【実施例】
【0073】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、まず窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N
2:He=5:49:46)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、加熱炉を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。なお、このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.16%、位相差が184.4度となっていた。
【0074】
次に、上記光半透過膜の上に、以下の表面反射防止層を有する遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:10:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚30nmのCrOCN層を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.1Pa,ガス流量比 Ar:N
2=25:5)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚4nmのCrN層を成膜した。最後に、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:5:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚14nmのCrOCN層を成膜し、合計膜厚48nmの3層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。
【0075】
この遮光膜は、上記光半透過膜との積層構造で光学濃度(OD)がArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となるように調整されている。また、前記露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は20%であった。さらに、上記積層構造の光学濃度を面内25箇所測定し、光学濃度の面内ばらつき(面内均一性)を測定したところ、3σ(σは標準偏差)で0.02であった。なお、光学濃度は、分光光度計(島津製作所製:ss3700)を用いて測定した。
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.56nmであった。さらに、平坦度測定装置(トロッペル社製:UltraFlat200M)を用いて、142mm×142mmにおける平坦度を測定したところ、310nmであった。
【0076】
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を成膜したマスクブランクに対し、高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを供給して、遮光膜の表面近傍で混合し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスとエチレンガスとの流量比率は2:1とした。処理時間(オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0077】
作製された位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜における表面反射防止層の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。さらにこの被膜の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として詳しく分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:16.6、O:40.6、N:5.5、C:37.3であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=2.44、N/Cr=0.33、C/Cr=2.24である。
【0078】
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記薄膜の表面、つまり表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.46nmであった。つまり、上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.56nmと比べて、表面粗さは処理前後で0.10nm減少しており(減少率は0.10÷0.56×100=18%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0079】
さらに、処理後の光半透過膜と遮光膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率及び488nmの検査光の波長に対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。また、積層膜の光学濃度の面内ばらつきは、3σで0.02であり、処理前と変化はなかった。
また、平坦度測定装置(トロッペル社製:UltraFlat200M)を用いて、142mm×142mmにおける平坦度を測定したところ、306nmであり、平坦度変化量は4nmであり、ほとんど変化はなかった。
【0080】
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、マスクブランクの平坦度、薄膜の表面粗さ、光学特性、光学特性の面内均一性が変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0081】
また、
図3は、本実施例における表面改質層のX線光電子分光法による分析結果を示したものであり、(a)は表面改質層のO(酸素)1sスペクトル、(b)は上述の高濃度オゾンガスとエチレンガスによる処理を施す前の遮光膜の表層部分のO1sスペクトルである。
上記表面改質層は、XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が2.8である。上記第1のピークは、主に酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分や有機系酸素成分(A成分とする)によるピークであり、上記第2のピークは、主に酸化度の低いクロム酸化物(CrOなど)成分やクロム酸窒化物成分(B成分とする)によるピークである。この分析結果から、A成分は74%、B成分は26%であり、パターン形成用の薄膜の表面に上述の高濃度オゾンガス処理による表面改質層が形成されることにより、高濃度オゾンガス処理を施す前の表面改質層が形成されていない状態(上記(b)のスペクトル)と比べると、上記A成分の割合が増加し、B成分の割合が減少していることが分かる。また、O1sスペクトルにおいて、高濃度オゾンガス処理を施す前の第1のピーク強度が約7400c/sであるのに対して、高濃度オゾンガス処理を施した後の第1のピーク強度は約9500c/sであり、高濃度オゾンガス処理によって、第1のピークが増加していることが分かる。
【0082】
作製した本実施例の位相シフトマスクブランクを電動モータ等で回転させながら、洗浄液供給ノズルから50ppmのオゾン水(室温)を積層膜に対して75分供給することにより、オゾン洗浄を行った。なお、この方法は通常行われているオゾン洗浄よりも過酷な条件である。オゾン洗浄後、上記薄膜の光学濃度を測定したところ、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜を断面TEMで確認したが、膜減りは非常に少なく抑えられていた。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する表面反射率についても確認したが、上記オゾン水洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例の位相シフトマスクブランクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0083】
