【実施例】
【0026】
以下、実施例の放射線遮蔽織物および放射線遮蔽用品について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0027】
(
参考例1)
参考例1の放射線遮蔽織物および放射線遮蔽用品について、
図1、
図2を用いて説明する。
図1、
図2に示されるように、本例の放射線遮蔽織物1は、経糸10および/または緯糸11がマルチフィラメント2より構成されている。マルチフィラメント2は、複数本の単糸21と、各単糸21の表面を被覆し、硫酸バリウムを含有する被覆層22とを有している。
【0028】
本例では、経糸10および緯糸11の両方が、被覆層22を有するマルチフィラメント2より構成されている。マルチフィラメント2を構成する単糸21は、具体的には、ポリエステル系単繊維である。
図2に例示されるように、被覆層22は、マルチフィラメント2の表面に位置する単糸21だけでなく、マルチフィラメント2の内部に位置する単糸21の表面も被覆している。
【0029】
また、本例では、被覆層22は、硫酸バリウム以外にも、カーボンナノチューブ、バインダーを含有している。被覆層22において、硫酸バリウムの含有量はカーボンナノチューブの含有量よりも多くされてる。バインダーは、具体的には、ポリウレタン系樹脂である。本例において、放射線遮蔽織物1の厚みは、約0.6mmである。また、放射線遮蔽織物1の経糸密度は51本/インチ、緯糸密度は46本/インチである。
【0030】
次に、本例の放射線遮蔽織物の作用効果について説明する。
【0031】
本例の放射線遮蔽織物1は、経糸10および/または緯糸11を構成するマルチフィラメント2が、複数本の単糸21と、各単糸21の表面を被覆し、硫酸バリウムを含有する被覆層22とを有している。つまり、本例の放射線遮蔽織物1は、マルチフィラメント2の表面に位置する単糸21だけでなく、マルチフィラメント2の内部に位置する単糸21の表面も、硫酸バリウムを含有する被覆層22により覆われている。そのため、本例の放射線遮蔽織物1は、硫酸バリウムをより多く含むことが可能となる。それ故、本例の放射線遮蔽織物1は、例えば、マルチフィラメントの表面に位置する単糸の表面にだけ硫酸バリウムが付着している放射線遮蔽織物に比べ、良好な放射線遮蔽能を確保しやすい。また、本例の放射線遮蔽織物1は、マルチフィラメント2を構成する単糸21内に硫酸バリウムが練り込まれているわけではないので、硫酸バリウムを増量しても糸切れを引き起こすことがない。
【0032】
次に、本例の放射線遮蔽用品について説明する。本例の放射線遮蔽用品(不図示)は、本例の放射線遮蔽織物1が複数枚積層されてなる積層部を有している。本例では、積層部は、本例の放射線遮蔽織物1が4枚〜6枚積層されて構成されている。また、本例の放射線遮蔽用品は、具体的には、X線防護服である。
【0033】
次に、本例の放射線遮蔽用品の作用効果について説明する。
【0034】
本例の放射線遮蔽用品は、本例の放射線遮蔽織物1が複数枚積層されてなる積層部を有している。そのため、積層部における放射線遮蔽織物1の枚数を調節することにより、必要な放射線遮蔽能を種々調節することができる。また、本例の放射線遮蔽用品は、放射線遮蔽織物1が良好な放射線遮蔽能を有するので、比較的少ない枚数で高い放射線遮蔽能を確保しやすい。そのため、本例の放射線遮蔽用品は、軽量で柔軟であり、良好な放射線遮蔽能を発揮することができる。
【0035】
(実施例2)
実施例2の放射線遮蔽織物および放射線遮蔽用品について、
図3を用いて説明する。
図3に示されるように、本例の放射線遮蔽織物1は、経糸10と緯糸11との間に形成された隙間13を塞ぐ目止め材3を有しており、この目止め材3が
、硫酸バリウムを含有して
おり、カーボンナノチューブを含有していない。本例では、目止め材3は、硫酸バリウム以外にも、バインダーを含有している。バインダーは、具体的には、アクリルウレタン系樹脂である。なお、
図3では、経糸10と緯糸11との間の隙間13に目止め材3が充填されているだけでなく、放射線遮蔽織物1の表面にも目止め材3が付着した構造が例示されている。また、本例では、経糸10および緯糸11を構成するマルチフィラメント2は、表面に巻き付けられたカバーリング糸(不図示)を有している。その他の構成は、
参考例1と同様である。
【0036】
本例の放射線遮蔽織物1も、
