特許第5865249号(P5865249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立メディコの特許一覧

特許5865249X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置
<>
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000002
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000003
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000004
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000005
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000006
  • 特許5865249-X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865249
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】X線管装置及びその製造方法とX線画像診断装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/06 20060101AFI20160204BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20160204BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20160204BHJP
   H01J 35/10 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   H01J35/06 E
   H01J35/16
   A61B6/03 320C
   H01J35/10 Z
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-532963(P2012-532963)
(86)(22)【出願日】2011年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2011070078
(87)【国際公開番号】WO2012033027
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-202560(P2010-202560)
(32)【優先日】2010年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153498
【氏名又は名称】株式会社日立メディコ
(72)【発明者】
【氏名】杉山 勝也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】岡村 秀文
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−149452(JP,A)
【文献】 特開2009−272057(JP,A)
【文献】 特開2009−272056(JP,A)
【文献】 特開2002−352756(JP,A)
【文献】 特開2009−081136(JP,A)
【文献】 特開2010−080400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00−35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する陰極と、前記陰極と対向配置され前記電子線が照射されることでX線を放射する陽極ターゲットと、前記陰極と前記陽極ターゲットを真空雰囲気内に保持する真空外囲器と、前記陰極と前記陽極ターゲットとの間に配置され前記陽極ターゲットにて反跳した反跳電子を捕捉する反跳電子捕捉体と、を備えたX線管装置であって、
前記反跳電子捕捉体の少なくとも一部が、銅よりも融点が高く、銅よりも高強度な高融点高強度金属を銅の中に埋めこんだ部材で構成されることを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は細線を含むことを特徴とするX線管装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は前記細線を網目状に編み込んで形成したメッシュシートを含むことを特徴とするX線管装置。
【請求項4】
請求項2に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は前記電子線を中心軸とした渦巻状に前記銅の中に埋め込まれることを特徴とするX線管装置。
【請求項5】
