(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5865586
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月17日
(54)【発明の名称】風味原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/044 20060101AFI20160204BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20160204BHJP
【FI】
A23B4/04 505A
A23L1/22 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-2221(P2011-2221)
(22)【出願日】2011年1月7日
(65)【公開番号】特開2012-143168(P2012-143168A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年12月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】西 栄一
(72)【発明者】
【氏名】若林 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】浅山 拓
【審査官】
原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−288324(JP,A)
【文献】
特開昭55−068242(JP,A)
【文献】
特開昭55−159749(JP,A)
【文献】
特開平09−271349(JP,A)
【文献】
特開昭59−017941(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/142086(WO,A1)
【文献】
特開2004−283039(JP,A)
【文献】
特開2002−262821(JP,A)
【文献】
特開平03−297361(JP,A)
【文献】
特開昭59−039266(JP,A)
【文献】
特開平11−215949(JP,A)
【文献】
特開2006−345760(JP,A)
【文献】
特開平08−023930(JP,A)
【文献】
特開平07−023701(JP,A)
【文献】
特開平06−319483(JP,A)
【文献】
特開昭63−263060(JP,A)
【文献】
特開平05−227911(JP,A)
【文献】
特開昭59−169463(JP,A)
【文献】
特開平04−148660(JP,A)
【文献】
特開昭62−126929(JP,A)
【文献】
特開平06−269258(JP,A)
【文献】
特開平11−046716(JP,A)
【文献】
特開昭53−142577(JP,A)
【文献】
特開昭53−142578(JP,A)
【文献】
特開昭54−113466(JP,A)
【文献】
特開昭58−076043(JP,A)
【文献】
特開平08−056559(JP,A)
【文献】
特開平09−163924(JP,A)
【文献】
特開2005−058003(JP,A)
【文献】
特開平08−047366(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0143488(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00−5/06
A23L 1/22−1/237;1/24
WPIDS/WPIX/CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Food Science and Tech Abst(FSTA)/Foodline Science(ProQuest Dialog)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙乾した魚節を平均粒径0.5〜5mmに粉砕又は平均厚さ0.5〜5mmに切削して魚節片を得る工程、
得られた魚節片を水に接触させる工程、及び、
水に接触させた魚節片を80〜160℃で30分〜5時間(i)焙乾あるいは(ii)乾燥及び燻付けする工程
を含み、
焙乾した魚節が荒節であり、魚節片と接触させる水の温度が、接触中のいずれかの時点において80〜100℃である、風味原料の製造方法。
【請求項2】
(i)焙乾あるいは(ii)乾燥及び燻付けした魚節片の水分含有量が、20重量%以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
