(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示された技術では、パルス幅がピコ秒台またはフェムト秒台のレーザの基本波を直接使用することによって非線形光学素子による変換ロスをなくし、また多光子吸収を起こさせることによって、大面積の半導体薄膜に対するレーザアニールが可能としている。多光子吸収を効率的に行うには、レーザのピークパワー密度を高くする必要がある。しかしながら、レーザ光のビームスポットを小さくすると、多光子吸収によるアニール面積も小さくなるので、アニールに要する加工時間がかかってしまう。逆にレーザ光のビームスポットを大きくすると、レーザのピークパワー密度が小さくなり、多光子吸収の確率が下がってしまい、多光子吸収の効率が下がってしまう。
【0006】
上記多光子吸収の確率はレーザ光のピークパワー密度の2乗に比例するため、基板の構造、組成のばらつき、不純物等の励起準位を変化させる因子の影響によるレーザ光の吸収量の変化が上記多光子吸収の確率に大きく影響する。よって、加工箇所によって多光子吸収による加熱の度合いがばらつき、温度がばらついてしまう。また、一般に、フェムト秒レーザによる加工では、基板表面の溶融のみに留まらず、該基板の一部を除去してしまうアブレーション加工になり易い。そのため、フェムト秒レーザを用いたアニールでは、加工状態のコントロールや加工条件の選定が困難である。
【0007】
また、多光子吸収によるレーザアニールにおいては、該アニールを行なうために、なるべく熱を発生させるようにフェムト秒レーザの出力を上げてアニール加工が行われる。このとき、基板表面にゴミや欠陥などが存在すると、これらが吸収端となり、意図せずアブレーション加工となってしまうことがある。このような基板表面に存在するゴミや欠陥などに起因するアブレーションは常に起こるとは限らないが、一度発生すると、それらが吸収端となり、アブレーション加工が続く状態になってしまう。よって、例えば、レーザ光を基板上にある方向に走査してアニールを行う場合、該走査に伴って線加工されたようになってしまい、結果的に、基板表面が損傷を受けることになる。
【0008】
さて、最近では、パワー半導体の高電流化によって、半導体基板内部のより深い箇所(例えば、基板表面から1μm以上の深さ)までアニールする必要性が高まっている。フェムト秒レーザ光による熱拡散長はナノ秒レーザ光による熱拡散長よりも小さく、フェムト秒レーザでは熱が伝達しにくい。よって、フェムト秒レーザ光による多光子吸収を用いたレーザアニールでは、表面から深い位置にて多光子吸収を生じさせても、その深い位置ではアニールが行なわれるが、基板表面までアニールをすることが難しい。一方、基板表面において多光子吸収させてアニールをする場合においても、上述のようにフェムト秒レーザ光では熱拡散長が小さいので、アニールされた表面部分から内部への熱の拡散(伝達)は小さくなる。よって、内部までのアニールはほとんど起こらないと言える。このように、フェムト秒レーザを用いた多光子吸収によるレーザアニールでは、基板表面のアニールはできても、基板の深部までアニールすることは困難である。
【0009】
また、特許文献3に開示された技術では、波長が400nm〜650nmであり、パルス幅がナノ秒台のナノ秒レーザとしての第1のパルスレーザビームおよび第2のパルスレーザビームを用いてアモルファスシリコンをアニールする場合、基板表面から浅い領域しかアニールができない。何故ならば、波長400nm〜650nmの光は、アモルファスシリコン表面付近でその大部分が吸収されてしまうため、深い領域ほどアニールするのに十分な光が届かない可能性が高い。さらに、上記アモルファスシリコンが上記アニールにより結晶化されると、光吸収率がさらに高くなる。よって、第1のパルスレーザビームおよび第2のパルスレーザビームは基板の浅い部分でほとんど吸収され、アニールに十分な光が深部まで届くことが困難であると言える。また、アモルファスシリコンでの吸収を考慮しつつ、深い領域までアニールに十分な光を伝達しようとすれば、レーザ光の強度を強くせざるを得なく、基板表面は高強度のレーザ光による加熱により熱損傷を受けるかもしれない。
【0010】
上述では、被アニール材料としてアモルファスシリコンを例に挙げたが、ナノ秒レーザを用いるレーザアニールにおいては、基板の表面から深部までアニールすることは難しい。レーザアニールを行なうという観点から、用いるレーザの波長は、被処理物の材料の吸収率が高くなるように選択されるべきである。この場合は、上記と同じ理由で、基板の深い領域までアニールするのに十分な光を伝達させることは難しいだろう。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、処理用のレーザ(例えば、アニール用のレーザ)による基板表面の損傷を軽減しつつ、基板の表面からより深い領域まで処理(例えば、アニール)が可能であり、該処理の時間を低減可能なレーザ処理装置、およびレーザ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、被処理物の少なくとも一部に所定の処理を施すレーザ処理装置であって、前記被処理物の一領域の光吸収率を一時的に高くするための第1のパルスレーザと、該一時的に光吸収率が高くなった一領域に吸収される第2のパルスレーザとを発振するレーザ光発生装置と、前記レーザ光発生装置の、該レーザ光発生装置から発生したレーザの後流側に設けられ、前記被処理物を設置可能な設置面を有する支持部とを備え、前記レーザ光発生装置は、前記第1のパルスレーザのパルスから、前記一時的に光吸収率が高くなった一領域の光吸収率が元に戻るまでの所定時間以内の時間だけ遅延して前記第2のパルスレーザを出射する。
【0013】
本発明の第2の態様は、レーザ処理方法であって、第1のパルスレーザにより、被処理物の一領域の光吸収率を一時的に高くする第1の工程と、前記一時的に光吸収率が高くなった一領域の光吸収率が元に戻る前に、前記被処理物に対して第2のパルスレーザを照射する第2の工程であって、前記一時的に光吸収率が高くなった一領域と前記第2のパルスレーザの照射領域とが重なっている領域が少なくとも存在するように前記第2のパルスレーザを照射して、前記一時的に光吸収率が高くなった一領域に前記第2のパルスレーザを吸収させることにより、前記一領域を含む領域を加熱する工程とを有する。
【0014】
