(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865377
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】金属コーティング鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20160204BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20160204BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20160204BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20160204BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20160204BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/40
C23C2/02
C23C2/28
C25D5/26 A
C25D5/26 B
C23C28/00 B
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-534827(P2013-534827)
(86)(22)【出願日】2011年10月21日
(65)【公表番号】特表2013-540207(P2013-540207A)
(43)【公表日】2013年10月31日
(86)【国際出願番号】KR2011007914
(87)【国際公開番号】WO2012053871
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2013年6月10日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0103043
(32)【優先日】2010年10月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン−スー
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジュ−ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ユン−ハ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン−サン
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−083923(JP,A)
【文献】
特開昭63−270492(JP,A)
【文献】
特開2003−033802(JP,A)
【文献】
特開昭63−266093(JP,A)
【文献】
特開平01−119651(JP,A)
【文献】
特開2004−209787(JP,A)
【文献】
特開2008−248229(JP,A)
【文献】
特開2002−117779(JP,A)
【文献】
特開2007−247018(JP,A)
【文献】
神戸 徳蔵,“NPシリーズ 無電解めっき”,日本,槇書店,1990年 9月30日,1版 4刷,p.13-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
C25D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板上に、ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属及び上記金属の酸化物を含むコーティング層を有し、
前記金属はNi、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択される1種であり、
前記金属の酸化物は酸素換算量で0.5〜5重量%であり、
前記金属及び前記金属の酸化物は前記金属の換算量で0.1〜3g/m2である、ことを特徴とする金属コーティング鋼板。
【請求項2】
前記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の金属コーティング鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の金属コーティング鋼板のコーティング層上に溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であり、前記溶融亜鉛めっき鋼板のGDSグラフ上で、前記金属のピークが酸素のピークより溶融亜鉛めっき層に近く位置することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記酸素のピークにおける酸素含量が0.05〜1重量%であることを特徴とする請求項3に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の金属コーティング鋼板の製造方法に関するもので、
前記金属はNiであり、