(実施例2)
実施例1において、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを作用させる処理時間を30分としたこと以外は、実施例1と同様にして位相シフトマスクブランクを作製した。
作製した本実施例の位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜における表面反射防止層の表層部分に厚さ約2nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。さらにこの被膜の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:17.9、O:43.1、N:4.6、C:34.4であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=2.41、N/Cr=0.26、C/Cr=1.92である。
【0084】
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.46nmであり、上述の高濃度オゾンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.56nmと比べて、表面粗さは処理前後0.10nm減少しており(減少率は0.10÷0.56×100=18%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0085】
さらに、処理後の光半透過膜と遮光膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率及び488nmの検査光の波長に対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。また、積層膜の光学濃度の面内ばらつきは、3σで0.02であり、処理前と変化はなかった。
また、実施例1と同様にして平坦度を測定したところ、306nmであり、平坦度変化量は4nmであり、ほとんど変化はなかった。
【0086】
また、実施例1と同様に、本実施例における表面改質層をXPSにより分析した結果、O1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が2.2であった。また、この分析結果から、表面改質層中の主に酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分や有機系酸素成分などのA成分の割合は69%、主に酸化度の低いクロム酸化物成分やクロム酸窒化物成分などのB成分の割合は31%であった。また、O1sスペクトルにおいて、高濃度オゾンガス処理を施した後の第1のピーク強度は約10500c/sであり、処理前よりも増加していた。
【0087】
作製した本実施例の位相シフトマスクブランクに対して実施例1と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記薄膜の光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜を断面TEMで確認したが、膜減りは非常に少なく抑えられていた。また、表面反射率についても確認したが、上記オゾン水洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例の位相シフトマスクブランクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0088】
(実施例3)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、この透光性基板上に、実施例1と同様の光半透過膜を成膜し加熱後、以下の表面反射防止層を有する遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:N
2:He=30:30:40)とし、DC電源の電力を0.8kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚24nmのCrN膜を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)とメタン(CH
4)と一酸化窒素(NO)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲気(ガス圧0.3Pa,ガス流量比 Ar+CH
4:NO:He=65:3:40)とし、DC電源の電力を0.3kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚24nmのCrON(C)膜を成膜し、合計膜厚48nmの2層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。なお、この遮光膜は、インライン型スパッタ装置を用いたため、CrN膜およびCrON(C)膜は膜厚方向に組成が傾斜した傾斜膜であった。
【0089】
この遮光膜は、上記光半透過膜との積層構造で光学濃度(OD)がArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となるように調整されている。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は20%であった。さらに、上記積層構造の光学濃度を面内25箇所測定し、光学濃度の面内ばらつき(面内均一性)を測定したところ、3σ(σは標準偏差)で0.03であった。
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.73nmであった。
【0090】
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を成膜したマスクブランクに対し、高濃度オゾンガスを供給し、遮光膜の表面に高濃度オゾンガスを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスの濃度は100体積%とし、処理時間(オゾンガスを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0091】
作製された位相シフトマスクブランクの上記積層構造の薄膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜における反射防止層の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記表面改質層の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.64nmであった。つまり、上述の高濃度オゾンガスによる処理を施す前の遮光膜の表面の表面粗さRa=0.73nmと比べて、表面粗さは処理前後で0.09nm減少しており(減少率は0.09÷0.73×100=12%)、表面粗さの劣化はなく、表面粗さが小さくなった。また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
【0092】
さらに、処理後の光半透過膜と遮光膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率及び488nmの検査光の波長に対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。また、積層膜の光学濃度の面内ばらつきは、3σで0.02であり、処理前とほとんど変化はなかった。
