特許第5865483号(P5865483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノンアネルバ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000002
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000003
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000004
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000005
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000006
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000007
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000008
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000009
  • 特許5865483-締結部材および真空装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865483
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】締結部材および真空装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20160204BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20160204BHJP
【FI】
   C23C14/00 B
   C23C16/44 J
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-504470(P2014-504470)
(86)(22)【出願日】2012年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2012005778
(87)【国際公開番号】WO2013136384
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-57301(P2012-57301)
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100170601
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 孝
(72)【発明者】
【氏名】石原 繁紀
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−092913(JP,A)
【文献】 特開2009−191339(JP,A)
【文献】 実開昭62−040319(JP,U)
【文献】 特開2011−256412(JP,A)
【文献】 特開2011−228343(JP,A)
【文献】 特開平04−202768(JP,A)
【文献】 特開平08−041637(JP,A)
【文献】 特開2001−323377(JP,A)
【文献】 特開2008−270595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/44−16/54
F16B 25/00−25/10
F16B 33/06
B23H 9/00−9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内に配置された基板上に薄膜を形成する真空装置であって、
前記真空チャンバー内に設けられ、前記薄膜形成に伴う付着物を捕捉するためのシールドと、
頭上面部と、前記頭上面部に対向する座面部と、前記頭上面部と前記座面部との間の側壁を構成する頭側面部とを有する頭部と、前記頭部の前記座面部側に設けられ、前記頭部とは反対側の端部にねじ部を有する軸部とを備える、前記真空チャンバーの内壁に前記シールドを取り付けるための締結部材と、
を備え、
前記シールドは、前記頭側面部を取り囲むシールド面と、前記締結部材で前記シールドを前記真空チャンバーに固定するように前記締結部材を挿入するための貫通穴と、前記座面部と対面する座ぐり面とを備え、
前記貫通穴は、前記シールド面を構成する前記頭部より大きい第一の穴部と、前記座ぐり面に開口を持ち、前記頭部より小さくかつ前記軸部が貫通可能な大きさに設けられ、前記第一の穴部に連通する第二の穴部と、を有し、