素地鋼板の表面をNi2+のモル濃度がSO42−のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングすることを特徴とする金属コーティング鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記溶液のPHが4〜6であることを特徴とする請求項6に記載の金属コーティング鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の金属コーティング鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項3〜5の何れか1項に記載の金属コーティング層上に溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するもので、
前記金属はNiであり、
素地鋼板の表面をNi2+のモル濃度がSO42−のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングする段階と、前記コーティングした鋼板を加熱する段階と、前記加熱した鋼板を冷却する段階と、前記焼鈍した鋼板を溶融亜鉛めっきする段階と、を含むことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記溶液のPHが4〜6であることを特徴とする請求項9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記加熱する段階は750〜900℃で行うことを特徴とする請求項9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記溶融亜鉛めっきする段階は440〜480℃のめっき浴で行うことを特徴とする請求項9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことを特徴とする請求項9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記溶融亜鉛めっきする段階後に前記溶融亜鉛めっきした鋼板を480〜600℃で合金化熱処理する段階をさらに含むことを特徴とする請求項9〜13の何れか1項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コーティング鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法に関し、より詳細には、素地鋼板にギブズ自由エネルギーがFe以上の金属及び上記金属の酸化物を含む金属コーティング層を含む表面品質に優れた金属コーティング鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は耐食性に優れ、自動車、建築資材、構造物及び家電製品などに広く用いられており、特に、最近、自動車の軽量化への要求により鋼板の高強度化が進行されつつある。但し、強度を高める場合、相対的に延性が低下する問題があり、最近では、素地鋼板にMn、SiまたはAlを添加したDP(Dual Phase)鋼、CP(Complex Phase)鋼、TRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼など延性を向上させた高強度鋼を製造している。
【0003】
しかしながら、上記Mn、SiまたはAlが添加された鋼板は、焼鈍炉に存在する微量の酸素と反応して、鋼板の表面にMn、SiまたはAlの単独または複合酸化物を形成することにより、未めっきを発生させ、めっき鋼板の表面品質を低下させるという問題があった。
【0004】
このような問題点を解決するための従来方法として、特許文献1には素地鋼板を焼鈍及び冷却してからNiなどの金属をコーティングすることで、焼鈍時に生成した表面のMn、SiまたはAl酸化物を上記金属コーティング層で覆う技術が開示されている。しかし、通常、連続溶融亜鉛めっき工程は、焼鈍過程から亜鉛めっき時まで還元性雰囲気を保持するために一体型で構成するが、上記技術では、金属コーティングの前に焼鈍し、そのためには、焼鈍とめっき工程を分離するしかないため、設備が複雑となり、製造費用も増加するという問題点があった。
【0005】
従って、これを解決するための他の従来方法として、予め金属コーティングを施した後、焼鈍及びめっきする技術があったが、焼鈍時に750℃以上の高い温度で加熱すると、コーティングされていた金属物質が素地鋼板内に拡散され、金属コーティング層が殆ど存在しないか、薄くなってしまい、実質的にMn、SiまたはAlの表層拡散を抑制するには限界があった。
【0006】
よって、経済的にMn、SiまたはAl酸化物の鋼板表面の形成を抑制することで、未めっき発生を防止し、めっき鋼板の表面品質を向上させることができる技術に対する要求が急増している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本公開特許公報2005−200690号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Mn、SiまたはAl酸化物の鋼板表面の形成を抑制してめっき鋼板の品質を向上させ、また、設備の複雑化または製造費用の増加を最小化することができる金属コーティング鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属及び上記金属の酸化物を含むコーティング層を有することを特徴とする金属コーティング鋼板を提供する。
【0010】
このとき、上記金属及び上記金属の酸化物は、上記金属の換算量で0.1〜3g/m