【0093】
作製した本実施例のマスクブランクに対して実施例1と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記薄膜の光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜を断面TEMで確認したが、膜減りは非常に少なく抑えられていた。また、表面反射率についても確認したが、上記オゾン洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例のマスクブランクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0094】
(実施例4)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、透光性基板上に、遮光膜として、MoSiON膜(裏面反射防止層)、MoSi膜(遮光層)をそれぞれ形成した。
具体的には、MoとSiとの混合ターゲット(Mo:Si=21mol%:79mol%)を用い、ArとO
2とN
2とHeをスパッタリングガス圧0.2Pa(ガス流量比 Ar:O
2:N
2:He=5:4:49:42)とし、DC電源の電力を3.0kWで、モリブデン、シリコン、酸素、窒素からなる膜を6nmの膜厚で形成し、次いで、同じターゲットを用い、Arをスパッタリングガス圧0.1Paとし、DC電源の電力を2.0kWで、モリブデン及びシリコンからなる膜を31nmの膜厚で形成した。
【0095】
次に、上記MoSi系遮光膜の上に、以下のCr系の反射防止膜兼エッチングマスク膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)と酸素(O
2)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:N
2:O
2=30:35:35)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚17nmのCrON層を成膜した。
【0096】
遮光膜及びエッチングマスク膜の合計膜厚は54nmとした。なお、遮光膜及びエッチングマスク膜の光学濃度(OD)はArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0であった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は16%であった。
【0097】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSi系遮光膜とCr系エッチングマスク膜を積層したマスクブランクに対し、Cr系エッチングマスク膜の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスの混合ガスを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスとエチレンガスとの流量比率は2:1とした。処理時間(オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
以上のようにして、ガラス基板上にパターン形成用MoSi系遮光膜およびCr系エッチングマスク膜を有するバイナリマスクブランクを作製した。
【0098】
作製されたバイナリマスクブランクの上記Cr系エッチングマスク膜の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、エッチングマスク膜の表層部分に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が形成されていた。
また、断面TEM観察を行ったところ、処理前後で、表面粗さの低減及びグレインサイズの低減が確認された。
さらに、処理後の遮光膜とエッチングマスク膜の積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対するエッチングマスク膜の表面反射率及び488nmの検査光の波長に対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。
【0099】
作製した本実施例のマスクブランクに対して実施例1と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記薄膜の光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜を断面TEMで確認したが、膜減りは非常に少なく抑えられていた。また、表面反射率についても確認したが、上記オゾン洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例のマスクブランクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0100】
(比較例1)
実施例1において、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、遮光膜における表面反射防止層の表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を省いたこと以外は、実施例1と同様にして位相シフトマスクブランクを作製した。
作製した本比較例の位相シフトマスクブランクの上記遮光膜の表層部分の組成をX線光電子分光法で表面に対する検出器の傾きを30°として詳しく分析したところ、元素組成(原子%比)は、Cr:18.5、O:36.1、N:8.5、C:36.9であった。また、クロム原子数を基準としたときの原子数比は、O/Cr=1.94、N/Cr=0.46、C/Cr=1.99である。
【0101】
光半透過膜及び遮光膜の光学濃度は、3.0であった。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率は20%であった。
また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記遮光膜の表面の表面粗さを測定したところ(測定エリア1μm×1μm)、Ra=0.56nmであった。
【0102】
また、本比較例における上記遮光膜をXPSにより分析した結果を前述の
図3の(b)に示しているが、O1sスペクトルにおいて、結合エネルギーがそれぞれ532eV付近にある第1のピークと530eV付近にある第2のピークとに分離したときに、第2のピーク面積に対する第1のピーク面積の割合が1.4であった。この分析結果から、主に酸化度の高いクロム酸化物(Cr
2O
3など)成分や有機系酸素成分などを含むA成分の割合は58%、主に酸化度の低いクロム酸化物(CrOなど)成分やクロム酸窒化物成分などを含むB成分の割合は42%であった。前述の実施例の結果と対比すると、相対的にA成分の割合が低く、B成分の割合が高い。
【0103】
作製した本比較例のマスクブランクに対して実施例1と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記薄膜の光学濃度を測定したところ、2.8と非常に大きく低下していた。また、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmに対する遮光膜の表面反射率についても確認したところ、35%となっていた。これにより、オゾン洗浄耐性が低いことがわかった。
【0104】
(実施例5)
実施例1と同様にして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。なお、この位相シフトマスクブランクは、実施例1の高濃度オゾンガス処理は施していない。
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は165nmとした。
