特許第5865265号(P5865265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サントリー食品インターナショナル株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865265
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】飲料抽出装置
(51)【国際特許分類】
   A47J 31/10 20060101AFI20160204BHJP
   A47J 31/46 20060101ALI20160204BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   A47J31/10
   A47J31/46
   A23F5/24
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-553553(P2012-553553)
(86)(22)【出願日】2011年8月24日
(86)【国際出願番号】JP2011069050
(87)【国際公開番号】WO2012098725
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-7382(P2011-7382)
(32)【優先日】2011年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313000128
【氏名又は名称】サントリー食品インターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(72)【発明者】
【氏名】中尾 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】横尾 芳明
(72)【発明者】
【氏名】中島 真
(72)【発明者】
【氏名】清水 広朗
(72)【発明者】
【氏名】古田 博規
(72)【発明者】
【氏名】三橋 守男
(72)【発明者】
【氏名】岡 希太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 千勢子
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−038919(JP,A)
【文献】 特開2002−291412(JP,A)
【文献】 特開2007−307357(JP,A)
【文献】 特開2004−016586(JP,A)
【文献】 特開平02−215414(JP,A)
【文献】 特開2006−167301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/10
A23F 5/24
A47J 31/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料抽出用顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出された抽出液を顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備える飲料抽出装置で、
前記顆粒収容部が、飲料抽出用顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えており、
前記注入手段は、前記抽出溶媒を前記顆粒収容部へ注入するためのポンプを備える飲料抽出装置。
【請求項2】
さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、請求項1に記載の飲料抽出装置。
【請求項3】
顆粒収容部が、顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、請求項1又は2に記載の飲料抽出装置。
【請求項4】
制動部材が網目部材である、請求項1〜3のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項5】
顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項6】
前記回収手段は、前記顆粒収容部から抽出液を強制的に排出するためのポンプを備える、請求項1〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項7】
前記顆粒収容部の底部には1つの下部開口が形成され、この下部開口には流路切替弁を介して前記注入手段の供給路と回収手段の送液管路とが接続されている、請求項1〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項8】
前記顆粒収容部の底部には2つの下部開口が形成されており、一方の下部開口には前記注入手段の供給路が接続され、他方の下部開口には前記回収手段の送液管路が接続されている、請求項1〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項9】
前記第2の注入手段は、前記顆粒収容部の側壁であって前記顆粒の上面よりも上方に接続されている、請求項2〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項10】
前記顆粒の上方には、抽出溶媒を顆粒全体に分散させるための分散装置が設けられている、請求項1〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項11】
前記注入手段は顆粒収容部の上部に接続されており、注入手段から顆粒収容部までの少なくとも一部は傾斜面又は曲面で形成されている、請求項1〜10のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項12】
前記注入手段は顆粒収容部の上部に接続されており、注入手段には顆粒収容部の広範囲に抽出溶媒を分散させる注入端が設けられている、請求項1〜10のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項13】
前記顆粒収容部は前記コーヒー顆粒によって左右2つの抽出室に分離されており、一方の抽出室に第1の供給路が接続され、他方の抽出室に第2の供給路が接続され、前記一方の抽出室の下部開口に前記回収手段が接続されている、請求項2〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【請求項14】
前記顆粒収容部の底面は、前記下部開口に向かって傾斜する逆円錐形となっている、請求項1〜のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎植物原料から水抽出により飲料抽出液を得る飲料抽出装置に関し、例えばコーヒーの風味成分を苦味成分と区別して抽出することが可能な飲料抽出液の製造装置に関する。特に、抽出媒体の供給経路の構成を工夫することにより、簡易な構造で苦味成分を低減できる飲料抽出液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆、麦茶用麦、ほうじ茶用茶葉などの焙煎植物原料を焙煎して、熱水等で浸出した液は、コーヒー、麦茶、ほうじ茶などの飲料として多くの人々に愛飲されている。焙煎処理は、焙煎植物原料を熱エネルギーによって化学反応を起こさせ、香り、コク、苦味、酸味、甘味といった独特の香味を生成する。特に、焙煎によって生成する香ばしい香味は極めて嗜好性が高い。
【0003】
焙煎植物原料は、均一に内部まで加熱するのが難しく、焙煎処理においては焦げ味が発生したり、焦げを抑制するために焙煎が浅くなり、焙煎植物原料の中心部分が生焼けとなったりして、その浸出液に苦味や雑味が多くなる等の問題がある。加熱条件を強くして焙煎時間を短くしても、焙煎植物原料の表面だけが焼けて中心部分まで均一に火が通らず、苦いだけでコクのない浸出液となる。
【0004】