2であることが好ましい。
【0011】
また、上記金属の酸化物は、酸素換算量で0.5〜5重量%であることがより好ましい。
【0012】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0013】
このとき、上記金属はNi、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0014】
一方、本発明は、素地鋼板、ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属のコーティング層及び溶融亜鉛めっき層を順に有する溶融亜鉛めっき鋼板のGDSグラフ上で、上記金属のピークが酸素のピークより溶融亜鉛めっき層に近く位置することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0015】
このとき、上記酸素のピークにおける酸素含量が0.05〜1重量%であることが好ましい。
【0016】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0017】
このとき、上記金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明は、素地鋼板の表面をSO
42−のモル濃度がNi
2+のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni
2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングすることを特徴とする金属コーティング鋼板の製造方法を提供する。
【0019】
このとき、上記溶液のPHは4〜6であることが好ましい。
【0020】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0021】
一方、本発明は、素地鋼板の表面をSO
42−のモル濃度がNi
2+のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni
2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングする段階と、上記コーティングした鋼板を加熱する段階と、上記加熱した鋼板を冷却する段階と、上記焼鈍した鋼板を溶融亜鉛めっきする段階と、を含むことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0022】
このとき、上記溶液のPHは4〜6であることが好ましい。
【0023】
また、上記加熱する段階は750〜900℃で行うことが好ましい。
【0024】
また、上記溶融亜鉛めっきする段階は440〜480℃のめっき浴で行うことが好ましい。
【0025】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0026】
このとき、上記溶融亜鉛めっきする段階後に上記溶融亜鉛めっきした鋼板を480〜600℃で合金化熱処理する段階をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一側面によると、Mn、SiまたはAl酸化物の鋼板表面の形成を抑制することで、未めっきを防止し、めっき鋼板の品質を向上させることができる。このような効果を果たしながらも、設備の複雑化または製造費用の増加を最小化することができるため、経済性の側面でも非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)はNiコーティングを行わない比較例の製造工程による鋼板の構造を示す概略図で、(b)はNiコーティングは行ったが、Ni酸化物を含ませない比較例の製造工程による鋼板の構造を示した概略図で、(c)は本発明の製造工程による鋼板の構造を示した概略図である。
【
図2】本発明の一例による溶融亜鉛めっき鋼板のGDS分析結果を示したグラフである。
【
図3】本発明の一例による金属コーティング鋼板のGDS分析結果を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の金属コーティング鋼板について詳しく説明する。
【0030】
本発明者らは、Niのようにギブズ自由エネルギーがFe以上の金属をコーティングし、焼鈍した後、亜鉛めっきすることで、Mn、SiまたはAl酸化物の鋼板表面の形成を抑制する従来技術の限界点を認識し、金属コーティング層にギブズ自由エネルギーがFe以上の金属とともに、上記金属の酸化物(水酸化物を含む)を含ませることで、上記金属酸化物によりMn、SiまたはAlの表面拡散が抑制されることを見出し、ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属及び上記金属の酸化物を含むコーティング層を有することを特徴とする金属コーティング鋼板を発明するに至った。
【0031】
本発明における上記ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属とは、酸化反応時に酸素1モル当たりのギブズ自由エネルギー変化量がFeより大きい金属のことである。
【0032】