このように、被処理物が第2のパルスレーザにより照射される前に第1のパルスレーザを照射して被処理物の一領域に一時的に光吸収率が高くなった一領域を形成し、該一時的に光吸収率が高くなった一領域の光吸収率が元に戻る前に第2のパルスレーザを照射して、上記所定の処理を行っている。よって、そのままでは上記所定の処理を施すのに十分な特徴量(例えば、強度、光量、エネルギー密度など)の第2のパルスレーザが通常の状態であれば吸収されにくい場所であっても、該場所は光吸収率が一時的に高い状態になっているので、該場所において上記所定の処理を施すのに十分な光を吸収させることができる。よって、基板表面から深い場所であっても、上記所定の処理を良好に行うことができる。また、第2のパルスレーザのパルス幅を多光子吸収が発生しないように長くしても、上記深い場所まで所定の処理を施すことができる。よって、基板表面の損傷を低減することができる。さらに、一時的に光吸収率が高くなった一領域に第2のパルスレーザを吸収させ熱拡散や電子(正孔)の拡散を利用して加熱領域を拡大している。従って、上記所定の処理が施される領域を拡大することができ、処理の時間を低減することができる。
【0015】
上記所定の処理は、レーザアニール処理であっても良く、第1のパルスレーザにより上記一時的に光吸収率が高くなった一領域に第2のパルスレーザを照射することで上記一領域を少なくとも含む領域を加熱してレーザアニール処理を行っても良い。
【0016】
上記第2のパルスレーザのパルス幅は、上記一時的に光吸収率が高くなった一領域の熱伝導が起こる時間よりも長くても良い。よって、第2のパルスレーザ照射による熱拡散を良好に発生させることができ、第2のパルスレーザにより加熱されて形成された高温部を第2のパルスレーザ入射側に拡大することができる。
【0017】
上記第1のパルスレーザは、上記被処理物をアブレーションしない条件で照射されても良い。このように設定することで、被処理物が第1のパルスレーザにより損傷を受けることを軽減することができる。
【0018】
上記第1のパルスレーザは、フェムト秒レーザであっても良く、第2のパルスレーザは、ナノ秒レーザであっても良い。このようにすることで、第2のパルスレーザを被処理物に線形吸収させることができ、発生する熱量の制御を容易にすることができる。
【0019】
上記第1のパルスレーザのスポット径と、上記第2のパルスレーザのスポット径とは略同一であっても良い。このように設定することで、第1のパルスレーザと第2のパルスレーザとにおいて無駄に消費されてしまう部分を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理用のレーザ(例えば、アニール用のレーザ)による基板表面の損傷を軽減しつつ、基板の表面からより深い領域まで処理(例えば、アニール)が可能であり、該処理の時間を低減可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0023】
(第1の実施形態)
本実施形態では、第1のパルスレーザと第2のパルスレーザとを用い、被処理物(例えば、シリコンなどの半導体層)の一領域(被処理物の表面、または該被処理物の内部)において、第1のパルスレーザにより高温部の起点となる起点領域を形成し、次いで、第2のパルスレーザにより上記起点領域を加熱して該起点領域を少なくとも含んだ領域(高温部)の温度を上昇させる。このような加熱処理の例として、例えば、結晶化、活性化などのアニール処理が挙げられる。また、上記加熱処理は、アニール処理とは言わなくても、局所的に加熱する場合にも適用できる。
【0024】
より具体的には、多光子吸収が生じる条件の第1のパルスレーザを照射することにより被処理物の表面または内部に該被処理物の他の領域よりも光吸収率が高い領域(以下、“光吸収率増加領域”とも呼ぶ)を一時的に形成する。すなわち、第1のパルスレーザにより、被処理物において、多光子吸収が起こる領域(以下、“多光子吸収箇所”とも呼ぶ)を形成する。該多光子吸収箇所の深さ方向は、レーザ光学系を調整することによって制御可能である。上記多光子吸収によって、プラズマ(自由電子、正孔)が発生し、該プラズマが発生している領域が光吸収率増加領域となる。上記第1のパルスレーザとしては、超短パルスレーザが好ましい。また、上記第1のパルスレーザは、被処理物にて多光子吸収は生じるが、アブレーションは起きない条件で照射されることが好ましい。
【0025】
次いで、上記光吸収率増加領域が形成されている間に、第1のパルスレーザよりも高パワーである第の2パルスレーザを該光吸収率増加領域に照射し、該光吸収率増加領域に第2のパルスレーザを吸収させる。該光吸収率増加領域では、被処理物の、光吸収率増加領域以外の領域よりも一時的に光吸収率が高くなっている。よって、光吸収率増加領域は、通常の被処理物に比べて光を吸収し易い状態となっている。本実施形態では、一時的に光吸収率が高くなっている光吸収率増加領域の光吸収率が元に戻る前に、該光吸収率増加領域に第2のパルスレーザを入射させている。すなわち、第1のパルスレーザが照射された後に発生したプラズマの持続時間内に第2のパルスレーザを照射する。よって、被処理物内のある位置において、ある条件(波長、強度、繰り返し周波数など)のパルスレーザでは、通常では所望の加熱(アニールなど)ができなかったとしても、上記ある位置を光吸収率増加領域とすることにより、上記条件のパルスレーザであっても上記所望の加熱を行なうのに十分な光を吸収させることができる。その結果、光吸収率増加領域において、所望の加熱処理(アニールなど)を行なうことができる。
【0026】
上記第2のパルスレーザとしては、被処理物に線形吸収される、通常のレーザアニールで用いるレーザ(例えば、ナノ秒レーザ、該ナノ秒レーザよりもパルス幅が広いパルスレーザなど)を用いれば良い。第2のパルスレーザとしては、光吸収率増加領域においてレーザ光が吸収され、かつ光吸収率増加領域の熱伝導(光吸収率増加領域の原子の振動によって周囲に熱が伝わること)が起こる時間(被処理物の熱拡散時間)よりもパルス幅が長いことが好ましい。このようにパルス幅を設定することで、レーザ照射による熱の拡散を良好に行なうことができ、被処理物の内部において、第2のパルスレーザ照射により形成された高温部を該第2のパルスレーザ照射側に広げることができる。
【0027】
例えば、アニール処理に着目すると、被処理物の深い部分に光吸収率増加領域を形成する場合、光吸収率増加領域から表面までアニールすることが必要になる。このようなアニールを実現するためには、上述のように、パルス幅の長いレーザ、および/または複数のパルスを光吸収率増加領域に照射することで表面までアニールすることができる。本実施形態において、光吸収率増加領域が形成された深い領域から表面までアニールする方法としては、熱拡散と光吸収とが、被処理物の、レーザ光の入射側でより多く起こることを利用する。熱の拡散は、被処理物の密度をρ、被処理物の比熱をC、温度をT、熱伝導率をkとすると、
