられる。従って、上記溶液中の全塩素量は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して2.5質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、6質量%以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明の触媒および本発明の触媒の製造方法により得られる触媒は、水蒸気や硫黄酸化物による活性阻害に対して非常に優れた抵抗性を示すので、燃焼排ガスの様に水蒸気を大量に含み、かつ硫黄酸化物を含む排ガスにおいても、高いメタン酸化活性を発揮する。
また、本発明の触媒は、比較的廉価なルテニウムを主たる触媒活性成分としているので、高価な貴金属の使用量を低減でき、経済性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、燃焼排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒およびこの触媒の製造方法を提供するものである。以下に、本発明の触媒、触媒の製造方法、触媒活性評価の順に説明する。
【0044】
〔触媒〕
本発明に係る触媒について詳細に説明する。本発明による触媒は、担体としての酸化ジルコニウム(以下、酸化ジルコニウム担体と呼ぶ)に触媒活性成分としてのルテニウムおよび白金を担持しているとともに、塩素を担持している(但し、前記酸化ジルコニウム担体に、イリジウム、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒を除く)。この触媒は担体の外表面から内表面にわたって高分散でルテニウムおよび白金を金属状態で担持しており、かつ、蛍光X線分析で測定した残留塩素成分を塩素として担持している。
【0045】
酸化ジルコニウム担体の表面積は、低すぎる場合には、触媒活性成分を高分散に保つことができなくなる。一方、表面積が高すぎる場合には、酸化ジルコニウム担体の熱安定性が十分でなく、触媒の使用中に酸化ジルコニウム担体の焼結が進行するおそれがある。
従って、酸化ジルコニウム担体の比表面積(本明細書中においては、BET法による比表面積を言う)は、通常2〜60m2/g程度であり、5〜30m2/g程度であることがより好ましい。
【0046】
また、担体を構成する酸化ジルコニウムの結晶形は単斜晶であり、質量基準で10%以下の正方晶および立方晶の酸化ジルコニウムを含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。
【0047】
このような酸化ジルコニウムは、市販の触媒担体用酸化ジルコニウムあるいは水酸化ジルコニウムを空気などの酸化雰囲気下において550〜1000℃、より好ましくは600〜800℃程度で焼成するなどの方法により調製することができる。
また、酸化ジルコニウム担体には、コージェライト等の支持体への付着性や焼結性の改善のため、アルミナ、シリカなど酸化ジルコニウム以外の微量の成分を含んでいても良いが、これらの成分は質量基準で2%を超えないことが望ましい。
酸化ジルコニウム担体に対する触媒活性成分の担持量は、少なすぎる場合には触媒活性が低くなるのに対し、多すぎる場合には凝集して粒径が大きくなって、担持された触媒活性成分が有効に利用されなくなる。
【0048】
ルテニウムの担持量は、酸化ジルコニウム担体に対する質量比で通常0.5〜20%程度であり、より好ましくは1〜5%程度である。白金の担持量は、酸化ジルコニウム担体に対する質量比で通常0.1〜5%程度であり、より好ましくは1〜3%程度である。また、白金の担持量は、ルテニウムに対する質量比で、10〜200%程度とすることが好ましく、50〜150%程度とすることがより好ましい。
【0049】
また、酸化ジルコニウム担体に対する塩素の担持量は0.02〜0.2質量%であることが好ましい。より好ましくは0.06〜0.16質量%である。
【0050】
〔触媒の製造方法〕
次に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒の製造方法は、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液(但し、イリジウム、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液を除く)に、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体を含浸する含浸工程を備える。この含浸工程を経ることにより白金、ルテニウムおよび塩素が担体に担持される。