参考例1と同様の作用効果を得ることができる。また、本例の放射線遮蔽織物1は、目止め材3により、経糸10と緯糸11との間に形成された隙間13にも硫酸バリウムを存在させることができる。そのため、本例の放射線遮蔽織物1は、その分、放射線遮蔽能に優れる。また、本例の放射線遮蔽織物1は、表面に巻き付けられたカバーリング糸を有するマルチフィラメント2により、織成時における糸の滑り性が向上し、製造性に優れる。
【0037】
本例の放射線遮蔽用品は、実施例2の放射線遮蔽織物を用いた以外は、
参考例1の放射線遮蔽用品と同様の構成を有している。
【0038】
本例の放射線遮蔽用品は、目止め材3を有する本例の放射線遮蔽織物1を用いている。そのため、
参考例1に比べ、高い放射線遮蔽能が得られる。その他の作用効果は、
参考例1と同様である。
【0039】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
(実験例1)
原糸として、ポリエステル系マルチフィラメント(150d−48f−1)を準備した。沈降性硫酸バリウム70質量%と、分散剤と、水とを含有する水性の硫酸バリウム分散液(パーカーコーポレーション社製)を準備した。マルチウォール型のカーボンナノチューブ(CNT)4質量%と、分散剤と、界面活性剤と、水とを含有する水性のCNT分散液(パーカーコーポレーション社製)を準備した。バインダーとして、ポリウレタン系樹脂(日華化学社製、「エバファノールHA1107C」)を準備した。
【0040】
次いで、上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記CNT分散液20質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液1A(CNTあり)を調製した。上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液1B(CNTなし)を調製した。
【0041】
同様に、上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記CNT分散液20質量部と、上記バインダー20質量部とを、混合することにより、糸処理液1C(CNTあり、バインダー2倍)を調製した。また、上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記バインダー20質量部とを、混合することにより、糸処理液1D(CNTなし、バインダー2倍)を調製した。
【0042】
次いで、ロール下部を所定の糸処理液に浸漬させた大径ローラと、大径ローラの回転によって回転する小径ローラとを有する糸処理装置を準備した。そして、大径ローラを回転させ、バイブレータを用いて小径ローラを微振動させながら大径ローラと小径ローラとの間に原糸を通過させ、170℃で2分間乾燥させた。
【0043】
上記糸処理において、糸処理液1A〜1Dを用いることにより、マルチフィラメント1A〜1Dを得た。また、上記糸処理において、バイブレータによる微振動を加えず、糸処理液1Aを用いることにより、比較マルチフィラメントを得た。
【0044】
マルチフィラメント1A〜1Dは、いずれも、マルチフィラメントの表面に位置する単糸だけでなく、マルチフィラメントの内部に位置する単糸の表面も、各糸処理液によって形成された被覆層によって覆われていた。一方、比較マルチフィラメントは、マルチフィラメントの表面に位置する単糸の表面が糸処理液Aによって形成された被覆層によって覆われていたが、マルチフィラメントの内部に位置する単糸の表面は糸処理液Aによって形成された被覆層によって覆われていなかった。これは、高粘度である硫酸バリウム分散液をマルチフィラメント原糸内に浸透させることができなかったためである。この結果から、例えば、硫酸バリウム分散液に織物を単に浸漬させる程度では、マルチフィラメントにおける各単糸の表面を、硫酸バリウムを含む被覆層により被覆することができないといえる。
【0045】
次いで、マルチフィラメント1A〜1Dを、縦60mm、横45mm、厚み2mmの台紙にそれぞれ10回巻き付けることにより、巻き付けサンプル1A〜1Dを作製した。なお、台紙の縦方向における一端部側から他端部側への巻き付けを、巻き付け回数1回として数える。
【0046】
次いで、X線撮影機を用い、巻き付けサンプル1A〜1DについてX線撮影を行った。その結果を、
図4に示す。
図4に示されるように、巻き付けサンプル1A〜1Dは、いずれもX線遮蔽能が認められた。また、巻き付けサンプル1Aは、巻き付けサンプル1Bに比べ、X線遮蔽能が向上した。同様に、巻き付けサンプル1Cは、巻き付けサンプル1Dに比べ、X線遮蔽能が向上した。これらの結果から、各単糸が、硫酸バリウムとカーボンナノチューブとを含有する被覆層によって被覆されている場合には、X線遮蔽能を向上させやすくなることが確認された。