請求項2に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は前記電子線を中心軸とした同心円状に前記銅の中に埋め込まれることを特徴とするX線管装置。
【請求項6】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は前記反跳電子捕捉体の前記反跳電子が衝突する面の近傍に埋め込まれることを特徴とするX線管装置。
【請求項7】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記高融点高強度金属は、タングステン、モリブデン、タンタル、クロムのうちの少なくとも1つから成ることを特徴とするX線管装置。
【請求項8】
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器により検出された透過X線量に基づき被検体の画像を作成する画像作成装置と、前記画像を表示する画像表示装置と、を備えたX線画像診断装置であって、
前記X線源は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のX線管装置であることを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のX線管装置の製造方法であって、前記高融点高強度金属を鋳型の中に配置し、真空炉内で銅を鋳込むことを特徴とするX線管装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のX線管装置の製造方法であって、前記高融点高強度金属は鋳型の中央部に配置されることを特徴とするX線管装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線画像診断装置に搭載されるX線管装置に係り、特に陽極ターゲットにて発生した反跳電子を捕捉する反跳電子捕捉体の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT(Computed Tomography)装置に代表されるX線画像診断装置には、被検体にX線を照射するX線管装置が搭載される。X線管装置は、電子を放出する陰極と、電子の衝突によりX線を発生する陽極ターゲットと、陰極と陽極ターゲットを真空雰囲気内に保持する真空外囲器とを備える。陰極から放出される電子は、陰極と陽極ターゲット間の電位差によって加速され、例えば80〜140keVのエネルギーを持って陽極ターゲット上のX線焦点に衝突する。X線焦点に衝突する電子のエネルギーはX線や熱に変換される。X線焦点で発生したX線の一部はX線出力窓を通じてX線管装置から出力される。
【0003】
ところで、陽極ターゲットに衝突した電子の40%以上は、陽極ターゲット上で後方散乱し、反跳電子となる。反跳電子は、X線焦点とは異なる位置で陽極ターゲットに再衝突したり、真空外囲器やX線出力窓に衝突したりすることで様々な弊害をもたらす。例えば、反跳電子の陽極ターゲットへの再衝突は、X線焦点以外からX線を発生させ、X線画像の画質低下の原因となる。また真空外囲器やX線出力窓、陽極ターゲットへの反跳電子の衝突は、真空外囲器などの温度を上昇させる。
【0004】
そこで反跳電子に起因する弊害を防止するために、反跳電子を捕捉する反跳電子捕捉体を陰極と陽極ターゲットの間に配置した構成のX線管装置が特許文献1〜3として開示されている。特に特許文献1には、反跳電子捕捉体の耐熱性を向上させるために、反跳電子捕捉体をアルミナ分散銅と純銅で構成することや、クロムやタングステンの銅合金と純銅で構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-149452号公報
【特許文献2】特開2009-272056号公報
【特許文献3】特開2009-272057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているアルミナ分散銅やクロムやタングステンの銅合金は純銅に比べ延性が低いため、一度クラックが生じるとそのクラックが進展しやすいという課題がある。さらにアルミナ分散銅に代表される酸化物分散強化銅は非常に高価であるという課題もある。
【0007】
そこで本発明の目的は、高価な酸化物分散強化銅を用いることなく反跳電子捕捉体の耐熱性に優れ、特にクラックに対し強固な反跳電子捕捉体を備えた長寿命なX線管装置及びその製造方法を提供すること、並びにそのX線管装置を搭載するX線画像診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、反跳電子捕捉体の少なくとも一部が、銅の中に高融点高強度金属を埋め込んだ部材で構成されることを特徴とするものである。
【0009】