前記溶液としては、例えば、ルテニウムイオン、白金イオンおよび遊離塩素イオンを含む溶液を用いることができる。含浸工程を行った後、さらに、前記担体を乾燥し、焼成することにより触媒を得ることができる。
含浸工程は、例えば、ルテニウムまたは白金の塩化物などの水溶性化合物を純水に溶解することにより調製した水溶液(以下、含浸溶液と呼ぶ)を用いて行えば良く、必要に応じてエタノールなどの有機溶媒を添加しても良い。
【0051】
含浸溶液について説明する。含浸溶液に含まれるルテニウム化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、トリニトラトニトロシルルテニウムが使用できる。また、含浸溶液に含まれる白金化合物としては、塩化白金酸、テトラアンミン白金硝酸塩、ジニトロジアンミン白金などが例示される。なお、溶解度が低く、純水に溶解して所望の遊離塩素イオン濃度が得られない場合は、溶解性を高めるために、希塩酸を添加しても良い。
【0052】
また、含浸溶液は、ルテニウムおよび白金ともに塩素を含まない化合物を用い、希塩酸を添加することにより遊離塩素イオンを含有してもよいが、ルテニウムまたは白金の少なくとも一方は遊離塩素イオンを生成し得る化合物を用いるのが好ましい。そして、塩化ルテニウムおよび塩化白金酸を用いるのがより好ましく、さらに少量の希塩酸を添加しても良い。
【0053】
例えば、含浸溶液中に塩化白金酸を含有させることで、含浸溶液中に塩化白金酸に由来する白金イオンを分散した状態で生成することができ、この含浸溶液によって、酸化ジルコニウム担体に、塩化白金酸に由来する白金を高分散状態で含浸担持することができる。
また、含浸溶液中に塩化ルテニウムを含有させることで、塩化白金酸の場合と同様に、塩化ルテニウムに由来するルテニウムを高分散状態で含浸担持することができる。
そして、含浸溶液中に塩酸を含有させることで、含浸溶液中に塩酸から発生する遊離塩素イオンを分散した状態で生成することができ、この含浸溶液によって、酸化ジルコニウム担体に、塩酸に由来する塩素を十分且つ確実に含浸担持することができる。
【0054】
また、酸化ジルコニウム担体量に対する含浸溶液に含まれる遊離塩素イオン量の割合が、0.2〜1.1質量%とされている。含浸溶液中の遊離塩素イオン濃度は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して0.2質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、1.1質量%以下とすることが好ましい。
【0055】
また、酸化ジルコニウム担体量に対する含浸溶液に含まれる全塩素量(金属塩化物および遊離塩素イオンの状態の塩素を含む塩素量)の割合が、質量比で2.5〜6%とされている。含浸溶液中の全塩素量は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して2.5質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、6質量%以下とすることが好ましい。
【0056】
なお、遊離塩素イオンの添加には、上述の如く塩酸(塩化水素)を用いるのが好ましく、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなど、焼成過程で除去できない陽イオンが残存する化合物は好ましくない。
【0057】
含浸工程において、金属化合物の種類によっては、混合により沈殿を生じることがある。このような場合には、酸化ジルコニウム担体に対し、順次異なる金属を担持させても良い。例えば、担体に第一の触媒活性成分を担持し、必要ならば、乾燥した後或いは乾燥および仮焼した後、第二の触媒活性成分の担持を行うことができる。この場合は、いずれの触媒活性成分を担持する場合にも遊離塩素イオンが共存していることが好ましい。
含浸時間は、所定の担持量が確保される限り、特に制限されないが、通常1〜50時間程度、好ましくは3〜20時間程度である。
【0058】