【0105】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、Cl
2とO
2の混合ガスを用いた。続いて、光半透過膜(MoSiN膜)のエッチングを行って光半透過膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SF
6とHeの混合ガスを用いた。
【0106】
次に、残存するレジストパターンを剥離して、再び全面に上記と同じレジスト膜を形成し、マスクの外周部に遮光帯を形成するための描画を行い、描画後、レジスト膜を現像してレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、遮光帯領域以外の遮光膜をエッチングにより除去した。
残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスクを得た。なお、光半透過膜の透過率及び位相差、光半透過膜及び遮光膜の積層膜からなる光学濃度はマスクブランク製造時と殆ど変化はなかった。
【0107】
以上のようにして、得られた位相シフトマスクに対し、高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを供給して、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンからなる薄膜パターンの表面近傍で混合し、薄膜パターンの表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスとエチレンガスとの流量比率は2:1とした。処理時間(オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
【0108】
作製された位相シフトマスクの上記積層構造の薄膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。この表面改質層は、実施例1のマスクブランクにおいて、10分の高濃度オゾンガス処理をした場合に、遮光膜表面に形成された表面改質層とほぼ同じものであった。
【0109】
また、処理後の光半透過膜パターンと遮光膜パターンの積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。さらに、処理後の光半透過膜パターンのCD及びCDバラツキ、透過率及び位相差も、処理前と変化はなかった。
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、薄膜パターンの光学特性、CD及びCDバラツキが変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0110】
作製した本実施例の位相シフトマスクを電動モータ等で回転させながら、洗浄液供給ノズルから50ppmのオゾン水(室温)を積層膜に対して75分供給することにより、オゾン洗浄を行った。なお、この方法は通常行われているオゾン洗浄よりも過酷な条件である。オゾン洗浄後、上記積層膜の光学濃度を測定したところ、ArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜パターンを断面TEMで確認したが、CD変化は非常に少なく抑えられていた。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、上記オゾン水洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例の位相シフトマスクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0111】
(実施例6)
実施例5において、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層した位相シフトマスクに対し、薄膜パターンの表面に高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを作用させる処理時間を30分としたこと以外は、実施例5と同様にして位相シフトマスクを作製した。
作製した本実施例の位相シフトマスクの上記積層構造の薄膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜の表層部分及び側壁に厚さ約2nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。この表面改質層は、実施例2のマスクブランクにおいて、30分の高濃度オゾンガス処理をした場合に、遮光膜表面に形成された表面改質層とほぼ同じものであった。
【0112】
また、処理後の光半透過膜パターンと遮光膜パターンの積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。さらに、処理後の光半透過膜パターンのCD及びCDバラツキ、透過率及び位相差も、処理前と変化はなかった。
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、薄膜パターンの光学特性、CD及びCDバラツキが変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0113】
作製した本実施例の位相シフトマスクに対して実施例5と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記積層膜の光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜パターンを断面TEMで確認したが、CD変化は非常に少なく抑えられていた。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、上記オゾン水洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例の位相シフトマスクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0114】
(実施例7)
実施例3と同様にして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。なお、この位相シフトマスクブランクは、実施例3の高濃度オゾンガス処理は施していない。
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、実施例5と同様にして、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
以上のようにして、得られた位相シフトマスクに対し、高濃度オゾンガスを供給し、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンからなる薄膜パターンの表面に高濃度オゾンガスを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスの濃度は100体積%とし、処理時間(オゾンガスを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
【0115】
作製された位相シフトマスクの上記積層構造の薄膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。
また、処理後の光半透過膜パターンと遮光膜パターンの積層膜の光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。さらに、処理後の光半透過膜パターンのCD及びCDバラツキ、透過率及び位相差も、処理前と変化はなかった。
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、薄膜パターンの光学特性、CDが変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0116】