そこで、焙煎植物原料から水抽出により得られる飲料用抽出液で、焦げ臭や苦味を低減する方法が提案されている。例えば、焙煎穀物の焦げた部分を除去する精穀工程を含む、焙煎に起因するこげ臭や苦味が少なく、かつ甘味の強い風味の良好な穀物茶飲料を製造する方法(特許文献1)、抽出液中に存在する微粒子、特に、粒子径が5μm以上の微粒子を除去することにより、苦味を除去する方法(特許文献2)等がある。抽出装置を工夫することにより、苦味や雑味を除去することも提案されており、例えば、平均再孔半径が30〜100Å付近に分布した活性炭を装着した抽出装置で、この活性炭によりコーヒー抽出液中の渋味成分であるクロロゲン酸多量体などの高分子黒褐色成分を選択的に吸着除去できるもの(特許文献3)がある。また、コーヒー抽出装置として、抽出液の清澄性を向上しうる装置も提案されている(特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−207113号公報
【特許文献2】特開2001−017094号公報
【特許文献3】特許第2578316号公報
【特許文献4】特開2002−291412号公報
【特許文献5】実登3076826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、抽出液(浸出液)中の不快成分である苦味を低減することは行われているが、苦味が十分に取れていなかったり、或いは苦味は取れるが、同時に焙煎植物独特の豊かな香りや風味、コク味までも取れてしまったりして、焙煎植物の浸出液自体の風味を低下させることがあった。
【0007】
本発明は、焙煎植物原料から水抽出により得られる抽出液において、好ましい風味成分やコクはそのままに、過剰な苦味を選択的に低減しうる、焙煎植物の抽出装置を提供することを目的とし、例えばコーヒーの風味成分を強過ぎる苦味成分と分離して抽出することが可能な飲料抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、焙煎処理により形成される焙煎植物の多孔質構造の隔壁が、強過ぎる苦味成分と特異的に親和力が高いことを見出した。そして、静置状態にある隔壁表面が露出した焙煎植物体に焙煎植物の抽出液を接触させることで、抽出液中に存在する強過ぎる苦味成分をクロマトグラフィー式に吸着除去できることを見出した。具体的には、コーヒー顆粒を制動部材で略密封にした状態で顆粒収容部に収容して静置状態とし、堆積したコーヒー顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させることによって、強過ぎる苦味成分を分離して抽出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
1.コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
2.さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、1に記載のコーヒー抽出装置。
3.顆粒収容部が、コーヒー顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、1又は2に記載のコーヒー抽出装置。
4.制動部材が網目部材である、1〜3のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
5.顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、1〜4のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
6.飲料抽出用の顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出された飲料抽出液を顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備える飲料抽出装置で、前記顆粒収容部が、顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備える飲料抽出装置。
7.さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、6に記載の飲料抽出装置。
8.顆粒収容部が、飲料顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、6又は7に記載の飲料抽出装置。
9.制動部材が網目部材である、6〜8のいずれかに記載の飲料抽出装置。
10.顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、6〜9のいずれかに記載の飲料抽出装置。
11.前記注入手段は、前記抽出溶媒を前記顆粒収容部へ注入するためのポンプを備える、6〜10のいずれかに記載の飲料抽出装置。
12.前記回収手段は、前記顆粒収容部から抽出液を強制的に排出するためのポンプを備える、6〜11のいずれかに記載の飲料抽出装置。
13.前記顆粒収容部の底部には1つの下部開口が形成され、この下部開口には流路切替弁を介して前記注入手段の供給路と回収手段の送液管路とが接続されている、6〜12のいずれかに記載の飲料抽出装置。
14.前記顆粒収容部の底部には2つの下部開口が形成されており、一方の下部開口には前記注入手段の供給路が接続され、他方の下部開口には前記回収手段の送液管路が接続されている、請求項1〜12のいずれかに記載の飲料抽出装置。
15.前記第2の注入手段は、前記顆粒収容部の側壁であって前記顆粒の上面よりも上方に接続されている、請求項7〜13のいずれかに記載の飲料抽出装置。
16.前記顆粒の上方には、抽出溶媒を顆粒全体に分散させるための分散装置が設けられている、請求項6〜15のいずれかに記載の飲料抽出装置。
17.前記注入手段は顆粒収容部の上部に接続されており、注入手段から顆粒収容部までの少なくとも一部は傾斜面又は曲面で形成されている、請求項6〜16のいずれかに記載の飲料抽出装置。
18.前記注入手段は顆粒収容部の上部に接続されており、注入手段には顆粒収容部の広範囲に抽出溶媒を分散させる注入端が設けられている、請求項6〜16のいずれかに記載の飲料抽出装置。
19.前記顆粒収容部は前記コーヒー顆粒によって左右2つの抽出室に分離されており、一方の抽出室に第1の供給路が接続され、他方の抽出室に第2の供給路が接続され、前記一方の抽出室の下部開口に前記回収手段が接続されている、請求項7〜15のいずれかに記載の飲料抽出装置。
20.前記顆粒収容部の底面は、前記下部開口に向かって傾斜する逆円錐形となっている、請求項7〜15のいずれかに記載の飲料抽出装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の飲料抽出装置を用いると、風味とコク味を維持しながらも過剰な苦味のみが低減された、極めて風味の良い焙煎植物抽出液を簡便に得ることができる。例えば、本発明の飲料抽出装置がコーヒー抽出装置の場合、コーヒーの強過ぎる苦味成分を選択的に分離して抽出することができ、極めて風味の良いコーヒー抽出液を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、飲料(コーヒー)抽出装置1を示す図である。
図2図2は、図1と同様の円柱状の飲料抽出装置1を示す図である。
図3図3は、図2と同様の円柱状の飲料抽出装置1を示す図である。
図4図4は、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置された飲料抽出装置1を示す図である。
図5図5は、飲料抽出用の顆粒Mの堆積層全体を制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材の図である。
図6図6は、制動部材11が蓋体の形態であるものを示した図である。
図7図7は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管の中に顆粒収容部2を有する飲料抽出装置の図である。
図8図8は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管の中に顆粒収容部を有する飲料抽出装置の図である。
図9図9は、顆粒収容部2の下部開口2B に2方コックを有する抽出管が形成されている飲料抽出装置の図である。
図10図10は、制動部材を示す図である。
図11図11は、飲料抽出装置としての、電動式のコーヒーメーカーの図である。