具体的には、電子線を発生する陰極と、前記陰極と対向配置され前記電子線が照射されることでX線を放射する陽極ターゲットと、前記陰極と前記陽極ターゲットを真空雰囲気内に保持する真空外囲器と、前記陰極と前記陽極ターゲットとの間に配置され前記陽極ターゲットにて反跳した反跳電子を捕捉する反跳電子捕捉体と、を備えたX線管装置であって、前記反跳電子捕捉体の少なくとも一部が、銅よりも融点が高く高強度な高融点高強度金属を銅の中に埋め込んだ部材で構成されることを特徴とするX線管装置である。
【0010】
また、前記X線管装置の製造方法であって、前記高融点高強度金属を鋳型の中に配置し、真空炉内で銅を鋳込むことを特徴とするX線管装置の製造方法である。
【0011】
また、前記X線管装置と、前記X線管装置に対向配置され被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器により検出された透過X線量に基づき前記被検体の画像を作成する画像作成装置と、前記画像を表示する画像表示装置と、を備えたX線画像診断装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高価な酸化物分散強化銅を用いることなく反跳電子捕捉体の耐熱性を向上させ、特にクラックに対し強固な反跳電子捕捉体を備えた長寿命なX線管装置及びその製造方法を提供すること、並びにそのX線管装置を搭載するX線画像診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のX線画像診断装置の一例であるX線CT装置の全体構成を示すブロック図
図2】本発明のX線管装置の全体構成を示す概略の断面図
図3】第一の実施形態の反跳電子捕捉体の周辺を拡大した概略の断面図
図4】第一の実施形態の反跳電子捕捉体の詳細図
図5】第二の実施形態の反跳電子捕捉体の詳細図
図6】第三の実施形態の反跳電子捕捉体の詳細図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係るX線画像診断装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0015】
図1を用いて本発明を適用したX線画像診断装置の一例としてX線CT装置1000の全体構成を説明する。X線CT装置1000はスキャンガントリ部100と操作卓120とを備える。
【0016】
スキャンガントリ部100は、X線管装置101と、回転円盤102と、コリメータ103と、X線検出器106と、データ収集装置107と、寝台105と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線制御装置110と、を備えている。X線管装置101は寝台105上に載置された被検体にX線を照射する装置である。コリメータ103はX線管装置101から照射されるX線の放射範囲を制限する装置である。回転円盤102は、寝台105上に載置された被検体が入る開口部104を備えるとともに、X線管装置101とX線検出器106を搭載し、被検体の周囲を回転するものである。
【0017】
X線検出器106は、X線管装置101と対向配置され被検体を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置であり、多数のX線検出素子を回転円盤102の回転方向に配列したもの、若しくは回転円盤102の回転方向と回転軸方向との2次元に配列したものである。データ収集装置107は、X線検出器106で検出されたX線量をデジタルデータとして収集する装置である。ガントリ制御装置108は回転円盤102の回転を制御する装置である。寝台制御装置109は、寝台105の上下前後動を制御する装置である。X線制御装置110はX線管装置101に入力される電力を制御する装置である。
【0018】
操作卓120は、入力装置121と、画像演算装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124とを備えている。入力装置121は、被検体氏名、検査日時、撮影条件などを入力するための装置であり、具体的にはキーボードやポインティングデバイスである。画像演算装置122は、データ収集装置107から送出される計測データを演算処理してCT画像再構成を行う装置である。表示装置125は、画像演算装置122で作成されたCT画像を表示する装置であり、具体的にはCRT(Cathode-Ray Tube)や液晶ディスプレイ等である。記憶装置123は、データ収集装置107で収集したデータ及び画像演算装置122で作成されたCT画像の画像データを記憶する装置であり、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)等である。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線制御装置110を制御する装置である。
【0019】