【0029】
に従う。第2のパルスレーザ照射によって高温部となった光吸収率増加領域に対してさらに第2のパルスレーザが照射されることにより、熱拡散によって上記光吸収率増加領域よりもレーザ入射側の領域の温度も高くなる。これが繰り返されることにより、被処理物(例えば、シリコン)の表面までアニールすることができる。すなわち、熱拡散によって光吸収率増加領域よりも該光吸収率増加領域に近接する表面側の部分の温度が高くなる。よって、この部分の光吸収率は増加するので、この領域においても第2のパルスレーザの吸収量が増加し、高温部となる。この高温部からの熱の拡散によって該高温部の、レーザ入射側の隣接する領域の温度が増加して光吸収率も増加し、この領域における第2のパルスレーザの吸収量が増加し、高温部となる。これらが繰り返された結果、光吸収率増加領域を起点として高温部形成が基板表面側に進行し、表面までアニールされるのである。
【0030】
本実施形態では、上記第2のパルスレーザ照射が光吸収率増加領域を起点とした高温部形成に作用することができれば、第2のパルスレーザの照射領域内に光吸収率増加領域が含まれるように第2のパルスレーザを照射しても良いし、光吸収率増加領域内に第2のパルスレーザの照射領域が含まれるように第2のパルスレーザを照射しても良い。あるいは、第2のパルスレーザの照射領域の一部が光吸収率増加領域に含まれるように第2のパルスレーザを照射しても良い。すなわち、第2のパルスレーザの照射領域(例えば、焦点)と光吸収率増加領域とが重なっている領域が少なくとも存在していれば良い。
【0031】
なお、本明細書において、「光吸収率増加領域」とは、第1のパルスレーザが所定の条件で照射されることにより一時的に形成される領域であって、上記所定の条件の第1のパルスレーザが照射されてから所定時間(所定期間)だけ一時的に、第2のパルスレーザに対する吸収率が増加する領域である。よって、光吸収率増加領域は、上記所定時間過ぎると、元の状態に戻る。
【0032】
また、本明細書において、「所定時間」とは、被処理物の一領域(表面の一部または内部の一部)が、所定の条件で入射した第1のパルスレーザによって光吸収率増加領域となった時から、該光吸収率増加領域から元の状態に戻るまでの期間である。すなわち、光吸収率増加領域の形成が継続されている期間である。例えば、フェムト秒レーザによって生成されたプラズマ(電子、空孔)の寿命は数100psである。よって、光吸収率増加領域が生成された該寿命内(所定時間内)に十分なパワーの第2のパルスレーザを入射する。
【0033】
このように、本実施形態では、第1のパルスレーザを用いて、所定のレーザ光に対して一時的に光吸収率が高くなり、被処理物において(該被処理物の表面または内部に)、所定時間経過すると光吸収率が元に戻る光吸収率増加領域を形成し、上記第1のパルスレーザよりもパルス幅が長く、所望の熱拡散を発生させる第2のレーザを用いて、上記光吸収率増加領域を起点に加熱することが本質の1つである。すなわち、光吸収率増加領域において第2のパルスレーザを効率良く吸収させて、光吸収率増加領域を含んだ領域を加熱し、他の領域よりも温度が高い領域(高温部)を形成することが重要なのである。このように、第1のパルスレーザ照射は、対象領域を加熱するためではなく、第2のパルスレーザにより加熱する際の下地を形成する機能、すなわち、光吸収率増加領域を形成する機能を有する。一方、第2のパルスレーザ照射は、上記光吸収率増加領域を起点にその周囲の領域(例えば、光吸収率増加領域からレーザ入射側の基板表面までの領域)まで加熱する機能を有する。
【0034】
本実施形態では、上記思想を実現できるレーザを、第1のパルスレーザおよび第2のパルスレーザとして選択する。
【0035】
本実施形態では、第1のパルスレーザとして、被処理物に対して透明またはほぼ透明な超短パルスレーザを用いることが好ましく、フェムト秒レーザを用いることがさらに好ましい。第1のパルスレーザとしてフェムト秒レーザを用いる場合は、パルス幅が30ps以下であることが好ましく、20ps以下であることがさらに好ましく、さらには10fs以上、20ps以下であることが好ましい。
【0036】
第1のパルスレーザとしてフェムト秒レーザを用いることにより、被処理物の一部(表面または内部)において、第2のパルスレーザ(例えば、ナノ秒レーザ、またはサブナノ秒レーザ)に対する光吸収率が、他の領域よりも高い領域(光吸収率増加領域)を一時的に形成することができる。本実施形態では、第1のパルスレーザとしては、上述のようなフェムト秒レーザ等、被処理物の一部を本実施形態の光吸収率増加領域にすることが可能な超短パルスレーザであればいずれのレーザを用いても良い。なお、第1のパルスレーザの照射条件としては、多光子吸収は起こるが、レーザ焦点およびその周辺部を熱により溶融しないような条件であることが好ましい。もちろん、レーザ焦点および/またはその周辺部が熱により溶融しても構わない。また、基板の一部(入射側の基板表面、焦点部分など)においてアブレーションが起こらない条件であることも好ましい。
【0037】
さらに、本実施形態では、第2のパルスレーザとして、第1のパルスレーザよりもパルス幅が広い短パルスレーザを用いることが好ましく、パルス幅が100ps以上、1μs以下の短パルスレーザを用いることがさらに好ましく、さらには100ps以上、20ns以下の短パルスレーザを用いることが好ましい。例えば、第2のパルスレーザとして、ナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザ、またはナノ秒台よりも長いパルス幅を有するパルスレーザを用いることができる。第2のパルスレーザとしてナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザを用いることにより、第1のパルスレーザとしてフェムト秒レーザを用いて被処理物の内部(深部)において光吸収率増加領域を形成した場合、該光吸収率増加領域を局所的に加熱することができる。本実施形態では、第2のパルスレーザ光としては、上述のようなナノ秒レーザ、サブナノ秒レーザ等、形成された光吸収率増加領域にて吸収される波長帯を有するレーザであって、被処理物の光吸収率増加領域以外の領域(元の領域)に対しては透明、またはほぼ透明であるレーザであればいずれのレーザを用いても良い。