図12図12は、顆粒収容部の下部に第1の注入手段、上部に第2の注入手段が接続された飲料抽出装置の図である。
図13図13は、顆粒収容部の下部に第1の注入手段、上部に第2の注入手段が接続された飲料抽出装置の図である。
図14図14は、顆粒収容部の下部に第1の注入手段、上部側壁に第2の注入手段が接続された飲料抽出装置の図である。
図15図15は、抽出溶媒の分散装置を示す図であり、図15(A)は丸穴が分散した形態の平面図であり、図15(B)は細長い放射状穴が形成された形態の平面図であり、図15(C)は分散装置を顆粒収容部に配置した状態を示す断面図である。
図16図16は、蓋体に特徴を有する顆粒収容部を示す図であり、図16(A)は円錐状の蓋体の断面図であり、図16(B)は部分球面状の蓋体の断面図である。
図17図17は、抽出溶媒をシャワー状に注入できる注入端を有する第2の注入手段を備えた飲料抽出装置の断面図である。
図18図18は、顆粒収容部の下部に第1の注入手段、上部側壁に第2の注入手段が接続された家庭用の飲料抽出装置の断面図である。
図19図19は、顆粒収容部の左右に注入手段の2つの供給路が接続された家庭用の飲料抽出装置の断面図である。
図20図20は、底面形状を改良した顆粒収容部を示す断面図であり、図20(A)は抽出溶媒が上下方向に移動する形式のものであり、図20(B)は抽出溶媒が左右方向に移動する形式のものである。
図21】底面形状を改良した顆粒収容部を示す図であり、図21(A)は平面図を示し、図21(B)は図21(A)のB−B線における断面斜視図を示す。
図22図22は、サイフォンの構造を利用した飲料抽出装置を示す断面図である。
図23図23は、顆粒収容部として縦長のコーヒー顆粒管を用いた飲料抽出装置を示す断面図である。
図24図24は、上下に移動可能なコーヒー顆粒管を用いた飲料抽出装置を示す断面図であり、図24(A)はコーヒー顆粒管が上端にある場合を示し、図24(B)はコーヒー顆粒管が下端にある場合を示している。
図25図25は、穀類(オオムギ)、豆類(ダイズ)、茶類(焙じ茶葉、焙じ茶茎)、種子類(コーヒー豆)の電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいう焙煎植物とは、焙煎処理によって水分を蒸発させ、内部の細胞組織を空洞化して多孔質構造を有するものをいう。本発明において使用される植物は、焙煎して多孔質構造を有するものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、オオムギ、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オートムギ、イネ、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ、ソバもしくはハトムギなどの穀類;オーク、サクラ、キハダ、カエデ、トチ、クリ、エンジュ、ケヤキ、ヒノキ、スギ、コウヤマキ、竹、ミズナラ、松、ヒバ、笹、桐、梅、桃、藤、樅、楡、銀杏、椿、柳、桑、チーク、マホガニー、木蓮、柿、杏、花梨、ハマナス、バラ、枇杷、ボケ、キンモクセイ、楠、イチイ、アカシアもしくはウコギなどの樹木;茶類;ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメもしくはインゲンマメなどの豆類;ゴマ、コーヒー豆(コーヒーノキの種子)、ビワの種などの種子類などが挙げられるがこれらに限られない。また、使用される部位も限定されず、例えば、発芽させた種子、発芽していない種子、種皮、芽、花、実、茎、葉または根等が挙げられる。図25に、穀類(オオムギ)、豆類(ダイズ)、茶類(焙じ茶葉、焙じ茶茎)、種子類(コーヒー豆)の電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。写真から明らかなように、穀類、豆類、焙じ茶茎、コーヒー豆は、多孔質構造を有している。一方、焙じ茶葉は、その多孔質構造は断面のみである。したがって、本発明では、吸着剤としての効果の大きさから、穀類の種子、コーヒー豆のような果実の種子、豆類の種子、茶類の茎を対象にした抽出を行うのに適している。特に、コーヒー豆の種子の抽出は、本発明の好ましい態様の一例である。尚、本発明では、焙煎植物の多孔質構造を破壊しない範囲内であれば、粉砕等の処理を行ってもかまわない。本明細書では、平均粒度が0.1〜2.0mm程度、好ましくは0.5〜2.0mm程度、より好ましくは1.0〜1.5mm程度の焙煎植物又はその粉砕物を、飲料抽出用顆粒と表記する(単に、顆粒と表記することもある)。
【0012】
これら植物を焙煎処理して得られる焙煎植物は、焙煎によってできる多孔質構造の隔壁に、焙煎中に産生した多くの成分を産生した順に層をなして吸着し蓄積しており、特に焙煎の最終段階で産生する苦味の強い成分は、隔壁の最表面に吸着していると考えられている。本発明の飲料抽出装置は、焙煎植物の多孔質構造をカラム(固定相)として利用し、クロマトグラフィー式に強過ぎる苦味成分を捕捉して分離することができる装置である。すなわち、焙煎植物の多孔質構造の隔壁(例えば、コーヒー顆粒のハニカム構造の隔壁)に吸着している成分を、水性溶媒を通液することによっていったん脱着させて隔壁表面を露出させ、これに焙煎植物原料を水抽出して得られる抽出液を通液することにより、抽出液中の強過ぎる苦味成分を選択的に吸着除去することが可能な装置である。
【0013】
本発明の装置では、この隔壁表面の成分の脱着、苦味成分の再吸着を煩雑な操作を必要とせずにスムーズに効果的に行うために、略密封状にパッキング(固定化)した飲料抽出用顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させるという方法を採用する。少量の抽出溶媒が最初に顆粒に接触する際(往路)に、多孔質構造の表面に吸着した香気成分、味成分(水溶性呈味成分、苦味成分)をいったん脱着させて多孔質構造の隔壁表面を露出させ、この脱着させた成分を含む抽出溶媒を多孔質構造の表面が露出した顆粒に接触させることにより、抽出溶媒中の苦味成分のみを選択的に再吸着させるものである。ここで、本明細書でいう「抽出溶媒の往復動」とは、顆粒の堆積層に対して、例えば重力方向又は水平方向に往復するように抽出溶媒が流れることをいい、一旦、抽出溶媒が流れた後に、その流れと逆方向に抽出溶媒が流れることを意味する。例えば、多孔質構造の吸着成分を脱着させるために導き入れた抽出溶媒が顆粒層を反重力方向に流れた場合に、得られた焙煎豆表面の抽出液が重力方向に流れるような水(抽出溶媒)の流れをいう。
【0014】
この顆粒堆積層内の抽出溶媒の往復動を再現性よく、煩雑な作業を必要とせずに実施するため、本発明の装置では、コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部でコーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備える顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備える。
【0015】
顆粒を略密封状に収容するための制動部材は、多孔質構造の隔壁表面が露出した焙煎植物(抽出残渣)を静置下で吸着剤として利用するために必要な構成であり、制動部材としては、略密封状に抽出残渣を保持できるもの、例えば抽出部に内接する板状の部材(保持板)や袋状の部材(保持袋)を挙げられる(図1図5参照)。ここで、本明細書でいう「略密封」とは、抽出溶媒の供給時及び/又は抽出液の回収時に、顆粒収容部内で顆粒が運動しない状態をいう。
【0016】
従来のコーヒー抽出装置において、ドリップ式の抽出では、コーヒー顆粒が液面近くまで浮上したり、抽出溶媒の注入経路に応じて移動したりするし、浸漬法の抽出では、コーヒー顆粒が液面近くまで浮上したり、自然対流または攪拌によりコーヒー顆粒が大きく流動する。本発明の装置では、飲料抽出用顆粒の最上面に当接する位置又は近接する位置、及び顆粒の最下面に当接する位置に、制動部材を設置することにより、顆粒を略密封にホールドし、抽出時に顆粒を運動させないようにする。顆粒が運動しないことにより、露出した多孔質構造の隔壁に強過ぎる苦味成分の再吸着が可能となるのである。尚、前記近接する位置とは、飲料抽出用顆粒を抽出溶媒で湿潤させた際に、顆粒が自然に膨潤する分(空隙)だけ顆粒の堆積層の最上面から離間した位置をさす。具体的には顆粒を僅かに圧縮する位置(顆粒の体積の約0.9倍)から、抽出溶媒に接触させた後の顆粒の膨潤を考慮し、顆粒の体積の約2倍(好ましくは約1.5倍)に対応する位置との間の領域内をさす。