次いで、含浸工程において所定の金属成分を担持させた酸化ジルコニウムを、必要に応じて蒸発乾固または乾燥させた後、焼成する。焼成は、空気の流通下に行えばよい。あるいは、空気あるいは酸素と窒素などの不活性ガスとを適宜混合したガスなどの酸化性ガス流通下において行っても良い。
焼成温度は、高すぎる場合には、担持された金属の粒成長が進んで高い活性が得られない。逆に低すぎる場合には、焼成が十分に行われないので、触媒の使用中に担持された金属粒子が粗大化して、安定した活性が得られないおそれがある。従って、安定して高い触媒活性を得るためには、焼成温度は、450〜650℃程度とすることが好ましく、500〜600℃程度とすることがより好ましい。
焼成時間は、特に制限されないが、通常1〜50時間程度であり、好ましくは3〜20時間程度である。
【0059】
〔触媒の用途〕
本発明の触媒は、ペレット状やハニカム状など任意の形状に成型して用いても良く、耐火性ハニカム上にウオッシュコートしたりして用いてもよいが、好ましくは、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いられる。
耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製した触媒をスラリー状にしてウオッシュコートしても良く、あるいはあらかじめ酸化ジルコニウムを耐火性ハニカム上にウオッシュコートした後、上記の含浸手法にしたがって活性成分を担持してもよい。
そして、上記いずれの場合にも、必要に応じて、バインダーを添加することができる。また、本発明による触媒の比表面積は、通常2〜60m2/g程度、好ましくは5〜30m2/g程度である。
【0060】
本発明の触媒は、2〜60m2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体に、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒であり、メタンを含有する酸素過剰の排ガスを対象とすることができる。
排ガス中には、メタンの他に、エタン、プロパンなどの低級炭化水素や一酸化炭素、含酸素化合物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。本発明によると、これらは、メタンに比して易分解性なので、メタンと同時に容易に酸化除去できる。
排ガス中の可燃性成分の濃度は、特に制限されないが、高すぎる場合には触媒層で極端な温度上昇が生じ、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、メタン換算で約5000ppm以下とするのが好ましい。
そして、本発明の触媒に所定の条件において排ガスを接触させることにより、排ガス中のメタンを酸化除去することができる。
【0061】
また、触媒使用量が、少なすぎる場合には、有効な浄化率が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で200,000h-1以下となる量を使用することが好ましい。一方、ガス時間当たり空間速度(GHSV)を低くするほど触媒量が多くなるので、浄化率は向上するが、GHSVが低すぎる場合には、経済的に不利であり、また触媒層での圧力損失が大きくなる。従って、GHSVの下限は、約1000h-1程度とすることが好ましく、約5000h-1程度とすることがより好ましい。
【0062】
被処理ガスである排ガス中の酸素濃度は、酸素を過剰に含む限り特に制限されないが、体積基準として約2%以上(より好ましくは約5%以上)であって且つ炭化水素などからなる還元性成分の酸化当量の約5倍以上(より好ましくは約10倍以上)の酸素が存在することが好ましい。
排ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するおそれがあるので、あらかじめ所要の量の空気、酸素過剰の排ガスなどを混ぜてもよい。
【0063】
本発明による排ガス中のメタンの酸化除去触媒は、高い活性を有するが、排ガス処理温度が低すぎる場合には、活性が下がり、所望のメタン転化率が得られない。一方、処理温度が高すぎる場合には、触媒の耐久性が悪化するおそれがある。触媒層温度は、通常300〜500℃程度であり、好ましくは375〜450℃程度である。
また、被処理ガス中の炭化水素の濃度が著しく高いときには、触媒層で急激な反応が起こって、触媒の耐久性に悪影響を及ぼすので、触媒層での温度上昇が、通常約150℃以下、好ましくは約100℃以下となる条件で用いるのが好ましい。