入力装置121から入力された撮影条件、特にX線管電圧やX線管電流などに基づきX線制御装置110がX線管装置101に入力される電力を制御することにより、X線管装置101は撮影条件に応じたX線を被検体に照射する。X線検出器106は、X線管装置101から照射され被検体を透過したX線を多数のX線検出素子で検出し、透過X線の分布を計測する。回転円盤102はガントリ制御装置108により制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特に回転速度などに基づいて回転する。寝台105は寝台制御装置109によって制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特にらせんピッチなどに基づいて動作する。
【0020】
X線管装置101からのX線照射とX線検出器106による透過X線分布の計測が回転円盤102の回転とともに繰り返されることにより、様々な角度からの投影データが取得される。取得された様々な角度からの投影データは画像演算装置122に送信される。画像演算装置122は送信された様々な角度からの投影データを逆投影処理することによりCT画像を再構成する。再構成して得られたCT画像は表示装置125に表示される。
【0021】
回転円盤102の開口部104の大きさ及びスキャンガントリ部100の厚さによっては、被検体に圧迫感を与えることがあるので、開口部104は大きく、スキャンガントリ部100は薄いことが望ましい。開口部104の大きさ及びスキャンガントリ部100の厚さは、回転円盤102上の搭載物の大きさに依存するので、搭載物の一つであるX線管装置101はより小型であることが好ましい。
【0022】
X線画像診断装置の他の例としてはX線透視撮影装置があり、X線CT装置との主たる違いは回転円盤102を備えない点と、画像演算装置122がCT画像を再構成するのではなく、透視画像を作成する点である。X線透視撮影装置とX線CT装置を比較した場合、X線CT装置ではX線管電流が大きいので、反跳電子に起因する弊害も大きくなる。
【0023】
図2を用いて、X線管装置101の構成について、陽極接地型の回転陽極X線管装置を例に挙げ説明する。
【0024】
X線管装置101は、X線を発生するX線管2と、X線管2を収納する管容器1とを備える。
【0025】
X線管2は、電子線20を発生する陰極8と、陰極8に対し正の電位が印加される陽極ターゲット11と、陰極8と陽極ターゲット11を真空雰囲気中に保持する真空外囲器3とを備える。
【0026】
真空外囲器3は陰極8と陽極ターゲット11の間を電気的に絶縁するために、陰極8と陽極ターゲット11を真空雰囲気中に保持する。真空外囲器3は、アノードバルブ3Aとセンターバルブ3Bとカソードバルブ3Cとからなる。アノードバルブ3Aは陽極ターゲット11側を、カソードバルブ3Cは陰極8側を、センターバルブ3Bはアノードバルブ3Aとカソードバルブ3Cの間をそれぞれ覆うものである。アノードバルブ3Aとセンターバルブ3Bとカソードバルブ3Cとは真空気密を保つように接合されている。アノードバルブ3A及びセンターバルブ3B、カソードバルブ3Cは円筒形状をしており、アノードバルブ3Aとセンターバルブ3Bは同じ中心軸を有するが、カソードバルブ3Cの中心軸はアノードバルブ3A及びセンターバルブ3Bの中心軸とは異なる。センターバルブ3BにはX線をX線管2外へ出力するためのX線出力窓4が備えられる。X線出力窓4は、X線透過率が高いベリリウムなどの原子番号の小さい材質で構成される。真空外囲器3の電位は接地電位である。
【0027】
陰極8はフィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とを備える。フィラメントはタングステンなどの高融点材料をコイル状に巻いたものであり、電流が流されることにより加熱され、熱電子を放出する。冷陰極はニッケルやモリブデンなどの金属材料を鋭利に尖らせてなるもので、陰極表面に電界が集中することで電界放出により電子を放出する。集束電極は、放出された電子を陽極ターゲット11上のX線焦点21へ向けて集束させるための集束電界を形成する。フィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とは同電位である。陰極8には真空外囲器3に対して負の電位が印加されるので、陰極8は例えばアルミナセラミックスのような絶縁物製の陰極支持体9を介してカソードバルブ3Cに支持される。
【0028】
陽極ターゲット11はターゲットと陽極母材とを備える。ターゲットはタングステンなどの高融点で原子番号の大きい材質で構成される。ターゲット上のX線焦点21に陰極8から放出された電子が衝突することにより、X線焦点21からX線が放射される。陽極母材はターゲットを保持し、銅などの熱伝導率の高い材質からなる。ターゲットと陽極母材とは同電位である。陽極接地型のX線管装置では、陽極ターゲット11の電位は接地電位であるので、陽極ターゲット11と真空外囲器3とは同電位である。
【0029】