【0017】
制動部材の材質や形状は特に限定されない。具体的には、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材で、フラット、円錐状、角錐状、袋状等の形状のものを用いることができる。網目部材のメッシュを小さくし過ぎると目詰まりが発生しやすく、抽出に時間を要して過抽出を引き起こす可能性があることから、メッシュサイズは金属メッシュの場合、アメリカ式メッシュ20〜200番程度のものを用いるのが好ましい。また、網目部材を用いる場合、その周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなどの不織布)で構成し、制動部材を顆粒収容部の内面に圧着するようにして、制動機能を強化してもよい(図10参照)。
【0018】
以下、図面に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1には、円柱状の顆粒収容部2を有する飲料抽出装置1が図示されている。図1における飲料抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。飲料抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口)、2B’(取出し口)が形成され、飲料抽出用顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記顆粒収容部2の下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給弁5Aを備えた供給路5と、前記下部開口2B’から飲料抽出液を貯留タンク6に送る送液弁7Aを備えた送液管路7とで構成されている。ここで、図1に示す飲料抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と供給弁5Aが、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と送液弁7Aが、本発明でいう「回収手段」に相当する。前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材(第1の濾材とも表記する)10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材(第2の濾材、上部濾材とも表記する)11とを備えて構成されている。前記制動部材11は、下部濾材10の上面に投入された飲料抽出用顆粒Mが自然に堆積した状態における上面と略一致する位置に、抽出溶媒を注入した際にコーヒー顆粒Mが流動しないようにセットされている。
【0019】
コーヒー顆粒Mが動かないようにするため、また苦味成分を再吸着しやすくするため、顆粒収容部2の形状は、コーヒー抽出液の進行方向に対して内径がほぼ均一の形状であることが好ましい。内径がほぼ均一の形状とは、顆粒Mの堆積層の軸線に沿う方向の断面形状が略四角形状、すなわちコーヒー顆粒を円柱状または直方体状(立方体状を含む)に堆積して収容しうる形状を意味する。また、抽出部Eの形状は、顆粒収容部2が図1図4に示すような円筒形状である場合、抽出部Eの軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)が0.1〜10、好ましくは2〜6、より好ましくは3〜6の範囲となるように抽出部Eの形状を設計するのが好ましい。上記の範囲を超えると、抽出に時間がかかったり詰まりが発生したりして、過抽出(抽出溶媒が過度に顆粒に接触することにより、顆粒内部のエグミや渋味、雑味が抽出される現象)を生じることがある。また、上記の範囲未満では、本発明の装置が期待する吸着効果が十分に得られないことがある。
【0020】
図1には、顆粒Mの上面と略同一形状の網目部材を保持板(制動部材11)として設置した図が図示されている。また、図5には、コーヒー顆粒Mの堆積層全体を、制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材が図示されている。この形態では、第1の濾材および第2の濾材の区別がなく、制動部材11が第1の濾材としても機能する。さらに、図6に示すような制動部材11が蓋体の形態であるものも本発明に含まれるものとする。制動部材11は、顆粒Mを静置状態に保持できるよう、顆粒収容部に内接する形状であり、顆粒Mに近接又は当接する位置に装着されている。
【0021】
第1の濾材は、制動部材としても機能も果たす。第1の濾材は、抽出溶媒および抽出液が通過可能でコーヒー顆粒がコーヒー抽出液に落下して混入するのを防止できるものであれば特に制限はない。具体的には、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材を例示できる。濾材のメッシュを小さくし過ぎると目詰まりが発生しやすく、抽出に時間を要して過抽出を引き起こす可能性があることから、メッシュサイズは金属メッシュの場合、アメリカ式メッシュ20〜200番程度のものを用いるのが好ましい。また、コーヒー抽出液に含まれる油分を吸着除去できる観点からは、不織布を用いることが好ましい。
【0022】
図2には、図1と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図1と同様に、図2におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図2に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0023】
図3には、図2と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図3におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の上方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記上部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図3に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0024】
図4には、図3と同様のコーヒー抽出装置で、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置されたコーヒー抽出装置1が図示されている。図4におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の左側方向に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の右側方向に相当する。コーヒー抽出装置1は、右端の右部開口2A、左端の左部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記右部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記右部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の左部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記左部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、左部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。顆粒収容部2の左端開口2Bには、コーヒー抽出液へのコーヒー顆粒Mの混入を防止する濾材10が着脱自在に備えられている。図4に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。