【0064】
燃焼排ガス中には、通常5〜15%程度の水蒸気が含まれているが、本発明によれば、このように水蒸気を含む排ガスに対しても、有効なメタン転化率が達成される。
また、排ガス中には、水蒸気の他に触媒活性を著しく低下させることが知られている少量の硫黄酸化物が通常含まれるが、本発明の触媒は、硫黄成分による活性低下に対して特に高い抵抗性を示すので、体積基準で0.1〜30ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。
【0065】
このように、本発明の触媒は、水蒸気や硫黄酸化物による活性阻害に対して非常に優れた抵抗性を示すので、燃焼排ガスのように水蒸気を大量に含み、かつ硫黄酸化物を含む排ガスにおいても、高いメタン酸化活性を発揮する。
また、本発明の触媒は、比較的廉価なルテニウムを主たる触媒活性成分としているので、高価な貴金属の使用量を低減でき、経済性にも優れている。
【0066】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
表1に、本発明の触媒の担持成分およびその担持に使用した含浸溶液の原料を示す。なお、比較のため特許文献4に記載の触媒(表1において比較例3(触媒F)と記載する)の担持成分およびその担持に使用した含浸溶液の原料も併せて示す。なお、触媒の塩素担持量は蛍光X線分析により計測した。
【0068】
【表1】
【0069】
〔実施例1〕
酸化ジルコニウム(日本電工社製N−PC、比表面積28m2/g)を空気中700℃で6時間焼成して、酸化ジルコニウム担体としての焼成酸化ジルコニウム(比表面積17m2/g、単斜晶)を得た。この酸化ジルコニウム担体は、95%以上が単斜晶からなっていることをX線回折測定により確認した。
表1に示すように、塩化ルテニウム(RuCl3)1.53gと塩化白金酸(H2PtCl6)1.05gを、35%塩酸0.2gに純水を混合して生成した0.3%塩酸25gに溶解して、0.74gのルテニウムと0.5gの白金(いずれも金属換算の質量)を溶解する含浸溶液を調製し、これを酸化ジルコニウム担体25gに含浸した。
この含浸溶液において、1.33gの塩素がルテニウムおよび白金の金属塩の状態で含まれており、0.07gの塩素が塩酸から発生した遊離塩素イオンの状態で含まれている。ここで、遊離塩素イオンの質量0.07gは、酸化ジルコニウム担体の質量25gに対して0.27質量%となる。
また、金属塩および遊離塩素イオンの状態で含まれる塩素を合計した全塩素質量は1.4gとなる。ここで、全塩素質量1.4gは、酸化ジルコニウム担体の質量25gに対して5.6質量%となる。
【0070】
蒸発乾固後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ru‐2%Pt/酸化ジルコニウム触媒(触媒A)を得た。この触媒Aの比表面積は17m2/gであり、X線回折測定により酸化ジルコニウムの95%以上が単斜晶であることが分かった。この触媒Aに担持されたルテニウムおよび白金の質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して3質量%および2質量%であり、担持された塩素の質量は、酸化ジルコニウム担体に対して0.06質量%となる。
【0071】
〔実施例2〕
表1に示すように、塩化ルテニウム(RuCl3)1.53gを、35%塩酸0.8gに純水を混合して生成した1.3%塩酸22gに溶解した水溶液と、ヘキサヒドロキソ白金酸(H2Pt(OH)6)0.77gを30%硝酸6gに溶解した水溶液とを混合して0.75gのルテニウムと0.5gの白金(いずれも金属換算の質量)が溶解した含浸溶液を調製し、これを実施例1と同じ酸化ジルコニウム担体25gに含浸した。
また、この含浸溶液に含まれる全塩素質量は1.06gであり、その内、塩酸から発生する遊離塩素イオンは0.27gである。ここで、全塩素および遊離塩素イオンの質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して4.23質量%および1.09質量%となる。
【0072】