作製した本実施例の位相シフトマスクに対して実施例5と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記積層膜の光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記薄膜パターンを断面TEMで確認したが、CD変化は非常に少なく抑えられていた。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの検査光の波長257nmに対する表面反射率についても確認したが、上記オゾン洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例の位相シフトマスクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0117】
(実施例8)
透光性基板としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、この透光性基板上に、以下の遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:10:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚39nmのCrOCN層を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.1Pa,ガス流量比 Ar:NO:He=27:18:55)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚16nmのCrON層を成膜した。最後に、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO
2:N
2:He=20:35:5:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚14nmのCrOCN層を成膜し、合計膜厚69nmの3層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。
この遮光膜は、光学濃度(OD)がArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となるように調整されている。
【0118】
以上のようにして、ガラス基板上に遮光膜のパターン形成用薄膜を有するバイナリマスクブランクを作製した。
次に、上記のバイナリマスクブランクを用いて、バイナリマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ネガレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SLV08)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は200nmとした。
【0119】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、Cl
2とO
2の混合ガスを用いた。
次に、残存するレジストパターンを剥離して、バイナリマスクを得た。なお、遮光膜の光学濃度及び表面反射率はマスクブランク製造時と殆ど変化はなかった。
【0120】
以上のようにして、得られたバイナリマスクに対し、高濃度オゾンガス(100体積%)とエチレンガスとを供給して、遮光膜パターンの表面近傍で混合し、遮光膜パターンの表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を行った。この場合のオゾンガスとエチレンガスとの流量比率は2:1とした。処理時間(オゾンガスとエチレンガスとを作用させる時間)は10分とし、基板は60℃に加熱した。
【0121】
作製されたバイナリマスクの上記遮光膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜パターンの表層部分及び側壁に厚さ略1nmの被膜(表面改質層)が均一に形成されていた。この表面改質層は、上述のマスクブランクにおいて、10分の高濃度オゾンガス処理をした場合に、遮光膜表面に形成された表面改質層とほぼ同じものであった。
【0122】
また、処理後の遮光膜パターンの光学濃度は3.0であり、処理前と変化はなかった。また、露光光の波長193nmに対する表面反射率についても確認したが、処理前と殆ど変化は認められなかった。さらに、処理後の遮光膜パターンのCDは、処理前と変化はなかった。
このように、高濃度オゾンガス処理前後において、遮光膜パターンの光学特性、CDが変化(劣化)することなく、表面改質層を形成することが確認できた。
【0123】
作製した本実施例のバイナリマスクに対して実施例1と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記遮光膜パターンの光学濃度を測定したところ、3.0となっており、光学濃度の低下はほとんどなかった。また、上記遮光膜パターンを断面TEMで確認したが、CD変化は非常に少なく抑えられていた。また、露光光の波長193nmに対する表面反射率についても確認したが、上記オゾン水洗浄前と殆ど変化は認められなかった。つまり、本実施例のバイナリマスクは、極めて高いオゾン洗浄耐性を備えていることが確認できた。
【0124】
(比較例2)
実施例5において、ガラス基板上に光半透過膜パターンと遮光膜パターンを積層した位相シフトマスクに対し、薄膜パターンの表面に高濃度オゾンガスとエチレンガスとを作用させる処理を省いたこと以外は、実施例5と同様にして位相シフトマスクを作製した。
作製した本比較例の位相シフトマスクの上記薄膜パターンの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察したところ、遮光膜パターンの表層部分及び側壁には表面改質層は形成されていなかった。また、光半透過膜パターン及び遮光膜パターンの積層膜の光学濃度は、3.0であった。
作製した本比較例の位相シフトマスクに対して実施例5と同じ条件でオゾン洗浄を行った後、上記積層膜の光学濃度を測定したところ、2.8と非常に大きく低下していた。これにより、本比較例における位相シフトマスクは、オゾン洗浄耐性が低いことがわかった。
【0125】
(実施例9)
実施例5と同様の手順で作製された遮光帯を有するハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。このハーフトーン型位相シフトマスクに対し、実施例5と同じ条件でオゾン洗浄を行った。この準備したハーフトーン型位相シフトマスクを用いて、転写対象物である半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、転写パターンを露光転写する工程を行った。露光装置には、ArFエキシマレーザーを光源とする輪帯照明(Annular Illumination)が用いられた液浸方式のものが用いられた。具体的には、露光装置のマスクステージに、ハーフトーン型位相シフトマスクをセットし、半導体ウェハ上のArF液浸露光用のレジスト膜に対して、露光転写を行った。露光後のレジスト膜に対して、所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成した。
さらに、レジストパターンを用いて、半導体ウェハ上に、DRAMハーフピッチ(hp)32nmのライン&スペース(L&S)パターンを含む回路パターンを形成した。
得られた半導体ウェハ上の回路パターンを電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、DRAMハーフピッチ(hp)32nmのL&Sパターンの仕様を十分に満たしていた。すなわち、このハーフトーン型位相シフトマスクは、半導体ウェハ上にDRAMハーフピッチ(hp)32nmのL&Sパターンを含む回路パターンを転写することが十分に可能であることが確認できた。