【0025】
本発明の装置では、まず制動部材11を利用して、コーヒー顆粒Mを略密封状に抽出部Eにセットする。つまり、図1〜3の装置では、下部濾材10の上面にコーヒー顆粒Mを投入する作業を行い、このコーヒー顆粒Mの上面に当接又は近接する位置に制動部材11をセットし、上部開口2Aを蓋体3で閉塞する。この工程は、本発明の装置を起動させる前に作業者が行う作業である。
【0026】
本発明の装置では、上記の制動部材を利用して、顆粒収容部へ略密封状に顆粒を収容する作業の終了後、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入手段により注入する。抽出溶媒を注入する第1の方向は、顆粒収容部の上方であっても下方であってもよく、また顆粒収容部の右側であっても左側であってもよい。顆粒Mが圧密化により抽出部Eが閉塞することを防止可能であるという観点からは、抽出部Eの下方から上方に抽出溶媒が流れるようにする上昇流とすることが好ましい。したがって、本発明の第1の方向としては、顆粒収容部の下方が好適な態様の一つとして挙げられる。ここで、本明細書中で顆粒収容部について用いられる「上」、「下」、「上部」、「下部」等の方向を示す用語は、特に断りのない限り、装置を載置した際の重力方向を下として表される方向を意味する。また、「上部」は、顆粒収容部の上下方向に見た中央部に対して上側の部分を意味し、必ずしも上端部のみを意味するものではない。同様に、「下部」は、顆粒収容部の上下方向に見た中央部に対して下側の部分を意味し、必ずしも下端部のみを意味するものではない。
【0027】
図1〜3に示す装置では、顆粒収容部2に顆粒Mを略密封状に収容した後、供給弁5Aを開放操作して又は三方弁9を供給路5側に開放操作して必要とする量の抽出溶媒(水、好ましくは熱水)を抽出部Eに注入して、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに達するまで抽出溶媒を満たす。ここで、供給弁5A及び/又は三方弁9は手動式であっても、電磁式等にして制御装置Cによる自動制御可能な形態としてもよい。この抽出溶媒の最初の注入(第1の注入)は、焙煎植物の多孔質構造の隔壁に吸着している成分(主に焙煎時に産生した香気成分、味成分)をいったん脱着させ、多孔質構造の隔壁表面を露出させる、つまり、顆粒を吸着剤として利用した苦味成分の分離を効率よく行うための準備を行うものである。したがって、第1の注入における抽出溶媒の量は、多孔質構造の隔壁に吸着している成分をいったん脱着することが可能な量であればよく、具体的には、顆粒の容積に対して0.3〜2倍量程度、好ましくは0.5〜1.5倍量程度、より好ましくは顆粒の堆積層の略上面程度まで注入される量である。第1の注入において、少量の抽出溶媒を使用することにより、香気成分、味成分の豊かな焙煎植物表面の抽出液を得ることができる。上記範囲より多い量の抽出溶媒を注入すると、その後の苦味成分の吸着工程における分離効率が悪くなったり、焙煎植物内部から雑味が抽出され抽出液の風味を低下させてしまったりすることがある。抽出溶媒の注入量は、顆粒収容部2及び/又は抽出溶媒タンク4に液量計を設け、注入される又は流出する抽出溶媒量を計測して制御してもよいし、顆粒収容部2に液位計を設け、液面の高さを計測して抽出溶媒量を制御してもよい。
【0028】
上記範囲の量の抽出溶媒を、SV(space velocity)=3〜100程度の速度で顆粒収容部に通液することにより、顆粒の吸着成分の脱着を効果的に行うことができる。より好ましい通液速度は、SV=5〜70、好ましくは5〜50、より好ましくは6〜40程度である。この範囲内の通液速度に流速を制御するために、本発明の装置には流れ制御装置を備えることが好ましい。
【0029】
抽出溶媒を抽出部に注入すると、顆粒内に封入されている気泡が抽出部Eに放出され、気泡となって存在する。この気泡が抽出溶媒の注入を妨げることがあることから、顆粒収容部2には脱気手段を設けておくことが好ましい。脱気手段としては、顆粒収容部2内を引圧にする装置、微細振動を与える装置等が例示できるが、抽出液の香気成分を良好に保つためには、微細振動を与える装置が特に好ましい。
【0030】
抽出溶媒がコーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに到達するまで、抽出液の取出しは行わず、静粛なホールド状態を維持しておく。所定量の抽出溶媒が注入されたら、供給弁5Aを閉鎖操作して送液弁7Aを開放操作する、あるいは供給弁5Aを開放したまま送液弁7Aを開放操作する。または、三方弁9を送液管路7側が開放となるように切替操作して、顆粒収容部2の開口2Bより抽出液を取り出す。本発明の装置では、顆粒Mの堆積層内を抽出溶媒が往復動するように進行することが重要であり、そのために、抽出溶媒を顆粒Mの層に関して抽出溶媒が注入される側と同じ側から抽出液を回収する。
【0031】
抽出液の取出しを自然落下により行うのは時間を要し、過抽出(抽出溶媒が過度に顆粒に接触することにより、顆粒内部のエグミや渋味、雑味が抽出される現象)を引き起こすことがあることから、図1及び2のような第2の注入手段を有していない装置の場合には、抽出液Eの取出しをスムーズに行うために、送液管路7又は導管路8にポンプ等の吸引手段を設ける、顆粒抽出部2の抽出部Eの上方(抽出部Eに対して開口2Bと対向する位置)から第1の方向に向かって空気等を送風してその空気圧により開口2Bより吐出を促すなど、力学的な回収手段を設けることが好ましい。
【0032】
図3及び4のような第2注入手段を備えた装置は、抽出部Eからの抽出液が水押しによりスムーズに行われる。また、顆粒Mの強過ぎる苦味成分が顆粒の多孔質構造に捕捉された状態で、第2の注入手段より注入される抽出溶媒により抽出処理がなされるので、図1及び2に示すような装置よりも、多くの飲料抽出液を回収できる。
【0033】
一般に、焙煎植物の抽出液の好ましくない成分としては、隔壁最表面に吸着した強過ぎる苦味成分(焦げ苦味)の他に、抽出の中期から後期にかけて顆粒内部より溶出してくる舌に残る渋味成分が存在する。したがって、図3及び図4に示す装置の第2の注入では、この抽出の中期から後期にかけて溶出する舌に残る渋味成分を回収しないように抽出を制御することで、より風味のよい抽出液を効率よく得ることができる。具体的には、回収手段により取り出す抽出液量が、顆粒の容積に対して0.5〜5倍程度、好ましくは1〜3倍程度、より好ましくは1〜2倍程度とするのがよい。5倍を超えた量を抜取ると、抽出液中に渋味成分を知覚するようになる。第2の注入における抽出溶媒量も、第1の注入と同様に、液位計及び/又は液量計により制御してもよい。
【0034】
このような抽出を行った場合、抽出液の抽出率は20%以下、好ましくは15%以下となる。ここで、抽出率とは以下の式で表される値をいう。
【0035】
コーヒー抽出率(%)={抽出液の重量(g)}×{抽出液のBrix(%)}/{コーヒー顆粒の重量(g)}
(Brixは糖度計で測定される可溶性固形分を示す。糖度計は株式会社アタゴ製 デジタル屈折計 RX-5000α等を例示できる。)
抽出液の回収では、第1の抽出で得られた抽出液中の苦味成分の吸着除去しながら回収を行う。吸着を効率よく行うため、顆粒層を通過する抽出溶媒の速度、すなわち回収液の取出し速度が重要となる。具体的には、回収液の取出し速度が、SV(space velocity)=3〜100程度が好ましく、SV=5〜70がより好ましく、5〜50がさらに好ましく、6〜40が特に好ましい。
【0036】
本発明の装置では、顆粒Mを略密封にした状態でセットし、この顆粒Mの堆積層内を抽出溶媒が往復動するように進行する。抽出溶媒の流れを確実に制御するために、制御装置Cには流れ制御装置を設けることが好ましい。流れ制御装置は、堆積層内を進行する抽出溶媒および抽出液の流れる方向を制御し、かつ、流速を制御する。具体的には、圧力を変える圧力調整機を備えることにより抽出部Eへの抽出溶媒の流れを制御することができる。
【0037】