魚節片を水と接触させる方法が、魚節片を水中に浸漬する方法、又は、魚節片に水を通液する方法である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により風味原料を製造することを含む、風味原料を含む調味料又は食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により風味原料を製造すること、及び、
乳酸100重量部、ヒスチジン20〜200重量部、イノシン酸5〜50重量部、グルタミン酸0.5〜100重量部、塩化ナトリウム5〜150重量部、塩化カリウム5〜100重量部、風味原料100〜1000重量部を含有する混合物を、通液性の袋に充填することを含む、だしパック調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香りや風味が改良された風味原料の製造方法、かかる風味原料、並びに、かかる風味原料を含む調味料及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚節は、一般に、節用原料魚(例えば、鰹、そうだ鰹、鮪、鯖、鰯、鯵など)の頭、腹皮、内臓を除去して、小型魚では3枚に下ろして左右2つの片身に生切りし(亀節)、大型魚では3枚に下ろした片身をそれぞれ背側と腹側に身割りして計4つに生切りしてから(本節)、煮熟し焙乾処理を行って製造されることは周知の通りである。また、製造作業を効率化するために、節用原料魚の頭、腹皮、内臓を除去したのち生切りをせずに、先ず煮熟し、次いで煮熟魚を、左右2つに割るか、更に背側と腹側の4つに割ってから、焙乾処理を行って製造されることも知られている。
【0003】
一方、魚節製造における成形処理に関しては、原料魚を煮熟工程前に細片化し、製造する方法が知られている(特許文献1及び2)。また、煮熟した原料魚を繊維状あるいは細かなフレーク状に処理してから焙乾する方法が知られている(特許文献3及び4)。また、焙乾開始後1〜15時間後に節を細粒化し、燻煙、乾燥する製法が知られている(特許文献5)。さらに、原料魚を生の状態でpH調整液に浸漬する方法(特許文献6)、生の原料魚に燻液を噴霧する方法(特許文献7)、そして、生の原料魚を調味液に浸漬して調味する方法(特許文献8)が知られている。
【0004】
近年、魚節は、だしパック調味料や風味調味料、あるいはめんつゆなどの製造に風味原料として、その多くが使用されているが、一般に高価なものが多いため風味原料として十分な量を使用することは困難であり、従ってこれら風味原料を使用した製品の香りや風味は不十分なことが多い。
【0005】
また、前述したような成形処理を施すことにより、魚節の香りや風味を強化することが試みられてきたが、効果が十分でない、あるいは香りのバランスが崩れて魚節らしさが弱まる、大量の実生産には適用できない、などの課題が残されていた。
【0006】
特許文献9には魚節を50μm以下の厚さに切削後、調味液に浸漬し、乾燥して得られた塊状物を破砕して得た魚節破砕物を袋状の包装体に収容した後に焙乾することを特徴とする、魚節削りの成分抽出包装物の製法が開示されている。しかしながら、この方法においては節を切削、調味液浸漬した後に再度乾燥、粉砕、袋詰めする必要があり、手間が掛かる上に、削り節の厚さが50μm以下と薄いため焙乾時にコゲ臭が発生しやすく焙乾温度と時間の管理が難しいなどの工業上の課題があった。
【0007】
これら従来の魚節風味原料の製造方法では、風味原料として魚節らしい香りや風味を十分に得ることができず、また魚節の香りを強めるために安易に焙乾期間を長くしても、香りの強まり方は少なく、さらに生産効率が悪化することもあり、実用性が非常に乏しかった。
【0008】
また、原料魚を生の状態で細かな輪切りにして煮熟、焙乾処理する方法も見られるが、煮熟時に多量のエキス分が流出してしまうため、味、風味に乏しい魚節になってしまう欠点があった。煮熟後に繊維状にほぐしたり、細かなフレーク状に切断したりしてから、焙乾処理する方法(例えば、前掲特許文献3に記載の方法では、ミキサー等を使用してほぐすことにより、スラリー状とし、また前掲特許文献4に記載の方法では、サイレントカッターを使用し、フレーク状の魚肉としている)でも、燻煙臭は強まるものの、乾燥速度が速くなり過ぎてしまうため、ロースト臭成分の生成反応が十分に起きず、魚節らしい香りのバランスは崩れてしまっていた。さらに細かくほぐした後に水や煮汁等を噴霧し、焙乾処理しても、魚節らしい香りのバランスは崩れたままであった。
【0009】
魚節の香りのバランスについては、非特許文献1にあるように、主にフェノール類を主体とする燻煙成分の付着による燻煙臭と、付着した燻煙成分および魚節由来の含窒素成分等が反応して生成するピラジン類を主体とする香ばしいロースト臭とのバランスが好ましいことが必要である。しかしながら、従来の魚節風味原料の製造方法では、主に燻煙臭のみが強化され、香りのバランスが悪かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭53−142577号公報