前記第一の穴部は、工具を用いて前記シールドに対して前記締結部材を締結及び取り外しする際に、前記工具を前記頭側面部に取り付け可能な大きさを有し、
前記シールド面は、前記頭側面部の上端よりも前記締結部材の上面側に延在しており、
前記締結部材の前記頭上面部以外には、前記頭上面部よりも高い硬度を付与する表面硬化処理が施されており、
前記真空チャンバーの前記内壁に設けられているめねじ部にも前記高い硬度が付与されており、
前記締結部材の前記頭上面部には、表面粗さを付与する表面あらさ処理が施されており、
前記シールドは、前記めねじ部に螺合するとともに、前記座面部が前記シールドを前記真空チャンバーの前記内壁に押し付けるように、前記締結部材によって前記真空チャンバーの前記内壁に取り付けられている
ことを特徴とする真空装置。
【請求項2】
前記締結部材の母材はステンレス鋼であり、前記表面硬化処理は前記ステンレス鋼に炭素をドーピングすることによって硬化させる浸炭処理であることを特長とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項3】
前記高い硬度は、前記締結部材の母材と異なる材質よりなる膜を表面に形成することにより前記締結部材に付与されていることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項4】
前記頭上面部に付与される前記表面粗さは、前記座面部の表面粗さ以上であることを特徴とする請求項1記載の真空装置。
【請求項5】
前記頭上面部に付与される前記表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)10μm以上であることを特徴とする請求項1記載の真空装置。
【請求項6】
前記表面硬化処理の後に行われるブラスト処理によって、前記頭上面部に表面粗さが付与されていることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項7】
前記ブラスト処理の後に行われる溶射処理によって、前記頭上面部に金属膜が形成されていることを特徴とする請求項6記載の真空装置。
【請求項8】
前記真空チャンバーの前記内壁に設けられている前記めねじ部が貫通孔であることを特徴とする請求項1記載の真空装置。
【請求項9】
前記真空チャンバーには、前記めねじ部を冷却するための冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【請求項10】
前記シールド面は、前記頭側面部の前記上端よりも前記締結部材の前記上面側に延在しており、前記シールドの表面は、前記頭側面部よりも高い位置となっていることを特徴とする請求項1に記載の真空装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空下において被処理基板を成膜処理するための真空装置であって、真空装置のチャンバー内壁に部材を取り付けるための締結部材及び真空装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程、液晶表示パネル製造工程、或いはディスク製造工程等の各種の製造工程において、シリコンウエハ、液晶表示基板、光ディスクやミニディスク等の被処理基板の成膜処理を行うために成膜装置が使用されている。
【0003】
図6は前記成膜装置の一例として用いられているスパッタ装置の模式図である(特許文献1参照)。図6記載の成膜装置は、使用していないターゲット405を覆うシャッター408内部に供給するガスの圧力P2をスパッタガスP1の圧力に対して常にP2>P1の関係に保つことによって、ガスは使用していないターゲット405を覆うシャッター408内部側から真空室401内側へと流れることになり、スパッタ雰囲気中から混合ガスが流入して未使用中のターゲット表面に接触するのを阻止することができるように構成されている。なお、図6の装置において、412、414は、夫々ターゲット405とシャッター408との間の空間及びターゲット406とシャンター408との間の空間に汚染防止用のガスを供給するガス供給ノズル、413、415はガス供給ノズル412、414からのガス供給量を制御するガス供給弁、416は真空室内のガス圧を測る圧力計、417はシャッター408で覆われた内部(以下ターゲット室という)の圧力を測る圧力計である。
【0004】
ところが、前記ターゲット405、406より放出された原子・分子はランダムな方向に飛翔するため、真空室401の内壁など望ましくない場所にも膜が付着することになる。付着した膜は処理を重ねる毎に蓄積し、やがて剥離することで成膜の品質に悪影響を与えることになるため、定期的にメンテナンスにより除去する必要が生じる。
【0005】