なお、抽出液を取出す際にも、抽出部E内に存在する気泡が妨げとなることがある。上記の流れ制御装置により第2の注入手段からの流量を多くして流速を制御してもよいし、上記の顆粒収容部2に設けた脱気手段を用いて脱気してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、飲料抽出用顆粒としてコーヒー顆粒を用い、コーヒー抽出液を回収するコーヒー抽出装置を例にして図面に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、コーヒー抽出装置に限られず、焙煎植物から得られる飲料用の抽出液を得るための飲料抽出装置全般に適用可能である。
【0039】
図7及び8は、家庭等で淹れる卓上のコーヒー抽出装置を示す図である。図7は、上下に開口(2A,2B)を有する略円柱状のガラス管の顆粒収容部2を有する。使用者は、まず顆粒収容部2の底部にフィルター(下部濾材)を設置し、その上面にコーヒー顆粒Mを収容し、堆積面の上面に当接又は近接する位置に、コーヒー顆粒Mの流動を制する制動部材を配置する。制動部材としては、堆積面の上面と略一致する形状を有する金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材が例示できる。制動部材は、顆粒Mの流動を制するという目的から、顆粒収容部2に内接する位置に設置するが、特に、網目部材の周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなど)で構成し、制動部材を顆粒収容部2の内面に圧着できるようにするとよい(図10参照)。
【0040】
図7に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2Bに3方コック9を有する抽出管が形成され、チューブを介して熱水容器(溶媒タンク)4と接続されている。この装置では、コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、3方コック9を閉じた状態で熱水容器4に熱水を加え、次いで3方コック9を操作して熱水を抽出部Eに注入し(図8A)、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルまで熱水が満たされた時点で三方コック9を閉じ、上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入する(図8B)。適量の熱水を上部開口から注入したら、3方コック9を操作して抽出管の下端にある回収口からコーヒー抽出液を取り出す(図8C)。第2の方向(図6では抽出部Eの上方で開口2Aのある側)から注入される水の量は、得られるコーヒー抽出液が抽出率20%以下、好ましくは15%以下とするのに適当な量を注入するとよい。ここで、抽出率を20%とするのは、抽出の中期から後期にかけて溶出する舌に残る渋味を回収しないためである。
【0041】
図9に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2B に2方コックを有する抽出管が形成されている。コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、上部開口2Aに安全ピペッターを装着する。抽出管の下端にある回収口の下に熱水容器を設置し、回収口を熱水容器に入れた熱水中に挿入し、2方コックと安全ピペッターを操作して、抽出部の顆粒Mの上面に近いレベルまで熱水を吸い上げる。次に、2方コックを閉じ、安全ピペッターを取り外して、顆粒収容部2の上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入し、再度安全ピペッターを装着し、顆粒収容部2に空気圧を加えてから2方コックを開き、抽出管の下端にある回収口よりコーヒー抽出液を回収する。
【0042】
図11に、電動式のコーヒーメーカー(コーヒー抽出装置1)を例示する。抽出装置1本体には、使用者がコーヒー抽出に使用する水を貯蔵する水タンク4と使用者がコーヒー顆粒をセットする豆貯蔵室(顆粒収容部2)とを備えている。水タンク4に貯蔵されている水は、加熱ヒーター12と一体となっている加熱パイプ12’に導かれて加熱され熱湯となり、流路切替弁9を通り、導管路8から顆粒収容部2に供給される。図11に示す装置では、まず下部注入口2Bから顆粒収容部2に所定量の熱湯が供給された後、上部注入口2Aに所定量の熱湯が供給され、抽出液が保存容器13に溜められ、加熱ヒーター12によって保温される。
【0043】
このようなコーヒーメーカーにおいて、抽出部Eの形状を好ましい形状とする、すなわち顆粒収容部2が円筒形状である場合、顆粒層の軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)が0.1〜10(好ましくは2〜6、より好ましくは3〜6)となるように、使用者自身がコーヒー顆粒を顆粒収容部2に充填するか、専用の使い捨てユニット(コーヒー顆粒Mの層、第1及び第2の濾材10、11を一体化したもの)を充填することが好ましい。または、顆粒収容部2内に使い捨てユニットを所定位置に保持するための保持機構を設け、保持機構内の領域(抽出部E)の寸法を上記範囲となるように設計してもよい。
【0044】
図12は、注入手段が2系統設けられているコーヒー抽出装置1の実施形態を示している。すなわち、顆粒収容部52の下部から抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、顆粒収容部52の上部から抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備えている。第1の注入手段は、第1の供給路51と、この第1の供給路51の途中に接続された第1の供給弁51Aと、抽出溶媒を顆粒収容部52へ押し込むためのポンプ51Bからなり、第1の供給路51には、第1の抽出溶媒タンク54が連通されている。第1の供給路51は、顆粒収容部52の下部開口52Bに接続されている。このため、第1の供給弁51Aとポンプ51Bを制御することで、顆粒収容部52への下部からの抽出溶媒の供給/停止を制御することができる。なお、仮に第1の抽出溶媒タンク54に顆粒収容部52よりも高い内圧が印加されている場合には、ポンプ51Bが不要になる場合もある。
【0045】
第2の注入手段は、顆粒収容部52の上部に配置されており、具体的には蓋体53の上部開口53Aに接続された第2の供給路61と、この第2の供給路61の途中に設けられた第2の供給弁61Aとからなる。そして、第2の供給路61には第2の抽出溶媒タンク64が連通している。このため、第2の供給弁61Aを制御することで、顆粒収容部52の上部からの抽出溶媒の供給/停止を制御することができる。
【0046】
また、当該実施形態では、顆粒収容部52の底部に排出開口52B’が設けられ、この排出開口52B’には送液管路57が接続され、更に送液管路57の途中には送液弁57Aが設けられている。これら送液管路57と送液弁57A、並びに必要に応じて他の構成要素によって、回収手段が形成される。そして、送液管路57の下端は貯留タンク56に向かって開口しており、送液弁57Aを制御することにより、顆粒収容部52内の抽出液を貯留タンク56へ送液することができる。また、送液管路57に図示しないポンプを設置して、顆粒収容部52から強制的に抽出液を排出するようにしてもよい。
【0047】
以上のように構成された抽出装置1の動作について簡単に説明する。まず、コーヒー顆粒Mが顆粒収容部52に収容された状態で、第1の供給弁51Aを開放し、ポンプ51Bを起動する。これにより、第1の抽出溶媒タンク54から第1の供給路51を通って、顆粒収容部52の下部開口52Bへ抽出溶媒(例えば、お湯)が供給される。このとき、コーヒー顆粒Mは上下からそれぞれ制動部材(上部濾材)11と下部濾材10によって挟まれている。このため、抽出溶媒を供給しても、コーヒー顆粒Mの移動は制限されている。そして、抽出溶媒の供給と共に、コーヒーの成分が抽出された抽出液が顆粒収納部52に生成される。そして、収容されているコーヒー顆粒Mの量に対応する抽出溶媒が供給されると、第1の供給弁51Aが閉鎖される。
【0048】