【0038】
なお、本実施形態では、第1のパルスレーザおよび第2のパルスレーザ共に、被処理物に対して透明、またはほぼ透明であることが本質では無い。本実施形態では、第1のパルスレーザを被処理物の一部(内部や表面における一部)に照射して光吸収率増加領域を形成し、第2のパルスレーザを光吸収率増加領域に照射して該光吸収率増加領域を加熱することが本質である。よって、第1のパルスレーザおよび第2のパルスレーザが照射すべき領域に所望の結果を得るための条件で照射されれば、その途中における吸収の有無、あるいはその程度は関係無いのである。例えば、深度が浅い箇所に対するレーザアニールの場合、被処理物が半透明であってもとしても、光吸収率増加領域の形成や加熱を良好に行なうことができる。また、被処理物が半透明であり、レーザアニール深度が深い場合であっても、レーザ出力を調整することにより、光吸収率増加領域の形成や加熱を良好に行なうことができる。
【0039】
図1は、本実施形態に係るレーザアニール処理装置100の模式図である。
レーザアニール処理装置100は、第1のパルスレーザとしてのフェムト秒レーザ、および第2のパルスレーザとしてのナノ秒レーザをそれぞれ単一に出射することができ、かつ第1のパルスレーザから所定時間だけ遅延した第2のパルスレーザとを空間的に重畳して出射することが可能なレーザ光発生装置101を備えている。該レーザ光発生装置101は、光源102、1/2波長板103、偏光ビームスプリッタ(PBS)104、ミラー105、遅延回路106、および1/2波長板107を有している。
【0040】
光源102は、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザをそれぞれ単独で発振することもできるし、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同期して発振することもできるように構成されている。該光源102は、フェムト秒レーザを発振する短パルス光源102aと、ナノ秒レーザを発振する長パルス光源102bとを有する。
【0041】
短パルス光源102aの、レーザの進行方向の後流側には1/2波長板103が設けられおり、該1/2波長板103の後流側にPBS104が設けられている。本実施形態では、短パルス光源102aから発振されたフェムト秒レーザが、PBS104に対してP偏光で入射するように1/2波長板103は構成されている。従って、短パルス光源102aから出力されたフェムト秒レーザは、1/2波長板103にてP偏光になり、PBS104をそのまま透過する。
なお、本明細書においては、光源102から出力されたレーザの進行方向の後流側を単に“後流側”と呼び、光源102から出力されたレーザの進行方向の上流側を単に“上流側”と呼ぶことにする。
【0042】
長パルス光源102bの後流側には、ミラー105、遅延回路106、および、1/2波長板107がこの順番で設けられており、ミラー105にて反射された、長パルス光源102bから発振されたナノ秒レーザが、遅延回路106および1/2波長板107を介してPBS104に入射するように、ミラー105、遅延回路106、および1/2波長板107は位置決めされている。本実施形態では、長パルス光源102bから発振されたナノ秒レーザが、PBS104に対してS偏光で入射するように1/2波長板107は構成されている。従って、1/2波長板107の上流側から入射されたナノ秒レーザは、1/2波長板107にてS偏光になり、PBS104にて反射されてPBS104の後流側に出射される。
【0043】
本実施形態では、PBS104は、短パルス光源102aおよび長パルス光源102bのそれぞれの後流側に設けられ、短パルス光源102aから発振されたフェムト秒レーザと長パルス光源102bから発振されたナノ秒レーザとを同一の方向から出射しているので、短パルス光源102aから発振されたフェムト秒レーザと長パルス光源102bから発振されたナノ秒レーザとの合波部としても機能することができる。
【0044】
本実施形態では、短パルス光源102aおよび長パルス光源102bからフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同期して(同時に)発振した場合に、長パルス光源102bから発振されたあるナノ秒レーザパルスが、該あるナノ秒レーザパルスと同期して発振された長パルス光源102aから発振されたフェムト秒レーザパルスよりもある時間遅延してPBS104に入射するように、遅延回路106は構成されている。なお、上記ある時間は、第1のパルスレーザとしてフェムト秒レーザを被処理物に入射して生じた光吸収率増加領域の形成が持続する期間、すなわち、所定時間内の時間(例えば、3ns以内の時間)である。従って、短パルス光源102aからのフェムト秒レーザの発振と長パルス光源102bからのナノ秒レーザの発振とを同期して行うと、あるフェムト秒レーザパルス108aと該フェムト秒レーザパルス108aと同期して発振されたナノ秒レーザパルス108bとは、PBS104から上記ある時間だけ時間的にずれて出射される。すなわち、PBS104からは、フェムト秒レーザパルス108aから上記ある時間だけ遅れてナノ秒レーザパルス108bが出射される。
【0045】
PBS104の後流側には、短パルス光源102aから出射されたフェムト秒レーザおよび長パルス光源102bから出射されたナノ光レーザの双方は反射し、可視光は透過するように構成されたダイクロイックフィルタ109、レンズ110、およびXYZステージ111がこの順番で設けられている。従って、PBS104から出射された、フェムト秒レーザとナノ秒レーザとが合波されたレーザは、ダイクロイックフィルタ109にて反射され、レンズ110を介してXYZステージ111に保持された被処理物112に入射する。
【0046】
なお、XYZステージ111のX軸およびY軸はXYZステージ111の被処理物112を設置するための設置面の面内方向にあり、Z軸は該設置面の法線方向である。XYZステージ111は、上記設置面上に設置された被処理物112を、X軸、Y軸、Z軸に沿って所望に応じて移動できるように構成されている。
また、本実施形態では、レンズ110により集光された可視光の焦点と、レンズ110により集光されたフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザの焦点とは一致している。
