【課題を解決するための手段】
【0012】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明に係る触媒の特徴構成は、
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒であって、2〜60m
2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体に、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる
(但し、前記酸化ジルコニウム担体に、イリジウム、白金、ルテニウムおよび塩素を担持してなる触媒を除く)点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、
酸化ジルコニウム担体に、白金およびルテニウムが担持されているので、硫黄酸化物および過剰な酸素を含む排ガス中において、低い温度でもメタンを分解することができる。また、酸化ジルコニウム担体に、塩素が担持されているので、高活性な触媒が得られ、高いメタン転化率を得ることができる。
【0014】
本発明による触媒は、担体としての酸化ジルコニウムに触媒活性成分としてのルテニウムおよび白金を担持しているから、硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンの酸化除去能を有する。
【0015】
そして、担体である酸化ジルコニウムの表面積は、低すぎる場合には、触媒活性成分を高分散に保つことができなくなる。一方、表面積が高すぎる場合には、酸化ジルコニウムの熱安定性が十分でなく、触媒の使用中に酸化ジルコニウム自体の焼結が進行するおそれがある。
酸化ジルコニウムの比表面積(本明細書中においては、BET法による比表面積を言う)は、通常2〜60m
2/g程度であり、5〜30m
2/g程度であることがより好ましい。
酸化ジルコニウムの結晶形は単斜晶であり、質量基準で10%以下の正方晶および立方晶の酸化ジルコニウムを含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。
【0016】
このような酸化ジルコニウムは、市販の触媒担体用酸化ジルコニウム或いは水酸化ジルコニウムを空気などの酸化雰囲気下において550℃〜1000℃、より好ましくは600℃〜800℃程度で焼成するなどの方法により調製することができる。
酸化ジルコニウム担体には、コージェライト等の支持体への付着性や焼結性の改善のため、アルミナ、シリカなど酸化ジルコニウム以外の微量の成分を含んでいても良いが、これらの成分は質量基準で2%を超えないことが望ましい。
酸化ジルコニウムに対する触媒活性成分の担持量は、少なすぎる場合には触媒活性が低くなるのに対し、多すぎる場合には粒径が大きくなって、担持された触媒活性成分が有効に利用されなくなる。
【0017】
また、酸化ジルコニウムに対して、触媒活性成分としてのルテニウムおよび白金を担持している。ルテニウムおよび白金は、例えば、ルテニウムイオンおよび白金イオンを含む溶液を担体としての酸化ジルコニウムに含浸させ、乾燥して焼成することにより得られ、ルテニウムおよび白金は、金属酸化物として前記担体に付着あるいは結合した形態として担持されるが、少なくとも一部が金属塩あるいは金属粒子として担持される形態を含むものとする。ここで、ルテニウムの担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で通常0.5〜20%程度であり、より好ましくは1〜5%程度である。白金の担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で通常0.1〜5%程度であり、より好ましくは1〜3%程度である。また、白金の担持量は、ルテニウムに対する質量比で、10〜200%程度とすることが好ましく、50〜150%程度とすることがより好ましい。
【0018】
また、本願においては、担体としての酸化ジルコニウムに対して塩素を担持する。塩素が担持されている形態は明らかではなく、前記担体あるいは前記触媒活性成分に対して塩素イオンあるいは塩化水素として、付着あるいは結合していると考えられる。理論に拘泥されるものではないが、この塩素が、前記触媒活性成分の粒子の凝集を抑制し、微粒子化した状態で高分散に担持させることを可能にしているものと予想される。したがって、触媒活性成分による高いメタン酸化活性が発現し、低温でも高い活性を発揮しうるメタン酸化触媒となっているものと考えられる。また、塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではない。また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないが、後述の実施例によれば、少なくとも塩素を含有してなる触媒では、塩素を含有しない触媒と比較して高いが得られることは明らかであった。また、本願のメタン酸化触媒は塩素の担持によって、従来から想定されていた塩素被毒の影響を凌駕して触媒活性成分の高い活性を引き出しているものと言える。なお、塩素の担持量は、蛍光X線分析によって測定される触媒中の残存塩素濃度として規定することができる。