所定時間が経過した後、第2の注入手段から抽出溶媒が注入される。同時に、送液弁57Aが開放されて抽出液は排出開口52B’から排出される。第2の注入手段からの抽出溶媒の水押し効果により抽出液がスムーズに排出される。そして、送液管路57の下方に設けられた貯留タンク56に抽出液が貯留される。この時、抽出液は、第1の注入手段による抽出媒体の供給方向とは逆の方向(下方)に向かって移動する。このため、コーヒー顆粒Mよりも上方に位置していた抽出液は、再度コーヒー顆粒Mを通過することとなる。これにより、上述したようにコーヒーの苦味成分がコーヒー顆粒Mのハニカム構造の隔壁に吸着される。第2の注入手段から所定の量の抽出溶媒が注入されたら、第2の供給弁61Aが閉鎖される。尚、コーヒー顆粒Mには所定の厚みがあるため、コーヒー顆粒Mの上方という語句の持つ意味としては、コーヒー顆粒Mの最下層よりも上という意味である。
【0049】
本実施形態では、2つの抽出溶媒タンク54,64を備えた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、単一の抽出溶媒タンクを設け、この抽出溶媒タンクに第1および第2の注入手段を接続するようにしてもよい。こうすることで、抽出装置1の構造をよりシンプルにすることができる。
【0050】
図13は、図12に開示した抽出装置と大部分の構成要素を共通にしている。しかしながら、第2の注入手段において、第2の供給弁を備えていない点が異なっている。これは、前提として第2の抽出溶媒タンク64において、抽出に必要とされる抽出媒体の量がすでに計量されており、それ以上の抽出溶媒が注入されないような構造になっているものである。このため、第2の抽出溶媒タンク64から抽出溶媒を流出させるタイミングの制御は必要であるが、その量について制御する必要は無いので、第2の供給弁を省略することが可能となる。
【0051】
図14は、図12に開示した抽出装置と大部分の構成要素を共通にしている。しかしながら、第2の注入手段が顆粒収容部52の上部側壁に接続されている点が異なっている。これは、抽出溶剤が顆粒収容部52の側壁の表面に沿って優しく流入するためである。こうすることで、抽出溶媒の注入時の勢いによるコーヒー顆粒Mの乱れ等が抑制され、安定性を維持することができる。上記のような目的を実現するために、第2の供給弁61Aは抽出溶媒の流量を所定量以下に維持し、抽出溶媒が顆粒収容部52の側壁表面から離れないようにしている。
【0052】
本発明の第1の注入及び/又は第2の注入において、過抽出の防止の観点から、顆粒Mの層全体に均一に抽出溶媒を通すように、複数の開口を備える分散板(図15参照)を第1及び第2濾材の外側に配置してもよい。図16は、抽出溶媒を分散させるための分散装置55A,55Bを示している。分散装置55Aは、円盤状の本体に小さな丸穴が多数形成されたものであり、丸穴は上面から下面まで貫通している。図15(C)には、蓋体53の側から注入される抽出溶媒を広範囲に分散させるために、分散装置55Aがコーヒー顆粒Mの上方に配置された図が示されている。分散装置55Aでは、丸穴が格子状に配置されており、この各丸穴を通して抽出溶媒がコーヒー顆粒Mに供給される。また、分散装置55Bは、放射状に細長い放射状穴が形成されたものである。このため、分散装置55Bの中央部に抽出溶媒が供給されると、各放射状穴に抽出溶媒が供給され、コーヒー顆粒Mの全体にわたって抽出溶媒が分散される。尚、分散装置55A,55Bの顆粒収容部52内での高さ方向の位置は様々なケースが考えられ、例えばコーヒー顆粒Mの上面に接するようにしてもよいし、コーヒー顆粒Mの表面から上方に離間させて配置するようにしてもよい。また、分散装置55A,55Bの穴の形状や数は、上述したものに限定されるものではなく、均一に抽出溶媒を分散させることができるものであれば、どのようなものであってもよい。この分散装置には、抽出溶媒の流速を緩和する、すなわち勢いが強い抽出溶媒により顆粒Mが踊る現象を抑制する働きもある。したがって、分散装置の穴は、あまり大きな穴にしない方が好ましい。
【0053】
図16は、蓋体53の形状に特徴を有する顆粒収容部52を示す断面図である。ここで、図16(A)は蓋体53が円錐状の形状を有する例を示している。この蓋体53は、中心部(最上部)に注入手段(図示略)が接続されるようになっており、この中心部から周縁部に向かって円錐形を形成するような傾斜面となっている。そして、注入手段からは抽出溶媒が勢いよく注入されないような供給量になっており、抽出溶媒が傾斜面を伝わって、静かに顆粒収容部52の側壁に達して注入されるようになっている。また、当該実施形態では、分散装置55Aを配置しておくことで、仮に抽出溶媒が勢いよく注入された場合でもコーヒー顆粒Mが踊ってしまうことが有効に防止される。
【0054】
図16(B)は、蓋体53の形状が部分球形状の場合である。図に示すように、中心部(最上部)に注入手段が接続されるのは図16(A)の場合と同様であるが、図16(B)の例では、注入手段から注入された抽出溶媒は部分球形状の球面を伝わって、静かに顆粒収容部52の側壁に達する。特に、蓋体53の内側表面に角部が形成されていないため、抽出溶媒の剥離は生じにくく、抽出溶媒を静かに優しく注入することが可能である。
【0055】
図17は、抽出溶媒をシャワー状に供給することができる注入端63を有する第2の注入手段を備えたコーヒー抽出装置1である。第2の注入手段の注入端63は、シャワーヘッドのような構造を有しており、顆粒収容部52の全体に均一に抽出溶媒を注入できるようになっている。なお、図17においては、重力によって抽出溶媒を注入するような構造に見えるが、本発明はこれに限定されるものでは無い。すなわち、注入端63の穴を小さくすると共に加圧用のポンプ(図示略)などを接続して、多数の細い抽出溶媒流れを形成するようにしてもよい。更には、注入端63の穴を小さくすると共に、加圧力を高めて霧状の抽出溶媒の状態で注入するようにしてもよい。
【0056】
図18は、本願発明を家庭用の電動式コーヒーメーカー(コーヒー抽出装置)1に応用した例を示す図である。ここで、当該抽出装置1は、各構成要素を収容する抽出装置本体1Aと、抽出装置本体1A内に収納されている抽出溶媒タンク54と、当該抽出溶媒タンク54に供給路51,61を介して接続されている顆粒収容部52とを備えている。
【0057】
抽出溶媒タンク54は、内部に抽出溶媒(お湯)を収容しており、2つの供給路51,61から顆粒収容部52へ抽出溶媒を注入することができるようになっている。本実施形態の供給路51,61は、顆粒収容部52の下部開口52Bから抽出溶媒を注入する第1の供給路51と、顆粒収容部52の上部から抽出溶媒を注入する第2の供給路61とからなる。第1の供給路51と下部開口52Bとの間には、流路切替弁59が設けられており、下部開口52Bからの抽出溶媒の注入及び下部開口52Bからの抽出液の排出を切り替えることができるようになっている。
【0058】
また、第2の供給路61は、顆粒収容部52の上部の側壁に接続されており、顆粒収容部52の内壁面に沿って抽出溶媒を優しく注入できるようになっている。ここで、第2の供給路61には供給弁61Aが設けられていないが、第2の供給路61の途中に設けても良いし、抽出溶媒タンク54と一体に設けるようにしてもよい。また、流路切替弁59の下方には送液管路57が設けられており、ガラス製のコーヒーサーバーやコーヒーカップなどへ抽出液を注ぐことができるようになっている。
【0059】
図19は、図18の抽出装置1と多くの点で共通する構成要素を備えている。しかしながら、コーヒー顆粒Mが横向きの姿勢となり、このコーヒー顆粒Mを境として左右に抽出室が形成されている点が異なる。このような構成の相違に起因して、コーヒー顆粒Mの左側の抽出室に開口している第1の供給路51と、コーヒー顆粒Mの右側の抽出室に開口している第2の供給路61とが設けられている。そして、これら第1および第2の供給路51,61は、流路切替弁59を介して抽出溶媒タンク54に接続されており、この流路切替弁59を制御することで各供給路51,61のからの抽出溶媒の注入を制御することができる。第2の供給路61の開口端は、空気中に浮いたような位置に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、顆粒収容部52の内壁面に接するような位置に開口端を位置決めし、抽出媒体が優しく注入されるようにしてもよい。