【0047】
(実験例2)
原糸として、ポリエステル系マルチフィラメント(150d−48f−1)を準備した。沈降性硫酸バリウム70質量%と、分散剤と、水とを含有する水性の硫酸バリウム分散液(パーカーコーポレーション社製)を準備した。マルチウォール型のカーボンナノチューブ(CNT)4質量%と、分散剤と、界面活性剤と、水とを含有する水性のCNT分散液(パーカーコーポレーション社製)を準備した。バインダーとして、ポリウレタン系樹脂(日華化学社製、「エバファノールHA1107C」)を準備した。
【0048】
次いで、上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記CNT分散液20質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液2Aを調製した。同様に、上記硫酸バリウム分散液70質量部と、上記CNT分散液30質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液2Bを調製した。上記硫酸バリウム分散液60質量部と、上記CNT分散液40質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液2Cを調製した。上記硫酸バリウム分散液50質量部と、上記CNT分散液50質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液2Dを調製した。上記硫酸バリウム分散液80質量部と、水20質量部と、上記バインダー10質量部とを、混合することにより、糸処理液2Eを調製した。
【0049】
次いで、糸処理液2A〜2Eを用い、実験例1と同様にして、原糸を処理することにより、マルチフィラメント2A〜2Eを得た。なお、マルチフィラメント2Aの被覆層に含まれる硫酸バリウムの含有量は、50.9質量%であり、カーボンナノチューブの含有量は、0.72質量%である。マルチフィラメント2Bの被覆層に含まれる硫酸バリウムの含有量は、44.6質量%であり、カーボンナノチューブの含有量は、1.2質量%である。マルチフィラメント2Cの被覆層に含まれる硫酸バリウムの含有量は、38.2質量%であり、カーボンナノチューブの含有量は、1.5質量%である。マルチフィラメント2Dの被覆層に含まれる硫酸バリウムの含有量は、31.9質量%であり、カーボンナノチューブの含有量は、1.85質量%である。マルチフィラメント2Eの被覆層に含まれる硫酸バリウムの含有量は、50.9質量%であり、カーボンナノチューブの含有量は、0質量%である。
【0050】
次いで、マルチフィラメント2Aを経糸および緯糸とし、平織組織にて織物2Aを作製した。同様に、マルチフィラメント2Aを経糸、マルチフィラメント2Bを緯糸として、織物2Bを作製した。また、マルチフィラメント2Aを経糸、マルチフィラメント2Cを緯糸として、織物2Cを作製した。また、マルチフィラメント2Aを経糸、マルチフィラメント2Dを緯糸として、織物2Dを作製した。また、マルチフィラメント2Aを経糸、マルチフィラメント2Eを緯糸として、織物2Eを作製した。なお、各放射性遮蔽織物は、いずれも、厚みが約0.6mm、経糸密度が51本/インチ、緯糸密度が46本/インチであった。
【0051】
実験例1の結果から、実験例2で作製された各織物は、マルチフィラメントの表面に位置する単糸だけでなく、マルチフィラメントの内部に位置する単糸の表面も、硫酸バリウムを含有する被覆層により覆われている。そのため、実験例2で作製された各織物は、マルチフィラメントの表面に位置する単糸の表面にだけ硫酸バリウムが付着している場合に比べ、良好な放射線遮蔽能を確保しやすいといえる。また、織物2Aと織物2Eとを比較した場合、織物2Eは、経糸の被覆層にだけカーボンナノチューブが含まれているのに対し、織物2Aは、経糸および緯糸の両方の被覆層にカーボンナノチューブが含まれている。そのため、実験例1の結果から、織物2Aは、織物2Eよりも放射線遮蔽能を向上させやすいといえる。
【0052】
(実
験例3)
沈降性硫酸バリウム70質量%と、分散剤と、水とを含有する水性の硫酸バリウム分散液(パーカーコーポレーション社製)を準備した。バインダーとして、アクリルウレタン系樹脂(林化学工業社製、「バインダーCB−600」)を準備した。
【0053】