このため、成膜装置には一般的にシールドと呼ばれる部品によりターゲット405、406から基板407までの成膜空間を区画し、これを定期的に交換することで成膜の品質を安定させている。図6の成膜装置では、ターゲット405、406近傍及び基板407の近傍をシールドにより区間することで、真空室401の器壁にスパッタ膜が付着するのを防いでいる。
【0006】
これらのシールド及びシャッター部品の固定に際しては、取り外し・交換の作業性の観点から、成膜空間側内側からボルトで締結する構造を用いることがある。図7は、シールドを成膜空間側から締結するシールド締結構造を示した縦断面図である(特許文献2参照)。図7に示すシールド締結構造では、基板ホルダ528によって囲まれた、第1防着板551の表面中央部に、第2防着板取付ボルト554及びナット555によって第2防着板556が取り外し自在に設けられている。第2防着板556の表面556aは、基板ホルダ528の表面528bと裏面528aとの間の高さに位置しており、第2防着板556と基板ホルダ528との間隙から基板ホルダ528の裏面528a側にターゲット原子が回り込みにくい構造となっている。また、ボルト554のねじ頭部分554aは成膜空間に露出しておりスパッタ膜が付着するため、シールドと同様にブラスト処理や溶射処理により表面粗さを増加させる処理を施すことが多い。なお、メンテナンスの際には成膜空間側からアクセスして交換作業を行うことができる。
【0007】
一般にこのような構造に使用されるボルトの材質としては、流通性が良く耐腐食性にも優れていることからステンレス鋼が多く採用されているが、ステンレス鋼は金属の中では低い熱伝導度並びに大きい熱膨張率により、締結時にねじ山に生じる摩擦熱でおねじ・めねじが固着して動かなくなる、いわゆる焼き付き(かじり)と呼ばれる現象が生じやすい。このような焼き付き現象が発生すると、同じトルクで締結を行ってもねじ部の摩擦が大きくなるためパーティクル発生の危険性が大きくなるという問題が生じる。
【0008】
上述のような、ねじ部の焼き付きを防止する技術として摩擦係数を低減する潤滑剤をねじ部にコーティングする技術が広く用いられているが、真空装置においてはグリスやテフロン(登録商標)などをコーティングすると、コーティング層から脱ガスが発生し、成膜環境を汚染する危険性があるため、例えば銀などの、潤滑性能を持ちながら真空中でも揮発ガスが少ない軟金属によるコーティングが多く用いられている。
【0009】
ねじ部に銀メッキ等の固体潤滑手段を施し、さらにねじ頭部分にブラスト処理等で母材よりも大きい表面粗さを付与することで、パーティクル発生を抑えたシールドの締結構造を得ることができる。
【0010】
ところが、上述のシールド締結構造においては、新品のボルトと新品のねじ穴とにより当該シールドを締結する際にはパーティクル発生が起きないが、一度締結したボルトをシールドの交換に取り外すと銀メッキが容易に剥離してしまうため、シールドの交換作業を繰り返すことで剥離した銀がめねじ部に蓄積したり、成膜空間に浮遊したりして被処理体に付着するなどの汚染を生じることがあった。
【0011】
一方で、特許文献3には、シールド及びねじ全体をモリブデンでコーティングしたシールド締結構造が開示されている。図8は、特許文献3のシールド締結構造示す断面図である。特許文献3によれば、シールド板611及びシールド板を611固定するためのネジ612が、モリブデン被膜613により覆われている。そのため、モリブデンコーティングによりシールド板611表面及びねじ612頭部分に堆積したアルミ膜614を容易に除去できるため工具でボルトにアクセスするための時間を短縮でき、さらにねじ部のコーティングにより取り外し作業性が改善することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平04−202768号公報
【特許文献2】特開平11−092913号公報
【特許文献3】特開平08−041637号公報
【発明の概要】
【0013】
しかし、特許文献3のシールド締結構造においてもシールド交換作業を繰り返すことによりコーティング膜自体が汚染源となるリスクがあるという問題点があった。また、特許文献3のシールド締結構造においては、ねじ612頭部分の膜除去性が容易に行い得るが、同時にスパッタリング装置使用中にねじ612頭部分から堆積した膜が、スパッタリング装置内に脱落する危険性が大きくなるという問題点があった。しかし、この点を解消するものは未だ知られていない。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、繰り返し取り外し作業を行っても汚染の発生懸念が少ない締結部材及び締結部材を有する真空装置を提供することを目的とする。
【0015】