図1を通じて、上記ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属のうちNiを例に挙げて、上記Mn、SiまたはAl酸化物の表面形成の抑制原理を説明すると、(a)の場合、亜鉛めっきの前にNiコーティングが行われないもので、Mn、SiまたはAl酸化物が焼鈍時に鋼板の表面に多量に形成され、未めっき問題を発生させたことが分かり、(b)の場合、亜鉛めっきの前にNiコーティングは行われたが、依然としてMn、SiまたはAl酸化物の表面形成を抑制するのに限界があり、(c)の場合、亜鉛めっきの前にNiコーティングをし、そのコーティング層にNi酸化物までを含ませた本発明の例によるもので、Mn、SiまたはAlがNiOと接してMnO、SiO
2またはAl
2O
3の酸化物となり、NiOは還元されてNiとして析出される反応を起こすことで、0.1〜3g/m
2(Mn、SiまたはAl)が鋼板の表面にまで拡散されて酸化物を形成せず、金属コーティング層の下部または素地鋼板の上部にMn、SiまたはAl酸化物が位置するようになる。
【0033】
上記ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属は、Ni、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、このような金属を使用する理由は、Mn、SiまたはAlが酸化するのに必要なギブズ自由エネルギーが上記金属より遥かに低くて上記置換反応が生じやすいためである。
【0034】
このとき、上記金属及び上記金属の酸化物は、上記金属の換算量で0.1〜3g/m
2であることが好ましい。上記換算量が0.1g/m
2未満では、金属のコーティング量が少なすぎてコーティングされない部分が存在することがあるため、経済性を考慮して、上限は3g/m
2とする。
【0035】
また、金属の酸化物は、Mn、SiまたはAlが鋼板表面に拡散する前にMnO、SiO
2またはAl
2O
3の酸化物を形成させる役割をし、上記金属の酸化物は酸素換算量で0.5〜5重量%であることがより好ましい。上記酸素換算量が0.5重量%未満では、Mn、SiまたはAlが表面に拡散する前に酸化させるのに十分でなく、上記換算量が5重量%を超えると、金属以外の金属酸化物の量が過度に多くなり、金属コーティング層と素地鋼板との密着力が減少するという問題が生じる恐れがある。
【0036】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。これは、本発明が素地鋼板に含まれているSi、MnまたはAlの表面拡散及び酸化物形成を防止するためであり、Si、MnまたはAlが素地鋼板に0.2重量%以上含まれていることがその効果を極大化させるのに適する。また、Ti、B及びCr成分も鋼板表面に濃化物を形成するため、Ti、BまたはCrが0.01重量%以上含まれていると、上記効果を極大化させるのに適する。
【0037】
以下、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板について詳しく説明する。
【0038】
本発明のさらに他の一側面は、素地鋼板、ギブズ自由エネルギーがFe以上の金属のコーティング層及び溶融亜鉛めっき層を順に有する溶融亜鉛めっき鋼板のGDSグラフ上で、上記金属のピークが酸素のピークより溶融亜鉛めっき層に近く位置することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板を提供し、このとき、上記金属はNi、Fe、Co、Cu、Sn及びSbからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0039】
図2を参照して説明すると、溶融亜鉛めっき鋼板は、上記金属コーティング及び焼鈍後に形成されるものであるため、Mn、SiまたはAlが表面に拡散する前にNiOのようにギブズ自由エネルギーがFe以上の金属の酸化物と置換反応を起こしてMnO、SiO
2またはAl
2O
3の酸化物を形成する。よって、このような酸化物が金属コーティング層の下部または素地鋼板の上部に位置するようになる。従って、GDSグラフ上において、上記酸化物に含まれている酸素の量は、Niと比べて相対的に素地鋼板からは近く、溶融亜鉛めっき層からは遠く位置するようになる。よって、GDSグラフ上で上記金属のピークが酸素のピークより溶融亜鉛めっき層に近く位置するということは、Mn、SiまたはAlが上記金属酸化物により表面拡散及び表面への酸化物形成をうまく遮断し、めっき性を向上させたと解釈することができる。
【0040】
このとき、上記酸素のピークにおける酸素含量が0.05〜1重量%であることが好ましい。これは、上記反応後のMnO、SiO
2またはAl
2O
3の酸化物に含まれている酸素のピークでの含量を意味し、上記反応前に金属コーティング層に残存していたニッケル酸化物に含まれている酸素により導出されるものと言える。即ち、初期金属コーティング層に存在する金属酸化物が還元焼鈍により金属に還元されながら酸素の量は減少するが、その量がピーク地点で約0.05重量%以上でないと、Mn、SiまたはAl酸化物の表面形成の抑制に有利でなく、約1重量%を超えるほど多量では、コーティング層と素地鋼板との密着力が低下する恐れがある。
【0041】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含むことが好ましく、上記鋼板はTi、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上含むことがより好ましい。