蒸発乾固後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ru‐2%Pt/酸化ジルコニウム触媒(触媒B)を得た。この触媒Bの比表面積は17m2/gであり、酸化ジルコニウムの95%以上が単斜晶であることが分かった。この触媒Bに担持されたルテニウムおよび白金の質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して3質量%および2質量%となり、担持された塩素は酸化ジルコニウム担体に対して0.02質量%となる。
【0073】
〔実施例3〕
塩化ルテニウム(RuCl3)1.02gと塩化白金酸(H2PtCl6)1.05gを、35%塩酸0.4gに純水25gを混合した0.6%塩酸25gに溶解して、0.5gのルテニウムと0.5gの白金(いずれも金属換算の質量)が溶解した含浸溶液を調製し、これを実施例1と同じ酸化ジルコニウム担体25gに含浸した。
この含浸溶液に含まれる全塩素質量は1.21gであり、その内、塩酸から発生する遊離塩素イオンは0.14gである。ここで、全塩素および遊離塩素イオンの質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して4.82質量%および0.54質量%となる。
【0074】
そして、蒸発乾固後、蒸発乾固後、空気中550℃で6時間焼成して2%Ru‐2%Pt/酸化ジルコニウム触媒(触媒C)を得た。この触媒Cの比表面積は17m2/gであり、酸化ジルコニウムの95%以上が単斜晶であることが分かった。この触媒Cに担持されたルテニウムおよび白金の質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して2質量%および2質量%となり、担持された塩素は酸化ジルコニウム担体に対して0.16質量%となる。
【0075】
〔比較例1〕
ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩(Ru(NH36(NO33)とテトラアンミン白金硝酸塩(Pt(NH34(NO32)とを0.3%アンモニア水50gに溶解して得た、0.75gのルテニウムと0.5gの白金(いずれも金属換算の質量)を溶解する水溶液を用い、これを実施例1と同じ酸化ジルコニウム担体19gに含浸した。蒸発乾固後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ru‐2%Pt/酸化ジルコニウム触媒(触媒D)を得た。
【0076】
〔比較例2〕
ルテニウムとして15質量%を含むトリニトラトニトロシルルテニウム水溶液(硝酸18質量%含有)7gと白金10質量%を含むヘキサヒドロキソ白金酸(H2Pt(OH)6)水溶液(硝酸40質量%含有)7gを純水18gで希釈し、これを実施例1と同じ酸化ジルコニウム担体35gに含浸した。蒸発乾固後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ru‐2%Pt/酸化ジルコニウム触媒(触媒E)を得た。
【0077】
〔比較例3〕
塩化イリジウム酸とシスジニトロジアンミン白金とトリニトラトニトロシルルテニウムと69%硝酸0.5mlとを混合溶解して、イリジウムとして0.07gと白金として0.0176gとルテニウムとして0.0034g(いずれも金属換算の質量)とを含有する含浸用水溶液11mlを得た。次いで、ジルコニア(東ソー製、TZ−O;比表面積=14m2/g)3.5gを前記の含浸液に15時間含浸した。これを蒸発乾固し、さらに空気中600℃で4時間焼成して、2%Ir−0.5%Pt−0.1%Ru/ジルコニア触媒(触媒F)が得られる。担持されたルテニウムおよび白金の質量は、それぞれ酸化ジルコニウム担体に対して0.1質量%および0.5質量%となる。また、この含浸溶液中における全塩素質量は0.08gであり、そのすべてが、塩化イリジウム酸に由来する金属塩中の塩素である。そして、全塩素質量は、酸化ジルコニウム担体に対して2.21質量%となる。
【0078】
〔触媒活性評価試験〕
次に、上述の如く製造されたそれぞれの触媒について実施した触媒活性評価試験について説明する。触媒活性評価試験は、実施例1〜3と比較例1および2において調製した触媒をそれぞれ打錠成型した後、それぞれの触媒1.45g(約1.5ml)を石英製反応管(内径14mm)に充填して行った。
メタン1000ppm、酸素10%、水蒸気10%(いずれも体積基準)と残部窒素からなる組成を有するガスを毎分2リットル(0℃、101325Paの標準状態における体積)の流量で反応管に流通し、触媒層温度375、400、425および450℃におけるメタン転化率を測定した(初期転化率)。反応層前後のガス組成は、水素炎イオン化検知器を有するガスクロマトグラフにより測定した。