上記目的の達成のために、本発明の一態様は、真空装置のチャンバー内壁に部材を取り付けるための締結部材であって、頭上面部と、前記頭上面部に対向する座面部と、前記頭上面部と前記座面部との間の側壁を構成する頭側面部とを有する頭部と、前記頭部の前記座面部側に設けられ、前記頭部とは反対側の端部にねじ部を有する軸部と、を備え、前記ねじ部は少なくとも前記締結部材の他の部分より高い硬度が付与されており、前記締結部材によって前記部材を前記チャンバー内壁に取り付ける際、前記ねじ部が前記チャンバー内壁に設けられためねじ部に螺合するとともに、前記座面部が前記部材を前記チャンバー内壁に押し付けるように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る締結部材によれば、締結部材のねじ部に少なくとも前記締結部材の他の部分より高い硬度が施されているため、前記締結部材により前記部材がチャンバー内壁に取り付けられる際、前記ねじ部と前記めねじ部との摩擦に伴う磨耗を抑制することができる。同時に、高い硬度が施されたねじ部は、締結部材の母材よりも熱膨張率が低下するため、熱膨張自体も抑制することになり、締結部材の脱着作業に伴うねじ部からのパーティクル発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る締結部材を含む成膜装置の構造を示す概略図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る締結部材の断面図である。
図2B】本発明の一実施形態に係る締結部材の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態における部分表面硬化処理の概略を示すための図である。
図4】本発明の一実施形態に係る締結部材を含む別の成膜装置の構造を示す概略図である。
図5】本発明の別の実施形態に係る締結部材の断面図である。
図6】従来技術(特許文献1)の一例であるところのシールド締結構造を示す図である。
図7】従来技術(特許文献2)の一例であるところのシールド締結構造を示す図である。
図8】従来技術(特許文献3)の一例であるところのシールド締結構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の内容を詳細に説明する。図1は本発明の締結部材を含む真空装置(たとえば成膜装置)の一例であるところの、スパッタ装置の構造を示す概略図である。本装置は、ステンレス等で構成された真空容器1にターボ分子ポンプ等の排気手段2が接続され、例えば1×10−8Paの高真空環境に維持することが可能となっている。さらに真空容器1は被処理基板3を保持するためのホルダ4を備えており、被処理基板3がこの上に戴置されて成膜処理が行なわれる。6は成膜の原料となる純物質またはその化合物から成るターゲットであり、電圧を印可できるよう図示されないDC電源が接続され、アルミナ等からなる絶縁部8を介して真空容器1と絶縁された状態となるよう設置されており、さらにターゲット6の表面に磁場を与えることができるよう、マグネット7が設けられる。
本発明の締結部材を適用可能な真空装置としては、本実施形態に記載したものに限られず、物理蒸着装置や化学蒸着装置(CVD)、原子層堆積装置(ALD)などを用いることができる。
【0019】
真空容器1には、例えばアルゴンなどのスパッタ用ガスを供給する、図示されないガス導入手段が接続されており、ガスを導入しつつ排気手段2から排気を行い、DC電源よりターゲット6が負電圧となるよう電力を投入することで、マグネットによってマグネトロン放電が発生する。マグネトロン放電によってターゲット6の近傍にてスパッタ用ガスがプラズマ化され、このプラズマ中の陽イオンが負電圧のターゲット6に加速されて衝突する。この陽イオンの衝突によりターゲット6から原子・分子等が放出され、こうして生成した金属が、対向した基板3表面に到達することで、所望の膜が堆積される。さらに、前記ガス導入手段より、前記スパッタガスに酸素や窒素などを混合して導入すると、金属窒化膜や金属酸化膜を堆積するいわゆる反応性スパッタをおこなうことが可能となる。
【0020】
図1の装置では、ターゲット6が複数搭載されており、駆動可能なシャッター10により複数のターゲット6を切り替えて使用することが可能となっており、1つのチャンバーで複数の種類の膜を積層して成膜することが可能となっている。
【0021】
ところが、前記ターゲット6より放出された原子・分子はランダムな方向に飛翔するため、真空チャンバー1の内壁など望ましくない場所にも膜が付着することになる。付着した膜は処理を重ねる毎に蓄積し、やがて剥離することで成膜の品質に悪影響を与えることになるため、定期的にメンテナンスにより除去する必要が生じる。
【0022】