【0042】
以下、本発明の金属コーティング鋼板の製造方法について詳しく説明する。
【0043】
本発明は、素地鋼板の表面を
Ni2+のモル濃度が
SO42−のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni
2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングすることを特徴とする金属コーティング鋼板の製造方法を提供する。
【0044】
まず、SO
42−イオンとNi
2+イオンのモル濃度比は、コーティング反応時、界面での水酸化物形成反応において重要な役割をし、上記
Ni2+のモル濃度は
SO42−のモル濃度の0.7〜1.2倍であることが好ましい。SO
42−イオンとNi
2+イオンは、溶液中で弱い錯化合物を形成するため、Ni
2+イオンよりSO
42−イオンが多すぎると、二つの間の結合力が相対的に強くて、溶液と鋼板の間の界面反応過程でNi
2+イオンがOH
−イオンと反応して、ニッケル水酸化物を作る反応が抑制されるため、SO
42−のモル濃度をNi
2+のモル濃度の
1/0.7倍以下に制御しなければならない。また、Ni
2+イオンよりSO
42−イオンが少なすぎると、コーティング界面反応で水酸化物形成反応が過度に促進されて相対的にNi
2+イオンがNiに還元される反応が抑制され、金属コーティング層内のニッケル酸化物が過度に多くなる問題が発生するため、SO
42−のモル濃度をNi
2+のモル濃度の
1/1.2倍以上に制御することが好ましい。
【0045】
また、上記金属コーティング溶液に含まれるNi
2+イオン濃度は20〜90g/Lであることが好ましく、上記溶液中のNi
2+イオン濃度が20g/L未満では、コーティング効率が低くて金属コーティング層内に適切なNi量を確保することが困難で、上記溶液中のNi
2+イオン濃度が90g/Lを超えると、コーティング溶液の微細な温度変化によってニッケル塩が析出されることがある。
【0046】
また、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/L以下含まれることが好ましく、コーティング溶液中に含まれなくても構わないが、含まれる場合、金属コーティング層内の金属酸化物を確保するのにより有利である。但し、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/Lを超えると、コーティング溶液が混濁し、スラッジ発生量が増加するため、上限はNi換算量で1g/Lに制限することが好ましい。
【0047】
さらに、上記コーティング溶液のPHは、コーティング層に金属酸化物を共析させるのに極めて重要な役割をする。即ち、金属コーティング過程で、負極である鋼板と溶液界面では、Ni
2+イオンの還元反応とともにH
+イオンの還元反応(水素ガス発生反応)も発生するが、上記界面でH
+イオンの還元反応により瞬間的にPHが上昇しNi
2+イオンの一部がニッケル水酸化物に変化されて金属コーティング層の内部に共析される。従って、先めっき溶液中のPHが低すぎると、上記ニッケル水酸化物の発生が抑制され、高すぎると、過度に多いニッケル酸化物が共析されるため、上記PHは4〜6の範囲に限定することが適切な量のニッケル酸化物の共析のためにより好ましい。
【0048】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0049】
一方、本発明は、素地鋼板の表面をSO
42−のモル濃度がNi
2+のモル濃度の0.7〜1.2倍で、Ni
2+濃度が20〜90g/Lで、Ni(OH)
2濃度がNi換算量で1g/L以下の溶液でコーティングする段階と、上記コーティングした鋼板を加熱する段階と、上記加熱した鋼板を冷却する段階と、上記焼鈍した鋼板を溶融亜鉛めっきする段階と、を含むことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。このとき、上記溶液のPHは4〜6であることが好ましい。
【0050】
上記溶液でコーティングする場合、ニッケル及びニッケル酸化物が適切に金属コーティング層に含まれるため、その後、加熱(焼鈍)してもMn、SiまたはAlが表面に拡散する前に酸化物を形成させ、上記酸化物が表面に形成されて未めっきを発生させることを抑制する。従って、その後、冷却及び亜鉛めっきすると、非常に優れためっき性を確保することができ、めっき鋼板の表面品質を向上させることができる。
【0051】
また、上記加熱する段階は750〜900℃で行うことが好ましい。焼鈍時に加熱温度が900℃を超えると、Mn、SiまたはAlの拡散速度がさらに速くなり、Ni酸化物がNiに多数還元されるため、残存するNi酸化物が少なくてMn、SiまたはAlの表面拡散を効果的に抑制することが困難で、上記加熱温度が750℃未満では、焼鈍が十分に行われず、優れた材質特性を確保することができない恐れがある。
【0052】
また、上記溶融亜鉛めっきする段階は440〜480℃のめっき浴で行うことが好ましい。上記めっき浴の温度が440℃未満では、めっき浴の粘度が低下してめっき浴中にあるロールの駆動が困難となり、スリップ(Slip)が発生して鋼板にスクラッチを誘発することがあり、上記温度が480℃を超えると、亜鉛の蒸発量が多くなって設備を汚染させたり、鋼板に付いて欠陥を引き起こす恐れがある。