その後、触媒層温度を450℃に保ったまま、反応ガスに二酸化硫黄3ppmを添加して反応を継続し、20時間後および60時間後のメタン転化率を同様に測定した。
【0079】
次に、メタン転化率(%)の測定結果を表2に示す。ここで、メタン転化率とは、以下の式(1)によって求められる値である。
メタン転化率(%)=100×{1−(CH4‐out/CH4‐in)・・式(1)
式(1)において、「CH4‐out」とは、触媒層出口のメタン濃度を示し、「CH4‐in」とは、触媒層入口のメタン濃度を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
比較例1の触媒Aは、塩化物ではないルテニウム化合物および白金化合物を用いて調製されたものであるが、表2に示す400℃におけるメタン転化率は、初期において46%、60時間後で43%となった。担持量や試験条件に若干の差異はあるが、特許文献5でもほぼ同様(400℃におけるメタン転化率は初期および60時間後で、それぞれ42%、45%)のメタン転化率が示されている。
これに対し、実施例1の触媒Aでは、400℃におけるメタン転化率は、初期において72%、60時間後で81%と大幅な向上が見られる。また、ルテニウムのみ塩化物を用いた実施例2の触媒Bでも、同様に初期において72%、60時間後で69%と、実施例1の触媒Aには劣るものの、比較例1の触媒Dに比べれば高いメタン転化率を示す。
比較例1の触媒Dは、アンモニアを共存させたアルカリ条件下での担持であるが、硝酸を共存させた酸性条件での担持(比較例2の触媒E)であっても、塩素が存在しない場合には、やはり活性は低く、400℃におけるメタン転化率は初期において65%、60時間後で57%にとどまった。
【0082】
実施例3の触媒Cは、ルテニウム担持量を白金担持量と同等とした例である。評価結果から明らかなとおり、ルテニウム担持量は白金に対する質量比で1倍程度であっても十分な活性が得られる。特許文献5(ルテニウム担持量は担体に対する質量比で5%、白金に対する質量比では1.7〜25倍)と比較して少ないルテニウム担持量でも高いメタン酸化活性が得られている。
【0083】
また、表1に示した比較例3(触媒F)のメタン転化率(%)の測定結果は、表2には示されていないが、メタン転化率が試験開始5時間後で59%、30時間後で58%となり、非常に低い結果となった。比較例3の含浸溶液には塩化イリジウムが含有されており、含浸溶液に塩素が含有されることとなるが、この塩素は塩化イリジウムに由来するものだけであり、遊離塩素イオンに由来する塩素が触媒Fに担持されておらず、さらに、実施例1〜3における触媒A〜Cの含浸溶液に比べて全塩素質量が少ないために、メタン転化率が非常に低くなると考えられる。
また、比較例3の含浸溶液には塩酸が含まれておらず、実施例1〜3における触媒A〜Cのように、塩酸から発生する遊離塩素イオンに由来する塩素が担持されておらず、メタン転化率が非常に低くなると考えられる。
それに対し、本願発明に係る触媒A〜Cは、塩酸から発生する遊離塩素イオン、塩化白金酸および塩化ルテニウムのいずれかに由来する塩素が担持されているので、高いメタン転化率が得られると考えられる。
【0084】
触媒の塩素担持量の計測を、実施例1〜3の触媒A〜C、比較例1および2の触媒DおよびEにおいて行ったところ、塩素化合物を用いずに調製した比較例1および2の触媒DおよびEでは、表1に示したように、いずれも検出限界(0.01質量%)以下であったが(表1中において、N.D.と表示)、実施例1〜3の触媒A〜Cでは0.02〜0.16質量%であった。塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではなく、また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないが、少なくとも塩素を含有してなる触媒では、塩素を含有しない触媒と比較して高い活性が得られることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンの酸化除去にあたり、低い温度でも高いメタン分解能を発揮する触媒およびその製造方法を提供することができた。