このため、成膜装置には一般的にシールドと呼ばれる部材によりターゲットから被処理体までの成膜空間を区画し、これを定期的に交換することで成膜の品質を安定させている。図1では、ターゲット近傍及び被処理基板3の近傍をシールド5、9により区間することで、真空チャンバー1の器壁にスパッタ膜が付着するのを防いでいる。その結果シールド5及びシャッター10にはスパッタ膜が付着するため、定期的にメンテナンスを行い、これらを取り外して新品に交換する作業が行われる。また、シールド5、9及びシャッター10の表面は、ブラスト処理や溶射などにより表面粗さを拡大し、例えば十点平均粗さ(Rz)で10μm以上となるような処理が行われることで、付着した膜が容易に剥離しないよう工夫されている。
【0023】
図2Aは本発明の実施形態の一例であるところの、真空成膜装置に用いる締結部材の断面図である。また、図2Bは本発明の実施形態の一例であるところの、該締結部材の斜視図である。真空成膜装置は、例えば図1に示すスパッタ装置であり、特に図1におけるシールド5、9、シャッター10の締結部(各々11、12)に、図2Aおよび図2B記載の締結部材が用いられる。
【0024】
図2Aおよび図2B記載の締結部材は、図1記載の真空装置のチャンバー1内壁に被固定部材102(例えば、シールド5、9)を取り付けるための締結部材であって、軸部106と頭部101とからなる。頭部101は、頭上面部107と、頭上面部107に対向する座面部111と、頭上面部107と座面部111との間の側壁を構成する頭側面部108とを有する。軸部106は、頭部101の座面部111側に設けられており、頭部101とは反対側の端部にねじ部(おねじ部)106aを有している。ねじ部106aには少なくとも締結部材の他の部分より高い硬度が付与されている。なお、高い硬度は、頭側面部108と座面部111にも付与させてもよい。高い硬度は、表面硬化処理により前記締結部材に付与されている。さらに、少なくとも頭上面部107は、座面部111以上の表面粗さを付与する表面あらさ処理が施されていることが好ましい。更に、少なくとも頭上面部107は、十点平均粗さ(Rz)10μm以上の表面粗さを付与する表面あらさ処理が施されていることが好ましい。
【0025】
チャンバー1内壁には、被固定部材102を固定すべき位置にめねじ穴115を有する固定部品103が設けられている。めねじ穴115の内壁面には、ねじ部106aに螺合する形状のめねじ部105aが形成されている。締結部材によって被固定部材102を固定部品103に取り付ける際には、ねじ部106aがめねじ部105aに螺合するとともに、座面部111が被固定部材102を固定部品103に押し付けるように固定する。
【0026】
本実施形態において、被固定部材102は、図1記載の真空チャンバー1内に設けられ、薄膜形成に伴う付着物を捕捉するためのシールド部品102である。シールド部品102は、頭側面部108を取り囲むシールド面112と、締結部材でシールド部品102を真空チャンバー1に固定するように、締結部材を挿入するための貫通穴105と、座面部111と対面する座ぐり面109とを備える。貫通穴105は、シールド面112を構成する頭部101より大きい第一の穴部113と、座ぐり面109に開口を持ち、頭部101より小さくかつ軸部106が貫通可能な大きさに設けられ、第一の穴部113に連通している第二の穴部114と、からなる。シールド面112は、頭側面部108の上端よりも締結部材の上面側に延在している。そのため、シールド部品102の表面110は、頭側面部108よりも高い位置となる。その結果、頭側面部108がシールド面112より突出していないことにより、硬化処理が施され、表面あらさ処理が施されていない頭側面部108への膜の堆積が抑制される。これにより、工具を用いて締結部材を取り外す際に頭側面部108からの堆積膜の脱離を抑制できるため、装置の信頼性を向上させることができる。
【0027】
締結部材は例えばステンレス鋼であるSUS316L製でねじ部106aの外径が5mmの六角頭ボルトであり、シールド部品102に設けられた貫通穴(第1の穴部113、第2の穴部114)を通じて、同じくSUS316L製の固定部品103に設けられためねじ部105aへ接続することで、シールド部品102に圧縮方向の力を加えて締結する。締結及び取り外しの際には、頭側面部108へ、例えば六角レンチ等を接続し作業を行う。なお、図2Aでは、シールド部品102を、固定部品103を介してチャンバー1の内壁に取り付けているが、固定部品102を介さず、チャンバー1内壁(図2Aの103に相当する部分)にめねじ穴115及びめねじ部105aを形成し、シールド部品102を直接締結部材により取り付けてもよい。また、めねじ部105aとしては、公知のナット等を用いてもよい。
【0028】