【特許文献2】特開昭53−142578号公報
【特許文献3】特開昭54−113466号公報
【特許文献4】特開昭55−159749号公報
【特許文献5】特開昭58−76043号公報
【特許文献6】特開平11−194360号公報
【特許文献7】特開平8−56559号公報
【特許文献8】特開平9−163924号公報
【特許文献9】特開平8−23930号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌48号、No.8、570〜577、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の魚節風味原料の製造方法の問題点を解決して、従来の魚節風味原料の製造方法よりも、魚節らしい香りや風味が非常に強く、香りのバランスが取れ、かつ均一な品質を有する風味原料を効率よく製造できる製造方法、かかる風味原料、並びに、かかる風味原料を含有する調味料及び食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、節用原料魚を煮熟、焙乾などの通常の処理を施して一度、魚節とした後、粉砕または切削して粉粒状または薄片状にし、それを水性液に接触させてから、再度、焙乾あるいは乾燥および燻付けすることにより、従来にはない、魚節らしい香りや風味が非常に強く、香りのバランスが取れ、かつ均一な品質を有する風味原料を、効率よく製造できることを見出した。
このメカニズムの詳細は、まだ明らかではないが、最終製品の香りの質と強さとを同時に高めるためにはロースト臭成分の生成効率がポイントであると考えられるところ、一度焙乾された魚節中にはすでにロースト臭成分の前駆体がある程度生成しているため、粉砕または切削後に、水性液と接触させ、水分含有量が高い状態で再度、焙乾あるいは乾燥及び燻付けすることにより、効率的にロースト臭成分の生成反応が起こるためではないかと考えられる。また、ロースト臭成分の生成反応は水分含有量が比較的高い時に起こりやすいと考えられるが、本発明による製造方法では、魚節を粉砕又は切削して水性液に接触させることで、魚節中に水性液が素早く浸透し、均一に水分含有量が高い状態となり、さらに水分含有量が高い状態で焙乾あるいは乾燥及び燻付けすることで、ロースト臭成分が均一かつ多量に生成すると考えられる。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0015】
[1]焙乾した魚節を平均粒径0.5〜5mmに粉砕又は平均厚さ0.5〜5mmに切削して魚節片を得る工程、
得られた魚節片を水性液に接触させる工程、及び、
水性液に接触させた魚節片を焙乾あるいは乾燥及び燻付けする工程
を含む、風味原料の製造方法。
[2]焙乾あるいは乾燥及び燻付けした魚節片の水分含有量が、20重量%以下である、上記[1]記載の製造方法。
[3]魚節片を水性液と接触させる方法が、魚節片を水性液中に浸漬する方法、又は、魚節片に水性液を通液する方法である、上記[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]魚節片と接触させる水性液の温度が、接触中のいずれかの時点において、60〜100℃である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により製造された、風味原料。
[6]上記[5]記載の風味原料を含む、調味料又は食品。
[7]乳酸100重量部、ヒスチジン20〜200重量部、イノシン酸5〜50重量部、グルタミン酸0.5〜100重量部、塩化ナトリウム5〜150重量部、塩化カリウム5〜100重量部、上記[5]記載の風味原料100〜1000重量部を含有する混合物が、通液性の袋に充填されてなる、だしパック調味料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来にはない、魚節らしい香りや風味が非常に強く、香りのバランスが取れ、かつ均一な品質を有する風味原料を、効率よく製造できる製造方法、かかる風味原料、並びに、かかる風味原料を含有する調味料及び食品を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、焙乾した魚節を平均粒径0.5〜5mmに粉砕又は平均厚さ0.5〜5mmに切削して魚節片を得る工程を含む。本発明の製造方法に用いることができる魚節は、焙乾した魚節であり、好適には煮熟した魚肉を焙乾して製造するものであれば特に制限されない。このような魚節としては、代表的な魚節の一つである鰹節を例に説明すると、例えば、煮熟後の鰹を2分割又は4分割して焙乾して製造する本節や亀節等が挙げられる。また、これらに限らず、特開2005−58003号公報や特開1996−047366号公報に開示されているような煮熟後の鰹をほぐしたり成型したりする工程を経て焙乾して製造された鰹節なども挙げられる。なお、本発明の製造方法が、鰹節を用いた風味原料の製造に限定されるものではなく、鮪節、鯵節、そうだ鰹節、鯖節、鰯節等の他の魚節を用いた風味原料の製造にも適用し得ることは、言うまでもない。また、本発明の製造方法に用いることができる魚節は、最終的に焙乾処理を施した状態と同様の状態であれば、全て本発明に包含される。