次いで、上記硫酸バリウム分散液80質量部と、上記バインダー20質量部とを、混合することにより、目止め塗料80を調製した。同様に、上記硫酸バリウム分散液70質量部と、上記バインダー30質量部とを、混合することにより、目止め塗料70を調製した。上記硫酸バリウム分散液60質量部と、上記バインダー40質量部とを、混合することにより、目止め塗料60を調製した。上記硫酸バリウム分散液50質量部と、上記バインダー50質量部とを、混合することにより、目止め塗料50を調製した。
【0054】
次いで、実験例2で作製した織物2A〜織物2Eの各おもて面に、スキージを用いて目止め塗料80を塗布し、乾燥させた。また、織物2A〜織物2Eの各うら面に、スキージを用いて目止め塗料80を塗布し、乾燥させた。これにより、経糸と緯糸との間に形成された隙間を目止め材により塞いでなる織物2A80〜織物2E80を作製した。
【0055】
目止め塗料70を用いた点以外は同様にして、織物2A70〜織物2E70を作製した。また、目止め塗料60を用いた点以外は同様にして、織物2A60〜織物2E60を作製した。また、目止め塗料50を用いた点以外は同様にして、織物2A50〜織物2E50を作製した。なお、目止め塗料80により形成された目止め材における硫酸バリウムの含有量は、80質量%である。目止め塗料70により形成された目止め材における硫酸バリウムの含有量は、70質量%である。目止め塗料60により形成された目止め材における硫酸バリウムの含有量は、60質量%である。目止め塗料50により形成された目止め材における硫酸バリウムの含有量は、50質量%である。
【0056】
次いで、X線CT装置(島津製作所社製、「マイクロフォーカスX線CTシステム:inspeXio SMX−225CT」)を用い、X線発生部:開放管200kV、40μAというX撮影条件で、各織物単体(1枚)、各織物を2枚重ねたサンプル、各織物を3枚重ねたサンプル、各織物を4枚重ねたサンプル、各織物を5枚重ねたサンプルについて、X線撮影を行った。そして、得られた画像における最も白い部位を白度の基準値として0%とし、得られた画像における最も黒い部位を最濃部の基準値として100%とし、各サンプルの色相濃度を分光測色機により測色した。次いで、色彩評価用ソフト(クラボウ社製)を用いて測色した色相濃度を数値化し、X線遮蔽率として算出した。その結果を、表1にまとめて示す。なお、参考として、10円硬貨のX線遮蔽率は79.9%、1円硬貨のX線遮蔽率は24.6%であった。
【0057】
【表1】
【0058】
表1によれば、以下のことがわかる。すなわち、硫酸バリウムを含有する目止め材によって経糸と緯糸との間に形成された隙間を塞ぐことにより、目止め材を用いない場合に比べ、X線遮蔽能を向上させることができる。これは、目止め材に存在する硫酸バリウムによって隙間からのX線の漏れが少なくなるためである。また、目止め材に含まれる硫酸バリウムの含有量を増加させることにより、X線遮蔽効果が大きくなることがわかる。さらに、織物を複数枚積層することにより、X線遮蔽率を種々調節することが可能なこともわかる。
【0059】
(実験例4)
実験例3にて作製した織物2A80を1枚〜9枚積層してなる試験片1〜9と、市販のX線防護衣(ミハマメディカル社製、「エルゴライト」)から採取した比較試験片(鉛当量0.25mmPb)と、基準鉛箔(面積30mm
2、厚み0.25mm)とを用い、X線画像濃度の測色によるX線遮蔽効果の確認を行った。
【0060】
具体的には、X線CT装置(テスコ社製、「TXS225」)を用い、JIS Z4501に準拠し、各試験片を、それぞれ比較試験片および基準鉛箔と一緒に撮影した。なお、X線撮影条件は、X線発生源:管電圧100kV、X線量2Aとした。
【0061】
次いで、得られた撮影画像を用いて、各試験片、比較試験片、基準鉛箔の画像濃度を測色し、グレイレベルを算出した。なお、モノクロ画像は、種々の濃淡のグレイにて画像が表現されている。グレイのレベルには1画素0〜255までの256の階調がある。この階調がグレイレベルであり、この値が小さいほど、画像は暗くなり、255が最も明るい画像になる。算出されたグレイレベルの結果を、表2にまとめて示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2によれば、織物2A80を、4枚程度重ねることにより、鉛当量0.25mmPbと同等程度のX線遮蔽能が得られることが確認された。
【0064】
以上、本発明の実施例、実験例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例、実験例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。