ここで、シールド部品102を締結する固定部品103に設けられためねじ穴115が、図2Aのように凹形状ではなく、貫通孔(つきぬけたあな)である場合は、めねじ穴115内に磨耗によって発生したゴミが蓄積する可能性が低くなり、さらに好適である。図5は、図2A記載のめねじ穴115が、貫通孔(つきぬけたあな)に変更された形態の締結部材の断面図である。その他の形状は、図2Aと同様である。図5の場合、めねじ穴115が貫通孔(つきぬけたあな)となっているため、万一ねじ部106a又はめねじ部105aからゴミが発生しても、めねじ穴115に蓄積することがなく、成膜空間の外側へ排出することが可能となり、成膜装置の信頼性を向上することができる。
【0029】
表面硬化処理として、炭素ドーピング処理による傾斜したステンレス鋼への硬化層形成(いわゆる浸炭処理)を適用することで、複数の締結及び取り外し作業でも剥離がない表面硬化処理を付与することができる。本実施形態では、締結部材のねじ頭部分の頭側面部108、ねじ部106a、座面部111及び固定部品103のめねじ部105aには浸炭処理が施されており、深さ方向に傾斜した炭素濃度でドーピングが施された結果、母材であるSUS316Lのビッカース硬度(以下、HVと表記)200に対して表面の硬度が例えばHV700程度に改質されている。
表面硬化処理としては、本実施形態で用いる浸炭処理のほか、窒化処理や、耐磨耗性コーティング処理を使用することができる。該コーティング処理は、母材と異なる材質よりなる膜を表面に形成する処理であり、公知のイオンプレーティングやスパッタなどを用いることができ、コーティングされる膜としてはTiNなど種々の膜を適用することができる。
ただし、ここで言う耐摩耗性コーティングとは、特許文献3で用いられているモリブデンコーティングや、銀メッキ、フッ素コーティングなどのいわゆる固体潤滑剤のように、コーティングされた膜の一部が相手側へ(おねじ部にコーティングした場合はめねじ側へ)付着するような物を指すのではなく、コーティングされた面に強固な皮膜を形成することによって硬度を向上させるものを意味する。このような耐摩耗性コーティングは汚染源となるリスクが少ないため、好ましい。
【0030】
前記浸炭処理としては、例えば公知のプラズマ浸炭処理が使用される。本実施形態では、浸炭処理の際に図3に示すように、頭部101の頭上面部107をマスキングするように、ステンレス製の部品150に密着させて処理を行う。これによって、締結部材の頭上面部107以外の部分は浸炭処理によって硬度を高めることができ、頭上面部107には炭素がドープされるのを防ぐことができ、頭上面部107の硬度を高めず母材と同等に維持することができる。
【0031】
ねじ部106a、頭側面部108、座面部111、及びめねじ部105aが高い硬度に改質されると、締結部材によりシールド部品102が固定部品103に取り付けられる際、部材同士の摩擦に伴う磨耗を抑制することができる。また、高い硬度に改質されると母材よりも熱膨張率が低下するため、熱膨張自体も抑制することになり、締結部材の脱着作業に伴うパーティクル発生を低減することができる。
【0032】
表面硬化処理の後、頭部101の頭上面部107にはアルミナブラストなどの荒らし処理が行われ、座面部111以上の表面粗さ、例えば表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)3.5μm、十点平均高さ(Rz)20μmとなるよう構成されている。このように、頭上面部107に対して、十点平均粗さ(Rz)10μm以上の表面粗さを付与する表面あらさ処理を施すと、頭上面部107に付着した膜が剥離しにくく装置の信頼性が向上するという効果がある。一般的に、被処理面の硬度を高いと、表面あらさ処理の効率が悪化する。しかしながら、本実施形態では、図3に示すように前記浸炭処理において頭上面部107が浸炭処理されないように保護を行っているため、前記頭上面部107の硬度は母材とほぼ同等のHV200を維持しており、付着した膜の剥離防止に必要な表面粗さを効率よくかつ再現性良く得ることができる。
ブラスト処理には、アルミナブラストのほか、ガラスビーズ、単価珪素、ドライアイスなどを用いた種々のブラスト方法を使用することができる。
【0033】
表面あらさ処理の後に表面硬化処理を行う場合には、表面あらさ処理で形成した表面の粗さが表面硬化処理により低下してしまう。しかしながら、本実施形態では、表面硬化処理の後に表面あらさ処理(ブラスト処理)を行っているので、表面あらさ処理で形成した表面の粗さが低下しにくいという効果がある。また、表面あらさ処理を公知のブラスト処理により行っているため、低コストで必要な表面粗さを得ることができる。さらに、表面硬化処理の際に頭上面部107をマスキングしているため、表面あらさ処理により得られる表面粗さが大きくなり、パーティクル発生を低減する効果がある。
【0034】