陰極8から放出された電子は、陰極8と陽極ターゲット11との間に印加される100kV前後の電位差により加速され電子線20となる。電子線20が集束電界により集束されて陽極ターゲット11上のX線焦点21に衝突すると、電子線20のエネルギーの約1%がX線に変換される。電子線20の残りのエネルギーのほとんどは熱に変換され、陽極ターゲット11を加熱する。このような加熱による陽極ターゲット11の過熱溶融を防止するため、陽極ターゲット11は回転装置5に接続されており、回転装置5の駆動により、図2中の1点鎖線6を回転軸として回転する。陽極ターゲット11が回転するので、回転陽極X線管と呼ばれる。回転装置5は、回転駆動力となる磁界を発生する励磁コイル5Cと、励磁コイル5Cが発生した磁界を受けて回転するロータ5Aと、ロータ5Aを回転可能に支持する回転支持部5Bと、を備える。なお、陽極ターゲット11の回転軸を以降X線管2の管軸6と呼ぶ。
【0030】
陽極ターゲット11を回転させることで、電子線20が衝突する部分であるX線焦点21が常に移動するので、X線焦点21の温度をターゲットの融点より低く保つことができ、陽極ターゲット11が過熱溶融することを防止できる。
【0031】
X線管2が収納される管容器1の中には、冷却媒体15が充填される。冷却媒体15は冷却水もしくはX線管2を電気的に絶縁するとともに冷却媒体となる絶縁油である。管容器1内に充填された冷却媒体15は、X線管装置101の管容器1に接続された配管を通じて図示しない冷却器に導かれ、冷却器にて熱を放散した後、配管を通じて管容器1内に戻される。管容器1にはX線をX線管装置101外へ出力するためのX線出力窓16が備えられる。X線出力窓16は、X線透過率が高いベリリウムなどの原子番号の小さい材質で構成される。
【0032】
X線管2はさらに反跳電子捕捉体10を有する。反跳電子捕捉体10は、電子線20が陽極ターゲット11に衝突した際に発生する反跳電子を捕捉する。電子線20の約40%が反跳電子となるため、反跳電子捕捉体10の耐熱性を向上させるために工夫が必要である。
【0033】
以下、反跳電子捕捉体10の構造について、周囲との関係も含めて詳細に説明する。
【0034】
(第一の実施形態)
図3に、本実施形態の反跳電子捕捉体10の周辺を拡大した概略の断面図を示す。反跳電子捕捉体10は、陰極8と陽極ターゲット11との間に配置され、陰極8を円筒状に覆うような形状であり、カソードバルブ3Cと同じ中心軸を有する。反跳電子は、図3中でX線焦点21を始点とする矢印のような軌道を描くので、そのほとんどは反跳電子捕捉体10の内面に衝突し捕捉される。反跳電子捕捉体10に捕捉された反跳電子は熱に変換され、発生した熱は反跳電子捕捉体10内の熱伝導、あるいは反跳電子捕捉体10の周囲を流れる冷却媒体15への熱伝達によりX線管2外へ排出される。反跳電子捕捉体10が反跳電子を捕捉することにより、X線焦点21以外からのX線の発生や、真空外囲器3などの温度上昇を防止できる。
【0035】
図4に、本実施形態の反跳電子捕捉体10の断面図を示す。本実施形態の反跳電子捕捉体10は、銅17の中に、銅17よりも融点が高く、銅17よりも高強度な高融点高強度金属18を埋め込んでなるものである。高融点高強度金属18は、例えば、タングステン、モリブデン、タンタル、クロム、のうちの少なくとも1つからなる。高融点高強度金属18の形状は、例えば、粉末、細線、細線を編みこんで網目状に形成したメッシュシートである。本実施形態の反跳電子捕捉体10は、例えば、高融点高強度金属18を鋳型の中に配置し、真空炉内で銅17を鋳込むことにより製造することができる。
【0036】
反跳電子捕捉体10が銅17単体で構成された場合、反跳電子を捕捉することにより高温となった反跳電子捕捉体内において銅17の結晶が移動することで、結晶粗大化や再結晶が生じ、反跳電子捕捉体10の表面荒れが発生する。反跳電子捕捉体10の表面荒れは、X線管2内の放電の原因となり、結果としてX線管装置101の耐電圧性能を劣化させる。
【0037】
これに対し、本実施形態の反跳電子捕捉体10では、銅17の中に埋め込まれた高融点高強度金属18が銅17の結晶の移動を封じるので、結晶粗大化や再結晶を防止する。その結果、反跳電子捕捉体10の表面荒れを発生させずにすむので、X線管装置101の耐電圧性能を維持できる。
【0038】
また、反跳電子捕捉体10にアルミナ分散銅等を使用したときに懸念されるクラックの進展に関しても、本実施形態の反跳電子捕捉体10では、高融点高強度金属18がクラックの進展を止める役割をするので、クラックを最小限に抑えることができ、大気貫通に至るような大きなクラックを防止することができる。
【0039】
以上のことから、本実施形態の反跳電子捕捉体10は、耐熱性に優れ、特にクラックに対し強固なものであるので、長寿命なX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載するX線画像診断装置を提供することができる。
【0040】
(第二の実施形態)
図5に、第二の実施形態の反跳電子捕捉体10の断面図を示す。第一の実施形態と異なる点は、高融点高強度金属18が埋め込まれる場所である。以下、各構成について説明する。