【0047】
XYZステージ111の設置面と対向して、CCDカメラ113が設けられている。該CCDカメラ113は可視光を発振する可視光光源を有しており、該可視光光源から発振された可視光がダイクロイックフィルタ109を介してXYZステージ111に保持された被処理物112に入射し、該被処理物112にて反射された可視光がダイクロイックフィルタ109を介してCCDカメラ113の撮像素子に入射するように、CCDカメラ113、ダイクロイックフィルタ109、レンズ110、XYZステージ111が位置決めされている。
【0048】
XYZステージ111およびCCDカメラ113には、XYZステージ111およびCCDカメラ113を制御する制御部114が電気的に接続されている。この制御部114は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU、およびこのCPUによって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM、CPUの処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM、およびフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリなどを有する。また、制御部114には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部115、XYZステージ111の入力・設定状態、CCDカメラ113の撮像画像などをはじめとする種々の表示を行う表示部116(例えば、ディスプレイ)が接続されている。
【0049】
次に、所定のレーザ光の焦点を被処理物の内部の所定の位置に設定する方法の一例を説明する。
レンズ110により集光される焦点を加工対象物112の表面に設定する場合、制御部114は、CCDカメラ113から可視光を照射した状態で、被処理物112が設定されたXYZステージ111をZ軸方向に移動させながら、CCDカメラ113にて撮像データを取得するように、XYZステージ111およびCCDカメラ113を制御する。制御部114は、上記CCDカメラ113にて取得された各撮像データに基づいて、可視光のレンズ110を介した焦点が加工対象物112の表面と一致する時の、XYZステージ111の位置を取得し、この位置を基準位置として、制御部114のRAMに記憶される。よって、制御部114は、レンズ110から集光される焦点が被処理物112の表面と一致する場合に対応するXYZステージ111のZ軸方向の位置を基準位置として保持することになる。なお、この基準位置は、レンズ110が同一の位置に設けられ、被処理物の厚さが、上記測定のものと同一である場合には流用できる。
【0050】
被処理物の内部の所定の位置にレンズ110を介したフェムト秒レーザやナノ秒レーザの焦点を設定する場合は、上記基準位置を用いてXYZステージ111のZ軸方向の位置を変動させる。例えば、被処理物112の表面からxμmの位置に上記焦点を設定したい場合は、ユーザが入力操作部115により、被処理物112の表面から焦点までの距離に関する焦点距離情報としてxμmを入力し、さらに被処理物112の屈折率を入力する。制御部114は、RAMに格納された基準位置に基づいてXYZステージ111を移動させ、被処理物112の表面がレンズ110からの焦点と一致するようにする。次いで、制御部114は、ユーザから入力された焦点距離情報および被処理物112の屈折率に基づいて、入力された屈折率におけるxμmの対応距離を演算し、該演算結果に基づいて、被処理物112の表面から内部に向かってxμmの位置に焦点位置が来るように上記基準位置から所定距離だけ下方(Z軸方向であって、レンズ110から遠ざかる方向)にXYZステージ111を移動させる。これにより、レンズ110から集光したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザの焦点は、被処理物112の内部の所定の場所に位置することになる。
【0051】
図2は、本実施形態に係る光源102の構成を示す図である。
図2において、短パルス光源102aは、発振器201、パルス間引き器202、分岐カカプラ203、ストレッチャ204、予備増幅器205、増幅器206、パルス圧縮器207、およびシャッター208を備えている。一方、長パルス光源102bは、ストレッチャ209、予備増幅器210、増幅器211、およびシャッター212を備えている。
なお、シャッター208はパルス圧縮器207から出射されたフェムト秒レーザが照射されても破壊されないように構成されている。同様に、シャッター212は増幅器211から出射されたナノ秒レーザが照射されても破壊されないように構成されている。
【0052】
図2において、50MHz、100fsのレーザ光を発振する発振器201の後流側は、パルス間引き器202が光ファイバを介して接続されており、パルス間引き器202は、発振器201から入射された50MHz、100fsのレーザ光を1MHz、100fsのレーザ光に変換して後流側に出射する。パルス間引き器202の後流側は、3dBカプラである分岐カプラ203が光ファイバを介して接続されており、分岐カプラ203の出力端の一方には光ファイバを介してストレッチャ204が光ファイバを介して接続されており、他方にはストレッチャ209が光ファイバを介して接続されている。
【0053】
ストレッチャ204は、分岐カプラ203の一方の出力端から出射された、1MHz、100fsのレーザ光を、1MHz、100psのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ204の後流側は、予備増幅器205が光ファイバを介して接続されており、該予備増幅器205の後流側は、増幅器206が光ファイバを介して接続されており、該増幅器206の後流側は、光ファイバを介してパルス圧縮器207が光ファイバを介して接続されている。該パルス圧縮器207は、増幅器206から出射されたレーザ光を1MHz、800fsのレーザ光に変換し、該1MHz、800fsのレーザ光は、短パルス光源102aの出射端213から出射される。このようにして、短パルス光源102aは、1MHz,800fsのフェムト秒レーザを出射することができる。このとき、パルス圧縮器207の後流側には矢印方向Pに移動可能なシャッター208が設けられているので、短パルス光源102aは、シャッター208の開閉動作により、フェムト秒レーザの発振をオン、オフすることができる。