ここで、ブラスト処理の後にさらにアルミやチタン等の金属を溶射するとさらに大きな表面粗さを得ることができ、成膜空間から付着する膜が剥離しにくくなるためさらに好ましい。例えば純アルミをプラズマ溶射法により100μm程度付着させると、十点平均粗さRzで約50μmの表面を得ることができる。
溶射処理としては、プラズマ溶射のほか、アーク溶射など種々の方法を適用することができる。
【0035】
真空チャンバー1のめねじ部105aの近傍には、冷却手段として冷却水により冷却するための経路を形成することが好ましい。これにより、熱膨張によるねじ部106a、めねじ部105aの間の摩擦を低減することができ、パーティクルの発生を抑制することができる。また、一般に表面硬化処理は高温環境に影響を受けやすいことが知られている。例えばステンレス鋼(例えばSUS316)を母材とした浸炭処理の場合、400℃以上では表面相が組織変化を起こして硬度が下がることが知られている。さらに、TiNなどのコーティング処理においても、高温環境では母材との熱膨張率の違いにより剥離のリスクが大きくなる。従って、冷却手段を設けることによって、めねじ部分105aを低温に維持することができるため、締結部材表面の硬度を維持し、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0036】
上記の通り、シールド部品102の表面110は、締結部材の頭側面部108よりも高い位置となるよう構成されているため、該頭側面部108へ膜が付着するのを抑制することができる。シールド部品102の表面110における貫通穴105の開口形状及び大きさは任意であるが、ここでは、図2Bに示すとおり1辺が4.6mmの六角頭ボルトに対して直径13mmの円形の開口を設けている。
【0037】
本実施形態に係る構成により、繰り返しシールド部品102の交換作業を行っても、工具が接触する部分(頭側面部108など)、座面部111、頭上面部107、ねじ部106aおよびめねじ部105aの各部から磨耗粉や堆積した膜の脱離が低減され、装置の信頼性を改善することができる。さらに、締結部材の表面に形成された硬化層は繰り返し使用しても磨耗が少ないため、頭上面部107に堆積した膜を除去すれば締結部材を繰り返し使用することも可能であり、装置の運用コスト低減にも効果がある。
【0038】
本実施形態では、締結部材によってシールド部品102(シールド5、9)を締結する構造を説明したが、該締結部材によってチャンバー1内の他の要素(シャッター10等)を締結する場合にも、同じ締結構造を用いることができる。
【0039】
本発明に係る締結部材としては、上述の例にとどまらず、ねじ頭の形状やねじ部の長さ、ピッチなどは任意のものが適用できる。
【0040】
図4は、図1の装置において、被処理基板3を保持するためのホルダ4が加熱機構を備えている場合に好ましい、ホルダ4に搭載するシールド締結構造の構成例である。
【0041】
図4において、301はホルダ4内に埋設された、例えばニクロム線などの加熱手段であり、図示しない電力供給手段及び温度センサ、温度制御手段により所望の温度に制御され、被処理基板3を昇温した状態で成膜が行われる。303はシールドであり、ホルダ4上面のうち被処理基板3によって遮蔽されない部分及び該ホルダ4の側面に膜が付着しないように保護するように設けられる。302は例えばアルミナによって作成される断熱部品であり、ホルダ4からシールド303への熱伝導を低減することが可能な構造となっている。シールド303は、図2Aに示すような締結構造で断熱部品302へ締結されている。このような構成を取ることで、前記シールド303および締結部材を被処理基板3よりも低温で維持することができる。
【0042】
一般にコーティングにより硬化を行ったステンレスの表面層は熱膨張率が低いため高温環境下では母材との熱膨張率の差よりクラック等を生じるケースがあるほか、浸炭処理によって硬化を行ったステンレス鋼に関しては高温環境下で炭素が脱離したりステンレス鋼の金属組織が変化して脆化する場合がある。従って、図4に示す構成を取ることで、締結部材の温度を低温に維持することができるため、該締結部材の表面硬化処理部の寿命を延ばすことができ、装置の信頼性向上に望ましい効果を得ることができる。
【0043】
本発明の形態は、上記の実施例にとどまるものではなく発明の主旨の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、ボルトの形状は実施例に示した六角形にとどまらず八角形や四角形などの形状であってもよく、めねじ部とおねじ部の間の空気を抜くためのガス抜き穴がボルトに設けられていても良い。さらにボルト材質においても、チタンやアルミなどの材質を適用することができる。また、めねじ部に関してもヘリサートなどが挿入されたものや前記ガス抜き穴が施されたものであってよい。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8