【0053】
また、上記鋼板はSi、Mn及びAlからなる群より選択される1種以上を0.2重量%以上含み、Ti、B及びCrからなる群より選択される1種以上を0.01重量%以上さらに含むことがより好ましい。
【0054】
このとき、上記溶融亜鉛めっきする段階後に上記溶融亜鉛めっきされた鋼板を480〜600℃で合金化熱処理する段階をさらに含むことが好ましい。上記合金化熱処理温度を480℃以上に制御することで、めっき層内のFe含有量を十分に確保することができ、また、上記温度を600℃以下に制御することで、めっき層内のFe含有量が多すぎて加工中にめっき層が脱落するパウダリング現象を適切に防止することができる。
【0055】
以下、実施例を通じて本発明を詳しく説明するが、これは、本発明をより完全に説明するためのものであり、下記各実施例により本発明の権利範囲が制限されるものではない。
【0056】
(実施例)
本発明の効果を発生させる鋼種には制限がないが、Mn、SiまたはAlの表面酸化物の形成を抑制することが主な目的であるため、Mn、SiまたはAlが0.2重量%以上含まれた鋼に適用することが効果を極大化するのに好ましく、本実験では、Si:1.0重量%、Mn:1.6重量%、Al:0.03重量%が含まれた厚さ1.2mmのTRIP冷延材を対象とした。
【0057】
上記鋼にNiコーティングを行い、Niコーティング溶液の組成は表1に示した。Niコーティング層の付着量はコーティング層を溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)を通じてNi含量を分析することで測定した。また、上記コーティング層内のNi酸化物の含量は、GDS(Glow Discharge Spectrometer)で、鋼板の厚さ方向に、界面の下の素地鋼板までの各成分の分布を測定してNiコーティング層内に存在する酸素成分を定量分析することで測定した。Niコーティング層と素地鋼板の境界は、GDSグラフでコーティング物質の量と素地鉄の量が交差する地点とした。
【0058】
上記Niコーティングが完了した試片は、表1に示した焼鈍温度で60秒間還元焼鈍してから400℃に冷却した後、その温度で120秒間過時効(Over Aging)させてから、480℃に加熱した後、有効Al濃度が0.2%の亜鉛めっき浴に5秒間浸漬してから取り出し、エアーワイピングを通じて、付着量を片面基準60g/m
2に調整した。このとき、亜鉛めっき浴の温度は460℃にした。
【0060】
上記めっきが完了した溶融亜鉛めっき鋼板は、目視で鋼板表面を検査し未めっきの存在有無及び程度によって表面品質を判定し、TEMを用いて先めっき層と素地鋼板の界面にある酸化物を分析してSi酸化物、Mn酸化物、Al酸化物及び/またはSi、Mn、Al複合酸化物であることを確認し、さらに、GDSでめっき層表面から素地鋼板まで深さ方向に成分を分析してNiコーティング層と素地鋼板の界面での最大酸素含量を表2に示した。
【0061】
【表2】
表面品質:
◎(極めて優秀、めっき鋼板全体にわたって未めっきが全くない鋼板)
○(優秀、0.5mm未満の点状の未めっきが少し観察される鋼板)
△(不良、0.5mm〜2mmの点状の未めっきが多く観察される鋼板)
X(極めて不良、2mmを超える大きさの未めっきが観察される鋼板)
【0062】
上記表1及び2に示したように、本発明に符合する発明例1〜10の場合、コーティング溶液中にNi
2+イオン濃度が20〜90g/L、Ni(OH)
2がNi換算量で0〜1g/L含まれ、PHが4〜6、SO
42−のモル濃度がNi
2+のモル濃度の0.7〜1.2倍である溶液を用いてNiコーティングをした。これにより、Niコーティング付着量が0.1〜3g/m
2に該当し、Ni酸化物量(水酸化物を含む)が0.5〜5重量%に該当し、酸素のピークでの酸素含量も0.01〜1%を満たした。従って、表面品質が優秀又は極めて優秀であり、Mn、SiまたはAlの表面酸化物の形成をうまく抑制したことを確認することができる。
【0063】
しかし、比較例1はNiコーティング自体を行っておらずNi及びNi酸化物がないため、Mn、SiまたはAlの表面拡散を防ぐことができず、表面品質が極めて不良であった。
【0064】
比較例2は、モル濃度比が0.5倍であって、0.7倍未満であり、Ni酸化物の形成が抑制されるため、Mn、SiまたはAlの表面酸化物の形成を効果的に防止することができず、未めっき部分が多くて表面品質が極めて不良であった。
【0065】
比較例3は、モル濃度比が高すぎてNi酸化物が過度に形成され、コーティング層と素地鋼板との密着力が悪く、金属コーティング層がロール(Roll)により部分的に脱落されるため、表面品質が不良であった。
【0066】
比較例4はPHが高すぎてNi酸化物が過度に形成され、比較例3のように表面品質が不良であった。
【0067】
比較例5はPHが低すぎてNi酸化物の形成が抑制され、比較例2のように表面品質が極めて不良であった。
【0068】
比較例6はモル濃度比及びPHがともに低くてNi酸化物の形成が過度に抑制されて表面品質が極めて不良であった。
【0069】
最後に、比較例7はモル濃度比及びPHがともに高くてNi酸化物が過度に形成されて表面品質が不良であった