【0018】
焙乾した魚節の粉砕方法又は切削方法としては、特に制限されず、自体公知の方法を際限なく適用し得る。かかる粉砕又は切削に用い得る装置としては、例えば、ハンマークラッシャーやカッターミルまたは回転刃カッターなど、通常の食品製造で用いることのできる装置が使用可能である。
【0019】
粉砕又は切削されることによって粉粒状又は薄片状となった魚節(以下、特に断らない限りは「魚節片」と記す)は、平均粒径又は平均厚さが、0.5〜5mmであることが重要である。特に、粉砕の場合には平均粒径が1〜3mm、切削の場合には平均厚さが0.5〜1.5mmであることが望ましい。平均粒径又は平均厚さが、0.5mm未満の場合には、後の工程において魚節片を焙乾あるいは乾燥および燻付けする際に乾燥速度が速すぎてコゲ臭が発生してしまうことがあり、一方、5mmを超過する場合には、後の工程において魚節片を水性液に接触させる際に水性液の浸透、拡散に時間が掛かるため水分が均一に行渡らず、また表面積が少なくなってしまうために十分な風味増強効果が得られない恐れがある。
【0020】
ここで、魚節片の「平均粒径」とは、ロータップふるい振盪機(株式会社タナカテック製「R−2型」、振盪数250回/分、振幅25mm、打数125回/分)を用いて、JIS Z8801に準拠した標準ふるい(直径:200mm、深さ:45mm、目開き(上から):5.6、4.0、2.8、2.0、1.4、1.0、0.71、0.5、0.355、0.25mm)を受け皿上に設置したものの最上部から魚節片100gを入れ、蓋をして5分間ふるい分した後、各ふるい上の魚節片の質量を測定して得られた粒径分布において、累積重量が50重量%となる内分点の粒径をいう。
また、魚節片の「平均厚さ」とは、魚節片上の数箇所(5〜10箇所程度)を無作為に選択し、各箇所の厚さを外側厚さ測定器(例えば、株式会社ミツトヨ製「クイックマイクロMDQ−30」)で測定して得られた値の平均値をいう。
【0021】
本発明の製造方法は、魚節片を水性液に接触させる工程を含む。魚節片を水性液に接触させて、その水分含有量を高くすることにより、次工程の焙乾あるいは乾燥及び燻付けにおいて、効率的にロースト臭成分の生成反応が起こる。水性液に接触させた魚節片の水分含有量は、特に制限されるものでないが、通常50重量%以上、好ましくは50〜70重量%である。ここで、魚節片の「水分含有量」とは、魚節片を105℃の恒温槽内に4時間、開放留置した際の重量減少率として測定されるものをいう。また、魚節片の水分含有量は、魚節片全体において、均一であることが好ましい。
【0022】
本発明における水性液は、特に制限されず、水そのものであってよいが、食品製造に用い得る範囲であれば、付帯的な目的に応じて、調味成分、香味成分等の他の成分を含有してもよい。かかる他の成分としては、例えば、エキス、調味液、アルコール等が挙げられる。
【0023】
魚節片を水性液に接触させる方法は、結果的に魚節片に水性液が接触し、浸透する方法であれば特に制限されず、例えば、魚節片を水性液中に浸漬する方法、魚節片に水性液を通液する方法または魚節片に水性液を噴霧する方法などが挙げられる。また、魚節片に接触させる水性液の量は、目的に応じて任意に設定することが可能であるが、魚節片へ十分水性液を浸透させるためには、魚節片に対して2倍重量以上であることが好ましい。
【0024】
また、魚節片に接触させる水性液の温度は、接触中のいずれかの時点において通常60〜100℃、好ましくは80〜100℃である。60℃未満の温度で魚節片を水性液に接触させる場合は、微生物増殖を抑制する観点から好ましくなく、またその後の工程において焙乾あるいは乾燥及び燻付けする際に生臭い香りが生成することがある。
【0025】
水性液に接触させた後の魚節片は、金属メッシュ、パンチングメタルまたは濾布などによって構成された固液分離装置を用いて余剰な水分を分離させた上で、次工程の焙乾あるいは乾燥及び燻付けに用いる。なお、分離させた余剰な水分は、魚節片から溶出した一部の呈味成分などを含んでいる場合があり、別途、だしや調味料あるいは加工食品などの食品原料として用いることもできる。
【0026】
本発明の製造方法は、水性液に接触させた後の魚節片に焙乾あるいは乾燥及び燻付けする工程を含む。かかる焙乾あるいは乾燥及び燻付けにより、ロースト臭成分の生成反応が起こる。本工程では焙乾のように乾燥と燻付けとを同時に行っても良いし、あるいは、それぞれを別々に行っても良い。