【0054】
このように、本実施形態では、分岐カプラ203の一方の出力端と出射端213とを光学的に接続する第1の経路に含まれる各構成要素を分岐カプラ203の一方の出力端から出射されたレーザが通過することにより、該レーザが出射すべきフェムト秒レーザに変換される。
【0055】
一方、ストレッチャ209は、分岐カプラ203の他方の出力端から出射された、1MHz、100fsのレーザ光を、1MHz、10nsのレーザ光に変換して後流側に出射する。ストレッチャ209の後流側は、予備増幅器210が光ファイバを介して接続されており、該予備増幅器210の後流側は、増幅器211が光ファイバを介して接続されている。増幅器211から出射された1MHz、10nmのレーザ光は、長パルス光源102bの出射端214から出射される。従って、長パルス光源102bは、1MHz、10nsのナノ秒レーザを出射することができる。このとき、増幅器211の後流側には矢印方向Pに移動可能なシャッター212が設けられているので、短パルス光源102bは、シャッター212の開閉動作により、ナノ秒レーザの発振をオン、オフすることができる。
【0056】
このように、本実施形態では、分岐カプラ203の他方の出力端と出射端214とを光学的に接続する第2の経路に含まれる各構成要素を分岐カプラ203の他方の出力端から出射されたレーザが通過することにより、該レーザが出射すべきナノ秒レーザに変換される。
【0057】
本実施形態では、分岐カプラ203の一方の出力端から出射されたレーザ光が短パルス光源102aの出射端213まで通過する第1の経路の光路長と、分岐カプラ203の他方の出力端から出射されたレーザ光が長パルス光源102bの出射端214まで通過する第2の経路の光路長とが同一に設定されている。従って、単一の発振器201から出射された単一のレーザ光を分岐して、互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザとして発振することができる。なお、光路長の調整は、例えば、各構成要素間に設けられた光ファイバの長さおよび屈折率の少なくとも一方を適宜変えることによって行えば良い。
【0058】
また、本実施形態では、短パルス光源102aおよび長パルス光源102bがそれぞれ、シャッター208、212を備えているので、シャッター208、212の開閉の組み合わせにより、光源102は、フェムト秒レーザ単体、およびナノ秒レーザ単体で出射することができ、さらにはフェムト秒レーザと該フェムト秒レーザと同期したナノ秒レーザとを同時に出射することができる。シャッター208、212の開閉制御は、制御部114が行っても良い。
【0059】
なお、本実施形態では、予備増幅器205、210に、入射されるレーザ光をオン、オフするスイッチ機能を持たせても良い。この場合は、予備増幅器205、210がそれぞれ、上流側から入射された光を遮断することができるので、予備増幅器205、210のオン、オフを制御することで、光源102から出射されるレーザ光の選択を行うことができる。例えば、予備増幅器205、210を共にオン状態とすれば、光源102からは互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザが出射され、予備増幅器205をオン状態とし、予備増幅器210をオフ状態とすれば、光源102はフェムト秒レーザのみを出射する。同様に、予備増幅器205をオフ状態とし、予備増幅器210をオン状態とすれば、光源102はナノ秒レーザのみを出射する。
【0060】
また、分岐カプラ203を、分岐比可変機能を有する分岐カプラにしても良い。この場合、互いに同期したフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを出射する場合は、分岐カプラ203の一方の出射端と他方の出射端との分岐比を、50:50にし、フェムト秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を100:0にし、ナノ秒レーザのみを出射したい場合は、上記分岐比を0:100とすれば良い。
【0061】
このような構成により、短パルス光源102a、長パルス光源102b、1/2波長板103、PBS104、ミラー105、遅延回路106、および1/2波長板107を備えるレーザ光発生装置は、第1、第2のパルスレーザを単体で発振することができ、かつ第1および第2のパルスレーザを時間的、空間的に重畳して発振することができる。
【0062】
以下で、
図3(a)〜(d)を用い、本実施形態に係る、被処理物の内部から表面までのレーザアニール方法を説明する。
図3(a)〜(d)は、本実施形態に係るレーザアニール処理を説明するための模式図である。なお、本実施形態では、被処理物112は、半導体材料である。
【0063】
まずは、被処理物112をXYZステージ111上に配置し、レンズ110により集光される焦点位置を設定する。次いで、光源102からレーザ発振することにより、
図3(a)に示すように、被処理物112内の所定の位置にフェムト秒レーザ301を集光させることにより、光吸収率増加領域302を形成する。
【0064】
具体的には、ユーザが入力操作部115により、光吸収率増加領域302を形成すべき深さ(被処理物302のレーザ照射側の表面300から内部に向かった距離)および被処理物112の屈折率が入力されると、制御部114は、RAMに格納された基準位置および上記ユーザ入力に基づいて、XYZステージ111を移動させ、被処理物112の内部の所定の位置にレンズ110による焦点が位置するようにXYZステージ111を制御する。これと共に、制御部114は、シャッター208、212共に開くようにシャッター208、212を制御する。従って、光源102からはフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザが出射されることになる。
【0065】