【0060】
顆粒収容部52には底面に下部開口52Bが形成されており、この下部開口52Bには送液弁57Aが接続されている。送液弁57Aは顆粒収容部52からの抽出液の排出を制御するためのものであり、この送液弁57Aが接続される下部開口52Bは。コーヒー顆粒Mの左側の抽出室に開口している。
【0061】
以上のように構成された抽出装置1の動作を説明すると、まず、流路切替弁59の作用により、抽出溶媒タンク54から第1の供給路51に抽出溶媒が供給される。そして、第1の供給路51に供給された抽出溶媒は、第1の供給路51の開口端から左側の抽出室へ注入される。この時、第1の供給路51の開口端は顆粒収容部52の内壁面付近に設けられているため、抽出媒体が内壁面を伝って優しく注入されるようになっている。このため、当該第1の供給路51からの抽出溶媒の注入によってコーヒー顆粒Mが乱れることは無い。そして、抽出媒体の注入に伴って、コーヒー成分が抽出された抽出液は、右側の抽出室へも流れ込む。
【0062】
一方、流路切替弁59を切り替えることによって、第1の供給路51への抽出溶媒の供給は停止する。この状態で、所定時間経過した後に、更に流路切替弁59が動作し、第2の供給路61への抽出溶媒の供給が開始される。当該抽出溶媒の供給により、右側の抽出室の抽出液は徐々に左側の抽出室へ移動することとなる。この時、下部開口52Bに接続された送液弁57Aが開放され、顆粒収容部52に存在している抽出液が排出される。
【0063】
図20は、顆粒収容部52の底面形状を改良したものの断面図である。ここで、図20(A)は図18のコーヒーメーカーに使用される顆粒収容部52である。この図に示すように、顆粒収容部52の底面は、下部開口52Bを中心とした逆円錐形領域52Cとなっている。これにより、抽出液が円滑に下部開口52Bに集まり、貯留タンクへ排出することができる。但し、逆円錐形領域52Cに滞留する抽出液は、排出の際にコーヒー顆粒Mを通過することが無い。このことは、当該領域53C内の抽出液は苦味成分が除去されないことを意味する。このため、そのような抽出液の量を最小化するために、逆円錐形の傾斜をできるだけ緩いものにする必要がある。また、図20(B)は、図22のコーヒーメーカーに使用される顆粒収容部52である。図20(A)のものと基本的な考え方は同一であるが、こちらは抽出溶媒が左右方向に移動するものであるため、下部開口52Bも左側に寄っている。このため、逆円錐形の領域52Cも左側に寄っている。
【0064】
図21は、顆粒収容部52の底面に傾斜溝52Dを形成した例である。顆粒収容部52の底面自体は傾斜していないが、傾斜溝52Dは顆粒収容部52の周縁部から中心部に向かって徐々に深くなるように形成されている。このため、コーヒー顆粒Mを通過した抽出液が傾斜溝52Dを伝わって下部開口52Bに集まることとなる。また、図20で開示した逆円錐形の領域に比べ、抽出液が滞留できる領域が傾斜溝52D部分に限定されるため、苦味成分が吸着されない抽出液の量を最小限に抑えることができる。尚、52Dが溝ではなく凸部を形成し、凸部の間を傾斜溝(流路)としてもよい。
【0065】
図22は、サイフォンを利用したコーヒー抽出装置1の例である。図に示すように、基本的な構成は従来のサイフォンと類似している。しかしながら、上容器72内のコーヒー顆粒Mには上下に制動部材11と下部濾材10が設けられている点が異なる。これは、コーヒー顆粒Mの移動を制限して、苦味成分の吸着効果を高めるためである。当該実施形態では、下容器76に水が蓄えられて加熱される。水が加熱されることでお湯となり、サイフォン現象によりお湯が上容器72に上昇する。その際、コーヒー顆粒Mの領域をお湯が下方から上方に向かって通過する。そして、加熱を停止することで、抽出液が上容器72から下容器76へ移動することとなる。抽出液がコーヒー顆粒Mを再度通過するときに、苦味成分がコーヒー顆粒Mに吸着される。
【0066】
使用する水の量は、コーヒー顆粒Mの容積の顆粒の容積に対して0.3倍〜2倍量程度が許容範囲であるが、望ましくは0.5〜1.5倍量程度である。また、コーヒー顆粒Mの軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)は0.1〜10が許容範囲であるが、2〜6程度が望ましい。更に、お湯の供給速度(下容器→上容器、上容器→下容器)は、SV(space velocity)=3〜100程度が許容範囲であるが、7〜34程度が望ましい。なお、内圧変化に基づくサイフォン現象を利用した通液の場合、供給速度が速すぎて、目的とする苦味成分の吸着が十分に行われない可能性がある。また、抽出液の温度が低下してしまう欠点や、抽出率が極端に低くてコスト高になってしまうという欠点がある。このため、全ての水が上容器72に移動したところで、手動により上部から抽出溶媒(お湯)の供給(第2の注入)をするようにしてもよい。
【0067】
図23は、円柱状のコーヒー顆粒Mを用いたサイフォン式のコーヒー抽出装置(コーヒーメーカー)1である。このコーヒー抽出装置1は、コーヒー顆粒Mと、このコーヒー顆粒Mの上部に位置する上容器72と、コーヒー顆粒Mの下部に位置する下容器76とを備えている。また、コーヒー抽出装置1内には、抽出溶媒タンク(水タンク)74が設けられ、この抽出溶媒タンク74の水が加熱されて、供給路71を介して上容器72に供給できるようになっている。更に、下容器76の下方には、当該下容器76を加熱するための加熱手段75が設置されている。

当該コーヒー抽出装置1の動作を説明すると、コーヒー顆粒Mは、下部濾材10と制動部材11によってコーヒー粉が動かないように挟まれた略円柱状の管(コーヒー管)である。そして、下容器76に水(コーヒー顆粒Mの容積の0.3〜2倍程度の量)を充填しておく。その後、コーヒー管を下容器76と上容器72との間に設置する。コーヒーメーカーには、その内部に下容器76とは別の水タンク74が装備されている。
【0068】
上記のような状態で、加熱手段75によって下容器76内の水が加熱される。下容器76内の水が加熱されることによるサイフォン効果により、下容器76からコーヒー管内のコーヒー顆粒Mを通ってお湯が上容器72に向かって上昇する。この時、供給路71は閉じている。下容器76の水のほとんどが上容器72に移動したら、供給路71が開放されて、水タンク74から加熱されたお湯が上容器72に供給される。抽出液と供給されたお湯とは共に混合され、下容器76へ移動する過程でコーヒー管を通過する。このとき、苦味成分はコーヒー顆粒Mのハニカム構造に吸着されて、すっきりした味わいのコーヒーが抽出されることとなる。なお、次の抽出工程は、コーヒー管を新たなものに取り換えることによって行われる。
【0069】
図24は、コーヒー管が上下方向に移動する形式のコーヒーメーカー1である。先ず、図24(A)の状態においては、コーヒー管(コーヒー顆粒M)は、上容器72内において上方に位置決めされている。そして、コーヒー管の下部には開口部が形成されている。一方、コーヒー管の底面は弁が設けられており、閉じた状態が維持されている。この状態で、供給路71からお湯が供給される。供給されたお湯は、上容器72内に供給されると共に、コーヒー管の開口部を通ってコーヒー顆粒Mに侵入する。これにより、コーヒー顆粒Mからコーヒーが抽出される。

次に、図24(B)に示すように、コーヒー管を下方に位置決めする。それと同時に、コーヒー管の底面の弁が開放される。これにより、上容器72の抽出液がコーヒー管を通って下容器76へ移動する。その際に、全ての抽出液はコーヒー顆粒Mを通過するために、苦味成分が吸着されることとなる。このように、コーヒー管を上下に移動することで、抽出液がコーヒー顆粒Mを通過するように構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、飲料、例えばコーヒーを抽出するための飲料抽出装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 飲料(コーヒー)抽出装置
2 顆粒収容部
2B、2B’ 下部開口
3 蓋体
5 供給路
7 送液管路
M コーヒー顆粒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図10
図25