【0041】
第一の実施形態では、高融点高強度金属18が反跳電子捕捉体10の全体に分散して埋め込まれているのに対し、本実施形態では、反跳電子捕捉体10の内面近傍に高融点高強度金属18が集中して埋め込まれる。本実施形態の反跳電子捕捉体10は、例えば、高融点高強度金属18を鋳型の中央部に配置し、真空炉内で銅17を鋳込むことにより製造することができる。
【0042】
図3に示したように、反跳電子が衝突するのは反跳電子捕捉体10の内面であり、内面とその近傍が高温になるので、内面近傍ほど銅17の結晶が移動することになる。そこで本実施形態では、反跳電子捕捉体10の内面近傍に高融点高強度金属18を集中して埋め込む構造とすることにより、内面近傍での銅の結晶粗大化や再結晶を防止する。また、クラックに対しても、反跳電子捕捉体10の内面近傍に埋め込まれた高融点高強度金属18がクラックの進展を止める役割をするので、クラックを最小限に抑えることができる。
【0043】
さらに本実施形態の構造では、高融点高強度金属18が埋め込まれた部分の外周を熱伝導率が良好な銅単体で覆うことになる。その結果、反跳電子捕捉体10の内面で発生した熱を速やかにX線管2外へ排出させることができる。
【0044】
以上のことから、本実施形態の反跳電子捕捉体10は、耐熱性に優れ、特にクラックに対し強固なものであるので、長寿命なX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載するX線画像診断装置を提供することができる。
【0045】
なお、高融点高強度金属18の埋め込み密度を、内面側ほど高くし、外面側ほど低くするような構造としても良い。
【0046】
(第三の実施形態)
図6に、第三の実施形態の反跳電子捕捉体10の断面図を示す。第一の実施形態と異なる点は、銅17の中に埋め込まれる高融点高強度金属18の方向である。以下、各構成について説明する。
【0047】
第一の実施形態では、高融点高強度金属18の向きは揃っていないのに対し、本実施形態では高融点高強度金属18の向きが揃えられて銅17の中に埋め込まれる。すなわち、高融点高強度金属18は細線を網目状に編み込んで形成されたメッシュシート19であり、メッシュシート19はカソードバルブ3Cの中心軸又は電子線20を中心軸として渦巻状に巻かれて銅17の中に埋め込まれる。
【0048】
反跳電子捕捉体10に生じるクラックは、反跳電子捕捉体10の半径方向に進展しやすい。本実施形態では、メッシュシート19を渦巻状にして銅17の中に埋め込むことにより、高融点高強度金属18の向きが反跳電子捕捉体10の円周方向に揃えられる。このような構造とすることにより、クラックの進展方向と直交する方向に揃えられたメッシュシート19が半径方向に進展するクラックを止めることになる。
【0049】
また、メッシュシート19を、カソードバルブ3Cの中心軸又は電子線20を中心軸とした同心円状にして、銅17の中に埋め込んでも良い。このような構造であっても、メッシュシート19が半径方向に進展するクラックを止めることになる。
【0050】
また、銅17の中に渦巻状または同心円状にして埋め込まれる高融点高強度金属18は、細線形状であっても良い。このような構造であっても、細線形状の高融点高強度金属18が半径方向に進展するクラックを止めることになる。
【0051】
以上のことから、本実施形態の反跳電子捕捉体10は、耐熱性に優れ、特にクラックに対し強固なものであるので、長寿命なX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載するX線画像診断装置を提供することができる。
【0052】
なお、実施形態で開示した複数の構成要素を適宜に組み合わせて実施しても良い。例えば、第二の実施形態の構造において、第三の実施形態の構造のように高融点高強度金属18の向きを揃えるようにしても良い。
【符号の説明】
【0053】
1000 X線CT装置、100 スキャンガントリ部、101 X線管装置、102 回転円盤、103 コリメータ、104 開口部、105 寝台、106 X線検出器、107 データ収集装置、108 ガントリ制御装置、109 寝台制御装置、110 X線制御装置、120 操作卓、121 入力装置、122 画像演算装置、123 記憶装置、124 システム制御装置、125 表示装置、1 管容器、2 X線管、3 真空外囲器、3A:アノードバルブ、3B センターバルブ、3C カソードバルブ、4 X線出力窓、5:回転装置、5A ロータ、5B 回転支持部、5C 励磁コイル、6 管軸、8 陰極、9 陰極支持体、10 反跳電子捕捉体、11 陽極ターゲット、12 ロータ、13 回転支持機構、14 ステータ、15 冷却媒体、16 X線出力窓、17 銅、18 高融点高強度金属、19 メッシュシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6