次いで、制御部114が、短パルス光源102aから発振されているフェムト秒レーザが、多光子吸収は起こるが、レーザ焦点およびその周辺部を熱により溶融しないようなエネルギーまでレーザ出力が減衰されるように、光源102とダイクロイックフィルタ109との間に設けられた出力減衰器(不図示)を制御し、アニール予定線に沿ってレーザが所定の走査速度で走査されるようにYXZステージ111を移動させる。これにより、表面300から所定の深さにおいて、アニール予定線に沿って光吸収率増加領域302が形成される。この時、フェムト秒レーザのエネルギー密度は、被処理物112をアニールする程のエネルギーを持つ必要は無く、固体内部プラズマもしくは光イオン化現象を誘起する程度のエネルギーが有ればよい。すなわち、第1のパルスレーザとしてのフェムト秒レーザのパワーは、被処理物112にてプラズマを発生させるのに十分なパワーがあれば良く、大量の熱を発生させてアニールする程のパワーは必要ない。ただし、被処理物112がアブレーションされない条件でフェムト秒レーザを入射する。例えば、被処理物112がシリコンである場合、アブレーション加工される閾値が0.1〜0.2(J/cm
2)であるので、シリコン表面上にて0.1(J/cm
2)以下のフェムト秒レーザを入射すれば良い。この時、固体内部プラズマもしくは光イオン化の自己吸収(アバランシェ吸収)により、透明材料の光吸収率は一時的に上がる。内部プラズマもしくは光イオン化は光子密度の濃い領域でのみ発生するため、透明材料に対して局所的に光吸収率の大きい部分を形成するのが目的である。
【0066】
アニール予定線上の光吸収率増加領域の各々において、光吸収率が元に戻る前に、ナノ秒レーザ303を照射する。本実施形態では、
図1に示すように、遅延回路106を設けているので、光源102からフェムト秒レーザおよびナノ秒レーザを同時に発振した場合、ナノ秒レーザがフェムト秒レーザよりもある時間だけ遅れて光吸収率増加領域に入射する。なお、ナノ秒レーザ303は、フェムト秒レーザ301と空間的および/または時間的にオーバーラップすることが好ましい。第2のパルスレーザであるナノ秒レーザ(被処理物に対して透明なレーザ)を照射することにより、ナノ秒レーザは材料の表面では吸収されずに、一時的に形成された光吸収率増加領域302で吸収されることになり、被処理物112の内部を局所的に加熱する事ができる。この加熱により、被処理物302を含む高温部304が形成される。
【0067】
一般的に、半導体材料は、高温になると光の吸収率が増加する。本実施形態では、第1のパルスレーザとしてのフェムト秒レーザにより被処理物112の内部にプラズマを生成させて光吸収率増加領域302を形成し、第2のパルスレーザとしてのナノ秒レーザを該光吸収率増加領域302に吸収させて、該光吸収率増加領域302を高温部に変換する。このとき、ナノ秒レーザを高温部302にさらに照射すると、該ナノ秒レーザは、高温部302にて吸収されるため、熱拡散の影響等によりレーザ入射側(表面300側)で吸収され易くなる。その結果、高温部302のレーザ入射側の領域304の温度が上がり、該領域が高温部304となる(
図3(b))。さらに、高温部302、304からの熱拡散により、高温部304よりもレーザ入射側の領域305の温度が上昇すると共に光吸収率も増加し、ナノ秒レーザ303の吸収量も増加する。よって、領域305が高温部となる(
図3(c))。このような作用が繰り返されることにより、ナノ秒レーザ照射により形成される高温部の領域が、光吸収率増加領域302から表面300側へと拡大し、表面300まで達し、アニール領域306を形成することができる(
図3(d))。このようにして、ナノ秒レーザ303照射による、光吸収増加領域302を起点として表面300までのアニールが行なわれる。
【0068】
なお、本実施形態では、第1および第2のパルスレーザの繰り返し周波数や加工速度(走査速度)を調整することで、アニールの深度(基板表面からの深さ方向の距離)を調節することができる。
【0069】
上述のように、本実施形態では、第1のパルスレーザとしてのフェムト秒レーザ301の照射は、被処理物112の内部において光吸収率増加領域302を形成するためのものであり、ナノ秒レーザ303によっても被処理物112の深い部分において良好なアニールを起こさせるためのきっかけを形成するように機能する。
一方、第2のパルスレーザとしてのナノ秒レーザ303の照射は、該光吸収率増加領域302から表面300までの領域に対してアニールに値する加熱を施すように機能する。
【0070】
このように、本実施形態では、アニールに寄与する加熱はナノ秒レーザ303によって行なうが、該ナノ秒レーザの吸収率を一時的に高めた領域(光吸収率増加領域302)を被処理物112の内部に形成し、該光吸収率増加領域302を起点にナノ秒レーザ303による加熱を行なっている。よって、表面300から深い部分までアニールする場合、ナノ秒レーザ303が被処理物112によって吸収されて、アニールを起こすのに十分な条件のナノ秒レーザが上記深い部分まで到達しない場合であっても、本実施形態の方法によれば該深い部分においてアニールを起こすのに十分なナノ秒レーザを吸収させることができる。何故ならば、その深い部分には光吸収率増加領域302が予め形成されているので、光吸収率増加領域302が形成されていない場合よりも高い割合でナノ秒レーザを吸収させることができるからである。よって、被処理物112の深い領域までレーザアニールを施すことができる。
【0071】
なお、本実施形態では、被処理物112の深い部分までレーザアニールすることを考慮すると、レーザアニールが進む方向(高温部が拡大する方向)も重要である。すなわち、本実施形態では、まずは、被処理物112の内部の一領域(光吸収率増加領域に対応)をアニールし、表面300側はアニールされていない状態において、被処理物112の内側から外側に向かってアニールさせることが重要である。何故ならば、レーザアニールの初期段階においては、被処理物112の内部に形成された光吸収率増加領域302およびその近傍のみがレーザアニールによって結晶化されているので、それらよりも表面300側はまだ結晶化されておらず光吸収率が低い状態にある。よって、ナノ秒レーザ303照射によって形成された高温部304、305へと、新たな高温部形成に十分な特徴量のナノ秒レーザ303を伝達させることができる。よって、被処理物112の内側から外側(表面300)に向かってレーザアニールが行なわれるようにすることが好ましい。本実施形態では、フェムト秒レーザ301により光吸収率増加領域302を形成し、該光吸収率増加領域が継続されている間にナノ秒レーザ303によりレーザアニールを行なっている。よって、被処理物112の内部において、周囲の光吸収率は低い状態で局所的に光吸収率増加領域302を形成することができ、被処理物112の内部から外部に向かったレーザアニールを行なうことができる。
【0072】