【0019】
〔構成2〕
本発明に係る触媒は、上記構成において、
前記酸化ジルコニウム担体に対する前記塩素の担持量が0.02〜0.2質量%であることが好ましい。
【0020】
前述のように、塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではなく、また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないことが予想されるが、後述の実施の形態によると、酸化ジルコニウム担体に対する塩素の担持量が0.02〜0.2質量%である場合に、特に、塩素が担持されていないメタン酸化触媒に比べて高い活性を発揮するメタン酸化触媒が得られていることが分かる。
【0021】
なお、上記担持量については、少なすぎると十分な添加効果が得られないと考えられることから0.02質量%以上とし、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、0.2質量%以下としている。
【0022】
本発明の触媒は、ペレット状やハニカム状など任意の形状に成型して用いても良く、耐火性ハニカム上にウオッシュコートしたりして用いてもよいが、好ましくは、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いられる。
耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製した触媒をスラリー状にしてウオッシュコートしても良く、或いはあらかじめ酸化ジルコニウムを耐火性ハニカム上にウオッシュコートした後、上記の含浸手法にしたがって活性成分を担持してもよい。
いずれの場合にも、必要に応じて、バインダーを添加することができる。
【0023】
本発明の方法が処理対象とするのは、メタンおよび硫黄酸化物を含む排ガスであり、通常メタンを含有するとともに、酸素を過剰に含有する排ガスである。本明細書においては、「酸素を過剰に含む」とは、本発明による触媒に接触させる被処理ガス(排ガス)が、そこに含まれる炭化水素、一酸化炭素などの還元性成分を完全酸化するに必要な量以上に、酸素、窒素酸化物などの酸化性成分を含んでいることを意味する。排ガス中には、メタンの他に、エタン、プロパンなどの低級炭化水素や一酸化炭素、含酸素化合物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。本発明によると、これらは、メタンに比して易分解性なので、メタンと同時に容易に酸化除去できる。
排ガス中の可燃性成分の濃度は、特に制限されないが、高すぎる場合には触媒層で極端な温度上昇が生じ、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、メタン換算で約5000ppm以下とするのが好ましい。
本発明の触媒に所定の条件において排ガスを接触させることにより、排ガス中のメタンを酸化除去することができる。
触媒使用量が、少なすぎる場合には、有効な浄化率が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で200,000h
-1以下となる量を使用することが好ましい。一方、ガス時間当たり空間速度(GHSV)を低くするほど触媒量が多くなるので、浄化率は向上するが、GHSVが低すぎる場合には、経済的に不利であり、また触媒層での圧力損失が大きくなる。従って、GHSVの下限は、約1000h
-1程度とすることが好ましく、約5000h
-1程度とすることがより好ましい。
被処理ガスである排ガス中の酸素濃度は、酸素を過剰に含む限り特に制限されないが、体積基準として約2%以上(より好ましくは約5%以上)であって且つ炭化水素などからなる還元性成分の酸化当量の約5倍以上(より好ましくは約10倍以上)の酸素が存在することが好ましい。
排ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するおそれがあるので、予め所要の量の空気、酸素過剰の排ガスなどを混ぜてもよい。
【0024】