【0027】
焙乾あるいは乾燥及び燻付けする方法としては、特に制限されず、本発明の目的を損なわない範囲で自体公知の方法を際限なく用いることができる。また、いずれの場合も、処理条件等は特に制限されず、例えば、時間(焙乾時間あるいは乾燥及び燻付け時間)、温度(焙乾温度あるいは乾燥及び燻付け温度)、発生させる燻煙の濃度や質等は、求める製品の特性によって調整することが可能であるが、焙乾時間あるいは乾燥及び燻付け時間は、通常10分〜8時間、好ましくは30分〜5時間であり、また、焙乾温度あるいは乾燥及び燻付け温度は、通常80〜200℃、好ましくは100〜160℃である。かかる焙乾あるいは乾燥及び燻付けに用い得る装置としては、特に制限されず、例えば、従来より魚節の製造に用いられている急造庫などの焙乾設備等を用い得るが、各種処理条件(時間、温度、燻煙の濃度や質等)を適切に制御できることから、国際公開第07/142086号パンフレットに例示されている燻煙発生機構を備えた焙乾装置等を用いることが好ましい。このような装置を用いる場合には、水性液に接触させた後の魚節片を焙乾するのに適切な量を蒸篭に入れて焙乾庫に収納し、燻煙発生装置から発生させた燻煙を燻付け庫に導き、内部に入れられた魚節片に接触させ、良好な風味を有する魚節を製造することが可能である。効率的な燻付けの方法としては、燻煙室内に高電圧の電流を流して電場を作り、燻煙成分の製品への付着を促進する電燻法(Electric smoking)なども用いることができる。またこの際に、燻煙と魚節片との接触効率をより高めるために回転ドラム式の焙乾槽やスクリュー式フィーダーなどの装置を単独または組み合わせて使用することも可能である。
【0028】
焙乾あるいは乾燥及び燻付けの回数は、特に制限されず、最終的に焙乾あるいは乾燥及び燻付けした魚節片の水分含有量が20重量%以下、好ましくは5〜15重量%になるまで焙乾あるいは乾燥及び燻付けを繰り返すことで本発明の風味原料が得られる。
【0029】
本発明の風味原料は粉砕、粉末化、ペースト化などして、そのまま製品化しても良いし、それを、例えば、風味調味料やだしパック調味料などの調味料、あるいは、例えば、ふりかけなどの食品に配合しても良い。本発明の風味原料を含む調味料又は食品を製造する方法としては、本発明の目的を損なわない範囲で、自体公知の方法(例えば、特開平3−297361号公報、特開2002−262821号公報等に開示される方法等)を制限無く用いることができる。具体的には、例えば、だしパック調味料においては、乳酸100重量部、ヒスチジン20〜200重量部、イノシン酸5〜50重量部、グルタミン酸0.5〜100重量部、塩化ナトリウム5〜150重量部、塩化カリウム5〜100重量部を含有する混合物に、粉砕した本発明の風味原料100〜1000重量部を配合し、更にそれを通液性の袋に充填することで、呈味性に優れ、かつ良好な風味を有するだしパック調味料を製造することができる。
【0030】
本発明の風味原料はさらに抽出工程などを経て、抽出されたエキス分を、例えば、液体だしやエキスなどの調味料、あるいは、例えば、スープ、レトルト食品、冷食などの食品に使用することも可能である。一般的に、風味原料からエキス分を抽出する方法としては、例えば、液化炭酸ガス抽出法、超臨界ガス抽出法、アルコール抽出法、熱水抽出法等が挙げられる。得られたエキス分は液状のまま、あるいは粉末化して用いることができる。エキス分を粉末化する方法としては、例えば、真空乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライヤー法、真空ドラムドライヤー法、マイクロ波乾燥法等が挙げられる。この際、必要に応じて賦形剤を添加してもよい。添加し得る賦形剤としては、例えば、デキストリン、乳糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、グラニュー糖、ゼラチン等を挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの例によって本発明はなんら限定されるものではない。なお、以下文中で「部」及び「%」とあるのは、特記しない限り、それぞれ「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0032】
(風味原料の製造)
実施例1
常法により焙乾して製造された鰹荒節をカッターミル(株式会社朋来鉄工所製「勇魂」)によって平均粒径2mmの粉粒状に粉砕し、鰹節片を得た。得られた鰹節片1kgを5L容のステンレス容器に入れた後、さらに90℃の水2Lを加え、湯浴中で90℃に保ちながら20分間浸漬した。
浸漬後、鰹節片を100meshのステンレス篩で濾別した。鰹節片の水分含量は、水浸漬前が12%、水浸漬後が62%であった。