また、本実施形態では、アニール領域306の幅を、レーザの照射領域よりも広くすることができる。特に、特許文献1、2では、多光子吸収によるアニールを前提としており、多光子吸収のためのフェムト秒レーザでは熱拡散がほとんど起こらないので、1回のレーザ走査におけるアニール幅は小さくなってしまう。これに対して、本実施形態では、実際のレーザアニールに係る加熱をナノ秒レーザによって行なうので、フェムト秒レーザよりも熱拡散を多くさせることができる。従って、アニール領域306の幅を大きくすることができ、レーザの1走査によるアニール領域を大きくすることができる。よって、走査回数を低減することができ、処理時間を低減することができる。
【0073】
また、本実施形態では、レーザアニールに係る加熱をフェムト秒レーザではなく、ナノ秒レーザによって行なっているので、被処理物112の表面にゴミや欠陥があったとしても、それを吸収端としたアブレーションは発生しない。よって、レーザアニール時における予期せぬ事態などによるアブレーション発生を防ぐことができ、レーザアニール用のレーザによる基板表面の損傷を低減することができる。
【0074】
特許文献1、2においては、多光子吸収により実際のレーザアニールを行なっている。多光子吸収は、入力エネルギーにより吸収率が非線形的に変化するので、入力エネルギーのわずかな変化が発生する熱量に大きな違いを生んでしまう。これに対して、本実施形態では、被処理物112に線形吸収されるナノ秒レーザにより、実際のレーザアニールに係る加熱を行なっている。よって、発生させる熱量はレーザのパワーに比例するので、該熱量の制御を容易にすることができる。
【0075】
(実施例)
被処理物112としてリンをドープしたSi基板を用い、該Si基板に本実施形態に係るレーザアニールを行なった。
【0076】
第1、第2の実施例では、第1のパルスレーザとして、波長が1050nmであり、繰り返し周波数が1MHzであり、パルス幅が800fsであるフェムト秒レーザを用い、第2のパルスレーザとして、波長が1050nmであり、繰り返し周波数が1MHzであり、パルス幅が10nsであるナノ秒レーザを用いた。また、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザのパワーを表1に示す値に設定した。フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザのスポット径は130μmであり、XYZステージ111の走査速度は、600mm/sであった。また、フェムト秒レーザとナノ秒レーザとの間の時間間隔(上記ある時間)は、3nsであった。本実施例では、被処理物112であるSi基板にリンをドープした深さは、約1μmであった。よって、本実施例では、1μmの深部までレーザアニール処理を行った。
【0078】
第1、第2の比較例として、第1、第2の実施例においてフェムト秒レーザを用いずにアニール処理を行った。すなわち、第1、第2の比較例において、波長が1050nmであり、繰り返し周波数が1MHzであり、パルス幅が10nsのナノ秒レーザを用いた。第1、第2の比較例におけるナノ秒レーザのパワーは表1に示された通りである。また、第1、第2の比較例におけるナノ秒レーザのスポット径は130μmであり、XYZステージ111の走査速度は、600mm/sであった。さらに、第1、第2の比較例では、被処理物であるSi基板にリンをドープした深さは、約1μmであった。
【0079】
図4は、第1、第2の実施例および第1、第2の比較例と、シート抵抗値との関係を示す図である。
図4に示されるように、第1の比較例、第2の比較例においては、ナノ秒レーザの波長は1050nmであり、1光子吸収によってもある程度アニールが起こっている。しかしながら、第1、第2の実施例から分かるように、フェムト秒レーザをナノ秒レーザに先立って照射して光吸収率増加領域を形成することで、同じ条件でフェムト秒レーザ照射を行なっていない第1、第2の比較例に比べてシート抵抗値を降下させることができる(アニール効果を高めることができる)。これは、フェムト秒レーザをナノ秒レーザに先立って照射することで、プラズマがSi基板内に発生し、ナノ秒レーザが吸収されやすくなった為にアニールされて、注入イオンが活性化されたためだと推測する。
【0080】
フェムト秒レーザのパワーおよびナノ秒レーザのパワー以外は固定にし、フェムト秒レーザのパワーおよびナノ秒レーザのパワーを変更して、本実施例を行なった。
図5は、本実施例において、アニール処理が実現できる、フェムト秒レーザパワーとナノ秒レーザパワーとの関係を示す図である。
【0081】
図5において、領域501内の条件であれば、アニール処理が良好に行われる。また、フェムト秒レーザパワーおよびナノ秒レーザパワーの少なくとも一方が領域501よりも小さい場合は、パワーが小さくなるほど抵抗値が高くなる。よって、ユーザの許容範囲に応じて、フェムト秒レーザパワーおよびナノ秒レーザパワーを決定すれば良い。一方、フェムト秒レーザのパワーが5Wよりも大きい場合、該フェムト秒レーザによりアブレーション加工が起こってしまう。また、ナノ秒レーザのパワーが15Wよりも大きい場合、該ナノ秒レーザにより基板表面がダメージを受けてしまう。よって、本実施例では、レーザ照射によるダメージを軽減するためには、フェムト秒レーザのパワーを5W以下とし、ナノ秒レーザのパワーを15W以下とすることが好ましい。
【0082】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1のパルスレーザ(例えば、フェムト秒レーザ)および第2のパルスレーザ(例えば、ナノ秒レーザ)のビームスポット径、およびレーザ焦点位置については、(1)第1のパルスレーザが多光子吸収を発生させ、プラズマ(光吸収率増加領域)を起こさせる条件(エネルギー密度、パルス幅など)であること、および(2)第2のパルスレーザが、第1のパルスレーザによって生じたプラズマ(光吸収率増加領域)に吸収されること、を満たすように設定されることが好ましい。
【0083】
第1のパルスレーザとしてフェムト秒レーザを用い、第2のパルスレーザとしてナノ秒レーザを用いる場合を考える。フェムト秒レーザによって生成されるプラズマは、集光点近傍で生成される。該プラズマは、エネルギー密度がある一定以上で無ければ発生しない。よって、プラズマは、フェムト秒レーザのビーム径よりも少し小さいと考えられる。該プラズマ(光吸収率増加領域)にナノ秒レーザを吸収させるので、ナノ秒レーザのスポット径は、フェムト秒レーザのスポット径程度の大きさであることが望ましい。このように設定することで、フェムト秒レーザおよびナノ秒レーザにおいて無駄に消費されるエネルギーを低減することができる。