本発明による排ガス中のメタンの酸化除去触媒は、高い活性を有するが、排ガス処理温度が低すぎる場合には、活性が下がり、所望のメタン転化率が得られない。一方、処理温度が高すぎる場合には、触媒の耐久性が悪化するおそれがある。触媒層温度は、通常300〜500℃程度であり、好ましくは375〜450℃程度である。
また、被処理ガス中の炭化水素の濃度が著しく高いときには、触媒層で急激な反応が起こって、触媒の耐久性に悪影響を及ぼすので、触媒層での温度上昇が、通常約150℃以下、好ましくは約100℃以下となる条件で用いるのが好ましい。
燃焼排ガス中には、通常5〜15%程度の水蒸気が含まれているが、本発明によれば、このように水蒸気を含む排ガスに対しても、有効なメタン転化率が達成される。
また、排ガス中には、水蒸気の他に触媒活性を著しく低下させることが知られている少量の硫黄酸化物が通常含まれるが、本発明の触媒は、硫黄成分による活性低下に対して特に高い抵抗性を示すので、体積基準で0.1〜30ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。
【0025】
〔構成3〕
上記目的を達成するための本発明に係る触媒の製造方法の特徴構成は、
硫黄酸化物を含む排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒の製造方法であって、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液
(但し、イリジウム、白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンを含有する溶液を除く)に、2〜60m
2/gの比表面積を有する単斜晶の酸化ジルコニウム担体を含浸する含浸工程を備えた点にある。
【0026】
上記含浸工程により、溶液中に溶解している白金、ルテニウムおよび遊離塩素イオンが、酸化ジルコニウム担体に含浸されるので、白金、ルテニウムおよび塩素を酸化ジルコニウム担体に高分散状態で含浸することができる。
【0027】
ここで、白金、ルテニウムは、塩として溶液中に溶解するものであってもよく、さらに、白金イオンやルテニウムイオンを生じるものであっても、電離せずに塩として溶解しているものであってもよく、コロイド溶液のように微粒子として分散しているものであってもよい。つまり、全体として均一性が保たれうる液体状態のものを、溶液とよび、その中に含まれる形態を問わず、白金、ルテニウム元素が溶液中に存在する状態を含有する。
【0028】
ここで、遊離塩素イオンは、溶液中にCl
-として存在する塩素を指し、金属イオンに強く配位して溶液中に存在する塩素と区別して考えるものとする。
含浸工程を経て担体としての酸化ジルコニウムに担持された白金およびルテニウムは、溶媒の除去に伴い、金属酸化物として前記担体に付着あるいは結合した形態として担持される。なお、少なくとも一部が金属塩あるいは金属粒子として担持される形態を含むものとする。また、遊離塩素イオンは、どのような機構で担持されるのか不明であるが、遊離塩素イオンが、前記溶液中の溶媒が蒸発する過程で、通常塩化水素ガスなどの塩素化合物として揮発するところ、一部の塩化水素ガスなどの塩素化合物等が、担体あるいは触媒活性成分に付着あるいは結合した状態で残留した形態で担持されるものと考えることができる。塩素の存在がどのように作用して活性を向上させるのかは必ずしも明確ではない。また含有量が増えるほど活性が向上するという単純な関係にはないが、後述の実施例によれば、少なくとも塩素を含有してなる触媒では、塩素を含有しない触媒と比較して高いが得られることは明らかであった。
【0029】
本発明の触媒は、例えば、ルテニウムイオン、白金イオンと遊離塩素イオンを含む溶液に担体としての酸化ジルコニウムを含浸する含浸工程を行い、その後、乾燥、焼成することにより得られ、含浸されたルテニウム、白金と塩素を担体に担持させるために溶液中の溶媒を除去する乾燥、焼成等の工程は、種々公知の手法にしたがって行うことができる。
【0030】
含浸工程は、塩化物などの水溶性化合物を純水に溶解することにより調製した水溶液を用いて行えば良く、必要に応じてエタノールなどの有機溶媒を添加しても良い。
ルテニウム化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、トリニトラトニトロシルルテニウムが使用できる。白金化合物としては、塩化白金酸、テトラアンミン白金硝酸塩、ジニトロジアンミン白金などが例示される。なお、溶解度が低く、純水に溶解して所望の濃度が得られない場合は、溶解性を高めるために、希塩酸を添加しても良い。
ルテニウムおよび白金共に塩素を含まない化合物を用いて希塩酸を添加してもよいが、ルテニウムまたは白金の少なくとも一方は遊離塩素イオンを生成し得る化合物を用いるのが好ましく、塩化ルテニウムおよび塩化白金酸を用いるのがより好ましく、さらに少量の希塩酸を添加しても良い。