濾別後の鰹節片は、国際公開第07/142086号パンフレットに例示されているものと同様の燻煙発生機構を備えた焙乾装置を用いて、乾燥および燻付けを行った。より詳細には、濾別後の鰹節片をステンレス篩に層高が1〜2cm程度になるように平らに広げて燻付け庫に収納した後、燻煙発生装置から発生させた燻煙と熱風を燻付け庫に導き、内部に入れた鰹節片に接触させ、乾燥及び燻付けを行った。燻付け庫内温度100〜120℃で4時間、乾燥および燻付けを行った結果、水分含量10%の燻付けされた鰹節片910gを得、これを実施例1の風味原料とした。
【0033】
実施例2
常法により焙乾して製造された鰹荒節をカッターミル(株式会社朋来鉄工所製「勇魂」)によって平均粒径4mmの粉粒状に粉砕した以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、水分含量10%の燻付けされた鰹節片920gを得、これを実施例2の風味原料とした。
【0034】
実施例3
常法により焙乾して製造された鰹荒節を回転刃カッター(中陽商店製「鳥羽式花鰹削り機」)によって平均厚さ0.7mmの薄片状に切削した以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、水分含量9%の燻付けされた鰹節片900gを得、これを実施例3の風味原料とした。
【0035】
実施例4
常法により焙乾して製造された鰹荒節を回転刃カッター(中陽商店製「鳥羽式花鰹削り機」)によって平均厚さ1.3mmの薄片状に切削した以外は、実施例1と同様の操作を行った結果、水分含量10%の燻付けされた鰹節片910gを得、これを実施例4の風味原料とした。
【0036】
比較例1
常法により焙乾して製造された鰹荒節を実施例1と同様に粉砕し、得られた鰹節片を比較例1の風味原料とした。
【0037】
比較例2
常法により焙乾して製造された鰹荒節を実施例1と同様に粉砕し、得られた鰹節片1kgを、そのまま実施例1と同様の操作により乾燥および燻付けを行った。燻付け庫内温度100〜120℃で0.5時間、乾燥および燻付けを行った結果、水分含量10%の燻付けされた鰹節片940gを得、これを比較例2の風味原料とした。
【0038】
試験例1
(風味原料のトップ臭の比較評価試験)
実施例1及び比較例1、2の風味原料を、粉砕機(岩谷産業株式会社製「ミルサー」)を用いてそれぞれ粉砕し、評価用サンプルを調製した。各サンプル20gを100ml容の蓋付ガラス瓶にそれぞれ入れ、訓練されたパネル5名によって各サンプルのトップ臭を比較評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、実施例1のサンプルは、比較例1及び2に比べ、強い力価と好ましい質の香りとを有していた。
【0041】
試験例2
(鰹だしの風味の比較評価試験)
試験例1で調製した各サンプルを用いて鰹だしを調製した。各サンプル10gに沸騰水1Lを注ぎ加えて10秒間攪拌した後1分間静置し、上澄み液を得た。訓練されたパネル5名によって各上澄み液の風味を比較評価した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、実施例1のサンプルを用いて調製した鰹だしは、比較例1及び2に比べ、強い力価と好ましい質の風味とを有していた。
【0044】
試験例3
(風味調味料の風味の比較評価試験)
試験例1で調製した各サンプルを用いて風味調味料を調製した。各サンプル100gに、食塩150g、乳糖150g及びグルタミン酸ナトリウム1水和物100gを粉砕して混合し、これを加湿した後、混練、押出し造粒、熱風乾燥の各工程を経て、鰹節風味調味料顆粒を得た。得られた各風味調味料顆粒を熱水(90℃)に1重量%加えてよく攪拌した後、訓練されたパネル5名によってそれらの風味を比較評価した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、実施例1のサンプルを用いて調製した風味調味料は、比較例1及び2に比べ、強い力価と好ましい質の風味とを有していた。
【0047】
試験例4
(鰹だしパック調味料の風味の比較評価試験)
試験例1で調製した各サンプルを用いて鰹だしパック調味料を調製した。各サンプル10gに食塩2g、グルタミン酸ナトリウム1水和物1.5g、イノシン酸ナトリウム0.5g、塩化カリウム1g、ヒスチジン2g、乳酸5gを混合し、これを通液性の袋に充填し、鰹だしパック調味料を得た。得られた各だしパック調味料に沸騰水1Lを注ぎ加えて3分間静置した後、訓練されたパネル5名によって各だしの風味を比較評価した。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示すように、実施例1のサンプルを用いて調製した鰹だしパック調味料は、比較例1及び2に比べ、強い力価と好ましい質の風味とを有していた。