なお、遊離塩素イオンの添加には塩酸(塩化水素)を用いるのがより好ましく、他に塩化アンモニウム等が考えられる。塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなど、焼成過程で除去できない陽イオンが残存する化合物は塩酸に比べあまり好ましくない。
含浸工程において、金属化合物の種類によっては、混合により沈殿を生じることがある。この様な場合には、酸化ジルコニウム担体に対し、順次異なる金属を担持させても良い。例えば、担体に第一の活性成分を担持し、必要ならば、乾燥した後或いは乾燥および仮焼した後、第二の活性成分の担持操作を行うことができる。この場合は、いずれの金属を担持する場合にも遊離塩素イオンが共存していることが好ましい。
含浸時間は、所定の担持量が確保される限り、特に制限されないが、通常1〜50時間程度、好ましくは3〜20時間程度である。
【0031】
次いで、所定の金属成分を担持させた酸化ジルコニウムを、必要に応じて蒸発乾固または乾燥させた後、焼成することにより、触媒活性成分が担体に担持された状態となる。
焼成は、空気の流通下に行えばよい。或いは、空気あるいは酸素と窒素などの不活性ガスとを適宜混合したガスなどの酸化性ガス流通下において行っても良い。
焼成温度は、高すぎる場合には、担持された金属の粒成長が進んで高い活性が得られない。逆に低すぎる場合には、焼成が十分に行われないので、触媒の使用中に担持された金属粒子が粗大化して、安定した活性が得られないおそれがある。従って、安定して高い触媒活性を得るためには、焼成温度は、450〜650℃程度とすることが好ましく、約500〜600℃程度とすることがより好ましい。
焼成時間は、特に制限されないが、通常1〜50時間程度であり、好ましくは3〜20時間程度である。
【0032】
〔構成4〕
上記構成において、
前記溶液が、遊離塩素イオンを生成する塩酸を含有してもよい。
【0033】
上記構成によれば、溶液中に塩酸を含有させることで、塩酸が溶液中で電離して遊離塩素イオンを生成し、前記溶液中の遊離塩素イオンを十分量供給することができる。そのため、この溶液によって、酸化ジルコニウム担体に、遊離塩素イオンを分散した状態で供給できるとともに、塩酸に由来する塩素をより確実に担体あるいは触媒活性成分の表面に保持させておくことができる。
【0034】
〔構成5〕
また、前記溶液が、塩化白金酸を含有してもよい。
【0035】
上記特徴構成によれば、塩化白金酸由来の塩素が担体に担持されることも考えられ、より確実に担体に塩素を担持させるのに寄与すると考えられる。
【0036】
〔構成6〕
また、前記溶液が、塩化ルテニウムを含有してもよい。
【0037】
上記特徴構成によれば、溶液中に塩化白金酸を含有させる場合と同様に、塩化ルテニウム由来の塩素が担体に担持されることも考えられ、より確実に担体に塩素を担持させるのに寄与すると考えられる。
【0038】
〔構成7〕
また、前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる前記遊離塩素イオンの割合を0.2〜1.1質量%とすることが好ましい。
【0039】
上記溶液中の遊離塩素イオンは、上記溶液の全量が担体に含浸されるに伴って遊離塩素イオンの全部が担体に一旦含浸されるが、含浸工程後に、担体に含浸された溶液中の溶媒を除去するために乾燥または焼成を行なうに伴って、溶液中の遊離塩素イオンの一部が塩化水素などとなって担体から離脱する。一方、担体に残留した塩素が、担体に担持された塩素となる。そのため、上記溶液中の遊離塩素イオン濃度は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して0.2質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、1.1質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
〔構成8〕
また、前記酸化ジルコニウム担体に対する前記溶液中に含まれる全塩素の割合を2.5〜6質量%とすることが好ましい。
【0041】
前述のように遊離塩素イオンに変化しうる全塩素が、酸化ジルコニウム担体に担持される塩素源となり得る。そのため、前記溶液中に金属塩等として含まれる塩素も含めた全塩素濃度によって前記酸化ジルコニウム担体に担持される塩素量が影響を受けるものと考えられる。従って、上記溶液中の全塩素量は、少なすぎると担体に十分量担持されないことが考えられるため、酸化ジルコニウム担体に対して2.5質量%以上とすることが好ましく、多すぎたとしても添加効果は必ずしも向上するとは言えないことから、6質量%以下とすることが好ましい。